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特許7473317ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法
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  • 特許-ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法 図1
  • 特許-ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法 図2
  • 特許-ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法 図3
  • 特許-ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法 図4
  • 特許-ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法 図5
  • 特許-ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B25J19/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019187692
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021062432
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-06-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】原田 鎭郎
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-195849(JP,A)
【文献】特開平8-313322(JP,A)
【文献】特開2019-120031(JP,A)
【文献】特開2017-159402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットのアームに設けられたガススプリングのメンテナンスを管理するメンテナンス管理装置であって、
前記ガススプリングの内部のガス圧を定期的に測定するガス圧測定部と、
単位時間当たりまたは単位稼働距離当たりの前記ガス圧の低下量に基づいて、前記ガススプリングの異常の有無を判断するメンテナンス判断部と、
該メンテナンス判断部による判断結果に基づく通知を作業者に行う通知部と、を備え、
前記メンテナンス判断部は、前記ガス圧の低下量が所定の閾値以下である場合、前記ガススプリングに異常が無いと判断すると共に前記ガススプリングに行うべきメンテナンスがガスの充填であると判断し、前記ガス圧が所定の閾値まで低下するまでの残り時間を算出し、
前記通知部が、前記残り時間に関する通知を行う、メンテナンス管理装置。
【請求項2】
前記メンテナンス判断部は、前記ガス圧の低下量が所定の閾値よりも大きい場合、前記ガススプリングに異常が有ると判断すると共に前記ガススプリングに行うべきメンテナンスが前記ガススプリングの交換であると判断し、
前記通知部は、前記ガススプリングの交換に関する通知を行う、請求項1に記載のメンテナンス管理装置。
【請求項3】
少なくとも1つのアームを有するロボット機構部と、前記アームに設けられたガススプリングと、前記ロボット機構部を制御する制御装置とを備え、前記ガススプリングが、前記アームを駆動するサーボモータの負荷を軽減するガスバランサとして作用する、多関節ロボットと、
前記ガススプリングのメンテナンスを管理する請求項1または請求項に記載のメンテナンス管理装置と、を備えるロボットシステム。
【請求項4】
多関節ロボットのアームに設けられたガススプリングのメンテナンスを管理するメンテナンス管理方法であって、
前記ガススプリングの内部のガス圧を定期的に測定し、
単位時間当たりまたは単位稼働距離当たりの前記ガス圧の低下量に基づいて、前記ガススプリングの異常の有無を判断し、
判断結果に基づく通知を作業者に行い、
前記ガススプリングの異常の有無の判断において、前記ガス圧の低下量が所定の閾値以下である場合、前記ガススプリングに異常が無いと判断すると共に前記ガススプリングに行うべきメンテナンスがガスの充填であると判断し、前記ガス圧が所定の閾値まで低下するまでの残り時間を算出することを含み、
前記残り時間に関する通知を行う、メンテナンス管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガススプリングのメンテナンス管理装置、ロボットシステムおよびガススプリングのメンテナンス管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスバランサとしてガススプリングを備えたロボットが知られている(例えば、特許文献1,2参照。)。水平な軸線回りに回転するロボットアームの駆動用のサーボモータには、ロボットアームに作用する重力による負荷が作用する。ガスバランサは、重力によるサーボモータの負荷を軽減するために設けられる。ガススプリングは、ガスを封入するシリンダと、シリンダ内のガスを圧縮するピストンロッドとを有し、ガスの圧縮によって反発力を発生させる。シリンダに対するピストンロッドの動作に伴い、シリンダの内部のガス圧は徐々に低下する。
【0003】
ガス圧の低下を検知するための様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1~4参照。)。例えば、特許文献2では、サーボモータの電流値と基準電流値との差分に基づいて、シリンダ内のガス圧の減少量を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-159402号公報
【文献】特開2014-195849号公報
【文献】特開2007-098494号公報
【文献】特開平08-313322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、一般的に、正常なガススプリングにおいても、ガス圧は徐々に低下する。したがって、ガススプリングは、通常のメンテナンスとして、シリンダ内へのガスの定期的な充填を必要とする。一方、ガススプリングの異常によってガス圧が低下することがある。この場合、シリンダ内へガスの充填ではなく、ガススプリングの交換が必要である。このように、ガススプリングの状態に応じて適切なメンテナンスは異なるが、ガス圧の減少量に基づいて適切なメンテナンスを判断することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、多関節ロボットのアームに設けられたガススプリングのメンテナンスを管理するメンテナンス管理装置であって、前記ガススプリングの内部のガス圧を定期的に測定するガス圧測定部と、単位時間当たりまたは単位稼働距離当たりの前記ガス圧の低下量に基づいて、前記ガススプリングの異常の有無を判断するメンテナンス判断部と、該メンテナンス判断部による判断結果に基づく通知を作業者に行う通知部と、を備えるメンテナンス管理装置である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るロボットシステムの全体構成図である。
図2】ガススプリングによるトルクTgとサーボモータによるトルクTsとの関係を説明するグラフである。
図3】一実施形態に係るメンテナンス管理装置の構成図である。
図4】(a)ガススプリングの稼働距離に対するガス圧の変化を示すグラフと、(b)(a)の領域Eを拡大したグラフである。
図5】ガススプリングの一構成例を示す断面図である。
図6】ガススプリングのメンテナンス管理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一実施形態に係るガススプリングのメンテナンス管理装置1およびロボットシステム10について図面を参照して説明する。
図1に示されるように、ロボットシステム10は、多関節ロボット2と、多関節ロボット2に設けられたガススプリング3のメンテナンスを管理するメンテナンス管理装置1とを備える。
多関節ロボット2は、少なくとも1つのアームを有するロボット機構部4と、少なくとも1つのアームに連結されたガススプリング3と、ロボット機構部4を制御する制御装置5とを備える。メンテナンス管理装置1は、制御装置5に設けられている。
【0009】
ロボット機構部4の一例は、ベース4aと、ベース4aに旋回可能に設けられた旋回部4bと、旋回部4bに回転可能に設けられた下部アーム4cと、下部アーム4cに回転可能に設けられた上部アーム4dと、上部アーム4dの先端に設けられた手首部4eとを有する垂直多関節ロボットである。本実施形態において、ロボット機構部4は溶接ロボットであり、手首部4eに溶接ツール4fが取り付けられている。
【0010】
ロボット機構部4には、旋回部4bおよびアーム4c,4dを駆動するためのサーボモータが設けられている。制御装置5は、給電ケーブル7によってロボット機構部4と接続され、各サーボモータの動作を制御する。
水平な軸線回りに回転する下部アーム4c用のサーボモータ6には、下部アーム4cに作用する重力による負荷が加わる。ガススプリング3は、重力によるサーボモータ6の負荷を軽減するガスバランサとして使用される。
【0011】
ガススプリング3は、図1および図5に示されるように、シリンダ3aと、ピストンロッド3bとを有する。シリンダ3aの内部には、不活性かつ圧縮性のガスが封入されている。ピストンロッド3bは、シリンダ3a内を摺動可能であり、シリンダ3aの内部のガスを圧縮する。シリンダ3aは、下部アーム4cに回転可能に取付けられ、ピストンロッド3bは、旋回部4bに回転可能に取付けられている。下部アーム4cの回転に伴ってシリンダ3a内へのピストンロッド3bの挿入量が変化し、シリンダ3a内へのピストンロッド3bの挿入量が増加するにつれて、シリンダ3aの内部のガス圧が増加する。
【0012】
図2は、下部アーム4cの変位および速度を所定の条件で制御する場合において必要なトルクを説明している。グラフ(A)は、適正な量のガスがガススプリング3に充填された状態、グラフ(B)は、ガススプリング3のガスが漏出してガス圧が低下した状態を示している。ガススプリング3はガスバランサとして使用されるので、下部アーム4cの駆動に必要なトルクTrは、サーボモータ6によるトルクTsおよびガススプリング3によるトルクTgの合計となる。ガススプリング3のガス圧が高い程、トルクTgは大きくなる。(B)では、ガスの漏出によってガススプリング3のトルクTgがΔTsだけ低下するので、所定のトルクTrを得るためには、サーボモータ6のトルクTsをΔTsだけ大きくする必要がある。
【0013】
図3に示されるように、メンテナンス管理装置1は、ガススプリング3の内部のガス圧を定期的に測定するガス圧測定部11と、単位時間当たりまたは単位稼働距離当たりのガス圧の低下量に基づいて、ガススプリング3の異常の有無を判断するメンテナンス判断部12と、メンテナンス判断部12による判断結果に基づく通知を作業者に行う通知部13と、RAM、ROMおよびその他の任意の記憶装置を有する記憶部14とを備える。メンテナンス管理装置1はプロセッサを有し、ガス圧測定部11、メンテナンス判断部12および通知部13の後述の処理は、プロセッサによって実行される。
【0014】
前述したように、サーボモータ6のトルクTsとガススプリング3の内部のガス圧との間には、相関関係がある。ガス圧測定部11は、サーボモータ6を制御する制御装置5内の制御部からサーボモータ6の電流値を取得する。次に、ガス圧測定部11は、サーボモータ6の電流値とガス圧との間の所定の関係に基づいてサーボモータ6の電流値をガス圧に換算することによって、電流値からガス圧を間接的に測定する。測定されたガス圧の値は、記憶部14に時系列に記憶される。
【0015】
図4(a)は、ガス圧の経時的な変化の一例を示している。図4(a)のグラフにおいて、左半分(ガス充填前)は、ガススプリング3が正常であるときの通常のガス圧の低下を示し、右半分(ガス充填後)は、ガススプリング3にシール性能の異常が生じているときのガス圧の低下を示している。通常の状態においても、ガススプリング3内のガスは使用に伴って漏れるので、ガス圧は、ガススプリング3の稼働距離が増加するにつれて、初期値Piから徐々に低下する。
【0016】
ガス圧は、ロボット機構部4の位置および姿勢に応じて変化する。したがって、ガス圧測定部11は、ロボット機構部4が所定の位置および所定の姿勢に配置されている状態でガス圧を測定することが好ましい。例えば、ガス圧測定部11がガス圧の測定を実行するとき、制御装置5が、ロボット機構部4を制御してロボット機構部4を所定の位置および所定の姿勢に配置させてもよい。
ガス圧の測定の頻度は、多関節ロボット2の稼働状況に応じて適宜設定される。例えば、ガス圧測定部11は、1週間または1か月に一度、ガス圧を測定する。あるいは、ガス圧測定部11は、稼働距離が所定の距離増える毎に、ガス圧を測定する。
【0017】
メンテナンス判断部12は、ガス圧測定部11によってガス圧が測定される度に、単位時間当たりまたは単位稼働距離当たりのガス圧の低下量である低下率ΔP/ΔDを計算する。単位時間の一例は、ロボット機構部4の所定の稼働時間の長さであり、単位稼働距離の一例は、ガススプリング3の所定の稼働距離である。ガススプリング3の稼働距離は、下部アーム4cの総移動量から算出される。例えば、ΔPは、今回測定されたガス圧と前回測定されたガス圧との差分であり、ΔDは、今回測定時の稼働距離と前回測定時の稼働距離との差分である。
【0018】
次に、メンテナンス判断部12は、低下率ΔP/ΔDを所定の閾値Cと比較することによって、ガススプリング3の異常の有無を判断する。さらに、メンテナンス判断部12は、異常の有無の判断結果に基づいて、ガススプリング3に行うべきメンテナンスを判断する。
閾値Cは、通常のガス漏れに因るガス圧の低下率に基づいて設定された値である。図4(a)の左半分に示されるように、通常のガス漏れのみによってガス圧が低下している場合、ガス圧は、稼働距離に対して略一定の低下率ΔP/ΔDで低下し、低下率ΔP/ΔDは閾値C以下である。一方、図4(a)の右半分に示されるように、ガススプリング3のシール性能に異常が生じているとき、稼働距離が増すにつれてガス圧の低下が加速し、低下率ΔP/ΔDは次第に増大し、低下率ΔP/ΔDが閾値Cよりも大きくなる。図4(b)は、図4(a)の領域Eの拡大図である。
【0019】
低下率ΔP/ΔDが閾値C以下である場合、メンテナンス判断部12は、ガススプリング3に異常は無いと判断し、さらに、行うべきメンテナンスはガスの充填であると判断する。次に、メンテナンス判断部12は、ガス圧が低下率ΔP/ΔDで低下し続けたと仮定した場合にガス圧が所定の閾値Pthまで低下するまでの残り時間を算出する。閾値Pthは、ガススプリング3がガスバランサとして必要なトルクTgを出力することがきるガス圧の下限値である。残り時間は、ガス圧が閾値Pthまで低下するまでのガススプリング3の稼働距離またはロボット機構部4の稼働時間であってもよい。
一方、低下率ΔP/ΔDが閾値Cよりも大きい場合、メンテナンス判断部12は、ガススプリング3に異常が有ると判断し、さらに、行うべきメンテナンスはガススプリング3の交換であると判断する。
【0020】
図5は、ガススプリング3の一構成例を示している。シリンダ3aの内部のシール性能は、ロッドシール3cによって主に達成される。ピストンロッド3bの表面の傷、または、ピストンロッド3bとロッドシール3cとの間に噛み込んだ異物等が原因で、ピストンロッド3bとロッドシール3cとの間のシール性能が低下し、それにより、ガススプリング3のシール性能に異常が発生する。
【0021】
例えば、外部に露出しているピストンロッド3bの表面に、ロボット機構部4の作業によって発生した異物、例えば溶接によって発生したスパッタが付着することがある。異物のガススプリング3の内部への侵入は、通常、ダストシール3dによって防止される。しかし、異物が、ダストシール3dを通過してピストンロッド3bとロッドガイド3eとの間に侵入し、ピストンロッド3bの表面に傷を付けることがある。また、ガススプリング3の部品同士の摺動によって発生した摩耗粉等の異物が、ピストンロッド3bとロッドシール3cと間に噛み込むことがある。
これらの他に、経年劣化、熱による劣化、または異物による化学的アタック等が原因でロッドシール3cのシール性能が低下することもある。
【0022】
図5において、符号3fは、シリンダ3a内でのピストンロッド3bの摺動を案内するピストンガイド、符号3gは、シリンダ3a内にガスを充填するためのチェックバルブ、符号3hは、潤滑オイルをそれぞれ示している。
【0023】
ガススプリング3に異常は無いと判断された場合、通知部13は、残り時間に関する通知を作業者に行う。例えば、通知部13は、制御装置5の操作パネル5aに、残り時間内にガススプリング3にガスを充填するようにとの指示を表示させる。一方、ガススプリング3に異常が有ると判断された場合、通知部13は、ガススプリング3の交換に関する通知を作業者に行う。例えば、通知部13は、操作パネル5aに、ガススプリング3を速やかに交換するようにとの指示を表示させる。通知部13は、操作パネル5aに代えて、制御装置5の可搬式の教示操作盤(図示略)のディスプレイに上記指示を表示させてもよい。
【0024】
次に、メンテナンス管理装置1によるガススプリング3のメンテナンス管理方法について、図6を参照して説明する。
ガス圧測定部11によって、ガススプリング3の内部のガス圧が定期的に測定される(ステップS1)。ガス圧の測定に続き、メンテナンス判断部12によって、単位時間当たりまたは単位稼働距離当たりのガス圧の低下量である低下率ΔP/ΔDが算出され(ステップS2)、低下率ΔP/ΔDに基づいて、ガススプリング3の異常の有無およびガススプリング3に行うべきメンテナンスが判断される(ステップS3)。
【0025】
具体的には、低下率ΔP/ΔDが閾値C以下である場合(ステップS3のYES)、メンテナンス判断部12によって、ガススプリング3に異常は無く、行うべきメンテナンスはガスの充填であると判断され(ステップS4)、ガス圧が閾値Pthまで低下するまでの残り時間が算出される(ステップS5)。そして、残り時間に関する通知が、通知部13によって作業者に行われる(ステップS6)。
作業者は、通知に基づき、残り時間内にチェックバルブ3gからシリンダ3a内にガスを充填し、シリンダ3aの内部のガス圧を初期値Piまで戻す。
【0026】
一方、低下率ΔP/ΔDが閾値Cよりも大きい場合(ステップS3のNO)、メンテナンス判断部12によって、ガススプリング3に異常が有り、行うべきメンテナンスはガススプリング3の交換であると判断される(ステップS7)。そして、ガススプリング3の交換に関する通知が、通知部13によって作業者に行われる(ステップS8)。
作業者は、通知に基づき、ガススプリング3を新しいものに速やかに交換する。
【0027】
前述したように、ガススプリング3のガス圧は、ロボット機構部4の稼働に伴って徐々に低下するため、ガススプリング3の通常のメンテナンスとして、ガスの定期的な充填が必要である。したがって、仮にガス圧の低下の事実または低下量が作業者に通知された場合、作業者は、まず、ガススプリング3内にガスを充填する。しかし、ガススプリング3のシール性能に異常が発生している場合、ロボット機構部4の再稼働後、ガスを充填したばかりであるにも関わらず、急激なガス漏れによってガス圧がすぐに低下する。そのときに、作業者は、ガススプリング3に異常があることに気付き、ガススプリング3を交換することになる。この場合、無駄な工数やメンテナンスが発生し、多関節ロボット2のメンテナンスによる生産ラインのダウンタイムを長引かせることになる。
【0028】
これに対し、本実施形態によれば、ガス圧の低下率ΔP/ΔDに基づいて、ガス圧の低下が、通常のガス漏れに起因するものであるか、または、ガススプリング3のシール性能の異常に起因するものであるかが判断される。そして、ガス圧の低下の原因に応じた適切なメンテナンスが作業者に通知される。作業者は、通知に基づき、ガス圧の低下の仕方が正常であるか、または異常であるかを認識し、迷うことなく適切なメンテナンスをガススプリング3に行うことができる。
【0029】
また、ガススプリング3にシール性能の異常が発生している場合、ガス圧の低下率ΔP/ΔDに基づいて、ガススプリング3の異常を早期に発見し、ガススプリング3の交換の必要性を作業者に早期に通知することができる。
また、ガススプリング3が正常である場合、多関節ロボット2を正常に稼働させることができる残り時間が作業者に通知される。作業者は、通知された残り時間に基づいて、計画的にガススプリング3のメンテナンスを行うことができる。
【0030】
ガス圧測定部11によって測定されるガス圧は、シリンダ3aの内部の温度に応じて変化する。したがって、メンテナンス判断部12は、測定されたガス圧を所定の温度でのガス圧に換算し、所定の温度でのガス圧を使用して低下率ΔP/ΔDを算出してもよい。
例えば、メンテナンス判断部12は、ガススプリング3に設けられた温度センサからガススプリング3の周囲の温度Tを取得し、下式から、測定されたガス圧Pを20℃でのガス圧P(20)に換算する。
P(20)=P×(273.15+T)/(273.15+20)
【0031】
上記実施形態において、ガス圧測定部11が、サーボモータ6の電流値からガス圧を間接的に測定することとしたが、これに代えて、他の手段を用いてガス圧を測定してもよい。例えば、ガス圧測定部11が、シリンダ3aの内部に配置された圧力センサを備え、圧力センサによってガス圧を直接測定してもよい。
【0032】
上記実施形態において、メンテナンス管理装置1が、制御装置5に設けられていることとしたが、これに代えて、メンテナンス管理装置1は、制御装置5とは別体の装置であってもよい。例えば、メンテナンス管理装置1は、制御装置5と接続されたコンピュータであってもよい。
【0033】
あるいは、メンテナンス管理装置1の一部の機能が、複数の多関節ロボット2と接続された上位制御システムに設けられていてもよい。例えば、ガス圧測定部11が、各多関節ロボット2に設けられ、メンテナンス判断部12および通知部13が、上位制御システムに設けられていてもよい。
【0034】
上位制御システムは、複数の多関節ロボット2の各々からガス圧のデータを受信し、各多関節ロボット2のガススプリング3の異常の有無およびメンテナンスの判断を行う。
このように、複数の多関節ロボット2に設けられたガススプリング3のメンテナンスの情報を1つの上位制御システムによってまとめて管理することで、作業者は、例えば、複数のガススプリング3へのガスの充填を同時に行うなど、複数のガススプリング3のメンテナンスをより計画的に行うことができる。
【符号の説明】
【0035】
1 メンテナンス管理装置
2 多関節ロボット
3 ガススプリング
4 ロボット機構部
4c 下部アーム
5 制御装置
6 サーボモータ
10 ロボットシステム
11 ガス圧測定部
12 メンテナンス判断部
13 通知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6