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特許7473510RF帯域電源装置、及びパルス幅変調制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】RF帯域電源装置、及びパルス幅変調制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240416BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021141539
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034986
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】讓原 逸男
(72)【発明者】
【氏名】米山 知宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
(72)【発明者】
【氏名】細山田 悠
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-064313(JP,A)
【文献】特開2014-002909(JP,A)
【文献】特開2021-035152(JP,A)
【文献】特開2014-147294(JP,A)
【文献】特開2020-074670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と、
前記直流電源から供給される直流を交流に変換する単相PWMインバータと、
前記単相PWMインバータの交流出力に含まれる高周波成分を除去して正弦波を出力するローパスフィルタ回路と、
前記単相PWMインバータをパルス幅変調するインバータ制御部と、
を備え、
前記インバータ制御部は、正弦波の変調信号と三角波のキャリア信号との比較によりパルス幅変調に用いるPWMパルス信号を生成するPWM制御部と、前記変調信号と前記キャリア信号を生成する変調信号/キャリア信号生成部と、を備え、
前記変調信号/キャリア信号生成部は、前記変調信号の変調率を制御する変調制御部を備え、
前記変調制御部は、
(a)過変調領域の変調率を、前記PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比に跳躍する閾値未満として上限を制限し、前記PWMパルス信号のパルス幅の連続性を維持させ、
(b)通常変調領域から過変調領域までの変調率に連続性を享有させ、前記変調信号の変調波を通常変調領域から過変調領域まで連続した正弦波とする、
RF帯域電源装置。
【請求項2】
前記変調制御部は、変調率上限設定部、及び前記変調率上限設定部で設定した変調率の上限値を上限とする変調率の範囲内において変調率を設定し、変調信号を生成する変調信号生成部を備える、
請求項1に記載のRF帯域電源装置。
【請求項3】
変調波の1周期の内周端部において、変調波はキャリア波のピークと接し、この接点において通常変調状態に留まる変調率の閾値を変調率の上限値とする、
請求項1又は2に記載のRF帯域電源装置。
【請求項4】
パルス数をNとしたとき、前記変調率の閾値を1/sin(π/2N)とし、変調率の上限値とする、
請求項1から3の何れか一つに記載のRF帯域電源装置。
【請求項5】
変調波はキャリア波のピークと接し、この接点において過変調状態に留まる変調率の閾値を変調率の過変調下限値とする、
請求項1又は2に記載のRF帯域電源装置。
【請求項6】
パルス数をNとしたとき、前記過変調領域と前記通常変調領域との境界の変調率を1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N]とし、変調率の過変調下限値とする、
請求項1、2、5の何れか一つに記載のRF帯域電源装置。
【請求項7】
前記変調信号/キャリア信号生成部は、変調制御部とキャリア信号生成部とを備え、
前記変調制御部は、変調波周波数fsと、前記変調制御部が制御する変調率αとに基づいて正弦波の変調波α・sin(2π・fs・t)を生成する変調信号生成部を備え、
キャリア信号生成部は、変調波周波数fsとパルス数Nとに基づいてキャリア周波数fc=N・fsの三角波を生成する、
請求項1から6のいずれか一つに記載のRF帯域電源装置。
【請求項8】
RF帯域の位相が相反した二つの変調信号とキャリア信号の比較に基づいて生成したゲート信号をPWMパルス信号として単相PWMインバータをパルス幅変調制御し、RF帯域の正弦波を出力する単相PWMインバータのパルス幅変調制御の制御方法であって、
前記変調信号の変調波は正弦波であり、前記キャリア信号のキャリア波は三角波であり、
前記変調信号を通常変調領域から過変調領域に渡って変調し、
(a)過変調領域の変調率を、前記PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比に跳躍する閾値未満として上限を制限し、前記PWMパルス信号のパルス幅の連続性を維持させ、
(b)通常変調領域から過変調領域までの変調率に連続性を享有させ、変調信号の変調波を通常変調領域から過変調領域まで連続した正弦波とする、
パルス幅変調制御方法。
【請求項9】
変調波の1周期の内周端部において、変調波はキャリア波のピークと接し、この接点において通常変調状態に留まる変調率の閾値を変調率の上限値とする、
請求項8に記載のパルス幅変調制御方法。
【請求項10】
パルス数をNとしたとき、前記変調率の閾値を1/sin(π/2N)とし、変調率の上限値とする、
請求項8又は9に記載のパルス幅変調制御方法。
【請求項11】
変調波はキャリア波のピークと接し、この接点において過変調状態に留まる変調率の閾値を変調率の過変調下限値とする、
請求項8に記載のパルス幅変調制御方法。
【請求項12】
パルス数をNとしたとき、前記過変調領域と前記通常変調領域との境界の変調率は1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N]とし、変調率の過変調下限値とする、
請求項8又は11に記載のパルス幅変調制御方法。
【請求項13】
変調波周波数fsと、変調率αとに基づいて正弦波の変調波α・sin(2π・fs・t)を生成し、
変調波周波数fsとパルス数Nとに基づいてキャリア周波数fc=N・fsの三角波を生成する、
請求項8から12のいずれか一つに記載のパルス幅変調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF(Radio Frequency)帯域において正弦波を出力するRF帯域電源装置及びパルス幅変調制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RF(Radio Frequency)帯域の周波数帯域は、LF帯域(30kHz~300kHz)、MF帯域(300kHz~3MHz)、HF帯域(3MHz~30MHz)、VHF帯域(30MHz~300MHz)を含む。
【0003】
RF帯域における増幅回路としてアナログ増幅回路とデジタル増幅回路が知られている。アナログ増幅回路はバイアス量によりA級、B級、C級に分類される。デジタル増幅回路として、RF帯域における単相方形波インバータによるD級増幅回路が知られている。従来、正弦波を出力するRF帯域電源装置ではA級-C級の増幅回路が用いられるが、低効率で損失が大きいため大容量化の点で難点があることが知られている。
【0004】
RF帯域における単相PWMインバータによるD級増幅回路は、MOSFET等の半導体スイッチング素子の単相フルブリッジ回路により構成されD級フルブリッジ増幅器を備える。単相PWMインバータは、PWM制御により、ブリッジ回路の半導体スイッチング素子をオン/オフ切り換え動作させることにより、直流電源の直流電圧を交流電圧に変換する電力変換装置として用いられる。
【0005】
単相PWMインバータによる電力変換装置は、位相が相反した二つの変調波の変調信号をキャリア波のキャリア信号と比較することによりPWMパルス信号を生成する。生成したPWMパルス信号により単相PWMインバータのスイッチング素子のオン/オフ切り換え動作は制御され、ユニポーラ波形の正弦波出力の交流波形が得られる。ここで、相反する二つの波形は極性が互いに逆であり、互いに180°ずれた位相関係にあることを意味し、ユニポーラ波形は、波形の極性が正又は負の一方のみであることを意味している。
【0006】
特許文献1には、正弦波を出力するPWMインバータが記載されている。また、特許文献2には直流電力を商用交流電力に変換するインバータ装置について、PWMキャリア信号の周波数を変調指令信号の周波数の整数倍に設定することにより、フルブリッジ回路の第1アームと第2アームのスイッチング動作を同期させることができることが記載される。一例として、PWMキャリア信号の周波数を20kHz、電流指令信号の周波数を50Hzに設定する例が示されている。
【0007】
PWMインバータの変調において、過変調制御を行うことにより変調波とキャリア波(搬送波)とが交差する回数が減る。これにより、スイッチング回数が低減してスイッチング損失が低減し、PWMインバータの運転効率が向上することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-176239号公報
【文献】特開2001-320884号公報
【文献】特開2006-230195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
過変調制御は、パルス数の減少によるスイッチング損失の低減や、入力電圧に対する基本波成分の比率の高まりによる電力増加により、高効率・高出力が得られるというメリットがあることが知られている。一方、デューティー比が50%のパルス幅に転移する跳躍現象が発生し、PWMパルス信号のパルス幅の連続性が崩れるという課題がある。
【0010】
(過変調)
図13は、単相PWMインバータのパルス幅制御(正弦波変調制御)において、通常変調制御と過変調制御を説明するための図である。なお、ここで、通常変調制御とは、変調率が過変調でない変調制御を意味している。図13(a)は、パルス幅制御を変調率が1以下の通常変調制御で行う場合において、変調波Sとキャリア波Cを示している。単相PWMインバータは、相反する二つの正弦波を変調波S1,S2として用いることにより、ユニポーラ波形のインバータ出力電圧を形成する。インバータ出力の出力電圧は変調波と同一の周波数の正弦波となる。実線及び破線の相反する二つの正弦波は変調波S1,S2を示し、三角波はキャリア波Cを示している。図13(b)は、変調波S1,S2の変調信号とキャリア波Cのキャリア信号との比較で得られるPWMパルス信号を示している。
【0011】
図13(c)は変調率が1を越える過変調制御における変調波S(S1,S2)とキャリア波Cを示し、図13(d)はPWMパルス信号を示している。変調波Sの変調率をα、キャリア波Cの三角波のピーク値を1としたとき、三角波がピークとなる位相θにおいて、変調波Sが1を超えたときに過変調が発生する。
【0012】
三角波のピーク値の時点において、変調率αの変調波Sが超えているとき、キャリア波Cと交わる交点の個数が減少する。これにより、得られるPWMパルス信号のパルス数は、通常変調制御による正弦波変調制御で得られるパルス数よりも減少し、スイッチング損失が低減する。
【0013】
図13(e)、(f)は過変調制御の変調率がさらに大きくなった場合を示している。この状態では、変調波の1/2周期内において変調波Sとキャリア波Cとが交わる交点の個数は2であり、得られるPWMパルス信号は1/2周期内で1パルスとなる。
【0014】
図14は過変調制御におけるパルス幅の跳躍現象を説明するための図である。図14(a)、図14(b)は、変調波の1/2周期内において変調波Sとキャリア波Cとが交差する境界点を示し、この境界点を越えると変調波Sはキャリア波Cと交差しない。境界点の交点は変調波の1周期の両端で発生するため、2つの交点間で挟まれたパルス幅を持つPWMパルス信号は一つだけ生成される。
【0015】
一方、図14(c)、図14(d)は、変調率が増大して変調波の1/2周期内において変調波Sとキャリア波Cとが交差しなくなった状態を示している。この状態では、PWMパルス信号のパルス幅は50%デューティー比のパルス幅に転移する。この転移した50%デューティー比のパルス幅は、図14(b)に示した境界点でのパルス幅(図14(d)の破線で示すPWMパルス信号のパルス幅)との間に連続性はなく不連続となる。このパルス幅の不連続性は跳躍現象として現れる。
【0016】
過変調制御の変調率の増大により、変調波Sがキャリア波Cと交わる境界点を越えると、生成されるPWMパルス信号のパルス幅は全て50%デューティー比のパルス幅となりパルス幅は不連続となるため、PWMパルス制御の連続性が保てなくなるという課題が生じる。
【0017】
(RF帯域と商用周波数の周波数帯域における跳躍現象の相違)
RF帯域と商用周波数の周波数帯域による跳躍現象の違いについて説明する。本発明のPWMインバータによる正弦波出力の周波数帯域はRF帯域である。このRF帯域の跳躍現象は、商用周波数の跳躍現象とは異なる様相を示す。
【0018】
(a)商用周波数の周波数帯域における跳躍現象
PWMインバータにおいて、通常変調制御において変調波の1周期内のパルス数を変動させないために、変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの間に、Nを整数としてfc=N・fsの関係を有する。変調波周波数fsとキャリア波周波数fcとの間の関係を表すNは、スイッチング素子を駆動制御するスイッチングパルスが変調波の1周期内に存在するパルス数に相当する。
【0019】
商用周波数の周波数帯域において、変調波周波数fsを60Hzとし、キャリア波周波数fcを21kHzとしたとき、PWMパルス数Nは350(=21kHz/60Hz)となる。
【0020】
PWMパルス数Nを350として過変調制御を適用すると、跳躍現象を起こす1パルスモードの直前変調状態の導通率は(N-1)/(2・N)=(350-1)/(2・350)=0.499である。これに対して、跳躍現象後の1パルスモードの導通率は0.5であり方形波である。跳躍現象の前後の出力電圧変動率は{(0.5-0.499)/0.5}×100%=0.2%である。跳躍部分の出力電圧変動率は零を基準とすると±0.1%であることから、商用周波数帯域では跳躍現象は無視し得る程度であるといえる。
【0021】
モータ制御では、変調波周波数fsは1Hz~200Hzであり、キャリア波周波数fcは20kHz、パルス数Nは20,000~100であるため出力電圧は跳躍しないといえる。
【0022】
特許文献3には、電気車のモータ制御において、出力電圧基本波の半周期に複数の電圧パルスを出力させるパルス幅変調制御モードと、出力電圧基本波の半周期に単一の電圧パルスを出力させる1パルス制御モードとの間に過変調制御モードを介在させた多パルスモードが示されている。特許文献3の過変調制御モードと1パルスモード間において出力電圧に不連続動作を行う。
【0023】
過変調制御による1パルスモードにおいて、跳躍現象を起こす直前の変調状態の導通率dはd=(N-1)/(N・2)であるから、20,000~100のパルス数Nの範囲において、N=20,000のときの導通率dは0.49998であり、N=100のときの導通率dは0.495である。跳躍現象は発生した後においては、1パルスモードの導通率は0.5であり方形波となる。N=100の場合には、跳躍現象の前後の出力電圧変動率は1%である。よって跳躍部分の出力電圧変動率は±0.5%となる。1パルスモードにおける跳躍現象で生じる±0.5%の電圧変動は、モータ駆動において問題とならない。
【0024】
過変調モードにおいてRF帯域では少数パルス数を用いるため問題となる跳躍現象は、特許文献3のインバータ制御の低周波数帯では多数パルス数を用いるため無視することができる。
【0025】
なお、特許文献3では、過変調制御の多パルスモードは、変調波とキャリア波(搬送波)を非同期としている。変調波とキャリア波(搬送波)は非同期であるため、キャリア波周波数(搬送波周波数)は変調波周波数に比べ十分高くする必要がある。
【0026】
(b)RF周波数の周波数帯域における跳躍現象
これに対して、RF周波数の周波数帯域では、周波数帯域が高周波帯域であるためキャリア周波数は非常に高い周波数となる。この高周波数のキャリア周波数に対して大きなパルス数Nを適用すると、スイッチング損失が過大となるためRF帯域電源装置として不適当となる。そのため、RF帯域においては小さなパルス数Nが用いられる。
【0027】
RF帯域においてパルス数Nを小さな値に設定した場合には、跳躍現象が発生する前後の導通率の変動は無視できない程度の大きさとなる。例えばN=4の場合には、跳躍現象が起きる前の導通率は(N-1)/(2・N)=(4-1)/(2・4)=0.375であり、跳躍現象後の導通率0.5との間の差0.125(=0.5-0.375)は商用周波数の周波数帯域における導電率との差0.001(=0.5-0.499)と比較して大きい。そのため、RF帯域の周波数帯域においては、跳躍現象を無視することはできない。
【0028】
したがって、RF帯域では、過変調制御において、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比のパルス幅へ転移する跳躍現象によって、パルス幅が不連続となるという課題がある。
【0029】
本発明は前記した従来の問題点の課題を解決して、過変調制御において、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比のパルス幅へ転移する跳躍現象を抑制し、パルス幅が不連続となることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、パルス幅変調制御方法、及びパルス幅変調制御によるRF帯域電源装置に関する。本発明のパルス幅変調制御方法及びRF帯域電源装置は、RF帯域の正弦波を出力する。本発明によるインバータ制御では、RF帯域の正弦波を出力するために、変調信号の変調波周波数fsはRF帯域の高周波数であり、キャリア信号のキャリア波周波数fcは変調波周波数fsよりも更に高い周波数である。ここで、RF帯域は、LF帯域(30kHz~300kHz)、MF帯域(300kHz~3MHz)、HF帯域(3MHz~30MHz)、VHF帯域(30MHz~300MHz)を含む周波数帯域である。
【0031】
本発明のパルス幅変調制御は、単相PWMインバータのパルス幅変調(PWM)制御であり、RF帯域の正弦波の変調信号と三角波のキャリア信号との比較に基づいてゲート信号を生成し、生成したゲート信号をPWMパルス信号として単相PWMインバータをパルス幅変調(PWM)制御する。RF帯域電源装置はこのパルス幅変調制御によりRF帯域の正弦波を出力する。
【0032】
本発明のパルス幅変調制御は、正弦波の変調信号の変調波周波数fsとしてRF帯域の周波数を用い、三角波のキャリア信号のキャリア波周波数fcを変調波周波数fsの偶数N倍の周波数を用いる。
【0033】
本発明のパルス幅変調制御は、変調波の波形として正弦波を用いた変調率の変化において、変調率を通常変調領域から過変調領域まで連続して変化させ、通常変調領域と過変調領域を総じて通常変調領域の変調率と過変調領域の変調率が不連続とならないように制御し、跳躍現象を抑制する。なお、ここでは、通常変調領域及び過変調領域の何れの領域の変調率も“変調率”の用語を用いて説明しαの記号により表記する。
【0034】
変調率αの変化に伴って、振幅1の三角波のキャリア波のピーク時点において、正弦波の変調波α・sinθが1を超えると、この変調率の区間においてPWMパルス信号が消滅し、変調率は通常変調領域から過変調領域に移行する。過変調領域において、変調率αが大きくなるにつれてPWMパルス信号が消滅する区間が拡大し、変調波の半周期内に生成されるPWMパルス信号は1個となる。変調率αが更に大きくなるに伴ってPWMパルス信号のパルス幅が広がり、変調波とキャリア波との重なりが無くなった時点でパルス幅は50%デューティー比に跳躍する。この跳躍により、跳躍現象前後のパルス幅の連続性が無くなる。本発明では、変調率αの上限値αupperを定め、変調率αが上限値αupperを超えないように制限することにより、パルス幅が50%デューティー比に転移して跳躍することを抑制する。
【0035】
本発明は、過変調領域において変調率αを制限することによりパルス幅の跳躍現象の発生を防ぎ、跳躍現象によってパルス幅が不連続となることを防ぎ、過変調領域におけるパルス幅の連続性を保障する。変調率αの上限値αupperは、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比に跳躍する閾値であり、変調率αをこの閾値未満に制限する。
【0036】
[RF帯域電源装置]
本発明のRF帯域電源装置は、直流電源と、直流電源から供給される直流を交流に変換する単相PWMインバータと、単相PWMインバータの交流出力の高周波成分を除去して正弦波を出力するローパスフィルタ回路と、単相PWMインバータをパルス幅変調するインバータ制御部とを備える。
【0037】
インバータ制御部は、正弦波の変調信号と三角波のキャリア信号との比較によりパルス幅変調に用いるPWMパルス信号を生成するPWM制御部と、変調信号とキャリア信号を生成する変調信号/キャリア信号生成部とを備える。
【0038】
更に、変調信号/キャリア信号生成部は、変調信号の変調率を制御する変調制御部を備える。変調制御部は、
(a)過変調領域の変調率を、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比に跳躍する閾値未満として上限を制限し、PWMパルス信号のパルス幅の連続性を維持させる機能
(b)通常変調領域から過変調領域までの変調率に連続性を享有させ、変調信号の変調波を通常変調領域から過変調領域まで連続した正弦波とする機能
の各機能を備える。
【0039】
(単相PWMインバータ)
単相PWMインバータは、直流電源の正端と負端との間にスイッチング素子を上下のアームに形成した2つのレグを並列接続してなる単相フルブリッジ回路を備え、スイッチング素子のオン/オフ動作により直流電源から供給される直流入力を交流出力に変換する。
【0040】
(インバータ制御部)
インバータ制御部は、位相が相反した二つの変調波の変調信号とキャリア波のキャリア信号との比較に基づいてゲート信号を生成し、生成したゲート信号をPWMパルス信号として単相フルブリッジ回路のスイッチング素子のオン/オフ動作させ、単相PWMインバータをパルス幅変調する。
【0041】
(変調信号生成部)
変調信号生成部は、変調波周波数fsと、変調制御部が制御する変調率αとに基づいて正弦波の変調波α・sin(2π・fs・t)を生成する。
【0042】
(キャリア信号生成部)
キャリア信号生成部は、変調波周波数fsとパルス数Nとに基づいてキャリア周波数fc=N・fsの三角波を生成する。これにより、変調波周波数fsとキャリア周波数fcとは整数N倍の関係となる。
【0043】
本発明のRF帯域電源装置は、(A)変調率の条件、(B),(C)変調率の過変調下限値/上限値、及び(D)変調率の範囲について、以下の要件を備える。
【0044】
(A)変調率の条件
過変調状態は、三角波のキャリア波の最大振幅を1としたとき、正弦波の変調波の振幅α・sinθが(α・sinθ>1)の関係を満たす状態である。変調波の半周期において、変調波が三角波と交差するk番目のk区間内において、過変調状態の変調波が三角波のピーク値を超える条件から、過変調状態の変調率αは以下の式(1)で表される。NはPWMパルス数である。
α>1/sin{2π(k+1/4)/N} (1)
【0045】
(B)変調率の過変調下限値
正弦波の変調波の振幅α・sinθが(α・sinθ>1)の関係となる過変調状態において、変調波のピーク値は変調波の1/4周期の位相であるπ/2に現れることから、過変調領域の過変調下限値は、k=INT(N/4)の区間に現れる、INT(n)は“n”の整数部分を表している。上記した式(1)の“k”に“INT(N/4)”を代入すると、変調率αの過変調下限値αlowerは以下の式(2)で表される。
αlower=1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N] (2)
【0046】
変調波のピークの近傍において、変調波はキャリア波のピークと接し、この接点において過変調状態に留まる変調率の閾値を変調率の過変調下限値αlowerとする。変調波のピークは変調波の1/4周期、及び3/4周期に現れる。変調率の過変調下限値αlowerでは、キャリア波のピークは、変調波の1/4周期、及び3/4周期のピーク側において変調波と接する。変調率αが変調率の過変調下限値αlowerよりも小さい場合には、変調波はキャリア波の各周期内で交差し、過変調状態に至らなくなる。
【0047】
変調率αが変調率の過変調下限値αlowerよりも大きい場合には過変調状態となり、変調率αの過変調下限値αlower以下の場合には通常変調状態となる。このことは、変調率αの過変調下限値αlowerは変調率の上限値であるとも云える。
【0048】
(C)変調率の上限値
変調率αの上限値αupperは、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比のパルス幅へ転移する跳躍現象が生じるときの値であり、上限値αupperの前後でパルス幅は不連続となり、変調率の連続性が維持できなくなる。変調率αの上限値αupperは、k区間が変調波の周期端部であるk=0のときに相当する。上記した式(1)の“k”に“0”を代入すると、変調率αの上限値αupperは以下の式(3)で表される。NはPWMパルス数である。
αupper=1/sin(π/2N) (3)
【0049】
変調波の1周期内の内周端部であるk=0において、変調波はキャリア波のピークと接し、この接点において通常変調状態に留まる変調率の閾値を変調率αの上限値αupperとする。変調率αの上限値αupperでは、キャリア波のピークは、変調波の1周期内において0、2πの近傍の内周端側であるk=0において変調波と接する。変調率αが変調率の上限値αupperよりも大きい場合には、変調波とキャリア波とは、nπ(nは0又は整数)以外の位相では交差しなくなる。変調率αの上限値αupperは、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比のパルス幅へ転移する跳躍現象が生じるときの値であり、上限値αupperの前後でパルス幅が不連続となる。過変調の変調率に上限値を設定することにより、通常変調から過変調の上限まで連続性を維持することができる。
【0050】
(D)変調率の範囲
変調率の範囲は、変調率αの過変調下限値αlower及び上限値αupperに基づいて以下の式(4)の不等式で表される。
1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N]<α
<1/sin(π/2N) (4)
【0051】
[パルス幅変調制御方法]
本発明のパルス幅変調制御方法は、RF帯域の位相が相反した二つの変調信号とキャリア信号の比較に基づいて生成したゲート信号をPWMパルス信号として単相PWMインバータをパルス幅変調制御し、RF帯域の正弦波を出力する単相PWMインバータのパルス幅変調制御の制御方法である。
【0052】
変調信号の変調波は正弦波であり、キャリア信号のキャリア波は三角波であり、変調信号の変調範囲は変調率により通常変調領域から過変調領域に渡り、本発明の過変調領域の変調率は、以下のように上限が制限される。
(a)過変調領域の変調率を、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比に跳躍する閾値未満として上限を制限し、PWMパルス信号のパルス幅の連続性を維持させる。
(b)通常変調領域から過変調領域までの変調率に連続性を享有させ、変調信号の変調波を通常変調領域から過変調領域まで連続した正弦波とする。
【0053】
本発明のパルス幅変調制御方法は、(A)変調率の条件、(B),(C)変調率の過変調下限値/上限値、及び(D)変調率の範囲について、本発明のRF帯域電源装置と同様の要件を備える。
【0054】
本発明のRF帯域電源装置及びパルス幅変調制御方法は、
・過変調制御において、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比のパルス幅へ転移する跳躍現象の抑制、及びパルス幅の不連続性の抑制の効果
・過変調領域において、大きな基本波成分比が得られる変調率を用いることによる出力電圧の高出力化の効果
・スイッチング回数を低減することによるスイッチング損失の低減効果
・スイッチング損失の低減によるパルス変調における高効率化の効果
の各効果を奏する。
【発明の効果】
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、過変調制御において、PWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比のパルス幅へ転移する跳躍現象を抑制し、パルス幅が不連続となることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明のRF帯域電源装置の概略構成を説明するための図である。
図2】本発明の(S0)~(S5)の各段階の関係を説明する図である。
図3】パルス幅変調(PWM)制御において変調波及びキャリア波を説明するための図である。
図4】変調率αの上限値及び過変調下限値を説明するための図である。
図5】過変調状態の変調率αの範囲を説明するための図である。
図6】変調率αに対する基本波成分比B/Vdの特性を示す図である。
図7】変調率αに対する基本波成分比B/Vd、高調波成分比B/B、B/Bの特性を示す図である。
図8】スイッチング損失と高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bとの関係を示す図である。
図9】パルス数Nに対する基本波成分比B/Vdを示す図である。
図10】変調率αに対する基本成分比B/Vdを示す図である。
図11】変調率αに対する基本成分比B/VdおよびTHDを示す図である。
図12】本発明のRF帯域電源装置の構成例を説明するための図である。
図13】単相PWMインバータにおける、通常のパルス幅制御と過変調制御を説明するための図である。
図14】過変調制御におけるパルス幅の跳躍現象を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、図1に基づいて本発明のRF帯域電源装置の概略構成を説明し、図2図11に基づいて本発明の過変調制御を説明し、図12に基づいて本発明のRF帯域電源装置の構成例を説明する。
【0058】
(本発明のRF帯域電源装置の概略構成)
図1は本発明のRF帯域電源装置の概略構成を示す図である。RF帯域電源装置1は、直流電源2と、直流電源2から供給される直流電圧Vdを交流のインバータ出力Vinvに変換する単相PWMインバータ3と、単相PWMインバータ3の交流出力の高周波成分を除去して正弦波の出力Voutを生成するローパスフィルタ4と、単相PWMインバータ3をパルス幅変調するインバータ制御部5とを備える。
【0059】
インバータ制御部5は、正弦波の変調信号(S)と三角波のキャリア信号(C)との比較によりパルス幅変調に用いるPWMパルス信号を生成するPWM制御部6と、変調信号とキャリア信号を生成する変調信号/キャリア信号生成部7とを備える。
【0060】
変調信号/キャリア信号生成部7において、変調制御部8により変調信号の変調率を制御する。変調制御部8は、
(a)過変調領域の変調率をPWMパルス信号のパルス幅が50%デューティー比に跳躍する閾値未満とすることで変調率の上限を制限し、PWMパルス信号のパルス幅の連続性を維持する機能
(b)通常変調領域から過変調領域までの変調率の連続性を享有させ、変調信号の変調波を通常変調領域から過変調領域まで連続した正弦波とする機能
の各機能を備える。
【0061】
(本発明の変調制御)
本発明の変調制御における通常変調制御及び過変調制御について、図2に示す(S0)~(S5)の各項目で説明する。なお、(S0)~(S5)の各項目は、本発明における制御フローの時系列の制御工程を示すものではない。
通常変調制御について、(S0)RF-PWM制御の例として説明する。また、過変調制御について、(S1)過変調領域における変調率αの範囲、(S2)基本波成分比及び高調波成分比の特性、(S3)パルス数Nの設定、(S4)変調率αの上限値αupperの設定、(S5)の変調率αの設定の各項目について説明する。
【0062】
(S0)RF-PWM制御
はじめに、RF帯域におけるパルス幅変調制御(PWM制御)の通常変調制御について説明する。
【0063】
・通常変調制御によるパルス幅変調制御:
通常変調制御によるパルス幅変調(PWM)制御について図3を用いて説明する。図3は、1周期分の変調波Sと、変調波Sの1周期内に含まれるキャリア波Cを示している。なお、図3では、1周期の変調波Sに6周期分のキャリア波Cが含まれ、パルス数Nが6となる例を示している。ここで示すパルス数Nは一例であるが、RF帯域におけるパルス数Nは商用周波数帯域のパルス数Nと比較して少ない。
【0064】
変調波Sは変調指令信号と変調率αとの積で定まり、変調指令信号を振幅が1の正弦波とした場合にはα・sinθで表される。キャリア波Cは例えば三角波を用いることができる。ここでは、正、負の振幅を共に1とする三角波を示している。PWMパルス信号は、変調波Sの変調信号とキャリア波Cのキャリア信号とを比較することによって生成される。
【0065】
図3(a)では、変調波Sとして位相が相反する二つの変調波S1、S2と、キャリア波Cが示されている。変調波S1は実線で示され、変調波S2は破線で示されている。変調波S1は変調波指令信号(sinθ)と変調率αとの積(α・sinθ)で表され、変調波S2は変調波指令信号(-sinθ)と変調率αとの積(-α・sinθ)で表される。PWMパルス信号は二つの変調波S1、S2とキャリア波Cとの交点の位相位置に基づいて生成される。
【0066】
キャリア波Cと変調波S(S1、S2)を奇関数制御すると共に、同期制御によりキャリア波Cは変調波Sに対して周期及び位相を同期させ、変調波Sの1/2周期の位相時点(図中のπ)を基準時点として、キャリア波Cを正負が反転する点対称の関係とする。
【0067】
周波数同期制御は、変調波信号の変調波周波数fsに偶数のパルス数Nを乗じたN・fsをキャリア信号のキャリア波周波数fcとする。キャリア波周波数fcは変調波周波数fsに対して整数倍の関係となるため、変調波Sの周波数とキャリア波Cとの周波数は同期する。
【0068】
位相同期制御は、変調波の各周期において変調波とキャリア波とを位相同期させて位相ずれを抑制する。変調波とキャリア波とは奇関数制御されていることから、変調波の1周期内でのキャリア波の位相関係は、各周期において同一の位相関係が担保される。
【0069】
パルス数及びキャリア波の個数を変調波Sの1周期内において偶数のNとすると、1/2周期に含まれるパルス数及びキャリア数はN/2となる。ここで、“k”を変調波Sの1周期の位相0の端部から数えたときのキャリア波の順番を表す序数とする。k=0は位相0の端部に対応するキャリア波が存在する区間を表し、k=N-1は1周期の位相2πの端部に対応するキャリア波が存在する区間を表す。また、k=N/2-1は1/2周期の位相πに対して前半の1/2周期の端部に対応するキャリア波が存在する区間を表し、k=N/2は1/2周期の位相πに対して後半の1/2周期の端部に対応するキャリア波が存在する区間を表している。
【0070】
(S1)過変調領域における変調率αの範囲
(S1a)過変調状態の条件
変調波Sの振幅は正弦波の変調波指令信号sinθに変調率αを乗じた(α・sinθ)で表される。キャリア信号の三角波のピーク値1時点において、(α・sinθ)>1を満足するときには過変調状態となる。
【0071】
図3(a)は通常変調状態を示し、図3(b)は過変調状態を示している。
図3(a)の通常変調状態では、0からπまでの1/2周期内のk区間[2kπ/N~2(k+1)π/N]において、変調波S1とキャリア波Cとは点1k及び点2kで交差し、この交差点の位相角はθ1k及びθ2kである。また、変調波S2とキャリア波Cとが交差する交差点3k及び点4kの位相角はθ3k及びθ4kである。また、πから2πまでの1/2周期内のk区間[π+2kπ/N~π+2(k+1)π/N]で、変調波S1とキャリア波Cとが交差する位相角はπ+θ1k及びπ+θ2kであり、変調波S2とキャリア波Cとが交差する位相角はπ+θ3k及びπ+θ4kである。
【0072】
図3(b)の過変調状態において、過変調状態は(α・sinθ)がk区間の三角波のピーク値1を超えた場合である。過変調状態では、k区間において変調波と三角波とが交差する点1kと点2kの振幅及び位相は一致し、この位相角はk区間において過変調状態となる閾値を表している。
【0073】
このことから、過変調状態となる条件式は以下に示す(5)の各式で表される。
α・sinθ1k=α・sinθ2k>1
θ1k=θ2k=2π(k+1/4)/N
α>1/sin{2π(k+1/4)/N}
(5)
【0074】
k区間において、変調率αが式(5)の条件を満たさない場合には、通常変調状態によりパルスは生成される。一方、変調率αが式(5)を満たす場合には、k区間は過変調状態となりこの区間でのパルスの発生は抑制される。
【0075】
(S1b)変調率αの上限値
変調率αの上昇と共に過変調状態となる区間は増え、最終的には通常変調状態の区間はk=0区間のみとなる。変調率αが上限を超えるとk=0区間も過変調状態となり、パルス幅が50%デューティーに跳躍する。この跳躍現象によりパルス幅の連続性が無くなる。
【0076】
パルス幅の連続性を維持し、パルス幅が50%デューティーに跳躍しないようにするためには、k=0区間において通常変調状態に留める必要がある。本発明は、通常変調状態に留めるために変調率αを制限する。変調率αの制限は、k=0区間における変調率αの上限値αupperに基づいて行うことができる。
【0077】
変調率αの上限値αupperは、式(5)に示した過変調状態の条件式に基づいて以下の式(6)で表される。
αupper=1/sin(π/2N) (6)
変調率αがα≧1/sin(π/2N)となると、パルス幅は50%デューティーのパルス幅に転移し跳躍する。一方、変調率αがα<1/sin(π/2N)であればパルス幅は跳躍することなく連続性は保持される。
【0078】
図4(a)は変調率の上限値を説明するための図である。変調波S1(α・sinθ)はk=0区間において三角波のキャリア波とθ1k=θ2kにおいて交差する。変調率αが増加して変調波S1の振幅がこの交差点を超えて大きくなると、変調波S1と三角波の交差が無くなり、パルス幅は50%デューティーに転移し跳躍が発生する。
【0079】
・商用周波数帯域とRF帯域との比較:
商用周波数60Hzを扱うPWMインバータのパルス数NはN=350である。N=350の過変調領域で跳躍する変調率αは式(6)から、α=1/sin{π/(2×350)}=222.8である。
【0080】
α>222.8の変調率により跳躍が生じた後は、パルス波形は導通率0.5の方形波になる。α=222.8における跳躍直前の導通率は(N-1)/(2N)=(350-1)/(2×350)=0.499であり、ほぼ0.5と見なせるため、商用周波数を扱うパルス数Nの場合は跳躍現象を無視することができる。
RF帯域において跳躍する変調率αの一例を以下に示す。
N=6の跳躍する変調率αは、α=1/sin(π/12)=3.864
N=4の跳躍する変調率αは、α=1/sin(π/8)=2.613
N=2の跳躍する変調率αは、α=1/sin(π/4)=1.414
【0081】
(S1c)変調率αの過変調下限値
過変調状態において変調率αの値が小さくなると過変調状態となる区間が減っていき、過変調状態の区間はk=INT(N/4)区間のみとなる。
変調率αが過変調状態の下限を超えて低下するとk=INT(N/4)区間も通常変調状態となり、過変調状態の区間kは無くなり、全ての区間kは通常変調状態となる。この状態に至ると、過変調によるパルス数の減少、及びスイッチング損失の低減効果が得られなくなる。
【0082】
過変調状態の区間が存在するための変調率は、k=INT(N/4)区間における変調率αの過変調下限値である。変調率αの過変調下限値αlowerは式(5)に示した過変調状態の条件式に基づいて以下の式(7)で表される。
αlower=1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N] (7)
なお、式(7)中のINT(n)は、対象パラメータnの小数点以下を切り捨てて整数を返す関数であり、INT(N/4)はパルス数Nの1/4の整数部分であり、変調波Sの1/4周期内に含まれるパルス数を表している。
【0083】
変調率αが過変調下限値αlowerを下回ってα<1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N]となると、全ての区間kは通常変調状態となる。一方、変調率αが過変調下限値αlowerを上回ってα>1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N]であれば、少なくともk=INT(N/4)区間は過変調状態となり、この区間においてはパルスの発生が抑制されるため、パルス数の低減が図られスイッチング損失が低減される。
【0084】
図4(b)は変調率αの過変調下限値αlowerを説明するための図である。変調波S1(α・sinθ)はk=INT(N/4)区間において三角波のキャリア波のピーク(θ1k=θ2k)において交差する。変調率αが減少して変調波S1の振幅がこの交差点を超えて小さくなると、過変調状態の区間kが無くなる。
【0085】
(S1d)変調率αの範囲
上記した変調率αの上限の条件式(6)及び変調率αの下限の条件式(7)から、過変調状態にあり、かつパルス幅の跳躍が抑制される変調率αの範囲は以下の式(8)で表される。
1/sin[2π{INT(N/4)+1/4}/N]<α
<1/sin(π/2N) (8)
【0086】
図5は過変調状態となる変調率αの範囲を概略的に示している。図5に示された変調波S1において、変調率αの過変調下限値αlowerと上限値αupperの間で挟まれる複数本の破線は変調率αの範囲の変調波S1を示している。この範囲内に存在する変調波S1による変調状態は過変調状態であり、かつパルス幅の跳躍の発生が抑制される。
【0087】
(S2)基本波成分比、高調波成分比
直流成分を伴わないフーリエ級数の一般式は、図3に示した位相角θ1k、θ2kを用いて以下の式で表される。
f(θ)=Σ n=1(An・cosθ1k-Bn・sinθ2k) (9)
フーリエ級数の係数BをB=ΣKe k=0(Bnk++Bnk-)とし、Bnk+の区間をθが[2kπ/N~2(k+1)π/N]の範囲とし、Bnkの区間をθが[π+2kπ/N~π+2(k+1)π/N]の範囲とし、入力直流電圧の振幅をVdとすると、図3に示すθの区間から係数Bnは式(10)で表される。なお、変調波及びキャリア波は奇関数であるからA=0である。
=(4/nπ)・Vd・
{1-ΣKe k=0(cos(n・θ1k)-cos(n・θ2k)}
(10)
式(10)は通常変調領域から過変調領域までの全領域の高周波成分を表している。n=1のときの係数Bは基本波成分を表し、n=3、n=5のときの係数B、Bは第3次高調波成分及び第5次の高調波成分を表す。
【0088】
以下、基本波成分比B/Vd及び高調波成分比B/B、B/Bについて説明する。
(S2a)基本波成分比B/Vd
過変調領域を用いることにより、スイッチング損失の低減による高効率、及び基本波成分比B/Vdと出力電圧制御範囲の拡大が図られる。
【0089】
基本波成分比B/Vdは式(10)に基づいて求めることができ、位相角θ1k、θ2kはパルス数Nを変数とすることから、パルス数Nおよび変調率αをパラメータとして定まる。図6は変調率αに対する基本波成分比B/Vdの特性であり、パルス数Nが2、4、6の各場合を示している。図6では、パルス数Nが2の場合を一点鎖線で示し、パルス数Nが4の場合を破線で示し、パルス数Nが6の場合を実線で示している。
【0090】
変調率αが上限値αupperを超えると、パルス幅が跳躍すると共に、基本波成分比B/Vdに跳躍現象が発生し、不連続な値となる。基本波成分比B/Vdが連続的に変化し、跳躍が生じない変調率の範囲は、N=2では狭い範囲であり、N=6では広い範囲であり、N=4ではN=2とN=6の中間の範囲である。
【0091】
また、N=4およびN=6の基本波成分比B/Vdは1以上の値となって拡大され、基本波成分Bは入力直流電圧Vdを超える振幅が得られる。これにより、基本波成分比B/Vdの高出力化と出力電圧制御範囲の拡大が図られる。
【0092】
(S2b)高調波成分比B/B、B/B
高調波成分比B/B、B/Bは、基本波成分比B/Vdと同様に、式(10)に基づいて求めることができ、位相角θ1k、θ2kはパルス数Nを変数とすることから、パルス数Nおよび変調率αがパラメータとして定まる。図7は変調率αに対する高調波成分比B/B、B/Bの特性と、基本波成分比B/Vdの特性を示している。図7(a)はパルス数Nが6の場合を示し、図7(b)はパルス数Nが4の場合を示し、図7(c)はパルス数Nが2の場合を示している。図7では、高調波成分比B/Bを一点鎖線で示し、高調波成分比B/Bを破線で示し、基本波成分比B/Vdを実線で示している。
【0093】
変調率αの上限値αupperにおいてパルス幅が跳躍すると、高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bについても不連続な値となりパルス幅の跳躍と同様に跳躍現象が発生する。図7に示す特性は、高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bは、N=2の場合が大きく、N=6の場合が小さく、N=4の場合はこれらの中間であることを示している。このことは、低次の高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bがパルス数Nの増加に対して減少する特性であることを示している。
【0094】
(S3)パルス数Nの設定
図8は、スイッチング損失と高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bとの関係を模式的に示している。スイッチング損失はパルス数Nの増加に対して正の関係の特性があり、パルス数Nが大きくなるとスイッチング損失も増大する。一方、高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bはパルス数Nの増加に対して負の関係の特性があり、パルス数Nが大きくなると高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bは減少する。これらの特性は、スイッチング損失と、高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bとの間には、パルス数Nの増加に対して互いに相反する増減関係があることを示している。
【0095】
RF帯域では、スイッチング損失を抑制させるために過変調領域でのパルス数Nは小さな値が望ましく、一方、高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bを小さくするためには過変調領域でのパルス数Nは大きい値が望ましい。そのため、スイッチング損失と高調波成分との間には、パルス数Nに関してスイッチング損失と高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bとの関係においてトレードオフの関係にある。このトレードオフの関係では、スイッチング損失を抑制させるためにパルス数Nを小さくすると高調波成分比が高まり、高調波成分比を低減させるためにパルス数Nを大きくするとスイッチング損失が増えることになる。
【0096】
そこで、スイッチング損失と高調波成分比B/B,B/Bの特性のバランスを考慮してパルス数Nを設定する。
【0097】
一例として、パルス数Nが2,4,6の場合について見ると、パルス数2では高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bが大きく、スイッチング損失は小さい。パルス数6では高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/Bが小さく、スイッチング損失は大きい。パルス数4は高調波成分比B/Bおよび高調波成分比B/B及びスイッチング損失は、パルス数Nが2と6との中間にある。この関係から、スイッチング損失と高調波成分比とのバランスを考慮してパルス数Nとして4が選択される。
【0098】
なお、上記したパルス数Nの選択は一例である。パルス数の選択は、スイッチング損失と高調波成分比の低減の何れに重みを置くかに依存するため、スイッチング損失を重要視する場合にはパルス数N=2を、高調波成分比の低減を重要視する場合にはパルス数N=6、またはそれ以上の値をそれぞれ選択しても良い。
【0099】
(S4)変調率αの上限値αupperの設定
変調率αの上限値αupperとパルス数Nとの間には式(6)で表される関係があり、パルス数Nをパラメータとして上限値αupperを設定することができる。
【0100】
(S5)変調率の設定
S3で設定したパルス数Nに基づいて、S4で設定した上限値αupperを設定値の上限として、変調率指令値αrefに基づいて変調率αを設定する。
【0101】
(S5a)定格出力電圧について
図9はパルス数Nに対する基本波成分比B/Vdを示している。なお、ここで示す基本波成分比B/Vdは、図6で示した変調率αに対する基本波成分比B/Vdにおいて、跳躍が発生しない範囲において基本波成分比B/Vdが最も大きな値であり、変調率αの上限値αupperに対応する値である。
【0102】
図9において、S3で設定したパルス数Nに対する基本波成分比B/Vdを求め、この値に基づいて定格出力電圧が決定される。図9において、Vdは入力直流電圧であり、Bは基本波成分であるため、求められた基本波成分比B/Vdは入力直流電圧Vdに対する出力電圧の関係にある。この関係から、入力直流電圧Vdを入力した場合には、基本波成分B(=(B/Vd)・Vd)は出力電圧として扱うことができる。図9に示す基本波成分比B/Vdは変調率αが上限値αupperの場合であるので、この基本波成分Bは出力電圧の最大値である。定格出力電圧は、この出力電圧を上限電圧とする電圧範囲の中から設定する。
【0103】
(S5b)変調率の設定
変調率αに対する基本成分比B/Vdの関係において、変調範囲において上限値αupperと同じ値あるいは小さい値を変調率αとして設定する。図10は、変調率αに対する基本成分比B/Vdを示し、変調率αは通常変調領域の範囲と過変調領域の範囲を含み、過変調領域の変調率は上限値αupperにより上限が制限される。
【0104】
また、変調率指令値αrefがその上限値αupperよりも小さい場合はαrefを変調率αとして設定し、変調率指令値αrefが上限値αupperよりも大きい場合にはαupperを変調率αとして設定する。
ただし、変調率指令値αref図12のように外部から与えられる場合もあれば、変調信号生成部8Aで設定される場合もある。
【0105】
(シミュレーション例)
以下、本発明のシミュレーション例を図11に示す。図11のシミュレーション例はN=4,fs=150kHz、α=0.4~2.5とし、定格電圧をB/Vd=1.17に定めた場合の例であり、変調率αに対する基本波成分比B/Vdと出力電圧eoのTHD(全高調波歪)を示している。このシミュレーション例によれば、変調率αは上限値αupperよりも低い値において、基本波比B/Vdの跳躍は観測されていない。
【0106】
図11のシミュレーション例は、過変調領域を活用し、変調率の上限を制限することにより、出力電圧の高出力化と高調波成分が抑制された正弦波出力電圧が得られることを示している。なお、出力効率はスイッチングデバイス等の条件に影響を受けるため、シミュレーション例は出力効率の傾向を示すものであって図中の数値は一例に過ぎない。
【0107】
(本発明のRF帯域電源装置の構成例)
図12は本発明のRF帯域電源装置の構成例を説明するための構成図である。
RF帯域電源装置1は、直流電圧Vdを出力する直流電源2と、直流電源2が供給する入力直流電圧を交流電圧に変換してインバータ出力Vinvを出力する単相PWMインバータ3と、単相PWMインバータ3が出力するインバータ出力Vinvに含まれる高周波成分を除去し、正弦波出力Voutを出力するローパスフィルタ(LPF)4と、単相PWMインバータ3をPWM制御するインバータ制御部5とを備える。インバータ制御部5はPWMパルス信号を生成するPWM制御部6と、正弦波の変調信号と三角波のキャリア信号を生成してPWM制御部6に送る変調信号/キャリア信号生成部7とを備える。
【0108】
変調信号/キャリア信号生成部7は、変調信号の変調率を制御する変調制御部8を備える。変調制御部8は変調信号を生成する変調信号生成部8A、及び変調率αの上限値αupperを定める変調率上限設定部8Bを備える。
【0109】
変調信号/キャリア信号生成部7は、更にキャリア信号を生成するキャリア信号生成部9、パルス数Nを設定するパルス数N設定部10を備える。キャリア信号生成部9は、パルス数N設定部10で設定したパルス数Nに基づいてキャリア信号を生成する。
【0110】
なお、変調率上限設定部8B、及びパルス数N設定部10は、変調信号/キャリア信号生成部7の外部に設ける構成としてもよい。また、変調率指令値αref及びパルス数Nをあらかじめ設定しておき、変調信号生成部8Aによりこの変調率指令値αrefを用いて変調率αを設定し、キャリア信号生成部9はこのパルス数Nを用いてキャリア信号の生成を行う構成としても良い。
【0111】
単相PWMインバータ3の一構成例は、例えば、D級フルブリッジ増幅器により構成され、フルブリッジ回路Br及び出力トランス(図示していない)を備える。単相PWMインバータ3は、直流電源の直流電圧Vdをフルブリッジ回路のスイッチング動作により電力変換し、出力トランスからインバータ出力Vinvを出力する。フルブリッジ回路Brは、スイッチング素子Q1、Q2、Q3、Q4の4つのスイッチング素子を備える。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の直列回路を一方の第1レグとし、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の直列回路を他方の第2レグとしてブリッジ回路を構成する。第1レグ及び第2レグの上アーム側のスイッチング素子Q1、Q3の高電圧側は直流電源2の高電圧側に接続され、第1レグ及び第2レグの下アーム側のスイッチング素子Q2、Q4の低電圧側は直流電源2の低電圧側に接続される。第1レグの点X及び第2レグの点Yは出力トランスTrの入力端に接続する。単相PWMインバータ3は、スイッチング素子Q1、Q2、及びスイッチング素子Q3、Q4のオン/オフ動作をゲート信号(PWMパルス信号)により切り換えることにより直流電圧を交流電圧に変換し、インバータ出力Vinvを出力する。
【0112】
各スイッチング素子Q1~Q4のそれぞれに還流ダイオードを並列接続し、スイッチング素子がオン状態からオフ状態の切り替わった際に逆流する電流を、還流ダイオードを通して流すことによりスイッチング素子の破壊を防ぐ構成としてもよい。なお、第1レグ及び第2レグの名称は説明の便宜上から用いている。
【0113】
ローパスフィルタ4は、単相PWMインバータ3のインバータ出力Vinvに含まれる高周波成分を除去し、正弦波出力Voutを出力する。ローパスフィルタ4は出力トランスTrの出力側に接続され、単相PWMインバータ3により直流電圧から交流電圧に電力変換されたインバータ出力Vinvを入力する。ローパスフィルタ4は、例えば、インダクタとキャパシタのLC回路で構成され、インバータ出力Vinvに含まれる高周波成分を除去し、得られた正弦波出力Voutを負荷に供給する。なお、ローパスフィルタ4のカットオフ周波数は、正弦波出力Voutの周波数fsに対応して設定される。
【0114】
PWM制御部6は、変調波Sの変調信号とキャリア波Cのキャリア信号とを比較することにより、ゲート信号(PWMパルス信号)を生成する。ゲート信号(PWMパルス信号)は単相PWMインバータ3が備えるスイッチング素子Q1~Q4のオン/オフ動作を制御するPWMパルス信号である。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2が直列接続された第1レグにおいて、スイッチング素子Q1を制御するゲート信号(PWMパルス信号)とスイッチング素子Q2を制御するゲート信号(PWMパルス信号)とは反転した信号関係にある。ゲート信号間には、直流電源2の正端子と負端子間の短絡を防ぐために、両スイッチング素子が同時にオン状態とならないためのデッドタイムが設けられる。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4が直列接続された第2レグにおいても同様の信号関係であり、デッドタイムが設けられる。
【0115】
変調信号生成部8Aは、変調指令信号と変調率指令値αrefに基づいて変調信号を生成する。変調指令信号は、変調信号の信号波形及び変調周波数fsを指令する。変調信号の信号波形は正弦波であり、RF帯域電源装置の出力電圧を正弦波とする。変調率αの上限値αupperを上限とする変調範囲内において変調率αを設定し、変調信号α・sin(2π・fs・t)を生成する。
【0116】
変調率の設定は、(S5b)で示したように、変調率指令値αrefが上限値αupperよりも小さい場合はαrefを変調率αとして設定し、変調率指令値αrefが上限値αupperよりも大きい場合にはαupperを変調率αとして設定する。
【0117】
変調率上限設定部8Bは、(S4)で示したように、(S3)で設定したパルス数Nに基づいて変調率αの上限値αupperを設定する。
変調率αの上限である上限値αupperを制限することにより、パルス幅及び基本波成分比B/Vdが不連続となる跳躍現象を抑制する。
【0118】
キャリア信号生成部9は、変調指令信号とパルス数Nに基づいてキャリア信号を生成する。変調指令信号は変調周波数fsを指令する。キャリア信号生成部9は、キャリア波Cとして三角波を生成する。キャリア信号生成部9は、変調周波数fsにパルス数Nを乗じた周波数N・fsをキャリア波周波数fcとして設定する。
【0119】
パルス数N設定部10はパルス数Nを設定する。パルス数Nの設定は(S3)で示した様に、スイッチング損失と高調波成分比B/B、B/Bの特性に基づいて、両者のバランスを考慮して設定する。パルス数N設定部10で設定したパルス数Nは、変調率上限設定部8Bでの変調率αの上限値αupperの設定、及びキャリア信号生成部9でのキャリア波Cのキャリア信号の生成に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明のRF帯域電源装置及びパルス幅変調制御方法は、半導体製造装置や液晶パネル製造装置等に用いられる高周波電源(RFジェネレータ)に適用することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 RF帯域電源装置
2 直流電源
3 単相PWMインバータ
4 ローパスフィルタ
5 インバータ制御部
6 PWM制御部
7 変調信号/キャリア信号生成部
8 変調制御部
8A 変調信号生成部
8B 変調率上限設定部
9 キャリア信号生成部
10 パルス数N設定部
fc キャリア波周波数
fs 変調波周波数
C キャリア信号
S 変調信号
N パルス数
Q1、Q2、Q3、Q4 スイッチング素子
Vd 直流電圧
inv インバータ出力
out 正弦波出力
α 変調率
αref 変調率指令値
αupper 変調率の上限値
αlower 変調率の過変調下限値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14