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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】原子発振器及び周波数信号生成システム
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/26 20060101AFI20240416BHJP
   H01S 1/06 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
H03L7/26
H01S1/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019194113
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021069038
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】397050741
【氏名又は名称】マイクロチップ テクノロジー インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MICROCHIP TECHNOLOGY INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100173691
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 康久
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】珎道 幸治
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-120584(JP,A)
【文献】特開平10-117041(JP,A)
【文献】特開2015-122597(JP,A)
【文献】特開2019-080287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 1/06
H03L1/00-H03L9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
アルカリ金属原子が収容され、前記発光素子から出射された光が入射する原子セルと、
前記原子セルを覆い、前記原子セルを第1温度に加熱するヒーターと、
前記ヒーターによって前記第1温度に加熱される第1部分と、前記原子セルに接し、ペルチェ効果によって前記第1温度よりも低い第2温度に制御される第2部分と、を含み、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置される温度制御素子と、
前記原子セルを透過した光を検出する受光素子と、を含
前記アルカリ金属原子の少なくとも一部が液体状態で前記原子セル内に存在する、原子発振器。
【請求項2】
前記温度制御素子に接続されている定電流源を含む、請求項1に記載の原子発振器。
【請求項3】
前記原子セルの光が入射する面の温度、及び、前記原子セルの光が出射する面の温度は、前記第2温度よりも高い、請求項1又は請求項2に記載の原子発振器。
【請求項4】
前記温度制御素子は、第1温度制御面、第2温度制御面、及び前記第1温度制御面と前記第2温度制御面とを接続する半導体層を含むペルチェ素子であり、
前記第1部分は、前記ペルチェ素子の前記第1温度制御面であり、
前記第2部分は、前記ペルチェ素子の前記第2温度制御面であり、
前記ヒーターから前記原子セルに向かって、前記第1部分、前記半導体層、前記第2部分の順に並んでいる、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の原子発振器。
【請求項5】
前記温度制御素子は、第1の金属と、前記第1の金属とは異なる第2の金属と、を含み、
前記第2部分は、前記第1の金属と前記第2の金属との接合部である、請求項2に記載の原子発振器。
【請求項6】
前記第1部分は、前記第1の金属の前記ヒーターに接する部分、及び、前記第2の金属の前記ヒーターに接する部分である、請求項5に記載の原子発振器。
【請求項7】
前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置され、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱されているシールドを含み、
前記第1部分は、前記第1の金属の前記シールドに接する部分である、請求項5に記載の原子発振器。
【請求項8】
前記温度制御素子は、磁場を発生させるコイルである、請求項5に記載の原子発振器。
【請求項9】
前記温度制御素子の前記第1部分と前記定電流源とは、第3の金属で接続されている、請求項5乃至請求項8の何れか一項に記載の原子発振器。
【請求項10】
原子発振器と、
前記原子発振器からの周波数信号を処理する処理部と、を備え、
前記原子発振器は、
発光素子と、
アルカリ金属原子が収容され、前記発光素子から出射された光が入射する原子セルと、
前記原子セルを覆い、前記原子セルを第1温度に加熱するヒーターと、
前記ヒーターによって前記第1温度に加熱される第1部分と、前記原子セルに接し、ペルチェ効果によって前記第1温度よりも低い第2温度に制御される第2部分と、を含み、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置される温度制御素子と、
前記原子セルを透過した光を検出する受光素子と、を含
前記アルカリ金属原子の少なくとも一部が液体状態で前記原子セル内に存在する、周波数信号生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子発振器及び周波数信号生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
長期的に高精度な発振特性を有する発振器として、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属原子のエネルギー遷移に基づいて発振する原子発振器が知られている。
原子発振器は、アルカリ金属原子をガスセル内に封入し、そのアルカリ金属原子をガス状に保つために、ガスセルをヒーターにより所定温度に加熱している。しかし、ガスセル内のガス状のアルカリ金属原子は、経年劣化により減少してしまうので、長期間使用すると原子発振器の性能が劣化するという問題があった。
例えば特許文献1では、ガスセルを加熱する伝熱部と離間した位置に放熱部を配置し、ガスセル内のアルカリ金属原子を全てガス化するのではなく、一部をガスセルの温度の低い部分である放熱部に析出させ、液体として同封している。そのため、経年劣化によるガス状のアルカリ金属原子の減少を、液状のアルカリ金属原子から気化させることで補っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-122597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の原子発振器は、放熱部がガスセルの熱を外部へ逃がすことでガスセルの一部の温度を低くするため、ガスセルの冷却の程度が外気の温度に影響され易いので、ガスセルの温度分布を安定させることが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
原子発振器は、発光素子と、アルカリ金属原子が収容され、前記発光素子から出射された光が入射する原子セルと、前記原子セルを覆い、前記原子セルを第1温度に加熱するヒーターと、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱される第1部分と、前記原子セルに接し、ペルチェ効果によって前記第1温度よりも低い第2温度に制御される第2部分と、を含み、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置される温度制御素子と、前記原子セルを透過した光を検出する受光素子と、を含む。
【0006】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子に接続されている定電流源を含むことが好ましい。
【0007】
上記の原子発振器において、前記原子セルの光が入射する面の温度、及び、前記原子セルの光が出射する面の温度は、前記第2温度よりも高いことが好ましい。
【0008】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子は、第1温度制御面、第2温度制御面、及び前記第1温度制御面と前記第2温度制御面とを接続する半導体層を含むペルチェ素子であり、前記第1部分は、前記ペルチェ素子の前記第1温度制御面であり、前記第2部分は、前記ペルチェ素子の前記第2温度制御面であり、前記ヒーターから前記原子セルに向かって、前記第1部分、前記半導体層、前記第2部分の順に並んでいることが好ましい。
【0009】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子は、第1の金属と、前記第1の金属とは異なる第2の金属と、を含み、前記第2部分は、前記第1の金属と前記第2の金属との接合部であることが好ましい。
【0010】
上記の原子発振器において、前記第1部分は、前記第1の金属の前記ヒーターに接する部分、及び、前記第2の金属の前記ヒーターに接する部分であることが好ましい。
【0011】
上記の原子発振器において、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置され、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱されているシールドを含み、前記第1部分は、前記第1の金属の前記シールドに接する部分であることが好ましい。
【0012】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子は、磁場を発生させるコイルであることが好ましい。
【0013】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子の前記第1部分と前記定電流源とは、第3の金属で接続されていることが好ましい。
【0014】
周波数信号生成システムは、原子発振器と、前記原子発振器からの周波数信号を処理する処理部と、を備え、前記原子発振器は、発光素子と、アルカリ金属原子が収容され、前記発光素子から出射された光が入射する原子セルと、前記原子セルを覆い、前記原子セルを第1温度に加熱するヒーターと、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱される第1部分と、前記原子セルに接し、ペルチェ効果によって前記第1温度よりも低い第2温度に制御される第2部分と、を含み、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置される温度制御素子と、前記原子セルを透過した光を検出する受光素子と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る原子発振器を示す概略図。
図2】第1実施形態に係る原子発振器を模式的に示す断面図。
図3】第1実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図4図3のA-A線での断面図。
図5】第2実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図6】第3実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図7】第4実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図8】第5実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図9】第6実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図10】第7実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図11】第8実施形態に係る原子セルユニットを模式的に示す断面図。
図12】第9実施形態に係る周波数信号生成システムを示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1実施形態
先ず、第1実施形態に係る原子発振器1について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る原子発振器1を示す概略図である。
【0017】
原子発振器1は、アルカリ金属原子に対して特定の異なる波長の2つの共鳴光を同時に照射したときに当該2つの共鳴光がアルカリ金属原子に吸収されずに透過する現象が生じる量子干渉効果(CPT:Coherent Population Trapping)を利用した原子発振器である。なお、この量子干渉効果による現象は、電磁誘起透明化(EIT:Electromagnetically Induced Transparency)現象とも言う。また、本実施形態に係る原子発振器1は、光及びマイクロ波による二重共鳴現象を利用した原子発振器であってもよい。
【0018】
原子発振器1は、図1に示すように、発光素子10と、光学系ユニット20と、原子セルユニット30と、発光素子10及び原子セルユニット30を制御する制御ユニット40と、を含む。
【0019】
発光素子10は、周波数の異なる2種の光を含んでいる直線偏光の光LLを出射する。発光素子10は、垂直共振器面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)などである。
【0020】
光学系ユニット20は、発光素子10と原子セルユニット30との間に配置されている。光学系ユニット20は、減光フィルター21と、レンズ22と、1/4波長板23と、を有している。
【0021】
減光フィルター21は、発光素子10から出射された光LLの強度を減少させる。レンズ22は、光LLの放射角度を調整する。具体的には、レンズ22は、光LLを平行光にする。1/4波長板23は、光LLに含まれる周波数の異なる2種の光を、直線偏光から円偏光に変換する。
【0022】
原子セルユニット30は、原子セル31と、受光素子32と、ヒーター33と、温度センサー34と、コイル35と、温度制御素子36と、を有している。
【0023】
原子セル31は、受光素子32から出射される光LLを透過する。原子セル31には、アルカリ金属原子が収容されている。アルカリ金属原子は、互いに異なる2つの基底準位と励起準位とからなる3準位系のエネルギー準位を有する。原子セル31には、発光素子10から出射された光LLが減光フィルター21、レンズ22、及び1/4波長板23を介して入射する。
【0024】
受光素子32は、原子セル31を通過した光LLを受光し検出する。受光素子32は、例えば、フォトダイオードである。
【0025】
ヒーター33は、原子セル31を第1温度T1になるように制御する。ヒーター33は、原子セル31に収容されたアルカリ金属原子を加熱し、アルカリ金属原子の少なくとも一部をガス状態にする。第1温度T1は、例えば、60℃以上70℃以下である。
【0026】
温度センサー34は、原子セル31の温度を検出する。温度センサー34は、例えば、サーミスタ、熱電対等の各種温度センサーである。
コイル35は、原子セル31に収容されたアルカリ金属原子に所定方向の磁場を印加し、アルカリ金属原子のエネルギー準位をゼーマン分裂させる。
【0027】
アルカリ金属原子がゼーマン分裂した状態において、円偏光した共鳴光対がアルカリ金属原子に照射されると、アルカリ金属原子がゼーマン分裂した複数の準位のうち、所望のエネルギー準位のアルカリ金属原子の数が他のエネルギー準位のアルカリ金属原子の数に対して相対的に多くなる。そのため、所望のEIT現象を発現する原子数が増大し、所望のEIT信号が大きくなる。その結果、原子発振器1の発振特性を向上させることができる。
【0028】
温度制御素子36は、ペルチェ効果を利用し、原子セル31の一部を第1温度T1よりも低い第2温度T2になるように冷却する。第2温度T2は、例えば、第1温度T1よりも1℃以上低い温度である。温度制御素子36は、例えば、ペルチェ素子である。
【0029】
制御ユニット40は、温度制御回路41と、定電流源42と、磁場制御回路43と、光源制御回路44と、を有している。
【0030】
温度制御回路41は、温度センサー34の検出結果に基づいて、原子セル31の内部が所望の温度となるように、ヒーター33への通電を制御する。
【0031】
定電流源42は、温度制御素子36に直流電流を流し、原子セル31の一部を第2温度T2になるように制御する。
【0032】
磁場制御回路43は、コイル35が発生する磁場が一定となるように、コイル35への通電を制御する。
【0033】
光源制御回路44は、受光素子32の検出結果に基づいて、EIT現象が生じるように、受光素子32から出射された光LLに含まれる2種の光の周波数を制御する。ここで、これら2種の光が原子セル31に収容されたアルカリ金属原子の2つの基底準位間のエネルギー差に相当する周波数差の共鳴光対となったとき、EIT現象が生じる。光源制御回路44は、2種の光の周波数の制御に同期して安定化するように発振周波数が制御される電圧制御型発振器(図示せず)を備えており、この電圧制御型発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)の出力信号を原子発振器1の出力信号であるクロック信号CLKとして出力する。
【0034】
次に、原子発振器1の具体的な構成について説明する。
図2は、第1実施形態に係る原子発振器1を模式的に示す断面図である。図3は、第1実施形態に係る原子セルユニット30を模式的に示す断面図である。図4は、図3のA-A線での断面図である。また、図2図4、及び後述する図5図11では、互いに直交する3軸として、X軸、Y軸、及びZ軸を図示している。
【0035】
原子発振器1は、図2に示すように、発光素子10と、光学系ユニット20と、原子セルユニット30と、制御ユニット40と、外容器50と、を含む。
【0036】
発光素子10は、光源基板11に配置されている。光源基板11は、外基部51上に設けられた断熱部材53に配置され、例えば、図示しないネジによって断熱部材53と共に外基部51に固定されている。発光素子10は、制御ユニット40の光源制御回路44と電気的に接続されている。
【0037】
光学系ユニット20は、断熱部材53を介して外基部51に配置されている。光学系ユニット20は、減光フィルター21と、レンズ22と、1/4波長板23と、これらを保持しているホルダー24と、を有している。ホルダー24は、例えば、図示しないネジによって断熱部材53と共に外基部51に固定されている。
【0038】
ホルダー24には、貫通孔が設けられており、光LLの通過領域である。貫通孔には、減光フィルター21、レンズ22、及び1/4波長板23が発光素子10側からこの順で配置されている。
【0039】
原子セルユニット30は、断熱部材53を介して外基部51に配置され、例えば、図示しないネジによって断熱部材53と共に外基部51に固定されている。
原子セルユニット30は、図3及び図4に示すように、原子セル31と、受光素子32と、ヒーター33と、温度センサー34と、コイル35と、温度制御素子36と、内容器となるシールド37と、を含む。原子セル31、ヒーター33、及びシールド37は、長手方向がX軸に沿った円筒形状であり、ヒーター33の内側にシールド37が配置され、シールド37の内側に原子セル31と、受光素子32と、温度センサー34と、コイル35と、温度制御素子36と、が配置されている。
【0040】
原子セル31には、気体のルビジウム、セシウム、ナトリウム等のアルカリ金属が収容されている。原子セル31には、必要に応じて、アルゴン等の希ガス、窒素等の不活性ガスが緩衝ガスとしてアルカリ金属原子とともに収容されていてもよい。
【0041】
原子セル31には、発光素子10から出射された光LLが入射する。原子セル31の壁部の材質は、例えば、ガラスなどである。原子セル31の壁部は、原子セル31の内部空間Sを規定している。原子セル31の内部空間Sは、例えば、アルカリ金属原子の飽和蒸気圧となっている。発光素子10から出射された光LLは、内部空間Sを通過する。原子セル31と温度制御素子36とが接している位置の原子セル31の内部空間S側の面には、例えば、液体のアルカリ金属原子60が存在する。これにより、内部空間Sの気体のアルカリ金属原子が原子セル31の壁部との反応等により減少した場合、液体のアルカリ金属原子60が気化して、内部空間Sにおける気体のアルカリ金属原子の濃度を一定に保つことができる。
【0042】
受光素子32は、原子セル31を透過した光LLを検出し、原子セル31の発光素子10側とは反対側に配置されている。受光素子32は、制御ユニット40の光源制御回路44と電気的に接続されている。
【0043】
ヒーター33は、原子セル31、受光素子32、温度センサー34、コイル35、温度制御素子36、及びシールド37を収容し、原子セル31を覆っている。ヒーター33は、制御ユニット40の温度制御回路41と電気的に接続されている。
ヒーター33は、原子セル31に配置された温度センサー34の温度情報に基づいて、原子セル31を第1温度T1になるように加熱している。ヒーター33は、例えば、シートヒーターで原子セル31全体を覆ってもよく、発熱素子と銅などの熱伝導率の高い金属との組み合わせであってもよい。
【0044】
温度センサー34は、原子セル31に複数配置されており、原子セル31の温度を検出する。なお、温度センサー34は、ヒーター33が原子セル31を第1温度T1に加熱できれば、数および配置は限定されない。例えば、温度センサー34は1つであってもよく、シールド37の外部に配置されていてもよい。
コイル35は、例えば、原子セル31の外周に沿って巻回して設けられているソレノイド型のコイル、又は、原子セル31を介して対向するヘルムホルツ型の1対のコイルである。コイル35は、原子セル31の内部に光LLの光軸LAに沿った方向の磁場を発生させる。これにより、原子セル31に収容されたアルカリ金属原子の縮退している異なるエネルギー準位間のギャップをゼーマン分裂により拡げて、分解能を向上させ、EIT信号の線幅を小さくすることができる。
なお、温度センサー34及びコイル35は、制御ユニット40の温度制御回路41及び磁場制御回路43と電気的に接続されている。
【0045】
温度制御素子36は、原子セル31を第1温度T1に加熱するヒーター33と原子セル31との間に複数配置され、第1部分361である第1温度制御面P1、第2部分363である第2温度制御面P2、及び第1温度制御面P1と第2温度制御面P2とを接続する半導体層362を含むペルチェ素子である。ヒーター33から原子セル31に向かって、第1部分361、半導体層362、第2部分363の順に並んでいる。温度制御素子36は、第1部分361から図示しない2つの配線により、制御ユニット40の定電流源42と電気的に接続されている。
温度制御素子36の第1部分361がヒーター33によって第1温度T1に加熱され、原子セル31に接する第2部分363がペルチェ効果によって第1温度T1よりも低い第2温度T2に制御される。そのため、温度制御素子36の第2部分363と接する原子セル31の一部は、第1温度T1よりも低い第2温度T2に冷却される。これは、温度制御素子36に定電流源42から直流電流を流すことで、第1温度制御面P1と第2温度制御面P2とにペルチェ効果により温度差を発生させることができ、原子セル31と接する第2温度制御面P2を吸熱させることができるためである。
そのため、冷却された原子セル31の内部空間S内に、気体のアルカリ金属原子が冷却されて液化した液体のアルカリ金属原子60を発生させることができる。
【0046】
温度制御素子36の光軸LAに沿った位置は任意であるが、原子セル31の中央付近が好ましい。例えば、原子セル31の光軸LAに沿った長さの1/3以上2/3以下の範囲に配置するとよい。原子セル31の光LLが入射する面M1および原子セル31の光が出射する面M2の両方から第2温度T2となる部分を離すことができるので、面M1および面M2に液体のアルカリ金属原子60が付着し難くできる。これにより、原子セル31に入射する光LLの強度、および、原子セル31から出射する光LLの強度が低下し難くなるので、原子発振器1の周波数精度の低下を抑制できる。
【0047】
なお、原子セル31は、面M1の温度及び面M2の温度が第2温度T2よりも高い第1温度T1となるように、ヒーター33によって加熱されている。
【0048】
シールド37は、原子セル31、受光素子32、温度センサー34、コイル35、及び温度制御素子36を収容し、ヒーター33の内部に配置されている。シールド37の発光素子10側の壁部には、ガラスなどの透明部材37aが配置されている。そのため、発光素子10から出射された光LLを原子セル31に入射させることができる。
【0049】
シールド37の材質は、例えば、鉄、ケイ素鉄、パーマロイ、スーパーマロイ、センダスト、銅などである。このような材料を用いることにより、原子セル31は、外部からの磁気を遮断することができる。これにより、外部からの磁気によって原子セル31内のアルカリ金属原子が影響を受けることを抑え、原子発振器1の発振特性の安定化を図ることができる。ここで、「抑える」とは、ある事象が生じることを完全にとめる場合と、ある事象の程度を少なくする場合と、を含む。
【0050】
制御ユニット40は、図2に示すように、回路基板45を有している。回路基板45は、複数のリードピン54を介して、外基部51に固定されている。回路基板45は、図示しないIC(Integrated Circuit)チップが配置されており、ICチップは、温度制御回路41、磁場制御回路43、及び光源制御回路44として機能する。ICチップは、発光素子10及び原子セルユニット30と電気的に接続されている。
【0051】
外容器50は、発光素子10、光学系ユニット20、原子セルユニット30、及び制御ユニット40を収容している。外容器50は、外基部51と、外基部51とは別体の外蓋部52と、を有している。外容器50の材質は、例えば、シールド37と同じである。そのため、外容器50は、外部からの磁気を遮断することができ、外部からの磁気によって原子セル31内のアルカリ金属原子が影響を受けることを抑えることができる。
【0052】
本実施形態では、4つの温度制御素子36が配置された構成であるが、これに限定されることはなく、温度制御素子36は1つ以上であれはよい。
【0053】
本実施形態の原子発振器1は、ヒーター33で温度を安定させた内側に原子セル31を配置するので、原子セル31の温度が外気の温度の影響を受け難い。また、冷却にペルチェ効果を利用してヒーター33の温度を基準に第1部分361と第2部分363との間に一定の温度差をつけることで、ヒーター33の内側で原子セル31の一部を冷却してもヒーター33の温度が変動し難くできるので、原子セル31の温度分布を安定にすることができる。そのため、高精度な原子発振器1を得ることができる。
【0054】
また、温度制御素子36が定電流源42に接続されているため、ペルチェ効果によって生じる温度差が一定に保たれる。従って、温度制御素子36の原子セル31と接する第2部分363を安定して第2温度T2に制御することができる。
【0055】
また、原子セル31の光LLが入射する面M1の温度、及び、原子セル31の光LLが出射する面M2の温度が第2温度T2よりも高いため、2つの面に気体のアルカリ金属原子が液体として析出しないので、光を遮ることがなく、安定した発振特性を得ることができる。
【0056】
また、温度制御素子36がヒーター33から原子セル31に向かって、第1部分361、半導体層362、第2部分363の順に並んでいるので、第1温度T1となる第1温度制御面P1と第2温度制御面P2との間にペルチェ効果により温度差を発生させることができ、原子セル31と接する第2温度制御面P2によって吸熱させることができる。従って、原子セル31の温度分布を安定に維持した状態で、原子セル31の一部を冷却することができる。
【0057】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る原子発振器1aについて、図5を参照して説明する。
図5は、第2実施形態に係る原子セルユニット30aを模式的に示す断面図である。
【0058】
本実施形態の原子発振器1aは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30aの構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0059】
原子発振器1aの原子セルユニット30aは、図5に示すように、温度制御素子36が発光素子10側から第1部分361、半導体層362、第2部分363の順で並んでおり、第1部分361は、第1温度T1に加熱されており、第2部分363は、ペルチェ効果により第2温度T2に冷却されている。
原子セル31とコイル35との間及び受光素子32とシールド37との間には、ヒーター33の熱を伝えるための伝熱部材70が配置されている。
温度制御素子36の受光素子32側には、第2部分363と原子セル31とに接する伝熱部材71が配置されている。伝熱部材71は、伝熱部材70及びシールド37とは離れている。伝熱部材71は、第2温度T2に冷却された第2部分363の熱を原子セル31に伝え、伝熱部材71と接する原子セル31の一部を冷却することができる。そのため、伝熱部材71と接する原子セル31の内部空間S内に、気体のアルカリ金属原子が冷却されて液化した液体のアルカリ金属原子60を発生させることができる。
【0060】
伝熱部材70及び伝熱部材71の材質は、コイル35から原子セル31への磁界を阻害せず、熱伝導率の高い材料であることが好ましく、例えば、アルミニウム等の金属である。
【0061】
このような構成とすることで、原子セル31の一部を冷却している状態で、原子セル31の温度分布を安定にすることができる。また、冷却される部分が原子セル31の受光素子32側、すなわち面M2付近であるので、原子セル31内において気体のアルカリ金属原子に照射される光LLの強度が変動し難い。従って、原子発振器1の周波数精度の低下を抑制できる。
【0062】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る原子発振器1bについて、図6を参照して説明する。
図6は、第3実施形態に係る原子セルユニット30bを模式的に示す断面図である。
【0063】
本実施形態の原子発振器1bは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30bの構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0064】
原子発振器1bの原子セルユニット30bは、図6に示すように、発光素子10側から第1部分361、半導体層362、第2部分363の順で並ぶ温度制御素子36と、受光素子32側から第1部分361、半導体層362、第2部分363の順で並ぶ温度制御素子36と、が原子セル31とコイル35との間に配置され、2つの温度制御素子36の間に伝熱部材72が配置されている。2つの第2部分363は、ペルチェ効果により第2温度T2に冷却されているので、伝熱部材72が第2温度T2に冷却され、伝熱部材72と接する原子セル31の一部を冷却することができる。そのため、伝熱部材72と接する原子セル31の内部空間S内に、気体のアルカリ金属原子が冷却されて液化した液体のアルカリ金属原子60を発生させることができる。
また、原子セル31とコイル35及びシールド37との間には、ヒーター33の熱を保持するための伝熱部材70が配置されている。
【0065】
このような構成とすることで、原子セル31の一部を冷却している状態で、原子セル31の温度分布を安定にすることができる。
【0066】
4.第4実施形態
次に、第4実施形態に係る原子発振器1cについて、図7を参照して説明する。
図7は、第4実施形態に係る原子セルユニット30cを模式的に示す断面図である。
【0067】
本実施形態の原子発振器1cは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30cの構成と温度制御素子36cの構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0068】
原子発振器1cの原子セルユニット30cは、図7に示すように、ヒーター33に貫通孔33cが設けられており、シールド37にも貫通孔33cと重なる位置に貫通孔37cが設けられている。貫通孔33c,37c内には、第1の金属38aと、第1の金属38aとは異なる第2の金属38bと、で構成される温度制御素子36cが配置されている。
温度制御素子36cは、第1の金属38aと第2の金属38bとの接合部である第2部分392を原子セル31に接して配置し、第1の金属38aのヒーター33と接する部分、及び、第2の金属38bのヒーター33に接す部分である第1部分391,393をヒーター33に接して配置している。また、第1部分391,393は、配線となる第3の金属38c,38dによって定電流源42に電気的に接続されている。なお、本実施形態では、第1の金属38a及び第2の金属38bから定電流源42までの配線の一部の図示を省略している。また、第1部分391,393は、第1の金属38aと第2の金属38bとが直接ヒーター33に接していなくてもよく、被覆されていてもよい。
【0069】
一般に、異なる2種の金属の線の両端を互いにつないで、2つの接点の間に温度差を与えると、起電力が生じる。逆に、2つの接点に電流、電圧を流すと、2つの接点の間で温度差を生じさせることができ、ペルチェ効果を得ることができる。
そのため、温度制御素子36cは、ペルチェ効果により、ヒーター33で第1温度T1に加熱されている第1部分391,393を基準にし、第2部分392と一定の温度差をつけることができる。よって、第2部分392を第2温度T2に冷却し、第2部分392に接している原子セル31の一部を吸熱することによって、冷却することができる。
なお、第1の金属38aと第2の金属38bとの組み合わせとしては、クロメルとアルメル、クロメルとコンスタンタン、白金ロジウム合金と白金、ニクロムと金鉄合金等が挙げられる。
【0070】
この構成によれば、温度制御素子36cの第1の金属38aと第2の金属38bとの接合部である第2部分392を原子セル31に接することで、ペルチェ効果により第2部分392が原子セル31の熱を吸熱し、原子セル31の温度分布を安定に維持した状態で、原子セル31の一部を冷却することができる。
【0071】
また、第1の金属38aのヒーター33と接する部分、及び、第2の金属38bのヒーター33と接する部分である第1部分391,393を有することで、ペルチェ効果を利用し、第1部分391,393の温度を基準にし、第2部分392と一定の温度差をつけることができるので、原子セル31の温度分布を安定に維持した状態で、原子セル31の第2部分392と接する部分を冷却することができる。
【0072】
また、第1部分391,393と定電流源42とが第3の金属38c,38dで接続されているため、第3の金属38c,38dに安価な材料を用いることで、原子発振器1cの低コスト化が図れる。
【0073】
5.第5実施形態
次に、第5実施形態に係る原子発振器1dについて、図8を参照して説明する。
図8は、第5実施形態に係る原子セルユニット30dを模式的に示す断面図である。
【0074】
本実施形態の原子発振器1dは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30dの構成と温度制御素子36dの構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0075】
原子発振器1dの原子セルユニット30dは、図8に示すように、温度制御素子36dの第2部分392が原子セル31に接して配置され、温度制御素子36dの第1部分391,393がシールド37に接して配置されている。
【0076】
この構成によれば、第1の金属38aの第1部分391がヒーター33により第1温度T1に加熱されているシールド37に接しているので、ペルチェ効果を利用し、シールド37と接する第1部分391の温度を基準にし、第2部分392と一定の温度差をつけることができる。そのため、原子セル31の温度分布を安定に維持した状態で、原子セル31の第2部分392に接する部分を冷却することができる。
【0077】
6.第6実施形態
次に、第6実施形態に係る原子発振器1eについて、図9を参照して説明する。
図9は、第6実施形態に係る原子セルユニット30eを模式的に示す断面図である。
【0078】
本実施形態の原子発振器1eは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30eの構成と温度制御素子36eの構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0079】
原子発振器1eの原子セルユニット30eは、図9に示すように、温度制御素子36eの第2部分392が原子セル31に接して配置され、温度制御素子36eの第1部分391,393がシールド37に接して配置されている。第1の金属38a及び第2の金属38bから定電流源42までの配線となる第3の金属38c、38dは、より合されて、コイル35とシールド37との間に配置されている。
【0080】
この構成によれば、第5実施形態と同様な効果が得られる。また、配線となる第3の金属38c、38dがより合されているので、配線による電流磁場の発生を抑えることができ、安定した発振特性を得ることができる。
【0081】
7.第7実施形態
次に、第7実施形態に係る原子発振器1fについて、図10を参照して説明する。
図10は、第7実施形態に係る原子セルユニット30fを模式的に示す断面図である。
【0082】
本実施形態の原子発振器1fは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30fの構成と温度制御素子36fの構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0083】
原子発振器1fの原子セルユニット30fは、図10に示すように、原子セル31を覆う円筒状の第1の金属70aと、原子セル31及び受光素子32を覆う円筒状の第2の金属70bと、で構成される温度制御素子36fが配置されている。第1の金属70aと第2の金属70bとは、原子セル31の長手方向の中央部で接合されており、この接合部が第2部分392として原子セル31に接している。第1の金属70aの第2部分392とは反対側の端部が第1部分391であり、第2の金属70bの第2部分392とは反対側の端部が第1部分393であり、それぞれヒーター33により加熱されているシールド37に接しているので、ペルチェ効果を利用し、シールド37と接する第1部分391,393の温度を基準にし、第2部分392と一定の温度差をつけることができる。
【0084】
この構成によれば、線材などに比べて熱容量の大きい形状の第1の金属70aと第2の金属70bとで、原子セル31を覆っているので、原子セル31の温度分布を安定に維持した状態で、原子セル31の第2部分392に接する部分を冷却することができる。
【0085】
8.第8実施形態
次に、第8実施形態に係る原子発振器1gについて、図11を参照して説明する。
図11は、第8実施形態に係る原子セルユニット30gを模式的に示す断面図である。
【0086】
本実施形態の原子発振器1gは、第1実施形態の原子発振器1に比べ、原子セルユニット30gと温度制御素子36gの構成の構成が異なること以外は、第1実施形態の原子発振器1と同様である。なお、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0087】
原子発振器1gの原子セルユニット30gは、図11に示すように、コイルで構成されている温度制御素子36gが原子セル31とヒーター33との間に配置されている。温度制御素子36gは、第1の金属35aと、第2の金属35bと、第3の金属35c、35dと、でコイルを構成している。第1の金属35aと第2の金属35bとは、原子セル31の長手方向の中央部で接合されており、この接合部が第2部分392となる。第2部分392と原子セル31との間には、第2部分392と原子セル31とに接する伝熱部材74が配置されている。第1の金属35aの第2部分392とは反対側の端部の第1部分391に第3の金属35cが接合され、第2の金属35bの第2部分392とは反対側の端部の第1部分393に第3の金属35dが接合されている。第1部分391,393がヒーター33により加熱されて第1温度T1となるので、ペルチェ効果を利用し、第1部分391,393の温度を基準にし、第2部分392と一定の温度差をつけることができる。そのため、第2部分392に接している伝熱部材74を冷却し、原子セル31の伝熱部材74に接している一部を冷却することができる。
【0088】
この構成によれば、温度制御素子36gで磁場を発生させるコイルを構成しているので、原子セル31内のアルカリ金属原子に所定方向の磁場を印加し、安定した発振特性を得ることができる。また、温度制御素子36gとコイルとが別である場合よりも部品点数を減らせるので、原子発振器1gの小型化及び低コスト化が図れる。
【0089】
9.第9実施形態
次に、第9実施形態に係る周波数信号生成システムについて、図12を参照して説明する。以下のクロック伝送システム(タイミングサーバー)90は、周波数信号生成システムの一例である。
図12は、第9実施形態に係る周波数信号生成システムを示す概略構成図である。
【0090】
クロック伝送システム90は、本実施形態に係る原子発振器1~1gを含む。以下では、一例として、原子発振器1を含むクロック伝送システム90について説明する。
【0091】
クロック伝送システム90は、時分割多重方式のネットワーク内の各装置のクロックを一致させるものであって、N(Normal)系及びE(Emergency)系の冗長構成を有するシステムである。
【0092】
クロック伝送システム90は、図12に示すように、A局が有する上位であり、N系のクロック供給装置901及びSDH(Synchronous Digital Hierarchy)装置902と、B局が有する上位であり、E系のクロック供給装置903及びSDH装置904と、C局が有する下位のクロック供給装置905及びSDH装置906,907と、を備える。クロック供給装置901は、原子発振器1を有し、N系のクロック信号を生成する。クロック供給装置901内の原子発振器1は、セシウムを用いた原子発振器を含むマスタークロック908,909からのより高精度なクロック信号と同期して、クロック信号を生成する。なお、クロック供給装置901,903は、原子発振器1からの周波数信号を処理する処理部に相当する。
【0093】
SDH装置902は、クロック供給装置901からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行うとともに、N系のクロック信号を主信号に重畳し、下位のクロック供給装置905に伝送する。クロック供給装置903は、原子発振器1を有し、E系のクロック信号を生成する。クロック供給装置903内の原子発振器1は、セシウムを用いた原子発振器を含むマスタークロック908,909からのより高精度なクロック信号と同期して、クロック信号を生成する。
【0094】
SDH装置904は、クロック供給装置903からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行うとともに、E系のクロック信号を主信号に重畳し、下位のクロック供給装置905に伝送する。クロック供給装置905は、クロック供給装置901,903からのクロック信号を受信し、その受信したクロック信号に同期して、クロック信号を生成する。
【0095】
クロック供給装置905は、通常、クロック供給装置901からのN系のクロック信号に同期して、クロック信号を生成する。そして、N系に異常が発生した場合、クロック供給装置905は、クロック供給装置903からのE系のクロック信号に同期して、クロック信号を生成する。このようにN系からE系に切り換えることにより、安定したクロック供給を担保し、クロックパス網の信頼性を高めることができる。SDH装置906は、クロック供給装置905からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行う。同様に、SDH装置907は、クロック供給装置905からのクロック信号に基づいて、主信号の送受信を行う。これにより、C局の装置をA局又はB局の装置と同期させることができる。
【0096】
本実施形態に係る周波数信号生成システムは、クロック伝送システム90に限定されない。周波数信号生成システムは、原子発振器1が搭載され、原子発振器1の周波数信号を利用する各種の装置及び複数の装置から構成されるシステムを含む。
【0097】
本実施形態に係る周波数信号生成システムは、例えば、スマートフォン、タブレット端末、時計、携帯電話機、デジタルスチルカメラ、液体吐出装置(例えばインクジェットプリンター)、パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS(point of sales)端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡、心磁計)、魚群探知機、GNSS(Global Navigation Satellite System)周波数標準器、各種測定機器、計器類(例えば、自動車、航空機、船舶の計器類)、フライトシミュレーター、地上デジタル放送システム、携帯電話基地局、移動体(自動車、航空機、船舶等)であってもよい。
【0098】
以下、実施形態から導き出される内容を記載する。
【0099】
原子発振器は、発光素子と、アルカリ金属原子が収容され、前記発光素子から出射された光が入射する原子セルと、前記原子セルを覆い、前記原子セルを第1温度に加熱するヒーターと、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱される第1部分と、前記原子セルに接し、ペルチェ効果によって前記第1温度よりも低い第2温度に制御される第2部分と、を含み、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置される温度制御素子と、前記原子セルを透過した光を検出する受光素子と、を含む。
【0100】
この構成によれば、ヒーターで温度を安定させた内側に原子セルを配置するので、原子セルの温度が外気の温度の影響を受け難い。また、冷却にペルチェ効果を利用してヒーターの温度を基準に第1部分と第2部分との間に一定の温度差をつけることで、ヒーターの内側で原子セルの一部を冷却してもヒーターの温度が変動し難くできるので、原子セルの温度分布を安定にすることができる。そのため、高精度な原子発振器を得ることができる。
【0101】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子に接続されている定電流源を含むことが好ましい。
【0102】
この構成によれば、温度制御素子が定電流源に接続されているため、ペルチェ効果を利用して温度制御素子の原子セルと接する第2部分を安定して第2温度に制御することができる。
【0103】
上記の原子発振器において、前記原子セルの光が入射する面の温度、及び、前記原子セルの光が出射する面の温度は、前記第2温度よりも高いことが好ましい。
【0104】
この構成によれば、原子セルの光が入射する面の温度、及び、原子セルの光が出射する面の温度が第2温度よりも高いため、2つの面に気体のアルカリ金属原子が液化して付着しないので、光を遮ることがなく、安定した発振特性を得ることができる。
【0105】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子は、第1温度制御面、第2温度制御面、及び前記第1温度制御面と前記第2温度制御面とを接続する半導体層を含むペルチェ素子であり、前記第1部分は、前記ペルチェ素子の前記第1温度制御面であり、前記第2部分は、前記ペルチェ素子の前記第2温度制御面であり、前記ヒーターから前記原子セルに向かって、前記第1部分、前記半導体層、前記第2部分の順に並んでいることが好ましい。
【0106】
この構成によれば、温度制御素子がヒーターから原子セルに向かって、第1部分、半導体層、第2部分の順に並んでいるので、第1温度となる第1温度制御面と第2温度制御面との間にペルチェ効果により温度差を発生させることができ、原子セルと接する第2温度制御面によって吸熱させることができる。従って、原子セルの温度分布を安定に維持した状態で、原子セルの一部を冷却することができる。
【0107】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子は、第1の金属と、前記第1の金属とは異なる第2の金属と、を含み、前記第2部分は、前記第1の金属と前記第2の金属との接合部であることが好ましい。
【0108】
この構成によれば、温度制御素子の第1の金属と第2の金属との接合部である第2部分を原子セルに接することで、ペルチェ効果により第2部分が原子セルの熱を吸熱し、原子セルの温度分布を安定に維持した状態で、原子セルの一部を冷却することができる。
【0109】
上記の原子発振器において、前記第1部分は、前記第1の金属の前記ヒーターに接する部分、及び、前記第2の金属の前記ヒーターに接する部分であることが好ましい。
【0110】
この構成によれば、第1の金属の前記ヒーターに接する部分、及び、第2の金属の前記ヒーターに接する部分である第1部分において、ペルチェ効果を利用し、ヒーター側の第1部分の温度を基準にし、第2部分と一定の温度差をつけることができるので、原子セルの温度分布を安定に維持した状態で、原子セルの第2部分と接する部分を冷却することができる。
【0111】
上記の原子発振器において、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置され、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱されているシールドを含み、前記第1部分は、前記第1の金属の前記シールドに接する部分であることが好ましい。
【0112】
この構成によれば、第1の金属の第1部分がヒーターにより第1温度に加熱されているシールドに接しているので、ペルチェ効果を利用し、シールドと接する第1部分の温度を基準にし、第2部分と一定の温度差をつけることができる。そのため、原子セルの温度分布を安定に維持した状態で、原子セルの第2部分と接する部分を冷却することができる。
【0113】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子は、磁場を発生させるコイルであることが好ましい。
【0114】
この構成によれば、温度制御素子で磁場を発生させるコイルを構成することで、原子セル内のアルカリ金属原子に所定方向の磁場を印加し、安定した発振特性を得ることができる。また、温度制御素子とコイルとが別である場合よりも部品点数を減らせるので、原子発振器の小型化及び低コスト化が図れる。
【0115】
上記の原子発振器において、前記温度制御素子の前記第1部分と前記定電流源とは、第3の金属で接続されていることが好ましい。
【0116】
この構成によれば、第1部分と定電流源とが第3の金属で接続されているため、第3の金属に安価な材料を用いることで、原子発振器の低コスト化が図れる。
【0117】
周波数信号生成システムは、原子発振器と、前記原子発振器からの周波数信号を処理する処理部と、を備え、前記原子発振器は、発光素子と、アルカリ金属原子が収容され、前記発光素子から出射された光が入射する原子セルと、前記原子セルを覆い、前記原子セルを第1温度に加熱するヒーターと、前記ヒーターによって前記第1温度に加熱される第1部分と、前記原子セルに接し、ペルチェ効果によって前記第1温度よりも低い第2温度に制御される第2部分と、を含み、前記ヒーターと前記原子セルとの間に配置される温度制御素子と、前記原子セルを透過した光を検出する受光素子と、を含む。
【0118】
この構成によれば、高精度の原子発振器を備えているため、高性能な周波数信号生成システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0119】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g…原子発振器、10…発光素子、11…光源基板、20…光学系ユニット、21…減光フィルター、22…レンズ、23…1/4波長板、24…ホルダー、30…原子セルユニット、31…原子セル、32…受光素子、33…ヒーター、34…温度センサー、35…コイル、36…温度制御素子、37…シールド、40…制御ユニット、41…温度制御回路、42…定電流源、43…磁場制御回路、44…光源制御回路、45…回路基板、50…外容器、51…外基部、52…外蓋部、53…断熱部材、54…リードピン、60…液体のアルカリ金属原子、90…周波数信号生成システムとしてのクロック伝送システム、361…第1部分、362…半導体層、363…第2部分、LA…光軸、LL…光、M1…面、M2…面、P1…第1温度制御面、P2…第2温度制御面、S…内部空間、T1…第1温度、T2…第2温度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12