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特許7473713リチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法、リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】リチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法、リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20240416BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20240416BHJP
【FI】
C01G51/00 A
H01M4/525
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023082157
(22)【出願日】2023-05-18
(65)【公開番号】P2023184449
(43)【公開日】2023-12-28
【審査請求日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2022098112
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022189389
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千紘
(72)【発明者】
【氏名】菊池 政博
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-105594(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010448(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/145312(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/145273(WO,A1)
【文献】特開平04-033260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/00
H01M 4/525
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径が0.50μm以下であり、
該リチウムコバルト系複合酸化物の二次粒子の平均粒子径が0.10~2.00μmであり、
850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項2】
BET比表面積が2.0m/g以上であることを特徴とする請求項1記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項3】
X線回折分析において、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相が現れないことを特徴とする請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子。
【請求項4】
少なくともコバルト化合物と、第一のリチウム化合物と、を含有し、且つ、該コバルト化合物の二次粒子の平均粒子径が0.10~0.50μmである原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
該原料混合物を、500~850℃で焼成する本焼成工程と、
を有し、
該コバルト化合物が、コバルトの水酸化物、酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物、硝酸塩、硫酸塩及び有機酸塩から選ばれる少なくとも1種であること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第一のリチウム化合物が、リチウムの炭酸塩、水酸化物、酢酸塩及び硝酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記原料混合物調製工程と前記本焼成工程の間に、前記原料混合物を200℃以上500℃未満で仮焼する仮焼成工程を行うことを特徴とする請求項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記仮焼成工程後、仮焼成物を冷却した後、前記本焼成工程を行うことを特徴とする請求項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記仮焼成工程後、仮焼成物を冷却することなく、前記本焼成工程を行うことを特徴とする請求項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項9】
前記本焼成工程の後に、前記本焼成工程を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を粉砕処理する焼成物粉砕処理工程を行うことを特徴とする請求項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項10】
前記焼成物粉砕処理工程において、気流粉砕により前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粉砕を行うことを特徴とする請求項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を含むことを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物。
【請求項12】
請求項4~10いずれか1項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を混合又は混合粉砕する混合工程を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法。
【請求項13】
前記第二のリチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項12記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法。
【請求項14】
前記第二のリチウム化合物の一次粒子の平均粒子径が、0.10~100.0μmであることを特徴とする請求項12記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法。
【請求項15】
前記第二のリチウム化合物が、一次粒子の平均粒子径が0.10~10.0μmである炭酸リチウムであることを特徴とする請求項12記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法。
【請求項16】
前記混合工程において、前記第二のリチウム化合物と、前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子とを、前記第二のリチウム化合物のリチウム原子換算の含有量が、前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対して、0.01~10.0質量%となるように混合することを特徴とする請求項12記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法。
【請求項17】
前記混合工程において、乾式又は湿式で混合処理又は混合粉砕処理を行うことを特徴とする請求項12記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系リチウム二次電池、全固体電池等の正極材として有用なリチウムコバルト系複合酸化物粒子、リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、ノート型パソコン、電気自動車、及び産業用ロボットなどの電源として非水系リチウム二次電池が利用されている。また、近年では、可燃性の有機溶媒を含む電解質を使用する非水系リチウム二次電池に代えて、安全性の高い固体電解質を使用した全固体電池の開発が盛んに進められている。
【0003】
最近では、これら非水系リチウム二次電池も全固体電池も、用途により更なる軽量化、薄型化が求められている。電池の軽量化、薄型化には、電池を構成する部材を小型化する必要があり、例えば、正極材を小型化することができれば、電池の軽量化、薄型化に繋がる一つの要因となる。
【0004】
正極材の小型化について、例えば、特許文献1では、体積基準による累積粒度分布における10%粒径(D10)が0.01μm~0.5μm、50%粒径(D50)が0.01μm~1.0μmであり、粒径が0.12μm以下の粒子の含有率が0.5体積%以上の酸化物系正極活物質からなる微粒子で形成された薄膜状の正極活物質層を備える電極部材が開示されている。特許文献1には、具体的にどのような製法で前記正極活物質を得たかの記載がないものの、ナノレベルの正極活物質を使用することで電極部材の薄膜化が可能であることが分かる。
【0005】
正極活物質としてのリチウム系複合酸化物のナノ材料化としては、特許文献2において、溶融塩を反応物および反応媒体として、乾燥工程を伴うことによりナノレベルのリチウム系複合酸化物を合成したことが記載されている。これにより、従来のより大きな材料に比較して、機能を高めたり、新しい機能を発現したりできると同時に、電子装置の小型化を目指すことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-220468号公報
【文献】特開2008-105912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献2の方法は、溶融塩中で原料の金属イオンが完全に解離した状態で存在することにより、イオンレベルで混合されて存在するため、比較的低温の熱処理であっても化学熱力学的に平衡となり安定な物質が形成し易くなることを利用したものである。
【0008】
しかしながら、通常、リチウムコバルト系複合酸化物は、固相法といわれる複数の原料粉を混合して焼成することにより得られるが、原料粉を十分に反応させるためには焼成温度を高くする必要がある。これにより結晶化が進むものの同時に粒成長が起こるため、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子径が大きくなってしまい、その結果、正極材を軽量化、薄型化することは困難であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子であって、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、コバルト源をナノレベルの微粒子とした原料を使用することにより、リチウム源との反応が容易に進むため、低温で焼成しても結晶化が良好に進むことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径が0.50μm以下であり、
該リチウムコバルト系複合酸化物の二次粒子の平均粒子径が0.10~2.00μmであり、
850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、BET比表面積が2.0m/g以上であることを特徴とする(1)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0014】
また、本発明()は、X線回折分析において、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相が現れないことを特徴とする(1)又は(2)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を提供するものである。
【0016】
また、本発明()は、少なくともコバルト化合物と、第一のリチウム化合物と、を含有し、且つ、該コバルト化合物の二次粒子の平均粒子径が0.10~0.50μmである原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
該原料混合物を、500~850℃で焼成する本焼成工程と、
を有し、
該コバルト化合物が、コバルトの水酸化物、酸化物、炭酸塩、オキシ水酸化物、硝酸塩、硫酸塩及び有機酸塩から選ばれる少なくとも1種であること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明()は、前記第一のリチウム化合物が、リチウムの炭酸塩、水酸化物、酢酸塩及び硝酸塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする()のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明()は、前記原料混合物調製工程と前記本焼成工程の間に、前記原料混合物を200℃以上500℃未満で仮焼する仮焼成工程を行うことを特徴とする(4)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明()は、前記仮焼成工程後、仮焼成物を冷却した後、前記本焼成工程を行うことを特徴とする()記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明()は、前記仮焼成工程後、仮焼成物を冷却することなく、前記本焼成工程を行うことを特徴とする()のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0022】
また、本発明()は、前記本焼成工程の後に、前記本焼成工程を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を粉砕処理する焼成物粉砕処理工程を行うことを特徴とする(4)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0023】
また、本発明(10)は、前記焼成物粉砕処理工程において、気流粉砕により前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粉砕を行うことを特徴とする()のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【0024】
また、本発明(11)は、(1)又は(2)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を含むことを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物を提供するものである。
【0025】
また、本発明(12)は、()~(10)いずれか1項記載のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を混合又は混合粉砕する混合工程を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法を提供するものである。
【0026】
また、本発明(13)は、前記第二のリチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(12)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法を提供するものである。
【0027】
また、本発明(14)は、前記第二のリチウム化合物の一次粒子の平均粒子径が、0.10~100.0μmであることを特徴とする(12)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法を提供するものである。
【0028】
また、本発明(15)は、前記第二のリチウム化合物が、一次粒子の平均粒子径が0.10~10.0μmである炭酸リチウムであることを特徴とする(12)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法を提供するものである。
【0029】
また、本発明(16)は、前記混合工程において、前記第二のリチウム化合物と、前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子とを、前記第二のリチウム化合物のリチウム原子換算の含有量が、前記リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対して、0.01~10.0質量%となるように混合することを特徴とする(12)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法を提供するものである。
【0030】
また、本発明(17)は、前記混合工程において、乾式又は湿式で混合処理又は混合粉砕処理を行うことを特徴とする(12)のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子であって、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能なリチウムコバルト系複合酸化物粒子、リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物及びそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1~6及び比較例1で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
図2】実施例7~10及び比較例2で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
図3】比較例3~8で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
図4】実施例11~13及び比較例9で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
図5】実施例14~17で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径が0.50μm以下であり、
850℃で加熱した際の重量減少率が1.5質量%以下であること、
を特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子である。
【0034】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子からなるか、あるいは、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子からなるか、あるいは、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子及び二次粒子の混合体からなる。また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、固相法により得られたリチウムコバルト系複合酸化物粒子である。
【0035】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子に係るリチウムコバルト系複合酸化物は、少なくとも、リチウムとコバルトを含有する複合酸化物である。
【0036】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子中、Coに対するLiの原子換算のモル比(Li/Co)は、好ましくは0.90~1.20、特に好ましくは0.95~1.15である。リチウムコバルト系複合酸化物粒子中のCoに対するLiの原子換算のモル比(Li/Co)が上記範囲にあることにより、正極活物質のエネルギー密度が高くなる。
【0037】
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、性能又は物性を向上させることを目的として、必要に応じて、M元素を含有することができる。M元素は、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na、K、Ni及びMnから選ばれる1種又は2種以上の金属元素である。
【0038】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子中、Coに対するM元素の原子換算のモル%((M/Co)×100)は、好ましくは0.01~5.00モル%、特に好ましくは0.05~2.00モル%である。リチウムコバルト系複合酸化物粒子がM元素を含有する場合において、リチウムコバルト系複合酸化物粒子中のCoに対するM元素の原子換算のモル%((M/Co)×100)が上記範囲にあることにより、充放電容量を損なうことなく電池特性を向上させることができる。なお、リチウムコバルト系複合酸化物が2種以上のM元素を含有する場合は、上記モル%の算出の基礎となる原子換算のM元素のモル数は、各M元素のモル数の合計を指す。
【0039】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子がM元素を含有する場合、M元素は、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子内部に存在していてもよく、あるいは、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子表面に存在していてもよく、あるいは、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子内部及び表面の両方に存在していてもよい。
【0040】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の粒子表面にM元素が存在する場合、M元素は、酸化物、複合酸化物、硫酸塩、リン酸塩等の形態として存在していてもよい。
【0041】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子において、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径は、0.50μm以下、好ましくは0.10~0.40μmである。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、500~850℃と、従来に比べ低温で焼成して得られたものなので、一次粒子の平均粒子径が小さい。リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、非水系リチウム二次電池や全固体電池の正極活物質として用いたときに、正極材の軽量化、薄型化が可能となる。一方、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径が上記範囲を超えると、粗大化した正極活物質の粒子が多くなり、正極の薄膜化が難しいものとなる。
【0042】
なお、本発明においてリチウムコバルト系複合酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から求められる一次粒子の平均粒子径であり、走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値を一次粒子の平均粒子径として求めた。
【0043】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。リチウムコバルト系複合酸化物粒子を製造するときの焼成温度を低くすることにより、焼成時の粒成長を抑えることができるものの、粒成長を抑えようとし過ぎて、焼成温度を低くし過ぎると、原料の反応が十分でなくなる。そして、そのような原料の反応が十分でないリチウムコバルト系複合酸化物粒子を用いると、未反応原料により正極材作製工程の不具合を生じさせるだけでなく、リチウムコバルト系複合酸化物に期待される充放電容量が減少してしまう。それに対して、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、原料混合物のコバルト源の粒径を小さくすることにより、焼成時の原料の反応性を高めて製造されたものなので、十分に反応が進行しており、重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であるため、正極材作製工程の不具合が生じたり、リチウムコバルト系複合酸化物に期待される充放電容量が減少したりするということは生じない。
【0044】
なお、本発明において、850℃で加熱した際の重量減少率は、以下の式にて算出される値である。
重量減少率(%)=((X-Y)/X)×100
Xは、850℃で加熱する前のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)を指す。
Yは、昇温速度100℃/時で850℃まで昇温し、850℃に到達後、5時間保持し、次いで、室温まで自然降温により冷却したリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)を指す。
【0045】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは2.0m/g以上、特に好ましくは3.0~15.0m/gである。リチウムコバルト系複合酸化物粒子のBET比表面積が、上記範囲にあることにより、正極材を軽量化、薄型化し易くなるため、電池の小型化を図り易くなる。
【0046】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子において、リチウムコバルト系複合酸化物の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.10~2.00μm、特に好ましくは0.20~1.00μmである。リチウムコバルト系複合酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、正極材を軽量化、薄型化し易くなるため、電池の小型化を図り易くなる。一方、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径が、上記範囲未満だと、正極活物質粒子の粉体としての取り扱いが難しくなるだけでなく、正極材作製工程の不具合を生じさせる可能性が高くなり、また、上記範囲を超えると、正極活物質粒子の粗大化により、正極の薄型化が難しくなる。なお、本発明において、リチウムコバルト複合酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により、測定溶媒として水を用いて測定される体積換算50%の粒子径(D50)を指す。
【0047】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、線源としてCuKα線を用いてX線回折分析したときに、リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相が現れないことが好ましい。リチウムコバルト系複合酸化物に由来する六方晶系結晶相(R-3m)とは、LiCoOに起因する2θ=18.9°付近(18.9±0.2°)、37.4°付近(37.4±0.2°)、38.4°付近(38.4±0.2°)、39.1°付近(39.1±0.2°)、45.3°付近(45.3±0.2°)、49.5°付近(49.5±0.2°)、59.6°付近(59.6±0.2°)、65.5°付近(65.5±0.2°)、66.4°付近(66.4±0.2°)、69.8°付近(69.8±0.2°)等に観察される回折ピークを示す。また、不純物相とは、LiCoOに起因する回折ピーク以外の回折ピークを示す。このような不純物相の具体例としては、36.8°付近(36.8±0.2°)にメインピークを持つ酸化コバルト(Co)、31.8°付近(31.8±0.2°)にメインピークを持つ炭酸リチウム(LiCO)、19.2°付近(19.2±0.2°)にメインピークを持つ立方晶系リチウムコバルト系複合酸化物(LiCoO立方晶)等が挙げられる。
【0048】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、リチウム二次電池、全固体電池等の正極活物質として好適に利用される。
【0049】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を製造する方法は、特に制限されないが、以下に示す本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法により、好適に製造される。
【0050】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法は、少なくともコバルト化合物と、第一のリチウム化合物と、を含有し、且つ、該コバルト化合物の二次粒子の平均粒子径が0.10~0.50μmである原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
該原料混合物を、500~850℃で焼成する本焼成工程と、
を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法である。
【0051】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法に係る原料混合物調製工程は、少なくともコバルト化合物と、第一のリチウム化合物と、を含有する原料混合物を調製する工程である。
【0052】
コバルト化合物は、リチウムコバルト系複合酸化物の製造用の原料として用いられるコバルト化合物であれば、特に制限されず、コバルトの酸化物、オキシ水酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩及び有機酸塩等が挙げられる。
【0053】
原料混合物調製工程で調製される原料混合物中のコバルト化合物の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.10~0.50μm、特に好ましくは0.10~0.30μmである。コバルト化合物の二次粒子の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、リチウムコバルト系複合酸化物の一次粒子の平均粒子径が0.50μm以下、好ましくは0.10~0.40μmであるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。
【0054】
原料混合物調製工程における第一のリチウム化合物は、リチウムコバルト系複合酸化物の製造用の原料として用いられるリチウム化合物であれば、特に制限されず、リチウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩及び有機酸塩等が挙げられる。
【0055】
原料混合物調製工程における第一のリチウム化合物の平均粒子径は、特に制限されず、第一のリチウム化合物としては、一般的に入手可能なものを用いることができ、例えば10~100μmの範囲の粒子径が一般的なものである。
【0056】
原料混合物調製工程において、原料混合物中の第一のリチウム化合物とコバルト化合物の含有割合は、原子換算で、Coのモル数に対するLiのモル数の比(Li/Coモル比)が、好ましくは0.90~1.20、特に好ましくは0.95~1.15となる含有割合である。原料混合物中の第一のリチウム化合物とコバルト化合物の含有割合が上記範囲にあることにより、単一相のリチウムコバルト系複合酸化物が得られ易くなる。
【0057】
原料混合物調製工程において、原料混合物に、必要によりM元素を含有する化合物を含有させてもよい。M元素を含有する化合物としては、M元素を含有する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、フッ化物及び有機酸塩等が挙げられる。M元素を含有する化合物として、M元素を2種以上含有する化合物を用いてもよい。M元素としては、Mg、Al、Ti、Zr、Cu、Fe、Sr、Ca、V、Mo、Bi、Nb、Si、Zn、Ga、Ge、Sn、Ba、W、Na、K、Ni又はMn等が挙げられる。
【0058】
なお、原料の第一のリチウム化合物、コバルト化合物及びM元素を含有する化合物は、製造履歴は問われないが、高純度のリチウムコバルト系複合酸化物粒子を製造するために、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0059】
原料混合物調製工程では、第一のリチウム化合物と、コバルト化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合することにより、原料混合物を調製する。このとき、原料混合物中のコバルト化合物の二次粒子の平均粒子径が、好ましくは0.10~0.50μm、特に好ましくは0.10~0.30μmとなるように存在させ、第一のリチウム化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物とを、撹拌、粉砕等の処理により混合する。この混合により、第一のリチウム化合物、コバルト化合物及び必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物との接触が容易なものとなる。原料混合物中のコバルト化合物の二次粒子の平均粒子径が上記範囲にあることにより、本焼成工程における原料の反応性を高めることができ、500~850℃と低温焼成しても、十分に反応が進行し、本焼成工程を経て得られたリチウムコバルト系複合酸化物を850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下のリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られる。第一のリチウム化合物と、コバルト化合物と、必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物と、を混合する方法は、乾式であっても、湿式であってもよい。
【0060】
原料混合物を調製する方法としては、特に制限されず、例えば、(i)コバルト化合物と第一のリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する前に、コバルト化合物を粉砕処理し、粒子径を調節してから、粉砕処理後のコバルト化合物と第一のリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する方法、(ii)コバルト化合物と第一のリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する前に、コバルト化合物を粉砕処理し、更に、第一のリチウム化合物及び/又はM元素を含有する化合物を粉砕処理して、粉砕処理後のコバルト化合物と第一のリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合する方法、(iii)コバルト化合物と第一のリチウム化合物と必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物を混合し、これらを混合粉砕処理する方法等が挙げられる。コバルト化合物、第一のリチウム化合物又はM元素を含有する化合物の粉砕処理、及びコバルト化合物、第一のリチウム化合物、及び必要に応じて用いられるM元素を含有する化合物の混合粉砕処理は、乾式であってもよいし、湿式であってもよい。
【0061】
原料混合物調製工程において、コバルト化合物として水酸化コバルトを使用する場合、原料混合物を調製する方法としては、例えば、水酸化コバルトと、第一のリチウム化合物と、必要に応じてM元素を含有する化合物を、混合粉砕処理して、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が0.10~0.50μm、特に好ましくは0.10~0.30μmの原料混合物を調製する方法が挙げられる。水酸化コバルトは、一般的に単粒子としての粒子径が小さいため、予め粉砕処理をして粒子径を小さく調節しなくても、第一のリチウム化合物及び必要に応じてM元素を含有する化合物と共に、混合粉砕処理することにより、前記範囲の平均粒子径を有する原料混合物を得ることができる。
【0062】
乾式の粉砕処理又は混合粉砕処理を行うための装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。湿式の粉砕処理又は混合粉砕処理を行うための装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0063】
湿式で原料混合物の調製を行った場合は、原料混合物を乾燥することが好ましい。乾燥方法には、常法が用いられるが、湿式で粉砕処理を行った場合には、例えば、噴霧乾燥機を用いる方法を適用することができる。
【0064】
本焼成工程は、原料混合物調製工程を行い得られる原料混合物を焼成することにより、リチウムコバルト系複合酸化物粒子を得る工程である。
【0065】
本焼成工程における焼成温度は、500~850℃、好ましくは550~830℃である。本焼成工程における焼成温度が上記範囲にあることにより、一次粒子の平均粒子径が0.50μm以下、好ましくは0.10~0.40μmであり、且つ、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であるリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られる。一方、本焼成工程における焼成温度が、上記範囲未満だと、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下のリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られず、また、上記範囲を超えると、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径が0.50μmを超えてしまう。
【0066】
また、本焼成工程における焼成温度が、500~850℃、好ましくは550~830℃であることが、一次粒子の平均粒子径が0.50μm以下、好ましくは0.10~0.40μmであり、且つ、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下であり、且つ、リチウムコバルト系複合酸化物由来の六方晶系結晶相(R-3m)以外の不純物相のないリチウムコバルト系複合酸化物粒子が得られる点で、特に好ましい。
【0067】
本焼成工程における焼成時間は、1~30時間、好ましくは5~20時間である。また、本焼成工程における焼成雰囲気は、空気、酸素ガス等の酸化性雰囲気である。また、本焼成工程では、1回目の焼成で得られた焼成物を、必要に応じて複数回、焼成してもよい。
【0068】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、必要に応じて、原料混合物から発生する分解生成ガスを効率的に排除することを目的として、原料混合物調製工程と本焼成工程の間に、原料混合物調製工程を行い得られる原料混合物を、200℃以上500℃未満で仮焼する仮焼成工程を行うことができる。仮焼成工程を行うことにより、本焼成工程における反応をより均一に進行させることができるとの効果を得易くなる。仮焼成工程における仮焼温度は、200℃以上500℃未満、好ましくは200~400℃、より好ましくは250~350℃である。また、仮焼成工程における仮焼時間は、1~10時間、好ましくは2~5時間である。
【0069】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、(A1)仮焼成工程後、仮焼成工程を行い得られる仮焼物を、室温(25℃)付近まで冷却し、必要により、粉砕、再混合等の処理を行った後、本焼成工程を行うことができる。
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、(A2)仮焼工程後、仮焼成工程を行い得られる仮焼成物を冷却することなく、本焼成工程を行うことができる。例えば、(A2)では、原料混合物調製工程を行い得られる原料混合物を、所定の仮焼成温度で加熱し、所定の仮焼時間の経過後、続けて、仮焼物の加熱温度を、所定の本焼成温度まで昇温し、本焼成工程を行う。
【0070】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、前記(A1)の方法を用いることにより、前記(A2)の方法に比べて、本焼成工程をより低温で行うことができ、また、仮焼工程後に室温付近まで冷却することにより、粉砕、再混合等の処理が行うことが可能となるため、より均一なリチウムコバルト系複合酸化物粒子を得ることができる。
また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、前記(A2)の方法を用いることにより、前記(A1)の方法よりも、工程を簡素化することが可能となる。
前記(A1)の方法又は前記(A2)の方法の何れを用いるかは、製造装置及び/又は工業的な有利さ等を考慮して適宜選択することができる。
【0071】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法では、必要に応じて、本焼成工程の後に、本焼成工程を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子を粉砕処理する焼成物粉砕処理工程を行うことができる。
【0072】
焼成物粉砕処理工程における粉砕処理は、乾式の粉砕処理であっても、湿式の粉砕処理であってもよい。湿式粉砕装置としては、例えば、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。乾式粉砕装置としては、例えば、ジェットミル、ピンミル、ロールミル、ボールミル、ビーズミル等の公知の粉砕装置が挙げられる。
【0073】
このようにして、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径が、0.50μm以下、好ましくは0.10~0.40μmであり、且つ、850℃で加熱した際の重量減少率が、1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下であるので、正極材を軽量化、薄型化し易くなるため、電池の小型化を図り易くなる。また、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、BET比表面積が、好ましくは2.0m/g以上、特に好ましくは3.0~15.0m/gであり、また、二次粒子の平均粒子径が、好ましくは0.1~2.0μm、特に好ましくは0.2~1.0μmである。本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子のBET比表面積及び/又は二次粒子の平均粒子径が上記範囲にあることにより、正極材を軽量化、薄型化し易くなるとの効果が高まる。
【0074】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物は、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を含むことを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物である。
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、焼結性を一層向上させるため、さらに第二のリチウム化合物を含有させて、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を含むリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物とすることができる。
【0075】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の焼結に必要な温度は900℃以上であるが、第二のリチウム化合物を混合して含有させた本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物は、900℃よりもさらに低温である700~900℃においても焼結が可能になる。
全固体電池の製造方法として、多くの場合、例えば正極層、固体電解質層、及び負極層の各材料の粉末をペースト化し、塗布乾燥してグリーンシートを作製し、係るグリーンシートを積層し、作製した積層体を好ましくは700~1100℃の温度、好ましくは700~1100℃の温度、好ましくは900℃以下で同時焼成し焼結する焼結工程を経て製造する方法が知られている(特開2015-220099号公報の0017~0022段落、特開2015-22016号公報の0017~0022段落、WO2019/181909号パンフレットの0088~0106段落等参照)。
この際に、正極層は、リチウムイオン伝導性を向上させるため、緻密な正極活物質とする必要があり、正極活物質として、一次粒子が微粒であり、900℃以下で容易に焼結するものが要望されている。
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物は、900℃以下、好ましくは700~900℃の低温で焼結できることから全固体電池の正極活物質粉末として特に有用である。
【0076】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物に係る第二のリチウム化合物は、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム等が挙げられる。第二のリチウム化合物の化合物種は、第一のリチウム化合物の化合物種と、同一であってもよいし、異なってもよい。例えば、第一のリチウム化合物として、炭酸リチウムを用いた場合に、第二のリチウム化合物として、炭酸リチウムを用いてもよいし、あるいは、炭酸リチウム以外のリチウム化合物を用いてもよい。第二のリチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムが好ましい。
【0077】
第二のリチウム化合物の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により求めた平均粒子径で、0.10~100.0μm、好ましくは0.10~10.0μm、より好ましくは0.10~1.0μmである。第二のリチウム化合物が炭酸リチウムの場合、第二のリチウム化合物である炭酸リチウムの一次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.10~10.0μm、より好ましくは0.10~1.0μmである。第二のリチウム化合物の一次粒子の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、リチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物中に第二のリチウム化合物を均一に分散させることが容易になり、一層低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
【0078】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物において、第二のリチウム化合物のリチウム原子換算の含有量は、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、0.01~10.0質量%、好ましくは0.05~5.0質量%である。第二のリチウム化合物の含有量が、上記範囲であることにより、一層低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
【0079】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物は、例えば、前述した本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を混合又は混合粉砕することにより製造される。
【0080】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法は、前記本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の製造方法を行い得られるリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を混合又は混合粉砕する混合工程を有することを特徴とするリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法である。
【0081】
つまり、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法は、前記原料混合物調製工程と、前記本焼成工程と、を含む工程を行い得られる本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物とを、混合処理又は混合粉砕処理する混合工程を有する。
【0082】
本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物の製造方法に係る混合工程において、第二のリチウム化合物と共に、混合処理又は混合粉砕処理されるリチウムコバルト系複合酸化物粒子は、
1)前記原料混合物調製工程と、前記本焼成工程を行い得られるもの、
2)前記原料混合物調製工程と、前記仮焼成工程と、前記本焼成工程を行い得られるもの、
3)前記原料混合調製工程と、前記本焼成工程と、前記焼成物粉砕処理工程を行い得られるもの、
4)前記原料混合物調製工程と、前記仮焼成工程と、前記本焼成工程と、前記焼成物粉砕処理工程を行い得られるもの、
であってもよい。
【0083】
混合工程は、第二のリチウム化合物と、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子とを、混合処理又は粉砕混合処理する工程である。混合工程における混合処理又は粉砕混合処理は、第二のリチウム化合物と、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子とを、混合手段を用いて、粒子を粉砕させずに単純に混合する場合と、混合又は粉砕混合手段を用いて、粒子の一部又は全部を粉砕しながら混合する場合の両方を含む。
【0084】
混合工程において、第二のリチウム化合物と、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子とを、第二のリチウム化合物のリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対して、0.01~10.0質量%、好ましくは0.05~5.0質量%となるように混合する。第二のリチウム化合物の混合量が、上記範囲にあることにより、一層焼結反応を促進させることができ、低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
【0085】
混合工程における第二のリチウム化合物の一次粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察法により求められる平均粒子径で、好ましくは0.10~100.0μm、より好ましくは0.10~10.0μm、より好ましくは0.10~1.0μmである。混合工程における第二のリチウム化合物の一次粒子の平均粒子径が、上記範囲にあることにより、第二のリチウム化合物を均一に分散させることが容易になり、一層焼結反応を促進させることができ、低温での焼結が可能になる観点から好ましい。
第二のリチウム化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム及び硝酸リチウムから選ばれる少なくとも1種である場合、第二のリチウム化合物の平均粒子径は、0.10~100.0μmであることが好ましい。第二のリチウム化合物が、炭酸リチウムである場合、第二のリチウム化合物の平均粒子径は、0.10~10.0μmであることがより好ましい。
【0086】
混合工程において、本発明のリチウムコバルト系複合酸化物粒子と、第二のリチウム化合物と、を混合又は混合粉砕する手段としては、乾式でも湿式でもいずれでもよい。
【0087】
乾式による混合処理又は粉砕混合処理を行う方法としては、均一な混合物が得られるものであれば特に制限はないが、例えばハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等を用いる方法が挙げられる。なお、実験室レベルでは、卓上ミキサーでも十分で混合処理又は粉砕混合処理を行うことができる。なお、乾式の混合処理又は粉砕混合処理は、上記で例示した機械的手段による混合処理又は粉砕混合処理に限定されるものではない。
【0088】
湿式による混合処理又は粉砕混合処理を行う方法としては、例えば、ボールミルや攪拌羽による攪拌機、ビーズミル、スターラー、3本ロール、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力攪拌機等の装置を用いる方法が挙げられる。湿式の混合処理又は粉砕混合処理は、上記で例示した機械的手段による混合処理又は粉砕混合処理に限定されるものではない。また、混合処理又は粉砕混合処理後のスラリーは、反応性に優れ各成分が均一に分散したリチウムコバルト系複合酸化物粒子組成物が得られる観点から噴霧乾燥を行うことが好ましい。
【実施例
【0089】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
<リチウムコバルト複合酸化物粒子>
(1)850℃で加熱した際の重量減少率
次式により求めた。
重量減少率(%)=((X-Y)/X)×100
X:850℃で加熱する前のリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)
Y:昇温速度100℃/時で850℃まで昇温し、850℃に到達後、5時間保持し、次いで、室温まで自然降温により冷却したリチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量(g)
(2)リチウムコバルト複合酸化物粒子の比表面積
BET法により求めた。
(3)リチウムコバルト複合酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値をリチウムコバルト複合酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径として求めた。
(4)リチウムコバルト複合酸化物粒子の二次粒子の平均粒子径
レーザー回折・散乱法により、測定溶媒として水を用いてリチウムコバルト複合酸化物粒子の粒度分布を測定した。得られる粒度分布の体積換算50%の粒子径(D50)を、リチウムコバルト複合酸化物の二次粒子の平均粒子径とした。
(5)原料混合物中のコバルト化合物の平均粒子径
レーザー回折・散乱法により、測定溶媒として水を用いて原料混合物の粒度分布を測定した。得られる粒度分布の体積換算50%の粒子径(D50)を、原料混合物中のコバルト化合物の二次粒子の平均粒子径とした。
(6)結晶相
線源としてCu-Kα線を用いてX線回折装置(リガク社製、UltimaIV)により測定した。
【0091】
(実施例1~6、比較例1)
(原料混合物調製工程)
水酸化コバルト(一次粒子の平均粒子径0.18μm、二次粒子の平均粒子径0.20μm)及び炭酸リチウム(二次粒子の平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、市販の卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が0.22μmの原料混合物10.5gを得た。
(仮焼成工程、本焼成工程)
得られた原料混合物を300℃で3時間仮焼し、次いで、仮焼した原料混合物を室温(25℃)付近まで冷却し、卓上ミキサーで再混合処理し、次いで、表1に示す焼成温度にて5時間本焼成し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子の諸物性を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1の結果から、各実施例で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径が小さく、かつ、850℃で加熱した際の重量減少率も1.5質量%以下であった。また、図1から、結晶相は六方晶単相であることが認められた。
一方、比較例1で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径は小さいものの、850℃で加熱した際の重量減少率は高いものとなった。また、図1から、結晶性の低い六方晶と四酸化三コバルト及び炭酸リチウムとの混相であることが認められた。
【0094】
(実施例7~10、比較例2)
(原料混合物調製工程)
実施例1と同じ方法で行い、原料混合物を得た。
(仮焼成工程、本焼成工程)
得られた原料混合物を表2に示す仮焼温度にて3時間仮焼を行い、3時間の仮焼時間が経過後、冷却することなくそのまま更に、表2に示す本焼成温度まで昇温して、表2に示す本焼成温度で5時間本焼成し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を、実施例1と同じ方法で気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子の諸物性を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2の結果から、各実施例で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径が小さく、かつ、850℃で加熱した際の重量減少率も1.5質量%以下であった。また、図2から、結晶相も六方晶単相であることが認められた。
一方、比較例2で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径は小さいものの、850℃で加熱した際の重量減少率は高いものとなった。また、図2から、結晶性の低い六方晶と四酸化三コバルト及び炭酸リチウムとの混相であることが認められた。
【0097】
(比較例3~8)
(原料混合物調製工程)
四酸化三コバルト(一次粒子の平均粒子径0.58μm、一次粒子の粒子径のCV値0.75、二次粒子の平均粒子径2.5μm)及び炭酸リチウム(二次粒子の平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、市販の卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、四酸化三コバルトの二次粒子の平均粒子径が1.7μmの原料混合物10.5gを得た。なお、CV値は、粒子径のバラツキを示す指標であり、「CV値=粒子径の標準偏差/平均粒子径」の式に基づいて算出した。
(仮焼成工程、本焼成工程)
得られた原料混合物を表3に示す仮焼温度にて3時間仮焼を行い、3時間の仮焼時間が経過後、冷却することなくそのまま更に、表3に示す本焼成温度まで昇温して、表3に示す本焼成温度で5時間本焼成し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト複合酸化微粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子の諸物性を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
表3の結果から、原料混合物中の四酸化三コバルトの二次粒子の平均粒子径が大きいものを用いると、得られるリチウムコバルト複合酸化物粒子の一次粒子の平均粒子径は大きいものとなり、また、図3から、焼成温度を高くしないと六方晶単相の結晶相が得られないことが判った。
【0100】
(実施例11~13、比較例9)
(原料混合物調製工程)
水酸化コバルト(一次粒子の平均粒子径0.22μm、二次粒子の平均粒子径70μm)及び炭酸リチウム(二次粒子の平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、純水を加えてスラリー濃度20質量%で混合して、φ0.5mmのZrボールを使用したビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、LMZ22)にて湿式で混合粉砕処理して、水酸化コバルトの二次粒子の平均粒子径が0.21μmの原料混合物スラリーを得た。
得られた原料混合物スラリーをスプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥することにより原料混合物の乾燥粉10.5gを得た。
(仮焼成工程、本焼成工程)
得られた原料混合物の乾燥粉を表4に示す仮焼温度にて3時間仮焼を行い、3時間の仮焼時間が経過後、冷却することなくそのまま更に、表4に示す本焼成温度まで昇温して、表4に示す本焼成温度で5時間本焼成し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子の諸物性を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4の結果から、各実施例で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径が小さく、かつ、850℃で加熱した際の重量減少率も1.5質量%以下であった。また、図4から、結晶相も六方晶単相であることが認められた。
一方、比較例9で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径は小さいものの、850℃で加熱した際の重量減少率は高いものとなった。また、図4から、結晶性がかなり低く六方晶であると判定するのは困難であった。
【0103】
(実施例14~17)
(原料混合物調製工程)
四酸化三コバルト(一次粒子の平均粒子径0.58μm、一次粒子の粒子径のCV値0.75、二次粒子の平均粒子径2.5μm)及び炭酸リチウム(二次粒子の平均粒子径7.0μm)をLi/Co比が1.00となるように秤量し、純水を加えてスラリー濃度20質量%で混合して、φ0.5mmのZrボールを使用したビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、LMZ22)にて湿式で混合粉砕処理して、四酸化三コバルトの二次粒子の平均粒子径が0.21μmの原料混合物スラリーを得た。
得られた原料混合物スラリーをスプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥することにより原料混合物の乾燥粉10.5gを得た。
(仮焼成工程、本焼成工程)
得られた原料混合物の乾燥粉を表5に示す仮焼温度にて3時間仮焼を行い、3時間の仮焼時間が経過後、冷却することなくそのまま更に、表5に示す本焼成温度まで昇温して、表5に示す本焼成温度で5時間本焼成し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を卓上ミキサーにて30秒間解砕処理し、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(焼成物粉砕処理工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子の諸物性を表5に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
表5の結果から、各実施例で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子の平均粒子径が小さく、かつ、850℃で加熱した際の重量減少率も1.5質量%以下であった。また、図5から、結晶相も六方晶単相であることが認められた。
【0106】
<リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物>
(1)原料炭酸リチウムの一次粒子の平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)観察から任意に一次粒子100個を抽出して、各々の粒子について水平フェレ径を測長し、100個分の平均値を炭酸リチウムの一次粒子の平均粒子径として求めた。
(2)焼結試験
リチウムコバルト複合酸化物粒子0.5g、又はリチウムコバルト複合酸化物粒子と第二のリチウム化合物を混合したリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物0.5gを、5kN/cmの圧力で、φ15mm円形状薄板に成型して成型体を得た。得られた成型体を、700℃または800℃で5時間焼成し焼結体を得た。焼結体の重さ、厚み及び直径より、下記式:
焼結体の体積密度(g/cm)=焼結体の重さ/((焼結体の直径×0.5)×π×焼結体の厚み)
で焼結体の体積密度を算出した。
また、別途、900℃で5時間焼成し焼結体を得、800℃での焼結体の体積密度と増減を確認し、焼結温度を確認した。
【0107】
(実施例18)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、焼成物粉砕処理工程)
実施例4と同じ方法で行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(混合工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子と、炭酸リチウム(一次粒子の平均粒子径7.0μm)とを、炭酸リチウムのリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、2.0質量%となるよう秤量し、卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を得た。
(焼結試験)
実施例18で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表6に示す。また、800℃と900℃での焼結体の体積密度は殆ど変化しなかったことから、焼結温度は800℃であることを確認した。
【0108】
(実施例19)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、焼成物粉砕処理工程)
実施例4と同じ方法で行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(炭酸リチウムの粉砕)
炭酸リチウム(一次粒子の平均粒子径7.0μm)に純水を加えてスラリー濃度20質量%とし、φ0.5mmのZrボールを使用したビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、LMZ22)にて湿式で混合粉砕処理して、炭酸リチウムスラリーを得た。得られた炭酸リチウムスラリーをスプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥した後、ジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行うことにより、一次粒子の平均粒子径0.48μmの炭酸リチウム粒子を得た。
(混合工程)
得られた炭酸リチウム(一次粒子の平均粒子径0.48μm)と、得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子とを、炭酸リチウムのリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、2.0質量%となるよう秤量し、卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を得た。
(焼結試験)
実施例19で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表6に示す。また、800℃と900℃での焼結体の体積密度は殆ど変化しなかったことから、焼結温度は800℃であることを確認した。
【0109】
(実施例20)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、焼成物粉砕処理工程)
実施例4と同じ方法で行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(炭酸リチウムの粉砕)
炭酸リチウム(一次粒子の平均粒子径7.0μm)に純水を加えてスラリー濃度20質量%とし、φ0.5mmのZrボールを使用したビーズミル(アシザワ・ファインテック社製、LMZ22)にて湿式で混合粉砕処理して、一次粒子の平均粒子径0.36μmの炭酸リチウムスラリーを得た。
(混合工程)
得られた炭酸リチウムスラリーと、得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子と、純水とを、固形分中の炭酸リチウムのリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、2.0質量%、スラリー濃度20質量%となるよう混合し、次いで、スプレードライヤー(大河原化工機社製、L-8)にて、入口温度250℃、出口温度120℃に設定し、60g/分の投入速度にて噴霧乾燥することにより混合物の乾燥粉を得た。得られた乾燥粉をジェットミル(セイシン企業社製、A-Oジェットミル)にて、P圧0.65MPa、J圧0.60MPaに設定し、2g/分の投入速度にて気流粉砕処理を行うことにより、リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を得た。
(焼結試験)
実施例20で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表6に示す。また、800℃と900℃での焼結体の体積密度は殆ど変化しなかったことから、焼結温度は800℃であることを確認した。
【0110】
(実施例21)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、焼成物粉砕処理工程)
実施例4と同じ方法で行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(混合工程)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子と、炭酸リチウム(一次粒子の平均粒子径7.0μm)とを、炭酸リチウムのリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、0.50質量%となるよう秤量し、卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(焼結試験)
実施例21で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表6に示す。
【0111】
(実施例22)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、焼成物粉砕処理工程)
実施例4と同じ方法で行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(添加混合方法)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子と、水酸化リチウム(一次粒子の平均粒子径25.0μm)とを、水酸化リチウムのリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、0.50質量%となるよう秤量し、卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を得た。
(焼結試験)
実施例22で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表6に示す。
【0112】
(実施例23)
(原料混合物調製工程、仮焼成工程、本焼成工程、焼成物粉砕処理工程)
実施例4と同じ方法で行い、リチウムコバルト複合酸化物粒子を得た。
(添加混合方法)
得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子と、硝酸リチウム(一次粒子の平均粒径65μm)とを、硝酸リチウムのリチウム原子換算の含有量が、リチウムコバルト系複合酸化物粒子の質量に対し、0.50質量%となるよう秤量し、卓上ミキサーにて乾式で混合粉砕処理して、リチウムコバルト複酸化物粒子組成物を得た。
(焼結試験)
実施例23で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を用いて焼結試験を行い、焼結体の体積密度を算出した。その結果を表6に示す。
【0113】
表6の相対密度はリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物の理論密度5.1g/cmを100%としたときの相対値である。
【0114】
【表6】
【0115】
表6の結果から、実施例18~20で得られた炭酸リチウムが混合されたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を700℃で焼成した際に得られた焼結体は、実施例4で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を700℃で焼成した際に得られた焼結体に比べて、体積密度が高かった。また、実施例18~20で得られた炭酸リチウムが混合されたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を800℃で焼成した際に得られた焼結体は、実施例4で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を800℃で焼成した際に得られた焼結体に比べて、体積密度が高かった。リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物と、リチウムコバルト複合酸化物粒子と、を比べると、前者は700℃及び800℃で焼成した際に、より焼結反応が進行し焼結性が向上することが確認された。また、リチウムコバルト複合酸化物粒子組成物は、900℃での体積密度と、800℃での体積密度とにほとんど差が無いことから800℃程度の低温でも焼結が可能であることが確認された。
また、表6の結果から、実施例21で得られた炭酸リチウムが混合されたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を700℃で焼成した際に得られた焼結体、実施例22で得られた水酸化リチウムが混合されたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を700℃で焼成した際に得られた焼結体、実施例23で得られた硝酸リチウムが混合されたリチウムコバルト複合酸化物粒子組成物を700℃で焼した際に得られた焼結体は、いずれも、実施例4で得られたリチウムコバルト複合酸化物粒子を700℃で焼成した際に得られた焼結体に比べて、体積密度が高かった。
図1
図2
図3
図4
図5