(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】膜担体及び検査キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240416BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20240416BHJP
G01N 37/00 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N35/08 A
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2021515803
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2020004282
(87)【国際公開番号】W WO2020217635
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019083155
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】青山 周平
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雄斗
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-256161(JP,A)
【文献】特開2015-049161(JP,A)
【文献】特表2014-510925(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098740(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181540(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 35/00-37/00
G01N 1/00- 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突起部が形成された第1面を有する検知ゾーンを備え、
前記突起部の突出方向から見て、前記突起部の中心を通過する一直線に沿って切断して形成された縦断面である一断面において、前記突起部は、
前記突起部の幅方向において前記突起部の中心から前記突起部の一方の側に位置する第1領域と、
前記突起部の前記幅方向において前記突起部の前記中心から前記突起部の他方の側に位置する第2領域と、
を有し、
前記一断面において、前記突起部の前記第1領域は、前記突起部の高さ方向において高さH1を有し、かつ前記突起部の外縁に沿った周長L1を有し、
前記一断面において、前記突起部の前記第2領域は、前記突起部の前記高さ方向において高さH2を有し、かつ前記突起部の外縁に沿った周長L2を有し、
1.30≦(L1/H1+L2/H2)/2が満たされている、膜担体。
【請求項2】
請求項1に記載の膜担体において、
以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第1領域における前記外縁の少なくとも一部分の算術平均粗さRa1又は以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第2領域における前記外縁の少なくとも一部分の算術平均粗さRa2が0.020μm以上1.000μm以下である、膜担体。
(工程1)前記外縁の前記少なくとも一部分のプロファイルを抽出すること
(工程2)前記プロファイルの始点及び終点が前記プロファイルのフィッティング曲線と重なるように
したうえで、前記プロファイル
から前記フィッティング曲線を除去するトレンド除去
を行うこと
(工程3)トレンド除去されたプロファイルに対して、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λsを適用せずに、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λcにつき1μmを適用して、Ra1又はRa2を算出すること
【請求項3】
請求項1又は2に記載の膜担体において、
以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第1領域における前記外縁の少なくとも一部分の二乗平均平方根粗さRq1又は以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第2領域における前記外縁の少なくとも一部分の二乗平均平方根粗さRq2が0.030μm以上1.000μm以下である、膜担体。
(工程1)前記外縁の前記少なくとも一部分のプロファイルを抽出すること
(工程2)前記プロファイルの始点及び終点が前記プロファイルのフィッティング曲線と重なるように
したうえで、前記プロファイル
から前記フィッティング曲線を除去するトレンド除去
を行うこと
(工程3)トレンド除去されたプロファイルに対して、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λsを適用せずに、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λcにつき1μmを適用して、Rq1又はRq2を算出すること
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の膜担体において、
前記第1面は、規則的に、又は、並進対称的に並んでおり、前記突起部を含む複数の突起部を有する、膜担体。
【請求項5】
請求項4に記載の膜担体において、
隣り合う突起部の間における前記第1面の表面粗さは、前記突起部の表面の表面粗さより小さい、膜担体。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の膜担体において、
隣り合う突起部の最近接距離は、0以上500μm以下である、膜担体。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の膜担体において、
前記突起部は、熱可塑性樹脂を含む、膜担体。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載の膜担体において、
前記突起部には、界面活性剤が付着している、膜担体。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の膜担体において、
前記高さH1及び前記高さH2のそれぞれは、5μm以上1000μm以下である、膜担体。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一項に記載の膜担体を備える検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜担体及び検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗原抗体反応等を用いることで、感染症への罹患や妊娠、血糖値等を測定する、Point of Care Test(POCT、臨床現場即時検査)試薬が注目を集めている。POCT試薬は、例えば、被検者の傍らで行われる検査、あるいは被検者自らが行う検査試薬であり、短時間で結果の判別が可能、使用方法が簡便、安価であるといった特徴を有する。これらの特徴から、症状が軽度の段階での診察や定期診察等に多く使用されており、今後増加することが予想される在宅医療においても重要な診察ツールとなっている。
【0003】
多くのPOCT試薬では、血液等の液体試料を検査キットに導入し、その中に含まれる特定の被検出物質を検出することで判定を行っている。液体試料から特定の被検出物質を検出する方法としてイムノクロマトグラフィ法がよく用いられている。イムノクロマトグラフィ法とは、検査キットの膜担体上に滴下された液体が膜担体上を移動する中で、被検出物質と標識物質とが結合し、さらに、これらが検査キット中に固定化された物質(以下、検出物質という)と特異的に結合し、その結果生じた色や質量の変化等を検出するという手法である。検出物質は、試薬(reagent)と言い換えてもよい。
【0004】
液体試料を移動させるための膜担体としては、ニトロセルロース膜がよく用いられている(特許文献1)。ニトロセルロース膜は、直径が数μm程度の微細な孔を多数有しており、その孔の中を液体試料が毛細管力によって移動する。
【0005】
しかし、ニトロセルロース膜は天然物由来であり、孔径や孔同士のつながり方が一様ではないため、それぞれの膜で液体サンプルの流れる流速に差異が生じてしまう。流速に差異が生じると、被検出物質を検出するためにかかる時間も変化してしまい、その結果、被検出物質が結合を生じる前に非検出として誤って判断してしまう可能性がある。
【0006】
上記の課題を解決するため、微細流路を人工的に作製した液体試料検査キットが考案されている(特許文献2)。特許文献2は、合成材料を用いることで、均一な構造を有する膜担体を作製することができるため、被検出物質が結合を生じる前に非検出として誤って判断してしまう可能性を低減できる。
【0007】
合成材料を用いた際、検出感度向上のためには、検出物質と材料の親和性を高くする必要があり、予め材料に各種表面処理を行うことが有効と考えられている(特許文献3~4)。特許文献5は、液体試料中の被検出物質を検出する検査キット用の膜担体であって、液体試料を輸送できる少なくとも一つの流路を備え、流路の底面に、液体試料を輸送するための毛細管作用を生じせしめる微細構造が設けられている、液体試料検査キット用膜担体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-062820号公報
【文献】特許第5799395号公報
【文献】特開2013-113633号公報
【文献】米国特許出願公開第2011/0284110号明細書
【文献】国際公開第2016/098740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような検査キットについて、検出感度のさらなる向上が求められている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、検出感度が向上した検査キットを得ることが可能な膜担体及び検出感度が向上した検査キットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、膜担体の検知ゾーンに形成された突起部の周長が特定の関係を満たすことによって、液体試料中の被検出物質の検出感度を向上できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下に示す膜担体及び検査キットが提供される。
【0013】
[1]
突起部が形成された第1面を有する検知ゾーンを備え、
一断面において、前記突起部は、
前記突起部の幅方向において前記突起部の中心から前記突起部の一方の側に位置する第1領域と、
前記突起部の前記幅方向において前記突起部の前記中心から前記突起部の他方の側に位置する第2領域と、
を有し、
前記一断面において、前記突起部の前記第1領域は、前記突起部の高さ方向において高さH1を有し、かつ前記突起部の外縁に沿った周長L1を有し、
前記一断面において、前記突起部の前記第2領域は、前記突起部の前記高さ方向において高さH2を有し、かつ前記突起部の外縁に沿った周長L2を有し、
1.30≦(L1/H1+L2/H2)/2が満たされている、膜担体。
[2]
上記[1]に記載の膜担体において、
以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第1領域における前記外縁の少なくとも一部分の算術平均粗さRa1又は以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第2領域における前記外縁の少なくとも一部分の算術平均粗さRa2が0.020μm以上1.000μm以下である、膜担体。
(工程1)前記外縁の前記少なくとも一部分のプロファイルを抽出すること
(工程2)前記プロファイルの始点及び終点が前記プロファイルのフィッティング曲線と重なるように前記プロファイルをトレンド除去すること
(工程3)トレンド除去されたプロファイルに対して、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λsを適用せずに、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λcにつき1μmを適用して、Ra1又はRa2を算出すること
[3]
上記[1]又は[2]に記載の膜担体において、
以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第1領域における前記外縁の少なくとも一部分の二乗平均平方根粗さRq1又は以下の工程を含む方法によって算出される前記突起部の前記第2領域における前記外縁の少なくとも一部分の二乗平均平方根粗さRq2が0.030μm以上1.000μm以下である、膜担体。
(工程1)前記外縁の前記少なくとも一部分のプロファイルを抽出すること
(工程2)前記プロファイルの始点及び終点が前記プロファイルのフィッティング曲線と重なるように前記プロファイルをトレンド除去すること
(工程3)トレンド除去されたプロファイルに対して、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λsを適用せずに、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λcにつき1μmを適用して、Rq1又はRq2を算出すること
[4]
上記[1]から[3]までのいずれか一つに記載の膜担体において、
前記第1面は、規則的に、又は、並進対称的に並んでおり、前記突起部を含む複数の突起部を有する、膜担体。
[5]
上記[4]に記載の膜担体において、
隣り合う突起部の間における前記第1面の表面粗さは、前記突起部の表面の表面粗さより小さい、膜担体。
[6]
上記[4]又は[5]に記載の膜担体において、
隣り合う突起部の最近接距離は、0以上500μm以下である、膜担体。
[7]
上記[1]から[6]までのいずれか一つに記載の膜担体において、
前記突起部は、熱可塑性樹脂を含む、膜担体。
[8]
上記[1]から[7]までのいずれか一つに記載の膜担体において、
前記突起部には、界面活性剤が付着している、膜担体。
[9]
上記[1]から[8]までのいずれか一つに記載の膜担体において、
前記高さH1及び前記高さH2のそれぞれは、5μm以上1000μm以下である、膜担体。
[10]
上記[1]から[9]までのいずれか一つに記載の膜担体を備える検査キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検出感度が向上した検査キットを得ることが可能な膜担体及び検出感度が向上した検査キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0016】
【
図1】本発明による実施形態の一例であり、検査キットの模式的な上面図である。
【
図2】本発明による実施形態の一例であり、膜担体の模式的な上面図である。
【
図3】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、凹凸構造Aの俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す凹凸構造Aを構成する突起部の斜視図である。
【
図4】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、凹凸構造Aの俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す凹凸構造Aを構成する突起部の斜視図である。
【
図5】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、凹凸構造Aの俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す凹凸構造Aを構成する突起部の斜視図である。
【
図6】(a)は、本発明による実施形態の一例であり、凹凸構造Aの俯瞰図(上面図)であり、(b)は、(a)に示す凹凸構造Aを構成する突起部の斜視図である。
【
図7】(a)は、凹凸構造Aにおける微細凹凸構造Bが形成された突起部の各種パラメータの測定方法の第1例を説明するための図であり、(b)は、凹凸構造Aにおける微細凹凸構造Bが形成された突起部の各種パラメータの測定方法の第2例を説明するための図である。
【
図8】本発明による実施形態の一例であり、表面処理の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0018】
1.膜担体
本実施形態に係る検査キット用膜担体(単に「膜担体」ともいう)は、液体試料中の被検出物質を検出するための検査キット用の膜担体であって、上記液体試料を輸送でき、かつ、検知ゾーンを有する流路を備え、上記流路は、上記液体試料を輸送するための毛細管作用を生じさせることができるとともに、突起部を有する凹凸構造Aを有する。
そして、本実施形態に係る検査キット用膜担体は、少なくとも上記検知ゾーンにおいて、上記突起部の表面に微細凹凸構造Bが形成されている。膜担体は、上記突起部が形成された第1面(平坦部を含む面)を有する検知ゾーンを備えている。一断面において、上記突起部は、第1領域及び第2領域を有している。上記突起部の前記第1領域は、上記突起部の幅方向において上記突起部の中心から上記突起部の一方の側に位置している。上記突起部の上記第2領域は、上記突起部の上記幅方向において上記突起部の上記中心から上記突起部の他方の側に位置している。上記一断面において、上記突起部の上記第1領域は、上記突起部の上記高さ方向において高さH1を有し、かつ上記突起部の外縁に沿った周長L1を有している。上記一断面において、上記突起部の上記第2領域は、上記突起部の上記高さ方向において高さH2を有し、かつ上記突起部の外縁に沿った周長L2を有している。上記膜担体においては、1.30≦(L1/H1+L2/H2)/2が満たされている。ここで、上記一断面において上記突起部の先端に深さ1.0μm以上の凹部が形成されている場合、上記第1領域及び上記第2領域は、上記凹部を除いた領域である。
上記一断面において、上記突起部は、幅Wを有している。上記膜担体においては、上記突起部の高さ及び幅は、一定の関係、例えば、0.90≦(H1+H2)/(2W)≦1.10を満たしている。ここで、(H1+H2)/(2W)は、上記突起部のアスペクト比に相当する。
上記膜担体においては、上記突起部の幅及び周長は、一定の関係、例えば、1.28≦(L1+L2)/(2W)を満たしていてもよい。ここで、(L1+L2)/(2W)は、単位幅当たりにおける周長に相当する。
なお、上記微細凹凸構造Bの表面にはシランカップリング剤が付着していてもよい。
また、本実施形態に係る突起部の表面に形成された微細凹凸構造Bは、マクロ的には、縞状や筋状等の形状を有している。
【0019】
本実施形態に係る検査キット用膜担体は、L1及びL2が上記関係を満たすことで、検知ゾーンの検出物質担持量を増加させることが可能となり、その結果、液体試料中の被検出物質の検出感度を向上させることができる。
検知ゾーンの検出物質担持量を増加させることができる理由は明らかではないが、以下の理由が考えられる。
まず、L1及びL2が上記関係を満たすことは、突起部の表面積が微細凹凸構造Bの存在によって大きくなっていることを示す指標となる。
そのため、少なくとも上記検知ゾーンにおいて、L1及びL2が上記関係を満たす微細凹凸構造Bは、検出物質を担持するために適した空間を有する構造になっていると考えられる。よって、本実施形態に係る検査キット用膜担体は、少なくとも上記検知ゾーンにおいて、L1及びL2が上記関係を満たす微細凹凸構造Bを有するため、検知ゾーンの検出物質担持量を増加させることが可能になると考えられる。
ただし、検出感度の向上に関わる微細凹凸構造Bは、上記突起部の表面のうちマクロ的に大きな凹部が存在しない部分に形成された微細凹凸構造Bであると考えられる。これは、マクロ的に大きな凹部は、検出物質を担持するために適しない空間を有する構造になっているからと考えられる。上記突起部の先端にはマクロ的に大きな凹部が形成される場合がある。この場合、L1及びL2は、マクロ的に大きな凹部に沿った外縁の周長を除く周長にすべきとなる。
以上から、本実施形態に係る検査キット用膜担体は、L1及びL2が上記関係を満たすことによって、液体試料中の被検出物質の検出感度を向上させることができると考えられる。
【0020】
上記微細凹凸構造Bによって、上記突起部の表面粗さは、大きくなっている。
【0021】
一例において、以下の工程を含む方法によって算出される上記突起部の上記第1領域における上記外縁の少なくとも一部分の算術平均粗さRa1又は以下の工程を含む方法によって算出される上記突起部の上記第2領域における上記外縁の少なくとも一部分の算術平均粗さRa2は、0.020μm以上1.000μm以下にすることができる。
(工程1)上記外縁の前記少なくとも一部分のプロファイルを抽出すること
(工程2)上記プロファイルの始点及び終点が上記プロファイルのフィッティング曲線と重なるように上記プロファイルをトレンド除去すること
(工程3)トレンド除去されたプロファイルに対して、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λsを適用せずに、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λcにつき1μmを適用して、Ra1又はRa2を算出すること
【0022】
一例において、以下の工程を含む方法によって算出される上記突起部の上記第1領域における上記外縁の少なくとも一部分の二乗平均平方根粗さRq1又は以下の工程を含む方法によって算出される上記突起部の上記第2領域における上記外縁の少なくとも一部分の二乗平均平方根粗さRq2は、0.030μm以上1.000μm以下にすることができる。
(工程1)上記外縁の前記少なくとも一部分のプロファイルを抽出すること
(工程2)上記プロファイルの始点及び終点が上記プロファイルのフィッティング曲線と重なるように上記プロファイルをトレンド除去すること
(工程3)トレンド除去されたプロファイルに対して、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λsを適用せずに、JIS B0601:2013に規定されるカットオフ値λcにつき1μmを適用して、Rq1又はRq2を算出すること
【0023】
本実施形態に係る検査キット用膜担体において、上記突起部、特に、上記微細凹凸構造Bの表面には界面活性剤が付着していてもよい。ここで、界面活性剤は、微細凹凸構造Bの表面に物理的に吸着していてもよいし、化学的に吸着していてもよいし、微細凹凸構造Bの表面に存在する官能基に直接結合していてもよい。仮に、上記凹凸構造A及び上記微細凹凸構造Bによって膜担体が撥水性を呈したとしても、上記界面活性剤によって、当該撥水性を低減することができ、検知ゾーンの検出物質担持量(特に、液体の量)を維持することができる。
本実施形態に係る界面活性剤としては、
コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、スクロースモノコレート;
β-D-フラクトピラノシル-α-D-グルコピラノシドモノドデカノエート、β-D-フラクトピラノシル-α-D-グルコピラノシドモノデカノエート;
n-オクタノイル-N-メチルグルカミド、n-ノナノイル-N-メチルグルカミド、n-デカノイル-N-メチルグルカミド、n-オクチル-β-D-チオグルコピラノシド、n-オクチル-β-D-マルトピラノシド、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド、n-ノニル-β-D-チオマルトピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、n-デシル-β-D-マルトピラノシド;
N,N-ビス(3-D-グルコンアミドプロピル)コラミド、N,N-ビス(3-D-グルコンアミドプロピル)デオキシコラミド;
3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸;
ツビッタージェント(ZWITTERGENT)3-10デタージェント(商品名)カルビオケム製、ツビッタージェント3-12デタージェント(商品名)カルビオケム製、ツビッタージェント3-14デタージェント(商品名)カルビオケム製;
TritonX-100(商品名):ポリエチレングリコールモノ-р-イソオクチルフェニルエーテル(ナカライテスク(株))、Tween20:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ナカライテスク(株))、Tween80:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ナカライテスク(株))、NP-40:ノニデット P-40(ナカライテスク(株))、Zwittergent:Zwittergent 3-14(カルビオケム(株))、SDS:ドデシル硫酸ナトリウム(ナカライテスク(株))、CHAPS:3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸(同仁化学(株))等;あるいはこれらを2種類以上組み合わせ、又は混合したものを用いることができるが、これらに限定されない。
【0024】
本実施形態に係る検査キット用膜担体において、上記微細凹凸構造Bの表面にはシランカップリング剤が付着していてもよい。ここで、シランカップリング剤は、微細凹凸構造Bの表面に物理的に吸着していてもよいし、化学的に吸着していてもよいし、微細凹凸構造Bの表面に存在する官能基に直接結合していてもよい。
本実施形態に係るシランカップリング剤としては、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、アクリル基を有するシランカップリング剤、メタクリル基を有するシランカップリング剤、ビニル基を有するシランカップリング剤及びイソシアネート基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、5,6-エポキシヘキシルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
アクリル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
メタクリル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-(メタクリロイルオキシプロピルメチル)ジメトキシシラン等が挙げられる。
ビニル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、例えば、トリメトキシシリルメチルイソシアネート、トリエトキシシリルメチルイソシアネート、トリプロポキシシリルメチルイソシアネート、2-トリメトキシシリルエチルイソシアネート、2-トリエトキシシリルエチルイソシアネート、2-トリプロポキシシリルエチルイソシアネート、3-トリメトキシシリルプロピルイソシアネート、3-トリエトキシシリルプロピルイソシアネート、3-トリプロポキシシリルプロピルイソシアネート、4-トリメトキシシリルブチルイソシアネート、4-トリエトキシシリルブチルイソシアネート、4-トリプロポキシシリルブチルイソシアネート等が挙げられる。
これらのシランカップリング剤は一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、検知ゾーンの検出物質担持量をより一層増加させることが可能な点から、アミノ基を有するシランカップリング剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0025】
シランカップリング剤の付着量は、例えば、膜担体3の表面積1m2あたり0.1mg以上10g以下の範囲である。
【0026】
本実施形態に係る検査キット用膜担体において、上記微細凹凸構造Bの表面に架橋剤(クロスリンカー)がさらに付着していることが好ましい。上記微細凹凸構造Bの表面に架橋剤がさらに付着させることで、微細凹凸構造Bの表面に検出物質を安定的に担持することができる。これにより、検知ゾーンの検出物質担持量をより一層増加させることが可能となる。
また、架橋剤を用いることで、立体障害等によって、上記微細凹凸構造Bの表面に上手く吸着できない検出物質も担持することができるようになるため、検出物質担持量をより一層増加させることができる。
ここで、架橋剤は、微細凹凸構造Bの表面に物理的に吸着していてもよいし、化学的に吸着していてもよいし、微細凹凸構造Bの表面に存在する官能基に直接結合していてもよい。また、架橋剤は、シランカップリング剤を含む層の表面に物理的に吸着していてもよいし、化学的に吸着していてもよいし、シランカップリング剤に直接結合していてもよい。
【0027】
本実施形態に係る架橋剤としては、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、デキストラン、1,4-フェニルジイソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート、ポリエチレンイミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソチオシアネート、N,N’-ポリメチレンビスヨードアセトアミド、N,N’-エチレンビスマレイミド、エチレングリコールビススクシニミジルスクシネート、ビスジアゾベンジジン、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、N-ヒドロキシスクシイミド、N-スルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、N-スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノベンゾエート、N-スクシンイミジル4-(1-マレイミドフェニル)ブチレート、N-(ε-マレイミドカプロイルオキシ)コハク酸イミド、イミノチオラン、S-アセチルメルカプトコハク酸無水物、メチル-3-(4’-ジチオピリジル)プロピオンイミデート、メチル―4-メルカプトブチリルイミデート、メチル-3-メルカプトプロピオンイミデート、N-スクシンイミジル-S-アセチルメルカプトアセテート等が挙げられる。
これらの架橋剤は一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、検知ゾーンの検出物質担持量をより一層増加させることが可能な点から、グルタルアルデヒド、デキストラン、1,4-フェニルジイソシアネート、トルエン-2,4ジイソシアネート、ポリエチレンイミン、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート及びN-ヒドロキシスクシイミドから選択される少なくとも一種の架橋剤が好ましい。
【0028】
架橋剤の付着量は、例えば、膜担体3の表面積1m2あたり0.1mg以上10g以下の範囲である。
【0029】
ここで、被検出物質は、何ら限定されるものではなく、各種病原体、各種臨床マーカー等、抗体と抗原抗体反応することが可能ないかなる物質であってもよい。被検出物質の具体例としては、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HAV、HBs、HIV等のウイルス抗原、MRSA、A群溶連菌、B群溶連菌、レジオネラ属菌等の細菌抗原、細菌等が産生する毒素、マイコプラズマ、クラミジア・トラコマティス、ヒト絨毛性ゴナドトロピン等のホルモン、C反応性タンパク質、ミオグロビン、心筋トロポニン、各種腫瘍マーカー、農薬及び環境ホルモン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。被検出物質が、特に、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、C反応性タンパク質、ミオグロビン及び心筋トロポニンのような検出と治療措置に急を要する項目の場合にはその有用性が特に大きい。被検出物質は、単独で免疫反応を誘起できる抗原であってもよいし、単独では免疫反応を誘起できないが抗体と抗原抗体反応により結合することが可能なハプテンであってもよい。被検出物質は、通常、液体試料中で浮遊又は溶解した状態にある。液体試料は、例えば、上記被検出物質を緩衝液に浮遊又は溶解させた試料であってよい。
【0030】
本実施形態に係る液体試料検査キット(以下、単に「検査キット18」ともいう)は、本実施形態に係る検査キット用膜担体を有し、液体試料中の被検出物質を検出するものである。
図1は、検査キットの模式的な上面図である。例えば、
図1に示すように、検査キット18は、膜担体3と、膜担体3を収容する筐体18aと、を備える。膜担体3は、その表面に、液体試料が滴下される滴下ゾーン3xと、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーン3yと、を有している。滴下ゾーン3xは、筐体18aの第一開口部18bにおいて露出している。検知ゾーン3yは、筐体18aの第二開口部18cにおいて露出している。
【0031】
図2は、膜担体3の模式的な上面図である。
図2に示すように、膜担体3は、液体試料を輸送する少なくとも一つの流路2を備えている。流路2の底面には、凹凸構造Aが設けられている(図示せず、詳細は後述)。凹凸構造Aは、少なくとも滴下ゾーン3xと検知ゾーン3yとの間に位置する。膜担体3の表面全体にわたり、凹凸構造Aが設けられていてもよい。膜担体3の表面全体が、液体試料の流路2であってよい。凹凸構造Aは、毛細管作用を生じせしめる。凹凸構造Aの毛細管作用により、液体試料は、凹凸構造Aを介して、滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ(輸送方向dに沿って)輸送される。液体試料中の被検出物質が検知ゾーン3yにおいて検出されると、検知ゾーン3yの色が変化する。
【0032】
膜担体3の全体の形状は、特に限定されないが、例えば、四角形等の多角形、円形、又は楕円形であってよい。膜担体3が四角形である場合、膜担体3の縦幅(短手方向の長さ)LSは、例えば、1mm以上100mm以下であってよく、膜担体3の横幅(長手方向の長さ)LLは、例えば、1mm以上100mm以下であってよい。凹凸構造Aの高さを除く膜担体の厚みは、例えば、0.1mm以上10mm以下であってよい。
【0033】
図3~6は、それぞれ、本実施形態における、流路の底面に設けられた凹凸構造A及びそれを構成する突起部(凸部とも呼ぶ)の一例を示す。
図3~6中、(a)は、それぞれ凹凸構造Aの俯瞰図(上面図)であり、(b)は、それぞれ(a)に示す凹凸構造Aを構成する突起部の斜視図である。
図3~6に示すように、凹凸構造A(7)は、突起部8の総体である。つまり、膜担体3は、液体試料の流路2の底面に相当する平坦部9と、平坦部9から突出する複数の突起部8と、を備える。上記第1面は、平坦部9を含む面である。平坦部9(上記第1面)は、厳密に平坦である必要はない。例えば、隣り合う突起部8の間における平坦部9(上記第1面)の表面粗さは、突起部8の表面(すなわち、微細凹凸構造B)の表面粗さより小さくすることができる。ここで、表面粗さは、例えば、Ra1、Ra2、Rq1又はRq2を算出するための上述した方法と同様にして算出される算術平均粗さRa又は二乗平均平方根粗さRqである。毛細管作用により、複数の突起部8の間の空間が、液体試料を膜担体3の表面に沿って輸送する流路2として機能する。換言すれば、毛細管作用により、凹凸構造A(7)における空隙が、液体試料を膜担体3の表面に沿って輸送する流路2として機能する。複数の突起部8は、規則的に、又は、並進対称的に、膜担体3の表面(上記第1面)上に並んでいてよい。
【0034】
上記の凹凸構造A(7)を構成する複数の突起部8の形状は、自由に選択することができる。突起部8の形状としては、例えば、円錐、多角錐、円錐台、多角錐台、円柱、多角柱、半球、半楕円体等が挙げられる。凹凸構造Aの底面としては、円形又は多角形(例えば、正方形、ひし形、長方形、三角形、若しくは六角形等)等が挙げられる。例えば、
図3に示すように、突起部8aの形状は、円錐であってよい。例えば、
図4に示すように、突起部8bの形状は、四角錐であってもよい。例えば、
図5に示すように、突起部8cの形状は、六角錐であってもよい。例えば、
図6に示すように、突起部8dの形状は、四角柱(突起部8dがライン状であるライン&スペース構造)であってもよい。凹凸構造A(7)を俯瞰した(上面から見た)際に膜担体3の全表面を視認でき、被検出物質が検出された際の色変化を光学的手法で確認しやすい点で、これらの中では、円錐や多角錐等の錐体構造が突起部8の形状として適している。錐体構造の中では、円錐が好ましい。
【0035】
凹凸構造A(7)を構成する突起部8の形状は、幾何学的に正確な形状である必要はなく、角部が丸みを帯びている形状や表面に微細な凹凸が存在する形状等であってもよい。
【0036】
上記凹凸構造A(7)を構成する突起部8の底面10の径4(平均径)は、好ましくは5μm以上1000μm以下であり、より好ましくは10μm以上500μm以下である。突起部8の底面10の径4が上記下限値以上である場合、微細加工の精度を低く抑えることができ、凹凸構造A(7)を形成するためのコストが安くなりやすい。突起部8の底面10の径4が上記上限値以下である場合、一つの検査キット内の突起部8の数が多くなり、液体試料を展開しやすくなる。
ここで、突起部8の底面10の径4は、例えば、凹凸構造A(7)から任意の突起部8を5個選択し、選択した5個の突起部8の底面10の径の平均値を採用することができる。
【0037】
突起部8の底面10の径4は、突起部8の底面10における代表長さとして定義される。底面10における代表長さは、底面10の形状が円の場合は直径、三角形又は四角形の場合は最も短い一辺の長さ、五角形以上の多角形の場合は最も長い対角線の長さ、それ以外の形状の場合は底面10における最大の長さとする。
【0038】
図3に示すように、突起部8aの形状が円錐である場合、突起部8aの底面10aの径4aは、円錐の底面(円)の直径である。
図4に示すように、突起部8bの形状が正四角錐である場合、突起部8bの底面10bの径4bは、底面(正四角形)10bの辺の長さである。
図5に示すように、突起部8cの形状が正六角錐である場合、突起部8cの底面10cの径4cは、底面(正六角形)10cの中心を通る対角線の長さ(最も長い対角線の長さ)である。
図6に示すように、突起部8dの長方形である場合、突起部8dの底面10dの径4dは、底面(長方形)10dの最も短い一辺の長さ(
図6では、液体試料の輸送方向dと直交する方向の長さ)である。
【0039】
上記凹凸構造A(7)を構成する突起部8の高さ6(平均高さ)(例えば、高さH1及び高さH2のそれぞれ)は、好ましくは5μm以上1000μm以下であり、より好ましくは10μm以上500μm以下である。突起部8の高さ6が上記下限値以上である場合、流路2の体積が大きくなり、液体試料がより短時間で展開可能となる。突起部8の高さ6が上記上限値以下である場合、凹凸構造A(7)を作製する時間とコストを低減でき、凹凸構造A(7)の作製がより容易となる。
ここで、突起部8の高さ6は、例えば、凹凸構造A(7)から任意の突起部8を5個選択し、選択した5個の突起部8の高さの平均値を採用することができる。
【0040】
突起部8の高さ6は、平坦部9に直交する方向における突起部8の最大長さとして定義される。
図3に示すように、突起部8aの形状が円錐である場合、突起部8aの高さ6aは、平坦部9に直交する方向における突起部8aの最大長さ(円錐の高さ)である。
図4に示すように、突起部8bの形状が四角錐である場合、突起部8bの高さ6bは、平坦部9に直交する方向における突起部8bの最大長さ(四角錐の高さ)である。
図5に示すように、突起部8cの形状が六角錐である場合、突起部8cの高さ6cは、平坦部9に直交する方向における突起部8cの最大長さ(六角錐の高さ)である。
図6に示すように、突起部8dの形状が四角柱である場合、突起部8dの高さ6dは、平坦部9に直交する方向における突起部8dの最大長さ(四角柱の高さ)である。
【0041】
上記凹凸構造A(7)における隣接する突起部間の距離5(平均距離)すなわち突起部8同士の最近接距離は、0以上500μm以下が好ましい。好ましくは500μm以下、より好ましくは2μm以上100μm以下である。隣接する突起部間の距離5は、0μmより小さいことは有りえず、上記上限値以下である場合、液体試料と流路2との接触面積が増大し、これにより毛細管力が増大するため液体試料を移動させることがより容易になる。特に、突起部8同士の最近接距離が0であるとき、隣り合う突起部8は、隙間なく並べられ、単位面積当たりの突起部8の数が増加し、検出シグナルを増強させることができる。ここで、「隣接する突起部間の距離」とは、隣り合う一対の突起部8の最近接距離である。
ここで、隣接する突起部間の距離5は、例えば、凹凸構造A(7)から任意の隣接する突起部間の距離を5個選択し、選択した5個の隣接する突起部間の距離の平均値を採用することができる。
【0042】
上記凹凸構造A(7)を構成する突起部8のアスペクト比は、0.1以上10以下が好ましく、0.1以上2.0以下がより好ましい。ここで言うアスペクト比とは、突起部8の高さ6(Lh)を、突起部8の底面10の代表長さ(径4)(Lv)で割った値(Lh/Lv)である。アスペクト比が上記下限値以上である場合、液体試料と流路2との接触面積が増大し、これにより毛細管力が増大するため液体試料を移動させることがより容易になる。アスペクト比が上記上限値以下である場合、凹凸構造Aの作製がより容易になる。
【0043】
本実施形態に係る検査キット18の凹凸構造A(7)及び膜担体3は、例えば、熱可塑性樹脂を含む。換言すれば、熱可塑性樹脂からなる膜状の基材を加工することにより、凹凸構造A(7)を有する膜担体3を作製することができる。
【0044】
加工方法としては、例えば、熱インプリント、UVインプリント、射出成型、エッチング、フォトリソグラフィー、機械切削、レーザー加工等が挙げられる。これらの中でも安価に精密な加工を施す手法として、熱可塑性樹脂に対する熱インプリントが適している。
熱可塑性樹脂としてはポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられ、具体的にはポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエチレン(PE)等様々な種類のものを用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
インプリントや射出成型といった金型を用いた加工方法の場合、錐体は、底面に比べ上部が細くなっているため、同底面の柱体を作製するよりも金型作製時に削り出す体積は少なくて済み、金型を安価に作製することができる。この場合、液体試料中の被検出物質の検出をより安価に行うことが可能となる。
【0046】
以上説明したとおり、膜担体3は、膜担体3の一面上に設けられた凹凸構造A(7)と、凹凸構造A(7)により形成された、液体試料を輸送する流路2と、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーン(検出部)3yと、を備えている。膜担体3は、液体試料中の被検出物質を検出する検査キット18用の膜担体3であってよい。
【0047】
図7(a)は、凹凸構造A(7)における微細凹凸構造Bが形成された突起部8の各種パラメータの測定方法の第1例を説明するための図である。
図7(b)は、凹凸構造A(7)における微細凹凸構造Bが形成された突起部8の各種パラメータの測定方法の第2例を説明するための図である。
図7(a)及び
図7(b)において、x方向は、突起部8の幅方向を示しており、y方向は、突起部8の高さ方向を示している。
【0048】
【0049】
膜担体3を、膜担体3の上面から見て突起部8の中心を通過する一直線に沿って切断し、膜担体3の当該切断面を走査電子顕微鏡(SEM)によって観察して、突起部8の断面SEM像を得る。突起部8の断面SEM像を画像解析装置(例えば、画像解析ソフトウェアがインストールされたコンピュータ)によって解析する。この断面SEM像における突起部8の断面SEM像を画像解析装置によって解析して、突起部8の外縁について、フィッティング曲線(例えば、ガウシアン分布曲線)を得る。フィッティング曲線は、線対称な形状を有しており、突起部8の中心線Cは、フィッティング曲線の対称軸上に位置している。
【0050】
突起部8は、第1領域RG1及び第2領域RG2を有している。突起部8の第1領域RG1は、突起部8の幅方向(x方向)において突起部8の中心線Cから突起部8の一方の側SS1(
図7(a)に示す例では、左側)に位置している。突起部8の第2領域RG2は、突起部8の幅方向(x方向)において突起部8の中心線Cから突起部8の他方の側SS2(
図7(a)に示す例では、右側)に位置している。
【0051】
突起部8は、幅Wを有している。突起部8の幅Wは、第1領域RG1の左端の位置と第2領域RG2の右端の位置との間の距離である。第1領域RG1の左端の位置及び第2領域RG2の右端の位置は、突起部8の中心線Cに対して直交し、かつ突起部8の高さ0に位置する基準線Rと、突起部8の外縁と、の交点である。
【0052】
突起部8の第1領域RG1は、突起部8の外縁(すなわち、微細凹凸構造B)に沿った周長L1を有しており、突起部8の第2領域RG2は、突起部8の外縁(すなわち、微細凹凸構造B)に沿った周長L2を有している。周長L1及びL2は、画像解析装置によって突起部8の断面SEM像を解析することで算出される。具体的には、突起部8の外縁上の位置を表す関数F(t)=(x(t),y(t))(t:媒介変数)を画像解析装置によって求めて、以下の式(1)に示すようにして、周長L1及びL2を算出する。周長L1及びL2は、以下の式(1)にしたがって、互いに別々に算出される。
【数1】
さらに、関数F(t)=(x(t),y(t))を用いて、以下の式(2)に示すようにして、突起部8の中心線Cを回転軸として回転させた場合における第1領域RG1の回転体の表面積S1及び第2領域RG2の回転体の表面積S2を算出することができる。表面積S1及びS2は、以下の式(2)にしたがって、互いに別々に算出される。突起部8の表面積は、例えば、第1領域RG1の回転体の表面積S1及び第2領域RG2の回転体の表面積S2の平均と見積もることができる。
【数2】
【0053】
突起部8の第1領域RG1は、突起部8の高さ方向(y方向)において高さH1を有しており、突起部8の第2領域RG2は、突起部8の高さ方向(y方向)において高さH2を有している。第1領域RG1の高さH1は、第1領域RG1における突起部8の最大高さであり、第2領域RG1の高さH2は、第2領域RG2における突起部8の最大高さである。例えば、突起部8が中心線Cにおいて最大高さを有する場合(例えば、
図7(a))、第1領域RG1の高さH1及び第2領域RG1の高さH2は、互いに等しくなる。これに対して、例えば、突起部8が中心線Cから一方の側SS1にずれた位置に最大高さを有する場合、第1領域RG1の高さH1は、第2領域RG1の高さH2よりも大きくなる。突起部8の高さH1及びH2は、画像解析装置によって突起部8の断面SEM像を解析することで算出される。
【0054】
突起部8は、第1領域RG1の外縁の少なくとも一部分について、算術平均粗さRa1及び二乗平均平方根粗さRq1を有している。Ra1及びRq1は、上述した方法にしたがって画像解析装置によって突起部8の断面SEM像を解析することで算出される。
【0055】
突起部8は、第2領域RG2の外縁の少なくとも一部分について、算術平均粗さRa2及び二乗平均平方根粗さRq2を有している。Ra2及びRq2は、上述した方法にしたがって画像解析装置によって突起部8の断面SEM像を解析することで算出される。
【0056】
表面積S1及びS2は、大きく、一定の関係、例えば、70.00≦(S1/H1+S2/H2)/2を満たしていてもよい。
【0057】
【0058】
突起部8の先端には、深さDの凹部8rが形成されている。深さDは、1.0μm以上である。凹部8rの深さDは、突起部8の高さ方向(y方向)における、凹部8rの最下端Bと、突起部8の2つの上端U1及びU2のうちの低い方と、の間の距離である。突起部8の上端U1は、突起部8の中心線Cに対して一方の側SS1に位置している。突起部8の上端U2は、突起部8の中心線Cに対して他方の側SS2に位置している。
【0059】
第1領域RG1は、凹部8rを除いた領域である。したがって、第1領域RG1における突起部8の外縁は、突起部8の中心線Cに向かうにつれて、マクロ的に上向きに傾いた部分のみを含んでいる。
【0060】
第2領域RG2は、凹部8rを除いた領域である。したがって、第2領域RG2における突起部8の外縁は、突起部8の中心線Cに向かうにつれて、マクロ的に上向きに傾いた部分のみを含んでいる。
【0061】
突起部8は、幅Wを有している。突起部8の幅Wは、第1領域RG1の左端の位置と第2領域RG2の右端の位置との間の距離である。第1領域RG1の左端の位置及び第2領域RG2の右端の位置は、
図7(a)を用いて説明した方法と同様にして決定される。
【0062】
上記式(1)にしたがって、周長L1は、算出される。同様にして、上記式(1)にしたがって、周長L2は、算出される。
【0063】
上記式(2)において、第1領域RG1の回転体の表面積S1は、凹部8rの上端U1から突起部8の中心にかけて平坦面が存在するものと仮定した関数F(t)を、突起部8の中心線Cを回転軸として回転させることで算出することができる。同様にして、上記式(2)において、第2領域RG2の回転体の表面積S2は、凹部8rの上端U2から突起部8の中心にかけて平坦面が存在するものと仮定した関数F(t)を、突起部8の中心線Cを回転軸として回転させることで算出することができる。
【0064】
微細凹凸構造Bが形成された突起部8におけるL1及びL2は、熱インプリントにより凹凸構造A(7)を有する膜担体3を作製する際における金型の調整により、上記数値範囲内に調整することができる。特に、熱インプリントに使用される金型(モールド)表面のL1及びL2を所定の値にすることにより、微細凹凸構造Bが形成された突起部8におけるL1及びL2を調整することが好ましい。例えば、金型(モールド)の表面を、レーザー加工により、微細凹凸構造Bが形成された突起部8におけるL1及びL2を調整することが好ましい。レーザー加工においては、金型にパルスレーザーを複数回照射することができる。パルスレーザーは、極短パルスレーザー、例えば、フェムト秒レーザーであることが好ましい。パルスレーザーのパルス幅を短くし、具体的には、例えば、フェムト秒オーダー以下にすることで、金型の表面に形成される凹凸構造を微細にすることでき、これによって、突起部8におけるL1及びL2を長くすることができる。
【0065】
すなわち、本実施形態に係る検査キット18の製造方法は、熱インプリントにより凹凸構造A(7)を有する膜担体3を作製する工程(熱インプリント工程)を備えることが好ましい。熱インプリント工程では、複数の凹部が形成された金型(モールド)の表面を、例えば、熱可塑性樹脂からなる膜状の基材に当てて、且つ基材を加熱することにより、凹部の形状に対応する凹凸構造A(7)(複数の突起部8)と平坦部9とを有する膜担体3が形成される。
【0066】
一実施形態において、検知ゾーンの表面には、炭素原子及び窒素原子の少なくとも一方の原子と酸素原子とが存在していてもよい。
【0067】
各原子の原子数の合計に対する酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、0.01以上0.50以下である。一実施形態の膜担体において、検知ゾーンの表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、0.01以上であり、0.05以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。一実施形態の膜担体において、検知ゾーンの表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、0.50以下であり、0.40以下が好ましく、0.38以下がより好ましく、0.36以下がさらに好ましく、0.30以下がさらにより好ましく、0.10以下がさらにより好ましい。検知ゾーンの表面の酸素原子数比が高くなる程、検出物質が表面に固着しやすくなる。検出物質が表面に固着することにより、液体試料を展開した際に流されてしまう検出物質を減らし、高感度な検査が可能となる。検知ゾーンの表面の酸素原子数比が上記上限値以下であると、被検出物質を含まない溶液を展開した際の、標識物質と検出物質との反応による誤検出の発生がより抑制される。
【0068】
検知ゾーンの表面の酸素原子数比は、X線電子分光分析(XPS)により算出される。XPSによる酸素原子数比の算出について以下に記す。測定により得られたスペクトルの結合エネルギー補正をC1sスペクトルにおけるC-C結合で行う。結合エネルギー補正を行ったスペクトルのC1sスペクトル、N1sスペクトル、O1sスペクトルの各ピークについて、バックグラウンド(BG)を差し引く。各ピークよりBGを差し引いて算出された各原子のピーク面積(信号強度)を補正係数(相対感度係数、透過関数、及び運動エネルギー補正)で割り算し、補正後の面積の合計が100になるように計算した。得られた各値をそれぞれ炭素原子数、窒素原子数、酸素原子数とし、酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))を算出する。
【0069】
検知ゾーンの表面の酸素原子数比は、検知ゾーンの表面を表面処理することにより、上記範囲内に調整することができる。表面処理の方法としては、何ら限定されるものではなく、例えば各種プラズマ処理、コロナ処理、UV照射、UV/オゾン処理による表面修飾等種々の手法を用いることができる。
【0070】
表面処理は検知ゾーンのみに行うことが好ましい。検知ゾーンのみに行うことで、流路内の非検知ゾーン(検知ゾーン以外の領域)では検出物質が固着せず、検知ゾーンのみに高い効率で検出物質を固着できる。その結果、検知ゾーンにおいて検出シグナルを認識しやすくなる(S/N比が高くなる)。
【0071】
検知ゾーンの表面を選択的に表面処理して、検知ゾーンの表面を改質させる方法としては、検知ゾーン以外の箇所を遮へい可能なマスク(遮へい物)で被覆し、露出させた検知ゾーンに対して、表面処理を施す方法が挙げられる。
図8は、検知ゾーンの表面を選択的に表面処理する方法を説明するための図である。空隙部を有する遮へい物14を、膜担体3上に配置して、検知ゾーン(表面処理部)を露出させる。膜担体3のうち遮へい物14で覆った部分は未処理部(非検知ゾーン)15となる。遮へい物14としては、金属板が好ましい。露出させた箇所を表面処理することにより、検知ゾーンの表面の酸素原子数比が上記範囲内である膜担体3を得る。
【0072】
上記実施形態において、膜担体の材料としては、表面の酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))が0.01未満の樹脂を用いることが好ましく、0.005以下の樹脂を用いることがより好ましい。表面の酸素原子数比が0.01未満の樹脂は、主成分の構造式に酸素原子を含まない樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂等の炭素原子を含み、窒素原子及び酸素原子を含まない樹脂であってよい。このような樹脂として、具体的には、ポリエチレン(PE)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。表面の酸素原子数比が0.01未満の樹脂は、ポリイミド樹脂等の炭素原子及び窒素原子を含む、酸素原子を含まない樹脂であってよい。炭素原子を含み、窒素原子及び酸素原子を含まない樹脂を用いる場合、検知ゾーンの酸素原子数比(酸素原子数/(炭素原子数+窒素原子数+酸素原子数))は、酸素原子数/(炭素原子数+酸素原子数)の値と実質的に等しくなる。
【0073】
表面の酸素原子数比が0.005以下である場合、膜担体を作製し、作製した膜担体を用いて検査キットを作製し、液体試料を展開した際の、非検知ゾーンにおける標識物質の付着がより抑制される。非検知ゾーンで標識物質が付着すると、検知ゾーンにおいて同強度のシグナルが生じていても、認識しにくくなる(S/N比が低くなる)。
【0074】
表面の酸素原子数比が0.005以下である場合、膜担体を作製し、作製した膜担体を用いて検査キットを作製し、液体試料を展開した際の、非検知ゾーンにおける標識物質の付着がより抑制される。非検知ゾーンで標識物質が付着すると、検知ゾーンにおいて同強度のシグナルが生じていても、認識しにくくなる(S/N比が低くなる)。
【0075】
本実施形態に係る検査キット18では、膜担体3が有する検知ゾーン3yが、被検出物質を検出した際に色変化を示す。色変化は、光学的手法で確認可能な色変化であってよい。
【0076】
上記光学的手法としては、主に目視による判定と蛍光・発光強度を測定する手法の2つが挙げられる。目視によって判定する場合には、検知前と検知後の色をCIE1976L*a*b*色空間の表色系で測定した際の、2つの色刺激間の色差(JIS Z8781-4:2013に記載のΔE)が0.5以上となるような色変化が生じることが好ましい。この色差が0.5以上であると、色の違いを目視で確認することが容易になる。蛍光・発光強度を測定して判定する場合には、検知ゾーン3yでの蛍光・発光強度(Fl1)と、検知ゾーン3yに隣接する上流域及び下流域での蛍光・発光強度(Fl2)との比(Fl1/Fl2)=10/1以上となるような色変化が生じることが好ましい。この比が10/1以上であると、シグナルとノイズの分離が容易になる。
【0077】
本実施形態の検査キット18に検知ゾーン3yを作製するためには、一実施形態において、流路2の少なくとも一部に、検出物質が固定化されている。つまり、検知ゾーン3yには、被検出物質を検出する検出物質が固定されている。検知ゾーン3yにおける色変化は、被検出物質が検出物質により(検出物質と反応して)検知ゾーン3yに保持されることによって生じる。
【0078】
言い換えれば、検査キット18の製造方法は、検知ゾーン3yに、被検出物質を検知ゾーン3yに保持することによって色変化を生じせしめる検出物質を固定する工程を備えている。検知ゾーン3yに検出物質(試薬)をより効率よく固定化できる点から、膜担体3における検知ゾーン3yを設ける箇所に予め表面処理を施していてよい。表面処理の方法としては、上記例示した方法を用いることができる。
【0079】
本実施形態において、上記検出物質(試薬)としては、例えば、抗体が挙げられる。抗体は、被検出物質と抗原抗体反応する抗体であり、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0080】
検知ゾーン3yにおける色変化は、液体試料中の被検出物質と特異的に反応する抗体又はその抗原結合性断片を有する標識体によって生じるものであってよい。色変化は、例えば、標識体が、検出物質により(検出物質と反応(結合)して)検知ゾーン3yに保持されて呈色することによって生じる。
【0081】
標識体は、例えば、蛍光標識された抗体、化学発光標識された抗体、酵素標識された抗体等の標識抗体であってよいし、コロイド粒子、ラテックス粒子等の粒子に上記抗体又はその抗原結合性断片が結合したものであってよい。抗原結合性断片とは、被検出物質と特異的に結合することができる断片をいい、例えば、抗体の抗原結合性断片をいう。標識体は、抗体又はその抗原結合性断片を介して被検出物質に結合することができる。粒子は、磁性又は蛍光発光性を有してもよい。コロイド粒子としては、金コロイド粒子、白金コロイド粒子の金属コロイド粒子等が挙げられる。粒子は、粒径制御、分散安定性及び結合容易性の点で、好ましくはラテックス粒子である。ラテックス粒子の材料としては特に限定されないが、ポリスチレンが好ましい。
【0082】
粒子は、視認性の点で、好ましくは着色粒子又は蛍光粒子であり、より好ましくは着色粒子である。着色粒子は、肉眼で色が検出可能なものであればよい。蛍光粒子は、蛍光物質を含有すればよい。粒子は、着色ラテックス粒子又は蛍光ラテックス粒子であってよい。粒子が着色ラテックス粒子である場合、上述の色変化が、目視により好適に判定される。また、粒子が蛍光ラテックス粒子である場合、上述の色変化が、蛍光強度の測定により好適に判定される。
【0083】
上述したような標識体が、滴下される液体試料中の被検出物質と反応し得るように、検査キット18の少なくとも一部に設けられている。標識体は、例えば、検査キット18中の部材に設けられていてよく、膜担体3の流路2の少なくとも一部(検知ゾーン3yより上流側)に設けられていてよい。そして、被検出物質と反応(結合)した標識体は、検出物質により(検出物質が被検出物質と反応(結合)することにより)検知ゾーン3yに保持される。これにより、検知ゾーン3yにおける色変化(標識体による呈色)が生じる。
【0084】
本実施形態の一側面に係る液体試料の検査方法は、検査キット18を用いる検査方法である。
【0085】
検査キット18を用いる、液体試料の検査方法は、液体試料と、液体試料中の被検出物質と特異的に結合する標識体とを混合して混合液体試料(混合済み液体試料)を調製し、被検出物質と標識体とを互いに結合させる工程と、混合液体試料を膜担体3に設けられた滴下ゾーン3xに滴下する工程と、凹凸構造A(7)により、混合液体試料を滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ輸送する工程と、検知ゾーン3yにおける色変化(標識体の呈色)を検知する工程と、を備えてよい。
【0086】
また、例えば、上記検査方法は、液体試料を、膜担体3の表面のうち滴下ゾーン3xに滴下する工程と、膜担体3の表面に形成されている凹凸構造A(7)(複数の突起部8)が奏する毛細管作用により、凹凸構造A(7)を介して、液体試料を滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ輸送する工程と、輸送過程において、液体試料中の被検出物質を、上記の抗体又はその抗原結合性断片を介して標識体と結合させ、さらに、被検出物質を、検知ゾーン3yに固定された試薬と結合させて、検知ゾーン3yにおける色変化を検知する(色変化の有無を光学的に判定する)工程と、を備えてよい。
【0087】
上記の検査方法の被検出物質と標識体とを互いに結合させる工程では、液体試料と標識体とを混合する方法は特に制限されない。例えば標識体の入れられた容器に液体試料を添加する方法でもよいし、例えば標識体をふくむ液体と液体試料とを混合してもよい。また例えば液体試料の入れられた容器の滴下口にフィルターを挟み、そのフィルター中に標識体を固定化していてもよい。
【0088】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0089】
以下、本実施形態を実施例及び比較例を挙げて本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
<膜担体の準備>
ポリカーボネートシート(帝人社製、膜厚200μm)に熱インプリントを施し、凹凸構造A(突起部)の底面の径(以下、「突起部の径」又は、「径」ということもある)30μm、凹凸構造A(突起部)の高さ(以下、「高さ」ということもある)30μmの円錐型の突起部8が、突起部の中心間の平均距離を30μmとして
図3のような三角配列形式で並んだ膜担体を作製した。すなわち、
図3において縦方向に隣り合う突起部8が隙間なく並べられ、
図3において斜め方向に隣り合う突起部8が隙間なく並べられている(
図3に示した距離5が0となっている。)。
ここで、熱インプリントを施す際に、レーザー加工された金型(モールド)を用いることによって、凹凸構造A(突起部)の表面に微細凹凸構造Bを形成し、さらに微細凹凸構造Bが形成された突起部8のL1、L2、H1及びH2を表1に示す値にそれぞれ調整した。
用いた金型の種類は、以下のとおりである。
穴の入り口の直径30μm、深さ30μmの円錐型の穴が、穴の中心間の平均距離を30μmとして三角配列方式で並んだニッケル金型にレーザー加工装置(東成エレクトロビーム社製 極短パルスレーザー加工機 R-200、レーザー波長:1552nm、定格出力:10W、パルス:フェムト秒)からパルス光を複数回照射して金型を得た。
【0091】
図7(a)に示すように、突起部8の先端には、マクロ的に大きな凹部(例えば、
図7(b)に示す凹部8r)は形成されなかった。突起部8の第1領域RG1の周長L1、高さH1、回転体の表面積S1並びに突起部8の第2領域RG2の周長L2、高さH2、回転体の表面積S2の測定には画像解析ソフトウェア(MathWorks社製MATLAB)がインストールされたコンピュータを画像解析装置として用いた(
図7(a)参照)。
さらに、上記画像解析装置を用いて、実施形態で説明した方法にしたがって、突起部8の第1領域RG1の外縁について、Ra1及びRq1を算出し、突起部8の第2領域RG2の外縁について、Ra2及びRq2を算出した。Ra1及びRq1は、第1領域RG1のうちの平坦部9から1μmの高さから、この高さから25μmの高さまでの部分の外縁から算出し、Rq2及びRa2は、第2領域RG2のうちの平坦部9から1μmの高さから、この高さから25μmの高さまでの部分の外縁から算出した。
【0092】
<抗体担持量の測定>
蛍光標識した抗CRP(C反応性蛋白)抗体を、調整した緩衝液(組成:50mMトリス緩衝液 pH 7.5、トレハロース2(w/v)%)で希釈することで、濃度0.1mg/mLの抗CRP抗体溶液を調製し、膜担体3に1μL塗布した。45℃、1時間で乾燥した後、Triton X-100(商品名)2(v/v)%水溶液中で超音波洗浄した。室温で乾燥した後、蛍光顕微鏡(キーエンス社製BZ-X710)を用いて、残存した抗体の蛍光強度を評価した。
【0093】
[実施例2]
実施例2は、金型の種類を除いて、実施例1と同様とした。
用いた金型の種類は、以下のとおりである。
穴の入り口の直径30μm、深さ30μmの円錐型の穴が、穴の中心間の平均距離を30μmとして三角配列方式で並んだアルミニウム金型にレーザー加工装置(東成エレクトロビーム社製 極短パルスレーザー加工機 R-200、レーザー波長:1552nm、定格出力:10W、パルス:フェムト秒)からパルス光を複数回照射して金型を得た。
図7(a)に示すように、突起部8の先端には、マクロ的に大きな凹部(例えば、
図7(b)に示す凹部8r)は形成されなかった。得られた結果を表1に示す。各パラメータは、
図7(a)を用いて説明した方法によって測定した。
【0094】
[比較例]
比較例は、金型の種類を除いて、実施例1と同様とした。
用いた金型の種類は、以下のとおりである。
穴の入り口の直径30μm、深さ30μmの円錐型の穴が、穴の中心間の平均距離を30μmとして三角配列方式で並んだニッケル金型を切削して(実施例1及び2で用いたレーザー加工装置を用いないで)金型を得た。
図7(b)に示すように、突起部8の先端に、マクロ的に大きな凹部8rが形成されていた。得られた結果を表1に示す。各パラメータは、
図7(b)を用いて説明した方法によって測定した。
【0095】
【0096】
表1の結果から、本実施形態に係る検査キット用膜担体は、L1及びL2が特定の関係を満たすことで、検出物質である抗体担持量を増加させ、被検出物質を高感度に検出できることが示された。例えば、(L1/H1+L2/H2)/2は、1.30以上であることが好ましいと見積もることができ、Ra1又はRa2は、0.020μm以上であることが好ましいと見積もることができ、Rq1又はRq2は、0.030μm以上であることが好ましいと見積もることができ、(S1/H1+S2/H2)/2は、70.00μm以上であることが好ましいと見積もることができる。
【0097】
この出願は、2019年4月24日に出願された日本出願特願2019-083155号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。