(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ゲル電解質前駆体及びその使用
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240416BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20240416BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240416BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240416BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240416BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0565
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/052
H01B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022554393
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 CN2021082181
(87)【国際公開番号】W WO2022041702
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】202010886009.2
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522354388
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】呂 文彬
(72)【発明者】
【氏名】▲デン▼ 素祥
(72)【発明者】
【氏名】楊 紅新
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105098233(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0171466(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102290246(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0565
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 10/052
H01M 4/04
H01M 10/0525
C08F 290/06
C08F 265/06
C08F 218/00
C08F 222/14
C08F 222/20
C08F 228/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤、重合開始剤及びリチウム塩を含み、前記ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、プロペン-1,3-スルトン、メタクリル酸メチル及び無水マレイン酸の中の少なくとも1種を含み、
前記可撓性添加剤は分子量≦5000の
、ポリ(エチレングリコール)メタクリラート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート、メトキシポリ(エチレングリコール)アクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラート及びアクリル酸オキシラニルメチルの中の少なくとも1種であり、
前記架橋剤は、ジアクリル酸1,6-ヘキサンジオール、トリエチレングリコールジアクリラート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラート及びペンタエリトリトールテトラアクリラートの中の少なくとも1種であり、
前記重合開始剤は、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)及び/又は2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)から選ばれ、
前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム及びテトラフルオロホウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1種である、ゲル電解質前駆体。
【請求項2】
前記可撓性添加剤は、トリメチロールEO付加トリアクリレートとトリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラートである、請求項1に記載のゲル電解質前駆体。
【請求項3】
前記ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレンで
ある、請求項1に記載のゲル電解質前駆体。
【請求項4】
前記重合開始剤は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)で
ある、請求項1に記載のゲル電解質前駆体。
【請求項5】
前記リチウム塩はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムである、請求項1に記載のゲル電解質前駆体。
【請求項6】
ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含
む、請求項1に記載のゲル電解質前駆体。
ゲル骨格モノマー 50~99.9%
可撓性添加剤 0.1~50%
架橋剤 0.1~50%
重合開始剤 0.1~10%
【請求項7】
前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は0.1~2mol/Lである、請求項1に記載のゲル電解質前駆体。
【請求項8】
ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む、請求項
6に記載のゲル電解質前駆体。
ゲル骨格モノマー 80~95%
可撓性添加剤 2~10%
架橋剤 2~10%
重合開始剤 0.1~3%
【請求項9】
請求項1に記載のゲル電解質前駆体と電解液とを含み、
ゲル電解質前駆体と電解液の質量比は0.1:9.9~9.9:0.1
である、ゲル電解質を調製するための溶液。
【請求項10】
前記ゲル電解質前駆体を電解液と混合して、ゲル電解質を調製するための溶液を得ることを含む方法により調製される、請求項9に記載のゲル電解質を調製するための溶液。
【請求項11】
請求項
9に記載のゲル電解質を調製するための溶液をインサイチュ重合でゲル化してから、ベークして前記ゲル電解質を得ることを含み、
前記インサイチュ重合でゲル化する温度は70~75℃であり、
前記ベークは真空ベークであり、前記真空ベークの真空度≦0.1kPaであり、前記ベークする温度は80~85℃である、ゲル電解質の調製方法。
【請求項12】
請求項
11に記載の方法で調製して得られたゲル電解質であって、
多孔質形態で
ある、ゲル電解質。
【請求項13】
請求項
9に記載のゲル電解質を調製するための溶液を、極片に塗工し、インサイチュ重合し、乾燥させ、ゲル電解質を含む極片を得ることを
含む、ゲル電解質を含む極片の調製方法。
【請求項14】
前記塗工の方法は浸漬塗布を含み、
前記浸漬塗布の方法は、ゲル電解質を調製するための溶液に前記極片を配置することを含み、
前記極片は、ゲル電解質を調製するための溶液に垂直に配置され、
浸漬塗布を終了した後に、極片の表面を拭き取ることをさらに含み、前記拭き取りは
、無塵紙を用いて拭き取る、請求項1
3に記載のゲル電解質を含む極片の調製方法。
【請求項15】
前記インサイチュ重合の温度は70~75℃であり、
前記インサイチュ重合の時間は16~32hであり、
前記インサイチュ重合した後に、極片のタブを拭き取ることをさらに含み、極片のタブの拭き取りに使用される溶媒はジメチルスルホキシドであり、
前記乾燥は真空乾燥であり、前記乾燥の温度は80~85℃である、請求項1
3に記載のゲル電解質を含む極片の調製方法。
【請求項16】
ゲル電解質を調製するための溶液が封止されたアルミニウムプラスチックフィルムに、極片を20~30時間垂直に配置してから、極片を取り出し、無塵紙を用いて極片の表面を拭き取り、極片の浸漬塗布を完了するステップ(1)と、
ステップ(1)で浸漬塗布された極片をアルミニウムプラスチックフィルムに配置し、それを70~75℃で配置して24時間インサイチュ重合してから、極片を取り出し、ジメチルスルホキシドでタブを拭き取るステップ(2)と、
ステップ(2)でインサイチュ重合された極片を無塵紙で包み、オーブンに入れ、80~85℃で真空乾燥させ、ゲル電解質を含む極片を得るステップ(3)と、を含む、請求項1
3に記載のゲル電解質を含む極片の調製方法。
【請求項17】
請求項1
3に記載の方法で調製して得られた、ゲル電解質を含む極片であって、
前記ゲル電解質を含む極片におけるゲル電解質は多孔質形態で
ある、ゲル電解質を含む極片。
【請求項18】
正極極片又は負極極片の少なくとも一方は、請求項1
7に記載のゲル電解質を含む極片が使用され、
パウチ型電池、円筒型電池及び角型アルミケース型電池の少なくとも1種を含
む、半固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電池材料の分野に属し、ゲル電解質前駆体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
社会の急速な発展と進歩に伴い、エネルギー不足及び環境汚染の問題はますます深刻になり、クリーンエネルギーに対する需要がますます重要視されるようになった。同時に、新エネルギー自動車がますます普及し、エネルギー動力の発展がますます拡大することにより、より高いエネルギー密度のリチウムイオン電池の開発が促進されている。現在、市販のリチウム電池では、エネルギー密度に関するボトルネックがすでに現れており、高エネルギー密度の面では改善することは困難であり、次世代電池として、固体電池が最前線位置に挙げられているが、固体電池の研究開発は、難易度が高く、プロセス要求が高く、現在、大量生産をすぐに実現できないため、半固体電池は過渡製品として登場した。
【0003】
新エネルギー自動車の自然発火が次々と発生し、人々は、より安全で信頼性の高い新型電池の開発に取り組んでおり、全固体電池は、電解液成分を含まないため、電池セルの内部でより安定して存在可能であり、人々の注目を集めてきた。現在の全固体電池の技術はまだ未成熟であり、工業化までにまだ長い道のりがある。半固体電池は液体電池と全固体電池の中間製品として、電池セルの内部の電解液の用量を減らし、電池セルの安全性能をある程度改善することができ、現在、大量生産に最も近く、最も容易に実現する過渡製品である。
【0004】
固体電池は製造方法によって、主に(1)半固体電池と(2)全固体電池に分けられ、そのうち、全固体電池の正極と負極とセパレータとの間は固固接触し、Li+伝導抵抗が大きく、現在、全固体電池の性能は従来の液体電池のレベルに達することは困難である。半固体電池は、従来の液体電池と全固体電池の間の過渡状態として、製造の操作可能性、電池のレート性能及びサイクル性能のいずれも全固体電池より優れている。
【0005】
従来の液体電池から全固体電池への過渡製品として、半固体電池は、従来の液体電池の優れたレートとサイクル性能を兼ね、同時に全固体電池の安全性能を備える必要があり、電池の安全性能を向上させるために、電解液の用量をできるだけ減らす必要があり、電解液は、電池システムの内部の引火点と沸点が最も低い物質であり、最も燃えやすい物質でもあるため、液体電解液の使用量を減らすことは電池の安全性を向上させる重要な手段であり、安全な電解質としてゲル状態電解質が非常に注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来の液体電池に相当する電気的性能を有し、且つより高い安全性を有する半固体電池に適したゲル電解質前駆体を開発することは、依然として重要な意味を持つ。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示はゲル電解質前駆体及びその使用を提供する。
【0008】
本開示は一実施例においてゲル電解質前駆体を提供し、前記ゲル電解質前駆体は、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤、重合開始剤及びリチウム塩を含み、前記ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン、プロペン-1,3-スルトン、メタクリル酸メチル及び無水マレイン酸の少なくとも1種を含み、前記可撓性添加剤は分子量≦5000の二重結合を含むポリアクリレート系材料から選ばれる。
【0009】
一実施例において、前記可撓性添加剤は、分子量≦5000(例えば、400、500、600、800、1000、1200、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500又は5000など)の、ポリ(エチレングリコール)メタクリラート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリラート、メトキシポリ(エチレングリコール)アクリレート、トリメチロールEO付加トリアクリレート(Ethoxylated trimethylolpropane triacrylate)、トリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラート及びアクリル酸オキシラニルメチルの中の少なくとも1種である。
【0010】
電解液は電池システムの内部の引火点と沸点が最も低い物質であり、その引火点が80℃と低くし、最も燃えやすい物質でもあり、電池の使用過程で、電解液は安全上の問題を引き起こす主な原因となるため、電解液の使用量を減らすことで、ほとんどの安全上の問題を回避することができる。
【0011】
本開示に係る一実施例において、ゲル骨格モノマーをゲル電解質の骨格とし、可撓性添加剤はゲル電解質を柔らかくする役割を果たし、架橋剤は架橋の役割を果たし、続いて電解質と混合してから、インサイチュ重合でゲル化し、ベークした後に弾性多孔質形態のゲル電解質を得る。当該弾性多孔質形態のゲル電解質が電池内部で電解液を吸収することで、電池内の遊離電解液の存在を減らすことができ、電解液の用量を減らすため、電池の安全性能がさらに向上する。さらに、吸収された電解液と弾性多孔質形態のゲル電解質とが形成した新しいゲル電解質は、高い導電率を有し、電池のレート性能を保証するため、得られた電池が高い電気的性能を有する。
【0012】
本開示に係る一実施例において、ゲル電解質前駆体と電解液を混合した後に、正極極片及び/又は負極極片に均一に浸漬塗布することができる。
【0013】
本開示に係る一実施例において、本開示に係るゲル電解質前駆体を使用して得られる半固体電池の初回効率及びレート性能は、基本的に液体電池のものと一致し、電池の電気的性能に影響せず、本開示に係るゲル状態前駆体から得られるゲル状態電解質は、電池内の電解液を固定することにより、電解液が電池内を自由に移動できないようにし、裸の電池セルの外部の遊離電解液を減らすことができ、安全テストにおける安全性問題を低減し、その安全性は液体電池よりも著しく優れている。
【0014】
一実施例において、前記ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレンである。下記の式1)に示すように、ポリマー開始剤の作用下で二重結合が鎖状に開かれ、その後のベークする過程において揮発性成分をベークで除去し、揮発性成分がゲル電解質に細孔を形成し、ポリマー骨格構造が保留され、弾性と細孔を有する骨格構造を形成する。
【化1】
【0015】
一実施例において、前記可撓性添加剤は、トリメチロールEO付加トリアクリレートとトリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラートの組み合わせである。
【0016】
一実施例において、前記可撓性添加剤の分子量は500~5000である。
【0017】
本開示に係る一実施例において、前記可撓性添加剤は、上記の分子量の二重結合を含むポリアクリル酸系材料を使用し、ゲル電解質前駆体のインサイチュ重合でゲル化する過程において、高分子量の可撓性添加剤は骨格構造の一端に接続され、高分子量で骨格構造を柔らかくし、電解質材料を柔らかくする役割を果たすことができ、電解質の可撓性を高めると、電解質のガラス転移温度が下がり、それによって導電率を向上させる役割を果たす。可撓性添加剤の分子量が>5000のとき、極片を浸漬塗布する過程で、分子量が大きいため、分子体積もそれに応じて大きくなり、ゲル前駆体の粘度に深刻な影響を及ぼし、極片に浸透する時間が長くなり、且つ極片の内外の分布が非常に不均一になり、極片の全体構造に完全に浸透することが困難である。
【0018】
一実施例において、前記架橋剤は2つ以上、例えば、2つ、3つ又は4つなどの二重結合を含むアクリレート系材料から選ばれる。
【0019】
一実施例において、前記架橋剤は、ジアクリル酸1,6-ヘキサンジオール、トリエチレングリコールジアクリラート、トリメチロールEO付加トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラート及びペンタエリトリトールテトラアクリラートの中の少なくとも1種である。ただし、トリメチロールEO付加トリアクリレートは可撓性添加剤としても架橋剤としても使用できる。
【0020】
本開示に係る一実施例において、架橋剤は2つ以上の二重結合を含むアクリレート系材料を使用し、2つの二重結合を含むポリアクリレート系材料を例とし、その2つの二重結合は、異なる骨格鎖を接続することができることで、異なる骨格を接続する架橋効果を果たし、ネットワークのような構造を形成することができ、低沸点溶媒の揮発過程で、より多くの細孔を形成し、材料の弾性及び細孔を向上させることができる。
【0021】
一実施例において、前記重合開始剤は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)及び/又は2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V65)から選ばれる。
【0022】
一実施例において、前記重合開始剤は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)である。
【0023】
一実施例において、前記リチウム塩は、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)及びテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)から選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
一実施例において、前記リチウム塩はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムである。
【0025】
本開示に係る一実施例において、前記ゲル電解質前駆体は上記リチウム塩を含み、ゲル電解質前駆体内に溶解してリチウムイオンを解離することができ、且つ安定したゲル電解質を形成するのに便利な高い熱安定性を有し、且つ高い導電率を有することにより、リチウムイオン電池は高いレート性能を有する。
【0026】
リチウムイオン電池における電解質の導電は、自由に移動可能なリチウムイオンが必要であり、本開示に係るリチウム塩の役割は、可動性のリチウムイオンを提供することで、現在、リチウム塩を用いてリチウムイオン源を提供するのが一般的な方法である。リチウムイオン源の共通点は、当然リチウムイオンを含み、ゲル電解質前駆体に溶解してリチウムイオンを解離することができることであり、その中で、異なるリチウム塩はその陰イオンのサイズによって選別可能であり、解離度と導電性の両方に違いがあり、且つ本開示におけるリチウム塩は高温安定性を必要とし、上記のリチウム塩はいずれも高温で安定するが、ヘキサフルオロリン酸リチウムは高温で不安定で分解の問題が発生しやすいため、使用を勧めない。
【0027】
一実施例において、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む。
ゲル骨格モノマー 50~99.9%
可撓性添加剤 0.1~50%
架橋剤 0.1~50%
重合開始剤 0.1~10%
【0028】
本開示に係る一実施例において、前記ゲル前駆体において、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、ゲル電解質前駆体において、ゲル骨格モノマーのモル含有量の百分率は50~99.9%、例えば、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%又は95%などであり、可撓性添加剤のモル含有量の百分率は0.1~50%であり、例えば、0.5%、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%又は45%などであり、架橋剤のモル含有量の百分率は0.1~50%であり、例えば、0.5%、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%又は45%などであり、重合開始剤のモル含有量の百分率は0.1~10%、例えば、0.5%、1%、3%、5%、7%又は9%などである。
【0029】
一実施例において、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む。
ゲル骨格モノマー 80~95%
可撓性添加剤 2~10%
架橋剤 2~10%
重合開始剤 0.1~3%
【0030】
本開示に係る一実施例において、前記ゲル前駆体において、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、ゲル電解質前駆体において、ゲル骨格モノマーのモル含有量の百分率は80~95%、例えば、85%又は90%などであり、可撓性添加剤のモル含有量の百分率は2~10%、例えば、3%、4%、5%、6%、7%、8%又は9%などであり、架橋剤のモル含有量の百分率は2~10%であり、例えば、3%、4%、5%、6%、7%、8%又は9%などであり、重合開始剤のモル含有量の百分率は0.1~3%、例えば、0.5%、1%又は2%などである。
【0031】
一実施例において、前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は0.1~2mol/L、例えば、0.3mol/L、0.5mol/L、0.8mol/L、1mol/L、1.2mol/L、1.5mol/L又は1.8mol/Lなどである。
【0032】
一実施例において、前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は0.5~1.5mol/Lである。
【0033】
本開示に係る一実施例において、前記ゲル電解質前駆体の各成分は上記の組成を満たすことで、続いてインサイチュ重合でゲル化し、ベークして弾性多孔質形態を形成することに寄与し、さらに、ゲル電解質前駆体が電池内で電解液を吸収し、新しいゲル電解質を形成し、高い導電率を保証し、電池のレート性能を保証することに寄与し、また、電解液の用量を低減し、裸の電池セルの外部の遊離電解液を低減し、電池の安全性能が向上する。
【0034】
本開示は一実施例においてゲル電解質を調製するための溶液を提供し、前記溶液に一実施例に係るゲル電解質前駆体と電解液とを含む。
【0035】
本開示に係る一実施例において、ゲル電解質前駆体を電解液と混合し、ゲル化処理してゲル電解質を得る。ここで電解液の配合比には限定されず、例えば、電解液の溶媒はエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)の混合液(例えば、EC:DMC:EMC=2:4:4)を使用可能であり、ここで、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の含有量は1.15mol/Lであり、7wt%フルオロエチレンカーボネート(FEC)をさらに含む。
【0036】
一実施例において、前記ゲル電解質を調製するための溶液において、ゲル電解質前駆体と電解液の質量比は0.1:9.9~9.9:0.1、例えば、1:9、2:8、3:7、5:5、6:4、7:3、8:2又は9:1などである。
【0037】
一実施例において、前記ゲル電解質を調製するための溶液において、ゲル電解質前駆体と電解液の質量比は4:6~6:4である。
【0038】
一実施例において、前記ゲル電解質を調製するための溶液は次の方法により調製され、前記方法は前記ゲル電解質前駆体を電解液と混合して、前記ゲル電解質を調製するための溶液を得ることを含む。
【0039】
本開示は一実施例においてゲル電解質の調製方法を提供し、前記方法は一実施例に係るゲル電解質を調製するための溶液をインサイチュ重合でゲル化してから、ベークして前記ゲル電解質を得ることを含む。
【0040】
本開示に係る一実施例において、前記ゲル電解質前駆体を電解液と混合してから、インサイチュ重合でゲル化し、ベークした後に弾性多孔質形態のゲル電解質を得ることができ、当該弾性多孔質形態のゲル電解質が電池の内部で電解液を吸収可能であり、これにより電池内の遊離電解液の存在を減らし、電池の安全性を向上させる。
【0041】
一実施例において、前記インサイチュ重合でゲル化する温度は70~75℃、例えば、71℃、72℃、73℃又は74℃などである。
【0042】
一実施例において、前記ベークは真空ベークである。
【0043】
一実施例において、前記真空ベークの真空度≦0.1kPa、例えば、0.01kPa、0.03kPa、0.05kPa又は0.08kPaなどである。
【0044】
一実施例において、前記ベークする温度は80~85℃、例えば、81℃、82℃、83℃又は84℃などである。
【0045】
本開示に係る一実施例において、上記ゲル電解質前駆体を用いて電解液と混合してインサイチュ重合でゲル化してから、ベークして電解液における一部の溶媒を揮発除去し、弾性多孔質形態のゲル電解質を形成し、それにより半固体電池を組み立て、少量の電解液を加えればよい。
【0046】
本開示は一実施例において一実施例に係る方法で調製して得られたゲル電解質を提供し、前記ゲル電解質は多孔質形態である。
【0047】
一実施例において、前記ゲル電解質は弾性多孔質形態である。弾性多孔質状態のゲル電解質は電池内で電解液を吸収可能であり、吸収された電解液は弾性多孔質形態のゲル電解質と新しいゲル電解質を形成し、高い導電率を有し、電池のレート性能を保証する。
【0048】
上記弾性多孔質形態のゲル電解質は電解液を吸収可能であるため、電池内の遊離電解液の存在を減らすとともに、吸収された電解液は弾性多孔質形態のゲル電解質と新しいゲル電解質を形成し、高電解質の導電率を保証し、電池の電気的性能を保証し、且つ電解液の用量を減らし、電池の安全性を向上させる目的を達成する。
【0049】
本開示に係るゲル電解質は電池の正極及び/又は負極に適用可能であり、例えば、正極及び負極はいずれも本開示に係るゲル電解質を使用するか、正極又は負極のいずれか一方は本開示に係るゲル電解質を使用し、他方の極片は他の電解質を使用し、例えば、他方の極片は他のゲル電解質を使用するか、ゲル電解質を加えないか、或いは他のタイプの電解質を使用するなどである。
【0050】
本開示は一実施例において、一実施例に係るゲル電解質を含む極片の調製方法を提供し、前記調製方法は一実施例に係るゲル電解質を調製するための溶液を極片に塗工し、インサイチュ重合し、乾燥させ、ゲル電解質を含む極片を得ることを含む。
【0051】
一実施例において、前記極片は正極極片及び/又は負極極片を含む。
【0052】
ここで、極片は製造された正極極片及び/又は負極極片である。
【0053】
本開示に係る一実施例において、ゲル電解質前駆体はいずれのリチウムイオン電池の正負極材料にも適用可能であり、例えば、正極活性材料はコバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム(LNO)、マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケルコバルトマンガン(NCM)又は高ニッケルシステムであってもよく、負極活性材料は人工黒鉛、天然黒鉛、ケイ素酸素、ケイ素炭素又はリチウム金属などのシステムであってもよい。
【0054】
一実施例において、前記塗工の方法は浸漬塗布を含む。
【0055】
一実施例において、前記浸漬塗布の方法は、ゲル電解質を調製するための溶液に前記極片を配置することを含む。
【0056】
本開示に係る一実施例において、前記極片の浸漬塗布の過程で、ゲル電解質を調製するための溶液が封止されたアルミニウムプラスチックフィルムに極片を浸漬塗布し、この過程で、極片は毛細管効果によってゲル電解質前駆体と電解液の混合溶液を完全に吸収し、十分な時間配置をした後、アルミニウムプラスチックフィルムから極片を取り出し、極片の表面を拭き取った後に極片の浸漬塗布を完了する。正極極片と負極極片の浸漬塗布方法は同じである。
【0057】
一実施例において、前記極片は、ゲル電解質を調製するための溶液に垂直に配置される。
【0058】
一実施例において、浸漬塗布を終了した後に、極片の表面を拭き取ることをさらに含む。
【0059】
一実施例において、前記拭き取りは、無塵紙を用いて拭き取る。
【0060】
一実施例において、前記インサイチュ重合の温度は70~75℃、例えば、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃又は75℃などである。
【0061】
本開示に係る一実施例において、前記インサイチュ重合温度を上記範囲内に制御することは、急速なゲル化に寄与し、重合温度が低すぎると、ゲル化過程が長く、扱う時間と扱う能力に影響を及ぼし、重合温度が高すぎると、重合反応が激しすぎ、重合を完全に完了できず、ゲルを形成しない可能性があり、優れたゲルシステムを形成できず、電池の安全性に不利である。
【0062】
ここで正極極片のゲル電解質のインサイチュ重合条件は異なってもよく、例えば、負極極片のインサイチュ重合条件は75℃で24時間インサイチュ重合することであり、正極極片のインサイチュ重合条件は60℃で17時間インサイチュ重合することである。
【0063】
一実施例において、前記インサイチュ重合を開始する前に浸漬塗布された極片をアルミニウムプラスチックフィルムに配置し、ここでのアルミニウムプラスチックフィルムは清潔なアルミニウムプラスチックフィルムである。
【0064】
一実施例において、前記インサイチュ重合の時間は16~32h、例えば、17h、19h、21h、24h、28h又は30hなどである。
【0065】
一実施例において、前記インサイチュ重合した後に、極片のタブを拭き取ることをさらに含む。
【0066】
一実施例において、極片のタブの拭き取りに使用される溶媒はジメチルスルホキシドである。
【0067】
浸漬塗布過程では、前駆体がタブに付着し、その後の半田付け性能に影響を与える可能性があり、ここでインサイチュ重合した後に、上記の溶媒を用いてタブを拭き取り、その後の半田付け品質を保証するのに役立つ。タブに付着しない方法を見つければ、このステップを削除してもよい。
【0068】
一実施例において、前記インサイチュ重合した後に乾燥をさらに含む。
【0069】
一実施例において、前記乾燥の前にインサイチュ重合された極片を無塵紙で包む。
【0070】
正極極片及び負極極片の乾燥過程は、相互汚染を避けるために同一のオーブンで行わず、且つ乾燥完了後に、すぐに使用しなければ、空気中の水分を吸収しないようにアルミニウムプラスチックフィルムを用いて封止する必要がある。
【0071】
一実施例において、前記乾燥は真空乾燥である。
【0072】
一実施例において、前記乾燥の温度は80~85℃、例えば、82℃、84℃又は85℃などである。ここでは、上記の温度下で真空乾燥を行い、電解液における溶媒の一部を除去することにより、弾性多孔質状態のゲル電解質を含む極片を形成し、温度が低すぎると、低沸点成分が完全に揮発せず、多孔質構造をうまく形成できず、その後電解液を加えた後に、電解液を完全に浸透できず、電池システムの導電率が低く、レート性能に影響を及ぼし、温度が高すぎると、電解質内のリチウム塩の構造が破壊され、電解質の弾性が破壊され、電解質がもろくなり、導電率が低下する。
【0073】
一実施例において、前記方法は、
ゲル電解質を調製するための溶液が封止されたアルミニウムプラスチックフィルムに、極片を20~30時間垂直に配置してから、極片を取り出し、無塵紙を用いて極片の表面を拭き取り、極片の浸漬塗布を完了するステップ(1)と、
ステップ(1)で浸漬塗布された極片をアルミニウムプラスチックフィルムに配置し、それを70~75℃で配置して24時間インサイチュ重合してから、極片を取り出し、ジメチルスルホキシドでタブを拭き取るステップ(2)と、
ステップ(2)でインサイチュ重合された極片を無塵紙で包み、オーブンに入れ、80~85℃で真空乾燥させ、ゲル電解質を含む極片を得るステップ(3)と、を含む。
【0074】
本開示は一実施例において一実施例に係る方法で調製して得られたゲル電解質を含む極片を提供する。
【0075】
本開示は一実施例において半固体電池を提供し、前記半固体電池の正極極片又は負極極片の少なくとも一方は一実施例に係るゲル電解質を含む極片が使用される。
【0076】
一実施例において、前記半固体電池はパウチ型電池、円筒型電池及び角型アルミケース型電池の少なくとも1種を含む。
【0077】
一実施例において、前記半固体電池はパウチ型電池である。
【0078】
一実施例において、前記半固体電池の組み立て方法は積層型及び/又は巻取式を含む。
【0079】
一実施例において、前記半固体電池の製造方法は正極極片、負極極片を巻き取り又は積層の方法で組み立てた後に、液体を注入し、40~50℃静置してから化成し、前記半固体電池を得ることを含み、ここでは液体の注入と化成のフローについては限定しない。
【0080】
図面は、本開示の技術案のさらなる理解を提供するために使用され、且つ明細書の一部を構成し、本願の実施例とともに、本開示の技術案を説明するために使用され、本開示の技術案に対する制限を構成するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】
図1は本開示の一実施例におけるゲル電解質を含む負極極片の調製フローチャートである。
【
図2】
図2は本開示の一実施例における負極極片表面のSEM+EDX写真である。
【
図3】
図3は本開示の一実施例における負極極片表面のSEM写真であり、ただし、ボックス領域は領域Aと記し、即ち、下部領域である。
【
図4】
図4は本開示の一実施例における負極極片表面のSEM写真であり、ただし、ボックス領域は領域Bと記し、即ち、上部領域である。
【
図5】
図5は本開示の一実施例における半固体電池(PVCAゲル状態NCM-Gr電池)と比較例1における液体NCM-Cr電池のレート性能の比較図である。
【
図6】
図6は本開示の一実施例における半固体電池(PVCAゲル状態NCM-Gr電池)のニードリング安全性テストの光学写真である。
【
図7】
図7は本開示の比較例1における液体NCM-Cr電池のニードリング安全性テストの光学写真である。
【
図8】
図8は本開示の一実施例における半固体電池(PVCAゲル状態NCM-Gr電池)と比較例1における液体NCM-Cr電池のサイクル性能の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下、図面を参照しながら、具体的な実施形態によって本開示の技術案をさらに説明する。当業者は、下記実施例は本開示の理解を助けるためのものにすぎず、本開示に対する具体的な制限と見なされるべきではないこと理解すべきである。
【0083】
本開示は一実施例においてゲル電解質を含む極片の調製方法を提供し、該方法の調製フロー模式図は
図1に示すように、次のステップを含む。
(a)ゲル電解質前駆体と電解液を調製し、
(b)ゲル電解質前駆体と電解液を混合して混合液を得て、混合液をアルミニウムプラスチックフィルムに配置し、
(c)極片をステップ(b)でのアルミニウムプラスチックフィルムに垂直に配置して極片の浸漬塗布を行い、
(d)浸漬塗布された極片を表面処理し、即ち、無塵紙を用いて極片の表面を拭き取り、
(e)ステップ(d)の極片を新しいアルミニウムプラスチックフィルムに再配置し、インサイチュ重合を行い、
(f)インサイチュ重合された極片のタブを拭き取り、
(g)ステップ(f)での極片を真空乾燥させ、ゲル電解質を含む極片を得て、前記ゲル電解質は弾性多孔質状態である。
【実施例】
【0084】
以下は、本開示の典型的であるが非限定的な実施例である。
【0085】
実施例1
本実施例に係るゲル電解質前駆体は、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤、重合開始剤及びリチウム塩を含む。
ただし、ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレンである。
可撓性添加剤は分子量が3500のポリ(エチレングリコール)メタクリラートである。
架橋剤はジアクリル酸1,6-ヘキサンジオールである。
重合開始剤は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)である。
リチウム塩はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムである。
【0086】
ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む。
ゲル骨格モノマー 85%
可撓性添加剤 7%
架橋剤 7%
重合開始剤 1%
前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は0.5mol/Lである。
電解液の組成:溶媒は体積比EC:DMC:EMC=2:4:4であり、LiPF6含有量は1.15mol/Lであり、7%のFECをさらに含む。
ゲル電解質前駆体と電解液の混合の質量比は1:1である。
正極極片:集電体は12μmのアルミニウム箔であり、正極活性材料はNCM622を使用し、粘着剤はPVDF 5130であり、導電剤はSPである。
負極極片:集電体は8μmの銅箔であり、負極活性材料は人工黒鉛及び天然黒鉛の混合物を使用し、導電剤はSPであり、粘着剤はCMC&SBRである。
【0087】
ゲル電解質を含む負極極片の調製方法は次のとおりである。
(1)ゲル電解質を調製するための溶液が封止されたアルミニウムプラスチックフィルムに、調製された負極極片を24時間垂直に配置してから、極片を取り出し、無塵紙を用いて極片の表面を拭き取り、負極極片の浸漬塗布を完了し、
(2)ステップ(1)で浸漬塗布された負極極片を新しいアルミニウムプラスチックフィルムに配置し、75℃で配置して24時間インサイチュ重合してから、極片を取り出し、ジメチルスルホキシドでタブを拭き取り、
(3)ステップ(2)でインサイチュ重合された極片を無塵紙で包み、オーブンに入れ、85℃で24時間真空乾燥させ、ゲル電解質を含む極片を得た。
【0088】
ゲル電解質を含む正極極片の調製方法と負極極片の調製方法の区別は、インサイチュ重合条件を75℃で17時間インサイチュ重合することに変更し、且つ相互汚染を避けるために異なるオーブンを使用することのみにあり、他の条件はすべて同じである。
【0089】
半固体電池の組み立てについて
本実施例では積層の方法で半固体電池を製造し、積層した後に液体を注入し(1.5g/Ah)、45℃で静置して化成し、半固体電池を得て、ポリビニルカーボネート(polymer Vinylene Carbonate,PVCA)ゲル状態NCM-Gr電池と記した。
【0090】
実施例1で得られたゲル電解質を含む負極極片について、ゲル形成の均一性をテストし、テスト方法はSEM+EDXを使用し、LiTFSIにおけるS元素を用いて標定し、その電子顕微鏡写真は
図2に示すように、SEM+EDX写真から、S元素が均一に分布し、極片におけるゲルが上から下へ均一に分布するように形成することが分かる。元素の百分率を用いて標定し、
図3(下部領域)及び
図4(上部領域)に示すように、同一の極片で上下部位置のS元素の含有量はそれぞれ上部:2.15%、下部:1.98%であり、2±0.2%の範囲内にあり、ゲルの形成は非常に均一である。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
実施例2
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む。
ゲル骨格モノマー 50%
可撓性添加剤 20%
架橋剤 20%
重合開始剤 10%
前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は2mol/Lであり、
他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0096】
実施例3
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む。
ゲル骨格モノマー 99.7%
可撓性添加剤 0.1%
架橋剤 0.1%
重合開始剤 0.1%
前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は0.1mol/Lであり、
他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0097】
実施例4
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含む。
ゲル骨格モノマー 65%
可撓性添加剤 15%
架橋剤 15%
重合開始剤 5%
前記リチウム塩のモル量と前記ゲル骨格モノマーの体積比は1.5mol/Lであり、
他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0098】
実施例5
本実施例と実施例1の区別は、ゲル電解質前駆体と電解液の質量比を1:1から9:1に変更することにあり、他のパラメータと条件は実施例1と比べて完全に同じである。
【0099】
実施例6
本実施例と実施例1の区別は、ゲル電解質前駆体と電解液の質量比を1:1から1:9に変更することにあり、他のパラメータと条件は実施例1と比べて完全に同じである。
【0100】
実施例7
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマーを等モル量の無水マレイン酸に変更することにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0101】
実施例8
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマーを等モル量のメタクリル酸メチルに変更することにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0102】
実施例9
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマーはプロペン-1,3-スルトンであり、可撓性添加剤は分子量が3000のメトキシポリ(エチレングリコール)アクリレートであり、架橋剤はトリメチロールEO付加トリアクリレートを使用し、重合開始剤は2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)であり、リチウム塩は過塩素酸リチウムであることにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0103】
実施例10
本実施例と実施例1の区別は、ゲル骨格モノマーは炭酸ビニルエチレンであり、可撓性添加剤は分子量が3000のアクリル酸オキシラニルメチルであり、架橋剤はトリメチロールプロパンプロポキシラートトリアクリラートを使用し、リチウム塩はビス(オキサラト)ホウ酸リチウムであることにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0104】
実施例11
本実施例と実施例1の区別は、可撓性添加剤は分子量が3000のポリ(エチレングリコール)ジアクリラートであり、架橋剤はペンタエリトリトールテトラアクリラートを使用し、リチウム塩はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドであることにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0105】
実施例12
本実施例と実施例1の唯一の区別は、ゲル電解質を含む負極極片と正極極片の調製過程で塗布の方法を使用し、即ち、浸漬塗布を使用せず、ゲル電解質前駆体と電解液の混合溶液を極片の表面に塗工してから、インサイチュ重合してベークし、ゲル電解質を含む負極極片及び正極極片を得ることにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0106】
本実施例では塗布の方法を用いてゲル電解質前駆体を正極極片の表面に塗布し、インサイチュ重合した後にSEM+EDXで元素分析による結果は、極片表面のゲル電解質の含有量が非常に高く、極片の底部(集電体側に近く)の電解質含有量≒0%であり、浸漬塗布された極片の上部と底部の含有量は非常に不均一であり、完全な浸透の目的が達成されないことを示している。
【0107】
比較例1
本比較例と実施例1の区別は、正極極片及び負極極片にゲル電解質を含まず、製造された正極極片及び負極極片を直接積層してから、液体を注入し(2.65g/Ah)、静置して化成し、液体電池を得て、液体NCM-Gr電池と記すことのみにある。
【0108】
実施例1と比較例1における電池レート性能テストの結果の比較図は
図5に示すように、
図5から、本開示のゲル電解質電池を使用すると、レート性能で従来の液体電池との差異が大きくなく、0.33C、0.5C、1Cのレートはほぼ同じであり、2Cのレートは従来の液体電池の約95%であり、その差異が大きくないことが分かった。
【0109】
実施例1及び比較例1の電池の充放電容量及び初回効率のテスト結果を表3に示す。
【表3】
【0110】
表3から、同じシステムでPVCAゲル状態電解質電池を使用すると、充電容量、放電容量、初回効率で従来のNCM-Gr電池と一致し、差異がないことが分かり、これは、本開示のゲル材料は電池に副作用がないことを示している。
【0111】
実施例1及び比較例1の電池ニードリング安全性テストの光学写真はそれぞれ
図6及び
図7に示すように、比較
図6及び
図7から、実施例1の半固体電池はニードリングテストに合格できるが、比較例1にニードリングで発火することが分かり、これにより本開示に係るゲル電解質前駆体を用いて得られた半固体電池はより高い安全性を有することを示している。
【0112】
実施例1及び比較例1の電池サイクル性能テストの曲線は
図8に示すように、
図8から、同じシステムでPVCAゲル状態NCM-Gr電解質電池を使用すると、液体NCM-Gr電池とのサイクル動作の差異が大きくなく、PVCAゲル状態NCM-Gr電解質電池を使用する場合の350cyclesの容量保持率は95%であり、液体NCM-Gr電池を使用する場合の350cyclesの容量保持率は96.5%であることが分かった。
【0113】
比較例2
本比較例と実施例1の区別は、ゲル電解質前駆体に可撓性添加剤を含まないことにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0114】
比較例3
本比較例と実施例1の区別は、ゲル電解質前駆体に架橋剤を含まないことにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0115】
比較例4
本比較例と実施例1の区別は、ゲル電解質前駆体にリチウム塩を含まないことにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0116】
比較例5
本比較例と実施例1の区別は、実施例1のリチウム塩をLiPF6に変更することにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0117】
本比較例はLiPF6を用いてゲル電解質前駆体のリチウム塩とし、75℃でゲル化した後にゲルを完全に形成できず、材料の一部は依然として液体であり、且つ色は暗褐色になった。
【0118】
比較例6
本比較例と実施例1の区別は、可撓性添加剤の分子量を7500に変更することにあり、他のパラメータと条件は実施例1と完全に同じである。
【0119】
性能テストについて
実施例及び比較例で得られた電池に対してレート性能、初回効率、サイクル性能及び安全性(ニードリングテスト)のテストを行い、テスト結果を表3に示した。
ただし、レート性能テストの条件は、
a)定電流・定電圧充電:0.33C CC 4h to 4.25V,CV to 0.05C、
b)5分間静置し、
c)定電流放電:0.33C DC to 2.5V、
d)5分間静置し、
e)定電流・定電圧充電:0.33C CC 4h to 4.25V,CV to 0.05C、
f)5分間静置し、
g)定電流放電:1 C DC to 2.5V。
テストして1C/0.33Cのレート性能を得て、他の条件での0.1C/0.1C、0.33C/0.33C、0.33/0.5C、0.33/2Cのレート性能のテストのパラメータは上記条件を参照した。
【0120】
初回効率テスト条件について
環境温度は25℃であり、
a)定電流・定電圧充電:0.05C CC 22h to 4.25V,CV to 0.01C、
b)10分間静置し、
c)定電流放電:0.05C DC to 2.5V。
【0121】
サイクル性能テスト条件について
テスト温度は25℃であり、
a)定電流・定電圧充電:1C CC to 4.25V,CV to 0.05C、
b)5分間静置し、
c)定電流放電:1C DC to 2.5V、
d)ステップa)~ステップc)を100回サイクルした。
【0122】
安全性(ニードリングテスト)条件について
GBT31485-2015電気自動車用動力蓄電池の安全要件と試験方法を参照し、ステップは次のとおりである。
a)モノマー電池を充電し、
b)φ6.5mmの耐高温鋼針(針先の円錐角度は50°、針の表面は滑らかで、錆、酸化物層及び油汚れがない)を25mm/sの速度で使用し、蓄電池の極板に垂直な方向から貫通し、貫通位置は刺し面の幾何学的中心に近く、鋼針を電池内に留まり、
c)1時間観察した。
【0123】
上記のテスト結果を表4に示す。
【0124】
【0125】
表4から、本開示に係るゲル電解質前駆体と電解液を混合してインサイチュ重合してゲル化して得られたゲル電解質により組み立て得られた電池の安全性は著しく改善し、且つ得られた半固体電池の電気的性能は液体電池に近いものとなり、高い電気的性能を保証するとともに電池の安全性を向上させる効果が得られたことが分かった。
【0126】
実施例1~4を比較すると、本開示に係るゲル電解質前駆体における各成分の含有量は半固体電池の性能に影響し、各成分の含有量は以下の条件を満たすと、得られた半固体電池の電気的性能及び安全性能の改善がより明らかであることが分かった。ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤及び重合開始剤のモル量の合計を100%とし、前記ゲル電解質前駆体は以下の成分を含み、ゲル骨格モノマーのモル含有量の百分率は80~95%、可撓性添加剤のモル含有量の百分率は2~10%、架橋剤のモル含有量の百分率は2~10%、重合開始剤のモル含有量の百分率は0.1~3%である。
【0127】
実施例1、5~6を比較すると、ゲル電解質前駆体と電解液の質量比が0.1:9.9~9.9:1であるとき、いずれも高い電気化学的性能及び安全性を得られ、質量比が4:6~6:4であるとき、改善効果がより優れており、質量比が1:1であると、改善効果が最も優れていることが分かった。
【0128】
実施例1、7~8を比較すると、ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレンを選択するとき、半固体電池の性能は無水マレイン酸又はメタクリル酸メチルを使用するときよりも優れていることが分かった。
【0129】
実施例1、9~11を比較すると、ゲル骨格モノマー、可撓性添加剤、架橋剤、リチウム塩は上記の種類を使用するとき、得られたゲル電解質はいずれも高い電気的性能及び安全性を有し、且つ最も好ましくは、ゲル骨格モノマーは炭酸ビニレン、可撓性添加剤は分子量が5000以下のポリ(エチレングリコール)メタクリラート、架橋剤はジアクリル酸1,6-ヘキサンジオール、重合開始剤は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、リチウム塩はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムであることが分かった。
【0130】
実施例1、12を比較すると、本開示に係る方法は浸漬塗布を使用し、電池の電気化学的性能の向上により寄与することが分かった。
【0131】
実施例1及び比較例1を比較すると、本開示に係るゲル電解質前駆体により得られたゲル電解質で組み立てた電池は液体電池に近い電気的性能を達成でき、且つより高い安全性を有することが分かった。
【0132】
比較例2~4において、比較例2では、可撓性添加剤を含まず、ゲルを形成できず、可撓性添加剤が不足すると、骨格モノマーの重合によって材料結晶化度の増加を引き起こし、材料の粉化と沈殿につながり、比較例3では、架橋剤を含まず、ゲルを形成できず、架橋剤が不足すると、骨格モノマーと可撓性モノマーは重合可能であるが、架橋構造が形成されず、電解液を閉鎖できず、比較例4では、リチウム塩を含まず、ゲルを形成できるが、ゲルシステムの導電率は低下し、性能はリチウム塩を加えたものよりも悪くなった。
【0133】
実施例1及び比較例6を比較すると、可撓性添加剤の分子量が5000を超えると、ゲル電解質の安全性が著しく悪くなることが分かった。