(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】橋梁の製造方法及び橋梁
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20240416BHJP
E01C 23/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01C23/00 A
(21)【出願番号】P 2023189586
(22)【出願日】2023-11-06
【審査請求日】2023-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508321823
【氏名又は名称】株式会社イノアック住環境
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大輔
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3213990(JP,U)
【文献】登録実用新案第3185723(JP,U)
【文献】特開2005-090115(JP,A)
【文献】特開2023-046196(JP,A)
【文献】特開2023-079393(JP,A)
【文献】特開2016-056595(JP,A)
【文献】特開2005-120608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
E01C 7/00
23/00
E02D 17/18
29/02
35/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の床版の下側に位置する土壌面に、発泡樹脂原料を直接注入し、発泡樹脂層を形成する、発泡樹脂層形成工程と、
前記床版にあけた穴からコンクリートを充填し、前記床版と前記発泡樹脂層との間に、
前記床版に対して接するようにコンクリート層を形成する、コンクリート層形成工程と、
を備える、橋梁の製造方法。
【請求項2】
橋梁の床版の下側に位置する土壌面に、発泡樹脂原料を直接注入し、発泡樹脂層を形成する、発泡樹脂層形成工程と、
無機繊維又は金属を含むシートを前記床版の下面に接合する、シート接合工程
と、
前記床版にあけた穴からコンクリートを充填し、前記シートと前記発泡樹脂層との間に、前記シートに対して接するようにコンクリート層を形成する、コンクリート層形成工程と、
を備える、橋梁の製造方法。
【請求項3】
前記コンクリート層形成工程の前に、鉄筋を組み立てて前記床版と前記発泡樹脂層との間に設置する、鉄筋設置工程を、更に備える、請求項1
又は2に記載の橋梁の製造方法。
【請求項4】
橋梁の床版と、
前記床版の下側
の土壌面に配置された発泡樹脂層と、
前記床版と前記発泡樹脂層との間に配置されたコンクリート層と、
前記床版の下面に配置された、無機繊維又は金属を含むシート層と、を備え、
前記床版および前記シート層には、上下方向に貫通する穴が形成されており、
前記穴には、前記コンクリート層のコンクリートが充填されている、橋梁。
【請求項5】
橋梁の床版と、
前記床版の下側
の土壌面に配置された発泡樹脂層と、
前記床版と前記発泡樹脂層との間に配置された鉄筋コンクリート層と、を備え、
前記床版には、上下方向に貫通する穴が形成されており、
前記穴には、前記鉄筋コンクリート層のコンクリートが充填されている、橋梁。
【請求項6】
前記発泡樹脂層は、ブロックを積み上げた集合体ではない、請求項4に記載の橋梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、橋梁の製造方法及び橋梁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁などの構造体において、硬質発泡ウレタン層を床版の下側に設けることで補強することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
床版には、床版上を通行する車両の車輪から局所的に荷重が加わることがある。このような、床版に加わる局所的な荷重を考慮して、床版の耐久性を向上することが求められている。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記課題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、床版の耐久性を向上した橋梁の製造方法及び橋梁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る橋梁の製造方法の第1態様は、
橋梁の床版の下側に位置する土壌面に、発泡樹脂原料を直接注入し、発泡樹脂層を形成する、発泡樹脂層形成工程と、
前記床版にあけた穴からコンクリートを充填し、前記床版と前記発泡樹脂層との間にコンクリート層を形成する、コンクリート層形成工程と、を備えることを要旨とする。
【0007】
本発明に係る橋梁の製造方法の第2態様は、前記製造方法の第1態様において、
前記コンクリート層形成工程の前に、無機繊維又は金属を含むシートを前記床版の下面に接合する、シート接合工程を、更に備えるようにしてもよい。
【0008】
本発明に係る橋梁の製造方法の第3態様は、前記製造方法の第1態様又は第2態様において、
前記コンクリート層形成工程の前に、鉄筋を組み立てて前記床版と前記発泡樹脂層との間に設置する、鉄筋設置工程を、更に備えるようにしてもよい。
【0009】
本発明に係る橋梁の第1態様は、
橋梁の床版と、
前記床版の下側に配置された発泡樹脂層と、
前記床版と前記発泡樹脂層との間に配置されたコンクリート層と、
前記床版の下面に配置された、無機繊維又は金属を含むシート層と、を備え、
前記床版および前記シート層には、上下方向に貫通する穴が形成されており、
前記穴には、前記コンクリート層のコンクリートが充填されていることを要旨とする。
【0010】
本発明に係る橋梁の第2態様は、
橋梁の床版と、
前記床版の下側に配置された発泡樹脂層と、
前記床版と前記発泡樹脂層との間に配置された鉄筋コンクリート層と、を備え、
前記床版には、上下方向に貫通する穴が形成されており、
前記穴には、前記鉄筋コンクリート層のコンクリートが充填されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る橋梁の製造方法によれば、耐久性が向上した床版を有する橋梁が得られる。
本発明に係る橋梁によれば、床版の耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例に係る橋梁を示す概略説明図である。
【
図2】実施例の橋梁の要部を示す概略説明図である。
【
図3】実施例の橋梁の製造過程を示す説明図である。
【
図4】実施例の橋梁の製造過程を示す説明図である。
【
図5】実施例の橋梁の製造過程を示す説明図である。
【
図6】実施例の橋梁の製造過程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る橋梁の製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び図面は、本発明の実施形態の一例を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。
【実施例】
【0014】
図1に示すように、実施例に係る橋梁10は、床版14と、床版14の下側に配置された発泡樹脂層20と、床版14と発泡樹脂層20との間に配置されたコンクリート層22と、床版14の下面に配置されたシート層24とを備えている。床版14は、図示しない橋桁を介して、橋脚や橋台などの地盤に支持された構造体である下部工12に支持されている。下部工12及び床版14は、鉄筋コンクリート製である。床版14の上面には、アスファルトやコンクリートなどの舗装18が配置されている。床版14には、舗装18の上を通行する車両から局所的に輪荷重などの荷重が加わることがある。ここで、輪荷重は、車両の1つの車輪を通じて舗装面に加わる鉛直方向の荷重を指す。また、既設の床版14に損傷が生じた場合、局所的に偏った偏荷重とも呼ばれる荷重が床版14に加わることがある。
【0015】
発泡樹脂層20は、床版14に加わる荷重をシート層24及びコンクリート層22を介して受けるものである。シート層24及びコンクリート層22を介していることで、床版14に加わる荷重が分散されて、発泡樹脂層20に伝わる。発泡樹脂層20は、ポリウレタンフォームなどの発泡樹脂で形成された軽量盛土である。発泡樹脂層20は、土よりも比重が小さいことから、土による盛土よりも地盤に対する荷重の負荷が小さい。ここで、ポリウレタンフォームで発泡樹脂層20を形成するのであれば、例えば、施工現場において発泡硬化させる現場発泡ポリウレタンフォームを用いるとよい。現場発泡ポリウレタンフォームは、軽量性、施工性、下部工12などへの接着性等の観点から好適である。発泡樹脂層20は、床版14の下側に位置する土壌面(地面)に接するように配置することが好ましく、発泡樹脂層20と土壌面との間にブロックなどの他の構築物を介在させず、発泡樹脂層20が地盤に直接支持されるようにすることで安定させたり、地盤に上部荷重を分散させ易くしたりすることができる。また、発泡樹脂層20は、例えばブロックを積み上げた集合体ではなく、全体として一塊の単体であることが好ましい。なお、発泡樹脂層20は、発泡樹脂を複数回に分けて注入することで形成してもよいが、この場合であっても発泡樹脂同士の自己接着性によって一体化するので、発泡樹脂層20は1つの塊の構造物として見做される。
【0016】
発泡樹脂層20は、全体として同じ強度で形成してもよく、発泡樹脂層20の上部を下部と比べて高強度にしたりするなど、上下方向の部位で強度を変えてもよい。また、発泡樹脂層20の上側に位置する床版14の形状などに応じて、発泡樹脂層20における水平方向の部位で強度を変えてもよい。発泡樹脂層20の圧縮強度(JIS A9511)は、特に限定するものではないが、120kN/m2以上であることが好ましく、例えば、120kN/m2~400kN/m2の範囲に設定される。発泡樹脂層20の密度(JIS A9511)は、特に限定するものではないが、例えば36±4kg/m3程度から前述した圧縮強度に合わせた値の範囲であればよい。
【0017】
コンクリート層22は、床版14に加わる荷重を直接又はシート層24を介して受けて、その荷重を発泡樹脂層20に分散させるものである。
図1に示すように、コンクリート層22は、発泡樹脂層20の上側全域に配置することが好ましい。また、コンクリート層22の下面全域が、発泡樹脂層20に接していることが好ましい。コンクリート層22は、床版14の下側全域に配置することが好ましい。また、コンクリート層22の上面は、水平に形成してもよく(
図2(a)及び(d)参照)、床版14の下面に形成された梁16などの凹凸形状に合わせた凹凸形状で形成してもよい(
図2(b)及び(c)参照)。コンクリート層22は、床版14の下面全体から荷重を受けることが好ましいが(
図2(a)~(c)参照)、床版14の下面の一部(例えば梁16)から荷重を受けるようにしてもよい(
図2(d)参照)。
【0018】
コンクリート層22は、内部に鉄筋22a(
図2参照)が配置された鉄筋コンクリート、又は、鉄筋22aが内部に配置されていない無筋コンクリートの何れであってもよい。コンクリート層22としては、鉄筋コンクリートであると引張強度が高まることから、床版14からコンクリート層22に加わる荷重を発泡樹脂層20に効率よく分散させることができるので好ましい。コンクリート層22のコンクリートの種類としては、普通コンクリート、軽量コンクリート、高強度コンクリート、流動化コンクリート、高流動コンクリート、マスコンクリートなどを用いることができ、この中でも高流動コンクリートを用いると、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリートを充填し易いことから好ましい。
【0019】
コンクリート層22の厚さは、特に限定するものではないが、例えば250mm~450mm程度に設定することで、床版14から加わる荷重を発泡樹脂層20に適切に分散できると共にコンクリート層22自体が与える発泡樹脂層20への荷重負荷を軽減できるので好ましい。コンクリート層22の圧縮強度は、発泡樹脂層20の圧縮強度よりも高く設定すると、床版14から加わる荷重を発泡樹脂層20に適切に分散できるので好ましい。また、コンクリート層22の引張強度は、発泡樹脂層20の引張強度よりも高く設定すると、床版14から加わる荷重を発泡樹脂層20に適切に分散できるので好ましい。
【0020】
コンクリート層22は、ガラス繊維、ガラス繊維以外の炭素繊維などの無機繊維、ポリプロピレンなどの有機繊維などの繊維系補強材や、その他の補強材を含んでいてもよい。この中でも、繊維系補強材は、コンクリート層22の引張強度を向上できるので、荷重の分散性を向上できる。また、コンクリート層22は、フライアッシュ、シリカフィーム、岩石粉末、膨張材、高炉スラグ微粉末などの混和材や、減水剤、AE剤、AE減水剤、遅延剤、促進剤、急結剤、発泡剤、鉄筋保護の防錆剤、乾燥収縮低減剤などの混和剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0021】
シート層24は、荷重に対して床版14を補強するものである。シート層24は、床版14の下面に接合されていることが好ましく、床版14と直接接合していることでシート層24による床版14の補強効果を向上させることができる。なお、シート層24の全体が床版14に接合していることが好ましいが(
図2(a)~(c)参照)、これに限らない。例えば、シート層24の一部を床版14に接合すると共にシート層24の残部を床版14から離して配置してもよく(
図2(d)参照)、床版14とシート層24との間に配置した層(例えば梁16)を介してシート層24で床版14を補強するなどであってもよい(
図2(d)参照)。
【0022】
シート層24は、床版14の下面全域に配置することが好ましい(
図2(a)参照)。これに限定されず、シート層24が床版14の下面の一部範囲だけに配置されていてもよい。また、シート層24は、床版14の下面における梁16などの凹凸形状に沿った凹凸で配置することが好ましい(
図2(b)参照)。更に、床版14の下面に梁16などの凹凸形状がある場合、床版14の下面の凹部にシート層24を配置する構成であってもよく(
図2(c)参照)、床版14の下面の梁16(凸部)の間に架け渡してシート層24を配置する構成であってもよい(
図2(d)参照)。なお、床版14だけでなく、床版14及び橋桁を含めて、これらの下側にシート層24を配置してもよい。なお、梁16は、床版14の一部に含まれる構造体であってもよく、梁16と床版14とが別の構造体であってもよい。
【0023】
シート層24は、床版14の下面に沿う方向(以下、面方向という。)の引張強度に優れていることが好ましい。ここで、シート層24は、面方向の引張強度が、発泡樹脂層20より大きいとよく、コンクリート層22よりも大きいと更によい。このように、シート層24における面方向の引張強度が、発泡樹脂層20における面方向の引張強度よりも大きいと、床版14から加わる荷重をコンクリート層22及び発泡樹脂層20に適切に分散することができる。なお、シート層24の厚さは、特に限定されないが、床版14を補強可能な引張強度を確保できる最小限の厚さに設定すると軽量化できるのでよい。
【0024】
シート層24は、無機繊維又は金属を含んでいるシートS(
図4(a)参照)で形成されている。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、セラミック繊維、金属繊維が挙げられ、無機繊維単体に限らず、ビニロン、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ウレタン繊維、オレフィン繊維、レーヨン繊維、PBO(ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などの合成樹脂繊維やセルロースなどの有機繊維と無機繊維との複合繊維であってもよい。ここで、シート層24は、繊維で構成される場合、織布状又は不織布状の何れであってもよい。
【0025】
シート層24としては、例えば、鋼、ステンレス、アルミニウムなどの金属を単体で用いたり、ポリカーボネイト、塩化ビニル、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などの樹脂や、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、EPT(エチレン・プロピレンゴム)、SBR(スチレンブダジエンゴム)、FR(フッ素ゴム)、SR(シリコンゴム)、ウレタンゴムなどのゴムなどと金属との複合物であってもよい。
【0026】
シート層24は、1つの材料で構成することに限らず、2つ以上の材料を組み合わせて構成してもよい。特にシート層24が、無機繊維層であると、引張強度に優れることから床版14を適切に補強でき、また軽量であることから、橋梁10の過剰な重量増加を抑えることができる。また、シート層24が、金属層であると、引張強度に優れることから床版14を適切に補強できる。
【0027】
シート層24の床版14に対する接合方法は、例えば、接着剤や自身の接着性による化学的接合や、ボルトやアンカーなどの機械的接合などが挙げられ、シート層24の構成材料や形態などに応じて適宜選択される。
【0028】
シート層24は、繰り返しかかる荷重に対する寿命が長いなどの耐久性が良いと好ましい。また、シート層24は、床版14のひび割れ部等から染み出す水や油が接触する可能性があるので、耐水性や耐油性が良いと好ましい。
【0029】
図1に示すように、床版14には、上下方向に貫通する穴26が形成されている。穴26には、コンクリート層22のコンクリートが充填されている。実施例のように、床版14の下面にシート層24が配置されている場合は、穴26は床版14から連続してシート層24も上下方向に貫通するように形成される。穴26は、実施例のように互いに間隔を複数形成してもよいが、これに限らず、1カ所であってもよい。穴26は、コンクリート打設用ホースの直径よりも大きく、床版14の鉄筋ピッチよりも小さいことが好ましい。また、穴26は、床版14が梁16を有している場合、梁16から外れた位置に形成するとよい。
【0030】
前述した橋梁10は、例えば以下のように製造することができる。橋梁10を新設するときに、発泡樹脂層20、コンクリート層22及びシート層24を形成してもよく、既設の橋梁に対して、発泡樹脂層20、コンクリート層22及びシート層24を形成して新たな橋梁10としてもよい。
【0031】
下部工12に架け渡された床版14と土壌面との間に、スペースがあいている(
図3(a)参照)。まず、床版14の下側のスペースに発泡樹脂層20を形成する発泡樹脂層形成工程を行う(
図3(b)参照)。例えば、発泡樹脂層20としてポリウレタンフォームを用いるのであれば、現場でA液(ポリオール)とB液(イソシアネート)とを混合した発泡樹脂原料を吹き付けることで注入し、発泡樹脂原料を発泡させてポリウレタンフォームを形成する。発泡樹脂原料は、床版14の下側に位置する土壌面に対して直接注入し、この注入作業を、下から順に繰り返して行うことで、床版14の下側に発泡樹脂を形成していく。発泡樹脂の上にのると床版14の下面に手が届く程度の高さまで発泡樹脂を形成したら、発泡樹脂層20の形成作業を一旦停止する。発泡樹脂層形成工程において、発泡樹脂原料を土壌面に直接注入することで、土壌面の凹凸に合わせて発泡樹脂が形成される。このため、土壌面を平らにしたり、土壌面の上にコンクリートなどで基盤を形成したりするなどの不陸整正が不要であり、工数を大幅に削減できる。また、発泡樹脂層20は自立するため、ブロックの場合に必要になるブロックを固定する作業が不要であり、土の場合に必要になる勾配を付ける作業が不要であり、コンクリートの場合に必要になる型枠工を省略又は簡易化できる。
【0032】
シート層24を設ける場合、発泡樹脂層20を途中まで形成した後に、後述するコンクリート層形成工程の前に、無機繊維又は金属を含むシートSを床版14の下面に接合するシート接合工程を行う(
図4(a)参照)。このとき、途中まで形成された発泡樹脂層20にのって、床版14の下面にシートSを接合する作業を行うことができるので、作業性がよく、足場や高所作業車などを省略できる。
【0033】
必要に応じてシート接合工程を行った後に、コンクリート層22が有筋であれば、鉄筋22aを組み立てて床版14と発泡樹脂層20との間に設置する鉄筋設置工程を行う(
図4(b)参照)。鉄筋22aは、途中まで形成された発泡樹脂層20の上で配筋してもよく、他所で組み立てられた組み立て品を床版14と発泡樹脂層20との間に設置してもよい。なお、鉄筋22aとしては、棒状鋼を現場で格子状に組み立てることに限らず、溶接金網や鉄筋格子などの組み立て品を用いてもよい。組み立てた鉄筋22aを床版14の下面に吊して、組み立てた鉄筋22aを、床版14の下面から必要かぶり厚さ以上離した位置で、かつ、発泡樹脂層20の上面から必要かぶり厚さ以上離れることになる位置に設置する。
【0034】
残りの発泡樹脂層20を形成する発泡樹脂層形成工程を行う(
図5(a)参照)。床版14の下面と発泡樹脂層20の上面の間に、コンクリート層22分のスペースを残して、発泡樹脂層形成工程を終了する。発泡樹脂層形成工程、シート接合工程及び鉄筋設置工程は、床版14の下側で作業を行うことができることから、床版14上の交通を妨げない。
【0035】
コンクリート層形成工程の前に、床版14に穴26を開ける(
図5(b)参照)。なお、床版14の下面にシート層24が配置されている場合は、シート層24にも穴26をあける。穴26は、床版14の上側からコア抜きなどにより形成され、床版14及びシート層24を上下方向に貫通して、床版14の上側から、床版14の下面と発泡樹脂層20の上面との間のスペースに通じる。穴26の形成工程は、コンクリート層形成工程の前であれば、発泡樹脂層形成工程の終了後に行うことに限らない。前述したように、発泡樹脂層形成工程、シート接合工程及び鉄筋設置工程を行っているときは、床版14上で交通が可能であることから、コンクリート層形成工程の直前に穴26の形成工程を行うことで、交通への悪影響を最小限に抑えることができる。
【0036】
次に、穴26からコンクリート(生コンクリート)を充填し、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリート層22を形成するコンクリート層形成工程を行う(
図6(a)参照)。穴26までコンクリートが溢れるように、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリートを充填することで、コンクリート層22のコンクリートが穴26に充填されることになる。そして、所定の養生期間をおいてコンクリートを硬化させることで、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリート層22が形成され、穴26がコンクリート層22のコンクリートで塞がれる。そして、穴26を形成するために切り欠かれた舗装18を補修する(
図6(b)参照)。
【0037】
このように、床版14に形成した穴26からコンクリートを注入することで、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリートを注入し易く、作業性及び作業の安全性を向上できる。また、穴26の位置や数などの調節によって、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリートを広く行き渡らせることができ、床版14と発泡樹脂層20との間に隙間なくコンクリートを充填することができる。更に、穴26を介して床版14の上からコンクリートの充填度合いを確認することができることから、コンクリート層22を適切に形成できる。更にまた、コンクリート層22のコンクリートを穴26に充填することで、穴26を塞ぐための手間を軽減できる。
【0038】
実施例の橋梁10の製造方法は、床版14の下側に位置する土壌面に発泡樹脂原料を直接注入して発泡樹脂層20を形成する発泡樹脂層形成工程と、シートSを床版14の下面に接合するシート接合工程と、鉄筋22aを組み立てて床版14と発泡樹脂層20との間に設置する鉄筋設置工程と、床版14にあけた穴26からコンクリートを充填し、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリート層22を形成するコンクリート層形成工程とを含んでいる。このようにすることで、床版14の下側に配置された発泡樹脂層20と、床版14と発泡樹脂層20との間に配置されたコンクリート層22と、床版14の下面に配置されたシート層24とを備え、床版14およびシート層24において上下方向に貫通する穴26にコンクリート層22のコンクリートが充填されている橋梁10が得られる。同様に、床版14の下側に配置された発泡樹脂層20と、床版14と発泡樹脂層20との間に配置された鉄筋コンクリートであるコンクリート層22とを備え、床版14において上下方向に貫通する穴26にコンクリート層22のコンクリートが充填されている橋梁10が得られる。
【0039】
橋梁10は、床版14と発泡樹脂層20との間に配置されたコンクリート層22を備えているので、床版14の上を通行する車両等により荷重が床版14に局所的に加わると、床版14の下側に配置されたコンクリート層22が荷重を受けて分散し、分散された荷重を発泡樹脂層20で受けるようにすることができる。このように、発泡樹脂層20と比べて硬くし易い(圧縮強度又は引張強度が高い)コンクリート層22が、床版14と発泡樹脂層20との間に介在していることで、床版14に加わった荷重の分散角度を広げることができる。これにより、発泡樹脂層20に局所的に加わることを抑えて、発泡樹脂層20で広く支持することができる。従って、橋梁10において、床版14の荷重に対する耐久性を向上できる。
【0040】
前述した橋梁10は、コンクリート層22が鉄筋コンクリート層であることで、床版14の上を通行する車両等により荷重が床版14に局所的に加わっても、無筋と比べて引張強度に優れた鉄筋コンクリートによって床版14が支えられる。そして、コンクリート層22から発泡樹脂層20に荷重を分散して伝えることができることから、発泡樹脂層20への局所的な負荷をより軽減できる。また、鉄筋コンクリートであるコンクリート層22は、柔軟性を持たせることができ、これにより、加わる荷重の分散角度をより広くすることができる。従って、橋梁10において、床版14の荷重に対する耐久性を向上できる。
【0041】
前述した橋梁10は、床版14の下面に配置された無機繊維又は金属を含むシート層24を備えていることで、床版14の上を通行する車両等により荷重が床版14に局所的に加わっても、床版14の下側に配置されたシート層24の張力によって床版14が支えられる。そして、シート層24からコンクリート層22に荷重を分散して伝えることができることから、発泡樹脂層20への局所的な負荷をより軽減できる。従って、橋梁10において、床版14の荷重に対する耐久性を向上できる。特にコンクリート層22とシート層24とを重ねて配置することで、コンクリート層22によってシート層24を破れ難くすることができる。
【0042】
前述した橋梁10は、床版14を新規にすることと比べて、車両の通行止めがないまたは通行止めしても期間が短く、床版14の補強にかかる工期が短く、既存の橋梁の改修にかかるコストを非常に低廉にできる。また、発泡樹脂層20の形成に大型重機を必要としないので、大型車両の進入が難しい場所であっても、橋梁10を施工することができる。特に、発泡樹脂層20が現場発泡ポリウレタンフォームであると、ポリウレタンフォーム特有の接着性により、下部工12やコンクリート層22が接着することになる。これにより、床版14からシート層24及びコンクリート層22を介して発泡樹脂層20に加わった荷重を、左右に立っている下部工12,12に分散させることができ、床版14の荷重を発泡樹脂層20および下部工12で一体的に支持することで、発泡樹脂層20の変形を抑えて床版14を適切に支持することができる。そして、前述した製造方法によれば、前記作用効果を奏する橋梁10を簡単に得られる。
【0043】
(変更例)
前述した事項に限らず、例えば以下のようにしてもよい。なお、本発明は、実施形態及び以下の変更例の具体的な記載のみに限定されるものではない。
(1)実施例の橋梁は、シート層を備えているが、これに限らず、シート層を省略してもよい。
(2)コンクリート層は、有筋であることに限らず、無筋であってもよい。
(3)実施例の橋梁は、自動車等の車両が通る道路を構成する自動車橋を例示しているが、これに限らず、電車などの鉄道車両が通る線路を構成するなど、他の用途にも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 橋梁,14 床版,20 発泡樹脂層,
22 コンクリート層(鉄筋コンクリート層),22a 鉄筋,24 シート層,
26 穴
【要約】
【課題】橋梁における床版の耐久性を向上する。
【解決手段】橋梁10の製造方法は、橋梁10の床版14の下側に位置する土壌面に、発泡樹脂原料を直接注入し、発泡樹脂層20を形成する、発泡樹脂層形成工程と、床版14にあけた穴26からコンクリートを充填し、床版14と発泡樹脂層20との間にコンクリート層22を形成する、コンクリート層形成工程とを備えている。穴26には、コンクリート層22のコンクリートが充填されている。
【選択図】
図1