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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】鉄道車両用制振装置
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/24 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B61F5/24 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020031695
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133825
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 信之
(72)【発明者】
【氏名】笹内 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】青谷 智明
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-270438(JP,A)
【文献】特開平08-026110(JP,A)
【文献】特開2009-040081(JP,A)
【文献】特開平11-268647(JP,A)
【文献】特開2006-298128(JP,A)
【文献】特開2018-118536(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110155103(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に作用している物理値を検出可能な物理値センサと、車両の車体と台車の間に介装され前記車体の枕木方向の振動を抑制可能な制振用ダンパと、前記制振用ダンパが発生すべき減衰力に応じたダンパ制御指令値を決定する制振制御部とを備える鉄道車両用制振装置において、
前記制振制御部は、
同一編成のうち自車両より前方を走行する先行車両に備わる前記物理値センサで検出される物理値に基づき、自車両に作用する曲線通過するとき車体に作用する遠心力又はレールの長波長軌道狂いに基づいて生じる定常加速度を算出する定常加速度算出部と、
前記自車両に備わる前記物理値センサで検出される加速度から、前記定常加速度算出部で算出された定常加速度を除去して前記自車両の振動加速度を算出する振動加速度算出部と、
前記振動加速度算出部の出力信号に基づいて、前記自車両の制振用ダンパに対する前記ダンパ制御指令値を算出する指令値算出部とを有し、
前記先行車両に備わる前記物理値センサで検出する物理値は、前記先行車両に作用している加速度であり、
前記物理値センサで検出する物理値には、車高値情報が含まれており、
前記定常加速度算出部は、前記先行車両の車高値情報と前記自車両の車高値情報との差分に基づき前記定常加速度を補正する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
【請求項2】
請求項に記載する鉄道車両用制振装置において、
前記定常加速度算出部は、前記先行車両に備わる前記物理センサで検出される加速度に基づく信号をローパスフィルタ処理された信号に基づいて前記定常加速度を算出する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体と台車の間に介装された制振用ダンパの減衰力を積極的に制御する鉄道車両用制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行時、車体に対し枕木方向の振動(つまり左右振動)が生じると、そのときの振動加速度を加速度センサが検出し、この振動加速度に基づいて制振制御が行われている。具体的に、制振装置は、車体が右方向に振動しているとき、この振動を抑制する左向きの減衰力に応じたダンパ制御指令値を算出し、車体が左方向に振動しているとき、この振動を抑制する右向きの減衰力に応じたダンパ制御指令値を算出する。これにより、鉄道車両の走行時、制振用ダンパは、発生させる減衰力の大きさ及び向きを的確に切り替えて、鉄道車両の左右振動を抑制している。
【0003】
ところで、鉄道車両が、例えば曲線通過するとき(車両曲線通過時)には、遠心力による定常加速度が作用しているため、加速度センサでは、左右振動による振動加速度に定常加速度が重畳されたものが振動加速度として検知される。そして、この検知された振動加速度に基づいてダンパ制御指令値が算出されると、制振用ダンパは一方向にのみ大きな減衰力を発生させてしまうため、鉄道車両の左右振動を精度良く抑制することができなくなり乗り心地が悪化する。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、走行地点における軌道情報及び走行速度に基づいて、車体に作用する車両進行方向に対し左右方向の理論超過遠心加速度(定常加速度)を求め(推定して)、加速度センサで測定される加速度から理論超過加速度を減じたものを制振制御に使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-40081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の制振装置では、軌道情報を利用して定常加速度を算出するため、走行地点誤差や車高値誤差による推定誤差が発生するおそれがある。そのため、推定誤差が発生した場合にもその誤差を完全に除去するため、加速度センサで検知された加速度から定常加速度を除去した後に、ハイパスフィルタによるハイパスフィルタ処理を行っている。そのことにより、ハイパスフィルタの位相ズレの影響によって、制振用ダンパの制御タイミングがずれて(遅れて)しまい、制振性能が低下するという問題があった。
【0007】
ここで、ハイパスフィルタの遮断周波数を下げることにより、位相ズレを小さくすることができるため、制振性能を向上させることができる。しかし、ハイパスフィルタの遮断周波数を下げると、定常加速度の推定誤差を完全に除去することができなくなるおそれがある。そして、定常加速度の推定誤差を完全に除去することができなかった場合には、制御指令値に定常加速度の影響が表れてしまい(図5の一点鎖線参照)、制振性能が低下して乗り心地が悪化してしまう。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、定常加速度の推定精度を向上させることにより、制振性能を向上させることができる鉄道車両用制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本開示の一形態は、
鉄道車両に作用している物理値を検出可能な物理値センサと、車両の車体と台車の間に介装され前記車体の枕木方向の振動を抑制可能な制振用ダンパと、前記制振用ダンパが発生すべき減衰力に応じたダンパ制御指令値を決定する制振制御部とを備える鉄道車両用制振装置において、
前記制振制御部は、
同一編成のうち自車両より前方を走行する先行車両に備わる前記物理値センサで検出される物理値に基づき、自車両に作用する曲線通過するとき車体に作用する遠心力又はレールの長波長軌道狂いに基づいて生じる定常加速度を算出する定常加速度算出部と、
前記自車両に備わる前記物理値センサで検出される加速度から、前記定常加速度算出部で算出された定常加速度を除去して前記自車両の振動加速度を算出する振動加速度算出部と、
前記振動加速度算出部の出力信号に基づいて、前記自車両の制振用ダンパに対する前記ダンパ制御指令値を算出する指令値算出部とを有し、
前記先行車両に備わる前記物理値センサで検出する物理値は、前記先行車両に作用している加速度であり、
前記物理値センサで検出する物理値には、車高値情報が含まれており、
前記定常加速度算出部は、前記先行車両の車高値情報と前記自車両の車高値情報との差分に基づき前記定常加速度を補正することを特徴とする。
【0010】
この鉄道車両用制振装置では、定常加速度算出部により、同一編成のうち自車両より前方を走行する先行車両に備わる物理値センサで検出される物理値に基づき、自車両に作用する定常加速度が算出される。つまり、従来のように軌道情報(データベース)ではなく、先行車両で計測された物理値に基づいて、自車両に作用する定常加速度が算出される。そのため、従来のように走行地点誤差による定常加速度の推定誤差が発生しないので、定常加速度の推定精度が向上する。
【0011】
そして、振動加速度算出部により、自車両に備わる物理センサで検出される加速度から、定常加速度算出部で算出された定常加速度が除去されて自車両の振動加速度が算出される。その後、振動加速度算出部で算出された振動加速度の信号に基づいて、指令値算出部において、自車両の制振用ダンパに対するダンパ制御指令値が算出される。ここで、定常加速度の推定精度が向上しているため、振動加速度算出部で算出された振動加速度に対して、ハイパスフィルタによるハイパスフィルタ処理を行う場合には、ハイパスフィルタの遮断周波数を下げることができる。あるいは、ハイパスフィルタによるハイパスフィルタ処理を不要にすることができる。そのため、指令値算出部において、自車両の制振用ダンパに対するダンパ制御指令値が算出される際に、ハイパスフィルタの位相ズレの影響をほとんど受けることがない、あるいはハイパスフィルタの位相ズレの影響が完全になくなる。その結果、制振用ダンパの制御を適切なタイミングで実施することができるため、制振性能を向上させることができる。
【0012】
また、この鉄道車両用制振装置では、先行車両に備わる物理値センサで検出する物理値が先行車両に作用している加速度であり、物理値センサで検出する物理値には、車高値情報が含まれており、定常加速度算出部は、先行車両の車高値情報と自車両の車高値情報との差分に基づき定常加速度を補正している。これにより、車高値誤差による定常加速度の推定誤差がなくなるため、自車両の定常加速度をより精度良く推定することができる。
【0013】
上記の鉄道車両用制振装置において、前記定常加速度算出部は、前記先行車両に備わる前記物理センサで検出される加速度に基づく信号をローパスフィルタ処理して前記定常加速度を算出することが好ましい。
【0014】
このように先行車両の加速度を利用し、その加速度に基づく信号をローパスフィルタによりローパスフィルタ処理することにより、自車両の定常加速度を簡単に精度良く算出することができる。なお、ローパスフィルタ処理することにより、ローパスフィルタの位相ズレの影響を受けるため、その位相遅れの時間を考慮して、自車両の定常加速度を算出するために利用する加速度を検出する先行車両を何両前の車両とするかを決定すればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る鉄道車両用制振装置によれば、定常加速度の推定精度を向上させることができるので、制振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】鉄道車両用制振装置が適用された鉄道車両(各車両)を概念的に示した全体構成図である。
図2】左右振動が生じた場合に検出される加速度と時間との関係を示した図である。
図3】低周波振動が生じた場合に検出される加速度と時間との関係を示した図である。
図4】電子制御装置の構成を示したブロック図である。
図5】ダンパ制御指令値について従来例との比較結果を示した図である。
図6】左右PSDについて従来例との比較結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る鉄道車両用制振装置の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。本実施形態では、本発明の鉄道車両用制振装置を、アクチュエータ等による駆動エネルギー源を有していないセミアクティブサスペンションに適用した場合について説明する(セミアクティブサスペンションに関する詳細な説明は省略する)。図1は、鉄道車両用制振装置40が適用された鉄道車両1(編成列車の一両分)を概念的に示した正面図である。この鉄道車両1においては、前後方向に二台設けられた台車10に空気バネ20を介して車体30が搭載されていて、車体30に作用する振動を積極的に減衰させる鉄道車両用制振装置40が設けられている。鉄道車両用制振装置40は、物理値センサの一例としての加速度センサ41と、制振用ダンパの一例としてのダンパ装置42と、制振制御部の一例としての電子制御装置43とを備えている。
【0020】
加速度センサ41は、車体30に対し枕木方向(鉄道車両1の進行方向及び上下方向に直交する方向)の加速度αを検出するものであり、検出した加速度αを電子制御装置43に出力する。ダンパ装置42は、セミアクティブサスペンションに備わる減衰力可変ダンパであり、車体30に作用する左右振動に応じて、車体30の枕木方向の振動を抑制するための減衰力を発生するものである。このダンパ装置42は、車体30と台車10との間に介装されていて、電子制御装置43に接続されている。そして、ダンパ装置42は、電子制御装置43から入力されるダンパ制御指令値Fにより、図示しない電磁弁の開き量が調節されて、発生する減衰力を調整できるように構成されている。
【0021】
そして、このような鉄道車両1が複数台連結されて編成列車が構成されており(図4参照)、各鉄道車両1の電子制御装置43は、他車両の加速度センサ41と通信可能となっている。これにより、各車両の電子制御装置43は、自車両の加速度に加えて、他車両の加速度を取得することができるようになっている。
【0022】
電子制御装置43は、加速度センサ41で検出される図2に示すような加速度αに基づいて、ダンパ制御指令値Fを決定する。ここで、ダンパ制御指令値Fとは、車体30に作用する左右振動に応じてダンパ装置42が的確に減衰力を発生するように、電子制御装置43が適宜決定する値である。従って、電子制御装置43は、車体30が右方向に振動するとき、ダンパ装置42が車体30の右向きの振動を抑制する左向きの減衰力を発生するように、ダンパ制御指令値Fを決定し、車体30が左方向に振動するとき、ダンパ装置42が車体30の左向きの振動を抑制する右向きの減衰力を発生するように、ダンパ制御指令値Fを決定する。
【0023】
ところで、鉄道車両1の走行時、車体30には、約0.1Hzから約0.2Hzまでの低周波数領域での低周波振動が生じる場合がある。この低周波振動は、鉄道車両1が定常加速度で曲線通過するとき車体30に作用する遠心力に基づいて生じるもの、又は、レールが直線方向に対して僅かに歪んでいることにより鉄道車両1が直線通過するときの長波長軌道狂いに基づいて生じるものである。この低周波振動が生じると、加速度センサ41は、図3に示すように、加速度の大きさが大きく且つ加速度の向きが一方向である定常加速度が重畳した加速度αを検出する(図3の(A))。そして、定常加速度が重畳した加速度αに基づいて電子制御装置43がダンパ制御指令値Fを決定すると、ダンパ装置42は一方向にのみ大きな減衰力を発生させることになり、減衰力の向きが的確に切り替わらなくて、制振効果を的確に得られなくなる。
【0024】
そのため、ダンパ装置42の制振効果を的確に得るためには、電子制御装置43は、加速度センサ41で検出された加速度αから低周波領域の定常加速度αsを除去した振動加速度αoに基づいて、ダンパ制御指令値Fを算出する必要がある。そこで、電子制御装置43は、図4に示すように、除去する定常加速度αsを算出する定常加速度算出部50と、振動加速度αoを算出する振動加速度算出部60と、振動加速度算出部60からの出力信号をハイパスフィルタ処理するフィルタ処理部70と、フィルタ処理部70からの出力信号に基づいてダンパ制御指令値Fを算出する指令値算出部80とを有している。
【0025】
定常加速度算出部50は、自車両1Bより前方を走行する先行車両1Aに備わる加速度センサ41aで検出される加速度αAに基づいて、自車両1Bに作用する定常加速度αsを算出するものである。この定常加速度算出部50には、先行車両1Aに備わる加速度センサ41aの出力信号がローパスフィルタ51(本実施形態では遮断周波数0.2Hz)によりローパスフィルタ処理された信号が入力され、その入力信号に基づいて定常加速度αsが算出される。つまり、定常加速度算出部50では、従来のように予め記憶された軌道情報(データベース)を利用するのではなく、先行車両1Aで実測された加速度αAに基づいて、自車両1Bに作用する定常加速度αsが算出される。従って、定常加速度αsを算出する際に、従来のように走行地点誤差による定常加速度の推定誤差が発生することがないため、定常加速度αsを精度良く算出することができる。
【0026】
また、各車両1の車高値を検出している場合には、定常加速度算出部50において、先行車両1Aの左右車高差HAと自車両1Bの左右車高差HBとの差分に基づいて、先行車両1Aの加速度αAに基づき算出した振動加速度αoを補正することもできる。具体的には、先行車両1Aの左右車高差HAと自車両1Bの左右車高差HBの差分(HA-HB)に重力加速度gを乗じて左右の空気バネ間隔Lで除した値(g(HA-HB)/L)を、定常加速度算出部50において算出した定常加速度αsから減ずることにより、車高値誤差による定常加速度αsの推定誤差がなくなるため、自車両1Bに作用する定常加速度αsをより精度良く算出することができる。
【0027】
ここで、定常加速度算出部50は、先行車両1Aに備わる加速度センサ41aの出力信号をローパスフィルタ51によりフィルタ処理した信号に基づいて、自車両1Bに作用する定常加速度αsを算出している。そのため、ローパスフィルタ51の位相ズレの影響を受けるため、自車両1Bにおける加速度αBの検出タイミングより、位相遅れの時間(本実施形態では1.2秒)以上早いタイミングで先行車両1Aの加速度αAを検出しておく必要がある。ここで、車両長及び走行速度から、自車両1Bより何両前の車両から加速度αAを取得するかを決定すればよい。例えば、新幹線(登録商標)であれば(車両長25m)、走行速度が270km/hであるとすると、位相遅れの間に車両が約90m進行するため、自車両1Bより約100m前方に位置する5両前の車両を先行車両1Aとして、加速度αAを取得すればよい。なお、先頭から先行車両1Aまでは本実施形態の制振制御を実施することができないが、自車量の加速度センサで検知された加速度から定常加速度を除去した後にハイパスフィルタによるハイパスフィルタ処理を行う従来の制振制御を行っていれば、前寄りの車両は後ろ寄りの車両よりも乗り心地が良い(車両の揺れが少ない)ため、乗り心地への影響は小さいので特に問題とはならない。
【0028】
振動加速度算出部60は、自車両1Bに作用する振動加速度αoを算出するものである。この振動加速度算出部60では、自車両1Bの加速度センサ41bで検出された加速度αBから、定常加速度算出部50で算出された定常加速度αsが除去されて、自車両1Bに作用する振動加速度αoが算出される。
【0029】
フィルタ処理部70は、振動加速度算出部60において定常加速度を除去しきれなかった場合に、その部分を除去するためのものであり、ハイパスフィルタ71によるハイパスフィルタ処理を行う。このフィルタ処理部70には、振動加速度算出部60で算出された自車両1Bに作用する振動加速度αoが入力される。そして、入力された自車両1Bの振動加速度αoが、ハイパスフィルタ71によりハイパスフィルタ処理される。これにより、振動加速度算出部60において除去しきれなかった定常加速度成分が除去される。
【0030】
ここで、本実施形態では、定常加速度算出部50において定常加速度αsが精度良く算出されるため、ハイパスフィルタ処理を行うハイパスフィルタ71の遮断周波数を下げることができる。例えば、本実施形態では、遮断周波数が従来の1/3程度に下げられている。そのため、フィルタ処理部70の位相遅れが従来に比べて小さくなっている。
【0031】
指令値算出部80は、フィルタ処理部70から出力される信号を用いて、ダンパ制御指令値Fを算出する。そして、ダンパ制御指令値Fに基づいて、ダンパ装置42が発生させる減衰力が制御される。
【0032】
このような構成の鉄道車両用制振装置40では、車両曲線通過時など定常加速度αsが生じる場合に、先行車両1Aで検出された加速度αAがローパスフィルタ51によりローパスフィルタ処理がされた信号に基づき、定常加速度算出部50により、その区間で自車両1Bに作用する定常加速度αsが算出される。そして、振動加速度算出部60により、自車両1Bで検出された加速度αBから、定常加速度算出部50で算出された定常加速度αsが除去されて、自車両1Bに作用する振動加速度αoが算出される。その後、フィルタ処理部70により、振動加速度αoがハイパスフィルタ71によりハイパスフィルタ処理される。そして、指令値算出部80により、フィルタ処理部70の出力信号に基づき、ダンパ装置42に対するダンパ制御指令値Fが算出され、ダンパ装置42の減衰力がダンパ制御指令値Fに応じて可変制御される。
【0033】
ここで、鉄道車両用制振装置40では、ハイパスフィルタ71の遮断周波数が従来より下げられているので、フィルタ処理部70の位相遅れが従来に比べて小さくなっている。なお、ハイパスフィルタの遮断周波数を下げれば、ハイパスフィルタ71の位相遅れは小さくなるが、従来通りに算出した定常加速度、つまり走行地点誤差などによる推定誤差を含む定常加速度に対して、ハイパスフィルタの遮断周波数を下げると、推定誤差分を完全に除去することができなくなってしまう。その結果、図5に一点鎖線で示すように、ダンパ制御指令値Fに定常加速度の影響が残ってしまい、ダンパ装置42を適切に制御することができず、制振性能を悪化させてしまう。
【0034】
これに対して、本実施形態では、定常加速度算出部50において、走行地点誤差などによる推定誤差が含まれないように定常加速度αsが算出される。そのため、ハイパスフィルタ71の遮断周波数を下げても、図5に実線で示すように、ダンパ制御指令値Fに定常加速度αsの影響が残ることがなく、図5に破線で示す従来例と同等のダンパ制御指令値Fが算出されている。そして、このようなダンパ制御指令値Fに基づいて、ダンパ装置42が適切なタイミングで制御されるため、制振性能を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態の鉄道車両用制振装置40と従来の鉄道車両用制振装置で乗り心地を評価したので、その結果を図6に示す。図6では、横軸に周波数を示し、縦軸に左右PSDを示しており、実線が制振装置40(図5に実線で示す指令値Fで制御した場合)の結果であり、破線が従来の制振装置(図5に破線で示す指令値Fで制御した場合)の結果である。図6から明らかなように、本実施形態の制振装置40によれば、左右PSD(Acceleration Power Spectral Density)が低下しており制振性能が向上している。そして、乗り心地に大きく影響する1.0Hz以下の周波数領域において、左右PSDの低下が顕著であり、乗り心地が向上していることがわかる。
【0036】
以上、詳細に説明したように本実施形態に係る鉄道車両用制振装置40によれば、定常加速度算出部50において、先行車両1Aで検出された加速度αAをローパスフィルタによりローパスフィルタ処理した信号に基づき、自車両1Bに作用する定常加速度を算出する。そのため、算出された定常加速度に走行地点誤差などによる推定誤差が含まれなくなり、定常加速度算出部50において算出される定常加速度の推定精度が向上する。従って、フィルタ処理部70に備わるハイパスフィルタ71の遮断周波数を下げることができるので、ダンパ装置42の制御タイミングのズレを小さくすることができるため、制振性能を向上させることができる。
【0037】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、実施形態においては、鉄道車両用制振装置40をセミアクティブサスペンションに適用した場合を例示したが、鉄道車両用制振装置40は、アクチュエータ等による駆動エネルギー源を有しているフルアクティブサスペンションに適用することもできる。
【0038】
また、上記した実施形態では、振動加速度算出部60で算出した振動加速度αoをフィルタ処理部70にてハイパスフィルタ処理した信号に基づいて、指令値算出部80にてダンパ制御指令値Fを算出しているが、フィルタ処理部70を設けずに振動加速度算出部60で算出した振動加速度αoに基づいて、指令値算出部80にてダンパ制御指令値Fを算出することもできる。この場合には、ハイパスフィルタの位相ズレによる制振制御への悪影響を完全になくすことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 鉄道車両
1A 先行車両
1B 自車両
40 鉄道車両用制振装置
41 加速度センサ
41A 加速度センサ(先行車両)
41b 加速度センサ(自車両)
42 ダンパ装置
43 電子制御装置
50 定常加速度算出部
51 ローパスフィルタ
60 振動加速度算出部
70 フィルタ処理部
71 ハイパスフィルタ
80 指令値算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6