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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】陽圧監視システム
(51)【国際特許分類】
   B65B 55/02 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B65B55/02 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020086777
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021181317
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】315001682
【氏名又は名称】岩井ファルマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】森田 正貴
【審査官】種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079457(JP,A)
【文献】特開平11-001295(JP,A)
【文献】特開2004-106941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状製品を製造するための装置及び配管を含む製造ラインを備えた陽圧監視システムであって、
前記製造ラインは、
前記装置及び前記配管に無菌エアを供給する無菌エア供給手段と、
前記装置及び前記配管の内部を外気と遮断させるように配置された仕切弁と、
前記装置及び前記配管に供給された無菌エアの圧力を計測する圧力計と、
前記無菌エア供給手段及び前記仕切弁を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記無菌エア供給手段に前記製造ラインに無菌エアを供給させ、前記製造ラインを陽圧にした状態で前記仕切弁を閉鎖し、前記無菌エア供給手段に無菌エアの供給を停止させる第1の陽圧工程を実施し、
前記第1の陽圧工程の実施後に前記圧力計の圧力値に基づいて前記製造ラインに漏れが生じていると判定したとき前記第1の陽圧工程を実施するとともに、前記第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したとき前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をし、
前記実施状況は、単位時間あたりの前記第1の陽圧工程の実施回数であり、
前記制御装置は、前記実施回数が前記所定条件として所定回数に該当したとき前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をする
ことを特徴とする陽圧監視システム。
【請求項2】
請求項に記載の陽圧監視システムにおいて、
前記所定回数は、前記製造ラインのうち前記仕切弁に閉鎖された密閉区間の容積が小さいほど多くする
ことを特徴とする陽圧監視システム。
【請求項3】
液状製品を製造するための装置及び配管を含む製造ラインを備えた陽圧監視システムであって、
前記製造ラインは、
前記装置及び前記配管に無菌エアを供給する無菌エア供給手段と、
前記装置及び前記配管の内部を外気と遮断させるように配置された仕切弁と、
前記装置及び前記配管に供給された無菌エアの圧力を計測する圧力計と、
前記無菌エア供給手段及び前記仕切弁を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記無菌エア供給手段に前記製造ラインに無菌エアを供給させ、前記製造ラインを陽圧にした状態で前記仕切弁を閉鎖し、前記無菌エア供給手段に無菌エアの供給を停止させる第1の陽圧工程を実施し、
前記第1の陽圧工程の実施後に前記圧力計の圧力値に基づいて前記製造ラインに漏れが生じていると判定したとき前記第1の陽圧工程を実施するとともに、前記第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したとき前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をし、
前記実施状況は、前記第1の陽圧工程の実施間隔であり、
前記制御装置は、前記実施間隔が前記所定条件として所定間隔よりも短いときに前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をする
ことを特徴とする陽圧監視システム。
【請求項4】
請求項に記載の陽圧監視システムにおいて、
前記制御装置は、
前記実施間隔が前記所定条件として所定間隔よりも短くなったときを条件成立時とし、
条件成立時の後に実施する前記第1の陽圧工程における無菌エアの圧力を、
条件成立時の前に実施した前記第1の陽圧工程における無菌エアの圧力よりも高く設定する
ことを特徴とする陽圧監視システム。
【請求項5】
請求項1から請求項の何れか一項に記載の陽圧監視システムにおいて、
前記制御装置は、前記第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に達したとき、前記仕切弁を開放し、前記無菌エア供給手段に陽圧の無菌エアの供給を継続させる第2の陽圧工程を実施する
ことを特徴とする陽圧監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の医薬品などの製造ラインを洗浄した後に、製造ラインを無菌状態で陽圧に維持することを監視する陽圧監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状の医薬品などを製造するための装置や配管等からなる製造ラインは、例えば、一日の終わりにCIP、SIPを実施し、その後、製造ラインに陽圧の無菌エアを供給することが行われている(例えば、特許文献1参照)。製造ラインの内部は陽圧に維持されるため、製造ラインに配管の継ぎ目やバルブに隙間などが生じたとしても、そのような隙間から製造ラインの内部に塵芥などの不純物が混入することを防止することができる。
【0003】
しかしながら、製造ラインに隙間などが生じると、陽圧を維持すべくより多くの無菌エアを供給することになり、その供給に掛るエネルギーが増大してしまう。また、隙間などが生じていても製造ラインは陽圧に維持され続けるので、隙間から無菌エアが漏れていることに気付きにくいという問題がある。
【0004】
また、製造ラインを弁などにより密閉可能な構成とし、その製造ラインに陽圧の無菌エアを充填して密閉にすることで、陽圧を維持する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。製造ラインを密閉した後は無菌エアを供給する必要がないため、無菌エアの供給に掛るエネルギーを抑えることができる。
【0005】
しかしながら、製造ラインに隙間等があると次第に減圧し、陽圧を維持することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-135170号公報
【文献】特開平11-001295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、製造ラインを陽圧に維持するためのエネルギーを抑制し、かつ、製造ラインから無菌エアが漏れている旨の警告をすることができる陽圧監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の態様は、液状製品を製造するための装置及び配管を含む製造ラインを備えた陽圧監視システムであって、前記製造ラインは、前記装置及び前記配管に無菌エアを供給する無菌エア供給手段と、前記装置及び前記配管の内部を外気と遮断させるように配置された仕切弁と、前記装置及び前記配管に供給された無菌エアの圧力を計測する圧力計と、前記無菌エア供給手段及び前記仕切弁を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記無菌エア供給手段に前記製造ラインに無菌エアを供給させ、前記製造ラインを陽圧にした状態で前記仕切弁を閉鎖し、前記無菌エア供給手段に無菌エアの供給を停止させる第1の陽圧工程を実施し、前記第1の陽圧工程の実施後に前記圧力計の圧力値に基づいて前記製造ラインに漏れが生じていると判定したとき前記第1の陽圧工程を実施するとともに、前記第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したとき前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をし、前記実施状況は、単位時間あたりの前記第1の陽圧工程の実施回数であり、前記制御装置は、前記実施回数が前記所定条件として所定回数に該当したとき前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をすることを特徴とする陽圧監視システムにある。
【0011】
本発明の第の態様は、第の態様に記載の陽圧監視システムにおいて、前記所定回数は、前記製造ラインのうち前記仕切弁に閉鎖された密閉区間の容積が小さいほど多くすることを特徴とする陽圧監視システムにある。
【0012】
本発明の第の態様は、液状製品を製造するための装置及び配管を含む製造ラインを備えた陽圧監視システムであって、前記製造ラインは、前記装置及び前記配管に無菌エアを供給する無菌エア供給手段と、前記装置及び前記配管の内部を外気と遮断させるように配置された仕切弁と、前記装置及び前記配管に供給された無菌エアの圧力を計測する圧力計と、前記無菌エア供給手段及び前記仕切弁を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記無菌エア供給手段に前記製造ラインに無菌エアを供給させ、前記製造ラインを陽圧にした状態で前記仕切弁を閉鎖し、前記無菌エア供給手段に無菌エアの供給を停止させる第1の陽圧工程を実施し、前記第1の陽圧工程の実施後に前記圧力計の圧力値に基づいて前記製造ラインに漏れが生じていると判定したとき前記第1の陽圧工程を実施するとともに、前記第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したとき前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をし、前記実施状況は、前記第1の陽圧工程の実施間隔であり、前記制御装置は、前記実施間隔が前記所定条件として所定間隔よりも短いときに前記製造ラインに漏れが生じている旨の警告をすることを特徴とする陽圧監視システムにある。
【0013】
本発明の第の態様は、第の態様に記載の陽圧監視システムにおいて、前記制御装置は、前記実施間隔が前記所定条件として所定間隔よりも短くなったときを条件成立時とし、条件成立時の後に実施する前記第1の陽圧工程における無菌エアの圧力を、条件成立時の前に実施した前記第1の陽圧工程における無菌エアの圧力よりも高く設定することを特徴とする陽圧監視システムにある。
【0014】
本発明の第の態様は、第1から第の何れか一つの態様に記載の陽圧監視システムにおいて、前記制御装置は、前記第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に達したとき、前記仕切弁を開放し、前記無菌エア供給手段に陽圧の無菌エアの供給を継続させる第2の陽圧工程を実施することを特徴とする陽圧監視システムにある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造ラインを陽圧に維持するためのエネルギーを抑制し、かつ、製造ラインから無菌エアが漏れている旨の警告をすることができる陽圧監視システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る陽圧監視システムの概略構成図である。
図2】圧力値及び無菌エアの供給量の時間変化を示すグラフである。
図3】圧力値及び無菌エアの供給量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を用いて本発明の実施形態に係る陽圧監視システム1について説明する。陽圧監視システム1は、液状製品を製造するための装置及び配管を含む製造ライン10を備えている。液状製品とは、飲料、医薬、塗料、微生物などの溶質を含む溶液である。
【0018】
製造ライン10は、少なくとも次の装置等から構成されている。
(a):液状製品を処理するための装置(原料供給手段11、装置群12、充填機13)
(b):液状製品、洗浄用流体、無菌エアを流通させる配管(第1配管21-第5配管25)
(c):洗浄用流体を供給する洗浄手段30
(d):無菌エアを供給する無菌エア供給手段40
(e):(a)の装置や(b)の配管の内部を外気と遮断させるように配置された仕切弁(第1仕切弁51-第5仕切弁55)
(f):無菌エアの圧力を計測する圧力計60
(g):制御装置70
【0019】
(a)の液状製品を処理するための装置は、例えば、液状製品の原料を供給する原料供給手段11や、液状製品に対して貯留、濾過、加熱殺菌、撹拌、分離、加圧、容器へ充填などの処理を行う装置が挙げられる。具体的には、タンク、フィルター装置、熱交換器、撹拌機、遠心分離機、ポンプ、コンプレッサー、充填機などである。なお、これらの装置は、最終製品である液状製品の他に原料や中間製品を対象に処理するものも含む。図1に示す例では(a)の装置として原料供給手段11、装置群12、充填機13が例示されている。
【0020】
原料供給手段11は、原料を保持し、その原料を下流の装置群12に供給する装置などから構成されている。原料供給手段11は、単一の原料に限らず、複数種の原料を投入可能であってもよい。例えば、原料供給手段11は、原料を保持する容器、当該容器に接続された第1配管21の開度を調整する弁体、当該容器から原料を圧送するためのポンプなどから構成されている。原料供給手段11は、制御装置70からの制御信号によりポンプの出力や弁体の開度が調整されるようになっている。
【0021】
装置群12は、原料から液状製品を製造するように上述したタンクやフィルター装置などを配管などで接続して適宜組み合わせたものである。充填機13は製造された液状製品を容器に充填するための装置である。
【0022】
原料供給手段11と装置群12とは第1配管21で接続され、原料が原料供給手段11から装置群12へ流通するようになっている。第1配管21の原料供給手段11側を上流側、装置群12側を下流側ともいう。
また、装置群12と充填機13とは第2配管22で接続され、液状製品が装置群12から充填機13へ流通するようになっている。第2配管22の装置群12側を上流側、充填機13側を下流側ともいう。
第1配管21には、第1配管21を開閉可能な第1仕切弁51が設けられ、第2配管22には、第2配管22を開閉可能な第2仕切弁52が設けられている。
第1配管21のうち第1仕切弁51よりも下流側には第3配管23が接続されている。第2配管22のうち第2仕切弁52よりも上流側には第4配管24が接続されている。
第3配管23には第3配管23を開閉可能な第3仕切弁53が設けられ、第4配管24には第4配管24を開閉可能な第4仕切弁54が設けられている。第3配管23の洗浄手段30側を上流側、第1配管21側を下流側ともいう。第4配管24の第2配管22側を上流側、第2配管22と反対側を下流側ともいう。
第3配管23のうち第3仕切弁53よりも下流側には第5配管25が接続されている。第5配管25には第5配管25を開閉可能な第5仕切弁55が設けられている。第5配管25の無菌エア供給手段40側を上流側、第3配管23側を下流側ともいう。
また、第5配管25には、第5仕切弁55よりも上流側に調節弁56が設けられている。調節弁56は、第5配管25の開度を調節することが可能な弁である。
第1仕切弁51、第2仕切弁52、第3仕切弁53、第4仕切弁54、第5仕切弁55及び調節弁56は、後述する制御装置70により開閉動作又は開度の調整が制御可能となっている。
【0023】
洗浄手段30は、第3配管23に接続され、第3配管23を通じて装置群12などに洗浄用流体を供給する装置からなる。洗浄用流体を供給する装置は公知の構成であるので詳細な説明は省略する。なお、洗浄用流体とは、定置洗浄(Cleaning In Place;CIP)で用いる洗浄液や、定置滅菌(Sterilizing In Place;SIP)で用いる高温高圧の蒸気をいう。
【0024】
無菌エア供給手段40は、第5配管25に接続され、装置群12や第1配管21~第5配管25に無菌エアを供給する装置からなる。無菌エア供給手段40の一例としては、外気を取り込み加熱する熱交換器と、加熱された空気中の不純物や雑菌を除去する無菌フィルター装置とから構成されている。このように加熱され、無菌フィルターで濾過された空気を無菌エアと称する。また、無菌エア供給手段40から第5配管25に供給される無菌エアの圧力は、調節弁56により制御可能となっている。
【0025】
このような製造ライン10のうち、第1仕切弁51-第5仕切弁55によって外気と遮断される範囲を密閉区間という。図1の例では、点線で囲った次の箇所が密閉区間Aである。
・第1配管21のうち第1仕切弁51より下流側
・装置群12
・第2配管22のうち第2仕切弁52より上流側
・第3配管23のうち第3仕切弁53より下流側
・第4配管24のうち第4仕切弁54より上流側
・第5配管25のうち第5仕切弁55より下流側
なお、装置群12は、液状製品(原料や中間製品も含む)の入口と出口の他に外気に開放した部分がない構成のものである。したがって、当該入口や出口に連なる第1配管21-第5配管25が第1仕切弁51-第5仕切弁55によって閉鎖されると、装置群12の内部も外気とは遮断されることになる。
【0026】
圧力計60は、無菌エアの圧力を計測する装置である。本実施形態では、第3配管23のうち第3仕切弁53よりも下流側に配置されている。もちろん、このような配置に限定されず、圧力計60は、密閉区間Aに充填された無菌エアの圧力を測定できる箇所に配置されていればよい。
【0027】
制御装置70は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)とも称され、製造ライン10を制御することで液状製品を製造させるための装置である。本実施形態では、制御装置70は、製造工程、洗浄工程、陽圧工程を実行する。
【0028】
製造工程では、制御装置70は、原料供給手段11に原料を装置群12に供給させ、装置群12の各装置を動作させて原料から液状製品を製造させ、充填機13に液状製品を容器に詰めさせるための制御を行う。
【0029】
また、製造工程では、制御装置70は、第1仕切弁51及び第2仕切弁52は開放し、第3仕切弁53-第5仕切弁55は閉鎖させる。この製造工程では密閉区間Aは形成されない。
【0030】
洗浄工程では、制御装置70は、原料供給手段11、装置群12、充填機13の動作を停止させる。また、制御装置70は、第1仕切弁51、第2仕切弁52及び第5仕切弁55を閉鎖し、第3仕切弁53及び第4仕切弁54を開放させる。この洗浄工程では密閉区間Aは形成されない。
【0031】
そのような状態で、制御装置70は、洗浄手段30に洗浄用流体を供給させる。これにより、洗浄用流体が第3配管23、第1配管21、装置群12、第2配管22、第4配管24に供給され、それらが洗浄される。なお、第4配管24から排出された洗浄用流体は、適宜処理された上で再利用または破棄される。
【0032】
本実施形態では、陽圧工程として第1の陽圧工程又は第2の陽圧工程の何れかを選択的に実行可能である。まずは、第1の陽圧工程及び第2の陽圧工程について説明する。どのような条件で第1の陽圧工程又は第2の陽圧工程を選択するかについては、後述する。
【0033】
図2を用いて、第1の陽圧工程について説明する。図2は、密閉区間Aにおける圧力計60により測定された圧力値の時間変化を示すグラフ、及び無菌エア供給手段40による無菌エアの供給量(エア供給量)の時間変化を示すグラフである。
【0034】
第1の陽圧工程では、制御装置70は、無菌エア供給手段40に無菌エアを製造ライン10(第5配管25)に供給させ、製造ライン10を陽圧にした状態で第1仕切弁51-第5仕切弁55を閉鎖する。つまり、製造ライン10の一部に密閉区間Aを形成させる。したがって、時刻T1から時刻T2においては、エア供給量は一定量であり、圧力は徐々に上昇する。
【0035】
そして、制御装置70は、無菌エア供給手段40に無菌エアの供給を停止させる(時刻T2)。これにより、時刻T2から時刻T3までの間では、無菌エアの供給量はゼロとなり、密閉区間Aは陽圧(圧力P)の無菌エアで充填された状態が維持される。
【0036】
しかしながら、密閉区間Aの内部に充填された無菌エアは温度が低下するなどの要因で圧力が低下しうる。また、装置の継ぎ目や各種シールに不備がなくても密閉区間Aは完全に密閉とはならず、無菌エアの漏れを完全に無くすことはできない。さらに、CIP、SIPの実施前に製造ライン10のリークテストを行うので、装置の継ぎ目から漏れる可能性は低い。しかしながらリークテストに合格しても、第1の陽圧工程を実施したあとに漏れが生じる可能性もある。したがって、時刻T3から時刻T4までの間に示すように、無菌エアの圧力は自然に低下することがある。
【0037】
そこで、制御装置70は、圧力計60の圧力値に基づいて製造ライン10(密閉区間A)に漏れが生じていると判定し、第1の陽圧工程を再度実施する。この漏れの判定は、例えば圧力値が所定圧力Thにまで低下したことを挙げることができる。
【0038】
図2に示すように、制御装置70は、圧力計60の圧力値が低下して所定圧力Thになったら(時刻T4)、製造ライン10に漏れが生じていると判定する。そして、第1の陽圧工程を実施する。ここでは、制御装置70は第5仕切弁55のみを開け、無菌エア供給手段40に無菌エアを供給させる。この結果、時刻T4から時刻T5に示すように、無菌エアが供給されその圧力が上昇する。無菌エアが十分な圧力Pに達したら(時刻T5)、再度、第5仕切弁55を閉じ、無菌エア供給手段40による無菌エアの供給を停止させる。
【0039】
このような製造ライン10の漏れの監視に基づく第1の陽圧工程の実施により、製造ライン10の密閉区間Aが無菌に保たれる。このような第1の陽圧工程を行うことで密閉区間Aを無菌に保つことができる。
【0040】
しかしながら、第1の陽圧工程の実施回数が多くなれば、自然な圧力の低下である可能性は低く、密閉区間Aを構成する装置や配管になんらかの異常が生じている可能性が高い。第1の陽圧工程の実施回数が多くなった場合を一般化すると「第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当した場合」となり、このような場合では製造ライン10に異常が生じた可能性が高く、警告を行うとともに、第1の陽圧工程に代えて第2の陽圧工程を実施する。
【0041】
図3を用いて、第2の陽圧工程について説明する。図3は、密閉区間Aにおける圧力計60により測定された圧力値の時間変化を示すグラフ、及び無菌エア供給手段40による無菌エアの供給量(エア供給量)の時間変化を示すグラフである。
【0042】
時刻T10から時刻T11までは、第1の陽圧工程を2回行ったことを示し、時刻T11において圧力が所定圧力Thまで低下し、3回目の第1の陽圧工程を実行するところである。
【0043】
制御装置70は、第1の陽圧工程の実施回数(実際に実施した回数のみを計上してもよいし、これから実施しようとする回数を含めて計上してもよい)を計上する。図3の例では、T10からT11までの間に実際に実行した2回の第1の陽圧工程と、実行しようとする1回の第1の陽圧工程の合計の3回の実施回数となっている。
【0044】
制御装置70は、第2の陽圧工程を実施するための条件として、上述したように計上した回数が所定回数(例えば3回)に達しことを採用する。その条件が成立したら、制御装置70は、第1仕切弁51-第3仕切弁53を閉鎖し、第4仕切弁54及び第5仕切弁55を開放する。つまり、製造ライン10の一部に密閉区間Aを形成させない。
【0045】
そして、制御装置70は、無菌エア供給手段40を制御して、製造ライン10(第5配管25)に無菌エアの供給を継続させる。このとき、制御装置70は、密閉区間Aに相当する点線で囲まれた部分における無菌エアの圧力が陽圧になるように、無菌エア供給手段40による無菌エアの供給量や、調節弁56の開度を調整する。
【0046】
これにより、第5配管25、第3配管23、第1配管21、装置群12、第2配管22、第4配管24という順に、陽圧の無菌エアが常時流通した状態となり、第1の陽圧工程と同様に、密閉区間Aに相当する部分が無菌に保たれる。つまり、時刻T11以降においては、圧力が陽圧に保たれるとともに、エア供給量は一定量に保たれる。
【0047】
また、制御装置70は、第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したときに、製造ラインに漏れが生じている可能性があると判定し、その旨の警告を行う。警告は、例えば、制御装置70に接続されたディスプレイなどの表示手段に文字、図形、記号などで表示することにより行ってもよい。他にも、警告は、スピーカーなどの音声出力手段に音として出力したり、警告灯などの光学的装置を点灯・点滅させることにより行ってもよい。さらには、警告は、ネットワークを介して制御装置70に接続された情報処理端末に送信することにより行ってもよい。
【0048】
第1の陽圧工程の実施状況の具体例としては、第1の陽圧工程の実施回数であったり、単位時間当たりの第1の陽圧工程の実施回数である。これらの実施回数は、制御装置70が第1の陽圧工程を実施するたびにその回数を計上することにより得ることができる。
【0049】
他にも、第1の陽圧工程の実施状況の具体例としては、第1の陽圧工程の実施間隔を挙げることができる。実施間隔は、予め制御装置70に設定した値であってもよいし、過去に実施した第1の陽圧工程同士の間の時間を記録しておき、その時間を実施間隔として用いてもよい。第1の陽圧工程は複数回実行している場合では、いくつかの実施間隔をサンプリングして平均値をとるなどしてもよい。
【0050】
このような第1の陽圧工程の実施状況に対する所定条件は、第1の陽圧工程の実施回数が所定回数に該当したことが挙げられる。この所定回数は、例えば、製造ライン10の異常時における第1の陽圧工程の実施回数に基づいて定めることが好ましい。そのような所定回数を制御装置70に設定しておき、制御装置70は、第1の陽圧工程の実施回数をその所定回数と比較する。制御装置70は、実施回数が所定回数に達していたら上述したように警告を行う。
【0051】
その他の所定条件の例としては、単位時間あたりの第1の陽圧工程の実施回数が所定回数に該当したことが挙げられる。短時間で当該実施回数が所定回数に達した場合では、異常が生じている可能性が高い。したがって、製造ライン10の密閉区間Aから漏れが生じている旨の警告は、信頼性が高いものとなる。
【0052】
上述した実施回数に対する所定回数は、製造ライン10の構成によって定めてもよい。具体的には、製造ライン10のうち密閉区間Aの容積が小さいほど、所定回数を多くする。例えば密閉区間Aの容積をある程度区分し、その区分に応じて所定回数を定める。容積の区分が50L未満ならば所定回数は3回、50L以上100L未満ならば所定回数は2回、101L以上ならば所定回数は1回、といった具合である。
【0053】
密閉区間Aの容積が小さいほど、圧力低下の傾きは急であり、第1の陽圧工程の実施回数は多くなる傾向にある。逆に密閉区間Aの容積が大きいほど、圧力低下の傾きは緩やかであり、第1の陽圧工程の実施回数は少なくなる傾向にある。
【0054】
例えば、密閉区間Aにタンクがある場合、容積は大きくなる。このようなタンクは圧量低下を抑えるクッション、バッファーとなるため、容積が大きいほど密閉区間Aの圧力は下がりにくい。このように容積が大きい密閉区間Aではそもそも圧力が下がり難いのであるから、第1の陽圧工程の実施回数が少ない場合であっても異常が生じている可能性は高い。そこで、所定回数を少なく設定する。これにより、製造ライン10の構成に応じて、より早期に異常が生じたことを警告することができる。
【0055】
他にも、密閉区間Aに含まれる配管長が長いと密閉区間Aの容積は大きくなる。したがって配管長が長いほど所定回数を少なくする。例えば、配管長をある程度区分し、その区分に応じて所定回数を定める。
【0056】
さらに、第1の陽圧工程を実施した後に密閉区間Aの圧力が低下する(図2の時刻T3から時刻T4参照)。このとき圧力低下の傾きが大きいならば密閉区間Aに異常が生じている可能性が高いので、所定回数を少なくし、早期に警告することができる。
【0057】
なお、圧力低下の傾きが大きいか否かの判定は、例えば、過去に正常であったときの自然な圧力低下の傾きと比較することにより行えばよい。
【0058】
その他の所定条件の例としては、第1の陽圧工程の実施間隔が所定間隔よりも短いことが挙げられる。製造ライン10に異常がある場合は、第1の陽圧工程の実施間隔が短くなる。したがって、このような所定条件を設定することで、製造ライン10の密閉区間Aから漏れが生じている旨の警告は、信頼性が高いものとなる。
【0059】
所定間隔としては、過去に実施した第1の陽圧工程のタイミングに基づいて定めることができる。例えば、製造ライン10における第1の陽圧工程を実施した日時を記録しておく。直近3回の第1の陽圧工程を実施した日時を古い順にA1、A2、A3とする。このなかで最新となるA2とA3の間が実施間隔であり、その前のA1とA2の間が所定間隔となる。制御装置70は、この所定間隔と、実施間隔とを比較し、実施間隔が所定時間よりも短くなっているならば、上述したように警告を行う。他にも、製造ライン10が正常に動作している期間における実施間隔の平均値を所定間隔としてもよい。
【0060】
また、上述したような第1の陽圧工程の実施間隔が所定間隔よりも短くなったときを条件成立時とする。この条件成立時の後に実施する第1の陽圧工程における無菌エアの圧力を、条件成立時の前に実施した第1の陽圧工程における無菌エアの圧力よりも高く設定してもよい。
【0061】
条件成立時の前は、正常に動作していた可能性が高く、条件成立時の後は製造ライン10に無菌エアが漏れるような異常が生じている可能性が高い。そこで、条件成立時の後は、その前よりも高い圧力で無菌エアを供給する。つまり、条件成立時の後は、その前よりも高い圧力で密閉区間Aに無菌エアを充填するように第1の陽圧工程を実施することになる。したがって、無菌エアが漏れて圧力が低下しても、より長い時間、製造ライン10を陽圧に維持することができる。条件成立時の後の無菌エアの圧力は、その前の無菌エアの圧力よりも高ければよい。
【0062】
なお、このような圧力の変更は、制御装置70が自動的に行ってもよいし、管理者による手動により行ってもよい。後者の手動による場合は、例えば、制御装置70が圧力の変更を行うための確認画面をディスプレイなどの表示装置に表示する。管理者がその確認画面を見て確認したらディスプレイに表示された所定のボタンを押す。制御装置70はそのボタンが押されたら、無菌エアの供給圧力を変更する。また制御装置は、管理者への参考のために、過去に実施した第1の陽圧工程の日時を表示してもよい。
【0063】
上述した構成の陽圧監視システム1は、製造工程を実施した後に洗浄工程を実施する。洗浄工程の実施後には第1の陽圧工程を実施する。これにより、製造ライン10のうち密閉区間Aにおいては、洗浄され、陽圧の無菌エアが充填された状態を保持することができる。この第1の陽圧工程においては、無菌エア供給手段40による無菌エアの供給を停止するので(図2の時刻T2から時刻T4)、無菌エアの供給に要していたエネルギーを消費せずにすみ、製造ライン10を陽圧に維持するためのエネルギーを抑制することができる。
【0064】
また、陽圧監視システム1は、圧力計60による圧力値に基づいて無菌エアが漏れていると判定し、第1の陽圧工程を実施する。これにより、密閉区間Aの無菌エアの圧力が自然に低下するような場合でも、陽圧を維持することができる。さらには、自然な圧力の低下ではなく、製造ライン10の異常などが原因で第1の陽圧工程を複数回実行するような事態が生じた場合では、その旨を警告する。このような警告により、製造ライン10の保守関係者などに、製造ライン10に無菌エアが漏れるような異常が生じていることを早期に伝達することができる。
【0065】
本実施形態に係る陽圧監視システム1では、第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に達したとき、第2の陽圧工程を実施する。第1の陽圧工程の実施回数が多くなるということは、製造ライン10に異常が生じている可能性が高い。そこで、常時、陽圧の無菌エアを供給する第2の陽圧工程を実施することで、製造ライン10の陽圧をより確実に維持することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0067】
上述した第1の陽圧工程の実施回数に対する所定回数は3回に限定されず、任意の回数を設定可能である。また、単位時間あたりの第1の陽圧工程の実施回数は、単位時間に設定する時間は任意に定めることができる。製造ライン10の構成は、上述した構成に限定されない。少なくとも、仕切弁によって密閉にすることが可能な装置や配管で構成されていればよい。
【0068】
また、第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したときに、製造ライン10に漏れが生じている旨の警告を行う(このときの所定条件を第1の所定条件と称する)。第1の陽圧工程の実施状況が所定条件に該当したときに第2の陽圧工程に切り替えて実行する(このときの所定回数を第2の所定条件と称する)。これらの第1の所定条件と第2の所定条件とは同じでもよいし異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…陽圧監視システム、10…製造ライン、11…原料供給手段、12…装置群、13…充填機、21…第1配管、22…第2配管、23…第3配管、24…第4配管、25…第5配管、30…洗浄手段、40…無菌エア供給手段、51…第1仕切弁、52…第2仕切弁、53…第3仕切弁、54…第4仕切弁、55…第5仕切弁、56…調節弁、60…圧力計、70…制御装置
図1
図2
図3