(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】水素ステーションの防災設備
(51)【国際特許分類】
A62C 3/06 20060101AFI20240416BHJP
F17C 5/06 20060101ALI20240416BHJP
F17C 13/12 20060101ALI20240416BHJP
A62C 2/10 20060101ALI20240416BHJP
A62C 31/00 20060101ALI20240416BHJP
B60S 5/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A62C3/06 Z
F17C5/06
F17C13/12 301Z
A62C2/10
A62C31/00
B60S5/02
(21)【出願番号】P 2023119607
(22)【出願日】2023-07-24
(62)【分割の表示】P 2019124584の分割
【原出願日】2019-07-03
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【氏名又は名称】竹内 進
(74)【代理人】
【識別番号】100228669
【氏名又は名称】竹内 愛規
(72)【発明者】
【氏名】梅原 寛
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-079704(JP,A)
【文献】特開平06-070991(JP,A)
【文献】特開平10-127804(JP,A)
【文献】特開昭51-093598(JP,A)
【文献】特開2012-066086(JP,A)
【文献】特開2017-038789(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0230413(US,A1)
【文献】中国実用新案第202569247(CN,U)
【文献】特開2006-271900(JP,A)
【文献】特開2017-032126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
F17C 5/06
F17C 13/12
B60S 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ステーションの防災設備であって、
所定の異常事象発生時に、水素を供給するディスペンサーの設置領域を含む所定の防護対象区画を囲んで仕切る仕切手段と、
前記仕切手段で仕切られた前記防護対象区画内に消火剤を散布する第1消火手段を含む発生した前記異常事象に対処するために所定物質を所定領域に散布する複数の散布手段と、
を備え、
異常事象の発生場所に対応して前記複数の散布手段を選択的に動作させる動作パターンを複数有し、
異常事象発生時に、当該発生した異常事象の発生場所に対応した動作パターンで前記第1消火手段を含む複数の散布手段が動作することを特徴とする水素ステーションの防災設備。
【請求項2】
請求項1記載の水素ステーションの防災設備であって、
前記複数の散布手段の1つとして、前記防護対象区画を仕切る前記仕切手段に冷却剤を散布する冷却手段を備えたことを特徴とする水素ステーションの防災設備
【請求項3】
請求項1又は2記載の水素ステーションの防災設備であって、
前記複数の散布手段の1つとして、前記仕切手段で仕切られた前記防護対象区画の外側に消火剤を散布する第2消火手段を備えたことを特徴とする水素ステーションの防災設備。
【請求項4】
水素ステーションの防災設備であって、
所定の異常事象発生時に、水素を供給するディスペンサーの設置領域を含む所定の防護対象区画を囲んで仕切る仕切手段と、
前記仕切手段で仕切られた前記防護対象区画内に消火剤を散布する第1消火手段を含む発生した前記異常事象に対処するために所定物質を所定領域に散布する複数の散布手段と、
を備え、
異常事象の種類に対応して前記複数の散布手段を選択的に動作させる動作パターンを複数有し、
異常事象発生時に、当該発生した異常事象に対応した動作パターンで前記第1消火手段を含む複数の散布手段が動作することを特徴とする水素ステーションの防災設備。
【請求項5】
請求項1乃至4何れかに記載の水素ステーションの防災設備であって、
前記異常事象は、前記防護対象区画内の水素漏洩及び区画火災、前記防護対象区画外の近隣火災及び近隣事故を含むことを特徴とする水素ステーションの防災設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を車両に供給するディスペンサーを配置した水素ステーションの防災設備に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷低減技術として、化石燃料を使用するガソリン車に代わって、電気自動車や燃料電池車の開発、普及が政府方針として示され、エコカーが今後急速に社会に普及することが期待される。電気自動車を普及させるためのインフラとして充電施設の普及が必須であるのに対し、燃料電池車においては、水素ステーションの設置が必須となっている。
【0003】
水素ステーションには、水素製造装置を備えた水素ステーション(オンサイト型水素ステーション)と、水素製造装置を備えず、水素製造設備、オンサイト型水素ステーション等から水素の供給を受けて蓄圧貯蔵する水素ステーション(オフサイト型水素ステーション)がある。
【0004】
また水素ステーションの普及拡大を促進するには、公道に隣接したスペースを利用すること、特にガソリンスタンドに併設することが、とりわけ具体化への道筋として考えられている。
【0005】
一方、水素の危険性を考慮し、万一事故が発生した場合に近隣に所在する学校、病院、住宅などの安全性確保は、重要な要件となっている。このようなことから、一般的に水素を生産、貯蔵、取扱する設備を有する水素ステーションには、ガス検知器、火災(炎)感知器、水噴霧設備等の防災設備の設置が義務づけられている。さらには漏洩事故が発生した場合の緊急遮断弁の設置、温度上昇防止装置の付置等災害の未然防止装置を設置するとともに、万一火災が発生した場合を考えて公道、敷地境界との安全距離が定められている。
【0006】
この安全距離は、水素のボンベ充填圧力が40MPa(自動車充填圧35MPa)であった当初は、水素設備(例えばディスペンサー)の公道からの距離は6m、同じく敷地境界からの距離は6mであったが、1回の水素満充填で航続(走行)可能な距離を延ばすため、現在は水素のボンベ充填圧力が82MPa(自動車充填圧70MPa)まで昇圧されており、当初に比べ大量の水素を貯蔵し、取扱うことになるため、事故発生時の危険性が増大することを考慮して、公道からの距離は8m、同じく敷地境界からの距離は8mと長くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-038789号公報
【文献】特開2017-032126号公報
【文献】特開2012-066086号公報
【文献】特開2018-079704号公報
【文献】特開平06-070991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、水素ステーションの安全距離を確保するためには、相当面積の敷地が必要となり、首都圏、中部圏、近畿圏をはじめとする都市部ではその確保が特に難しく、さらにガソリン等給油ステーション(サービスステーション:SS)併設型の水素ステーションにおいては、安全距離の確保は建設の厳しい制約条件となる。
【0009】
さらには、現防災設備が主に水素ステーション内の火災・漏洩に対する防災設備であるのに対して、併設型水素ステーションにおけるガソリン等給油ステーション側での火災や、近隣での火災、公道での自動車事故や車両火災に対しても、水素ステーションを防護することが必要であり、この観点からも現状の防災設備では十分とはいえない側面がある。しかし水素ステーション建設にはガソリン等給油ステーション建設の数倍のコストが必要とされ、そのうえでの過剰な防災設備の設置は、コストの面で普及の足枷となるため、コスト低減も普及促進の大きな要素である。
【0010】
本発明は、安全性を向上させた上で、道路及び敷地境界からの所要安全距離を短くして建設地の制約、面積的な制約を緩和し、更には近隣火災等から確実に防護し、一方で大幅なコスト増とならない水素ステーションの防災設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(水素ステーションの防災設備1)
本発明は、水素ステーションの防災設備であって、
所定の異常事象発生時に、水素を供給するディスペンサーの設置領域を含む所定の防護対象区画を囲んで仕切る仕切手段と、
仕切手段で仕切られた防護対象区画内に消火剤を散布する第1消火手段を含む発生した異常事象に対処するために所定物質を所定領域に散布する複数の散布手段と、
を備え、
異常事象の発生場所に対応して複数の散布手段を選択的に動作させる動作パターンを複数有し、
異常事象発生時に、当該発生した異常事象の発生場所に対応した動作パターンで第1消火手段を含む複数の散布手段が動作することを特徴とする。
【0012】
(冷却手段)
複数の散布手段の1つとして、防護対象区画を仕切る仕切手段に冷却剤を散布する冷却手段を備える。
【0013】
(第2消火手段)
複数の散布手段の1つとして、仕切手段で仕切られた防護対象区画の外側に消火剤を散布する第2消火手段を備える。
【0014】
(水素ステーションの防災設備2)
本発明は、水素ステーションの防災設備であって、
所定の異常事象発生時に、水素を供給するディスペンサーの設置領域を含む所定の防護対象区画を囲んで仕切る仕切手段と、
仕切手段で仕切られた防護対象区画内に消火剤を散布する第1消火手段を含む発生した異常事象に対処するために所定物質を所定領域に散布する複数の散布手段と、
を備え、
異常事象の種類に対応して複数の散布手段を選択的に動作させる動作パターンを複数有し、
異常事象発生時に、当該発生した異常事象に対応した動作パターンで第1消火手段を含む複数の散布手段が動作することを特徴とする。
【0015】
(異常事象)
異常事象は、防護対象区画内の水素漏洩及び区画火災、防護対象区画外の近隣火災及び近隣事故を含む。
【発明の効果】
【0016】
(水素ステーションの防災設備の効果)
本発明は、水素ステーションの防災設備であって、所定の異常事象発生時に、水素を供給するディスペンサーの設置領域を含む所定の防護対象区画を囲んで仕切る仕切手段と、仕切手段で仕切られた防護対象区画内に消火剤を散布する第1消火手段を含む発生した異常事象に対処するために所定物質を所定領域に散布する複数の散布手段と、を備え異常事象の発生場所又は異常事象に対応して複数の散布手段を選択的に動作させる動作パターンを複数有し、異常事象発生時に、当該発生した異常事象の発生場所又は異常事象に対応した動作パターンで第1消火手段を含む複数の散布手段が動作するため、水素ステーション又はその近隣周辺で異常事象が発生したときに、ディスペンサーの設置領域を含む防護対象区画を周囲から仕切るように囲僥して仕切区画を形成することで防護対象区画を仕切り、防護対象区画内で発生した異常事象を封じ込めて周囲への影響を抑制する。また、防護対象区画の外側で発生した異常事象から防護対象区画内を防護する。
【0017】
また、仕切手段で仕切られた防護対象区画内に、第1消火手段により消火剤を散布することで、防護対象区画内で発生した異常事象の拡大を抑制し、一方、防護対象区画の外側で発生した異常事象に対しては、その影響を受けにくくする。その結果、道路や敷地境界からの所要安全距離を短くすることが可能となり、水素ステーション建設の制約条件を緩和可能とする。
【0018】
また、発生した異常事象の発生場所や異常事象の種類に対応した動作パターンで第1消火手段を含む散布手段が動作するため、適切に発生した異常事象に対処することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】併設型水素ステーションの設備概要を平面で示した説明図
【
図2】水素ステーションの防災設備の第1実施形態を示した説明図
【
図3】水素ステーションの防災設備に設置されるシート展開装置の実施形態を示した説明図
【
図4】
図2の水素ステーションの防災設備の制御系統を示した説明図
【
図5】水素ステーションの防災設備の動作を示した説明図
【
図6】水素ステーションの防災設備の第2実施形態を示した説明図
【
図7】
図6の水素ステーションの防災設備の制御系統を示した説明図
【
図8】シート周縁に充水用のチューブを設けたシート展開装置をシート展開状態で示した説明図
【
図9】
図8のシート展開装置を設けた水素ステーションの防災設備の動作を示した説明図
【
図10】シート上部に放出開口を設けたシート展開装置をシート展開状態で示した説明図
【
図11】
図10のシート展開装置を設け且つ消火剤を上向きに散布する水素ステーショ ンの防災設備を動作状態で示した説明図
【
図12】第1消火手段、第2消火手段及び冷却却手段を備えた水素ステーションの防災設備の異常事象に対する制御パターンを示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施形態の基本的な概念]
図1は併設型水素ステーションの設備概要を平面で示した説明図である。なお、水素ステーションと併設されるガソリン等給油ステーションは、通常、サービスステーション(SS)として知られている。
【0021】
本実施形態の基本的な概念は、水素を車両(燃料電池車)に供給するディスペンサー14を設けた水素ステーション10Bでの所定の異常事象発生時に、ディスペンサー14の設置領域(ディスペンサー設置領域14a)を含む防護対象区画を仕切シートにより囲んで仕切区画を形成する。
即ち、仕切区画内に防護対象区画が包含されるように仕切る。
【0022】
これにより、例えば異常事象が防護対象区画内の火災(区画火災)である場合には、仕切シートの遮熱、遮炎性によって周辺への延焼を抑止し、また仕切シートの遮煙性によって周辺への煙拡散を抑止して汚損等を防止する。
【0023】
また例えば異常事象が防護対象区画外の近隣火災である場合には、同様に、近隣火災から防護対象空間内への延焼を抑止して、例えばディスペンサー14を防護する。また仕切シートは布状体であるため、防護対象区画内からの人の避難も容易である。
【0024】
水素ステーション10Bの防災設備は、仕切シートにより囲んで仕切った防護対象区画へ消火剤を散布する。
【0025】
これによって、異常事象が水素漏洩(火災以前)である場合には、防護対象区画内の水素を外部へ排出することを促進して内部への充満を抑止する。また、消火剤を防護対象空間の下方から上方へ散布することで、防護対象空間上部開口から上空へ水素を排出する効果を高め、速やかに爆発下限界を下回る濃度に希釈する。また、周辺への漏出充満を効果的に抑止する。また、内部空間及びディスペンサーや水素充填中の車両を冷却して、火災の発生(引火)を抑止する。
【0026】
また、異常事象が区画火災である場合には、防護対象区画内部の火災を消火、抑制或いは拡大防止し、また外部への延焼を抑止する。このとき防護対象区画は仕切シートで仕切られているので、外部への散逸が抑えられ防護対象区画内に効率良く消火剤を散布して消火効率を上げると共に、防護対象区画外周辺の水損が抑止される。
【0027】
そして、異常事象が近隣火災、近隣事故である場合には、上記同様の作用により外部から防護対象区画内への火災延焼を抑止する。
【0028】
また、水素ステーション10Bの防災設備は、防護対象区画を仕切る仕切シートに冷却剤、例えば冷却水を散布する。
【0029】
これにより仕切シートが冷却されると共に、布状である仕切シートの織目隙間が冷却水によって塞がれる。このため、異常事象が区画火災である場合には、仕切シートの防火、耐火、耐熱性が強化されて仕切りシートが保護され、仕切状態の劣化が防止されると共に、遮熱、遮炎、遮煙性が向上するので外部への延焼、煙漏洩が抑止される。同様に、異常事象が近隣火災、近隣事故である場合は、外部から防護対象区画内部への火災延焼、煙の流入等を抑止する。また、仕切シートに冷却水を散布することで仕切シートの重量が増加するので、異常事象に依らず仕切シートの展開状態が安定する。
【0030】
水素ステーション10Bの防災設備は、前述した仕切区画の形成、消火剤散布、冷却剤散布を組合せる。これにより、各種異常事象の発生に対し最適に、上記の相乗的効果が得られる。
【0031】
このような簡易且つ簡易な構成で、従来に比べてより効果的且つ効率的に防護対象区画を防護し、また周辺をも保護することができるので、所要安全距離を短くすることができる。
【0032】
ここで、仕切シートで囲んで仕切る水素ステーション10Bの防護対象区画とは、少なくとも車両に水素を供給するディスペンサー14が設置されている領域を含む区画(3次元空間領域)であり、ティスペンサー設置領域14aを含む区画であれば水素ステーション10B内の任意の区画を防護対象区画とすることができる。
【0033】
また、仕切区画は防護対象区画を包含する区画であるが、防護対象区画と同じ区画であっても良い。また、防護対象区画は複数であっても良い。また、1つの防護対象区画内に設置されるディスペンサーの台数は任意である。以下詳細に説明する。
【0034】
[水素ステーションの概要]
図1に示すように、併設型水素ステーション10は、道路に面した部分を除く三方を防火壁11で囲んだ敷地内を、境界Lを挟んでガソリン等給油ステーション(サービスステーション:SS)10Aと水素ステーション10Bに分け、ガソリン等給油ステーション10Aには固定給油設備12等を設置し、水素ステーション10Bにはディスペンサー14等を設置している。
【0035】
本実施形態は、水素製造装置を備えた水素ステーション(オンサイト型水素ステーション)10Bを例にとっており、敷地の奥行側に防火壁15で仕切られた建屋を水素製造エリア10Cとし、そこに水素製造装置22、圧縮機24及び貯蔵設備25を設置し、注入口20aから地下に設置した原燃料タンク20に原燃料を所蔵し、原燃料タンク20から水素製造装置22に原燃料を取り込んで水素を生成し、圧縮機24で所定圧力に圧縮して貯蔵設備25に貯蔵し、貯蔵設備25からディスペンサー14に水素を送り、例えば70MPa差圧充填により燃料電池車(FCV)に水素を供給して充填可能としている。
【0036】
一方、ガソリン等給油ステーション10Aには、固定給油設備12の給油スタンド12aによりガソリン車等にガソリンを給油可能とし、また、固定注油設備13の注油スタンド13aによりポリタンク等に灯油を注油可能としており、更に、事務所26、自動車点検整備場28、洗車機30を設けている。
【0037】
ガソリン等給油ステーション10Aに設置した固定給油設備12には雨水がかからないように屋根16を設置している。また、水素ステーション10Bに設置したディスペンサー14にも雨水がかからないように屋根18を設置しており、ディスペンサー14の屋根18は漏洩して上昇する水素を大気に拡散させるため、上からの雨水は通過しないが、下からの空気は上方に抜ける通気構造となっている。
【0038】
[従来の防災設備の概要]
水素ステーション10Bには、本実施形態にあっては、火災報知設備を含む防災設備を設けている。
【0039】
火災報知設備は、事務所26に設けた火災受信盤32から引き出した感知器回線に事務所26内に設置した火災感知器34を接続し、火災感知器34による火災発報信号を火災受信盤32で受信して火災警報を出力すると共に、移報信号を他の設備に出力するようにしている。
【0040】
防災設備は、水素製造エリア10Cに設置した貯蔵設備25を防護対象として複数の水噴霧ヘッド48を設置し、水噴霧ヘッド48に対してはガソリン等給油ステーション10Aに設置した水噴霧用ポンプ設備44から給水配管を接続して消火剤として消火用水を供給可能としており、水噴霧用ポンプ設備44に対しては停電対策として非常電源設備46を設置している。
【0041】
水噴霧用ポンプ設備44の起動による水噴霧ヘッド48からの消火用水散布は事務所26に設置している制御盤35の制御により行う。制御盤35に対しては、水素ステーション10B、水素製造エリア10Cに設置した火災検知器36、水素検知器38、温度検出器40及び起動装置42を信号線接続しており、また、火災検知器36及び起動装置42は例えばディスペンサー14の近傍の天井部や支柱に設置し、水素検知器38はディスペンサー14の筐体内部に設置している。
【0042】
制御盤35は、火災検知器36による火災検知、水素検知器38による水素検知、温度検出器40による所定温度の検出、起動装置42の操作、又は、火災受信盤32から火災移報信号の受信を判別した場合、水噴霧用ポンプ設備44にポンプ起動信号を出力してポンプ起動し、加圧した消火用水を水噴霧ヘッド48から貯蔵設備25に散水して冷却し、貯蔵設備25を火災による熱から防護する。なお、図示しないが、併設型水素ステーション10の所定の各所には消火器を配置している。
【0043】
[水素ステーションの防災設備の第1実施形態]
(設備構成の概要)
図2は本発明による水素ステーションの防災設備の第1実施形態を示した説明図であり、
図1の水素ステーション10Bを取り出して示しており、
図2(A)に斜視を示し、
図2(B)に正面を示す。
【0044】
水素ステーション10Bにはディスペンサー14が設置され、
図1に示した貯蔵設備25からディスペンサー14に水素を送り、燃料電池車(FCV)に図示しないノズル付ホースを介して水素を供給して充填可能としている。
【0045】
ここで、本実施形態にあっては、ディスペンサー14は、燃料電池車(FCV)に水素を供給充填するための各種構成機器を筐体内に収め、これにノズル付ホースや操作表示部を備えた設備部分を示す概念としている。水素検知器38は、ディスペンサー14の筐体内に配置される。
【0046】
ディスペンサー14の上部には支柱54により公知の通気構造を持つ屋根18が設置され、本実施形態にあっては、屋根18の四辺の各々にシート展開装置50を設置し、更に、冷却水を散布する冷却剤散布ヘッド62を設けている。
【0047】
シート展開装置50は、水素漏洩、区画火災、近隣火災、近隣事故等の所定の異常事象の発生時に
図1に示した制御盤35からの制御信号により作動し、通常状態で巻き回して保持している仕切シートを落下して上下に展開させ、屋根18の下側でディスペンサー設置領域14aを含む防護対象区画の四方を囲僥することにより仕切って仕切区画を形成する。
【0048】
ディスペンサー14の天井面(屋根18の下面)の略中央には消火ヘッド52が配置され、
図1の水噴霧用ポンプ設備44から供給される消火用水を散布可能としている。また、天井側には火災検知器36を設置し、支柱54には起動装置42を設け、更に、ディスペンサー14の内部には水素検知器38を設けている。
【0049】
(シート展開装置)
図3は水素ステーションの防災設備に設置されるシート展開装置の実施形態を示した説明図であり、
図3(A)に通常状態を示し、
図3(B)に仕切シートの展開状態、
図3(C)は下側から見た平面を示す。
【0050】
シート展開装置50は、
図3(A)に示すように、装置本体55を防護対象区画の上部周縁、具体的にはディスペンサー14の上部を覆って設けた屋根の周縁部となる庇側に固定し、装置本体55に仕切シート56の一端辺をシート固定部57により固定し、このとき仕切シート56はロール状に巻き回された状態で装置本体55の下側にワイヤ又はロープを用いた保持部材58により左右2箇所で吊下げ状態に保持されている。
【0051】
仕切シート56は、防火性、耐火性又は耐熱性を有し、更に、炎を遮る遮炎性、熱を遮る遮熱性又は煙を遮る遮煙性を有する布状体であり、例えば1200℃の高熱に耐えることができ、耐火シート、耐火カーテン、耐火幕等とも呼ばれるシートである。なお、仕切シート56としては、1200℃以下であっても、例えば数百度以上の耐熱性能を持つものであれば良い。
【0052】
ワイヤ又はロープを用いた保持部材58は一端が装置本体55に固定され、他端はロール状に巻かれた仕切シート56の下側を通して装置本体55に設けられたラッチ解除部60に着脱自在に保持され、通常は抜け止めされている。ラッチ解除部60は、
図1に示した制御盤35からの制御信号による例えばソレノイドの通電によりラッチを解除する。
【0053】
シート展開装置50は、制御盤35からの制御信号によりラッチ解除部60を作動すると保持部材58の一端の保持が解除され、仕切シート56は
図3(B)に示すように、仕切シート56の一端辺が装置本体55に固定された状態で自重により落下して下方に展開される。
【0054】
このようにして、
図6(A)に示した4台の仕切シート展開装置50を作動して4つの仕切シート56を展開することで仕切区画を形成し、防護対象区画を仕切区画で囲むことができる。
【0055】
ここで、
図3(B)のように展開した仕切シート56の長さは、シート展開装置50の設置高さよりも長めに採寸しておくようにし、防護対象区画の下面となる路面に物が置かれていても、落下展開したときにシートの弛みにより隙間ができにくいようにしている。
【0056】
なお、シート展開装置50としては、仕切シート56を回転軸に巻き、回転軸のラッチを解除して仕切シート56を自重で落下展開させる構造としてもよい。また、シート展開装置50の仕切シート56を蛇腹状に折り畳んだ状態で保持し、保持を解除して落下展開させる構造としてもよい。
【0057】
また、シート展開装置50における仕切シート56の保持解除は、制御盤35からの制御信号による以外に、火災による熱を受けたヒューズの溶断により保持を解除するヒュージブルリンクを用いた感熱作動型としてもよい。また、用途、規模、形状により各方式を組み合わせた複合型としても良い。
【0058】
(冷却剤散布ヘッド)
図3に示すように、シート展開装置50には、装置本体55の両側(展開した仕切シート56の両面側)に取り出された配管に冷却剤散布ヘッド62を設けている。冷却剤散布ヘッド62に対しては装置本体55内を通して給水配管63が開閉弁64を介して接続され、
図1に示す水噴霧用ポンプ設備44から消火用水の供給を受けて、
図3(B)のように展開した仕切シート56により囲んだ防護対象区画の外側シート面に冷却剤として消火用水を略均一に散布させる。
【0059】
また、仕切シート56は布織目の表面に樹脂等をコーティングしたものとコーティングしていないものがあり、非コーティングの仕切シート56を使用した場合、冷却剤散布ヘッド62から散布された冷却水は、展開した仕切シート56のシート面を濡らし、散布した冷却水が布の織目構造をもつ仕切シート56に含浸されつつシート面に沿って流れ落ちる。このような冷却水の含浸とシート面に沿った流れ落ちにより、仕切シート56の布織目の隙間が閉鎖され、密閉性が向上し、例えばディスペンサー14からの水素漏洩の場合に仕切シート56の外側への水素の拡散が抑制される。また、冷却水の含浸と外側シート面に沿った流れ落ちにより、仕切シート56が冷却され、防火性、耐火性、耐熱性、遮炎性及び遮熱性が高められ、また、火災の場合には遮煙性も高められる。
【0060】
なお、展開した仕切シート56に対してシート面の内側(防護対象区画の内部側に面するほうのシート面)又は外側(防護対象区画の内部側に面するほうのシート面)に冷却水を散布するようにしても良いし、シート面の内側と外側の両方に冷却水を散布するようにしても良い。
【0061】
(制御系統)
図4は
図2の水素ステーションの防災設備の制御系統を示した説明図である。
図4に示すように、制御手段として機能する制御盤35からの信号線100aには、防護対象区画に設置している火災検知器36、水素検知器38及び起動装置42を含む端末が接続され、ディスペンサー14からの水素漏洩を含む防護対象区画の異常事象を監視している。
【0062】
また制御盤35からの信号線100bにはディスペンサー14を覆う屋根18の周囲(周縁)に設置したシート展開装置50のラッチ解除部60が接続され、制御盤35からの制御信号により保持部材58のラッチを解除して仕切シート56を展開可能としている。
【0063】
また制御盤35からの信号線100cに開閉弁68が接続され、制御盤35からの開制御信号により開閉弁68を開動作し、水噴霧用ポンプ設備44から給水配管63を介して供給される消火用水をディスペンサー14の天井側に設置した消火ヘッド(第1消火ヘッド)52から散布可能としている。消火ヘッド52と開閉弁68は第1消火手段を構成する。
【0064】
また、制御盤35からの信号線100dに仕切シート56の内面と外面の個別冷却に対応して開閉弁64が接続され、制御盤35からの開制御信号により開閉弁64を開動作し、水噴霧用ポンプ設備44から給水配管63を介して供給される消火用水をシート展開装置50に対し内側と外側に分けて設けた冷却剤散布ヘッド62から散布可能としている。冷却水散布ヘド62と開閉弁64は冷却手段を構成する。
【0065】
なお、消火手段(第1消火手段)、冷却手段は、広義には水噴霧ポンプ設備44及びこれに付随する配管当設備を含む概念である。この点は後述の第2消火手段も同様である。
【0066】
[水素ステーション防災装置の制御動作]
図5は水素ステーションの防災設備の動作を示した説明図であり、
図5(A)に斜視を示し、
図5(B)に正面を示し、更に、展開した仕切シートの内部を分かり易くするため、仕切シートを透視状態として示している。
【0067】
制御盤35による水素ステーションの防災設備の制御は、例えば次の水素漏洩モード、火災発生モード、周辺モードに分けて行う。ここで、水素漏洩モードとはディスペンサー14からの水素漏洩が発生した場合の制御モードであり、火災発生モードとはディスペンサー14を含む防護対象区画の内部で火災(区画火災)が発生した場合の制御モードであり、周辺モードとは防護対象区画の外側で近隣火災や近隣事故が発生した場合の制御モードである。なお、ガソリン等給油ステーション10Aでの燃料漏洩(火災以前)等は近隣火災に含んでも良いし、近隣事故に含んでも良い。
【0068】
(水素漏洩モード)
制御盤35はディスペンサー14の筐体内部に設けた水素検知器38から水素漏洩による水素検知信号を受信した場合、水素漏洩モードの制御としてディスペンサー14の屋根18の四辺に設けたシート展開装置50のラッチ解除部60に制御信号を送信し、保持部材58のラッチを解除して仕切シート56を落下展開させ、ディスペンサー設置領域14aを含む屋根18の下側の防護対象区画を囲む仕切区画を形成させる。
【0069】
続いて、制御盤35は、水噴霧用ポンプ設備44に起動信号を出力してポンプ運転を開始すると共に、開閉弁68に開制御信号を送信して開動作し、水噴霧用ポンプ設備44からの消火用水を消火ヘッド52に供給し、水素漏洩を起こしているディスペンサー14が設置されているディスペンサー設置領域14aを含む防護対象区画に消火用水を散布して冷却し、水素ガスを拡散し、水素の引火による爆発を抑制防止する。また、防護対象区画に対する消火用水の散布により、漏洩した水素は上方に希釈されながら通気構造をもつ屋根18を通って外部に排出されて拡散され、水素爆発を抑制防止する。
【0070】
なお、車両に対する水素充填中に水素漏洩が起きた場合、利用者は起動装置42を操作し、制御盤35は起動装置42からの起動信号を受信して異常警報を報知し、異常警報により水素漏洩を知った係員が制御盤35で所定の起動確認操作、例えば制御盤35に設けた起動確認スイッチ35aの操作を行うことで、水素検知信号を受信したときと同じ防災設備の制御動作が行われる。
【0071】
また、水素漏洩が起きたときは、展開した仕切シート56の冷却は必須でないことから、冷却剤散布ヘッド62からの冷却水の散布は行なわないが、非コーティングの仕切シート56を使用した場合には、漏洩した水素の周囲への拡散、特に、ガソリン等給油ステーション10A側への漏洩による引火を防ぐため、冷却水を散布して仕切シート56に含浸することで気密性を高めても良い。
【0072】
なお、冷却剤散布ヘッド62から仕切シート56の内側シート面へ冷却剤を散布するように配置した場合には、水素漏洩時に、漏洩した水素の防護対象区画外への排出を促し、防護対象区画内の水素濃度を希釈する目的で散布しても良い。
【0073】
(火災発生モード)
制御盤35は火災検知器36からディスペンサー14から漏洩した水素の火災に対する火災検知信号を受信した場合、屋根18の四辺に設けたシート展開装置50のラッチ解除部60に制御信号を送信し、保持部材58のラッチを解除して仕切シート56を落下展開させ、屋根18の下側の防護対象区画を囲むように仕切区画を形成させる。
【0074】
続いて、制御盤35は、火災発生モードの制御として水噴霧用ポンプ設備44に起動信号を出力してポンプ運転を開始すると共に、開閉弁68に開制御信号を送信して開動作し、水噴霧用ポンプ設備44からの消火用水を消火ヘッド52に供給し、火災を起こしているディスペンサー14が設置されている防護対象区画に消火用水を散布して火災を消火抑制する。
【0075】
また、制御盤35は、開閉弁64に開制御信号を送信して開動作し、水噴霧用ポンプ設備44からの消火用水を仕切シート56の両側に設けた冷却剤散布ヘッド62に供給し、展開した仕切シート56のシート面の内側と外側のそれぞれに冷却水を散布し、仕切シート56の防火性、耐火性、耐熱性、遮炎性、遮熱性及び遮炎性、遮煙性を向上させる。
【0076】
(周辺モード)
併設型水素ステーション10の公道、近隣周辺で車両事故やガス漏れ事故(近隣事故)、或いはガソリン等給油ステーション10Aの火災、住宅火災や車両火災(近隣火災)などの近隣火災が発生した場合、ステーションの係員が近隣火災による水素ステーション10Bの危険度が高まったと判断した場合に制御盤35で所定の起動操作、例えば制御盤35に設けた起動スイッチ35bの操作を行うことで防災設備の制御動作を行う。
【0077】
近隣火災等の発生に対する周辺モードの制御動作は、制御盤35の起動操作に基づき屋根18の四辺に設けたシート展開装置50のラッチ解除部60に制御信号を送信し、保持部材58のラッチを解除して仕切シート56を落下展開させ、屋根18の下側の防護対象区画を囲むように仕切区画を形成させる。
【0078】
続いて、制御盤35は、水噴霧用ポンプ設備44に起動信号を出力してポンプ運転を開始すると共に、開閉弁64に開制御信号を送信して開動作し、水噴霧用ポンプ設備44からの消火用水を仕切シート56の両面側に設けた冷却剤散布ヘッド62に供給し、展開した仕切シート56のシート面の内側と外側のそれぞれに冷却水を散布し、近隣火災に対し仕切シート56の防火性、耐火性、耐熱性、遮炎性、遮熱性及び遮煙性を高め、防護対象区画を近隣火災から確実に防護する。ここで、遮煙性の向上によっては、煙による汚損や人体への被害をより効果的に防止することができる。また、煙による視認性低下によって対応活動が阻害されることも、効果的に防止することができる。
【0079】
更に、近隣火災が拡大して火災の危険度が高まった場合には、制御盤35の所定の手動操作、例えば制御盤35に設けた手動消火スイッチ(図示せず)の操作により開閉弁68に開制御信号を送信して開動作し、水噴霧用ポンプ設備44からの消火用水を消火ヘッド52に供給し、防護対象区画に消火用水を散布して冷却し、仕切シート56の防火性、耐火性、遮炎性及び遮熱性を高め、近隣火災から確実に防護する。
【0080】
なお、水素漏洩、区画火災、周辺における異常事象(近隣火災、近隣事故)等の複数の異常事象が同時に発生した場合には、発生した異常事象に対応した制御モードを組み合わせた防災設備の制御動作を行う。
【0081】
[水素ステーションの防災設備の第2実施形態]
図6は水素ステーションの防災設備の第2実施形態を示した説明図であり、
図6(A)に通常時を斜視で示し、
図6(B)に動作時をシート透視状態として正面で示す。
図7は
図6の水素ステーションの防災設備の制御系統を示した説明図である。
【0082】
図6(A)に示すように、本実施形態は、前述した第1実施形態に加え、ディスペンサー14を覆う屋根18の四辺に設けたシート展開装置50に第2消火ヘッドとして機能する外側消火ヘッド70を設けたことを特徴とする。
【0083】
外側消火ヘッド70は、
図7に示すように、開閉弁72を介して給水配管63に接続され、開閉弁72は制御盤35からの信号線100eに接続される。開閉弁72と外側消火ヘッド70は第2消火手段を構成する。
【0084】
制御盤35による水素ステーションの防災設備の制御動作は、
図4に示した制御盤35による水素漏洩モード、火災発生モード、及び周辺モードに、外側消火ヘッド70による消火用水の散布の有無が追加されることになる。
【0085】
制御盤35による水素漏洩モードの制御動作は第1実施形態と同じであり、外側消火ヘッド70による消火用水の防護対象区画の外側周辺への散布は必須でないが、周辺への水素の拡散を更に抑制したい場合には、必要に応じて外側消火ヘッド70から消火用水を散布しても良い。
【0086】
また、制御盤35による火災発生モードの制御動作は、第1実施形態と同様に、内側の消火ヘッド52からの消火用水の散布に加え、
図6(B)に示すように、外側消火ヘッド70から、仕切シート56の外側に消火用水を散布し、延焼防止の効果を更に向上させる。
【0087】
また、制御盤35による周辺モードの制御動作は、第1実施形態と同様に、冷却剤散布ヘッド62により仕切シート56の外側及び又は内側に冷却水を散布すると共に、
図6(B)に示すように、外側消火ヘッド70から仕切シート56の外側で消火用水を散布し、近隣の公道、敷地などで発生する近隣火災等に対する防護対象区画側への遮炎、遮熱による延焼防止の効果を更に高める。なお、必要があれば内側の消火ヘッド52から消火用水を散布しても良い。
【0088】
ここで、本実施形態においては近隣火災と近隣事故について、制御の内容を同じにしているが、必要に応じこれらを異ならせても良い。
【0089】
[シート補強構造]
図8はシート周縁に充水用のチューブを設けたシート展開装置をシート展開状態で示した説明図、
図9は
図8のシート展開装置を設けた水素ステーションの防災設備の動作を示した説明図であり、
図9(A)に動作時を斜視で示し、
図9(B)に動作時を正面で示し、更に、仕切シートを透視状態として示している。
【0090】
図8に示すように、仕切シート56は両サイド及びシート下端辺に沿ってチューブ74が設けられ、仕切シート56を展開したときに開閉弁64を開くことで給水配管63から供給された消火用水をチューブ74に充填するようにしている。
【0091】
ここで、開閉弁64を開制御してチューブ74への充水を開始するタイミングは、仕切シート56の落下展開がほぼ終了した時点とすることがより好ましく、このようにすれば、展開終了前に充水を開始して仕切シートの両側端辺のチューブが充水流路の上流側から順次膨張することに起因して円滑な展開が阻害されることを防止できる。また、充水圧力も比較的低くすることができる。
【0092】
図9に示すように、シート展開装置50の作動で防護対象区画の周囲を囲んで展開した仕切シート56のチューブ74に消火用水が充填されると、チューブ74に充填した消火用水の重量及び水圧により仕切シート56を補強する枠体が形成されて仕切シート56の展開状態を保ち、風により仕切シート56が捲れたり動いたりしてしまうことを抑制して仕切り状態を確実に維持可能とする。なお、チューブ74は必ずしも仕切シート56の3辺に設けなくても良い。例えば、仕切シート56の縦2辺のみとしても良い。また、適切な充水ルートが設定できる場合には、下端辺のみに設けても良い。
【0093】
[消火用水の上向き散布]
図10はシート上部に放出開口を設けたシート展開装置をシート展開状態で示した説明図、
図11は
図10のシート展開装置を設け且つ、
図5の実施形態に水素漏洩時に、漏洩水素の排出促進剤として消火剤を上向きに散布する上向き散布手段を設けた水素ステーションの防災設備を動作状態で示した説明図であり、
図11(A)に動作時を斜視で示し、
図11(B)に動作時を正面で示し、更に、仕切シートを透視状態として示している。
【0094】
図10に示すように、本実施形態のシート展開装置50に設けた仕切シート56には、仕切シート56を展開したときに防護対象区画に漏洩した水素を外部に放出するための放出開口76をシート上部に形成している。
【0095】
また本実施形態にあっては、
図11に示すように、仕切シート56の展開で仕切られた防護対象区画内の底部側の所定位置に配置され、防護対象区画の水素の漏洩発生時に、防護対象区画内に上向きに消火剤を散布する上向き散布手段として、防護対象区画周縁の路面(床面)に沿って設けたトラフ78の中に敷設した給水配管に複数の散布ヘッド80を上向きに配置し、散布ヘッド80により防護対象区画内に上向きに、本例では消火用水を散布するようにしている。なお、トラフ78の開口には格子蓋が配置され、散布ヘッド80の上部に配置する格子蓋には放水開口78aが形成されている。なお、散布ヘッド80の設置形態は上記に限定されず、例えば防護対象区画内の床面に上向きに埋設設置しても良い。
【0096】
このため防護対象区画で例えばディスペンサー14から水素が漏洩した場合、防護対象区画空間の下側周縁に設けたトラフ78内に設置した散布ヘッド80から防護対象区画空間内の上方側に向けて消火用水を噴き上げ、消火用水の噴き上げにより発生する気流に乗せて漏洩した水素を運び、漏洩した水素を屋根18の通気構造に加え、展開した仕切シート56の上部に形成した放出開口76から上方に効率良く放出させることで水素を排出して上空へ拡散させて希釈し、水素爆発を抑制防止可能とする。この際、あわせて仕切シートへの冷却材散布を行っても良い。
【0097】
なお、放出開口76を設けた仕切シート56は、前述した他の実施形態に使用しても良い。
【0098】
また、仕切シート56に放出開口76を形成するのに代えて、又はこれに加えて、屋根18のやや下方にシート展開装置50を設けて、屋根18とシート展開装置50との間に放出開口が出来るようにしても良い。
【0099】
(排出促進用ガスによる漏洩水素の排出希釈)
ここで、漏洩水素排出促進剤として、消火用水に加えて、またはこれに代えて空気、窒素、他の不活性ガスやこれらの混合ガス(以下、「排出促進用ガス」と称する)を採用しても良い。この場合には、不要な水損を防止することができる。なお、不活性ガスの例としては、窒素、IG-55(窒素50%、アルゴン50%の混合ガス)、IG-54(窒素52%、アルゴン40%、二酸化炭素8%の混合ガス)等が挙げられる。なお、IG-55、IG-541は消火剤(消火用ガス)としても利用されているものである。
【0100】
また、例えば水素漏洩の場合に、漏洩水素濃度が所定の第1濃度条件を充足した場合には散布ヘッド80から排出促進用ガスを上向きに放出して漏洩水素を希釈し、所定の第2濃度条件を充足した場合には、消火ヘッド52からの消火用水の散布に切替え、又は消火ヘッド52から消火用水の散布を加えるようにしても良い。
【0101】
所定の第1濃度条件とは例えば、水素が漏洩しているが、引火や発火、爆発に至る危険性が相当低いと判断される濃度範囲であり、所定の第2濃度条件とは例えば、引火や発火、爆発に至る危険性が第1濃度条件と比較して高いと判断される濃度範囲である。これらの条件に、濃度上昇率や継続時間の要素を付加して判断しても良い。
【0102】
このような漏洩水素濃度に応じた制御盤35の上向き散布手段の制御として、例えば、制御盤35は水素検知器38による検知水素濃度が25%LEL(Lower Explosion Limit;爆発下限界)に達したときには第1濃度条件を充足したとしてこれを報知(警報)すると共に仕切シート56を展開して防護対象区画を仕切って散布ヘッド80から排出促進用ガスを上向きに散布して漏洩水素を排出希釈する。そして、水素濃度が更に上昇して検知水素濃度が50%LELに達したときには第2濃度条件を充足したとして、散布ヘッド80からの上方への散布を消火ヘッド52から消火用水の散布に切替える、或いは排出促進用ガスの散布と消火用水の散布の両方を行うようにして、水素ガスの排出希釈と防護対象区画内空間及び同区画内の防護対象物(例えばディスペンサー)の冷却防護を同時に行うようにしても良い。なお、例えば、水素濃度が更に上昇して60~75%LELにまで達すると、水素ステーションの水素供給に係るシステムのシャットダウン制御が行われるようにしている。
【0103】
このようにすれば、水素濃度が低い場合には消火剤は散布されず水損を防止できると共に、排出促進用ガスの散布で希釈した結果濃度が下がらない場合には消火剤散布により、より確実な防護へと切り替えられる。
【0104】
なお、本実施形態の上向き散布手段を、他の実施形態と組合せても良く、例えば
図6、
図9の実施形態と組合せることができ、各場合について
図3の冷却手段の構成を採用することもできる。
【0105】
[防災設備の制御]
図12は
図7に示した第1消火手段、第2消火手段及び冷却手段を備えた水素ステーションの防災設備の異常事象に対する制御パターンを示した説明図であり、発生する異常事象を水素漏洩、区画火災、近隣火災、近隣事故に分け、それぞれの異常事象の発生に対する第1消火手段、第2消火手段及び冷却手段の制御を
図12(A)~(E)の制御パターン1~5に分けて示し、制御する場合を「ON」としている。
【0106】
ここで、
図7に示したように、第1消火手段は消火ヘッド52と開閉弁68で構成され、第2消火手段は外側消火ヘッド70と開閉弁72で構成され、冷却手段は冷却剤散布ヘッド62と開閉弁64で構成される。なお、シート展開装置50は全ての異常事象の発生について動作する。また、ガソリン等給油ステーション10Aの燃料漏洩(火災以前)は近隣火災又は近隣事故に含める。
【0107】
(制御パターン1)
図12(A)の制御パターン1は、第1消火手段及び冷却手段を対象とした最小限必要な制御パターンであり、水素漏洩又は区画火災が発生した場合は第1消火手段のみを動作し、一方、近隣火災又は近隣事故が発生した場合は冷却手段のみを動作する。
【0108】
(制御パターン2)
図12(B)の制御パターン2は、第1消火手段、第2消火手段及び冷却手段を対象とした制御パターンであり、水素漏洩又は区画火災が発生した場合は第1消火手段と冷却剤散布手段を動作し、一方、近隣火災又は近隣事故が発生した場合は第2消火手段と冷却手段を動作する。
【0109】
(制御パターン3)
図12(C)の制御パターン3は、第1消火手段、第2消火手段及び冷却手段を対象とした別の制御パターンであり、水素漏洩又は区画火災が発生した場合は、第1消火手段と第2消火手段を動作し、一方、近隣火災又は近隣事故が発生した場合は第1消火手段と冷却手段を動作する。
【0110】
(制御パターン4)
図12(D)の制御パターン4は、近隣火災又は近隣事故が発生した場合に第1消火手段と第2消火手段を動作する制御パターンである。なお、水素漏洩又は区画火災が発生した場合については省略しているが、制御パターン1~3の何れかとする。
【0111】
(制御パターン5)
図12(E)の制御パターン5は、全ての異常事象の発生に対し第1消火手段、第2消火手段及び冷却手段の全てを動作する制御パターンである。これに加え第1消火手段、第2消火手段及び冷却手段を動作する順番を、水素漏洩又は区画火災については、例えば、(第1消火手段)→(冷却手段)→(第2消火手段)
の順番とし、一方、近隣火災又は近隣事故については、例えば、
(冷却手段)→(第2消火手段)→(第1消火手段)
の順番としている。なお、何れについても、最初は仕切手段の仕切シートを展開して防護対象区画を囲む仕切区画を形成している。
【0112】
上記各手段の動作の順番は一例であり、他の順番としても良いし、何れか2つまたは3つの動作を同時としても良い。
【0113】
また
図4に示した第1消火手段及び冷却手段を備えた水素ステーションの防災設備の異常事象に対する制御パターンは、
図12(A)~(E)に示した制御パターン1~5から第2消火手段を除いた制御パターンとなる。
【0114】
[本発明の変形例]
(多重仕切区画の形成)
仕切シートの展開により、防護対象物であるディスペンサー設置領域を含む防護対象区画を仕切る仕切区画の形成は、防護対象区画を二重に囲むように仕切っても良い。この場合、内側の仕切区画と外側の仕切区画の間の中間領域は防護対象区画として扱っても良いし、防護対象区画外として扱っても良い。
【0115】
また、三重以上に囲む仕切区画を形成する場合には、最も内側の区画以外の二重以上の間の中間領域については、その一部または全部について、防護対象区画として扱うか防護対象区画外として扱うかは、そのシステムや運用形態その他の事情にあわせて選択することができる。
【0116】
(第1、第2消火手段の消火剤)
上記実施形態の消火手段(第1消火手段)、第2消火手段では消火剤として消火用水を散布する例を示したが、上向き散布手段の実施形態と同様に、消火用水の散布に漏洩水素排出促進剤として消火用ガス(例えばIG-55、IG-541)の散布を組合せても良い。
【0117】
例えば水素漏洩発生の場合に、漏洩水素濃度が所定の第3濃度条件を充足した場合には消火ヘッド52、外側消火ヘッド70から上記何れかのガスを放出して漏洩水素を希釈し、所定の第4濃度条件を充足した場合には、消火用水の散布に切替え、又は消火用水の散布を加えるようにしても良い。
【0118】
所定の第3濃度条件とは例えば、水素が漏洩しているが、引火や発火、爆発に至る危険性が相当低いと判断される濃度範囲であり、所定の第4濃度条件とは例えば、引火や発火、爆発に至る危険性が第3濃度条件と比較して高いと判断される濃度範囲である。これらの条件に、濃度上昇率や継続時間の要素を付加して判断しても良い。
【0119】
このような漏洩水素濃度に応じた制御盤35の消火手段の制御として、例えば、消火手段(第1消火手段)の場合、制御盤35は水素検知器38による検知水素濃度が25%LELに達したときには第3濃度条件を充足したとしてこれを報知(警報)すると共に仕切シート56を展開して防護対象区画を仕切って消火ヘッド52から消火用ガスを散布して漏洩水素を排出希釈する。そして、水素濃度が更に上昇して検知水素濃度が50%LELに達したときには第4濃度条件を充足したとして、消火ヘッド52からの散布を消火用水の散布に切替える、或いは消火用ガスの散布と消火用水の散布の両方を行うようにして、水素ガスの排出希釈と防護対象区画内空間及び同区画内の防護対象物(例えばディスペンサー)の冷却防護を同時に行うようにしても良い。
【0120】
このようにすれば、水素濃度が低い場合には消火用水は散布されず水損を防止できると共に、排出促進ガスの散布で希釈した結果濃度が下がらない場合には消火剤散布により、より確実な防護へと切り替えられる。第2消火手段についても同様とすることができる。
【0121】
(濃度条件)
上記の実施形態で示した第1濃度条件と第3濃度条件は同じであっても良いし異なるものであっても良い。第2濃度条件と第4濃度条件についても同様である。
【0122】
また、上記の実施形態で示した各濃度条件の水素濃度数値は一例であり、本発明はこれら数値に限定されない。
【0123】
(水素検知信号)
水素検知器38からの水素検知信号は、所定濃度に達した旨を示す信号であっても良いし、検知した水素濃度を示すものであっても良い。後者の場合には、制御盤35が所定濃度に達しているか否かを判断することになる。
【0124】
(水素ステーション)
上記の実施形態はガソリン等給油ステーションと併設する併設型水素ステーションを例にとるものであるが、これに限定されず、単独型の水素ステーションについても同様に適用できる。
【0125】
また、上記の実施形態は水素製造設備を備えたオンサイト型の水素ステーションを例にとるものであったが、これに限定されず、水素製造設備を持たないオフサイト型の水素ステーションについても同様に適用できる。
【0126】
(シート展開装置)
上記の実施形態は、ディスペンサー上部を覆う屋根の周縁に複数のシート展開装置を配置した場合を例にとっているが、ディスペンサー設置領域を含む防護対象区画の周囲を取り囲むように仕切シートを展開することができれば、シート展開装置の配置は必要に応じて任意の配置とする。
【0127】
また、防護対象区画の横幅が長くなる場合は、複数台のシート展開装置を横に並べて配置する。この場合、隣接する仕切シートが端部で重なって隙間を塞ぐように複数台のシート展開装置を横に並べて配置する。
【0128】
(実施形態のその他の組合せ)
本発明は、上記した各実施形態の組合せ以外にも、その目的と利点を損なうことのない適宜の組合せを含む。
【0129】
(その他)
また、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、例えば、消火用水は消火泡、粉末消火剤に代えることができる。
【0130】
更に本発明は、上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0131】
10:併設型水素ステーション
10A:ガソリン等給油ステーション
10B:水素ステーション
10C:水素製造エリア
11,15:防火壁
12:固定給油設備
12a:給油スタンド
13:固定注油設備
13a:注油スタンド
14:ディスペンサー
14a:ディスペンサー設置領域
16,18:屋根
20:原燃料タンク
22:水素製造装置
24:圧縮機
25:貯蔵設備
26:事務所
32:火災受信盤
34:火災感知器
35:制御盤
36:火災検知器
38:水素検知器
40:温度検出器
42:起動装置
44:水噴霧用ポンプ設備
46:非常電源設備
48:水噴霧ヘッド
50:シート展開装置
52:消火ヘッド
55:装置本体
56:仕切シート
57:シート固定部
58:保持部材
60:ラッチ解除部
62:冷却剤散布ヘッド
63:給水配管
64,68,72:開閉弁
70:外側消火ヘッド
74:チューブ
76:放出開口
78:トラフ
80:散布ヘッド