(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置およびファンユニット
(51)【国際特許分類】
H02P 6/08 20160101AFI20240416BHJP
H02P 21/06 20160101ALI20240416BHJP
F04D 27/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H02P6/08
H02P21/06
F04D27/00 101L
(21)【出願番号】P 2020111699
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】西 秀平
(72)【発明者】
【氏名】林 公洋
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/229885(WO,A1)
【文献】特開2011-234452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/08
H02P 21/06
F04D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンのモータの駆動を制御するための駆動制御信号を出力する制御回路と、
前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路とを備え、
前記制御回路は、
前記ファンが所定の風量を供給するときの前記モータの回転速度とトルクとの関係を示す対応情報を記憶する記憶部と、
指定された目標風量に対応する前記対応情報を用いて、前記モータの回転速度から目標トルクを決定する目標トルク決定部と、
前記モータのトルク値を取得するトルク取得部と、
前記目標トルクと前記トルク取得部によって取得した前記トルク値との差を小さくする速度である、前記モータの目標回転速度を決定する目標回転速度決定部と、
前記目標回転速度に基づいて、前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、を含
み、
前記モータは3相のコイルを有し、
前記駆動制御信号生成部は、前記モータの各相の前記コイルに流れる電流に基づいて、前記モータのトルクに応じたq軸電流と前記モータの磁束に応じたd軸電流とを夫々算出し、算出したq軸電流およびd軸電流とが前記目標回転速度に応じた目標電流値に夫々一致するようにデューティ比を決定し、そのデューティ比を有するPWM信号を前記駆動制御信号として出力し、
前記トルク取得部は、前記駆動制御信号生成部によって算出した前記q軸電流に基づいて前記トルク値を取得する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記対応情報は、前記モータの回転速度とトルクとの関係を表す関数を含み、
前記記憶部は、前記ファンに指定可能な複数の風量の指令値毎に前記関数を記憶している
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のモータ駆動制御装置
において、
前記目標回転速度決定部は、前記目標トルクと前記トルク値との差分が小さくなるようにPI制御演算を行い、PI制御演算によって得られた制御量に所定の係数を乗算することにより、前記目標回転速度を算出する
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至
3の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置と、
前記モータ駆動制御装置によって駆動される前記モータと、
前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラと、を備える
ファンユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置及びファンユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
換気扇等において、ダクト長やダクトの内部および外部の状態に起因する圧力損失(静圧)の変化等によって送風量が変化することが知られている。そのため、換気扇等のファンのモータを駆動するモータ駆動制御装置には、静圧等の変化した場合であってもファンの送風量が一定となるようにモータを制御する機能が求められている。
【0003】
ファンの風量を一定に制御するための従来技術は、例えば特許文献1乃至3に開示されている。具体的に、特許文献1には、所定の風量値とモータのトルクの値とを用いてモータの回転速度を補正することにより、ファンの風量を一定に保つ技術が開示されている。また、特許文献2には、モータの1回転当たりの風量とモータの電流との相関関係を利用して検出したモータの電流値に基づいてモータの回転数を制御することにより、ファンの風量を一定に保つ技術が開示されている。また、特許文献3には、ファンの風量の目標値をモータの回転速度で除した変数の多項式を用いてトルクの指令値を算出することにより、ファンの風量を一定に保つ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5327045号公報
【文献】特許第3738685号公報
【文献】特許第6037316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術によれば、ファンの風量を一定に制御することが可能である。しかしながら、従来技術よりも簡易な構成および演算によってファンの風量を一定に保つ制御が実現できれば、モータ駆動制御装置を構成するマイクロコントローラ等の部品のコストを抑え、より安価なファンを提供できるようになると、本願発明者らは考えた。
【0006】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、簡易な構成および演算によってファンの風量を一定に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、ファンのモータの駆動を制御するための駆動制御信号を出力する制御回路と、前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路とを備え、前記制御回路は、前記ファンが所定の風量を供給するときの前記モータの回転速度とトルクとの関係を示す対応情報を記憶する記憶部と、指定された目標の風量に対応する前記対応情報を用いて、前記モータの回転速度から目標トルクを決定する目標トルク決定部と、前記モータのトルク値を取得するトルク取得部と、前記目標トルクと前記トルク取得部によって取得した前記トルク値との差を小さくする速度である、前記モータの目標回転速度を決定する目標回転速度決定部と、前記モータの回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、簡易な構成および演算によってファンの風量を一定に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を備えるファンユニットの構成を示す図である。
【
図2】制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
【
図3】ファンのモータの回転速度とトルクの関係を示す図である。
【
図4】駆動制御信号生成部の内部構成を示すブロック図である。
【
図5】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置による風量一定制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0011】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置(1)は、ファン(22)のモータ(20)の駆動を制御するための駆動制御信号(Sd)を出力する制御回路(3)と、前記制御回路から出力された前記駆動制御信号に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路(2)とを備え、前記制御回路は、前記ファンが所定の風量を供給するときの前記モータの回転速度とトルクとの関係を示す対応情報(310_1~310_n)を記憶する記憶部(31)と、指定された目標の風量に対応する前記対応情報を用いて、前記モータの回転速度から目標トルクを決定する目標トルク決定部(30)と、前記モータのトルク値(Ts)を取得するトルク取得部(32)と、前記目標トルクと前記トルク取得部によって取得した前記トルク値との差(ΔT)を小さくする速度である、前記モータの目標回転速度(EXC)を決定する目標回転速度決定部(34)と、前記モータの回転速度が前記目標回転速度に近づくように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部(35)とを含むことを特徴とする。
【0012】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記対応情報は、前記モータの回転速度とトルクとの関係を表す関数(310_1~310_n)を含み、前記記憶部は、前記ファンに指定可能な複数の風量の指令値毎に前記関数を記憶していてもよい。
【0013】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモータ駆動制御装置において、前記モータは3相のコイルを有し、前記駆動制御信号生成部は、前記モータの各相の前記コイルに流れる電流に基づいて、前記モータのトルクに応じたq軸電流(Iq)と前記モータの磁束に応じたd軸電流(Id)とを夫々算出し、算出したq軸電流およびd軸電流とが前記目標回転速度に応じた目標電流値(Iq_req,Id_ref)に夫々一致するようにデューティ比を決定し、そのデューティ比を有するPWM信号を前記駆動制御信号として出力し、前記トルク取得部は、前記駆動制御信号生成部によって算出した前記q軸電流に基づいて前記トルク値(Ts)を取得してもよい。
【0014】
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置において、前記目標回転速度決定部は、前記目標トルクと前記トルク値との差分が小さくなるようにPI制御演算を行い、PI制御演算によって得られた制御量に所定の係数を乗算することにより、前記目標回転速度を算出してもよい。
【0015】
〔5〕本発明の代表的な実施の形態に係るファンユニット(100)は、上記〔1〕乃至〔4〕の何れか一項に記載のモータ駆動制御装置(1)と、前記モータ駆動制御装置によって駆動される前記モータ(20)と、前記モータの回転力によって回転可能に構成されたインペラ(21)と、を備えることを特徴とする。
【0016】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0017】
≪実施の形態≫
【0018】
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1を備えるファンユニットの構成を示す図である。
【0019】
図1に示されるファンユニット100は、インペラ(羽根車)を回転させることによって風を発生させる装置である。ファンユニット100は、例えば、室内の空気を室外に排出する換気設備(換気扇)に適用することができる。
【0020】
図1に示すように、ファンユニット100は、モータ20と、インペラ21と、モータ20の回転位置を検出するための回転位置検出器25と、モータ20の回転速度を検出する回転速度検出器26と、モータ20に流れる電流を検出する電流検出器27と、モータ20を駆動するモータ駆動制御装置1と、を備えている。
【0021】
モータ20は、例えば、ブラシレスモータである。本実施の形態において、モータ20は、3相のコイルを有するブラシレスモータである。モータ駆動制御装置1は、モータ20の回転を制御するための装置である。モータ駆動制御装置1は、例えば、モータ20に正弦波駆動信号を出力してモータ20の3相のコイルLu,Lv,Lwに周期的に正弦波状の駆動電流を流してモータ20を回転させる。
【0022】
インペラ(羽根車)21は、風を発生させる部品であり、モータ20の回転力によって回転可能に構成されている。例えば、インペラ21の回転軸は、モータ20の出力軸に同軸に連結されている。本実施の形態では、例えば、インペラ21とモータ20とが一つのファン22を構成しているものとする。
【0023】
モータ駆動制御装置1は、モータ駆動回路2と、制御回路3とを有している。なお、
図1に示されているモータ駆動制御装置1の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動制御装置1は、
図1に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0024】
モータ駆動回路2は、後述する制御回路3から出力された駆動制御信号Sdに基づいてモータ20を駆動する。モータ駆動回路2は、インバータ回路2a及びプリドライブ回路2bを有する。
【0025】
インバータ回路2aは、プリドライブ回路2bから出力された出力信号に基づいてモータ20に駆動信号を出力し、モータ20が備えるコイルLu,Lv,Lwに通電する。インバータ回路2aは、例えば、直流電源Vccの両端に設けられた2つのスイッチ素子の直列回路の対が、コイルLu,Lv,Lwの各相(U相、V相、W相)に対してそれぞれ配置されて構成されている。2つのスイッチ素子の各対において、スイッチ素子同士の接続点に、モータ20の各相の端子が接続されている。
【0026】
プリドライブ回路2bは、制御回路3からの駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路2aを駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路2aに出力する。
【0027】
駆動制御信号Sdは、モータ20の駆動を制御するための信号であり、例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号である。具体的には、駆動制御信号Sdは、インバータ回路2aの各スイッチ素子に対応する6種類のPWM信号を含む。具体的に、駆動制御信号Sdは、インバータ回路2aを構成する各スイッチ素子のオン/オフの状態によって定まるモータ20のコイルLu,Lv,Lwの通電パタンを切り替えるための信号である。
【0028】
プリドライブ回路2bは、例えば、駆動制御信号Sdに基づいて、インバータ回路2aの各スイッチ素子を駆動する6種類の駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを生成して出力する。これらの駆動信号がインバータ回路2aに入力されることにより、インバータ回路2aを構成する、それぞれの駆動信号に対応するスイッチ素子がオン、オフ動作を行う。これにより、モータ20の各相に電力が供給される。
【0029】
回転位置検出器25u,25v,25wは、モータ20のロータの回転に応じた回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを生成する。回転位置検出器25u,25v,25wは、例えば、ホール(HALL)素子である。以下、回転位置検出器25u,25v,25wを「ホール素子25u,25v,25w」とも称する。
【0030】
3つのホール素子25u,25v,25wは、モータ20の各相(U相、V相、W相)にそれぞれ対応して設けられている。ホール素子25u,25v,25wは、例えば、互いに略等間隔(例えば、隣り合うものと120度の間隔)にモータ20のロータ(回転子)の周囲に配置されている。
【0031】
ホール素子25u,25v,25wは、それぞれ、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化するホール信号を回転位置検出信号Hu,Hv,Hwとして出力する。回転位置検出信号Hu,Hv,Hwは、制御回路3に入力される。
【0032】
なお、制御回路3には、このようなホール信号に代えて、モータ20のロータの回転位置に対応する他の信号が回転位置検出信号として入力されるように構成されていてもよい。例えば、エンコーダやレゾルバ、モータ電流検出回路などを設け、その検出信号が制御回路3に入力されるようにしてもよい。
【0033】
回転速度検出器26は、モータ20のロータの回転に応じた回転速度検出信号Srを生成する。回転速度検出器26は、例えば、モータ20が搭載される基板(プリント基板)上に形成されたFG(Frequency Generator)パタンである。回転速度検出器26としてのFGパタンは、モータ20の回転数に対応する周期を有する信号(FG信号)を発生させる。回転速度検出器26から出力されたFG信号は、回転速度検出信号Srとして制御回路3に入力される。
【0034】
なお、本実施例においては回転速度検出器26としてFGパタンを用いているが、これに限らず、エンコーダやレゾルバ等その他の回転速度検出器を用いてもよいし、ホール信号(回転位置検出信号Hu,Hv,Hw)をもとにして回転速度を導出し、回転速度検出信号Srとして制御回路3に入力されるようにしてもよい。
【0035】
電流検出器27は、モータ駆動回路2を構成するインバータ回路2aの直流側に流れる電流の電流値に対応する電流検出信号Siを生成する。電流検出器27は、例えば、インバータ回路の負側(グラウンド側)に配置される電流検出素子であり、例えば抵抗(シャント抵抗)である。電流検出器27としての電流検出素子は、自身に流れる電流に応じた電圧を発生して、電流検出信号Siとして出力する。
【0036】
制御回路3は、風量指令信号Sf、回転位置検出信号Hu,Hv,Hw、および回転速度検出信号Srに基づいて、モータ20を駆動させるための駆動制御信号Sdを生成し、モータ駆動回路2に供給する。具体的に、制御回路3は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwおよび回転速度検出信号Srに基づいてモータ20のロータの回転位置や回転速度等の情報を得ることでモータ20の回転状態を監視し、風量指令信号Sfによって指定された風量がファン22から供給されるように駆動制御信号Sdを生成してモータ20の駆動を制御する。
【0037】
なお、回転速度検出信号Srは、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwをもとに演算によって求めてもよいし、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを回転速度検出信号Srとして用いてもよい。
【0038】
本実施の形態において、制御回路3は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)によって実現されている。
【0039】
なお、モータ駆動制御装置1は、制御回路3の少なくとも一部とモータ駆動回路2の少なくとも一部とが一つの集積回路装置(IC)としてパッケージ化された構成であってもよいし、制御回路3とモータ駆動回路2がそれぞれ個別の集積回路装置として夫々パッケージ化された構成であってもよい。
【0040】
制御回路3は、風量指令信号Sfに基づいてファン22の風量を制御するとき、ファンユニット100を搭載した換気設備のダクト長等に起因する圧力損失(静圧)に依らず、風量が一定になるように駆動制御信号Sdを生成する風量一定制御を行う。以下、制御回路3による風量一定制御について説明する。
【0041】
図2は、制御回路3の機能ブロック構成を示す図である。
図2に示すように、制御回路3は、風量一定制御を実現するための機能ブロックとして、目標トルク決定部30、記憶部31、トルク取得部32、誤差算出部33、目標回転速度決定部34、および駆動制御信号生成部35を有している。これらの機能ブロックは、例えば、制御回路3としてのプログラム処理装置において、プロセッサが、メモリに記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行するとともに、カウンタやA/D変換回路等の周辺回路を制御することによって実現される。
【0042】
目標トルク決定部30は、風量指令信号Sfで指定された風量をファン22から供給するために必要なモータ20のトルクの目標値(以下、「目標トルク」と称する。)を決定する機能部である。目標トルク決定部30は、後述する記憶部31に記憶されている対応情報310を用いて、後述する目標回転速度決定部34によって算出されたモータ20の目標回転速度EXCから目標トルクTgを算出する。
【0043】
記憶部31は、風量一定制御に必要なパラメータ等を記憶する機能部である。記憶部31は、例えば、対応情報310や、風量指令値毎に設けられた目標回転速度EXCの初期値等のデータを記憶している。
【0044】
ここで、対応情報310とは、ファン22が所定の風量を供給するときのモータ20の回転速度とトルクとの関係を示すデータである。
【0045】
図3は、ファン22のモータ20の回転速度とトルクの関係を示す図である。
図3において、横軸はモータ20の回転速度を表し、縦軸はモータ20のトルクを表している。また、特性601~603は、ファン22の風量が所定の値で一定になるようにファン22を動作させたときのモータ20の回転速度とトルクの実測値に基づいて描いたグラフであり、モータ20の回転速度-トルク特性を表している。
【0046】
図3において、参照符号601は、ファン22の風量が第1の値(=F1)であるときのモータ20の回転速度に対するトルクの特性を表し、参照符号602は、ファン22の風量が第2の値(=F2>F1)であるときのモータ20の回転速度に対するトルクの特性を表し、参照符号603は、ファン22の風量が第3の値(=F3>F2>F1)であるときのモータ20の回転速度に対するトルクの特性を表している。
【0047】
図3から理解されるように、モータ20の回転速度-トルク特性は、ファン22の風量毎に異なるものとなる。したがって、ファン22に要求される風量に応じてモータ20の回転速度およびトルクが特性601~603に沿って変化するように制御することにより、要求された風量が一定になるようにファン22を動作させることが可能となる。
【0048】
そこで、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、ファン22の風量毎のモータ20の回転速度とトルクとの関係を表す関数310を記憶部31に予め記憶しておき、それらの関数を用いてモータ20の回転速度とトルクを調整することにより、ファン22の風量を一定にする。
【0049】
具体的には、記憶部31に、ファン22に指定可能な複数の風量の指令値毎に関数310を記憶しておく。例えば、ファン22の風量がn(nは2以上の整数)段階に切替可能である場合、n通りの風量毎にモータ20の回転速度とトルクの関係を表す関数310_1~310_nを記憶部31に記憶しておく。
【0050】
例えば、予め、実験やシミュレーション等によって、静圧が異なる環境下においてファン22の風量が所定の値で一定になるようにモータ20を駆動したときのモータ20の回転速度とトルクを測定する。次に、回転速度およびトルクの測定値を用いて回帰分析を行うことにより、回転速度とトルクの関係を示す近似関数(例えば二次関数)を風量毎に算出する。そして、それらの近似関数の係数を対応情報310_1~310_nとして、モータ駆動制御装置1の記憶部31に記憶しておく。
【0051】
目標トルク決定部30は、記憶部31に記憶されている関数310_1~310_nを用いて、風量指令信号Sfと後述する目標回転速度決定部34によって決定される目標回転速度EXCとに基づいて、目標トルクTgを算出する。具体的には、
図2に示すように、目標トルク決定部30は、風量指令取得部36、関数選択部37、および目標トルク算出部38を有する。
【0052】
風量指令取得部36は、外部から入力された風量指令信号Sfから風量の指令値を取得する機能部である。例えば、ユーザが換気扇の操作入力部を操作することにより所望の風量が指定された場合、操作入力部が指定された風量を示す風量指令信号Sfを生成し、風量指令取得部36に入力する。
【0053】
風量指令取得部36は、入力された風量指令信号Sfから風量の指定値を取得する。例えば、換気扇が“弱”、“中”、“強”の3段階の風量に設定可能であり、風量指令信号Sfが2ビットのデジタル信号である場合、風量指令取得部36は、風量指令信号Sfの2ビットの論理値に基づいて、風量の指令値が“弱”、“中”、“強”または“動作の停止”の何れであるかを判定する。例えば、風量指令取得部36は、風量指令信号Sfが“00”の場合にはファン22の停止指示と判定し、風量指令信号Sfが“01”の場合には風量の指令値が“弱”と判定し、風量指令信号Sfが“10”の場合に風量の指令値が“中”と判定し、風量指令信号Sfが“11”の場合に風量の指令値が“強”と判定する。
【0054】
関数選択部37は、風量指令取得部36によって取得した風量の指令値に基づいて、関数310_1~310_nの何れか一つを選択する。関数選択部37は、風量指令取得部36によって取得した風量の指令値で指定された風量に対応する関数310_1~310_nを選択して、記憶部31から読み出す。
【0055】
目標トルク算出部38は、関数選択部37によって選択された関数310を用いて、目標回転速度決定部34によって決定された目標回転速度EXCから目標トルクTgを算出する。例えば、目標トルク算出部38は、関数310の変数である回転速度に目標回転速度EXCの値を代入することによりトルクを算出し、算出したトルクを目標トルクTgとして出力する。
【0056】
トルク取得部32は、モータ20のトルクの測定値を取得する機能部である。具体的に、トルク取得部32は、後述する駆動制御信号生成部35において行われるベクトル制御の計算過程で算出されるq軸電流Iqを取得する。一般に、q軸電流はトルクと比例関係にあることが知られているので、トルク取得部32は、q軸電流はトルクの関係を示すパラメータを用いて、q軸電流Iqからモータ20のトルク値Tsを算出する。例えば、トルク取得部32は、所定期間毎のq軸電流Iqの平均値を算出し、その値と所定の係数とを乗算することにより、トルク値Tsを算出する。なお、取得したq軸電流の値に対して上述の演算処理を行わず、取得したq軸電流値をそのままトルク値Tsとして用いてもよい。
【0057】
誤差算出部33は、目標トルク決定部30によって決定した目標トルクTgとトルク取得部32によって取得したモータ20のトルクの測定値であるトルク値Tsとの差分を算出する機能部である。誤差算出部33は、目標トルクTsとトルク値Tsとの差分をトルク誤差ΔTとして出力する。
【0058】
目標回転速度決定部34は、目標トルクTgとトルク値Tsとの差が小さくなるようにモータ20の目標回転速度EXCを決定する機能部である。
図2に示すように、目標回転速度決定部34は、PI制御演算部40と目標回転速度算出部41を有する。PI制御演算部40は、PI制御演算によってトルク誤差ΔTがゼロになるように制御量を算出する。すなわち、目標回転速度算出部41は、目標トルクとトルク取得部によって取得したトルク値との差を小さくする速度である、モータ20の目標回転速度EXCを決定する。目標回転速度算出部41は、PI制御演算部40によって算出した制御量に所定の変換係数を乗算して目標回転速度EXCを算出する。
【0059】
例えば、ファンにおいて、一般に、モータの回転数(回転速度)を上げると空気抵抗が大きくなり負荷(トルク)が上昇し、逆にモータの回転数を下げると空気抵抗が小さくなることで負荷が低下する。つまり、ファンにおいては、モータの回転数を制御することで、トルク誤差ΔTが0になるように制御することができる。このとき、PI制御演算部40の出力信号が10bitのデジタル値である場合、その出力信号は、0~1023で表される操作量の信号になる。そこで、目標回転速度決定部34は、PI制御演算部40の出力信号(デジタル値)に所定の変換係数を乗算することによって、PI制御演算部40から出力された操作量を表す出力信号を目標回転速度信号EXCに変換する。
【0060】
なお、目標回転速度決定部34は、PI制御演算部40の出力信号に所定の変換係数を乗算するのではなく、Qフォーマット化(固定小数点)や上下限の飽和処理を行うことによって、PI制御演算部40の出力信号から目標回転速度EXCを算出してもよい。
【0061】
なお、目標回転速度決定部34と駆動制御信号生成部35とが互いに異なる集積回路装置(IC)で実現されている場合には、目標回転速度決定部34は、例えば、目標回転速度EXCに対応する周波数を有する周期信号を生成すればよい。この場合、周期信号は、目標回転速度決定部34が形成されている集積回路装置の外部端子から出力され、駆動制御信号生成部35が形成されている集積回路装置の外部端子に入力される。駆動制御信号生成部35は、入力された周期信号の周波数を解析することにより、目標回転速度EXCの情報を取得する。
【0062】
駆動制御信号生成部35は、モータ20の回転速度が目標回転速度EXCに近づくように駆動制御信号Sdを生成する機能部である。駆動制御信号生成部35は、例えば、PWM信号としての駆動制御信号Sdをベクトル制御演算により生成する。なお、駆動制御信号Sdの生成方法は、ベクトル制御演算に限らず、vf制御等による演算であってもよいが、本実施の形態では、駆動制御信号生成部35がベクトル制御演算を行うものとして説明する。
【0063】
駆動制御信号生成部35は、ベクトル制御演算として、モータ20の各相のコイルに流れる電流に基づいてモータ20のトルクに応じたq軸電流Iqとモータ20の磁束に応じたd軸電流Idとを夫々算出し、算出したq軸電流Iqおよびd軸電流Idが目標回転速度EXCに応じた目標電流値Iq_ref,Id_refに夫々一致するようにデューティ比を決定し、そのデューティ比を有するPWM信号を駆動制御信号Sdとして出力する。以下、駆動制御信号生成部35によるベクトル制御演算について更に詳細に説明する。
【0064】
図4は、駆動制御信号生成部35の内部構成を示すブロック図である。
駆動制御信号生成部35は、ベクトル制御部として機能するための機能ブロックとして、電流計測部50、クラーク変換部51、パーク変換部52、回転位置検出信号取得部53、電気角算出部54、回転速度信号取得部55、回転速度PI制御部60、弱め磁束PI制御部61、トルクPI制御部62、磁束PI制御部63、逆パーク変換部64、逆クラーク変換部65、およびPWM信号生成部66を有する。
これらの機能ブロックは、制御回路3を構成するプログラム処理装置において、プロセッサがメモリに記憶されたプログラムに従って各種演算処理を実行し、カウンタやA/D変換回路等の周辺回路を制御することによって実現される。
【0065】
電流計測部50は、電流検出器27から出力された電流検出信号Siを取得し、取得した電流検出信号Siに基づいてモータ20の各相の相電流Iu,Iv,Iwの計測値を生成する。クラーク変換部51は、電流計測部50によって生成された相電流Iu,Iv,Iwの計測値をクラーク変換することにより、2相の直交座標(固定座標)系(α,β)の電流Iα,Iβを算出する。パーク変換部52は、電気角算出部54によって算出した電気角θ(sinθおよびcosθ)を用いて電流Iα,Iβをパーク変換することにより、2相の固定座標の電流Iα,Iβを回転座標のq軸電流Iqとd軸電流Idを算出する。
【0066】
ここで、q軸電流Iqはモータ20のトルクに対応する電流(トルク電流)であり、d軸電流Idはモータ20の励磁電流である。
【0067】
回転位置検出信号取得部53は、回転位置検出器25u,25v,25wから出力された回転位置検出信号(ホール信号)Hu,Hv,Hwを取得する。電気角算出部54は、回転位置検出信号取得部53によって取得した3つの回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、モータ20のロータの回転角θを算出するとともに、sinθおよびcosθを算出する。回転速度信号取得部55は、回転速度検出器26から出力された回転速度信号(FG信号)Srを取得し、取得した回転速度信号Srに基づいてモータ20の回転速度の計測値を取得する。
【0068】
回転速度PI制御部60は、目標回転速度決定部34から出力されたモータ20の目標回転速度EXCと回転速度信号取得部55によって取得したモータ20の回転速度の計測値とに基づいてPI制御演算を行う。回転速度PI制御部60は、目標回転速度EXCとモータ20の回転速度の計測値との差分を算出し、PI制御演算により、その差分が小さくなるように制御量を算出する。
【0069】
弱め磁束PI制御部61は、後述する電圧指令値Vq,Vdと回転速度PI制御部60によって算出された制御量とに基づいて、公知の計算方法により、トルク電流の目標値であるq軸電流目標値Iq_refと励磁電流の目標値であるd軸電流目標値Id_refをそれぞれ算出する。
【0070】
トルクPI制御部62は、弱め磁束PI制御部61によって算出されたq軸電流目標値Iq_refとパーク変換部52によって算出されたq軸電流Iqとに基づいてPI制御演算を行う。トルクPI制御部62は、q軸電流目標値Iq_refとq軸電流Iqとの差分を算出し、PI制御演算により、その差分を小さくするための制御量としての電圧指令値Vqを算出する。磁束PI制御部63は、d軸電流目標値Id_refとd軸電流Idとの差分を算出し、PI制御演算により、その差分を小さくするための制御量としての電圧指令値Vdを算出する。
【0071】
逆パーク変換部64は、電気角算出部54によって算出した電気角θ(sinθおよびcosθ)を用いて電圧指令値Vq,Vdを逆パーク変換することにより、回転座標から2相の固定座標の電圧Vα,Vβを算出する。逆クラーク変換部65は、2相の固定座標の電圧Vα,Vβを逆クラーク変換することにより、3相の相電圧Vu,Vv,Vwを算出する。
【0072】
PWM信号生成部66は、逆クラーク変換部65によって算出された各相の相電圧Vu,Vv,Vwに基づいて、3相のPWM信号を生成するためのデューティ比(各相のデューティ比の設定値)Udu,Vdu,Wduを算出する。PWM信号生成部66は、算出した各相のデューティ比を有する3相のPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0073】
次に、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1による風量一定制御の処理の流れについて説明する。
図5は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1による風量一定制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0074】
例えば、換気扇の動作が停止している状態において、ユーザが換気扇の操作入力部を操作して、所定の風量で換気扇が動作するように指示した場合を考える。この場合、換気扇の操作入力部は、ユーザの操作に応じて、風量の指定値を含む風量指令信号Sfをモータ駆動制御装置1に入力する(ステップS1)。
【0075】
モータ駆動制御装置1は、風量指令信号Sfが入力されると、モータ20の駆動制御を開始する(ステップS2)。具体的には、モータ駆動制御装置1において、例えば、目標トルク決定部30が、風量指令信号Sfで指定された風量指令値に対応する目標回転速度EXCの初期値を記憶部31から読み出して目標回転速度決定部34に設定し、目標回転速度決定部34が、設定された目標回転速度EXCの初期値を駆動制御信号生成部35に入力する。駆動制御信号生成部35は、目標回転速度決定部34から入力された目標回転速度EXCの初期値に基づいて、上述したベクトル制御演算を行って駆動制御信号Sdを生成し、モータ駆動回路2に入力する。これにより、モータ20が回転を始める。
【0076】
次に、目標トルク決定部30が、ステップS1において指定された風量指令値に対応する関数310を選択する(ステップS3)。具体的には、上述したように、関数選択部37が、風量指令信号Sfによって指定された風量指令値に対応する関数310を記憶部31から読み出して、目標トルク算出部38に与える。
【0077】
目標トルク算出部38は、上述した手法により、ステップS3で読み出した関数310を用いて、目標回転速度決定部34によって算出された目標回転速度EXCから目標トルクTgを算出する(ステップS4)。
【0078】
また、モータ駆動制御装置1において、トルク取得部32が、モータ20のトルクを算出する(ステップS5)。具体的には、上述したように、トルク取得部32が、駆動制御信号生成部35によるベクトル制御演算によって算出されたq軸電流Iqを取得し、そのq軸電流Iqに基づいてモータ20のトルク値Ts(トルクの計測値)を算出する。
【0079】
次に、モータ駆動制御装置1において、誤差算出部33が、ステップS4で算出した目標トルクTgとステップS5で算出したトルク値Tsとの差分であるトルク誤差ΔTを算出する(ステップS6)。
【0080】
次に、モータ駆動制御装置1において、目標回転速度決定部34が、上述した手法により、ステップS6で算出されたトルク誤差ΔTから目標回転速度EXCを算出する(ステップS7)。これにより、モータ20の実際の駆動状態を反映したトルク誤差ΔTに基づいて、目標回転速度EXCの値が更新されることになる。
【0081】
次に、モータ駆動制御装置1において、駆動制御信号生成部35が、ステップS7において更新された目標回転速度EXCに基づいて、駆動制御信号SdとしてのPWM信号のデューティ比を決定し、決定したデューティ比を有する駆動制御信号Sdを生成してモータ駆動回路2に与える(ステップS8)。
これにより、モータ20の回転速度が目標回転速度EXCになるように調整されるとともにモータ20のトルクが目標トルクTgになるように調整される。すなわち、モータ20の回転速度とトルクとが、
図3に示した回転速度-トルク特性に沿うように制御される。これにより、ファン22がステップS1で指定された一定の風量を供給するように動作するようになる。
【0082】
その後、モータ駆動制御装置1は、風量指定値が変更されたか否かを判定する(ステップS9)。新たな風量指令信号Sfによって風量指令値が変更された場合には(ステップS9:Yes)、モータ駆動制御装置1は、ステップS3に移行して上述の処理(S3~S8)を実行することにより、新たな風量指令値に応じた関数310を読み出して目標トルクTgを更新し、再計算した目標回転速度EXCに基づいて駆動制御信号Sdを生成してモータ20の回転を制御する。これにより、ファン22は、新たに指定された一定の風量を供給するように動作する。
【0083】
一方、風量指令値が変更されていない場合には(ステップS9:No)、モータ駆動制御装置1は、ファン22の動作の停止が指示されたか否かを判定する(ステップS10)。風量指令信号Sfによってファン22の動作の停止が指示されていない場合には(ステップS10:No)、モータ駆動制御装置1は、ステップS5に移行し、上述の処理(S5~S8)を実行して、引き続きファン22がステップS1で指定された風量を供給するように、駆動制御信号Sdを生成する。
【0084】
一方、ファン22の動作の停止が指示された場合には(ステップS10:Yes)、モータ駆動制御装置1は、駆動制御信号Sdによってモータ20の回転を停止させる。例えば、目標トルク決定部30(例えば風量指令取得部36)が目標回転速度決定部34(例えば目標回転速度算出部41)に対して目標回転速度EXCをゼロに設定するように指示する。これにより、モータ20の回転が停止し、ファン22が停止することになる。
【0085】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1は、ファン22が所定の風量を供給するときのモータ20の回転速度とトルクの関係を示す対応情報(回転速度-トルク特性)310_1~310_nを予め記憶部31に記憶しておく。モータ駆動制御装置1は、指定された風量指令値に応じた対応情報310を用いて、モータ20の回転速度から目標トルクTgを算出する。モータ駆動制御装置1は、算出した目標トルクと測定されたモータ20のトルク値との差が小さくなるように、モータの目標回転速度EXCを決定し、目標回転速度EXCに基づいて駆動制御信号Sdを生成してモータ20を駆動する。
【0086】
これによれば、モータ駆動制御装置1は、指定された風量におけるモータ20の回転速度-トルク特性に従ってモータ20の目標回転速度EXCを決定するので、ファン22の静圧、すなわちモータ20のトルクが変化した場合であっても、トルクに応じた適切な目標回転速度EXCを設定し、その目標回転速度EXCでモータ20を回転させることができる。これにより、ファン22が指定された一定の風量を供給するようにファン22を動作させることができる。
【0087】
また、モータ駆動制御装置1は、所定の風量におけるモータ20の回転速度-トルク特性を対応情報310として予め記憶部31に記憶しており、その対応情報310を用いてモータの目標回転速度から目標トルクを算出するので、目標トルクを算出するために複雑な演算が必要ない。これにより、制御回路3を構成するマイクロコントローラ等の処理負荷を抑えることができる。
【0088】
したがって、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置1によれば、簡易な構成および演算によってファンの風量を一定に制御することが可能となる。すなわち、複雑な演算を高速で実行することが可能な高価なマイクロコントローラではなく、より安価なマイクロコントローラを用いて、ファンの風量一定制御を実現することが可能となる。
【0089】
また、モータ駆動制御装置1において、対応情報310は、モータ20の回転速度とトルクとの関係を表す関数を含み、記憶部31は、ファン22に指定可能な複数の風量の指令値毎に関数310_1~310_nを記憶している。
【0090】
これによれば、ファン22が複数の風量指定値を備えている場合であっても、指定された風量に応じて、適切な回転速度-トルク特性の関数310_1~310_nを選択することにより、任意の風量指令値においてファンの風量が一定になるようにモータ20を制御することが可能となる。
【0091】
また、モータ駆動制御装置1は、所謂ベクトル制御演算によって、目標回転速度EXCから駆動制御信号Sdを生成する。具体的に、モータ駆動制御装置1は、モータ20の各相のコイルに流れる電流に基づいて、モータ20のトルクに応じたq軸電流とモータ20の磁束に応じたd軸電流とを夫々算出し、算出したq軸電流およびd軸電流とが目標回転速度EXCに応じた目標電流値Iq_ref,Id_refに夫々一致するように駆動制御信号Sdを生成する。
これによれば、従来の正弦波駆動制御と比較して、歪みの無いきれいな正弦波状のコイル電流を生成することができるので、低振動且つ低騒音なモータ駆動を実現することができる。
【0092】
また、モータ駆動制御装置1は、上述したベクトル制御演算において算出されるq軸電流Iqに基づいてモータ20のトルク値Tsを測定する。
これによれば、トルク取得部32は、モータ20のトルク値Tsを算出するために複雑な演算処理を行う必要がないので、より簡易且つ安価な構成によってファンの風量一定制御を実現することが可能となる。例えば、モータ駆動制御装置1における駆動制御信号生成部(ベクトル制御部)35を既存のベクトル制御演算用の集積回路装置(IC)によって実現し、モータ駆動制御装置1における目標トルク決定部30、記憶部31、トルク取得部32、および目標回転速度決定部34を上記ベクトル制御演算用の集積回路装置とは異なる集積回路装置によって実現する場合を考える。
【0093】
この場合、目標トルク決定部30、記憶部31、トルク取得部32、および目標回転速度決定部34を実現するための集積回路装置は、トルク値Tsを算出するためにベクトル制御のような複雑な演算を行う必要がない。したがって、この集積回路装置には、機能が限定された安価なマイクロコントローラを用いることができる。
【0094】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0095】
例えば、上記実施の形態において、制御回路3は、上述に示されるような回路構成に限定されない。制御回路3は、本発明の目的にあうように構成された、様々な回路構成を適用することができる。
【0096】
上述のフローチャートは具体例であって、このフローチャートに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【0097】
上述の実施の形態のモータ駆動制御装置により駆動されるモータの相数は、3相に限られない。また、ホール素子の数は、3個に限られない。
【0098】
モータの回転速度の検出方法は特に限定されない。例えば、ホール素子を用いず、モータの逆起電力を用いて回転速度を検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1…モータ駆動制御装置、2…モータ駆動回路、2a…インバータ回路、2b…プリドライブ回路、3…制御回路、20…モータ、21…インペラ(羽根車)、22…ファン、25,25u,25v,25w…回転位置検出器(ホール素子)、26…回転速度検出器、27…電流検出器、30…目標トルク決定部、31…記憶部、32…トルク取得部、33…誤差算出部、34…目標回転速度決定部、35…駆動制御信号生成部(ベクトル制御部)、35…駆動制御信号生成部、36…風量指令取得部、37…関数選択部、38…目標トルク算出部、40…PI制御演算部、41…目標回転速度算出部、50…電流計測部、51…クラーク変換部、52…パーク変換部、53…回転位置検出信号取得部、54…電気角算出部、55…回転速度信号取得部、60…回転速度PI制御部、61…磁束PI制御部、62…トルクPI制御部、63…磁束PI制御部、64…逆パーク変換部、65…逆クラーク変換部、66…PWM信号生成部、100…ファンユニット、310,310_1~310_n…対応情報(関数)、EXC…目標回転速度、Id…d軸電流、Id_ref…d軸電流目標値、Iq…q軸電流、Iq_ref…q軸電流目標値、Sd…駆動制御信号、Sf…風量指令信号、Si…電流検出信号、Sr…回転速度信号(FG信号)、Tg…目標トルク、Ts…トルク値、ΔT…トルク誤差。