(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】移動装置、移動方法および印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B41J2/01 301
(21)【出願番号】P 2020156277
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】浅田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平井 敬祐
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188694(JP,A)
【文献】特開2002-120386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0024532(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部とを択一的に前記第1水平方向と異なる第2水平方向に移動させる移動装置であって、
本体フレームと、
前記第2水平方向において互いに離間しながら前記本体フレームに対して回転自在に取り付けられる第1本体側回転部材および第2本体側回転部材と、
前記吐出ヘッドを搭載しながら前記第1本体側回転部材と前記第2本体側回転部材との間を移動自在に設けられるヘッド搭載枠と、
前記ヘッド搭載枠の下方側で、前記メンテナンス部を搭載しながら前記第1本体側回転部材と前記第2本体側回転部材との間を移動自在に設けられるメンテナンス搭載枠と、
前記ヘッド搭載枠に連結されるモータと、
前記ヘッド搭載枠に対して回転自在に設けられ、前記モータの回転駆動力を受けて回転するヘッド側回転部材と、
中間部が前記第1本体側回転部材、前記ヘッド側回転部材および前記第2本体側回転部材の間に掛架されるとともに両端部が前記メンテナンス搭載枠に固定される索体と、
前記索体の移動規制と移動規制解除を切り替える索体規制切替部と、
前記ヘッド搭載枠の移動規制と移動規制解除を切り替えるヘッド規制切替部と、を備え、
前記索体の移動規制を解除するとともに前記ヘッド搭載枠を移動規制しながら前記モータを作動させることで、前記メンテナンス搭載枠を前記メンテナンス部と一緒に移動させ、
前記索体を移動規制するとともに前記ヘッド搭載枠の移動規制を解除しながら前記モータを作動させることで、前記ヘッド搭載枠を前記吐出ヘッドと一緒に移動させる
ことを特徴とする移動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動装置であって、
前記ヘッド規制切替部は、前記吐出ヘッドにより前記印刷媒体への印刷が行われる印刷位置で前記ヘッド搭載枠の移動規制を行う移動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移動装置であって、
前記ヘッド規制切替部は、前記吐出ヘッドにより前記印刷媒体への印刷が行われる間、前記印刷位置で前記ヘッド搭載枠の移動規制を継続させる移動装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の移動装置であって、
前記ヘッド規制切替部は、前記本体フレームに取り付けられる本体側係合部材と、前記ヘッド搭載枠に取り付けられるヘッド側係合部材と、前記本体側係合部材および前記ヘッド側係合部材の係合と係合解除とを切り替える係合切替部材とを有する移動装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか一項に記載の移動装置であって、
前記印刷位置で前記ヘッド搭載枠の移動規制が行われる間に、前記モータが作動して前記メンテナンス搭載枠を前記メンテナンス部と一緒に前記印刷位置に移動させて前記メンテナンス部を前記吐出ヘッドの下方に位置決めする移動装置。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか一項に記載の移動装置であって、
前記印刷位置で前記メンテナンス搭載枠の移動規制が行われる間に、前記モータが作動して前記ヘッド搭載枠を前記吐出ヘッドと一緒に前記印刷位置から前記第2水平方向に離れた退避位置に移動させて下方から前記吐出ヘッドにアクセス可能な空間を形成する移動装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の移動装置であって、
前記索体規制切替部は、前記第1本体側回転部材および前記第2本体側回転部材の少なくとも一方に連結されるブレーキ部材を有する移動装置。
【請求項8】
本体フレームに対して回転自在に取り付けられる第1本体側回転部材、第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドを搭載するヘッド搭載枠に対して回転自在に設けられるヘッド側回転部材、および前記第1水平方向と異なる第2水平方向において前記第1本体側回転部材から離間しながら前記本体フレームに回転自在に取り付けられる第2本体側回転部材に対して索体の中間部が掛架されるとともに、前記索体の両端部が前記吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部を搭載するメンテナンス搭載枠に固定された状態でモータを作動させることにより、メンテナンス移動モードとヘッド移動モードとを択一的に行う工程を備え、
前記メンテナンス移動モードは、前記索体の移動規制を解除するとともに前記ヘッド搭載枠を移動規制しながらモータを作動させることで、前記吐出ヘッドの移動を規制しながら前記モータの回転駆動力を前記ヘッド側回転部材に与えて前記メンテナンス搭載枠を前記メンテナンス部と一緒に移動させ、
前記ヘッド移動モードは、前記索体を移動規制するとともに前記ヘッド搭載枠の移動規制を解除しながら前記モータを作動させることで、前記メンテナンス部の移動を規制しながら前記ヘッド搭載枠を前記吐出ヘッドと一緒に移動させる
ことを特徴とする移動方法。
【請求項9】
第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部と、
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の移動装置と、を備え、
前記索体の移動規制を解除するとともに前記ヘッド搭載枠を移動規制しながら前記モータを作動させることで、前記吐出ヘッドを固定配置させながら前記メンテナンス部を前記第2水平方向に位置決めし、
前記索体を移動規制するとともに前記ヘッド搭載枠の移動規制を解除しながら前記モータを作動させることで、前記メンテナンス部を固定配置させながら前記吐出ヘッドを前記第2水平方向に位置決めする
ことを特徴とする印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部とを択一的に移動させる移動技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吐出ヘッドからインクジェット方式で水性や油性などのインクを印刷媒体に吐出して印刷媒体の上面に画像を印刷する印刷装置が知られている。例えば特許文献1に記載の印刷装置では、印刷媒体の搬送方向に沿って複数の吐出ヘッドが配列されている。そして、各吐出ヘッドはノズル面から液滴状のインクを印刷媒体の上面に吐出して印刷する。このため、ノズル面に付着する付着物が乾燥して固着すると、ノズルの目詰まりが発生して印刷性能の低下を招く。そこで、上記特許文献1では、フラッシングやパージングなどのメンテナンス処理を行うメンテナンス部が退避位置に設けられている。この退避位置は印刷を行う印刷位置から上記搬送方向と直交する水平方向に離れている。このため、吐出ヘッドを印刷位置と退避位置との間で移動させる移動手段が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された印刷装置は吐出ヘッドのみを水平移動させている。近年、吐出ヘッドとメンテナンス部とを互いに独立して水平移動させる印刷装置が提案されている。すなわち、吐出ヘッドを水平移動させる機構と同様に構成されたメンテナンス用の水平移動機構が追加設置され、当該水平移動機構によりメンテナンス部が水平移動される。ところが、提案されている印刷装置では、吐出ヘッドとメンテナンス部とを択一的に移動させればよいにもかかわらず、上記のように2つの水平移動機構が印刷媒体の搬送方向と直交する断面内において並存する。そのため、装置の大型化および高コスト化を招くという問題があった。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部とを択一的に第1水平方向と異なる第2水平方向に簡易に移動させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の第1態様は、第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部とを択一的に第1水平方向と異なる第2水平方向に移動させる移動装置であって、本体フレームと、第2水平方向において互いに離間しながら本体フレームに対して回転自在に取り付けられる第1本体側回転部材および第2本体側回転部材と、吐出ヘッドを搭載しながら第1本体側回転部材と第2本体側回転部材との間を移動自在に設けられるヘッド搭載枠と、ヘッド搭載枠の下方側で、メンテナンス部を搭載しながら第1本体側回転部材と第2本体側回転部材との間を移動自在に設けられるメンテナンス搭載枠と、ヘッド搭載枠に連結されるモータと、ヘッド搭載枠に対して回転自在に設けられ、モータの回転駆動力を受けて回転するヘッド側回転部材と、中間部が第1本体側回転部材、ヘッド側回転部材および第2本体側回転部材の間に掛架されるとともに両端部がメンテナンス搭載枠に固定される索体と、索体の移動規制と移動規制解除を切り替える索体規制切替部と、ヘッド搭載枠の移動規制と移動規制解除を切り替えるヘッド規制切替部と、を備え、索体の移動規制を解除するとともにヘッド搭載枠を移動規制しながらモータを作動させることで、メンテナンス搭載枠をメンテナンス部と一緒に移動させ、索体を移動規制するとともにヘッド搭載枠の移動規制を解除しながらモータを作動させることで、ヘッド搭載枠を吐出ヘッドと一緒に移動させることを特徴としている。
【0007】
また、この発明の第2態様は、移動方法であって、本体フレームに対して回転自在に取り付けられる第1本体側回転部材、第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドを搭載するヘッド搭載枠に対して回転自在に設けられるヘッド側回転部材、および第1水平方向と異なる第2水平方向において第1本体側回転部材から離間しながら本体フレームに回転自在に取り付けられる第2本体側回転部材に対して索体の中間部が掛架されるとともに、索体の両端部が吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部を搭載するメンテナンス搭載枠に固定された状態でモータを作動させることにより、メンテナンス移動モードとヘッド移動モードとを択一的に行う工程を備え、メンテナンス移動モードは、索体の移動規制を解除するとともにヘッド搭載枠を移動規制しながらモータを作動させることで、吐出ヘッドの移動を規制しながらモータの回転駆動力をヘッド側回転部材に与えてメンテナンス搭載枠をメンテナンス部と一緒に移動させ、ヘッド移動モードは、索体を移動規制するとともにヘッド搭載枠の移動規制を解除しながらモータを作動させることで、メンテナンス部の移動を規制しながらヘッド搭載枠を吐出ヘッドと一緒に移動させることを特徴としている。
【0008】
さらに、この発明の第3態様は、印刷装置であって、第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部と、上記移動装置と、を備え、索体の移動規制を解除するとともにヘッド搭載枠を移動規制しながらモータを作動させることで、吐出ヘッドを固定配置させながらメンテナンス部を第2水平方向に位置決めし、索体を移動規制するとともにヘッド搭載枠の移動規制を解除しながらモータを作動させることで、メンテナンス部を固定配置させながら吐出ヘッドを第2水平方向に位置決めすることを特徴としている。
【0009】
このように構成された発明では、索体の両端部がメンテナンス搭載枠に固定されるとともに、索体の中間部が第1本体側回転部材、ヘッド側回転部材および第2本体側回転部材に掛架されている。ここで、モータを駆動させる際に、索体の移動規制を解除するとともにヘッド搭載枠を移動規制しておくことで、ヘッド搭載枠の移動が規制されながらメンテナンス搭載枠のみがメンテナンス部と一緒に移動する(メンテナンス移動モード)。また、モータを駆動させる際に、索体を移動規制するとともにヘッド搭載枠の移動規制を解除しておくことで、メンテナンス部の移動が規制されながらヘッド搭載枠のみが吐出ヘッドと一緒に移動する(ヘッド移動モード)。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、単一のモータによりヘッド搭載枠およびメンテナンス搭載枠を択一的に移動させることができる。つまり、第1水平方向に搬送される印刷媒体にインクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部とを択一的に第1水平方向と異なる第2水平方向に簡易に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る印刷システムの一例を模式的に示す正面図である。
【
図2】本発明に係る移動装置の一実施形態である水平移動機構と、当該水平移動機構により搬送される印刷部およびメンテナンス部との構成を示す図である。
【
図4】
図3に示す水平移動機構をY方向から見た部分断面図である。
【
図5A】ヘッド搭載枠の移動規制を切り替えるヘッド規制切替部を示す図である。
【
図5B】
図5Aのヘッド規制切替部による移動規制時の動作を示す模式図である。
【
図5C】
図5Aのヘッド規制切替部による移動規制を解除した時の動作を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明に係る印刷システムの一例を模式的に示す正面図である。
図1および以下に示す図では、装置各部の配置関係を明確にするために、印刷システム1を構成する塗布装置2、印刷装置3および乾燥装置4を配列する水平方向を「X方向」とし、
図1の右手側から左手側に向かう水平方向を「+X方向」と称し、逆方向を「-X方向」と称する。また、X方向と直交する水平方向Yのうち、装置の正面側を「+Y方向」と称するとともに、装置の背面側を「-Y方向」と称する。さらに、鉛直方向Zにおける上方向および下方向をそれぞれ「+Z方向」および「-Z方向」と称する。
【0013】
この印刷システム1は、装置各部を制御部9により制御することで、繰出ロール11から巻取ロール12へロール・トゥ・ロールで長尺帯状の印刷媒体Mを搬送しつつ、塗布処理、印刷処理および乾燥処理を印刷媒体Mに施す。すなわち、塗布装置2が塗布液を印刷媒体Mに塗布する。そして、当該印刷媒体Mに対して印刷装置3がインクジェット方式で各種インクを付着させて画像を印刷する。さらに、乾燥装置4が印刷媒体Mに付着するインクを乾燥させる。なお、印刷媒体Mの素材は、OPP(oriented polypropylene)あるいはPET(polyethylene terephthalate)等のフィルムである。ただし、印刷媒体Mの素材はフィルムに限られず、紙等でもよい。かかる印刷媒体Mは、可撓性を有する。また、以下では、印刷媒体Mの両面のうち、画像が印刷される面を表面M1と、表面M1の反対側の面を裏面M2と適宜称する。
【0014】
塗布装置2は、液状のプライマー(塗布液)を貯留するパン21と、パン21に貯留されたプライマーに部分的に浸かるグラビアローラ22と、印刷媒体Mを搬送する搬送部23とを有する。塗布装置2では、搬送部23により搬送される印刷媒体Mにグラビアローラ22が下方から接触する塗布領域が設けられており、搬送部23は、印刷媒体Mの表面M1を下方に向けつつ塗布領域に沿って印刷媒体Mを搬送する。一方、グラビアローラ22は、その周面にプライマーを保持しつつ回転することで塗布領域にプライマーを供給する。こうして、グラビアローラ22により供給されたプライマーが塗布領域において印刷媒体Mの表面M1に塗布される。また、塗布領域では、印刷媒体Mの進行方向と、グラビアローラ22の周面の回転方向とが逆である。つまり、いわゆるリバースキス方式でプライマーが印刷媒体Mに塗布される。そして、搬送部23は、プライマーが塗布された印刷媒体Mの表面M1を上方へ向けつつ、塗布装置2から印刷装置3へ印刷媒体Mを搬出する。
【0015】
印刷装置3は、筐体31と、筐体31内に配置されたカラー印刷部32と、筐体31内においてカラー印刷部32の上方に配置された白印刷部33と、筐体31内に配置された複数のローラによって印刷媒体Mを搬送する搬送部34とを備える。
【0016】
カラー印刷部32は、搬送部34によって搬送される印刷媒体Mの上方において、印刷媒体Mの進行方向に配列された複数(4個)の吐出ヘッド321を有する。複数の吐出ヘッド321は、それぞれの下方を通過する印刷媒体Mの表面M1に上方から対向するノズルを有し、互いに異なる色のカラーインクをインクジェット方式でノズルから吐出する。ここで、カラーインクとは、白色以外のインクを意味し、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラック等のインクを含む。こうして、カラー印刷部32の複数の吐出ヘッド321は、それぞれの下方を通過する印刷媒体Mの表面M1に上方からカラーインクを吐出することで、印刷媒体Mの表面M1にカラー画像を印刷する。
【0017】
また、白印刷部33は、搬送部34によって搬送される印刷媒体Mの上方に配置された単一の吐出ヘッド331を有する。吐出ヘッド331は、その下方を通過する印刷媒体Mの表面M1に上方から対向するノズルを有し、白インクをインクジェット方式でノズルから吐出する。こうして、白印刷部33の吐出ヘッド331は、その下方を通過する印刷媒体Mの表面M1に上方から白インクを吐出することで、印刷媒体Mの表面M1に白画像を印刷する。
【0018】
なお、
図1への図示を省略しているが、印刷装置3の筐体31内には、2種類の乾燥部が設けられている。一方はカラー印刷部32により印刷媒体Mの表面M1に付着されたカラーインクを乾燥させるプレ乾燥部である。他方は白印刷部33により印刷媒体Mの表面M1に付着された白インクを乾燥させる上方乾燥部である。
【0019】
また、カラー印刷部32および白印刷部33は、インクジェット方式でインクをノズル面から吐出する。このため、印刷工程を長時間行っていると、次第にノズルの吐出不良が発生する。また、印刷を一時的に停止させたときに、ノズル面に付着したインクが固化して、吐出不良が生じる場合もある。そこで、カラー印刷部32に対応してカラーメンテナンス部(後で説明する
図2中の符号35)が設けられている。カラーメンテナンス部は、通常印刷時には吐出ヘッド321から水平方向Yに離れている。そして、吐出ヘッド321のメンテナンスが必要となると、カラーメンテナンス部は吐出ヘッド321の直下位置に移動して各種メンテナンスを行う。そして、メンテナンス終了後に吐出ヘッド321から水平方向Yに離れる。これらの点については、白印刷部33も同様である。つまり、白印刷部33に対応して白メンテナンス部(後で説明する
図2中の符号36)が吐出ヘッド331から水平方向Yに離れて設けられている。メンテナンス時には、白メンテナンス部は吐出ヘッド331の直下位置に移動して各種メンテナンスを行い、その後に吐出ヘッド331から水平方向Yに離れる。
【0020】
また、特許文献1に記載されているように、作業者が吐出ヘッド321、331のノズル面に対して直接アクセスして作業することもある。このため、印刷装置3では、カラー印刷部32および白印刷部33が水平方向Yに移動可能となっている。そして、作業者のアクセスが必要となると、カラー印刷部32および白印刷部33が印刷位置から水平方向Yに離れた退避位置に移動される。
【0021】
このように印刷装置3では、カラー印刷部32およびカラーメンテナンス部をY方向に移動させる水平移動機構が設けられている。また、白印刷部33および白メンテナンス部をY方向に移動させる水平移動機構が設けられている。これらの水平移動機構が、本発明の「移動装置」の一例に相当しており、その詳細については後で詳述する。
【0022】
乾燥装置4は印刷装置3から搬送されてくる印刷媒体Mの表面M1に付着するインクを乾燥させるものである。乾燥装置4は筐体41(乾燥炉)を有している。また、筐体41では、(+X)方向側にローラ42、43、46が配置されるとともに(-X)方向側にエアターンバー44、45が配置されている。これによって、(+Y)方向側から見て略S字状の搬送経路が構成され、当該搬送経路に沿って印刷媒体Mが搬送される。この搬送中に印刷媒体Mの表面M1に付着するインクが乾燥される。そして、乾燥処理を受けた印刷媒体Mは乾燥装置4から搬出され、巻取ロール12に巻き取られる。
【0023】
次に、水平移動機構の構成および動作について説明する。
図2は印刷装置の一部を(-X)方向から見た模式図である。印刷装置3は、上記したように、カラー印刷部32およびカラーメンテナンス部を択一的に水平方向Yに移動させる水平移動機構37Cと、白印刷部33および白メンテナンス部を択一的に水平方向Yに移動させる水平移動機構37Wと、吐出ヘッド321を印刷媒体Mの表面M1に対して垂直に移動させる垂直移動機構38Cと、吐出ヘッド331を印刷媒体Mの表面M1に対して垂直に移動させる垂直移動機構38Wと、を有している。これらのうち垂直移動機構38C、38Wは、それぞれ吐出ヘッド321、331のノズル面と印刷媒体Mの表面M1とのギャップを調整する。
【0024】
移動機構37C、37Wは、移動させる吐出ヘッドおよびメンテナンス部の数や形状などを除き、基本的に同様な構成を有している。そこで、以下においては、水平移動機構37Cの構成および動作の一例を中心に説明し、水平移動機構37Wのそれらについては同一または相当符号を付して説明を省略する。
【0025】
図2は、本発明に係る移動装置の一実施形態である水平移動機構と、当該水平移動機構により搬送される印刷部およびメンテナンス部との構成を示す図である。
図3は水平移動機構の構成を示す図である。
図4は
図3に示す水平移動機構をY方向から見た部分断面図である。なお、
図3では、水平移動機構37Cの一例である水平移動機構5の構造を明示するために、吐出ヘッド321およびカラーメンテナンス部35を取り外した状態で水平移動機構5が図示されている。
【0026】
水平移動機構5は、本体フレーム51と、カラー印刷部32を構成する複数の吐出ヘッド321を搭載するヘッド搭載枠52と、カラーメンテナンス部35を搭載するメンテナンス搭載枠53と、を有している。本体フレーム51は、
図3に示すように、鉛直上方からの平面視でY方向に延びる額縁形状を有しており、鉛直上方および鉛直下方に開口している。Y方向において、本体フレーム51は、ヘッド搭載枠52の長さとメンテナンス搭載枠53の長さとを足し合わせた値よりも長く延設されている。この本体フレーム51の上面のうち(+X)方向側および(-X)方向側の上方端面の上に、Y方向に延びるヘッド用ガイドレール54、54がそれぞれ取り付けられている。そして、同図中の実線矢印で示すように、これらのヘッド用ガイドレール54、54に沿ってヘッド搭載枠52がY方向に移動自在に設けられている。また、本体フレーム51の(+X)方向側および(-X)方向側の内側面に、Y方向に延びるメンテナンス用ガイドレール55、55がそれぞれ取り付けられている。そして、同図中の点線矢印で示すように、ヘッド搭載枠52の下方側で、これらのメンテナンス用ガイドレール55、55に沿ってメンテナンス搭載枠53がY方向に移動自在に設けられている。
【0027】
ヘッド搭載枠52の(+Y)方向側の外側面には、ヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53を駆動するための水平駆動ユニット56が取り付けられている。水平駆動ユニット56は、モータ561と、モータ561の回転軸に取り付けられたドライブギア562と、ドライブギア562と歯合して回転する従動ギア563と、X方向に延設された状態で従動ギア563と一体的に回転する回転シャフト564と、回転シャフト564の両端部を軸支する一対のブラケット565、565とを有している。これら一対のブラケット565はヘッド搭載枠52と連結されている。このため、制御部9のモータ駆動部91によりモータ561が作動すると、回転シャフト564がX方向に延びる回転軸まわりに回転する。この回転シャフト564の回転運動は次に説明する枠移動ユニット57に伝達される。この結果、回転シャフト564の回転量に応じた距離だけヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53のうちの一方が択一的にY方向に移動される。また、ヘッド搭載枠52が選択的にY方向に移動する際には、水平駆動ユニット56もヘッド搭載枠52と一体的にY方向に移動する。一方、後で詳述するように、メンテナンス搭載枠53が選択的に移動する際には、水平駆動ユニット56はヘッド搭載枠52と一緒に移動規制される。
【0028】
枠移動ユニット57は、
図3および
図4に示すように、X方向に延設された2本の回転シャフト571、572と、(+X)方向側枠移動部573と、(-X)方向側枠移動部574とを有している。回転シャフト571は、X方向に延設された状態で本体フレーム51の(+Y)方向側端部に対して回転自在に設けられている。また、回転シャフト572は、X方向に延設された状態で本体フレーム51の(-Y)方向側端部に対して回転自在に設けられている。
【0029】
(+X)方向側枠移動部573は、ヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53よりも(+X)方向側に配置された複数のプーリ573a~573iと、ベルト573zとを有している。本実施形態では、ベルト573zは歯付ベルトを用いられている。また、これに対応してプーリ573a~573iとして歯付プーリが用いられている。この点については、(-X)方向側枠移動部574においても同様である。
【0030】
プーリ573a~573hは3つのグループに分けられる。1つ目のグループはヘッド搭載枠52と一体的にY方向に移動可能なプーリ573a~573cで構成されている。また、2つ目のグループは本体フレーム51の(+Y)方向側に固定的に配置されたプーリ573d~573fで構成されている。さらに、3つ目のグループは本体フレーム51の(-Y)方向側に固定的に配置されたプーリ573g~573iで構成されている。より詳しくは、各グループは以下のように構成されている。
【0031】
プーリ573aは回転シャフト564の(+X)方向側の端部に固定され、回転シャフト564とともに当該回転シャフト564の軸線まわりに一体的に回転する。また、プーリ573aの下方位置に2つのプーリ573b、573cが上記軸線と平行な回転軸まわりに回転自在に配置されている。なお、これら3つのプーリ573a~573cはブラケット565に回転自在に軸支されている。このため、水平駆動ユニット56が移動する際には、プーリ573a~573cはヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56と一緒に移動する。逆に、後で説明するヘッド規制切替部58によりヘッド搭載枠52の移動が規制されているときには、プーリ573a~573cはヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56と一緒に移動規制される。
【0032】
上記プーリ573a~573cよりも(+Y)方向側において、
図3および
図4に示すように、プーリ573d、573fが本体フレーム51の(+Y)方向側の端部に対して回転自在に取り付けられている。また、プーリ573eが回転シャフト571の(+X)方向側の端部に固定されている。つまり、本実施形態では、これら3つのプーリ573d~573fの配設位置は本体フレーム51の(+Y)方向側で固定されている。
【0033】
上記プーリ573a~573cよりも(-Y)方向側において、
図3および
図4に示すように、プーリ573g、573iが本体フレーム51の(-Y)方向側の端部に対して回転自在に取り付けられている。また、プーリ573hが回転シャフト572の(+X)方向側の端部に固定されている。つまり、本実施形態では、これら3つのプーリ573g~573iの配設位置は本体フレーム51の(-Y)方向側で固定されている。
【0034】
ベルト573zの一方端および他方端は、
図3および
図4に不図示のベルト固定部材により、それぞれメンテナンス搭載枠53の(+Y)方向側および(-Y)方向側の端部に固定されている。また、ベルト573zの中間部は、一方端から他方端への順に、プーリ573f、573e、573d、573b、573a、573c、573i、573h、573gに架け渡されている。
【0035】
(-X)方向側枠移動部574は、プーリ573g、573hに相当するプーリを有さない点を除き、(+X)方向側枠移動部573と同様に構成されている。すなわち(-X)方向側枠移動部574は、ヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53よりも(-X)方向側に配置された複数のプーリ574a~574gと、ベルト574zとを有している。プーリ574a~574gは3つのグループに分けられる。1つ目のグループはヘッド搭載枠52と一体的にY方向に移動可能なプーリ574a~574cで構成されている。また、2つ目のグループは本体フレーム51の(+Y)方向側に固定的に配置されたプーリ574d~574fで構成されている。さらに、3つ目のグループは本体フレーム51の(-Y)方向側に固定的に配置されたプーリ574gで構成されている。より詳しくは、各グループは以下のように構成されている。
【0036】
プーリ574aは回転シャフト564の(-X)方向側の端部に固定され、回転シャフト564とともに当該回転シャフト564の軸線まわりに一体的に回転する。また、プーリ574aの下方位置に2つのプーリ574b、574cが上記軸線と平行な回転軸まわりに回転自在に配置されている。なお、これら3つのプーリ574a~574cはブラケット565に回転自在に軸支されている。このため、水平駆動ユニット56が移動する際には、プーリ574a~574cはヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56と一緒に移動する。逆に、後で説明するヘッド規制切替部58によりヘッド搭載枠52の移動が規制されているときには、プーリ574a~574cはヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56と一緒に移動規制される。
【0037】
上記プーリ574a~574cよりも(+Y)方向側において、
図3および
図4に示すように、プーリ574d、574fが本体フレーム51の(+Y)方向側の端部に対して回転自在に取り付けられている。また、プーリ574eが回転シャフト571の(-X)方向側の端部に固定されている。つまり、本実施形態では、これら3つのプーリ574d~574fの配設位置は本体フレーム51の(+Y)方向側で固定されている。
【0038】
上記プーリ574a~574cよりも(-Y)方向側において、
図3および
図4に示すように、プーリ574gが本体フレーム51の(-Y)方向側の端部に対して回転自在に取り付けられている。つまり、本実施形態では、プーリ574gの配設位置は本体フレーム51の(-Y)方向側で固定されている。
【0039】
ベルト574zの一方端および他方端は、ベルト固定部材(後で説明する
図6A~
図6C中の符号574y)により、それぞれメンテナンス搭載枠53の(+Y)方向側および(-Y)方向側の端部に固定されている。また、ベルト574zの中間部は、一方端から他方端への順に、プーリ574f、574e、574d、574b、574a、574c、574gに掛架されている。
【0040】
上記したように(+X)方向側枠移動部573および(-X)方向側枠移動部574を設けたことで、モータ561で発生する回転駆動力をヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53に伝達することができる。ただし、回転駆動力が(+X)方向側枠移動部573および(-X)方向側枠移動部574を介して伝達されるのみでは、ヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53のうちの一方を択一的にY方向に移動させて位置決めすることは不可能である。そこで、本実施形態では、ヘッド規制切替部58とベルト規制切替部59とが設けられている。
【0041】
図5Aはヘッド搭載枠の移動規制を切り替えるヘッド規制切替部を示す図である。
図5Bは
図5Aのヘッド規制切替部による移動規制時の動作を示す模式図である。
図5Cは
図5Aのヘッド規制切替部による移動規制を解除した時の動作を示す模式図である。ヘッド規制切替部58は、
図3および
図4に示すように、2つの規制切替ユニット581、582を有している。これらのうち規制切替ユニット582は、
図5Aに示すように、ブラケット582aを有している。ブラケット582aの下端部は本体フレーム51に固定される。一方、ブラケット582aの上端部は本体フレーム51の上方に延設されている。ブラケット582aの上端部に対し、本体側係合部材582bがY方向に一定量だけ移動自在に取り付けられている。この本体側係合部材582bは、その先端部がブラケット582aの上端部から(-Y)方向に突設するように、取り付けられている。この先端部は、
図5Aないし
図5Cに示すように、ヘッド搭載枠52の(-X)方向側の外側面に固定されたヘッド位置決め部材582cを係止可能となっている。上記係止によって、ヘッド搭載枠52に搭載された吐出ヘッド321がY方向において印刷位置に位置決めされる。なお、この印刷位置を調整するために、本実施形態では、印刷位置調整ねじ582dが設けられている。この印刷位置調整ねじ582dは、ブラケット582aの上端部に対してY方向に出退自在に取り付けられている。オペレータによる印刷位置調整ねじ582dの出退移動により、本体側係合部材582bの後端部(+Y方向側の端部)に対して印刷位置調整ねじ582dが作用してY方向における上記先端部の突出量を変更可能となっている。この突出量変更により、Y方向における吐出ヘッド321の印刷位置が調整される。
【0042】
また、上記ヘッド位置決め部材582cは、吐出ヘッド321の位置決め機能のみならず、上記本体側係合部材582bおよび次に説明する本体側係合部材582eと係合するヘッド側係合部材としても機能する。すなわち、上記印刷位置でヘッド搭載枠52を固定してヘッド搭載枠52の移動を規制するために、本体側係合部材582eおよびエアシリンダ582fが設けられている。エアシリンダ582fのシリンダ部は支持プレート582gを介してブラケット582aの上面に固定されている。この支持プレート582gの上方で、エアシリンダ582fのピストン部が(-Y)方向に伸張し、また(+Y)方向に収縮可能となっている。このピストン部の先端部に対し、本体側係合部材582eの一方端部が連結されている。さらに、本体側係合部材582eの中央部が、
図5Bおよび
図5Cに示すように、支持プレート582gに対して揺動自在に軸支されている。このため、制御部9のエアシリンダ駆動部92からの伸張指令に応じてエアシリンダ582fのピストン部が(-Y)方向に伸張すると、
図5Bに示すように、上記軸支位置を揺動中心として本体側係合部材582eが時計方向に揺動する。これによって、本体側係合部材582eの他方端部がヘッド位置決め部材582c側に移動し、ヘッド位置決め部材582cと係合する。つまり、Y方向においてヘッド位置決め部材582cの一部が2つの本体側係合部材582b、582eで挟み込まれる。その結果、モータ561が作動している場合であっても、ヘッド搭載枠52の移動が規制される。
【0043】
一方、制御部9のエアシリンダ駆動部92からの収縮指令に応じてエアシリンダ582fのピストン部が(+Y)方向に収縮すると、
図5Cに示すように、上記軸支位置を揺動中心として本体側係合部材582eが反時計方向に揺動する。これによって、本体側係合部材582eの他方端部がヘッド位置決め部材582c側から離れ、ヘッド位置決め部材582cとの係合解除が実行される。つまり、Y方向においてヘッド位置決め部材582cの一部と本体側係合部材582eとの係合が解かれる。この係合解除により、ヘッド搭載枠52の移動規制が解除される。その結果、印刷位置から(-Y)方向へのヘッド搭載枠52の移動により吐出ヘッド321を退避位置に位置決めすることが可能となる。
【0044】
次に、ベルト規制切替部59について説明する。ベルト規制切替部59は、2つの電磁ブレーキ591、592で構成されている。一方側の電磁ブレーキはプーリ574eの近傍に配置されている。また、他方側の電磁ブレーキはプーリ574gの近傍に配置されている。そして、制御部9のブレーキ駆動部93からのブレーキ指令が出力されると、両電磁ブレーキはそれぞれプーリ574e、574gに対してブレーキ力を作用させる。その結果、モータ561が作動している場合でも、ベルト573z、574zの移動は規制される。
【0045】
一方、ブレーキ駆動部93からのブレーキ指令の出力が停止されると、電磁ブレーキによるプーリ574e、574gへのブレーキ力の作用が停止される。その結果、ベルト573z、574zの移動規制は解除され、ベルト移動によりメンテナンス搭載枠53をY方向に移動させることが可能となる。
【0046】
図6Aないし
図6Cは印刷装置の動作を模式的に示す図である。
図6Aは上記のように構成された印刷装置3により通常の印刷処理を行う際の水平移動機構5の動作を示している(印刷モード)。また、
図6Bは印刷処理を行った吐出ヘッド321、331に対してメンテナンス部35によりメンテナンスを行う際の水平移動機構5の動作を示している(メンテナンス移動モード)。さらに、
図6Cは退避位置で作業者によりノズル面作業を行う際の水平移動機構5の動作を示している(ヘッド移動モード)。以下、各モードについて図面を参照しつつ説明するが、カラー印刷部32と白印刷部33とは吐出ヘッドの種類や個数などの点で相違するものの、水平移動機構5の動作は基本的に同一である。そこで、以下においては、カラー印刷部32における水平移動機構5の動作について説明し、白印刷部33における水平移動機構5(37C)の動作については省略する。
【0047】
カラー印刷部32での印刷処理は、
図6Aに示すように、吐出ヘッド321を搭載したヘッド搭載枠52を印刷位置に位置決めして行われる。すなわち、(-X)方向側では、
図6Aに示すように、規制切替ユニット582によりヘッド搭載枠52のY方向の移動が規制されている。また、
図6Aでは不図示であるが、(+X)方向側についても、規制切替ユニット581によりヘッド搭載枠52のY方向の移動が規制されている。このように2つの規制切替ユニット581、582によるヘッド搭載枠52の移動規制により、吐出ヘッド321が予め設定された印刷位置から変位するのを確実に防止している。しかも、モータ駆動部91によるモータ561(
図3および
図4参照)の駆動は停止されるとともに、電磁ブレーキ591、592の作動によるベルト573z、574zの移動が規制されている。その結果、印刷処理を安定して良好に行うことができる。なお、印刷処理を行っている間、カラーメンテナンス部35を搭載するメンテナンス搭載枠53は、印刷位置から(-Y)方向に離れた退避位置に位置決めされ、待機している。
【0048】
また、一定量の印刷処理を行った後に吐出ヘッド321に対するメンテナンス処理を実行することがある。そこで、本実施形態では、吐出ヘッド321を印刷位置に位置させたまま、メンテナンス搭載枠53が択一的に水平移動機構5により(+Y)方向に移動される。より具体的には、
図6Bに示すように、規制切替ユニット581、582によるヘッド搭載枠52の移動規制が継続されたまま、ブレーキ駆動部93からのブレーキ指令の出力が停止される。これにより、電磁ブレーキ591、592によるベルト573z、574zの移動規制が解除される。これと同時または上記移動規制解除後に、モータ駆動部91によりモータ561が駆動される。ここで、ヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56の移動は規制されたままであるのに対し、ベルト573z、574zの移動規制は解除されている。したがって、ベルト573z、574zは、モータ561の回転軸の回転量に応じた距離だけ複数のプーリ間を同図の紙面において時計回りに移動する。その結果、同図中の実線矢印で示すように、メンテナンス搭載枠53が退避位置から印刷位置に移動し、カラーメンテナンス部35を吐出ヘッド321の下方に位置させる。そして、移動完了後にメンテナンス処理が実行される。
【0049】
さらに、作業者が吐出ヘッド321のノズル面に対して直接アクセスして作業する必要が生じることがある。そこで、本実施形態では、その旨を示す指令が作業者から制御部9に与えられると、制御部9は、カラーメンテナンス部35を搭載したメンテナンス搭載枠53を印刷位置に位置させたまま、ヘッド搭載枠52を択一的に水平移動機構5により(-Y)方向に移動させる。より具体的には、
図6Cに示すように、ブレーキ駆動部93からブレーキ指令が出力されてベルト573z、574zの移動が規制される。一方、エアシリンダ駆動部92からの収縮指令に応じて本体側係合部材582eとヘッド位置決め部材582cとの係合が解除され、ヘッド搭載枠52の移動規制が解除される。これと同時または上記移動規制解除後に、モータ駆動部91によりモータ561が駆動される。ここで、ベルト573z、574zの移動は規制されたままであるのに対し、ヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56の移動規制は解除されている。したがって、ヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56は、モータ561の回転軸の回転量に応じた距離だけ(-Y)方向に移動する。その結果、同図中の実線矢印で示すように、ヘッド搭載枠52および水平駆動ユニット56が印刷位置から退避位置に移動し、ヘッド搭載枠52に搭載された吐出ヘッド321へのアクセスが可能となる。そして、移動完了後に作業者による作業処理が実行される。
【0050】
以上のように、本実施形態では、モータ561を駆動させる際に、ベルト573z、574zの移動規制および移動規制解除と、ヘッド搭載枠52の移動規制解除および移動規制とを組み合わせることで、ヘッド移動モードおよびメンテナンス移動モードを択一的に実行することができる。つまり、単一のモータ561によりヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53を択一的にY方向に移動させることができ、装置構成の簡素化を図ることができる。
【0051】
また、上記実施形態では、
図3に示すように、モータ561の回転駆動力が(-X)方向側枠移動部574に伝達され、(-X)方向側においてヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53に対して移動推進力が択一的に与えられている。しかも、上記回転駆動力は回転シャフト564を介して(+X)方向側枠移動部573にも伝達され、(+X)方向側においてもヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53に対して移動推進力が択一的に与えられている。もちろん、(-X)方向側および(+X)方向側の一方に対してのみ回転駆動力を伝達してもよいが、上記実施形態のように両側に伝達することでヘッド搭載枠52およびメンテナンス搭載枠53のY方向移動を安定化させることができる。
【0052】
また、上記実施形態では、
図3、
図6A~
図6Cに示すように、ベルト規制切替部59が本発明の「ブレーキ部材」の一例として電磁ブレーキ591、592を有している。つまり、(+Y)方向側および(-Y)方向側でブレーキ力を作用させている。もちろん、(+Y)方向側および(-Y)方向側のうちの一方に対してのみ電磁ブレーキを作用させるように構成してもよいが、上記実施形態のように両側でブレーキ力を作用させることで、ベルト573z、574zの移動規制をより安定して行うことができる。
【0053】
また、上記実施形態では、本体側係合部材582bが、ヘッド搭載枠52を印刷位置に位置決めさせる機能と、別の本体側係合部材582eと協働してヘッド搭載枠52の移動規制を行う機能とを兼ね備えている。もちろん、上記位置決め機能を担う部材を別途設けてもよいが、上記実施形態のように2つの機能を有する本体側係合部材582bを設けたことで、部品点数の抑制により装置コストやサイズの低減を図ることができる。
【0054】
上記したように、本実施形態では、X方向およびY方向がそれぞれ本発明の「第1水平方向」および「第2水平方向」の一例に相当している。また、(+X)方向側において、プーリ573d、573eが本発明の「第1本体側回転部材」の一例に相当し、プーリ573aが本発明の「ヘッド側回転部材」の一例に相当し、プーリ573g~573iが本発明の「第2本体側回転部材」の一例に相当し、ベルト573zが本発明の「索体」の一例に相当している。また、(-X)方向側において、プーリ574d、574eが本発明の「第1本体側回転部材」の一例に相当し、プーリ574aが本発明の「ヘッド側回転部材」の一例に相当し、プーリ574gが本発明の「第2本体側回転部材」の一例に相当し、ベルト574zが本発明の「索体」の一例に相当している。また、ベルト規制切替部59が本発明の「索体規制切替部」の一例に相当している。また、エアシリンダ581f、582fが本発明の「係合切替部材」の一例に相当している。
【0055】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、本発明の「索体」として歯付ベルトを用いているが、平ベルトやVベルトなどの他のベルトを用いてもよい。また、本発明の「索体」としてワイヤなどを用いてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、エアシリンダ581f、582fにより係合切替を行っているが、その他のアクチュエータ、例えばモータなどを本発明の「係合切替部材」として用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、カラー印刷部32および白印刷部33の両方に対して本発明に係る「移動装置」を適用しているが、一方に対してのみ本発明に係る「移動装置」を適用してもよい。また、上記実施形態では、カラー印刷部32および白印刷部33の両方を装備する印刷装置3に対して本発明を適用しているが、一方のみを有する印刷装置や更に別のインクを印刷する印刷部を追加装備する印刷装置に対しても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明は、インクを吐出して印刷する吐出ヘッドと、吐出ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部とを択一的に移動させる移動技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
3…印刷装置
5、37C、37W…水平移動機構(移動装置)
32…カラー印刷部
33…白印刷部
35…カラーメンテナンス部
51…本体フレーム
52…ヘッド搭載枠
53…メンテナンス搭載枠
58…ヘッド規制切替部
59…ベルト規制切替部(索体規制切替部)
321、331…吐出ヘッド
561…モータ
573、574…枠移動部
573a、574a…プーリ(ヘッド側回転部材)
573d、573e、574d、574e…プーリ(第1本体側回転部材)
573g~573i、574g…プーリ(第2本体側回転部材)
573z、574z…ベルト(索体)
581、582…規制切替ユニット
582b、582e…本体側係合部材
582c…ヘッド位置決め部材(ヘッド側係合部材)
582f…エアシリンダ(係合切替部材)
591、592…電磁ブレーキ(ブレーキ部材)
M…印刷媒体
X…(第1)水平方向
Y…(第2)水平方向