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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】防音部材
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/168 20060101AFI20240416BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G10K11/168
G10K11/16 120
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019183180
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021060459
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木 達郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 和紘
(72)【発明者】
【氏名】笹川 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 生磨
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167251(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208930(WO,A1)
【文献】三木達郎,「技術レポート」繊維系多孔質吸音材料のBiotパラメータの推定,ニチアス技術時報 2018年 1号 No.380[オンライン],2018年01月01日,第18-23頁,[検索日 2020.09.16],インターネット:<URL:https://www.nichias.co.jp/research/technique/pdf/380/03.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源側から順に配置される、
第一の弾性多孔質体層と、
第一のフィルム層と、
第二の弾性多孔質体層と、
第二のフィルム層と、
を含み、
前記第一の弾性多孔質体層及び前記第二の弾性多孔質体層の各々は、
厚さが0.5mm以上、10mm以下であり、
嵩密度が25kg/m以上、2000kg/m以下であり、
ヤング率が7000Pa以上、28000Pa以下であり、
前記第一の弾性多孔質体層の粘性特性長Λ1(μm)に対する厚さL1(mm)の比(L1/Λ1)と、前記第二の弾性多孔質体層の粘性特性長Λ2(μm)に対する厚さL2(mm)の比(L2/Λ2)との合計(L1/Λ1+L2/Λ2)が、0.11以上であり、
前記第一の弾性多孔質体層及び前記第二の弾性多孔質体層の一方の嵩密度に対する他方の嵩密度の比が0.8以上、1.1以下である、
防音部材。
【請求項2】
前記第一の弾性多孔質体層及び前記第二の弾性多孔質体層が、繊維体層である、
請求項1に記載の防音部材。
【請求項3】
前記第一のフィルム層及び前記第二のフィルム層が、エラストマーフィルム層である、
請求項1又は2に記載の防音部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防音部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、音源に対向して配置される第1の吸音材と、第1の吸音材の音源とは反対側の面に積層され、JIS L1018で測定した通気率が10cc/cm・sec以下である第1の軟質遮音層と、第1の軟質遮音層に積層される第2の吸音材と、第2の吸音材に積層され、JIS L1018で測定した通気率が10cc/cm・sec以下で、かつJIS K7127で測定したヤング率が前記第1の軟質遮音層よりも5倍以上大きい第2の軟質遮音層とを備え、少なくとも第2の軟質遮音層と第2の吸音材とが、部分的に、もしくは全面で接着されている、防音材が記載されている。
【0003】
非特許文献1には、Biotパラメータの音響特性に対する感度解析について記載されている。非特許文献2には、Biot理論(弾性多孔質振動伝播理論)を用いた軽量防音カバーの開発とそのトランスミッションへの適用事例について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/102345号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Biotパラメータの音響特性に対する感度解析 ニチアス技術時報 2016年 4号 No.375
【文献】Biot理論(弾性多孔質振動伝播理論)を用いた軽量防音カバーの開発とそのトランスミッションへの適用事例 ニチアス技術時報 2016年 4号 No.375
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1,2に記載されているように、Biot理論に基づく解析は、防音部材の防音特性の評価に有用であることは確認されていたものの、所望の防音特性を有する新たな防音部材が具体的にどのような構成を備えるべきかといった点は依然として試行錯誤せざるを得なかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、優れた防音特性を有する防音部材を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る防音部材は、音源側から順に配置される、第一の弾性多孔質体層と、第一のフィルム層と、第二の弾性多孔質体層と、第二のフィルム層と、を含み、前記第一の弾性多孔質体層及び前記第二の弾性多孔質体層の各々は、厚さが0.5mm以上、10mm以下であり、嵩密度が25kg/m以上、2000kg/m以下であり、ヤング率が7000Pa以上、28000Pa以下であり、前記第一の弾性多孔質体層の粘性特性長Λ1(μm)に対する厚さL1(mm)の比(L1/Λ1)と、前記第二の弾性多孔質体層の粘性特性長Λ2(μm)に対する厚さL2(mm)の比(L2/Λ2)との合計(L1/Λ1+L2/Λ2)が、0.11以上である。本発明によれば、優れた防音特性を有する防音部材が提供される。
【0009】
また、前記防音部材において、前記第一の弾性多孔質体層及び前記第二の弾性多孔質体層が、繊維体層であることとしてもよい。また、前記防音部材において、前記第一のフィルム層及び前記第二のフィルム層が、エラストマーフィルム層であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた防音特性を有する防音部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る防音部材に含まれる主な構成を模式的に示す説明図である。
図2A】数値シミュレーションにより得られた、第一の吸音層の粘性特性長Λ1に対する厚さL1の比(L1/Λ1)と、第二の吸音層の粘性特性長Λ2に対する厚さL2の比(L2/Λ2)との合計(L1/Λ1+L2/Λ2)と、透過損失と挿入損失との合計との相関関係を示す説明図である。
図2B】数値シミュレーションにより得られた、第一の吸音層の厚さL1と、第二の吸音層の厚さL2との合計(L1+L2)と、透過損失と挿入損失との合計との相関関係を示す説明図である。
図2C】数値シミュレーションにより得られた、第一の吸音層の粘性特性長Λ1と、第二の吸音層の粘性特性長Λ2との合計(Λ1+Λ2)と、透過損失と挿入損失との合計との相関関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0013】
図1には、本実施形態に係る防音部材1に含まれる主な構成を模式的に示す。防音部材1は、音源S側から順に配置される、第一の弾性多孔質体層10と、第一のフィルム層12と、第二の弾性多孔質体層20と、第二のフィルム層22と、を含み、当該第一の弾性多孔質体層10及び当該第二の弾性多孔質体層20の各々は、厚さが0.5mm以上、10mm以下であり、嵩密度が25kg/m以上、2000kg/m以下であり、ヤング率が7000Pa以上、28000Pa以下であり、当該第一の弾性多孔質体層10の粘性特性長Λ1(μm)に対する厚さL1(mm)の比(L1/Λ1)と、当該第二の弾性多孔質体層20の粘性特性長Λ2(μm)に対する厚さL2(mm)の比(L2/Λ2)との合計(以下、「特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)」という。)が、0.11以上である。
【0014】
すなわち、本発明の発明者らは、優れた防音特性を有する防音部材の開発において鋭意検討を重ねた結果、意外にも、上記特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)が所定範囲内である防音部材が、透過損失のみならず挿入損失にも優れることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
図1に示すように、防音部材1においては、上記4つの層10,12,20,22のうち、第一の弾性多孔質体層10が音源Sに最も近い位置に配置され、当該第一の弾性多孔質体層10の当該音源Sと反対側に第一のフィルム層12が配置され、当該第一のフィルム層12の当該音源Sと反対側に第二の弾性多孔質体層20が配置され、当該第二の弾性多孔質体層20の当該音源Sと反対側に第二のフィルム層22が配置される。
【0016】
なお、音源Sは、防音の対象となる音を発するものであれば特に限られない。音源Sが発する騒音の周波数は特に限られないが、例えば、10Hz以上、10kHz以下の範囲内であることとしてもよく、100Hz以上、2500Hz以下の範囲内であることとしてもよい。
【0017】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20は、弾性多孔質体から構成される。弾性多孔質体は、弾性を有し吸音性を示す多孔質体であれば特に限られないが、例えば、繊維体又は発泡成形体であることとしてもよい。すなわち、第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20は、それぞれ独立に、繊維体又は発泡成形体から構成されてもよい。
【0018】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20が繊維体から構成される繊維体層である場合、当該第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20は、有機繊維の繊維体から構成されてもよいし、無機繊維の繊維体から構成されてもよいが、有機繊維の繊維体から構成される有機繊維体層であることが好ましい。
【0019】
有機繊維は、例えば、樹脂繊維、綿、羊毛、木毛、クズ繊維及びケナフ繊維からなる群より選択される1以上である。有機繊維は、樹脂繊維であることが好ましく、熱可塑性樹脂繊維であることが特に好ましい。
【0020】
樹脂繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維、ナイロン繊維等のポリアミド繊維、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維、及びアクリル繊維からなる群より選択される1以上である。
【0021】
無機繊維は、例えば、グラスウール、ロックウール、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ-アルミナ繊維、アラミド繊維、岩綿長繊維及びウィスカー(SiC等)からなる群より選択される1以上である。
【0022】
繊維体は、有機繊維及び/又は無機繊維を樹脂(例えば、熱硬化性樹脂)でフェルト状に加工したもの(いわゆるレジンフェルト)であることが好ましい。具体的に、繊維体は、部分的に接合された有機繊維から構成されることが好ましい。この場合、繊維体は、第一の有機繊維と、当該第一の有機繊維より融点が低い第二の有機繊維とを含む有機繊維体であって、当該第一の有機繊維は、当該第二の有機繊維によって部分的に接合されていることとしてもよい。
【0023】
また、繊維体は、バインダーで接合された無機繊維から構成されることとしてもよい。この場合、バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂等の樹脂を使用することができる。繊維体は、不織布であることとしてもよい。繊維体は、ニードルパンチが施されたものであることとしてもよい。
【0024】
発泡成形体は、連通気泡を有するものであれば特に限られない。発泡成形体は、例えば、連通気泡が形成されるように樹脂を発泡させることにより製造される。また、発泡成形体は、樹脂の発泡後に、当該発泡に形成された気泡にクラッシング加工等により連通性を付与することにより製造されることとしてもよい。
【0025】
発泡成形体を構成する樹脂は、発泡成形が可能なものであれば特に限られず、例えば、熱可塑性樹脂であることとしてもよい。具体的に、発泡成形体を構成する樹脂は、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ニトリルブタジエンゴム、クロログレンゴム、スチレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、EPDM及びエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選択される1種以上であることとしてもよい。
【0026】
防音部材1において、第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、厚さが0.5mm以上、10mm以下である。すなわち、第一の弾性多孔質体層10の厚さL1は、0.5mm以上、10mm以下であり、第二の弾性多孔質体層20の厚さL2は、0.5mm以上、10mm以下である。このため、第一の弾性多孔質体層10の厚さL1と、第二の弾性多孔質体層20の厚さL2との合計(L1+L2)は、1mm以上、20mm以下である。各弾性多孔質体層10,20の厚さは、1mm以上、9mm以下であることとしてもよく、2mm以上、8mm以下であることとしてもよく、3mm以上、7mm以下であることとしてもよい。
【0027】
第一の弾性多孔質体層10の厚さL1と、第二の弾性多孔質体層20の厚さL2とは、互いに独立に設定することができる。ただし、第一の弾性多孔質体層10の厚さL1に対する、第二の弾性多孔質体層20の厚さL2の比(第二の弾性多孔質体層20の厚さLを、第一の弾性多孔質体層10の厚さLで除して算出される比)(L2/L1)は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0028】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、嵩密度が25kg/m以上、1000kg/m以下である。すなわち、第一の弾性多孔質体層10の嵩密度は、25kg/m以上、1000kg/m以下であり、第二の弾性多孔質体層20の嵩密度は、25kg/m以上、1000kg/m以下である。各弾性多孔質体層10,20の嵩密度は、25kg/m以上、850kg/m以下であることとしてもよく、35kg/m以上、650kg/m以下であることとしてもよく、45kg/m以上、550kg/m以下であることとしてもよい。各弾性多孔質体層10,20の嵩密度は、JIS L 1913:2010に準拠した方法により測定される厚さ及び単位面積あたりの質量に基づき算出される。
【0029】
第一の弾性多孔質体層10の嵩密度と、第二の弾性多孔質体層20の嵩密度とは、互いに独立に設定することができる。ただし、第一の弾性多孔質体層10の嵩密度に対する、第二の弾性多孔質体層20の嵩密度の比は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0030】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、ヤング率が7000Pa以上、28000Pa以下である。すなわち、第一の弾性多孔質体層10のヤング率は、7000Pa以上、28000Pa以下であり、第二の弾性多孔質体層20のヤング率は、7000Pa以上、28000Pa以下である。各弾性多孔質体層10,20のヤング率は、9000Pa以上、21000Pa以下であることとしてもよく、11000Pa以上、17000Pa以下であることとしてもよい。各弾性多孔質体層10,20のヤング率は、例えば、市販の測定装置(model QMA2011、Mecanum社製)を用いて測定される。
【0031】
第一の弾性多孔質体層10のヤング率と、第二の弾性多孔質体層20のヤング率とは、互いに独立に設定することができる。すなわち、第一の弾性多孔質体層10のヤング率と、第二の弾性多孔質体層20のヤング率とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0032】
第一の弾性多孔質体層10のヤング率に対する、第二の弾性多孔質体層20のヤング率の比は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0033】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、例えば、真密度が500kg/m以上、3000kg/m以下であることとしてもよく、800kg/m以上、2500kg/m以下であることとしてもよく、1000kg/m以上、2000kg/m以下であることとしてもよい。各弾性多孔質体層10,20の真密度は、JIS K 0061:2001により測定される。
【0034】
第一の弾性多孔質体層10の真密度と、第二の弾性多孔質体層20の真密度とは、互いに独立に設定することができる。ただし、第一の弾性多孔質体層10の真密度に対する、第二の弾性多孔質体層20の真密度の比は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0035】
第一の弾性多孔質体層10及び/又は第二の弾性多孔質体層20が繊維体層である場合、当該繊維体層を構成する繊維の平均繊維径は、特に限られないが、例えば、1μm以上、1000μm以下の範囲内であることとしてもよい。
【0036】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、例えば、迷路度が1.0(-)以上、1.5(-)以下であることとしてもよく、1.0(-)以上、1.3(-)以下であることとしてもよく、1.0(-)以上、1.1(-)以下であることとしてもよい。各弾性多孔質体層10,20の迷路度は、例えば、市販の測定装置(迷路度・特性長測定システム Torvith、日本音響エンジニアリング株式会社製)を用いて測定される。
【0037】
第一の弾性多孔質体層10の迷路度と、第二の弾性多孔質体層20の迷路度とは、互いに独立に設定することができる。ただし、第一の弾性多孔質体層10の迷路度に対する、第二の弾性多孔質体層20の迷路度の比は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0038】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、例えば、損失係数が0(-)以上、1.0(-)以下であることとしてもよく、0.05(-)以上、0.5(-)以下であることとしてもよく、0.1(-)以上、0.3(-)以下であることとしてもよい。
【0039】
第一の弾性多孔質体層10の損失係数と、第二の弾性多孔質体層20の損失係数とは、互いに独立に設定することができる。ただし、第一の弾性多孔質体層10の損失係数に対する、第二の弾性多孔質体層20の損失係数の比は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0040】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、例えば、ポアソン比が0以上、0.5以下であることとしてもよく、0以上、0.3以下であることとしてもよく、0以上、0.1以下であることとしてもよい。なお、第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20が繊維体層である場合、そのポアソン比はほぼ0(ゼロ)である。
【0041】
第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、例えば、粘性特性長が15μm以上、160μm以下であることとしてもよく、20μm以上、100μm以下であることとしてもよく、25μm以上、70μm以下であることとしてもよい。
【0042】
各弾性多孔質体層10,20の粘性特性長は、例えば、市販の測定装置(迷路度・特性長測定システム Torvith、日本音響エンジニアリング株式会社製)を用いて測定される。
【0043】
また、各弾性多孔質体層10,20の粘性特性長は、下記の式(I)により表される(参考文献:Allard,Propagation of Sound in Porous Media: Modelling Sound Absorbing Materials,Wiley (2009))。
【数1】
【0044】
式(I)において、Λは粘性特性長(μm)を示し、σは流れ抵抗(Ns/m)を示し、φは空隙率(-)を示し、ηは空気の粘性(Pa・s)を示し、αは迷路度(-)を示し、Qは形状パラメータを示す。
【0045】
なお、空隙率φは、下記の式(II)により算出される。式(II)において、ρは嵩密度(kg/m)を示し、ρは真密度(kg/m)を示す。
【数2】
【0046】
第一の弾性多孔質体10の粘性特性長と、第二の弾性多孔質体20の粘性特性長とは、互いに独立に設定することができる。ただし、第一の弾性多孔質体10の粘性特性長に対する、第二の弾性多孔質体20の粘性特性長の比は、例えば、0.8以上、1.2以下であることとしてもよく、0.9以上、1.1以下であることとしてもよい。
【0047】
第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22は、フィルムから構成される。第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22は、樹脂フィルムから構成されることが好ましく、熱可塑性樹脂から構成されることが特に好ましい。さらに、第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22は、エラストマーフィルムから構成されることが好ましく、熱可塑性エラストマー(TPE)から構成されることが特に好ましい。
【0048】
熱可塑性エラストマーは、例えば、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル熱可塑性エラストマー、及びポリオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる群より選択される1以上である。
【0049】
第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22の厚さは、第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の厚さより小さい。第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22の各々の厚さは、例えば、1μm以上、200μm以下であることとしてもよく、10μm以上、100μm以下であることとしてもよく、20μm以上、80μm以下であることとしてもよい。
【0050】
第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22は、非多孔質フィルムから構成されることが好ましい。第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22の各々の嵩密度及び真密度は、例えば、500kg/m以上、2000kg/m以下であることとしてもよく、650kg/m以上、1500kg/m以下であることとしてもよく、800kg/m以上、1300kg/m以下であることとしてもよい。
【0051】
各フィルム層12,22は、各弾性多孔質体層10,12の振動変形に追従することができる柔軟性を有することが好ましい。第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22の各々のヤング率は、例えば、1MPa以上、10000MPa以下であることとしてもよく、10MPa以上、5000MPa以下であることとしてもよく、200MPa以上、900MPa以下であることとしてもよい。各フィルム層12,22のヤング率は、JIS K7127:1999に準拠した方法により測定される。
【0052】
第一の弾性多孔質体層10と第一のフィルム層12とは、他の層を介して隣接して配置されていてもよいし、互いに接して配置されていてもよいが、図1に示すように、互いに接して配置されていることが好ましい。
【0053】
同様に、第二の弾性多孔質体20と第二のフィルム層22とは、他の層を介して隣接して配置されていてもよいし、互いに接して配置されていてもよいが、図1に示すように、互いに接して配置されていることが好ましい。
【0054】
また、第一のフィルム層12と第二の弾性多孔質体層20とは、他の層を介して隣接して配置されていてもよいし、互いに接して配置されていてもよいが、図1に示すように、互いに接して配置されていることが好ましい。
【0055】
上記4つの層10,12,20,22は、プレス成形(好ましくは熱プレス成形)により一体的に成形された、プレス成形体(好ましくは熱プレス成形体)ことが好ましい。この場合、第一の弾性多孔質体層10と第一のフィルム層12とが接して配置されていることが好ましく、当該第一のフィルム層12と第二の弾性多孔質体層20とが接して配置されていることが好ましく、当該第二の弾性多孔質体層20と第二のフィルム層22とが接して配置されていることが好ましい。
【0056】
なお、防音部材1は、上記4つの層10,12,20,22に加えて、さらに他の層を含むこととしてもよい。すなわち、防音部材1は、例えば、第一の弾性多孔質体層10の音源S側にさらに他の層を含んでもよく、及び/又は、第二のフィルム層22の当該音源Sと反対側にさらに他の層を含んでもよい。
【0057】
そして、防音部材1において特徴的なことの一つは、特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)が、0.11以上という特定の範囲内にあることである。この特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)は、第一の弾性多孔質体層10の粘性特性長Λ1(mm)に対する厚さL1(mm)の比(L1/Λ1)と、第二の弾性多孔質体層20の粘性特性長Λ2(mm)に対する厚さL2(mm)の比(L2/Λ2)との和として算出される。
【0058】
防音部材1の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)は、例えば、0.13以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.17以上であることが特に好ましい。
【0059】
防音部材1の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)の上限値は、特に限られないが、当該特有パラメータは、例えば、1.00以下であることとしてもよく、0.80以下であることとしてもよく、0.60以下であることとしてもよく、0.50以下であることとしてもよい。防音部材1の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)の範囲は、上記いずれかの下限値と、上記いずれかの上限値とを任意に組み合わせて特定してもよい。
【0060】
図2Aには、数値シミュレーションにより求められた、防音部材の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)(横軸)と、当該防音部材の垂直透過損失と挿入損失との合計値(dB)(縦軸)との関係を示す。
【0061】
数値シミュレーションは、市販の音響解析ソフトウェア(ACTRAN(登録商標)、株式会社Free Field Technology社製)をインストールしたコンピュータを用いて行った。
【0062】
具体的に、図1に示す防音部材1と同様に、音源側から順に積層された、弾性多孔質体である第一の吸音層(第一の弾性多孔質体層10に相当)と、フィルムである第一の遮音層(第一のフィルム層12に相当)と、弾性多孔質体である第二の吸音層(第二の弾性多孔質体層20に相当)と、フィルムである第二の遮音層(第二のフィルム層22に相当)とから構成される平板形状の防音部材試料の垂直方向に一次元で振動と音が伝搬するモデルを作成して、当該防音部材試料の垂直透過損失及び挿入損失を計算した。空気の物性値としては、上記ソフトウェアACTRAN(登録商標)に搭載されている物性値を用いた。
【0063】
数値シミュレーションにおいては、防音部材試料の第一の吸音層及び第二の吸音層の各々について、真密度ρを1380kg/m、繊維径を20.8μm、迷路度αを1、損失係数を0.3、ポアソン比を0に固定した上で、厚さを0.5mmから10mmまで、嵩密度を25kg/mから1380kg/mまで、ヤング率を7000Paから28000Paまで変化させて、当該防音部材試料の垂直透過損失及び挿入損失を算出した。
【0064】
図2Aにおいてプロットされている各点は、この数値シミュレーションによって算出された結果である。なお、図2Aの縦軸に示す垂直透過損失と挿入損失との合計値(dB)は、上記数値シミュレーションによって周波数100Hz以上、2500Hz以下の範囲で算出された結果に、人の耳の周波数特性(低い音は聞こえにくい等)を考慮した重み付けによる補正を施して算出された平均値である。
【0065】
図2Aに示すように、本発明の発明者らが、どのような構成を有する防音部材が優れた防音特性を有するのか、特に、透過損失のみならず、挿入損失をも向上させるために必要な構成について鋭意検討を重ねた結果、意外にも、第一の弾性多孔質体層10の粘性特性長Λ1(μm)に対する厚さL1(mm)の比(L1/Λ1)と、第二の弾性多孔質体層20の粘性特性長Λ2(μm)に対する厚さL2(mm)の比(L2/Λ2)との合計という特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)が、当該透過損失と挿入損失との合計と高い相関を示すことを見出した。
【0066】
本発明に係る防音部材1は、図2Aにプロットされた点のうち、横軸の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)が0.11以上(より具体的には、0.11以上、0.50以下)の範囲にプロットされた点に対応する構成及び防音特性(具体的には、音響損失と挿入損失との合計が8dB以上の防音特性)を有するものである。
【0067】
図2Aにおいて、白抜きの丸印でプロットされた点は、実際に、本発明に係る防音部材1の一例として実現した実施例の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)及び防音特性を示す。
【0068】
すなわち、この実施例に係る防音部材1は、音源側から順に積層された、第一の弾性多孔質体層10と、第一のフィルム層12と、第二の弾性多孔質体層20と、第二のフィルム層22とから構成される平板形状の熱プレス成形体であり、その特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)が0.18(-)であり、音響損失と挿入損失との合計が16.7dBであった。
【0069】
具体的に、実施例に係る防音部材1を構成する第一の弾性多孔質体層10及び第二の弾性多孔質体層20の各々は、他の樹脂繊維で部分的に接合され平均繊維径が20.8μmであるPET繊維にニードルパンチを施した不織布(有機繊維体層)であり、厚さが5mmであり、嵩密度が100kg/mであり、真密度が1380kg/mであり、ヤング率が14000Paであり、粘性特性長が53μmであり、迷路度が1(-)であり、損失係数が0.182(-)であり、ポアソン比がほぼ0(ゼロ)であった。
【0070】
また、実施例に係る防音部材1を構成する第一のフィルム層12及び第二のフィルム層22の各々は、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの非多孔質フィルムであり、厚さが0.3μmであり、嵩密度及び真密度が1167kg/mであり、ヤング率が461MPaであった。
【0071】
一方、図2Aにおいて、黒塗りの菱形印は、比較例1として、音源側から順に積層された、ポリウレタンフォームである第一の吸音層と、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの非多孔質フィルムである第一の遮音層と、ポリウレタンフォームである第二の吸音層と、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの非多孔質フィルムである第二の遮音層とから構成される平板形状の熱プレス成形体である防音部材についてプロットしたものである。比較例1に係る防音部材の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)は0.09(-)であり、音響損失と挿入損失との合計は2dBであった。
【0072】
また、図2Aにおいて、黒塗りの三角印は、比較例2として、ポリウレタンフォームである1つの吸音層から構成される防音部材についてプロットしたものである。比較例2に係る防音部材の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)は0.09(-)であり、音響損失と挿入損失との合計は1dBであった。
【0073】
また、図2Aにおいて、黒塗りの丸印は、比較例3として、上記実施例に係る防音部材1に弾性多孔質体層10,20として含まれる不織布と同一の有機繊維体(PET繊維体)である1つの吸音層から構成される防音部材についてプロットしたものである。比較例3に係る防音部材の特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)は0.06(-)であり、音響損失と挿入損失との合計は3dBであった。
【0074】
図2Bは、上述した数値シミュレーションの結果を、横軸を第一の吸音層の厚さ(第一の弾性多孔質体層10の厚さL1に相当)と第二の吸音層の厚さ(第二の弾性多孔質体層20の厚さL2に相当)との合計(L1+L2)としてプロットしたものである。
【0075】
図2Cは、上述した数値シミュレーションの結果を、横軸を第一の吸音層の粘性特性長(第一の弾性多孔質体層10の粘性特性長Λ1に相当)と第二の吸音層の粘性特性長(第二の弾性多孔質体層20の粘性特性長Λ2に相当)との合計(Λ1+Λ2)としてプロットしたものである。
【0076】
図2B及び図2Cに示すように、吸音層の厚さの合計(L1+L2)のみ、又は粘性特性長の合計(Λ1+Λ2)のみを指標として用いた場合には、図2Aに示すように特有パラメータ(L1/Λ1+L2/Λ2)を指標として用いた場合のように、透過損失と挿入損失との合計との間に高い相関が見出されず、実施例に係る防音部材と、比較例1~3に係る防音部材とを明確に区別することはできなかった。

図1
図2A
図2B
図2C