(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】作業機械および作業機械システム
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20240416BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20240416BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
E02F9/22 Q
E02F9/22 N
E02F9/26 B
E02F9/24 B
(21)【出願番号】P 2023512892
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2022011785
(87)【国際公開番号】W WO2022215466
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021066428
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土江 慶幸
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065657(JP,A)
【文献】特開2004-338817(JP,A)
【文献】特開2019-068346(JP,A)
【文献】特開2021-035812(JP,A)
【文献】特開2013-150233(JP,A)
【文献】特開2017-218015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
E02F 9/26
E02F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、
前記走行体上に旋回可能に取り付けられた旋回体と、
前記旋回体に取り付けられ、ブーム、アーム及び作業具を含む多関節型の作業機と、
制御装置と、
を備える作業機械において、
前記制御装置は、
操作入力装置から出力される操作指令に応じて、前記走行体、前記旋回体及び前記作業機への操作制御指令を演算する制御指令演算部と、
前記制御指令演算部の操作制御指令に応じて、前記走行体、前記旋回体および前記作業機を制御する機械制御部と、
前記作業機械の外部からの信号の異常または作業機械の異常を検出する異常検出部と、
前記異常検出部が異常を検出した場合に、前記走行体、前記旋回体および前記作業機の動作状態を判別し、前記作業機の動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更させる動作である回避動作の要否を判定する回避動作要否判定部と、
前記回避動作要否判定部によって前記回避動作が必要であると判定された場合に、回避制御指令を演算し、前記機械制御部へ出力する回避制御指令部と、
を備え、
前記機械制御部は、前記操作制御指令よりも前記回避制御指令を優先して前記走行体、前記旋回体および前記作業機を制御することを特徴とする、
作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械と、前記操作入力装置とを備える、作業機械システムであって、
映像表示装置をさらに備え、
前記映像表示装置は、
映像信号送信部が送信した映像信号を受信する映像信号受信部と、
オペレータに対して映像を出力する映像表示部とを有し、
前記操作入力装置は、前記作業機械の外部に配置されて前記オペレータの入力を受け取り、
前記操作入力装置は、
前記オペレータの操作に応じて操作信号を生成する操作信号生成部と、
操作信号を作業機械へ伝送する操作信号送信部と、
を備え、
前記作業機械は、作業機械周辺の映像を撮像する撮像装置を備え、
前記制御装置は、
前記操作信号送信部が送信した前記操作信号を受信し、前記制御指令演算部へ出力する操作信号受信部と、
前記撮像装置が出力する前記映像信号を前記作業機械の外部へ送信する前記映像信号送信部と、
を備え、
前記異常検出部は、前記操作信号送信部と前記操作信号受信部の間、または、前記映像信号送信部と前記映像信号受信部の間で発生した、通信遅延、通信途絶、または、通信データの欠損を異常として検出する、
作業機械システム。
【請求項3】
前記作業機械は、前記作業機械の姿勢を表す姿勢情報を検出する姿勢センサを備え、
前記制御装置の前記制御指令演算部は、前記姿勢センサが検出した姿勢情報に応じて前記操作制御指令を演算し、
前記異常検出部は、前記姿勢センサの信号途絶または精度悪化を異常として検出する、請求項1に記載の作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械を備える、作業機械システムであって、
前記作業機械の緊急停止を指令する緊急停止信号を送信する、遠隔停止信号送信装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記緊急停止信号を受信する遠隔停止信号受信部を備え、
前記回避動作要否判定部は、前記遠隔停止信号受信部が緊急停止信号を受信した場合に、前記走行体、前記旋回体および前記作業機の動作状態を判別し、回避動作の要否を判定する、
作業機械システム。
【請求項5】
前記回避動作要否判定部は、
前記異常検出部が異常を検出した場合に、
前記旋回体を旋回動作させる指令、前記走行体を走行動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が前記制御指令演算部から出力中であるか、または、
前記旋回体を旋回動作させる指令、前記走行体を走行動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、前記異常検出部が異常を検出するまでの時間が第1時間以下である
場合に、回避動作が必要であると判定し、
前記回避制御指令は、前記ブームを上げ方向に動作させる指令を含む
請求項1に記載の作業機械。
【請求項6】
前記回避動作要否判定部は、
前記遠隔停止信号受信部が前記緊急停止信号を受信した場合において、
前記旋回体を旋回動作させる指令、前記走行体を走行動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が前記制御指令演算部から出力中であるか、または、
前記旋回体を旋回動作させる指令、前記走行体を走行動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、前記遠隔停止信号受信部が前記緊急停止信号を受信するまでの時間が第1時間以下である
場合に、回避動作が必要であると判定し、
前記回避制御指令は、前記ブームを上げ方向に動作させる指令を含む
請求項4に記載の作業機械システム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記作業機械の車格情報を保持する車格情報保持部を備え、
前記作業機械は、前記作業機械に積載された積載物の積載重量を検出する積載重量計測装置を備え、
前記回避動作要否判定部は、
前記異常検出部が異常を検出した場合において、
‐前記旋回体を旋回動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が前記制御指令演算部から出力中であるか、または、
‐前記旋回体を旋回動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、前記異常検出部が異常を検出するまでの時間が、前記車格情報および前記積載重量に応じた第2時間以下である
場合に、回避動作要と判定し、
前記回避制御指令は、前記車格情報および前記積載重量に応じた第3時間の間、ブームを上げ方向に動作させる指令を含む、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項8】
前記制御装置は、前記作業機械の車格情報を保持する車格情報保持部を備え、
前記作業機械は、前記作業機械に積載された積載物の積載重量を検出する積載重量計測装置を備え、
前記回避動作要否判定部は、
前記遠隔停止信号受信部が前記緊急停止信号を受信した場合に、
‐前記旋回体を旋回動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が前記制御指令演算部から出力中であるか、または、
‐前記旋回体を旋回動作させる指令、または前記ブームを下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、前記遠隔停止信号受信部が前記緊急停止信号を受信するまでの時間が、前記車格情報および前記積載重量に応じた第2時間以下である場合に、回避動作要と判定し、
前記回避制御指令は、前記車格情報および前記積載重量に応じた第3時間の間、ブームを上げ方向に動作させる指令を含む、
請求項4に記載の作業機械システム。
【請求項10】
前記作業機械は、前記作業機械の位置を検出する位置センサを備え、
前記制御装置は、前記位置と、前記位置の上方における構造物または障害物の有無との対応関係を保持する、作業エリア情報保持部を備え、
前記回避動作要否判定部は、前記位置と、前記対応関係とに基づき、前記位置の上方に構造物または障害物がある場合には、前記走行体、前記旋回体および前記作業機の前記動作状態に関わらず、回避動作が不要であると判定する、請求項1に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械および作業機械システムに関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術として、特開2019-68346(特許文献1)がある。特許文献1には「作業車両は、作業対象が写る画像を撮像する撮像装置と、前記撮像装置が撮像した画像を制御装置に送信する画像送信部と、前記制御装置から操作信号を受信する操作信号受信部と、前記画像の伝送状況に応じて前記操作信号を制限する動作制御部とを備える」と記載されている。
【0003】
また、別の背景技術として、特開2019-065661(特許文献2)がある。特許文献2には「旋回中心まわりに旋回する旋回体と、前記旋回体に取り付けられバケットを含む作業機とを備える積込機械を制御する積込機械制御装置であって、被積込機械の位置情報および方位情報を取得する被積込機械情報取得部と、前記位置情報および前記方位情報に基づいて、土砂を前記被積込機械に積み込むための排土位置を特定する排土位置特定部と、前記バケットを前記排土位置まで移動させる排土指示信号が入力されたときの前記バケットの位置を特定するバケット位置特定部と、前記バケットを、前記特定した位置から前記排土位置まで移動させるための操作信号を生成する操作信号生成部と、を備える積込機械制御装置」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-068346号公報
【文献】特開2019-065661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、画像伝送に異常が生じ、オペレータが適切に作業機械を操作できない状況において、操作信号を制限する仕組みが記載されている。
【0006】
ただし、車体操作中に操作信号を制限し、車体速度を落としたとしても、車体の慣性によって周囲の障害物と接触する場合がある。
【0007】
また、特許文献2には、車体位置、方位、および放土位置を特定することで、オペレータの操作によらず運搬車両との接触を回避する仕組みが記載されている。
【0008】
ただし、放土位置や車体位置、方位などを特定する装置に異常が発生した場合についても、接触が回避できることが望ましい。
【0009】
そこで本発明では、作業機械に異常が発生した場合において、慣性によって車体が直ちに停止しない場合でも、周囲の障害物との接触リスクを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る作業機械は、走行体と、前記走行体上に旋回可能に取り付けられた旋回体と、前記旋回体に取り付けられ、ブーム、アーム及び作業具を含む多関節型の作業機と、制御装置と、を備える作業機械において、前記制御装置は、操作入力装置から出力される操作指令に応じて、前記走行体、前記旋回体及び前記作業機への操作制御指令を演算する制御指令演算部と、前記制御指令演算部の操作制御指令に応じて、前記走行体、前記旋回体および前記作業機を制御する機械制御部と、前記作業機械の外部からの信号の異常または作業機械の異常を検出する異常検出部と、前記異常検出部が異常を検出した場合に、前記走行体、前記旋回体および前記作業機の動作状態を判別し、前記作業機の動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更させる動作である回避動作の要否を判定する回避動作要否判定部と、前記回避動作要否判定部によって前記回避動作が必要であると判定された場合に、回避制御指令を演算し、前記機械制御部へ出力する回避制御指令部と、を備え、前記機械制御部は、前記操作制御指令よりも前記回避制御指令を優先して前記走行体、前記旋回体および前記作業機を制御することを特徴とする。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2021-066428号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業機械に異常が発生した場合に、車体が周囲の障害物と接触するリスクが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0013】
本実施例では、
図1に示すようなショベル(作業機械)の遠隔制御において異常が発生したときの車体制御を対象とする。ショベルは、キャブ201を含む旋回体202と、走行体206と、ブーム203、アーム204、バケット205を含む作業機309とを備える。旋回体202は、走行体206上に旋回可能に取り付けられる。作業機309は、旋回体202に取り付けられ、ブーム203、アーム204及び作業具を含み、多関節型に構成される。作業具は、この例ではバケット205であるが、油圧ブレーカ・チゼル、破砕機、鉄骨鉄筋コンクリート解体機、鉄筋カッター、フォーク、フォークグラップル、搭載型油圧オーガー、草刈り機、バケットハンマ、マグネット、等であってもよい。
【0014】
図2は、本実施例のシステムブロック図である。作業機械(たとえばショベル)は、制御装置307と、撮像装置308と、作業機309と、旋回体310と、走行体311とを備える。また、作業機械は、姿勢センサ303と、位置センサ305と、積載重量計測装置306とを備える。
【0015】
また、本実施例に係る作業機械システムは、上述の作業機械と、作業機械の外部に設けられる操作入力装置301と、映像表示装置302と、遠隔停止信号送信装置304とを備える。それらは、制御装置307に対して信号を出力し、遠隔停止信号送信装置304は、作業機械の緊急停止を指令する緊急停止信号を送信する装置であり、たとえば作業機械周辺の作業者が、作業機械による事故を回避するために用いる。
【0016】
操作入力装置301は、作業機械の一部であっても良いし、作業機械の外部に配置されてもよい。作業機械の外部に配置される場合には、操作入力装置301は、遠隔のオペレータの入力を受け取る。
【0017】
操作入力装置301は、オペレータの操作に応じて操作信号を生成する操作信号生成部332と、操作信号を作業機械へ伝送する操作信号送信部333とを備える。また、作業機械は、作業機械周辺の映像を撮像する撮像装置308を備える。
【0018】
制御装置307は、操作信号受信部342と、映像信号送信部341とを備える。操作信号受信部342は、操作信号送信部333が送信した操作信号を受信し、制御指令演算部343へ出力する。映像信号送信部341は、撮像装置308が出力する映像信号を、作業機械の外部へ(本実施例では映像表示装置302へ)送信する。
【0019】
映像表示装置302は、映像信号送信部341が送信した映像信号を受信する映像信号受信部322と、オペレータに対して映像を出力する映像表示部331とを備える。
【0020】
ショベルのオペレータは、撮像装置308で撮影され、映像表示装置302で出力される映像により、ショベル周囲の状況を確認する。また、操作入力装置301を介して遠隔から作業機309、旋回体310、走行体311を操作する。
【0021】
撮像装置308で撮影された映像は、制御装置307の映像信号送信部341から車外へ送信され、映像表示装置302の映像信号受信部322で受信される。受信された映像信号は、映像表示部331を介してオペレータへ出力される。
【0022】
また、操作入力装置301は操作レバーを有し、オペレータがレバーを操作すると、操作信号生成部332は、レバーの操作角を操作信号として出力する。操作信号は操作信号送信部333を介してショベルへ送信され、ショベルの操作信号受信部342で受信される。操作信号は、制御指令演算部343で指令圧などの操作制御指令に変換される。
【0023】
制御指令演算部343は、操作入力装置301から出力される操作指令に応じて、旋回体310、走行体311、および作業機309への操作制御指令を演算する。
【0024】
なお、制御指令演算部343は、操作信号だけでなく、姿勢センサ303でセンシングされた車体姿勢にもとづき、あらかじめ設定された特定の障害物の位置へ向かう移動を止めるように操作制御指令を補正する。特定の障害物の位置は、たとえば制御装置307の記憶手段等に記憶しておくことができる。ここでいう特定の障害物とは、例えば、ダンプへ土砂を積み込む際の足場である。オペレータが足場に気づかずに作業機を操作した場合、制御指令演算部343は、その操作に従って作業機309、旋回体310、または走行体311を制御した場合に、これらが足場に接触するか否かを判定する。接触すると判定した場合には、当該操作に従った制御を行わず(すなわち足場に接触することなく)、作業機309、旋回体310、または走行体311の動作を停止する。このような制御は、公知技術等に基づいて当業者が適宜実現することができる。なお、ダンプの位置は、時々刻々と変化するため、オペレータの操作によって障害物を回避することも有益である。
【0025】
制御指令演算部343は、姿勢センサ303が検出した姿勢情報に応じて操作制御指令を演算する。たとえば、作業機械の姿勢に応じて、特定の操作を実行してよいか否かを判断し、その結果に応じて操作制御指令を出力または停止する。
【0026】
機械制御部344は、制御指令演算部343の操作制御指令に応じて、作業機309、旋回体310、走行体311を制御する。
【0027】
異常検出部345は、作業機械の外部からの信号の異常または作業機械の異常を検出する。
【0028】
本実施例の処理を
図3のフローチャートに示す。以降ではフローチャートに従って本実施例を説明する。このフローチャートに示す処理は、たとえば制御装置307によって実行される。
【0029】
図3のステップ401~403において、異常検出部345は、外部からの信号の異常または作業機械の異常を検出する。
【0030】
ステップ401では、操作信号の通信において異常の有無を判定する。ここでいう異常とは、操作信号送信部333と操作信号受信部342の間における通信における、通信途絶、所定の時間以上の通信遅延、操作信号のビットエラー、肯定応答の異常、等を含む。たとえば、異常検出部345は、操作信号送信部333と操作信号受信部324の間で発生した、通信遅延、通信途絶、または、通信データの欠損を、異常として検出する。異常があると判定された場合には処理はステップ405に進み、異常がないと判定された場合には処理はステップ402に進む。
【0031】
ステップ402では、映像信号の通信において異常の有無を判定する。ここでいう異常とは、映像信号送信部341と映像信号受信部322の間における通信における、通信途絶、所定の時間以上の通信遅延、および映像信号のビットエラー、肯定応答の異常、等を含む。たとえば、異常検出部345は、映像信号送信部341と映像信号受信部322の間で発生した、通信遅延、通信途絶、または、通信データの欠損を、異常として検出する。異常があると判定された場合には処理はステップ405に進み、異常がないと判定された場合には処理はステップ403に進む。
【0032】
このような異常検出基準により、操作信号または映像信号の通信における異常を適切に検出することができる。
【0033】
ステップ403では、姿勢センサ303における異常の有無を判定する。作業機械は姿勢センサ303を備える。姿勢センサ303は、作業機械の姿勢を表す姿勢情報を検出する。姿勢センサは例えば、可変抵抗型のポテンショメータやIMU(Inertial Measurement Unit)がある。異常があると判定された場合には処理はステップ405に進み、異常がないと判定された場合には処理はステップ404に進む。
【0034】
制御指令演算部343は、姿勢センサ303が検出した姿勢情報に応じて操作制御指令を演算する。たとえば、作業機械の姿勢に応じて、特定の操作を実行してよいか否かを判断し、その結果に応じて操作制御指令を出力または停止する。
【0035】
異常検出部345は、姿勢センサ303の信号途絶または精度悪化を異常として検出する。また、姿勢センサ303の異常は、センサ出力がアナログ信号であれば、断線や所定の信号レベルからの逸脱であってもよい。センサ出力がデジタル信号であれば、姿勢センサ303の異常は、通信途絶、所定の通信内容からの逸脱、内部異常を示す信号の受信、等であってもよい。このような検出基準により、姿勢センサ303の異常を適切に検出することができる。
【0036】
ステップ404では、遠隔停止信号受信部346が、緊急停止信号の受信有無を判定する。遠隔停止信号受信部346は、緊急停止信号を受信することができる。緊急停止信号はたとえば遠隔信号として送受信される。異常があると判定された場合には処理はステップ405に進み、異常がないと判定された場合には処理は終了する。
【0037】
ステップ401~403のいずれかにおいて、異常検出部345が異常を検出した場合、または、ステップ404において遠隔停止信号受信部346が緊急停止信号を受信した場合には、回避動作要否判定部349が、走行体311、旋回体310および作業機309の動作状態を判別し、回避動作の要否を判定する(後述のステップ405および406)。
【0038】
このような具体的判定基準により、適切な回避動作の判定が可能となる。
【0039】
たとえば、回避動作要否判定部349は、異常検出部345が異常を検出した場合に、旋回体310を旋回動作させる指令、走行体311を走行動作させる指令、またはブーム203を下げ方向に動作させる指令が制御指令演算部343から出力中であるか、または、旋回体310を旋回動作させる指令、走行体311を走行動作させる指令、またはブーム203を下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、異常検出部345が異常を検出するまでの時間が第1時間以下である場合に、回避動作が必要であると判定する。回避動作は、車体操作中に操作信号を制限し、車体速度を落としたとしても、慣性によって車体が直ちに停止しない場合でも周囲の障害物との接触を回避させるための動作であり、旋回動作、走行動作およびブームを下げる動作によってブーム、アームおよびバケットが障害物に接触するのを回避するために、ブーム、アームおよびバケットの動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更する動作、すなわち、ブーム、アームおよびバケットの障害物が存在しない所定の方向への動作であり、また、回避制御指令は、ブーム、アームおよびバケットの動作方向を障害物への接触を回避する方向へ変更させる動作の指令、すなわち、ブーム、アームおよびバケットを障害物が存在しない所定の方向へ動作させる指令であり、ブーム203を、(たとえば所定の時間の間)上げ方向に動作させる指令を含む。
【0040】
ステップ405では、回避動作要否判定部349が、旋回体310の動作有無、走行体311の動作有無、またはブーム203の下げ方向への動作有無を判定する。いずれかの動作があると判定された場合には、処理はステップ406に進む。いずれの動作もないと判定された場合には、処理は終了する。
【0041】
ステップ406において、作業機械の上方における構造物および/または障害物の有無を判定してもよい。構造物および/または障害物がある場合には、処理はステップ407に進む。構造物および/または障害物がない場合には、処理は終了する。
【0042】
ステップ407(すなわち、回避動作要否判定部349によって回避動作が必要であると判定された場合)において、回避制御指令部350は、回避制御指令を演算し、機械制御部344へ出力する。
【0043】
緊急停止信号についても同様とすることができる。たとえば、回避動作要否判定部349は、ステップ404において、遠隔停止信号受信部346が緊急停止信号を受信した場合において、旋回体310を旋回動作させる指令、走行体311を走行動作させる指令、またはブーム203を下げ方向に動作させる指令が制御指令演算部343から出力中であるか、または、旋回体310を動作させる指令、走行体311を動作させる指令、またはブーム203を下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、遠隔停止信号受信部346が緊急停止信号を受信するまでの時間が第1時間以下である場合に、回避動作が必要であると判定する。また、回避制御指令は、ブーム、アームおよびバケットの動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更させる動作の指令、すなわちブーム、アームおよびバケットを障害物が存在しない所定の方向へ動作させる指令であり、ブーム203を、(たとえば所定の時間の間)上げ方向に動作させる指令を含む。
【0044】
このような判定基準により、空走時間(たとえば、ブーム203を動作する指令が出力されてから、回避動作が必要であると判定されるまでの時間)を考慮した適切な判定が可能となる。とくに、最後に出力されてからの経過時間を考慮することにより、作業機械の状態を検出するセンサを備えない変形例においても、回避動作の要否を適切に判定することができる。
【0045】
具体例を、ステップ405を用いて説明する。ステップ405では、回避動作要否判定部349が、旋回体310の動作有無、走行体311の動作有無、およびブーム203の下げ方向への動作有無を判定する。いずれも、作業機309が車体周辺にある障害物に接触するリスクを高める動作である。
【0046】
判定方法の具体例について、
図4を用いて説明する。ステップ401~404において、異常が検出された時刻または緊急停止信号が受信された時刻を時刻t1とする。このとき、走行体311の走行、旋回体310の旋回、またはブーム203の下げが最後に指令された時刻から時刻t1までの時間経過をdt1とする。
【0047】
操作制御指令が止まった後も、車体が直ちに停止せず、動作が継続してしまう空走時間が発生する場合がある。そこで、所定の時間(第1時間)よりもdt1が小さいとき、空走によって車体が周囲の障害物と接触するのを回避するための回避動作が必要であると判定する。
【0048】
また、車体および/または積載物の慣性が大きい場合には、操作制御指令が止まった後の車体が直ちに停止せずに、動作が継続してしまう空走時間が長い。そこで、車格情報保持部348(
図2)に保持された作業機械の車格および/または積載物の重量に応じた所定の時間(第2時間)よりも、dt1が小さいとき、空走によって車体が周囲の障害物と接触するのを回避するための回避動作が必要であると判定するようにしてもよい。
【0049】
すなわち、制御装置307は、作業機械の車格情報を保持する車格情報保持部348を備えてもよい。および/または、作業機械は、作業機械に積載された積載物の積載重量を検出する積載重量計測装置306を備えてもよい。そして、回避動作要否判定部349は、ステップ401~403において、異常検出部345が異常を検出した場合に、旋回体310を動作する指令、またはブーム203を下げ方向に動作させる指令が制御指令演算部343から出力中であるか、または、旋回体310を旋回動作させる指令、またはブーム203を下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、異常検出部345が異常を検出するまでの時間が、車格情報および/または積載重量に応じた第2時間以下である場合に、空走によってブーム、アーム及びバケットが周囲の障害物と接触するのを回避するため、ブーム、アーム及びバケットの動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更させる動作、すなわち障害物が存在しない所定の方向への動作である回避動作要と判定する。また、回避制御指令は、車格情報および/または積載重量に応じた時間(第3時間)の間、ブーム、アーム及びバケットの動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更させる動作の指令、すなわち障害物が存在しない所定の方向へ動作させる指令であり、ブーム203を上げ方向に動作させる指令を含む。
【0050】
この第3時間の間出力される回避制御指令は、アーム204およびバケット205を引き方向に動作する指令を含んでもよい。このような制御指令により、作業機309の旋回半径が小さくなり、周囲の障害物への接触のリスクが低減される。
【0051】
緊急停止信号についても同様とすることができる。たとえば、回避動作要否判定部349は、ステップ404において、遠隔停止信号受信部346が緊急停止信号を受信した場合に、旋回体310を旋回動作させる指令、またはブーム230を下げ方向に動作させる指令が制御指令演算部343から出力中であるか、または、旋回体310を動作する指令、またはブーム230を下げ方向に動作させる指令が最後に出力されてから、遠隔停止信号受信部346が緊急停止信号を受信するまでの時間が、車格情報および/または積載重量に応じた第2時間以下である場合に、回避動作要と判定する。また、回避制御指令は、車格情報および/または積載重量に応じた時間(第3時間)の間、ブーム、アーム及びバケットの動作方向を障害物への接触を回避する所定の方向へ変更させる動作の指令、すなわち障害物が存在しない所定の方向へ動作させる指令であり、ブーム203を上げ方向に動作させる指令を含む。
【0052】
このような判定基準により、空走時間の長さを考慮した適切な判定が可能となる。
【0053】
ステップ406において、作業機械の上方、特に作業機309の上方における構造物および/または障害物の有無を判定してもよい。構造物および/または障害物は、たとえば、電線、橋桁、坑道内における天井、等などである。
【0054】
回避動作を行ったとき、作業機309が上方の構造物および/または障害物に接触するおそれがある。これを回避するために、作業機械は、作業機械の位置を検出する位置センサ305を備える。位置センサ305は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)を利用するセンサである。なお、作業機309の位置を検出する場合は、作業機械に設けられたGNSSを利用し、かつ姿勢センサ303による作業機309の姿勢に基づき算出して求めることができる。
【0055】
回避動作要否判定部349は、たとえば作業機械の上方に構造物も障害物もないときのみ、上方へ動作方向を変更させる動作、すなわち障害物が存在しない上方へ動作させる回避動作が必要であると判定する。構造物および/または障害物の有無を判定する際、まず位置センサ305により、作業機械の位置を取得する。
【0056】
制御装置307は、作業エリアの位置と、その作業エリア内の各位置の上方における構造物および/または障害物の有無との対応関係を保持する、作業エリア情報保持部347を備える。位置毎の上方における構造物および/または障害物の有無は、あらかじめ作業エリア情報保持部347に保持されており、位置センサ305の位置情報をもとに構造物および/または障害物の有無を判定することができる。
【0057】
たとえば、回避動作要否判定部349は、作業機械の位置と、作業エリア情報保持部347に保持された対応関係とに基づき、作業機械の位置の上方に構造物および/または障害物がある場合には、ステップ405の判定結果に関わらず(すなわち、走行体311、旋回体310および作業機309の動作状態に関わらず)、回避動作により障害物への接触のおそれがあるため回避動作が不要であると判定する。そうでない場合には、ステップ405の判定結果によって回避動作が必要であると判定する。
【0058】
このような判定により、作業機械の上方に構造物および/または障害物がある場合には回避動作が抑制される。このため、構造物や障害物への接触のおそれがあるブーム203の上げ方向に動作する指令が抑制され、構造物および/または障害物への接触が回避される。
【0059】
ステップ407(すなわち、回避動作要否判定部349によって回避動作が必要であると判定された場合)において、回避制御指令部350は、回避制御指令を演算し、機械制御部344へ出力する。
【0060】
以下、回避制御指令の具体例を説明する。回避制御指令は、作業機309(ただしブーム203を除く)、旋回体310、および走行体311を停止する指令を含む。しかし、作業機械によっては(たとえばショベル)、慣性が大きく、制動距離が長いため、制動が間に合わず、障害物に接触するおそれがある。そこで、本ステップにおいて、作業機309を障害物への接触を回避する所定の方向へ動作方向を変更させる動作、すなわち障害物が存在しない所定の方向への動作させて作業機309の一部を障害物がない上方へ逃がすため、回避制御指令は、作業機309を障害物への接触を回避する所定の方向へ動作方向を変更させる動作の指令、すなわち障害物が存在しない所定の方向への動作させる指令であり、ブーム203を上げ方向に動作させる指令を含む。ブーム203を上げきる時間は、車格およびバケット積載物の重量に依存するため、ブーム203を上げ方向に動作させる指令は、積載重量計測装置306が出力する重量と車格情報保持部348が保持する車格に比例した所定時間(
図4のdt2)の間だけ継続するように構成することができる。このような制御により、車格および積載重量を考慮した適切な制御が可能となる。
【0061】
なお、ステップ401~403において異常が検出されず、かつステップ404において緊急停止信号が受信されなかった場合には、ステップ407は実行されない。また、ステップ405~406において回避動作が不要であると判定された場合にも、ステップ407は実行されない。
【0062】
図3の処理の後、機械制御部344は、操作制御指令よりも回避制御指令を優先して、旋回体310、走行体311、および作業機309を制御する。これによって、作業機械に異常が発生した場合に、車体が周囲の障害物と接触するリスクが低減される。
【0063】
[その他の実施例]
上述の実施例1において、ステップ404を省略してもよい。また、ステップ406を省略してもよい。
【符号の説明】
【0064】
101…操作入力装置
102…制御装置
103…作業機
104…旋回体
105…走行体
106…制御指令演算部
107…機械制御部
108…異常検出部
109…回避動作要否判定部
110…回避制御指令部
202…旋回体
203…ブーム
204…アーム
205…バケット(作業具)
206…走行体
230…ブーム
301…操作入力装置
302…映像表示装置
303…姿勢センサ
304…遠隔停止信号送信装置
305…位置センサ
306…積載重量計測装置
307…制御装置
308…撮像装置
309…作業機
310…旋回体
311…走行体
322…映像信号受信部
324…操作信号受信部
331…映像表示部
332…操作信号生成部
333…操作信号送信部
341…映像信号送信部
342…操作信号受信部
343…制御指令演算部
344…機械制御部
345…異常検出部
346…遠隔停止信号受信部
347…作業エリア情報保持部
348…車格情報保持部
349…回避動作要否判定部
350…回避制御指令部
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。