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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】放射性原液の処理装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/08 20060101AFI20240416BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20240416BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20240416BHJP
   G21F 9/36 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G21F9/08 521B
G21F9/02 521Z
G21F9/02 551A
G21F9/06 511E
G21F9/36 501C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020099672
(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公開番号】P2021193361
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】荒木 順也
(72)【発明者】
【氏名】菅原 勝則
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-186025(JP,A)
【文献】特開昭52-082852(JP,A)
【文献】特開2014-138921(JP,A)
【文献】特開2017-090098(JP,A)
【文献】特開2016-093798(JP,A)
【文献】特開昭55-011062(JP,A)
【文献】特開2016-114548(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01124234(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜装置の濃縮水であって塩分とカルシウムを含む放射性原液の処理装置であって、
前記逆浸透膜装置の後段に位置し、前記放射性原液を貯蔵する原液タンクと、
加熱手段を備え、前記原液タンクから供給される前記放射性原液を前記加熱手段で加熱することで、前記放射性原液を塩分の固形物と蒸気と液体とに分離する分離手段と、
前記分離手段で分離された前記蒸気が導入され、循環する液体を前記蒸気と接触させることによって、前記蒸気に含まれる放射性成分を除去するスクラバと、
前記分離手段で分離された前記液体及び前記スクラバからオーバーフローする液体を前記分離手段の前段に戻す第1の返送手段と、
前記原液タンクに炭酸ソーダを添加する炭酸ソーダ供給装置と、
を有する放射性原液の処理装置。
【請求項2】
前記スクラバから排出される排ガスに含まれる蒸気を分離する蒸気セパレータと、
前記蒸気セパレータで生成された凝縮水を前記分離手段の前段に戻す第2の返送手段と、を有する、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記蒸気セパレータから排出された気体をろ過する、繊維活性炭を含むフィルタを有する、請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
汚染水貯蔵処理システムに接続された請求項2または3に記載の処理装置であって、
前記汚染水貯蔵処理システムは、塩分を含む放射性汚染水を貯蔵する汚染水タンクと、前記逆浸透膜装置と、前記逆浸透膜装置に接続され、前記逆浸透膜装置で生成された濃縮水を貯蔵する濃縮水タンクと、前記濃縮水タンクを前記汚染水タンクと接続する接続ラインと、を有し、前記逆浸透膜装置は前記汚染水タンクに接続され、前記汚染水タンクに貯蔵された放射性汚染水をろ過し、
前記濃縮水タンクに貯蔵された濃縮水を前記放射性原液として前記分離手段に供給する濃縮水供給ラインを有し、前記第2の返送手段は前記蒸気セパレータで凝縮された液体を前記逆浸透膜装置の入口側に戻す、処理装置。
【請求項5】
前記分離手段は、前記加熱手段を備える回転ドラムであって、表面に付着した前記放射性原液を前記加熱手段で加熱することで前記塩分を前記表面に析出させる回転ドラムと、前記回転ドラムの前記表面に析出した固形物を掻き取るスクレーパと、を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記回転ドラムは、軸方向に延びる接触線に沿って径方向に互いに接触する一対の回転ドラムであり、前記一対の回転ドラムは前記接触線において上向きの速度成分を持つ向きで互いに反対方向に回転し、前記放射性原液は前記一対の回転ドラムによって形成される凹部に供給され、前記スクレーパは各回転ドラムの回転中心に関し、前記接触線の反対側に位置している、請求項5に記載の処理装置。
【請求項7】
前記固形物を貯蔵する可撓性容器のノズルに着脱可能に設けられ、前記可撓性容器の内部を真空にする吸引装置を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項8】
前記吸引装置から排出された気体をろ過する、繊維活性炭を含むフィルタを有する、請求項に記載の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩分を含む放射性原液の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所の事故に伴い大量の放射性汚染水が発生する事象が生じている。このような放射性汚染水を処理する手段として、特許文献1には、放射性のスラリーを減容化する装置が開示されている。この装置は、スラリーを乾燥させる乾燥ユニットと、乾燥ユニットから排気された蒸気中のミストを捕集するミストセパレータと、ミストを捕集した蒸気を凝縮して凝縮水を生成する排気処理ユニットと、凝縮水を乾燥ユニットの前段に戻すラインと、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6110921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射性汚染水は、建物に侵入する地下水や海水等に由来する塩分を含む場合がある。塩分は、放射性汚染水を蒸発させることによって分離除去することができるが、この際に発生する蒸気は放射性物質を含んでいる。蒸気中の放射性物質の漏洩を防止するためには、放射性物質を蒸気から除去し、より管理に適した液体に移動させることが望ましい。特許文献1に開示された装置はミストセパレータと排気処理ユニットとを備えるが、ミストセパレータはミストの除去が目的であり、放射性物質を蒸気から除去する能力は限られている。
【0005】
本発明は、蒸気に含まれる放射性物質を、外部への漏洩を抑えつつ、より効率的に除去することが可能な放射性原液の処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放射性原液の処理装置は、逆浸透膜装置の濃縮水であって塩分とカルシウムを含む放射性原液の処理装置である。処理装置は、逆浸透膜装置の後段に位置し、放射性原液を貯蔵する原液タンクと、加熱手段を備え、原液タンクから供給される放射性原液を加熱手段で加熱することで、原液を塩分の固形物と蒸気と液体とに分離する分離手段と、分離手段で分離された蒸気が導入され、循環する液体を蒸気と接触させることによって、蒸気に含まれる放射性成分を除去するスクラバと、分離手段で分離された液体及びスクラバからオーバーフローする液体を分離手段の前段に戻す第1の返送手段と、原液タンクに炭酸ソーダを添加する炭酸ソーダ供給装置と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蒸気に含まれる放射性物質を、外部への漏洩を抑えつつ、より効率的に除去することが可能な放射性原液の処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る原液の処理装置の構成を示す概念図である。
図2】塩分の固形物を貯蔵する容器の構成を示す概念図である。
図3】容器の他の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る放射性原液の処理装置について説明する。本実施形態の処理装置は、塩分を含む放射性原液を処理する。放射性原液に含まれる塩分は地下水に由来するものであるが、これに限定されない。
【0010】
処理装置1は既設の汚染水貯蔵処理システム100に接続されている。汚染水貯蔵処理システム100は、汚染水タンク101と、逆浸透膜装置(以下、RO装置102という)と、濃縮水タンク103と、を有している。汚染水タンク101には原子力発電所の建物やトレンチから漏洩する放射性汚染水が貯蔵される。放射性汚染水は、核燃料の冷却のために注入される冷却水や、建物やトレンチの内部に侵入して放射性物質と接触することで汚染された地下水、海水等である。これらの放射性汚染水は、建物やトレンチから取り出した後に放射性セシウムなどが除去されたものである。放射性汚染水は塩分を含んでいるため、汚染水タンク101に接続されたRO装置102でろ過され、塩分が除去された透過水と、除去された塩分が濃縮された濃縮水とに分離される。図1には一つのRO装置102だけが示されているが、複数のRO装置が直列または並列に配置されていてもよく、直列に接続された複数のRO装置が並列に配置されていてもよい。放射性汚染水中の放射性物質は、一部はRO膜を通過して透過水中に含まれるが、一部はRO濃縮水に塩分と共に濃縮される。RO装置102の透過水は、一部は冷却水として再利用され、残りは放射性核種を除去するための多核種除去設備(図示せず)に移送される。RO装置102の濃縮水は、濃縮水タンク103に貯蔵される。濃縮水の増加を抑えるため、濃縮水の一部は汚染水タンク101に戻される。この目的で、濃縮水タンク103は接続ラインL101によって汚染水タンク101と接続されている。接続ラインL101には濃縮水を汚染水タンク101に戻す際に開かれる弁104が設けられている。
【0011】
処理装置1は、濃縮水供給ラインL1によって濃縮水タンク103と接続された原液タンク2を有している。処理装置1を汚染水貯蔵処理システム100から隔離するなどの目的で、濃縮水供給ラインL1上に濃縮水受タンク3と第1の濃縮水移送ポンプ4が設けられている。濃縮水供給ラインL1上の、濃縮水受タンク3と原液タンク2との間に設置された第2の濃縮水移送ポンプ5によって、濃縮水タンク103に貯蔵された濃縮水が、濃縮水受タンク3を介して原液タンク2に移送される。原液タンク2には、濃縮水のpHを調整するため、塩酸と苛性ソーダが注入される。塩酸タンク6に貯蔵された塩酸は、塩酸供給ラインL2上に設置された塩酸ポンプ7によって原液タンク2に供給される。苛性ソーダタンク8に貯蔵された苛性ソーダは、苛性ソーダ供給ラインL3上に設置された苛性ソーダポンプ9によって原液タンク2に供給される。濃縮水のpHは後述する回転ドラム24の保護のため、7~9程度の弱アルカリ性となるように調整される。濃縮水を攪拌するための攪拌装置(図示せず)を原液タンク2内に設けることもできる。さらに、原液タンク2には、濃縮水からカルシウムを除去するため、炭酸ソーダ供給装置10が接続されている。炭酸ソーダタンク11に貯蔵された炭酸ソーダ水溶液は、炭酸ソーダ供給ラインL4上に設置された炭酸ソーダポンプ12によって原液タンク2に供給される。炭酸ソーダ供給装置10は原液タンク2に接続されていなくてもよいが、回転ドラム24の前段に設けることが好ましい。また、炭酸ソーダは粉体の状態で原液タンク2等に投入してもよい。pHが調整され、カルシウムが除去された濃縮水は処理装置1の被処理水であり、以下の説明では原液と呼ぶ。
【0012】
処理装置1は、原液を塩分の固形物と蒸気と液体とに分離する分離手段21を有している。原液は原液供給ラインL5によって分離手段21に供給される。原液供給ラインL5上には原液を移送する原液供給ポンプ22と、原液を予熱する原液予熱器23とが設けられている。原液予熱器23は省略することもできる。分離手段21は、一対の回転ドラム24と、各ドラムと組み合わされた一対のスクレーパ25と、を有している。一対の回転ドラム24は同一の構成及び形状を有する円筒形のドラムである。一対の回転ドラム24は、回転ドラム24の軸方向に延びる接触線26に沿って径方向に互いに接触し、各々の回転中心Cの周りを互いに反対方向に回転する。一対の回転ドラム24は、各々の接触線26において上向きの速度成分を持つ向きで、互いに反対方向に回転する。この向きに回転することで、固形物をより効率的に分離することができる。しかし、一対の回転ドラム24はこれと反対方向に回転してもよい。原液は、一対の回転ドラム24の間に形成された凹部28に供給される。一対の回転ドラム24として、例えばカツラギ工業(株)製ツインドラムドライヤTシリーズ等を用いることができる。
【0013】
各回転ドラム24は回転中心Cの付近に、加熱蒸気が流通する加熱蒸気流路27を有している。加熱蒸気流路27は回転ドラム24の加熱手段を構成する。加熱蒸気によって、回転ドラム24の表面(外周面)が加熱され、表面に付着した原液を蒸発させ、原液に含まれる塩分を固形物として表面に析出させることができる。一対の回転ドラム24はケーシング30で覆われている。蒸発によって形成された原液の蒸気はケーシング30の上部空間に充満し、ケーシング30の上面に接続されたダクト32を通って、後述するスクラバ40に供給される。蒸発しなかった原液は回転ドラム24の表面に沿って下方に移動し、回転ドラム24の下方に位置し、ケーシング30と一体形成された液体回収部31に回収される。このように、原液を加熱手段で加熱することで、原液は塩分の固形物と蒸気と液体とに分離される。固形物は放射性固体廃棄物として、以下に示す方法によって取り出され、貯蔵される。
【0014】
スクレーパ25は、回転ドラム24の軸方向に延び、回転ドラム24の表面と接触する刃状の静止体であり、回転ドラム24の表面に析出した固形物Sを掻き取る。スクレーパ25で掻き取られた固形物Sは重力によって落下し、スクレーパ25の下方にある受け部29に収容される。スクレーパ25は各ドラムの回転中心Cに関し、接触線26の反対側に位置している。従って、凹部28に供給された原液は回転ドラム24の上側の外周面に沿って移動しながら加熱され、高さ方向の中心線を超えた位置で塩分の固形物Sがスクレーパ25で掻き取られる。
【0015】
スクラバ40は、上述の通り、ダクト32によってケーシング30と接続されている。分離手段21で分離された蒸気は、ダクト32を通ってスクラバ40に導入される。スクラバ40は、ダクト32に接続された外部ケーシング41と、外部ケーシング41に収容された内部ケーシング42と、を有している。蒸気は外部ケーシング41を下降し、内部ケーシング42の下端開口から内部ケーシング42に流入し、内部ケーシング42の内部空間を上昇する。スクラバ40は、循環水ラインL6と、循環水ラインL6に設けられた循環水ポンプ43と、を有している。外部ケーシング41の下部にはオーバーフローラインL7が接続されている。外部ケーシング41の、オーバーフローラインL7の接続部より下方の空間には液体(循環水)が滞留している。循環水ラインL6は外部ケーシング41の底面に接続されている。外部ケーシング41の底部に溜まった液体は循環水ポンプ43によって循環水ラインL6を上方に流通し、内部ケーシング42の上部から下方に向かってスプレイされる。スプレイされた液体は内部ケーシング42を上昇する蒸気と気液接触し、蒸気に含まれる放射性物質を除去し、外部ケーシング41の底部に戻る。放射性物質が除去された蒸気はミストセパレータ44でミストを除去され、排ガスとしてスクラバ40から排出される。スクラバ40に導入された蒸気の一部は凝縮し、外部ケーシング41の底部に溜まる。このため、外部ケーシング41の底部に溜まった液体の一部はオーバーフローラインL7を通って外部ケーシング41から排出される。オーバーフローラインL7は液体回収部31に接続されており、排出された液体は液体回収部31に回収される。
【0016】
スクラバ40から排出される排ガスは蒸気セパレータ50に導入される。蒸気セパレータ50を、空冷チラーユニット51から供給される冷水が流通する冷水ラインL8が貫通している。排ガスに含まれる蒸気は冷水で凝縮されて、凝縮水となる。蒸気を冷却した冷水は冷水ラインL8を通って空冷チラーユニット51に戻される。排ガスに含まれる非凝縮性成分は気体として凝縮水から分離される。凝縮水は蒸気セパレータ50の底部に接続された凝縮水槽52に貯蔵される。図1では一つの蒸気セパレータ50だけが示されているが、複数の蒸気セパレータが並列に配置されていてもよい。
【0017】
蒸気セパレータ50の上部に気体の排出ラインL9が接続されている。排出ラインL9は蒸気セパレータ50から排出された気体をろ過する活性炭フィルタ53に接続されている。活性炭フィルタ53は、繊維活性炭を含むフィルタを有しており、例えば(株)ワカイダ・エンジニアリング製活性炭素繊維製フィルタ(WACフィルタ)を用いることができる。活性炭フィルタ53はダンパ54を介して排気ブロア55に接続されている。活性炭フィルタ53で放射性物質を除去された気体は、放射性物質の濃度を確認後、系外に放出される。
【0018】
処理装置1は、回転ドラム24の加熱蒸気流路27を流れる加熱蒸気を供給するための電気ボイラ61を有している。電気ボイラ61で加熱された水は加熱蒸気となり、熱蒸気供給ラインL10を通って回転ドラム24に供給される。電気ボイラ61におけるスケールの発生を防止するため、水に含まれる硬度成分が軟水装置62によって予め除去される。加熱蒸気は加熱蒸気流路27に供給され、加熱蒸気流路27で凝縮され、ドレン水となって回転ドラム24を流出する。ドレン水は原液予熱器23で熱交換され、ドレンタンク64に収集され、ドレンポンプ65によって軟水装置62の入口側に戻され、再利用される。ドレンポンプ65の下流に熱交換器66が設けられ、空冷チラーユニット67から供給される冷水でドレン水が冷却される。軟水装置62に供給されるドレン水の温度を下げることで、軟水装置62を保護することができる。循環水を補給するため、軟水装置62は用水タンク60と接続されている。用水タンク60には市水などの一般的な水が貯蔵されている。
【0019】
用水は、回転ドラム24とスクラバ40と液体回収部31の洗浄にも使用される。この目的で、用水を回転ドラム24に供給する第1の洗浄水供給ラインL11と、用水をスクラバ40に供給する第2の洗浄水供給ラインL12と、用水を液体回収部31に供給する第3の洗浄水供給ラインL13と、が設けられている。回転ドラム24と液体回収部31は塩分を含む水と接するため、塩分の析出による閉塞等を防止するために、用水で定期的に洗浄される。スクラバ40の底部も蒸気に含まれていた放射性物質などが堆積するため、用水で定期的に洗浄される。さらに、液体回収部31の底部と上部を接続する循環洗浄ラインL14が設けられている。循環洗浄ラインL14上には循環洗浄ポンプ68が設けられている。液体回収部31に滞留する原液を循環させることによって、液体回収部31の底部での塩分の析出、堆積を防止することができる。
【0020】
処理装置1は、分離手段21で分離された液体、及びスクラバ40からオーバーフローする液体を分離手段21の前段に戻す第1の返送手段を有している。循環洗浄ラインL14から分岐して原液タンク2に接続された第1のリターンラインL15が設けられている。液体回収部31の底部に滞留する原液を、循環洗浄ラインL14の一部と第1のリターンラインL15を通して、原液タンク2に戻すことができる。すなわち、循環洗浄ラインL14の一部と第1のリターンラインL15と循環洗浄ポンプ68は、分離手段21で分離された液体を分離手段21の前段に戻す返送手段を構成する。また、前述の通り、オーバーフローラインL7はスクラバ40を液体回収部31に接続している。従って、オーバーフローラインL7と循環洗浄ラインL14の一部と第1のリターンラインL15と循環洗浄ポンプ68は、スクラバ40からオーバーフローする液体を分離手段21の前段に戻す返送手段を構成する。第1の返送手段は処理装置1の系内で放射性物質を含む液体を循環させ、放射性物質が系外に漏洩することを防止する。
【0021】
処理装置1は、蒸気セパレータ50で生成された凝縮水を分離手段21の前段、特にRO装置102の入口側に戻す第2の返送手段を有する。凝縮水槽52をRO装置102の前段に位置する汚染水タンク101に接続する第2のリターンラインL16が設けられている。第2のリターンラインL16には凝縮水移送ポンプ69が設けられている。第2のリターンラインL16と凝縮水移送ポンプ69は第2の返送手段を構成する。凝縮水は塩分をほとんど含まないため、凝縮水を汚染水タンク101に戻すことによって、RO装置102に供給される放射性汚染水の塩分濃度を下げることができる。第2のリターンラインL16は汚染水タンク101ではなく、汚染水タンク101とRO装置102との間の配管に接続してもよい、RO装置102が作動するためには、塩分の浸透圧を上回る圧力をRO装置102の逆浸透膜105に掛ける必要がある。しかし、前述の通り、本実施形態が対象とする汚染水貯蔵処理システム100においては、濃縮水タンク103は接続ラインL101によって汚染水タンク101と接続されている。従って、放射性汚染水に含まれる塩分は汚染水貯蔵処理システム100の系内に閉じ込められ、放射性汚染水の塩分濃度は時間とともに増加する。このため、何らかの対策を講じないと、いずれは塩分の浸透圧を上回る圧力を逆浸透膜105に掛けることができなくなり、RO装置102の作動が困難となる。第2の返送手段は放射性物質が系外に漏洩することを防止するだけでなく、RO装置102に供給される放射性汚染水の塩分濃度を下げ、または増加を抑制し、RO装置102の作動信頼性を高めることができる。
【0022】
分離手段21で分離された塩分の固形物は、分離手段21の下方の収集エリアRに設置された硬質容器80に回収される。硬質容器80の構成は限定されないが、ドラム缶などの鋼製容器、鉄以外の金属からなる容器、樹脂で形成された容器などを用いることができる。本実施形態の硬質容器80はドラム缶である。分離手段21の受け部29に一定量の固形物が溜まると、受け部29に貯蔵された固形物が硬質容器80に移送される。収集エリアRには、固形物を受け部29から硬質容器80に移送する移送装置(図示せず)、硬質容器80の蓋を締める蓋締機(図示せず)などが配置されている。硬質容器80はキャスター付きの台車82に設置されているが、コンベアによって移動するようにしてもよい。固形物はプラスチックフィルムで作成された可撓性容器81にまず収容され、可撓性容器81を密封して、真空にした後、硬質容器80に収容される。固形物は主にNaClからなるが、不純物を含むため、大気中の水分に触れて潮解を生じやすい。固形物を硬質容器80に直接投入すると固形物の潮解により硬質容器80の腐食等が生じ、固形物が漏洩する可能性がある。固形物は放射性物質を含むため、漏洩を防止する必要性は高い。そのため、可撓性容器81を予め密封し、真空にして、固形物に触れる水分量を極力抑え、潮解の発生の可能性を低減している。なお、NaClがカルシウムを含んでいると潮解を生じやすくなる。このため、カルシウムを除去する目的で、前述の通り、原液タンク2に貯蔵される濃縮水に炭酸ソーダを添加している。
【0023】
図2には固形物Sを貯蔵する容器の構成を示している。固形物Sを収容するためには、まず図2(a)に示すように、硬質容器80の内部に、上部の投入口が開放された袋状の可撓性容器81を収容する。図2(b)はこのときの可撓性容器81と吸引装置90の断面図を示している。可撓性容器81の側面には樹脂製のノズル84が固定されており、ノズル84の内部に、回転軸86を中心に回転する入口弁85が設けられている。入口弁85は回転軸86に設けられたばね(図示せず)によって閉方向(図において反時計回り)に付勢されているが、内部空間に向かって押し込むことで、内部空間に向かって開放可能である。ノズル84には流路の内側に張り出すストッパ84aが設けられており、図2(a),2(b)に示す状態では入口弁85はばねの付勢力でストッパ84aに当接し、閉じられている。ストッパ84aは入口弁85の外側に設けられている。すなわち、入口弁85は逆止弁である。吸引装置90は、ノズル84に着脱可能な差込口92と、差込口92に連通する混合室93と、混合室93の内部に開口する駆動ガス導入部94と、混合室93に接続された吐出ガス排出部95、とを有している。駆動ガス導入部94と吐出ガス排出部95の内部にはそれぞれ第1の絞り部96と第2の絞り部97が設けられている。すなわち、吸引装置90はエゼクタである。差込口92には弁98が設けられており、吸引装置90を使用しないときは閉じられている。吸引装置90は空気供給源91(図1参照)に接続されている。吸引装置90はモータを備えた電動式でもよいが、塩分を含む空気を取り扱うため、腐食に対する耐性が高いエゼクタを用いることが好ましい。
【0024】
可撓性容器81に固形物Sが所定量充填されると、図2(c)に示すように、可撓性容器81の上部の投入口をファスナ、熱シールなどの適宜の方法で閉じ(閉止部Pを破線で示す)、可撓性容器81を密閉する。次に、図2(d)に示すように、吸引装置90の差込口92をノズル84に差し込み、弁98を開放する。入口弁85が差込口92によって押し込まれることで開放され、可撓性容器81の内部空間が吸引装置90と連通する。次に、空気供給源91から、駆動ガスである空気を駆動ガス導入部94に供給する。駆動ガス導入部94に供給された駆動ガスは、第1の絞り部96を通過することによって低圧超音速流となって、混合室93に流入する。駆動ガスはノズル84を介して可撓性容器81の内部の空気を吸引し、可撓性容器81の内部を真空にする。ここで、真空とは、可撓性容器81の内部の圧力が可撓性容器81の外部の圧力よりも低くなっている状態を意味する。可撓性容器81は、内部の真空度は問わないが、内部の空気がほとんど除去された、いわゆる真空パックの状態になっていることが好ましい。可撓性容器81から吸引された空気は混合室93で駆動ガスと混合し、さらに吐出ガス排出部95の第2の絞り部97の上流側でさらに駆動ガスと混合され、下流側で昇圧して吐出される。可撓性容器81の内部の空気がほぼ取り除かれると、吸引装置90を停止し、弁98を閉じ、差込口92をノズル84から引き抜く。この際入口弁85がばねの付勢力によって自動的に閉方向に回転し、ストッパ84aに当接して閉まるため、可撓性容器81の内部に逆流する空気の量は最小限に抑えられる。
【0025】
その後、硬質容器80の蓋を締め、硬質容器80に可撓性容器81を気密収容し、硬質容器80を台車82によって収集エリアRから搬出する。本実施形態では、固形物Sを可撓性容器81に収容する前に、上部が開口された可撓性容器81を硬質容器80にセットしている。しかし、可撓性容器81の内部を真空にする工程までを硬質容器80の外で行った後、可撓性容器81を硬質容器80に収容し、硬質容器80を密閉してもよい。
【0026】
図3には可撓性容器81の他の実施形態を示している。ノズル184は流路の内側に張り出すストッパ184aを備え、入口弁185はストッパ184aの外側の側面に当接する。ストッパ184aは入口弁185の内側に設けられている。入口弁85と異なり、入口弁185は可撓性容器81の外側に回転する。つまり、入口弁185は可撓性容器81の内部空間から離れる方向に開放可能である。入口弁185は回転軸86に設けられたばね(図示せず)によって閉方向(図において時計回り)に付勢されている。図3(a)に示す状態では入口弁185はばねの付勢力でストッパ184aに当接し、閉じられている。図3(b)に示すように、吸引装置90の差込口92をノズル184に差し込み、弁98を開放すると、吸引装置90の吸引力によって入口弁185は反時計回りに回転して開放され、可撓性容器81の内部空間が吸引装置90と連通する。本実施形態では、可撓性容器81の内部空間が眞空になり、吸引装置90による吸引を停止したときに、可撓性容器81の内部圧力と大気圧との差圧によって入口弁185が自動的に閉じるため、回転軸86のばねを省略することもできる。図示は省略するが、布団圧縮袋のように、吸引装置90の差込口92を当てるだけで吸引できる弁を用いてもよい。すなわち、可撓性容器81の開放可能な入口部(例えば差込口92)を吸引装置90によって開放し、可撓性容器81の内部の空気を吸引し、可撓性容器81の内部を真空にできる限り、あらゆる構成を採用することができる。
【0027】
可撓性容器81から吸引された空気は放射性物質を含むため、吸引装置90に内蔵されたHEPAフィルタ99フィルタでろ過する。HEPAフィルタ99は吐出ガス排出部95の第2の絞り部97の下流側に設けられており、可撓性容器81から吸引された空気に含まれる大半の放射性物質を捕捉する。吐出ガス排出部95の出口は、空気排出ラインL17によって気体排出ラインL9に接続されている(図1参照)。従って、吸引装置90から排出された空気は、繊維活性炭を含む活性炭フィルタ53でろ過される。空気排出ラインL9は活性炭フィルタ53の入口側で気体排出ラインL9に合流しているため、活性炭フィルタ53の数を抑えることができる。吸引装置90から排出された空気のろ過を、活性炭フィルタ53とは別の活性炭フィルタで行ってもよい。
【0028】
本実施形態では、上述の通り、原液からの放射性物質の除去にスクラバ40を用いている。スクラバ40は気体の浄化に好適に用いることができ、原液の蒸気に含まれる放射性物質の大半を除去することができる。フィルタと異なり、部品の交換が不要であるため、メンテナンスも容易である。さらに、原液の蒸気に残存した放射性物質の一部は蒸気セパレータ50で凝縮水に移行する。このように、放射性物質は2段階で蒸気から除去されるため、放射性物質の除去効率が向上するだけでなく、蒸気セパレータ50の負荷も低下する。蒸気セパレータ50で分離された気体に含まれる放射性物質の濃度は相当程度低下しているため、活性炭フィルタ53の負荷を抑えることもできる。
【0029】
また、本実施形態では分離手段21、スクラバ40で発生する液体の全量を、分離手段21の上流の原液タンク2に戻している。放射性物質の濃度に応じて戻し先を変える必要がないため、放射性物質の濃度の計測や配管の切り替えのための設備が不要で、設備の構成が単純化される。蒸気セパレータ50で発生する凝縮水についても、全量を汚染水タンク101に戻しているので、同様の効果が得られる。
【0030】
さらに、本実施形態によれば、濃縮水から塩分を固形物の形で取り出すため、濃縮水の塩分濃度が低下するだけでなく、濃縮水自体の減容化が可能である。濃縮水の塩分濃度は8000~80000ppm程度であり、スラリーと比べると低いが、塩分濃度としては非常に高い。従って、濃縮水タンク103に貯蔵されている濃縮水を順次取り出して本実施形態の処理装置1で処理することで、濃縮水タンク103の基数の削減も可能となる。
【0031】
一方、固形物として取り出した塩分はいわば真空パックの状態で密閉され、さらに硬質容器80に保管されるため、潮解による漏洩の可能性が低減する。
【符号の説明】
【0032】
1 処理装置
10 炭酸ソーダ供給装置
21 分離手段
24 回転ドラム
25 スクレーパ
26 接触線
27 加熱蒸気流路(加熱手段)
28 凹部
40 スクラバ
50 蒸気セパレータ
53 活性炭フィルタ
81 可撓性容器
84,184 ノズル
90 吸引装置
101 汚染水タンク
102 RO装置
103 濃縮水タンク
C ドラムの回転中心
L1 濃縮水供給ライン
L101 接続ライン
S 固形物
図1
図2
図3