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特許7473350ゴム補強充填剤用含水ケイ酸および含水ケイ酸含有ゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ゴム補強充填剤用含水ケイ酸および含水ケイ酸含有ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08K 3/34 20060101AFI20240416BHJP
   C01B 33/193 20060101ALI20240416BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240416BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C08K3/34
C01B33/193
C08L7/00
C08L21/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020017574
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021123641
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000228903
【氏名又は名称】東ソー・シリカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】道城 正和
(72)【発明者】
【氏名】今別府 勇太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-240982(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199429(WO,A1)
【文献】特開平11-157826(JP,A)
【文献】特開2013-166862(JP,A)
【文献】特開2017-002210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
B60C 1/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CTAB比表面積が220~350 m2/gの範囲であり、かつ水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積が1.7~2.0 cm3/gの範囲である含水ケイ酸であって、4質量%に調整した含水ケイ酸スラリー50mlを出力140Wの超音波ホモジナイザーで10分間分散して得られたスラリー(以下、10分間分散スラリーと呼ぶ)中の含水ケイ酸のレーザー法による体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲であり、かつ前記10分間分散スラリー中の粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上である、ゴム補強充填用含水ケイ酸。
【請求項2】
前記D50が7.0~12.0μmであり、かつ前記体積分布の累積値が85%以上の範囲である請求項1に記載の含水ケイ酸。
【請求項3】
BET比表面積が230~350 m2/gの範囲である、請求項1又は2に記載の含水ケイ酸。
【請求項4】
4質量%懸濁液の濾液の電気伝導度が1,000μS/cm以下であり、pHが5~8の範囲であり、かつ含水率が9%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の含水ケイ酸。
【請求項5】
天然ゴムを含有するゴム成分のゴム補強充填用である、請求項1~4のいずれかに記載の含水ケイ酸。
【請求項6】
天然ゴムを含有するゴム成分及び請求項1~4のいずれかに記載の含水ケイ酸を含有するゴム組成物。
【請求項7】
ゴム成分は天然ゴムを70質量%以上含有する請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
ゴム成分100質量部に対して5~100質量部の含水ケイ酸を含有する、請求項6又は7に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強充填剤用含水ケイ酸および含水ケイ酸含有ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤトレッド部分に含水ケイ酸を配合することで、走行時の路面との転がり抵抗が低減出来る事は知られており、乗用車用タイヤ(PCR)では、含水ケイ酸を配合したタイヤの普及が進んでいる。一方、トラックやバス用など重荷重下で使用されるタイヤ(TBR)は、転がり抵抗の低減よりも、重荷重下での補強性や耐久性が重視される傾向にある。そのため、従来のTBRの多くは良好な補強性や耐久性が得られる天然ゴムにカーボンブラックを配合して使用されており、含水ケイ酸はあまり使用されていない。
【0003】
近年、環境問題の観点から、PCRだけでなく、TBRについても転がり抵抗の低減に対する要求が強まっており、天然ゴムを主成分としたTBRに適した含水ケイ酸の開発が求められている。
【0004】
ポリマー用の、特にタイヤ用の、強化充填剤に適した含水ケイ酸が、例えば、特許文献1に開示されている。また、耐摩耗性および低転がり抵抗性に優れた重荷重タイヤ用のゴム組成物について、例えば、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-514773号公報
【文献】特開2019-56068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TBRは、重荷重下での補強性や耐久性が重視されるため、天然ゴムを主成分とした配合が一般的であるのは上述のとおりである。本発明者らが転がり抵抗の低減を目的として、含水ケイ酸を配合した天然ゴム組成物を試作したところ、含水ケイ酸をPCRに配合した場合と比べて次のような問題点があった。
【0007】
(1)天然ゴム中に従来の含水ケイ酸を配合すると、カーボンブラックのみを配合した場合と比べて転がり抵抗は低減できる。しかし、含水ケイ酸は、天然ゴムとのなじみが悪く、ゴム中で分散不良を起こすため、含水ケイ酸を配合した天然ゴム組成物は、カーボンブラックのみを配合した天然ゴム組成物に比べて補強性が劣る。従って、良好な補強性を得るためには天然ゴム中での含水ケイ酸の分散性を改善する必要があると本発明者らは考えた。
【0008】
(2)含水ケイ酸を天然ゴム中に分散させるため、混練の際に高いせん断力(シェア)をかけて、かつ混練に十分な時間をかけるなどして十分な混練分散を行うと、大部分の含水ケイ酸は天然ゴム中で過度に分散してしまう。その結果、走行中を想定した重荷重下では、含水ケイ酸の一次粒子又は凝集粒子同士の距離が近くなるため、一次粒子又は凝集粒子同士での相互作用が大きくなり、転がり抵抗の低減効果が小さくなると本発明者らは考えた。
【0009】
(3)特許文献1では、記載の含水ケイ酸を製造する際にアルミニウム化合物を添加している。そのため、含水ケイ酸の凝集構造が強く、分散しにくいものである。従って、強いせん断力(シェア)をかけても天然ゴム中で過度に分散することはなく、転がり抵抗の低減効果が見られる。しかし、分散しにくい粒子が残存してしまうため、補強性(耐摩耗性、引張強度)や加工性(ムーニー粘度)は悪化する傾向が見られる。
【0010】
(4)特許文献2には、天然ゴム55~70質量%とブタジエンゴム30~45質量%とからなるゴム成分100質量部にCTAB吸着比表面積が180~300m2/gの含水ケイ酸を40~60質量部、カーボンブラックを3~10質量部、シランカップリング剤を含水ケイ酸の量の6~15質量%配合し、混練工程、ロール工程およびファイナル工程を経て耐摩耗性と低転がり抵抗性(tanδ)に優れた重荷重タイヤを製造する方法が開示されている。この方法を採用することにより、従来品よりも耐摩耗性と低転がり抵抗性に優れたゴム組成物を提供している。しかし、上記方法では、特殊な混練機や温度管理を含めた多くの工程を経る必要がある。
【0011】
本発明の課題は、重荷重下で使用されることが多いTBR用の天然ゴムを主成分とするゴムへ配合した際に、従来品の含水ケイ酸と比べて、補強性(耐摩耗性、引張強度)は同等又はそれ以上であり、かつ転がり抵抗を大幅に低減できる含水ケイ酸を提供すること、及び特許文献1に記載の含水ケイ酸と比べて、補強性(耐摩耗性、引張強度)は優れ、かつ転がり抵抗も低減できる含水ケイ酸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、重荷重下で使用されることが多いTBR用の天然ゴムを主成分とするゴムに含水ケイ酸を配合した場合において、得られたゴム組成物の補強性(耐摩耗性、引張強度) の改善及び転がり抵抗の低減を可能とする含水ケイ酸を提供するために鋭意検討を行った。
【0013】
その結果、CTAB比表面積が220~350 m2/gの範囲であり、かつ水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積が1.7~2.0 cm3/gの範囲である含水ケイ酸であって、4質量%に調整した含水ケイ酸スラリー50mlを出力140Wの超音波ホモジナイザーで10分間分散して得られたスラリー(10分間分散スラリー)中の含水ケイ酸のレーザー法による体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲であり、かつ前記10分間分散スラリー中の粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上である含水ケイ酸は、天然ゴムを主成分とするゴムに配合しても、適度な分散が得られるため、補強性(耐摩耗性、引張強度)を維持または改善でき、かつ転がり抵抗を低減できることを見出し、さらに、このような含水ケイ酸を製造する方法も新たに確立し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は以下の通りである。
[1]
CTAB比表面積が220~350 m2/gの範囲であり、かつ水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積が1.7~2.0 cm3/gの範囲である含水ケイ酸であって、4質量%に調整した含水ケイ酸スラリー50mlを出力140Wの超音波ホモジナイザーで10分間分散して得られたスラリー(以下、10分間分散スラリーと呼ぶ)中の含水ケイ酸のレーザー法による体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0 μmの範囲であり、かつ前記10分間分散スラリー中の粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上である、ゴム補強充填用含水ケイ酸。
[2]
前記D50が7.0~12.0μmであり、かつ前記体積分布の累積値が85%以上の範囲である[1]に記載の含水ケイ酸。
[3]
BET比表面積が230~350m2/gの範囲である、[1]又は[2]に記載の含水ケイ酸。
[4]
4質量%懸濁液の濾液の電気伝導度が1,000μS/cm以下であり、pHが5~8の範囲であり、かつ含水率が9%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の含水ケイ酸。
[5]
天然ゴムを含有するゴム成分のゴム補強充填用である、[1]~[4]のいずれかに記載の含水ケイ酸。
[6]
天然ゴムを含有するゴム成分及び[1]~[4]のいずれかに記載の含水ケイ酸を含有するゴム組成物。
[7]
ゴム成分は天然ゴムを70質量%以上含有する[6]に記載のゴム組成物。
[8]
ゴム成分100質量部に対して5~100質量部の含水ケイ酸を含有する、[6]又は[7]に記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゴム補強充填用含水ケイ酸(以下、本発明の含水ケイ酸と呼ぶ)は、CTAB比表面積が高い領域において、一定範囲の細孔容積を持ち、かつ天然ゴム中で適度な分散性を得ることができるので、従来品の含水ケイ酸に比べて転がり抵抗を低減しつつ、補強性(耐摩耗性、引張強度)を維持または改善でき、さらに、特許文献1に記載の含水ケイ酸に比べて転がり抵抗を低減しつつ、補強性(耐摩耗性、引張強度)も改善できる。本発明の含水ケイ酸を配合したゴム組成物を、特に、重荷重下で使用されるTBRトレッド部に使用した際には、転がり抵抗の低減効果が得られるため、環境に優しいタイヤを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ゴム補強充填用含水ケイ酸>
本発明の含水ケイ酸は、CTAB比表面積が220~350 m2/gの範囲であり、かつ水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積が1.7~2.0 cm3/gの範囲である含水ケイ酸であって、10分間分散スラリー中の含水ケイ酸のレーザー法による体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲であり、かつ前記10分間分散スラリー中の粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上である。
【0017】
本発明の含水ケイ酸は、CTAB比表面積が220~350 m2/gの範囲である。CTAB比表面積は、JIS-K6430(ゴム配合剤-シリカ-試験方法)に基づき測定する。CTABは、界面活性剤の一種Cetyl Tri-methyl Ammonium Bromideの略であり、CTAB比表面積は、CTAB を吸着させたときの比表面積(m2/g)を意味する。含水ケイ酸におけるCTAB比表面積は、ゴム分子との相互作用に関与する比表面積の指標とされる。CTAB比表面積が本発明における下限の220 m2/g未満の含水ケイ酸では十分なゴム補強性(耐摩耗性、引張強度)が得られない。CTAB比表面積が本発明における上限である350 m2/gを超える含水ケイ酸は、含水ケイ酸の製造が実質的に困難である。本発明の含水ケイ酸のCTAB比表面積は、ゴム補強性(耐摩耗性、引張強度)の観点から220~300 m2/gの範囲であることが好ましく、更により好ましくは220~270 m2/gの範囲である。
【0018】
本発明の含水ケイ酸は、水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積が1.7~2.0 cm3/gの範囲である。水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔は、天然ゴム分子が侵入し易いサイズの細孔である。本発明の含水ケイ酸は、水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積が、本発明における下限の1.7 cm3/g未満では十分な補強性が得られない。この細孔容積が本発明における上限の2.0 cm3/gを超える含水ケイ酸は、実質的に製造が困難である。水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100nmの範囲の細孔容積は、好ましくは1.75~1.95 cm3/gの範囲である。
【0019】
本発明の含水ケイ酸は、10分間分散スラリー中の含水ケイ酸のレーザー法による体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲である。ゴム補強充填用含水ケイ酸は、一般にバンバリーミキサーやミキシングロールを用いて原料ゴムやカーボンブラック、他の添加剤と混練し、混合分散させる。本発明者らは、天然ゴム中への混合分散の際の機械的エネルギー量と、実際に天然ゴムに分散したときの含水ケイ酸の分散状態の測定から、含水ケイ酸を天然ゴム中に分散したときの分散状態は、10分間分散スラリーのレーザーで測定した体積粒度分布に近似できることを見出した。さらにこの条件で測定した体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲であり、かつ粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上である含水ケイ酸が、本発明の課題を解決できる含水ケイ酸であることを見出した。
【0020】
10分間分散スラリーの体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲である場合、含水ケイ酸が天然ゴム中で適度な分散状態にあることを示す。D50が5.0μm未満では、天然ゴム中で過度に分散し含水ケイ酸の一次粒子又は凝集粒子同士の距離が近くなるため、一次粒子又は凝集粒子同士で相互作用が大きくなり(発熱の原因)、転がり抵抗の低減効果が小さくなる。D50が12.0μmを超える場合、含水ケイ酸の分散不良により補強性が悪化する傾向がある。体積平均粒子径(D50)は、好ましくは6.0~12.0μmの範囲、より好ましくは7.0~12.0μmの範囲である。
【0021】
粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上であることは、体積分布がよりシャープであることを示しており、換言すると微粒子及び粗粒子が少ないことを示す。D50は粒子径の体積平均値であり、累積が50%に達した点の数値を示すため、その値が5.0~12.0μmの範囲であることだけでは、粒子の体積分布がシャープか、ブロードかまで規定することはできない。そこで本発明では、D50が5.0~12.0μmであることと、粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上であることを組み合わせることで、目標の体積平均粒子径でありながら、体積分布がシャープであることを規定している。
【0022】
粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%未満である場合は微粒子または粗粒子の割合が多くなり、ゴムに配合した場合の物性の悪化につながる。微粒子が多過ぎると転がり抵抗が悪化する傾向となる。粗粒子が多過ぎると、分散不良となり、補強性が低下(特に耐摩耗性が低下)する傾向となる。このような観点から、粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値は80%以上であり、好ましくは85%以上の範囲が良い。
【0023】
本発明の含水ケイ酸は、BET比表面積が230~350 m2/gの範囲であることが好ましい。230 m2/g以上であれば、十分な補強性(耐摩耗性、引張強度)が得られる。BET比表面積が高くなると含水ケイ酸の製造は難しくなる傾向があるが、BET比表面積が350 m2/g以下であれば含水ケイ酸の製造は、十分に可能である。BET比表面積の範囲は、好ましくは230~330 m2/g、より好ましくは230~320 m2/gである。
【0024】
本発明の含水ケイ酸は、好ましくは、4質量%スラリーの濾液の電気伝導度が1,000μS/cm未満であり、pHが5~8の範囲であり、含水率が9%未満である。電気伝導度が1,000μS/cm未満であれば、経時凝集を起こし難く、より好ましくは800μS/cm未満、さらに好ましくは500μS/cm未満である。
【0025】
4質量%スラリーのpHの範囲5~8は、通常の含水ケイ酸のpHと同等である。pHがこの範囲内であれば、良好な加硫特性と補強性を得ることができる。
【0026】
本発明の含水ケイ酸は、含水率9%未満が適当であり、通常の含水ケイ酸の含水率とほぼ同等である。含水率がこの範囲内であれば、良好な加硫特性と補強性を得ることができる。電気伝導度とpHは製造工程における水洗工程で制御し、含水率は乾燥工程で制御することができる。
【0027】
本発明の含水ケイ酸は、天然ゴムを含有するゴム成分の補強充填用に適している。天然ゴムを含有するゴム成分は、例えば、天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分であることができる。但し、これに限定される意図ではない。本発明の含水ケイ酸は、天然ゴムを含有するゴム成分100質量部に対して、例えば、5~100質量部の含水ケイ酸を含有させて、ゴム成分の補強充填を図ることができる。
【0028】
<含水ケイ酸への添加成分>
本発明の含水ケイ酸は、上記条件を満たす限り、添加剤(界面活性剤、シランカップリング剤など)を添加することもできる。例えば、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤は、ゴム組成物の良好な加工性(ムーニー粘度低減)や加硫特性を得る目的で含水ケイ酸に添加することができる。界面活性剤を添加する場合、本発明の含水ケイ酸を配合した際の効果を損なわない範囲で添加可能である。
【0029】
<含水ケイ酸の製造方法>
本発明の含水ケイ酸は、天然ゴムを主成分とするゴム成分配合用に適するように本発明者らが新たに開発した含水ケイ酸であり、例えば、以下に例示したi)~v)の段階を経て製造することができる。ただし、これに限定するものでもない。
【0030】
i) 所定の温度(例えば、40~80℃)になるように制御した水とケイ酸アルカリ水溶液を、所定のpH(例えば、pH 10.5~12.0)になるように調整する工程、
ii-1) 反応温度(例えば、40~80℃または60~95℃)を保ったまま、鉱酸のみを滴下しpHが例えば9.5~11.0[ただし、工程i)のpH>工程ii-1)のpH]になるように制御する工程、
ii-2) ケイ酸アルカリ水溶液、鉱酸の何れも添加せずに例えば、60~95℃に昇温する工程[ただし、工程i)の温度<工程ii-2)の温度]
ii-3) 反応温度(例えば、40~80℃または60~95℃)とpH(例えば、pH 10.5~12.0または9.5~11.0)を保ったままケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸を同時に滴下する工程
【0031】
ただし、工程ii-1)~ii-3)の順序は、順不同である。例えば、ケイ酸アルカリ水溶液を添加せず、鉱酸のみを滴下する工程は工程ii-1)~ii-3)の前半、中半、後半の何れかに実施すればよい。
【0032】
iii) ケイ酸アルカリ水溶液を滴下せず、鉱酸のみを滴下し、例えば、pH<7にして中和反応を停止する工程
【0033】
ただし、工程i)~iii)において、反応スラリーを攪拌または/および循環しながら実施することが好ましい。
【0034】
iv) 得られた含水ケイ酸スラリーの濾過・水洗を行う工程
v) 含水ケイ酸の含水率を調整する乾燥工程
【0035】
ケイ酸アルカリ水溶液は、特に限定しないが例えば、市販のケイ酸アルカリ水溶液を使用することができる。鉱酸も、特に限定しないが、硫酸であることが好ましく、希硫酸または濃硫酸のいずれも使用することができる。
【0036】
工程i)はCTAB比表面積を220m2/g以上にするための準備工程及び細孔半径1.9~100nmの細孔容積を形成する準備工程、含水ケイ酸のレーザー法による体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmの範囲であり、かつ前記10分間分散スラリー中の粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上の含水ケイ酸を形成する準備工程である。工程i)は、例えば、市販のケイ酸アルカリ水溶液を水で希釈して所定のpHに調整する。pHを所定範囲に維持できれば、塩類等の他の化合物の添加の有無は問わない。
【0037】
工程ii-1)~ii-3)は、所望の含水ケイ酸を得るうえで重要な工程であり、反応温度やケイ酸アルカリ水溶液の流量、鉱酸の流量を所定の範囲に制御する。工程ii-1)及び工程ii-3)の鉱酸の流量として、好ましくは工程ii-1)>工程ii-3)の流量である。
【0038】
また、工程ii-1)~ii-3)の各工程は2回以上実施しても良い。即ち、例えば、1回目の工程ii-1)~ii-3)の何れか一つを実施し、次いで、工程iii)に進まず、再度工程ii-1)~ii-3)の何れかひとつを実施し、その後に工程iii)に進むことができる。工程ii-1)~ii-3)の各工程は、例えば、2回、3回又は4回行うことができる。
【0039】
本発明の含水ケイ酸は中和反応工程において、反応を停止するまで(上記工程ii)まで)は常にpH7以上、好ましくはpH9.5~12.0、より好ましくはpH9.5~11.5になるように保持する。さらに、中和反応中は、スラリーの攪拌、循環のうち一方または両方を行うことが適当である。
【0040】
工程iii)の中和反応を停止する工程は、鉱酸のみの滴下により実施される。鉱酸のみの滴下は、反応液(スラリー)がpH<7になるまで行うことが適当である。
【0041】
工程iv)の含水ケイ酸の濾過、水洗は例えば、フィルタープレスなどで行っても良いし、これに圧搾機能を付けたフィルタープレスを用いて、水洗を行った後、圧搾を加えても良い。
【0042】
工程v)は、含水率を所定の数値になるように制御する乾燥工程である。乾燥工程の方法は特に限定するものではなく、具体的には、静置乾燥方式でも良いし、スプレードライヤーやスピンフラッシュドライヤーなどの市販の乾燥機で制御する方法が例示できる。
【0043】
尚、必要に応じて工程v)の乾燥工程で得られた含水ケイ酸の圧密成形を行っても良い。圧密成形においては、市販の乾式法による成形機を使用することができ、具体的な圧密成形方法に特に制限はない。
【0044】
<添加剤の使用>
工程i)~v)のいずれかの工程でゴム組成物の補強性(耐摩耗性、引張強度)を向上
させるための添加剤(界面活性剤、シランカップリング剤など)を添加してもよい。添加剤を添加する方法としては、例えば工程iv)で得られた含水ケイ酸ケークに水を加えて再スラリー化した後に添加剤を添加し、スプレードライヤー等で乾燥する方法が例示できる。
【0045】
<ゴム組成物>
本発明は、天然ゴムを含有するゴム成分及び本発明の含水ケイ酸を含有するゴム組成物を包含する。天然ゴムを含有するゴム成分は、例えば、天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分であることができる。天然ゴムの含有量が70質量%以上であれば、重荷重下での補強性を発揮し易い。天然ゴムの含有量が70質量%以上であれば、残部のゴム成分の種類は問わない。後述する各種ゴムを1種類以上(複数可)配合することができる。
【0046】
本発明のゴム組成物は、天然ゴムを70質量%以上含有するゴム成分100質量部に対して5~100質量部の本発明の含水ケイ酸を含有するゴム組成物であることができる。本発明の含水ケイ酸が5質量部以上であれば、十分な性能(補強性及び転がり抵抗)を発揮することができる。一方、本発明の含水ケイ酸が100質量部を超えると、天然ゴムへ配合することが困難になり、転がり抵抗が悪化する場合があるので、100質量部以下であることが好ましい。本発明の含水ケイ酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して10~70質量部であることが好ましく、15~60質量部であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の含水ケイ酸を含有するゴム組成物の用途は、タイヤトレッドやサイド部分、工業用品を含むことができる。含水ケイ酸は主成分が本発明の含水ケイ酸であれば、他の含水ケイ酸をブレンドしても良いが、本発明の含水ケイ酸単独で使用することが好ましい。
【0048】
ゴム成分は、天然ゴムが70質量%以上であれば他のゴムとブレンドしても良い。天然ゴムにブレンドする他のゴムの例としては、ブタジエンゴム(BR)やスチレン・ブタジエンゴム(SBR)、合成イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンジエンゴム(EPDM)などから1種類以上をブレンドしても良い。より好ましくは、ブタジエンゴム(BR)やスチレン・ブタジエンゴム(SBR)である。また、これらのゴムは末端を変性したものを用いても良い。
【0049】
ゴム組成物には、その他の添加剤を適宜配合することができ、その種類には特に制限はない。
【0050】
本発明のゴム組成物は、含水ケイ酸以外に、一般的に使用されるカーボンブラック、シランカップリング剤、熱可塑性樹脂、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、活性剤などを必要に応じて適宜配合することができる。
【0051】
カーボンブラックは、通常のゴム組成物に補強充填用として用いられているものをそのまま使用できる。カーボンブラックの配合量はゴム成分100質量部に対して例えば、20~100質量部の範囲である。
【0052】
シランカップリング剤としては、スルフィド系、メルカプト系、アミン系、ビニル系、スチル系、エポキシ系、イソシアネート系などを使用しても良い。配合量としては配合する含水ケイ酸の質量に対して25質量部以下が好ましく、より好ましくは5~20質量部が良い。ゴム組成物の補強性改善等の観点からスルフィド系、メルカプト系といった硫黄含有系カップリング剤を使用する方がより好ましい。
【0053】
軟化剤としてはゴム組成物の加工性(ムーニー粘度)改善などを目的として、鉱物油系軟化剤や植物油系軟化剤、合成軟化剤などを使用しても良い。軟化剤の配合量としては1~50質量部が好ましく、より好ましくは5~30質量部である。
【0054】
加硫剤としては、硫黄系、過酸化物系などを使用しても良いが、ゴム組成物の補強性改善の観点から硫黄系を使用することがより好ましい。
【0055】
加硫促進剤としては、例えばチアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系。チオウレア系、チラウム系、ジチオカルバミン酸系、キサントゲン酸系、アルデヒドアミン系などを使用しても良い。これらの加硫促進剤のうち2種以上配合することが好ましい。加硫促進助剤としては、酸化亜鉛やステアリン酸などの脂肪酸を使用しても良い。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ロジン、テルペン樹脂、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、クマロンインデン樹脂、インデン樹脂、フェノール系樹脂、α-メチルスチレン樹脂などを使用しても良い。
【0057】
老化防止剤としては、アミン系やフェノール系などの老化防止剤に加え、硫黄系やリン系などの二次老化防止剤、ワックスなどを使用しても良い。
【0058】
本発明の含水ケイ酸を配合したゴム組成物は、タイヤ(特にTBR)、コンベアベルト、ゴムロールなどのゴム製品に好適に使用できるものであり、製品となったタイヤ、コンベアベルト、ゴムロールなどのゴム製品は、補強性や転がり抵抗に優れる。また、本発明の含水ケイ酸を配合したゴム組成物を用いた空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤトレッド部に使用したものであることができ、タイヤトレッド部の補強性や転がり抵抗に優れた空気入りタイヤが得られる。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0060】
含水ケイ酸の各物性の測定法
<BET比表面積(N2法比表面積)>
全自動比表面積測定装置(型式: Macsorb(R) HM model-1201;マウンテック社製)を用いて1点法により測定した。
【0061】
<CTAB比表面積>
JIS-K6430(ゴム配合剤-シリカ-試験方法)に基づき測定した。
但し、CTAB分子の吸着断面積を35Å2として算出した。
【0062】
<水銀圧入法による細孔容積[細孔半径1.9~100 nm]>
水銀ポロシメーター(型式:PASCAL 440;ThermoQuest社製)を用いて、常圧から最高圧力400MPaまで昇圧し、細孔半径1.9~6,400 nmの範囲の水銀細孔分布と細孔容積を測定した。なお、測定結果は、昇圧時に(細孔容積が大きい方から)測定する細孔分布と細孔容積である。得られた測定結果は付属のソフトウェアにより解析し、1.9~100 nmの細孔容積を算出した。
【0063】
<10分間分散スラリーの体積平均粒子径(D50)及び体積分布の累積値>
レーザー回折式粒度分布測定装置(型式:マイクロトラックMT-3000 II;マイクロトラック・ベル社製)を用いて粒度分布における体積積算値の50%の値(D50値)及び4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値を求めた。なお、試料は、純水で4質量%に調整した含水ケイ酸スラリー50mlを出力140Wの超音波ホモジナイザー(型式:Sonfier 250D;BRANSON社製)で10分間分散した後に測定した。
【0064】
<pH>
JIS K 5101-17-2(顔料試験方法)に基づき、純水で4質量%に調整したスラリーのpHを、市販のガラス電極pHメーター(型式:F-53;堀場製作所社製)で指示値の安定した値を測定した。
【0065】
<電気伝導度>
50mlの蒸留水中に4gの含水ケイ酸(105℃、2時間乾燥後の加熱減量が6%以下)を添加し、よく混合した後、5分間煮沸処理した。その後、蒸留水を用いて全容量を100mlに調整した後、ろ別し、このろ液について、電気伝導度計(型式:CM30R 東亜DKK社製)を用いて測定した。
【0066】
<含水率>
JIS K 5101-15-1(顔料試験方法)に基づき、105℃、2時間乾燥後の重量減量値から求めた。
【0067】
ゴム配合物調製法および関連する各物性の測定法
<配合物調製法>
表1に示した配合に従って、下記混練手順によりゴム試験用サンプルを調製した。
(i) 8インチオープンロールにて市販の天然ゴム(NR#1 JSR社製)の素練りを行った。
(ii) (i)で準備した天然ゴム700gを1.7リットルバンバリーミキサー(神戸製鋼社製)にて30秒間素練りし、表1の添加剤Aを加え、取り出し時のゴム配合物の温度を140~150℃になるようラム圧や回転数で調節を行い、5分間混練後に取り出した。
(iii) ゴム配合物を室温にて冷却後、再び1.7リットルバンバリーミキサーにて表1の添加剤Bを加え50秒間混練後に取り出し(取り出し時のゴム配合物の温度を120℃以下とする)、8インチオープンロールにてシーティングを行い、ゴム配合物を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
<加硫>
ゴム配合物をテストピース成形金型に入れ、蒸気加硫プレス(末次鉄工所社製)で、150℃の温度で4.0~18.0MPaの圧力下で加硫を10分間または20分間行い、試験片を得た。
加硫に用いたテストピース成形金型は以下の通りである。
・引張強度及び転がり抵抗測定用金型 (型式:MP-124NJKAC;ダンベル社製)
・分散性測定用金型 (型式:MPA-609AK;ダンベル社製)
・摩耗試験用金型 (型式:MPL-309LAKC;ダンベル社製)
【0070】
<ムーニー粘度>
ムーニー粘度は、JIS6300-1(未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方)に基づき、添加剤A及びBを配合したゴム配合物をムーニー粘度計 MODELVR-1130(上島製作所製)を用いて、L形ロータ、ロータ回転数2rpm、測定温度125℃で測定した。また、ムーニー粘度は、ゴム配合物を1分間試験温度で予熱後、直ちにロータを回転し、4分間経過した時点で読み取った値である。測定結果は参考例1を100(基準)とした場合の指数で、指数が低い程粘度が低く加工性が良いことを示す。
【0071】
<分散性>
ゴム中の含水ケイ酸の分散状態は、ISO11345に基づき、ディスパーグレーダー1000(OPTIGRADE社製)を用いて加硫後の試験片断面を測定し、含水ケイ酸の分散度はX値として評価した。X値が低いほどゴム中での含水ケイ酸の分散性が悪いことを示し、補強性(耐摩耗性、引張強度)は悪化する傾向となる。X値が8.0以上をGood、8.0未満をBadとした。
【0072】
<引張強度>
JIS K 6251(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方-)に基づき、テンシロン万能試験機RTG-1210(エー・アンド・デイ株式会社製)を用いて破断時の引張強さを測定した。試験片は、ダンベル状3号形を用い、シート状の加硫ゴム組成物から目的の形状に打ち抜いて準備した。測定結果は参考例1を100(基準)とした場合の指数で、指数が高い程破断時の引張強度が強いことを示す。
【0073】
<耐摩耗性>
JIS K 6264-2(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐摩耗性の求め方-)に基づき、アクロン型摩耗試験機で測定した。直径φ63.5mm、厚さ12.7mm、中心孔12.7mmの試験片をセットし、傾角15°、荷重27N、試験片の回転速度75rpmにてなじみ運転(the break-in operation)1,000回転後に同条件で本試験1,000回転行った後、摩耗減容を測定した。測定結果は参考例1を100(基準)とした場合の指数で求めた。指数が高い程耐摩耗性が良いことを示す。
【0074】
<転がり抵抗>
シート状の加硫ゴム組成物から幅1mm又は2mm、長さ40mmの短冊状に打ち抜き、試験片を準備した。加硫ゴム組成物の粘弾性測定を株式会社東洋精機製作所のレオログラフソリッドL-1Rを用いて、動的歪振幅1%、周波数50Hz、温度60℃での損失正接(tanδ)を測定した。損失正接(tanδ)の値は参考例1を100(基準)として指数表示した。数値が小さいほど転がり抵抗が小さいことを示している。
【0075】
実施例1
以下のi)からv)の工程を経て含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
なお、下記の工程i)~iii)は攪拌機と循環ポンプを備えた240リットルステンレス容器で実施した。
また、下記のケイ酸アルカリ水溶液としてはSiO2濃度12.8質量%、Na2O濃度4.0質量%、SiO2/Na2Oモル比3.2の3号ケイ曹を使用し、硫酸としては、98質量%の濃硫酸を使用した。
i) 70℃に調整した温水60リットル中にケイ酸アルカリ水溶液をpHが11.5になるまで加えた。
ii-1) 反応温度70℃を保ったまま、硫酸のみをpHが10.5になるまで滴下した。
ii-2) 硫酸の滴下を停止し、反応温度を70℃から90℃へ昇温した。
ii-3) pHを10.5に保ったまま、硫酸2.29リットルと流量を調整したケイ酸アルカリ水溶液を同時に120分間かけて滴下した。
iii)反応温度を90℃に保ったまま、ケイ酸アルカリ水溶液の滴下を停止し、硫酸のみを滴下してpHを下げていき、pHが3.0になった段階で硫酸の滴下も停止し含水ケイ酸スラリーを得た。
iv) 得られた含水ケイ酸スラリーはフィルタープレスで濾過・水洗を行い、含水ケイ酸ケークを得た。
v) 含水ケイ酸ケークはSiO2濃度が120g/リットルになるように再び水を加えてスラリー化を行った後、スプレードライヤー(型式:AN-40R型 アシザワ・ニロアトマイザー社製)を用いて含水率が9%未満になるように乾燥し含水ケイ酸を得た。
【0076】
実施例2
以下のi)からv)の工程を経て含水ケイ酸を製造し、評価を行った。なお、装置、ケイ酸アルカリ水溶液、硫酸は実施例1と同一条件とした。
i) 75℃に調整した温水60リットル中にケイ酸アルカリ水溶液をpHが11.5になるまで加えた。
ii-1) 反応温度75℃を保ったまま、硫酸のみをpHが10.5になるまで滴下した。
ii-2) 硫酸の滴下を停止し、反応温度を75℃から95℃へ昇温した。
ii-3) pHを10.5に保ったまま、硫酸2.29リットルと流量を調整したケイ酸アルカリ水溶液を同時に120分間かけて滴下した。
以降、工程 iii)~v)は、反応温度を95℃で実施した以外は実施例1と同一条件で含
水ケイ酸を製造した。
【0077】
実施例3
以下のi)からv)の工程を経て含水ケイ酸を製造し、評価を行った。
なお、装置、ケイ酸アルカリ水溶液、硫酸は実施例1と同一条件とした。
i) 75℃に調整した温水80リットル中にケイ酸アルカリ水溶液をpHが11.5になるまで加えた。
ii-1) 反応温度75℃を保ったまま、硫酸のみをpHが10.5になるまで滴下した。
ii-2) 硫酸の滴下を停止し、反応温度を75℃から95℃へ昇温した。
ii-3) pHを10.5に保ったまま、硫酸1.19リットルと流量を調整したケイ酸アルカリ水溶液を同時に120分間かけて滴下した。
以降、工程 iii)~v)は実施例2と同一条件で含水ケイ酸を製造した。
【0078】
参考例1
200m2/g以上のCTAB比表面積を有し、かつゴム補強充填剤用含水ケイ酸として市販されている含水ケイ酸の例としてNipsil KQ(東ソー・シリカ社製)を使用して評価を行った。なお、天然ゴム組成物の耐摩耗性と転がり抵抗等の各物性の評価は、該参考例1の物性値を基準(100)として、指数で比較を行った。
【0079】
比較例1
特表2017-514773(特許文献1)の実施例5に記載の方法と同一処方で250m2/gのCTAB比表面積を有する含水ケイ酸を製造し、評価を行った。なお、製造は実施例1と同一の装置(反応容器)を用い、特表2017-514773の実施例5に対して11分の1のスケールで、含水ケイ酸の中和合成を行い、フィルタープレスで濾過してシリカケークを得た後は、実施例1の工程v)の方法で含水率が9%未満になるように乾燥を行った。
【0080】
実施例1~3、参考例1及び比較例1の含水ケイ酸の物性及びゴム配合試験結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、実施例の含水ケイ酸はいずれもCTAB比表面積が220~350 m2/g、水銀圧入法で測定した細孔半径1.9~100 nmの範囲の細孔容積が1.7~2.0 cm3/gであり、10分間分散スラリー中の含水ケイ酸の体積平均粒子径(D50)が5.0~12.0μmであり、かつ10分間分散スラリー中の粒子径が4.0~35.0μmの範囲にある含水ケイ酸粒子の体積分布の累積値が80%以上の範囲である。これらの含水ケイ酸を天然ゴムを含有するゴムに配合した場合、参考例1、比較例1に示す従来の含水ケイ酸を用いた場合に比べて、補強性(耐摩耗性、引張強度)を維持又は改善しつつ、転がり抵抗を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、ゴム補強用含水ケイ酸に関する分野に有用である。特に、本発明は、天然ゴムを含むゴム製品のゴム補強用含水ケイ酸として有用である。