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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】超音波診断装置及び画像処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
A61B8/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021098065
(22)【出願日】2021-06-11
(65)【公開番号】P2022189473
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2023-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 遼太
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-050816(JP,A)
【文献】国際公開第2017/062264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像の解像度を段階的に引き下げることにより、複数の階層に与える複数の階層入力画像を生成する変換部と、
前記複数の階層で機能する複数のフィルタと、
前記入力画像に対応する出力画像を生成するために、前記複数の階層で生成された複数の階層出力画像の解像度を引き上げる逆変換部と、
を含み、
前記複数のフィルタの内の少なくとも1つは、
当該フィルタに入力される対象画像に対応する対応画像であって当該フィルタが属する階層の1つ上の階層に属する対応画像上に、前記対象画像中の注目画素に対応する対応注目領域及び前記対象画像中の複数の参照画素に対応する複数の対応参照領域を設定し、前記対応注目領域内の画素値パターンと前記各対応参照領域内の画素値パターンとを比較することにより複数の重みを算出する算出器と、
前記複数の参照画素が有する複数の参照画素値に対して前記複数の重みを作用させることにより、前記注目画素が有する注目画素値を修正する修正器と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記対象画像上において前記複数の参照画素が存在する領域は第1サイズを有し、
前記対応注目領域及び前記複数の対応参照領域は、それぞれ、第2サイズを有し、
前記第2サイズは前記フィルタが属する階層において第3サイズに相当し、
前記第3サイズは前記第1サイズよりも小さい、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記複数の参照画素はp×p個の画素であり、
前記対応注目領域及び前記複数の対応参照領域は、それぞれ、q×q個の画素により構成され、
前記p及び前記qは3以上の同じ整数である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記複数の階層には、最下位層である第n階層(但しnは2以上の整数)が含まれ、
前記複数のフィルタには、前記第n階層で機能する第n階層フィルタが含まれ、
前記第n階層フィルタには、前記対象画像として、第n階層入力画像が入力される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項4記載の超音波診断装置において、
前記複数の階層には、更に、第n-1階層が含まれ、
前記複数のフィルタには、更に、前記第n-1階層で機能する第n-1階層フィルタが
が含まれ、
前記第n-1階層フィルタには、前記対象画像として、前記第n-1階層で生成された第n-1階層中間画像が入力される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の超音波診断装置において、
前記第n-1階層中間画像は、第n-1階層入力画像に含まれる第n-1階層高周波成分と第n階層出力画像から生成された第n-1階層低周波成分とを加算することにより生成された画像である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項5記載の超音波診断装置において、
前記第n-1階層フィルタには、前記対応画像として、第n-2階層で生成された第n-2階層中間画像が入力され、
前記第n-2階層中間画像は、第n-2階層入力画像に含まれる第n-2階層高周波成分と前記第n-1階層中間画像から生成された第n-2階層低周波成分とを加算することにより生成された画像である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項5記載の超音波診断装置において、
前記第n-1階層フィルタには、前記対応画像として、前記第n-1階層中間画像から生成された第n-2階層低周波成分画像が入力される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項9】
超音波の送受波により生成された入力画像の解像度を段階的に引き下げることにより、複数の階層に与える複数の階層入力画像を生成する工程と、
前記複数の階層で生成された複数の階層出力画像の解像度を引き上げる工程と、
を含み、
前記複数の階層の中の少なくとも1つの階層においてフィルタ処理が実行され、
前記フィルタ処理では、
当該フィルタ処理に入力される対象画像に対応する対応画像であって当該フィルタ処理が属する階層の1つ上の階層に属する対応画像上に、前記対象画像中の注目画素に対応する対応注目領域及び前記対象画像中の複数の参照画素に対応する複数の対応参照領域が設定され、
前記対応注目領域内の画素値パターンと前記各対応参照領域内の画素値パターンとの比較により複数の重みが算出され、
前記複数の重みに基づいて前記複数の参照画素が有する複数の参照画素値が重み付け加算され、これにより前記注目画素が有する注目画素値が修正される、
ことを特徴とする画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置及び画像処理方法に関し、特に、超音波画像の画質を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体への超音波の送受波により得られたデータに基づいて超音波画像を形成及び表示する装置である。超音波画像として、断層画像、血流画像等が知られている。
【0003】
超音波画像には、固有ノイズとしてのスペックルノイズが含まれる。超音波画像の画質を改善するためには、スペックルノイズを低減する必要がある。スペックルノイズを低減するために超音波画像に対して一般的な平滑化フィルタを適用すると、エッジがぼけてしまう。
【0004】
エッジを保存しつつスペックルノイズを低減する技術として、多重解像度処理が知られている(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。その処理では、入力画像の解像度が段階的に引き下げられ、これにより複数の階層(複数のレベル)に対応する複数の解像度画像が生成される。各解像度画像に対してフィルタ処理が適用される。フィルタ処理後の複数の解像度画像の解像度引き上げを経て、出力画像が生成される。従来の多重解像度処理はパターン比較を利用するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-153918号公報
【文献】特開2014- 64736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、超音波画像処理において、組織の形態又は構造を示すエッジを保存しつつ、スペックルノイズを低減することにある。あるいは、本開示の目的は、パターン比較を利用した多重解像度処理を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る超音波診断装置は、入力画像の解像度を段階的に引き下げることにより、複数の階層に与える複数の階層入力画像を生成する変換部と、前記複数の階層で機能する複数のフィルタと、前記入力画像に対応する出力画像を生成するために、前記複数の階層で生成された複数の階層出力画像の解像度を引き上げる逆変換部と、を含み、前記複数のフィルタの内の少なくとも1つは、当該フィルタに入力される対象画像に対応する対応画像であって当該フィルタが属する階層の1つ上の階層に属する対応画像上に、前記対象画像中の注目画素に対応する対応注目領域及び前記対象画像中の複数の参照画素に対応する複数の対応参照領域を設定し、前記対応注目領域内の画素値パターンと前記各対応参照領域内の画素値パターンとを比較することにより複数の重みを算出する算出器と、前記複数の参照画素が有する複数の参照画素値に対して前記複数の重みを作用させることにより、前記注目画素が有する注目画素値を修正する修正器と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本開示に係る画像処理方法は、超音波の送受波により生成された入力画像の解像度を段階的に引き下げることにより、複数の階層に与える複数の階層入力画像を生成する工程と、前記複数の階層で生成された複数の階層出力画像の解像度を引き上げる工程と、を含み、前記複数の階層の中の少なくとも1つの階層においてフィルタ処理が実行され、前記フィルタ処理では、当該フィルタ処理に入力される対象画像に対応する対応画像であって当該フィルタ処理が属する階層の1つ上の階層に属する対応画像上に、前記対象画像中の注目画素に対応する対応注目領域及び前記対象画像中の複数の参照画素に対応する複数の対応参照領域が設定され、前記対応注目領域内の画素値パターンと前記各対応参照領域内の画素値パターンとの比較により複数の重みが算出され、前記複数の重みに基づいて前記複数の参照画素が有する複数の参照画素値が重み付け加算され、これにより前記注目画素が有する注目画素値が修正される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、超音波画像処理において、組織の形態又は構造を示すエッジを保存しつつ、スペックルノイズを低減できる。あるいは、本開示によれば、パターン比較を利用した多重解像度処理を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
図2】画像処理部の第1構成例を示す図である。
図3】重み付け加算処理を示す図である。
図4】重み付け加算処理の変形例を示す図である。
図5】画像処理部の第2構成例を示す図である。
図6】画像処理部の第3構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、変換部、複数のフィルタ、及び、逆変換部を有する。変換部は、入力画像の解像度を段階的に引き下げることにより、複数の階層に与える複数の階層入力画像を生成する。複数のフィルタは、複数の階層で機能する。逆変換部は、入力画像に対応する出力画像を生成するために、複数の階層で生成された複数の階層出力画像の解像度を引き上げる。複数のフィルタの内の少なくとも1つは、算出器、及び、修正器を有する。算出器は、当該フィルタに入力される対象画像に対応する対応画像であって当該フィルタが属する階層の1つ上の階層に属する対応画像上に、対象画像中の注目画素に対応する対応注目領域及び対象画像中の複数の参照画素に対応する複数の対応参照領域を設定し、対応注目領域内の画素値パターンと各対応参照領域内の画素値パターンとを比較することにより複数の重みを算出する。修正器は、複数の参照画素が有する複数の参照画素値に対して複数の重みを作用させることにより、注目画素が有する注目画素値を修正する。
【0013】
一般に、超音波画像内の構造物(生体組織)はそれ固有の画素値パターンを有しており、同じ構造物内の2つの部位の画素値パターンは類似する。これに対し、スペックルノイズの画素値パターンにはランダム性が認められる。上記構成は、そのような性質の違いを前提として、画素値パターン比較により注目画素値を修正するものである。上記構成によれば、エッジを保存しつつ、スペックルノイズを効果的に低減することが可能となる。また、上記構成においては、フィルタで用いる複数の重みの算出に際し、フィルタに入力される対象画像ではなく、フィルタが属する階層の1つ上の階層に属する対応画像が参照される。対応画像の解像度は、対象画像の解像度よりも高いので、パターン比較をより精細に行うことが可能であり、これにより、より適切な重みセットを算出できる。対象画像上にパターン比較用の領域を定める場合、対象画像の解像度により、当該領域の最小サイズが制限される。対応画像上にパターン比較用の領域を定める場合、より小さな領域を定めることが可能である。
【0014】
上記フィルタとして、ノンローカルミーンフィルタを用いてもよい。対象画像上において注目画素を含む局所領域内に参照画像群を設定し、また、対応画像上において対応注目領域の近くに各対応参照領域を設定すれば、注目画素から離れた遠くの情報が注目画素に反映されてしまうことを防止できる。
【0015】
変換部として、複数のダウンサンプリング器を設けてもよいし、他の複数の変換器を設けてもよい。逆変換部として、複数のアップサンプリング器を設けてもよいし、他の複数の変換器を設けてもよい。実施形態においては、参照画素群に注目画素が含まれる。すなわち、参照画素群は、注目画素と複数の近傍画素により構成される。
【0016】
実施形態において、対象画像上において複数の参照画素が存在する領域は第1サイズを有する。対応注目領域及び複数の対応参照領域は、それぞれ、第2サイズを有する。第2サイズはフィルタが属する階層において第3サイズに相当する。第3サイズは第1サイズよりも小さい。この構成は、画素値パターンの比較が高解像度の対応画像上で行われることを前提として、画素値パターンの比較で用いる各領域のサイズを小さくするものである。対応注目領域及び複数の対応参照領域の比較により生成された複数の重みの補間により、複数の参照画素値に対して作用する複数の重みが算出されてもよい。
【0017】
実施形態において、複数の参照画素はq×q個の画素である。注目領域及び複数の参照領域は、それぞれ、q×q個の画素により構成される。p及びqは3以上の同じ整数である。この構成によれば、演算を簡易化できる。実施形態においては、注目画素から見て方位ごとに重みが計算され、各重みが各方位に存在する近傍画素値に適用される。
【0018】
実施形態において、複数の階層には、最下位層である第n階層(但しnは2以上の整数)が含まれる。複数のフィルタには、第n階層で機能する第n階層フィルタが含まれる。第n階層フィルタには、対象画像として、第n階層入力画像が入力される。
【0019】
実施形態において、複数の階層には、更に、第n-1階層が含まれる。複数のフィルタには、更に、第n-1階層で機能する第n-1階層フィルタが含まれる。第n-1階層フィルタには、対象画像として、第n-1階層で生成された第n-1階層中間画像が入力される。
【0020】
実施形態において、第n-1階層中間画像は、第n-1階層入力画像に含まれる第n-1階層高周波成分画像と第n階層出力画像から生成された第n-1階層低周波成分画像とを加算することにより生成された画像である。
【0021】
実施形態において、第n-1階層フィルタには、対応画像として、第n-2階層で生成された第n-2階層中間画像が入力される。第n-2階層中間画像は、第n-2階層入力画像に含まれる第n-2階層高周波成分画像と第n-1階層中間画像から生成された第n-2階層低周波成分画像とを加算することにより生成された画像である。
【0022】
実施形態において、第n-1階層フィルタには、対応画像として、第n-1階層中間画像から生成された第n-2階層低周波成分画像が入力される。この構成によれば、対応画像を簡易に生成し得る。
【0023】
実施形態に係る画像処理方法は、変換工程、及び、逆変換工程が含まれる。変換工程では、超音波の送受波により生成された入力画像の解像度を段階的に引き下げることにより、複数の階層に与える複数の階層入力画像が生成される。逆変換工程では、複数の階層で生成された複数の階層出力画像の解像度が引き上げられる。複数の階層の中の少なくとも1つの階層においてフィルタ処理が実行される。フィルタ処理では、当該フィルタ処理に入力される対象画像に対応する対応画像であって当該フィルタ処理が属する階層の1つ上の階層に属する対応画像上に、対象画像中の注目画素に対応する対応注目領域及び対象画像中の複数の参照画素に対応する複数の対応参照領域が設定され、対応注目領域内の画素値パターンと各対応参照領域内の画素値パターンとの比較により複数の重みが算出され、複数の重みに基づいて複数の参照画素が有する複数の参照画素値が重み付け加算され、これにより注目画素が有する注目画素値が修正される。
【0024】
上記の画像処理方法はソフトウエアの機能により実現され得る。その場合、上記画像処理方法を実行するプログラムが、ネットワークを介して又は可搬型記憶媒体を介して、情報処理装置へインストールされる。情報処理装置の概念には、超音波診断装置、超音波診断システム、コンピュータ等が含まれる。上記プログラムは情報処理装置内の非一時的記憶媒体に格納される。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置の構成が示されている。超音波診断装置は、医療機関等に設置され、被検体(生体)への超音波の送受波により得られたデータに基づいて超音波画像を生成及び表示する医用装置である。
【0026】
図1において、プローブ10は、被検体の表面に当接される可搬型の送受波器である。プローブ10内には、複数の振動素子(複数のトランスデューサ)からなる振動素子アレイが設けられている。振動素子アレイにより超音波ビーム12が形成され、超音波ビーム12が電子走査される。これにより被検体の内部にビーム走査面14が形成される。超音波ビーム12の電子走査が繰り返され、これによりビーム走査面14が繰り返し形成される。ビーム走査面14は二次元データ取込み領域である。電子走査方式として、電子リニア走査方式、電子セクタ走査方式等が知られている。プローブ10内に二次元振動素子アレイを設け、生体内の三次元空間からボリュームデータが取得されてもよい。
【0027】
送信部16は、送信ビームフォーマーとして機能する送信回路である。受信部18は、受信ビームフォーマーとして機能する受信回路である。送信時において、送信部16は、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に出力する。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイにより受信されると、振動素子アレイから受信部18に対して並列的に複数の受信信号が出力される。
【0028】
受信部18は、複数の受信信号に対して整相加算(遅延加算)を適用し、これによりビームデータを生成する。受信部18は、超音波ビーム12の電子走査の繰り返しに伴って、受信フレームデータ列を出力する。超音波ビーム12の1回の電子走査当たり1つの受信フレームデータが出力される。1つの受信フレームデータは電子走査方向に並ぶ複数のビームデータにより構成される。1つの受信ビームデータは深さ方向に並ぶ複数のエコーデータにより構成される。受信部18の後段には、各ビームデータを処理するビームデータ処理部が設けられているが、その図示が省略されている。ビームデータ処理部は、包絡線検波器、対数変換器、等を有する。
【0029】
画像形成部20は、受信フレームデータ列から表示フレームデータ列を生成するものである。画像形成部20は、DSC(デジタルスキャンコンバータ)を有する。DSCは座標変換部として機能する。すなわち、DSC36において、送受波座標系に従うデータが表示座標系に従うデータに変換される。表示フレームデータ列を構成する各表示フレームデータは例えばBモード断層画像データである。画像形成部20において、他の超音波画像データが生成されてもよい。
【0030】
画像処理部24は、表示フレームデータ列を構成する各表示フレームデータに対してスペックルノイズ低減のための多重解像度処理を適用するものである。その詳細については図2以降の各図を参照しながら後に詳述する。画像処理部24から処理済みの表示フレームデータ列が出力され、それが表示処理部26に入力される。受信フレームデータ列に対してスペックルノイズ低減のための多重解像度処理が適用されてもよい。
【0031】
表示処理部26は、画像合成機能、カラー演算機能等を有する。表示処理部26において、表示器28に表示される画像が生成される。その画像には、実施形態において、動画像としての断層画像が含まれる。実施形態によれば、画像処理部24においてスペックルノイズが低減されているため、表示器28に高品質の断層画像を表示することが可能である。表示器28は、LCD、有機ELデバイス等により構成される。
【0032】
制御部30は、プログラムを実行するCPUにより構成される。制御部30により、図1に示された各構成の動作が制御される。制御部30には操作パネル32が接続されている。操作パネル32は、複数のボタン、複数のつまみ、トラックボール、キーボード等を備える入力デバイスである。
【0033】
画像形成部20、画像処理部24、及び、表示処理部26は、それぞれ、プログラムを実行するプロセッサにより構成される。それらが発揮する機能が上記CPUにより実現されてもよい。
【0034】
図2には、画像処理部24の第1構成例が示されている。第1構成例では、第1階層から第n階層までが示されている。ここで、Nは通常、2以上の整数であり、図示の例では、N=2である。第n階層が最下階層である。図2に示されている各構成はソフトウエアの機能により実現され得る。
【0035】
符号34は、入力画像40が属する第0階層(第0レベル)を示している。符号36は、第0階層34よりも1段階下がった第1階層(第1レベル)を示している。符号38は、第1階層36よりも1段階下がった第2階層(第2レベル)を示している。入力画像40の解像度を段階的に引き下げることにより複数の階層36,38に与える複数の低解像度画像が生成される。
【0036】
各断層画像(各受信フレームデータ)が入力画像40を構成する。各断層画像ごとにスペックルノイズ低減のための画像処理が適用される。断層画像以外の超音波画像が画像処理部24において処理されてもよい。変換部200は、入力画像40の解像度を段階的に引き下げるものであり、それは複数のダウンサンプリング器(DS)42,46により構成される。
【0037】
逆変換部202は、複数の階層36,38で生成された出力画像68,86の解像度を引き上げるものであり、それは複数のアップサンプリング器(US)70,88により構成される。それらのUS70,88の他、複数のUS48,54,78が設けられている。
【0038】
DS42において、入力画像がダウンサンプリングされて第1階層入力画像44が生成されている。ダウンサンプリングに際しては、x方向(水平方向)に並ぶ複数の画素(画素値)が1つおきに間引かれ、y方向(垂直方向)に並ぶ複数の画素(画素値)が1つおきに間引かれる。x方向の間引き率及びy方向の間引き率はそれぞれ1/2である。第1階層入力画像44は、入力画像40に対して1/4に縮小された画像に相当する。
【0039】
DS46は、DS42と同じ作用を発揮するものであり、DS46において、第1階層入力画像44がダウンサンプリングされて第2階層入力画像45が生成されている。第2階層入力画像45は、入力画像40に対して1/16に縮小された画像に相当する。
【0040】
DS42,46は、実際のところ、ダウンサンプリングの前に、処理対象となる画像に対してガウシアン処理(ガウシアン重み係数行列の畳み込み)を実行している。一方、US48,54,70,78,88は、アップサンプリングの後に、処理対象となる画像に対してガウシアン処理を実行している。
【0041】
フィルタ60は、第2階層入力画像45に対してフィルタ処理を適用するものである。具体的には、第2階層入力画像45を構成する各画素が注目画素とされ、注目画素を中心として参照画素群が定められる。実施形態においては、参照画素群には注目画素も含まれる。参照画素群を構成する複数の参照画素の画素値の重み付け加算により、注目画素についての修正後の注目画素値が決定される。フィルタ60は、重みセットを算出する算出器62、及び、重みセットを用いて重み付け加算を実行する修正器64を有する。
【0042】
実施形態においては、算出器62は、第2階層38に属する第2階層入力画像45ではなく、第2階層の1つ上の階層である第1階層36に属する第1階層入力画像44に基づいて、重みセットを算出している(符号66を参照)。
【0043】
フィルタ60から見て、第2階層入力画像45は対象画像であり、第1階層入力画像44は対象画像に対応する対応画像である。対象画像を構成する各画素が注目画素とされつつ、対象画像に対して、注目画素を中心として参照画素群が設定される。一方、対応画像には、注目画素に対応する対応注目画素を中心とする対応注目領域が設定され、また、複数の参照画素に対応する複数の対応参照画素を中心とする複数の対応参照領域が設定される。対応注目領域と複数の対応参照領域との間で画素値パターン比較が実施され、これにより求められる複数の類似度に基づいて複数の重みが決定される。フィルタ60から処理済みの画像として第2階層出力画像68が出力される。
【0044】
US54は、第2階層入力画像45に対するアップサンプリングにより第1階層低周波成分画像を生成している。減算器56は、第1階層入力画像44から第1階層低周波成分画像を減算することにより、第1階層高周波成分画像58を生成している。一方、US70は、第2階層出力画像68に対するアップサンプリングにより、処理済みの第1階層低周波成分画像72を生成している。加算器74は、第1階層高周波成分画像58と処理済みの第1階層低周波成分画像72とを加算することにより、第1階層中間画像76を生成している。
【0045】
第1階層36に属するフィルタ80は、上記フィルタ60と同様の構成を有し、また、上記フィルタ60と同様の作用を発揮するものである。フィルタ80は、算出器82及び修正器84を有する。フィルタ80の処理対象となる対象画像は、第1階層中間画像76である。算出器82は、重みセットを生成するものであり、その際においては、対象画像に対応する対応画像が参照される。
【0046】
対応画像は、第0階層に属する高解像度画像である(符号85を参照)。修正器84は、算出器82が算出した重みセットを用いて重み付け加算を行うことにより、注目画素についての修正された注目画素値を演算する。
【0047】
US48は、第1階層入力画像44に対するアップサンプリングにより第0階層低周波成分画像を生成する。減算器50は、入力画像(第0階層入力画像)40から第0階層低周波成分画像を減算することにより、第0階層高周波成分画像52を生成する。一方、US78は、第1階層中間画像76に対するアップサンプリングにより、処理済みの第0階層低周波成分画像を生成する。加算器79は、第0階層高周波成分画像52に対して、処理済みの第0階層低周波成分画像を加算することにより、第0階層中間画像を生成している。その第0階層中間画像が対応画像として用いられる(符号85を参照)。
【0048】
既に説明したように、対応画像に対して、対応注目領域及び複数の対応参照領域が設定され、それらの間での画素値パターン比較により、重みセットが演算される。第1構成例では、フィルタ80に与えられる対応画像が1つ上の階層で生成された画像であり、その点において、フィルタ60に与えられる対象画像と同じである。
【0049】
フィルタ80から処理済み画像として第1階層出力画像86が出力される。US88は、第1階層出力画像86に対してアップサンプリングを適用する。加算器92は、入力画像40とアップサンプリング後の画像90とを加算し、これにより出力画像94を生成する。加算器92においては重み付け加算が行われる。2つの画像に対して与えられる2つの重みは固定的に設定され、あるいは、適応的に設定される。
【0050】
図3には、フィルタ60で実施される処理が模式的に示されている。第2階層38において、対象画像102の各画素が注目画素104とされる。注目画素104を中心としてp×p個の参照画素からなる参照画素群106が設定される。図示の例では、p=3である。pを4以上の整数(通常、奇数)としてもよい。参照画素群106は、注目画素104とその近傍に存在する8個の近傍画素により構成される。複数の参照画素に対して複数の重みを乗算して得られる複数の乗算値を加算することにより、注目画素104についての修正後の画素値が求められる。
【0051】
複数の重みの算出に際しては、第2階層38の1つ上の階層である第1階層36に属する対応画像100が利用される。具体的には、対応画像100において、注目画素に対応する対応注目画素112が基点とされ、それを中心としてパターン比較用の対応注目領域116が定められる。一方、対応画像100において、複数の参照画素に対応する複数の対応参照画素118Aが定められ、それらを中心として複数の対応参照領域118が定められる。複数の対応参照領域118は、対応注目画素112を中心とした一定の領域114内に設定される。領域114,116,118はそれぞれカーネルとも称される。
【0052】
実施形態において、対応注目領域116及び複数の対応参照領域118はそれぞれq×q個の画素からなる。実施形態においてq=3であり、つまりq=pである。
【0053】
参照画素群106が存在する領域のサイズを第1サイズと表現し、対応注目領域116及び複数の対応参照領域118がそれぞれ有するサイズを第2サイズと表現した場合、第2サイズは第2階層38において第3サイズに相当し、第3サイズは第1サイズよりも小さい。実施形態においては、1つ上の階層に属する画像を参照することにより、対象画像102上においては設定し得ない小さなカーネルを設定することが可能である。
【0054】
対応注目領域116と9個の対応参照領域との間で画素値パターン比較が実施され、これにより9個の類似度が求められる。9個の類似度をそのまま9個の重みとして利用してもよいし、9個の類似度から9個の重みが計算されてもよい。重み算出が図3において符号122で示されている。例えば、参照画素106Aと対応参照画素118Aとが対応関係にある場合、参照画素106Aが有する画素値(通常、輝度値)に対し、対応注目画素112を中心とする対応注目領域116と対応参照画素118Aを中心とする対応参照領域118との間で演算された重み108が乗算される。重み付け後の画素値が注目画素104についての修正された注目画素値に反映される(符号110を参照)。この処理がすべての参照画素に対して適用され、重み付け加算結果として、修正された注目画素値が求められる。以上の処理が対象画像102を構成する各画素に対して適用される。これにより第2階層出力画像が生成される。
【0055】
一般に、超音波画像上において、生体内の構造物はそれぞれ固有の画素値パターンを有する。一方、スペックルノイズが有する画素値パターンは一様性を欠く。上記処理によれば、エッジを保存しつつスペックルノイズを効果的に低減することが可能である。しかも、重みセットの算出に際し、1つ上の階層に属する画像を参照しているので、より精細に画素値パターンの比較を行える。
【0056】
実空間上において、注目画素104の位置は、基本的に、対応注目画素112の位置に一致しており、又は、両者は近似関係にある。個々の参照画素の位置は、個々の対応参照画素の位置に一致していないが、注目画素から見て個々の参照画素が存在する方位は、対応注目画素から見て個々の対応注目画素が存在する方位に一致している。実施形態に係る手法は、方位ごとの重み算出に相当するとも言える。
【0057】
フィルタ処理に際しては、例えば、以下の(1-1)式及び(1-2)式に従って重みw(i,j)が算出される。
【0058】
【数1】
【0059】
ここで、iは注目画素の座標であり、jは参照画素の座標である。x(i)は注目画素の輝度値であり、w(i,j)はx(j)に対して乗算される重みである。Z(i)は規格化係数である。Nは重み算出に際して参照される領域それ全体のサイズを示しており(但しNは奇数)、Mは対応注目領域及び各対応参照領域のサイズを示している(但しMは奇数)。hは平滑化パラメータである。以上のように計算される重み(i,j)を用いて、フィルタ処理後の注目画素の輝度値y(i)が以下の(2)式に従って計算される。
【0060】
【数2】
【0061】
上記の(1-1)式及び(1-2)式に代えて以下の(3-1)式及び(3-2)式を用いて重みw(i,j)が算出されてもよい。
【0062】
【数3】
【0063】
上記において示した計算式は例示に過ぎず、他の計算式を用いて重みや修正後の輝度値が演算されてもよい。
【0064】
図4には、フィルタ60で実施される処理の変形例が示されている。なお、図4において、図3に示した要素と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0065】
既に説明したように、対象画像102に対しては注目画素104及び参照画素群106が設定される。参照画素群106はp×p個の参照画素により構成され、ここでpは3である。
【0066】
一方、対象画像102に対しては、対応注目画素112を中心としてq×q個の画素からなる対応注目領域が設定されており、ここで、p<q<2×pであり、例えばq=5である。複数の対応参照領域132の総和として定められる領域128は、9×9個の画素により構成されているが、それが7×7個の画素により構成されてもよい。
【0067】
対応注目領域130と各対応参照領域132との間で重みが算出される(符号134を参照)。対応注目領域130と複数の対応参照領域132との間で算出された複数の重み(重みセット)に基づく補間処理により、参照画素ごとに、重みとして補間値108Aが算出される(符号136を参照)。その補間値108Aが参照画素値に対して乗算される。なお、対応注目領域130と複数の対応参照領域132との間で重みセットを演算する際、補間処理において参照されない重みについては、その演算が省略されてもよい。入力画像の性状や処理目的に応じて、pの値、qの値等を含むフィルタ処理条件がユーザーにより又は自動的に設定されてもよい。
【0068】
図5には、画像処理部の第2構成例が示されている。なお、図5において、図2に示した構成と同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。このことは図6に示す第3構成例についても同様である。
【0069】
図5に示す第2構成例において、フィルタ80Aの入力画像は第1階層中間画像76であり、その点において第1構成例と違いはない。一方、第2構成例では、第1階層36に属するフィルタ80Aに対して、US78から出力されたアップサンプリング後の画像がそのまま入力されている(符号85Aを参照)。その画像は、解像度の点から見て第0階層に属する画像であり、その点において第1構成例と共通している。第2構成例によれば、フィルタ80Aが参照する対応画像を簡易に生成できる。その分だけ構成を簡略化できる。なお、図2に示した第1構成例を採用した場合、画素値パターン比較をより精度良く行える、つまりより適切な重みセットを演算できる可能性を高められるという利点を得られる。
【0070】
図6には、画像処理部の第3構成例が示されている。第1階層に属するフィルタ80Bには、対象画像として、第1階層中間画像76が入力されており、その点において、第1構成例及び第2構成例と違いはない。一方、第3構成例では、フィルタ80Bが参照する対応画像も第1階層中間画像76とされている(符号85Bを参照)。第3構成例では、第1階層36の構成をより簡易化できる。第2階層38に属するフィルタ60においては、第1構成例及び第2構成例と同様、対応画像として1つ上の階層に属する第1階層入力画像が参照されており、第2階層38でのフィルタ処理については上記で説明した各利点を得られる。構成を簡略化しつつも、高周波成分よりも低周波成分のフィルタ処理の精度を高めたい場合に、第3構成例を採用し得る。
【0071】
一般に、スペックルノイズは多様な周波数成分を有するので、スペックルノイズに対する多重解像度処理は有効である。その際、各階層に属するフィルタ処理に当たって画素値パターン比較により重み付け加算を行う場合、1つ上の階層に属する画像を参照すれば、より適切な重みセットを演算することが可能となる。また、参照範囲を局所的な範囲に限定できるので、注目画素から離れた遠い場所に存在する情報が注目画素値に反映されてしまうことを回避又は低減できる。
【0072】
解像度の変換に対して、ダウンサンプリング及びアップサンプリング以外の技術を用いてもよい。例えば、ウェーブレット変換等を用いてもよい。各階層において対象画像に対して複数回のフィルタ処理が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 プローブ、20 画像形成部、24 画像処理部、26 表示処理部、34 第0階層、36 第1階層、38 第2階層、60 フィルタ、62 算出器、64 修正器、80 フィルタ、82 算出器、84 修正器、100 対応画像、102 対象画像、104 注目画素、106 参照画素群、116 注目領域、118 参照領域、200 変換部、202 逆変換部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6