(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】インバートおよびインバートの施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/08 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
E21D11/08
(21)【出願番号】P 2018226224
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-08-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 英明
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆正
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-18786(JP,A)
【文献】特開2017-115316(JP,A)
【文献】特開2000-204895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルのインバートであって、
前記トンネルの底面
に設けたセグメント上に設置されるインバート部材を備え、
前記インバート部材は、平坦な上面を有し、軌道を支持するための支持台が前記上面から突出して形成されたプレキャストコンクリート製のブロックであ
り、
前記インバート部材の下面において、
前記トンネルの幅員方向の中央部には、下方に向けて突出した接触面が形成され、
前記トンネルの幅員方向の両端部には、弾性部材が貼り付けられていることを特徴とするインバート。
【請求項2】
請求項1に記載のインバートであって、
前記インバート部材の上面には、複数の前記支持台が前記トンネルの幅員方向に並べられていることを特徴とするインバート。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載のインバートの施工方法であって、
前記トンネルの底面
に設けた前記セグメント上にプレキャストコンクリート製の前記インバート部材を設置する段階と、
前記インバート部材の上面に突出した前記支持台に軌道を載置する段階と、
前記インバート部材の上面にコンクリート製の上層部を構築する段階と、を備えていることを特徴とするインバートの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルのインバートおよびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールドトンネルのインバートとしては、プレキャストコンクリート製のインバート部材をトンネルの底面に設置し、インバート部材の上面に台車用の軌道を設置しているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トンネルの施工においては、トンネル内にインバートを設置した後に、インバートの上面に配線ピットなどの溝部を設ける場合がある。この場合には、トンネル内にインバート部材を設置した後に、インバート部材の上面にコンクリートを流し込んで上層部を構築することで、配線ピットを有するインバートを構築している。その後、インバートの上面に台車用の軌道を設置する。このように、トンネル内でインバートの上層部を構築する場合には、インバートの上面に軌道を設置するまでの期間が長くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、前記した問題を解決し、トンネル内でインバートの上層部を構築する場合でも、インバート部材に軌道を早期に設置できるインバートおよびインバートの施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第一の発明は、トンネルのインバートであって、前記トンネルの底面に設けたセグメント上に設置されるインバート部材を備え、前記インバート部材は、平坦な上面を有し、軌道を支持するための支持台が前記上面から突出して形成されたプレキャストコンクリート製のブロックである。前記インバート部材の下面において、前記トンネルの幅員方向の中央部には、下方に向けて突出した接触面が形成され、前記トンネルの幅員方向の両端部には、弾性部材が貼り付けられている。
【0007】
前記課題を解決するため、第二の発明は、前記したインバートの施工方法である。この施工方法は、前記トンネルの底面に設けた前記セグメント上にプレキャストコンクリート製の前記インバート部材を設置する段階と、前記インバート部材の上面に突出した支持台に軌道を載置する段階と、前記インバート部材の上面にコンクリート製の上層部を構築する段階と、を備えている。
【0008】
第一の発明および第二の発明では、トンネル内にインバート部材を設置した後に速やかに支持台に軌道を設けることができる。その後、インバート部材の上面にコンクリートを流し込んで、インバートの上層部を構築できる。このように、トンネル内でインバートの上層部を構築する場合でも、インバートに軌道を早期に設置できる。
【0009】
第一の発明および第二の発明では、トンネル内においてインバート全体を場所打ちコンクリートによって構築する場合に比べて、コンクリートの運搬車両の台数を少なくできる。
【0010】
第一の発明および第二の発明では、インバート部材の上面に突出した支持台によって軌道を支持するため、レールや枕木の変形によるインバートの仕上面の損傷を防ぐことができる。
【0011】
前記したインバートにおいて、前記インバート部材の上面に複数の前記支持台を前記トンネルの幅員方向に並べた場合には、二つの支持台の間に壁体などの他の部材や配線ピットを設けることができる。
また、二つの支持台の間に壁体を設置した後に、インバート部材の上面にコンクリートを流し込むと、壁体の下部がコンクリートに埋め込まれる。この構成では、インバートの仕上面に壁体を支持するための金具を設ける必要がないため、インバートの上面を平坦にできる。
【0012】
前記したインバート部材の下面において、前記トンネルの幅員方向の中央部には、下方に向けて突出した接触面を形成し、前記トンネルの幅員方向の両端部には、弾性部材を貼り付けている。
【0013】
この構成では、インバート部材をトンネルの底面に設置するときに、最初に接触面が当たる。したがって、トンネルの底面に変形や段差が生じている場合でも、インバート部材の中央部をトンネルの底面に確実に当てることができる。これにより、インバート部材に対して上方から作用する荷重を、インバート部材によって確実に支持できる。
また、インバート部材の両端部は、弾性部材を介してトンネルの底面に支持されるため、インバート部材をトンネルの底面に安定した状態で載置できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、インバートに軌道を早期に設置できるとともに、運搬車両の台数を少なくできるため、トンネルの施工効率を高めることができる。また、本発明では、インバートの上面の損傷を防ぐことができるため、インバートの品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るインバート部材を示した斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るインバート部材に軌道を載置した段階を示した斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るインバートを示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態では、
図3に示すように、シールド工法によって構築されたトンネルTのインバート1について説明する。本実施形態のトンネルTの周壁部は、プレキャストコンクリート製のセグメントSである。
【0017】
本実施形態のインバート1は、トンネルTの底面に設置されたインバート部材10と、インバート部材10の上面11に構築された上層部20と、を備えている。本実施形態のインバート1では、
図1に示すように、複数のインバート部材10をトンネルTの長手方向に連続して並べている。
【0018】
インバート部材10は、プレキャストコンクリート製のブロックである。インバート部材10には、平坦な上面11と、セグメントSの内面に沿って湾曲している下面12と、が形成されている。インバート部材10の上面11は長方形であり、トンネルTの延長方向の長さよりも幅員方向の長さが大きい。
【0019】
インバート部材10の上面11には、複数の支持台15が突出している。支持台15は、後記する軌道90(
図2参照)を支持するための四角錐台形状の台座である。
インバート部材10の上面11には、トンネルTの幅員方向に等間隔に並んだ四つの支持台15が、トンネルTの延長方向に二列に配置されている。トンネルTの幅員方向に並んだ四つの支持台15は、トンネルTの幅員方向の中央部を挟んで左右に二つずつ配置されている。
【0020】
支持台15の上面には、高さ調整板15aが設けられている。高さ調整板15aは、四角形の鋼板であり、支持台15の上面に固着されている。
高さ調整板15aは、支持台15の上面を後記する枕木91(
図2参照)の下面に確実に当てるためのスペーサである。また、高さ調整板15aは、インバート部材10の上面11にコンクリートを流し込むときに設置される鉄筋の架台としても利用される。
【0021】
インバート部材10において、トンネルTの幅員方向の中央に並んだ二つの支持台15,15の間の領域には、複数のインサートアンカー16が設けられている。インサートアンカー16は、インバート部材10に埋め込まれた雌ねじ部材である。インサートアンカー16の上端開口部は、インバート部材10の上面11に露出している。インサートアンカー16には、
図3に示すように、後記する壁体50に組み付けられたアンカーボルト17が螺合される。
【0022】
図1に示すように、インバート部材10の下面12において、トンネルTの幅員方向の中央部には、下方に向けて僅かに突出した接触面13が形成されている。接触面13は、トンネルTの延長方向に延びている帯状の部位である。
【0023】
インバート部材10の下面12において、トンネルTの幅員方向の両端部には、弾性部材14,14が貼り付けられている。弾性部材14は、トンネルTの延長方向に延びている帯状のゴム板である。
【0024】
次に、前記したインバート1の施工方法について説明する。
まず、
図1に示すように、セグメントSの底面にインバート部材10を載置する。このとき、インバート部材10の下面12から突出した接触面13がセグメントSの底面に最初に当たる。さらに、複数のインバート部材10をトンネルTの延長方向に並べる。
【0025】
続いて、
図2に示すように、各インバート部材10の各支持台15の上面に軌道90を設置する。軌道90は、トンネルTの幅員方向に延びている複数の枕木91と、トンネルTの延長方向に延びている二本のレール92,92と、を備えている。枕木91およびレール92はH型鋼である。
【0026】
枕木91は、トンネルTの幅員方向に並んだ四つの支持台15の上面に設置される。また、枕木91の両端部はセグメントSの内面に固定されている。
レール92は、トンネルTの延長方向に並んだ各支持台15の上面に設置される。両レール92,92の上面を掘削機の後続台車の車輪が走行する。
レール92および枕木91を後続台車が通過したら不要な部位はインバート部材10から取り外して撤去する。
【0027】
軌道90をインバート部材10から取り外した後に、
図3に示すように、トンネルTの幅員方向の中央に並んだ二つの支持台15,15の間に壁体50を設置する。このようにして、インバート部材10の上面11に壁体50を立てる。
壁体50は、プレキャスト製の部材である。壁体50の下部に設けられた接続金物に組み付けたアンカーボルト17を、インバート部材10のインサートアンカー16に螺合させることで、壁体50がインバート部材10の上面11に固定されている。
【0028】
続いて、インバート部材10の上面11に型枠を設置し、その型枠の内側にコンクリートを流し込む。このようにして、インバート部材10の上面11に上層部20を構築する。支持台15および高さ調整板15aは、上層部20に埋め込まれる。
【0029】
上層部20を構築する際には、トンネルTの延長方向に延びている配線ピット60を構築する。配線ピット60は、各種の配線を収容するための溝である。配線ピット60は、トンネルTの幅員方向に並んだ二つの支持台15,15の間に配置されている。
【0030】
インバート部材10の上面11に壁体50を立てるとともに上層部20を構築した後に、壁体50の上端面に床版70の縁部を載置する。このようにして、壁体50によって床版70を所定の高さに支持する。
【0031】
以上のような本実施形態のインバート1およびその施工方法では、
図2に示すように、トンネルT内にインバート部材10を設置した後に速やかに各支持台15に軌道90を設けることができる。そして、軌道90の使用後に、
図3に示すように、インバート部材10の上面11にコンクリートを流し込んで、インバート1の上層部20を構築できる。したがって、上層部20の構造を軌道90の使用後に決めることができる。本実施形態では、インバート部材10をトンネルTに設置した時点では、配線ピット60の位置が設定されていなくてもよい。
【0032】
本実施形態のインバート1およびその施工方法では、トンネルT内においてインバート1全体を場所打ちコンクリートによって構築する場合に比べて、コンクリートの運搬車両の台数を少なくできる。
【0033】
このように、本実施形態のインバート1およびその施工方法では、トンネルT内でインバート1の上層部20を構築する場合でも、インバート1に軌道90を早期に設置できるとともに、運搬車両の台数が少なくなる。したがって、本実施形態のインバート1およびその施工方法では、トンネルTの施工効率を高めることができる。
【0034】
本実施形態のインバート1およびその施工方法では、
図2に示すように、インバート1の上面11に突出した各支持台15によって軌道90を支持している。この構成では、レール92や枕木91の変形によるインバート1の仕上面(上面)の損傷を防ぐことができるため、インバート1の品質を高めることができる。
【0035】
本実施形態のインバート1およびその施工方法では、
図3に示すように、インバート部材10の上面11に配置された二つの支持台15,15の間に壁体50を設けている。この構成では、二つの支持台15,15の間に壁体50を設置した後に、インバート部材10の上面11にコンクリートを流し込むと、壁体50の下部がコンクリートに埋め込まれる。このようにすると、インバート1の仕上面に壁体50を支持するための金具を設ける必要がないため、インバート1の上面を平坦にできる。
【0036】
また、インバート部材10の上面11に配置された二つの支持台15,15の間に配線ピット60を設けている。この構成では、配線ピット60をインバート1の上面に精度良く設置できるため、インバート1の施工精度を高めることができる。
【0037】
本実施形態のインバート1では、
図1に示すように、インバート部材10をトンネルTの底面に載置するときに、インバート部材10の下面12から突出した接触面13がトンネルTの底面に最初に当たる。この構成では、トンネルTの底面に変形や段差が生じている場合でも、インバート部材10の中央部をトンネルTの底面に確実に当てることができる。これにより、インバート部材10に対して上方から作用する荷重を、インバート部材10によって確実に支持できる。
【0038】
また、インバート部材10の下面12の両端部は、弾性部材14を介してトンネルTの底面に支持されるため、インバート部材10をトンネルTの底面に安定した状態で載置できる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
本実施形態のインバート部材10の上面11には、
図1に示すように、八つの支持台15が設けられているが、支持台15の数および配置は限定されるものではない。さらに、支持台15の形状も限定されるものではない。支持台15の数、配置および形状は、軌道の構成に応じて適宜に設定することができる。
【0040】
本実施形態のインバート1では、複数のインバート部材10をトンネルTの延長方向に並べているが、インバート部材10をトンネルTの幅員方向に分割してもよい。
【0041】
本実施形態のインバート1は、プレキャストコンクリート製のセグメントSに設置されているが、鋼製のセグメントにインバート1を設けてもよい。この場合には、鋼製のセグメントの縦リブ板の上縁部に高さ調整板を設けることで、セグメントの底面にインバート部材10を安定させることができる。
【0042】
本実施形態では、
図2に示すように、インバート部材10の各支持台15に掘削機の後続台車用の軌道90を設けているが、各支持台15には各種の台車および装置の軌道を設けることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 インバート
10 インバート部材
11 上面
12 下面
13 接触面
14 弾性部材
15 支持台
15a 高さ調整板
16 インサートアンカー
17 アンカーボルト
20 上層部
50 壁体
60 配線ピット
70 床版
90 軌道
91 枕木
92 レール
S セグメント
T トンネル