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特許7473502複数のスイッチによって構成されたネットワークにおけるパス制御装置、プログラム及び方法
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  • 特許-複数のスイッチによって構成されたネットワークにおけるパス制御装置、プログラム及び方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】複数のスイッチによって構成されたネットワークにおけるパス制御装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 45/17 20220101AFI20240416BHJP
【FI】
H04L45/17
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021090808
(22)【出願日】2021-05-31
(65)【公開番号】P2022183467
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】北辻 佳憲
【審査官】宮島 郁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-168804(JP,A)
【文献】特開2006-319902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0164806(US,A1)
【文献】特開2010-200104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L12/00-12/66,13/00,41/00-49/9057,61/00-65/80,69/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークに配置されたパス制御装置において、
コアスイッチと各エッジスイッチとの間に、直接パスを設定可能であり、
コアスイッチから、各エッジスイッチとの間のポートペア通信速度を収集するポートペア通信速度収集手段と、
直接パスで接続され且つポート通信速度が解除閾値以下となるポートペアを、解除候補ポートペアとして選択する解除候補選択手段と、
直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、設定候補ポートペアとして選択する設定候補選択手段と、
解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する直接パス解除設定手段と
を有することを特徴とするパス制御装置。
【請求項2】
ネットワークは、複数のエッジスイッチからコアスイッチへ向けてツリー状に構成され、
ポート通信速度は、コアスイッチの1つのポートと、各エッジスイッチのポートとの間で占有された帯域幅におけるユーザデータの通信速度である
ことを特徴とする請求項1に記載のパス制御装置。
【請求項3】
ポートペア通信速度が高いほど、ユーザデータに対する帯域幅に余裕があり、
ポートペア通信速度が低いほど、ユーザデータに対する帯域幅に余裕がない
ことを特徴とする請求項2に記載のパス制御装置。
【請求項4】
パラメータとして、
直接パスを設定すべき通信速度を表す直接パス設定通信速度と、
直接パスを解除すべき解除マージン通信速度と
を保持し、
解除候補選択手段について、解除閾値は、直接パス設定通信速度から解除マージン通信速度を減じた通信速度を下回る通信速度とする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のパス制御装置。
【請求項5】
直接パス設定通信速度は、直接パスの設定時のポートペア通信速度の中で、最低通信速度とする
ことを特徴とする請求項4に記載のパス制御装置。
【請求項6】
設定された直接パスの本数から、解除候補ポートペアの本数を差し引いた直接パス継続本数を算出し、直接パス継続本数に基づいて解除マージン通信速度を更新する解除マージン通信速度更新手段と
を更に有することを特徴とする請求項4又は5に記載のパス制御装置。
【請求項7】
解除マージン通信速度更新手段は、
直接パス継続本数が多くなるほど、解除マージン通信速度を小さくし、
直接パス継続本数が少なくなるほど、解除マージン通信速度を大きくする
ように更新する
ことを特徴とする請求項6に記載のパス制御装置。
【請求項8】
解除マージン通信速度更新手段は、直接パス継続本数と解除マージン通信速度との関係をSigmoid関数によって算出し、直接パス継続本数が所定基準本数をできる限り維持するように更新する
ことを特徴とする請求項7に記載のパス制御装置。
【請求項9】
ネットワークは、L2(Layer2)網又はL3(Layer3)網である
エッジスイッチは、基地局に接続された光スイッチであり、
ノードスイッチは、中間ノードとしての光スイッチであり、
コアスイッチは、コアシステムに接続された光スイッチであり、
ネットワークは、OTN(Optical Transport Network)を適用した光パスRAN(Radio Access Network)である
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のパス制御装置。
【請求項10】
複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークに配置されたパス制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
コアスイッチと各エッジスイッチとの間に、直接パスを設定可能であり、
コアスイッチから、各エッジスイッチとの間のポートペア通信速度を収集するポートペア通信速度収集手段と、
直接パスで接続され且つポート通信速度が解除閾値以下となるポートペアを、解除候補ポートペアとして選択する解除候補選択手段と、
直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、設定候補ポートペアとして選択する設定候補選択手段と、
解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する直接パス解除設定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークに配置された装置のパス制御方法において、
コアスイッチと各エッジスイッチとの間に、直接パスを設定可能であり、
装置は、
コアスイッチから、各エッジスイッチとの間のポートペア通信速度を収集する第1のステップと、
直接パスで接続され且つポート通信速度が解除閾値以下となるポートペアを、解除候補ポートペアとして選択する第2のステップと、
直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、設定候補ポートペアとして選択する第3のステップと、
解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する第4のステップと
を実行することを特徴とするパス制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスイッチによって構成されたネットワークにおけるパス制御の技術に関する。特に、移動通信システムについて、基地局とコアシステムとの間のRAN(Radio Access Network)に適する。
【背景技術】
【0002】
3GPP(3rd Generation Partnership Project)によれば、移動通信システムにおけるRANの構成について規定されている(例えば非特許公報1及び2参照)。この規定によれば、端末と無線で接続する多数の基地局と、複数のモバイルコア機能からなるコアシステムとの間をネットワークによって接続する。RANは、基地局及びコアシステムの各インスタンス(処理単位となる各設備)を、L2(Layer2、イーサネット(登録商標))網又はL3(Layer3、IP(Internet Protocol))網を介して直接的又は論理的に接続する。
【0003】
多数の基地局は、サービスエリアを面的に敷き詰めるように設置される。一方で、コアシステムは、特定のデータセンタにまとめて設置される。そのために、コアシステムの全体数に対して、基地局の全体数ははるかに多い。結果的に、RANは、多数の基地局を1つのコアシステムに集約するべく、ツリー構造又はそれに類似する構造のネットワークトポロジとなる。
【0004】
このようなRANの構成の場合、無線通信区間(基地局と無線端末との間の区間)の通信速度が高速になるほど、L2網又はL3網も高速な通信網で構成する必要がある。特に、コアシステムに近いツリー構造の上流区間ほど、多数の基地局の通信が集約されるために、通信帯域も大容量となってくる。
【0005】
従来、複数のセルに配置された複数の基地局増幅装置を、光ファイバによって1つの局舎内に設置された複数の基地局送受信装置に接続させる基地局装置の技術がある(例えば特許文献1参照)。この技術によれば、複数の光ファイバと複数の基地局送受信装置との間を、光スイッチによって切り替えている。これによって、基地局送受信装置の有効利用を図ると共に、トラヒック変動に対応した動的チャネル配置を可能とする。
【0006】
また、複数の端末がイーサネットに接続されたネットワークと併設して、端末(インスタンスノードであってもよい)同士の間で直接的に光スイッチを介して接続し、大容量の光パスを設定する技術もある(例えば特許文献2参照)。この技術によれば、イーサネットと光パスとが併設されており、2つのインスタンスノード同士の間に大容量の光パスを設定することができる。インスタンスノード同士の間は、低容量通信の際には低速のイーサネットを介して接続され、大容量通信の際には高速の光パスを介して接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許3007494号公報
【文献】特許5147568号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】3GPP TS 23.501 V16.7.0, “3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Services and System Aspects; System architecture for the 5G System (5GS); Stage 2 (Release 16)”
【文献】3GPP TS 23.502 V16.7.1, “3rd Generation Partnership Project; Technical Specification Group Services and System Aspects; Procedures for the 5G System (5GS); Stage 2 (Release 16)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した特許文献1及び2に記載の技術によれば、通信量が多いノード同士の間に光パスを設定することができる。
しかしながら、単に通信量閾値に基づいて光パスを設定した場合、全ての光パスを設定した後、他のノード同士の間で通信量閾値を超えた通信量が発生したとしても既に光パスを設定することはできない。
【0010】
また、基地局とコアシステムの間がL2網又はL3網で接続されている場合、異なる経路に高速パスを設定しようとすると、L2網又はL3網のトポロジの変更が生じ、その安定化に時間を要す。そのために、高速パスの設定によるトポロジ変更と安定化時間とのトレードオフの関係を考慮する必要がある。
一方で、高速パスを設定した後、高速パスを解除するべく元のトポロジへ戻す必要もある。その場合も、トポロジの変更による安定化時間を考慮する必要がある。
【0011】
高速パスに基づくトポロジの変更は、L2網又はL3網に対するトポロジの変更を生じ、一時的に通信が途絶えることもある。即ち、高速パスの設定及び解除を頻繁に繰り返すようなことは避けるべきである。例えばスパンニングツリープロトコル(L2)では、安定化時間に30秒~2分程度を要し、OSPF(L3)では、40秒~1分程度を要する。尚、経路変更を最適化するシーケンス手順も必要となる。
【0012】
これに対し、本願の発明者は、複数のスイッチがツリー状に構成されたL2網又はL3網のネットワークについて、トポロジを変更することなく、高速パスの設定及び解除を動的に制御することができることはできないか、と考えた。
【0013】
そこで、本発明は、複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークについて、トポロジを変更することなく、エッジスイッチとコアスイッチとの間に直接パスを動的に設定及び解除することができるパス制御装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークに配置されたパス制御装置において、
コアスイッチと各エッジスイッチとの間に、直接パスを設定可能であり、
コアスイッチから、各エッジスイッチとの間のポートペア通信速度を収集するポートペア通信速度収集手段と、
直接パスで接続され且つポート通信速度が解除閾値以下となるポートペアを、解除候補ポートペアとして選択する解除候補選択手段と、
直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、設定候補ポートペアとして選択する設定候補選択手段と、
解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する直接パス解除設定手段と
を有することを特徴とする。
【0015】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
ネットワークは、複数のエッジスイッチからコアスイッチへ向けてツリー状に構成され、
ポート通信速度は、コアスイッチの1つのポートと、各エッジスイッチのポートとの間で占有された帯域幅におけるユーザデータの通信速度である
ことも好ましい。
【0016】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
ポートペア通信速度が高いほど、ユーザデータに対する帯域幅に余裕があり、
ポートペア通信速度が低いほど、ユーザデータに対する帯域幅に余裕がない
ことも好ましい。
【0017】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
パラメータとして、
直接パスを設定すべき通信速度を表す直接パス設定通信速度と、
直接パスを解除すべき解除マージン通信速度と
を保持し、
解除候補選択手段について、解除閾値は、直接パス設定通信速度から解除マージン通信速度を減じた通信速度を下回る通信速度とする
ことも好ましい。
【0018】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
直接パス設定通信速度は、直接パスの設定時のポートペア通信速度の中で、最低通信速度とする
ことも好ましい。
【0019】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
設定された直接パスの本数から、解除候補ポートペアの本数を差し引いた直接パス継続本数を算出し、直接パス継続本数に基づいて解除マージン通信速度を更新する解除マージン通信速度更新手段と
を更に有することも好ましい。
【0020】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
解除マージン通信速度更新手段は、
直接パス継続本数が多くなるほど、解除マージン通信速度を小さくし、
直接パス継続本数が少なくなるほど、解除マージン通信速度を大きくする
ように更新する
ことも好ましい。
【0021】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
解除マージン通信速度更新手段は、直接パス継続本数と解除マージン通信速度との関係をSigmoid関数によって算出し、直接パス継続本数が所定基準本数をできる限り維持するように更新することも好ましい。
【0022】
本発明のパス制御装置における他の実施形態によれば、
ネットワークは、L2(Layer2)網又はL3(Layer3)網である
エッジスイッチは、基地局に接続された光スイッチであり、
ノードスイッチは、中間ノードとしての光スイッチであり、
コアスイッチは、コアシステムに接続された光スイッチであり、
ネットワークは、OTN(Optical Transport Network)を適用した光パスRAN(Radio Access Network)である
ことも好ましい。
【0023】
本発明によれば、複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークに配置されたパス制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムにおいて、
コアスイッチと各エッジスイッチとの間に、直接パスを設定可能であり、
コアスイッチから、各エッジスイッチとの間のポートペア通信速度を収集するポートペア通信速度収集手段と、
直接パスで接続され且つポート通信速度が解除閾値以下となるポートペアを、解除候補ポートペアとして選択する解除候補選択手段と、
直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、設定候補ポートペアとして選択する設定候補選択手段と、
解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する直接パス解除設定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークに配置された装置のパス制御方法において、
コアスイッチと各エッジスイッチとの間に、直接パスを設定可能であり、
装置は、
コアスイッチから、各エッジスイッチとの間のポートペア通信速度を収集する第1のステップと、
直接パスで接続され且つポート通信速度が解除閾値以下となるポートペアを、解除候補ポートペアとして選択する第2のステップと、
直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、設定候補ポートペアとして選択する第3のステップと、
解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する第4のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のパス制御装置、プログラム及び方法によれば、複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークについて、トポロジを変更することなく、エッジスイッチとコアスイッチとの間に直接パスを動的に設定及び解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明におけるRANの構成図である。
図2】エッジスイッチとコアスイッチとを直接パスで結ぶシステム構成図である。
図3】本発明におけるパス制御装置の機能構成図である。
図4】本発明のパス制御装置におけるポートペア通信速度収集部の説明図である。
図5】コアスイッチの1つのポートにおける通信速度を表す説明図である。
図6】本発明のパス制御装置における解除候補選択部の説明図である。
図7】本発明のパス制御装置における解除マージン通信速度更新部の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明におけるRANの構成図である。
【0029】
ネットワークは、複数のエッジスイッチ3が1つ以上のノードスイッチ4を介してコアスイッチ2に接続する。各スイッチ間のパスは、L2回線又はL3回線によって接続され、全体がL2網又はL3網として構成される。
図1によれば、ネットワークは、複数のエッジスイッチ3(枝葉)からコアスイッチ2(ルート)へ向けてツリー状の構造を有する。ツリー構造の場合、コアスイッチ2における上位層付近では、複数のエッジスイッチ3における下位層のトラヒックが合算される。各スイッチ間の通信ポートが物理的に高速であっても、コアスイッチ2の1つのポートに対する占有率も高くなる。そのために、コアスイッチ2の1つのポートに集中するトラヒックを逃がすべく、エッジスイッチ3との間に「直接パス」が設定される。これによって、ネットワーク全体として、バランスの取れたトラヒック流動を確保することができる。
【0030】
図1によれば、移動通信システムのRANに適用され、エッジスイッチ3は基地局に配置され、コアスイッチ2はコアシステムに配置されている。
また、図1によれば、ネットワークは、OTN(Optical Transport Network)を適用した光パスRAN(Radio Access Network)として構成されている。その場合、各スイッチは、以下のようなものとなる。
エッジスイッチ:基地局に接続された光スイッチ
ノードスイッチ:中間ノードとしての光スイッチ
コアスイッチ :コアシステムに接続された光スイッチ
【0031】
図2は、エッジスイッチとコアスイッチとを直接パスで結ぶシステム構成図である。
【0032】
図2によれば、コアスイッチ2と各エッジスイッチ3との間に、「直接パス」を設定することができる。
直接パス:コアスイッチ2とエッジスイッチ3とを直接接続するパス
各エッジスイッチ3は、ツリー構造として1層上のノードスイッチ4に接続すると共に、ルートとなるコアスイッチ2にも接続する。即ち、エッジスイッチ3は、上流方向に、予め2本のパスを備えている。
直接パスは、パス制御装置1からの制御信号によって、コアスイッチ2とエッジスイッチ3との間に一時的に設定され、その後、解除される。
【0033】
戻って図1によれば、コアスイッチ2とエッジスイッチ3との間に、数本の直接パスが設定されている。
ここで、ある時点でリンク設定可能な直接パス本数は、複数のエッジスイッチ3とコアスイッチ2との間の物理的なポート本数とよりも、十分少ない数となる。
例えば、数万局の基地局に接続されたエッジスイッチ3と、コアシステムに接続されたコアスイッチ2との間の物理的なポート本数に対して、設定可能な直接パス本数は、100~1000(数百~数十分の一)となる。例えば以下のような数となる。
エッジスイッチの数:200,000
直接パス本数 :400本
【0034】
尚、直接パスは、所定数しか設定することができないが、時分割的に切り替えることもできる。これによって、多数のエッジスイッチ3とコアスイッチ2とのポートペア間に、所定数以上の直接パスを設定することもできる。
【0035】
本発明によれば、「直接パス」は、ツリー構造のスイッチを含むL2網又はL3網の経路表に影響しない、という特徴がある。即ち、直接パスの設定又は解除を繰り返しても、スイッチ群における経路表に基づくトポロジを変更する必要が全くない。そのために、トポロジの変更による安定化時間を考慮する必要もない。
【0036】
<ノードスイッチ4とコアスイッチ2との間の直接パス>
前述した図1及び2によれば、「直接パス」は、エッジスイッチ3とコアスイッチ2との間に設定可能として説明した。
しかしながら、これに限られず、L2網又はL3網を構成するノードスイッチ4とコアスイッチ2との間に、直接パスを設定するものであってもよい。即ち、ノードスイッチ4からみて上流方向に1つ以上のノードスイッチ4を介してコアスイッチ2に接続している場合、そのノードスイッチ4は、コアスイッチ2との間で直接パスを設定することができる。
【0037】
図3は、本発明におけるパス制御装置の機能構成図である。
【0038】
図3によれば、パス制御装置1は、ポートペア通信速度収集部11と、解除候補選択部12と、設定候補選択部13と、直接パス解除設定部14と、解除マージン通信速度更新部15とを有する。これら機能構成部は、パス制御装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これら機能構成部の処理の流れは、パス制御方法としても理解できる。
【0039】
[ポートペア通信速度収集部11]
ポートペア通信速度収集部11は、コアスイッチ2から、各エッジスイッチ3との間のポートペア通信速度を収集する。
ポートペア通信速度は、コアスイッチ2が、当該コアスイッチ2のポートとエッジスイッチ3のポートとのポートペア毎に計測する。そして、パス制御装置1のポートペア通信速度収集部11は、コアスイッチ2からポートペア通信速度を収集する。
具体的には、以下のような構成のデータが収集される。
( PID、
エッジスイッチID・エッジスイッチポートID、
コアスイッチID・コアスイッチポートID、
ポートペア通信速度 )
尚、PIDとは、コアスイッチ2からみて各エッジスイッチ3に対するポートペアの組み合わせ毎に生成された固有ID(識別子)であって、システム全体でユニークな値となる。
【0040】
図4は、本発明のパス制御装置におけるポートペア通信速度収集部の説明図である。
【0041】
図4によれば、コアスイッチ2(コアスイッチID=A)におけるポートID毎に、エッジスイッチID及びポートIDそれぞれに対するポート通信速度が計測されている。
また、コアスイッチ2(コアスイッチID=A)における何本かのポートには、直接パスが設定可能なものとなっている。
【0042】
図5は、コアスイッチの1つのポートにおける通信速度を表す説明図である。
【0043】
ポート通信速度は、コアスイッチの1つのポートと、各エッジスイッチのポートとの間で占有された帯域幅におけるユーザデータの通信速度である。
図5によれば、コアスイッチの1つのポートから見て、複数のエッジスイッチ3との間における帯域幅とユーザデータ通信量との関係を表す。ポートペア間のパスには、異なるノードペア間で異なる帯域幅が占有され、その中をユーザデータが伝送される。また、ポートペア間の帯域幅は、帯域制御によって動的に変化する。
【0044】
そのために、通信速度は、以下のような変化する。
(1)帯域幅に対して配送を求めるユーザデータの総通信量が少なければ、各ポートペア通信速度は高くなる
(ポートペア通信速度が高いほど、ユーザデータに対する帯域幅に余裕がある)
(2)帯域幅に対して配送を求めるユーザデータの総通信量が多ければ、各ポートペア通信速度は低くなる
(ポートペア通信速度が低いほど、ユーザデータに対する帯域幅に余裕がない)
即ち、ポートペア通信速度は、占有された帯域幅に対するユーザデータの通信量要求との関係に応じたものであって、単に1つのユーザデータの通信量が多ければ通信速度が低くなるという関係のものではない。
【0045】
一方で、直接パスを設定した後、時間経過と共に、通信速度が低くなる場合もある。それは、帯域幅に対してユーザデータの通信量要求が更に多くなっているが、これは、適切な帯域幅が確保されていることを意味する。その場合、直接パスは、その設定を解除し、通信速度が高くなった他のポートペア間に切り替えることができる。即ち、直接パスは、帯域幅に対して適切なトラヒックが流れていれば、解除される。
【0046】
図5(a)によれば、コアスイッチ2(コアスイッチID=A)のポート(ポートID=1)に、4つのポートペア間のパスが含まれている。
エッジスイッチID=a -> 帯域幅:小、通信量:小 -> 通信速度:中
エッジスイッチID=b -> 帯域幅:大、通信量:大 -> 通信速度:高
エッジスイッチID=c -> 帯域幅:中、通信量:大 -> 通信速度:低
エッジスイッチID=d -> 帯域幅:小、通信量:小 -> 通信速度:中
図5(b)によれば、ポートペア間の通信速度が高い(解除閾値以上となる)エッジスイッチID=bとのパスが、直接パスへ逃がされる。一方で、元のポート(ポートID=1)では、エッジスイッチID=bの帯域幅が解放され、ポートの帯域幅に余裕ができることとなる。
【0047】
<ポートペアの間の帯域占有率を用いた直接パスの制御>
所定閾値以上に通信速度が高くなったエッジスイッチ3とコアスイッチ2との間のポートペアについて、所定数の「直接パス」が設定される。
しかしながら、これに限らず、ポートペアの間の「帯域占有率」によって、直接パスの設定又は解除を制御するものであってもよい。即ち、コアスイッチ2における1つのポートについて、複数のポートペア間のトラヒックが混在しているが、特定のポートペア間のみの帯域占有率が高い場合もある。特定のポートペア間のトラヒックが他のポートペア間のトラヒックに影響を与えることも想定される。そのような場合、帯域占有率が高い特定のポートペア間に、直接パスを設定することもできる。
【0048】
[解除候補選択部12]
解除候補選択部12は、直接パスで接続された中から、ポート通信速度が「解除閾値」以下となるポートペアを、「解除候補ポートペア」として選択する。
【0049】
解除候補選択部12は、以下のパラメータを持つ。
直接パス設定通信速度:直接パスを設定すべき通信速度
解除マージン通信速度:直接パスを解除すべきマージン通信速度
解除候補選択部12について、解除閾値は、直接パス設定通信速度から解除マージン通信速度を減じた通信速度を下回る通信速度とする。
解除閾値=
max(直接パス設定通信速度-解除マージン通信速度,下限通信速度M)
M(>0):オペレータによって任意に設定される下限通信速度(固定)
尚、直接パス設定通信速度は、「直接パスの設定時」のポートペア通信速度の中で、最低通信速度とする。
【0050】
図6は、本発明のパス制御装置における解除候補選択部の説明図である。
図6(a)によれば、ポートペアa~dについて直接パスが設定されている場合、ポートペアa及びbが解除閾値以下となり、解除候補ポートペアとなる。
図5(b)によれば、ポートペアa~dについて直接パスが設定されている場合、ポートペアa、b及びcが解除閾値以下となり、解除候補ポートペアとなる。
図5(c)によれば、ポートペアa~dについて直接パスが設定されている場合、下限通信速度Mを考慮すると、ポートペアa、b及びcが解除閾値以下となり、解除候補ポートペアとなる。
【0051】
[設定候補選択部13]
設定候補選択部13は、直接パスで接続されておらず且つポートペア通信速度が高い順のポートペアを、「設定候補ポートペア」として選択する。
【0052】
[直接パス解除設定部14]
直接パス解除設定部14は、解除候補ポートペアの直接パスを解除し、設定候補ポートペアに直接パスを設定する。
【0053】
直接パス解除設定部14は、以下のステップで、直接パスを制御する。
(S1)直接パス解除設定部14は、解除候補ポートペアに基づくエッジスイッチ3及びコアスイッチ2へ、直接パス解除の制御信号を送信する。
(S2)エッジスイッチ3及びコアスイッチ2は、制御信号に基づく直接パスを解除する。
(S3)直接パス解除設定部14は、設定候補選択部13から、設定候補ポートペアを取得する。
(S4)直接パス解除設定部14は、設定候補ポートペアに基づくエッジスイッチ3及びコアスイッチ2へ、直接パス設定の制御信号を送信する。
(S5)エッジスイッチ3及びコアスイッチ2は、制御信号に基づく直接パスを設定する。
【0054】
このように、コアスイッチ2のポートに集約されるパスを直接パスへ逃がすことによって、ツリー構造のネットワーク全体として、バランスの取れたトラヒックの流動を確保することができる。
【0055】
[解除マージン通信速度更新部15]
解除マージン通信速度更新部15は、設定された直接パスの本数から、解除候補ポートペアの本数を差し引いた直接パス継続本数を算出する。
直接パス継続本数=直接パス設定可能最大数-直接パス解除数
そして、解除マージン通信速度更新部15は、直接パス継続本数に基づいて解除マージン通信速度を更新する。
【0056】
解除マージン通信速度は、以下の条件を満たすものとする。
(条件1)解除マージン通信速度は、できる限り大きくする。解除マージン通信速度が大きい値であるほど、直接パスの設定及び解除の切り替え頻度が減少し、直接パスの設定後の利用時間が伸び、各直接パスの利用率が向上する。
(条件2)一方で、通信速度の変動が早く激しい場合には、解除マージン通信速度は、できる限り小さくする。逆に、直接パスを頻繁に切り替えることによって、多数のエッジスイッチ3のトラヒックの変動に対応できるようにする。
(条件3)特に、解除マージン通信速度を、できる限り、発散又は固定化を引き起こさないように更新させる。
【0057】
図7は、本発明のパス制御装置における解除マージン通信速度更新部の説明図である。
【0058】
本発明における解除マージン通信速度更新部15は、以下のように更新する。
直接パス継続本数が多くなるほど、解除マージン通信速度を小さく(マージン範囲を狭く)する。
直接パス継続本数が少なくなるほど、解除マージン通信速度を大きく(マージン範囲を広く)する。
【0059】
そのために、解除マージン通信速度更新部15は、直接パス継続本数と解除マージン通信速度との関係をSigmoid関数によって算出し、直接パス継続本数が所定基準本数をできる限り維持するように更新する。
解除マージン通信速度=
max(解除マージン通信速度×
[sigmoid{(直接パス基準本数-直接パス継続本数)/直接パス基準本数}+0.5]
×w,Jmin)
sigmoid(x)=1/(1+e-x
直接パス基準本数:設定する直接パス本数の目標値(オペレータ設定)
(<直接パス設定可能最大数)
w:重み(オペレータ設定)
Jmin:解除マージン通信速度の最低値(オペレータ設定)
【0060】
これによって、直接パス継続本数が直接パス基準本数に満たない場合に、解除マージン通信速度を大きくし、直接パスの切り替え頻度を減らす。
一方で、直接パス継続本数が直接パス基準本数を上回る場合は、解除マージン通信速度の範囲を縮め、継続本数を減らす。
また、通信量の変動が大きい場合、重みwを大きくすることによって、追随しやすくする。
更に、Jminは、解除マージン通信速度が小さすぎて、直接パスの設定直後に直ぐに解除されないようにする。
【0061】
特に、Sigmoid関数を用いることによって、解除マージン通信速度が小さくなると、直接パス継続本数が縮小し、その結果、次の更新では、解除マージン通信速度が拡大する方向へ動きやすくなる。このように、直接パス基準本数を中心に、収束する動きとなり、発散を回避することができる。
【0062】
直接パス設定可能最大数は、ポートペア数に対してはるかに少ないために、解除マージン通信速度の範囲を増減制御することによって、できる限り通信速度が高いポートペア間に、直接パスを設定することができる。
【0063】
以上、詳細に説明したように、本発明のパス制御装置、プログラム及び方法によれば、複数のエッジスイッチが1つ以上のノードスイッチを介してコアスイッチに接続するネットワークについて、トポロジを変更することなく、エッジスイッチとコアスイッチとの間に直接パスを動的に設定及び解除することができる。
特に、移動通信システムにおける基地局とコアシステムとの間のRANに適用した場合、RANのL2網又はL3網のトポロジを変更する必要がない。
【0064】
本発明によれば、コアスイッチ2のポートに集約されるパスを直接パスへ逃がすことによって、ツリー構造のネットワーク全体として、バランスの取れたトラヒックの流動を確保することができる。
また、通信速度が高いポートペアが増加した場合であっても、それら中でより通信速度高いポートペアを選択して直接パスを設定することができる。
更に、直接パスを設定しているポートペア間の通信速度が減少した際に、その直接パスを解除すると共に、直接パスの設定及び解除を頻繁に切り替えないように制御することができる。
【0065】
尚、これにより、例えば「ネットワーク全体としてバランスの取れたトラヒックの流動を確保することができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0066】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0067】
1 パス制御装置
11 ポートペア通信速度収集部
12 解除候補選択部
13 設定候補選択部
14 直接パス解除設定部
15 解除マージン通信速度更新部
2 コアスイッチ
3 エッジスイッチ
4 ノードスイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7