(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】代替の抗原特異的抗体変異体を発見するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240416BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240416BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240416BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240416BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240416BHJP
G16B 30/10 20190101ALI20240416BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/18
C12P21/08
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
G16B30/10
(21)【出願番号】P 2019548557
(86)(22)【出願日】2018-03-05
(86)【国際出願番号】 EP2018055278
(87)【国際公開番号】W WO2018162376
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2019-10-15
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-08
(32)【優先日】2017-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ ガイ
(72)【発明者】
【氏名】クロスターマン ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ティソ アライン
(72)【発明者】
【氏名】ロス フランチェスカ
(72)【発明者】
【氏名】ブジョツェク アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ウルゾデク クレメンス
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ フレデリック
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】松本 淳
【審判官】福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】Current Opinion in Structual Biology、2015、Vol.33、pp.146-160
【文献】J of Pharmaceutical Sciences、2015、Vol.104、pp.1885-1898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00
C12P21/00
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照抗体可変ドメインコード核酸の変異体を選択するための方法であって、該参照抗体可変ドメインコード核酸の該変異体によってコードされる該変異抗体可変ドメインのアミノ酸配列において、該参照抗体可変ドメインコード核酸によってコードされる該参照抗体可変ドメインのアミノ酸配列と比べて、i)可変ドメインまたはHVR中の対になっていないCys残基、ii)グリコシル化部位、およびiii)分解ホットスポット(Asp、Asn、またはMet)のうちの1つまたは複数が除かれており、該変異抗体可変ドメインおよび該参照抗体可変ドメインが、それぞれの他方のドメインとペアになると、同じ抗原に結合し、該変異体が、該参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞から得られ、
該方法が、
(i)1つまたは複数の抗体可変ドメインコード核酸をそれぞれが含む多数のDNA含有試料の抗体可変ドメインコード核酸の、増幅産物を得るためのコンセンサス配列特異的プライマーを用いるPCR増幅で得られた複数の増幅産物を、次世代シーケンシング(NGS)によりシーケンシングする段階;
(ii)(i)のシーケンシングの結果と該参照抗体可変ドメインコード核酸との配列アライメントにおいて、鋳型配列である該参照抗体可変ドメインコード核酸との、抗体可変ドメインコード核酸の配列同一性/相同性に基づくランク付けを実施する段階;および
(iii)段階(ii)の配列ランキングの上位10位までの配列のうちの1つから該変異抗体可変ドメインコード核酸を選択する段階
を含み、
段階(iii)で選択される変異体が、i)可変ドメインまたはHVR中の対になっていないCys残基、ii)グリコシル化部位、およびiii)分解ホットスポット(Asp、Asn、またはMet)のうちの1つまたは複数が除かれているように選択される、前記方法。
【請求項2】
参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であって、該変異抗体可変ドメインにおいて、該参照抗体可変ドメイン中に存在するi)可変ドメインまたはHVR中の対になっていないCys残基、ii)グリコシル化部位、およびiii)分解ホットスポット(Asp、Asn、またはMet)のうちの1つまたは複数が除かれており、該変異体が、該参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞から得られ、該方法が、
- 参照抗体と同じ標的に特異的に結合する抗体をそれぞれが産生する多数のB細胞クローンに由来する核酸を次世代シーケンシング(NGS)によりシーケンシングすることによって得られる抗体可変ドメインコード核酸を、鋳型配列である参照抗体の配列とアラインする段階;
- 該参照抗体可変ドメイン中に存在するi)可変ドメインまたはHVR中の対になっていないCys残基、ii)グリコシル化部位、およびiii)分解ホットスポット(Asp、Asn、またはMet)のうちの1つまたは複数が除去されている、該変異抗体可変ドメインのみを含むセットを作る段階;ならびに
-
当該セットから参照配列に対して最も高い構造的または/および機能的な同一性または/および類似性を有する配列を選択する段
階
を含む、前記方法。
【請求項3】
該参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞が、抗原特異的抗体を発現するB細胞について富化されている、請求項1~
2のいずれか一項記載の方法。
【請求項4】
該参照抗体可変ドメインが、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基を有する、請求項1~
3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
抗体を製造するための方法であって、
- 請求項1または2記載の方法を用いて得られる核酸および機能的抗体の発現に必要な他の全ての核酸を含む細胞を培養する段階、
- 該細胞または培養培地から抗体を回収する段階
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体技術の分野に属する。より正確には、B細胞クローニング(BCC)の汎用性を次世代シーケンシング(NGS)の検出力と組み合わせて、1種または複数種の免疫化動物から得られたB細胞集団内に存在する、参照結合体の変異結合体を同定する方法が、本明細書において報告される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
現在、抗体は通常、ファージディスプレイによって作製されるか、または実験動物を免疫化して該実験動物から抗体産生B細胞を単離することによって作製される。後者の場合、B細胞または分泌される各抗体の特性に基づいて、処理されるB細胞の数が減らされる。その後、配列情報が取得される。したがって、候補の選択は、主に抗体の結合性および機能的特性に基づいて行われるが、アミノ酸配列に関しては「分からないまま」行われ、そのため例えば開発可能性(developability)の局面(例えば、対になっていないCys残基、異常なグリコシル化部位、分解ホットスポット(Asp、Asn、Metなど))に関して「分からないまま」行われる。
【0003】
WO 2015/070191(特許文献1)では、ゲノム変異体を検出するためのシステムおよび方法が報告されている。WO 2015/155035(特許文献2)では、抗体応答によって標的とされるエピトープを同定およびマッピングするための方法が報告されている。WO 2015/164757(特許文献3)では、ウイルス中和抗体のエピトープマッピングの方法が報告されている。WO 2016/023962(特許文献4)では、コンセンサスに基づく対立遺伝子の検出が報告されている。WO 2016/118883(特許文献5)では、珍しい配列変異体の検出、そのための方法および組成物が報告されている。
【0004】
現在の免疫化プロセスの間に得られるB細胞は非常に多いため、それらによって産生された単離抗体すべてについて詳細な特徴を調べることはできない。クローン数を選択し減らして、特徴を調べる免疫応答の多様性を小さくしなければならない。
【0005】
Wuらは、構造およびディープシーケンシングによって明らかにされた、HIV-1中和抗体の的を絞った進化を開示した(Science 333 (2011) 1593-1602(非特許文献1))。
【0006】
Zhuらは、B細胞転写物の次世代シーケンシングによる、VRCO1クラスのHIV-1中和抗体の新規な同定を開示した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110 (2013) E4088-E4097(非特許文献2))。
【0007】
WuらおよびZhuらはそれぞれ、参照結合体と同じまたは異なる種に由来する、所与の参照結合体配列の「新しい」コグネイト抗体変異体を同定するための方法を開示している。
【0008】
Fridyらは、汎用性のあるナノボディレパートリーを迅速に作製するための強力なパイプラインを開示した(Nat. Meth. 11 (2014) 1253-1260 + SI(非特許文献3))。WuらおよびZhuらと同様に、Fridyらによって行われる方法は、抗体変異体を探すために配列レパートリーを用いるいかなる結果も方法もアプローチも開示していない。
【0009】
Glanvilleらは、ライブラリー選択プロジェクトにおけるディープシーケンシングがどのような洞察をもたらすかを開示した(Curr. Opin. Struct. Biol. 33 (2015) 146-160(非特許文献4))。
【0010】
したがって、免疫応答の多様性に含まれる配列情報に基づいて、同じ抗原に結合するが異なる特性を有する別の抗体または変異抗体を同定するための方法を提供することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】WO 2015/070191
【文献】WO 2015/155035
【文献】WO 2015/164757
【文献】WO 2016/023962
【文献】WO 2016/118883
【非特許文献】
【0012】
【文献】Science 333 (2011) 1593-1602
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 110 (2013) E4088-E4097
【文献】Nat. Meth. 11 (2014) 1253-1260 + SI
【文献】Curr. Opin. Struct. Biol. 33 (2015) 146-160
【発明の概要】
【0013】
しかし、本発明者らは、特徴を調べる免疫応答の多様性を前述のように減らすことによって生じる難題は、次世代シーケンシングの定量的性質を活用することによって克服できることを見出した。
【0014】
本発明者らは、B細胞クローニング(BCC)の汎用性を次世代シーケンシング(NGS)の検出力と組み合わせることにより、同じ抗原に対する1種または複数種の免疫化動物から得られたB細胞集団内に存在する参照結合体の変異結合体を同定することが可能であることを見出した。
【0015】
本明細書において報告される方法は、B細胞クローニングの効率を次世代シーケンシングの検出力と統合して、大規模なアッセイ法(イムノアッセイまたは細胞アッセイ)に基づくスクリーニングを行う必要なく参照抗体の抗体変異体を同定するための著しく能率化されたアプローチを提供する。
【0016】
本明細書において報告される方法を用いると、少なくとも1つの開発可能性ホットスポットを有する(すなわち、翻訳後修飾が起こりやすい少なくとも1つのアミノ酸残基を有する)抗体可変ドメインおよびまた完全なVH/VLペアについて、該開発可能性ホットスポットを含まない(すなわち、翻訳後修飾が起こりやすい該少なくとも1つのアミノ酸残基が、同じ翻訳後修飾が起こりにくい異なるアミノ酸残基に変更されている)変異体を同定することが可能であることを見出した。
【0017】
本明細書において報告される方法の他の1つの成果は、同じ抗原で免疫化された1匹の個々の動物または動物の群の抗体応答についてのユニークなプロファイルを提供できることである。このプロファイルは、有益な情報の供給源であり得る。
【0018】
本明細書において報告される1つの局面は、参照抗体可変ドメインコード核酸の変異体を選択するための方法であり、ここで、該参照抗体可変ドメインコード核酸の変異体によってコードされる変異抗体可変ドメインのアミノ酸配列は、該参照コード核酸によってコードされる参照抗体可変ドメインのアミノ酸配列と比べて改善された開発可能性を有するか、または参照抗体可変ドメインコード核酸の該変異体によってコードされる変異抗体可変ドメインのアミノ酸配列において、該参照コード核酸によってコードされる参照抗体可変ドメインのアミノ酸配列と比べて、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基が変更されており、変異抗体可変ドメインおよび参照抗体可変ドメインは、それぞれの他方のドメインとペアになると、同じ抗原に結合する抗体結合部位を形成し、
この方法は、以下の段階:
(i)1つまたは複数の抗体可変ドメインコード核酸をそれぞれが含む、多数のDNA含有試料を提供する段階;
(ii)コンセンサス配列特異的プライマーを用いて、(i)の多数の抗体可変ドメインコード核酸のPCR増幅を実施して、増幅産物を得る段階;
(iii)(シーケンシングリード中の)各位置における各ヌクレオチドの相対比率を明らかにするために、段階(ii)で得られた複数の増幅産物をシーケンシングする段階;
(iv)(iii)のシーケンシング(リード)結果と参照抗体可変ドメインコード核酸との配列アライメントを実施する段階;
(v)鋳型配列である参照抗体可変ドメインコード核酸との(iv)の前記配列アライメントにおいて、抗体可変ドメインコード核酸の配列同一性または相同性に基づくランク付けを実施する段階;および
(vi)段階(v)の配列ランキングの上位10位までの配列のうちの1つから変異抗体可変ドメインコード核酸を選択する段階
を含み、段階(vi)で選択される変異体は、開発可能性が改善されておりかつ/または少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基が変更されているように選択される。
【0019】
本明細書において報告される1つの局面は、参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であり、ここで、参照抗体可変ドメインは、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基を有し、この方法は、以下の段階を含む:
- 参照抗体と同じ標的に特異的に結合する抗体をそれぞれが産生する多数のB細胞クローンに由来する核酸をシーケンシングすることによって作成されるシーケンシングデータを得る段階;
- シーケンシングデータを、鋳型配列である参照抗体の配列とアラインする段階;
- 参照配列に対して最も高い構造的/機能的同一性/類似性を有するが、参照抗体可変ドメインの少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基を有さない、配列を選択する段階。
【0020】
本明細書において報告される1つの局面は、同じ標的/抗原に特異的に結合する、参照抗体の変異抗体を同定するための方法であり、該方法は以下の段階を含む:
i)以下を提供する段階:
α)ある標的/抗原に特異的に結合する参照抗体のアミノ酸配列または核酸配列、
β)該参照抗体の少なくとも1つの生物学的特性、および任意で、該少なくとも1つの生物学的特性を測定するための1種または複数種のアッセイ法、
γ)次世代シーケンシングによって決定された、参照抗体と同じ標的に特異的に結合する変異抗体の多数のアミノ酸配列または核酸配列
ii)(関係する)VH配列または/およびVL配列の1つまたは複数のセットを作る段階であって、これらの配列が、
α)同じ長さのVHもしくは/およびVL、または/ならびに
β)同じ長さの全てのβシートフレームワーク領域、または/ならびに
γ)同じ長さの全てのHVR/CDR、または/ならびに
δ)同一のHVR3/CDR3配列(フレームワークおよび/もしくは他のHVR/CDR中の変異は3個までのアミノ酸交換が許容される)、または/ならびに
ε)相同なHVR/CDR3配列(2個までのアミノ酸交換が許容される)ならびに同一のHVR/CDR1および2、または/ならびに
ζ)フレームワークおよびHVR/CDR中の変異が許容される
に基づいてアラインされる、段階;
iii)ii)の1つまたは複数のセット中のアラインされた配列を、
α)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の数、および/または
β)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の位置、および/または
γ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、物理化学的特性の変化、および/または
δ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、VH/VL配向性の違い
に基づいてランク付けする段階;
iv)上位10個のアラインされランク付けされた抗体のうちの1つを参照抗体の変異抗体と同定する段階であって、該変異抗体が有する翻訳後修飾されるアミノ酸残基が、参照抗体と比べて少なくとも1つ少ない、段階。
【0021】
この局面の1つの態様において、段階ii)は、Wolfguy番号付与方式である、同じ番号付与方式を用いて配列にアノテーションを付する段階をさらに含む。
【0022】
この局面の1つの態様において、配列の差異は、参照抗体アミノ酸残基-位置-変異抗体アミノ酸残基の形式でアノテーションを付され、変異タプルにグループ分けされる。
【0023】
この局面の1つの態様において、物理化学的特性の変化は、荷電、疎水性、および/またはサイズの変化によって判定される。
【0024】
この局面の1つの態様において、物理化学的特性の変化は、変異リスクスコアを用いて判定される。
【0025】
この局面の1つの態様において、変異リスクスコアは、以下の表に基づいて決定され、この表で明示的に与えられていない残基は、値1の重みを付けられる。
ここで、101~125位は重鎖可変ドメインフレームワーク1に対応し、151~199位はCDR-H1に対応し、201~214位は重鎖可変ドメインフレームワーク2に対応し、251~299位はCDR-H2に対応し、301~332位は重鎖可変ドメインフレームワーク3に対応し、351~399位はCDR-H3に対応し、401~411位は重鎖可変ドメインフレームワーク4に対応する。
【0026】
この局面の1つの態様において、参照抗体と同じ標的に特異的に結合する変異抗体の多数のアミノ酸配列または核酸配列は、参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞から得られ、これらのB細胞は、抗原特異的抗体を発現するB細胞について富化されている。
【0027】
全局面の1つの態様において、次のうちの1つまたは複数が、変異体において除かれている:i)可変ドメインまたはHVR中の対になっていないCys残基、ii)グリコシル化部位、およびiii)分解ホットスポット(Asp、Asn、またはMet)。
【0028】
本明細書において報告される1つの局面は、参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であり、ここで、参照抗体可変ドメインは、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基を有し、この方法は、前述の局面のいずれか1つに記載の方法の段階を含む。
【0029】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、抗体を製造するための方法である:
- 先の局面のいずれか1つに記載の方法を用いて得られる核酸および機能的抗体の発現に必要な他の全ての核酸を含む細胞を培養する段階、
- 細胞または培養培地から抗体を回収する段階。
【0030】
本明細書において報告される1つの局面は、先の局面のいずれか1つに記載の方法を用いて得られる核酸を含む細胞である。
【0031】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、同じ標的/抗原に特異的に結合する、(参照抗体と同等の生物学的特性を有する)、参照抗体の変異抗体を同定するための方法である:
i)α)ある標的/抗原に特異的に結合する参照抗体のアミノ酸配列または核酸配列、
β)該参照抗体の少なくとも1つの生物学的特性、および任意で、該少なくとも1つの生物学的特性を測定するための1種または複数種のアッセイ法、
γ)次世代シーケンシングによって決定された、(任意で、参照抗体と同じ免疫化キャンペーンにおいて/から得られた)参照抗体と同じ標的に特異的に結合する変異抗体の多数(少なくとも10個、少なくとも100個、少なくとも1,000個、少なくとも10,000個)のアミノ酸配列または核酸配列
を提供する段階;
ii)関係するVH配列または/およびVL配列の1つまたは複数のセットを作る段階であって、これらの配列が、
α)同じ長さのVHもしくは/およびVL、または/ならびに
β)同じ長さの全てのβシートフレームワーク領域、または/ならびに
γ)同じ長さの全てのHVR/CDR、または/ならびに
δ)同一のHVR3/CDR3配列(フレームワークおよび/もしくはHVR/CDR中の1個もしくは2個の変異(1~3個のアミノ酸交換)は許容される)、または/ならびに
ε)相同性が高いHVR/CDR3配列(1個もしくは2個のアミノ酸交換は許容される)ならびに同一のHVR/CDR1および2(フレームワーク中の変異は許容される)、または/ならびに
ζ)フレームワークおよびHVR/CDR中の変異が許容されること
に基づいてアラインされる、段階;
iii)ii)の1つまたは複数のセット中のアラインされた配列を、
α)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の数、および/または
β)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の位置、および/または
γ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、物理化学的特性の変化、および/または
δ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、VH/VL配向性(角度)の違い
に基づいてランク付けする段階;
iv)上位10個の(または上位5個、もしくは上位3個、もしくは最上位の)アラインされランク付けされた抗体のうちの1つを参照抗体の変異抗体と同定する段階。
【0032】
1つの態様において、段階ii)は、同じ番号付与方式を用いて配列にアノテーションを付する段階および差異にアノテーションを付する段階をさらに含む。1つの態様において、番号付与方式は、KabatのEU番号付与方式またはWolfguy番号付与方式である。1つの好ましい態様において、番号付与方式は、Wolfguy番号付与方式である。1つの態様において、差異は、参照抗体アミノ酸残基-位置-変異抗体アミノ酸残基の形式でアノテーションを付される。1つの態様において、参照抗体に対する変異抗体の変異は、変異タプルにグループ分けされる。
【0033】
1つの態様において、段階ii)は、参照抗体および/もしくは変異抗体のうちの1つと配列が同一であるか、または参照抗体に対するアミノ酸差異の数、位置、および/もしくはタイプに関して同一もしくは類似している配列を除く段階をさらに含む。
【0034】
1つの態様において、物理化学的特性の変化は、(全体的な)電荷、疎水性、および/またはサイズの変化によって判定される。1つの態様において、物理化学的特性の変化は、変異リスクスコアを用いて判定される。1つの態様において、リスクスコアは、以下の表に基づいて決定され、この表で明示的に与えられていない残基は、値1の重みを付けられる。
ここで、WolfGuyインデックスにより、101~125位は重鎖可変ドメインフレームワーク1に対応し、151~199位はCDR-H1に対応し、201~214位は重鎖可変ドメインフレームワーク2に対応し、251~299位はCDR-H2に対応し、301~332位は重鎖可変ドメインフレームワーク3に対応し、351~399位はCDR-H3に対応し、401~411位は重鎖可変ドメインフレームワーク4に対応する。
【0035】
1つの態様において、変異リスクスコアは負の値をとり、ここで、負の値の絶対値が大きいほど、機能損失のリスクが大きいことが示される。
【0036】
1つの態様において、参照抗体と同じ標的に特異的に結合する変異抗体の多数(少なくとも10個、少なくとも100個、少なくとも1,000個、少なくとも10,000個)のアミノ酸配列または核酸配列は、参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞から得られ、これらのB細胞は、抗原特異的抗体を発現するB細胞について富化されている。1つの態様において、この富化は、抗原特異的な選別または/および細胞パニングまたは/および抗原特異的抗体を産生しないB細胞の除去によって行われる。
【0037】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、同じ標的/抗原に特異的に結合する、(参照抗体と同等の生物学的特性を有する)、参照抗体の変異抗体を同定するための方法である:
i)α)ある標的/抗原に特異的に結合する参照抗体のアミノ酸配列または核酸配列、
β)該参照抗体の少なくとも1つの生物学的特性、
γ)次世代シーケンシングにより、多数(少なくとも10個、少なくとも100個、少なくとも1,000個、少なくとも10,000個)の変異抗体について、それらのアミノ酸配列または核酸配列(ここで、変異抗体は、参照抗体と同じ標的/抗原に特異的に結合し、任意で、参照抗体と同じ免疫化キャンペーンにおいて/から得られる)、
を明らかにする/作製する/測定する段階;
ii)以下に基づいてVH配列または/およびVL配列をアラインして、関係するVH/VL配列の1つまたは複数のセットを作る段階
α)同じ長さのVHもしくは/およびVL、または/ならびに
β)同じ長さの全てのβシートフレームワーク領域、または/ならびに
γ)同じ長さの全てのHVR/CDR、または/ならびに
δ)同一のHVR3/CDR3配列(フレームワークおよび/またはHVR/CDR1もしくは2中の変異(1~3個のアミノ酸交換)は許容される)、または/ならびに
ε)相同性が高いHVR3/CDR3配列(1個もしくは2個のアミノ酸交換は許容される)ならびに同一のHVR/CDR1および2(フレームワーク中の変異は許容される)、または/ならびに
ζ)フレームワークおよびHVR/CDR中の変異が許容される;
iii)ii)の1つまたは複数のセット中のアラインされた配列を、
α)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の数、および/または
β)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の位置、および/または
γ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、物理化学的特性の変化、および/または
δ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、VH/VL配向性(角度)の違い
に基づいてランク付けする段階;
iv)上位10個の(または上位5個、もしくは上位3個、もしくは最上位の)アラインされランク付けされた抗体のうちの1つを参照抗体の変異抗体と同定する段階。
【0038】
1つの態様において、段階ii)は、同じ番号付与方式を用いて配列にアノテーションを付する段階および差異にアノテーションを付する段階をさらに含む。1つの態様において、番号付与方式は、KabatのEU番号付与方式またはWolfguy番号付与方式である。1つの好ましい態様において、番号付与方式は、Wolfguy番号付与方式である。1つの態様において、差異は、参照抗体アミノ酸残基-位置-変異抗体アミノ酸残基の形式でアノテーションを付される。1つの態様において、参照抗体に対する変異抗体の変異は、変異タプルにグループ分けされる。
【0039】
1つの態様において、段階ii)は、参照抗体および/もしくは変異抗体のうちの1つと配列が同一であるか、または参照抗体に対するアミノ酸差異の数、位置、および/もしくはタイプに関して同一もしくは類似している配列を除く段階をさらに含む。
【0040】
1つの態様において、物理化学的特性の変化は、電荷、疎水性、および/またはサイズの変化によって判定される。1つの態様において、物理化学的特性の変化は、変異リスクスコアを用いて判定される。1つの態様において、リスクスコアは、以下の表に基づいて決定され、この表で明示的に与えられていない残基は、値1の重みを付けられる。
ここで、WolfGuyインデックスにより、101~125位は重鎖可変ドメインフレームワーク1に対応し、151~199位はCDR-H1に対応し、201~214位は重鎖可変ドメインフレームワーク2に対応し、251~299位はCDR-H2に対応し、301~332位は重鎖可変ドメインフレームワーク3に対応し、351~399位はCDR-H3に対応し、401~411位は重鎖可変ドメインフレームワーク4に対応する(501~523位は軽鎖可変ドメインフレームワーク1に対応し、551~599位はCDR-L1に対応し、601~615位は軽鎖可変ドメインフレームワーク2に対応し、651~699位はCDR-L2に対応し、701~734位は軽鎖可変ドメインフレームワーク3に対応し、751~799位はCDR-L3に対応し、801~810位は軽鎖可変ドメインフレームワーク4に対応する)。
【0041】
1つの態様において、変異リスクスコアは負の値をとり、ここで、負の値の絶対値が大きいほど、機能損失のリスクが大きいことが示される。
【0042】
1つの態様において、参照抗体と同じ標的に特異的に結合する変異抗体の多数(少なくとも10個、少なくとも100個、少なくとも1,000個、少なくとも10,000個)のアミノ酸配列または核酸配列は、参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞から得られ、これらのB細胞は、抗原特異的抗体を発現するB細胞について富化されている。1つの態様において、この富化は、抗原特異的な選別または/および細胞パニングまたは/および抗原特異的抗体を産生しないB細胞の除去によって行われる。
【0043】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、同じ標的/抗原に特異的に結合する、(参照抗体と同等の生物学的特性を有する)、参照抗体の変異抗体を同定するための方法である:
a)(参照抗体と同じ動物種から得られる)、参照抗体と同じ標的/抗原に結合する(多数の)異なる抗体を産生/発現する多数のB細胞を提供する段階;
b)多数のB細胞から抗体をコードする核酸を単離(および増幅)する段階;
c)次世代シーケンシング法を用いて抗体をコードする核酸をシーケンシングする段階;
d)以下の段階によって、抗体をコードする核酸の配列の配列アライメントを作成する段階;
i)以下に基づいてVH配列または/およびVL配列をアラインして、関係するVH/VL配列の1つまたは複数のセットを作る段階
α)同じ長さのVHもしくは/およびVL、または/ならびに
β)同じ長さの全てのβシートフレームワーク領域、または/ならびに
γ)同じ長さの全てのHVR/CDR、または/ならびに
δ)同一のHVR3/CDR3配列(フレームワークおよび/またはHVR/CDR1もしくは2中の変異(1~3個のアミノ酸交換)は許容される)、または/ならびに
ε)相同性が高いHVR3/CDR3配列(1個もしくは2個のアミノ酸交換は許容される)ならびに同一のHVR/CDR1および2(フレームワーク中の変異は許容される)、または/ならびに
ζ)フレームワークおよびHVR/CDR中の変異が許容される;
ii)ii)の1つまたは複数のセット中のアラインされた配列を、
α)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の数、および/または
β)参照抗体配列に対するアミノ酸差異の位置、および/または
γ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、物理化学的特性の変化、および/または
δ)参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、VH/VL配向性(角度)の違い
に基づいてランク付けする段階;
e)参照抗体の1つまたは複数の変異抗体を同定する段階;
f)変異抗体の1つまたは複数の生物学的特性を明らかにする段階;ならびに
g)同等または向上した1つまたは複数の生物学的特性を有する変異抗体を選択し、それによって参照抗体の変異抗体を同定する段階。
【0044】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、同じ標的/抗原に特異的に結合する、(参照抗体と同等の生物学的特性を有する)、参照抗体の変異抗体を同定するための方法である:
(i)多数の抗体コード核酸を含む、1つまたは複数のDNA含有試料を提供する段階;
(ii)多数の抗体コード核酸のうちの複数の遺伝子に共通するコンセンサス配列に結合するコンセンサス配列特異的プライマーを用いて、(i)の各試料中の抗体コード核酸の領域のPCR増幅を実施し、それによって増幅産物のプールを生成段階;
(iii)(シーケンシングリード中の)各位置における各ヌクレオチドの相対比率を明らかにするために、前記増幅産物をシーケンシングする段階;
(iv)(iii)のシーケンシング(リード)結果と少なくとも1つの参照配列との(配列同一性に基づく)配列アライメントを実施する段階であって、参照配列は、望ましい特性を有する抗体に対応する、段階;および
(v)参照抗体の1つまたは複数の変異抗体を同定する段階。
【0045】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、同じ標的/抗原に特異的に結合する、(参照抗体と同等の生物学的特性を有する)、参照抗体の変異抗体を同定するための方法である:
a)抗体可変ドメインコード核酸を含む生物試料に由来する関心対象の1つまたは複数の領域を増幅する段階であって、関心対象の各領域の複数のアンプリコンが作製される、段階;
b)アダプターおよびランダム構成要素を、(a)で作製された各アンプリコンに結合させ、該伸長された各アンプリコンを増幅する段階;
c)(b)で作製された、ランダム構成要素を含むアンプリコンをシーケンシングし、コンセンサス配列を同定する段階であって、シーケンシングの際、冗長なリードが生じ、該冗長なリードが該ランダム構成要素に基づいてグループ分けされる、段階;
d)該コンセンサス配列を参照配列と比較する段階であって、該参照配列と異なるコンセンサス配列が、変異/変化を含む、段階;ならびに
e)段階d)の結果に基づいて、1つまたは複数の変異抗体を同定する段階。
【0046】
1つの態様において、段階a)~c)は、以下のとおりである:
a)抗体可変ドメインコード核酸を含む生物試料に由来する関心対象の1つまたは複数の領域に特異的な1つまたは複数のプライマー対を含むプライマープールをハイブリダイズし、該プライマー対の上流プライマーから該プライマー対の下流プライマーまで伸長させ、伸長産物を該プライマー対の該下流プライマーにライゲーションする段階であって、増幅に必要とされる配列にはさまれた、該関心対象の領域を含む産物が作製される、段階;
b)(a)の産物に、ランダム構成要素を含むアダプターを結合させ、インデックス配列を含むアダプターを結合させ、前記伸長された配列のそれぞれを増幅する段階;
c)(b)で作製された、ランダム構成要素を含む産物をシーケンシングし、コンセンサス配列を同定する段階であって、シーケンシングの際、冗長なリードが生じ、該冗長なリードが該ランダム構成要素に基づいてグループ分けされる、段階。
【0047】
本明細書において報告される1つの局面は、参照抗体可変ドメインコード核酸の変異体を選択するための方法であり、ここで、該コード核酸によってコードされる参照抗体可変ドメインのアミノ酸配列は、少なくとも1つの開発可能性ホットスポットを有し(すなわち、その結合部位のうちの1つにおいて、翻訳後修飾され、その結果、該参照抗体可変ドメインを含む参照抗体の生物学的特性の変化(その標的/抗原への結合親和性の低下)をもたらす、少なくとも1つのアミノ酸残基を含み)、この方法は、以下の段階:
(i)1つまたは複数の抗体可変ドメインコード核酸をそれぞれが含む、多数のDNA含有試料(抗体分泌B細胞のゲノム物質)を提供する段階;
(ii)コンセンサス配列特異的プライマーを用いて、(i)の抗体可変ドメインコード核酸のPCR増幅を実施して、増幅産物を得る段階(該コンセンサス配列特異的プライマーは、該核酸中の複数の遺伝子に共通するコンセンサス配列に結合し、それによって増幅産物のプールを生成);
(iii)(シーケンシングリード中の)各位置における各ヌクレオチドの相対比率を明らかにするために、段階(ii)で得られた複数の増幅産物をシーケンシングする段階;
(iv)(iii)のシーケンシング(リード)結果と参照抗体可変ドメインコード核酸との(配列同一性に基づく)配列アライメントを実施する段階;
(v)完全/鋳型/参照配列である参照抗体可変ドメインコード核酸との配列アライメントにおいて、抗体可変ドメインコード核酸の配列同一性/相同性に基づくランク付けを実施する段階;および
(vi)段階(v)の配列ランキングに基づいて変異抗体可変ドメインコード核酸を選択する段階
を含み、段階(vi)で選択される変異抗体可変ドメインは、開発可能性ホットスポットが除かれるように(すなわち、その結合部位のうちの1つにおいて、該ドメインが含む翻訳後修飾されるアミノ酸残基が参照抗体と比べて少なくとも1つ少なく、その結果、前記参照抗体可変ドメインを含む参照抗体の生物学的特性の変化が小さくなる(その標的/抗原への結合親和性の低下が少なくなる)ように)、選択される。
【0048】
全局面の1つの態様において、開発可能性ホットスポット(翻訳後修飾されるアミノ酸残基)は、可変ドメイン中もしくはHVRのうちの1つの中の、対になっていない1つもしくは複数のCys残基、1つもしくは複数のグリコシル化部位、N-もしくはO-グリコシル化部位のアミノ酸残基、または/および1つもしくは複数の分解ホットスポット(Asp、Asn、もしくはMet)からなる群より選択される。
【0049】
本明細書において報告される1つの局面は、参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であり、ここで、参照抗体可変ドメインは、少なくとも1つの開発可能性ホットスポットを有し、この方法は、以下の段階を含む:
- 参照抗体と同じ標的に特異的に結合する抗体をそれぞれが産生する多数のB細胞クローンに由来する核酸をシーケンシングすることによって作成されるシーケンシングデータを得る段階;
- シーケンシングデータを、完全/鋳型/参照配列である参照抗体可変ドメインの配列とアラインする段階;
- 参照抗体可変ドメイン配列に対して最も高い構造的/機能的同一性/類似性を有するが開発可能性ホットスポットを有さない配列を選択する段階。
【0050】
1つの態様において、開発可能性ホットスポット(翻訳後修飾されるアミノ酸残基)は、可変ドメイン中もしくはHVRのうちの1つの中の、対になっていない1つもしくは複数のCys残基、1つもしくは複数のグリコシル化部位、N-もしくはO-グリコシル化部位のアミノ酸残基、または/および1つもしくは複数の分解ホットスポット(Asp、Asn、もしくはMet)からなる群より選択される。
【0051】
本明細書において報告される1つの局面は、参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であり、ここで、参照抗体可変ドメインは、少なくとも1つの開発可能性ホットスポットを有し、この方法は、本明細書において報告される方法のうちの1つに含まれる段階を含む。
【0052】
本明細書において報告される1つの局面は、以下の段階を含む、抗体を製造するための方法である:
- 本明細書において報告される方法のうちの1つを用いて得られた、参照抗体の変異抗体をコードする核酸と、機能的抗体の発現に必要な他の全ての核酸とを含む細胞を培養する段階、
- 細胞または培養培地から抗体を回収する段階。
【0053】
本明細書において報告される1つの局面は、本明細書において報告される方法のうちの1つを用いて得られる核酸を含む細胞である。
【0054】
各局面は、異なる局面の態様であってもよいことが、明確に記載される。
【0055】
本明細書において報告される方法は、開発可能性の問題を伴わない、参照抗体の代替の抗原特異的抗体変異体を同定するために使用することができる。
【0056】
本明細書において報告される方法は、ポリクローナル血清を用いて行うことさえでき、これは、NGSの使用によってそれらが「モノクローナル化され」ることによる。
[本発明1001]
参照抗体可変ドメインコード核酸の変異体を選択するための方法であって、該参照抗体可変ドメインコード核酸の該変異体によってコードされる変異抗体可変ドメインのアミノ酸配列が、該参照抗体可変ドメインコード核酸によってコードされる参照抗体可変ドメインのアミノ酸配列と比べて改善された開発可能性を有するか、または該参照抗体可変ドメインコード核酸の該変異体によってコードされる該変異抗体可変ドメインのアミノ酸配列において、該参照抗体可変ドメインコード核酸によってコードされる該参照抗体可変ドメインのアミノ酸配列と比べて、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基が変更されており、該変異抗体可変ドメインおよび該参照抗体可変ドメインが、それぞれの他方のドメインとペアになると、同じ抗原に結合し、
該方法が、
(i)1つまたは複数の抗体可変ドメインコード核酸をそれぞれが含む多数のDNA含有試料の抗体可変ドメインコード核酸の、増幅産物を得るためのコンセンサス配列特異的プライマーを用いるPCR増幅で得られた複数の増幅産物を、シーケンシングする段階;
(ii)(i)のシーケンシングの結果と、鋳型配列である該参照抗体可変ドメインコード核酸との配列アライメントにおいて、抗体可変ドメインコード核酸の配列同一性/相同性に基づくランク付けを実施する段階;および
(iii)段階(ii)の配列ランキングの上位10位までの配列のうちの1つから該変異抗体可変ドメインコード核酸を選択する段階
を含み、
段階(iii)で選択される変異体が、開発可能性が改善されておりかつ/または少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基が変更されているように選択される、前記方法。
[本発明1002]
参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であって、該参照抗体可変ドメインが、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基を有し、該方法が、
- 参照抗体と同じ標的に特異的に結合する抗体をそれぞれが産生する多数のB細胞クローンに由来する核酸をシーケンシングすることによって得られる抗体可変ドメインコード核酸を、鋳型配列である参照抗体の配列とアラインする段階;ならびに
- 参照配列に対して最も高い構造的または/および機能的な同一性または/および類似性を有する配列を選択する段階であって、該参照抗体可変ドメインの該少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基のうちの少なくとも1つが、翻訳後修飾されないアミノ酸残基に置換/変更されている、段階
を含む、前記方法。
[本発明1003]
同じ標的/抗原に特異的に結合する参照抗体の変異抗体を同定するための方法であって、
i)次世代シーケンシングによって決定された、該参照抗体と同じ標的に特異的に結合する該参照抗体の変異抗体の多数のアミノ酸配列または核酸配列のVH配列または/およびVL配列の1つまたは複数のセットを作る段階であって、これらの配列が、
α)同じ長さのVHもしくは/およびVL、または/ならびに
β)同じ長さの全てのβシートフレームワーク領域、または/ならびに
γ)同じ長さの全てのHVR/CDR、または/ならびに
δ)同一のHVR3/CDR3配列、フレームワークおよび/もしくはHVR/CDR中の変異は3個までのアミノ酸交換が許容される、または/ならびに
ε)2個までのアミノ酸交換が許容される相同なHVR/CDR3配列、ならびに同一のHVR/CDR1および2、または/ならびに
ζ)フレームワークおよびHVR/CDR中の変異が許容されること
に基づいて、鋳型としての参照抗体のアミノ酸配列または核酸配列とアラインされ、該参照抗体が標的/抗原に特異的に結合する、段階;
ii)i)の1つまたは複数のセット中のアラインされた配列を、
α)該参照抗体配列に対するアミノ酸差異の数、および/または
β)該参照抗体配列に対するアミノ酸差異の位置、および/または
γ)該参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、物理化学的特性の変化、および/または
δ)該参照抗体配列に対するアミノ酸差異に起因する、VH/VL配向性の違い
によってランク付けする段階;
iii)上位10個のアラインされランク付けされた抗体のうちの1つを参照抗体の変異抗体と同定する段階であって、該変異抗体が有する翻訳後修飾されるアミノ酸残基が、該参照抗体の場合と比べて少なくとも1つ少ない、段階
を含む、前記方法。
[本発明1004]
段階i)が、Wolfguy番号付与方式である同じ番号付与方式を用いて前記配列にアノテーションを付することをさらに含む、本発明1003の方法。
[本発明1005]
前記配列の差異が、参照抗体のアミノ酸残基-位置-変異抗体のアミノ酸残基の形式でアノテーションを付され、変異タプルにグループ分けされる、本発明1003または1004の方法。
[本発明1006]
前記物理化学的特性の変化が、電荷、疎水性、および/またはサイズの変化によって判定される、本発明1003~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記物理化学的特性の変化が、変異リスクスコアを用いて判定される、本発明1003~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記変異リスクスコアが、以下の表に基づいて決定され、この表で明示的に与えられていない残基は、値1の重みを付けられる、本発明1007の方法:
ここで、101~125位は重鎖可変ドメインフレームワーク1に対応し、151~199位はCDR-H1に対応し、201~214位は重鎖可変ドメインフレームワーク2に対応し、251~299位はCDR-H2に対応し、301~332位は重鎖可変ドメインフレームワーク3に対応し、351~399位はCDR-H3に対応し、401~411位は重鎖可変ドメインフレームワーク4に対応する。
[本発明1009]
前記参照抗体と同じ標的に特異的に結合する変異抗体の多数のアミノ酸配列または核酸配列が、該参照抗体と同じ免疫化キャンペーンに由来するB細胞から得られ、該B細胞が、抗原特異的抗体を発現するB細胞について富化されている、本発明1003~1009のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記変異体において、i)可変ドメインまたはHVR中の対になっていないCys残基、ii)グリコシル化部位、およびiii)分解ホットスポット(Asp、Asn、またはMet)のうちの1つまたは複数が除かれている、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
参照抗体可変ドメインの変異体を選択するための方法であって、該参照抗体可変ドメインが、少なくとも1つの翻訳後修飾されるアミノ酸残基を有し、該方法が、本発明1001~1010のいずれかの方法の段階を含む、前記方法。
[本発明1012]
抗体を製造するための方法であって、
- 本発明1001または1002の方法を用いて得られる核酸および機能的抗体の発現に必要な他の全ての核酸を含む細胞を培養する段階、
- 該細胞または培養培地から抗体を回収する段階
を含む、前記方法。
[本発明1013]
本発明1001~1010のいずれかの方法を用いて得られる核酸を含む、細胞。
【発明を実施するための形態】
【0057】
発明の詳細な説明
本明細書において一般に説明するような態様は例示的であることが、容易に理解されるであろう。様々な態様の、以下のより詳細な説明は、本開示の範囲を限定することを意図せず、様々な態様を代表するにすぎない。さらに、本明細書において開示される方法の段階または行為の順序は、本開示の範囲から逸脱しないように、当業者が変更してよい。言い換えると、態様を適切に実施するのに、特定の順序の段階または行為が必要とされない限り、個々の段階または行為の順序または使用は、修正されてよい。
【0058】
定義
ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般的情報は、Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)において示されている。
【0059】
本明細書において使用される場合、重鎖および軽鎖の全ての定常領域および定常ドメインのアミノ酸位置は、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)において説明されているKabat番号付与方式に基づいて番号付与され、本明細書において「Kabatに基づく番号付与」と呼ばれる。具体的には、Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)のKabat番号付与方式(647~660頁を参照されたい)が、κアイソタイプおよびλアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに対して使用され、KabatのEUインデックス番号付与方式(661~723頁を参照されたい)が、定常重鎖ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、およびCH3。この場合、「KabatのEUインデックスに基づく番号付与」を参照することにより、本明細書においてさらに明らかにされる)に対して使用される。
【0060】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に規定がない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」への言及は、複数のそのような細胞および当業者に公知であるその等価物を含み、以下同様である。同様に、用語「1つの(a)」(または「1つの(an)」)、「1つまたは複数の」、および「少なくとも1つの」も、本明細書において同義的に使用され得る。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」が同義的に使用され得ることにも留意すべきである。
【0061】
当業者にとって、例えばあるポリペプチドのアミノ酸配列を、このアミノ酸配列をコードする対応する核酸配列に変換するための手順および方法は周知である。したがって、ある核酸は、個々のヌクレオチドからなるその核酸配列によって特徴決定され、同様に、それによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列によっても特徴決定される。
【0062】
組換えDNA技術を使用することにより、核酸の誘導体の作製が可能になる。このような誘導体は、例えば、置換、変更、交換、欠失、または挿入によって、単一またはいくつかのヌクレオチド位置において改変されていてよい。改変または誘導体化は、例えば、部位特異的変異誘発を用いて実施することができる。このような改変は、当業者が容易に実施することができる(例えば、Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A laboratory manual (1999) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USA;Hames, B.D., and Higgins, S.G., Nucleic acid hybridization - a practical approach (1985) IRL Press, Oxford, Englandを参照されたい)。
【0063】
本発明を実施するために有用な方法および技術は、例えば、Ausubel, F.M. (ed.), Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I to III (1997); Glover, N.D., and Hames, B.D., ed., DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (1985), Oxford University Press; Freshney, R.I. (ed.), Animal Cell Culture - a practical approach, IRL Press Limited (1986); Watson, J.D., et al., Recombinant DNA, Second Edition, CHSL Press (1992); Winnacker, E.L., From Genes to Clones; N.Y., VCH Publishers (1987); Celis, J., ed., Cell Biology, Second Edition, Academic Press (1998); Freshney, R.I., Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, second edition, Alan R. Liss, Inc., N.Y. (1987)に記載されている。
【0064】
用語「約」は、その後に続く数値の±20%の範囲を意味する。1つの態様において、用語「約」は、その後に続く数値の±10%の範囲を意味する。1つの態様において、用語「約」は、その後に続く数値の±5%の範囲を意味する。
【0065】
用語「グリカン」は、多糖またはオリゴ糖を意味する。本明細書において、グリカンはまた、糖タンパク質、糖脂質、糖ペプチド、グリコプロテオーム、ペプチドグリカン、リポ多糖、またはプロテオグリカンなどの複合糖質の炭水化物部分を指すのにも使用される。通常、グリカンは、単糖間のβ-グリコシド結合だけからなる。グリカンは、単糖残基のホモポリマーまたはヘテロポリマーであることができ、直鎖状または分枝状であることができる。
【0066】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、限定されるわけではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)を含む様々な抗体構造体を、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、包含する。
【0067】
本明細書において使用される用語「次世代シーケンシング」は、従来のシーケンシング(例えば従来のサンガーシーケンシング)のものよりずっと多い配列出力を提供する超並列シーケンシングを含む方法を意味する。この用語は、しばしば、「ディープシーケンシング」または「第2世代シーケンシング」とも定義される(Metzker, M.L. , Nat. Rev. Genet. 11 (2010) 31-46;Mardis, E.R., Annu. Rev. Genom. Hum. Genet. 9 (2008) 387-402)。次世代シーケンシング法を用いることにより、極めて短時間でシーケンシングデータを得ることが可能になる。様々な技術が、次世代シーケンシングを実施するために市販されており、例えば、パイロシーケンシング(454 Life Sciences, Roche Diagnostics Corp., Basel, Switzerland)、合成によるシーケンシング(HiSeq(商標)およびMiSeq(商標)、Illumina, Inc., San Diego, CA)、ライゲーションによるシーケンシング(SOLiD(商標)、Life Technologies Corp. Logan, UT)、Polonatorシーケンシング、イオン半導体シーケンシング (Ion PGM(商標)およびIon Proton(商標)、Life Technologies Corp., Logan, UT)、Ion Torrentシーケンシング、ナノポアシーケンシング、単一分子リアルタイムシーケンシング(SMRT(商標)、Pacific Biosciences, Menlo Park, CA)、HeliScope単一分子シーケンシング、トンネル電流シーケンシング、ハイブリダイゼーションによるシーケンシング、質量分析シーケンシング、マイクロ流体サンガーシーケンシング、RNAポリメラーゼ(RNAP)シーケンシングなどである。
【0068】
用語「シーケンシングプラットホーム」は、ゲノムDNA(gDNA)、相補的DNA(cDNA)、およびRNAを含む核酸をシーケンシングするためのシステムを意味する。このシステムは、1つまたは複数の機械または装置(例えば、増幅機械、シーケンシング機械、検出装置など)、データ保存装置および分析装置(例えば、ハードドライブ、リモート記憶システム、プロセッサーなど)、試薬(例えば、プライマー、プローブ、リンカー、タグ、NTPなど)、ならびにそれらを使用するための個々の方法を含み得る。例えば、合成によるシーケンシングおよびパイロシーケンシングならびに異なるプラットフォーム。
【0069】
用語「リード」は、特定の位置のヌクレオチドのアイデンティティまたは特定のポリヌクレオチド中のヌクレオチドの配列を明らかにする1つの例を意味する。あるヌクレオチド配列またはポリヌクレオチド配列がシーケンシングアッセイにおいてX回測定される場合、そのヌクレオチドまたはポリヌクレオチドについて「X回のリード」または「リード深度X」または「リードカバー度X」がある。
【0070】
本明細書において使用される用語「超可変領域」または「HVR」は、配列が超可変性であり(「相補性決定領域」もしくは「CDR」)、かつ/または構造が明らかにされたループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原接触残基(「抗原接触部分」)を含む、抗体可変ドメインの各領域を意味する。一般に、抗体は6個のHVRを含む。3個はVH中にあり(H1、H2、H3)、3個はVL中にある(L1、L2、L3)。
【0071】
本明細書におけるHVRには、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3)に存在する超可変ループ(Chothia, C. and Lesk, A.M., J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917);
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b (H1)、50~65(H2)、および95~102(H3)に存在するCDR(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242.);
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、および93~101(H3)に存在する抗原接触部分(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに
(d)HVRアミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、および94~102(H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ
が含まれる。
【0072】
別段の定めが無い限り、本明細書において、可変ドメイン中のHVR残基および他の残基(例えばFR残基)は、前記のKabatらに従って番号付与する。
【0073】
「単離された」抗体とは、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって測定した場合に95%または99%を超える純度まで精製される。抗体純度を評価するための方法に関する概要については、例えばFlatman, S. et al., J. Chromatogr. B 848 (2007) 79-87を参照されたい。
【0074】
「単離された」核酸とは、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を意味する。単離された核酸は、その核酸分子を通常含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、その核酸分子は、染色体外に存在するか、または天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0075】
本明細書において使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団を構成する個々の抗体は、存在し得る変異抗体(例えば、天然に存在する変異を含むか、またはモノクローナル抗体調製物を製造する間に発生し、このような変異体は通常、少量で存在する)を除いて、同一であり、かつ/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団から得られたものであるという抗体の特徴を示し、いずれかの特定の方法による抗体の製造を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用するためのモノクローナル抗体は、限定されるわけではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含むトランスジェニック動物を使用する方法を含む、様々な技術によって作製することができる。
【0076】
抗体の「クラス」とは、その重鎖が有している定常ドメインまたは定常領域のタイプを意味する。抗体には5つの主要なクラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらの内のいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分類され得る。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。
【0077】
用語「N結合型オリゴ糖」は、アスパラギン-N-アセチルグルコサミン結合によってアスパラギンアミノ酸残基の位置でペプチド骨格に連結されているオリゴ糖を意味する。N結合型オリゴ糖は、「N-グリカン」とも呼ばれる。N結合型オリゴ糖はすべて、共通の五糖コアであるMan3GlcNAc2を有する。それらは、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、フコース、およびシアル酸などの周辺糖の存在および分枝(アンテナとも呼ばれる)の数が異なる。任意で、この構造はまた、コアフコース分子および/またはキシロース分子も含んでよい。N結合型オリゴ糖は、アスパラギン側鎖またはアルギニン側鎖の窒素に結合している。N-グリコシル化モチーフ、すなわちN-グリコシル化部位は、Asn-X-Ser/Thrコンセンサス配列を含み、式中、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である。したがって、N-グリコシル化部位のアミノ酸残基は、Asn-X-Ser/Thrコンセンサス配列中の任意のアミノ酸残基であることができ、式中、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である。1つの態様において、N-グリコシル化部位のアミノ酸残基は、Asn、Ser、またはThrである。
【0078】
用語「O結合型オリゴ糖」は、スレオニンまたはセリンアミノ酸残基の位置でペプチド骨格に連結されているオリゴ糖を意味する。1つの態様において、O-グリコシル化部位のアミノ酸残基は、SerまたはThrである。
【0079】
用語「グリコシル化状態」は、抗体の特定または所望のグリコシル化パターンを意味する。「グリコフォーム」は、特定のグリコシル化状態を含む抗体である。このようなグリコシル化パターンには、例えば、抗体のFc領域のN-297位(Kabatに基づく番号付与)に1つまたは複数の糖を結合させることが含まれ、該糖は、天然に、組換えによって、合成的に、または半合成的に生産される。グリコシル化パターンは、当技術分野において公知である多くの方法を用いて明らかにすることができる。例えば、(その開示内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる)US2006/0057638およびUS2006/0127950において、タンパク質表面の炭水化物を解析する方法が報告されている。
【0080】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原に結合させるのに関与している抗体重鎖または抗体軽鎖のドメインを意味する。一般に、天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、類似した構造を有し、各ドメインは、4つの保存されているフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(HVR)を含む。(例えば、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y. (2007), page 91を参照されたい)。単一のVHドメインまたはVLドメインが、抗原結合特異性を与えるのに十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、その抗原に結合する抗体に由来するVHドメインまたはVLドメインを用いて、相補的なVLドメインまたはVHドメインのライブラリーをそれぞれスクリーニングして、単離することもできる。例えば、Portolano, S. et al., J. Immunol. 150 (1993) 880-887;Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628を参照されたい。
【0081】
参照アミノ酸配列または参照核酸配列に対する変異アミノ酸配列または変異核酸配列のアライメントは、「配列同一性パーセント(%)」に基づいて行うことができる。「配列同一性パーセント(%)」は、参照配列中の残基と同一である変異配列中の残基の百分率であって、これらの配列をアラインし、必要な場合には、配列同一性パーセントの最大値を実現するためにギャップを導入した後の百分率と定義される。アライメントは、当技術分野の技能の範囲内である様々な方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなど公的に利用可能なコンピューターソフトウェアを用いて、実現することができる。当業者は、比較される配列の全長に渡って最大限のアライメントを実現するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインするための適切なパラメーターを決定することができる。しかし、本明細書における目的のためには、配列比較コンピュータープログラムALIGN-2を用いて、配列同一性%の値を得る。配列比較コンピュータープログラムALIGN-2は、Genentech, Inc.の著作物であり、ソースコードはユーザー向け文書と共にU.S. Copyright Office(Washington D.C.、20559)に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc.(South San Francisco, California)から公的に入手可能であり、またはソースコードからコンパイルされ得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステムにおける使用向けにコンパイルされるべきである。配列比較パラメーターはすべて、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
【0082】
ALIGN-2が配列比較のために使用される状況において、所与の(参照)配列Bに対する、との、または比較しての所与の(変異)配列Aの配列同一性%(あるいは、所与の(参照)配列Bに対する、との、または比較して、ある特定の配列同一性%を有するか、または含む所与の(変異)配列Aと表現することもできる)は、次のようにして算出される:
100×X/Y比
式中、Xは、配列アライメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムによるAおよびBのアライメントにおいて同一のマッチとして採点された残基の数であり、Yは、B中の残基の総数である。配列Aの長さが配列Bの長さに等しくない場合、Bに対するAの配列同一性%は、Aに対するBの配列同一性%と等しくならないことが認識されるであろう。
【0083】
本出願内で使用される用語「糖鎖構造」は、指定されたアミノ酸残基における単一の明確にされたN結合型オリゴ糖またはO結合型オリゴ糖を意味する。したがって、用語「G1糖鎖構造を有する抗体」とは、Kabatの番号付与スキームに基づいてアミノ酸297位あたりのアスパラギンアミノ酸残基の位置に、またはFAB領域中に、オリゴ糖の非還元末端に1つだけ末端ガラクトース残基を含むバイアンテナ型オリゴ糖を含む抗体を意味する。本出願内で使用される用語「オリゴ糖」は、2つまたはそれ以上の共有結合的に連結されている単糖単位を含む糖ポリマーを意味する。
【0084】
用語「開発可能性ホットスポット」とは、あるポリペプチド(例えば抗体可変ドメイン)のアミノ酸配列内の、翻訳後修飾される(すなわち翻訳後修飾が起こりやすい)アミノ酸残基を意味する。この翻訳後修飾は、少なくとも1つの生物学的特性(例えば、抗体可変ドメインの場合には抗原結合)の変化(例えば、減少または消失)をもたらす。
【0085】
用語「翻訳後修飾」とは、生合成後のポリペプチド内のアミノ酸残基の共有結合的修飾を意味する。翻訳後修飾は、既存の官能基の修飾または新しい官能基の導入によって、アミノ酸側鎖に起こり得る。Alaによく起こる翻訳後修飾はN-アセチル化であり;Argの場合は脱イミノ化、メチル化であり;Asnの場合は脱アミド、N結合型グリコシル化であり;Aspの場合は異性化であり;Cysの場合はジスルフィド結合形成、酸化、パルミトイル化、N-アセチル化、S-ニトロシル化であり;Glnの場合は環化であり;Gluの場合は環化、γ-カルボキシル化であり;Glyの場合はN-ミリストイル化、N-アセチル化であり;Hisの場合はリン酸化であり;Lysの場合はアセチル化、ユビキチン化、SUMO化、メチル化、ヒドロキシル化であり;Metの場合はN-アセチル化、酸化であり;Proの場合はヒドロキシル化であり;Serの場合はリン酸化、O結合型グリコシル化、N-アセチル化であり;Thrの場合はリン酸化、O結合型グリコシル化、N-アセチル化であり;Trpの場合は酸化、キヌレニンの形成であり;Tyrの場合は硫酸化、リン酸化であり;Valの場合はN-アセチル化である。
【0086】
用語「抗体の結合部位」は、軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインのペアを意味する。
【0087】
抗体のグリコシル化
ヒト抗体は、重鎖CH2ドメインの297位あたりのアスパラギン残基(Asn297)の位置で、またはFAB領域中で、主にグリコシル化されており、多少フコシル化されたバイアンテナ型複合型オリゴ糖を有する(抗体アミノ酸残基の番号付与は、上記のKabatに基づく)。バイアンテナ型糖鎖構造は、各アームにおいて2個までの連続したガラクトース(Gal)残基が末端部をなすことができる。これらのアームは、中央のマンノース残基へのグリコシド結合に基づいて(1,6)および(1,3)と表記される。G0と表記される糖鎖構造は、ガラクトース残基を含まない。
【0088】
G1と表記される糖鎖構造は、一方のアーム中に1つまたは複数のガラクトース残基を含む。G2と表記される糖鎖構造は、各アーム中に1つまたは複数のガラクトース残基を含む(Raju, T.S., Bioprocess Int. 1 (2003) 44-53)。ヒト定常重鎖領域は、上記のKabatによって、およびBrueggemann, M., et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361;Love, T.W., et al., Methods Enzymol. 178 (1989) 515-527によって、詳細に報告されている。抗体Fc領域のCHO型グリコシル化は、例えばRoutier, F.H., Glycoconjugate J. 14 (1997) 201-207によって説明されている。
【0089】
通常、抗体は、2本のいわゆる全長軽鎖ポリペプチド(軽鎖)および2本のいわゆる全長重鎖ポリペプチド(重鎖)を含む。全長重鎖ポリペプチドおよび全長軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、抗原と相互作用する結合領域を構成する可変ドメイン(可変領域)(通常、全長ポリペプチド鎖のアミノ末端部分)を含む。全長重鎖ポリペプチドおよび全長軽鎖ポリペプチドはそれぞれ、定常領域(通常、カルボキシル末端部分)を含む。全長重鎖の定常領域は、i)Fcγ受容体(FcγR)を有する細胞、例えば食細胞への、またはii)ブランベル受容体としても公知の新生児型Fc受容体(FcRn)を有する細胞への、抗体の結合を媒介する。それはまた、成分(C1q)のような古典的補体系の因子を含むいくつかの因子への結合も媒介する。全長抗体の軽鎖または重鎖の可変ドメインは、異なるセグメント、すなわち4つのフレームワーク領域(FR)および3つの超可変領域(CDR)を順に含む。「全長抗体重鎖」は、N末端からC末端に向かって、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域、抗体定常ドメイン2(CH2)、抗体定常ドメイン3(CH3)、および任意で、サブクラスIgEの抗体の場合には抗体定常ドメイン4(CH4)からなる、ポリペプチドである。「全長抗体軽鎖」は、N末端からC末端に向かって、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチドである。全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインの間および全長抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介して相互に連結されている。
【0090】
抗体のグリコシル化パターン、すなわち、結合された糖鎖構造の糖類組成および数の多さが、生物学的特性に強い影響を与えることが、近年報告されている(例えば、Jefferis, R., Biotechnol. Prog. 21 (2005) 11-16を参照されたい)。哺乳動物細胞によって産生される抗体は、2~3質量%のオリゴ糖を含む(Taniguchi, T., et al., Biochem. 24 (1985) 5551-5557)。これは、例えば、クラスGの抗体(IgG)では、マウス由来のIgG中の2.3個のオリゴ糖残基に相当し(Mizuochi, T., et al., Arch. Biochem. Biophys. 257 (1987) 387-394)、ヒト由来のIgG中の2.8個のオリゴ糖残基に相当し(Parekh, R.B., et al., Nature 316 (1985) 452-457)、通常、それらのうちの2個はFc領域中のAsn297に位置し、残りは可変領域中に位置している(Saba, J.A., et al., Anal. Biochem. 305 (2002) 16-31)。
【0091】
様々なN結合型またはO結合型のオリゴ糖の表記法では、個々の糖残基を、オリゴ糖分子の非還元末端から還元末端へと列挙する。一番長い糖鎖が、表記法のための基本鎖として選ばれる。N結合型またはO結合型のオリゴ糖の還元末端は、単糖残基であり、抗体のアミノ酸骨格のアミノ酸に直接結合しており、一方、基本鎖の還元末端とは反対の末端に位置している、N結合型またはO結合型のオリゴ糖の末端は、非還元末端と呼ばれる。
【0092】
全てのオリゴ糖は、非還元糖類の名称または略語(すなわちGal)、続いてグリコシド結合の立体配置(αまたはβ)、環結合(1または2)、結合に関与している還元糖類の環の位置(2、3、4、6、または8)、次いで、還元糖類の名称または略語(すなわちGlcNAc)を用いて記載される。各糖類は、好ましくはピラノースである。標準的な糖鎖生物学命名法の概要については、Essentials of Glycobiology Varki et al. eds., 1999, CSHL Pressを参照されたい。
【0093】
本出願内で、用語「定められた糖鎖構造」とは、糖鎖構造の非還元末端に位置する単糖残基が、特定の種類のものである、糖鎖構造を意味する。本出願内で、用語「定められた糖鎖構造」とは、糖鎖構造の非還元末端に位置する単糖残基が、定められており、特定の種類のものである、糖鎖構造を意味する。
【0094】
翻訳後修飾が起こりやすいアミノ酸残基
Asn残基およびAsp残基は、環状スクシンイミド中間体の形成を介して先に起こる、共通の分解経路を有する。スクシンイミド形成は、Asn/Asp側鎖γ-カルボニル基に対する、後続のアミノ酸の主鎖窒素の求核攻撃によるAsnの脱アミドまたはAspの脱水後の分子内転位の結果として生じる。準安定な環状イミドは、その2つのカルボニル基のうちのいずれか1つの位置で加水分解して、加水分解条件および立体構造的拘束に応じて、異なる比率でアスパルチル結合またはイソアスパルチル結合を形成することができる。さらに、代替の分解メカニズムも提唱され、例えば、環状イソイミドを形成させるか、またはAsnからAspへの水に補助された加水分解を指示する、主鎖のカルボニル酸素による求核攻撃が提唱された。分解産物、すなわちスクシンイミド、Asp、またはisoAspのいずれかを検出するには、いくつかの分析方法、主に、電荷を感知する方法、例えばイオン交換クロマトグラフィーまたは等電点電気泳動が、当業者に公知である。タンパク質中の分解部位の定量および位置確認のために最も適しているのは、液体クロマトグラフィータンデム型質量分析(LC-MS/MS)による解析である。
【0095】
Wolfguy番号付与スキーム
Wolfguy番号付与では、KabatおよびChothiaの定義の和集合としてCDR領域を定義する。さらに、この番号付与スキームでは、CDR位置のインデックスによって、あるCDR残基が上行するループまたは下行するループの一部分であるかどうかが示されるように、CDR長に基づいて(および、配列にある程度基づいて)CDRループの先端にアノテートを付す。確立されている番号付与スキームとの比較を、以下の表に示す。
【0096】
(表)Chothia/Kabat(Ch-Kb)、Honegger、およびWolfguyの番号付与スキームを用いた、CDR-L3およびCDR-H3の番号付与。後者では、N末端基部からCDRの頂点に向けて番号が増加し、C末端側のCDR端を起点とすると番号が減少する。Kabatのスキームでは、最後の2つのCDR残基を固定し、CDR長に合うように文字を導入する。Kabat命名法とは対照的に、Honegger番号付与では文字を用いず、VHおよびVLについて共通である。
【0097】
Wolfguyは、構造的に等価な残基(すなわち、Fv構造における保存された空間的局在性という点で非常に類似している残基)には、できる限り等しいインデックスを用いて番号付与するように設計されている。このことは、
図1に示す。
【0098】
Wolfguyによって番号付与された全長VH配列および全長VL配列の例は、以下の表に見出すことができる。
【0099】
(表)Wolfguy、Kabat、およびChothiaを用いて番号付与された、PDB ID 3PP4(21)の結晶構造のVH配列(左)およびVL配列(右)。Wolfguyでは、CDR-H1~H3、CDR-L2、およびCDR-L3は長さのみに応じて番号付与され、一方、CDR-L1は、ループの長さおよび標準的なクラスター帰属関係に応じて番号付与される。後者は、異なるコンセンサス配列に対する配列類似性を計算することによって決定される。本明細書において、本発明者らは、CDR-L1番号付与の一例しか提示しないが、これは、本発明者らのVH-VL配向性の配列フィンガープリントを作製する上で重要ではないためである。
【0100】
次世代シーケンシング(NGS)
(a)サンプル調製
特定の局面において、本明細書において報告される方法は、一つには、核酸を含む生物試料から関心対象の1つまたは複数の領域を増幅する段階を含む。この増幅により、関心対象の各領域の複数のアンプリコンが生じる。
【0101】
増幅は、1つまたは複数のプライマー対の存在下で起こる。プライマー対の第1のプライマーは、関心対象の領域の上流部分に相補的な配列を含み、プライマー対の第2のプライマーは、関心対象の領域の下流部分に相補的な配列を含む。プライマー対は、核酸の相補鎖にアニールするように設計されている(すなわち、プライマー対の1つのプライマーはセンス鎖にアニールし、プライマー対の1つのプライマーはアンチセンス鎖にアニールする)。相補的配列は、増幅しようとする関心対象の領域に基づいて変更してよい。プライマー対の相補的配列は、関心対象の領域に相補的な約10~約100個のヌクレオチドを含んでよい。
【0102】
1つまたは複数のプライマー対が、核酸を含む試料と接触させられる。核酸は、例えばRNAまたはDNAであってよい。改変型のRNAまたはDNAが使用されてもよい。1つの例示的な態様において、核酸はcDNAである。
【0103】
通常、関心対象の領域の増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて実施される。PCR反応は、1つの反応バイアル中に、核酸を含む試料、1つまたは複数のプライマー対、ポリメラーゼ、水、緩衝液、およびデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)を含んでよい。PCRは、当技術分野の標準的方法に従って実施されてよい。非限定的な例として、PCR反応は、変性、続いて約15~約30サイクルの変性、アニーリング、および伸長、続いて最終的な伸長を含み得る。
【0104】
(b)シーケンシングライブラリーの調製
特定の局面において、本明細書において報告される方法は、一つには、セクション(a)で生じた各アンプリコンまたは産物にアダプターおよび/またはインデックス配列を結合させる段階を含む。
【0105】
1つの態様において、アダプター、ランダム構成要素、および/またはインデックス配列を含むヌクレオチド配列は、PCRによってアンプリコンまたは産物に結合される。例えば、アンプリコンまたは産物を、アダプターおよびインデックス配列を含むヌクレオチド配列と接触させてよく、そしてPCR反応を実施する。次いで、この産物を、アダプターを含むヌクレオチド配列と接触させ、PCR反応を実施する。結果として生じる産物は、アダプター、関心対象の領域、インデックス配列、および下流のアダプターを含むヌクレオチド配列である。あるいは、アンプリコンまたは産物を、アダプターおよびランダム構成要素を含むヌクレオチド配列と接触させてよく、そしてPCR反応を実施する。次いで、この産物を、アダプターおよびインデックス配列を含むヌクレオチド配列と接触させ、PCR反応を実施する。結果として生じる産物は、アダプター、インデックス配列、関心対象の領域、ランダム構成要素、および下流のアダプターを含むヌクレオチド配列である。
【0106】
次いで、アダプター、ランダム構成要素、および/またはインデックス配列を含む産物またはアンプリコンを、指数関数的PCRに供する。1つの態様において、指数関数的PCR反応は、1つの反応バイアル中に、アダプター、ランダム構成要素、および/またはインデックス配列を含む産物またはアンプリコン、プライマー、ポリメラーゼ、水、緩衝液、およびデオキシヌクレオチド3リン酸(dNTP)を含んでよい。指数関数的PCRは、当技術分野の標準的方法に従って実施されてよい。非限定的な例として、指数関数的PCR反応は、変性、続いて約15~30サイクルの変性、アニーリング、および伸長、続いて最終的な伸長を含み得る。
【0107】
指数関数的PCRを実施すると、アダプターおよび/またはインデックス配列を含む産物またはアンプリコンが増幅される。指数関数的PCRの産物は、アダプター、関心対象の領域、下流のアダプター、およびインデックス配列を含む。
【0108】
(c)シーケンシング
特定の局面において、本明細書において報告される方法は、一つには、指数関数的PCRの産物をシーケンシングする段階を含む。指数関数的PCR産物のシーケンシングは、冗長なリードを生じる。冗長なリードをランダム構成要素に基づいてグループ分けし、これらの冗長なリードが配列エラーを減らすように、コンセンサス配列を同定する。
【0109】
シーケンシングは、当技術分野の標準的方法に従って実施されてよい。好ましくは、シーケンシングは、超並列シーケンシングプラットホームで実施され、その多くは市販されており、限定されるわけではないが、Illumina、Roche/454、Ion Torrent、およびPacBIOが含まれる。1つの例示的な実施形態において、Illuminaシーケンシングが使用される。
【0110】
リードは、インデックス配列によって隔てられてよく、プライマー配列を除去するために切り落とされてよい。リードは、ランダム構成要素に基づいてグループ分けされてよい。特定の態様において、3個未満、4個未満、または5個未満のリードを含むリードのグループは、取り除いてよい。あいまいな配列を排除するために、ランダム構成要素を存在量に基づいて並び替え、約85%の同一性でクラスター化してもよい。あるいは、ランダム構成要素を存在量に基づいて並び替え、約65%~約95%の同一性でクラスター化してもよい。ランダム構成要素は、最大存在量から最小存在量へとクラスター化してよい。大半のシーケンシングエラーがランダムであること、およびシーケンシングエラーを伴う変異体よりも、正確な配列の方が多く発生するはずであることから、存在量によって重み付けしたクラスター化は、より豊富な(かつ真陽性である可能性が非常に高い)ランダム構成要素を保持しつつ、シーケンシングエラーに起因する可能性が非常に高い偽のランダム構成要素を排除する手段になる。
【0111】
各アンプリコンまたは産物のこの冗長なシーケンシングにより、各アンプリコンまたは産物のエラー訂正が可能になる。例えば、ヌクレオチドの各塩基位置をスコア付けおよび重み付けすることによって、各ランダム構成要素グループについてコンセンサス配列を作る。同じランダム構成要素に結合している最も豊富な配列と同一であるコンセンサス配列を有する配列を、取っておく;このプロセスは、クオリティフィルタリングと呼ばれる。具体的には、全ての位置において、各配列リードによってコールされるヌクレオチドを比較し、リード間に少なくとも約90%の一致が存在する場合、コンセンサスヌクレオチドがコールされる。約90%未満の一致が存在する場合、コンセンサス配列中のその位置で「N」がコールされる。
【0112】
(d)参照配列との比較
エラーが訂正されたコンセンサス配列(ECCS)が同定された後、ECCSを参照配列と比較して、1つまたは複数の差異の存在を明らかにしてよい。参照配列は、同じ生物学的特性を有するが開発可能性の問題(ホットスポット)などの不利な特徴を有さない変異体を探索するための、抗体の配列であってよい。
【0113】
本明細書において報告される方法
当技術分野では、例えば元の候補の開発可能性障害に対処するためにアミノ酸配列に変異を導入することによって、または選択されなかった抗体の新規なスクリーニングを実施することによって、バックアップ/代替候補を同定するのが通常である。前者の場合、開発可能性障害を取り除くことによって、抗体の結合特性および/または治療特性も影響を受け得ることを無視することはできない。後者の場合、真の代替候補を発見できるかどうかが疑わしい。
【0114】
次世代シーケンシング(NGS)を用いることによって、シーケンシングすることができるB細胞クローンの数は、以前の方法と比べて劇的に増えている。しかし、初期のスクリーニングで有望な特性を示すクローンのみが、さらに追跡される。他のクローンについては、配列データが保存されるだけである。すなわち、シーケンシングされたクローンのすべてを発現させ、全面的に特徴を調べるわけではない。
【0115】
あるプロジェクトで得られたNGSデータのこの未使用の潜在能力を用いて、リード候補の1種または複数種の代替候補であって、例えば、元のリード抗体の開発可能性障害(例えば、翻訳後修飾が起こりやすいアミノ酸残基または孤立したシステイン残基)を有さない、代替候補を同定できることが現在判明している。この同定および選択は、アミノ酸/ヌクレオチド配列に基づいて選択された候補と密接な関係があり、かつ同時に、リード候補(すなわち、開発可能性ホットスポットを含む参照抗体)の生物学的/結合特性のうちの少なくとも1つを維持している抗体を、NGSシーケンス情報を用いて同定することによって、実現される。
【0116】
全局面の1つの態様において、ライブラリーの多様性を高め、より優れたシーケンシングを可能にするために、多様性の大きなライブラリーが元の抗原特異的ライブラリーに含まれる。例えば、Illumina Inc.によって販売されているゲノムPhiXライブラリーが使用されてよい。
【0117】
全局面の1つの態様において、増幅段階とシーケンシング段階の両方が、Illumina技術を用いて実施される。この場合、Illuminaの取扱い説明書に従って、増幅段階の間に、アダプターと呼ばれシーケンシングの後続の段階に必要とされる特殊な配列が、ヌクレオチド断片に付加される。
【0118】
全ての局面の1つの好ましい態様において、2回のPCRが、シーケンシングの前に実施される。
【0119】
1つの態様において、シーケンシングは、市販のMiSeqキット(Illumina Inc.)を用いて実施される。
【0120】
全局面の1つの態様において、シーケンシングは、ヌクレオチド断片の両端を同時にシーケンシングするペアードエンドシーケンシング法を用いて実施される。これにより、より迅速なシーケンシングが可能になり、長い断片の場合には特に有用である。
【0121】
全局面の1つの態様において、同じランの間に様々な試料をシーケンシングし、それによって試料/ライブラリーの多くの組合せを迅速かつ同時に解析することを可能にできるように、多重化技術が使用される。典型的には、多重化を行うために、特異的PCRプライマーを用いる増幅段階の間に、特殊な配列(バーコードまたはインデックス)が添加される。
【0122】
例えば、市販のMiSeqキットは、ペアードエンドシーケンシングと多重化の両方を実現する。
【0123】
シーケンシングデータの解析は、シーケンシングによって得られるデータを処理できるソフトウェアを用いて実施することができる。適切なソフトウェアツールは、市販されている。適切なソフトウェアの例は、BWA (Burrows-Wheeler Aligner)である。Li H.およびDurbin R. (2009)の研究を参照されたい(Li H. and Durbin R. (2009) Fast and accurate short read alignment with Burrows-Wheeler Transform. Bioinformatics, 25:1754-60)。別の適切なソフトウェアはFastQC(ウェブサイト:www.bioinformatics.babraham.ac.uk/projects/fastqc/を参照されたい)であり、これは、ハイスループットの配列データを解析および管理するためのツールである。
【0124】
他の事例では、本明細書において報告される方法によれば、コンセンサス配列特異的プライマーの1つまたは複数は、タグおよび/またはアダプターをさらに含んでよい。
【0125】
1つの特定の態様において、本発明の方法は、以下の一般的な段階を含む:
- 例えば、コンピュータープログラムによる、ペアの(Illumina MiSeq)リードのアセンブリ(任意で、訂正を含む:UMIバーコード抽出および完全なVH配列のコンセンサス構築に基づくエラー訂正を可能にするMolecular Identifier Group-based Error Correction(MiGec)ソフトウエェアパイプライン);
- 任意で訂正、すなわち配列複製物の訂正、n≧3のCDR3クラスターのみの考慮、シグナルペプチド検出、および品質評価を含む、抗体可変ドメインの抽出:
- 抗体変異体の構造を手引きとしたクラスター化およびランク付け;ならびに
- VH/VLの対形成、結合、および機能を保持する能力についての、参照配列に対する変異のランク付け。任意で、このランク付けは、行列に基づき、変異の保存によっても変わる。
【0126】
抗体変異体の構造を手引きとしたクラスター化およびランク付け(SCaRAb)
抗体可変領域変異体の特徴決定
本明細書において報告される方法は、重鎖可変領域(VH)配列および軽鎖可変領域(VL)配列が公知である所与の参照抗体に基づいている(以下、「参照」または「参照抗体」と表記される)。
【0127】
さらに、例えば、参照抗体と同じ免疫化キャンペーンで得られたB細胞に由来する、参照抗体のVH配列および/またはVL配列に関係しているとみなすことができる公知のVH配列および/またはVL配列のセットも存在する(以下、「変異体」または「変異抗体」と表記される)。参照体とその変異体との関係は、例えば、i)同じ長さのVH配列およびVL配列、ii)同じ長さの全てのβシートフレームワーク領域、または/ならびに iii)同じ長さの全ての相補性決定領域(CDR)、に基づいている/基づくことができる。
【0128】
各配列のアライメント/選択の判定基準は、利用可能なデータプールに応じて変わる。利用可能な変異体の数が限られている場合、判定基準の厳密性は低くあるべきであり、一方、多数の変異体が利用可能である場合、(最も優れた変異体候補を同定するために)判定基準は、より厳密であることができる/あるべきである。例えば、VH全体および/またはVL全体における変異の数を判定基準としても使用してよく、10個未満、9個未満、8個未満、7個未満、6個未満、5個未満、4個未満が許容される。しかし、許容される変異の数に伴って、変異体が参照抗体と同じ/同等の結合特性を持たない可能性が高くなることに留意しなければならない。あるいは、アミノ酸または/および核酸レベルで、HVR3/CDR3中の変異が「x」個未満、全てのHVR/CDR中の変異が「y」個未満、全FR中の変異が「z」個未満、変異の合計が「n」個未満、またはそれらの組合せなどの判定基準を使用することも可能である。
【0129】
選択のための判定基準が、開発可能性ホットスポットの除去である場合、アライメント/選択の判定基準は、以下であり得る:
- HVR/CDR中に(遊離)システインがないこと
- 可変ドメイン中に、分解が起こりやすいAsp、Asn、Met残基/モチーフがないこと。
【0130】
次に、確立されているアノテーションスキーム、例えばWolfguyの抗体番号付与スキームを用いて、参照配列とそれらの変異体の両方にアノテーションを付する(Bujotzek, A., et al., Prot. Struct. Funct. Bioinform., 83 (2015) 681-695)。これは、方法で一貫して使用される。すなわち、本明細書において報告される方法において、位置のすべておよび任意のアノテーションのために使用される。Wolfguyによるアノテーションを付されたVH参照配列およびその変異体の例は、
図1に見出すことができる。
【0131】
アノテーションを付されたVH配列およびVL配列を残基インデックスに基づいてアラインした後は、これらの変異体をコンパクトな「変異タプル」の見地から記載することができる。この「変異タプル」は、参照に関しての配列差異のみ(すなわち、置換されたアミノ酸の種類および位置)を記載する。この原則を、抗体763のVH変異体を用いて以下の表に例示する。
【0132】
(表)参照抗体763の6種のVH変異体についての変異タプル表示法(
図1も参照されたい)。変異タプルは、つなげられた一連の文字列であり、それぞれ、i)参照配列中に存在するアミノ酸の種類(1文字記号)、ii)アミノ酸が位置しているWolfguy位置、およびiii)参照配列のものと一致しない場合には、配列変異体のアミノ酸の種類(1文字記号)を指定する。
【0133】
クラスター化
配列変異体の所与のセットは、大規模かつ冗長であり得るため、各アミノ酸置換の数、位置、および種類に関して同一または類似である変異体を同定するクラスター化を実施することは有意義である。この目的のために、例えば、十分に確立されているk-メドイドクラスター化アルゴリズムを使用することができる。
【0134】
本発明の事例(抗体可変ドメイン)の場合、kの適切な下境界は、データセット中の異なる変異タプル長の数である。例えば、クラスター化しようとするデータセットが変異体(T322P)、(R306K)、(E211A,R306K)、および(Q102P,S103P,S125P,Y196S,R306K)からなる場合には、kの最小値は3に設定されるべきであり、これにより、タプル長1、2、および5に対して別々のクラスターが可能になる。所望の場合は、kの値をさらに大きくして、アミノ酸置換が位置している場所に基づく、より細かいクラスター化を実現させることができる。
【0135】
変異タプルを用いて記載された配列変異体のk-メドイドに基づくクラスター化を実施するために、アミノ酸置換の抗体特異的位置と交換物のおおよその物理化学的特性の両方を織り込む新規な距離測定法を考案することができる。後者は、BLOSUM62アミノ酸置換行列を用いて定量される(Henikoff, S. and Henikoff, J.G., Proc. Nat. Acad. Sci., 89 (1992) 10915-10919)。
【0136】
これは、以下に概説するように実施される。
【0137】
2つの例示的な変異タプル(E211A,R306K)および(Y293D,S295N,T322P)の場合:
1. 2つのタプル間の、位置に基づく距離行列を計算する(残基番号の距離:293-211=82など):
2. 距離が最も短い変異ペア、すなわちS295NおよびR306Kを選ぶ(残基番号の距離は11)。
このペアの距離寄与は、(11+abs(BLOSUM62(S,N)-BLOSUM62(R,K)))
2である。
上記で選ばれたペアが除かれるように、距離行列を更新する:
全ての変異をペアにし終わるまで、手順(段階2)を繰り返す。
3. タプル当たりの変異数が一致しない場合、ペアにされていない変異が残ることになる(この例ではT322P)。ペアにされていない変異T322Pを計上するために、距離に(310+abs(BLOSUM62(T,T)-BLOSUM62(T,P)))
2を加える。
310という値は、VH Wolfguyインデックスの見地からの理論上の最大距離である(411-101)。ペアにされていない全ての変異を計上するまで、手順(3)を繰り返す。
【0138】
この例において、2つの変異タプル間の距離は、以下のとおりである。
変異_タプル_距離[(E211A,R306K),(Y293D,S295N,T322P)]=sqrt((11+abs(BLOSUM62(S,N)-BLOSUM62(R,K)))2+(82+abs(BLOSUM62(Y,D)-BLOSUM62(E,A)))2+(310+abs(BLOSUM62(T,T)-BLOSUM62(T,P)))2)
=sqrt(122+842+3162)≒327.194
【0139】
変異リスクスコア
変異リスクスコアは、上記に定義した変異タプルによって指定される抗体変異体が、参照抗体によって示される機能を失うリスクを定量化するための手段である(通常、機能は、所与の標的/抗原に対する結合親和性である)。変異リスクスコアは負の値を常にとり、負の値の絶対値が大きいほど、機能損失のリスクが大きいことが示される。
【0140】
変異リスクスコアは、BLOSUM62行列を組み入れて、結果として生じる生化学的特性の変化(例えば、電荷、疎水性、およびサイズなどの変化)の点から、アミノ酸置換の重大度を評価する。さらに、変異リスクスコアは、アミノ酸置換が起こる位置を計上するための抗体可変領域位置に特異的な重み付け因子を含む。例えば、抗原結合に典型的に関与しているCDRに属する残基は、抗原結合におそらく関与していない周辺残基よりも大きな重みを付けられる。
【0141】
X
i位置
iY
iの形のn個の変異文字列からなる所与の変異タプルについて、変異リスクスコアは以下のように算出される。
【0142】
以下の表は、VHドメインの保存された位置についての抗体特異的な重みを指定する。この表で明示的に与えられていない残基は、値1の重みを付けられる。残基は、Wolfguy番号付与方式を用いて番号付与される。
【0143】
(表)VHドメインのフレームワーク(左)およびCDR領域(右)の保存された位置についての抗体特異的な重み。
【0144】
ABangle距離
所与の変異体について変異リスクを定量することに加えて、その変異体が参照抗体のVH-VL配向性を保存している可能性が高いかどうかを評価することは有意義である。目標は、参照抗体と同じ抗原結合特性および安定性を保持している抗体変異体を得ることである。この目的のために、Dunbarら(Prot.Eng.Des.Sel. 26 (2013) 611-620)によって定義された6種類のABangle配向性尺度HL、HC1、LC1、HC2、LC2、およびdc(5種類の角度尺度および1種類の直線距離尺度)を用いて、VH-VL配向性が特徴決定された。参照抗体およびその変異体の個々のABangle値は、Bujotzekらによって説明された機械学習に基づくアプローチを用いて予測される(Bujotzek, A., et al., Prot. Struct. Funct. Bioinform., 83 (2015) 681-695)。このアプローチにおいて、VH-VL配向性のパラメーターは、VHドメインとVLドメインのドメイン境界面の大きな影響力を持つ残基の配列フィンガープリントから予測される。
【0145】
ABangleの概念
アミノ酸をベースとする任意の2つの構造を比較する場合、通常、等価な原子の平均二乗偏差(RMSD)のような距離に基づく測定基準が使用される。
【0146】
任意の2つの三次元物体間の配向性を特徴決定するには、以下を定義することが必要である:
- 各物体表面の基準系
- 周囲の配向性パラメーターを測定するための軸
- これらのパラメーターを説明し定量するための専門用語。
【0147】
ABangleの概念は、5種類の角度(HL、HC1、LC1、HC2、およびLC2)ならびに距離(dc)を用いて、VH-VL配向性を一貫性があり絶対的な意味で十分に特徴決定する方法である。抗体の可変ドメインVHおよびVLのペアは、ひとまとめにして抗体Fv断片と表記される。
【0148】
第1の段階では、抗体構造が、データバンク(例えば、タンパク質データバンクPDB)から入手される。Chothiaの抗体番号付与(Chothia and Lesk, 1987)が、各抗体鎖に適用される。首尾良く番号付与される鎖をペアにしてFv領域を形成させる。これは、重鎖のH37位置Cα座標(重鎖可変ドメインの37位のアミノ酸残基のα炭素原子)が、軽鎖のL87位置Cα座標から20Å以内に存在しなければならないという制約を課すことによって行われる。CDHIT(Li, W. and Godzik, A.Bioinformatics, 22 (2006) 1658-1659)を用い、Fv領域のフレームワークに対して配列同一性カットオフ値99%を適用して、抗体の非冗長なセットを作り出す。
【0149】
重鎖ドメインおよび軽鎖ドメイン中の構造的に最も保存されている残基位置を用いて、ドメインの場所を定める。これらの位置は、VHコアセットおよびVLコアセットと表記される。これらの位置は、フレームワークのβ鎖上に主に位置し、各ドメインのコアを形成する。コアセットの位置を、以下の表に示す。
【0150】
これらのコアセットの位置を用いて、抗体Fv領域ドメイン上に基準系を登録する。
【0151】
例えばCDHITを用いて、ドメイン内のフレームワーク位置にわたって配列同一性カットオフ80%を適用して、非冗長データセット中のVHドメインをクラスター化する。大きさが上位30位までのクラスターのそれぞれから、1つの構造を無作為に選択する。このドメインセットを、例えばMammoth-mult (Lupyan, D., et al., Bioinf. 21 (2005) 3255-3263)を用いて、VHコアセット位置に対してアラインする。このアライメントから、βシート境界面の構造的に保存されている8つの位置H36、H37、H38、H39、H89、H90、H91、およびH92に対応するCα座標を導き出す。結果的に得られる240個の座標を介して、平面を当てはめる。VLドメインの場合、位置L35、L36、L37、L38、L85、L86、L87、およびL88を用いて、平面を当てはめる。
【0152】
前述の手順により、2つの基準系平面を任意のFv構造上にマッピングすることが可能になる。したがって、VH-VL配向性の測定を、これら2つの平面間の配向性を測定することと同等にすることができる。これを十分に、かつ絶対的な意味で行うには、次の少なくとも6つのパラメーターが必要である:1つの距離、1つのねじれ角、および4つの屈曲角。これらのパラメーターは、該平面同士を連結する常に変わらない定められたベクトルの周りで測定されなければならない。このベクトルは、以下においてCと表記される。Cを特定するために、前述のように非冗長なセット中の各構造に対して基準系平面を登録し、各平面上にメッシュを配置した。したがって、各構造は等価なメッシュ点、したがって、等価なVH-VLメッシュ点のペアを有する。各構造におけるメッシュ点の各ペアについてユークリッド距離を測定する。分離距離の分散が最小である点のペアを特定する。これらの点をつなぐベクトルを、Cと定義する。
【0153】
座標系は、各平面内にあり、かつCに対応する点を中心とするベクトルを用いて、十分に定められる。H1は、VH平面の第1の主成分と平行するベクトルであり、H2は、第2の主成分と平行する。L1およびL2は、VLドメインにおいて同様に定義される。HL角度は、これら2つのドメイン間のねじれ角である。HC1屈曲角およびLC1屈曲角は、一方のドメインの、他方のドメインに対する傾斜様の変化量と等価である。HC2屈曲角およびLC2屈曲角は、一方のドメインの他方のドメインに対するねじれ様の変化量を説明するものである。
【0154】
VH-VL配向性を説明するために、6つの尺度、すなわち1つの距離および5つの角度が用いられる。これらは、座標系において以下の通りに定義される:
- Cの長さ、dc、
- Cの周りで測定されるH1からL1までのねじれ角、HL、
- H1とCの間の屈曲角、HC1、
- H2とCの間の屈曲角、HC2、
- L1とCの間の屈曲角、LC1、および
- L2とCの間の屈曲角、LC2。
【0155】
用語「VH-VL配向性」は、当業者によって理解されると思われる、当技術分野におけるその一般的な意味に従って使用される(例えば、Dunbar et al., Prot.Eng.Des.Sel. 26 (2013) 611-620;およびBujotzek, A., et al., Proteins, Struct.Funct.Bioinf., 83 (2015) 681-695を参照されたい)。これは、VHドメインとVLドメインが互いに対してどのように向き合っているかを表す。
【0156】
したがって、VH-VL配向性は、
- Cの長さ、dc、
- Cの周りで測定されるH1からL1までのねじれ角、HL、
- H1とCの間の屈曲角、HC1、
- H2とCの間の屈曲角、HC2、
- L1とCの間の屈曲角、LC1、および
- L2とCの間の屈曲角、LC2、
によって定義され、
ここで、基準系平面は、i)VHの8つの位置H36、H37、H38、H39、H89、H90、H91、およびH92に対応するCα座標を整列させ、それらを通る平面を当てはめる段階、ならびにii)VLの8つの位置L35、L36、L37、L38、L85、L86、L87、およびL88に対応するCα座標を整列させ、それらを通る平面を当てはめる段階、iii)各平面に配置物を配置する段階であって、各構造が等価なメッシュ点および等価なVH-VLメッシュ点のペアを有する段階、ならびにiv)各構造におけるメッシュ点の各ペアについてユークリッド距離を測定する段階によって登録され、ベクトルCは、分離距離の分散が最小である点のペアをつなぎ、
ここで、H1は、VH平面の第1の主成分と平行するベクトルであり、H2は、VH平面の第2の主成分と平行するベクトルであり、L1は、VL平面の第1の主成分と平行するベクトルであり、L2は、VL平面の第2の主成分と平行するベクトルであり、HL角度は、この2つのドメイン間のねじれ角であり、HC1およびLC1は、一方のドメインの、他方のドメインに対する傾斜様の変化量と等価な屈曲角であり、HC2屈曲角およびLC2屈曲角は、一方のドメインの他のドメインに対するねじれ様の変化量と等価である。
【0157】
これらの位置は、Chothiaインデックスに基づいて決定される。
【0158】
ベクトルCは、構造の非冗長なセットの全体において最も保存された長さを有するように選択した。距離dcが、この長さである。この平均値は16.2Åであり、標準偏差はわずか0.3Åである。
【0159】
以下の表では、VH-VL配向性の各角度尺度を決定する上で重要な、ランダムフォレストアルゴリズムによって同定された上位10位までの位置および残基を挙げている。
【0160】
(表)Xは、変数L36V/L38E/L42H/L43L/L44F/L45T/L46G/L49G/L95Hを表す
(より詳細な情報については、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられるDunbar, J., et al., Protein Eng. Des. Sel., 26 (2013) 611-620およびBujotzek, A., et al., Prot. Struct. Funct. Bioinf. 83 (2015) 681-695を参照されたい)
【0161】
それにより、VH-VLドメイン間の配向性を予測する、配列に基づく迅速な予測因子が提供される。VH-VL配向性は、VH-VL配向性の様々な自由度を正確に区別するために、6つの絶対的ABangleパラメーターの見地から説明される。2つの配列/構造間の偏差は、アミノ酸骨格のカルボニル原子の平均二乗偏差(RMSD)の平均を用いて示される。
【0162】
本明細書において報告される全ての局面の1つの態様において、VH/VL配向性は、以下のように決定される:
- 多数の変異抗体配列から、および参照抗体について、Fv断片を作製する段階、
- 参照Fv断片について、および多数の変異抗体Fv断片の各変異抗体Fv断片について、抗体Fv断片の配列フィンガープリントに基づいてVH-VL配向性を明らかにする段階、
- 参照抗体のVH-VL配向性と比べたVH-VL配向性の違いが最も小さい変異抗体Fv断片を同定/選択/取得/ランク付けする段階。
【0163】
1つの態様において、この方法は、以下の段階を含む:
- 参照抗体のVH-VLドメイン間角度と比べてVH-VLドメイン間角度の(構造的)類似性が最も高い変異抗体Fv断片を同定/選択/取得/ランク付けする段階。
【0164】
1つの態様において、VH-VL境界面の残基は、(重ね合わされた全てのFv構造の少なくとも90%において)その側鎖原子と対向鎖の近隣原子との距離が4Å以下であるアミノ酸残基である。
【0165】
1つの態様において、VH-VL境界面残基のセットは、残基210、296、610、612、733(Wolfguyインデックスに基づく番号付与)を含む。
【0166】
1つの態様において、VH-VL境界面残基のセットは、残基199、202、204、210、212、251、292、294、295、329、351、352、354、395、396、397、398、399、401、403、597、599、602、604、609、610、612、615、651、698、733、751、753、796、797、798(Wolfguyインデックスに基づく番号付与)を含む。
【0167】
1つの態様において、VH-VL境界面残基のセットは、残基197、199、208、209、211、251、289、290、292、295、296、327、355、599、602、604、607、608、609、610、611、612、615、651、696、698、699、731、733、751、753、755、796、797、798、799、803(Wolfguyインデックスに基づく番号付与)を含む。
【0168】
1つの態様において、VH-VL境界面残基のセットは、残基197、199、202、204、208、209、210、211、212、251、292、294、295、296、327、329、351、352、354、355、395、396、397、398、399、401、403、597、599、602、604、607、608、609、610、611、612、615、651、696、698、699、731、733、751、753、755、796、796、797、798、799、801、803(Wolfguyインデックスに基づく番号付与)を含む。
【0169】
1つの態様において、VH-VL境界面残基のセットは、残基199、202、204、210、212、251、292、294、295、329、351、352、354、395、396、397、398、399、401、403、597、599、602、604、609、610、612、615、651、698、733、751、753、796、797、798、801(Wolfguyインデックスに基づく番号付与)を含む。
【0170】
1つの態様において、VH-VL境界面残基のセットは、残基197、199、202、204、208、209、210、211、212、251、292、294、295、296、327、329、351、352、354、355、395、396、397、398、399、401、403、597、599、602、604、607、608、609、610、611、612、615、651、696、698、699、731、733、751、753、755、796、797、798、799、801、803(Wolfguyインデックスに基づく番号付与)を含む。
【0171】
1つの態様において、同定/選択/取得/ランク付けする段階は、VH-VL配向性に関して上位80%の変異抗体Fv断片に基づいている。
【0172】
1つの態様において、同定/選択/取得/ランク付けする段階は、VH-VL配向性に関して上位20%の変異抗体Fv断片についてである。
【0173】
1つの態様において、VH-VL配向性は、ABangleの6つのVH-VL配向性パラメーターを計算することによって決定される。
【0174】
1つの態様において、VH-VL配向性は、ランダムフォレスト法を用いてABangleのVH-VL配向性パラメーターを計算することによって決定される。
【0175】
1つの態様において、VH-VL配向性は、各ABangleに対して1つのランダムフォレスト法を用いてABangleのVH-VL配向性パラメーターを計算することによって決定される。
【0176】
1つの態様において、VH-VL配向性は、ランダムフォレストモデルを用いて、VHおよびVLのいつも通りのねじれ角、4つの屈曲角(可変ドメイン当たり2つ)、およびピボット軸の長さ(HL、HC1、LC1、HC2、LC2、dc)を計算することによって決定される。
【0177】
1つの態様において、ランダムフォレストモデルは、複合抗体構造データのみを用いて訓練される。
【0178】
1つの態様において、構造的類似性が最大であることは、平均二乗偏差(RMSD)の平均が最小であることである。1つの態様において、RMSDは、非ヒト抗体または親抗体のアミノ酸残基の全てのCα原子(またはカルボニル原子)に関して変異抗体の対応するCα原子と比べて決定されたRMSDである。
【0179】
1つの態様において、コンセンサスVHフレームワークまたはVLフレームワークのいずれかに対してアラインされた鋳型構造から構築され、その後にコンセンサスFvフレームワークに基づいてVH-VLの向きが変更されたモデルが、VH-VL配向性を明らかにするために使用される。
【0180】
1つの態様において、完全なFvのβシートコアに対して(VHおよびVL同時に)アラインされたモデルが、VH-VL配向性を明らかにするために使用される。
【0181】
1つの態様において、コンセンサスFvフレームワークに基づいて抗体Fv断片の向きが変更されたモデルが、VH-VL配向性を明らかにするために使用される。
【0182】
1つの態様において、共通のコンセンサスFvフレームワークに対してアラインされた鋳型構造を用い、VH-VL配向性がいずれの形態にも調整されていないモデルが、VH-VL配向性を明らかにするために使用される。
【0183】
1つの態様において、コンセンサスVHフレームワークまたはVLフレームワークのいずれかに対してアラインされた鋳型構造から構築され、その後に、類似性に基づいて選ばれたVH-VL配向性鋳型構造に基づいてVH-VLの向きが変更されたモデルが、VH-VL配向性を明らかにするために使用される。
【0184】
参照抗体およびその変異体のABangle値がひとたび決定されると、参照抗体のVH-VL配向性に対する類似性に基づいて、それらの変異体をランク付けすることができる。ABangle空間における類似性を計算するために、本発明者らは、ABangleパラメーターのセットを
と定義する。その場合、ABangleパラメーターの2つのセット間のユークリッド距離は、
である。
【0185】
distABangleは、角度尺度(HL、HC1、LC1、HC2、LC2)を直線距離尺度(dc)と混ぜるため、それらは角度間隔において事実に基づく距離と解釈することはできず、抽象的な距離尺度の役割しか果たさない。
【0186】
フィルタリング
SCaRAbの適用により、特定の配列特徴(例えば、参照抗体中に存在する潜在的なグリコシル化部位の除去)または障害(例えば、参照抗体には存在しない新しい遊離システイン残基の導入)について変異タプルをスクリーニングすることができ、それに応じてフィルターを適用することができる。
【0187】
実施例A
B細胞クローニング結合体(BCC結合体、結合ELISA)の単離および特性
3回目の免疫化後の6日目に、免疫化したウサギR176から血液15mlを採取し、108.6×10E6個のPBMCを単離した。VHのNGSの場合、4.2×10E6個のPBMCをRLT緩衝液に再懸濁し、一方、残りのPBMCを、B細胞クローニング処理によって抗原特異的B細胞クローンを単離するためにさらに処理した(マクロファージ除去、抗原に基づく富化)(例えば、Seeber, S., et al, PLoS One, 9 (2014) e86184を参照されたい)。
【0188】
まとめると、このB細胞クローニングプロセスの間に、動物R176の採血1に由来する504個の単一B細胞を、マクロファージ/KLH結合体除去後に沈殿させ培養し、840個の単一B細胞を、抗原(LRP8、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質8、UniProtKB-Q14114)に基づく富化後に沈殿させ培養した。
【0189】
マクロファージ除去後、一次スクリーニングによって、279個のIgG分泌B細胞クローンを同定した。これらのクローンのうちで、4つの上清が抗原に結合した。抗原による富化後、341個のIgG陽性上清を同定することができた。それらのうちで、55個のB細胞上清が抗原に結合した(以下の表を参照されたい)。
【0190】
(表)B細胞クローニングによって同定された結合体の単離および特性
【0191】
NGSデータプールにおける参照抗体の変異体(BCC結合体変異体)の同定
全体として、B細胞クローニングによって同定された4個の結合体を、NGSレパートリーにおけるVH変異体の同定のために選択した;クローンはいずれも、抗原特異的富化後にB細胞クローニングによって単離し、全クローンが、抗原に対する特異性を示し(20ng/ml未満のEC50)、それらのうちの2個が、マウス抗原に対する交差反応性を示した(20ng/ml未満のEC50)(以下の表を参照されたい)。
【0192】
(表)NGS変異体解析のために選択されたB細胞クローンの特性
【0193】
PBMCに由来するNGSレパートリーおよび抗原を用いて富化したB細胞に由来するNGSレパートリーを、参照B細胞結合体のVHと比較して、VH全体(FR1~FR4)におけるアミノ酸置換が6個以下である(フレームワークおよびHVR/CDR中の変異が許容される)VH変異体を同定するために解析した。以下の表に示すように、全体として、441種の多様なVH変異体を同定することができ、4個の結合体に対して、および変異体を与えるNGS試料に対して、分布は異なっていた。
【0194】
【0195】
抗体変異体の構造を手引きとしたクラスター化およびランク付け(SCaRAb)
上記に概説したように、同定された変異体のクラスター化を実施した。これらの結果を以下の表に提示する。クラスター化メドイドに相当する変異体、すなわち、クラスター中の他の全ての変異体に対する平均dist_ABangleが最小である、クラスター中の変異体を、灰色の背景を用いて目立たせていることに留意されたい。一般的に公知であるk-メドイドに基づくクラスター化を、距離に関係する関数を用いて、本明細書において報告される方法に拡大適用した。これらの変異体は、変異体の所与のクラスターの代表または典型と解釈することができる。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
DNA合成および親VKによるHEK一過性トランスフェクションのためのNGS変異体を最終的に選択するために、複数のアミノ酸置換を有し、その結果、AB angle距離が0.5以下であり、かつ遊離システインを有さない、全ての「メドイド」VHを選択した。全体として、クローン755については31種のVHを、クローン763については4種のVHを、クローン770については10種のVHを、クローン776については9種のVHを、選択した(以下の表を参照されたい)。以下の表に示すように、選択された変異体は、PBMCのプールまたは抗原を用いて富化したPBMCのプールのいずれかによって産生された。
【0201】
(表)遺伝子合成および親VKによる一過性トランスフェクションのためのNGS VH変異体の最終選択
【0202】
AP:パニング後の細胞プール;BP:パニング前のPBMC細胞プール
【0203】
用量反応曲線に基づく、NGS変異体の結合解析
変異VHプラスミドおよび親VLプラスミドをHEK293細胞に一過性に同時トランスフェクトした。さらに、参照B細胞クローンもトランスフェクトし、参照として使用した。上清を精製した後、下記の実験セクションで説明するように、ヒト抗原およびマウス抗原への結合に関して全クローンを解析した。EC50に基づく解析は、様々な機会に反復して実施して、統計学的正確さを保証した。
【0204】
図3は、ヒト抗原への結合とマウス抗原への結合との相関プロットを示しており、参照抗体(パニング後のスクリーニングによって同定された結合体)およびNGSによって選択された各クローンを示している。NGS変異体およびBCC参照についての全ての生化学的データおよび変異スコアデータを、以下の表にまとめている。プロットデータから、結合挙動と相対的ランキングに関する良好な相関が示される(表のデータを参照されたい)。変異体の大部分(60~80%)は、関連する対照と同等の、ヒト抗原への結合EC
50値を示し、いくつかの変異体は、若干改善されたEC
50値さえ示す。マウス抗原に対する交差反応性を示しているクローンの場合、マウス抗原に結合する際のEC
50値について、同じことが観察された。BCC763の変異体が、PBMC NGSレパートリー(富化前)において同定され、これらの変異体の80%は、参照と同等の結合特異性を示した;BCC 755およびBCC 776の場合、参照と同等の挙動を有する変異体の大部分が、B細胞の富化プールから回収されたが、それでもなお、数個の優れた結合体は、全PBMC NGSレパートリーから得ることができた。BCC 770の変異体は、富化プールのNGSレパートリーから回収された。各参照抗体について、本明細書において報告される方法を用いて、EC
50値が小さい変異抗体を同定できたことを理解することができる。
【0205】
(表)NGS変異体およびBCC参照についての生化学的データおよび変異スコアデータのまとめ。ヒト抗原とのEC50値に基づく順序(最小値が最初、最大値が最後)。
【0206】
AP:パニング後の細胞プール;BP:パニング前のPBMC細胞プール
【0207】
したがって、この手順を用いて、前述したようにして単離した抗原特異的B細胞クローンと同等の(またはさらに向上した)結合特性を有する抗原特異的結合体を同定することができた。このことは、配列に基づいて同定された変異体のDNA合成、組換え発現、および生化学的解析によって実証された。これにより、NGSデータのまったく新しい用途への道が開かれる。
【0208】
実施例B
開発可能性ホットスポットを有するB細胞クローニング(BCC)結合体のNGS変異体
全体として、7種のB細胞クローニング結合体について、本明細書において報告される方法を用いて、NGSレパートリーにおいてクローン関係にある結合体を同定した;クローンはすべて、hu-CDCP1特異的富化後(富化のタイプは、以下の表に示している)にB細胞クローニングによって単離され、いずれもhu-CDCP1に対する特異性を示し(EC50/IC50 abs(ng/ml)範囲が200ng/ml未満)、VHはいずれも、HCDR中にシステインまたはN-グリコシル化部位スポットを有していた。
【0209】
(表)NGS変異体解析のために選択されたB細胞クローンの特性
【0210】
PBMCに由来するNGSレパートリーおよび抗原を用いて富化したB細胞に由来するNGSレパートリーを、参照B細胞結合体のVHと比較して、VH全体(FR1~FR4)中のアミノ酸置換が11個以下であるVH変異体を同定するために解析した。開発可能性特性が改善されたVHコグネイト変異体(HCDR中にCysおよび/またはN-グリコシル化部位スポットがもはや存在しない)を遺伝子合成し、HEK細胞中で親軽鎖を同時トランスフェクトし、発現された抗体の結合特性をBCC参照と比較して評価した。
【0211】
用量反応曲線に基づく、NGS変異体の結合解析
変異VHプラスミドおよび親VLプラスミドをHEK293細胞に一過性に同時トランスフェクトした。さらに、7種の親抗体もトランスフェクトし、参照として使用した。上清を精製した後、実施例のセクションで説明するように、ヒトCDCP1抗原への結合に関して全クローンを解析した。
【0212】
図4は、各親クローンと比較した、ヒトCDCP1へのNGS変異体の結合を示す。各抗体について、異なる数のNGS配列変異体を試験した。各クローンについて、参照抗体と同じ範囲のEC
50値を示す少なくとも1つの変異体を同定することができた(*のしるしをつけている)。
【0213】
以下の表において、各BCCクローンについて、同定されたVH変異体、それらの変異体を与えるNGS試料のB細胞供給源、VH全体におけるアミノ酸置換の合計数、および絶対的EC50/IC50値を示している。
【0214】
(表)インシリコの開発可能性特性が改善された同定されたVH変異体:それらの変異体を与えるNGS試料のB細胞供給源、VH全体におけるアミノ酸置換の合計数、および絶対的EC
50/IC
50値。
【0215】
NGSプール中で発見された確認された結合体に由来するCDRH3配列は、かなり独特な特徴を示して、配列を分類するための基本原理となった。「最も優れた」結合体の一部は、CDRH3領域に強い相同性を示した。NGSレパートリープールを用いて、優れた結合体のそのような変異体を見つけられることが見出された。
【0216】
十分なシーケンシング深度および最適化された標準化条件を用いる解析は、このようなプロセスのための基礎である。最も重要なことには、系統学的由来が同じである可能性が高い、同等の特性を有する配列を1つのグループにするには、複雑な配列多様性をDNAレベルで解析しなければならない。特に、クローン性増殖時に体細胞超変異だけでなく遺伝子変換も使用するウサギを用いる場合、このグループ分けを行ってクローン的に関係するVHの同定を可能にすることは非常に難しい。
【0217】
上記で示した4種のBCC結合体と同一のCDRH3配列を有するVH変異体を求めて、本明細書において報告される方法を用いてNGS配列プールをスクリーニングした。完全なVH領域のDNAレベルでの解析により、まさに同一のVHに加えて、CDRH3以外のV領域における多数の変異によって参照BCCとは異なる変異体を同定できることが示された(以下の表を参照されたい)。これらの配列のアライメントにより、これらの変異が配列の全体にわたる様々な異なる位置で起こっており、特定の領域に集中していないことが示された(データ不掲載)。
【0218】
(表)選択されたCDRH3配列およびそれらのVH内の変異体の詳細な解析。
【0219】
同一のCDRH3(およびVH中の変異)を有する配列のほかに、NGSプールをスクリーニングして、参照BCC結合体のCDRH3領域と相同性が高いCDRH3領域を有する変異体を同定することもできる。これは、結合体のCDRH3を全NGSレパートリーとアラインし、相同性の高い(例えば、ペプチドレベルで最大1個の変異)配列を選択することによって実施することができる。以下の表は、「最も優れた」結合体9~11のCDRH3配列を用いて実施したアライメントの抜粋を示す。NGSプール中に存在するCDRH3配列S1~S25は、これらの「最も優れた」結合体と密接な関係がある。
【0220】
(表)長さが同じであり相同性が高いCDR3の抜粋物(S1~S25)とアラインした、同定された結合体9~11のペプチドCDR3配列。
【0221】
前述したように、4種のBCC CDRH3が、複数の動物のNGS試料中で発見されている。より多くの共通配列CDR3が、免疫化後の動物において発見されており、これらの配列が抗原特異的であることが示唆されていることが、以前の研究で示されている(Galson, J.D., et al., Crit.Rev.Immunol. 35 (2015) 463-478)。
【0222】
上記の内容から理解できるように、BCC由来の配列データと組み合わせたNGSによって生じたデータの組合せを用いて、参照抗体の代わりとなる抗原特異的変異抗体を同定することができる。
【0223】
すなわちBCC結合体と比較して、CDRH3は類似または同一であるがVHの他の領域内の変異率が高い配列を求めてNGSデータをスクリーニングして、特性が向上した抗体を発見することができる。
【0224】
VL
共通の軽鎖を発現するトランスジェニック動物が免疫化のために使用される場合、単にVHレパートリーの解析だけで十分である。他のトランスジェニックモデルまたは野生型動物において、VH/VLペアが一体を成し、両方とも等しい様式で抗原特異性に寄与していることを確認する必要がある。このために、単細胞クローニングと組み合わせた単細胞選別から特殊なRNA捕捉まで多岐にわたる、幅広い方法を使用することができる。例えば、融合PCRは、UMIエラー訂正方法と組み合わせるのに非常に良く適している。ペアの鎖の情報は、各単細胞に由来するαおよびβ(または重鎖および軽鎖)転写物の物理的結合を通じて保持される。転写物の融合は、(多重化)オーバーラップ伸長PCRによって遂行することができる。
【0225】
以下の実施例および図面は、本発明の理解を助けるために提供され、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において説明される。本発明の精神から逸脱することなく、説明される手順に修正を加えてよいことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【
図1-1】参照抗体763のVH配列(上側)およびVL配列(下側)ならびにそのVHドメインの6種の変異体。フレームワークおよびCDR分類は、Wolfguy命名法に従う。VH変異体において、参照に対するアミノ酸置換を薄い灰色で示している。CDRには、番号付与の箇所に灰色で影をつけている。
【
図2-1】参照抗体763のVH配列(上側)およびVL配列(下側)ならびにそのVHドメインの6種の変異体。VH-VL配向性フィンガープリントの一部を形成している残基を、灰色の背景を用いて示している。この領域におけるアミノ酸置換は、参照抗体と比較してVH-VL配向性の変化を誘発する可能性が高い。CDRには、番号付与の箇所に灰色で影をつけている。
【
図3A】EC
50(M)相関プロット;全NGS変異体のヒトLRP8への結合対マウスLRP8への結合。対照、すなわち、スクリーニングおよびパニングによって同定されたクローン(赤色および青色)、ならびにNGSによって同定されたクローン(灰色)をプロットした;A:BCC 763の変異体、B:BCC 776の変異体、C:BCC 770の変異体、D:BCC 755の変異体。
【
図4A】絶対的EC
50(nM)値は、ヒトCDCP1への全NGS変異体(白い棒)の結合を示す。親対照は、黒色で示している。好結果のNGS変異体には、(*)のしるしをつけている。na=入手不可能であり、変異体の結合が弱いために、結合曲線からEC
50値を導き出せなかったことを意味する。A:CDCP1_105の変異体;B:CDCP1_223の変異体;C:CDCP1_236の変異体;D:CDCP1_284の変異体;E:CDCP1_212の変異体;F:CDCP1_088の変異体;G:CDCP1_234の変異体。
【実施例】
【0227】
実施例1
ウサギの免疫化
ヒトLRP8のKLHコンジュゲートを、ニュージーランド白ウサギの免疫化のために使用した。0日目に皮内適用によって、完全フロイントアジュバントを用いて乳化した500μgの免疫原で、7、14、28、42日目に、交互の筋肉内適用および皮下適用によって、各500μgで、各ウサギを免疫化した。その後、毎月、500μgの皮下免疫化をウサギに施し、血清力価を測定するために、免疫化後7日目に少量の血液試料を採取した。より多量の血液試料(推定される総血液量の10%)を、3ヶ月目、4ヶ月目、および5ヶ月目の免疫化の間に(免疫化後5~7日目に)採取し、末梢単核細胞を単離し、それらをB細胞クローニングプロセスにおいて抗原特異的B細胞の供給源として使用した。
【0228】
実施例2
血清力価の測定(ELISA)
PBS中0.5μg/mlビオチン標識ヒトLRP8を、100μl/ウェルの分量で、ストレプトアビジンでコーティングした96ウェルプレートに固定化し、続いて、200μl/ウェルのPBS中2% CroteinCを用いてプレートをブロックした。その後、0.5% CroteinCを含むPBSに溶かした2つ1組の100μl/ウェルの抗血清段階希釈物を、添加した。検出は、0.5% CroteinCを含むPBSに溶かしてそれぞれ希釈したHRP結合型ロバ抗ウサギIgG抗体(Jackson Immunoresearch/Dianova、カタログ番号711-036-152;1/16000)を100μl/ウェルの分量で用いて行った。全ての段階において、プレートを37℃で1時間インキュベートした。各段階の間は常に、PBS中0.05% Tween 20を用いてプレートを3回洗浄した。100μl/ウェルのBM Blue POD(peroxidase)-基質可溶性物質(Roche Diagnostics GmbH, Mannheim, Germany)を添加することによってシグナルを発現させ、100μl/ウェルの1M HClを添加することによって停止させた。吸光度を450nmで読み取り、参照としての690nmと比較した。力価は、最大半量シグナルをもたらす、抗血清の希釈度と定義した。
【0229】
実施例3
ウサギ末梢血単核細胞(PBMC)の単離
血液試料は、免疫化した野生型ウサギ(NZW)から採取した。製造業者の仕様書に従って哺乳動物用リンフォライト(Cedarlane Laboratories, Burlington, Ontario, Canada)を用いて密度遠心分離する前に、EDTAを含む全血を1×PBS(PAA, Pasching, Austria)で2倍に希釈した。PBMCを1×PBSで2回洗浄した。
【0230】
実施例4
マクロファージ/単球の除去
KLHでコーティングした滅菌済みSA-6ウェルプレートにPBMCを播種して、非特異的接着を利用してマクロファージおよび単球を除去し、KLHへの細胞結合を取り除いた。各ウェルを4mlの培地および免疫化ウサギに由来する最高6×10E6個のPBMCで最大限に満たし、37℃および5%CO2で1時間、結合させた。上清中の細胞(末梢血リンパ球(PBL))を、抗原パニング段階に使用した。
【0231】
実施例5
B細胞の富化
ストレプトアビジンでコーティングした滅菌済み6ウェルプレート(Microcoat, Bernried, Germany)を、PBSに溶かした2μg/mlのビオチン標識KLHタンパク質またはビオチン標識LRP8/CDCP1タンパク質のいずれかで、室温で3時間コーティングした。パニング段階の前に、これらの6ウェルプレートを無菌PBSで3回洗浄した。コーティングしたプレートに、培地4ml当たり最高6×10E6個のPBLを播種し、37℃および5%CO2で1時間結合させた。ウェルを1×PBSで1~2回注意深く洗浄することによって、非接着細胞を除去した。37℃および5%CO2で10分間トリプシンを用いて、残存する粘着性細胞を剥離させた。EL-4 B5培地を用いてトリプシン処理を止めた。免疫蛍光染色するまで、これらの細胞を氷上で保存した。
【0232】
EL-4 B5培地
10%FCS(Hyclone, Logan, UT, USA)、2mMグルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(PAA, Pasching, Austria)、2mMピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES(PAN Biotech, Aidenbach, Germany)、および0.05mM β-メルカプトエタノール(Gibco, Paisley, Scotland)を添加されたRPMI 1640(Pan Biotech, Aidenbach, Germany)。
【0233】
実施例6
免疫蛍光染色およびフローサイトメトリー
抗IgG抗体FITCコンジュゲート(AbD Serotec, Dusseldorf, Germany)を、単細胞選別に使用した。表面染色のために、除去段階および富化段階(実施例4および5)で前処理したB細胞を、PBS(phosphate buffered saline solution)に溶かした抗IgG抗体FITCコンジュゲートと共にインキュベートし、暗所、4℃で45分間インキュベートした。染色後、これらの細胞を氷冷PBSで2回洗浄した。最後に、標識されたB細胞を氷冷PBSに再懸濁し、直ちにFACS解析に供した。FACS解析前に濃度5μg/mlのヨウ化プロピジウム(BD Pharmingen, San Diego, CA, USA)を加えて、死細胞と生細胞とを区別した。
【0234】
コンピューターおよびFACSDivaソフトウェア(BD Biosciences, USA)を備えたBecton Dickinson FACSAriaを、単細胞選別に使用した。
【0235】
実施例7
B細胞培養
選別された単一B細胞の培養は、Seeberらによって説明されている方法に従って行った(Seeber, S., et al., PLoS One, 9 (2014) e86184.)。簡単に説明すると、選別された単一のウサギB細胞を、Pansorbin細胞(1:100,000)(Calbiochem (Merck) , Darmstadt, Germany)、5%ウサギ胸腺細胞上清(MicroCoat, Bernried, Germany)、およびγ線照射されたマウスのEL-4 B5胸腺腫細胞(5×10E5個の細胞/ウェル)を含むEL-4 B5培地をウェル当たり200μl入れた96ウェルプレート中で、インキュベーターにおいて37℃で7日間、インキュベートした。B細胞培養の上清をスクリーニングのために取り除き、残存する細胞を直ちに回収し、100μlのRLT緩衝液(Qiagen, Hilden, Germany)に入れて-80℃で凍結した。
【0236】
実施例8
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
ヒト抗原
抗原、すなわちビオチン標識ヒトLRP8を、384ウェルマイクロタイタープレート(Maxisorb(ストレプトアビジン付き)、Nunc)において、PBS、0.5% BSA、および0.05% Tweenに溶かして合計体積25μLで、濃度250ng/mLの抗LRP8抗体を含む5μLの試料と共にインキュベートした。25℃で1.5時間のインキュベーションの後、90μLのPBSで6回洗浄することによって未結合抗体を除去した(分注および吸引)。PODにコンジュゲートされた抗ウサギ抗体(ECL抗ウサギIgG-POD、カタログ番号NA9340V;POD=ペルオキシダーゼ)を用いて、抗原-抗体複合体を検出した。35μLのPOD基質3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB;Piercenet、カタログ番号34021)を添加してから20~30分後に、光学濃度を370nmで測定した。GraphPad Prism 6.0ソフトウェアによって4変数のロジスティックモデルを用いて、EC50値を計算した。
【0237】
マウス抗原
抗原、すなわちビオチン標識マウスLRP8を、384ウェルマイクロタイタープレート(Maxisorb(ストレプトアビジン付き)、Nunc)において、PBS、0.5% BSA、および0.05% Tweenに溶かして合計体積25μLで、濃度250ng/mLの抗LRP8抗体を含む5μLの試料と共にインキュベートした。25℃で1.5時間のインキュベーションの後、90μLのPBSで6回洗浄することによって未結合抗体を除去した(分注および吸引)。PODにコンジュゲートされた抗ウサギ抗体(ECL抗ウサギIgG-POD、カタログ番号NA9340V)を用いて、抗原-抗体複合体を検出した。35μLのPOD基質3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB、Piercenet、カタログ番号34021)を添加してから20~30分後に、光学濃度を370nmで測定した。GraphPad Prism 6.0ソフトウェアによって4変数のロジスティックモデルを用いて、EC50値を計算した。
【0238】
実施例9
SLICクローニングのためのVドメインのPCR増幅
製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin 8/96 RNAキット(Macherey&Nagel;カタログ番号740709.4、740698)を用いて、RLT緩衝液(Qiagen、カタログ番号79216)に再懸濁したB細胞溶解物から全RNAを調製した。60μlのRNaseフリー水を用いて、RNAを溶出させた。製造業者の取扱い説明書に従ってSuperscript III第一鎖合成SuperMix (Invitrogen、カタログ番号18080-400)およびオリゴdTプライマーを用いる逆転写酵素反応によって、6μlのRNAを利用してcDNAを作製した。段階はすべて、Hamilton ML Starシステムを用いて実施した。重鎖に対するプライマーrbHC.upおよびrbHC.doならびに軽鎖に対するプライマーrbLC.upおよびrbLC.doを用い、最終体積50μlで、AccuPrimeス―パーミックス(Invitrogen、カタログ番号12344-040)を用いて、4μlのcDNAを利用して免疫グロブリンの重鎖可変領域および軽鎖可変領域(VHおよびVL)を増幅した。
【0239】
フォワードプライマーはすべて、(それぞれVHおよびVLの)シグナルペプチドに対して特異的であったのに対し、リバースプライマーは、(それぞれCH1およびCLの)定常領域に対して特異的であった。RbVH+RbVLのためのPCR条件は次のとおりであった:94℃で5分間のホットスタート;94℃で20秒間、70℃で20秒間、68℃で45秒間を35サイクル;68℃で7分間の最終伸長。
【0240】
50μlのPCR溶液のうちの8μlを48 E-Gel 2%(Invitrogen、カタログ番号G8008-02)に載せた。製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin Extract IIキット(Macherey&Nagel;カタログ番号740609250)を用いて、陽性のPCR反応物を精製し、50μlの溶出緩衝液で溶出させた。精製段階はすべて、Hamilton ML Starletシステムを用いて実施した。5μlの精製したVHおよびVLのPCR溶液を、DNAシーケンシングのために使用した。
【0241】
実施例10
PBMCおよび抗原を用いて富化したB細胞からの、NGS VH-PCR
4.2×10E6個のPBMCおよび1.2×10E6個の、抗原を用いて富化したB細胞を、300μlのRLT緩衝液(Qiagen;カタログ番号79216)中に再懸濁した。製造業者のプロトコールに従ってRNeasy MiniキットまたはMicroキット(Qiagen;カタログ番号74134)を用いて、B細胞溶解物から全RNAを調製した。PBMCおよび抗原を用いて富化したB細胞について、それぞれ50μlおよび30μlのRNaseフリー水でRNAを溶出させた。製造業者の取扱い説明書に従ってSuperscript III第一鎖合成SuperMix (Invitrogen、カタログ番号18080-400)およびオリゴdTプライマーを用いる逆転写酵素反応によって、6μlのRNAを利用してcDNAを作製した。
【0242】
プライマーrbHCfinal_FS.upおよびrbHC_shortCH1_fs2.doを用い、最終体積50μlで、AccuPrimeス―パーミックス(Invitrogen、カタログ番号12344-040)を用いて、50~80ngのcDNAを利用して免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)を増幅した。
【0243】
フォワードプライマーはシグナルペプチドVHに対して特異的であるのに対し、リバースプライマーは、定常領域に対して特異的である。PCR条件は次のとおりであった:94℃で3分間のホットスタート;94℃で20秒間、68℃で20秒間、68℃で40秒間を22サイクル;68℃で5分間の最終伸長。各細胞プールの試料について、合計6回のPCR反応を実施した。
【0244】
1つのPCR反応物の8μlを12 E-Gel2%(Invitrogen、カタログ番号G521802)に載せた。製造業者のプロトコールに従ってNucleoSpin Extract IIキット(Macherey&Nagel;カタログ番号740609)を用いて、2種のB細胞ライブラリー(PBMCライブラリー;抗原を用いて富化したB細胞のライブラリー)それぞれについての全PCR反応物を、1つのカラムを用いて精製し、50μlの溶出緩衝液で溶出させた。5μlの浄化したVHのPCR溶液を、DNA-MiSeqシーケンシングのために使用した。
【0245】
実施例11
NGSシーケンシングのための鋳型の調製
ペアードエンドラン 2×300塩基:試料用の最小DNA量:100ng、十分な500ng
【0246】
NGSシーケンシングは、Illumina製のMiSeqにおいて実行した。AMPure XPビーズを用いて精製した後、DNA1000 Agilent BioAnalyzerチップにおいてPCR鋳型を評価した。製造業者のプロトコールに従ってTruSeq Nano DNA試料調製キットを用いて、ライブラリー調製を実施した。
【0247】
最終的なライブラリーを、qPCR技術を用いて定量した。qPCR反応物をKAPA SYBR FAST qPCRプロトコールに従って調製し、Roche Light Cycler 480を用いて実行した。これらの試料をまとめて、PhiXと比較した。
【0248】
より詳細には、Illumina製のシーケンシング用プライマーを用いてペアードエンドIllumina MiSeqシーケンシングを実行することによって、ライブラリーを解析した。
【0249】
全ての試薬は、実験を開始する直前に室温で解凍した。試薬カートリッジは、水浴によって解凍した。カートリッジを数回逆さまにして、試薬が確実に混ざるようにし、実験台にカートリッジをぶつけることによって気泡をすべて除いた。800μLの実験室グレードの水に200μLの1M NaOHを添加することによって、1mLの0.2M NaOHを調製した。調製した溶液をボルテックスし、遠心沈殿し、氷上で保存した。フローセルを室温にし、実験質グレードの水で注意深く洗浄し、Kimtechプレシジョンワイプを用いて乾かし、取扱い説明書に従ってシーケンシング装置に挿入した。5μlの4nM DNAライブラリープールを、新しく希釈した0.2M NaOHと混合し、短時間ボルテックスし、卓上用の遠心分離機を用いて遠心沈殿させた。溶液を室温で5分間インキュベートし、990μLの予め冷やしたHT1を添加し、短時間ボルテックスすることによって混合した。結果として生じる、1mM NaOH中20pMの変性ライブラリーを、次に使用するまで氷上で保存した。600μlの12pMライブラリーを得るために、360μLの20pM変性ライブラリーを240μlの予め冷やしたHT1で希釈し、数回逆さまにして混合し、次いで、ごく短時間、遠心分離した。結果として生じる12pMのライブラリーを、次に使用するまで氷上で保存した。4nMのPhiXライブラリーを調製するために、2μLの10nM PhiXライブラリー対照を、3μlの10mM Tris-HCl、pH8.5(0.1% Tween 20を含む)に添加した。この希釈物を短時間ボルテックスし、ごく短時間、遠心分離した。PhiX対照を変性させるために、新たに希釈した5μlの0.2M NaOHを、5μlの調製した4nM PhiXライブラリーに添加し、短時間ボルテックスし、卓上用の遠心分離機を用いて遠心沈殿させた。溶液を室温で5分間インキュベートし、990μLの予め冷やしたHT1を添加し、短時間ボルテックスすることによって混合した。12.5pMのPhiXライブラリーを得るために、375μLの20pM変性PhiX溶液を225μLの予め冷やしたHT1と混合し、短時間ボルテックスし、ごく短時間、遠心分離した。520μLの12pM試料ライブラリーおよび80μLの12.5pM PhiXを合わせて、15%のPhiX対照スパイクインを含むライブラリーを作り出した。合わせた試料ライブラリーおよびPhiX対照は、MiSeq試薬カートリッジに載せるまで氷上で保存した。
【0250】
実施例12
クローン関係にあるVH変異体を同定するための、NGS配列のバイオインフォマティクス解析
Illumina MiSeqからのデータは、配列につき2つの、ペアの通常重複しているリードからなる。データはすべて、以下のワークフローを用いて解析した:
>FLASH(他の任意のソフトウェアツールも同様にうまくいくはずである)によるペアリードのアセンブリ
○ FLASHはhttp://ccb.jhu.edu/software/FLASH/から入手可能
○ Flash v1.2.10を初期設定パラメーター(出っ張りなし、最小オーバーラップ10bp、最大オーバーラップ65bp)で使用
○ 結果:Illuminaアダプターを含まない重複した配列
>抗体可変ドメインの抽出:
○ DNAを全ての6つのORFに翻訳
○ 各ORFについて:
・コンセンサスFW1配列と比較することによってFW1のペプチド配列を探し、違いを数える。その値が所定の閾値を上回る場合、継続する。
・FW2を同様に探して、FW1への連結を試みる(両者の間の領域はCDR1である)
・FW3を同様に探して、FW2への連結を試みる(両者の間の領域はCDR2である)
・FW4を同様に探して、FW3への連結を試みる(両者の間の領域はCDR3である)
○ 通常、6つのORFのうちのただ1つにおいて、前述の手順を用いて可変ドメインを同定することができる。複数が発見される場合、コンセンサスへの距離を説明したスコアを計算し、最も良いORFを選択する。
○ 発見された可変ドメインについて、いくつかの値がある。関係が最も近い生殖系列が、可変ドメイン配列をIMGTによって提供される入手可能な生殖系列レパートリーに対してアラインするだけで検出されたこと、そしてそれらがベストヒットを記録することが、最も重要である。これによって、これらの配列の起源である可能性が非常に高いV/D/J生殖系列も、配列ごとに報告される。
○ 結果:含まれる可変ドメインについての全情報を含む、配列1つにつき1行の表。
○ 実施される追加の解析:参照配列と比較した、DNA/PEPレベルで各CDR/FRについて計算された変異数。
【0251】
実施例13
親VLによる、NGS VH変異体の一過性トランスフェクション
NGS変異体の組換え発現のために、B細胞クローンの親VLをコードするPCR産物を、オーバーハングクローニング法(Haun, R.S., et al., BioTechniques 13 (1992) 515-518;Li, M.Z., et al., Nature Methods 4 (2007) 251-256)によって、発現ベクター中の、VL領域を受け入れるためのウサギ定常領域を含む発現カセット中にcDNAとしてクローニングした。発現ベクターは、イントロンAを含む5'CMVプロモーターおよび3'BGHポリアデニル化配列からなる発現カセットを含んでいた。発現カセットに加えて、プラスミドは、pUC18由来の複製起点および大腸菌(E. coli)におけるプラスミド増幅のためのアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子を含んでいた。さらに、発現ベクターは、VL領域を受け入れるためのウサギκLC定常領域も含んでいた。
【0252】
κ定常領域およびVL挿入物をコードする線状化発現プラスミドを、重複プライマーを用いるPCRによって増幅した。精製したPCR産物を、一本鎖オーバーハングを生じさせるT4 DNA-ポリメラーゼと共にインキュベートした。dCTPを添加することによって、この反応を停止させた。次の段階で、プラスミドおよび挿入物を混合し、部位特異的組換えを誘導するrecAと共にインキュベートした。組み換えられたプラスミドを大腸菌中にトランスフォームした。翌日、成長したコロニーを採取し、プラスミド調製、制限解析、およびDNAシーケンシングによって、正確に組み換えられたプラスミドの有無を検査した。
【0253】
選択したNGS VH変異体を合成し(Gene Art, Regensburg, Germany)、発現ベクター中にcDNAとしてクローニングした。発現ベクターは、イントロンAを含む5'CMVプロモーターおよび3'BGHポリアデニル化配列からなる発現カセットを含んでいた。発現カセットに加えて、プラスミドは、pUC18由来の複製起点および大腸菌におけるプラスミド増幅のためのアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子を含んでいた。さらに、発現ベクターは、VH領域を受け入れるように設計されたウサギIgG定常領域も含んでいた。
【0254】
抗体発現のために、試薬供給業者によって示される手順に従って239-Freeトランスフェクション試薬(Novagen)を用いることによって、500ngの単離されたHCプラスミドおよびLCプラスミドを2ml(96ウェルプレート)のFreeStyle HEK293-F細胞(Invitrogen、カタログ番号R790-07)中に一過性に同時トランスフェクトした。1週間の培養後、HEK上清を採取し、ろ過し(1.2μm Supor-PALL)、MabSelectSuRe(50μl、GE Healthcare)を用いて精製した。1×PBSでカラムを平衡化した。試料を2.5mM HCl、pH2.6で溶出させ、10×PBSを用いて中和した。
【0255】
実施例14
抗原(CDCP1)特異的選別のための染色手順
マクロファージ除去段階から得られた細胞を用いて、抗原特異的選別を実施した。1巡目に、これらの細胞を、濃度5μg/mlのビオチン標識CDCP1抗原と共に氷上でインキュベートした。2回の洗浄段階の後、ビオチン標識され細胞に結合したCDCP1を、A647-ストレプトアビジンコンジュゲート(Invitrogen)を用いて検出した。並行して、抗IgG FITC(AbD Serotec, Dusseldorf, Germany)および抗IgM PE(BD Pharmingen)抗体を添加した。染色した細胞を2回洗浄した。最後に、PBMCを氷冷PBSに再懸濁し、直ちにFACS解析に供した。単細胞選別に使用した細胞ゲートは、rbIgM-/rbIgG/CDCP1+であった。
【0256】
実施例15
Hu CDCP1結合体のスクリーニング
ストレプトアビジンでコーティングされたNunc Maxisorbプレート(MicroCoat、カタログ番号11974998001)を、濃度200ng/mlのビオチン標識ヒトCDCP1-AviHis融合タンパク質を25μl/ウェル用いてコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液(Phosphate Buffered Saline Tween-20)を用いて2×90μl/ウェル)後、25μlの抗CDCP1抗体試料を添加し、室温で1時間インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液を用いて3×90μl/ウェル)後、25μl/ウェルのヤギ抗ヒトIgG-HRPコンジュゲート(Millipore、カタログ番号AP502P)を1:1,000希釈で添加し、振盪機に載せて室温で1時間インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液を用いて4×90μl/ウェル)後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche Diagnostics GmbH、カタログ番号 11835033001)を添加し、ODが1.5~2.5に達するまでインキュベートした。25μl/ウェルの1N HClを添加することによって反応を停止させた。測定は、370/492nmで行った。
【0257】
実施例16
PBMCおよび抗原を用いて富化した(パニング試料)B細胞からのNGS VH-PCR
4×10E6個のPBMCおよび抗原を用いて富化したB細胞352個を、350μlのRLT緩衝液(Qiagen、カタログ番号79216)中に再懸濁した。製造業者のプロトコールに従ってRNeasy MiniキットまたはMicroキット(Qiagen、カタログ番号74134)を用いて、B細胞溶解物から全RNAを調製した。PBMCおよび抗原を用いて富化したB細胞について、それぞれ50μlおよび30μlのRNaseフリー水でRNAを溶出させた。製造業者の取扱い説明書に従ってSuperscript III第一鎖合成SuperMix(Invitrogen、カタログ番号18080-400)およびオリゴdTプライマーを用いる逆転写酵素反応によって、6μlのRNAを利用してcDNAを作製した。
【0258】
プライマーrbHCfinal_FS.upおよびrbHC_shortCH1_fs2.doを用い、最終体積50μlで、AccuPrimeス―パーミックス(Invitrogen、カタログ番号12344-040)を用いて、50~80ngのcDNAを利用して免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)を増幅した。
【0259】
フォワードプライマーはシグナルペプチドVHに対して特異的であるのに対し、リバースプライマーは、定常領域に対して特異的である。PCR条件は次のとおりであった:94℃で3分間のホットスタート;94℃で20秒間、68℃で20秒間、68℃で40秒間を20サイクルおよび29サイクル(それぞれ、PBMC試料の場合および抗原を用いて富化した試料の場合);68℃で5分間の最終伸長。各細胞プール試料について、合計6~8回のPCR反応を実施した。
【0260】
CDCP1:3種の野生型ウサギ(5571、5565、5566)
【0261】
シーケンシングの結果:ウサギVH配列およびクラスターの数
【0262】
実施例17
親VLによる、NGS VH変異体のHEK一過性トランスフェクション
NGS変異体の組換え発現のために、B細胞クローンの親VLをコードするPCR産物を、オーバーハングクローニング法(Haun, R.S., et al., BioTechniques 13 (1992) 515-518;Li, M.Z., et al., Nature Methods 4 (2007) 251-256)によって、発現ベクター中にcDNAとしてクローニングした。発現ベクターは、イントロンAを含む5'CMVプロモーターおよび3'BGHポリアデニル化配列からなる発現カセットを含んでいた。発現カセットに加えて、プラスミドは、pUC18由来の複製起点および大腸菌におけるプラスミド増幅のためのアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子を含んでいた。さらに、発現ベクターは、VL領域を受け入れるためのウサギκLC定常領域も含んでいた。
【0263】
κ定常領域およびVL挿入物をコードする線状化発現プラスミドを、重複プライマーを用いるPCRによって増幅した。精製したPCR産物を、一本鎖オーバーハングを生じさせるT4 DNA-ポリメラーゼと共にインキュベートした。dCTPを添加することによって、この反応を停止させた。次の段階で、プラスミドおよび挿入物を混合し、部位特異的組換えを誘導するrecAと共にインキュベートした。組み換えられたプラスミドを大腸菌中にトランスフォームした。翌日、成長したコロニーを採取し、プラスミド調製、制限解析、およびDNAシーケンシングによって、正確に組み換えられたプラスミドの有無を検査した。
【0264】
選択したNGS VH変異体を合成し(Gene Art, Regensburg, Germany)、発現ベクター中にcDNAとしてクローニングした。発現ベクターは、イントロンAを含む5'CMVプロモーターおよび3'BGHポリアデニル化配列からなる発現カセットを含んでいた。発現カセットに加えて、プラスミドは、pUC18由来の複製起点および大腸菌におけるプラスミド増幅のためのアンピシリン耐性を与えるβ-ラクタマーゼ遺伝子を含んでいた。さらに、発現ベクターは、VH領域を受け入れるように設計されたウサギIgG定常領域も含んでいた。
【0265】
抗体発現のために、試薬供給業者によって示される手順に従って239-Freeトランスフェクション試薬(Novagen)を用いることによって、500ngの単離されたHCプラスミドおよびLCプラスミドを2ml(96ウェルプレート)のHEK293-F細胞(Invitrogen、カタログ番号R790-07)中に一過性に同時トランスフェクトした。1週間の培養後、HEK上清を採取し、ろ過し(1.2μm Supor-PALL)、MabSelectSuRe(50μl、GE Healthcare)を用いて精製した。1×PBSでカラムを平衡化した。試料を2.5mM HCl、pH2.6で溶出させ、10×PBSを用いて中和した。
【0266】
実施例18
ヒトCDCP1結合ELISA
ストレプトアビジンでコーティングされたNunc Maxisorbプレート(MicroCoat、カタログ番号11974998001)を、濃度200ng/mlのビオチン標識ヒトCDCP1-AviHis融合タンパク質を25μl/ウェル用いてコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液を用いて2×90μl/ウェル)後、25μlの抗CDCP1抗体試料を、5μg/mlから始まる1:2希釈系列で添加した。プレートを室温で1時間インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液を用いて3×90μl/ウェル)後、25μl/ウェルの、ヤギ抗ヒトIgG-HRPコンジュゲート(Jackson、カタログ番号109-036-098)およびロバ抗ウサギIgG(GE Healthcare、カタログ番号 NA9340V、ロット番号389592)の混合物を1:9,000希釈で添加し、振盪機に載せて室温で1時間インキュベートした。洗浄(PBST緩衝液を用いて4×90μl/ウェル)後、25μl/ウェルのTMB基質(Roche、カタログ番号 11835033001)を添加し、ODが1.5~2.5に達するまでインキュベートした。25μl/ウェルの1N HClを添加することによって反応を停止させた。測定は、370/492nmで行った。
【配列表】