(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/52 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
H01R13/52 301B
(21)【出願番号】P 2020165928
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 亨
(72)【発明者】
【氏名】山本 将行
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-003724(JP,A)
【文献】特開2008-166136(JP,A)
【文献】実開昭59-025743(JP,U)
【文献】特開2009-272253(JP,A)
【文献】実開平03-097871(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手側部品と嵌合されるハウジングと、前記ハウジングの外周面に取り付けられて前記相手側部品と前記ハウジングとの間をシールする環状のパッキンと、を備えたコネクタであって、
前記ハウジングは、
嵌合方向における前記パッキンの
後側の端部が挿入される溝部と、
前記溝部の底面から、前記嵌合方向に向かって突出する突起と、を有し、
前記パッキンは、
前記端部より前記嵌合方向の前側領域にて、前記ハウジングの前記外周面と前記相手側部品の内周面との間に挟持される筒形状部であって、その外周面に、非弾性変形状態にて径方向外側に突出する環状の第1突起及び第2突起が前記第1突起の後側に前記第2突起が並ぶように設けられた筒形状部を有し、
前記突起が挿入される空洞部を前記端部に有し、
前記端部の一部が、該パッキンの径方向内側の面と向かい合う前記溝部の溝内面と、前記突起との間に位置するとともに、前記溝内面及び前記突起の双方と接触している、
コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のコネクタにおいて、
前記パッキンは、
前記端部の前記一部が、前記溝内面及び前記突起の双方と押圧接触している、
コネクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のコネクタにおいて、
前記突起は
前記溝内面に向かって膨出する膨出部を有する、
コネクタ。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のコネクタにおいて、
前記ハウジングは、
前記溝部が略矩形枠状の形状を有して、前記突起が前記溝部の少なくとも四隅のそれぞれに設けられる、
コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、相手側部品と嵌合されるハウジングと、ハウジングと相手側部品との間に挟まれるように用いられ、それら両者間の止水などを図るための環状のパッキンと、を備えたコネクタが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。例えば、この種のコネクタ(以下、「従来コネクタ」という。)が備えるパッキンは、ハウジングに取り付けられて、ハウジングの外周面と相手側部品の内周面の双方と当接するシール部を有する。そして、パッキンは、上述した外周面及び内周面の双方にシール部を当接させることで、外周側部材の内周面と内周側部材の外周面との間を封止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来コネクタは、上述した環状のパッキンを実際に使用する際、パッキンのシール部には、通常、本来のシール性を発揮するべくハウジングと相手側部品との間で押し潰される方向(即ち、径方向)の外力に加え、ハウジングと相手側部品との嵌合に伴う嵌合方向の外力も及ぼされる。具体的には、ハウジングと相手側部品とが嵌合されるとき、相手側部品は、凹凸形状(例えば、シール部)を有するパッキンの表面と押圧接触しながら所定位置まで挿入されるため、パッキンの表面には上述した大きな外力が及ぼされる。特に、上述した外力は、後者の外力(即ち、嵌合方向の外力)が大きくなる傾向がある。後者の外力が過度に大きくなると、パッキンのめくれ上がり等に伴うパッキンの噛み込みや、パッキン自体の座屈変形などが生じる可能性がある。特に、嵌合方向におけるパッキンの端部は、後者の外力によってハウジングに押し付けられ、径方向外側に折れ曲がるように変形する可能性がある(いわゆる、持ち上がり)。
【0005】
発明者による実験および検討によれば、パッキンの端部に持ち上がりが生じることで、パッキンの表面(特に、凸形状の箇所)にも持ち上がりが生じ、パッキンの表面と相手側部品との押圧接触領域の面積(いわゆる、係り代)が大きくなることが明らかになっている。つまり、パッキンの表面と相手側部品との係り代が大きくなることで、ハウジングに対する相手側部品の挿入力が増大する。このため、コネクタは、ハウジングに装着したパッキンに異常変形が生じないことが望ましい。
【0006】
本発明は、上述した状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、使用時におけるパッキンの異常変形を抑制することでシール性を確保し且つ相手側部品のハウジングへの挿入力が低減されるコネクタ、の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明に係るコネクタは、下記[1]~[4]を特徴としている。
[1]
相手側部品と嵌合されるハウジングと、前記ハウジングの外周面に取り付けられて前記相手側部品と前記ハウジングとの間をシールする環状のパッキンと、を備えたコネクタであって、
前記ハウジングは、
嵌合方向における前記パッキンの後側の端部が挿入される溝部と、
前記溝部の底面から、前記嵌合方向に向かって突出する突起と、を有し、
前記パッキンは、
前記端部より前記嵌合方向の前側領域にて、前記ハウジングの前記外周面と前記相手側部品の内周面との間に挟持される筒形状部であって、その外周面に、非弾性変形状態にて径方向外側に突出する環状の第1突起及び第2突起が前記第1突起の後側に前記第2突起が並ぶように設けられた筒形状部を有し、
前記突起が挿入される空洞部を前記端部に有し、
前記端部の一部が、該パッキンの径方向内側の面と向かい合う前記溝部の溝内面と、前記突起との間に位置するとともに、前記溝内面及び前記突起の双方と接触している、
コネクタであること。
[2]
上記[1]に記載のコネクタにおいて、
前記パッキンは、
前記端部の前記一部が、前記溝内面及び前記突起の双方と押圧接触している、
コネクタであること。
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載のコネクタにおいて、
前記突起は
前記溝内面に向かって膨出する膨出部を有する、
コネクタであること。
[4]
上記[1]から上記[3]の何れか一項に記載のコネクタにおいて、
前記ハウジングは、
前記溝部が略矩形枠状の形状を有して、前記突起が前記溝部の少なくとも四隅のそれぞれに設けられる、
コネクタであること。
【0008】
上記[1]の構成のコネクタによれば、ハウジングの溝部には突起が設けられ、且つ、パッキンの端部には突起が挿入される空洞部が設けられることで、上述した持ち上がりが突起によって抑制される。具体的には、嵌合方向におけるパッキンの端部の一部が、溝部の溝内面と突起との間に位置して双方と接触しているため、パッキンに径方向外側に折れ曲がるような力が働いたとしても、突起が端部の一部を押さえつけて、このような変形が抑制される。このため、パッキンの端部の異常変形によるパッキンの表面の異常変形が抑制され、パッキンの表面と相手側部品との係り代の増大も抑制される。この結果、本構成のコネクタは、使用時におけるパッキンの異常変形を抑制することでシール性を確保し且つ相手側部品のハウジングへの挿入力が低減される。
【0009】
また、従来コネクタでは、ハウジングと相手側部品とが嵌合されるときに、周方向への力が働いたときにパッキンが周方向に変位(即ち、回転)するおそれがある。一般に、パッキンの形状は、装着するハウジングの外周形状に対応した形状を有しているため、パッキンが回転すると設計通りのシール性を発揮する妨げになり得る。しかし、本構成のコネクタによれば、ハウジングの突起がパッキンの空洞部に挿入されてパッキンの端部と突起とが接触していることで、パッキンの回転が抑制される。この結果、本構成のコネクタは、ハウジングと相手側部品との間をパッキンによって設計通りに液密的に封止することができ、設計通りのシール性を発揮できる。
【0010】
上記[2]の構成のコネクタによれば、パッキンの端部の一部が、溝内面及び突起の双方と押圧接触していることで、溝内面及び突起が端部の一部を押さえつけるため、上述した異常変形が確実に抑制される。このため、パッキンの端部の異常変形によるパッキンの表面の異常変形が確実に抑制され、パッキンの表面と相手側部品との係り代の増大も確実に抑制される。この結果、本構成のコネクタは、使用時におけるパッキンの異常変形をより適正に抑制することでシール性を確保し且つ相手側部品のハウジングへの挿入力が更に低減される。なお、突起によるパッキンの固定位置が径方向内側に近い(即ち、溝内面と突起との径方向の長さが小さい)ほどパッキンの端部の異常変形を抑制する効果が高い。
【0011】
上記[3]の構成のコネクタによれば、突起の膨出部が少なくとも溝内面に向かって膨出することで、膨出部とパッキンの端部との接触領域の面積(いわゆる、ラップ代)が大きくなる。この結果、パッキンと突起とが接触された状態を確実に維持できる。
【0012】
上記[4]の構成のコネクタによれば、溝部が略矩形枠状の形状を有して突起が溝部の四隅に設けられる。一般に、コネクタは、ハウジングと相手側部品とが嵌合されるとき、上述した理由によりパッキンに回転が生じると、設計通りのシール性を発揮する妨げになり得る。しかし、本構成のコネクタは、パッキンの回転を抑制するために最も効果的である溝部の四隅に突起が設けられる。この結果、本構成のコネクタは、パッキンの回転が抑制されるため、ハウジングと相手側部品との間をパッキンによって設計通りに液密的に封止することができ、設計通りのシール性を発揮できる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、使用時におけるパッキンの異常変形を抑制することでシール性を確保し且つ相手側部品のハウジングへの挿入力が低減されるコネクタを提供できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るコネクタと相手側部品とが嵌合された状態を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るコネクタを示す斜視図である。
【
図4】
図4(a)は、
図3に示すハウジングを前方から見た平面図であり、
図4(b)は、突起の拡大斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、
図3に示すパッキンを後方から見た平面図であり、
図5(b)は、溝部の拡大斜視図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すハウジングのパッキン装着箇所の拡大図である。
【
図8】
図8(a)は、
図7に示すコネクタとケースとの嵌合途中段階を示す断面図であり、
図8(b)は、
図7に示すコネクタとケースとの嵌合完了段階を示す断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の他の実施形態に係るハウジングの突起を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るコネクタ1について説明する。
図1に示す例では、パッキン20が装着されたハウジング10が、ケース30と嵌合することで、パッキン20が封止機能を発揮している。
【0017】
以下、説明の便宜上、
図1に示すように、「前後方向」、「上下方向」、「幅方向」、「上」及び「下」を定義する。「前後方向」、「幅方向」及び「上下方向」は、互いに直交している。前後方向は、ハウジング10及びケース30の嵌合方向と一致している。ハウジング10、パッキン20、及び、ケース30の各々に関し、ハウジング10の嵌合方向正面側(パッキン20及びケース30に近づく側)を「前側」と呼び、ハウジング10の嵌合方向解除側(パッキン20及びケース30から遠ざかる側)を「後側」と呼ぶ。具体的には、
図1において、左方向及び右方向がそれぞれ前側及び後側である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、コネクタ1は、ケース30が嵌合されるハウジング10と、ハウジング10の外周面12aに取付けられる環状のパッキン20と、を含んで構成される。ハウジング10及びパッキン20の各々は、コネクタ1である。なお、ケース30は、本発明の「相手側部品」に対応している。
【0019】
まず、ハウジング10について説明する。ハウジング10は樹脂成形体であり、
図1に示すように、前方にケース30が嵌合される。
図2に示すように、ハウジング10の外周は、前後方向からみて、幅方向に長い略矩形状の形状を有している。ハウジング10は、本体部11と、本体部11と連設されて、後方に開口し且つ前方に窪む嵌合凹部15(
図6参照)を有し、嵌合凹部15には、相手側コネクタのハウジング等(不図示)が挿入されて、コネクタ1と相手側コネクタ等とが電気的に接続されることになる。嵌合凹部15の内部には、嵌合凹部15の底面を画成する底壁(不図示)から前方に向けて突出して前後方向に延びる端子収容部12が設けられている。
【0020】
図2に示すように、端子収容部12の外周は、前後方向からみて、幅方向に長い略矩形状の形状を有している。端子収容部12の内部には、前後方向に延びる複数の端子収容室12bが、幅方向に並ぶように形成されている。各端子収容室12bには、前方から、端子が挿入されて収容されることになる。
【0021】
図3に示すように、ハウジング10は、本体部11と端子収容部12との間に、前方に開口し且つ後方に窪む溝部13が設けられている。溝部13は、略矩形枠状の形状を有しており、開口端縁(即ち、本体部11の前端)には、径方向に延びる前端面11aと、前端面11aの径方向外側の端部と連続して前方に延びる規制部11bと、が設けられている。前端面11aは、後述する第3突起23の第3シール部23aと当接し、規制部11bは、第3突起23の頂部が径方向外側へ向かう変形を抑制する。
【0022】
図3及び
図4に示すように、ハウジング10は、溝部13の底面から前方に向かって突出する略円筒状の突起14が周方向の全域に亘って複数個所(本例では、12箇所)に設けられている。
【0023】
次いで、パッキン20について説明する。パッキン20は、樹脂(ゴム)の成形体であり、
図2及び
図3に示すように、ハウジング10の端子収容部12の外周形状に対応して、略矩形状の環状形状を有している。パッキン20は、
図2及び
図6に示すように、ハウジング10の前方から端子収容部12の外周に挿入されて、端子収容部12の外周面12a、溝部13、及び、突起14に係止される。
【0024】
パッキン20は、
図5~
図7に示すように、弾性変形していない状態において、前後方向に延びる環状の基準外周面20a及び前後方向に延びる環状の基準内周面20bにより画成され且つ肉厚が全域に亘って一定の基準筒形状に対して、外周面に、径方向外側に突出する環状の第1突起21及び第2突起22、第1突起21及び第2突起22よりも後方且つ径方向外側に突出する第3突起23が設けられ、且つ、後端部25に、後方に開口し且つ前方に窪む空洞部24が設けられた、筒形状を有している。なお、空洞部24は、後方に開口して前後方向に貫通していてもよい。
【0025】
第1突起21は、パッキン20の前側領域に設けられ、第2突起22は、第1突起21の後側にて第1突起21と前後方向に並ぶように設けられている。パッキン20の前後方向における第1突起21の頂部に対応する部分が、本発明の第1シール部21aを構成し、パッキン20の前後方向における第2突起22の頂部に対応する部分が、本発明の第2シール部22aを構成している。第1シール部21a及び第2シール部22aの肉厚(径方向の長さ)は、同等であり、且つ、パッキン20の前後方向における第3突起23を除く他の部分の肉厚より大きい。
【0026】
第3突起23は、パッキンの後側領域且つ第1突起21及び第2突起22の後側にて第1突起21及び第2突起22と前後方向に並ぶように設けられている。パッキン20の前後方向における第3突起23の後端面に対応する部分が、本発明の第3シール部23aを構成している。第3突起23の肉厚は、他の部分の肉厚よりも大きい。
【0027】
空洞部24は、
図5に示すように、突起14に対応するように周方向の全域に亘って複数個所(本例では、12箇所)に設けられている。後端部25は、空洞部24に対応する箇所に、空洞部24よりも径方向内側に位置する内側部25aと、空洞部24よりも径方向外側に位置する外側部25bと、を有している。内側部25aの径方向の長さ(即ち、肉厚)は、外周面12aと突起14との長さよりも大きい。このため、内側部25aは、後述するように、外周面12a及び突起14の双方と押圧接触する。
【0028】
以上説明した形状を有するパッキン20は、本例では、
図6~
図8に示すように、パッキン20の空洞部24にハウジング10の突起14が挿入されて、パッキン20がハウジング10の端子収容部12の外周面12aに装着される。
【0029】
このとき、内側部25aは、
図6~
図8に示すように、突起14と外周面12aとの間に位置するとともに、突起14及び外周面12aと押圧接触されている。また、外側部25bは、
図6~
図8に示すように、突起14と本体部11との間に位置し、本体部11とは接触していない。なお、外側部25bは、突起14及び本体部11と押圧接触されていてもよい。
【0030】
パッキン20が装着されたハウジング10には、
図8に示すように、ケース30が嵌合される。ハウジング10とケース30とを嵌合させるためには、まず、ハウジング10の前端部及びケース30の後端部を前後方向に向かい合うように配置する。次いで、端子収容部12の外周面12a上にケース30が挿入され、端子収容部12の外周面12aとケース30の内周面との間の環状隙間にパッキン20が挟まれるように、ハウジング10及びケース30を前後方向に互いに近づける。
【0031】
ケース30が端子収容部12の外周面12a上の所定の位置まで挿入されると、ハウジング10及びケース30の嵌合が完了する(
図1参照)。嵌合完了状態では、ハウジング10及びケース30の分離が防止される。
【0032】
嵌合完了状態では、パッキン20の第1シール部21a及び第2シール部22aが、端子収容部12及びケース30の間で径方向に押し潰されて、端子収容部12の外周面12a及びケース30の内周面の双方と押圧接触している。この結果、パッキン20は、端子収容部12の外周面12aとケース30の内周面との間の環状隙間を液密的に封止している。
【0033】
パッキン20が装着されたハウジング10へのケース30の嵌合の進行に伴い、まず、ケース30の後端面31が、パッキン20の第1突起21に当接する。以降、後端面31が第1突起21を押圧することで、第1突起21に後端面31から大きな外力が及ぼされる。このとき、パッキン20には、ケース30の挿入方向(即ち、後方向)に向かう外力、及び、パッキン20が押し潰される方向(即ち、径方向内側)に向かう外力が加わる。このため、パッキン20の後端部25には、上述した外力によって、端子収容部12から離れるような径方向外側に向かう外力が働く(いわゆる、持ち上がり)。しかし、パッキンの空洞部24には、ハウジング10の突起14が挿入されていることで、後端部25の持ち上がりが突起14によって抑制される。
【0034】
そして、ケース30の後端面31が第1シール部21aを乗り越えた後、後端面31が、第2突起22の外周面における第2シール部22aより前側の部分に当接する。このとき、第2突起22と後端面31との押圧接触領域の面積が(いわゆる、係り代)は、後端部25の持ち上がりが抑制されたことで、後端部25が持ち上がった場合に比べて、遥かに小さくなる。以降、後端面31がこの部分を押圧することで、第2突起22に後端面31から大きな外力が及ぼされるが、上述したように後端部25の持ち上がりは突起14によって抑制される。
【0035】
そして、ケース30の後端面31が第2シール部22aを乗り越えた後、後端面31が、第3突起23を押圧することで、第3シール部23aが本体部11の前端面11aと当接する。つまり、第3突起23は、本体部11の前端面11aとケース30の後端面31との間の環状隙間に挟まれて、この環状隙間を液密的に封止している。
【0036】
以上のようにケース30の後端面31が第1シール部21a及び第2シール部22aを乗り越えた段階では、パッキン20の外周面とケース30の内周面との間の押圧接触領域の面積が大きいことに起因して、パッキン20の外周面とケース30の内周面との間の擦動摩擦力が大きくなっている。このため、パッキン20の後端部25は、この擦動摩擦力に起因する後向きの大きな外力を受けて、溝部13の底面に押し付けられる。
【0037】
一般に、従来コネクタでは、このように底面に押し付けられた後端部25は、基準内周面20b側における第2突起22近傍の径方向外側に窪む箇所を基点にして径方向外側に折れ曲がるように変形する(いわゆる、持ち上がり)。発明者による実験および検討によれば、従来コネクタでは、パッキン20の後端部25がこのように折れ曲がることで、第2突起22でも径方向外側に持ち上がり、ケース30と第2突起22との押圧接触領域の面積が(いわゆる、係り代)が大きくなることが明らかになっている。
【0038】
しかし、本発明の実施形態に係るコネクタでは、このように後端部25が折れ曲がる段階にて、ハウジング10の突起14がパッキン20の後端部25の持ち上がりを抑制する。つまり、嵌合完了状態では、パッキン20の異常変形(即ち、噛み込みや座屈など)が生じることなく、パッキン20の第1シール部21a及び第2シール部22aが、端子収容部12の外周面12a及びケース30の内周面の間で径方向に押し潰されて、端子収容部12の外周面12a及びケース30の内周面の双方と押圧接触している。この結果、パッキン20は、端子収容部12の外周面12aとケース30の内周面との間の環状隙間を液密的に確実に封止している。
【0039】
更に、第3シール部23aが、前端面11a及びケース30の間で前後方向に押し潰されて、前端面11a及びケース30の後端面31の双方と押圧接触している。この結果、パッキン20は、前端面11aとケース30の後端面31との間の環状隙間を液密的に確実に封止している。
【0040】
<作用・効果>
本実施形態に係るコネクタ1によれば、ハウジング10の溝部13には突起14が設けられ、且つ、パッキン20の後端部25には突起14が挿入される空洞部24が設けられることで、上述した持ち上がりが突起14によって抑制される。具体的には後端部25の内側部25aが、外周面12aと突起14との間に位置して、この双方と接触しているため、パッキン20に径方向外側に折れ曲がるような力が働いたとしても、突起14が内側部25aを押さえつけて、このような変形が抑制される。このため、パッキン20の後端部25の異常変形によるパッキン20の表面(特に、第2突起22)の異常変形が抑制され、パッキン20の表面とケース30との係り代の増大も抑制される。この結果、本実施形態に係るコネクタ1は、使用時におけるパッキン20の異常変形を抑制することでシール性を確保し且つケース30のハウジング10への挿入力が低減される。
【0041】
更に、突起14が空洞部24に挿入されて後端部25と突起14とが接触していることで、パッキンの周方向の変位(即ち、回転)が抑制される。この結果、本実施形態に係るコネクタ1は、ハウジング10とケース30との間をパッキン20によって設計通りに液密的に封止することができ、設計通りのシール性を発揮できる。
【0042】
更に、後端部25の内側部25aが、外周面12a及び突起14との双方と押圧接触していることで、外周面12a及び突起14が後端部25を押さえつけるため、上述した異常変形が確実に抑制される。このため、後端部25の異常変形によるパッキン20の表面の異常変形が確実に抑制され、パッキン20の表面とケース30との係り代の増大も確実に抑制される。この結果、本実施形態に係るコネクタ1は、使用時におけるパッキン20の異常変形をより適正に抑制することでシール性を確保し且つケース30のハウジング10への挿入力が更に低減される。なお、突起14による後端部25の固定位置が径方向内側に近い(即ち、外周面12aと突起14との径方向の長さが小さい)ほど後端部25の異常変形を抑制する効果が高い。
【0043】
更に、突起14が第2突起22に近いほど、第2突起22の持ち上がりが抑制される。
【0044】
更に、略矩形枠状の溝部13において、パッキン20の回転を抑制するために最も効果的である四隅のそれぞれに突起14が設けられる。この結果、本実施形態に係るコネクタ1は、ハウジング10とケース30との間をパッキン20によって設計通りに液密的に封止することができ、設計通りのシール性を発揮できる。
【0045】
また、例えば、ハウジング10に突起14を設けずに溝部13を狭くすることでパッキン20の後端部25の異常変形を抑制する方法を選択してしまうと、後端部25の肉厚が薄くなり、パッキン20の剛性が低下するおそれがある。このように、パッキン20の剛性が低下すると、ハウジング10へパッキン20を組み付ける(装着する)ときに、後端部25に捲れや曲がりが生じて、ハウジング10へのパッキン20の組付性が低減するおそれがある。加えて、ハウジング10に突起14を設けたとしても、突起14よりも径方向外側に後端部25(即ち、外側部25b)がないと後端部25の肉厚が薄くなり、上述したように、ハウジング10へのパッキン20の組付性が低減するおそれがある。しかし、本実施形態に係るコネクタ1は、後端部25が内側部25a及び外側部25bを有することで後端部25の肉厚が確保され、ハウジング10が突起14を有することで溝部13を狭めなくてもよい。この結果、本実施形態に係るコネクタ1は、ハウジング10へのパッキン20の組付性が確保される。
【0046】
<他の形態>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0047】
本実施形態では、突起14が略円筒状に形成されているが、
図9に示すように、突起14の前側の一部が突起14の径方向に膨出する膨出部14aが設けられていてもよい。このように、突起14に膨出部14aが設けられていることで、突起14と後端部25(即ち、パッキン20)の接触領域の面積(いわゆる、ラップ代)が大きくなる。つまり、後端部25と突起14とが接触された状態を確実に維持できる。
【0048】
なお、膨出部14aは、突起14の前側に設けられることが好ましい。これにより、突起14において膨出部14aよりも後側では、パッキン20の圧縮量が小さいため膨出部14aと後側が係り合い、パッキン20が突起14から抜け難くなる。また、突起14の前側でパッキン20を押さえることで、後端部25の異常変形を抑制できる。このため、後端部25の異常変形によるパッキン20の第1突起21及び第2突起22(特に、第2突起22)の異常変形が抑制され、第2突起22とケース30との係り代の増大も抑制される。この結果、使用時におけるパッキン20の異常変形を抑制することでシール性を確保し且つケース30のハウジング10への挿入力が低減される。
【0049】
本実施形態では、突起14が略円筒状に形成されているが、周方向に連続するリブ状に形成されてもよい。このとき、リブ状に形成された突起14は、周方向の全域に亘って連続するものではなく、周方向において複数に分断され、パッキン20はリブ状の突起14に対応するように空洞部24が形成される。リブ状の突起14が分断されることで、パッキン20が周方向に回転することが抑制される。また、パッキン20は、パッキン20の強度を確保し、且つ、ケース30のハウジング10への挿入力が低減されるために、径方向の外側及び内側で分断されていない箇所が、周方向に所定範囲延びていることが好ましい。なお、パッキン20の強度確保と、ケース30のハウジング10への挿入力が低減とが両立されるように空洞部24の形状は適宜設定される。
【0050】
ここで、上述した本発明に係るコネクタの実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]~[4]に簡潔に纏めて列記する。
[1]
相手側部品(ケース30)と嵌合されるハウジング(10)と、前記ハウジングの外周面に取り付けられて前記相手側部品と前記ハウジングとの間をシールする環状のパッキン(20)と、を備えたコネクタ(1)であって、
前記ハウジング(10)は、
嵌合方向における前記パッキンの端部が挿入される溝部(13)と、
前記溝部の底面から、前記嵌合方向に向かって突出する突起(14)と、を有し、
前記パッキン(20)は、
前記突起が挿入される空洞部(24)を前記端部(後端部25)に有し、
前記端部の一部(内側部25a)が、該パッキンの径方向内側の面(基準内周面20b)と向かい合う前記溝部の溝内面(外周面12a)と、前記突起(14)との間に位置するとともに、前記溝内面(外周面12a)及び前記突起(14)の双方と接触している、
コネクタ(1)。
[2]
上記[1]に記載のコネクタ(1)において、
前記パッキン(20)は、
前記端部の前記一部(内側部25a)が、前記溝内面(外周面12a)及び前記突起(14)の双方と押圧接触している、
コネクタ(1)。
[3]
上記[1]又は上記[2]に記載のコネクタ(1)において、
前記突起(14)は
前記溝内面(外周面12a)に向かって膨出する膨出部(14a)を有する、
コネクタ(1)。
[4]
上記[1]から上記[3]の何れか一項に記載のコネクタ(1)において、
前記ハウジング(10)は、
前記溝部(13)が略矩形枠状の形状を有して、前記突起(14)が前記溝部の少なくとも四隅のそれぞれに設けられる、
コネクタ(1)。
【符号の説明】
【0051】
1 コネクタ
10 ハウジング
12a 外周面(溝内面)
13 溝部
14 突起
14a 膨出部
20 パッキン
24 空洞部
25 後端部
25a 内側部
25b 外側部
30 ケース(相手側部品)
31 後端面