(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】造形物の評価方法及び造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/20 20060101AFI20240416BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20240416BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20240416BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240416BHJP
B23K 37/08 20060101ALI20240416BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240416BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240416BHJP
【FI】
G01B21/20 C
G01B11/24 A
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 K
B23K37/08 Z
B33Y10/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2021135180
(22)【出願日】2021-08-20
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】今城 貴徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
【審査官】信田 昌男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-168642(JP,A)
【文献】特開2004-053427(JP,A)
【文献】特開2020-203293(JP,A)
【文献】特開2008-126281(JP,A)
【文献】特開2013-184216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/20
G01B 11/24
B23K 9/04
B23K 31/00
B23K 37/08
B33Y 10/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形する造形物の評価方法であって、
形成した前記溶着ビードに沿って形状センサを走査させて前記溶着ビードの形状プロファイルを取得するプロファイル取得工程と、
取得した前記形状プロファイルから前記溶着ビードの特徴点の座標を抽出する座標抽出工程と、
抽出した特徴点の前記溶着ビードに沿った座標の推移から前記溶着ビードの軌跡情報を抽出する軌跡情報抽出工程と、
前記溶着ビードの形成に用いた軌道計画から抽出される軌跡と前記特徴点に由来する軌跡情報から抽出される軌跡とのずれ、又は、前記特徴点に由来する軌跡情報の軌跡の乱れに応じて、前記溶着ビードの蛇行の有無を判定する蛇行判定工程と、
前記蛇行の有無の判定結果に応じて、前記溶着ビードの表面におけるスラグの堆積状態を推定する推定工程と、
を含む造形物の評価方法。
【請求項2】
前記推定工程において、蛇行判定された区間の長さ、又は蛇行判定された区間の出現頻度に応じてスラグの堆積状態を判定する、請求項1に記載の造形物の評価方法。
【請求項3】
前記軌跡情報抽出工程において、新たに形成する溶着ビードの目標位置と前記形状プロファイルから抽出した前記溶着ビードの特徴点との距離を前記軌跡情報として抽出する、請求項1又は請求項2に記載の造形物の評価方法。
【請求項4】
前記軌跡情報は、新たに形成する溶着ビードの目標位置と前記形状プロファイル上の複数の特徴点との距離の変化量の平均値である、請求項3に記載の造形物の評価方法。
【請求項5】
前記溶着ビードの層を順次に積層する際に、前記蛇行判定工程による現在の層より下層の判定結果に応じて、現在の層より上層において前記蛇行が発生するかを予測する工程をさらに有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の造形物の評価方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の造形物の評価方法によって推定されたスラグを除去しながら前記溶着ビードを積層して造形物を造形する造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の造形物の評価方法による前記溶着ビードの蛇行の有無の判定結果に応じて、当該蛇行の生じた領域に前記溶着ビードを形成する際の入熱量を調整する造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の評価方法及び造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形物を製造する際に、溶着ビードの接合品質を評価する技術が検討されている(例えば特許文献1)。特許文献1には、溶接ビードの長さ方向に所定間隔で溶接ビードの高さを測定して高さデータを取得し、高さデータから高さの分散値を演算し、高さの分散値に基づいて、溶接ビードの品質を評価することが記載されている。溶着ビードの蛇行が大きくなるほどビード幅の分散値が増加することも示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶着ビードを積層して造形される造形物の品質は、溶着ビードを積層させる際に生じるスラグの蓄積が大きく影響する。例えば、溶着ビードを積層させる前の既設の層にスラグが残存していると、積層させる溶着ビードが蛇行するだけでなく、積層させた溶着ビードの蛇行部分へのスラグの蓄積を促してしまい、また、溶着ビードの蛇行によって形状不良や内部空隙等の欠陥が生じるおそれがある。
【0005】
この場合、例えば、特許文献1に記載の技術によって溶着ビードの品質を常に評価することが考えられるが、スラグは溶着ビードを積層する度に発生するため、溶着ビードを積層する都度、検査と除去とを行うことは生産性の観点から好ましくない。また、スラグ自体を簡単かつ定量的に測ることは難しい。例えば、スラグの有無を画像情報から二値化して判定すること等が考えられるが、閾値の調整、光源の調整等が困難である。
【0006】
そこで本発明は、溶着ビードを積層させて造形する造形物を効率的に評価することが可能な造形物の評価方法及び造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形する造形物の評価方法であって、
形成した前記溶着ビードに沿って形状センサを走査させて前記溶着ビードの形状プロファイルを取得するプロファイル取得工程と、
取得した前記形状プロファイルから前記溶着ビードの特徴点の座標を抽出する座標抽出工程と、
抽出した特徴点の前記溶着ビードに沿った座標の推移から前記溶着ビードの軌跡情報を抽出する軌跡情報抽出工程と、
前記溶着ビードの形成に用いた軌道計画から抽出される軌跡と前記特徴点に由来する軌跡情報から抽出される軌跡とのずれ、又は、前記特徴点に由来する軌跡情報の軌跡の乱れに応じて、前記溶着ビードの蛇行の有無を判定する蛇行判定工程と、
前記蛇行の有無の判定結果に応じて、前記溶着ビードの表面におけるスラグの堆積状態を推定する推定工程と、
を含む造形物の評価方法。
(2) (1)に記載の造形物の評価方法によって推定されたスラグを除去しながら前記溶着ビードを積層して造形物を造形する造形物の製造方法。
(3) (1)に記載の造形物の評価方法による前記溶着ビードの蛇行の有無の判定結果に応じて、当該蛇行の生じた領域に前記溶着ビードを形成する際の入熱量を調整する造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、溶着ビードを積層させて造形する造形物を効率的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、積層造形システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、スラグ堆積状態を推定する評価方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、形状プロファイル取得工程における形状センサによる計測の仕方を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、取得した形状プロファイルの一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、座標抽出工程を説明する造形物を断面視した模式図である。
【
図6】
図6は、ビード蛇行が生じる模式的な例を示す説明図である。
【
図7A】
図7Aは、軌道計画の軌跡情報から抽出した軌跡と、形状センサによって得られる形状プロファイルの比較に基づき、各座標におけるずれ量を算出した結果を模式的に示すグラフである。
【
図7B】
図7Bは、軌道計画の軌跡情報から抽出した軌跡と、形状センサによって得られる形状プロファイルの比較に基づき、各座標におけるずれ量を算出した結果を模式的に示すグラフである。
【
図8A】
図8Aは、蛇行の有無の判定結果を表したグラフである。
【
図8B】
図8Bは、蛇行の有無の判定結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、造形物を造形する積層造形システム100について説明する。
図1は、積層造形システムの概略構成図である。
積層造形システム100は、積層造形装置11と、スラグ除去装置13と、積層造形装置11及びスラグ除去装置13を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0011】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。トーチ17は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。
【0012】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。この溶接ロボット19の先端軸には、トーチ17とともに形状センサ23が設けられている。
【0013】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、製造する造形物に応じて適宜選定される。
【0014】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、基材51上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビード53が形成される。
【0015】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0016】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JISZ3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JISZ3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0017】
形状センサ23は、トーチ17に並設されるか、トーチ17より根元側のロボットアーム先端部に固定されており、トーチ17とともに移動される。この形状センサ23は、形成した溶着ビード53の形状を計測するセンサである。この形状センサ23としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサや光切断法を利用したレーザセンサ等が用いられる。
【0018】
スラグ除去装置13は、汎用ロボット41を備える。汎用ロボット41は、溶接ロボット19と同様に多関節ロボットであり、先端アーム43の先端部には、スラグ除去ツール45が装着される。汎用ロボット41は、コントローラ15からの指令により、スラグ除去ツール45の位置や姿勢が、先端アーム43の自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0019】
汎用ロボット41は、積層造形装置11の溶接ロボット19によって基材51に積層された溶着ビード53に生じるスラグを、スラグ除去ツール45を用いて除去する。スラグ除去ツール45としては、スラグにタガネ部材を突き当てて振動させ、スラグに打撃を加えるタガネ機構が例示できる。タガネ部材は、多芯のワイヤ部材の束からなる。
【0020】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0021】
CAD/CAM部31は、製造しようとする積層造形物の形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡、及び汎用ロボット41によるスラグ除去ツール45の移動軌跡を求め、これらの情報から、求めた軌道でトーチ17及びスラグ除去ツール45を駆動するための駆動プログラムを作成する。この駆動プログラムに指定されたトーチ17の軌跡を軌道計画ともいう。
【0022】
記憶部35は、積層造形物の形状データ、生成された層形状データ、トーチ17の移動軌跡、及びスラグ除去ツール45の移動軌跡等のデータ、並びに上記した駆動プログラムを記憶する。
【0023】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データ、及びトーチ17の移動軌跡に応じて作成された駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で作成したトーチ17の軌道計画に応じて、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。これにより、溶着ビード53が形成される。
【0024】
また、制御部37は、記憶部35に記憶された形状データやスラグ除去ツール45の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、汎用ロボット41を駆動する。これにより、汎用ロボット41の先端アーム43に設けられたスラグ除去ツール45によって、溶着ビード53に付着しているスラグを除去する。
【0025】
ところで、溶着ビード53を積層して造形される造形物の品質は、溶着ビード53を積層させる際に生じるスラグの蓄積が大きく影響する。例えば、溶着ビード53を積層させる前の既設の層にスラグが残存していると、積層させる溶着ビード53が蛇行するだけでなく、積層させた溶着ビード53の蛇行部分へのスラグの蓄積を促してしまう。また、溶着ビード53の蛇行によって形状不良や内部空隙等の欠陥が生じるおそれがある。
【0026】
このため、本構成例では、スラグによる欠陥を抑えて高品質な造形物を造形するため、溶着ビード53を形成した際の造形物のスラグの堆積状態を推定する。以下、スラグの堆積状態を推定する評価方法について説明する。
図2は、スラグ堆積状態を推定する評価方法の手順を示すフローチャートである。
【0027】
(プロファイル取得工程)
まず、形成した溶着ビード53の形状プロファイルを取得する(S1)。
図3は、プロファイル取得工程における形状センサによる計測の様子を示す模式図である。
図4は、取得した形状プロファイルの一例を示すグラフである。
図3に示すように、溶接ロボット19を駆動させ、トーチ17に並設されている形状センサ23を、形成した溶着ビード53に沿って移動させる。これにより、形状センサ23が、形成した溶着ビード53の表面を走査して溶着ビード53の形状を計測する。そして、
図4に示すような計測位置ごとの溶着ビード53の断面形状を、走査方向(Y方向)に沿って連続して計測することで、溶着ビード53の三次元的な形状プロファイルを取得する。なお、形状センサ23による形状プロファイルの計測は、溶着ビード53の各層を造形した後に行ってもよく、トーチ17によって溶着ビード53を形成しながら行ってもよい。
【0028】
(座標抽出工程)
次に、取得した形状プロファイルに基づいて、溶着ビード53における特徴点の座標を抽出する(S2)。
図5は、座標抽出工程を説明する造形物を断面視した模式図である。
ここで示す溶着ビード53の特徴点としては、例えば、溶着ビード53の縁部53E、幅方向の中央となる頂部53C、等の抽出しやすい部位とする。なお、座標を抽出する特徴点は複数でもよい。これら複数の特徴点の移動推移を平均化すれば、特徴点位置に起因する計測誤差を緩和できる。
【0029】
(軌跡情報抽出工程)
そして、抽出した特徴点の溶着ビードに沿った座標の推移から溶着ビード53の軌跡情報を抽出する(S3)。溶着ビード53の縁部53Eを特徴点とした場合、隣接位置に新たに形成する溶着ビード53の目標位置Pとの距離L1を軌跡情報として抽出する。また、溶着ビード53の頂部53Cを特徴点とした場合、隣接位置に形成する溶着ビード53の目標位置Pとの距離L2を軌跡情報として抽出する。
【0030】
(蛇行判定工程)
溶着ビード53の形成に用いた軌道計画から抽出される軌跡と、抽出した特徴点に由来する軌跡情報から抽出される軌跡とのずれ量Δeを求める(S4)。そして、このずれ量Δeから溶着ビード53の蛇行の有無を判定する(S5)。
図6は、ビード蛇行が生じる模式的な例を示す説明図である。
図7の(A)及び(B)は、軌道計画の軌跡情報から抽出した軌跡と、形状センサによって得られる形状プロファイルの比較に基づき、各座標におけるずれ量Δeを算出した結果を模式的に示すグラフである。
図6は、縁部53Eにおける軌跡情報と形状プロファイルのずれ量Δeの抽出例であって、走査方向(Y方向)における予め設定された区間(y1,y2,…,yn)毎にずれ量Δeを抽出している。例えば、y1~y7の区間のように、形成した溶着ビード53が軌道計画(理想形状)通りに形成されていれば、ずれ量Δeは
図7Aに示すようにほぼ0の値となる。一方でy7~y12の区間のように、形成した溶着ビード53に蛇行が生じている場合、
図7Bに示すように、ずれ量Δeは0とはみなせない値を示す。ずれ量Δeがゼロであるか否かの判断については、予め定めた閾値と比較してもよく、ずれ量Δeを所定区間で平均化したうえで前記閾値と比較してもよい。平均化の手法は移動平均など種々の平均化方法を利用できる。
【0031】
なお、抽出した特徴点に由来する軌跡情報としては、新たに形成する溶着ビード53の目標位置Pと形状プロファイル上の複数の特徴点との距離の変化量の平均値を用いてもよい。このように、複数の変化量を平均することで、蛇行による溶着ビード53の位置ずれを推定する際のロバスト性を向上できる。
【0032】
また、特定の指標を基に蛇行の有無を判定する際には、例えば、予備的な試験結果を基に指標に範囲を設定し、その範囲を超える場合に蛇行があると判定できる。この判定を区間ごとに行うことで、局所的な蛇行の有無を判定できる。また、軌道計画で予定していた軌道との比較は、平均の差分や分散等統計的な指標で表現してもよいし、特徴点の移動をベクトル化し、対応する軌道計画上の特徴点の移動ベクトルの内積を求める等して表現してもよい。
【0033】
(スラグ堆積状態の推定工程)
蛇行の有無の判定に基づいて、溶着ビード53からなる造形物の表面におけるスラグの堆積状態を推定する(S6)。スラグの堆積状態は、蛇行判定区間の長さ、又は蛇行判定区間の出現頻度に応じて推定する。つまり、蛇行判定区間の連続的な情報によってスラグの堆積状態を推定することで、スラグの堆積とノイズとを区別でき、推定精度を高めることができる。
【0034】
図8A及び
図8Bは、蛇行の有無の判定結果を表したグラフである。蛇行有りと判定された区画は「判定1」とし、蛇行無しと判定された区画は「判定0」として表している。そして、この蛇行の有無の判定結果に応じて、スラグの堆積状態を推定する。
【0035】
例えば、
図8Aに示すように、蛇行有り(判定1)の判定区間が連続する場合は、その連続する蛇行有り判定の区間において溶着ビード53が計画形状と乖離していると考えられる。したがって、この場合、その乖離箇所にスラグの堆積が促されると推定する。
【0036】
一方、
図8Bに示すように、蛇行有り(判定1)の判定区間が短い場合は、計画形状との乖離が比較的小さいと考えられる。したがって、この場合、計画形状との乖離は、計測誤差等に起因するノイズである可能性が高いため、スラグの堆積が生じていないと推定する。
【0037】
このようにして、スラグの堆積状態の推定を行った後は、汎用ロボット41を駆動させ、先端アーム43のスラグ除去ツール45によって、スラグが存在すると推定した位置に対してスラグの除去作業を行う。これにより、スラグの残存による形状不良や内部空隙等の欠陥が抑制された高品質な造形物を製造できる。
【0038】
なお、造形中に蛇行判定を行う場合は、さらに蛇行発生の予兆を判定してもよい。例えば、複数層にわたる造形の途中で、1~n層目の各層内において、互いに対応する同一位置でのずれ量Δeの履歴が増加傾向にある場合、その位置では、更に上層となるいずれか層(n層目よりも上層)で蛇行が発生することを予測できる。同様に、前述した蛇行判定の履歴から、将来的に蛇行が発生するかどうかを予測して判定してもよい。つまり、下層に蛇行有りと判定された場所については、その上層でも蛇行が生じる可能性があり、下層の状況に応じて上層の蛇行の発生を予測できる。
【0039】
このように、蛇行発生の予兆判定の結果に応じて、スラグ除去の程度、又はビード積層時の条件(入熱量等)等を調整することで、スラグの堆積につながるビード蛇行の発生を抑制できる。
【0040】
また、トーチ17に先行する位置に取り付けた形状センサ23によって得られる形状情報を基に、蛇行発生の予兆が検出された位置で入熱量を増加させ、隣接する溶着ビード53との融合を促してもよい。また、蛇行の有無の判定結果については、アラーム情報を生成して作業者への注意喚起を促してもよい。
【0041】
以上、説明したように、本構成の造形物の評価方法によれば、溶着ビード53の蛇行の有無から造形物の表面におけるスラグの堆積状態を容易に推定できる。したがって、造形物の表面をカメラで撮影して造形物の評価を行う場合に比べ、光源や溶着ビード53の表面の凹凸の影等の影響を受けずに正確に評価を行うことができる。
【0042】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0043】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層して造形する造形物の評価方法であって、
形成した前記溶着ビードに沿って形状センサを走査させて前記溶着ビードの形状プロファイルを取得するプロファイル取得工程と、
取得した前記形状プロファイルから前記溶着ビードの特徴点の座標を抽出する座標抽出工程と、
抽出した特徴点の前記溶着ビードに沿った座標の推移から前記溶着ビードの軌跡情報を抽出する軌跡情報抽出工程と、
前記溶着ビードの形成に用いた軌道計画から抽出される軌跡と前記特徴点に由来する軌跡情報から抽出される軌跡とのずれ、又は、前記特徴点に由来する軌跡情報の軌跡の乱れに応じて、前記溶着ビードの蛇行の有無を判定する蛇行判定工程と、
前記蛇行の有無の判定結果に応じて、前記溶着ビードの表面におけるスラグの堆積状態を推定する推定工程と、
を含む造形物の評価方法。
この造形物の評価方法によれば、溶着ビードの蛇行の有無から造形物の表面におけるスラグの堆積状態を容易に推定できる。したがって、造形物の表面をカメラで撮影して造形物の評価を行う場合に比べ、光源や溶着ビードの表面の凹凸の影等の影響を受けずに正確にスラグの堆積状態を評価できる。
【0044】
(2) 前記推定工程において、蛇行判定された区間の長さ、又は蛇行判定された区間の出現頻度に応じてスラグの堆積状態を判定する、(1)に記載の造形物の評価方法。
この造形物の評価方法によれば、蛇行判定区間の連続的な情報によってスラグの堆積状態を判定することで、スラグの堆積とノイズとを区別でき、判定精度を向上できる。
【0045】
(3) 前記軌跡情報抽出工程において、新たに形成する溶着ビードの目標位置と前記形状プロファイルから抽出した前記溶着ビードの特徴点との距離を前記軌跡情報として抽出する、(1)又は(2)に記載の造形物の評価方法。
この造形物の評価方法によれば、溶着ビードの蛇行の幅と直接関係する方向のみの変位を軌跡情報とするので、溶着ビードの高さの変化に影響されることなく、溶着ビードの蛇行の有無を正確に判定できる。
【0046】
(4) 前記軌跡情報は、新たに形成する溶着ビードの目標位置と前記形状プロファイル上の複数の特徴点との距離の変化量の平均値である、(3)に記載の造形物の評価方法。
この造形物の評価方法によれば、複数の変化量を平均することで、蛇行による溶着ビードの位置ずれを推定する際のロバスト性を向上させることができる。
【0047】
(5) 前記溶着ビードの層を順次に積層する際に、前記蛇行判定工程による現在の層より下層の判定結果に応じて、現在の層より上層において前記蛇行が発生するかを予測する工程をさらに有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の造形物の評価方法。
この造形物の評価方法によれば、積層する下層の蛇行発生の判定結果に応じて、上層の蛇行の発生を予測できる。
【0048】
(6) (1)~(5)のいずれか1つに記載の造形物の評価方法によって推定されたスラグを除去しながら前記溶着ビードを積層して造形物を造形する造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、スラグの残存による形状不良や内部空隙等の欠陥が抑制された高品質な造形物を製造できる。
【0049】
(7) (1)~(5)のいずれか1つに記載の造形物の評価方法による前記溶着ビードの蛇行の有無の判定結果に応じて、当該蛇行の生じた領域に前記溶着ビードを形成する際の入熱量を調整する造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、溶着ビード形成時の入熱量を調整することで、蛇行が生じた領域については、入熱量を増加させて隣接する溶着ビードとの融合を促すことができる。
【符号の説明】
【0050】
23 形状センサ
53 溶着ビード
100 積層造形システム
L1,L2 距離
M 溶加材
P 目標位置