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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】光デバイス及びレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20240416BHJP
   H01S 3/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01S3/067
H01S3/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020041508
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021145006
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】船津 友希
(72)【発明者】
【氏名】大森 賢一
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-174502(JP,A)
【文献】特開2014-138028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/067
H01S 3/02
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ装置に用いられる光デバイスであって、
コアと、
前記コアを覆い、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッドと、
前記コアに形成された第1スラント型FBG及び第2スラント型FBGと
前記コアの長手方向における前記第1スラント型FBG及び第2スラント型FBGの位置に対応する、前記クラッドの外周面の位置に設けられ、前記クラッドよりも高い屈折率を有する樹脂と、
備え、
前記第1スラント型FBG及び前記第2スラント型FBGは、SRS光を遮光する波長帯域である遮光帯域が互いに異なる、光デバイス。
【請求項2】
前記コアに形成された第3スラント型FBGを更に備え、
前記第3スラント型FBGは、前記第1スラント型FBG及び前記第2スラント型FBGとは前記遮光帯域が異なる、
請求項1記載の光デバイス。
【請求項3】
前記第1スラント型FBGは、前記SRS光の全波長帯域のうち、前記SRS光の中心波長成分を含む中央帯域を前記遮光帯域とし、
前記第2スラント型FBGは、前記中央帯域よりも短波長側の短波長側帯域を前記遮光帯域とし、
前記第3スラント型FBGは、前記中央帯域よりも長波長側の長波長側帯域を前記遮光帯域とする、
請求項2記載の光デバイス。
【請求項4】
前記第1スラント型FBGは、前記第2スラント型FBG及び前記第3スラント型FBGよりも前記遮光帯域が狭く設定されている、請求項3記載の光デバイス。
【請求項5】
前記第1スラント型FBG、前記第2スラント型FBG、及び前記第3スラント型FBGは、除去できる前記SRS光のエネルギー量が互いに等しくなるように、前記遮光帯域がそれぞれ設定されている、請求項2から請求項4の何れか一項に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記第1スラント型FBG、前記第2スラント型FBG、及び前記第3スラント型FBGは、前記遮光帯域の比率が1:4:4に設定されている、請求項5記載の光デバイス。
【請求項7】
レーザ光を生成するレーザ光源と、
前記レーザ光を出力する出力端と、
前記レーザ光源と前記出力端との間に配置される請求項1から請求項6の何れか一項に記載の光デバイスと、
を備えるレーザ装置。
【請求項8】
励起光を出射する励起光源と、
前記励起光によってレーザ光を生成する共振器と、
前記レーザ光を出力する出力端と、
前記励起光源と前記共振器との間に配置される請求項1から請求項6の何れか一項に記載の光デバイスと、
を備えるレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイス及びレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レーザ装置は、加工分野、自動車分野、医療分野等の様々な分野で用いられている。近年、加工分野においては、従来のレーザ装置(例えば、炭酸ガスレーザ装置)に比べて、ビーム品質及び集光性が優れているファイバレーザ装置が注目されている。このようなレーザ装置の最高出力は、レーザ出力に対して非線形に発生する誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)による制限を受ける。
【0003】
以下の特許文献1には、ファイバレーザ装置において、コアにスラント型FBG(Fiber Bragg Grating)を形成することによって、SRS光を低減する技術が開示されている。この技術によれば、コア内を伝搬する光からSRS光を選択的に除去することができる。これにより、コア内を伝搬する信号光を安定させたり、励起光源の損傷を防いだりすることができる。コアにスラント型FBGを形成する場合、被覆部を部分的に除去して加工用の光をコアに照射した後、当該部分を再被覆部によって再度被覆する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9634462号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高出力のレーザ装置において、スラント型FBGを用いてSRS光を除去する場合には、除去された高パワーのSRS光が、再被覆部や被覆部に放射される。このとき、SRS光が一点に集中して放射されると、透過する際に吸収されるエネルギーによって局所的な発熱が生じ、再被覆部や被覆部に劣化が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、SRS光による再被覆部や被覆部の局所的な発熱を抑制することが可能な光デバイス及びレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による光デバイスは、レーザ光を出力するレーザ装置(1A、1B)に用いられる光デバイス(8A、8B)であって、コア(11)と、前記コアを覆い、前記コアよりも低い屈折率を有するクラッド(12)と、前記コアに形成された第1スラント型FBG(11b)及び第2スラント型FBG(11a)と、を備え、前記第1スラント型FBG及び前記第2スラント型FBGが、SRS光を遮光する波長帯域である遮光帯域が互いに異なる。
【0008】
本発明の一態様による光デバイスでは、レーザ光により生じるSRS光を遮光する波長帯域である遮光帯域が互いに異なる第1スラント型FBG及び第2スラント型FBGが、コアに形成されている。これにより、第1スラント型FBG及び第2スラント型FBGによってSRS光を分散して除去することができるため、SRS光による再被覆部や被覆部の局所的な発熱を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記コアに形成された第3スラント型FBG(11c)を更に備え、前記第3スラント型FBGが、前記第1スラント型FBG及び前記第2スラント型FBGとは前記遮光帯域が異なる。
【0010】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記第1スラント型FBGが、前記SRS光の全波長帯域のうち、前記SRS光の中心波長成分を含む中央帯域(B)を前記遮光帯域とし、前記第2スラント型FBGが、前記中央帯域よりも短波長側の短波長側帯域(A)を前記遮光帯域とし、前記第3スラント型FBGが、前記中央帯域よりも長波長側の長波長側帯域(C)を前記遮光帯域とする。
【0011】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記第1スラント型FBGが、前記第2スラント型FBG及び前記第3スラント型FBGよりも前記遮光帯域が狭く設定されている。
【0012】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記第1スラント型FGB、前記第2スラント型FBG、及び前記第3スラント型FBGが、除去できる前記SRS光のエネルギー量が互いに等しくなるように、前記遮光帯域がそれぞれ設定されている。
【0013】
また、本発明の一態様による光デバイスは、前記第1スラント型FGB、前記第2スラント型FBG、及び前記第3スラント型FBGは、前記遮光帯域の比率が1:4:4に設定されている。
【0014】
本発明の一態様によるレーザ装置(1A)は、レーザ光を生成するレーザ光源(L)と、前記レーザ光を出力する出力端(7)と、前記レーザ光源と前記出力端との間に配置される上記の何れかに記載の光デバイス(8A,8B)と、を備える。
【0015】
本発明の他の態様によるレーザ装置(1B)は、励起光を出射する励起光源(2)と、前記励起光によってレーザ光を生成する共振器(R)と、前記レーザ光を出力する出力端(7)と、前記励起光源と前記共振器との間に配置される上記の何れかに記載の光デバイス(8A、8B)と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、SRS光による再被覆部や被覆部の局所的な発熱を抑制することが可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態によるレーザ装置の要部構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態による光デバイスの構成を示す縦断面図である。
図3】本発明の第1実施形態による光デバイスに設けられたスラント型FBGの透過特性を模式的に示す図である。
図4】本発明の第1実施形態によるレーザ装置で生ずるSRS光のスペクトルの一例を示す図である。
図5】本発明の第2実施形態によるレーザ装置の要部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による光デバイス及びレーザ装置について詳細に説明する。尚、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
〔第1実施形態〕
〈レーザ装置〉
図1は、本発明の第1実施形態によるレーザ装置の要部構成を示す図である。図1に示す通り、本実施形態のレーザ装置1Aは、レーザ光を生成するレーザ光源Lと、出力端7と、レーザ光源Lと出力端7との間に配置された光デバイス8Aと、を備えている。レーザ光源Lは、複数の励起光源2と、コンバイナ3と、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)4と、増幅用ファイバ5と、OC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)6と、を備えている。増幅用ファイバ5、HR-FBG4、及びOC-FBG6は、励起光源2が出射する励起光によってレーザ光を生成する共振器Rを構成している。
【0020】
ここで、図1に示す通り、光デバイス8Aは、光ファイバ10を備えている。以下、光ファイバ10の長手方向(コアの長手方向)を単に長手方向Xという。また、光ファイバ10から見て、長手方向Xにおける出力端7側を+X側といい、励起光源2側を-X側という。
【0021】
励起光源2は励起光を増幅用ファイバ5に向けて出射する。励起光源2としては、例えばレーザダイオードを用いることができる。コンバイナ3は、励起光源2と共振器Rとの間に配置されている。コンバイナ3は、励起光源2が出射した励起光を、1本の光ファイバに結合し、増幅用ファイバ5に向かわせる。
【0022】
増幅用ファイバ5は、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う被覆と、を備える。増幅用ファイバ5は、ダブルクラッドファイバである。コアに添加する活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。これらの活性元素は、励起状態で光を放出する。コア及び第1クラッドとしてはシリカガラス等を用いることができる。第2クラッドとしては、ポリマー等の樹脂を用いることができる。被覆としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。
【0023】
HR-FBG4は、増幅用ファイバ5の-X側の端部に融着接続された光ファイバのコア内に形成されている。HR-FBG4は、励起状態にされた増幅用ファイバ5の活性元素が放出する光のうち信号光の波長の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されており、HR-FBG4の長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造となっている。OC-FBG6は、増幅用ファイバ5の+X側の端部に融着された光ファイバのコア内に形成されている。OC-FBG6は、HR-FBG4とほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG4よりも低い反射率で、光を反射するように調整されている。
【0024】
増幅用ファイバ5内では、HR-FBG4及びOC-FBG6で反射した信号光が、増幅用ファイバ5の長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、共振器R内では、光が増幅されてレーザ光が生成される。レーザ光の一部は、OC-FBG6を透過し、光デバイス8Aを介して出力端7に到達する。光デバイス8Aは、レーザ光を透過し、レーザ光により生じたSRS光の少なくとも一部を除去するように構成されている。
【0025】
〈光デバイス〉
図2は、本発明の第1実施形態による光デバイスの構成を示す縦断面図である。図2に示す通り、光デバイス8Aは、光ファイバ10を備えている。光ファイバ10は、コア11と、クラッド12と、被覆13と、を有するシングルクラッドファイバである。コア11及びクラッド12としては、シリカガラス等を用いることができる。クラッド12は、コア11を覆い、コア11よりも低い屈折率を有している。被覆13は、クラッド12を覆い、クラッド12よりも高い屈折率を有している。被覆13としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。被覆13として用いられるこれらの樹脂材料は、一般的に、光を吸収して発熱する。
【0026】
コア11には、複数のスラント型FBGが形成されている。複数のスラント型FBGは、長手方向Xに間隔を空けて、直列的に配置されている。図1,2に示す例では、3つのスラント型FBG11a(第2スラント型FBG)、スラント型FBG11b(第1スラント型FBG)、及びスラント型FBG11c(第3スラント型FBG)が、-X側から+X側に向けて、長手方向Xに沿ってこの順に配置されている。但し、コア11に形成されるスラント型FBGの数は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0027】
再被覆部14a~14cとしては、クラッド12よりも高い屈折率を有する樹脂材料を用いることができる。再被覆部14a~14cの材質は、被覆13の材質と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
長手方向Xにおいて、スラント型FBG11aに対応する位置に再被覆部14aが配置されている。同様に、スラント型FBG11b及びスラント型FBG11cに対応する位置に、再被覆部14b及び再被覆部14cがそれぞれ配置されている。また、スラント型FBG11a~11cが長手方向Xに間隔を空けて配置されているため、再被覆部14a~14cも長手方向Xに間隔を空けて配置されている。このように、コア11に形成されるスラント型FBG11a~11cの数及び位置に応じて、再被覆部14a~14cの数及び位置が決定される。
【0029】
但し、複数のスラント型FBG11a~11cを形成する範囲の被覆13を一括除去し、当該一括除去された部分に複数のスラント型FBG11a~11cを形成した後、当該一括除去された部分に1つの再被覆部を連続して設けてもよい。この場合、再被覆部の位置はスラント型FBG11a~11cの位置に対応するが、再被覆部の数はスラント型FBG11a~11cの数に対応しない。
【0030】
スラント型FBG11a~11cは、レーザ光として用いられる信号光の波長帯の光を透過し、かつ、レーザ光により生じるSRS光の波長帯(例えば、1115~1135[nm])の光をコア11からクラッド12に向けて逃がすように構成されている。つまり、複数のスラント型FBG11a~11cはそれぞれ、レーザ光により生じるSRS光の波長帯を遮光する。
【0031】
図2に模式的に示す通り、スラント型FBG11a~11cは、長手方向Xにおける屈折率変調部(屈折率変化が与えられている部分)同士の間隔が不均一になっている。これにより、スラント型FBG11a~11cでコア11から取り除かれる光の波長帯が大きくなる。従って、SRS光をクラッド12に向けてより確実に逃がすことができる。このように、SRS光をコア11から選択的に除去し、被覆13又は再被覆部14a~14cに吸収させることで、信号光の品質を安定させることができる。
【0032】
ここで、例えば1つのスラント型FBGによってSRS光を集中して除去した場合には、除去されたSRS光が集中して被覆13又は再被覆部に吸収される。その結果、被覆13又は再被覆部が局所的に発熱し、劣化などが生じる可能性がある。
【0033】
そこで、本実施形態では、図3に示す通り、複数のスラント型FBG11a~11cにおけるSRS光の遮光帯域を互いに異ならせて、SRS光を分散させて被覆13又は再被覆部14a~14cに吸収させている。図3は、本発明の第1実施形態による光デバイスに設けられたスラント型FBGの透過特性を模式的に示す図である。尚、図3においては、横軸に波長をとり、縦軸にSRS光の透過損失をとってある。
【0034】
図3において、波長帯域WB1は、信号光の波長帯域であり、波長帯域WB2は、SRS光の波長帯域である。SRS光の波長帯域WB2は、信号光の波長帯域WB1よりも長波長側である。また、図3において、実線で示すグラフはスラント型FBG11aの透過特性を示すグラフであり、破線で示すグラフはスラント型FBG11bの透過特性を示すグラフであり、一点鎖線で示すグラフはスラント型FBG11cの透過特性を示すグラフである。
【0035】
図3に示す例では、スラント型FBG11aの透過特性は、SRS光の波長帯域WB2の短波長側の波長帯域WB21の透過損失が大きくなるよう設定されている。スラント型FBG11bの透過特性は、SRS光の波長帯域WB2の中央部分の波長領域WB22の透過損失が大きくなるよう設定されている。スラント型FBG11cの透過特性は、SRS光の波長帯域WB2の長波長側の波長帯域WB23の透過損失が大きくなるよう設定されている。尚、スラント型FBG11a~11cの透過損失の大きさは、同じに設定されていても良く、異なるように設定されていても良い。また、スラント型FBG11a~11cの遮光帯域は、一部が重なっていても良い。
【0036】
ここで、「遮光帯域が異なる」とは、スラント型FBG11a~11cの遮光帯域が完全に異なっている場合のみならず、図3に示す通り、スラント型FBG11a~11cの遮光帯域の一部が重なっている場合も含む趣旨である。つまり、ある波長を境にして透過率が0[%]から100[%]に変わる透過特性を有するスラント型FBG11a~11cを設計するのは困難であり、また、設計できたとしても実際に製造するのは製造誤差等によって困難なため、遮光帯域の一部が重なっていても良い。
【0037】
ここで、本実施形態では、スラント型FBG11a~11cのそれぞれの遮光帯域は、スラント型FBG11a~11cのそれぞれによって遮光されるSRS光のパワー(エネルギー量)が均等となるように設定されているのが望ましい。なぜならば、スラント型FBG11a~11cの各々から、同じパワー(エネルギー)のSRS光を分散させて被覆13又は再被覆部14a~14cに吸収させることができるためである。
【0038】
図4は、本発明の第1実施形態によるレーザ装置で生ずるSRS光のスペクトルの一例を示す図である。図4においては、横軸に波長をとり、縦軸にSRS光のパワーをとってある。スラント型FBG11bの遮光帯域は、例えば、SRS光の全波長帯域のうち、SRS光の中心波長成分を含む中央帯域Bに設定されている。スラント型FBG11aの遮光帯域は、例えば、SRS光の全波長帯域のうち、中央帯域Bよりも短波長側の短波長側帯域Aに設定されている。スラント型FBG11cの遮光帯域は、例えば、中央帯域Bよりも長波長側の長波長側帯域Cに設定されている。
【0039】
ここで、上記の「SRS光の全波長帯域」は、例えば、SRS光の全パワーの99.7%が含まれる波長帯域(所謂、3σ区間)である。また、上記の「SRS光の中心波長成分」は、例えば、光パワーが最大(或いは、ほぼ最大)となる波長成分である。図4に示す例において、「SRS光の全波長帯域」は、1115.0[nm]~1135.0[nm]であり、「SRS光の中心波長成分」は、1125.0[nm]である。
【0040】
スラント型FBG11a~11cのそれぞれの遮光帯域は、図4に示すグラフを短波長側帯域A、中央帯域B、長波長側帯域Cの各々で積分した際の面積が均等(面積の比率が1:1:1)となるように設定される。具体的に、スラント型FBG11a、スラント型FBG11b、スラント型FBG11cの遮光帯域は、4:1:4の比率となっており、中央帯域Bが短波長側帯域A及び長波長側帯域Cよりも狭く設定されている。
【0041】
例えば、スラント型FBG11aの遮光帯域(短波長側帯域A)は、1115.0~1124.4[nm]に設定され、スラント型FBG11bの遮光帯域(中央帯域B)は、1124.4~1126.8[nm]に設定され、スラント型FBG11cの遮光帯域(長波長側帯域C)は、1126.8~1135.0[nm]に設定されている。このような各スラント型FBG11a~11cは、各帯域を遮光することにより、SRS光の全波長の成分を除去することが可能である。
【0042】
本実施形態では、光ファイバ10内を+X側に向けて伝搬するSRS光を除去する場合について考える。この場合において、SRS光は、スラント型FBG11a,11b,11cを順に透過することになる。このため、SRS光は、最初に、スラント型FBG11aによって図4に示す短波長側帯域Aの成分が除去される。次に、SRS光は、スラント型FBG11bによって図4に示す中央帯域Bの成分が除去される。最後に、SRS光は、スラント型FBG11cによって図4に示す長波長側帯域Cの成分が除去される。
【0043】
各スラント型FBG11a,11b,11cで除去されたSRS光は、それぞれ被覆13又は再被覆部14a,14b,14cにて吸収される。ここで、スラント型FBG11a~11cのそれぞれによって遮光されるSRS光のパワー(エネルギー量)が均等となるように設定されている場合には、被覆13又は再被覆部14a~14cにて吸収されるSRS光のパワー(エネルギー量)は均等になる。これにより、SRS光が被覆13等の一点に集中して吸収されることが抑制され、局所的な発熱を抑えることができる。また、SRS光が出力端7から出射されることも抑えられるため、レーザ光の品質が安定する。
【0044】
以上の通り、本実施形態では、レーザ光を伝送する光ファイバ10のコア11に、レーザ光により生じるSRS光を遮光する波長帯域である遮光帯域が互いに異なる複数のスラント型FBG11a~11cが形成されている。これにより、複数のスラント型FBG11a~11cによってSRS光を分散して除去することができるため、SRS光による再被覆部や被覆部の局所的な発熱を抑制することができる。また、光ファイバ10のコア11にスラント型FBG11a~11cを形成する場合には、長手方向Xに間隔を空けてスラント型FBG11a~11cを個別に形成することができる。このため、光デバイス8Aの製造を容易に行うことができる。
【0045】
〔第2実施形態〕
〈レーザ装置〉
図5は、本発明の第2実施形態によるレーザ装置の要部構成を示す図である。尚、図5においては、図1に示す構成と同様の構成については、同一の符号を付してある。図1に示す第1実施形態のレーザ装置1Aは、レーザ光源Lと出力端7との間に配置された光デバイス8Aを備える構成であった。これに対し、本実施形態のレーザ装置1Bは、図1に示すレーザ装置1Aの光デバイス8Aが省略され、励起光源2(正確には、コンバイナ3)と共振器Rとの間に配置された光デバイス8Bを備える構成である。
【0046】
尚、上述した第1実施形態のレーザ装置1A及び本実施形態のレーザ装置1Bは、+X側に向けて伝搬するSRS光に加えて、-X側に向けて伝搬するSRS光(以下、逆行SRS光という)を除去することが可能である。逆行SRS光は、例えば+X側に向けて進行するSRS光が出力端7で反射することや、レーザ装置の加工対象物で反射して出力端7に再入射したレーザ光によって生じる。以下では、主に、逆行SRS光を除去する場合について説明する。
【0047】
逆行SRS光が励起光源2に到達した場合には、励起光源2の故障の原因となるため、励起光源2に到達する前に除去することが好ましい。しかしながら、SRS光を一か所で集中して除去すると被覆13又は再被覆部の局所的な発熱につながるため、第1実施形態と同様に分散して除去することが好ましい。
【0048】
そこで、本実施形態では、励起光源2(正確には、コンバイナ3)と共振器Rとの間に配置された光デバイス8Bによって、逆行SRS光を分散して除去するようにしている。光デバイス8Bは、図2に示す光デバイス8Aと同様の構成である。但し、光デバイス8Bでは、3つのスラント型FBG11a(第2スラント型FBG)、スラント型FBG11b(第1スラント型FBG)、及びスラント型FBG11c(第3スラント型FBG)が、+X側から-X側に向けて、長手方向Xに沿ってこの順に配置されている。尚、コア11に形成されるスラント型FBGの数は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0049】
光ファイバ10内を-X側に向けて伝搬するSRS光は、光デバイス8Bのスラント型FBG11a,11b,11cを順に透過することになる。このため、SRS光は、最初に、スラント型FBG11aによって図4に示す短波長側帯域Aの成分が除去される。次に、SRS光は、スラント型FBG11bによって図4に示す中央帯域Bの成分が除去される。最後に、SRS光は、スラント型FBG11cによって図4に示す長波長側帯域Cの成分が除去される。
【0050】
各スラント型FBG11a,11b,11cで除去されたSRS光は、それぞれ被覆13又は再被覆部14a,14b,14cにて吸収される。ここで、スラント型FBG11a~11cのそれぞれによって遮光されるSRS光のパワー(エネルギー量)が均等となるように設定されている場合には、被覆13又は再被覆部14a~14cにて吸収されるSRS光のパワー(エネルギー量)は均等になる。これにより、SRS光が被覆13等の一点に集中して吸収されることが抑制され、局所的な発熱を抑えることができる。また、逆行SRS光は、光デバイス8Bによって励起光源2に到達する前に除去されるため、励起光源2の故障を防止することができる。
【0051】
以上の通り、本実施形態では、レーザ光を伝送する光ファイバ10のコア11に、レーザ光により生じる逆行SRS光を遮光する波長帯域である遮光帯域が互いに異なる複数のスラント型FBG11a~11cが形成されている。これにより、複数のスラント型FBG11a~11cによって逆行SRS光を分散して除去することができるため、逆行SRS光による再被覆部や被覆部の局所的な発熱を抑制することができる。また、光ファイバ10のコア11にスラント型FBG11a~11cを形成する場合には、長手方向Xに間隔を空けてスラント型FBG11a~11cを個別に形成することができる。このため、光デバイス8Bの製造を容易に行うことができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、第1実施形態の光デバイス8A又は第2実施形態の光デバイス8Bを、前方励起光源及び後方励起光源を備えた双方向励起型のレーザ装置に適用してもよい。
【0053】
また、1つのレーザ装置に、第1実施形態の光デバイス8Aと第2実施形態の光デバイス8Bとを両方を設けてもよい。この構成のレーザ装置では、レーザ光源Lから出力端7に向かって伝搬するSRS光を光デバイス8Aで除去しつつ、共振器Rから励起光源2に向かって伝搬する逆行SRS光を光デバイス8Bで除去することができる。
【0054】
また、複数の光デバイス8A,8Bを、レーザ装置1A,1B内に直列に配置してもよい。このような配置にする場合には、複数の光デバイス8A同士又は複数の光デバイス8B同士、若しくは光デバイス8Aと光デバイス8Bとが直接的に融着接続されていても良い。或いは、複数の光デバイス8A同士又は複数の光デバイス8B同士、若しくは光デバイス8Aと光デバイス8Bとは、光ファイバ等の光伝送路を介して接続されていても良い。
【0055】
また、第1実施形態による光デバイス8A及び第2実施形態による光デバイス8Bにおけるスラント型FBG11a~11cの配置は任意である。例えば、光デバイス8Aにおいて、スラント型FBG11a~11cは、-X側から+X側に向けて、スラント型FBG11c、スラント型FBG11b、及びスラント型FBG11aの順で配置されていても良い。或いは、X側から+X側に向けて、スラント型FBG11b、スラント型FBG11a、及びスラント型FBG11cの順で配置されていても良い。
【0056】
また、コア11は、それぞれスラント型FBGを2つ或いは4つ以上有するものとしてもよい。例えばコア11がスラント型FBGを2つ有する場合には、SRS光の全波長をエネルギー量において2分割し、それぞれ短波長側の帯域と長波長側の帯域とを遮光帯域とすることが好ましい。これにより、各スラント型FBGにおけるSRS光のパワーを分散させることが可能である。
【0057】
また、SRS光において、波長成分に複数のピークを有する場合には、例えば、図4に示す短波長側帯域A及び長波長側帯域Cがそれぞれピークを含み、中央帯域よりも波長帯域が狭く設定されるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1A,1B…レーザ装置、2…励起光源、7…出力端、8A,8B…光デバイス、11…コア、11a…スラント型FBG、11b…スラント型FBG、11c…スラント型FBG、12…クラッド、A…短波長側帯域、B…中央帯域、C…長波長側帯域、L…レーザ光源、R…共振器
図1
図2
図3
図4
図5