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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】折り畳み式浴槽
(51)【国際特許分類】
   A61H 33/00 20060101AFI20240416BHJP
   A47K 3/06 20060101ALI20240416BHJP
   A61F 7/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61H33/00 310E
A47K3/06
A61F7/00 332
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023173492
(22)【出願日】2023-10-05
【審査請求日】2023-10-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2022年12月19日に川上貴がウェブサイト(https://profit.co.jp/p-pec/)に本願発明の折り畳み式浴槽を掲載した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523380081
【氏名又は名称】川上 貴
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】川上 貴
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-061930(JP,A)
【文献】実開平05-062239(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/00
A61F 7/00
A47K 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棺桶形状の底面シートと、
高さが、仰向けの人の胸部の高さに対応し、下端部が、前記底面シートの棺桶形状の外周端部に接続されることで、当該棺桶形状の外周壁を構成する側面シートと、
高さが、前記側面シートの高さに対応し、当該側面シートの長さ方向に沿って所定の間隔を空けて配置されることで、前記側面シートを折り畳み可能にする複数のパネルと、
前記複数のパネルのうち、前記底面シートの棺桶形状の頭部の頂点付近に間隔が来るように配置された少なくとも2枚の頭部のパネルと、
前記複数のパネルのうち、前記底面シートの棺桶形状の脚部の底点付近に間隔が来るように配置された少なくとも2枚の脚部のパネルと、
高さが、前記側面シートの高さに対応し、前記底面シートの棺桶形状の左右側に存在する左右のパネルの外側に折り畳み可能に接続される左右一対の支持フラップと、
前記底面シートの棺桶形状の頭部に吊り下げ可能に設けられる枕部と、
を備え、
前記2枚の頭部のパネルと、前記2枚の脚部のパネルとによって、前記底面シートの棺桶形状を左右側から折り畳んだ状態から、前記左右のパネルを相互に離して外側に広げて、前記複数のパネルを前記底面シートに対して立位させて、前記左右一対の支持フラップを前記左右のパネルに対して外側に広げることで、浴槽を形成し、当該浴槽に給水して、前記枕部に人の頭部を設置して、当該人を仰向けに入浴可能とする、
折り畳み式浴槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱中症対策や介護に用いることが可能な折り畳み式浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、折り畳むことで、持ち運びが容易で、簡単に組立・設置可能な折り畳み式浴槽に関する技術が多数存在する。
【0003】
例えば、特開2015-078004号公報(特許文献1)には、水槽本体と、支持部材とを備える折り畳み式水槽が開示されている。水槽本体は、弾性変形可能な外周壁と底部を有する。支持部材は、水槽本体の内側に設けられ、外周壁と底部とを接続する。外周壁は、複数枚の壁板で構成され、複数枚の壁板が起立可能な状態で周方向に隣接して設けられる。支持部材は、その一端部が外周壁の壁板同士を折り曲げ可能に接続する接続折れ部に取り付けられ、その他端部が底部に取り付けられる。これにより、水槽の外枠(外周壁)に、鉄パイプ等からなる支柱、梁部材、枠骨等の規制手段を設けることなく水槽の形状を安定に維持し、組立設置作業及び撤去作業が容易な角型の折り畳み式水槽を提供することが出来るとしている。
【0004】
又、特開2003-180538号公報(特許文献2)には、一枚の防水シートを折り畳んで水槽の形状を作る簡易型水槽が開示されている。水槽の側面立ち上がり部分に分割された側壁を差し込み、水槽と側壁を緊結し、又、側壁どうしを緊結する事により防水シート水槽の側面立ち上がり部を補強し、側面を自立させる。又、側壁の防水シート差込部クリアランスの下部内側に水圧が作用した場合にクリアランスを確保するため、スペーサーを2箇所に設ける。分割された側壁の外部には、三角形の折り畳み式バットレスを設け、内部の水圧に抵抗させると同時に接地面を増やす事により水を入れた時の転倒に対する安定性、自立性を増す。これにより、軽量で持ち運びが便利、その上収納も場所をとらず、且つ、遮水性に信頼のおける安全で安定性のある多目的な水槽を提供することが出来るとしている。
【0005】
又、実用新案登録第3229797号公報(特許文献3)には、枠板を蝶番でつないだ箱形の内側に軟質樹脂製の浴槽を接着固定することで、簡単に組み立てができるとともに、持ち運びが容易で保管スペースを小さくできる折り畳み仮設風呂が開示されている。これにより、折り畳みができ、組み立てが簡単で運搬、保管も容易であり、入浴の困難な被災地等でも容易に入浴を可能にする仮設風呂を提供することが出来るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-078004号公報
【文献】特開2003-180538号公報
【文献】実用新案登録第3229797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、気候変動等により熱中症患者が増加している。従来、熱中症の応急処置として首筋・脇の下・鼠径部を冷却することが有効とされているが、この方法では、熱中症の軽症から中等症の初期程度までしか有効で無いことが、近年の研究によって証明されてきている。一方で、周囲の人が、緊急で熱中症患者を処置する場合は、その熱中症患者は、重症であることが殆どである。そのような場合、従来の熱中症の応急処置では、殆ど効果が見込めない。そこで、近年では、重症の熱中症に対する処置としては、患者の全身を水の入った浴槽に浸すことで、患者の全身を急速に冷却する浸漬法が有効な手段であると認識されてきている。
【0008】
しかしながら、このような患者の全身を水につけるための浴槽を、野外に持ち運んだり、迅速に設置及び撤去したりすることは、通常、困難であるという課題がある。又、簡易型の浴槽では、空気を入れて形作る必要があったり、非常に多くの水が必要であったり、保管のためのスペースが必要であったりするという課題が存在する。
【0009】
ここで、特許文献1に記載の技術は、水槽を容易に折り畳むことが出来るため、水槽の持ち運びや設置、撤去、保管が容易になるが、支持部材が水槽の内側に設けられているため、支持部材が、患者の身体に干渉し、患者の全身を水に浸すことが難しい。又、水槽の形状が人間の体に沿う形状ではないため、余分な容積が生まれ、水を貯めるのに時間がかかり、重症の熱中症患者を迅速に冷却する処置が出来ない。そのため、前記課題を解決することは出来ない。
【0010】
又、特許文献2に記載の技術は、防水シートから水槽の形状を作った後、水槽の側面に側壁を差し込み、水槽と側壁を緊結し、側壁同士を緊結することで、側面を自立させることが出来るが、側壁を差し込んだり、緊結したりすることが煩雑であり、重症の熱中症発生時に迅速に設置することが出来ない。そのため、前記課題を解決することは出来ない。
【0011】
又、特許文献3に記載の技術は、折り畳み可能な仮設風呂であるが、鋼鉄の板から構成されるため、重量が大きく持ち運びが困難であり、又、ロックピンによって鋼鉄の板を固定する手間が生じ、重症の熱中症発生時に迅速に設置することが出来ない。そのため、前記課題を解決することが出来ない。
【0012】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、迅速に設置可能で、必要最小限の給水で全身浸透することが出来て、更には、迅速に後片付けも可能な折り畳み式浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る折り畳み式浴槽は、底面シートと、側面シートと、複数のパネルと、左右一対の支持フラップと、枕部と、を備える。底面シートは、棺桶形状である。側面シートは、高さが、仰向けの人の胸部の高さに対応し、下端部が、前記底面シートの棺桶形状の外周端部に接続されることで、当該棺桶形状の外周壁を構成する。複数のパネルは、高さが、前記側面シートの高さに対応し、当該側面シートの長さ方向に沿って所定の間隔を空けて配置されることで、前記側面シートを折り畳み可能にする。左右一対の支持フラップは、高さが、前記側面シートの高さに対応し、前記底面シートの棺桶形状の左右側に存在する左右側のパネルの外側に折り畳み可能に接続される。枕部は、前記底面シートの棺桶形状の頭部に吊り下げ可能に設けられる。
【0014】
又、本発明に係る折り畳み式浴槽は、前記複数のパネルを前記底面シートに対して立位させて、前記左右一対の支持フラップを前記左右側のパネルに対して外側に広げることで、浴槽を形成し、当該浴槽に給水して、前記枕部に人の頭部を設置して、当該人を仰向けに入浴可能とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、迅速に設置可能で、必要最小限の給水で全身浸透することが出来て、更には、迅速に後片付けも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の一例を示す平面図と右側面図とである。
図2】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽を折り畳んだ状態でバックに入れた場合と、バッグから折り畳み式浴槽を取り出した場合との一例を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の左右側のパネルを合わせた状態の一例を示す斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の支持フラップを折り畳んだ状態の一例を示す斜視図である。
図5】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の支持フラップを広げた状態の一例を示す第一の斜視図である。
図6】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の支持フラップを広げた状態の一例を示す第二の斜視図である。
図7】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽に看護者が水を入れる場合の一例を示す斜視図である。
図8】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の水に重症の熱中症患者の全身を浸した場合の一例を示す斜視図である。
図9】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の水を看護者が排水する場合の一例を示す斜視図である。
図10】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の支持フラップを看護者が折り畳んだ場合の一例を示す斜視図である。
図11】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の側面シートを看護者が内側に折り曲げて排水する場合の一例を示す斜視図である。
図12】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽の側面シートを看護者が内側に折り曲げて排水する場合の一例を示す拡大斜視図である。
図13】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽において、脚部の左右側のパネルを内側に折り畳んだ場合の一例を示す斜視図である。
図14】本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽において、脚部の左右側のパネルを結束部材で結束した場合の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0018】
本発明の実施形態に係る折り畳み式浴槽1は、図1に示すように、底面シート10と、側面シート11と、複数のパネル12と、左右一対の支持フラップ13と、枕部14と、を備える。
【0019】
ここで、底面シート10は、棺桶形状であり、例えば、図1に示すように、大人の人が仰向けで寝ることが可能な形状である。ここで、棺桶形状とは、頭部と、胸部と、腹部と、脚部とから構成され、例えば、脚部の左右のサイズが、頭部の左右のサイズよりも狭くなっている形状を意味する。図1に示す棺桶形状では、略六角形状で、胸部から、腹部と、脚部とまでの左右のサイズが緩やかに狭くなっている。
【0020】
又、側面シート11は、高さh1が、仰向けの人の上下の高さh0よりも所定の高さh2だけ高めに設定され、下端部11aが、底面シート10の棺桶形状の外周端部10aに接続されることで、当該棺桶形状の外周壁を構成する。
【0021】
又、複数のパネル12は、高さh3が、側面シート11の高さh1に対応し、当該側面シート11の長さ方向に沿って所定の間隔dを空けて配置されることで、側面シート11を折り畳み可能にする。ここで、複数のパネル12の存在と、隣接する2つのパネル12の間隔dの存在により、間隔dが、パネル12の折り畳み部分として機能して、長尺の側面シート11を折り畳み可能とするとともに、側面シート11の強度を高めることが出来る。又、パネル12の高さh3は、側面シート11の高さh1と同等である。又、パネル12の形状は、例えば、図1に示すように、正方形や長方形である。
【0022】
又、パネル12の配置について、例えば、底面シート10の棺桶形状の頭部では、頭部を頂点と左右で取り囲むように、4枚のパネル12が配置され、底面シート10の棺桶形状の胸部と、腹部とでは、左右一対のパネル12が配置され、底面シート10の棺桶形状の脚部では、脚部を底点と左右で取り囲むように、4枚のパネル12が配置されている。ここで、頭部の頂点付近に間隔dが来るように2枚のパネル12が配置され、脚部も同様に、脚部の底点付近に間隔dが来るように2枚のパネル12が配置されている。これにより、底面シート10の棺桶形状を左右側から折り畳むことが出来る。
【0023】
さて、パネル13の長手方向の長さは、側面シート11の配置位置に応じて適宜設定されるが、例えば、棺桶形状の頭部の頂点では、長手方向の長さが短い2枚のパネル12が配置され、棺桶形状の頭部の左右では、長手方向の長さが長い2枚のパネル12が配置される。脚部も同様に、棺桶形状の脚部の底点では、長手方向の長さが短い2枚のパネル12が配置され、棺桶形状の脚部の左右では、長手方向の長さが長い2枚のパネル12が配置される。その他の胸部と、腹部との左右では、長手方向の長さが長い2枚のパネル12が配置される。そして、隣接する2つのパネル12の間隔dは、パネル12の配置位置によって適宜設定されている。
【0024】
又、左右一対の支持フラップ13は、高さh4が、パネル12の高さh3に対応し、底面シート10の棺桶形状の左右側に存在する左右一対のパネル12の外側に折り畳み可能に接続されている。図1では、支持フラップ13が、底面シート10の棺桶形状の胸部の左右側のパネル12と、腹部の左右側のパネル12のそれぞれに設けられることで、4つの支持フラップ13が、側面シート11のうち、底面シート10の左右側を支持するように設けられている。ここで、支持フラップ13が、左右一対で設けられることで、側面シート11を底面シート10の外周端部にバランスよく立位させることが出来る。又、支持フラップ13の形状は、例えば、図1に示すように、直角五角形であり、直角を形成する直角五角形の一辺が側面シート11の外側に接続されている。
【0025】
又、枕部14は、底面シート10の棺桶形状の頭部に吊り下げ可能に設けられている。ここで、図1では、例えば、底面シート10の棺桶形状の頭部の左右側のパネル12に2本のベルト14aが掛けられ、2本のベルト14aの中央付近に枕シート14bを設置することで、枕部14を構成している。
【0026】
さて、本発明の使用方法について具体的に説明すると、図2に示すように、本発明の折り畳み式浴槽1は、最初に、底面シート10を側面シート11の内側に折って、底面シート10に対して左右側のパネル12を底面シート10の中心付近で合わせて、細長い形状にされる。次に、隣り合う2枚のパネル12を順次折り畳むことで、側面シート11がコンパクトに折り畳まれる。そして、本発明の折り畳み式浴槽1は、側面シート11が折り畳まれた状態で、バッグBに収納される。バッグBには、例えば、熱中症に必要な給水袋や温度計が収納されることがある。そして、折り畳み式浴槽1をバッグBに入れることで、本発明は、場所を取らずに簡単に保管することが出来る。
【0027】
さて、重症の熱中症患者が出た場合、看護者が、バッグBの中から折り畳み式浴槽1を取り出して、折り畳まれた側面シート11の複数のパネル12を側面シート11の長手方向に沿って広げることで、折り畳まれていた側面シート11を広げると、図3に示すように、本発明の折り畳み式浴槽1は、左右側のパネル12が合わさった細長い形状となる。
【0028】
そして、看護者は、左右側のパネル12を相互に離して外側に広げて、複数のパネル12を底面シート10に対して立位させると、図4に示すように、本発明の折り畳み式浴槽1は、棺桶形状の底面シート10が表れ、棺桶形状の頭部には、枕部14が吊り下げられた状態となる。
【0029】
ここで、複数のパネル12を底面シート10に対して立位させた場合、上述の支持フラップ13が存在しなくても、パネル12を設けた側面シート11を底面シート10の外周に立てた状態にすることが出来る。
【0030】
しかしながら、例えば、側面シート11内に水を入れると、水圧によって、棺桶形状の長手方向の中央付近に位置する左右側のパネル12、例えば、胸部や腹部、脚部の左右側のパネル12は、外側に倒れて、適切な浴槽の形成状態を維持することが出来ない。ここで、適切な浴槽の形成状態とは、浴槽内に適切な水位を維持するために、側面シート11に設けられた複数のパネル12が、地面に置かれた底面シート10に対して垂直に立位する状態である。
【0031】
そこで、看護者は、左右一対の支持フラップ13を左右側のパネル12に対して外側に広げることで、図5図6に示すように、浴槽を形成する。ここで、支持フラップ13を外側に広げることで、支持フラップ13が、一定の強度を持って側面シート11を底面シート10に立てた状態にすることが可能となり、看護者が、浴槽内に水を入れて、水圧が生じても、支持フラップ13が、一定の強度を持って側面シート11及びパネル12を底面シート10に対して垂直に立てた状態にすることが出来る。
【0032】
ここで、本発明では、看護者が、バッグBから折り畳み式浴槽1を取り出してから、複数のパネル12を広げて、支持フラップ13を外側に広げて立て、浴槽を形成するまでに要する時間は、3秒も掛からない。つまり、本発明では、バックBから取り出して浴槽を形成するまで、迅速に短時間で実現することが出来る。
【0033】
さて、浴槽が形成されると、図7に示すように、看護者が、給水袋等を用いて、浴槽内に水を給水する。ここで、本発明では、浴槽が、人の体の形にあった棺桶形状になっていることから、必要最低限の水量で浴槽を満たすことが出来る。例えば、付属の給水袋を用いて給水すると、2分~3分の時間で浴槽内に水を浸すことが出来る。水量については、僅か80Lの水だけで浴槽内に全身を浸すぐらいに水を浸すことが可能である。
【0034】
又、支持フラップ13を外側に広げる構成としていることから、上述のように、浴槽に浸った水の水圧が側面シート11に外側に向かって掛かることで、側面シート11に設けられたパネル12を介して支持フラップ13に外側に向かって水圧が掛かり、支持フラップ13をより強固に立位状態にして、倒れ難くすることが出来る。これにより、浴槽の形を維持することが出来る。
【0035】
さて、浴槽に水が貯まると、看護者が、重症の熱中症患者を抱きかかえて、浴槽内に入れて、熱中症患者の頭を枕部14に配置して、図8に示すように、熱中症患者の全身を水で浸す。ここで、側面シート11の高さh1は、仰向けの人の上下の高さh0よりも所定の高さh2だけ高めに設定されていることから、看護者が、重症の熱中症患者を無理に高く持ち上げることなく、熱中症患者の全身を迅速に浴槽内に浸水させることが出来る。その結果、重症の熱中症患者の全身を迅速に冷却することが可能となる。又、枕部14を設けることで、重症の熱中症患者の頭部が水に浸されることが無く、冷却が必要な部分だけ浸水させることが可能となる。
【0036】
ここで、重症の熱中症患者には、アイスバスが有効ということが認知されてきている。アイスバスとは、スポーツの練習後に疲労回復の促進や筋肉の炎症を抑えるために、氷を入れた水風呂に入って身体を冷却することを意味する。従来から、軽症や中等症の熱中症患者には、従来の熱中症の応急処理として首筋・脇の下・鼠径部に氷嚢や冷却パックを当てて冷却することが有効とされてきたが、重症の熱中症患者には著しく効果が低いことが分かってきた。例えば、重症の熱中症患者には、救命のために、全身を水に漬ける浸漬法が、従来の熱中症の応急処理よりも、冷却速度が速く、特に有効であることが示されている。具体的には、重度の熱中症患者では、発症後、30分以内に身体の深部体温を3度以上、下げないと、生命の危険があるとされている。例えば、“Cold Water Immersion The Gold Standard for Exertional Heatstroke Treatment”,Casa, Douglas J.、McDermott, Brendon P.、Lee, Elaine C.、Yeargin, Susan W.、Armstrong, Lawrence E.、Maresh, Carl M.,Exercise and Sport Sciences Reviews 35(3):p 141-149, July 2007 や 公益財団法人日本ソフトボール協会のコラム第1回「熱中症が疑われる時の身体冷却の方法について」(http://www.softball.or.jp/medical/column/20210924.html)を参照されたい。本発明では、迅速に浴槽を設置することが出来るとともに、必要最小限の水量を浸して、重度の熱中症患者に水を素早く浸透させることが出来るため、重度の熱中症患者の応急処置として最適である。
【0037】
実際、重度の熱中症患者が発症した際に、現場で、従来の熱中症の応急処理を用いて、太い血管を氷等で冷却した場合、身体の深部体温を3度下げるために要する時間は、近年の医学的な文献の数値を用いると、約90分と算出された。これでは、30分以上掛かっているため、重度の熱中症患者の生命の危険がある。他の日本の研究者でも、大血管の部分の冷却では、救命のタイムリミットを大幅に超えてしまうという感想を得た。その他に、エアーチューブ型の折り畳み式浴槽も市場では存在するが、エアーチューブ型の折り畳み式浴槽では、エアーを吹き込んで、浴槽を形作るしかなく、エアーの吹き込みに時間を要し、浴槽を作るだけでも、15分~20分の時間が掛かる。又、重度の熱中症患者が発症した際に、現場で、救急車を呼んで病院へ運ぶ場合、119番の電話をしてから病院へ到着するまでの全国平均時間は、約40分であり、このような方法でも不十分である。
【0038】
一方、重度の熱中症患者が発症した際に、現場で、本発明の折り畳み式浴槽1を用いて、身体を水に浸漬して冷却した場合、身体の深部体温を3度下げるために要する時間は、様々な水温による浸漬法(身体冷却方法)を前提として近年の医学的な文献の数値を用いると、約18分と算出された。もともと、浴槽の形作りに3秒も掛からず、水を貯めるのにも殆ど時間が掛からない。これであれば、重度の熱中症患者の生命の危険が生じることなく、応急処理として極めて有効であることが理解される。
【0039】
さて、看護者が、重症の熱中症患者を浴槽内の水に浸漬させて、熱中症患者の体調が戻ってきたとする。すると、看護者が、応急処理を完了し、熱中症患者を浴槽内から外へ出すと、図9に示すように、浴槽内は、水が貯まった状態になっている。
【0040】
そこで、看護者が、後片付けのために、図10に示すように、広がった支持フラップ13を左右側のパネル13に対して内側に寄せて折り畳むと、側面シート11を底面シート10に対して容易に倒すことが出来る状態となる。
【0041】
次に、看護者が、図11に示すように、側面シート11を底面シート10に対して内側に押し倒すことで、図12に示すように、浴槽内の水が外部に流れ出る。これにより、看護者は、浴槽内の水を容易に外部に排出することが出来る。ここで、浴槽内の排水に要する時間は、例えば、20秒で完了することが出来る。そして、看護者は、底面シート10や側面シート11の内側の水滴をタオル等で拭いて、底面シート10の左右側のパネル12を合わせて、全体的に細長い形状にして、更に、複数のパネル12を側面シート11の長手方向に沿って折り畳むことで、コンパクトにすることが出来る。看護者は、折り畳まれた本発明をバッグBに収納すれば、後片付けが完了する。ここで、このような折り畳み作業は、10秒程度で完了するため、本発明では、とにかく手間要らずで、迅速に片付けすることが出来る。
【0042】
ここで、本発明では、大人が重度の熱中症患者になった場合を説明したが、子供の場合であっても適用することが出来る。その場合は、本発明は、底面シート10の棺桶形状のうち、脚部の左右側のパネル12を結束可能な結束部材15を更に備えると好ましい。結束部材15は、例えば、図13に示すように、両端部に雄型と雌型の面ファスナーを設けた結束バンドを挙げることが出来る。図13では、2本の結束バンドが用意されている。
【0043】
具体的には、子供が重度の熱中症患者になった場合は、看護者が、折り畳み式浴槽1の複数のパネル12を広げて、支持フラップ13を外側に広げる。すると、底面シート10の棺桶形状が表れる。ここで、図13に示すように、看護者が、先ず、底面シート10の棺桶形状のうち、脚部の左右側のパネル12を内側に折り畳み、棺桶形状の脚部の部分を押し潰して平らにする。
【0044】
そして、看護者が、平らにした脚部の左右側のパネル12を結束部材15で結束して固定することで、図14に示すように、小さな面積の浴槽を形成することが出来る。これにより、子供の身長に合わせて、浴槽の長さを短くすることが出来る。又、浴槽の面積が小さくなることで、給水量を最小限にして、子供が重度の熱中症患者になっても、迅速に対応することが可能となる。
【0045】
ここで、底面シート10と側面シート11の材質に特に限定は無いが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂を挙げることが出来る。
【0046】
又、パネル12と支持フラップ13の材質に特に限定は無いが、例えば、合成樹脂、ゴム、発泡材、木材、金属等を挙げることが出来る。又、パネル12の設置形態に特に限定は無いが、例えば、側面シート11の外面にパネル12を貼り付けても良いし、2枚の側面シート11を用意し、2枚の側面シート11の内面にパネル12を張り付けて、2枚の側面シート11の外周端部を溶着しても良い。
【0047】
又、パネル12の形状に特に限定は無いが、正方形や長方形の他に、三角形、五角形、六角形、多角形や円形、楕円形等を挙げることが出来る。又、支持フラップ13の形状に特に限定は無いが、直角五角形の他に、三角形、正方形、長方形、直角六角形、直角多角形等を挙げることが出来る。
【0048】
又、パネル12の数に特に限定は無いが、例えば、図1に示すように、底面シート10の棺桶形状の頭部のパネル12の4枚と、胸部のパネル12の2枚と、腹部のパネル12の2枚と、脚部のパネル12の4枚との合計12枚でも良いし、棺桶形状のサイズに応じて、パネル12の数を適宜変更しても構わない。例えば、身長の高い人のための底面シート10の棺桶形状では、長手方向のサイズが長くなるため、棺桶形状の長手方向のサイズが長くなった分、例えば、胸部のパネル12の数、又は、腹部のパネル12の数を増やしても構わない。
【0049】
又、支持フラップ13の数に特に限定は無いが、図1に示すように、4つでも良いし、棺桶形状の胸部の左右側のパネル12の外側にそれぞれ支持フラップ13を設けて、2つでも良いし、棺桶形状の頭部と胸部と腹部と脚部の左右側のパネル12の外側にそれぞれ支持フラップ13を設けることで、8つ設けても構わない。支持フラップ13の設置位置に特に限定は無いが、図1に示すように、棺桶形状の中央付近である胸部と腹部の左右側のパネル12の外側の位置に設けても良いし、棺桶形状の胸部又は腹部のいずれかの左右側のパネル12の外側の位置に設けても構わない。
【0050】
又、支持フラップ13の接続形態に特に限定は無いが、例えば、支持フラップ13とパネル12の外側とに接続シートの両端部を融着することで、接続シートをヒンジとして機能させる接続形態を挙げることが出来る。
【0051】
又、枕部14の構成に特に限定は無いが、上述のように、2本のベルト14aと枕シート14bとで構成されても良いし、単純に、長尺シートを底面シート10の棺桶形状の頭部の左右側のパネル12に枕部14として吊り下げた構成であっても構わない。
【0052】
又、結束部材15の構成に特に限定は無いが、上述のように、2本の結束バンドで構成しても良いし、脚部の左右側のパネル12を挟むクリップで構成しても構わない。
【0053】
又、本発明は、上述のように、重度の熱中症患者の全身冷却のための浴槽の他に、在宅介護を受ける要介護者の全身の入浴のための浴槽として用いても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明に係る折り畳み式浴槽は、上述のように、重度の熱中症患者に対する応急処理に限らず、軽症から中等症の熱中症患者や介護における入浴等、幅広く適用することが可能であり、迅速に設置可能で、必要最小限の給水で全身浸透することが出来て、更には、迅速に後片付けも可能な折り畳み式浴槽として有効である。
【符号の説明】
【0055】
1 折り畳み式浴槽
10 底面シート
11 側面シート
12 パネル
13 支持フラップ
14 枕部
【要約】      (修正有)
【課題】迅速に設置可能で、必要最小限の給水で全身浸透することが出来て、更には、迅速に後片付けも可能な折り畳み式浴槽を提供する。
【解決手段】底面シート10は、棺桶形状である。側面シート11は、高さh1が、仰向けの人の上下の高さh0よりも所定の高さh2だけ高めに設定され、下端部が、底面シート10の棺桶形状の外周端部10aに接続されることで、当該棺桶形状の外周壁を構成する。複数のパネル12は、高さh3が、側面シート11の高さh1に対応し、当該側面シート11の長さ方向に沿って所定の間隔dを空けて配置されることで、側面シート11を折り畳み可能にする。左右一対の支持フラップ13は、高さh4が、パネル12の高さh3に対応し、底面シート10の棺桶形状の左右側に存在する左右一対のパネル12の外側に折り畳み可能に接続されている。枕部14は、底面シート10の棺桶形状の頭部に吊り下げ可能に設けられている。
【選択図】図1
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