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  • 特許-溶融加工用組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】溶融加工用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240416BHJP
   B29B 13/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C08L67/04
B29B13/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021533039
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027044
(87)【国際公開番号】W WO2021010327
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2019131278
(32)【優先日】2019-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 明日香
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊輔
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/114719(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146194(WO,A1)
【文献】特開2017-222791(JP,A)
【文献】特開2013-057039(JP,A)
【文献】特開2009-096849(JP,A)
【文献】特開2008-223002(JP,A)
【文献】国際公開第2008/099586(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00-67/08
B29B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む材料を、
前記材料の温度が、前記融点ピーク温度以上、前記融点ピークの終了温度以下となるように加熱して押出すことにより、
前記融点ピーク温度よりも高温側に、新たな結晶ピークを有する溶融加工用組成物を得る工程を含み
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、及び、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)からなる群より選択される少なくとも1種である、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む溶融加工用組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む樹脂を含む、請求項1に記載の溶融加工用組成物の製造方法。
【請求項3】
押出時の前記材料の温度が175℃以下である、請求項1又は2に記載の溶融加工用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量が40万以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶融加工用組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点ピーク温度が135℃以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の溶融加工用組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法によって溶融加工用組成物を得た後、該溶融加工用組成物を溶融加工することにより、成形体を製造する工程を含む、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含有する溶融加工用組成物の製造方法、及び、前記溶融加工用組成物を用いた成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州を中心に生ゴミの分別回収やコンポスト処理が進められており、生ゴミと共にコンポスト処理できるプラスチック製品が望まれている。
【0003】
一方で、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、特に海洋投棄や河川などを経由して海に流入したプラスチックが、地球規模で多量に海洋を漂流していることが判ってきた。この様なプラスチックは長期間にわたって形状を保つため、海洋生物を拘束、捕獲する、いわゆるゴーストフィッシングや、海洋生物が摂取した場合は消化器内に留まり摂食障害を引き起こすなど、生態系への影響が指摘されている。
【0004】
更には、プラスチックが紫外線などで崩壊・微粒化したマイクロプラスチックが、海水中の有害な化合物を吸着し、これを海生生物が摂取することで有害物が食物連鎖に取り込まれる問題も指摘されている。
【0005】
この様なプラスチックによる海洋汚染に対し、生分解性プラスチックの使用が期待されるが、国連環境計画が2015年に取り纏めた報告書(非特許文献1)では、ポリ乳酸などのコンポストで生分解可能なプラスチックは、温度が低い実海洋中では短期間での分解が期待できないために、海洋汚染の対策にはなりえないと指摘されている。
【0006】
この様な中、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記課題を解決する素材として注目されている。
【0007】
しかし、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、結晶化速度が遅いことから、成形加工に際して樹脂を加熱溶融させた後、固化のために冷却時間を長くとる必要があり、生産性が悪いという問題があった。
【0008】
この問題に対して、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に結晶核剤を添加することにより、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の固化性を改善する試みが行われている。
【0009】
例えば、特許文献1では、アニール処理を施すことにより結晶融点を少なくとも3℃高くした第2のポリヒドロキシアルカノエート(PHA-Y:高融点PHA)を、第1のポリヒドロキシアルカノエート(PHA-X)にブレンドすることにより、前記高融点PHAがPHA-Xに対する結晶核剤として作用することが記載されている。前記アニール処理は、結晶融点より1~10℃低い温度で10分~12時間加熱する工程と記載されており、該アニール処理によって得られた高融点PHAを、PHA-Xと共にミキシングすることにより、結晶化速度が改善されたPHA組成物が製造できると記載されている。
【0010】
一方、特許文献2では、第1のPHAと第2のPHAを1種の微生物で共生産させて得られた、第1のPHAと第2のPHAを含有する組成物が記載されており、該組成物は、成形時の固化が速くなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表平8-510498号公報
【文献】国際公開第2015/146194号
【非特許文献】
【0012】
【文献】国連環境計画2015,BIODEGRADABLE PLASTICS & MARINE LITTER
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の方法によると、結晶化速度が改善されたPHA組成物を得るために、まず、10分以上の時間を要するアニール処理を実施して高融点PHAを得た後、該高融点PHAを、粉砕等によって粉末化した後、さらにPHA-Xとミキシングするという煩雑な工程が必要であり、ペレット等の溶融加工用組成物の製造において生産性が非常に悪いという問題がある。また、高融点PHAの粉末化において粒子径を十分に小さくできない場合は、結晶核剤としての作用が低減したり、溶融加工用組成物をフィルム等に成形するとフィッシュアイなど外観不良の原因にもなり得る。
【0014】
特許文献2に記載の方法によると、PHAの結晶化速度はある程度改善されるものの、PHA組成物を溶融加工する際に溶融しにくい結晶核剤が存在しておらず、固化性の改善効果が十分でない場合があった。
【0015】
本発明は、上記現状に鑑み、簡易な手法で、固化性に優れた、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含有する溶融加工用組成物の製造方法、及び、当該溶融加工用組成物を用いた成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の融解挙動を示すポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を特定の温度条件下で押出し、得られる組成物において、押出前から存在している融点ピークのピーク温度よりも高温側に新たな結晶ピークを形成させることで、簡易な手法で、固化性に優れた溶融加工用組成物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む材料を、前記材料の温度が、前記融点ピーク温度以上、前記融点ピークの終了温度以下となるように加熱して押出すことにより、前記融点ピーク温度よりも高温側に、新たな結晶ピークを有する溶融加工用組成物を得る工程を含む、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む溶融加工用組成物の製造方法に関する。好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む樹脂を含む。好ましくは、押出時の前記材料の温度が175℃以下である。好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量が40万以下である。好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点ピーク温度が135℃以上である。
【0018】
また本発明は、前記製造方法によって溶融加工用組成物を得た後、該溶融加工用組成物を溶融加工することにより、成形体を製造する工程を含む、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む成形体の製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易な手法で、固化性に優れた、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含有する溶融加工用組成物の製造方法、及び、当該溶融加工用組成物を用いた成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】原料の樹脂ペレット(D)及び実施例1で得たペレットの示差走査熱量分析によって得られた示差走査熱量分析曲線
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[溶融加工用組成物の製造方法]
まず、溶融加工用組成物を製造する方法について具体的に説明する。
本発明における溶融加工用組成物とは、射出成形やインフレーション成形、Tダイシート成形、ブロー成形などの溶融加工の原料として使用される樹脂組成物のことを指す。即ち、溶融加工用組成物を溶融加工することで、各種成形体を製造することができる。該組成物の形状は特に限定されないが、例えば、ペレットやパウダー等であってよい。
【0023】
本発明におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む溶融加工用組成物は、当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が本来有する融点ピーク(以下メインピークともいう)に加えて、該メインピークのピーク温度よりも高温側に、別の結晶ピーク(以下サブピークともいう)を有している。当該サブピークは、後の溶融加工時に溶融しにくい高融点の樹脂結晶が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂に含まれていることを示している。
【0024】
一般にポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は溶融後の結晶固化が遅いため、溶融加工時の生産性が低いのに対し、上述したような融解挙動を示すポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂含有組成物は、溶融加工時に、溶融加工が可能なレベルで溶融しつつ、樹脂結晶の一部を溶融させずに残存させることが容易になる。このように残存した樹脂結晶が、溶融樹脂に対し結晶核剤として作用することで、溶融樹脂が結晶固化しやすくなり、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の溶融加工時の固化性が改善され得る。
【0025】
本発明でいう溶融加工用組成物において、サブピークのピーク温度は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂本来の融点ピーク温度よりも高温側に観測されれば特に限定されない。しかし、溶融加工時に樹脂結晶の一部が溶融せずに残存するのを容易にする観点から、サブピークのピーク温度は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂本来の融点ピーク温度よりも1℃~60℃高い温度で観測されることが好ましく、12℃~50℃高い温度で観測されることがより好ましい。
【0026】
本発明における溶融加工用組成物の製造方法を以下に説明する。
本発明では、特定の融解挙動を示すポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む材料を、特定の温度条件下で加熱して押出すことにより、上述した融解挙動を示す溶融加工用組成物を製造することができる。
【0027】
押出時の温度条件は、押出時の前記材料の温度が、該材料に含まれるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度以上、融点ピークの終了温度以下の温度になるように設定する。なお、ここで述べる材料の温度は、押出機における設定温度を指すものではなく、せん断発熱により上昇する温度も加味した、押出加工中の材料が実際に示す温度を指す。押出加工中の材料が実際に示す温度は、押出機のダイから吐出される樹脂について測定することができる。押出時の材料の温度は、樹脂の分子量や、押出機における設定温度(シリンダー温度)や、スクリュー構成、回転数によって変動し得るので、これらを適宜調節することにより押出時の材料の温度を制御することができる。
【0028】
押出中に以上のような温度条件を採用することにより、押出中も、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の結晶を一部残存させることができ、これによって、メインピークのピーク温度よりも高温側に、新たなサブピークを形成させることができる。サブピークは、そのピーク温度が押出時の材料温度よりも5~20℃程度高温側に形成され得る。押出時の材料温度がポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点ピーク温度未満となる条件で押出を実施しようとすると、溶融する樹脂量が少なく、流動不足のため押出を実施できない場合がある。一方、押出時の材料温度がポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点ピークの終了温度を超える条件で押出を実施すると、溶融樹脂中に樹脂結晶が残存せず、結果、得られる組成物に新たなサブピークを形成させることができなくなる。
【0029】
一般に、押出中の材料温度は、押出機によるせん断発熱の影響を受けるため、精密な制御が困難である。そのため、上述した押出中の温度条件を容易に達成できるよう、押出に用いる原料のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂としては、示差走査熱量分析における融点ピークがブロードな樹脂、具体的には、融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上である樹脂を用いる。
【0030】
また、押出時の材料温度は、前記温度条件を満足すればよいが、具体的な数値としては、175℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましく、165℃以下がさらに好ましく、160℃以下が特に好ましい。下限値は特に限定されないが、140℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。
【0031】
押出機のスクリュー構成は特に限定されず、上述した温度条件を考慮して適宜設定することができるが、せん断発熱を抑制し得る構成が好ましく、具体的には、フルフライトが好ましい。
【0032】
押出加工を実施するにあたって使用する加工機としては特に限定されず、例えば、バンバリーミキサー、ロールミル、ニーダー、単軸又は多軸の押出機等の公知の装置を用いることができる。
【0033】
本発明におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とは、微生物から生産され得る脂肪族ポリエステル樹脂であって、少なくとも3-ヒドロキシブチレートを繰り返し単位として含むポリエステル樹脂である。当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレートのみを繰り返し単位とするポリ(3-ヒドロキシブチレート)であってもよいし、3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体であってもよい。また、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体と1種または2種以上の共重合体の混合物、又は、2種以上の共重合体の混合物であってもよい。
【0034】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0035】
更には、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。特に、180℃以上の加熱下で熱分解しやすい特性を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は融点が低く低温での成形加工が可能となるため好ましい。
【0036】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、75/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。その理由は、柔軟性の点から99/1以下が好ましく、また樹脂が適度な硬度を有する点で80/20以上が好ましいからである。
【0037】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の市販品としては、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーPHBH」(登録商標)などが挙げられる。
【0038】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)は、3-ヒドロキシブチレート成分と3-ヒドロキシバリレート成分の比率によって融点、ヤング率などが変化するが、両成分が共結晶化するため結晶化度は50%以上と高く、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)に比べれば柔軟ではあるが、脆性の改良は不充分である。
【0039】
本発明では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂として、示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いて、溶融加工用組成物を製造する。このような融解挙動を示すポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用い、かつ、押出時の材料の温度を、融点ピーク温度以上、融点ピークの終了温度以下に制御することにより、当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の大部分を溶融させると同時に、一部の樹脂結晶を溶融させずに残存させ、残存した樹脂結晶をさらに成長させることができる。これにより、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の押出ペレット化とアニール処理を同時に行うことができ、固化性に優れた、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂含有組成物を簡易な手法で製造することができる。
【0040】
前記温度差は、12℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることがさらに好ましく、18℃以上であることがよりさらに好ましく、20℃以上であることが特に好ましく、25℃以上であることが最も好ましい。前記温度差の上限は特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の製造の容易さの観点から、50℃以下であることが好ましい。また、前記温度差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、固化性の更なる促進の観点から、融点ピーク温度が130℃以上であることが好ましく、135℃以上であることがより好ましい。融点ピーク温度の上限値は特に限定されないが、160℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。
【0041】
本発明において、示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度は、以下の様に定義される。樹脂試料4~10mgをアルミパンに充填し、示差走査熱量分析器を用いて、窒素気流下、30℃から180℃まで10℃/分の速度で昇温して前記樹脂試料が融解した時に得られる吸熱曲線において、吸熱量が最大となった温度を融点ピーク温度とし、融点ピークが終了し吸熱が認められなくなった温度を融点ピークの終了温度とした。なお、前記融点ピーク温度及び融点ピークの終了温度は、押出加工される材料に含まれるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂全体について測定される。
【0042】
前記融点ピーク温度と融点ピークの終了の温度差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂としては、融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を使用することができる。また、当該融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と、融点特性が異なる他のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とを組み合わせて使用することもできる。
【0043】
前記融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、特許文献2(国際公開第2015/146194号)に記載されているとおり、融点挙動が異なる少なくとも2種のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を、単一の微生物中で同時に生産させ、混合樹脂として得る方法がある。
【0044】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、押出中のせん断発熱をできるだけ回避するため、低いことが好ましく、具体的には、40万以下であることが好ましく、30万以下であることがより好ましい。下限値は特に限定されないが、成形体の機械的強度の観点から10万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましい。
【0045】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0046】
押出加工される材料、又は、製造される溶融加工用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂以外の他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0047】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して、40重量部以下が好ましく、より好ましくは30重量部以下である。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0048】
押出加工される材料、又は、製造される溶融加工用組成物は、無機フィラーを含有しなくともよいが、成形体の強度向上の観点から、無機フィラーを含有してもよい。
【0049】
前記無機フィラーとしては、溶融加工用組成物に添加できる無機フィラーであれば特に限定されず、例えば、石英、ヒュームドシリカ、無水ケイ酸、溶融シリカ、結晶性シリカ、アモルファスシリカ、アルコキシシランを縮合してなるフィラー、超微粉無定型シリカ等のシリカ系無機フィラー、アルミナ、ジルコン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ガラス、シリコーンゴム、シリコーンレジン、酸化チタン、炭素繊維、マイカ、黒鉛、カーボンブラック、フェライト、グラファイト、ケイソウ土、白土、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マンガン、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、銀粉等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。
【0050】
前記無機フィラーは、溶融加工用組成物中での分散性を上げるために表面処理されたものであってもよい。表面処理に使用する処理剤としては、高級脂肪酸、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ゾル-ゲルコーティング剤、樹脂コーティング剤等が挙げられる。
【0051】
前記無機フィラーの水分量は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の加水分解を抑制しやすいため、0.01~10%であることが好ましく、0.01~5%がより好ましく、0.01~1%が更に好ましい。当該水分量は、JIS-K5101に準拠して求めることができる。
【0052】
前記無機フィラーの平均粒子径は、成形材料の特性や加工性に優れるため、0.1~100μmであることが好ましく、0.1~50μmがより好ましい。当該平均粒子径は、日機装社製「マイクロトラックMT3100II」などのレーザー回折・散乱式の装置を用いて測定することができる。
【0053】
耐熱性の向上や加工性の改善効果等を得ることができるため、無機フィラーの中でも、ケイ酸塩に属する無機フィラーが好ましい。更に、溶融加工により得られた成形体の機械的強度向上効果が大きく、粒径分布が小さく表面平滑性や金型転写性を阻害しにくいため、ケイ酸塩の中でも、タルク、マイカ、カオリナイト、モンモリロナイト、及び、スメクタイトからなる群より選択される1種以上が好ましい。ケイ酸塩は2種以上を併用してもよく、その場合、ケイ酸塩の種類及び使用比率は適宜調節することができる。
【0054】
前記タルクとしては、汎用のタルク、表面処理タルク等が挙げられ、具体的には、日本タルク社の「ミクロエース」(登録商標)、林化成社の「タルカンパウダー」(登録商標)、竹原化学工業社や丸尾カルシウム社製のタルクが例示される。
【0055】
前記マイカとしては、湿式粉砕マイカ、乾式粉砕マイカ等が挙げられ、具体的には、ヤマグチマイカ社や啓和炉材社製のマイカが例示される。
【0056】
前記カオリナイトとしては、乾式カオリン、焼成カオリン、湿式カオリン等が挙げられ、具体的には、林化成社「TRANSLINK」(登録商標)、「ASP」(登録商標)、「SANTINTONE」(登録商標)、「ULTREX」(登録商標)や、啓和炉材社製のカオリナイトが例示される。
【0057】
前記無機フィラーの配合量は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して0重量部以上40重量部以下であることが好ましい。無機フィラーは配合しなくてもよいが、無機フィラーを配合することで成形体の強度が向上する利点が得られる。無機フィラーを配合する場合、その配合量は5重量部以上35重量部以下が好ましく、10重量部以上30重量部以下がより好ましい。無機フィラーの配合量が40重量部を超えると溶融樹脂の流動性が低下する場合がある。
【0058】
押出加工される材料、又は、製造される溶融加工用組成物は、ペンタエリスリトールからなる結晶核剤を含有しなくともよい。本発明によると、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む溶融加工用組成物が結晶核剤を含有しなくとも、溶融後の結晶固化が促進され、生産性良く、成形体を製造することができる。溶融加工用組成物が結晶核剤を含有しない場合、金型表面に結晶核剤が付着して金型が汚染されることを回避できる。
【0059】
また、押出加工される材料、又は、製造される溶融加工用組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と共に使用可能な添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。添加剤としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の含有量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0060】
〔成形体の製造方法〕
次に、溶融加工用組成物を用いた成形体を製造する方法について具体的に説明する。
【0061】
本発明によって製造された溶融加工用組成物(例えばペレット)は、必要に応じて40~80℃程度で十分に乾燥させて水分を除去した後、必要に応じて任意の他の樹脂又は添加剤をブレンドし、公知の成形加工方法を適用して、任意の形状の成形体を製造することができる。成形加工方法としては、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、ブロー成形、繊維の紡糸、押出発泡、ビーズ発泡等が挙げられる。
【0062】
フィルム成形体の製造方法としては特に限定されないが、例えば、Tダイ押出し成形、カレンダー成形、ロール成形、インフレーション成形等が挙げられる。フィルム成形時の成形温度は140~190℃が好ましく、140~170℃がより好ましい。また、得られたフィルム成形体は、更に、加熱による熱成形、真空成形、プレス成形等に付することが可能である。
【0063】
射出成形体の製造方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を成形する場合に一般的に採用される射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。また、目的に合わせて、上記の方法以外でもインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH-PULL、SCORIM等を採用することもできる。ただし、本発明で使用可能な射出成形法はこれらに限定されるものではない。射出成形時の成形温度は140~190℃が好ましく、金型温度は20~80℃が好ましく、30~70℃であることがより好ましい。
【0064】
本発明により得られる成形体は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。具体的な用途としては特に限定されないが、例えば、食器類、農業用資材、OA用部品、家電部品、自動車用部材、日用雑貨類、文房具類、ボトル成形品、押出シート、異型押出製品等が挙げられる。また、本発明により得られる溶融加工用組成物又は成形体は、樹脂成分が主にポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から構成されるため、海水分解性を有しており、そのため、プラスチックの海洋投棄による環境問題を解決し得るものである。
【実施例
【0065】
以下、実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってその技術的範囲を限定されるものではない。
【0066】
(原料パウダー(A)の製造例)
国際公開第2015-052876号に記載の培養生産方法でKNK-005株(米国特許7384766号参照)を用いて生産した。また培養後、培養液から国際公開第2010/067543号に記載の方法にてポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を得た。加水分解によって分子量を調節し、重量平均分子量が57万であった。
【0067】
(原料パウダー(B)及び(C)の製造例)
炭素源にPKO(パームカーネルオイル)を使用した以外は、国際公開第2015/146195号の実施例1に記載の培養生産方法、及び、実施例11に記載のKNK-005ΔphaZ1::Plac-phaCRe ΔphaZ2,6株を用いて生産した。それ以外は、「原料パウダー(A)の製造例」と同じ方法でポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を得た。加水分解により分子量を調節し、重量平均分子量が27万のものを「原料パウダー(B)」、71万のものを「原料パウダー(C)」とした。
【0068】
(原料パウダー(E)の製造例)
特許文献2の実施例3に記載の方法を用いて生産した。それ以外は、「原料パウダー(A)の製造例」と同じ方法でポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を得た。加水分解により分子量を調節し、重量平均分子量が20万であった。
【0069】
(使用した樹脂原料)
原料パウダー(A):示差走査熱量分析における融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃未満(7℃)であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエート比率5.8mol/%)、重量平均分子量57万
原料パウダー(B):示差走査熱量分析における融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃以上(34℃)であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエート比率6.8mol/%)、重量平均分子量27万
原料パウダー(C):示差走査熱量分析における融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃以上(39℃)であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエート比率6.8mol/%)、重量平均分子量71万
樹脂ペレット(D):示差走査熱量分析における融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃以上(14℃)であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエート比率5.6mol/%)、重量平均分子量56万
原料パウダー(E):示差走査熱量分析における融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃以上(49℃)であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエート比率10.5mol/%)、重量平均分子量20万
樹脂ペレット(F):示差走査熱量分析における融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃未満(7℃)であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(3-ヒドロキシヘキサノエート比率5.8mol/%)、重量平均分子量40万
【0070】
(重量平均分子量の測定方法)
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の重量平均分子量は、まず、該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂をクロロホルムに溶解させて60℃の温水槽中で0.5時間加温し、可溶分をPTFE製0.45μm孔径ディスポーザーブルフィルターにてろ過した後、そのろ液を用いて、以下の条件でGPC測定を行うことにより測定した。
GPC測定装置:日立株式会社製RIモニター(L-3000)
カラム:昭和電工社製K-G(1本)、K-806L(2本)
試料濃度:3mg/ml
遊離液:クロロホルム溶液
遊離液流量:1.0ml/分
試料注入量:100μL
分析時間:30分
標準試料:標準ポリスチレン
【0071】
(樹脂ペレット(D)の作製)
原料パウダー(A)95重量部に対し、Biomer製ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)5重量部をドライブレンドし、東芝機械社製の2軸押出機TEM26SSを用いて、シリンダー設定温度150℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬することによって樹脂ペレット(D)を作製した。
【0072】
(示差走査熱量分析評価)
樹脂試料4~10mgをアルミパンに充填し、示差走査熱量分析器を用いて、窒素気流下、30℃から180℃まで10℃/分の速度で昇温して樹脂試料が融解した時に得られる吸熱曲線において、吸熱量が最大となった温度を融点ピーク温度とし、融点ピークが終了し吸熱が認められなくなった温度を融点ピークの終了温度とした。なお、前記融点ピーク温度及び融点ピークの終了温度は、樹脂原料、及び製造したペレット(溶融加工用組成物)の全てについて測定した。
【0073】
[溶融加工用組成物の製造]
(押出機とスクリュー構成)
実施例及び比較例で押出ペレット化を行う際には、東芝機械社製の2軸押出機TEM26SSを用いた。スクリュー構成は以下のS1~S3のいずれかを用いた。
S1:フルフライト
S2:ニーディングが2箇所あり、その他はフライト
S3:ニーディングが3箇所あり、その他はフライト
【0074】
(樹脂出口温度の測定方法)
押出機のダイから吐出される樹脂について接触温度計で測定した。
【0075】
(実施例1)
樹脂ペレット(D)を表1記載の押出条件で押出して、溶融加工用組成物であるペレットを得た。押出条件は、押出機のシリンダー温度、スクリュー構成と回転数を表1に記載のように設定して、押出時の樹脂温度(樹脂出口温度)が、樹脂ペレット(D)の融点ピーク温度144℃と、融点ピークの終了温度158℃の間の温度である153℃になるように制御した。
【0076】
得られたペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、樹脂ペレット(D)の融点ピーク温度よりも高温側に新たな融点ピーク(サブピーク)が生成した。当該サブピークのピーク温度は161℃であり、樹脂ペレット(D)の融点ピーク温度144℃よりも高いものであった。樹脂ペレット(D)及び実施例1で得たペレットの示差走査熱量分析によって得られた示差走査熱量分析曲線を図1に示す。
【0077】
(比較例1)
押出条件を表1に記載のように変更し、押出時の樹脂温度(樹脂出口温度)を、樹脂ペレット(D)の融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の間に入らない171℃とした以外は実施例1と同様にして、溶融加工用組成物であるペレットを得た。得られたペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、実施例1で観察されたようなサブピークは生成していなかった。
【0078】
(比較例2)
原料として、融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の差が10℃未満である原料パウダー(A)を使用したこと以外は比較例1と同様にして、溶融加工用組成物であるペレットを得た。得られたペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、実施例1で観察されたようなサブピークは生成していなかった。
【0079】
(実施例2及び3)
原料パウダー(B)を表1記載の押出条件で押出して、溶融加工用組成物であるペレットを得た。押出条件は、押出機のシリンダー温度、スクリュー構成と回転数を表1に記載のように設定して、押出時の樹脂温度(樹脂出口温度)が、原料パウダー(B)の融点ピーク温度135℃と、融点ピークの終了温度169℃の間の温度である157℃になるように制御した。なお、これら実施例2及び3では、せん断発熱が生じやすいニーディング部を含むスクリュー構成を用いた。
【0080】
得られた各ペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、原料パウダー(B)の融点ピーク温度よりも高温側にサブピークが生成した。当該サブピークのピーク温度は169℃であり、原料パウダー(B)の融点ピーク温度135℃よりも高いものであった。
【0081】
(比較例3)
押出条件を表1に記載のように変更し、押出時の樹脂温度(樹脂出口温度)を、原料パウダー(B)の融点ピーク温度と融点ピークの終了温度の間に入らない170℃とした以外は実施例2又は3と同様にして、溶融加工用組成物であるペレットを得た。得られたペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、実施例2又は3で観察されたようなサブピークは生成していなかった。
【0082】
(比較例4)
原料として、原料パウダー(B)と組成は同じであるが分子量が高い原料パウダー(C)を使用したこと以外は、実施例3と同じ押出条件で押出して、溶融加工用組成物であるペレットを得た。この時、高分子量の原料に起因するせん断発熱の増大によって、押出時の樹脂温度(樹脂出口温度)は、原料パウダー(C)の融点ピークの終了温度174℃よりも高温の175℃となった。得られたペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、実施例2又は3で観察されたようなサブピークは生成していなかった。
【0083】
(実施例4)
原料パウダー(E)を表1記載の押出条件で押出して、溶融加工用組成物であるペレットを得た。押出条件は、押出機のシリンダー温度、スクリュー構成と回転数を表1に記載のように設定して、押出時の樹脂温度(樹脂出口温度)が、原料パウダー(E)の融点ピーク温度118℃と、融点ピークの終了温度167℃の間の温度である158℃になるように制御した。
【0084】
得られたペレットについて示差走査熱量分析評価を行ったところ、原料パウダー(E)の融点ピーク温度よりも高温側にサブピークが生成した。当該サブピークのピーク温度は166℃であり、原料パウダー(E)の融点ピーク温度118℃よりも高いものであった。
【0085】
【表1】
【0086】
[射出成形体の製造]
(射出成形評価法)
射出成形機としてTOYO Si-30V/型締め力30トンを使用し、金型として、全長100mmの小型スプーン(サイドゲート幅1mm×厚み1mm)、1個取りのものを使用した。
【0087】
(射出率算出方法)
射出成形時の計量位置から保圧切り替え位置までの射出容量(cc)を、保圧時間を除く射出時間(sec)で割り、射出率を算出した。
【0088】
(成形樹脂温度の測定方法)
各射出成形評価条件で30ショット連続成形後に、パージ(金型からノズルを離し、溶融した樹脂を射出する工程)後の樹脂を球状にし、その内部の温度を接触温度計で測定した。
【0089】
(固化性評価)
金型内での冷却時間を5~40秒として射出成形を行い、ランナーの樹脂まで固化が完了するのに必要な冷却時間を測定した。
【0090】
(実施例5)
実施例2で得たペレットをバレル温度160℃で溶融させて射出成形した。その際、金型温度を45℃に設定し、溶融させた樹脂を、5秒刻みで冷却時間5~40秒の冷却時間で固化させた。冷却終了後に金型を開き離型し、固化が完了するのに必要な最短の冷却時間を測定した。結果を表2に示した。
【0091】
(実施例6)
実施例4で得たペレットを用いた以外は実施例5と同様にして射出成形を行い、固化が完了するのに必要な最短の冷却時間を測定した。結果を表2に示した。
【0092】
(比較例5)
樹脂ペレット(F)を用いた以外は実施例5と同様にして射出成形を行い、固化が完了するのに必要な最短の冷却時間を測定した。結果を表2に示した。
【0093】
【表2】
【0094】
表2より、実施例2又は4で得たサブピークを有するペレット(溶融加工用組成物)は、サブピークを有しない樹脂ペレット(F)と比較して短い冷却時間で固化が完了したので、溶融加工時の固化性が良好であることが分かる。
図1