(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】締結用部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16B 37/04 20060101AFI20240416BHJP
B21D 39/03 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
F16B37/04 E
B21D39/03 A
(21)【出願番号】P 2022044150
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀明
(72)【発明者】
【氏名】北原 学
(72)【発明者】
【氏名】尼子 龍幸
(72)【発明者】
【氏名】森 広行
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】泉野 亨輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康平
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】各務 綾加
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-096351(JP,A)
【文献】特開2017-155860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/04
B21D 39/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材からなるパネルにナットを結合して得られる締結用部材の製造方法であって、
該パネルは、該ナットの取付穴を有し、
該ナットは、雌ねじと該取付穴より拡幅な座面をもつ本体と、該雌ねじの軸方向の一方側へ該座面側から延び該取付穴の深さより長い筒状の結合部とを備え、
該結合部は、凹凸状の外周面をもつ回止部と、該回止部から該一方側へ延び該外周面の最大幅よりも縮幅している案内部とを有し、
該案内部が該取付穴の他面側から嵌挿された該ナットの両端面側に接した一対の電極から通電して、該ナットの抵抗発熱により該パネルの取付穴周辺を軟化させる通電工程と、
該電極による該ナットへの加圧力により、該案内部の一端部をかしめて該パネルの一面側で拡幅した抜止部を形成すると共に該回止部を該取付穴へ食い込ませる加圧工程と、
を備える締結用部材の製造方法。
【請求項2】
前記回止部は、前記外周面の最大幅が前記取付穴の内幅よりも大きいと共に前記軸方向の長さが該取付穴の深さ未満であり、
前記案内部は、前記加圧工程前における該軸方向の長さが該取付穴の深さ以上ある請求項1に記載の締結用部材の製造方法。
【請求項3】
前記案内部は、少なくとも前記一端部の肉厚が前記回止部の最小肉厚以下である請求項1または2に記載の締結用部材の製造方法。
【請求項4】
前記抜止部は、前記パネルの一面側に密着している請求項1~3のいずれかに記載の締結用部材の製造方法。
【請求項5】
前記ナットは、前記アルミニウム基材よりも電気抵抗率が大きい金属からなる請求項1~4のいずれかに記載の締結用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状のパネルにナットを結合した締結用部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
筐体や車体等は、薄い板材を成形等したパネルからなることが多い。パネルへ他部材を脱着可能に強く固定する場合、パネルにねじ(例えば雌ねじ)が必要となる。もっとも、薄いパネル自体へタップ加工(ねじ切り)しても、締結に必要なピッチ数を確保できない。そこでパネルにナットが取り付けられる。
【0003】
ナットのパネルへの取付法として、例えば、溶接工法や圧入工法がある。溶接工法(ウエルドナット工法)は、作業の簡便性や環境性が劣り、難溶接性のパネル(Al合金板等)には適さない。圧入工法は、パネルの材質による制約が少なく、作業性にも優れる。圧入工法には、例えば、クリンチングナットやカレイナットをパネルの取付穴へ押し込む方式がある。圧入工法以外の機械的な取付法として、カーリングナットの先端部をかしめてパネルへ固定する方式もある。カーリングナットに関連する記載が下記の特許文献1にあり、クリンチングナットに関連する記載が下記の特許文献2にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭60-52410
【文献】特開2013-113396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、カシメ固定用のスカートと、ナット座面に設けた回止め用のセレーションとを有するカーリングナットを提案している。
【0006】
特許文献2は、パネルに取り付けた後の抜け荷重(押込み強度)を大きくできる圧入ナットを提案している。
【0007】
いずれの文献も、ナットを取り付けるパネルの材質について全く言及していない。これまでの工法は、高延性な鋼材等からなるパネルを対象としており、割れを生じ易いアルミニウム基材からなるパネルは対象とされてこなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、アルミニウム基材からなるパネルへナットを効率的に取り付けれる新たな方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルミニウム基材からなるパネルへ嵌挿したナットへ、電極を介して通電および加圧を行ってナットをパネルへ取り付けることを着想し、具現化した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成させるに至った。
【0010】
《締結用部材の製造方法》
本発明は、アルミニウム基材からなるパネルにナットを結合して得られる締結用部材の製造方法であって、該パネルは、該ナットの取付穴を有し、該ナットは、雌ねじと該取付穴より拡幅な座面をもつ本体と、該雌ねじの軸方向の一方側へ該座面側から延び該取付穴の深さより長い筒状の結合部とを備え、該結合部は、凹凸状の外周面をもつ回止部と、該回止部から該一方側へ延び該外周面の最大幅よりも縮幅している案内部とを有し、該案内部が該取付穴の他面側から嵌挿された該ナットの両端面側に接した一対の電極から通電して、該ナットの抵抗発熱により該パネルの取付穴周辺を軟化させる通電工程と、該電極による該ナットへの加圧力により、該案内部の一端部をかしめて該パネルの一面側で拡幅した抜止部を形成すると共に該回止部を該取付穴へ食い込ませる加圧工程と、を備える締結用部材の製造方法である。
【0011】
本発明によれば、アルミニウム基材(単に「Al基材」という。)からなるパネルへナットを安定して強固に取り付けできる。この理由は、次のように考えられる。
【0012】
先ず、パネルの取付穴にナットの案内部を嵌挿した状態で、ナットの両端面(側)に(圧)接した一対の電極へ通電してナットを抵抗発熱させる(通電工程)。Al基材からなるパネルの取付穴周囲(局所)は、ナットからの伝熱により加熱されて軟化する。これにより延性が乏しいAl基材からなるパネルでも塑性変形し易くなり、ナットを圧入したときの耐穴拡げ性(割れ等なく変形する特性)が向上し得る。
【0013】
通電工程後または通電工程と併行(重畳)して、その取付穴に結合部が嵌挿されているナットを電極で加圧する(加圧工程)。これにより案内部の一端部はかしめられ、パネルの一面側で拡幅して抜止部が形成される。また、その形成後またはその形成と併行して、回止部が取付穴内に食い込む。回止部のパネルへの食込量が大きくなっても、取付穴の周囲は軟化して変形し易くなっているため割れ難い。
【0014】
本発明の製造方法は、一対の電極を利用して通電工程と加圧工程を連続的にまたは略同時に行うことができるため、作業性にも優れる。なお、通電工程によりナット自体も高温となるため、その案内部の一端部は冷間時よりも抜止部へ変形し易くなり、割れ難くなっている。
【0015】
こうして本発明の製造方法により得られる締結用部材は、抜止部による高い押込み荷重と回止部による優れた耐共回り性(耐連れ回り性)を発揮し、パネルにナットが強固に結合された状態となる。またAl基材からなるパネルは、温間状態または熱間状態でナットが圧入されるため、割れ等を生じ難い。つまり本発明によれば、Al基材からなるパネルとナットを結合した締結用部材を歩留まりよく効率的に製造できる。
【0016】
《締結用部材および締結構造体》
本発明は、締結用部材としても把握される。例えば、本発明は、アルミニウム基材からなるパネルにナットを結合した締結用部材であって、該パネルは、該ナットの取付穴を有し、該ナットは、雌ねじと該取付穴より拡幅な座面をもつ本体と、該雌ねじの軸方向の一方側へ該座面側から延び該取付穴に嵌装される筒状の結合部とを備え、該結合部は、該取付穴の内周面に食い込んだ凹凸状の外周面をもつ回止部と、該回止部から連なり該パネルの一面側で拡幅した抜止部とを有する締結用部材でもよい。
【0017】
さらに、本発明は、他部材を締結用部材のナットに雄ねじ(ボルト等)を螺合させて締結した構造体としても把握される。なお、締結用部材と他部材の大小(主従)関係は問わない。また、ナットの雌ねじに螺合する雄ねじは、締結される別部材に一体化していてもよいし、別部材と独立したボルト等でもよい。
【0018】
《その他》
(1)本明細書でいう「軸方向」は、ナットにある雌ねじの中心軸(螺旋軸)の延在方向である。説明の便宜上、その軸方向に関して、パネル側を一方側、一端側、一面側等といい、ナット側を他方側、他端側、他面側等という。その軸方向に沿って深さ(方向)、厚さ、高さ等を規定し、その軸方向の直交方向に沿って幅(方向)、径等を規定する。
【0019】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~ykN」はxkN~ykNを意味する。他の単位系(kA等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】そのナットをパネルに結合した締結用部材の製造過程を説明する工程図である。
【
図3】種々のナットをAl基板に結合した試験片の各曲げ試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、製造方法のみならず、物(締結用部材、締結構造体等)等にも適宜該当し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0022】
《パネル》
(1)Al基材
Al基材は、展伸材でも鋳造材(主にダイキャスト材)でもよい。Al基材は、純Alでも、Al合金でも、複合材(母材が純Al、Al合金等)でもよい。パネルは、Al基材からなる板材(単に「Al基板」という。)を少なくとも1枚含めばよい。つまり、パネルは、複数のAl基板の積層体でも、Al基板と異種な板材(例えば鋼板)の積層体でもよい。積層体を構成する板材の結合(例えばスポット溶接等)の有無は問わない。
【0023】
Al基板は、例えば、2000系~8000系、特に5000系(例えば、A5052、A5083、A5005等)または6000系(例えば、A6022、A6016、A6N01等)のAl合金板である。
【0024】
パネル(特にAl基板)の厚さ(t)は、例えば0.6~3mmさらには0.8~2mmである。雌ねじのピッチ(p)で示すなら、t≦(<)3p、t≦(<)2pさらにはt≦(<)pとなる場合に本発明の製造方法は特に効果的である。
【0025】
(2)取付穴
パネルに設けられる取付穴は、嵌挿されるナットの結合部に適した形態(形状、大きさ)であるとよい。取付穴は、円(筒)状に限らず、角形状(方形状等)でもよい。円状の取付穴の大きさ(幅)は、内径で指標される。取付穴の中心線(軸線)は、必ずしも、パネルに対して垂直(直交)でなくてもよい。取付穴の深さは、通常、パネルの厚さ(t)と略同じである。両者が相違するとき、取付穴の深さを寸法基準(t)とする。
【0026】
《ナット》
ナットは、ボルト等が螺合(貫通)する筒状であり、雌ねじがある本体とパネルに取付けられる結合部とを有する。具体的には、次の通りである。
【0027】
(1)本体
雌ねじは、本体の全長に亘って形成されていてもその一部に形成されていてもよい。雌ねじは、2ピッチ分以上、3ピッチ分以上さらには4ピッチ分以上あるとよい。敢えていうと、雌ねじのサイズは、M2~12、M3~10さらにはM4~8(JIS)である。
【0028】
本体の外形は、円筒状でも、角筒状(例えば六角ナット状)でもよい。また、軸方向に関して断面が一定でなくてもよい。本体の一端面側には、取付穴の内幅(内径等)よりも拡幅している(主)座面があるとよい。
【0029】
(2)結合部
結合部は、本体の座面側から軸方向の一方側に延びており、取付穴の深さ(t)よりも長い。結合部は、パネルの取付穴に食い込んで周方向の移動(回転)を阻止する回止部と、回止部からさらに一方側へ延びて取付穴に嵌挿される案内部を有する。なお、案内部の内周面は、その内幅(例えば内径)が座面側から拡がるテーパー状でもよい。
【0030】
回止部は、外周面が凹凸状になっている。凹部や凸部の形態(形状、大きさ)や数等は適宜調整される。例えば、凹部や凸部は、ストレート状(軸方向に断面が一定)でも、テーパー状(一方側へ縮幅する(細くなる)順テーパー、一方側へ拡幅する(太くなる)逆テーパー等)でもよい。また凹部や凸部は、軸方向に沿って形状が変化してもよい。さらに凹部の谷線や凸部の稜線は、軸方向に交差する直線状や曲線状でもよい。
【0031】
回止部は、その外周面の最大幅(Do/例えば凸部に外接する円の直径)が取付穴の内幅(d/例えば内径)よりも大きいとよい。これにより回止部は、加圧工程で取付穴に食い込んで共回りが阻止される。回止部は、その外周面の最小幅(Di/例えば凹部(底)に内接する円の直径)は、取付穴の内幅(例えば内径)より大きくても、小さくてもよい。
【0032】
回止部の軸方向の長さ(h)は、取付穴の深さ(t/パネルの厚さ)未満であるとよい。敢えていうと、t/5≦(<)h≦(<)2t/3、さらにはt/4≦(<)h≦(<)t/2であるとよい。回止部が長くなると、耐共回り性が向上する。回止部が短くなると、加圧工程後にできる抜止部の冗長を回避できる。
【0033】
案内部は、回止部から一方側へ延び、案内部の外周面の最大幅よりも縮幅している。さらにいえば、案内部は、少なくとも一端部の肉厚が回止部の最小肉厚以下であるとよい。これにより案内部は回止部よりも塑性変形(かしめ)し易くなり、抜止部の形成も容易となる。案内部の最大幅(例えば外径)は、取付穴の内幅(例えば内径)より僅かに小さいとよい。これにより、案内部を取付穴へ嵌挿し易くなり、ひいては通電工程や加圧工程の作業性も向上する。
【0034】
案内部は、軸方向の長さが取付穴の深さ(t)以上あるとよい。これにより、一対の電極で、案内部の一端面と本体の他端面を挟持して通電でき、ナットを直接的に抵抗加熱し易くなる。また、電極によるパネルの一面側の変形(陥没等)を抑制しつつ、案内部の一端部を抜止部へ塑性変形させ易くなる。なお、その抜止部は、パネルの一面側に密着した状態であると、がたつき等をなくしてナットをパネルに固定できる。
【0035】
ちなみに、抜止部となる案内部の長さ(g)は、例えば、0.1~1mmさらには0.2~0.5mm程度でもよい。
【0036】
(3)材質
ナットは、抵抗加熱できる材質であればよいが、特にAl基材よりも電気抵抗率が大きい金属からなるとよい。これにより電流値を抑制しつつ、ナットをパネルより優先的に発熱させれる。このような材質として、例えば、鉄基材、チタン基材等がある。
【0037】
《電極》
電極は、ナットへの通電や加圧に適した形態(形状、大きさ)や材質等を備えるとよい。電極は、専用品でも汎用品でもよい。汎用品の代表例として、スポット溶接用電極(単に「電極」という。)がある。以下、その電極を用いる場合を例示しつつ説明する。
【0038】
(1)形態
電極は、シャンクに着脱できるもの(キャップチップ型)でも、シャンクと一体化したもの(一体型)でもよい。通常、コストを低減するため、キャップチップ型の電極(「チップ」ともいう。)が用いられる。
【0039】
電極は、例えば、有底略円筒状の先端部と、その先端部から連なる略円筒状の胴部とを有する。電極の大きさは問わない。胴部の外径(呼び径/L2)は、例えば、φ10~20mmさらにはφ12~18mmである。先端径(L1)は、例えば、φ6~14mmさらにはφ8~12mmである。
【0040】
電極の先端部は、圧接されるナットの端面に適した形状であるとよい。例えば、本体の平坦面(ナットの他端面)に圧接される電極なら、先端部は平面状または緩やかな湾曲状であるとよい。結合部の円環状面(ナットの一端面)に圧接される電極なら、先端部は湾曲状または球状等であるとよい。これにより、電極をナットへ安定して接触(圧接)させれる。このような電極の先端部に、曲率半径が10~100mmさらには40~80mmとなる湾曲面を設けることにより、案内部の先端を座屈させずに変形させれる。
【0041】
電極(特に凸状電極)の先端部の基本形状は、例えば、JIS C9304(1999)に多数規定されている。具体的にいうと、平面形(F形)、ラジアス形(R形)、ドーム形(D形)、ドームラジアス形(DR形)、円錐台形(CF形)、円錐台ラジアス形(CR形)等がある。一対の各電極は、同形態でも異形態でもよい。例えば、ナットの一端側にはR形電極を、ナットの他端側にはF形電極を用いてもよい。なお、電極は、内側に冷媒(冷却液/冷却水)を導入して強制冷却してもよい。
【0042】
(2)材質
電極(少なくとも先端部)は、電気的特性(導電性等)と機械的特性(強度、剛性等)に優れる材質からなるとよい。例えば、電極は、導電率が75~95%IACSさらには80~90%IACSである銅合金からなる。銅合金は、例えば、クロム銅、ジルコニウム銅、クロム・ジルコニウム銅、アルミナ分散銅、ベリリウム銅等である。一対の各電極は、同材質でも異材質でもよい。
【0043】
《通電工程》
通電工程は、案内部を取付穴の他面側から嵌挿した後、ナットの両端面側に接した一対の電極から通電してナットを抵抗発熱させる。これにより、パネルの取付穴周辺は、それ自身の抵抗発熱とナットからの伝熱とにより軟化される。通常、パネルを構成するAl基材は電気抵抗率が小さいため、取付穴周辺の主な加熱はナットからの伝熱によると考えられる。なお、通電工程は、ナットの圧入やかしめを行う加圧工程に先行してなされても、その加圧工程と重複(併行)してなされてもよい。後者の場合、通電工程と加圧工程は同時に開始されてもよいし、通電工程に遅れて加圧工程(加圧力の増加)がなされてもよい。
【0044】
直流通電する場合、その電流値は、例えば、2~7kAさらには3~6kAである。電流密度なら、例えば、10~150A/mm2さらには20~100A/mm2である。電流値が変化するとき、通電時間に対する電流値(絶対値)の積分平均値を「電流値」とする。電流密度は、その電流値を電極とナットの接触面積で除して求まる。接触面積は、一端面側と他端面側の小さい方である。
【0045】
通電工程は、電極をナットの両端面(側)に圧接してなされるとよい。これにより接触抵抗が低減され、安定した通電が可能となる。通電工程を加圧工程に先行させるとき、通電工程は加圧工程よりも加圧力が小さくてよい。その加圧力は、例えば、2~7kNさらには3~6kNでもよい。通電工程が先行する場合、その通電時間は、例えば、25~500msさらには50~300msである。なお、通電工程と加圧工程が併行するとき、両工程の加圧力は同じにすればよい。
【0046】
通電工程は、電流値(電流密度)や加圧力等を、多段階的または連続的に変化させつつなされてもよい。また、本通電を行う前に、電極とナットの接触状態を馴染ませるプレ通電やプレ加圧等がなされてもよい。
【0047】
《加圧工程》
加圧工程は、案内部が取付穴に嵌挿されたナットの両端面側を電極で加圧(押圧)してなされる。これにより案内部の一端部はかしめられてパネルの一面側で拡幅した抜止部となり、ナットのパネルからの脱落が阻止される。また、回止部はパネルの取付穴へ食い込み、ナットのパネルに対する回転(共回り)が阻止される。
【0048】
加圧工程でナットへ印加される加圧力は、ナットのサイズにも依るが、例えば、2~7kNさらには4~6kNである。加圧工程も、加圧力等が多段階的または連続的に変化してもよい。通電工程と加圧工程が重畳的になされるとき、通電量と加圧力が協調制御されてもよい。なお、回止部がパネルの取付穴内へ収容(食い込み)されると共に抜止部が形成された時点(以降)で加圧工程を終了するとよい。
【0049】
《締結用部材》
ナットとパネルが結合した締結用部材は、その用途、形態(形状、大きさ)、仕様等を問わない。締結用部材の具体例として、車両のボディ、サスペンション等の足回り部品、パネル部材、ケース部材等がある。
【0050】
締結用部材の用途や仕様等に応じて、ナットとパネルの結合部やその周囲に、接着剤やシーリング剤等が介装されてもよい。またナットには、クロメート、亜鉛めっき等の防錆処理が施されていてもよい。ナットは、被膜(防錆膜等)を介してパネルと部分的に溶着していてもよい。さらに締結用部材は、ナットとパネルの結合後に、歪みや残留応力の除去等を目的とした熱処理がなされてもよい。
【実施例】
【0051】
Al基材からなるパネル(Al基板)に鋼鉄製のナットを結合した試料を製作し、その特性を評価した。このような具体例を示しつつ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0052】
《ナット》
実施例に係るナットNの平面図を
図1Aに、その半断面を示す正面図を
図1Bに示した。両図を併せて「
図1」という。本実施例では、
図1Bに示すように、ナットN(雌ねじ101)の中心線に沿って「軸方向」を定め、その一方側を「一端(面)側」、他方側を「他端(面)側」という。「幅」または「径」は、その軸方向の直交方向(横方向)に沿う長さとする。
【0053】
ナットNは、略六角ナットからなる本体1と、その一端側にある結合部2とを備える。本体1は、外周側が六角筒状の基体10と、基体10の内周側にある雌ねじ101とを備える。基体10の一端側には平坦な環状の座面11があり、その他端側には平坦な環状の端面12がある。
【0054】
結合部2は、座面11から垂直に一端側へ延在する回止部21と、回止部21から垂直に一端側へ延在する案内部22とを有する。回止部21は、内周側が円筒状であり、外周側が凹部211と凸部212を各12個ずつ繰返し配列された星形状である。凸部212の先端は、基体10(座面11)の最外周より内側にある。結合部2の外周面を構成する波状曲面は、サイクロイド曲面、インボリュート曲面等でもよい。
【0055】
案内部22は、内周面と外周面が軸方向に沿って平行な円筒状である。その外周面は、回止部21の凹部211の底部より内側にある。案内部22は回止部21よりも縮幅しており、回止部21の一端面が座面222となっている。
【0056】
《結合》
ナットNをパネル3の取付穴30に結合する様子を
図2に示した。具体的にいうと、次の通りである。
【0057】
先ず、ナットNの案内部22をパネル3の取付穴30へ他端側から嵌挿する。ナットNは、座面222がパネル3の他端面32に当接して止まる。
【0058】
次に、スポット溶接機にセットした電極E1、E2を、ナットNの一端面221と他端面12に圧接させて通電する(通電工程)。通電後、電極E1、E2によるナットNへの加圧力Fを増加させる。これにより軟化した取付穴30の周囲に、ナットNの回止部21は、座面11がパネル3の他端面32に当接するまで押し込まれる。また、案内部22の一端部はかしめられて、開くように折り曲げられる(拡径する)。こうして回止部21が取付穴30の他端側の一部へ食い込み、パネル3の一端面31に抜止部23が密接した締結用部材Tが得られた。
【0059】
《曲げ試験》
ナットをAl基板へ結合した試料を複数製作した。各試料の略中央を手で屈曲して、ナットとAl基板との結合力を確認した。その結果を
図3にまとめて示した。なお、製作した各試料の詳細は次の通りである。
図3には、試験前の様子も併せて示した。
【0060】
(1)試料1
図1に示したナットNを、
図2に示す工程に沿って、パネル3へ結合した。各諸元や製造条件は次の通りである。
【0061】
基体10は二面幅:10mm、高さ(厚さ):4mm、雌ねじ101はM6mm×P1.0mm(JIS)、回止部21は高さ:0.8mm、案内部22は外径8mm×内径7mm×高さ:0.8mmとした。ナットNの材質はS45Cとした。
【0062】
パネル3は、Al合金(A6022)からなり、幅30mm×長さ100mm×厚さ:1.6mmとした。取付穴30はφ8mmのキリ穴とした。
【0063】
通電および加圧は次のように行った。初期加圧(加圧力:4kN、スクイズタイム:200ms)により、ナットNの各端面に電極E1、E2を圧接させた。その後、加圧しながら、2段階の通電を行った。すなわち、第1通電(電流値:5kA、通電時間:500ms、加圧力:4kN、)に続けて(第1通電の直後に)、第2通電(電流値:7kA、通電時間:150ms、加圧力:4kN、)を行った。電極E1の先端部は、湾曲面状(先端径:φ12mm、先端曲率半径:40mm)とした。電極E2の先端部は、雌ねじ101に内挿する凸状(先端径:φ6mm、長さ:2mm)とした。
【0064】
(2)試料C1
試料1と同様なパネル(但し、厚さ1.2mm)を用意して、その取付穴へ市販のカーリングナット(西精工株式会社製M6-12(呼称))を組付けた。両者の組付(結合)はサーボ加圧式スポット溶接機(ART-HIKARI株式会社製)を用いて行った。
【0065】
(3)試料C2
試料C1と同じパネルの取付穴へ市販のカレイナット(ポップリベット・ファスナー株式会社製カレイナット6-09(呼称))を組付けた。両者の組付(結合)も、上述したサーボ加圧式スポット溶接機を用いて行った。
【0066】
《評価》
図3からわかるように、試料1は曲げ試験後もナットNがパネル3から脱落しなかった。また、ナットNに回転トルク(20Nm程度)を印加しても、ナットNはパネル3に対して回転することがなかった。さらに、パネル3の取付穴30周辺に、割れ等は観られなかった。
【0067】
試料C1は、曲げ試験によるナットの脱落はなかったが、パネルに対して回転した。また試料C2は、曲げ試験でナットがパネルから脱落した。
【0068】
以上から、本発明によれば、Al基材からなるパネルへナットを、安定して強固に固定できることが確認された。
【符号の説明】
【0069】
T 締結用部材
N ナット
1 本体
101 雌ねじ
2 結合部
21 回止部
22 案内部
23 抜止部
3 パネル