(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】成形フィルム、成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20240417BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20240417BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240417BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240417BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20240417BHJP
B29C 51/12 20060101ALI20240417BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240417BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20240417BHJP
H05K 3/20 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B32B7/025
B29C33/12
B29C45/14
B29C45/26
B29C51/10
B29C51/12
B32B27/18 J
H05K3/00 W
H05K3/20 C
(21)【出願番号】P 2020106522
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺島 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 広一
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-011502(JP,A)
【文献】特開2019-102499(JP,A)
【文献】特開2009-144072(JP,A)
【文献】特開平10-180924(JP,A)
【文献】特開2019-189680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/025
B29C 33/12
B29C 45/14
B29C 45/26
B29C 51/10
B29C 51/12
B32B 27/18
H05K 3/00
H05K 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面や三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路を形成するための成形フィルムであって、
成形フィルムはベースフィルム上に導電層と絶縁層とを備えた成形フィルムであり、
導電層は樹脂(A1)と、導電性粒子(D)と、必要に応じて架橋剤(C1)と、を含む導電性樹脂組成物の硬化物であり、
絶縁層は樹脂(A2)と、架橋剤(C2)と、を含む絶縁性樹脂組成物の硬化物であり、前記絶縁層の体積固有抵抗が1×10
10Ω・cm以上1×10
17Ω・cm未満であり、
前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が、前記架橋剤(C2)と反応し得る架橋性官能基を有
し、
前記絶縁層上に、さらに第二の導電層と第二の絶縁層とをこの順に備える、
成形フィルム。
【請求項2】
前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が、それぞれ独立にエステル結合部、カーボネート結合部、およびアミド結合部からなる群より選ばれる1種類以上の結合部を主鎖に有する、請求項1に記載の成形フィルム。
【請求項3】
前記樹脂(A1)が有する前記結合部の少なくとも1種と、前記樹脂(A2)が有する前記結合部の少なくとも1種とが、同一の種類の結合部であることを特徴とする請求項2に記載の成形フィルム。
【請求項4】
前記ベースフィルムが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及び、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の成形フィルム。
【請求項5】
前記架橋剤(C2)が、以下のi)~iii)の何れかのブロックイソシアネートである、請求項1~4のいずれか一項に記載の成形フィルム。
i)イソシアヌレート構造を有する、数平均分子量700~1300のブロックイソシアネート
ii)ビウレット構造を有する、数平均分子量700~1300のブロックイソシアネート
iii)トリメチロールプロパンエステル構造を有する、数平均分子量1000~3000のブロックイソシアネート
【請求項6】
前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が有する前記架橋性官能基が、水酸基またはアミノ基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の成形フィルム。
【請求項7】
前記ベースフィルムの両方の面上に、それぞれ導電層と絶縁層をこの順に備える請求項1~6のいずれか一項に記載の成形フィルム。
【請求項8】
所定の形状に成形された成形フィルムが、前記絶縁層面と基材表面とが接するように、あるいは前記ベースフィルム面と基材表面とが接するように基材上に積層され、凹凸面または三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路が形成された成形体であって、
前記成形フィルムが、請求項1~
7のいずれか一項記載の成形フィルムである、成形体。
【請求項9】
基材上に請求項1~
7のいずれか一項に記載の成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸面や三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路を形成するための成形フィルム、成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、樹脂成形体と、当該樹脂成形体の一面に対して面一になるように埋め込まれたベースフィルムと、前記樹脂成形体と前記ベースフィルムとの間に配置された導電回路とを有する特定の導電回路一体化成形品が開示されている。
特許文献1には、当該導電回路一体化成形品の製造方法として、特定の導電回路が形成されたベースフィルムを射出成形用金型のキャビティ面に配置した後、溶融樹脂を射出して、樹脂成形体を射出成形することが記載されている。
特許文献1において、導電回路は、特定の透明金属薄膜をエッチングすることにより形成されている。
【0003】
エッチング法に代わる導電回路の形成方法として、導電性インキを用いた印刷方法が検討されている。導電性インキを印刷する手法によれば、エッチング法と比較して、煩雑な工程がなく、容易に導電回路を形成することができ、生産性が向上し、低コスト化を図ることができる。
例えば特許文献2には、スクリーン印刷によって高精細な導電性パターンを形成することが可能な低温処理型の導電性インキとして、特定の導電性微粒子と、特定のエポキシ樹脂とを含有する導電性インキが開示されている。スクリーン印刷によれば導電パターンの厚膜化が可能であり、導電パターン低抵抗化が実現できるとされている。
【0004】
また、特許文献3には、3次元的な立体感を表現することが可能な加飾シートの製造方法として、透明樹脂層上にパターン状に印刷された印刷層を有する積層体と、ベースフィルム上に装飾層を有する積層シートとを熱圧着させることにより、前記装飾層を前記印刷層のパターンに沿った凹凸形状とする方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、ベースフィルム上に導電性インキの印刷により導電性パターンが形成された成型フィルムの熱成形および樹脂成型体との一体化を行うことで、樹脂成形体と前記ベースフィルムとの間に導電回路を有する、導電回路一体化成形品を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-11691号公報
【文献】特開2011-252140号公報
【文献】特開2007-296848号公報
【文献】特開2019-189680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法によれば、成形体の表面に、容易に導電回路を設けることができる。一方、凹凸面や曲面を有する基材など、様々な形状の基材表面に導電回路を形成したいという要望が高まっている。このような基材表面に導電層を有するフィルムを張り合わせて導電回路を形成する場合、当該フィルムは基材の表面形状に合わせて変形する必要がある。当該フィルムの変形時に、導電層には部分的に大きな引張力が生じることがある。当該引張力により導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。さらにそのような凹凸面や曲面を有する基材上に導電回路を形成する際、前記の導電層を有するフィルムを変形させたのち、または変形させるのと同時にフィルムと前記基材とを一体化することが必要となるが、この一体化工程において高温下でプラスチック基材と摩擦されることによる応力ストレスが導電回路に加わる。当該高温下応力ストレスによっても導電層の破断などが生じ、導電性の低下が問題となった。
これに対し、特許文献4の手法では熱成形プロセスへの耐性が導電インキ材料に付与されているため、上記の高温下応力ストレスによる導電性の低下が解決されている。しかし一方で、この方法で立体形状の基材表面に形成された導電回路は樹脂成型体と導電層とが直接接触しており、この境界部分の密着性が必ずしも十分でなく、また実際には極めて細かい空隙が生じている場合があった。このため、この導電回路一体化成形品を実用的な機器として長期間過酷な条件下で使用した場合、時間経過とともにイオンマイグレーションによる回路間短絡の発生が問題となった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、成形プロセスにおける引張力および高温下での応力ストレスによる導電性の低下が抑制され、かつ成形後も導電パターン間のイオンマイグレーション耐性に優れた成形フィルム、及び、導電性に優れかつ長期間の過酷条件使用でも回路特性を保持可能な成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の成型フィルムは、凹凸面や三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路を形成するための成形フィルムであって、該成形フィルムはベースフィルム上に導電層と絶縁層とを備えた成形フィルムであって、
導電層は樹脂(A1)と、必要に応じて架橋剤(C1)と、導電性粒子(D)とを含む導電性樹脂組成物の硬化物であり、
絶縁層は樹脂(A2)と、架橋剤(C2)とを含む絶縁性樹脂組成物の硬化物であり、
前記絶縁層の体積固有抵抗が
1×1010Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満であり、
前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が、前記架橋剤(C2)と反応し得る架橋性官能基を有する。
【0010】
本発明の成型フィルムは、樹脂(A1)および樹脂(A2)が、それぞれ独立にエステル結合部、カーボネート結合部、およびアミド結合部からなる群より選ばれる1つ以上の結合を主鎖に有する。
【0011】
本発明の成形フィルムは、樹脂(A1)が有する前記結合部の少なくとも1種と、樹脂(A2)が有する前記結合部の少なくとも1種とが、同一の種類の結合部を有する。
【0012】
本発明の成型フィルムは、ベースフィルムが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及び、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムである。
【0013】
本発明の成型フィルムは、架橋剤(C2)が、以下のi)~iii)の何れかのブロックイソシアネートである。
i)イソシアヌレート構造を有する、数平均分子量700~1300のブロックイソシアネート
ii)ビウレット構造を有する、数平均分子量700~1300のブロックイソシアネート
iii)トリメチロールプロパンエステル構造を有する、数平均分子量1000~3000のブロックイソシアネート
【0014】
本発明の成型フィルムは、樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が有する前記架橋性官能基が、水酸基またはアミノ基である。
【0015】
本発明の成型フィルムは、ベースフィルムの両方の面上に、それぞれ導電層と絶縁層をこの順に備える。
【0016】
本発明の成型フィルムは、絶縁層上に、さらに第二の導電層と第二の絶縁層をこの順に備える。
【0017】
本発明の成形体は、所定の形状に成形された成形フィルムが、絶縁層面と基材表面が接するように、あるいはベースフィルム面と基材表面が接するように基材上に積層され、凹凸面や三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路を形成された成形体である。
【0018】
本発明の成型フィルムの製造方法は、基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
【0019】
本発明の成型フィルムの製造方法は、前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
【0020】
本発明の成型フィルムの製造方法は、前期記載の成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程とを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、成形プロセスにおける引張力および高温下での応力ストレスによる導電性の低下が抑制され、かつ成形後も導電パターン間のイオンマイグレーション耐性に優れた成形フィルム、及び、導電性に優れかつ長期間の過酷条件使用でも回路特性を保持可能な成形体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
【
図2】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【
図3】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【
図4】本実施の成形フィルムの別の一例を示す、模式的な断面図である。
【
図5】成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
【
図6】成形体の第2の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
【
図7】成形体の第3の製造方法の別の一例を示す、模式的な工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る成形フィルム、成形体及びその製造方法について順に詳細に説明する。
なお本発明において、硬化物とは、化学反応により硬化したもののみならず、例えば溶剤が揮発することにより硬くなったものなど、化学反応によらずに硬化したものを包含する。
【0024】
[成形フィルム]
本発明の成形フィルムは、ベースフィルム上に導電層および絶縁層を備えた成形フィルムであって、
前記導電層は、樹脂(A1)と、導電性粒子(D)とを含む導電性樹脂組成物の硬化物であり、前記絶縁層が、樹脂(A2)と、架橋剤(C2)とを含む絶縁性樹脂組成物の硬化物であることを特徴とする。
本発明の成形フィルムによれば、凹凸面や曲面など任意の基材面に導電回路が形成された成形体を得ることができる。
【0025】
本発明者らは、平坦でない基材表面に適用可能であり、かつプラスチック基材との一体化工程へのプロセス適性を有する成型フィルムを製造するために、スクリーン印刷などが可能な導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物の検討を行った。成型フィルムの製造に適用するために、導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物の体積固有抵抗と樹脂骨格や架橋剤成分を検討したところ、導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物に含まれる樹脂の結合部の種類の違いによる親和性や、導電性・絶縁性樹脂組成物に含まれる樹脂が有する架橋性官能基と前記絶縁性樹脂組成物に含まれる架橋剤によって架橋された成型フィルムを、成型可能な高温下で引っ張った時に生じる断線の有無や抵抗値変化の大きさと、導電回路一体形成品を長期間過酷な条件下で通電使用した場合の経時のイオンマイグレーション特性が異なることを見出した。
本発明者らは、このような知見に基づいて検討した結果、体積固有抵抗が低い絶縁層を導電層上に積層した場合、導電回路一体形成品において、平坦なフィルム回路基盤などと比較して、際立って大きなイオンマイグレーションが発生することを確認した。また、導電層上に形成された絶縁層が、架橋性反応基を有さない場合や架橋剤(C2)を有さない場合は、導電層へ絶縁層が浸潤する事により、高温での引っ張りにより変形させた場合に、導電層の導電性が大きく劣化する事がわかった。
【0026】
このようなやや体積固有抵抗が低い絶縁層を導電層上に積層した場合や、高温での引っ張りにより変形させた際に導電層の亀裂発生や局所変形、それに伴うイオンマイグレーションがより多く生じるような導電層および絶縁層を有する成形フィルムであっても、それ単体を平坦なフィルム回路基板などとして使用する場合、および二次元曲面上に曲げた状態で使用する場合には問題とならなった。しかしながら平坦でない基材表面の形状、例えば凹凸形状や三次元曲面形状に追従させ一体化させる成形フィルムとして使用する場合には、成形フィルムは変形を伴うことになる。そのため、ベースフィルムの変形に対し、導電層および絶縁層に対し発生する変形応力が導電層や導電層/絶縁層界面に集中し剥離乃至断線が起こることにより、導電層の導電性が低下しているものと予測される。
なお、本発明における凹凸面や三次元曲面とは、なだらかな曲線断面を有する面のみでなく、鋭角状の角や矩形形状を有する立体面全般を示す。すなわち、平面を伸縮することなく変形させることのみでは、成立させることのできない立体形状を指し、例えば半球状、円錐状、円柱状、四角柱状等の立体形状を指すものである。なお、ある立体形状が、連続した立体面内に先述の平面または二次元曲面と、三次元曲面の両方の要素を有する場合、例えば平面形状に1か所以上の部分的な半球状形状が組み合わされた立体形状に関しては、全体として平面を伸縮することなく変形させることによって成立させることのできない立体形状であることから、これも三次元曲面であるものとする。即ち本発明における凹凸面や三次元曲面は、フレキシブル基板等を折り曲げることでは実現できないものであり、たとえば、成形性フィルムの加熱下での立体成形による賦形などによって実現可能となる形状である。
【0027】
本発明者らはこれらの知見に基づいて鋭意検討を行った結果、絶縁層の体積固有抵抗が、1×1010Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満であり、前記導電層の樹脂(A1)および前記絶縁層の樹脂(A2)が架橋剤(C2)と反応し得る架橋性反応基を有する成形フィルムを用いた際に、導電回路一体化成形体において、イオンマイグレーションの発生が抑制されることを見出した。また、当該フィルムを用いることで、実用的強度をもつ立体形状の基材上の凹凸面や曲面などの任意の面に絶縁被覆された導電回路が形成された成形体を得ることができる。
【0028】
本実施の成形フィルムの層構成について
図1及び
図2を参照して説明する。
図1及び
図2は、本実施の成形フィルムの一例を示す、模式的な断面図である。
図1の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を有し、当該導電層2上に絶縁層3を備えている。導電層2は、ベースフィルム1の全面に形成されていてもよく、
図1の例のように所望のパターン状に形成されていてもよい。また絶縁層3は、ベースフィルム1および導電層2上の全面に形成されていてもよく、
図1の例のように導電層2の一部を被覆するように所望のパターン状に形成されていてもよい。
図2の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、加飾層6を有し、当該加飾層6上に、導電層2を有し、さらに当該導電層2上に絶縁層3を備えている。また
図2の例に示されるように、成形フィルム10は、導電層2上に、電子部品4や、取り出し回路に接続するためのピン5を備えていてもよい。
図3の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を有し、当該導電層2上に絶縁層3を備えている。またベースフィルム1の反対側の面上に第2の導電層7を有し、当該第2の導電層7上に第2の絶縁層8を備えている。第2の導電層7もまた、ベースフィルム1の全面に形成されていてもよく、
図1の例のように所望のパターン状に形成されていてもよい。また第2の絶縁層8もまた、ベースフィルム1および第2の導電層7の全面に形成されていてもよく、
図3の例のように第2の導電層7の一部を被覆するように所望のパターン状に形成されていてもよい。
図4の例に示される成形フィルム10は、ベースフィルム1上に、導電層2を有し、当該導電層2上に絶縁層3を有し、さらに当該絶縁層3上に第2の導電層7を有し、当該第2の導電層7上に第2の絶縁層8を備えている。この場合の第2の導電層7は、ベースフィルム1および絶縁層3上の全面に形成されていてもよく、
図4の例のように導電層2の、絶縁層3に被覆されていない露出部があった場合は、この導電層2と部分的に接触するように所望のパターンに設けられていてもよい。また導電層2といずれの部分も接触していなくても構わない。第2の絶縁層8もまた、ベースフィルム1、導電層2、絶縁層3および第2の導電層7の全面に形成されていてもよく、
図4の例のように第2の導電層7の一部を被覆するように所望のパターン状に形成されていてもよい。
また、図示はしないが、本実施の成形フィルム10が加飾層6を備える場合、
図2の例のほか、ベースフィルム1の一方の面に加飾層6を有し、他方の面に導電層2を備える層構成であってもよい。
本実施の成形フィルムは、少なくともベースフィルムと、導電層と絶縁層を備えるものであり、必要に応じて他の層を有してもよいものである。以下このような成形フィルムの各層について説明する。
【0029】
<ベースフィルム>
本実施においてベースフィルムは、基材成形時の成形温度条件下で基材表面の形状に追従可能な程度の柔軟性および延伸性を有するものの中から適宜選択することができ、成形体の用途や、成形体の製造方法などに応じて選択することが好ましい。
例えば、成形体の製造方法として、後述するオーバーレイ成形法や、フィルムインサート法を採用する場合には、ベースフィルムが成形体に残ることから、導電層の保護層としての機能を有することなどを考慮してベースフィルムを選択することができる。
一方、成形体の製造方法として後述するインモールド転写法などを採用する場合には、剥離性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0030】
ベースフィルムは上記の観点から適宜選択することができ、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、AES(アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合樹脂)、カイダック(アクリル変性塩ビ樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル、及びこれら樹脂の2種以上からなるポリマーアロイ等のフィルムや、これらの積層フィルムであってもよい。中でも、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートより選択されるフィルム、又はこれらの積層フィルムであることが好ましい。積層フィルムとしては、中でも、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムが好ましい。
ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートの積層フィルムの製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネートフィルムとポリメチルメタクリレートフィルムとを貼り合わせて積層してもよく、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとを共押出しにより積層フィルムとしてもよい。
また、これらのベースフィルムの表面がコロナ処理等の改質処理が施されていることも好ましい。
【0031】
また、必要に応じ、導電性樹脂組成物の印刷性を向上させるなどの目的で、ベースフィルムにアンカーコート層を設け、当該アンカーコート層上に導電性樹脂組成物を印刷してもよい。アンカーコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には導電性樹脂組成物との密着性が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。アンカーコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
また更に必要に応じ、成形体表面の傷つき防止のため、ベースフィルムにハードコート層を設け、その反対の面に導電性樹脂組成物および必要に応じて加飾層を印刷してもよい。ハードコート層は、ベースフィルムとの密着性、更には表面硬度が良好で成形時にフィルムに追従するものであれば、特に限定されず、また樹脂ビーズ等の有機フィラーや金属酸化物等の無機フィラーも必要に応じて添加してもよい。ハードコート層を設ける方法は特に限定されず、従来公知の塗工方法にて塗布、乾燥、硬化して得ることができる。
【0032】
また本実施の成形フィルムが加飾層を有する場合には、透明性を有するベースフィルムを選択することが好ましい。
【0033】
ベースフィルムの厚みは特に限定されないが、例えば、10μm以上500μm以下とすることができ、20μm以上450μm以下が好ましい。
【0034】
<導電層>
本実施の成形フィルムにおいて導電層は、後述する導電性樹脂組成物の硬化物である。
導電層の形成方法は特に限定されないが、本実施においては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法により形成することが好ましく、スクリーン印刷法により形成することがより好ましい。
スクリーン印刷法においては、導電回路パターンの高精細化に対応すべく微細なメッシュ、特に好ましくは300~650メッシュ程度の微細なメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20~50%が好ましい。スクリーン線径は約10~70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であってもよく、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0035】
導電性樹脂組成物を印刷後、加熱して乾燥、もしくは架橋反応を行い硬化する。
溶剤の十分な揮発および架橋反応のために、加熱温度は80~230℃、加熱時間としては10~120分とすることが好ましい。これにより、パターン状の導電層を得ることができる。
【0036】
導電層の膜厚は、求められる導電性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、0.5μm以上20μm以下とすることができ、1μm以上15μm以下とすることが好ましい。
【0037】
[導電性樹脂組成物]
本実施の成形フィルムに用いられる導電性樹脂組成物は、樹脂(A1)と、導電性粒子(D)と、を含有するものであり、必要に応じて更に溶剤(B1)、架橋剤(C1)及び他の成分を含有してもよい。
以下このような成形フィルム用導電性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0038】
<樹脂(A1)>
本実施の導電性樹脂組成物は、成膜性や、ベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与するために、バインダー性の樹脂(A1)を含有する。また、本実施においては、樹脂(A1)を含有することにより、導電層に柔軟性を付与することができる。そのため、樹脂(A1)を含有することにより延伸に対する導電層の断線が抑制される。
【0039】
前記樹脂(A1)は、導電性樹脂組成物用途に用いられる樹脂の中から適宜選択して用いることができる。
樹脂(A1)としては、例えば、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系ブロック共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本実施において樹脂(A1)は、エステル結合、カーボネート結合およびアミド結合からなる群より選ばれる結合を主鎖に含んでもよい。
【0041】
本実施において樹脂(A1)は、架橋性官能基を含む。架橋性官能基は、後述の架橋剤(C2)と反応し得る架橋性官能基であればよい。好ましくは、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基より選択される置換基であり、これらの中でも、ヒドロキシ基およびアミノ基を用いることが好ましい。架橋剤(C2)と組み合わせることにより、樹脂(A1)が含まれる導電層と絶縁層の界面が3次元架橋されることで、導電層の界面応力を低下させることができる。さらに、導電層に含まれる樹脂(A1)と絶縁層に含まれる樹脂(A2)に同一の架橋性反応基を有するとき、導電層と絶縁層の界面で3次元架橋されることで親和性がより向上し、熱延伸時の応力緩和および亀裂やボイドの発生を抑えることができる。さらに、これらの架橋性官能基は必要に応じて後述する架橋剤(C1)と組み合わせることにより樹脂(A1)を3次元架橋することができ、導電層に硬度が求められる用途において好適に用いることができる。
【0042】
本実施において樹脂(A1)は、後述の実施例、その他公知の方法により合成して用いてもよく、また、所望の物性を有する市販品を用いてもよい。本実施において樹脂(A1)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
本実施の導電性樹脂組成物中の樹脂(A1)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性樹脂組成物に含まれる固形分全量に対し、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。樹脂(A1)の含有割合が上記下限値以上であれば、成膜性や、ベースフィルム等への密着性向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。また、樹脂(A1)の含有割合が上記上限値以下であれば、相対的に導電性微粒子(D)の含有割合を高めることができ、導電性に優れた導電層を形成することができる。
【0044】
<溶剤(B1)>
溶剤(B1)としては特に限定されないが、印刷性の観点から沸点180℃以上270℃以下であることが好ましい。溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ガンマブチロラクトン、イソホロン、テトラリンなどが挙げられるが、これらに限定されず用いることができる。本実施において溶剤(B1)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
<導電性微粒子(D)>
導電性微粒子(D)は、導電層内で複数の導電性微粒子が接触して導電性を発現するものであり、本実施においては、高温で加熱することなく導電性が得られるものの中から適宜選択して用いられる。
本実施に用いられる導電性微粒子としては、金属微粒子、カーボン微粒子、導電性酸化物微粒子などが挙げられる。
金属微粒子としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、アルミニウム、タングステン、モルブテン、白金等の金属単体粉のほか、銅-ニッケル合金、銀-パラジウム合金、銅-スズ合金、銀-銅合金、銅-マンガン合金などの合金粉、前記金属単体粉または合金粉の表面を、銀などで被覆した金属コート粉などが挙げられる。また、カーボン微粒子としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブなどが挙げられる。また、導電性酸化物微粒子としては、酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウムなどが挙げられる。
【0046】
本実施においては、中でも、銀粉、銅粉、銀コート粉、銅合金粉、導電性酸化物粉、およびカーボン微粒子より選択される1種以上の導電性微粒子を含むことが好ましい。これらの導電性微粒子(D)を用いることにより、焼結することなく、導電性に優れた導電層を形成することができ、さらに後述する成形フィルムとして立体形状に成形した際の延伸性や導電性の保持性能に優れた導電層を形成することができる。
【0047】
導電性微粒子(D)の形状は、特に限定されないが、フレーク状または連鎖凝集状であることが好ましい。フレーク状の場合は2次元平面状の扁平形状であれば特に限定されない。なお本発明における「フレーク状」とは、鱗片状、鱗状、板状、扁平状、シート状等と呼称される2次元平面状の扁平形状全般を指す。中でも、印刷性の保持と成形引張時の導電性維持および、プラスチック基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレス耐性の観点から、アスペクト比が3以上500以下のものが特に好ましい。また連鎖凝集状の場合は、微細な球状粒子が互いに結着した不定形状であれば特に限定しない。なお本発明における「連鎖凝集状」とは、結着球状、連鎖球状、凝集状などと呼称される球状粒子が決着してできた不定形状全般を指す。連鎖凝集状であることも、印刷性の保持と成形引張時の導電性維持および、プラスチック基材との一体化工程における高温下での高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレス耐性の観点から特に好ましい。
【0048】
導電性微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、導電性樹脂組成物中での分散性や印刷性の保持、成形時の導電性維持および、溶融樹脂による射出成型プロセス耐性または成形済樹脂へ高温引張耐性の観点から、0.5μm以上30μm以下が好ましく、1μm以上15μm以下がより好ましい。
なお本実施において導電性微粒子(D)の平均粒子径は以下のように算出する。JISM8511(2014)記載のレーザ回折・散乱法に準拠し、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製:マイクロトラック9220FRA)を用い、分散剤として市販の界面活性剤ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製:トリトンX-100)を0.5体積%含有する水溶液に導電性微粒子(D)を適量投入し、撹拌しながら40Wの超音波を180秒照射した後、測定を行った。求められたメディアン径(D50)の値を導電性微粒子(D)の平均粒径とした。
【0049】
本実施において導電性微粒子(D)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施の導電性樹脂組成物中の導電性微粒子(D)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性樹脂組成物に含まれる固形分全量に対し、50質量%以上85質量%以下であることが好ましく、55質量%以上80質量%以下であることが好ましい。導電性微粒子(D)の含有割合が上記下限値以上であれば、導電性に優れた導電層を形成することができる。また、導電性微粒子(D)の含有割合が上記上限値以下であれば、樹脂(A1)の含有割合を高めることができ、成膜性や、ベースフィルム等への密着性が向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。
【0050】
<任意成分>
本発明の導電性樹脂組成物は、必要に応じてさらに他の成分を含有してもよい。このような他の成分としては、架橋剤(C1)のほか、分散剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤等が挙げられる。
【0051】
<架橋剤(C1)>
本実施において前記樹脂(A1)を架橋するために架橋剤(C1)を、任意成分として追加で用いてもよい。架橋剤(C1)としては、前記樹脂(A1)が有する反応性官能基と架橋形成しうる反応性官能基を1分子中に2つ以上有するものの中から適宜選択して用いることができる。このような反応性官能基としては、たとえば、エポキシ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルキルオキシアミノ基、アジリジニル基、オキセタニル基、カルボジイミド基、β-ヒドロキシアルキルアミド基などが挙げられる。
【0052】
<導電性樹脂組成物の製造方法>
本実施の導電性樹脂組成物の製造方法は、前記樹脂(A1)と、導電性微粒子(D)と、必要により用いられる溶剤(B1)、架橋剤(C1)およびその他の成分とを、溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0053】
[絶縁層]
本実施の成形フィルムにおいて絶縁層は、樹脂(A2)と、架橋剤(C2)とを含有し、必要に応じて溶剤(B2)、他の成分を含有する絶縁性樹脂組成物の硬化物であり、体積抵抗値は、1×1010Ω・cm以上1×1017Ω・cm未満である。
絶縁層により導電層を被覆することによって、成形フィルムの製造プロセス中の導電層への摩擦ダメージ等を防ぐことができる。また高温下での基材との摩擦応力ストレスが導電層に直接加わることを防ぐ、耐熱応力保護層としての役割も発揮する。さらに導電層パターン間の長期連続通電時の絶縁性確保が可能となり、これは、絶縁性樹脂組成物が通常微細な凹凸の存在する導電層を確実に隅々まで浸透し封止するとともに、絶縁層が樹脂成形体との接着層としても働くことで、外部からの水分や硫黄化合物その他の腐蝕性ガスをより確実に遮断することが可能なためである。また、外部からの衝撃等に対し、成型フィルムの樹脂成型体基材との物理的な剥離を抑制することも可能になる。
絶縁層の形成方法は特に限定されないが、本実施においては、スクリーン印刷法、パッド印刷法、ステンシル印刷法、スクリーンオフセット印刷法、ディスペンサー印刷法、グラビアオフセット印刷法、反転オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法により形成することが好ましく、スクリーン印刷法により形成することがより好ましい。
スクリーン印刷法においては、導電回路パターンを外部から確実に絶縁し、かつある程度のパターニング精度も確保できるように、特定範囲のメッシュ、特に好ましくは120~400メッシュ程度のメッシュのスクリーンを用いることが好ましい。この時のスクリーンの開放面積は約20~50%が好ましい。スクリーン線径は約10~70μmが好ましい。
スクリーン版の種類としては、ポリエステルスクリーン、コンビネーションスクリーン、メタルスクリーン、ナイロンスクリーン等が挙げられる。また、高粘度なペースト状態のものを印刷する場合は、高張力ステンレススクリーンを使用することができる。
スクリーン印刷のスキージは丸形、長方形、正方形いずれの形状であってもよく、またアタック角度(印刷時の版とスキージの角度)を小さくするために研磨スキージも使用することができる。その他の印刷条件等は従来公知の条件を適宜設計すればよい。
【0054】
本実施の成形フィルムに用いる絶縁層は、絶縁性樹脂組成物を印刷後、加熱して乾燥および架橋反応を行い硬化する。
溶剤の十分な揮発および架橋反応のために、加熱温度は80~230℃、加熱時間としては10~120分とすることが好ましい。これにより、パターン状の絶縁層を得ることができる。パターン状絶縁層は、導電パターンの全面を被覆してもよいが、導電パターンを回路として使用する際に外部機器との接続が取れるように露出した導電パターン面を残しながら、導電パターンの一部を被覆するように絶縁層を設けてもよい。
【0055】
絶縁層の膜厚は、求められる絶縁性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、5μm以上50μm以下とすることができ、8μm以上30μm以下とすることが好ましい。
【0056】
[絶縁性樹脂組成物]
本実施の成形フィルムに用いられる絶縁性樹脂組成物は、樹脂(A2)と、架橋剤(C2)とを含有するものであり、必要に応じて更に溶剤(B2)及び他の成分を含有してもよいものである。
以下このような成形フィルム用絶縁性樹脂組成物の各成分について説明する。
【0057】
<樹脂(A2)>
本実施の絶縁性樹脂組成物は、成膜性や絶縁性の確保、並びに導電層およびベースフィルム乃至加飾層への密着性を付与するために、バインダー性の樹脂(A2)を含有する。
また、本実施においては、樹脂(A2)を含有することにより、絶縁層が導電層を被覆した際に絶縁層に柔軟強靭性に基づく力学的なクッション性能を付与することができる。そのため、樹脂(A2)を含有することにより延伸に対する絶縁層の断裂のみでなく、導電層の断線も抑制される。
【0058】
前記樹脂(A2)は、絶縁性樹脂組成物用途に用いられる樹脂の中から、適宜選択して用いることができる。
樹脂(A2)としては、例えば、アクリル系樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系ブロック共重合樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂などが挙げられ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
本実施において樹脂(A2)は、先述の樹脂(A1)がエステル結合、カーボネート結合およびアミド結合からなる群より選ばれる結合を主鎖に含む場合、同じくエステル結合、カーボネート結合およびアミド結合からなる群より選ばれる結合を主鎖に含むことが好ましい。上記結合を樹脂(A1)と樹脂(A2)の主鎖に同時に含むことで導電層と絶縁層の親和性が向上し、導電層と絶縁層の界面でのボイド発生やそれに伴う伸長時の亀裂・欠陥の発生、これに続くイオンマイグレーションが抑制される点で好ましい。また樹脂(A2)が、先述の樹脂(A1)と同一の、エステル結合、カーボネート結合およびアミド結合からなる群より選ばれる結合を主鎖に含む場合は、更に導電層と絶縁層の親和性が向上し、導電層と絶縁層の界面でのボイド発生やそれに伴う伸長時の亀裂・欠陥の発生およびこれに続くイオンマイグレーションがより強力に抑制される点で特に好ましい。
【0060】
本実施において前記樹脂(A2)は、ハロゲン元素を構造中に有さないか、含有率が極めて低いものが好ましい。ハロゲン元素を構造中に有さないことで、導電層と積層して使用した際に、過酷条件下でのイオンマイグレーション耐性がさらに優れる点で好適である。さらに本実施において前記樹脂(A2)は、繰返し構造中にエステル結合を含む、重量平均分子量5,000~200,000の樹脂であることが特に好ましい。繰返し構造中にエステル結合を含む、重量平均分子量5,000~200,000の樹脂であることにより、絶縁層が成型フィルムと導電層の導電性微粒子表面の双方に効率よく濡れ広がり強力に接着するとともに、高温条件下における適度な弾力性を発現することで、熱成形時の伸長からの導電層の保護特性と成型体となった後の導電パターン間のイオンマイグレーション耐性をも高いレベルで両立可能となる。
【0061】
本実施において樹脂(A2)は、後述する架橋剤(C2)と反応し得る架橋性官能基を有する。特にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基および酸無水物基より選択される官能基を1分子中に2つ以上有することが好ましい。これらの中でも、架橋剤(C2)との反応性の観点から、ヒドロキシ基およびアミノ基が好ましい。前記架橋性官能基を用いることで、溶媒を十分に揮発させ、脱離基によるボイドの発生を抑えつつ、低温で架橋することができる。また、架橋剤(C2)と組み合わせることで樹脂(A2)を3次元架橋することができ、硬度が要求される用途に好適に用いることができる。さらに、架橋により前記の絶縁層が導電層を被覆した際に絶縁層に柔軟強靭性に基づく力学的なクッション性能を強化するとともに、絶縁層自体の熱成形時の伸張性をも高いレベルでバランスよく両立することが可能であることから、さらに好適に用いることができる。
【0062】
本実施において樹脂(A2)は、後述の実施例、その他公知の方法により合成して用いてもよく、また、所望の物性を有する市販品を用いてもよい。本実施において樹脂(A2)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
本実施の絶縁性樹脂組成物中の樹脂(A2)の含有割合は、用途等に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、導電性樹脂組成物に含まれる固形分全量に対し、50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。樹脂(A2)の含有割合が上記下限値以上であれば、成膜性や、ベースフィルム等への密着性向上し、また、導電層に柔軟性を付与することができる。
【0064】
<溶剤(B2)>
溶剤(B2)としては特に限定されないが、印刷性の観点から沸点180℃以上270℃以下であることが好ましい。溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ガンマブチロラクトン、イソホロン、テトラリンなどが挙げられるが、これらに限定されず用いることができる。本実施において溶剤(B2)は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
<架橋剤(C2)>
本実施において架橋剤(C2)は、前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が有する架橋性官能基と架橋形成しうる反応性官能基を1分子中に2つ以上含有する。架橋剤(C2)が、前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)と架橋形成することで、導電層と絶縁層の親和性が向上し、界面間の応力が緩和され、配線へのクラックを抑制することができる。さらに、前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が同一の反応性官能基を有する場合、前述の通り、更に導電層と絶縁層の親和性が向上し、3次元架橋が効果的に進行させることができ、硬度が要求される用途に好適に用いることができる。
【0066】
架橋剤(C2)の反応性官能基としては、たとえば、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、アルキルオキシアミノ基、アジリジニル基、オキセタニル基、カルボジイミド基、β-ヒドロキシアルキルアミド基などが挙げられる。この中でも本実施においては、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基を好適に用いることができる。
【0067】
ブロックイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の2官能イソシアネートまたはそれらのアロファネート体、ビウレット体、アダクト体、プレポリマー体、イソシアヌレート体等からなる2官能以上のイソシアネートのイソシアネート基が、ε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護(ブロック化)されたイソシアネート化合物であればよく、特に限定されるものではない。具体的には、上記イソシアネート化合物のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、MEKオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、ジイソプロピルアミン、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。また、メラミンやベンゾグアナミン等の芳香族窒素元素をメタノールやブタノール等のアルコールと炭酸エステル化合物とで処理して得られる、N-アルコキシカルボニルメラミン等のアルコールブロック芳香族イソシアネートなども使用することができる。
【0068】
さらに、本実施に用いられるブロックイソシアネートとしては、イソシアヌレート構造を有する、数平均分子量700~1300のブロックイソシアネート 、ビウレット構造を有する、数平均分子量700~1300のブロックイソシアネート、トリメチロールプロパンエステル構造を有する、数平均分子量1000~3000を用いる事が好ましい。上記ブロックイソシアネートを用いる事で、前記樹脂(A1)および前記樹脂(A2)が有する反応性官能基としてヒドロキシ基、アミノ基と低い温度で架橋反応を進行させる事ができ、引っ張り力による導電層の導電性の低下を抑制するとともに、絶縁層自体の熱形成時の伸長性も高いレベルでバランス良く両立させる事が可能となる。
【0069】
<絶縁性樹脂組成物の製造方法>
本実施の絶縁性樹脂組成物の製造方法は、前記樹脂(A2)と、溶剤(B2)と、架橋剤(C2)およびその他の成分とを、溶解乃至分散する方法であればよく、公知の混合手段により混合することにより製造することができる。
【0070】
[加飾層]
本実施の成形フィルムは、得られる成形体の意匠性の点から、加飾層を有していてもよい。
加飾層は単色の色味を有する層であってもよく、任意の模様が付されたものであってもよい。
加飾層は、一例として、色材と、樹脂と、溶剤とを含有する加飾インキを調製した後、当該加飾インキを公知の印刷手段によりベースフィルムに塗布することにより形成することができる。
前記色材としては、公知の顔料や染料の中から適宜選択して用いることができる。また樹脂としては、前記本実施の絶縁性樹脂組成物における樹脂(A2)と同様のものの中から適宜選択して用いることが好ましい。
加飾層の厚みは特に限定されないが、例えば0.5μm以上10μm以下とすることができ、1μm以上5μm以下とすることが好ましい。
【0071】
[成形体]
本実施の成形体は、 所定の形状に成形された成形フィルムが、前記絶縁層面と基材表面とが接するように、あるいは前記ベースフィルム面と基材表面とが接するように基材上に積層され、凹凸面または三次元曲面を有する基材表面に絶縁層で被覆された印刷導電回路が形成された成形体である。
以下、本実施の成形体の製造方法について、3つの実施形態を説明する。なお、本実施の成形体は、前記本実施の導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物を用いて製造されたものであればよく、これらの方法に限定されるものではない。
【0072】
<第1の製造方法>
基材上に前記成形フィルムを配置する工程と、
オーバーレイ成形法により、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。
以下、
図3を参照して説明するが、成形フィルムの製造方法は前述のとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0073】
図5は、成形体の第1の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。
図5(A)~(C)はそれぞれTOM(Three dimension Overlay Method)成形機のチャンバーボックス内に配置された成形フィルム10と基材20を図示するものであり、
図5(B)および(C)ではチャンバーボックスを省略している。
第1の製造方法においては、まず、基材20を下側チャンバーボックス22のテーブル上に設置する。次いで、前記本実施の成形フィルム10を上側チャンバーボックス21と下側チャンバーボックス22との間を通し、基材20上に配置する。この際、成形フィルム10は導電層が基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように配置されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで上側・下側チャンバーボックスを真空状態とした後、成形フィルムを加熱する。次いで、テーブルを上昇することにより基材20を上昇15する。次いで上側チャンバーボックス21内のみを大気開放する(
図5(B))。この時、成形フィルムは基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する(
図5(C))。このようにして成形体30を得ることができる。
【0074】
当該第1の製造方法において、基材20は予め任意の方法で準備することができる。当該第1の製造方法において、基材20の材質は特に限定されず、樹脂製であっても金属製であってもよい。当該第1の製造方法における基材20の材質の例としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、変性ポリフェニレンエーテル、及びこれら樹脂の2種以上からなるポリマーアロイ等の熱可塑性樹脂や、ステンレス、銅、アルミ等の金属、その他ガラスやセラミックス等も用いることができる。
【0075】
なお本第1の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスとは、前記
図5(C)での成形フィルムが基材側に加圧16され、成形フィルム10と基材20とが貼り合わされて一体化する際の、高温下で成形フィルムの導電回路と基材との間の摩擦応力に起因するものである。即ち本第1の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0076】
<第2の製造方法>
本実施に係る成形体の第2の製造方法は、
前記成形フィルムを所定の形状に成形する工程と、
成形後の前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルムと前記基材とを一体化する工程と、を含む。以下、
図6を参照して説明する。なお、第2の製造方法をフィルムインサート法ということがある。
【0077】
図6は、成形体の第2の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第2の製造方法において、成形フィルム10は、金型11により予め所定の形状に成形する(
図6(A))。成形フィルム10は加熱して軟化した後に、又は軟化させながら、真空による金型への吸引もしくは圧空による金型への押しつけ、またはその両方を併用して行い、金型11により成形する(
図6(B))。この際、成形フィルム10は導電層が後述する基材20側、もしくは基材20とは反対側のどちらと面するように成形されていてもよく、最終的な成形体の用途によって選択される。次いで、成形後の成形フィルム10を射出成形用の金型12内に配置する(
図6(C)~
図6(D))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化して、成形体30が得られる(
図6(E))。
【0078】
第2の製造方法において基材20は予め準備する必要はなく、基材の成形と、成形フィルムとの一体化を同時に行うことができる。基材20の材質は、射出成形用に用いられる公知の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。当該第2の製造方法における基材20の材質の例としては、前記第1の製造方法における基材20の材質の例で挙げられた熱可塑性樹脂と同様のものを使用することができる。
【0079】
なお本第2の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材との摩擦応力ストレスとは、
図6(E)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と、前記基材20とを一体化する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第2の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷を受けた後、別工程にて高温下での基材プラスチックとの摩擦応力ストレスを受けることとなる。
【0080】
<第3の製造方法>
本実施に係る成形体の第3の製造方法は、
前記成形フィルムを、射出成形用の型内に配置する工程と、
射出成形により基材を成形すると共に、前記成形フィルム中の導電層を基材側に転写する工程と、を含む。
以下、
図7を参照して説明する。なお、第3の製造方法をインモールド転写法ということがある。
【0081】
図7は、成形体の第3の製造方法の一例を示す、模式的な工程図である。第3の製造方法において成形フィルム10は、ベースフィルムとして剥離性を有するものを選択して用いる。当該成形フィルム10を射出成形用の金型12内に、後述する基材20側に導電層が向くように配置する(
図7(A))。次いで、開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と基材20とが密着し、基材20側に、少なくとも導電層が転写され(
図7(B))、成形体30が得られる(
図7(C))。なお、成形フィルム10が加飾層を有する場合には、加飾層と導電層とが転写される。
【0082】
第3の製造方法においては、ベースフィルムを切断する必要がないため、
図7の例に示されるように長尺状のベースフィルムを配置することができる。基材20の材質は、射出成形用に用いられる公知の樹脂の中から適宜選択して用いることができる。当該第3の製造方法における基材20の材質の例としては、前記第1の製造方法における基材20の材質の例で挙げられた熱可塑性樹脂と同様のものを使用することができる。
【0083】
なお本第3の製造方法における、前述の基材との一体化工程における高温下での基材との摩擦応力ストレスとは、
図7(C)で開口部13から樹脂を射出14して、基材20を形成すると共に、前記成形フィルム10と基材20とが密着する際の、成形フィルム上の導電層が高温の溶融樹脂の型内への射出により受ける摩擦応力に起因するものである。即ち本第3の製造方法においては、導電層は成形時の引張応力による負荷と、高温下での基材との摩擦応力ストレスを同時に受けることとなる。
【0084】
このようにして得られた成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体などに、回路やタッチセンサー・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
また、実施例中の重量平均分子量および数平均分子量は、東ソー社製GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)「HLC-8320」を用いた測定におけるポリスチレン換算分子量である。
また、ブロックされた有効NCO基含有率は、「J I S K 1603-1:2007プラスチック-ポリウレタン原料芳香族イソシアネート 試験方法-第1部:イソシアネート 基含有率の求め方」から算出した。
【0086】
<樹脂(A1):(A-1)~(A-6)>
樹脂(A1)として以下の(A-1)~(A-6)の樹脂を用いた。
・樹脂(A-1):東亜合成株式会社製アクリル樹脂、「アルフォンUC3000」、重量平均分子量10000、架橋性官能基としてカルボキシル基を含み、主鎖にエステル結合、アミド結合、カーボネート結合のいずれも有さない。
・樹脂(A-2):三菱ケミカル社製フェノキシ樹脂、「jER4250」、重量平均分子量60000、架橋性官能基として水酸基を含み、主鎖にエステル結合、アミド結合、カーボネート結合のいずれも有さない。
・樹脂(A-3):東洋紡株式会社製ポリエステル樹脂、「バイロン290」、重量平均分子量22000、架橋性官能基として水酸基を含み、主鎖にエステル結合を有する。
・樹脂(A-4):築野食品工業株式会社製熱可塑性ポリアミド樹脂、「ベジケムグリーンV550」、架橋性官能基としてアミノ基を含み、主鎖にアミド結合を有する。
・樹脂(A-5):三菱エンジニアプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂。「ユーピロンFPC2136」、架橋性官能基として水酸基を含み、主鎖にカーボネート結合を有する。
・樹脂(A-6):三菱ケミカル株式会社製アクリル樹脂、「ダイヤナールBR115」、重量平均分子量55000、架橋性官能基を含まず、主鎖にエステル結合、アミド結合、カーボネート結合のいずれも有さない。
【0087】
<樹脂(A2):(A-7)~(A-12)>
樹脂(A2)として以下の(A-7)~(A-12)の樹脂を用いた。
・樹脂(A-7):東亜合成株式会社製アクリル樹脂、「アルフォンUC3080」、重量平均分子量14000、架橋性官能基としてカルボキシル基を含み、主鎖にエステル結合、アミド結合、カーボネート結合のいずれも有さない。
・樹脂(A-8):東洋紡株式会社製ポリエステル樹脂、「バイロンGK880」、重量平均分子量18000、架橋性官能基としてカルボキシル基と水酸基を含み、主鎖にエステル結合を有する。
・樹脂(A-9):巴工業株式会社製セルロースエステル樹脂、「CAB―583―0.4」、重量平均分子量20000、架橋性官能基として水酸基を含み、主鎖にエステル結合、アミド結合、カーボネート結合のいずれも有さない。
・樹脂(A-10):築野食品工業株式会社製熱可塑性ポリアミド樹脂、「ベジケムグリーンV59D」、架橋性官能基としてアミノ基を含み、主鎖にアミド結合を有する。
【0088】
・<合成例1:樹脂(A-11)の合成>
攪拌機、留出液トラップ、圧力調整装置を備えたセパラフブルフラスコに1,4-ブタンジオール328.2部、ジフェニルカーボネート903.5部、酢酸マグネシウム4水和物水溶液2.6部(濃度:8.4g/L)を入れ、窒素ガス置換した。攪拌下、内温を160℃まで昇温し、内容物を加熱溶解させた。その後、圧力を24kPaまで下げ、残留フェノールを系外へ除去しながら90分間反応させた。続いて、圧力を9.3kPaまでさらに下げ、続けて0.7kPaまで段階的に下げて反応をさらに続けた。その後、170℃まで昇温し、残留フェノール及び未反応のジヒドロキシ化合物を系外へ除きながら60分間反応させ、ポリカーボネートジオール含有組成物を得た。続けて、熱電対と冷却管を設置したセパラブルフラスコに、上記のポリカーボネートジオール30.5部を入れ、60℃のオイルバスにそのフラスコを浸した後、イソホロンジイソシアネート8.8部および、反応抑制剤としてトリイソオクチルフォスファイト0.1部を添加し、フラスコ内を窒素雰囲気下で撹拌しながら1時間かけて80℃に昇温した。昇温した後、ウレタン化触媒としてネオスタンU―830を0.03部を添加し、発熱が治ったのちにオイルバスを再度100℃まで昇温し、さらに2時間撹拌した。続いて上記反応物を脱水トルエン3.3部で希釈した。続いて脱水N,N-ジメチルホルムアミド80.5部を加え、55℃のオイルバスにフラスコを浸漬して撹拌し、溶解させた。さらに1時間撹拌した後、モルフォリン0.215部を添加し、さらに1時間撹拌して重量平均分子量51,000のポリウレタン溶液を得た。ポリウレタンは、ポリウレタン溶液を減圧下45℃で一晩乾燥させ、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート溶液に固形分濃度40%になるように希釈して用いた。なお、上記ポリウレタンは、架橋性官能基として、水酸基およびアミノ基を有している。
【0089】
・樹脂(A-12):三菱ケミカル株式会社製アクリル樹脂、「ダイヤナールBR113」、重量平均分子量30000、架橋性官能基を含まず、主鎖にエステル結合、アミド結合、カーボネート結合のいずれも有さない。
【0090】
溶剤、架橋剤、導電性微粒子及びその他成分として以下のものを用いた。
<溶剤(B-1)~(B-3)>
・溶剤(B-1):1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン、沸点209℃
・溶剤(B-2):ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、沸点217℃
・溶剤(B-3):プロピレングリコールモノメチルエーテル、沸点121℃
【0091】
<架橋剤(C-1)~(C-6)>
・架橋剤(C-1)
四国化成株式会社製イソシアヌル酸誘導体、「MA-DGIC」、架橋部位としてエポキシ基を1分子中に2つ含む。不揮発分100%。
・架橋剤(C-2)
Baxeneden Chemicals社製ブロックイソシアネート溶液、Trixene BI7982、ジメチルピラゾールでブロック化されているイソシアネート基を1分子中に3つ含有するイソシアヌレート変性体、有効NCO基含有率10.2%、数平均分子量792、不揮発分70%(溶剤(B-3):プロピレングリコールモノメチルエーテル)
・架橋剤(C-3)
旭化成株式会社製、デュラネートTPA-100、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、イソシアネート基を1分子中に3つ含有、NCO基含有率23.1%、数平均分子量504、不揮発分100%。
【0092】
・<合成例2:架橋剤(C-4)の合成>
三井化学株式会社製、タケネートD-165N(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット変性体、イソシアネート基を1分子中に3つ含有、NCO基含有率23.5%)15.0部を撹拌棒付きのフラスコへ仕込み、80℃に昇温した。つづいて、メチルエチルケトオキシム2.0部を徐々に添加し、すべて添加した後で2時間撹拌した。FT-IRにてイソシアネート由来の吸収ピークの消失を確認した後、反応を停止し、ビウレット構造を有し、メチルエチルケトオキシムでブロックされたブロックイソシアネートを17.4部得た。ブロックされたイソシアネート基の有効NCO基含有率は7.5%、数平均分子量は1050であった。得られたブロックイソシアネートは不揮発分70%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルに希釈して用いた。
【0093】
・<合成例3:架橋剤(C-5)の合成>
旭化成株式会社製アダクト型ポリイソシアネート 、デュラネート(登録商標)P-301-75E(ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンエステルのアダクト型、イソシアネート基を1分子中に3つ含有、NCO基含有率12.5%、不揮発分75%酢酸エチル溶液)25.0部、マロン酸ジエチル8.0部、アセト酢酸エチル2.0部を仕込み、28%ナトリウムメチラート溶液0.1部を室温で添加し、60℃で6時間反応させた。その後、1―ブタノール0.25部を添加し、つづけて1時間攪拌した。撹拌後、リン酸ブチル0.02部を添加して、トリメチロールプロパンエステル構造を有し、マロン酸ジエチルでブロックされたアダクト型のブロックイソシアネート組成物を19.3部得た。ブロックされたイソシアネート基の有効NCO基含有率は5.5%、数平均分子量は1430であった。得られたブロックイソシアネートは不揮発分70%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルに希釈して用いた。
【0094】
・<合成例4:架橋剤(C-6)の合成>
三井化学株式会社製、タケネートD-120N(キシレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンエステルのアダクト型、イソシアネート基を1分子中に3つ含有、NCO基含有率12.0%、不揮発分75%酢酸エチル溶液)25.0部を撹拌棒付きのフラスコへ仕込み、80℃に昇温した。つづいて、3,5-ジメチルピラゾール11.1部を徐々に添加し、すべて添加した後で2時間撹拌した。FT-IRにてイソシアネート由来の吸収ピークの消失を確認した後、反応を停止し、トリメチロールプロパン構造を有し、3,5-ジメチルピラゾールでブロックされたアダクト型のブロックイソシアネートを14.4部得た。ブロックされたイソシアネート基の有効NCO基含有率は7.4%、数平均分子量は1015であった。得られたブロックイソシアネートは不揮発分70%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルに希釈して用いた。
【0095】
<導電性微粒子(D-1)~(D-4)>
・導電性微粒子(D-1):福田金属箔粉社製、フレーク状銀粉、平均粒子径5.2μm
・導電性微粒子(D-2):福田金属箔粉社製、連鎖凝集状銀粉、平均粒子径1.5μm
・導電性微粒子(D-3):DOWAエレクトロニクス社製、フレーク状銀コート銅粉、銀被覆量10%、平均粒子径4.0μm
・導電性微粒子(D-4):伊藤黒鉛社製、鱗片状黒鉛、平均粒子径15μm
【0096】
<その他成分(E-1)、(E-2)>
・その他成分(E-1):ビックケミー社製、消泡剤、BYK-1790 固形分100%
・その他成分(E-2):第一工業製薬社製、アニオン性滑剤、カリセッケンHY 固形分100%
【0097】
<製造例1:成形フィルム用導電性樹脂組成物(F-1)の作成>
樹脂(A-1)20.0部を溶剤(B-1)30.0部に溶解させ、導電性微粒子(D-1)80.0部を撹拌混合し、3本ロールミル(小平製作所製)で混練したのち、プラネタリーミキサーにより均一に撹拌混合することで成形フィルム用導電性樹脂組成物(F-1)を得た。
【0098】
<製造例2~16:成形フィルム用導電性樹脂組成物(F-2)~(F-16)の作成>
製造例1において、樹脂、溶剤、導電性微粒子、架橋剤(架橋剤またはその他成分(E-1)を用いる場合には、架橋剤およびその他成分(E-1)はプラネタリーミキサーによる均一撹拌混合の直前に加えた)の種類及び配合量を表1のように変更した以外は、それぞれ製造例1と同様にして、成形フィルム用導電性樹脂組成物(F-2)~(F-16)を得た。
【0099】
<製造例17:成形フィルム用絶縁性樹脂組成物(G-1)の作成>
樹脂(A-7)20.0部を溶剤(B-1)30.0部に溶解させ、架橋剤(C-5)6.0重量部および消泡剤(E-1)0.2重量部を加えたのち、プラネタリーミキサーにより均一に撹拌混合することで成形フィルム用絶縁性樹脂組成物(G-1)を得た。
【0100】
<製造例18~39:成形フィルム用絶縁性樹脂組成物(G-2)~(G-23)の作成>
製造例17において、樹脂、溶剤、架橋剤の種類及び配合量を表2、3のように変更した以外は、それぞれ製造例17と同様にして、成形フィルム用絶縁性樹脂組成物(G-2)~(G-23)を得た。
【0101】
<製造例1:加飾インキ(H-1)の作成>
樹脂溶液(A-8)175部(樹脂(A-8)のみとして70部)を準備し、これにフタロシアニンブルー顔料(トーヨーカラー社製、リオノールブルー FG7351)20部、酸化チタン顔料(石原産業社製TIPAQUE CR-93)10質量部を撹拌混合し、3本ロールミル(小平製作所製)で混練したのち、イソシアネート架橋剤(住化コベストロウレタン社製デスモジュール N3300、不揮発分100%)5部と溶剤(B-2)90部を加えて均一に撹拌混合することで加飾インキ(H-1)を得た。
【0102】
なお、表1~表3中の各材料の数値はいずれも質量部である。
【0103】
<実施例1~93、および比較例2~5>
ポリカーボネート(PC)ベースフィルム(帝人社製、パンライト2151、厚み300μm))上に、成形フィルム用導電性樹脂組成物(F-1)~(F-16)をそれぞれスクリーン印刷機(ミノスクリーン社製、ミノマットSR5575半自動スクリーン印刷機)によって印刷した。次いで、熱風乾燥オーブン中、120℃で30分加熱することで、(1)幅70mm、長さ120mm、厚み10μmの四角形ベタ状パターン、(2)線幅2mm、長さ60mm、厚み10μmの直線状のパターンおよび(3)対向部線長50mm、L/S=100μm/100μm正負10本ずつの櫛形配線パターンを有する導電層を備えた成形フィルムをそれぞれ得た。この段階の(1)四角形ベタ状パターンについて、導電層の体積固有抵抗を抵抗率計(三菱ケミカルアナリティック社製、ロレスタGX MCP-T700)を用いて測定した。
さらにこの導電層を備えた成形フィルムの導電パターンが形成された面上に成形フィルム用絶縁性樹脂組成物(G-1)~(G-23)を、(1)前記四角形ベタ状導電パターンに対しては導電パターン全体を覆うように幅90mm、長さ140mm、厚み15μmとなるように、また(2)前記直線状導電パターンに対しては導電パターンの長さ方向に両端10mmが露出しその他の部分を覆うように幅10mm、長さ40mm、厚み15μmとなるように、さらに(3)前記櫛形配線パターンに対しては櫛形の対向パターン部の一部を覆うように幅6mm、長さ40mm、厚み15μmとなるように、それぞれ前記スクリーン印刷機によって重ね印刷した。次いで、熱風乾燥オーブンで120℃で30分加熱することで、前記パターン化された導電層とその一部または全部を被覆するように積層された絶縁層を備えた成形フィルムを得た。この際、導電性樹脂組成物と絶縁性樹脂組成物の組み合わせは表3~6の通りになるように、それぞれ成型フィルムを作成した。この段階の(1)四角形ベタ状パターンの、導電層と重なっていない端部の絶縁層部分について、絶縁層の体積固有抵抗を抵抗率計(三菱ケミカルアナリティック社製、ハイレスタUX MCP-HT800)を用いて測定した。
【0104】
<実施例94~97、および比較例7~10>
前記実施例7、28、42、69及び比較例2~5において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、アクリル樹脂ベースフィルム(住友化学社製、テクノロイS001G、厚み250μm)(300mm×210mm)を用いたこと、及び、熱風乾燥オーブンでの乾燥条件を80℃で30分としたこと以外は、前記実施例7、28、42、69及び比較例2~5同様にして、成形フィルムを得た。
【0105】
<実施例98~101>
前記実施例7、28、42、69において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに、ポリカーボネート樹脂/アクリル樹脂2種2層共押し出しベースフィルム(住友化学社製、テクノロイC001、厚み125μm)を用い、ポリカーボネート樹脂側に成形フィルム用導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物の印刷を行ったこと以外は、前記実施例7、28、42、69と同様にして、成形フィルムを得た。
【0106】
<実施例102~105>
ポリカーボネートベースフィルム(帝人社製、パンライト2151、厚み300μm)上に、加飾インキ(H-1)を、ブレードコーターを用いて、乾燥膜厚が2μmとなるように塗工し、120℃で30分加熱して加飾層を形成した。
次いで、前記実施例7、28、42、69において、ポリカーボネートベースフィルムの代わりに上記加飾層付きベースフィルムを用い、加飾層上に導電層および絶縁層を形成した以外は、前記実施例7、28、42、69と同様にして、ポリカーボネートベースフィルム、加飾インキ層、導電層、絶縁層がこの順に積層された成形フィルムを得た。
【0107】
<実施例106>
前記実施例7において得られた成型フィルムの印刷されていない裏面に、さらに前記実施例7の導電パターンと絶縁パターンと表裏で重なる位置となるようにフィルム用導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物の印刷を行い、第二の導電層と、その一部を被覆するように積層された第二の絶縁層を形成したこと以外は、前記実施例7と同様にして、ベースフィルムの両面に導電層とその一部または全部を被覆するように積層された絶縁層を備えた成形フィルムを得た。
【0108】
<実施例107>
前記実施例7において得られた成型フィルムの絶縁パターン上に、さらに前記実施例1の導電パターンから幅方向に端部間隔が5mm離れた位置に印刷および乾燥を実施例1の導電パターンを形成した工程と同様に行い、さらに実施例7の絶縁パターンと重なる位置に第二の絶縁層パターンの印刷を行うことで、ベースフィルムの片側上に第一の導電層と、その一部を被覆するように積層された第一の絶縁層と、第二の導電層と、その一部を被覆するように積層された第二の絶縁層をこの順番に備えた成形フィルムを得た。
【0109】
<比較例1、6>
前記実施例7および94において、絶縁層を形成しなかったこと以外は、前記実施例7および94と同様にして、成形フィルムを得た。
【0110】
[(1)配線抵抗評価]
上記実施例1~107、および比較例1~10の成形フィルムに形成された、2mm×60mmの直線状導電層パターンが真ん中に来るように長手方向に70mm、幅方向に10mmに切り出し、測定用クーポンとした。この測定用クーポン上の導電層とは反対側の面に、長手方向端から当該導電層と垂直な線を目印として油性マジックで4cm間隔になるように2本書き加えた。この目印に従い、テスターの両測定部を導電層に接触させ、4cm幅の導電層の抵抗値を測定し、これを配線抵抗(Ω)とした。結果を表4~11に示す。
【0111】
[(2)熱延伸評価1]
上記実施例1~93、98~107、および比較例1~5の前記測定用クーポンを160℃の加熱オーブン中で、長手方向に引っ張り速度10mm/分で伸長率50%まで引き延ばした。オーブンから取出し、冷却後に光学顕微鏡を用いて断線の有無を評価した。また、上記配線抵抗の測定と同様の方法で、元の目印基準で4cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表4~11に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:5倍以上10倍未満
B:10倍以上50倍未満
C:50倍以上
【0112】
なお、伸長率は以下のように算出される値である。
(伸長率)[%]={(延伸後の長さ-延伸前の長さ)/(延伸前の長さ)}×100
【0113】
[(3)熱延伸評価2]
前記熱延伸評価1において、伸長率を100%に変更した以外は、前記熱延伸評価1と同様にして、以下の基準で評価した。結果を表4~11に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:10倍以上50倍未満
B:50倍以上200倍未満
C:200倍以上
【0114】
[(4)熱延伸評価3]
上記実施例94~97、および比較例6~10の前記測定用クーポンを120℃の加熱オーブン中で、長手方向に引っ張り速度10mm/分で伸長率50%まで引き延ばした。オーブンから取出し、冷却後に光学顕微鏡を用いて断線の有無を評価した。また、上記配線抵抗の測定と同様の方法で、元の目印基準で4mm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表9、10に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:5倍以上10倍未満
B:10倍以上50倍未満
C:50倍以上
【0115】
[(5)熱延伸評価4]
前記熱延伸評価3において、伸長率を100%に変更した以外は、前記熱延伸評価3と同様にして、以下の基準で評価した。結果を表9、10に示す。
(断線の有無)
A:断線は見られなかった。
B:1~2個の軽微なヒビが確認された
C:重度の断線または導電塗膜の剥離が確認された
(熱延伸時抵抗変動率)
A:10倍以上50倍未満
B:50倍以上200倍未満
C:200倍以上
【0116】
[(6)オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1]
上記実施例1~93、98~107、および比較例1~5の成形フィルムの2mm×60mmの直線状パターンの位置と重なるように、半径4cmの半球状のABS樹脂成形物を導電体側の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、半球形状に成形された成形フィルムとABS樹脂成形物とが一体化した成形体を得た。この成形体の直線状パターン配線の削れおよび抵抗変動率を確認した。抵抗変動率は元の目印基準で6cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表4~11に示す。
(断線の有無と抵抗変動率)
A:配線の削れが見られず、かつ抵抗変動率が5倍以上30倍未満
B:1~2箇所の配線の削れによる端部欠けが確認される、または抵抗変動率が30倍以上500倍未満
C:配線の削れによる断線が1箇所以上確認される
【0117】
[(7)オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価2]
上記実施例94~97、および比較例6~10の成形フィルムの2mm×60mmの直線状パターンを使用し、120℃でオーバーレイ成形を行った以外は、前記オーバーレイ成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得て、オーバーレイ成形時の直線状パターン配線の削れおよび抵抗変動率を評価した。結果を表4~11に示す。
【0118】
[(8)フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価1]
上記実施例1~93、98~107、および比較例1~5の成形フィルムの2mm×60mmの直線状パターンの位置と重なるように、半径4cmの半球状窪みを中央に有するブロック状金属製モールドを導電層および絶縁層側の面と向かい合うように合わせ、TOM成形機(布施真空社製)を用いて設定温度160℃でオーバーレイ成形を行うことで、半球形状に成形された内側にパターン化導電体を有する成形用フィルムを得た。
次いで、当該半球形状に成形された成形フィルムを、バルブゲートタイプのインモールド成形用テスト金型が取り付けられた射出成形機(IS170(i5)、東芝機械社製)にセットし、PC/ABS樹脂(LUPOYPC/ABSHI5002、LG化学社製)を射出成形することで、パターン化導電体付き成形用フィルムと一体化された成形体を得た(射出条件:スクリュー径40mm、シリンダー温度260℃ 、金型温度(固定側、可動側)80℃ 、射出圧力180MPa、保圧力120MPa、射出速度60mm/秒(28%)、射出時間4秒、冷却時間20秒)。この成形体の直線状パターンの溶融樹脂の射出によるウォッシュアウト(溶融熱可塑性樹脂の温度および射出圧による配線パターンの変形や断線)および抵抗変動率を確認した。抵抗変動率は元の目印基準で6cm間隔に相当する位置の配線抵抗(Ω)を測定し、伸縮後の配線抵抗/伸縮前の配線抵抗を熱延伸時抵抗変動率(倍)とし、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表4~11に示す。
(断線の有無と抵抗変動率)
A:配線のウォッシュアウトが全く見られず、かつ抵抗変動率が10倍以上50倍未満
B:軽度のウォッシュアウトによる配線の歪みが確認される、または抵抗変動率が50倍以上500倍未満
C:配線のウォッシュアウトによる断線が1箇所以上確認される
【0119】
[(9)フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価2]
上記実施例94~97、および比較例6~10の成形フィルムの2mm×60mmの直線状パターンを使用し、120℃でオーバーレイ成形を行った以外は、前記フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得て、フィルムインサート成形時の直線状パターンの溶融樹脂射出によるウォッシュアウトの程度および抵抗変動率を評価した。結果を表4~11に示す。
【0120】
[(10)フィルムインサート成形による成形体のイオンマイグレーション耐性評価]
上記実施例1~107、および比較例1~10の成形フィルムの櫛形配線パターンおよび絶縁層を有する成形フィルムを用いて、櫛形配線パターンの位置と中心位置が重なるように金型を併せてオーバーレイ成形を行った以外は、前記フィルムインサート成形による成形体製造時の工程耐性評価1と同様に成形体を得た。
上記各成形体の櫛形配線のそれぞれ正負電極の配線露出部をワニ口クリップによって配線に接続し、IMV社製マイグレーションテスター絶縁劣化評価試験機「MIG-8600B」を用いて、5V印加、85℃85%RH条件下での1000時間後の櫛形配線端子間の絶縁抵抗値を確認し、それぞれ以下の基準で評価した。結果を表14に示す。
(イオンマイグレーションによる短絡の有無と絶縁抵抗率)
A:絶縁抵抗変動率が初期の±25%未満
B:絶縁抵抗変動率が初期の±25%以上±100%未満
C:絶縁抵抗変動率が初期の±100%以上またはリークタッチ(電極間短絡履歴)あり
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
[結果のまとめ]
導電層上に絶縁層を形成しない比較例1、6では、成形体の櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が劣り、経時で短絡を発生しやすく、成形体を立体配線回路として使用する際に適さないことが分かった。これは、成形体のベースフィルム-射出成形樹脂間の密着性が十分でないため、この界面からの水分の侵入によるイオン化促進や熱膨張収縮による導電パターンの機械的劣化が大きいことに起因すると考えられる。また、比較例2、7では絶縁層を形成しているものの、体積固有抵抗が1010Ω・cm未満と低いため、成形体の櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が実用に耐えないレベルであった。さらに、比較例3、8では導電層にエステル結合部を有する樹脂を使用しているが、絶縁層に架橋剤や架橋性反応基がいため、熱延伸時に導電層へ断線が発生することによる抵抗値変動率の大きさや電極間のイオンマイグレーション耐性が実用に耐えないレベルであった。一方、比較例4、9では導電性樹脂組成物及び絶縁性樹脂組成物に主鎖にエステル結合部を有する樹脂を使用しているが、絶縁層に架橋剤がないため、成形体の櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が実用に耐えなかった。加えて、導電性に用いられる樹脂についても同様の傾向が見られ、比較例5、10に示すように導電層と絶縁層の両者に架橋性官能基を有さず、さらに架橋剤がない場合、成形体の櫛型電極間のイオンマイグレーション耐性が実用に耐えないレベルであった。
【0133】
一方、実施例1~107の結果から、本実施の導電層および絶縁層を有する成型フィルムは、オーバーレイ成形およびフィルムインサート成形時に、溶融樹脂射出に対し断線が起きづらいのみならず、成型フィルムの熱延伸時に導電層パターンの断線も抑制されていた。とくに、導電性樹脂組成物に用いられる樹脂(A1)および絶縁性樹脂組成物に用いられる樹脂(A2)の主鎖にエステル結合、アミド結合およびカーボネート結合から選択されるいずれかの結合基を有する実施例7、9~14、18~24、26、28~37、39、41~52、60~65、68、70~74、76、77、80~105の成形フィルムでは、導電層と絶縁層間の親和性が高いため、熱成型延伸時の界面間での応力緩和が働く結果、微細クラックを防ぐことができ、熱延伸抵抗変動率も10倍未満と良好であった。とくに、架橋剤としてブロックイソシアネートを用い、樹脂(A1)および樹脂(A2)に同一の結合を有し、水酸基またはアミノ基を反応性基として有する実施例7、12~14、28、31~34、42、47、49~52、60、62~65、68、73、74、80、81、85~87、89~105の成形フィルムでは、導電層と絶縁層間の親和性の高さに加え、界面間が架橋されることで熱成型延伸時の微細クラックがなく、熱延伸抵抗変動率も10倍未満となることに加え、配線のウォッシュアウトが全く見られず、かつ絶縁抵抗変動率が初期値の±25%未満となる非常に優れた結果を示した。これらは、導電層と絶縁相関の親和性と架橋剤による架橋によって成型体配線間のマイグレーションが抑制され、成形体配線間の絶縁信頼性が向上したと考えられる。
【0134】
また、上記特性により、本発明の導電性樹脂組成物の導電層を備えた成形フィルムは、基材面が平坦でない立体形状であっても、優れた配線一体型の成形体が得られた。この成形体のイオンマイグレーション耐性についても、本発明の成形フィルムを成形する際の導電層パターン内のマイクロクラック発生とこれに伴う導電層表層付近のボイド発生が抑制され、結果的にイオンマイグレーション耐性も改善したと考えられる。
【0135】
このように、本実施の導電性樹脂組成物を用いた成形フィルムおよび配線一体型の成形体は、家電製品、自動車用部品、ロボット、ドローンなどのプラスチック筐体および立体形状部品へ直接、デザイン自由度を損なうことなく軽量かつ省スペースな回路の作り込みやタッチセンサー・アンテナ・発熱体・電磁波シールド・インダクタ(コイル)・抵抗体の作り込みや、・各種電子部品の実装を行うことを可能にする。また、電子機器の軽薄短小化および設計自由度の向上、多機能化に極めて有用である。
【符号の説明】
【0136】
1 ベースフィルム
2 導電層
3 絶縁層
4 電子部品
5 ピン
6 加飾層
7 第2の導電層
8 第2の絶縁層
10 成形フィルム
11 金型
12 射出成形用金型
13 開口部
14 射出
15 上昇
16 加圧
17 樹脂
20 基材
21 上側チャンバーボックス
22 下側チャンバーボックス
30 成形体