(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】正極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20240416BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240416BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240416BHJP
B05D 3/14 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/62 Z
B05D7/24 303G
B05D7/24 303B
B05D3/14
(21)【出願番号】P 2022069617
(22)【出願日】2022-04-20
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-127823(JP,A)
【文献】特開2014-7037(JP,A)
【文献】特開2022-55890(JP,A)
【文献】特表2021-527295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
B05D 7/24
B05D 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法において、
カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを準備する正極ペースト準備工程と、
前記正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に正極ペースト層を形成する塗工工程と、
前記正極ペースト層を乾燥させて前記正極合材層とする乾燥工程と、を備え、
前記カーボンナノチューブは、磁石に吸引される特性を有しており、
前記乾燥工程の直前及び前記乾燥工程中の少なくともいずれかにおいて、前記正極ペースト層に含まれる前記カーボンナノチューブを、前記磁石によって前記集電部材側に吸引する
正極板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の正極板の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブは、相対的に平均長さが長い第1カーボンナノチューブと、相対的に平均長さが短い第2カーボンナノチューブとであり、
前記正極ペースト準備工程は、前記カーボンナノチューブとして前記第1カーボンナノチューブを含む第1正極ペーストと、前記カーボンナノチューブとして前記第2カーボンナノチューブを含む第2正極ペーストと、を準備し、
前記塗工工程は、
前記第1正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に第1正極ペースト層を形成する第1塗工工程と、
前記第1正極ペースト層の表面上に、または、前記第1正極ペースト層を乾燥させた第1正極合材層の表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して、第2正極ペースト層を形成する第2塗工工程と、を有し、
前記磁石による吸引は、前記乾燥工程において前記第1正極ペースト層を乾燥する前、及び、前記乾燥工程において前記第1正極ペースト層を乾燥する期間中、の少なくともいずれかにおいて行う
正極板の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の正極板の製造方法であって、
前記第2塗工工程は、前記第1正極ペースト層の前記表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して前記第2正極ペースト層を形成し、
前記乾燥工程は、前記第2塗工工程の後に、前記第1正極ペースト層を前記第2正極ペースト層と共に乾燥させて前記正極合材層を形成する
正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法が開示されている。具体的には、この製造方法は、カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを準備する正極ペースト準備工程と、前記正極ペーストを前記集電部材の表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に正極ペースト層を形成する塗工工程と、前記正極ペースト層を乾燥させて前記正極合材層を形成する乾燥工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを、集電部材の表面上に塗工して、正極ペースト層を形成し、これを乾燥したとき、正極ペースト層内において集電部材側に配置されていたカーボンナノチューブのうちの一部が、溶媒と共に正極ペースト層の表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して、集電部材側のカーボンナノチューブが少なくなることがあった。カーボンナノチューブは、正極活物質粒子に比べて軽量であるため、蒸発しようとする溶媒と共に正極ペースト層の表面側へ移動するのである。このため、正極ペースト層を乾燥させた正極合材層内において、集電部材側の導電パスが少なくなることで、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなり、正極板の集電性が低下することがあった。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、厚み方向の電気抵抗率が小さい正極板を製造することができる正極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、集電部材の表面上に正極合材層を有する正極板の製造方法において、カーボンナノチューブ、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを準備する正極ペースト準備工程と、前記正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に正極ペースト層を形成する塗工工程と、前記正極ペースト層を乾燥させて前記正極合材層とする乾燥工程と、を備え、前記カーボンナノチューブは、磁石に吸引される特性を有しており、前記乾燥工程の直前及び前記乾燥工程中の少なくともいずれかにおいて、前記正極ペースト層に含まれる前記カーボンナノチューブを、前記磁石によって前記集電部材側に吸引する正極板の製造方法である。
【0007】
上述の製造方法では、カーボンナノチューブとして、磁石に吸引される特性を有するカーボンナノチューブを用いる。そして、集電部材の表面に塗工した正極ペースト層を乾燥させる乾燥工程の直前、及び、乾燥工程中、の少なくともいずれかにおいて、正極ペースト層に含まれるカーボンナノチューブを、磁石によって集電部材側に吸引する。これにより、乾燥工程の直前にカーボンナノチューブを集電部材側へ引き寄せておく、あるいは、乾燥工程中に溶媒と共に表面側へ移動しようとするカーボンナノチューブを集電部材側へ吸引して表面側へ移動し難くすることができる。従って、乾燥工程において正極ペースト層を乾燥させたとき、正極ペースト層内において集電部材側に配置されているカーボンナノチューブ(特に、集電部材に接触しているカーボンナノチューブ)が、溶媒と共に表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。
【0008】
従って、上述の製造方法によれば、正極ペースト層を乾燥させた正極合材層内において、集電部材側の導電パスが少なくなることを防止できる。これにより、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなることを防止することができ、正極板の集電性が低下することを防止できる。従って、上述の製造方法によれば、厚み方向の電気抵抗率(Ω・cm)が小さい正極板を製造することができる。
【0009】
なお、磁石に吸引される特性を有するカーボンナノチューブとしては、例えば、カーボンナノチューブの内部または表面に磁性体を有するカーボンナノチューブを挙げることができる。具体的には、例えば、カーボンナノチューブの製造過程においてカーボンナノチューブに不純物として含まれるCoやFeなどの金属からなる磁性体を有するカーボンナノチューブを挙げることができる。
【0010】
(2)さらに、前記(1)の正極板の製造方法であって、前記カーボンナノチューブは、相対的に平均長さが長い第1カーボンナノチューブと、相対的に平均長さが短い第2カーボンナノチューブとであり、前記正極ペースト準備工程は、前記カーボンナノチューブとして前記第1カーボンナノチューブを含む第1正極ペーストと、前記カーボンナノチューブとして前記第2カーボンナノチューブを含む第2正極ペーストと、を準備し、前記塗工工程は、前記第1正極ペーストを前記集電部材の前記表面上に塗工して、前記集電部材の前記表面上に第1正極ペースト層を形成する第1塗工工程と、前記第1正極ペースト層の表面上に、または、前記第1正極ペースト層を乾燥させた第1正極合材層の表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して、第2正極ペースト層を形成する第2塗工工程と、を有し、前記磁石による吸引は、前記乾燥工程において前記第1正極ペースト層を乾燥する前、及び、前記乾燥工程において前記第1正極ペースト層を乾燥する期間中、の少なくともいずれかにおいて行う正極板の製造方法とすると良い。
【0011】
上述の製造方法では、乾燥工程において第1正極ペースト層を乾燥する前、及び、乾燥工程において第1正極ペースト層を乾燥する期間中、の少なくともいずれかにおいて、前述した磁石による吸引を行う。これより、乾燥工程において第1正極ペースト層を乾燥させたときに、集電部材の表面上に形成された第1正極ペースト層内において、集電部材側に配置されている第1カーボンナノチューブ(特に、集電部材に接触している第1カーボンナノチューブ)が、溶媒と共に表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。
【0012】
しかも、第1正極ペーストに含まれる第1カーボンナノチューブ(以下、第1CNTともいう)の平均長さを、第2正極ペーストに含まれる第2カーボンナノチューブ(以下、第2CNTともいう)の平均長さよりも長くしている。これより、第1正極ペースト層を乾燥させたとき、第1正極ペースト層内において集電部材側に配置されている第1CNTが、より一層、溶媒と共に表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動し難くなるので、集電部材側に位置する(特に、集電部材に接触している)第1CNTがより一層減少し難くなる。
【0013】
その理由は、第1正極ペースト層を乾燥させたとき、第1正極ペースト層内の第1CNTは、溶媒と共に表面側へ移動しようとするが、第1CNTの長さが長いことで、正極活物質粒子に引っかかり易くなり、正極活物質粒子に引っかかることで表面側へ移動し難くなるからである。従って、上述の製造方法によれば、厚み方向の電気抵抗率がより小さい正極板を製造することができる。
【0014】
なお、上述の製造方法は、以下の(a)または(b)の製造方法を含む。(a)第1塗工工程において、第1正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して集電部材の表面上に第1正極ペースト層を形成した後、第2塗工工程において、第1正極ペースト層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成する。その後、乾燥工程において、第1正極ペースト層を第2正極ペースト層と共に乾燥させる。この製造方法の場合は、第1正極ペースト層を第2正極ペースト層と共に乾燥させる乾燥工程の直前、及び、当該乾燥工程中、の少なくともいずれかにおいて、前述の磁石による吸引を行う。
【0015】
(b)第1塗工工程において、第1正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して集電部材の表面上に第1正極ペースト層を形成した後、第1正極ペースト層を乾燥させて第1正極合材層とする第1乾燥(乾燥工程)を行う。その後、第2塗工工程において、第1正極合材層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成した後、この第2正極ペースト層を乾燥させる第2乾燥(乾燥工程)を行う。この製造方法の場合は、第1正極ペースト層を乾燥させる第1乾燥の直前、及び、第1乾燥中、の少なくともいずれかにおいて、前述の磁石による吸引を行う。さらに、第2正極ペースト層を乾燥させる第2乾燥の直前、及び、第2乾燥中、の少なくともいずれかにおいても、前述の磁石による吸引を行うようにしても良い。
【0016】
(3)さらに、前記(2)の正極板の製造方法であって、前記第2塗工工程は、前記第1正極ペースト層の前記表面上に、前記第2正極ペーストを塗工して前記第2正極ペースト層を形成し、前記乾燥工程は、前記第2塗工工程の後に、前記第1正極ペースト層を前記第2正極ペースト層と共に乾燥させて前記正極合材層を形成する正極板の製造方法とすると良い。
【0017】
上述の製造方法では、第2塗工工程において、乾燥前の第1正極ペースト層の表面上に第2正極ペーストを塗工し、その後、乾燥工程において、第1正極ペースト層と共に第2正極ペースト層を乾燥させる。すなわち、前述の(a)の製造方法である。これにより、「第2正極ペーストを塗工する前に第1正極ペースト層を乾燥させて第1正極合材層を形成し、その後、第1正極合材層の表面上に塗工した第2正極ペースト層を乾燥させる」場合、すなわち、前述の(b)の製造方法に比べて、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることが可能となる。
【0018】
その理由は、以下の通りである。後者の製造方法では、第2正極ペースト層を乾燥させたとき、第2正極ペースト層の集電部材側に位置する第2CNTの一部が溶媒と共に表面側へ移動して、第2正極ペースト層内において集電部材側の第2CNTの数が少なくなり得る。なお、後者の製造方法では、第2正極ペースト層を乾燥させるとき、既に、第1正極ペースト層は乾燥して第1正極合材層になっているので、第1正極合材層内の第1CNTは第2正極ペースト層内へ移動しない。
【0019】
これに対し、前者の製造方法では、第1正極ペースト層と共に第2正極ペースト層を乾燥させるので、これらを乾燥させたとき、第2正極ペースト層の集電部材側に位置する第2CNTの一部が溶媒と共に表面側へ移動して、第2正極ペースト層内において集電部材側の第2CNTが減少し得るが、第1正極ペースト層の表面側に位置する第1CNTの一部が溶媒と共に表面側へ移動して、第2正極ペースト層の集電部材側に配置され得る。あるいは、第1正極ペースト層の表面側と第2正極ペースト層の集電部材側との間を跨ぐように一部の第1CNTが配置され得る。これにより、第2正極ペースト層の集電部材側にも適切にカーボンナノチューブが配置され、正極板の厚み方向の電気抵抗率がより一層小さくなり得る。
【0020】
(4)あるいは、前記(2)の正極板の製造方法であって、前記乾燥工程は、前記第2塗工工程の前に前記第1正極ペースト層を乾燥させて前記第1正極合材層とする第1乾燥、及び、前記第1正極合材層の表面上に塗工した前記第2正極ペースト層を乾燥させて第2正極合材層として、前記第1正極合材層と前記第2正極合材層とからなる前記正極合材層を形成する第2乾燥、を有する正極板の製造方法としても良い。
【0021】
この製造方法は、第1塗工工程において、第1正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して集電部材の表面上に第1正極ペースト層を形成した後、第1正極ペースト層を乾燥させて第1正極合材層とする第1乾燥(乾燥工程)を行う。その後、第2塗工工程において、第1正極合材層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成した後、この第2正極ペースト層を乾燥させる第2乾燥(乾燥工程)を行う。すなわち、前述の(b)の製造方法である。
【0022】
(5)さらに、前記(4)の正極板の製造方法であって、前記磁石による吸引は、前記第1乾燥の直前、及び、前記第1乾燥中、の少なくともいずれかにおいて行い、且つ、前記第2乾燥の直前、及び、前記第2乾燥中、の少なくともいずれかにおいても行う正極板の製造方法とするのが好ましい。
【0023】
上述の製造方法では、第1乾燥の直前、及び、第1乾燥中、の少なくともいずれかにおいて、第1正極ペースト層に含まれる第1CNTを、磁石によって集電部材側に吸引する。これより、第1正極ペースト層を乾燥させる第1乾燥を行ったときに、集電部材の表面上に形成された第1正極ペースト層内において、集電部材側に配置されている第1CNT(特に、集電部材に接触している第1CNT)が、溶媒と共に表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。
【0024】
さらに、第2乾燥の直前、及び、第2乾燥中、の少なくともいずれかにおいて、第2正極ペースト層に含まれる第2CNTを、磁石によって集電部材側に吸引する。これより、第2正極ペースト層を乾燥させる第2乾燥を行ったときに、第2正極ペースト層の集電部材側に位置する第2CNTが、溶媒と共に表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。これにより、正極合材層の厚み方向の全体にわたって適切にカーボンナノチューブが配置され、正極板の厚み方向の電気抵抗率が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1にかかる正極板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図2】実施例1,2にかかる第1正極ペースト準備工程を説明する図である。
【
図3】実施例1,2にかかる第2正極ペースト準備工程を説明する図である。
【
図4】実施例1,2にかかる第1塗工工程を説明する図である。
【
図5】実施例1にかかる第2塗工工程を説明する図である。
【
図6】実施例1にかかる乾燥工程を説明する図である。
【
図8】実施例2にかかる正極板の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【
図9】実施例2にかかる乾燥工程の第1乾燥を説明する図である。
【
図10】実施例2にかかる第2塗工工程を説明する図である。
【
図11】実施例2にかかる乾燥工程の第2乾燥を説明する図である。
【
図12】実施例2にかかる正極板の断面略図である。
【
図13】正極板の厚み方向の電気抵抗率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<実施例1>
次に、実施例1にかかる正極板の製造方法について説明する。
図1は、実施例1にかかる正極板1の製造方法の流れを示すフローチャートである。まず、ステップS1(第1正極ペースト準備工程)において、第1カーボンナノチューブ11(以下、第1CNT11ともいう)、正極活物質粒子15、バインダ(図示省略)及び、溶媒17を含む第1正極ペースト41を準備する(
図2参照)。なお、第1正極ペースト41は、カーボンナノチューブとして第1CNT11のみを含有する。また、ステップS2(第2正極ペースト準備工程)において、第2カーボンナノチューブ12(以下、第2CNT12ともいう)、正極活物質粒子15、バインダ(図示省略)及び、溶媒17を含む第2正極ペースト42を準備する(
図3参照)。なお、第2正極ペースト42は、カーボンナノチューブとして第2CNT12のみを含有する。
【0027】
また、第1CNT11の平均長さは、第2CNT12の平均長さよりも長い。具体的には、第1CNT11の平均長さは1.3μmであり、第2CNT12の平均長さは0.6μmである。詳細には、第1CNT11の長さは、1.0μm以上3.0μm以下の範囲内とされている。一方、第2CNT12の長さは、0.3μm以上0.8μm以下の範囲内とされている。
【0028】
次に、ステップS3(第1塗工工程)において、第1正極ペースト41を集電部材10の第1表面10b上に塗工(塗布)して、集電部材10の第1表面10b上に第1正極ペースト層51を形成する(
図4参照)。なお、本実施例1では、集電部材10として、第1表面10b及び第2表面10cを有するアルミニウム箔を用いている。次いで、ステップS4(第2塗工工程)に進み、第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト42を塗工(塗布)して、第2正極ペースト層52を形成する(
図5参照)。これにより、集電部材10の第1表面10b上に第1正極ペースト層51を有し、さらに、第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト層52を有する乾燥対象物TD1を作製する。
【0029】
その後、ステップS5(乾燥工程)において、第1正極ペースト層51を第2正極ペースト層52と共に乾燥させて、正極合材層20を形成する。具体的には、
図6に示すように、上方に位置する複数の熱風吹出部81と、下方に位置する複数の搬送ロール85と、搬送ロール85によって搬送される乾燥対象物TD1の下方に位置する複数の磁石88と、を備える乾燥炉80によって、乾燥対象物TD1の第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させる。より具体的には、第2正極ペースト層52を上方に位置する熱風吹出部81側に向けて、乾燥対象物TD1を搬送ロール85によって搬送方向DMに搬送しつつ、熱風吹出部81から吹き出す熱風HAによって、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させる。
【0030】
このとき、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる溶媒17は、第2正極ペースト層52の表面52bへ移動して蒸発する。これにより、第1正極ペースト層51が第1正極合材層21になると共に、第2正極ペースト層52が第2正極合材層22となり、集電部材10の第1表面10b上に、第1正極合材層21及び第2正極合材層22からなる正極合材層20が形成される。
【0031】
その後、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層21及び第2正極合材層22からなる正極合材層20を形成する。具体的には、ステップS6(第1塗工工程)において、第1正極ペースト41を集電部材10の第2表面10c上に塗工して、集電部材10の第2表面10c上に第1正極ペースト層51を形成する。次いで、ステップS7(第2塗工工程)に進み、第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト42を塗工して、第2正極ペースト層52を形成する。
【0032】
その後、ステップS8(乾燥工程)において、乾燥炉80によって、第1正極ペースト層51を第2正極ペースト層52と共に乾燥させて、正極合材層20を形成する。このとき、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる溶媒17は、第2正極ペースト層52の表面52bへ移動して蒸発する。これにより、第1正極ペースト層51が第1正極合材層21になると共に、第2正極ペースト層52が第2正極合材層22となり、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層21及び第2正極合材層22からなる正極合材層20が形成される(
図7参照)。これにより、集電部材10の両面(第1表面10bと第2表面10c)に正極合材層20を有する正極板1(プレス前の正極板1)が得られる。その後、ステップS9(プレス工程)において、正極板1を厚み方向DTにプレスして、正極合材層20を厚み方向DTに圧縮することで、正極板1が完成する(
図7参照)。
【0033】
ところで、従来、カーボンナノチューブ(以下、CNTともいう)、正極活物質粒子、及び、溶媒を含む正極ペーストを集電部材の表面上に塗工して、正極ペースト層を形成し、これを乾燥したとき、正極ペースト層内において集電部材側に配置されていたCNTのうちの一部が、溶媒と共に正極ペースト層の表面側(集電部材から遠ざかる側)へ移動して、集電部材側のCNTが少なくなることがあった。CNTは、正極活物質粒子に比べて軽量であるため、蒸発しようとする溶媒と共に正極ペースト層の表面側へ移動するのである。このため、正極ペースト層を乾燥させた正極合材層内において、集電部材側の導電パスが少なくなることで、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなり、正極板の集電性が低下することがあった。
【0034】
これに対し、本実施例1では、第1CNT11及び第2CNT12として、磁石88に吸引される特性を有するCNTを用いている。そして、乾燥工程中(ステップS5及びS8の期間中)、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる第1CNT11及び第2CNT12を、磁石88によって集電部材10側に吸引している(
図6参照)。具体的には、
図6に示すように、乾燥炉80によって乾燥対象物TD1の第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させる期間中、乾燥炉80内を搬送方向DMに搬送される乾燥対象物TD1の下方に位置する磁石88によって、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる第1CNT11及び第2CNT12は、磁石88によって集電部材10側(
図6において下方)に吸引される。なお、磁石88として、サマコバ磁石を用いている。また、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に印加する磁界(磁場)の磁束密度を1.0T以上としている。
【0035】
これにより、乾燥工程中(ステップS5及びS8の期間中)に溶媒17と共に表面51b,52b側へ移動しようとする第1CNT11及び第2CNT12を、集電部材10側へ吸引して表面51b,52b側へ移動し難くすることができる。従って、乾燥工程において第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52内において集電部材10側に配置されている第1CNT11及び第2CNT12(特に、集電部材10に接触している第1CNT11)が、溶媒17と共に表面51b,52b側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。
【0036】
従って、本実施例1の製造方法によれば、正極合材層20(第1正極合材層21及び第2正極合材層22)の内部において、集電部材10側の導電パスが少なくなることを防止できる。これにより、正極板1の厚み方向DTの電気抵抗率が大きくなることを防止することができ、正極板1の集電性が低下することを防止できる。従って、本実施例1の製造方法によれば、厚み方向DTの電気抵抗率(Ω・cm)が小さい正極板1を製造することができる。
【0037】
なお、磁石に吸引される特性を有する第1CNT11及び第2CNT12として、第1CNT11及び第2CNT12の内部または表面に磁性体を有する第1CNT11及び第2CNT12を用いるのが好ましい。本実施例1では、第1CNT11及び第2CNT12として、第1CNT11及び第2CNT12の製造過程においてこれらに不純物として含まれるCoやFeなどの磁性体を有するCNTを用いている。詳細には、第1CNT11及び第2CNT12として、純度が94%以下のCNTを用いている。
【0038】
しかも、本実施例1では、第1正極ペースト41に含まれる第1CNT11の平均長さを、第2正極ペースト42に含まれる第2CNT12の平均長さよりも長くしている。これより、ステップS5及びS8(乾燥工程)において、第1正極ペースト層51を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51内において集電部材10側に配置されている第1CNT11が、溶媒17と共に表面51b側(集電部材10から遠ざかる側、
図6において上方)へ移動し難くなるので、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第1CNT11が減少し難くなる。その理由は、第1正極ペースト層51を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51内の第1CNT11は、蒸発しようとする溶媒17と共に表面51b,52b側へ移動しようとするが、第1CNT11の長さが長いことで、正極活物質粒子15に引っかかり易くなり、正極活物質粒子15に引っかかることで表面51b,52b側へ移動し難くなるからである。
【0039】
従って、本実施例1の製造方法によれば、第1正極ペースト層51を乾燥させた第1正極合材層21内において、集電部材10側の導電パスが少なくなることを防止できる。これにより、正極板1の厚み方向DTの電気抵抗率が大きくなることをより一層防止することができ、正極板1の集電性が低下することをより一層防止できる。
【0040】
<実施例2>
実施例2の製造方法は、実施例1の製造方法と比較して、第1正極ペースト層151を乾燥させて第1正極合材層121を形成した後に、第1正極合材層121の表面121b上に第2正極ペースト42を塗工する点が異なり、その他は同様である。以下、実施例2にかかる正極板の製造方法について説明する。
図8は、実施例2にかかる正極板101の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0041】
まず、ステップT1(第1正極ペースト準備工程)において、実施例1と同等の第1正極ペースト41を準備する(
図2参照)。また、ステップT2(第2正極ペースト準備工程)において、実施例1と同等の第2正極ペースト42を準備する(
図3参照)。次に、ステップT3(第1塗工工程)において、第1正極ペースト41を集電部材10の第1表面10b上に塗工(塗布)して、集電部材10の第1表面10b上に第1正極ペースト層151を形成する(
図4参照)。次いで、ステップT4(第1乾燥)に進み、乾燥炉80を用いて第1正極ペースト層151を乾燥させて、第1正極合材層121を形成する(
図9参照)。
【0042】
その後、ステップT5(第2塗工工程)において、第1正極合材層121の表面121b上に第2正極ペースト42を塗工(塗布)して、第2正極ペースト層152を形成する(
図10参照)。次いで、ステップT6(第2乾燥)に進み、乾燥炉80を用いて第2正極ペースト層152を乾燥させて、第2正極合材層122を形成する。これにより、集電部材10の第1表面10b上に、第1正極合材層121及び第2正極合材層122からなる正極合材層120が形成される(
図11参照)。
【0043】
その後、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層121及び第2正極合材層122からなる正極合材層20を形成する。具体的には、ステップT7(第1塗工工程)において、集電部材10の第2表面10c上に、第1正極ペースト41を塗工して第1正極ペースト層151を形成する。次いで、ステップT8(第1乾燥)に進み、第1正極ペースト層151を乾燥させて第1正極合材層121を形成する。その後、ステップT9(第2塗工工程)において、第1正極合材層121の表面121b上に、第2正極ペースト42を塗工して第2正極ペースト層152を形成する。
【0044】
次に、ステップTA(第2乾燥)に進み、第2正極ペースト層152を乾燥させて第2正極合材層122を形成する。これにより、集電部材10の第2表面10c上にも、第1正極合材層121及び第2正極合材層122からなる正極合材層120が形成される(
図12参照)。これにより、集電部材10の両面(第1表面10bと第2表面10c)に正極合材層120を有する正極板101(プレス前の正極板101)が得られる。その後、ステップTB(プレス工程)において、正極板101を厚み方向DTにプレスして、正極合材層120を厚み方向DTに圧縮することで、正極板101が完成する(
図12参照)。なお、本実施例2のステップT4(第1乾燥)、ステップT6(第2乾燥)、ステップT8(第1乾燥)、及びステップTA(第2乾燥)が、乾燥工程に相当する。
【0045】
本実施例2でも、第1CNT11及び第2CNT12として、磁石88に吸引される特性を有するCNTを用いている。そして、ステップT4,T8(第1乾燥)の期間中、第1正極ペースト層151に含まれる第1CNT11を、磁石88によって集電部材10側に吸引している(
図9参照)。さらには、ステップT6,TA(第2乾燥)の期間中、第2正極ペースト層152に含まれる第2CNT12を、磁石88によって集電部材10側に吸引している(
図11参照)。具体的には、
図9及び
図11に示すように、乾燥炉80によって第1正極ペースト層151または第2正極ペースト層152を乾燥させる期間中、乾燥炉80内の磁石88によって、第1正極ペースト層151に含まれる第1CNT11または第2正極ペースト層152に含まれる第2CNT12は、磁石88によって集電部材10側(
図9及び
図11において下方)に吸引される。
【0046】
これにより、第1乾燥中に、溶媒17と共に第1正極ペースト層151の表面151b側へ移動しようとする第1CNT11を、集電部材10側へ吸引して表面151b側へ移動し難くすることができる。従って、第1正極ペースト層151内において集電部材10側に配置されている第1CNT11(特に、集電部材10に接触している第1CNT11)が、溶媒17と共に表面151b側へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。さらには、第2乾燥中に、溶媒17と共に第2正極ペースト層152の表面152b側へ移動しようとする第2CNT12を、集電部材10側へ吸引して表面152b側へ移動し難くすることができる。従って、第2正極ペースト層152内において集電部材10側に配置されている第2CNT12が、溶媒17と共に表面152b側へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。
【0047】
しかも、本実施例2でも、実施例1と同様に、第1正極ペースト41に含まれる第1CNT11の平均長さを、第2正極ペースト42に含まれる第2CNT12の平均長さよりも長くしている。これより、ステップT4及びT8(第1乾燥)において、第1正極ペースト層151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層151内において集電部材10側に配置されている第1CNT11が、溶媒17と共に表面151b側(集電部材10から遠ざかる側、
図9において上方)へ移動し難くなるので、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第1CNT11が減少し難くなる。
【0048】
従って、本実施例2の製造方法によれば、正極合材層120(第1正極合材層121及び第2正極合材層122)の内部において、集電部材10側の導電パスが少なくなることを防止できる。これにより、正極板101の厚み方向DTの電気抵抗率が大きくなることを防止することができ、正極板101の集電性が低下することを防止できる。従って、本実施例1の製造方法によれば、厚み方向DTの電気抵抗率(Ω・cm)が小さい正極板101を製造することができる。
【0049】
<実施例3>
実施例3の製造方法は、実施例1の製造方法と比較して、乾燥工程(ステップS5及びS8)中の磁石88による第1CNT11及び第2CNT12の吸引を行うことなく、乾燥工程の直前に、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる第1CNT11及び第2CNT12を、磁石88によって集電部材10側に吸引した点のみが異なり、その他は同様である。具体的には、実施例3では、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を有する乾燥対象物TD1を乾燥炉に入れる直前に、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる第1CNT11及び第2CNT12を、磁石88によって集電部材10側に吸引した。
【0050】
なお、磁石88は、乾燥炉に向けて搬送方向DMに搬送される乾燥対象物TD1の下方に配置されている。これにより、乾燥対象物TD1が乾燥炉内に搬送される直前に、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52に含まれる第1CNT11及び第2CNT12が、磁石88によって集電部材10側に吸引される。次いで、この乾燥対象物TD1を、乾燥炉80と比較して磁石88を有しない点のみが異なる乾燥炉(図示なし)を用いて乾燥させる乾燥工程を行った。
【0051】
従って、実施例3では、乾燥工程の直前に、第1CNT11及び第2CNT12を集電部材10側へ引き寄せて、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52内において、集電部材10側に位置する第1CNT11及び第2CNT12を増加させておくことができる。これにより、乾燥工程において第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51及び第2正極ペースト層52内において、第1CNT11及び第2CNT12が溶媒17と共に表面51b,52b側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動しても、集電部材10側に位置する第1CNT11及び第2CNT12が相対的に少なくなるのを低減することができる。従って、本実施例3の製造方法でも、厚み方向DTの電気抵抗率が小さい正極板を製造することができる。
【0052】
<実施例4>
実施例4の製造方法は、実施例2の製造方法と比較して、乾燥工程(ステップT4,T6,T8,TA)中の磁石88による第1CNT11及び第2CNT12の吸引を行うことなく、乾燥工程の直前に、第1正極ペースト層51に含まれる第1CNT11及び第2正極ペースト層52に含まれる第2CNT12を、磁石88によって集電部材10側に吸引した点のみが異なり、その他は同様である。具体的には、実施例4では、第1正極ペースト層151を乾燥炉で乾燥させる直前に、第1正極ペースト層151に含まれる第1CNT11を磁石88によって集電部材10側に吸引した。次いで、乾燥炉80と比較して磁石88を有しない点のみが異なる乾燥炉を用いて、第1正極ペースト層151を乾燥させる第1乾燥を行った。さらに、第2正極ペースト層152を乾燥炉で乾燥させる直前に、第2正極ペースト層52に含まれる第2CNT12を磁石88によって集電部材10側に吸引した。次いで、乾燥炉80と比較して磁石88を有しない点のみが異なる乾燥炉を用いて、第2正極ペースト層52を乾燥させる第2乾燥を行った。
【0053】
従って、実施例4では、第1乾燥の直前に、第1CNT11を集電部材10側へ引き寄せて、第1正極ペースト層151内において集電部材10側に位置する第1CNT11を増加させておくことができる。これにより、第1乾燥において第1正極ペースト層151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層151内において第1CNT11が溶媒17と共に表面151b側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動しても、集電部材10側に位置する第1CNT11が相対的に少なくなるのを低減することができる。さらには、第2乾燥の直前に、第2CNT12を集電部材10側へ引き寄せて、第2正極ペースト層152内において集電部材10側に位置する第2CNT12を増加させておくことができる。これにより、第2乾燥において第2正極ペースト層152を乾燥させたとき、第2正極ペースト層152内において第2CNT12が溶媒17と共に表面152b側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動しても、集電部材10側に位置する第2CNT12が相対的に少なくなるのを低減することができる。従って、本実施例4の製造方法によれば、厚み方向DTの電気抵抗率が小さい正極板を製造することができる。
【0054】
<実施例5>
実施例5の製造方法は、実施例1の製造方法と比較して、第1CNT11と第2CNT12の両方を含む第3正極ペーストのみを集電部材10に塗工した点が異なり、その他はほぼ同様である。具体的には、本実施例5では、正極ペースト準備工程において、第1CNT11、第2CNT12、正極活物質粒子15、バインダ、及び、溶媒17を含む第3正極ペーストを準備した。なお、第1CNT11と第2CNT12とは同等の割合で第3正極ペースト中に含まれている。また、第3正極ペーストにおけるCNT(第1CNT11及び第2CNT12の両方)と正極活物質粒子15とバインダと溶媒17との重量比は、第1正極ペースト41と同等としている。また、塗工工程では、第3正極ペーストを集電部材10の第1表面10b上(または第2表面10c上)に塗工して、集電部材10の第1表面10b上(または第2表面10c上)に第3正極ペースト層を形成した。
【0055】
また、乾燥工程では、実施例1と同じ乾燥炉80を用いて第3正極ペースト層を乾燥させて、集電部材10の第1表面10b上(または第2表面10c上)に正極合材層を形成した。これにより、集電部材10の両面(第1表面10bと第2表面10c)に正極合材層を有する正極板を作製した。その後、プレス工程において、この正極板を厚み方向にプレスして、正極板を完成させた。
【0056】
本実施例5では、乾燥工程において、第3正極ペースト層に含まれる第1CNT11及び第2CNT12が、乾燥炉80内の磁石88によって集電部材10側に吸引される。これにより、乾燥工程中に、溶媒17と共に第3正極ペースト層の表面側へ移動しようとする第1CNT11及び第2CNT12を、集電部材10側へ吸引して表面側へ移動し難くすることができる。従って、第3正極ペースト層内において集電部材10側に配置されている第1CNT11及び第2CNT12が、溶媒17と共に表面側へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができる。従って、本実施例5の製造方法でも、厚み方向の電気抵抗率が小さい正極板を製造することができる。
【0057】
<実施例6>
実施例6の製造方法は、実施例5の製造方法と比較して、乾燥工程中の磁石88による第1CNT11及び第2CNT12の吸引を行うことなく、乾燥工程の直前に、第3正極ペースト層に含まれる第1CNT11及び第2CNT12を、磁石88によって集電部材10側に吸引した点のみが異なり、その他は同様である。
【0058】
本実施例6では、乾燥工程の直前に、第1CNT11及び第2CNT12を集電部材10側へ引き寄せて、第3正極ペースト層内において集電部材10側に位置する第1CNT11及び第2CNT12を増加させておくことができる。これにより、乾燥工程において第3正極ペースト層を乾燥させたとき、第3正極ペースト層内において第1CNT11及び第2CNT12が溶媒17と共に表面側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動しても、集電部材10側に位置する第1CNT11及び第2CNT12が相対的に少なくなるのを低減することができる。従って、本実施例6の製造方法でも、厚み方向の電気抵抗率が小さい正極板を製造することができる。
【0059】
<比較例1>
比較例1では、実施例2の製造方法と比較して、乾燥工程中の磁石88による第1CNT11(または第2CNT12)の吸引を行うことなく、第1正極ペースト層51(または第2正極ペースト層52)の乾燥を行った点のみが異なり、その他は同様として、正極板を製造した。
【0060】
<比較例2>
比較例2では、実施例5の製造方法と比較して、乾燥工程中の磁石88による第1CNT11及び第2CNT12の吸引を行うことなく、第3正極ペースト層の乾燥を行った点のみが異なり、その他は同様として、正極板を製造した。
【0061】
<正極板の厚み方向の電気抵抗率の比較>
次に、実施例1~6及び比較例1,2の正極板のそれぞれについて、厚み方向DTの電気抵抗率(Ω・cm)を測定した。なお、本測定では、各正極板に対して厚み方向DTに3.5kNの荷重を掛けた状態で、公知の手法によって、正極板の厚み方向DTについて電気抵抗率を測定している。これらの結果を、
図13に比較して示す。
【0062】
図13に示すように、実施例1~6は、比較例1,2に比べて、正極板の厚み方向の電気抵抗率が小さくなった。その理由は、実施例1~6では、比較例1,2とは異なり、乾燥工程の直前または乾燥工程中において、正極ペースト層に含まれるCNTを磁石88によって集電部材10側に吸引したからである。これにより、乾燥工程において正極ペースト層を乾燥させたとき、正極ペースト層内において集電部材10側に配置されているCNTが、溶媒17と共に表面側(集電部材10から遠ざかる側)へ移動して相対的に少なくなるのを低減することができたからである。
【0063】
特に、実施例2の製造方法は、比較例1の製造方法と比較して、乾燥工程中に磁石88による第1CNT11(または第2CNT12)の吸引を行っている点のみが異なるが、実施例2の正極板は、比較例1の正極板に比べて、厚み方向の電気抵抗率が大きく低下している。また、実施例5の製造方法は、比較例2の製造方法と比較して、乾燥工程中に磁石88による第1CNT11及び第2CNT12の吸引を行っている点のみが異なるが、実施例5の正極板は、比較例1の正極板に比べて、厚み方向の電気抵抗率が大きく低下している。これらの結果から、乾燥工程の直前または乾燥工程中において、正極ペースト層に含まれるCNTを磁石88によって集電部材10側に吸引することで、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができるといえる。
【0064】
また、実施例1,2と実施例5の結果を比較すると、実施例1,2は、実施例5に比べて、正極板の厚み方向の電気抵抗率が小さくなった。その理由は、実施例1,2では、実施例5とは異なり、塗工工程を第1塗工工程と第2塗工工程の2つに分け、先の第1塗工工程において、CNTとして第2CNT12に比べて平均長さの長い第1CNT11のみを含む第1正極ペースト41を、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに塗工しているからである。これより、第1正極ペースト41からなる第1正極ペースト層51,151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51,151内において集電部材10側に配置されている第1CNT11が、溶媒17と共に表面51b,151b側へ移動し難くなり、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第1CNT11が減少し難くなるからである。
【0065】
より具体的には、第1正極ペースト層51,151を乾燥させたとき、第1正極ペースト層51,151内の第1CNT11は、蒸発しようとする溶媒17と共に表面51b,151b側へ移動しようとするが、第1CNT11の長さが長いことで、正極活物質粒子15に引っかかり易くなり、正極活物質粒子15に引っかかることで表面51b,151b側へ移動し難くなるからである。これにより、集電部材10側のCNTが少なくなることを抑制できたと考えられる。このため、正極合材層20内において集電部材10側の導電パスが良好に形成され、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができたと考えられる。
【0066】
一方、実施例5では、第1CNT11のみならず平均長さの短い第2CNT12も含む第3正極ペーストを、集電部材10の第1表面10b及び第2表面10cに塗工している。このため、第3正極ペーストからなる第3正極ペースト層を乾燥させたとき、第3正極ペースト層内において集電部材10側に配置されている第2CNT12が、溶媒17と共に表面側へ移動し易くなり、集電部材10側に位置する(特に、集電部材10に接触している)第2CNT12が減少し易かったと考えられる。このため、実施例1,2に比べて、正極合材層内における集電部材10側の導電パスが少なくなり、正極板の厚み方向の電気抵抗率が大きくなったと考えられる。
【0067】
以上説明したように、実施例5の製造方法よりも実施例1,2の製造方法のほうが、より一層、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができるといえる。従って、「塗工工程を第1塗工工程と第2塗工工程の2つに分け、第1塗工工程において、CNTとして第2CNTに比べて平均長さの長い第1CNTのみを含む第1正極ペーストを、集電部材の表面上に塗工して、集電部材の表面上に第1正極ペースト層を形成し、第2塗工工程において、第1正極ペースト層の表面上に、または、第1正極ペースト層を乾燥させた第1正極合材層の表面上に、第2正極ペーストを塗工して、第2正極ペースト層を形成する」正極板の製造方法が、より好ましいといえる。
【0068】
さらに、実施例1と実施例2の結果を比較すると、実施例2よりも実施例1のほうが、厚み方向DTの電気抵抗率が小さくなった(
図13参照)。その理由は、以下のように考えられる。実施例1では、第2塗工工程(ステップS4)において、乾燥前の第1正極ペースト層51の表面51b上に第2正極ペースト42を塗工し、その後、乾燥工程(ステップS5)において、第1正極ペースト層51と共に第2正極ペースト層52を乾燥させている。一方、実施例2では、第2正極ペースト42を塗工する前に第1正極ペースト層151を乾燥させて第1正極合材層121を形成し、その後、第1正極合材層121の表面121b上に塗工した第2正極ペースト層152を乾燥させているからである。
【0069】
具体的に説明すると、実施例1及び実施例2では、第2正極ペースト層52,152を乾燥させたとき、第2正極ペースト層52,152の集電部材10側に位置する第2カーボンナノチューブ12の一部が、溶媒17と共に表面52b,152b側へ移動して、第2正極ペースト層52,152内において集電部材10側の第2カーボンナノチューブ12が減少する。
【0070】
しかしながら、実施例1では、第1正極ペースト層51と共に第2正極ペースト層52を乾燥させるので、これらを乾燥させているとき、第1正極ペースト層51の表面51b側に位置する第1カーボンナノチューブ11の一部が溶媒17と共に表面52b側へ移動して、第2正極ペースト層52の集電部材10側に配置される。また、第1正極ペースト層51の表面51b側と第2正極ペースト層52の集電部材10側との間を跨ぐように一部の第1カーボンナノチューブ11が配置される。このように、第2正極ペースト層52内の集電部材10側において、第2カーボンナノチューブ12の減少分の少なくとも一部を補うように、第1カーボンナノチューブ11が配置される。これにより、実施例1では、第2正極ペースト層52の集電部材10側においても、適切にカーボンナノチューブが配置され、正極板1の厚み方向DTの電気抵抗率が小さくなる。
【0071】
一方、実施例2では、第2正極ペースト層152を乾燥させるとき、既に、第1正極ペースト層151は乾燥して第1正極合材層121になっているので、第1正極合材層121内の第1カーボンナノチューブ11は第2正極ペースト層152内へ移動しない。このため、第2正極ペースト層152を乾燥させたとき、第2正極ペースト層152の集電部材10側に位置する第2カーボンナノチューブ12が表面152b側へ移動した分だけ、第2正極ペースト層152内の集電部材10側においてカーボンナノチューブが減少する。
【0072】
以上説明したように、実施例2の製造方法よりも実施例1の製造方法のほうが、より一層、正極板の厚み方向の電気抵抗率を小さくすることができるといえる。従って、「第2塗工工程では、第1正極ペースト層の表面上に第2正極ペーストを塗工して第2正極ペースト層を形成し、乾燥工程では、第1正極ペースト層を第2正極ペースト層と共に乾燥させる」正極板の製造方法が、より好ましいといえる。
【0073】
以上において、本発明を実施形態(実施例1~6)に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0074】
1,101 正極板
10 集電部材
11 第1カーボンナノチューブ(第1CNT)
12 第2カーボンナノチューブ(第2CNT)
15 正極活物質粒子
17 溶媒
20,120 正極合材層
21,121 第1正極合材層
22,122 第2正極合材層
41 第1正極ペースト
42 第2正極ペースト
51,151 第1正極ペースト層
52,152 第2正極ペースト層
80 乾燥炉
88 磁石