(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 15/00 20060101AFI20240416BHJP
【FI】
B63B15/00 B
(21)【出願番号】P 2022206308
(22)【出願日】2022-12-23
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000146814
【氏名又は名称】株式会社新来島どっく
(73)【特許権者】
【識別番号】522499416
【氏名又は名称】岩下 英嗣
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】岩下 英嗣
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-58577(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0129896(KR,A)
【文献】特開2010-111209(JP,A)
【文献】特開昭58-164492(JP,A)
【文献】特開2017-24643(JP,A)
【文献】特開2019-18655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船首に船首ウインドスクリーンを備え、甲板上に上部構造物を備えた船舶において、
前記船首ウインドスクリーンと前記上部構造物の間の甲板上に、船首の斜め前方から
船首ウインドスクリーンの側壁を越えて甲板上に入った風を受けて、前記上部構造物の上方に風を誘導する誘導面を有する風誘導体を設けた
ことを特徴とする船舶。
【請求項2】
前記風誘導体は、三角錐に形状された構造物であり、三面のうち一面が前記誘導面として船首方向に対し斜め前方に向けられている
ことを特徴とする請求項1記載の船舶。
【請求項3】
前記風誘導体は、前記船首ウインドスクリーンと前記上部構造物の間において、前記甲板上に左右一対が設置されている
ことを特徴とする請求項2記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関する。さらに詳しくは、風圧低減構造をもつ船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶における空気抵抗は、船体部分に起因する空気抵抗と、船体の上に設けられている上部構造物に起因する空気抵抗とがある。これらの空気抵抗を低減すれば、かなりの燃費を削減できることが知られている。なお、ここでいう上部構造物とは、甲板上の前方部に設けられる居住区とその上に設けられる操舵室等からなる構造物をいう。
【0003】
自動車運搬船等に対する空気抵抗は、正面面積の大きい船体の方が上部構造物に対する空気抵抗より大きいが、自動車積載台数や各種の機器設置スペース確保の観点から船体の形状は変えず、上部構造物への空気抵抗低減を試みる方が船舶設計には合理的である。
そこで、上記構造物に対する空気抵抗を低減するため、特許文献1と特許文献2の従来技術が提案されている。
【0004】
特許文献1の従来技術は、上部構造物の船首側前方において甲板上の空気の流れを制御する抵抗部材を設置したものである。
この従来技術によると、上部構造物の周辺の空気流れの剥離が抑制され、上部構造物に作用する空気抵抗を低減できるとされている。
しかしながら、船体の前方からの風を上部構造物の上方に誘導することはできるものの、斜め前方からの風に対処することはできないので、風圧低減効果は充分ではない。
【0005】
特許文献2の従来技術は、
図5(A)に示すように、船舶1における船首2に船首ウインドスクリーン3を設け、甲板4上に上部構造物100を備える船舶において、上部構造物100を構成する中間層居住区111の前面に中間層ウインドスクリーン121を設けた構成である。なお、上部構造物100は中間層居住区111と最上層居住区112からなる。
この従来技術では、船首ウインドスクリーン3と中間層ウインドスクリーン121の協働により、船首前面からの風wfを最上層居住区112の上方に矢印wfで示すように誘導し、上部構造物100への風圧抵抗を低減するようにしたものである。
【0006】
ところで、本発明者らは上記従来技術では、船首正面からの風wfに対しては抵抗低減効果があるものの、船首の斜め前方から来る風wdに対しては効果が無いことを見出した。その理由を探求するため、本発明者らが数値流体力学に基づき船首まわりの空気の流れを解析したところ、船首ウインドスクリーンの側部を越えて甲板上に入った風wdは、いったん甲板4上に下るが再び上昇し、そのとき居住区100の前面に衝突することが分かった。このように、風が上部構造物100の前面に衝突すると、当然に風圧抵抗となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-328587号公報
【文献】特開2010-111209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、船首の斜め前方からの風に対する抵抗を低減した船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の船舶は、船首に船首ウインドスクリーンを備え、甲板上に上部構造物を備えた船舶において、前記船首ウインドスクリーンと前記上部構造物の間の甲板上に、船首の斜め前方から船首ウインドスクリーンの側壁を越えて甲板上に入った風を受けて、前記上部構造物の上方に風を誘導する誘導面を有する風誘導体を設けたことを特徴とする。
第2発明の船舶は、第1発明において、前記風誘導体は、三角錐に形状された構造物であり、三面のうち一面が前記誘導面として船首方向に対し斜め前方に向けられていることを特徴とする。
第3発明の船舶は、第2発明において、前記風誘導体は、前記船首ウインドスクリーンと前記上部構造物の間において、前記甲板上に左右一対が設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、船首の斜め前方からの風が船首ウインドスクリーンの側壁を越えて甲板上に入ってきたとき、その風は風誘導体の誘導面に案内されて上部構造物の上方に誘導される。このため、斜め前方からの風が上部構造物の前壁に衝突しなくなるので、風圧抵抗が低減する。
第2発明によれば、風誘導体が三角錐であることから、斜め前方からの風であれば、かなり方向が変わっても誘導面で風を案内でき、かつ斜め前方以外の方向からの風には抵抗を与えず逃がすことができる。
第3発明によれば、風誘導体が左右一対存することで、斜め前方からの風が右側からの風にも左側からの風にも風圧低減効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る風誘導体6を設けた船舶の船首部分斜視図である。
【
図3】(A)は風誘導体6の正面図、(B)は同平面図である。
【
図5】特許文献2の説明図であって、(A)は正面からの風に対する風圧低減効果の説明図、(B)は斜め前方からの風に対する問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1~
図3に基づき、本発明の一実施形態に係る船舶1の風圧低減構想を説明する。
図1および
図2において、1は自動車運搬船やRORO船などの船舶であり、同図では船首部分のみ示されている。
船舶1における船首2の上部には、船首ウインドスクリーン3が設けられている。船首ウインドスクリーン3は船首2のデッキ廻りに立設したそらせ板であり、前方からの風を上方へそらせるために設けられている。
【0013】
船舶1の甲板4上には、上部構造物5が設けられている。上部構造物5は、居住区5Aや操舵室5Bを含んでいる。図示の例では上部構造物5は2層構造であるが、これに限られず、3層以上の構造も本発明に含まれる。
上部構造物5は、甲板4上において船首ウインドスクリーン3の直近後方に置かれている。
ここでいう後方とは、船長方向において、船首を前、船尾を後とした前後方向を基準として後ろを指す用語である。
【0014】
船首ウインドスクリーン3と上部構造物5との間には、風誘導体6が設置されている。ここでいう船首ウインドスクリーン3と上部構造物5との間とは、上部構造物5の前方であって、船首ウインドスクリーン3に囲まれた部分と、船首ウインドスクリーン3の末端から後方に外れた部分の両方が含まれる。
【0015】
本発明における風誘導体6は、船首に対し斜め前方からの風を受けて上部構造物5の上方に誘導する誘導面を有する構造物である。誘導面を有していれば、どのような構造物であってもよいが、本発明の一実施形態では三角錐の構造物を採用している。
【0016】
図3の(A)、(B)に示すように、風誘導体6は底板が正三角形であり、3つの側板6a,6b,6cは2等辺三角形であり、これらにより三角錐に構成されている。これら3つの側板のうち一の側面を
図2に示す誘導面61として機能するよう配置すればよい。
【0017】
風誘導体6の甲板4上への取付けは、ボルト締結や溶接付けなど任意の手法を用いることができる。また、甲板4上への取付け方向は固定であってもよく、可変であってもよい。可変にする場合は座板を用い、座板をボルト締結等で甲板4上に固定したうえで、風誘導体6を座板に対し水平面で回転可能、かつ特定の方向に向け固定できるようにすればよい。このような方向転換可能な取付けは、たとえば、複数のボルト孔を設けておいて、任意のボルト孔にボルトを通し締結することで実現できる。
【0018】
風誘導体6の材料には、とくに制限なく、鋼板やアルミニウム板などの金属製、プラスチック製、木製など任意のものを採用できる。
【0019】
図1に示すように、船首の斜め前方からの風wdが船首ウインドスクリーン3の側壁を越えて甲板4上に入ってきたとき、その風wdは風誘導体6の誘導面61に案内されて上昇し、上部構造物5の上方に誘導された風wuとなる。このため、斜め前方からの風wdが上部構造物5の前壁に衝突しなくなるので、風圧抵抗が低減する。
【0020】
風誘導体6は三角錐であることから、斜め前方からの風wdであれば、かなり方向が変わっても誘導面61で風を案内でき、かつ斜め前方以外の方向からの風には抵抗を与えず逃がすことができる。そして、風誘導体6が左右一対存することで、斜め前方からの風wdが右側からの風にも左側からの風にも風圧低減効果を発揮することができる。
【実施例】
【0021】
(実施例)
以下、本発明の実施例を比較例と共に説明する。
実施例1は、
図1~
図3に示す構造をもつ船舶1の模型船であり、船首ウインドスクリーン3と風誘導体6を用いたものである。1/125サイズの模型に対して風誘導体6は高さが24mm(「居住区5Aの高さの100%の高さ」である。)、底辺が34mm(「居住区5Aの高さの140%の長さ」である。)の三角錐である。
比較例1は、風誘導体6を用いないほかは、実施例1と同様とした。比較例2は風誘導体6と船首ウインドスクリーン3を用いないほかは実施例1と同様とした。
【0022】
上記実施例1、比較例1および比較例2につき、模型船を用いた風洞実験により風圧抵抗を計測した。その際、風誘導体6の誘導面61は風に対し-45°から+45°の間で変化させた。その結果を
図4に示す。
この場合の
図4において、横軸は船舶正面を0°として-45°から+45°まで示した角度であり、縦軸は風圧抵抗係数(Cx)を示している。
【0023】
風圧抵抗係数Cxは、以下の式で示される。
Cx=Fx/(1/2ρSV2)
(Fx:計測された風圧抵抗 ρ:空気密度 S:正面投影面積 V:代表風速)
つまり、模型船の正面投影面積と同じ面積の平板が受ける風圧抵抗を1としたときに、模型船がどれくらいの風圧抵抗を受けているかを示している。風圧抵抗が低いほど値は低くなる。
【0024】
図4のグラフから分かるように、比較例2(船首ウインドスクリーンと風誘導体が共になし)が最も抵抗が高く、比較例1(船首ウインドスクリーン有り、風誘導体無し)が次に抵抗が高く、実施例1は最も抵抗が低くなっている。
実施例1ではとくに、斜め前(とくに、20度と30度)からの風による風圧抵抗は低減しており、風圧低減効率は比較例1に対し、斜め風20°で4.7%減、斜め風30°で4.5%減となっている。
上記の結果から、本発明に係る風誘導体6は斜め前方からの風による風圧抵抗の低減に顕著な効果があることが分かる。
【符号の説明】
【0025】
1 船舶
2 船首
3 船首ウインドスクリーン
4 甲板
5 上部構造物
6 風誘導体
【要約】
【課題】船首の斜め前方からの風に対する抵抗を低減した船舶を提供する。
【解決手段】船首2に船首ウインドスクリーン3を備え、甲板4上に上部構造物5を備えた船舶1において、船首ウインドスクリーン3と上部構造物5の間の甲板4上に、船首の前方からの風を受けて、上部構造物5の上方に風を誘導する誘導面を有する風誘導体6を設けている。この風誘導体6は、三角錐に形状された構造物であり、三面のうち一面が前記誘導面6Aとして船首方向に対し斜め前方に向けられ、甲板上に左右一対が設置されている。船首の斜め前方からの風が船首ウインドスクリーン3の側壁を越えて甲板4上に入ってきたとき、その風は風誘導体6の誘導面6Aに案内されて上部構造物5の上方に導かれるので、風圧抵抗が低減する。
【選択図】
図1