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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】長固定子リニアモーターの制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/06 20160101AFI20240416BHJP
【FI】
H02P25/06
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020017852
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2020145919
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】19161181
(32)【優先日】2019-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518184708
【氏名又は名称】ベーウントエル・インダストリアル・オートメイション・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・フリクセーダー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・フーバー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・アルメーダー
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-220874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0282076(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0346379(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ一定数の駆動コイル(L)を備えた複数の搬送セグメントから構成される一つの搬送区間(20)に沿って移動方向(r)に対して第一の測定区画(21)で第一の測定値(m1)を一つ又は複数の測定センサによって検出するとともに、第二の測定区画(22)で第二の測定値(m2)を一つ又は複数の測定センサによって検出する、長固定子リニアモーター(2)を制御する方法において、
この第一の測定区画(21)が、移動方向(r)に対してオーバーラップ領域(B)において第二の測定区画(22)と重なり合うことと、
これらの第一の測定値(m1)と第二の測定値(m2)が、一つの物理量(B)の同じ実際値(X)を表すことと、
これらの第一の測定値(m1)と第二の測定値(m2)の間に生じる偏差に基づき、長固定子リニアモーター(2)の動作パラメータ(P)が決定されることと、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記の測定区画(21,22)が、搬送区間(20)の対向する側に設けられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記の測定区画(21,22)が、搬送区間(20)の同じ側に設けられることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記の実際値(X)の近似値が動作パラメータ(P)として決定されることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記の第一又は第二の測定値(m1,m2)が前記の実際値(X)の近似値として選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記の第一又は第二の測定値(m1,m2)の選択が各測定値の期待される精度に基づき実施されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記の第一及び第二の測定値(m1,m2)が、それぞれ重み係数(f1,f2)を付与されることと、
前記の第一及び第二の測定値(m1,m2)とそれぞれ対応する重み係数(f1,f2)とから、前記の実際値(X)の近似値が動作パラメータ(P)として検出されることと、
を特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記の重み係数(f1,f2)が、基準モデルからのそれに対応する測定値(m1,m2)のずれの大きさによって決まるモデル係数を含むことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記の重み係数(f1,f2)が、それに対応する測定区画(21,22)内における各測定値(m1,m2)の位置によって決まる幾何学係数を含むことを特徴とする請求項又はに記載の方法。
【請求項10】
前記の重み係数(f1,f2)が、統計的な分布関数によって決まる統計的係数を含むことを特徴とする請求項からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
長固定子リニアモーター(2)における擾乱、故障及び摩耗の中の一つ以上の発生が動作パラメータ(P)として決定されることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
第一及び第二の測定値(m1,m2)として、それぞれ搬送区間(20)における搬送ユニット(1)の位置が検出されることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
第一及び第二の測定値(m1,m2)として、それぞれ搬送区間(20)における搬送ユニット(1)の速度及び/又は加速度が検出されることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
第一及び第二の測定値(m1,m2)として、それぞれ温度及び/又は電流が検出されることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送区間に沿って移動方向に対して第一の測定区画で第一の測定値を検出するとともに、第二の測定区画で第二の測定値を検出する、長固定子リニアモーターを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長固定子リニアモーター(LLM)は、搬送区間に沿って、一つの側、二つの側又は複数の側の固定位置に配置された、一つ又は複数の固定子を形成する、多数の互いに隣り合って配置された電気駆動コイルを有する。更に、搬送ユニット毎に、一定数の励起磁石が永久磁石、電気コイル、或いは短絡巻線として配置されている。それらの磁石は、通常固定子の駆動コイルと協力して動作できるように、移動方向に対して搬送ユニットの一つの側、二つの側又は複数の側に取り付けられている。長固定子リニアモーターは、自励式又は他励式の同期機械としても、或いは非同期機械としても実現することができる。磁石と駆動コイルの(電)磁界の協力した動作によって、推進力が搬送ユニットの磁石に作用し、それによって、次に、搬送ユニットが移動方向に動かされる。それは、個々の駆動コイルを駆動して、推進力の大きさに影響する磁束を調節することによって実施される。長固定子リニアモーターは、最新の柔軟な物流ユニットの要件を満たすために、従来の連続運搬装置又は回転・直線変換ユニット(例えば、ベルトコンベヤー、ベルト、チェーン等における回転モーター)に対する代替装置として益々用いられている。搬送ユニットは、当然のことながら好適な手法により搬送区間に沿って動かすとともに、それに保持しなければならない。その場合、搬送ユニットの任意のガイド部品自体が、搬送区間のガイド部品と協力して動作することができ、その際、例えば、ローラー、ホイール、スライド部品、ガイド面などを採用することができる。それらのガイド部品も、一つの側、二つの側又は複数の側に配置することができる。固定子における搬送ユニットの位置を調節するためには、目標位置の外に、当然のことながら実際の位置も必要である。実際の位置を検出するとともに、実際の位置を設定する装置は、長固定子リニアモーターに統合するか、或いはその外部に実現することもできる。
【0003】
搬送ユニットの位置、速度、加速度又は搬送区間全体のそれ以外の物理量を全体的に検出することができる。それは、搬送区間全体をカバーする一つの測定区画を設けるものと解釈することができる。一つの測定区画は、一つの測定値を検出するための一つ又は複数の測定センサーを有する。その測定値は、それぞれ一つの物理量の実際値を表す。例えば、測定区画内の一つの搬送ユニットの位置を測定値として検出することができ、それを用いて、実際の位置が物理量として表される。それは、測定区画内の位置センサーによって直接的に実施される。電圧や電流などの別の情報に基づき位置を検出する位置オブザーバーを配備することもできる。
【0004】
従って、一つの測定区画だけを設けた場合、搬送区間は一次元のトポロジー、即ち、一つの循環又は一つの直線だけを有する。そして、そうでなければ測定区画自体が重なり合わなければならないので、搬送区間は、それに対応して転轍部を備えることができない。それに対して、長固定子リニアモーターの搬送区間は、複数の測定区画から構成することもできる。しかし、その場合には、通常一つの測定区画が、それぞれ一つの搬送セグメント又は搬送セグメントの一部をカバーする。一つの搬送セグメントは、搬送区間の一つのモジュール区画を表し、一定数の駆動コイルを有する。それらの測定区画は、通常搬送区間に沿って移動方向に対して互いに間隔を開けて、或いは互いに接して配置される。
【0005】
搬送ユニットの広域における実際の位置を検出するために、先ずは、一つの搬送ユニットが存在する測定区画をそれぞれ検出することができる。更に、各測定区画における区画内の実際の位置を検出することができる。個々の区画内の実際の位置は、搬送区間における広域おける実際の位置として融合される。それによって、搬送ユニットは、例えば、選択された基準点に関する、一義的な広域における実際の位置に対応付けることができる。測定区画が一緒になってリニアモーターの搬送区間を完全にカバーする場合、各時点において、搬送ユニットに対して(任意の)基準点に関する一義的な実際の位置を対応付けることができる。それは、相補的センサーデータ融合と呼ばれ、例えば、特許文献1により周知である。その場合、個々の測定区画が、補い合うとともに、互いに隙間無く並んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許登録第6,876,107号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、長固定子リニアモーターの制御を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明に基づき、第一の測定区画が、移動方向に対してオーバーラップ領域において第二の測定区画と重なり合い、これらの第一の測定値と第二の測定値が一つの物理量の同じ実際値を表し、第一の測定値と第二の測定値の間に生じた偏差に基づき、長固定子リニアモーターの動作パラメータが決定されることによって解決される。
【0009】
測定区画の重なり合いによって、オーバーラップ領域において、冗長的な測定値が生成される。各測定値は、それに対応する測定区画において、各測定区画内の一つのセンサーによって、さもなければ複数のセンサーの協力動作によって検出又は観測することができる。第一の測定区画の第一の測定値が第二の測定区画の第二の測定値からずれているか、或いは如何なる大きさでずれているのかが決定され、その際、当然のことながら、許容範囲を設けることができる。偏差が生じた場合、その偏差を用いて、動作パラメータが決定される。動作パラメータを決定するために、第一の測定値及び/又は第二の測定値を使用することができる。第一の測定値と第二の測定値自体は物理量を表すだけでよい。それは、これらの測定値が同じ物理量を直接的に表さなければならないことを意味しない。そのため、例えば、第一の測定値が実際の位置を直接的に示し、第二の測定値が電流を示して、次に、その電流から実際の位置を検出することができる。それによると、第一の測定値が物理量としての実際の位置を表し、第二の測定値が物理量としての実際の位置を間接的に表す。
【0010】
当然のことながら、本発明による方法は、それぞれ対応する測定区画を起源とする二つの測定値に限定されない。動作パラメータを検出するために、三つ以上の重なり合った測定区画からそれぞれ一つの測定値を使用することも、或いは二つ以上の重なり合った測定区画から複数の測定値を使用することもできる。
【0011】
これらの測定区画は、搬送区間の対向する側に設けることができる。
【0012】
それによって、確かに移動方向に見て、一つのオーバーラップ領域が得られて、移動方向に対して交差した交差方向において、測定区画を十分に互いに間隔を開けて配置することができる。そのような配置構成は、特に、ダブルリッジを備えた長固定子リニアモーターの場合に見られる。ダブルリッジ式長固定子リニアモーターは、搬送区間に沿って配置された二つの駆動側によって特徴付けられ、駆動側毎に一つの固定子が配備されている。そのため、各側には、駆動コイルが配置されている。それによると、一つの搬送ユニットの両側にも、励起磁石が配備されて、それぞれ片側の駆動コイルと協力して動作する。
【0013】
これらの測定区画は、搬送区間の同じ側に設けることもできる。
【0014】
二つの測定区画のセンサーが移動方向に対して重なり合って配置されるコンスタレーションを設けることができる。しかし、多くの場合、各測定区画に対応するセンサーは、重なり合って配置されない。しかしながら、測定区画は、センサーの視程を表し、センサーの物理的な拡がり自体を表さない。一般的に表現すると、重なり合った測定区画は、センサーの視程の重なり合いを意味し、センター自体も重なり合うことができる。それは、当然のことながら、搬送区間の対向する側に配置された測定区画にも言えることである。
【0015】
当然のことながら、搬送区間の対向する側及び同じ側に有るオーバーラップ領域からの混合が得られるように、複数の測定区画を搬送区間に沿って配置することもできる。第三の測定区画の第三の測定値を第一及び第二の測定値と比較することも、或いは別の測定区画の別の測定値と比較することなども可能である。
【0016】
有利には、実際値の近似値が動作パラメータとして決定される。
【0017】
この近似値は、当然のことながら、オーバーラップ領域全体に渡って得られる実際値に対して実施することができ、各実際値に対して、それぞれ第一と第二の測定値が用いられる。
【0018】
第一又は第二の測定値を実際値の近似値として選択することができる。
【0019】
それは、選択的方法に相当し、そのことは、実際値の特に速い近似値を可能にする。そのため、一つの測定区画の障害時でも、オーバーラップ領域において、別の測定区画が引き続き測定値を提供することができ、それによって、長固定子リニアモーター全体の障害が防止される。
【0020】
第一又は第二の測定値の選択は、各測定値の分類及び/又は各測定値の期待できる精度に基づき実施することができる。
【0021】
実際値の近似値としての第一又は第二の測定値の選択は、測定値又は測定区画の既存の分類に基づき実施することができる。そのため、例えば、この分類に基づき、より正確になると仮定できる測定値を選択することができる。
【0022】
測定値の中の一つの選択は、測定値の精度に基づき実施することもできる。そのため、例えば、対応する測定区画の縁における精度が低下し、それにより、その測定区画に関して検出された測定値の位置が測定値の選択に入り込む可能性が有ると仮定することができる。この選択時に、センサーと測定物体の間の間隔が大きくなるにつれて測定値の精度が低下することを幾何学係数として考慮することもできる。対向する測定区画の場合に、例えば、搬送ユニットがより近くに有る方の測定区画の測定値を選択することができる。
【0023】
測定値の選択は、ニューラルネットワークなどの学習アルゴリズムを用いて実施することもできる。
【0024】
前述したとおり、物理量の実際値は、二つの測定区画における測定値によって表される。二つの測定値が存在するので、実際値の一義的な決定が不可能であり、そのため、これらの測定値は、有利には、実際値を近似するように処理される。それによって、一つの測定区画の測定値だけが基準値としての役割を果たすのではなく、二つ(以上)の測定区画の測定値が基準値としての役割を果たすので、精度を向上させた形で実際値を決定することができる。それは、競合的センサーデータ融合と呼ばれる。選択すべき実際値は、測定値又は測定区画の既存の分類に基づき決定することができる。実際値は、例えば、測定値の平均によって近似することもできる。
【0025】
しかし、有利には、第一と第二の測定値に対して重み係数が付与されて、第一及び第二の測定値とそれぞれ対応する重み係数とから、実際値の近似値が動作パラメータとして検出される。
【0026】
選択的方法と異なり、一つの測定値が実際値の近似値として選択されるのではない。むしろ、二つの測定値が考慮されて、両方の測定値がそれぞれ重み付けされる。各測定値に関する重み係数を使用することによって、実際値を一層良好に近似することができる。
【0027】
重み係数は、基準モデルからの測定値のずれの大きさによって決まるモデル係数を含むこともできる。
【0028】
そのため、このモデル係数は、基準モデルに基づき決定することができ、そのモデルによって、例えば、物理的な挙動を表すことができる。そのため、例えば、搬送ユニットの運動方程式をモデル作成のために使用して、測定値により決定される本当の動きの偏差をモデル係数に取り入れることができる。測定値とモデルの間の偏差が大きくなるほど、その測定値が正しくない確率が高くなる。そのことに基づき、モデル係数を選択することができる。これは、特に、対向する測定区画の場合に起こり得ることであり、その理由は、それらの区画が確かに移動方向に対して重なり合っているが、それにも関わらず、交差方向に対して互いに間隔を開けて位置することができ、それは、高い確率で異なる測定値を提供する可能性が有るからである。
【0029】
重み係数は、測定区画内における測定値の位置によって決まる幾何学係数を包むことができる。
【0030】
例えば、対応する測定区画の縁において、測定値の精度が低下し、それにより、その測定区画に関して検出された測定値の位置が幾何学係数に入り込む可能性が有ると仮定することができる。そのため、測定区画の縁における測定値は、例えば、測定区画の中央における測定値よりも小さく重み付けされる。センターと測定物体の間の間隔が大きくなるほど測定値の精度を低下することを幾何学係数として考慮することもできる。対向する測定区画の場合に、例えば、搬送ユニットがより近くに有る方の測定区画の測定値に対して、より高い重みを付けることができる。
【0031】
この重み係数は、統計的分布関数によって決まる統計的係数を含むことができる。
【0032】
この統計的係数は、例えば、測定信号のパラメータによって決まる乱数分布を考慮することができ、その際、測定値の分散を評価することができる。これは、特に、実際の位置を決定する場合に、搬送ユニットの磁石板と位置センサーの間の間隔が大きくなるほど、分散が増大すると仮定することによって実施することができる。これは、幾何学的な重み係数と組み合わせると特に目的に適うものとなる。
【0033】
更に、これらの重み係数は、ニューラルネットワークなどの学習アルゴリズムによって使用することもできる。当然のことながら、重み係数を決定するために、前記の係数と方法の任意の組み合わせを採用することができる。
【0034】
第一及び第二の測定値として、それぞれ搬送区間における搬送ユニットの測定位置を検出することができる。
【0035】
従って、複数の測定区画の測定値を考慮することによって、より精確に実際の位置を決定することができるので、実際値としての実際の位置をそれぞれ測定値としての測定位置によって表して、それにより、搬送ユニットの制御を改善することができる。
【0036】
同様に、第一及び第二の測定値として、それぞれ搬送区間における搬送ユニットの速度及び/又は加速度、温度及び電流の中の一つ以上を検出することができる。
【0037】
第一と第二の測定値の偏差から、長固定子リニアモーターにおける擾乱、故障及び劣化の中の一つ以上の発生を動作パラメータとして決定することができる。
【0038】
擾乱、誤差又は劣化が発生した場合、第一の測定値と第二の測定値が所定の許容範囲を超えて互いに相違する可能性が有る。従って、それに対応する偏差によって、擾乱、故障又は劣化を推定することができる。
【0039】
測定値をより確実に検出できるか、より確実に評価できるか、或いはその両方である。「より確実に」とは、規格DIN EN ISO 13849-1:2016-06の表10のカテゴリーに基づき定められ、そのため、信頼度カテゴリーに応じて、シングルエラー信頼度、ダブルエラー信頼度等を規定することができる。
【0040】
擾乱、故障又は劣化を検出した場合、アクションを作動することができる。アクションとしては、非停止、(例えば、音又は光による)信号出力、フラグ設定等を実施することができる。
【0041】
機械的な取付ミス、さもなければ(例えば、センサーの故障、磁石板の摩耗等による測定区画の)障害を故障として見做すことができる。同様に、誤って初期設定されたパラメータ、例えば、測定区画の誤った設定を検出することができ、その場合、その測定区画の測定値が、重なり合った測定区画の測定値と相応に異なることとなる。
【0042】
搬送セグメントの誤った取付は、搬送区間における搬送ユニットの誤った位置決めを引き起こす可能性が有り、それによって、上位のプロセス、特に、搬送ユニットの位置又は軌道の調節が妨害される可能性が有る。そのため、不規則な制御量、不安定な制御ループ、過電流エラー、トラッキングエラーによる中断等が発生する可能性が有る。制御ループが部分的に互いに対抗して調整し合い、それによって、又もや不安定な制御ループが引き起こされる可能性が有るとともに、更に、エネルギー需要の上昇が発生する可能性が有るとの事態が生じる可能性も有る。特に、測定区画がそれぞれ搬送セグメントをカバーする場合に、オーバーラップ領域における測定値のずれによって、そのような搬送セグメントの誤った取付を推定することができる。
【0043】
同様に、周囲環境の条件(例えば、温度の上昇)などの擾乱も、それらが個々の測定区画のセンサーに影響を与えるので、検知することができる。更に、測定区画又は測定区画の一部の障害(センサーの障害、磁石板の損傷など)を検知することができる。
【0044】
特に、測定区画が互いに対向して位置決めされている場合、測定値のずれによって、例えば、ガイド部品、例えば、ローラーなどの摩耗を検知することもできる。そのため、測定値の相違に基づき、各測定区画に対する可動部分の間隔の変化を検知することができる。それは、重なり合った測定区画の測定値がずれた場合に、ガイド部品(例えば、ローラー)の片側の摩滅、磁石板の損傷、磁石板の減磁、センサーの誤動作(例えば、センサーのドリフトなど)を推定することを可能とする。
【0045】
同様に、搬送ユニットが如何なる側で搬送区間とのより短い間隔を有するのかを検出することができる。これは、例えば、片側の摩耗によって同様に起こる可能性が有る。この情報は、間隔がより短い方の側の駆動コイルを目的通り駆動するために使用することができ、それによって、エネルギーを節約できるとともに、更に、発生する摩耗を軽減できる。
【0046】
以下において、本発明を限定するものではない本発明の模式的な有利な実施例を図示する図1~2bを参照して本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】長固定子リニアモーターの模式図
図2a】搬送区間の同じ側に有る二つの測定区画の断面図
図2b】搬送区間の対向する側に有る二つの測定区画の断面図
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、長固定子リニアモーター2を図示し、その長固定子リニアモーター2の固定子は、例えば、閉じた搬送区間20として実現されている。この搬送区間20には、多数の駆動コイルLが、搬送ユニット1の移動方向rに対して順番に配置されており、標準動作では、制御ユニットRの制御の下で、可動磁界を発生させるために、それぞれコイル電流iを流される。各駆動コイルLを流れるコイル電流iは、基本的に駆動コイルL毎に異なる可能性が有る。制御ユニットRは、好適なハードウェア及び/又は好適なハードウェアで動作するソフトウェアとして実現することができる。移動方向rに対して互いに隣り合って配置された駆動コイルLは、搬送区間20における固定位置の(図面では単に大まかに図示された)支持構造3に配置されている。この場合、搬送区間20は、用途及び必要に応じて、任意の形状にすることができ、閉じた区間区画及び/又は開いた区間区画を含むことができる。搬送区間20は、一つの平面内に設置するか、さもなければ空間内に任意に延ばすことができる。
【0049】
一つの搬送区間20は、通常それぞれ一定数の駆動コイルLを備えた複数の搬送セグメントの組み合わせから構成される。同様に、第一の搬送セグメント20から第二の搬送セグメントに搬送ユニット1を移動させるために、転轍機を使用することもできる。
【0050】
一つの搬送ユニット1は、当然のことながら、好適な手法により搬送区間20に沿って移動させるとともに、搬送区間に保持しなければならない。この場合、搬送ユニット1の任意のガイド部品自体が、搬送区間20のガイド部品と協力して動作することができ、その際、例えば、ローラー、ホイール、スライド部品、ガイド面等を採用することができる。これらのガイド部品も、区画毎に一つの側、二つの側又は複数の側に配置することができる。
【0051】
長固定子リニアモーター2の搬送区間20に沿って、測定区画21,22が配置されており、一つの測定区画21,22は、それぞれ搬送区間20の一部に渡って延びている。この場合、一つの測定区画21,22は、複数の順番に並んだ搬送セグメントに渡って延びることができるか、或いは一つの搬送セグメントだけに限定することもできる。当然のことながら、一つの測定区画21,22は、一つの搬送セグメントを越えて延びるか、或いは搬送セグメントと関係無く考察することもできる。この理由から、本明細書では、測定区画21,22を考察して、搬送セグメントを考察しない。見易くするとの理由から、図1には、測定区画21,22を表示していない。むしろ、図2a及び2bにおける搬送区間20の一部を考察し、そこには、それぞれ重なり合った測定区画21,22が図示されている。
【0052】
測定区画21,22は、一つ又は複数の測定値m1,m2を検出するように構成されており、測定値m1,m2は、それぞれ物理量Gの実際値Xを表す。搬送ユニット1の実際の位置x、実際の速度v及び実際の加速度aの中の一つ以上を物理量Gとして見做すことができる。従って、測定値m1,m2は、それぞれ測定位置、測定速度又は測定角速度を示し、そのため、実際の位置x、実際の速度v又は実際の加速度aを表し、その際、二つの測定値m1,m2が同じ物理量Gを直接的に示す必要はなく、物理量を表すだけでよい。
【0053】
物理量Gとして実際の位置を検出する場合、それは、基準点に関して実施することができ、基準点は、測定区画21,22、搬送セグメント又は空間内のそれ以外の任意の点に有ると仮定することができる。測定値m1,m2によって、発生する力、流れる電流、生じる温度などの別の物理量Gを表すこともできる。次に、それから、実際の位置xなどの物理量Gを計算することができ、それは、観察者によって実施することもできる。
【0054】
第一の測定値m1が、物理量G、例えば、実際の位置を直接的に表すこともできる。それは、第一の測定値m1が実際の位置自体を示すことを意味する。それに対して、第二の測定値m2が別の物理量、例えば、電流を示すことができ、その電流から、実際の位置を物理量Gとして表すことができる。従って、第一の測定値m1が物理量Gを直接的に表し、第二の測定値m2が物理量Gを間接的に表すこととなる。しかし、両方の測定値m1,m2が物理量Gを表すことができる。
【0055】
そのために、センサーとして、磁界センサー、例えば、ホールセンサー、磁気抵抗センサーを配備することができる。しかし、これらのセンサーは、例えば、光センサー、容量センサー、誘導センサーなどのように、別の物理測定方式を利用することもできる。駆動コイルLを流れるコイル電流iを計測する電流センサーを配備することもできる。コイル電流iから、周知の通り、例えば、搬送ユニット1に作用する垂直力及び/又は推進力を決定することができる。センサーとして温度センサーを配備することもできる。
【0056】
図2aには、例えば、第一と第二の測定区画21,22が図示されている。本発明によると、少なくとも二つの測定区画21,22が、移動方向rに対して、即ち、搬送区間20に沿ってオーバーラップ領域Bを有する。オーバーラップ領域Bにおいて重なり合った測定区画21,22は、図2aの通り、搬送区間20の同じ側に配置するか、或いは図2bに図示されている通り、搬送区間20の対向する側に配置することもできる。
【0057】
図示された両方の場合に、オーバーラップ領域B内の第一の測定区画21において第一の測定値m1が検出され、オーバーラップ領域B内の第二の測定区画22において第二の測定値m2が検出される。この場合、両方の測定値m1,m2は、一つの物理量Gの同じ実際値Xを表す。そのため、例えば、実際値Xとしての搬送ユニット1の実際の位置xを第一の測定区画21の第一の測定値m1によって表すことができる。同様に、実際値Xとしての搬送ユニット1の実際の位置xを同じく第二の測定区画22の第二の測定値m2によって、即ち、第二の実際の測定位置として表すことができる。
【0058】
図2a,2bには、一つの実際値Xだけが図示されているが、当然のことながら、オーバーラップ領域Bにおいて、別の実際値X及び/又は更なる実際値Xを検出することもでき、その際、その別の実際値X及び/又は更なる実際値Xを表す測定値m1,m2がそれぞれ検出される。
【0059】
第一の測定値m1と第二の測定値m2が異なる場合、第二の測定値m2からの第一の測定値m1のずれから、長固定子リニアモーター2の動作パラメータPを決定することができ、そのため、動作パラメータPは測定値の関数P=f(m1,m2)として得られる。
【0060】
それは、図2a,2bでは、例えば、処理ユニットVで実施されており、当然のことながら、それに代わって、例えば、制御ユニットR又は長固定子リニアモーター2に既に存在する別のユニットで実施することもできる。動作パラメータPは、例えば、搬送ユニット1を制御するために、更に出力及び/又は処理することができる。
【0061】
第一と第二の測定値m1,m2の偏差から、例えば、本当の実際値Xの近似値を動作パラメータPとして決定することができる。それは、測定区画21,22を共通の座標系に変換することによって実施することができる。測定値m1,m2を平均するか、或いはそれぞれ重み係数f1,f2を付与することもでき、それによって、動作パラメータPは、測定値m1,m2とそれぞれ対応する重み係数f1,f2の関数P=f(m1,f2;m2,f2)として得られる。動作パラメータPとして、実際値Xの近似値を検出することができる。測定区画21,22の重み係数f1,f2は、初期設定するか、時間の経過とともに調整するか、或いはその両方が可能である。
【0062】
この場合、各測定区画21,22は、測定精度が異なる領域を含むこともでき、その場合、測定精度は、測定区画21,22又は測定区画21,22の一部に渡って離散的に変化するか、連続して変化するか、或いはその両方が可能である。同様に、測定区画21,22の測定精度は、時間的に変化するか、センサーの温度、汚れ及び/又は経年変化などの別の影響に応じて変化するか、或いはその両方が可能である。そのため、各重み係数f1,f2は、測定区画21,22内における測定値m1,m2の位置によって決まる幾何学係数を含むことができる。例えば、測定区画21,22内における位置、測定物体との間隔、温度、漏れ磁界などに応じて、幾何学係数に精度を取り入れることができる。測定値m1,m2の精度が測定区画21,22の縁で低下する場合、幾何学係数を測定区画21,22の中心点との間隔の関数として使用することができる。
【0063】
当然のことながら、重み係数f1,f2は、測定区画21,22に関する測定値の位置に応じて変更することができ、それは、同じく幾何学係数によって実現することができる。
【0064】
重み係数f1,f2は、統計的な分布関数によって決まる統計的係数を含むこともできる。個々の測定区画21,22の確率分布が既知であり、互いに独立しており、正規分布であり、同じ平均値を有する場合、重み付けされた最小二乗を用いる最尤推定器を使用することができる。この場合、測定区画21,22における分散が時間の関数であるとすることも、測定区画21,22における位置の関数であるとすることもできる。
【0065】
同様に、重み係数f1,f2にモデル係数を取り入れることができる。モデルベースの推定器の例として、カルマンフィルターが挙げられる。カルマンフィルターの設計時に、測定値m1,m2の確率分布に関する仮定を設けることもできる。
【0066】
第一又は第二の測定値m1,m2自体、或いは第一又は第二の測定値m1,m2の平均値を実際値Xの近似値として選択することもできる。統計的係数及び/又は幾何学係数に取り入れられる、前に重み係数の枠組みにおいて列挙した情報は、測定値m1,m2の選択に関しても同じく実際値Xの近似値として使用することができる。
【0067】
第一と第二の測定値m1,m2の偏差から、長固定子リニアモーター2における擾乱、故障及び劣化の中の一つ以上の発生を動作パラメータPとして決定することができる。それは、擾乱、故障又は劣化のために、重なり合った測定区画21,22の測定値m1,m2が互いにずれた場合に起こり得る。従って、それと逆に考えて、擾乱、故障又は劣化を推定することができる。この場合、例えば、偏差の大きさに基づき、擾乱、故障又は劣化の種類を推定することができる。例えば、温度上昇などの周囲環境条件の変化も擾乱として見做すことができる。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下の構成も包含し得る。
1.
搬送区間(20)に沿って移動方向(r)に対して第一の測定区画(21)で第一の測定値(m1)を検出するとともに、第二の測定区画(22)で第二の測定値(m2)を検出する、長固定子リニアモーター(2)を制御する方法において、
この第一の測定区画(21)が、移動方向(r)に対してオーバーラップ領域(B)において第二の測定区画(22)と重なり合うことと、
これらの第一の測定値(m1)と第二の測定値(m2)が、一つの物理量(B)の同じ実際値(X)を表すことと、
これらの第一の測定値(m1)と第二の測定値(m2)の間に生じる偏差に基づき、長固定子リニアモーター(2)の動作パラメータ(P)が決定されることと、
を含む当該方法。
2.
前記の測定区画(21,22)が、搬送区間(20)の対向する側に設けられる上記1に記載の方法。
3.
前記の測定区画(21,22)が、搬送区間(20)の同じ側に設けられる上記1又は2に記載の方法。
4.
前記の実際値(X)の近似値が動作パラメータ(P)として決定される上記1から3までのいずれか一つに記載の方法。
5.
前記の第一又は第二の測定値(m1,m2)が前記の実際値(X)の近似値として選択される上記4に記載の方法。
6.
前記の第一又は第二の測定値(m1,m2)の選択が各測定値の分類に基づき実施される上記4に記載の方法。
7.
前記の第一又は第二の測定値(m1,m2)の選択が各測定値の期待される精度に基づき実施される上記5又は6に記載の方法。
8.
前記の第一及び第二の測定値(m1,m2)が、それぞれ重み係数(f1,f2)を付与されることと、
前記の第一及び第二の測定値(m1,m2)とそれぞれ対応する重み係数(f1,f2)とから、前記の実際値(X)の近似値が動作パラメータ(P)として検出されることと、
を特徴とする上記4に記載の方法。
9.
前記の重み係数(f1,f2)が、基準モデルからのそれに対応する測定値(m1,m2)のずれの大きさによって決まるモデル係数を含む上記8に記載の方法。
10.
前記の重み係数(f1,f2)が、それに対応する測定区画(21,22)内における各測定値(m1,m2)の位置によって決まる幾何学係数を含む上記8又は9に記載の方法。
11.
前記の重み係数(f1,f2)が、統計的な分布関数によって決まる統計的係数を含む上記8から10までのいずれか一つに記載の方法。
12.
長固定子リニアモーター(2)における擾乱、故障及び摩耗の中の一つ以上の発生が動作パラメータ(P)として決定される上記1から11までのいずれか一つに記載の方法。
13.
第一及び第二の測定値(m1,m2)として、それぞれ搬送区間(20)における搬送ユニット(1)の位置が検出される上記1から12までのいずれか一つに記載の方法。
14.
第一及び第二の測定値(m1,m2)として、それぞれ搬送区間(20)における搬送ユニット(1)の速度及び/又は加速度が検出される上記1から12までのいずれか一つに記載の方法。
15.
第一及び第二の測定値(m1,m2)として、それぞれ温度及び/又は電流が検出される上記1から12までのいずれか一つに記載の方法。
【符号の説明】
【0068】
1 搬送ユニット
2 長固定子リニアモーター
3 支持構造
20 搬送区間
21 測定区画
22 測定区画
a 実際の加速度
f1,f2 重み係数
コイル電流
m1,m2 測定値
r 移動方向
v 実際の速度
x 実際の位置
B オーバーラップ領域
G 物理量
L 駆動コイル
P 動作パラメータ
R 制御ユニット
V 処理ユニット
X 実際値
図1
図2a
図2b