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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】食品機械用潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 129/74 20060101AFI20240416BHJP
   C10M 141/08 20060101ALI20240416BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20240416BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240416BHJP
   C10M 135/30 20060101ALN20240416BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240416BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20240416BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20240416BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240416BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
C10M129/74
C10M141/08
C10M169/04
C10M137/10 Z
C10M135/30
C10M107/02
C10M105/04
C10N40:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020057465
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155560
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-209181(JP,A)
【文献】特開2006-182856(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189239(WO,A1)
【文献】特表2011-525210(JP,A)
【文献】特開2003-082373(JP,A)
【文献】特表2006-526698(JP,A)
【文献】特開2020-164694(JP,A)
【文献】特開2008-138171(JP,A)
【文献】特開2008-163115(JP,A)
【文献】特開2016-180052(JP,A)
【文献】米国特許第05102567(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品機械に用いられる潤滑剤組成物であって、
基油と、ポリオールエステルと、を含有し、
アミン系酸化防止剤を含有しないものであり、
チオフェノール系酸化防止剤をさらに含有する
食品機械用潤滑剤組成物。
【請求項2】
チオリン酸エステルをさらに含有する、
請求項1に記載の食品機械用潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記基油としてポリアルファオレフィンを含む、
請求項1又は2に記載の食品機械用潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記基油として流動パラフィンをさらに含む、
請求項3に記載の食品機械用潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品機械に用いられる潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品工場や食品関連の部材を製造する工場では、食品機械の軸受や摺動部に潤滑剤組成物が使用されている。食品機械としては、クリップ包装等を含めた食品包装を行う機械も概念として含まれ、製造された食品やその包装体に直接接触する部位にも潤滑剤組成物が塗布されて使用されている。
【0003】
食品機械分野の潤滑剤に関しては、ISO22000(食品安全マネジメントシステム)の現場管理(HACCP)の認証を受ける際に、食品製造工場で使用する食材以外の化学物質を認証登録する機関のH1認証を受けた、食品に偶発的に混入する可能性があり得る箇所に使用することができる潤滑剤であることが求められている。なお、米国標準規格協会(ANSI)の公式認定団体、National Sanitation Foundation International(国際衛生科学財団、略称:NSFインターナショナル)が2001年より米国農務省USDAの業務を引き継ぎ、認証を行っている。
【0004】
また、NSFインターナショナルによりH1認証を受ける上で、潤滑剤組成物としては、HX1グレードといわれるH1認証に使用できる原料、成分により組成されたものでなければならない。HX1グレードの中には、配合上限が定められた原料もあり、多種多様な環境下、特に低温から高温の広い温度範囲(例えば-40℃~200℃)の環境下では、添加剤処方にも限界がある。さらに、その添加剤処方の限界は、摩耗進行による装置寿命にも影響を及ぼし、給脂量の増加や給脂間隔の短縮、専用品の使用増加といった摩耗防止対策が必要となり、使用コストの増大や管理の煩雑さが問題となっている。
【0005】
このような問題に対しては、HX1グレードの原料の配合量を増加することが必須とされており、そうすると、HX1グレードに認証された添加剤の種類も限定される。
【0006】
また、食品機械に塗布した潤滑剤組成物が食品を包装した包装体等に付着した場合、製造ラインにて洗浄等を行うことで概ね除去できるものの、一部が僅かに残存する可能性もある。そのようなとき、残存した僅かな潤滑剤が紫外線等によって変色し、包装体にシミのような汚れを形成させてしまうことがあり、商品価値を著しく低下させる。
【0007】
なお、食品機械用潤滑剤組成物としては、例えば特許文献1~4等に開示の技術が知られているが、変色を生じさせずに、優れた潤滑性を付与することができる潤滑剤組成物についての提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-177921号公報
【文献】特開2009-91502号公報
【文献】特開2001-131569号公報
【文献】特開平7-11280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、食品機械に適用することができる食品機械用潤滑剤組成物において、変色を生じさせずに、優れた潤滑性を付与することができる潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、基油と共にポリオールエステルを含有し、そしてアミン系酸化防止剤を含有しない潤滑剤組成物であることにより、変色を生じさせずに、優れた潤滑性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、食品機械に用いられる潤滑剤組成物であって、基油と、ポリオールエステルと、を含有し、アミン系酸化防止剤を含有しない、食品機械用潤滑剤組成物である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、チオリン酸エステルをさらに含有する、食品機械用潤滑剤組成物である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記基油としてポリアルファオレフィンを含む、食品機械用潤滑剤組成物である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記基油として流動パラフィンをさらに含む、食品機械用潤滑剤組成物である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、チオフェノール系酸化防止剤をさらに含有する、食品機械用潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、変色を生じさせずに、優れた潤滑性を付与することができる潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、その要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。また、本明細書にて、「x~y」(x、yは任意の数値)の表記は、特に断らない限り「x以上y以下」の意味である。
【0018】
≪1.食品機械用潤滑剤組成物≫
本実施の形態に係る潤滑剤組成物は、基油と、添加剤と、を含む食品機械用の潤滑剤組成物である。ここで、食品機械とは、食品や食品関連部材を製造する工場等にて使用される機械であり、例えば、粉砕機、容器等の印刷機や成形機、搬送ラインのロボット減速機、包装紙等の製造機械、フリーザー等が挙げられる。また、食品機械用潤滑剤組成物とは、これらの食品機械の軸受や摺動部等に塗布して適用される潤滑剤組成物である。
【0019】
具体的に、本実施の形態に係る潤滑剤組成物は、基油と、ポリオールエステルと、を少なくとも含有し、酸化防止剤としてアミン系酸化防止剤を含有しないことを特徴としている。このような潤滑剤組成物によれば、紫外線による変色を生じさせずに、優れた潤滑性を付与することができる。
【0020】
なお、この潤滑剤組成物では、添加剤として、アミン系酸化防止剤以外の酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤等をさらに配合でき、食品機械の軸受や摺動部等に対して、より優れた、防錆性、耐水性、極圧性、耐摩耗性等の性質を付与することができる。また、添加剤として、増ちょう剤を添加することもでき、これにより半固体状のグリースの形態とすることもできる。
【0021】
以下、食品機械用の潤滑剤組成物を構成する各成分について、より具体的に説明する。
【0022】
[基油]
潤滑剤組成物を構成する基油としては、食品機械に用いることができるものであればと限定されないが、ポリアルファオレフィン(ポリαオレフィン、PAO)を含むことが好ましい。このように、ポリアルファオレフィンを含む基油を用いることで、優れた潤滑性を付与することができる。また、幅広い温度範囲の環境下、特に低温の環境下であっても適切な流動性を維持することができる。
【0023】
具体的に、ポリアルファオレフィンは、アルファオレフィンの重合体である。モノマーであるアルファオレフィンの炭素数としては、粘度指数や蒸発性の観点から、炭素数6~20程度のものが好ましく、炭素数8~16程度のものがより好ましく、炭素数10~14程度のものがさらに好ましい。また、ポリアルファオレフィンとしては、低蒸発性及び省エネルギーの観点から、アルファオレフィンの2量体~5量体までのものが好ましい。なお、目的とする性状に合わせて、モノマーの炭素数、配合比、重合度を調節できる。
【0024】
アルファオレフィンの重合触媒としては、メタロセン触媒、AlCl触媒、チーグラー型触媒等を使用でき、特に、メタロセン触媒により重合させることが好ましい。メタロセン触媒を使用して重合したポリアルファオレフィンは、安価であるとともに、低温流動性に優れている。なお、メタロセン触媒としては、例えば、メタロセン錯体を組み合わせた公知のものを用いることができ、メタロセン錯体としては、チタン、ジルコニウム、又はハフニウム等を含有する共役炭素5員環を有する錯体が挙げられる。
【0025】
また、ポリアルファオレフィンとしては、数平均分子量が400~3000のものが好ましく、700~2800のものがより好ましく、1000~2500のものが特に好ましい。数平均分子量が400~3000のポリアルファオレフィンを含むことで、特に-40℃程度の極低温の環境下においてもより高い安定性を実現することができる。また、油膜強度を有効に保持することができ、潤滑性をより向上させることができる。
【0026】
また、ポリアルファオレフィンとしては、40℃における動粘度が50mm/s以下のものであることが好ましい。40℃動粘度が50mm/s以下のポリアルファオレフィンを含むことで、低温の環境下でも適切な流動性を保つとともに、油膜強度を保持することができ潤滑性を維持できる。
【0027】
基油におけるポリアルファオレフィンの含有量は、特に限定されないが、基油全量を100質量%としたとき20質量%~100質量%程度とすることが好ましく、30質量%~80質量%程度とすることがより好ましい。また、潤滑剤組成物におけるポリアルファオレフィンの含有量は、潤滑剤組成物全量を100質量%としたとき15質量%~60質量%程度の範囲であることが好ましく、20質量%~50質量%程度の範囲であることがより好ましい。
【0028】
なお、ポリアルファオレフィンとしては、単一種類のもので構成することに限られず、分子量が異なる2種以上のポリアルファオレフィンや、重合触媒の異なる2種以上のポリアルファオレフィンを併用してもよい。
【0029】
ここで、基油においては、他の基油成分を含有させることができる。例えば、流動パラフィンが挙げられる。流動パラフィンは、規則「FDA21CFR178.3570」に、偶発的な食品接触条件下で潤滑剤として使用できる物質として規定されている。そのため、流動パラフィンは、定められた規定値を遵守する限りにおいて仮に偶発的に体内に混入しても人体に対する安全性が高い。また、流動パラフィンは、日本の食品衛生法における食品添加物の中の既存添加物にも属する物質であるという点でも、安全性が高い。
【0030】
また、流動パラフィンは、安価であることから、基油の構成する成分として所定の割合で含有させることで、安価でありかつ潤滑性に優れ、しかもより安全性を向上させた潤滑剤組成物を構成することができる。
【0031】
[ポリオールエステル(油性剤)]
潤滑剤組成物においては、油性剤としてポリオールエステルを含有することを特徴としている。ポリオールエステルとは、多価アルコール(ポリオール)と、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸とのエステルをいう。
【0032】
このように、油性剤としてポリオールエステルを含有することで、潤滑性をより高めることができる。また、ポリオールエステルは、引火点が高く高温安定性に優れており、幅広い温度範囲において優れた潤滑性を付与することができる。
【0033】
具体的に、ポリオールエステルにおいて、ポリオールとしては、例えば、2~10価、好ましくは2~6価のものが用いられる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)、ペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,3,4-ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類等が挙げられる。その中でも特に、より高い熱安定性が得られる観点から、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの混合物等がより好ましい。なお、ポリオールとしては、これらの多価アルコールと直鎖状又は分岐状の脂肪酸との部分エステル類も使用することができる。
【0034】
また、脂肪酸としては、例えば、炭素数7~32の直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸であり、分岐鎖状の脂肪酸であることがより好適に用いられる。具体的には、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2-エチルペンタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、2-エチル-2-メチルブタン酸、2-メチルヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、2-プロピルペンタン酸、2,2-ジメチルへキサン酸、2-エチル-2-メチルヘプタン酸、2-メチルオクタン酸、2,2-ジメチルヘプタン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、2,2-ジメチルオクタン酸等を挙げることができる。なお、ポリオールエステルを構成する脂肪酸において、炭素数が7未満であると、優れた潤滑性が得られない可能性があり、一方で、炭素数が32を越えると、特に低温における流動性が低下する可能性がある。
【0035】
また、ポリオールエステルとしては、ポリオール中の水酸基又はカルボキシル基の全てがエステル化された完全エステルでもよく、水酸基又はカルボキシル基の一部がエステル化されずにそのまま残存する部分エステルでもよい。
【0036】
ポリオールエステルとしては、特に、引火点が280℃以上のものであることが好ましく、300℃以上のものであることがより好ましい。引火点が280℃以上のポリオールエステルであることにより、高温安定性をより向上させ、蒸発損失もより低減できる。なお、上限値としては特に限定されないが、例えば400℃以下程度とすることができる。
【0037】
また、ポリオールエステルとしては、流動点が-10℃以下のものが好ましく、-20℃以下のものがより好ましい。なお、流動点とは、JIS K 2269に準拠して測定される値をいう。また、ポリオールエステルは、40℃における動粘度が64mm/s~500mm/s程度の範囲であることが好ましく、これにより、低温流動性が向上するため好ましい。
【0038】
ポリオールエステルの含有量としては、特に限定されないが、潤滑剤組成物全量を100質量%としたとき3質量%~50質量%程度とすることが好ましく、5質量%~30質量%程度とすることがより好ましく、10質量%~25質量%の範囲とすることが特に好ましい。ポリオールエステルの含有量が3質量%未満であると、潤滑性の向上効果が十分に得られない。一方で、含有量55質量%を超えると、それ以上に効果が向上せず、製造コストが増加する。
【0039】
なお、潤滑剤組成物においては、その目的に応じて、上述したポリオールエステル以外の油性剤を併用してもよい。
【0040】
[酸化防止剤]
潤滑剤組成物においては、酸化防止剤を含有させることができる。しかしながら、本実施の形態に係る潤滑剤組成物では、酸化防止剤としてアミン系酸化防止剤を含有しないことを特徴としている。
【0041】
本発明者による検討の結果、上述した構成を有する潤滑剤組成物においてアミン系酸化防止剤を含有させた場合、紫外線の照射によって変色が生じることがわかった。このような変色は、アミン系酸化防止剤に紫外線吸収能があり、紫外線を吸収することで錯体を形成することによると考えられている。食品機械に用いられる潤滑剤組成物において、例えば食品を包装する包装体に潤滑剤が付着したとき、紫外線によって潤滑剤の変色が生じると、商品価値を低下させて不良品となる。
【0042】
そこで、このような知見のもと、本実施の形態に係る潤滑剤組成物においては、アミン系酸化防止剤を含有しないことを特徴としている。これにより、変色の発生を抑制することができ、商品価値の低下を防ぐことができる。
【0043】
「アミン系酸化防止剤」とは、分子内にアミノ基を有する酸化防止剤をいう。また、「含有しない」とは、意図して含有させないことを意味し、意図してその含有量を0質量%とすることを意味する。
【0044】
一方で、潤滑剤組成物においては、アミン系酸化防止剤以外の酸化防止剤を含有させることができる。具体的には、チオフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤が挙げられる。特に、チオフェノール系酸化防止剤は、紫外線の照射によっても比較的安定であり、変色を生じさせることなく、安定的に酸化防止性能を発揮する。
【0045】
例えば、チオフェノール系酸化剤としては、チオジエチレンビス[3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。また、フェノール系酸化防止剤としては、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-di-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3’,5’-di-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]等が挙げられる。
【0046】
アミン系酸化防止剤以外の酸化防止剤の含有量としては、特に限定されないが、潤滑剤組成物全量を100質量%としたとき0.05質量%~1質量%程度とすることが好ましく、0.1質量%~0.8質量%程度とすることがより好ましい。
【0047】
[極圧剤]
必須の態様ではないが、潤滑剤組成物においては、極圧剤としてチオリン酸エステルを含有することが好ましい。このように、チオリン酸エステルを含有することで、潤滑性をより一層に高めることができる。
【0048】
チオリン酸エステルとしては、種々のものを用いることができるが、その中でも、トリフェニルホスホロチオエート、ブチル化トリフェニルホスホロチオエートを用いることとが好ましい。また特に、この潤滑剤組成物においては、トリフェニルホスホロチオエート及びブチル化トリフェニルホスホロチオエートの組み合わせにて含有させることが好ましい。これにより、極圧性を有効に向上させることができ、さらに耐蒸発性を向上させることができる。
【0049】
チオリン酸エステル系極圧剤の含有量としては、特に限定されないが、潤滑剤組成物全量を100質量%としたとき0.01質量%~0.5質量%程度とすることが好ましい。なお、0.5質量%を超えると、NSF H1認証の点で、食品機械用途の潤滑剤組成物として好適に用いることができない可能性がある。
【0050】
なお、極圧剤としては、上述したチオリン酸エステルのほか、例えばリン酸エステル系極圧剤を併せて用いることもできる。リン酸エステル系極圧剤としては、種々のものを用いることができるが、その中でも、アミンC11-14側鎖アルキル,モノヘキシル及びジヘキシルフォスフェート混合物を用いることが好ましい。
【0051】
[その他の添加剤]
なお、潤滑剤組成物においては、上述した成分のほかに、その目的に応じて、添加剤をさらに含有させることができる。それらの添加剤についても、その含有量としては要求される性能に応じて任意に定めることができるが、上述した構成成分の性能を損なわない範囲とする。添加剤としては、例えば、摩耗防止剤、防錆剤等が挙げられる。
【0052】
≪2.潤滑剤組成物の製造方法≫
本実施の形態に係る食品機械用潤滑油組成物は、通常の潤滑剤組成物の製造方法と同様にして製造することができる。
【0053】
具体的には、例えば、基油中に、上述した各成分を所定量添加配合させ、さらに必要に応じてその他の添加剤を加えて撹拌混合する。撹拌に際しては、公知の撹拌機等を用いることができ、基油に対して各成分を撹拌混合してプレ分散させた後に、コロイドミルを用いて再分散する。このように、特に複雑な工程や作製条件の管理等を必要とせず、比較的安価な装置を用いて潤滑剤組成物を製造することができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の実施例を示してさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
≪実施例、比較例について≫
下記表1に示す組成となるように、実施例及び比較例の潤滑剤組成物を作製した。具体的には、各成分を下記表1に示す配合量(質量%)となるように秤量し、それらを基油中に添加して加熱しながら撹拌機で混合して、各試料を作製した。
【0056】
ここで、組成物を構成する各成分は以下のものを用いた。
・ポリアルファオレフィンA :「DYRASYN-164」(イネオス社製)
・ポリアルファオレフィンB :「SpectraSyn Plus6」(エクソンモービル社製)
・ポリアルファオレフィンC :「Synfluid PAO 8cSt」(シェブロン社製)
・メタロセンPAO :「DURASYN 174I」(イネオス社製)
・流動パラフィン :「KAYDOL」(SONNEBORN社製)
・ポリオールエステル :「Synative ES TMTC」(BASF社製)
・チオフェノール系酸化防止剤 :「IRGONOX L115」(BASF社製)
・アミン系酸化防止剤 :「IRGANOX L57」(BASF社製)
・チオリン酸エステル :「IRGALUBE TPPT」(BASF社製)
・リン酸エステルアミン塩 :「IRGALUBE 349」(BASF社製)
【0057】
≪評価試験について≫
実施例及び比較例にて作製した潤滑剤組成物の評価として、変色試験を行って変色の発生について評価した。また、FALEX持続試験を行って潤滑性について評価した。なお、参考例として、表1に示すように、市販品Aの油圧作動油(参考例1)、市販品Bの植物油(参考例2)、及び市販品Cの食品機械用ギヤ油(参考例3)を用いて、同様の評価を行った。
【0058】
変色試験については、作製した潤滑剤組成物に不織布を浸漬させた後、潤滑剤組成物が付着した不織布を25℃の保管庫で3週間放置し、放置後の変色の有無を確認した。
【0059】
FALEX持続試験については、FALEX PIN&Vee-Block試験機を用い、荷重:100lbs(445N)、速度:9.8m/s、時間:規定なし(4.52N・m以上のトルク上昇で停止)、塗布方法:ピンを試料にディッピング、とする条件にて摩耗試験を実施し、摩擦係数μを測定した。
【0060】
≪結果について≫
下記表1に、評価結果を示す。
【0061】
【表1】