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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】レーザ・アークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20240416BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20240416BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K26/073
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020093520
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021186828
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉城 怜士
(72)【発明者】
【氏名】藤原 雅之
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-006028(JP,A)
【文献】特開昭49-117339(JP,A)
【文献】特開2007-000920(JP,A)
【文献】特開2005-177796(JP,A)
【文献】国際公開第2020/050320(WO,A1)
【文献】特開昭59-021467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/348
B23K 9/16
B23K 26/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接装置と、
前記アーク溶接装置から出力されるアークよりも溶接進行方向の前方にレーザ光を照射するように構成されたレーザ照射装置とを備え、
前記レーザ照射装置は、レーザ光が照射される照射領域の形状がアークの傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光を照射するように構成され、
円弧状の前記照射領域は、アークの傘の縁よりも外側に形成される、レーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
アーク溶接装置と、
前記アーク溶接装置から出力されるアークよりも溶接進行方向の前方にレーザ光を照射するように構成されたレーザ照射装置とを備え、
前記レーザ照射装置は、レーザ光が照射される照射領域の形状がアークの傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光を照射するように構成され、
円弧状の前記照射領域は、アークの中心から1~3mmの位置に形成される、レーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項3】
アーク溶接装置と、
前記アーク溶接装置から出力されるアークよりも溶接進行方向の前方にレーザ光を照射するように構成されたレーザ照射装置とを備え、
前記レーザ照射装置は、レーザ光が照射される照射領域の形状がアークの傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光を照射するように構成され、
円弧状の前記照射領域は、アークによって形成される溶融池の縁よりも外側に形成される、レーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項4】
円弧状の前記照射領域の中心角は、180度よりも小さい、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザとアークとを用いるレーザ・アークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-263225号公報(特許文献1)は、レーザ光によりアークを誘導するアーク誘導方法を開示する。このレーザ光によるアーク誘導方法では、被加工物の表面の加工予定位置にレーザ光を照射することにより、アーク電極と被加工物との間に発生するアークが、アーク電極とレーザ光の照射位置との間に発生するように誘導される。これにより、アークの放電位置をレーザ光により安定的に誘導して、アークを安定化することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-263225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアーク誘導方法では、レーザ光は、集光レンズを通じて母材にスポット照射される。レーザスポットの照射幅は、たとえば0.2mm程度であってごく小さく、アークの傘の縁の幅と比較すると、1/10以下であったりする。そのため、レーザスポットの狙い位置に対するレーザ照射のズレの裕度が低く、狙い位置に対して実際の照射位置がたとえば1mmでもずれると、アークとレーザとが独立した溶接となってレーザ光によるアークの誘導効果が得られず、レーザ光によりアークを安定化させることができなくなる可能性がある。
【0005】
このような問題に対して、レーザヘッドを固定するブラケット等の機械部品の精度を高めて組立誤差や寸法誤差をできるだけ抑えることで、レーザスポットの位置ズレをできるだけ抑えることも考えられる。しかしながら、この手法は、ブラケット等の機械部品のコスト増や、製作にあたっての汎用性が失なわれる可能性がある。
【0006】
本開示は、上記の問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、レーザ・アークハイブリッド溶接装置において、コスト増を抑えつつ、レーザ照射のズレの裕度を高めてアークを安定化させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置は、アーク溶接装置と、レーザ照射装置とを備える。レーザ照射装置は、アーク溶接装置から出力されるアークよりも溶接進行方向の前方にレーザ光を照射するように構成される。そして、レーザ照射装置は、レーザ光が照射される照射領域の形状がアークの傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光を照射するように構成される。
【0008】
このレーザ・アークハイブリッド溶接装置では、アークよりも溶接進行方向の前方において、レーザ照射領域の形状がアークの傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光が照射される。これにより、レーザ照射の狙い位置に対するズレの裕度が高まる。たとえば、レーザ照射領域が当初の狙い位置に対して光軸の回転方向にずれたとしても、レーザ光とアークとの距離が大きく変わることはなく、アークの安定性への影響は小さい。したがって、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、ブラケット等の機械部品の精度を高めることなく、レーザ照射のズレの裕度を高めてアークを安定化させることができる。
【0009】
円弧状のレーザ照射領域の中心角は、180度よりも小さくてもよい。
【0010】
レーザ照射領域がアークの後方側に回り込むと、アークの安定性が変化し、溶接性に影響を及ぼす可能性がある。そこで、レーザ照射領域の中心角を180度よりも小さくすることにより、レーザ照射領域が狙い位置に対して光軸の回転方向にずれたとしても、レーザ照射領域がアークの後方側に回り込む可能性を低減することができる。したがって、このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、レーザ照射のズレによりアークの安定性が変化するのを抑制することができる。
【0011】
円弧状のレーザ照射領域は、アークの傘の縁よりも外側に形成されてもよい。
【0012】
レーザ照射領域がアークの傘と干渉すると、アークが不安定になり得る。このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、レーザ照射領域がアークの傘の縁よりも外側に形成されることにより、アークの安定性を確保することができる。
【0013】
円弧状のレーザ照射領域は、アークの中心から1~3mmの位置に形成されてもよい。
【0014】
レーザ照射領域がアークの中心から1mmよりも近い位置に形成されると、レーザ照射領域がアークの傘と干渉する可能性が高い。一方、レーザ照射領域がアークの中心から3mmよりも遠い位置に形成されると、レーザ光によるアークの誘導効果が十分に得られない可能性がある。このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、レーザ照射領域がアークの中心から1~3mmの位置に形成されることによって、レーザ光によりアークを安定化させることができる。
【0015】
円弧状のレーザ照射領域は、アークによって形成される溶融池の縁よりも外側に形成されてもよい。
【0016】
レーザ照射領域がアークによって形成される溶融池と干渉すると、エネルギの過集中による溶け落ちやエネルギ効率の低下といった問題が生じ得る。このレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、レーザ照射領域がアークによって形成される溶融池の縁よりも外側に形成されることにより、上記のような問題を回避することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示のレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、コスト増を抑えつつ、レーザ照射のズレの裕度を高めてアークを安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。
図2図1に示すハイブリッド溶接装置によるレーザ照射のイメージを説明する斜視図である。
図3図1に示すハイブリッド溶接装置によるレーザ照射のイメージを説明する平面図である。
図4】レーザ光の照射領域とアークの傘の縁との関係の一例を示す図である。
図5】参考例として、レーザ光の照射領域がスポット状である場合のイメージ図である。
図6】アークの中心とレーザ光の照射領域との距離を説明する図である。
図7】レーザ光の照射領域とアークによって形成される溶融池の縁との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0020】
図1は、本開示の実施の形態に従うレーザ・アークハイブリッド溶接装置の全体構成を示す図である。図1を参照して、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1(以下、単に「ハイブリッド溶接装置1」と称する場合がある。)は、溶接トーチ10と、溶接ワイヤ20と、溶接電源装置30と、レーザヘッド40と、レーザ発振装置60とを備える。
【0021】
このハイブリッド溶接装置1は、各種部材の溶接に用いることができ、異材接合の溶接にも用いることができる。異材接合とは、互いに主成分が異なる異種材料の接合であり、ハイブリッド溶接装置1は、たとえば、GI鋼板やGA鋼板等の溶融亜鉛メッキ鋼板と、アルミニウム合金板との溶接に用いることができる。アルミニウム合金板には、軟質アルミニウムだけでなく、JIS規格の5000番台(たとえば5052)、6000番台(たとえば6063)、7000番台(たとえば7075)等の硬質アルミニウムも適用可能である。ハイブリッド溶接装置1によって、互いに接合される母材70の一方と他方とが、たとえば、重ね隅肉溶接継手やフレア溶接継手等によって接合される。
【0022】
溶接トーチ10、溶接ワイヤ20、及び溶接電源装置30は、母材70の接合部との間にアークを発生させることで溶接を行なうアーク溶接装置を構成する。溶接トーチ10は、母材70の接合部に向けて、溶接ワイヤ20及び図示しないシールドガスを供給する。溶接トーチ10は、溶接電源装置30から溶接電流の供給を受け、溶接ワイヤ20の先端と母材70の接合部との間にアーク25を発生させるとともに、溶接部に向けてシールドガス(アルゴンガスや炭酸ガス等)を供給する。溶接ワイヤ20に代えて、非消耗材の電極(タングステン等)を用いてもよい。すなわち、溶接トーチ10を用いるアーク溶接は、溶極式(マグ溶接やミグ溶接等)であってもよいし、非溶極式(ティグ溶接等)であってもよい。
【0023】
溶接電源装置30は、アーク溶接を行なうための溶接電圧及び溶接電流を生成し、生成された溶接電圧及び溶接電流を溶接トーチ10へ出力する。また、溶接電源装置30は、溶接トーチ10における溶接ワイヤ20の送り速度も制御する。
【0024】
レーザヘッド40及びレーザ発振装置60は、母材70の接合部に向けてレーザ光50を照射することで溶接を行なうレーザ照射装置を構成する。レーザヘッド40は、レーザ発振装置60からレーザ光の供給を受け、母材70の接合部に向けてレーザ光50を照射する。レーザヘッド40からのレーザ光50は、溶接トーチ10から発生するアーク25の近傍に照射され、このハイブリッド溶接装置1では、溶接ワイヤ20の先端から発生するアーク25よりも溶接進行方向の前方にレーザ光50が照射される。
【0025】
そして、本実施の形態に従うハイブリッド溶接装置1では、レーザヘッド40から照射されるレーザ光50の照射領域(以下「レーザ照射領域」とも称する。)の形状がアーク25の傘の縁に沿う円弧状となるように、レーザヘッド40から母材70の接合部に向けてレーザ光50が照射される。これにより、レーザ照射領域の狙い位置に対するレーザ照射のズレの裕度(許容範囲)を高めてアーク25を安定化させることができる。以下、この点について詳しく説明する。
【0026】
レーザを用いた溶接では、通常、レーザ光は、集光レンズにより集光されて母材にスポット照射されることが多い。レーザスポット(レーザ照射領域)の照射幅は小さく(たとえば直径0.2mm程度)、アークの傘の幅と比較すると、かなり小さいことが多い(たとえば1/10以下)。なお、アークの傘とは、溶接ワイヤと母材との間に発生するアーク放電領域の形状を示す。アーク放電領域は強い光を発するため、アークの傘は視認することができる。
【0027】
そして、上記のようにレーザスポットの照射幅は小さいため、レーザスポットの狙い位置に対するレーザ照射のズレの裕度が低く、狙い位置に対して実際のレーザ照射位置がたとえば1mmでもずれると、レーザ光とアークの相互作用が小さくなる可能性がある。その結果、レーザ光によるアークの誘導効果が低減し、レーザ光によりアークを安定化させることができなくなる可能性がある。
【0028】
このような問題に対して、レーザヘッド40を固定するブラケット等の機械部品の精度を高めて組立誤差や寸法誤差をできるだけ抑えることで、レーザスポットの位置ズレをできるだけ抑えることも考えられる。しかしながら、この手法は、ブラケット等の機械部品のコスト増や、製作にあたっての汎用性が失なわれる可能性がある。
【0029】
そこで、本実施の形態に従うハイブリッド溶接装置1では、レーザヘッド40から照射されるレーザ光50の照射領域の形状がアーク25の傘の縁に沿う円弧状となるように、レーザヘッド40から母材70の接合部に向けてレーザ光50が照射される。これにより、レーザヘッド40を固定するブラケット等の機械部品の精度を高めることなく、レーザ照射のズレの裕度を高めることができる。
【0030】
図2及び図3は、図1に示したハイブリッド溶接装置1によるレーザ照射のイメージ図である。図2は、アーク25及びレーザ光50による溶接部位の斜視図であり、図3は、溶接部位をz方向(図1)から視た平面図である。なお、図1では、溶接トーチ10から延びる溶接ワイヤ20の軸は、溶接進行方向の後方に傾いているが、図2及び図3では、説明を容易にするため、溶接ワイヤ20の軸がz方向に沿っているものとして説明する。また、図2では、溶接ワイヤ20及びレーザ光50のz方向上方について、図示を省略している。
【0031】
図2及び図3を参照して、この例では、重ね継手のすみ肉溶接における接合部が示されている。母材(被溶接材)70は、下板71と、下板71上に重ねられた上板72とから成る。下板71上における上板72の端部に、溶接ビード73が形成されている。
【0032】
溶接ワイヤ20の先端から発生するアーク25は、放射状に広がりながら母材70へ到達する。アーク25の形状は傘状であり、母材70(71,72)上におけるアーク25の傘の縁は円形状となっている(図3)。
【0033】
母材70におけるレーザ光50の照射領域52は、アーク25のよりも溶接進行方向の前方において、アーク25の傘の縁に沿う円弧状に形成される。このようなレーザ照射領域52は、たとえば、レーザヘッド40内に回折光学素子(以下「DOE(Diffractive Optical Element)」と称する。)を設けることによって形成可能である。すなわち、レーザヘッド40から照射されるレーザ光50の照射領域52が、想定されるアーク25の傘の縁に沿って円弧状となるように、DOEが構成される。
【0034】
アーク25の傘の縁の形状は、溶接トーチ10の出力(溶接電源装置30の出力)と、溶接ワイヤ20及び母材70間の距離とから推定することができる。したがって、想定されるアーク25の傘の縁に沿ってレーザ照射領域52が円弧状となるようにDOEを事前に準備しておくことは可能である。
【0035】
レーザ照射領域52をアーク25の傘の縁に沿う円弧状とすることにより、レーザ照射の狙い位置に対するズレの裕度が高まる。たとえば、図4に示されるように、レーザ照射領域52が狙い位置(実線)に対して光軸の回転方向にずれたとしても(点線)、レーザ照射領域52とアーク25との距離が大きく変わることはなく、アーク25の安定性への影響は小さい。すなわち、レーザ照射領域52を図示のような円弧状とすることにより、レーザ照射の狙い位置に対するズレの裕度を高くすることができる。その結果、レーザヘッド40を固定するブラケット等の機械部品の精度を高めることなく、すなわち機械部品のコスト増を抑えつつ、レーザ照射のズレの裕度を高めてアーク25を安定化させることができる。
【0036】
図5は、参考例として、レーザ照射領域が小径のスポット状である場合のイメージ図である。図5を参照して、一般的に、レーザスポット54の照射幅は、たとえば0.2mm程度であって小さく、アーク25の傘の幅と比較すると、1/10以下であったりする。
【0037】
そのため、レーザスポット54の狙い位置に対するズレの裕度が低く、狙い位置(点線)に対して実際のレーザスポット54がたとえば1mmでもずれると、レーザ光とアークの相互作用が小さくなったり、レーザ光によるアーク25の誘導効果が大きく変化したりする可能性がある。その結果、レーザ光によりアーク25を安定化させることができなくなる可能性がある。
【0038】
これに対して、このハイブリッド溶接装置1では、図4に示したように、レーザ照射領域52を円弧状とすることにより、レーザ照射の狙い位置に対するズレの裕度を高くすることができる。
【0039】
再び図4を参照して、この実施の形態に従うハイブリッド溶接装置1では、円弧状のレーザ照射領域52の中心角θは、180度よりも小さい。レーザ照射領域がアーク25の後方側(溶接進行方向の後方側)に回り込むと、レーザ光によるアーク25の安定性が変化し、溶接性に影響を及ぼす可能性がある。そこで、アーク25に対して先行するレーザ照射領域52の中心角θを180度よりも小さくすることにより、レーザ照射領域52が狙い位置に対して光軸の回転方向にずれたとしても、レーザ照射領域52がアーク25の後方側に回り込む可能性を低減することができる。
【0040】
また、この実施の形態に従うハイブリッド溶接装置1では、円弧状のレーザ照射領域52は、アーク25の傘の縁よりも外側に形成されている。レーザ照射領域がアーク25の傘と直接干渉すると、アーク25が不安定になる可能性がある。このハイブリッド溶接装置1では、照射領域52がアーク25の傘の縁よりも外側に形成されるため、アーク25の安定性を確保することができる。
【0041】
以上のように、この実施の形態によれば、レーザ照射領域52の形状がアーク25の傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光50が照射されるので、レーザ照射の狙い位置に対するズレの裕度が高い。したがって、この実施の形態によれば、ブラケット等の機械部品の精度を高めることなく、すなわちコスト増を抑えつつ、レーザ照射のズレの裕度を高めてアークを安定化させることができる。
【0042】
なお、上記の実施の形態では、溶接トーチ10の出力(溶接電源装置30の出力)と、溶接ワイヤ20及び母材70間の距離とから、アーク25の傘の縁の形状を推定し、想定されるアーク25の傘の縁に沿ってレーザ照射領域52が円弧状となるようにDOEを構成するものとしたが、図6に示されるように、アーク25の略中心Oから所定の距離Dに円弧状のレーザ照射領域52を予め形成するようにしてもよい。
【0043】
所定の距離Dは、たとえば1~3mm程度が好ましい。レーザ照射領域52がアーク25の中心Oから1mmよりも近い位置に形成されると、レーザ照射領域52がアーク25の傘と干渉する可能性が高い。一方、レーザ照射領域52がアーク25の中心Oから3mmよりも遠い位置に形成されると、レーザ光50によるアーク25の誘導効果が十分に得られない可能性がある。
【0044】
なお、溶接条件の範囲内であれば、アーク25の傘の縁がレーザ照射領域52に沿うように、溶接トーチ10の出力を溶接電源装置30によって調整してもよい。
【0045】
また、上記の実施の形態では、レーザヘッド40内にDOEを設けることによって円弧状のレーザ照射領域52を形成するものとしたが、レーザ照射領域52の形成方法は、DOEを用いた方法に限定されるものではない。たとえば、母材70上でレーザ光50を走査可能なレーザスキャン装置をレーザヘッド40に設け、レーザスキャン装置によりレーザ光50を走査することによって、円弧状のレーザ照射領域52を形成してもよい。或いは、レーザ照射領域52のプロファイルを変更可能なレーザヘッドを用いて、円弧状のレーザ照射領域52を形成してもよい。
【0046】
また、上記の実施の形態では、レーザ照射領域52の形状がアーク25の傘の縁に沿う円弧状となるようにレーザ光50が照射されるものとしたが、溶接速度が遅いために、アーク25によって形成される溶融池がアーク25の傘の縁よりも溶接進行方向の前方に広がっている場合には、レーザ照射領域52が、アーク25によって形成される溶融池の縁よりも外側に形成されるようにしてもよい。
【0047】
レーザ照射領域52がアーク25によって形成される溶融池と干渉すると、エネルギの過集中による溶け落ちやエネルギ効率の低下といった問題が生じ得る。そこで、アーク25によって形成される溶融池がアーク25の傘の縁よりも溶接進行方向の前方に広がるような溶接条件の場合には、図7に示されるように、レーザ照射領域52がアーク25によって形成される溶融池75の縁よりも外側に形成されることにより、上記のような問題を回避することができる。
【0048】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 レーザ・アークハイブリッド溶接装置、10 溶接トーチ、20 溶接ワイヤ、25 アーク、30 溶接電源装置、40 レーザヘッド、50 レーザ光、52,54 レーザ照射領域、60 レーザ発振装置、70 母材、71 上板、72 下板、73 溶接ビード、75 溶融池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7