(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータ、光走査装置
(51)【国際特許分類】
H10N 30/20 20230101AFI20240417BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20240417BHJP
H02N 2/04 20060101ALI20240417BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240417BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20240417BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240417BHJP
【FI】
H10N30/20
G02B26/10 104Z
H02N2/04
H10N30/853
H10N30/50
H10N30/87
(21)【出願番号】P 2019165949
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】阿賀 寿典
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-340428(JP,A)
【文献】特開2016-046335(JP,A)
【文献】特開2014-082464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/20
G02B 26/10
H02N 2/04
H10N 30/853
H10N 30/50
H10N 30/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された駆動源と、を有し、
前記駆動源は、平均粒径が1μm以下の圧電薄膜を有し、
前記圧電薄膜は、ペロブスカイト構造の導電性酸化膜上に形成され、
前記導電性酸化膜の平均粒径は35nm以下である圧電アクチュエータ。
【請求項2】
基板と、
前記基板上に形成された、平均粒径が1μm以下の圧電薄膜と、を有し、
前記圧電薄膜は、ペロブスカイト構造の導電性酸化膜上に形成され、
前記導電性酸化膜の平均粒径は35nm以下である圧電アクチュエータ。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に形成された駆動源と、を有し、
前記駆動源は、平均粒径が1μm以下の圧電薄膜を複数層有
し、
各々の前記圧電薄膜は、ペロブスカイト構造の導電性酸化膜上に形成され、
前記導電性酸化膜の平均粒径は35nm以下である圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記導電性酸化膜は、ニッケル酸ランタン薄膜、ルテニウム酸ストロンチウム薄膜、又はルテニウム酸バリウム薄膜である請求項1
乃至3の何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記圧電薄膜は、平均粒径が600nm以下である請求項1乃至
4の何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記圧電薄膜は、平均粒径が450nm以下である請求項1乃至
5の何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
前記圧電薄膜は、ペロブスカイト構造である請求項1乃至
6の何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項8】
前記圧電薄膜を構成する圧電材料は、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ニオブ酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、チタン酸ランタン鉛、マグネシウム酸ニオブ酸鉛、又はマンガン酸ニオブ酸鉛である請求項1乃至
7の何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1乃至
8の何れか一項に記載の圧電アクチュエータにより駆動されるミラー部を有する光走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ、光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミラー部を回転させて光を走査する光走査装置において、ミラー部を駆動する駆動源として、圧電薄膜を有する圧電アクチュエータが用いられる場合がある。圧電アクチュエータの駆動電圧は低い方が望ましいため、例えば、圧電薄膜の材料にPZT系の材料を用いることで圧電定数を大きくし、圧電アクチュエータの駆動電圧を低減する検討がなされている。
【0003】
具体的には、例えば、圧電薄膜を、ペロブスカイト強誘電体のAサイトとしてPbを含み、アクセプター元素BAとしてMnを含み、ドナー元素BDとしてNbを含むPb(Mn、Nb)O3からなるPZT系の材料で構成した圧電アクチュエータを備えた光走査装置が提案されている。
【0004】
この光走査装置では、圧電薄膜の膜厚は2μm~10μm程度であり、圧電薄膜の粒径は1μm程度である。又、ミラー部の駆動に共振駆動が用いられ、圧電アクチュエータの駆動電圧は数10V程度である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来は、圧電アクチュエータの駆動電圧の低減は十分に達成できていなく、圧電アクチュエータの駆動電圧の更なる低減が望まれている。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、圧電アクチュエータの駆動電圧を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本圧電アクチュエータ(300)は、基板(310)と、前記基板(310)上に形成された駆動源(320)と、を有し、前記駆動源(320)は、平均粒径が1μm以下の圧電薄膜(340、360)を有し、前記圧電薄膜(340、360)は、ペロブスカイト構造の導電性酸化膜上に形成され、前記導電性酸化膜の平均粒径は35nm以下である。
【0009】
なお、上記括弧内の参照符号は、理解を容易にするために付したものであり、一例にすぎず、図示の態様に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0010】
開示の技術によれば、圧電アクチュエータの駆動電圧を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る圧電アクチュエータを例示する断面図(その1)である。
【
図2】第1実施形態に係る圧電アクチュエータを例示する断面図(その2)である。
【
図3】第2実施形態に係る光走査装置を例示する平面図である。
【
図4】圧電薄膜の平均粒径と駆動電圧との関係を例示する図である。
【
図5】下部電極330上の圧電薄膜340の断面写真(その1)である。
【
図6】圧電薄膜の平均粒径と下層の平均粒径との関係を例示する図である。
【
図8】下部電極330上の圧電薄膜340の断面写真(その2)である。
【
図9】下部電極330上の圧電薄膜340の断面写真(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0013】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係る圧電アクチュエータを例示する断面図である。
図1を参照すると、圧電アクチュエータ300は、基板310と、基板310上に形成された駆動源320とを有する。
【0014】
駆動源320は、基板310上に形成された下部電極330と、下部電極330上に形成された圧電薄膜340と、圧電薄膜340上に形成された中間電極350と、中間電極350上に形成された圧電薄膜360と、圧電薄膜360上に形成された上部電極370とを有する。
【0015】
圧電アクチュエータ300において、例えば、中間電極350がグランドに接続され、下部電極330及び上部電極370に圧電アクチュエータ300を駆動する駆動信号が供給される。下部電極330及び上部電極370に駆動信号が供給されると、圧電アクチュエータ300は駆動信号の電圧にしたがって変位する。
【0016】
基板310は、例えば、シリコン基板である。シリコン基板の上面に、シリコン酸化膜等が形成されてもよい。基板310として、支持層、埋め込み(BOX:Buried Oxide)層、及び活性層を有するSOI(Silicon On Insulator)基板を用いてもよい。
【0017】
下部電極330は、例えば、第1層331、第2層332、及び第3層333の3層により形成される膜である。
【0018】
第1層331及び第3層333の各々は、ペロブスカイト構造及び(110)配向を含んだ導電性酸化膜であることが好ましい。ペロブスカイト構造及び(110)配向を含んだ導電性酸化膜としては、例えば、LNO(LaNiO3:ニッケル酸ランタン)薄膜、SRO(Sr2RuO4:ルテニウム酸ストロンチウム)薄膜、BRO(BaRuO3:ルテニウム酸バリウム)薄膜等が挙げられる。第1層331及び第3層333の各々の膜厚は、例えば、30nmである。
【0019】
第2層332は、例えば、Pt薄膜である。第2層332は、Pt以外の白金族の薄膜でもよく、例えば、Ir薄膜、Os薄膜等を用いてもよい。第2層332の膜厚は、例えば、150nmである。
【0020】
中間電極350は、例えば、第1層351、第2層352、及び第3層353の3層により形成される膜である。
【0021】
第1層351及び第3層353の各々は、ペロブスカイト構造及び(110)配向を含んだ導電性酸化膜であることが好ましい。具体的な材料は、第1層331及び第3層333で例示したものと同様である。第1層351及び第3層353の各々の膜厚は、例えば、80nmである。
【0022】
第2層352は、例えば、Pt薄膜である。第2層352は、Pt以外の白金族の薄膜でもよく、例えば、Ir薄膜、Os薄膜等を用いてもよい。第2層352の膜厚は、例えば、150nmである。
【0023】
上部電極370は、例えば、第1層371及び第2層372の2層により形成される膜である。
【0024】
第1層371は、ペロブスカイト構造及び(110)配向を含んだ導電性酸化膜であることが好ましい。具体的な材料は、第1層331及び第3層333で例示したものと同様である。第1層371の膜厚は、例えば、80nmである。
【0025】
第2層372は、例えば、Pt薄膜である。第2層372は、Pt以外の白金族の薄膜でもよく、例えば、Ir薄膜、Os薄膜等を用いてもよい。第2層372の膜厚は、例えば、100nmである。
【0026】
中間電極350の第1層351及び上部電極370の第1層371は、それぞれの下層にある圧電薄膜340及び360の劣化を抑制している。
【0027】
下部電極330の第1層331及び第3層333の膜厚、中間電極350の第1層351及び第3層353の膜厚、及び上部電極370の第1層371の膜厚は、各々30nm以上とすることが好ましい。これらの膜厚を30nm以上とすることで、LNO薄膜を均一に成膜できる。
【0028】
下部電極330の第3層333の平均粒径、及び中間電極350の第3層353の平均粒径は、35nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがより好ましい。
【0029】
下部電極330の第3層333の平均粒径が上記範囲であると、上層である圧電薄膜340の平均粒径を小さくできる。又、中間電極350の第3層353の平均粒径が上記範囲であると、上層である圧電薄膜360の平均粒径を小さくできる。例えば、圧電アクチュエータ300をミラー部を有する光走査装置に用いる場合、圧電薄膜340及び360の各々の平均粒径を小さくするほど、圧電アクチュエータ300に駆動されるミラー部を同じ振れ角にするための駆動電圧(以降、単に、圧電アクチュエータ300の駆動電圧と称する)を低減できる。
【0030】
ここで、平均粒径とは、対象となる膜の面内水平方向の結晶粒径の平均値である。平均粒径は、電子線回折装置で分析することで算出できる。又、面内水平方向とは、対象となる膜が形成される下層の上面に水平な方向である。
【0031】
圧電薄膜340及び360を構成する圧電材料は、ペロブスカイト構造であることが好ましい。圧電薄膜340及び360は、例えば、ペロブスカイト構造であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)である。圧電薄膜340は下部電極330上に、圧電薄膜360は中間電極350上に、例えば、ゾルゲル法を用いて形成できる。
【0032】
圧電薄膜340及び360を構成する圧電材料は、ペロブスカイト構造であれば、PZT以外でもよく、例えば、PNZT(チタン酸ジルコン酸ニオブ酸鉛)、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、PLT(チタン酸ランタン鉛)、PMN(マグネシウム酸ニオブ酸鉛)、PMNN(マンガン酸ニオブ酸鉛)、BaTiO3(チタン酸バリウム)等が挙げられる。圧電薄膜340及び360に、これらの圧電材料を用いることで、単位電圧当たりの駆動力を向上できる。
【0033】
圧電薄膜340の平均粒径、及び圧電薄膜360の平均粒径は、各々1μm以下とすることが好ましく、600nm以下とすることがより好ましく、450nm以下とすることが更に好ましい。前述のように、圧電薄膜340及び360の各々の平均粒径を小さくするほど、圧電アクチュエータ300の駆動電圧を低減できる。
【0034】
下部電極330及び中間電極350は、例えば、それぞれの上層に形成される圧電薄膜340及び360を結晶化させるため、基板310の温度を500度以上にして、第3層333及び353の面内垂直方向の結晶方位を(110)優先配向させるようにスパッタリングにより成膜できる。この条件で下部電極330と中間電極350とを形成することにより、PZT薄膜を結晶化させて良好な圧電特性を取得可能となる。これにより、圧電アクチュエータ300の駆動電圧を低減できる。
【0035】
なお、圧電アクチュエータ300の構造は、
図1の例には限定されない。例えば、圧電アクチュエータ300において、圧電薄膜は最低1層で良く、この場合、圧電薄膜の上下に下部電極及び上部電極が形成された3層構造となり、中間電極は不要となる。又、3層以上の圧電薄膜を設けてもよく、この場合、下部電極上に圧電薄膜及び中間電極が必要な数だけ交互に積層され、最後に最上層の中間電極上に圧電薄膜及び上部電極が順次積層される。
【0036】
圧電薄膜をn層とすることにより、圧電アクチュエータ300の駆動電圧を、1層の場合の1/nにできる。
【0037】
又、
図2に示す圧電アクチュエータ300Aのように、下部電極330の端部及び中間電極350の端部が上層から露出する構造としてもよい。又、
図2において、圧電薄膜340の端部を中間電極350側から下部電極330側に末広がりに傾斜する傾斜面としてもよい。同様に、圧電薄膜360の端部を上部電極370側から中間電極350側に末広がりに傾斜する傾斜面としてもよい。なお、
図2の下部電極330、中間電極350、及び上部電極370において、積層構造の図示は省略されているが、
図1と同様である。
【0038】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、第1実施形態に係る圧電アクチュエータを用いた光走査装置の例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0039】
図3は、第2実施形態に係る光走査装置を例示する平面図であり、光走査装置をミラー反射面10側から視た図である。
図3において、2本のトーションバー50の長手方向を垂直方向、2本のトーションバー50の長手方向と直交する方向を水平方向としている。
【0040】
図3を参照すると、光走査装置1は、ミラー部40と、トーションバー50と、連結部60と、水平駆動部70と、可動枠80と、垂直駆動部110と、固定枠120と、端子130と、配線140とを有するMEMS(Micro Electro Mechanical System)である。
【0041】
ミラー部40は、ミラー反射面10と、応力緩和領域20とを有する。水平駆動部70は、水平駆動梁71と、駆動源72とを有する。垂直駆動部110は、垂直駆動梁90と、駆動源91と、連結部100とを有する。
【0042】
ミラー部40は、垂直方向に延在する2本のトーションバー50により、垂直方向の両外側から挟持されている。ミラー部40は、中心にミラー反射面10を有し、ミラー反射面10とトーションバー50との間に応力緩和領域20を有する。各応力緩和領域20には、2つのスリット30が形成されている。又、トーションバー50は、基端部50aが連結部60を介して水平駆動梁71の内側の角に連結されている。水平駆動梁71は、表面に駆動源72を備え、外側の辺が可動枠80に連結されている。ミラー部40は、圧電アクチュエータにより駆動される。
【0043】
光走査装置1では、水平駆動梁71及び駆動源72として、第1実施形態で説明した圧電アクチュエータ300を用いている。すなわち、水平駆動梁71は、例えば、シリコン基板である。そして、駆動源72は、圧電薄膜340及び360と、下部電極330と、中間電極350と、上部電極370とを有する。但し、圧電アクチュエータ300において、圧電薄膜は最低1層で良く、3層以上であってもよい。
【0044】
又、トーションバー50の基端部50aには、圧電センサ51が設けられている。圧電センサ51は、ミラー部40が水平方向に遥動している状態におけるミラー反射面10の水平方向の振角を検出するための振角センサである。圧電センサ51には、圧電素子等が用いられ、例えばピエゾ素子が用いられる。
【0045】
可動枠80は、水平駆動梁71を介して連結部60、トーションバー50、及びミラー部40を支持するとともに、これらの周囲を囲んでいる。可動枠80は、垂直駆動梁90の可動枠80に連結されている。
【0046】
垂直駆動梁90は、可動枠80の水平方向の両側に、可動枠80を挟むように配置されている。垂直駆動梁90は、トーションバー50と平行に複数設けられている。可動枠80の各片側には、2つの垂直駆動梁90が水平方向に隣接するように配置されている。隣接する2つの垂直駆動梁90は、連結部100により連結されている。
【0047】
内側の垂直駆動梁90は、一端が可動枠80に連結され、他端が外側の垂直駆動梁90に連結されている。又、外側の垂直駆動梁90は、一端が固定枠120に連結され、他端が内側の垂直駆動梁90に連結されている。又、垂直駆動梁90には、駆動源91が設けられている。
【0048】
光走査装置1では、垂直駆動梁90及び駆動源91として、第1実施形態で説明した圧電アクチュエータ300を用いている。すなわち、垂直駆動梁90は、例えば、シリコン基板である。そして、駆動源91は、圧電薄膜340及び360と、下部電極330と、中間電極350と、上部電極370とを有する。但し、圧電アクチュエータ300において、圧電薄膜は最低1層で良く、3層以上であってもよい。
【0049】
又、外側の垂直駆動梁90の一端には、圧電センサ92が設けられている。圧電センサ92は、ミラー部40が垂直方向に遥動している状態におけるミラー反射面10の垂直方向の振角を検出するための振角センサである。圧電センサ92には、圧電センサ51と同様に圧電素子等が用いられ、例えばピエゾ素子が用いられる。
【0050】
固定枠120は、外側の垂直駆動梁90を介して垂直駆動部110を支持する。すなわち、固定枠120は、駆動部(垂直駆動部110及び水平駆動部70)を介してミラー部40を支持している。垂直駆動部110及び可動枠80を取り囲んでおり、外形が矩形状である。本実施形態では、固定枠120の外形は、ほぼ正方形である。
【0051】
固定枠120の表面には複数の端子130が設けられている。各端子130には配線140が接続されている。配線140は、駆動源72、91、及び圧電センサ51、92に接続されている。又、配線140には、グランド電位が付与された基板としてのシリコン活性層303に配線140をコンタクトさせるための基板コンタクト部140aが形成されている。
【0052】
以下、各部のより詳細な説明を行う。
【0053】
ミラー部40は、ほぼ円形のミラー反射面10を中心に備える。ミラー反射面10は、銀、銅、アルミニウム等の反射率の高い金属膜により形成されている。
【0054】
応力緩和領域20は、トーションバー50の捻れ応力を緩和させ、ミラー反射面10に加わる応力を低減させるために、ミラー反射面10との間に設けられたスペーサ部である。応力緩和領域20は、トーションバー50の捻れ運動で発生する応力を分散させ、ミラー反射面10に加わる応力を緩和できる。
【0055】
スリット30は、応力緩和領域20に印加された応力を分散させるための穴であり、応力緩和領域20内に設けられている。
【0056】
トーションバー50は、ミラー部40を両側から支持するとともに、ミラー部40を水平方向に揺動させるための手段である。ここで、水平方向とは、ミラー反射面10により反射される光が高速に走査して移動する方向であり、投影面の横方向を意味する。つまり、ミラー反射面10が横方向に揺動する方向であり、トーションバー50が軸となる方向である。トーションバー50は、左右に交互に捻れることにより、ミラー部40を水平方向に揺動させる。
【0057】
連結部60は、水平駆動梁71で発生した水平方向の駆動力をトーションバー50に伝達するための伝達手段である。
【0058】
水平駆動梁71は、ミラー部40を水平方向に揺動させ、ミラー反射面10により反射された光を投影面の水平方向に走査させるための駆動手段である。2つの駆動源72に異なる位相の電圧を交互に印加することにより、2つの水平駆動梁71を交互に反対方向に反らせることができる。これにより、トーションバー50に捻れ力を与え、トーションバー50に平行な水平回転軸周りにミラー部40を揺動させることができる。
【0059】
又、水平駆動梁71による駆動は、例えば、共振駆動が用いられる。本実施形態に係る光走査装置1をプロジェクタ等に適用した場合には、例えば30kHzの共振駆動によりミラー部40が駆動される。
【0060】
又、隣接する垂直駆動梁90に異なる位相の電圧を印加することにより、可動枠80を垂直方向に揺動させることができる。なお、ミラー部40は、可動枠80に支持されているので、可動枠80の揺動に伴い、垂直方向に揺動する。
【0061】
なお、垂直駆動部110は、例えば、非共振駆動により可動枠80を揺動させる。垂直駆動は、水平駆動と比較して高速駆動は要求されず、駆動周波数は、例えば、60Hz程度である。
【0062】
以上の構成の光走査装置1は、例えばSOIウェハを用いて製造される。
【0063】
ここで、光走査装置1の圧電アクチュエータにおける圧電薄膜の結晶粒径の制御について説明する。圧電アクチュエータにおいて、従来は、圧電薄膜の結晶粒径を制御することは実施していなかった。しかし、発明者らは、圧電薄膜の結晶粒径を制御して圧電薄膜の平均粒径を小さくすることで、圧電アクチュエータの駆動電圧を低減できることを見出した。
【0064】
図4は、圧電薄膜の平均粒径と駆動電圧との関係を例示する図である。
図4において、横軸の『圧電薄膜の平均粒径』は、圧電薄膜340及び360の断面写真を電子線回折装置で分析して求めた、圧電薄膜340及び360の面内水平方向の結晶粒径の平均値である。
【0065】
図5は、下部電極330上の圧電薄膜340の断面写真(その1)であり、矢印で示す部分が圧電薄膜340の面内水平方向の結晶粒径の一例である。矢印の位置を上下方向及び左右方向に動かして各位置における面内水平方向の結晶粒径を測定し、平均化したものが、面内水平方向の結晶粒径の平均値(すなわち、平均粒径)である。電子線回折装置では、圧電薄膜340及び360の断面写真を分析し、圧電薄膜340及び360の平均粒径を求める。
【0066】
電子線回折装置としては、TEM(Transmission Electron Microscope)ベースの結晶方位解析システムASTER(NanoMEGAS社製、登録商標)を用いることができる。ASTERを用いることで、2~5nm程度の高い空間分解能を実現可能である。
【0067】
図4において、縦軸の『駆動電圧』は、駆動源72を構成する中間電極350をグランドに接続し、上部電極370と下部電極330との間に駆動電圧を供給する構成で、ミラー部40の振れ角が3.2degとなる電圧である。駆動電圧の値が低いほど、振れ角感度が高い。
【0068】
図4からわかるように、圧電薄膜340及び360の平均粒径を小さくするほど、ミラー部40が一定の角度で触れるために必要な駆動電圧を低減できる。言い換えれば、圧電薄膜340及び360の平均粒径を小さくするほど、振れ角感度を向上できる。
【0069】
例えば、圧電薄膜340及び360の平均粒径を600nmから450nmにすることで、ミラー部40が一定の角度で触れるために必要な駆動電圧を約8%低減できる。
【0070】
振れ角感度を向上できる理由は、圧電薄膜340及び360の平均粒径を小さくすることで、結晶粒間の隙間を小さくでき、圧電薄膜340及び360に加わる電力のロスが削減されるためである。すなわち、結晶粒間の隙間が大きいほど沿面に流れる電流が大きくなるが、結晶粒間の隙間が小さくなるに連れて沿面に流れる電流が小さくなり、より多くの電流が圧電薄膜340及び360の内部を流れるようになるため、振れ角感度を向上できる。なお、沿面に流れる電流は、圧電アクチュエータの変形に寄与しない。
【0071】
又、同じ電力を加えた場合に、結晶粒径が小さい方が圧電アクチュエータがよく動くことになるため、見かけ上の圧電定数を高くできる。又、沿面に流れる電流が小さくなるため、圧電アクチュエータの絶縁耐圧を高くできる。
【0072】
図6は、圧電薄膜の平均粒径と下層の平均粒径との関係を例示する図である。
図6において、縦軸の『下層の平均粒径』は、第3層333及び353の断面写真を電子線回折装置で分析して求めた、第3層333及び353の面内水平方向の結晶粒径の平均値である。電子線回折装置としては、圧電薄膜の場合と同様に、ASTERを用いることができる。横軸の『圧電薄膜の平均粒径』については、
図3の場合と同様である。
【0073】
図6からわかるように、第3層333及び353の平均粒径を小さくするほど、圧電薄膜340及び360の平均粒径を小さくできる。第3層333及び353の平均粒径を小さくするには、第3層333及び353をスパッタリングで成膜する際に用いるスパッタリングターゲットの平均粒径を小さくすればよい。
【0074】
すなわち、
図7に示すように、第3層333のスパッタリングターゲットの平均粒径を小さくすることで第3層333の平均粒径が小さくなり、これにより、第3層333上に形成される圧電薄膜340の平均粒径も小さくなる。同様に、第3層353のスパッタリングターゲットの平均粒径を小さくすることで第3層353の平均粒径が小さくなり、これにより、第3層353上に形成される圧電薄膜360の平均粒径も小さくなる。そして、圧電薄膜340及び360の平均粒径が小さくなった結果、駆動電圧を低減できる(振れ角感度を向上できる)。
【0075】
図8は、下部電極330上の圧電薄膜340の断面写真(その2)であり、
図8(b)は
図8(a)の下部電極330近傍の拡大図である。
【0076】
図8は、下部電極330を構成する第3層333の平均粒径が約30nm、圧電薄膜340の平均粒径が約579nmの例である。この例では、ミラー部40の振れ角が3.2degとなる駆動電圧は1.85~1.95V程度となる(
図4より)。
【0077】
図9は、下部電極330上の圧電薄膜340の断面写真(その3)であり、
図9(b)は
図9(a)の下部電極330近傍の拡大図である。
【0078】
図9は、下部電極330を構成する第3層333の平均粒径が約20nm、圧電薄膜340の平均粒径が約449nmの例である。この例では、ミラー部40の振れ角が3.2degとなる駆動電圧は1.7~1.8V程度となる(
図4より)。
【0079】
このように、圧電薄膜の平均粒径を小さくすることで、圧電アクチュエータの駆動電圧を低減できる。実使用状態における駆動電圧を考慮すると、圧電薄膜の平均粒径は1μm以下とすることが好ましく、600nm以下とすることがより好ましく、450nm以下とすることが更に好ましい。圧電薄膜の平均粒径を600nm以下とすることで、圧電アクチュエータの駆動電圧を2V以下にできる。
【0080】
上記実施形態に係る光走査装置1は、例えば、アイウェアやプロジェクタ等の二次元走査型の光走査装置に適用できる。
【0081】
又、上記実施形態では、光走査装置として、トーションバーを用いた光走査装置を例に挙げて説明しているが、本発明は、トーションバーを用いない光走査装置に対しても適用可能である。又、上記実施形態では、二次元走査型の光走査装置を例に挙げて説明しているが、二次元走査型に限られず、1方向にミラー部を揺動させる一次元走査型の光走査装置であってもよい。
【0082】
又、上記実施形態に係る圧電アクチュエータ300は、光走査装置以外に用いてもよく、例えば、インクジェットヘッドに用いることができる。
【0083】
以上、好ましい実施形態について説明したが、上述した実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 光走査装置、10 ミラー反射面、20 応力緩和領域、30 スリット、40 ミラー部、50 トーションバー、50a 基端部、51 圧電センサ、60、100 連結部、70 水平駆動部、71 水平駆動梁、72 駆動源、80 可動枠、90 垂直駆動梁、91 駆動源、92 圧電センサ、110 垂直駆動部、120 固定枠、130 端子、140 配線、140a 基板コンタクト部、300、300A 圧電アクチュエータ、310 基板、320 駆動源、330 下部電極、331、351、371 第1層、332、352、372 第2層、333、353 第3層、340、360 圧電薄膜、350 中間電極、370 上部電極