(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】キャリブレータ、複合体、及びIgA凝集体を測定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240416BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/53 U
G01N33/543 581E
(21)【出願番号】P 2020093435
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】高浜 洋一
(72)【発明者】
【氏名】松崎 英樹
(72)【発明者】
【氏名】京藤 拓也
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502968(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172347(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/007797(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0172247(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビオチン基を有するIgA
と、アビジン類
と、レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチドとの複合体を含
む試薬である、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられるキャリブレータ。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、M2BP、MUC1及びα2Mからなる群より選択される少なくとも1の糖タンパク質の全部又は一部を含む請求項1に記載のキャリブレータ。
【請求項3】
試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられる、ビオチン基を有するIgAと
、アビジン類と
、レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチドとの複合体。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、M2BP、MUC1及びα2Mからなる群より選択される少なくとも1の糖タンパク質の全部又は一部を含む請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
レクチンを用いて試料中のIgA凝集体を測定する方法であって、
ビオチン基を有するIgA
と、アビジン類
と、レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチドとの複合体を含む
試薬であるキャリブレータを用いて、前記試料中のIgA凝集体の濃度を取得することを含む、前記方法。
【請求項6】
前記ポリペプチドが、M2BP、MUC1及びα2Mからなる群より選択される少なくとも1の糖タンパク質の全部又は一部を含む請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記キャリブレータが、前
記複合体をそれぞれ含む複数の試薬を含む試薬セットであり、前記複数の試薬における前記複合体の濃度が互いに異なっている請求項
5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
前記試料と、前記レクチンと、標識物質を含み且つ前記IgA凝集体に特異的に結合する捕捉体とを用いて、前記IgA凝集体の測定値を取得する工程と、
前記キャリブレータと、前記レクチンと、前記捕捉体とを用いて、前記複合体の測定値を取得する工程と、
前記IgA凝集体の測定値及び前記複合体の測定値から、前記試料中のIgA凝集体の濃度を取得する工程と
を含む請求項
5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記IgA凝集体の濃度の取得工程において、前記複合体の測定値から検量線を作成し、
前記検量線及び前記IgA凝集体の測定値に基づいて、前記試料中のIgA凝集体の濃度を取得する請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記レクチンが固相に固定されている請求項
5~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記IgAがIgA1である請求項
5~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記レクチンが、WFA、HHL、GNA、NPA、SBA、VVA、BPL、TJA-II、PHA-L及びAOLからなる群から選択される少なくとも1のレクチンである請求項
5~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記レクチンがWFAである請求項
5~
12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられるキャリブレータに関する。本発明は、ビオチン基を有するIgAとアビジン類とを含む複合体に関する。本発明は、レクチンを用いて試料中のIgA凝集体を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、IgA凝集体に特異的に反応するレクチンを用いた酵素結合免疫吸着法(ELISA)法によって、試料中のIgA凝集体を検出する方法が記載されている。また、特許文献1には、IgA腎症患者及び健常人の血清から精製したIgAの検出結果を比較すると、患者由来の精製IgAがレクチンに対して特に強く反応したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ELISA法などの免疫測定法により被検物質を定量的に測定する場合、キャリブレータが用いられる。キャリブレータとは一般に、被検物質に対応した標準物質を含む試薬をいう。免疫測定の分野では、標準物質は、生体試料から単離されたか又は合成された被検物質そのものであることが多い。しかし、IgA凝集体の測定のための適切なキャリブレータは知られていない。そこで、本発明は、IgA凝集体の測定に用いられるキャリブレータ、そのキャリブレータに含まれる、ビオチン基を有するIgAとアビジン類とを含む複合体、及びそのキャリブレータを用いるIgA凝集体の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ビオチン基を有するIgA及びアビジン類を含み、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられるキャリブレータを提供する。本発明は、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられる、ビオチン基を有するIgAとアビジン類とを含む複合体を提供する。本発明は、レクチンを用いて試料中のIgA凝集体を測定する方法であって、ビオチン基を有するIgA及びアビジン類を含むキャリブレータを用いて、試料中のIgA凝集体の濃度を取得することを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、IgA凝集体の測定に用いられるキャリブレータ、ビオチン基を有するIgAとアビジン類とを含む複合体、及びそのキャリブレータを用いるIgA凝集体の測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ビオチン基を有するIgAとアビジン類との複合体の模式図である。
【
図2】ビオチン基を有するIgAと、アビジン類と、レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチドとの複合体の模式図である。
【
図3】一の試薬の形態にあるキャリブレータの模式図である。
【
図4】複数の試薬を含む試薬セットの形態にあるキャリブレータの模式図である。
【
図5】複数の試薬を含む試薬セットの形態にあるキャリブレータの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態の方法は、レクチンを用いるIgA凝集体の測定方法である。IgA凝集体とは、IgA腎症患者の血液において、IgAが凝集して生じる多量体IgAである。現在のところ、IgA腎症患者の血液などからIgA凝集体を分離及び精製することは困難である。そのため、IgA凝集体そのものをキャリブレータに用いることはできない。一方、糖鎖異常のないIgA単量体は容易に入手できる。しかし、そのようなIgA単量体はレクチンと結合しない。そのため、上述のように、IgA凝集体の測定のための適切なキャリブレータは知られていなかった。
【0009】
本実施形態の方法は、ビオチン基を有するIgA及びアビジン類を含むキャリブレータを用いて、試料中のIgA凝集体の濃度を取得することを特徴とする。「ビオチン基」とは、ビオチン類の化学構造のうち、イミダゾリジン環を含む複素環部分をいう。本明細書において「ビオチン類」との用語は、ビオチン及びその類縁体を包含する。ビオチンの類縁体としては、例えばデスチオビオチン、オキシビオチンなどが挙げられる。本明細書において「アビジン類」との用語は、アビジン及びその類縁体を包含する。アビジンの類縁体としては、例えばストレプトアビジン、ニュートラアビジン(商標)、タマビジン(登録商標)などが挙げられる。アビジン類は一般に、4つのサブユニットから構成される四量体の形態で存在する。以下、「1分子のストレプトアビジン」のように1分子のアビジン類について言及するが、1分子のアビジン類とは四量体のアビジン類を指す。1分子のアビジン類は、4つのビオチン基と結合できる。
【0010】
ビオチン基を有するIgA(以下、「ビオチン化IgA」ともいう)は、IgA単量体とビオチン類とを、架橋剤などを用いる公知の方法によって結合させることにより得ることができる。市販のビオチン標識試薬を用いてもよい。1分子のビオチン化IgAが有するビオチン基の数は特に限定されず、1つでもよいし、複数でもよい。IgA単量体は、ヒト由来であれば、天然のIgA及び組換え型IgAのいずれであってもよい。IgAのアイソタイプは、IgA1及びIgA2のいずれであってもよい。好ましいアイソタイプはIgA1である。
【0011】
本実施形態の方法で用いられるキャリブレータでは、ビオチン基とアビジン類との結合を介して、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体が形成されている。すなわち、キャリブレータは、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体を含む試薬である。本実施形態では、この複合体は、IgA凝集体に対する標準物質に相当する。複合体の一例を
図1に示す。図中、「STA」はストレプトアビジンを示し、「B」はビオチン基を示す。
図1では、1分子のストレプトアビジンに4分子のビオチン化IgAが結合しているが、本発明はこの例に限定されない。
図1に示されるように、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体は、IgAの擬似的な凝集体である。この複合体は、IgA凝集体の測定に用いられるレクチンと結合できるので、この複合体を含むキャリブレータを用いることで試料中のIgA凝集体の濃度を取得できる。なお、
図1では、便宜上、ビオチン化IgAが有するビオチン基を1個のみ表示したが、上述のとおり、ビオチン化IgAは複数のビオチン基を有してもよい。
【0012】
ビオチン化IgAとアビジン類との複合体は、ビオチン化IgAとアビジン類とを混合することにより得ることができる。混合の条件は、タンパク質が変性しない条件であれば特に限定されない。例えば、ビオチン化IgAの溶液とアビジン類の溶液とを混合し、4℃~40℃、好ましくは15℃~37℃で撹拌又は静置してもよい。
【0013】
本実施形態では、複合体は、1分子のアビジン類と2、3又は4分子のビオチン化IgAとで構成されることが好ましい。ビオチン化IgAが複数のビオチン基を有する場合、理論上、複合体は、複数分子のアビジン類と複数分子のビオチン化IgAとが連鎖的に結合した巨大分子になり得る。しかし、実際にはそのような巨大分子は生じないか、生じたとしても本実施形態の方法に影響の無い程度の量である。ほとんどの複合体は、1分子のアビジン類と2、3又は4分子のビオチン化IgAとの複合体、特に1分子のアビジン類と4分子のビオチン化IgAとの複合体である。これは、立体障害などの原因により、ビオチン化IgAとアビジン類との連鎖的な結合が生じないためと考えられる。
【0014】
さらなる実施形態では、キャリブレータは、レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチド(以下、「ビオチン化キャリアタンパク質」ともいう)をさらに含んでもよい。ここで、「ポリペプチド」との用語は、複数のアミノ酸がペプチド結合により結合した物質を指し、タンパク質及びその断片なども包含する。このキャリブレータでは、ビオチン基とアビジン類との結合を介して、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体が形成されている。すなわち、このキャリブレータは、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を含む試薬である。
【0015】
ビオチン化キャリアタンパク質は、レクチンと結合する糖鎖を有するポリペプチド(以下、「キャリアタンパク質」ともいう)と、ビオチン類とを、架橋剤などを用いる公知の方法によって結合させることにより得ることができる。市販のビオチン標識試薬を用いてもよい。1分子のビオチン化キャリアタンパク質が有するビオチン基の数は特に限定されず、1つでもよいし、複数でもよい。
【0016】
キャリアタンパク質は、本実施形態の方法に用いるレクチンが結合可能な糖鎖を有するかぎり、特に限定されない。既知のレクチンであれば、該レクチンが特異的に結合する糖鎖の配列又は構造は公知である。キャリアタンパク質としては、例えばM2BP(Mac-2 binding protein)、MUC1(Mucin 1, cell surface associated glycoprotein)、α2M(Alpha-2-macroglobulin)などが挙げられる。これらのキャリアタンパク質は、レクチンとしてWFA (Wisteria floribunda agglutinin)を用いる本実施形態の方法に特に適している。
【0017】
本実施形態では、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体は、IgA凝集体に対する標準物質に相当する。この複合体の一例を
図2に示す。
図2では、1分子のストレプトアビジンに2分子のビオチン化IgA及び2分子のビオチン化キャリアタンパク質が結合しているが、本発明はこの例に限定されない。
図2に示されるように、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体は、レクチンが結合する糖鎖を有する、IgAの擬似的な凝集体である。この複合体は、ビオチン化キャリアタンパク質が有する糖鎖により、IgA凝集体の測定に用いられるレクチンと結合できるので、この複合体を含むキャリブレータを用いることで試料中のIgA凝集体の濃度を取得できる。なお、
図2では、便宜上、ビオチン化IgAが有するビオチン基を1個のみ、ビオチン化キャリアタンパク質が有するビオチン基を1個のみ表示したが、上述のとおり、ビオチン化IgAは複数のビオチン基を有してもよく、ビオチン化キャリアタンパク質は複数のビオチン基を有してもよい。
【0018】
本実施形態では、複合体は、1分子のアビジン類と1、2又は3分子のビオチン化IgAと1、2又は3分子のビオチン化キャリアタンパク質とで構成されることが好ましい(ただし、ビオチン化IgA及びビオチン化キャリアタンパク質の分子数の合計は2以上4以下である)。ビオチン化IgA及び/又はビオチン化キャリアタンパク質が複数のビオチン基を有する場合、理論上、複合体は、複数分子のアビジン類と複数分子のビオチン化IgAと複数分子のビオチン化キャリアタンパク質とが連鎖的に結合した巨大分子になり得るが、上記のとおり、実際にはそのような巨大分子は生じないか、生じたとしても本実施形態の方法に影響の無い程度の量である。
【0019】
ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体は、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質とを混合することにより得ることができる。混合の条件は、タンパク質が変性しない条件であれば特に限定されない。例えば、ビオチン化IgAの溶液とアビジン類の溶液とビオチン化キャリアタンパク質の溶液とを混合し、4℃~40℃、好ましくは15℃~37℃で撹拌又は静置してもよい。混合の順序は、ビオチン化IgAの溶液とアビジン類の溶液とビオチン化キャリアタンパク質の溶液とを実質的に同時に混合することが好ましい。あるいは、ビオチン化IgAの溶液とビオチン化キャリアタンパク質の溶液とを先に混合し、次いで、得られた溶液とアビジン類の溶液とを混合してもよい。
【0020】
キャリブレータに含まれる複合体は、固体(例えば粉末、結晶、凍結乾燥品など)の形態にあってもよいし、液体(例えば溶液、懸濁液、乳濁液など)の形態にあってもよい。溶媒は、タンパク質(特に抗体)の保存に適するかぎり特に限定されないが、例えば生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液は、中性付近のpH(例えば6以上8以下のpH)で緩衝作用を有する緩衝液が好ましい。そのような緩衝液は、例えばHEPES、MES、PIPESなどのグッド緩衝液、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられる。
【0021】
キャリブレータは、公知の添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)などタンパク質安定化剤、アジ化ナトリウムなどの防腐剤、塩化ナトリウムなどの無機塩類などが挙げられる。
【0022】
キャリブレータは、一の試薬の形態にあってもよいし、複数の試薬を含む試薬セットの形態にあってもよい。一の試薬であるキャリブレータは、例えば、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体を収容した一の容器、又は、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を収容した一の容器を含む。
【0023】
キャリブレータが試薬セットである場合、以下、試薬セットに含まれる各試薬を「キャリブレータ試薬」ともいう。試薬セットであるキャリブレータは、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体をそれぞれ含む複数のキャリブレータ試薬を含むか、又は、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体をそれぞれ含む複数のキャリブレータ試薬を含む。この試薬セットでは、複数のキャリブレータ試薬における複合体の濃度が互いに異なっている。試薬セットは、例えば、複数のキャリブレータ試薬のそれぞれを収容した複数の容器を含む。複数の容器には、互いに異なる濃度で複合体が含まれている。
【0024】
試薬セットに含まれるキャリブレータ試薬の数は特に限定されないが、例えば2、3、4、5及び6から選択できる。各キャリブレータ試薬における複合体の濃度は、検量線を作成可能であれば、特に限定されない。例えば、複数のキャリブレータ試薬のうち、複合体の濃度が最も低いキャリブレータ試薬は1μg/mL以上200μg/mL以下の濃度で複合体を含み、複合体の濃度が最も高いキャリブレータ試薬は、最も低い濃度の2倍以上1000倍以下の濃度で複合体を含んでもよい。
【0025】
本実施形態の方法では、レクチンを用いて試料中のIgA凝集体を測定すると共に、上記のキャリブレータに含まれる複合体も測定することにより、試料中のIgA凝集体の濃度を取得する。以下に、レクチンを用いて試料中のIgA凝集体を測定する方法について説明する。
【0026】
本実施形態では、試料は、IgA凝集体を含むか又は含む疑いがあるかぎり、特に限定されない。好ましい試料は生体試料である。生体試料としては、例えば血液(全血)、血漿、血清、尿、リンパ液、組織液、脳脊髄液、唾液など細胞外液などが挙げられる。これらの中でも、血液、血漿、血清及び尿が好ましい。試料に細胞などの不溶性の夾雑物が含まれる場合、遠心分離、ろ過などの公知の手段により、試料から夾雑物を除去してもよい。試料は、必要に応じて適切な水性媒体で希釈してもよい。そのような水性媒体は、後述の測定を妨げないかぎり特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液については上記のとおりである。
【0027】
レクチンは、凝集素(agglutinin)とも呼ばれ、所定の糖鎖と特異的に結合するタンパク質である。本実施形態では、レクチンは、IgA凝集体と結合するかぎり特に限定されない。そのようなレクチン自体は公知であり、例えばWFA、HHL (Hippeastrum Hybrid lectin)、GNA (Galanthus nivalis agglutinin)、NPA (Narcissus pseudonarcissus agglutinin)、SBA (Soybean agglutinin)、VVA (Vicia villosa agglutinin)、BPL (Bauhinia purpurea lectin)、TJA (Trichosanthes japonica agglutinin)-II、PHA-L (Phaseolus vulgaris leukoagglutinin)、AOL (Aspergillus oryzae lectin)などが挙げられる。それらの中でもWFAが特に好ましい。
【0028】
天然に存在するWFAは、4つのサブユニットから構成される四量体で存在する。還元剤などを用いる公知の方法により、四量体WFAから単量体又は二量体のWFAを得ることができる。本明細書では、サブユニットの数を特に記載しない場合、「WFA」との用語は、単量体WFA、二量体WFA、三量体WFA及び四量体WFAを包含する。本明細書では、所定の数のサブユニットから構成されるWFAを表す場合、例えば「単量体WFA」、「二量体WFA」、「三量体WFA」「四量体WFA」のように、サブユニットの数を明示して表記する。
【0029】
本実施形態では、WFAは、四量体WFAであってもよいし、四量体WFAから得られる単量体WFA又は二量体WFAであってもよい。それらの中でも、IgA凝集体との反応性の高さから、二量体WFAが好ましい。架橋剤を用いて四量体WFAから二量体WFAを得る方法は、例えば米国特許出願公開第2016/0363586号明細書に記載されている(この文献は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0030】
レクチンを用いるIgA凝集体の測定方法自体は公知であり、例えば特許第6066220号公報に記載されている。そのような測定方法としては、例えばELISA法の原理に基づく方法が好ましい。具体的には、ELISA法における捕捉抗体又は検出抗体の代わりに、IgA凝集体と結合するレクチンを用いる方法が挙げられる。ここで、捕捉抗体とは、被検物質と特異的に結合する抗体であって、自身が固相に固定されることにより被検物質を固相上に捕捉するための抗体をいう。検出抗体とは、被検物質と特異的に結合し、且つ標識物質を有する抗体であって、該標識物質を介して検出可能なシグナルを提供する抗体をいう。検出抗体は、固相に固定されないことが好ましい。測定には、特開平1-254868号公報に記載の免疫複合体転移法を用いてもよい。
【0031】
ELISA法の種類は、サンドイッチ法、競合法、直接法、間接法などのいずれであってもよい。好ましい実施形態では、レクチンと、標識物質を含み且つIgA凝集体に特異的に結合する捕捉体(以下、「標識捕捉体」ともいう)とを用いるサンドイッチELISA法により、IgA凝集体を測定する。この場合、レクチンは、サンドイッチELISA法における捕捉抗体に相当し、標識捕捉体は、サンドイッチELISA法における検出抗体に相当する。
【0032】
標識捕捉体は、IgA凝集体に特異的に結合する捕捉体に標識物質を直接又は間接的に結合することにより得ることができる。例えば、架橋剤、市販のラベリングキットなどを用いて、IgA凝集体に特異的に結合する捕捉体と、標識物質とを結合してもよい。あるいは、IgA凝集体に特異的に結合する捕捉体に対する標識二次抗体を用いてもよい。標識二次抗体とは、IgA凝集体に特異的に結合する捕捉体に特異的に結合する抗体であって、標識物質が結合された抗体をいう。
【0033】
IgA凝集体に特異的に結合する捕捉体は、IgA凝集体においてレクチンが結合する部位とは異なる部位に結合可能な物質であれば、特に限定されない。そのような捕捉体としては、例えば、IgAと特異的に結合する抗体(抗IgA抗体)又はアプタマー、IgA凝集体中のIgAに認識される抗原などが挙げられる。
【0034】
標識物質は、シグナル発生物質であってもよいし、他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、例えば蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)、シアニン系色素などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも酵素が好ましく、ALPが特に好ましい。
【0035】
サンドイッチELISA法により試料及びキャリブレータを測定する場合について、一つの例を以下に説明する。この例では、試料中のIgA凝集体を測定した後に、キャリブレータ中の複合体を測定するが、本発明はこの例に限定されない。キャリブレータ中の複合体を測定した後に、試料中のIgA凝集体を測定してもよい。あるいは、試料中のIgA凝集体及びキャリブレータ中の複合体を実質的に同時に測定してもよい。
【0036】
まず、試料とレクチンと標識捕捉体とを用いて、IgA凝集体の測定値を取得する。具体的には、次のとおりである。試料中のIgA凝集体とレクチンと標識捕捉体とを含む免疫複合体を固相上に形成する。該免疫複合体は、試料とレクチンと標識捕捉体とを混合することにより形成できる。そして、上記の免疫複合体と、レクチンを固定できる固相とを接触することにより、上記の免疫複合体を固相上に形成できる。本実施形態では、レクチンがあらかじめ固定された固相を用いることが好ましい。すなわち、レクチンを固定した固相と試料と標識捕捉体とを混合することにより、上記の免疫複合体を固相上に形成できる。
【0037】
レクチンの固相への固定の態様は特に限定されない。例えば、レクチンと固相とを直接結合させてもよいし、レクチンと固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、例えば物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、例えば、ビオチン類とアビジン類との組み合わせを介した結合が挙げられる。この場合、レクチンをあらかじめビオチン類で修飾し、固相にアビジン類をあらかじめ結合しておくことにより、ビオチン類とアビジン類との結合を介して、レクチンと固相とを間接的に結合できる。
【0038】
固相の素材は特に限定されず、例えば有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、例えばラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、例えば磁性体(酸化鉄、酸化クロムおよびフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、例えば不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば粒子、マイクロプレート、マイクロチューブ、膜、試験管などが挙げられる。それらの中でも、マイクロプレート及び粒子(特に磁性粒子)が好ましい。
【0039】
そして、固相上に形成された免疫複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、IgA凝集体の測定値を取得できる。例えば、標識捕捉体として、標識物質が結合した抗IgA抗体を用いた場合、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、試料中のIgA凝集体の測定値を取得できる。標識二次抗体を用いた場合も、同様にして試料中のIgA凝集体の測定値を取得できる。
【0040】
本明細書において、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に示すことをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的に検出することが好ましい。
【0041】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0042】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0043】
シグナルの検出結果は、IgA凝集体の測定値として用いることができる。例えば、シグナル強度を定量的に検出する場合、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、IgA凝集体の測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値から陰性対照試料の測定値又はバックグラウンドの値を差し引いた値などが挙げられる。陰性対照試料は適宜選択できるが、例えば、健常者から得た試料などが挙げられる。
【0044】
次いで、キャリブレータとレクチンと標識捕捉体とを用いて、該キャリブレータ中の複合体の測定値を取得する。「キャリブレータ中の複合体」とは、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体、又は、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を指す。具体的には、次のとおりである。キャリブレータ中の複合体とレクチンと標識捕捉体とを含む免疫複合体を固相上に形成する。該免疫複合体は、キャリブレータとレクチンと標識捕捉体とを混合することにより形成できる。そして、上記の免疫複合体と、レクチンを固定できる固相とを接触することにより、上記の免疫複合体を固相上に形成できる。本実施形態では、レクチンがあらかじめ固定された固相を用いることが好ましい。すなわち、レクチンを固定した固相とキャリブレータと標識捕捉体とを混合することにより、上記の免疫複合体を固相上に形成できる。固相の詳細は上記のとおりである。
【0045】
そして、固相上に形成された免疫複合体を、当該技術において公知の方法で検出することにより、キャリブレータ中の複合体の測定値を取得できる。例えば、標識捕捉体として、標識物質が結合した抗IgA抗体を用いた場合、その標識物質により生じるシグナルを検出することにより、キャリブレータ中の複合体の測定値を取得できる。標識二次抗体を用いた場合も、同様にしてキャリブレータ中の複合体の測定値を取得できる。シグナルの検出の詳細は上記のとおりである。
【0046】
本実施形態では、複合体の濃度が互いに異なる複数のキャリブレータを測定することが好ましい。複数のキャリブレータから測定値を得ることにより、後述の検量線を作成できる。
【0047】
本実施形態では、固相に固定されたレクチンと、標識物質で標識された抗IgA抗体とを用いるサンドイッチELISA法により、試料中のIgA凝集体及びキャリブレータを測定することが好ましい。固相が磁性粒子である場合、測定は、HISCLシリーズ(シスメックス株式会社)などの市販の装置を用いて行ってもよい。
【0048】
本実施形態では、免疫複合体の形成及び検出の間に、免疫複合体を形成していない未反応の遊離成分を除去するB/F(Bound/Free)分離を行ってもよい。未反応の遊離成分とは、免疫複合体を構成しない成分をいう。例えば、IgA凝集体と結合しなかったレクチン及び標識捕捉体などが挙げられる。B/F分離の手段は特に限定されないが、固相が粒子であれば、遠心分離により、免疫複合体を捕捉した固相だけを回収することによりB/F分離ができる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器であれば、未反応の遊離成分を含む液を除去することによりB/F分離ができる。また、固相が磁性粒子の場合は、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束した状態でノズルによって未反応の遊離成分を含む液を吸引除去することによりB/F分離ができ、自動化の観点で好ましい。未反応の遊離成分を除去した後、免疫複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0049】
本実施形態では、試料中のIgA凝集体の測定値と、キャリブレータ中の複合体の測定値とから、試料中のIgA凝集体の濃度を取得する。試料中のIgA凝集体の濃度は、一般的に用いられる濃度の概念(例えば質量比、体積比、モル分率、単位体積当たりの質量、単位体積当たりのモル数など)だけでなく、濃度の指標となる値も包含する。濃度の指標となる値としては、例えば、試料中のIgA凝集体の濃度を半定量的に示す数字(等級)などが挙げられる。
【0050】
キャリブレータ中の複合体の濃度は既知であるので、該複合体の測定値に基づいて、IgA凝集体の測定値から試料中のIgA凝集体の濃度を算出できる。好ましい実施形態では、複合体の測定値から検量線を作成し、検量線及びIgA凝集体の測定値に基づいて、試料中のIgA凝集体の濃度を取得する。検量線は、例えば、X軸にキャリブレータ中の複合体の濃度をとり、Y軸に測定値(例えばシグナル強度)をとったXY平面に、複数のキャリブレータから取得した複合体の測定値をプロットし、最小二乗法などの公知の方法により直線又は曲線を得ることで作成できる。IgA凝集体の測定値を検量線に当てはめることで、試料中のIgA凝集体の濃度を取得することができる。
【0051】
現在、IgA腎症は腎生検のみによって診断されている。一方で、上記のとおり、IgA腎症患者の血液及び尿ではIgA凝集体が増加していることが知られている。よって、本実施形態の方法で取得されたIgA凝集体の濃度を、被検者がIgA腎症であるか否かの判定に利用してもよい。例えば、本発明は、IgA腎症の判定を補助する方法を提供する。この方法は、被検者から得た試料中のIgA凝集体を、レクチンを用いて測定する工程と、ビオチン基を有するIgA及びアビジン類を含むキャリブレータを用いて、前記試料中のIgA凝集体の濃度を取得する工程とを含み、前記IgA凝集体の濃度が所定の閾値以上であることが、前記被検者がIgA腎症であるリスクが高いことを示唆する。
【0052】
さらなる実施形態では、IgA腎症の判定を補助する方法は、被検者から得た試料と、レクチンと、標識物質を含み且つIgA凝集体に特異的に結合する捕捉体とを用いて、前記試料中のIgA凝集体の測定値を取得する工程と、キャリブレータと、前記レクチンと、前記捕捉体とを用いて、前記キャリブレータ中の複合体の測定値を取得する工程と、前記IgA凝集体の測定値及び前記複合体の測定値から、前記試料中のIgA凝集体の濃度を取得する工程とを含み、前記IgA凝集体の濃度が所定の閾値以上であることが、前記被検者がIgA腎症であるリスクが高いことを示唆する方法であってもよい。
【0053】
所定の閾値は特に限定されず、適宜設定できる。例えば、健常者群及びIgA腎症患者群のそれぞれから生体試料を採取し、本実施形態の方法により該試料中のIgA凝集体の濃度を取得する。取得したIgA凝集体の濃度のデータについて、健常者群と患者群とを最も精度よく区別可能な値を求め、その値を閾値として設定する。閾値の設定においては、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などを考慮してよい。
【0054】
本発明のさらなる実施形態は、ビオチン化IgA及びアビジン類を含み、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられるキャリブレータである。本実施形態のキャリブレータは、ビオチン化キャリアタンパク質をさらに含んでもよい。本実施形態のキャリブレータは、上記の本実施形態の方法に好適に用いられる。キャリブレータの詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。
【0055】
一実施形態では、キャリブレータは、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体を含む試薬である。さらなる実施形態では、キャリブレータは、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を含む試薬である。これらの複合体の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。試薬は、上記の複合体を収容した容器の形態にあってもよい。この容器を箱に梱包して、ユーザに提供してもよい。箱には添付文書を同梱してもよい。添付文書には、本実施形態のキャリブレータの組成、使用方法、保存方法などについて記載されてもよい。
【0056】
キャリブレータの一例を、
図3に示す。
図3において、10は、本実施形態のキャリブレータを示し、11は、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体、又はビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を収容した第1容器を示し、12は梱包箱を示し、13は添付文書を示す。
図3は、一の試薬の形態にあるキャリブレータを示すが、本発明はこれに限定されない。キャリブレータは、複数のキャリブレータ試薬を含む試薬セットの形態にあってもよい。試薬セットであるキャリブレータの詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。
【0057】
さらなる実施形態では、キャリブレータは、ビオチン化IgAを含む試薬と、アビジン類を含む試薬とを含む試薬セットである。ビオチン化IgAを含む試薬と、アビジン類を含む試薬とを混合することにより、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体を得ることができる。混合の条件の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。このキャリブレータの一例を、
図4に示す。
図4において、20は、本実施形態のキャリブレータを示し、21は、ビオチン化IgAを収容した第1容器を示し、22は、アビジン類を収容した第2容器を示し、23は梱包箱を示し、24は添付文書を示す。
【0058】
さらなる実施形態では、キャリブレータは、ビオチン化IgAを含む試薬と、アビジン類を含む試薬と、ビオチン化キャリアタンパク質を含む試薬とを含む試薬セットである。ビオチン化IgAを含む試薬と、アビジン類を含む試薬と、ビオチン化キャリアタンパク質を含む試薬とを混合することにより、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を得ることができる。混合の条件の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。このキャリブレータの一例を、
図5に示す。
図5において、30は、本実施形態のキャリブレータを示し、31は、ビオチン化IgAを収容した第1容器を示し、32は、アビジン類を収容した第2容器を示し、33は、ビオチン化キャリアタンパク質を収容した第3容器を示し、34は梱包箱を示し、35は添付文書を示す。
【0059】
本発明のさらなる実施形態は、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられる、ビオチン化IgAとアビジン類とを含む複合体である。本実施形態の複合体は、ビオチン化IgAとアビジン類との複合体であってもよいし、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体であってもよい。本実施形態の複合体は、上記の本実施形態の方法に好適に用いられる。本実施形態の複合体の詳細は、本実施形態の方法について述べたことと同様である。
【0060】
本発明のさらなる実施形態は、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられるキャリブレータの製造のための、ビオチン基を有するIgA及びアビジン類の使用である。本実施形態では、ビオチン基を有するIgAとアビジン類とを混合することにより、ビオチン基を有するIgAとアビジン類との複合体を含むキャリブレータを得ることができる。
【0061】
本発明のさらなる実施形態は、試料中のIgA凝集体の濃度を取得するために用いられるキャリブレータの製造のための、ビオチン基を有するIgA、アビジン類、及び、レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチドの使用である。本実施形態では、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質とを混合することにより、ビオチン化IgAとアビジン類とビオチン化キャリアタンパク質との複合体を含むキャリブレータを得ることができる。
【0062】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1
1.測定用試薬の調製
(1.1) 試料希釈用緩衝液(第1試薬)
試料希釈用緩衝液として、1%BSA含有10 mM HEPES(pH7.5)を調製した。
【0064】
(1.2) WFAを固定した磁性粒子(第2試薬)
WFAレクチン(ベクター・ラボラトリーズ社)を20 mM PBS(pH7.5)に添加し、WFA含有溶液(WFA濃度2.5 mg/mL)を得た。このWFA含有溶液に、ビオチン基を有する架橋剤である5-(N-スクシンイミジルオキシカルボニル)ペンチルD-ビオチンアミド(Biotin-AC5-Osu、株式会社同仁化学研究所)を、WFA/架橋剤(モル比)が1/100となるように添加した。得られた溶液を25℃で90分間インキュベーションして、WFAと架橋剤とを反応させた。得られた反応産物をHPLCにより精製して、ビオチン化二量体WFAを得た。HPLCには、分離カラムとしてゲルろ過カラム(TSKgel G3000SWXL、東ソー株式会社)を用い、溶出溶媒としてPBS(pH6.5)を用いた。ストレプトアビジン結合磁性粒子を含む懸濁液として、HISCL R2試薬(シスメックス株式会社)を用いた。ビオチン化二量体WFAとHISCL R2試薬とを、ビオチン化二量体WFAの濃度が20μg/mLとなるように混合して反応させた。得られた反応産物を100 mM MES緩衝液(pH6.5)で3回洗浄し、二量体WFAを固定した磁性粒子(以下、「WFA固定化粒子」ともいう)を得た。
【0065】
(1.3) ALP標識抗IgA抗体を含む溶液(第3試薬)
抗IgA抗体として、抗ヒトIgA抗体(SouthernBiotech)を用いた。この抗IgA抗体とウシ小腸由来ALP(オリエンタル酵母株式会社)とを、マレイミド架橋剤を用いて結合させ、アフィニティクロマトグラフィーにより精製して、ALP標識抗IgA抗体を含む溶液を得た。
【0066】
(1.4) 測定用緩衝液(第4試薬)及び基質溶液(第5試薬)
測定用緩衝液として、HISCL R4試薬(シスメックス株式会社)を用いた。基質溶液として、ALPの化学発光基質であるCDP-Star(商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(シスメックス株式会社)を用いた。
【0067】
2.キャリブレータの調製
(2.1) ビオチン基を有するIgAの調製
IgA単量体として、ヒトIgA(Native Human IgA protein、Abcam社)を用いた。ヒトIgAを20 mM PBS(pH7.5)に添加してIgA溶液を得た。このIgA溶液に架橋剤Biotin-AC5-Osu(株式会社同仁化学研究所)を、IgA/架橋剤(モル比)が1/100となるように添加した。得られた溶液を25℃で90分間インキュベーションして、ビオチン化IgAを得た。
【0068】
(2.2) レクチンと結合する糖鎖及びビオチン基を有するポリペプチドの調製
キャリアタンパク質として、M2BP(シスメックス社調製品)、MUC1(シスメックス社調製品)及びα2M(シグマアルドリッチ)を用いた。各キャリアタンパク質を20 mM PBS(pH7.5)に添加して、キャリアタンパク質の溶液を得た。この溶液に架橋剤Biotin-AC5-Osu(株式会社同仁化学研究所)を、キャリアタンパク質/架橋剤(モル比)が1/100となるように添加した。得られた溶液を25℃で90分間インキュベーションして、ビオチン化キャリアタンパク質を得た。
【0069】
(2.3) ビオチン化IgAとストレプトアビジンとの複合体の調製
ビオチン化IgAを含む溶液と、ストレプトアビジン(Streptavidin SQ、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を含む溶液とを混合し、室温で1時間静置して、ビオチン化IgAとストレプトアビジンとの複合体(以下、「IgA-Bio-STA-Bio-IgA」とも呼ぶ)を得た。
【0070】
(2.4) ビオチン化IgAとストレプトアビジンとビオチン化キャリアタンパク質との複合体の調製
各ビオチン化キャリアタンパク質の溶液と、ビオチン化IgAを含む溶液とを混合した。得られた混合液と、ストレプトアビジン(Streptavidin SQ、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を含む溶液とを混合し、室温で1時間静置して、ビオチン化IgAとビオチン化キャリアタンパク質とストレプトアビジンとの複合体(0.2 mg/mL)を得た。以下、M2BPを含む複合体を「M2BP-Bio-STA-Bio-IgA」とも呼び、MUC1を含む複合体を「MUC1-Bio-STA-Bio-IgA」とも呼び、α2Mを含む複合体を「A2M-Bio-STA-Bio-IgA」とも呼ぶ。
【0071】
3.キャリブレータの測定(1)
上記の第1試薬から第5試薬を用いて全自動免疫測定装置HISCL(商標)5000(シスメックス株式会社)により、キャリブレータとして、M2BP-Bio-STA-Bio-IgA、MUC1-Bio-STA-Bio-IgA及びA2M-Bio-STA-Bio-IgAのそれぞれを測定した。HISCL-5000による測定手順は、次のとおりであった。キャリブレータ(30μL)と第1試薬(100μL)とを混合した後、第2試薬(30μL)を添加した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子に第3試薬(100μL)を添加して混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子に第4試薬(50μL)及び第5試薬(100μL)を添加して、化学発光強度を測定した。対照として、ストレプトアビジン(STA)及び各ビオチン化キャリアタンパク質(M2BP-Bio、MUC1-Bio及びA2M-Bio)を同様に測定した。測定値(シグナルカウント)を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示されるように、M2BP-Bio-STA-Bio-IgA、MUC1-Bio-STA-Bio-IgA及びA2M-Bio-STA-Bio-IgAを測定したときに顕著に高いシグナルカウントが得られた。よって、M2BP-Bio-STA-Bio-IgA、MUC1-Bio-STA-Bio-IgA及びA2M-Bio-STA-Bio-IgAは、レクチン及び抗IgA抗体を用いる免疫測定法のキャリブレータとして使用できることが示された。
【0074】
4.キャリブレータの測定(2)
キャリブレータとして、M2BP-Bio-STA-Bio-IgA、MUC1-Bio-STA-Bio-IgA、A2M-Bio-STA-Bio-IgA及びIgA-Bio-STA-Bio-IgAを用いた。各キャリブレータを20 mM PBS(pH7.5)で5倍、25倍及び125倍に希釈したこと以外は、上記と同様にして測定した。測定値(シグナルカウント)を表2に示す。
【0075】
【0076】
表2に示されるように、いずれのキャリブレータを用いた場合も、希釈倍率に応じて測定値が変動した。よって、M2BP-Bio-STA-Bio-IgA、MUC1-Bio-STA-Bio-IgA及びA2M-Bio-STA-Bio-IgAは、レクチン及び抗IgA抗体を用いる免疫測定法において、IgA凝集体の濃度を定量するためのキャリブレータとして使用できることが示された。
【符号の説明】
【0077】
10、20、30: キャリブレータ
11、21、31: 第1容器
12、23、34: 梱包箱
13、24、35: 添付文書
22、32: 第2容器
33: 第3容器