(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】物理シミュレーションを伴う施工管理システム,施工管理方法,および施工管理プログラム
(51)【国際特許分類】
E04G 21/18 20060101AFI20240416BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240416BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20240416BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240416BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240416BHJP
【FI】
E04G21/18 C ESW
G06F30/10
G06F30/13
G06F30/20
G06Q50/08
(21)【出願番号】P 2020190209
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】110004060
【氏名又は名称】弁理士法人あお葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100207642
【氏名又は名称】簾内 里子
(74)【代理人】
【識別番号】100077986
【氏名又は名称】千葉 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100139745
【氏名又は名称】丹波 真也
(74)【代理人】
【識別番号】100187182
【氏名又は名称】川野 由希
(74)【代理人】
【識別番号】100168088
【氏名又は名称】太田 悠
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】岡 尚人
(72)【発明者】
【氏名】木内 仁紀
(72)【発明者】
【氏名】西田 信幸
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-046946(JP,A)
【文献】特開2019-185448(JP,A)
【文献】特開2017-116437(JP,A)
【文献】特開2018-179533(JP,A)
【文献】特開2021-099673(JP,A)
【文献】特開2014-134436(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111832188(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/18
E04G 21/00
G06F 30/10
G06F 30/13
G06F 30/20
G06Q 50/00-50/20
G06Q 50/26-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、情報の送受信を行って、
前記設計データベースから、前記構造物全体の前記設計モデルを読み出すステップと、
前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルと一致するよう初期施工モデルを設計するステップと、
前記初期施工モデルから、現段階で施工が完了した部分の施工完了部分モデルを抽出するステップと、
前記物理シミュレーションを前記施工完了部分モデルに対して行い、部分物理シミュレーション結果を算出するステップと、
前記計測データベースの、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから、計測モデルを得るステップと、
前記部分物理シミュレーション結果と前記計測モデルを比較して、実物差分を算出するステップと、
前記実物差分に基づいて、前記初期施工モデルの次以降に施工する部分または前記構造物の実物の施工内容を指示するステップと、
を有することを特徴とする施工管理方法。
【請求項2】
構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、情報の送受信を行って、
前記設計データベースから、前記構造物全体の前記設計モデルを読み出すステップと、
前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルと一致するよう初期施工モデルを設計するステップと、
前記計測データベースの、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから、計測モデルを得るステップと、
前記現段階で施工が完了した部分の前記計測モデルに、前記初期施工モデルのうち現段階で施工が完了していない部分を足し合わせ、前記構造物全体の合成モデルを作成するステップと、
前記物理シミュレーションを前記合成モデルに対して行った更新最終形物理シミュレーション結果から、更新初期施工モデルを設計するステップと、
前記更新初期施工モデルから次以降に施工する部分を抽出し、前記更新初期施工モデルの前記次以降に施工する部分に基づいて、施工内容を指示するステップと、
を有することを特徴とする施工管理方法。
【請求項3】
前記初期施工モデルを設計するステップにおいて、
(i)前記設計モデルに対して前記物理シミュレーションを行った前記最終形物理シミュレーション結果と前記設計モデルとの設計差分を算出し、前記設計モデルに前記設計差分を考慮して、前記最終形物理シミュレーション結果が前記設計モデルと一致するよう前記初期施工モデルを設計する
(ii)前記設計モデルに基づいて作成された仮初期施工モデルに対して前記物理シミュレーションを行った前記最終形物理シミュレーション結果と前記設計モデルとの設計差分を算出し、前記設計モデルに前記設計差分を考慮して、前記最終形物理シミュレーション結果が前記設計モデルと一致するよう前記初期施工モデルを設計する
のいずれかを行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の施工管理方法。
【請求項4】
前記初期施工モデルを設計するステップにおいて、
前記設計モデルに対して前記物理シミュレーションを逆変換して行う逆物理シミュレーションを行った逆物理シミュレーション結果から、前記初期施工モデルを設計する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の施工管理方法。
【請求項5】
前記計測モデルを得るステップにおいて、
前記計測データとして、前記構造物の下層基準点と最上層基準点の計測データが、それぞれ少なくとも一つ読み出される
こと特徴とする請求項1または2に記載の施工管理方法。
【請求項6】
構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、
前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、
前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行う物理シミュレーション部と、
前記物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルに一致するよう設計された初期施工モデルを記憶する初期施工データベースと、
前記初期施工モデルから、現段階で施工が完了した部分を抽出した施工完了部分モデルを記憶する施工完了部分データベースと、
前記施工完了部分モデルに対して前記物理シミュレーションを行った部分物理シミュレーション結果を記憶する部分物理シミュレーション結果データベースと、
前記部分物理シミュレーション結果と、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから得た計測モデルとを比較して、実物差分を算出する比較部と、
前記実物差分に基づいて、前記初期施工モデルの次以降に施工する部分または前記構造物の実物の施工内容を指示する施工指示部と、
を備えることを特徴とする施工管理システム。
【請求項7】
構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、
前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、
前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行う物理シミュレーション部と、
前記物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルに一致するよう設計された初期施工モデルを記憶する初期施工データベースと、
現段階で施工が完了した部分の前記計測データから得た計測モデルに、前記初期施工モデルのうち現段階で施工が完了していない部分を足し合わせた、前記構造物全体の合成モデルを作成し、前記合成モデルに対して前記物理シミュレーションを行った更新最終形物理シミュレーション結果から、更新初期施工モデルを設計する更新部と、
前記更新初期施工モデルから次以降に施工する部分を抽出し、前記更新初期施工モデルの前記次以降に施工する部分に基づいて、施工内容を指示する施工指示部と、
を備えることを特徴とする施工管理システム。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の施工管理方法を、コンピュータプログラムで記載し、それを実行可能にしたことを特徴とする施工管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル等の構造物を建築するための施工管理システム,方法,およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築分野における構造物の設計には、BIM(Building Information Modeling)と呼ばれる3Dモデルが活用されている。構造物の施工現場では、設計BIMに基づき構造物の構成部材(例えば柱、梁、床など)が施工され、各構成部材が設計通り組み立てられているかどうか、実際に施工された構造物の実物を計測して検査が行われる。例えば特許文献1では、構造物の倒れを簡単かつ高精度に計測するための測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
構造物の施工は、構造物の最終形が設計通りになることが望まれる。しかしながら、構造物の施工が進むにつれ、各構成部材は重みにより変形したり、気温変化により伸縮したりするが、このような物理的変形は設計BIMには考慮されていない。このため、各階を設計通りに施工しても、最終形を設計通りに施工することは難しく、そして最終形の変形は修正することも難しい。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、構造物の最終形が設計通りとなるように、構造物のモデルに対して物理的変形を加える物理シミュレーションを行い、自重などの物理的変形及びすでに施工した部分の計測結果を考慮することにより、施工の途中過程で施工内容を見直す施工管理システム、方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の施工管理方法は、構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、情報の送受信を行って、前記設計データベースから、前記構造物全体の前記設計モデルを読み出すステップと、前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルと一致するよう初期施工モデルを設計するステップと、前記初期施工モデルから、現段階で施工が完了した部分の施工完了部分モデルを抽出するステップと、前記物理シミュレーションを前記施工完了部分モデルに対して行い、部分物理シミュレーション結果を算出するステップと、前記計測データベースの、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから、計測モデルを得るステップと、前記部分物理シミュレーション結果と前記計測モデルを比較して、実物差分を算出するステップと、前記実物差分に基づいて、前記初期施工モデルの次以降に施工する部分または前記構造物の実物の施工内容を指示するステップと、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の別の態様の施工管理方法は、構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、情報の送受信を行って、前記設計データベースから、前記構造物全体の前記設計モデルを読み出すステップと、前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルと一致するよう初期施工モデルを設計するステップと、前記計測データベースの、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから、計測モデルを得るステップと、前記現段階で施工が完了した部分の前記計測モデルに、前記初期施工モデルのうち現段階で施工が完了していない部分を足し合わせ、前記構造物全体の合成モデルを作成するステップと、前記物理シミュレーションを前記合成モデルに対して行った更新最終形物理シミュレーション結果から、更新初期施工モデルを設計するステップと、前記更新初期施工モデルから次以降に施工する部分を抽出し、前記更新初期施工モデルの前記次以降に施工する部分に基づいて、施工内容を指示するステップと、を有することを特徴とする。
【0008】
上記態様において、前記初期施工モデルを設計するステップにおいて、(i)前記設計モデルに対して前記物理シミュレーションを行った前記最終形物理シミュレーション結果と前記設計モデルとの設計差分を算出し、前記設計モデルに前記設計差分を考慮して、前記最終形物理シミュレーション結果が前記設計モデルと一致するよう前記初期施工モデルを設計する、(ii)前記設計モデルに基づいて作成された仮初期施工モデルに対して前記物理シミュレーションを行った前記最終形物理シミュレーション結果と前記設計モデルとの設計差分を算出し、前記設計モデルに前記設計差分を考慮して、前記最終形物理シミュレーション結果が前記設計モデルと一致するよう前記初期施工モデルを設計する、のいずれかを行うのも好ましい。
【0009】
上記態様において、前記初期施工モデルを設計するステップにおいて、前記設計モデルに対して前記物理シミュレーションを逆変換して行う逆物理シミュレーションを行った逆物理シミュレーション結果から、前記初期施工モデルを設計するのも好ましい。
【0010】
上記態様において、前記計測モデルを得るステップにおいて、前記計測データとして、前記構造物の下層基準点と最上層基準点の計測データが、それぞれ少なくとも一つ読み出されるのも好ましい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の施工管理システムは、構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行う物理シミュレーション部と、前記物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルに一致するよう設計された初期施工モデルを記憶する初期施工データベースと、前記初期施工モデルから、現段階で施工が完了した部分を抽出した施工完了部分モデルを記憶する施工完了部分データベースと、前記施工完了部分モデルに対して前記物理シミュレーションを行った部分物理シミュレーション結果を記憶する部分物理シミュレーション結果データベースと、前記部分物理シミュレーション結果と、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから得た計測モデルとを比較して、実物差分を算出する比較部と、前記実物差分に基づいて、前記初期施工モデルの次以降に施工する部分または前記構造物の実物の施工内容を指示する施工指示部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の別の態様の施工管理システムは、構造物の設計モデルを記憶した設計データベースと、前記構造物に関する計測データを記憶した計測データベースと、前記構造物のモデルに物理的変形を加える物理シミュレーションを行う物理シミュレーション部と、前記物理シミュレーションを行った最終形物理シミュレーション結果が、前記設計モデルに一致するよう設計された初期施工モデルを記憶する初期施工データベースと、現段階で施工が完了した部分の前記計測データから得た計測モデルに、前記初期施工モデルのうち現段階で施工が完了していない部分を足し合わせた、前記構造物全体の合成モデルを作成し、前記合成モデルに対して前記物理シミュレーションを行った更新最終形物理シミュレーション結果から、更新初期施工モデルを設計する更新部と、前記更新初期施工モデルから次以降に施工する部分を抽出し、前記更新初期施工モデルの前記次以降に施工する部分に基づいて、施工内容を指示する施工指示部と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、上記態様の施工管理方法を、コンピュータプログラムで記載し、それを実行可能にすることも好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、構造物のモデルに対して物理的変形を加える物理シミュレーションを行い、施工の途中過程で施工内容を見直すことにより、構造物の最終形が設計通りになる施工管理を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る施工管理システムの構成ブロック図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る施工管理方法を示すフロー図である。
【
図3A】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定通り進んだ場合の、施工管理イメージである。
【
図3B】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定通り進んだ場合の、施工管理イメージである。
【
図3C】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定通り進んだ場合の、施工管理イメージである。
【
図3D】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定通り進んだ場合の、施工管理イメージである。
【
図4A】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図4B】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図4C】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図4D】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図5A】
図2のフローにおいて、温度変化による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図5B】
図2のフローにおいて、温度変化による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図5C】
図2のフローにおいて、温度変化による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図5D】
図2のフローにおいて、温度変化による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図6A】
図2のフローにおいて、倒れによる物理シミュレーションで、施工が予定通り進んだ場合の、施工管理イメージである。
【
図6B】
図2のフローにおいて、倒れによる物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。
【
図7A】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、墨出しをする場合の、施工管理イメージである。
【
図7B】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、墨出しをする場合の、施工管理イメージである。
【
図7C】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、墨出しをする場合の、施工管理イメージである。
【
図7D】
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、墨出しをする場合の、施工管理イメージである。
【
図8】本発明の第二の実施形態に係る施工管理システムの構成ブロック図である。
【
図9】本発明の第二の実施形態に係る施工管理方法を示すフロー図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係る変形例1の施工管理イメージである。
【
図12】本発明の実施の形態に係る変形例2の施工管理イメージである。
【
図13】本発明の実施の形態に係る変形例3の施工管理イメージである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
第一の実施形態:
<施工管理システムの構成>
図1は、本発明の第一の実施形態に係る施工管理システム1の構成ブロック図である。施工管理システム1は、入出力装置2と、設計データベース3と、計測データベース4と、初期施工データベース5と、施工完了部分データベース6と、部分物理シミュレーション結果データベース7と、物理シミュレーション部10と、設計部11と、比較部12と、施工指示部13と、を備える。
【0018】
入出力装置2は、少なくとも演算部、記憶部、通信部、表示部、操作部を備える汎用パーソナルコンピュータやタブレット端末等であり、管理者からの操作が可能である。
【0019】
物理シミュレーション部10と、設計部11と、比較部12と、施工指示部13の各機能部は、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により構成される。各機能部は、入出力装置2内に、または他の外部ハードウェア/ソフトウェアのいずれかで構成されている。後者の場合、各機能部は入出力装置2とネットワークを通じて情報の送受信を行える。
【0020】
設計データベース3には、施工する構造物の設計BIMデータ(構造物を構成する一つ一つの構成部材を3Dモデル形状で有したデータ。以降、設計モデルと称する。)の情報が記憶されている。設計データベース3は、少なくとも、各構成部材に関し、部材識別情報(部材ID)と,部材座標と,部材形状とを関連付けた情報を記憶している。
【0021】
計測データベース4には、3Dスキャナ、トータルステーション、レベル、またはGPS等を利用して得られた上記構造物の計測データ(座標情報を統一したデータ)が記憶されている。計測データベース4では、後述する計測モデルが部材単位で抽出可能なように、各点に部材IDを割りつけ、各点がどの構成部材のものかが識別できるように構成されるのも好ましい。
【0022】
初期施工データベース5には、後述する物理シミュレーションを行った結果を基に、「構造物の最終形が設計モデル通りとなるように」設計された3Dモデル(以降、「初期施工モデル」と称する。)に関する情報が記憶される。
【0023】
施工完了部分データベース6には、初期施工データベース5に記憶されている初期施工モデルから、「施工が完了した部分」だけを抽出した3Dモデル(以降、「施工完了部分モデル」と称する。)に関する情報が記憶される。
【0024】
部分物理シミュレーション結果データベース7には、施工完了部分モデルに対して物理シミュレーションを行った結果の3Dモデル(以降、「部分物理シミュレーション結果」と称する。)に関する情報が記憶される。
【0025】
設計データベース3,計測データベース4,初期施工データベース5,施工完了部分データベース6,および部分物理シミュレーション結果データベース7は、ネットワークを介して通信可能に構成されたサーバコンピュータに記憶されている。各データベース3~7は、部材IDにより関連付けられている。上記サーバコンピュータは、関連する機能部と通信が可能であり、関連する機能部と情報の送受信を行える。
【0026】
物理シミュレーション部10は、構造物のモデルに対して物理的変形を加える物理シミュレーションを行う。物理シミュレーションは、構造物の各構成部材に加わる外力により各構成部材に生じる変位・応力・ひずみ等を計算し、各構成部材を計算結果の形状に変更するものである。物理シミュレーションの代表的なものとして、構成部材の、温度変化による変形の計算、引張荷重・圧縮荷重による変形の計算、傾きによる変形の計算、または有限要素法による計算が挙げられる。物理シミュレーションは、上記計算に限るものではなく、例えば地盤沈下、たわみ、風、水分量の計算等を考慮に入れることもでき、さらにこれらの計算を組み合わせた複合的なシミュレーションで行うのが好適である。また、構成部材について、鉄材,アルミ材,コンクリート,またはガラスなど、材料特性に合わせたシミュレーションが可能である。
【0027】
設計部11は、設計モデルと物理シミュレーション部10が行った物理シミュレーション結果とを比較し、設計モデルとの間に差分ある場合には、差分の量を算出する。設計部11が求める差分は、以降「設計差分」と称する。設計部11は、設計差分に基づいて、初期施工モデルを設計する。
【0028】
比較部12は、計測モデルとこれに対応する部分の物理シミュレーション結果とを比較し、計測モデルとの間に差分がある場合には、差分の量を算出する。ここで、計測モデルは現段階での構造物の実物と一致する。比較部12が求める差分は、以降「実物差分」と称する。
【0029】
施工指示部13は、実物差分に基づき、初期施工モデルの次以降に施工する部分(「次以降に施工する部分」については後述する)に対して、または構造物の実物に対して、施工内容を指示する。
【0030】
物理シミュレーション部10,設計部11,比較部12,施工指示部13の機能については、次に説明する施工管理方法でさらに詳述する。
【0031】
<施工管理方法>
次に、上記の施工管理システム1を用いた施工管理方法を説明する。
図2は本発明の第一の実施形態に係る施工管理方法を示すフロー図である。
【0032】
施工管理が開始されると、ステップS1001で、物理シミュレーション部10が機能して、設計データベース3から構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100を読み出す。
【0033】
次に、ステップS1002に移行して、物理シミュレーション部10は、構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100(請求項における「構造物のモデル」の一つである)に対して物理シミュレーションを行い、構造物の最終形の物理シミュレーション結果(以降、「最終形物理シミュレーション結果」と称する)200を算出する。最終形物理シミュレーション結果200は、柱や梁等の構成部材に、縮み,撓み,傾斜等の物理的変形が生じるため、設計モデル100とは異なる形となる。
【0034】
次に、ステップS1003に移行して、設計部11が機能する。設計部11は、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200との設計差分を算出し、設計モデル100に設計差分を考慮して、初期施工モデル300を設計する。具体的に、設計部11は、構成部材ごとに設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200を比較し、設計モデル100より最終形物理シミュレーション結果200が減っていた場合はその構成部材の設計モデル100に設計差分を足し、設計モデル100より最終形物理シミュレーション結果200が増えていた場合はその構成部材の設計モデル100から設計差分を引いて、初期施工モデル300を設計する(以降、この作業を「設計作業」と称する)。設計作業はトライアンドエラーを繰り返すことが想定され、設計差分を調整しながら複数回行われてよい。設計作業により、最終的に、初期施工モデル300は、物理シミュレーションを行うと、設計モデル100と一致する関係になる。初期施工モデル300は、初期施工データベース5に記憶される。
【0035】
次に、ステップS1004に移行して、次は比較部12が機能する。比較部12は、初期施工データベース5に記憶された初期施工モデル300から、「現段階で施工が完了した部分」の施工完了部分モデル400を抽出する。
【0036】
次に、ステップS1005に移行して、比較部12は、ステップS1004の施工完了部分モデル400を施工完了部分データベース6に保存する。
【0037】
次に、ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400に対して物理シミュレーションを行わせ、構造物の部分的な物理シミュレーション結果(以降、「部分物理シミュレーション結果」と称する)500を算出させる。部分物理シミュレーション結果500は、物理的変形が生じない場合、施工完了部分モデル400と一致し、物理的変形が生じる場合、施工完了部分モデル400とは異なる形となる。
【0038】
次に、ステップS1007に移行して、物理シミュレーション部10は、部分物理シミュレーション結果500を部分物理シミュレーション結果データベース7に保存する。
【0039】
次に、ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から計測データを読み出し、計測データから構造物の計測モデル600を得る。計測モデル600は現段階での構造物の実物と一致する。計測モデル600は、例えば計測した日時情報等で指定された計測データ群や、割り付けられた部材IDで指定された計測データ群を読み出すことで作成される。または、計測モデル600は、別の装置で作成したものを通信により読み込んで得てもよい。
【0040】
次に、ステップS1009に移行して、比較部12は、S1006の部分物理シミュレーション結果500とステップS1008の計測モデル600を比較し、シミュレーションと実物との差分、即ち、実物差分を算出する。
【0041】
比較の結果、部分物理シミュレーション結果500と計測モデル600に、実物差分が生じなかった場合、施工指示部13は、ステップS1010において、このまま設計通りに施工を進めてよい旨の施工内容を、例えば入出力装置2の表示部などを介して、管理者に施工指示する。一方、比較の結果、部分物理シミュレーション結果500と計測モデル600に実物差分が生じていた場合、施工指示部13は、ステップS1010において、実物差分を、「初期施工モデル300の次以降に施工する部分」または「構造物の実物」において修正する施工内容を、例えば入出力装置2の表示部などを介して、管理者に施工指示する。
【0042】
なお、「次以降に施工する部分」とは、現段階で施工が完了した部分以降の施工部分のなかの、一部分を指すものとする。例えば構造物において、1階が、現段階で施工が完了した部分であれば、次以降に施工する部分は、次に施工する部分(2階)だけでなく、次以降に施工する部分(3階など)をも含むものとする。施工指示部13は、初期施工モデル300の次以降に施工する部分に対し、例えば実物差分だけ高さを加えるまたは高さを引くなどの施工内容を指示する。「次以降に施工する部分」および次以降に施工する部分への「施工内容」の詳細は、
図4の具体例を通じても説明される。
【0043】
「構造物の実物」とは、施工中である構造物そのものである。例えば、1階が、現段階で施工が完了した部分であれば、「構造物の実物」とは構造物の1階部分を指すものとする。施工指示部13は、構造物の実物に対し、例えば施工基準線の高さを実物差分だけ加えるまたは引くなどの施工内容を指示する。構造物の実物への「施工内容」の詳細は、
図7の具体例を通じても説明される。
【0044】
なお、施工指示部13による施工指示は、例えば入出力装置2の表示部に、アラームやヒートマップ表示を伴って、さらに実物差分の数値を併記して、行うのも好ましい。また、予め実物差分に「許容値」を設定し、実物差分が許容値を超えた場合に施工指示を出すようにするのも好ましい。
【0045】
本形態の施工管理方法におけるフローは、ステップS1010による施工指示を終えると、ステップS1004に戻る。そして、次に施工する部分の施工が完了した時、再びステップS1004からS1010までが行われ、構造物の施工が完了するまで(構造物が最終形となるまで)繰り返される。
【0046】
図2の施工管理方法について、「施工が予定通り進んだ場合」と「施工が予定とずれた場合」で、
図3と
図4を参照しながら具体例を示す。これらの例では、構成部材が自重により圧縮変形する物理シミュレーションで説明する。
【0047】
-施工が予定通り進んだ場合-
(自重による物理シミュレーションの例)
図3(A)~(D)は、
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定通り進んだ場合の、施工管理イメージである。ここでは、3階建ての構造物の施工を例にして説明する。また、説明を分かりやすくするために、図では物理的変形を極端に表す。
【0048】
施工管理が開始されると、ステップS1001で、物理シミュレーション部10は、設計データベース3から構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100を読み出す(
図3A)。
【0049】
ステップS1002に移行して、物理シミュレーション部10は、構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100に対して物理シミュレーションを行い、最終形物理シミュレーション結果200を算出する(
図3A)。最終形物理シミュレーション結果200は、自重により縮み、設計モデル100の高さHより縮んだ形となっている。
【0050】
ステップS1003に移行して、設計部11は、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200の設計差分に基づいて初期施工モデル300を設計する(
図3A)。設計作業は繰り返し行われてよい。最終的に、初期施工モデル300に対して物理シミュレーションを行うと、設計モデル100と一致する関係になる。物理シミュレーション部10は、初期施工モデル300の情報を初期施工データベース5に保存する。
【0051】
(1階部分)
「1階」の施工が完了すると、ステップS1004に移行して、比較部12は、初期施工データベース5の初期施工モデル300から、施工完了部分モデル400を抽出する。
図3Bに示すように、現段階では「1階」が施工完了したため、初期施工モデル300の1階部分(
図3Aの符号3001)が施工完了部分モデル400-1として抽出される(
図3B)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-1は施工完了部分データベース6に保存される(
図3B)。
【0052】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-1に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-1を算出させる(
図3B)。この例では、1階部分の部分物理シミュレーション結果500-1は物理的変形がほぼ生じていないため、施工完了部分モデル400-1と略一致している。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-1は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図3B)。
【0053】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から1階部分の計測データを読み出して、計測モデル600-1を得る(
図3B)。
【0054】
ステップS1009に移行して、比較部12は、部分物理シミュレーション結果500-1と計測モデル600-1を比較する。比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-1と計測モデル600-1の高さは一致し、実物差分は生じていない。
【0055】
ステップS1010に移行して、1階の施工では実物差分は生じなかったため、施工指示部13は、次に施工する部分(2階部分)について、このまま初期施工通りに進めてよい旨、即ち、初期施工モデル300の2階部分(
図3Aの符号3002)に従った施工内容を、管理者に指示する。
【0056】
(2階部分)
「2階」の施工が完了すると、比較部12は、2回目のステップS1004に移行して、現段階では「2階」部分までが施工完了したため、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階」部分(即ち、
図3Aの符号3001と符号3002)を施工完了部分モデル400-2として抽出する(
図3C)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-2は施工完了部分データベース6に保存される(
図3C)。
【0057】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-2に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-2を算出させる(
図3C)。この例では、部分物理シミュレーション結果500-2は、2階部分の重みにより、1階部分が少し縮んでいる。物理シミュレーション部10は、ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-2を部分物理シミュレーション結果データベース7に保存する(
図3C)。
【0058】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から、1階と2階部分に対応する計測データを読み出して計測モデル600-2を得る(
図3C)。比較部12は、ステップS1009に移行して、部分物理シミュレーション結果500-2と計測モデル600-2を比較する。比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-2と計測モデル600-2の高さは一致し、実物差分は生じていない。
【0059】
次に、ステップS1010に移行して、2階の施工でも実物差分は生じなかったため、施工指示部13は、次に施工する部分(3階部分)について、このまま初期施工通りに進めてよい旨、即ち、初期施工モデル300の3階部分(
図3Aの符号3003)に従った施工内容を、管理者に指示する。
【0060】
(3階部分)
「3階」の施工が完了すると、比較部12は、3回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階と3階」部分(即ち、
図3Aの符号3001と符号3002と符号3003)を施工完了部分モデル400-3として抽出する(
図3D)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-3は施工完了部分データベース6に保存される(
図3D)。
【0061】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-3に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-3を算出させる(
図3D)。この例では、3階の重みにより2階部分が少し縮み、2階3階の重みにより1階部分はさらに縮んでいる。物理シミュレーション部10は、ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3を部分物理シミュレーション結果データベース7に保存する(
図3D)。
【0062】
次に、ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から、1階と2階と3階部分に対応する計測データを読み出して計測モデル600-3を得る。比較部12は、ステップS1009に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3を比較する。比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3の高さは一致し、実物差分は生じなかった。
【0063】
ここで、ステップS1009の計測モデル600-3は、構造物の最終形である。即ち、施工の途中過程で、物理シミュレーション結果(部分物理シミュレーション結果500)と実物(計測モデル600)を比較し、常に構造物の最終形が設計モデル100と一致するように施工を進めたため、構造物の最終形(計測モデル600-3)の高さが設計モデル100の高さHと一致する施工が行えている。
【0064】
-施工が予定とずれた場合-
(自重による物理シミュレーションの例)
図4(A)~(D)は、
図2のフローにおいて、自重による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージ図である。
図3と同様に、
図4でも、3階建ての構造物の施工を例にして説明し、物理的変形は極端に図示する。
【0065】
施工管理が開始されると、
図3と同様に、ステップS1001で、物理シミュレーション部10は、設計データベース3から構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100を読み出し(
図4A)、ステップS1002に移行して、構造物全体の設計モデル100に対して物理シミュレーションを行い、最終形物理シミュレーション結果200を算出する(
図4A)。最終形物理シミュレーション結果200は、自重により縮み、設計モデルの高さHより縮んだ形となっている。ステップS1003に移行して、設計部11は、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200の設計差分を算出し、設計モデル100に設計差分を足して、初期施工モデル300を設計する(
図4A)。設計作業は繰り返し行われてよい。最終的に、初期施工モデル300に対して物理シミュレーションを行うと、設計モデル100と一致する関係になる。物理シミュレーション部10は、初期施工モデル300の情報を初期施工データベース5に保存する。
【0066】
(1階部分)
「1階」の施工が完了すると、ステップS1004に移行して、比較部12は、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階」部分(
図4Aの符号3001)を施工完了部分モデル400-1として抽出する(
図4B)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-1は、施工完了部分データベース6に保存される(
図4B)。
【0067】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-1に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-1を算出させる(
図4B)。この例では、1階部分の部分物理シミュレーション結果500-1は物理的変形がほぼ生じていないため、施工完了部分モデル400-1と略一致している。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-1は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図4B)。
【0068】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から1階部分の計測データを読み出して、計測モデル600-1を得る(
図4B)。
【0069】
ステップS1009に移行して、比較部12は、部分物理シミュレーション結果500-1と計測モデル600-1を比較する。比較の結果、この例では、実物差分として、計測モデル600-1の高さは部分物理シミュレーション結果500-1よりも“d”だけ低くなっていたとする(
図4B)。
【0070】
この場合、ステップS1010に移行すると、施工指示部13は、実物差分dを「次以降に施工する部分」において修正する施工内容を、管理者に指示する。この例では、実物差分dを「次に施工する部分(2階)」で修正するものとし、初期施工モデル300の2階部分(
図4Aの符号3002)に、実物差分dだけ高さを加える施工内容を指示する。一例として、2階部分の鉄骨部材長を長く製作する、鉄骨の間に寸法調整材を入れる、などが考えられる。
【0071】
なお、実物差分dは、次に施工する部分(この例であれば2階部分)での修正に限るものではなく、次以降に施工する部分(この例であれば3階部分)で修正してもよいし、次以降に施工する各部分(この例であれば2階と3階部分)に割り付けて修正してもよい。すなわち、これらをすべて対象にして、実物差分dは「次以降に施工する部分」で修正されればよいものとする。また、次以降に施工する部分は、各階単位に限るものではなく、複数階単位であっても、または同フロアにおける施工箇所単位であってもよいものとする。
【0072】
(2階部分)
施工指示に従って「2階」の施工が完了すると、比較部12は、2回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階」部分(即ち、
図4Aの符号3001と符号3002)を施工完了部分モデル400-2として抽出する(
図4C)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-2は施工完了部分データベース6に保存される(
図4C)。
【0073】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-2に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-2を算出させる(
図4C)。この例では、部分物理シミュレーション結果500-2は、2階部分の重みにより、1階部分が少し縮んでいる。物理シミュレーション部10は、ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-2を部分物理シミュレーション結果データベース7に保存する(
図4C)。
【0074】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から2階施工後の1階と2階部分に対応する計測データを読み出して、計測モデル600-2を得る(
図4C)。比較部12は、ステップS1009に移行して、部分物理シミュレーション結果500-2と計測モデル600-2を比較する。比較の結果、結果500-2とモデル600-2の高さは一致し、実物差分は生じていない。
【0075】
ステップS1010に移行して、2階までの施工で実物差分は生じなかったため、施工指示部13は、次に施工する部分(3階部分)について、このまま初期施工通りに進めてよい旨、即ち、初期施工モデル300の3階部分(
図4Aの符号3003)に従った施工内容を、管理者に指示する。
【0076】
(3階部分)
「3階」の施工が完了すると、比較部12は、3回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階と3階」部分(即ち、
図4Aの符号3001と符号3002と符号3003)を施工完了部分モデル400-3として抽出する(
図4D)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-3は施工完了部分データベース6に保存される(
図4D)。
【0077】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-3に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-3を算出させる(
図4D)。この例では、3階の重みにより2階部分が少し縮み、2階3階の重みにより1階部分はさらに縮んでいる。物理シミュレーション部10は、ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3を部分物理シミュレーション結果データベース7に保存する(
図4D)。
【0078】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から1階と2階と3階部分に対応する計測データを読み出して計測モデル600-3を作成する(
図4D)。比較部12は、ステップS1009に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3を比較する。比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3の高さは一致し、実物差分は生じなかった。
【0079】
ここで、ステップS1009の計測モデル600-3は、構造物の最終形である。即ち、施工の途中過程で、物理シミュレーション結果(部分物理シミュレーション結果500)と実物(計測モデル600)を比較し、実物差分dが生じた場合は、これを次以降に施工する部分で解消するように施工指示が出されたことで、構造物の最終形(計測モデル600-3)の高さが設計モデル100の高さHと一致する施工が行えている。
【0080】
以上、
図3,
図4の両パターンから示されたように、本形態の施工管理システム1および施工管理方法では、施工開始時に、構造物の最終形の物理シミュレーション結果(最終形物理シミュレーション結果200)が設計通り(設計モデル100)となるように設計された初期施工モデル300を設計し、初期施工モデル300を基に施工が開始される。そして、施工の途中過程で、物理シミュレーション結果(部分物理シミュレーション結果500)と実物(計測モデル600)を比較し、実物差分dが生じない場合は初期施工モデル300に基づいた施工内容が指示され、実物差分dが生じた場合はこれを次以降に施工する部分で解消するような施工内容が指示される。これらの施工指示により、常に構造物の最終形が設計モデル100と一致するよう施工が進むため、最終的に、構造物の最終形が設計通りとなるような施工管理が行える。
【0081】
(温度変化による物理シミュレーションの例)
次に、
図2の施工管理方法について、構成部材が温度変化により部材伸縮する物理シミュレーションで説明する。
【0082】
図5(A)~(D)は、
図2のフローにおいて、温度変化による物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。ここでも、3階建ての構造物の施工を例にし、物理的変形を極端に図示する。また、設計モデル100は気温20℃で設計されたものとする。
【0083】
施工管理が開始されると、ステップS1001で、物理シミュレーション部10は、設計データベース3から構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100を読み出す(
図5A)。
【0084】
ステップS1002に移行して、物理シミュレーション部10は、構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100に対して、予定気温(例えば、施工現場での1年間の平均気温。予定気温は管理者が好適と思う温度に設定可能とする)で物理シミュレーションを行い、最終形物理シミュレーション結果200を算出する(
図5A)。この例では、予定気温は設計と同じ20℃としたため、最終形物理シミュレーション結果200はほぼ変形していない。
【0085】
ステップS1003に移行して、設計部11は、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200の設計差分を算出する。この例では、S1002でほぼ変形が無いため、設計モデル100がそのまま初期施工モデル300の情報として初期施工データベース5に保存される(
図5A)。
【0086】
(1階部分)
ステップS1004に移行して、比較部12は、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階」部分(
図5Aの符号3001)を施工完了部分モデル400-1として抽出する(
図5B)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-1は施工完了部分データベース6に保存される(
図5B)。
【0087】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-1に対して、1階の計測データを取得した時と同じ気温(この例では20℃とする)で物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-1を算出させる(
図5B)。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-1は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図5B)。
【0088】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から1階部分の計測データを読み出して、計測モデル600-1を得る(
図5B)。
【0089】
ステップS1009に移行して、比較部12は、部分物理シミュレーション結果500-1と計測モデル600-1を比較する。比較の結果、この例では、実物差分として、計測モデル600-1の高さは部分物理シミュレーション結果500-1よりも“d”だけ低くなっていたとする(
図5B)。
【0090】
ステップS1010に移行して、施工指示部13は、実物差分dを次以降に施工する部分(この例では2階部分)において修正するよう、具体的には、初期施工モデル300の2階部分(
図5Aの符号3002)に、実物差分“d”だけ高さを加える施工内容を指示する。
【0091】
(2階部分)
施工指示に従って「2階」の施工が完了すると、比較部12は、2回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階」部分(即ち、
図5Aの符号3001と符号3002)を施工完了部分モデル400-2として抽出する(
図5C)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-2は施工完了部分データベース6に保存される(
図5C)。
【0092】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-2に対して、2階の計測データを取得した時と同じ気温(10℃とする)で物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-2を算出させる(
図5C)。
図5Cでは、気温低下により構成部材が縮み、部分物理シミュレーション結果500-2は施工完了部分モデル400-2よりもやや縮んでいる。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-2は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図5C)。
【0093】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から2階施工後の1階と2階部分に対応する計測データを読み出して、計測モデル600-2を得る(
図5C)。
【0094】
ステップS1009に移行して、比較部12は、部分物理シミュレーション結果500-2と計測モデル600-2を比較する。比較の結果、この例では、実物差分として、計測モデル600-2の高さは部分物理シミュレーション結果500-2よりも“d”だけ高くなっていたとする(
図5C)。
【0095】
この場合、ステップS1010に移行すると、施工指示部13は、実物差分dを次以降に施工する部分(この例では3階部分)において修正するよう、具体的には、初期施工モデル300の3階部分(
図5Aの符号3003)を、実物差分“d”だけ高さを引く施工内容を指示する。一例として、3階部分の鉄骨部材長を短く製作する、などが考えられる。
【0096】
(3階部分)
施工指示に従って「3階」の施工が完了すると、比較部12は、3回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階と3階」部分(即ち、
図5Aの符号3001と符号3002と符号3003)を施工完了部分モデル400-3として抽出する(
図5D)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-3は施工完了部分データベース6に保存される(
図5D)。
【0097】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-3に対して、3階の計測データを取得した時と同じ気温(10℃とする)で物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-3を算出させる(
図5D)。この例では、部分物理シミュレーション結果500-3は、気温低下により構成部材が縮み、部分物理シミュレーション結果500-3は施工完了部分モデル400-3よりもやや縮んでいる。ステップS1007で、部分物理シミュレーション結果500-3は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図5D)。
【0098】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から3階施工後の1階と2階と3階部分に対応する計測データを読み出して、計測モデル600-3を得る(
図5D)。
【0099】
ステップS1009に移行して、比較部12は、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3を比較する。比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-3(10℃)と計測モデル600-3(10℃)の高さは一致し、実物差分は生じなかった。
【0100】
ここで、ステップS1009の計測モデル600-3は、構造物の最終形である。初期施工モデル300は設計時の温度で物理シミュレーションすると当初の設計通り(設計モデル100)となることから、計測時温度10℃において部分物理シミュレーション結果500-3と高さが一致している構造物の最終形は、設計時の温度20℃でも設計モデル100の高さHと一致することとなる。従って、本形態の施工管理システム1および施工管理方法によれば、温度変化の物理シミュレーションにおいても、構造物の最終形が設計通りとなる施工管理が行える。
【0101】
なお、この例では、説明を簡単にするために鉛直方向の部材伸縮で説明したが、梁などの構成部材を想定した水平方向の部材伸縮も実際のシミュレーションには含まれるものである。
【0102】
(倒れによる物理シミュレーションの例)
次に、
図2の施工管理方法について、構成部材の倒れによる物理シミュレーションで説明する。
【0103】
図6(A)は、
図2のフローにおいて、倒れによる物理シミュレーションで、施工が予定通りに進んだ場合の、施工管理イメージである。
図6Aでは、3階まで施工が完了したとして、4階の施工を例にし、物理的変形を極端に図示する。
【0104】
施工管理が開始されると、ステップS1001で、物理シミュレーション部10は、設計データベース3から構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100を読み出す(図示略)。ステップS1002に移行して、物理シミュレーション部10は、構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100に対して、日照を考慮して構成部材に倒れを与える物理シミュレーションを行い、最終形物理シミュレーション結果200を算出する(図示略)。ステップS1003に移行して、設計部11は、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200の設計差分を算出する。この例では、S1002でほぼ変形が無かったとして、設計モデル100がそのまま初期施工モデル300の情報として初期施工データベース5に保存される(図示略)。
【0105】
ステップS1004に移行して、比較部12は、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の3階部分までを施工完了部分モデル400-3として抽出する(
図6A)。ステップS1005で、施工完了部分モデル400-3は施工完了部分データベース6に保存される(
図6A)。
【0106】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-3に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-3を算出させる(
図6A)。この例では、日照により一部の構成部材が変形し、2階3階の構造に倒れ(傾きによる三次元的な変位)が生じ、例として、部分物理シミュレーション結果500-3の上端部分500-3´に、X方向に“+d”の変位が生じたものとする。ステップS1007で、部分物理シミュレーション結果500-3は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図6A)。
【0107】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から3階部分までの計測モデル600-3を得て、ステップS1009に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3を比較する。比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-3の上端部分500-3´と計測モデル600-3の上端部分600-3´はともにX方向に“+d”だけ変位しており、実物差分は生じていないものとする。実物差分は生じなかったため、ステップS1010に移行して、施工指示部13は、次に施工する「4階」部分について、初期施工モデル300の4階部分の施工内容で指示する。
【0108】
図6(B)は、
図2のフローにおいて、倒れによる物理シミュレーションで、施工が予定とずれた場合の、施工管理イメージである。同様に、3階まで施工が完了したとして、4階の施工を例にし、物理的変形を極端に図示する。
【0109】
ステップS1001~S1003が同様に行われ(図示略)、ステップS1004に移行して、比較部12は、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の3階部分までを施工完了部分モデル400-3として抽出する(
図6B)。ステップS1005で、施工完了部分モデル400-3は施工完了部分データベース6に保存される(
図6B)。
【0110】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-3に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-3を算出させる(
図6B)。この例では、部分物理シミュレーション結果500-3は、日照による構成部材の変形は略無いものとしてシミュレーションされたとする。ステップS1007で、部分物理シミュレーション結果500-3は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図6B)。
【0111】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から3階部分までの計測モデル600-3を得て、ステップS1009に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3と計測モデル600-3を比較する。比較の結果、この例では、計測モデル600-3は部分物理シミュレーション結果500-3よりも傾き、計測モデル600-3の上端部分600-3´が部分物理シミュレーション結果500-3の上端部分500-3´よりもX方向に“+d”だけ変位したとする(
図6B)。
【0112】
この場合、ステップS1010に移行すると、施工指示部13は、次に施工する「4階」部分について、初期施工モデル300の4階部分の上端部分3004´が、X方向に実物差分“-d”だけ変位する施工内容を指示する。
【0113】
このように、本形態の施工管理システム1および施工管理方法によれば、施工の途中過程で、物理シミュレーション結果(部分物理シミュレーション結果500)と実物(計測モデル600)を比較し、実物差分dが生じた場合は次以降に施工する部分で傾きが解消するように施工が進むため、構成部材の倒れによる物理シミュレーションであっても、構造物の最終形が設計通りとなるような施工管理が行える。
【0114】
なお、説明を簡単にするために、傾きによる変位はX方向だけで説明したが、実際のシミュレーションではY方向およびZ方向の変位も含まれる。
【0115】
(自重による物理シミュレーションの応用例)
図7(A)~(D)は、自重による物理シミュレーションで、墨出しをする場合の施工管理イメージである。同様に、3階建ての構造物の施工を例にし、物理的変形を極端に図示する。
【0116】
施工管理が開始されると、ステップS1001で、物理シミュレーション部10は、設計データベース3から、構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100と各墨出し線(フロアレベル)FLの情報を読み出す(
図7A)。
【0117】
ステップS1002に移行して、物理シミュレーション部10は、構造物全体の設計モデル100に対して物理シミュレーションを行い、最終形物理シミュレーション結果200を算出する(
図7A)。最終形物理シミュレーション結果200は、自重により縮み、各階の墨出し線1FL,2FL,3FLの位置も下っている。
【0118】
ステップS1003に移行して、設計部11は、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200の設計差分を算出し、設計モデル100に設計差分を足して、初期施工モデル300と各墨出し線1FL,2FL,3FLを設計する(
図7A)。設計部11による設計作業は繰り返し行われてよい。最終的に、初期施工モデル300の各墨出し線1FL,2FL,3FLは、物理シミュレーションを行うと、設計モデル100の各墨出し線1FL,2FL,3FLと一致する関係になる。物理シミュレーション部10は、初期施工モデル300の情報を初期施工データベース5に保存する。
【0119】
(1階部分)
「1階」の施工が完了すると、ステップS1004に移行して、比較部12は、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階」部分(
図7Aの符号3001)を施工完了部分モデル400-1として抽出する(
図7B)。ステップS1005に移行して、比較部12は、施工完了部分モデル400-1を施工完了部分データベース6に保存する(
図7B)。
【0120】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-1に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-1とその墨出し線1FLを算出させる(
図7B)。この例では、1階の部分物理シミュレーション結果500-1はほぼ物理的変形が生じていない。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-1は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図7B)。
【0121】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から1階部分の計測データを読み出して、計測モデル600-1を得る(
図7B)。
【0122】
ステップS1009に移行して、比較部12は、部分物理シミュレーション結果500-1と計測モデル600-1を比較する。比較の結果、この例では、実物差分として、計測モデル600-1の墨出し線1FLは、部分物理シミュレーション結果500-1の墨出し線1FLよりも“d”だけ低くなっていたとする(
図7B)。
【0123】
この場合、ステップS1010に移行すると、施工指示部13は、「構造物の実物」に書かれている墨出し線1FLを直接修正するよう、管理者に施工指示する。具体的に、この例では、施工指示部13は、構造物の実物700-1(
図7B)の墨出し線1FLに実物差分“d”だけ高さを加え、墨出し線1FLを書き直すよう施工内容を指示する。これにより、1階のフロアレベルは設計と一致する。
【0124】
(2階部分)
「2階」の施工が完了すると、比較部12は、2回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階」部分(即ち、
図7Aの符号3001と符号3002)を施工完了部分モデル400-2として抽出する(
図7C)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-2は施工完了部分データベース6に保存される(
図7C)。
【0125】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-2に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-2とその墨出し線2FLを算出させる(
図7C)。この例では、部分物理シミュレーション結果500-2は、2階部分の重みにより、1階部分が少し縮んでいる。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-2は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図7C)。
【0126】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から2階施工後の1階と2階部分に対応する計測データを読み出して、計測モデル600-2を得る(
図7C)。ステップS1009に移行して、比較部12による比較の結果、この例では、計測モデル600-2の墨出し線2FLは、部分物理シミュレーション結果500-2の墨出し線2FLよりも“d”だけ高くなっていたとする(
図7C)。
【0127】
この場合、ステップS1010に移行すると、施工指示部13は、構造物の実物700-2(
図7C)の墨出し線2FLの高さを実物差分“d”だけ減らし、墨出し線2FLを書き直すよう施工内容を指示する。これにより、2階のフロアレベルは設計と一致する。
【0128】
(3階部分)
「3階」の施工が完了すると、比較部12は、3回目のステップS1004に移行して、初期施工データベース5から、初期施工モデル300の「1階と2階と3階」部分(即ち、
図7Aの符号3001と符号3002と符号3003)を施工完了部分モデル400-3として抽出する(
図7D)。ステップS1005に移行して、施工完了部分モデル400-3は施工完了部分データベース6に保存される(
図7D)。
【0129】
ステップS1006に移行して、比較部12は、物理シミュレーション部10に、施工完了部分モデル400-3に対して物理シミュレーションを行わせ、部分物理シミュレーション結果500-3とその墨出し線3FLを算出させる(
図7D)。この例では、3階の重みにより2階部分が少し縮み、2階3階の重みにより1階部分はさらに縮んでいる。ステップS1007に移行して、部分物理シミュレーション結果500-3は部分物理シミュレーション結果データベース7に保存される(
図7D)。
【0130】
ステップS1008に移行して、比較部12は、計測データベース4から3階施工後の1階と2階と3階部分に対応する計測モデル600-3を得る(
図7D)。ステップS1009に移行して、比較部12による比較の結果、この例では、部分物理シミュレーション結果500-3の墨出し線3FLと計測モデル600-3の墨出し線3FLの高さに実物差分は生じなかった。即ち、3階のフロアレベルは設計と一致している。
【0131】
以上、本形態の施工管理システム1および施工管理方法によれば、墨出し線のような施工基準線や、窓枠など構成部材に取り付けられる付属部材の位置についても、施工ずれを修正することができる。また、この例に挙げたように、本形態の施工管理システム1および施工管理方法では、施工内容の指示は、初期施工モデル300に対してだけでなく、「構造物の実物」に反映させることも可能である。
【0132】
第二の実施形態:
<施工管理システムの構成>
図8は本発明の第二の実施形態に係る施工管理システム1´の構成ブロック図、
図9は本発明の第二の実施形態に係る施工管理方法を示すフロー図、
図10は
図8のフローの施工管理イメージである。第一の実施形態と同様の構成については、同一の符号およびステップ番号を用いて説明を割愛する。
【0133】
本形態の施工管理システム1´は、入出力装置2と、設計データベース3と、計測データベース4と、初期施工データベース5と、物理シミュレーション部10と、設計部11と、施工指示部13と、更新部14と、を備える。
【0134】
第一の実施形態に示した施工管理では、シミュレーション結果と実物を比較した実物差分を基に、施工内容が指示される。これに対し、本形態の施工管理では、実物(計測モデル600)を基に「初期施工モデルが更新」され、施工内容が指示される。
【0135】
3階建ての構造物の施工を例にして説明する。
図9のステップ2001~S2003は、
図2のステップS1001~S1003と同様である。即ち、本形態において施工管理が開始されると、ステップS2001で、設計データベース3から構造物全体(構造物の最終形)の設計モデル100が読み出され、ステップS2002で、最終形物理シミュレーション結果200が算出され、ステップS2003で、設計モデル100と最終形物理シミュレーション結果200の設計差分が算出され、初期施工モデル300が設計される。設計作業は繰り返し行われてよい。最終的に、初期施工モデル300は、物理シミュレーションを行うと、設計モデル100と一致する関係になる。初期施工モデル300は、初期施工データベース5に記憶される。
【0136】
次に、ステップS2004に移行して、本形態では更新部14が機能する。更新部14は、計測データベース4から計測データを読み出し、現段階で施工が完了した部分の計測モデル600を作成する。この例では、「1階」まで施工が完了したため、計測モデル600-1が作成されたものとする(
図10)。
【0137】
次に、ステップS2005に移行して、更新部14は、現段階で施工が完了した部分の計測モデル600-1に、初期施工データベース5に記憶されている初期施工モデル300のうち現段階で施工が完了していない部分(以降、「施工残の部分」と称する)300´´を足し合わせ、構造物全体(構造物の最終形)の合成モデル800を作成する(
図10)。この例では、計測モデル600-1に、施工残の部分300´´として、当初の初期施工モデル300の2階と3階部分、即ち、
図4Aの符号3002と符号3003が合成される。
【0138】
次に、ステップS2006に移行して、更新部14は、物理シミュレーション部10に、合成モデル800の施工残の部分300´´に対して物理シミュレーションを行わせ、最終形物理シミュレーション結果200を更新する(以降、更新された最終形物理シミュレーション結果200を「更新最終形物理シミュレーション結果900」と称する。
図10)。
【0139】
次に、ステップS2007に移行して、更新部14は、設計部11に、施工残の部分300´´に対してのみ、設計モデル100と更新最終形物理シミュレーション結果900の設計差分を算出させ、設計モデル100に設計差分を考慮し、初期施工モデル300を更新する(以降、更新された初期施工モデル300を「更新初期施工モデル300´」と称する)。設計部11による更新初期施工モデル300´の設計作業も、繰り返し行われてよい。最終的に、更新初期施工モデル300´の施工残の部分300´´に物理シミュレーションを行うと、更新初期施工モデル300´は設計モデル100と一致する関係となる(
図10)。更新部14は、更新初期施工モデル300´の情報を記憶するよう、初期施工データベース5を更新する。
【0140】
次に、ステップS2008に移行して、施工指示部13は、更新初期施工モデル300´から、次以降に施工する部分を抽出し、施工内容を指示する。この例では、更新初期施工モデル300´から2階部分(即ち、
図10の符号3002´)が抽出され、2階部分の施工モデル3002´から得られる情報に基づいて施工内容が指示される。
【0141】
施工指示を終えると、本形態の施工管理方法のフローは再びステップS2004に戻る。そして、構造物の施工が完了するまで(最終形となるまで)、繰り返される。
【0142】
以上、本形態の施工管理システム1´および施工管理方法によれば、現段階で施工が完了した部分の計測モデル600を前提にして、施工残の部分300´´に対して物理シミュレーションを行い、「初期施工モデルを更新」することで、次以降に施工する部分の施工内容を指示する。この態様であっても、常に構造物の最終形が設計モデル100と一致するよう施工が進むため、最終的に、構造物の最終形が設計通りとなるような施工管理が行える。
【0143】
(変形例)
次に、上述した第一および第二の実施形態の好ましい変形例を述べる。
【0144】
変形例1:
変形例1は、「初期施工モデル300」を設計するステップに関するものであり、第一および第二どちらの実施形態にも適用できる。以下、例として、第一の実施形態に適用して説明する。
【0145】
図11は実施形態に係る変形例1の施工管理イメージである。第一の実施形態では、
図2のステップS1001~S1003にあるように、「設計モデル100」に対して物理シミュレーションが行われ「初期施工モデル300」が設計される。設計作業は、トライアンドエラーで繰り返し行われることが想定される。
【0146】
これに対し、変形例1では、
図11に示すように、設計モデル100に基づいて最終的な初期施工モデルに至るまでの暫定的かつ仮の初期施工モデルとして「仮初期施工モデル150(請求項における「構造物のモデル」の一つである)」を作成する。物理シミュレーション部10は、まず仮初期施工モデル150を作成し、仮初期施工モデル150に対して物理シミュレーション(複数回にわたる場合もありえる)を行って最終形物理シミュレーション結果200を算出することで、初期施工モデル300の設計に至る。仮初期施工モデル150は、例えば類似事例の推定等により管理者の経験値などに基づいて大雑把に作成されたものでよい。変形例1によれば、仮初期施工モデル150の作成というステップを踏むことで、1度の物理シミュレーションにおける複雑なパラメータを減らすことができ、最終形物理シミュレーション結果200が設計モデル100に一致するまでの計算が早まるため、初期施工モデル300の設計を早めることができる。
【0147】
変形例2:
変形例2も、「初期施工モデル300」を設計するステップに関するものであり、第一および第二どちらの実施形態にも適用できる。以下、例として、第一の実施形態に適用して説明する。
【0148】
図12は実施形態に係る変形例2の施工管理イメージである。変形例2では、設計モデル100に対し「逆物理シミュレーション」を行った「逆物理シミュレーション結果250」から「仮初期施工モデル150」を作成し、そして初期施工モデル300を設計する。逆物理シミュレーションとは、物理シミュレーションを逆変換するものであり、各構成部材に生じる変位・応力・ひずみ等の計算結果を、各構成部材に加わる外力の方向に逆らって反映させるものである。例えば、ある構成部材において、外力による圧縮でΔLだけ縮むと計算される場合、その構成部材をΔL伸ばす作業を行う。
【0149】
即ち、変形例2では、
図12に示すように、物理シミュレーション部10は設計モデル100に対して逆物理シミュレーションを行って、「逆物理シミュレーション結果250」を作成し、逆物理シミュレーション結果250から「初期施工モデル300」を設計する。但し、設計を確定する前に、初期施工モデル300に物理シミュレーションを行うと設計モデル100と一致するように、逆物理シミュレーション結果250を仮初期施工モデル150として物理シミュレーション(複数回にわたる場合もありえる)を行って最終形物理シミュレーション結果200を算出することで、初期施工モデル300の設計に至ってもよい。逆物理シミュレーションを行うことで、類似事例のない場合でも仮初期施工モデル150を作成することができ、初期施工モデル300の設計における物理シミュレーションの回数を少なくとも1回減らすことができる。
【0150】
変形例3:
変形例3は、「計測モデル600」を得るステップに関するものであり、第一および第二どちらの実施形態にも適用できる。
【0151】
図13は実施形態に係る変形例3の施工管理イメージである。第一の実施形態は
図2のステップS1008で、第二の実施形態は
図9のステップS2004で、計測データから構造物の計測モデル600を得る。例えば第一の実施形態の
図3を例にして言えば、3階建ての構造物に対し、
図3Bでは1階部分の全ての計測データを、
図3Cでは2階部分までの全ての計測データを、
図3Dでは3階部分までの全ての計測データを使用し、それぞれの計測モデル600-1,600-2,600-3を得ていた。
【0152】
これに対し、変形例3では、
図13に示すように、計測モデル600を得るために使用する計測データは、少なくとも、構造物の下層基準点LRPと最上層基準点HFRPの絶対座標とする。即ち、計測モデル600は、最低限、この二点で作成される。下層基準点LRPと最上層基準点HFRPの計測データは、X、Y、Z方向のうちのいずれか一方向の座標(例えば高さを表すZのみ)でも良いし、いずれか二方向を組み合わせた座標(例えば二次元方向のX、Yのみ)でも良いし、三次元座標(X,Y,Z)でも良いものとする。
【0153】
最上層基準点HFRPは、現段階で施工が完了した部分のなかでの最上層に設定された基準点であり、
図13の(a)に示すように4階まで施工が完了していれば4階に、
図13の(b)に示すように6階まで施工が完了していれば6階に設定される。下層基準点LRPは、最上層基準点HFRPが設定された層よりも下の層に設定された基準点であり、
図13の(a)のように1階に設定される、
図13の(b)のように途中階に設定される、
図13の(c)のように地下層に設定される、または建屋から外れた位置に設定されることもある。なお、最上層基準点HFRPおよび下層基準点LRPは、鉛直同軸上になくてもよい。例えばやむを得ず途中階で鉛直方向の測定が困難な場合には、多点を経由して得られてもよい。また、最上層基準点HFRPおよび下層基準点LRPは、床や壁、天井であっても良い。
【0154】
このため、変形例3によれば、第一の実施形態では、ステップS1008で、比較部12は下層基準点LRPと最上層基準点HFRPの絶対座標で計測モデル600を得て、ステップS1009で、最上層基準点HFRPの位置で比較を行う。第二の実施形態では、ステップS2004で、更新部14は下層基準点LRPと最上層基準点HFRPの絶対座標で計測モデル600を得て、ステップS2005で、最上層基準点HFRPの位置で合成を行う。
【0155】
即ち、変形例3では、計測モデル600は、下層基準点LRPと最上層基準点HFRPの間にある階の計測データが無くても(計測できなくても)、実施の形態に係る施工管理を遂行することができる。
【0156】
以上、本発明の好ましい実施の形態および変形例を述べたが、各形態および各変形を当業者の知識に基づいて組み合わせることが可能であり、そのような形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0157】
1 施工管理システム
2 入出力装置
3 設計データベース
4 計測データベース
5 初期施工データベース
6 施工完了部分データベース
7 部分物理シミュレーション結果データベース
11 物理シミュレーション部
12 比較部
13 施工指示部
14 更新部
100 設計モデル
150 仮初期施工モデル
200 最終形物理シミュレーション結果
250 逆物理シミュレーション結果
300 初期施工モデル
300´ 更新初期施工モデル
300´´施工残の部分
400 施工完了部分モデル
500 部分物理シミュレーション結果
600 計測モデル
800 合成モデル
900 更新最終形物理シミュレーション結果
HFRP 最上層基準点
LRP 下層基準点