IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ IHI運搬機械株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-軌道走行式機械のレールブレーキ装置 図1
  • 特許-軌道走行式機械のレールブレーキ装置 図2
  • 特許-軌道走行式機械のレールブレーキ装置 図3
  • 特許-軌道走行式機械のレールブレーキ装置 図4
  • 特許-軌道走行式機械のレールブレーキ装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】軌道走行式機械のレールブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 9/18 20060101AFI20240416BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B66C9/18
B66C15/00 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020016187
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021123437
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000198363
【氏名又は名称】IHI運搬機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石野 泰造
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-088284(JP,A)
【文献】特開平08-247189(JP,A)
【文献】特開2019-199220(JP,A)
【文献】特開2018-062404(JP,A)
【文献】特公昭62-034674(JP,B2)
【文献】特開2018-203429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0108447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 9/00-17/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールの走行車輪転動面に対しブレーキパッドを押付・離反自在な軌道走行式機械のレールブレーキ装置において、
前記レールの走行車輪転動面に対しピストンロッドが伸縮自在に配設される流体圧シリンダと、
該流体圧シリンダのピストンロッドの下端に取り付けられる押圧盤と、
該押圧盤の下面に埋め込むように取り付けられるベースプレートとを備え、
前記ブレーキパッドは、
前記ベースプレートの下面に取り付けられるメタル系の第一摩擦材と、
該第一摩擦材の下面に取り付けられ且つ前記流体圧シリンダにより前記レールの走行車輪転動面に押し付けられた状態で前記軌道走行式機械が動き出すことによる摩擦で瞬時に炭化して消失するレジン系の第二摩擦材とを備え、
前記摩擦による前記第二摩擦材の消失時に前記第一摩擦材が露出して前記レールの走行車輪転動面に押し付けられるよう構成された軌道走行式機械のレールブレーキ装置。
【請求項2】
前記メタル系の第一摩擦材は、銅粉を基材として、錫、カーボンを含み、焼結成型されたものであり、前記レジン系の第二摩擦材は、アラミド繊維を主原料として、フェノール樹脂、真鍮、カーボンを含み、熱プレス成型されたものである請求項1記載の軌道走行式機械のレールブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道走行式機械のレールブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は一般的な軌道走行式機械としてのコンテナクレーンの一例を示すものであって、1はコンテナクレーン、2はコンテナクレーン1が配備される港湾、3は港湾2における岸壁、4は岸壁3の走行路3aに図5の紙面と直交する方向へ延びるよう敷設されたレールである。
【0003】
前記コンテナクレーン1のクレーン本体5の支持脚6には、レール4に沿って転動自在な走行車輪7を有する走行装置8が取り付けられている。
【0004】
前記コンテナクレーン1は、荷役作業中に強風に煽られると、運転者の意に反して走行が止まらず、逸走してしまう虞がある。
【0005】
このため、前述の如き軌道走行式機械の逸走を防止する装置として、従来、例えば、特許文献1に開示されているようなレールブレーキ装置がある。該レールブレーキ装置は、レールの走行車輪転動面に対しブレーキパッドを流体圧シリンダの作動により押し付けて制動を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6211362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、前記レールブレーキ装置におけるブレーキパッドは、レジン系の摩擦材が使用されていた。
【0008】
レジン系の摩擦材は、低温域での性能に優れ、変形しやすくレール4の走行車輪転動面に対する追従性が良いため、コンテナクレーン1を静止状態に保持する上で好ましい。
【0009】
しかしながら、コンテナクレーン1の総重量は非常に大きく、コンテナクレーン1が強風に煽られて動き出した場合、摩擦により瞬時にブレーキパッドが高温となり、レジン系の摩擦材では炭化が発生し、コンテナクレーン1の逸走を防止する上で支障をきたす虞があり、改善が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなしたもので、静止状態保持性能並びに逸走防止性能の両立を図り得る軌道走行式機械のレールブレーキ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、レールの走行車輪転動面に対しブレーキパッドを押付・離反自在な軌道走行式機械のレールブレーキ装置において、
前記レールの走行車輪転動面に対しピストンロッドが伸縮自在に配設される流体圧シリンダと、
該流体圧シリンダのピストンロッドの下端に取り付けられる押圧盤と、
該押圧盤の下面に埋め込むように取り付けられるベースプレートとを備え、
前記ブレーキパッドは、
前記ベースプレートの下面に取り付けられるメタル系の第一摩擦材と、
該第一摩擦材の下面に取り付けられ且つ前記流体圧シリンダにより前記レールの走行車輪転動面に押し付けられた状態で前記軌道走行式機械が動き出すことによる摩擦で瞬時に炭化して消失するレジン系の第二摩擦材とを備え、
前記摩擦による前記第二摩擦材の消失時に前記第一摩擦材が露出して前記レールの走行車輪転動面に押し付けられるよう構成された軌道走行式機械のレールブレーキ装置に係るものである。
【0012】
前記軌道走行式機械のレールブレーキ装置において、前記メタル系の第一摩擦材は、銅粉を基材として、錫、カーボンを含み、焼結成型されたものであり、前記レジン系の第二摩擦材は、アラミド繊維を主原料として、フェノール樹脂、真鍮、カーボンを含み、熱プレス成型されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置によれば、静止状態保持性能並びに逸走防止性能の両立を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置の実施例を示す正面図である。
図2】本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置の実施例を示す概要構成図である。
図3】本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置の実施例を示す斜視図である。
図4】本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置の実施例を示す要部断面図である。
図5】軌道走行式機械としてのコンテナクレーンの一例を示す全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1図4は本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置の実施例であって、図中、図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0017】
図1に示す軌道走行式機械としてのコンテナクレーン1では、クレーン本体5の支持脚6間に、該支持脚6をつなぐようレール4に沿って延びる下部フレーム6aが設けられ、該下部フレーム6aの底面側に、複数(図1の例では二基)の走行装置8が設けられている。
【0018】
前記走行装置8は、上部イコライザビーム9aと、中間部イコライザビーム9bと、下部イコライザビーム9cと、走行車輪7とを備えている。
【0019】
前記上部イコライザビーム9aは、前記下部フレーム6aの底面側に、走行方向と直角な水平方向へ延びるロッカーピン10aにより中間部が支持されて揺動自在に配設されている。前記中間部イコライザビーム9bは、前記上部イコライザビーム9aの走行方向両端部に走行方向と直角な水平方向へ延びるロッカーピン10bにより中間部が支持されて揺動自在に配設されている。前記下部イコライザビーム9cは、前記中間部イコライザビーム9bの走行方向両端部に走行方向と直角な水平方向へ延びるロッカーピン10cにより中間部が支持されて揺動自在に配設されている。
【0020】
前記走行車輪7は、前記下部イコライザビーム9cの走行方向両端部にレール4に沿って転動自在となるよう配設され、走行駆動モータ8aによって回転駆動されるようになっている。前記走行駆動モータ8aには、走行ブレーキ8bが設けられている。
【0021】
尚、図1に示す例では、上部イコライザビーム9aと中間部イコライザビーム9bとからなるイコライザ装置9Aと、中間部イコライザビーム9bと下部イコライザビーム9cとからなるイコライザ装置9Bとが上下二段に形成されている。因みに、上段の前記イコライザ装置9Aにおける上部イコライザビーム9aは上側イコライザビームとなり、中間部イコライザビーム9bは下側イコライザビームとなる。又、下段の前記イコライザ装置9Bにおける中間部イコライザビーム9bは相対的に上側イコライザビームとなり、下部イコライザビーム9cは下側イコライザビームとなる。但し、前記軌道走行式機械としてのコンテナクレーン1の規模に応じて、前記イコライザ装置9Aを一段だけ形成して、下側イコライザビーム(この場合は中間部イコライザビーム9b)に走行車輪7を配設しても良い。又、前記イコライザ装置を上下三段以上形成して、最下段のイコライザ装置における下側イコライザビームの走行方向両端部にレール4に沿って転動自在な走行車輪7を配設しても良い。
【0022】
前記下部フレーム6aの底面側にテンションロッド50によって保持されるブレーキブラケット51には、レールブレーキ40が取り付けられ、該レールブレーキ40は、図2に示す如く、流体圧シリンダ41と、流体圧ユニット42とを備えている。
【0023】
前記流体圧シリンダ41は、シリンダ本体41aと、ピストン41bと、ピストンロッド41cとを備えている。前記シリンダ本体41aは、前記ブレーキブラケット51の下部に、レール4と直交する水平方向へ延びる支持ピン51aを介して吊り下げられ、前記ブレーキブラケット51の下部に設けられたアウタケース52の内部に嵌挿される形で下向きに取り付けられている。前記ピストン41bは、前記シリンダ本体41aの内部に摺動自在に嵌入され、前記シリンダ本体41aの内部をキャップ側室41dとロッド側室41eとに画成している。前記ピストンロッド41cは、前記ピストン41bからロッド側室41eを貫通して下方へ延出され、前記ピストンロッド41cの下端には、押圧盤60が取り付けられている。前記流体圧シリンダ41のシリンダ本体41aの内部(ロッド側室41e)には、上下方向へ延びる弾性部材Sとしての圧縮バネS2がピストンロッド41cを引き込む方向へ付勢するよう装填されている。
【0024】
前記流体圧ユニット42は、通常運転時には、給排ライン42aを介して前記流体圧シリンダ41へ作動流体を導入することにより該流体圧シリンダ41を作動させつつ蓄圧する一方、停電時又は非常停止指令が出力された際には、蓄圧した作動流体を前記流体圧シリンダ41へ導いて前記押圧盤60を、図2及び図3に示す如く、下降させるようになっている。
【0025】
そして、本実施例の場合、前記押圧盤60の下面には、図4に示す如く、嵌入溝61が凹設され、該嵌入溝61には、鋼板等のベースプレート70が埋め込まれるように取り付けられ、該ベースプレート70の下面には、材質の異なる複数種類の摩擦材を積層したブレーキパッド80が取り付けられている。尚、前記嵌入溝61の複数所要箇所には、ネジ穴62が設けられ、該ネジ穴62と対応するベースプレート70の位置には、貫通孔71が穿設され、該貫通孔71からネジ穴62にボルト等の締結部材90をねじ込むことにより前記押圧盤60にベースプレート70が固定されるようになっている。
【0026】
前記ブレーキパッド80は、前記ベースプレート70の下面に取り付けられるメタル系の第一摩擦材81と、該第一摩擦材81の下面に取り付けられるレジン系の第二摩擦材82とを備えている。
【0027】
前記メタル系の第一摩擦材81は、銅粉を基材として、錫、カーボン等を含み、約650~800℃で焼結成型される。
【0028】
前記レジン系の第二摩擦材82は、アラミド繊維を主原料として、フェノール樹脂、真鍮、カーボン等を含み、熱プレス成型される。
【0029】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0030】
コンテナクレーン1のレールブレーキ40の作動時には、流体圧ユニット42から給排ライン42aを介して流体圧シリンダ41へ作動流体が導入され、該流体圧シリンダ41のピストンロッド41cが突出する方向へ駆動され、押圧盤60が下降し、ブレーキパッド80の第二摩擦材82がレール4の走行車輪転動面4aに押し付けられる。
【0031】
前記レジン系の第二摩擦材82は、低温域での性能に優れ、変形しやすくレール4の走行車輪転動面4aに対する追従性が良いため、コンテナクレーン1を静止状態に安定して保持することが可能となる。
【0032】
一方、前記レジン系の第二摩擦材82がレール4の走行車輪転動面4aに押し付けられた状態で、コンテナクレーン1が強風に煽られて動き出した場合、コンテナクレーン1の総重量は非常に大きいことから、摩擦により瞬時にブレーキパッド80が高温となって、レジン系の第二摩擦材82が炭化して消失する。
【0033】
前記レジン系の第二摩擦材82が消失すると、メタル系の第一摩擦材81が露出し、該メタル系の第一摩擦材81がレール4の走行車輪転動面4aに押し付けられる。
【0034】
前記メタル系の第一摩擦材81は、高温域での性能に優れ、炭化して消失することはなく、コンテナクレーン1の逸走を防止することが安定して行える。
【0035】
尚、前記コンテナクレーン1が強風に煽られた際にレール4長手方向へ作用する荷重は、押圧盤60の嵌入溝61の垂直面とベースプレート70の側面との間における接触によって、該ベースプレート70からブレーキパッド80に伝達される。
【0036】
こうして、静止状態保持性能並びに逸走防止性能の両立を図り得る。
【0037】
そして、本実施例の場合、前記レール4の走行車輪転動面4aに対しピストンロッド41cが伸縮自在に配設される流体圧シリンダと、該流体圧シリンダのピストンロッド41cの下端に取り付けられる押圧盤60と、該押圧盤60の下面に埋め込むように取り付けられるベースプレート70とを備え、前記ブレーキパッド80は、前記ベースプレート70の下面に取り付けられるメタル系の第一摩擦材81と、該第一摩擦材81の下面に取り付けられるレジン系の第二摩擦材82とを備えている。このように構成すると、前記コンテナクレーン1が強風に煽られた際にレール4長手方向へ作用する荷重を、押圧盤60の下面に埋め込まれたベースプレート70からブレーキパッド80に効率良く伝達することができ、前記レジン系の第二摩擦材82による静止状態保持性能の向上と、前記メタル系の第一摩擦材81による逸走防止性能の向上とを図る上でより有効となる。
【0038】
尚、本発明の軌道走行式機械のレールブレーキ装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1 コンテナクレーン
2 港湾
3 岸壁
3a 走行路
4 レール
4a 走行車輪転動面
5 クレーン本体
6 支持脚
6a 下部フレーム
7 走行車輪
8 走行装置
8a 走行駆動モータ
8b 走行ブレーキ
9A イコライザ装置
9B イコライザ装置
9a 上部イコライザビーム
9b 中間部イコライザビーム
9c 下部イコライザビーム
10a ロッカーピン
10b ロッカーピン
10c ロッカーピン
40 レールブレーキ
41 流体圧シリンダ
41a シリンダ本体
41b ピストン
41c ピストンロッド
41d キャップ側室
41e ロッド側室
42 流体圧ユニット
42a 給排ライン
50 テンションロッド
51 ブレーキブラケット
51a 支持ピン
52 アウタケース
60 押圧盤
61 嵌入溝
62 ネジ穴
70 ベースプレート
71 貫通孔
80 ブレーキパッド
81 第一摩擦材
82 第二摩擦材
90 締結部材
S 弾性部材
S2 圧縮バネ
図1
図2
図3
図4
図5