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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20240417BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20240417BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B60C11/03 100A
B60C11/00 F
B60C11/13 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020022824
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127006
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 一憲
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-238508(JP,A)
【文献】特開2010-260400(JP,A)
【文献】特開2002-096608(JP,A)
【文献】特開2000-198322(JP,A)
【文献】特開2014-051287(JP,A)
【文献】特開平04-143106(JP,A)
【文献】特開2016-159696(JP,A)
【文献】特開2013-154654(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0100057(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる5本~8本の周方向溝が形成され、これら周方向溝の相互間にタイヤ周方向に延在する複数列の陸部が区画され、
前記トレッド部の接地領域をタイヤ幅方向に3等分することで前記トレッド部にタイヤ幅方向中央に位置するセンター領域と該センター領域の両側に位置する一対のショルダー領域とを規定したとき、これらセンター領域及びショルダー領域の各々に少なくとも2本の周方向溝が存在し、
前記周方向溝の各々の溝幅が6mm~10mmの範囲にあり、
前記センター領域内の代表センター周方向溝の溝壁長さに対する前記ショルダー領域内の代表ショルダー周方向溝の溝壁長さの比が0.85~1.25の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記トレッド部に配置されたトレッドゴム層の断面積と全ての周方向溝の総断面積との総和に対する全ての周方向溝の総断面積の比率が8%~15%に範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記接地領域の接地幅に対する該接地領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率が50%~65%の範囲にあり、各ショルダー領域の幅に対する各ショルダー領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率が40%~60%の範囲にあり、前記センター領域の幅に対する該センター領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率が70%~85%の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記センター領域内の代表センター陸部の幅に対する前記ショルダー領域内の代表ショルダー陸部の幅の比が0.8~1.2の範囲にあることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
全ての周方向溝がタイヤ周方向に連続しており、各周方向溝の溝幅の比がそれに隣接する他の周方向溝の溝幅に対して0.8~1.2の範囲にあることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記センター領域に存在する周方向溝の本数が前記ショルダー領域の各々に存在する周方向溝の本数以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記一対のビード部間に装架された4層以下のカーカス層と、該カーカス層の外周側に配置された2層以下のベルト層とを有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる5本~8本の周方向溝が形成され、これら周方向溝の相互間にタイヤ周方向に延在する複数列の陸部が区画され、
前記トレッド部の接地領域をタイヤ幅方向に3等分することで前記トレッド部にタイヤ幅方向中央に位置するセンター領域と該センター領域の両側に位置する一対のショルダー領域とを規定したとき、これらセンター領域及びショルダー領域の各々に少なくとも2本の周方向溝が存在し、
前記周方向溝の各々の溝幅が6mm~10mmの範囲にあり、
前記トレッド部に配置されたトレッドゴム層の断面積と全ての周方向溝の総断面積との総和に対する全ての周方向溝の総断面積の比率が8%~15%に範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項9】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる5本~8本の周方向溝が形成され、これら周方向溝の相互間にタイヤ周方向に延在する複数列の陸部が区画され、
前記トレッド部の接地領域をタイヤ幅方向に3等分することで前記トレッド部にタイヤ幅方向中央に位置するセンター領域と該センター領域の両側に位置する一対のショルダー領域とを規定したとき、これらセンター領域及びショルダー領域の各々に少なくとも2本の周方向溝が存在し、
前記周方向溝の各々の溝幅が6mm~10mmの範囲にあり、
前記接地領域の接地幅に対する該接地領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率が50%~65%の範囲にあり、各ショルダー領域の幅に対する各ショルダー領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率が40%~60%の範囲にあり、前記センター領域の幅に対する該センター領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率が70%~85%の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、良好なウエット性能を確保しつつ、通過騒音を低減して静粛性を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、良好なウエット性能を確保しつつ、通過騒音を低減して静粛性を改善することが求められている。しかしながら、トレッド部に形成される溝を多くするとウエット性能が良化するものの通過騒音が増大し、逆にトレッド部に形成される溝を少なくすると通過騒音が減少するもののウエット性能が悪化する傾向がある。つまり、ウエット性能と静粛性とはトレッドパターンに依存する背反性能である(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
このような状況に鑑みて、複数本の周方向溝を含むトレッドパターンを有する空気入りタイヤにおいて、その周方向溝の配置や構造を工夫することでウエット性能と静粛性との両立を図ることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-52351号公報
【文献】特開2018-86994号公報
【文献】特開2019-104375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、良好なウエット性能を確保しつつ、通過騒音を低減して静粛性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる5本~8本の周方向溝が形成され、これら周方向溝の相互間にタイヤ周方向に延在する複数列の陸部が区画され、
前記トレッド部の接地領域をタイヤ幅方向に3等分することで前記トレッド部にタイヤ幅方向中央に位置するセンター領域と該センター領域の両側に位置する一対のショルダー領域とを規定したとき、これらセンター領域及びショルダー領域の各々に少なくとも2本の周方向溝が存在し、
前記周方向溝の各々の溝幅が6mm~10mmの範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、5本~8本という比較的多くの周方向溝がトレッド部に形成され、これら周方向溝の相互間に複数列の陸部が区画され、センター領域及びショルダー領域の各々に少なくとも2本の周方向溝が存在するように周方向溝を分散させることにより、路面上の水膜が周方向溝内に入り易くなるためウエット性能を改善することができる。しかも、各周方向溝の溝幅を上記範囲に規定することにより、良好なウエット性能を維持しながら、通過騒音を低減して静粛性を改善することができる。
【0008】
本発明において、トレッド部の接地領域は、標準リムに組み付けられたタイヤに規格で定められた最大空気圧の80%の空気圧が封入され、規格で定められた最大負荷能力の80%の荷重が掛けられたときに測定されるタイヤ軸方向の接地幅に基づいて特定される接地領域である。
【0009】
本発明において、トレッド部に配置されたトレッドゴム層の断面積と全ての周方向溝の総断面積との総和に対する全ての周方向溝の総断面積の比率は8%~15%に範囲にあることが好ましい。このように全ての周方向溝の総断面積の比率を低くすることにより、接地領域における溝内に封じ込められる空気の体積が減少し、気柱共鳴に起因する通過騒音を効果的に低減することができる。トレッドゴム層の断面積及び周方向溝の断面積はいずれもタイヤ子午線断面において測定される断面積である。
【0010】
接地領域の接地幅に対する該接地領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率は50%~65%の範囲にあり、各ショルダー領域の幅に対する各ショルダー領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率は40%~60%の範囲にあり、センター領域の幅に対する該センター領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率は70%~85%の範囲にあることが好ましい。このように各領域における周方向溝の総溝壁長さの比率を規定することにより、路面上の水膜が周方向溝内に入り易くなるためウエット性能を効果的に改善することができる。周方向溝の総溝壁長さとは、タイヤ子午線断面において各領域で測定される周方向溝の溝壁長さの総和である。溝壁長さは周方向溝の両側壁及び底壁を形成する輪郭線の長さである。
【0011】
センター領域内の代表センター陸部の幅に対するショルダー領域内の代表ショルダー陸部の幅の比は0.8~1.2の範囲にあることが好ましい。これにより、接地領域内での接地圧の均一化を図り、センター領域及びショルダー領域での排水性を同等に維持し、タイヤ全体としての排水性を向上することができる。ここで、代表センター陸部とは、センター領域においてタイヤ幅方向中心位置に最も近い陸部である。一方、代表ショルダー陸部とは、ショルダー領域において接地端に最も近い周方向溝のタイヤ幅方向内側に隣接する陸部である。
【0012】
センター領域内の代表センター周方向溝の溝壁長さに対するショルダー領域内の代表ショルダー周方向溝の溝壁長さの比は0.85~1.25の範囲にあることが好ましい。これにより、接地領域内での周方向溝の溝壁長さの均一化を図り、センター領域及びショルダー領域での排水性を同等に維持し、タイヤ全体としての排水性を向上することができる。ここで、代表センター周方向溝とは、センター領域においてタイヤ幅方向中心位置に最も近い周方向溝である。一方、代表ショルダー周方向溝とは、ショルダー領域において接地端に最も近い周方向溝である。
【0013】
全ての周方向溝はタイヤ周方向に連続しており、各周方向溝の溝幅の比がそれに隣接する他の周方向溝の溝幅に対して0.8~1.2の範囲にあることが好ましい。つまり、全ての周方向溝はタイヤ周方向に連続していて排水性に貢献する溝であり、タイヤ転動中の如何なる位置においても同等の排水性を確保することができる。また、各周方向溝の溝幅の比を上記範囲に規定することにより、分散配置された全ての周方向溝の排水性を同等に維持し、タイヤ全体としての排水性を向上することができる。
【0014】
センター領域に存在する周方向溝の本数はショルダー領域の各々に存在する周方向溝の本数以上であることが好ましい。これにより、トレッド部において接地開始位置となるセンター領域の排水性を十分に確保してウエット性能を改善することができる。
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、各種の空気入りタイヤの適用可能であるが、特に、一対のビード部間に装架された4層以下のカーカス層と、該カーカス層の外周側に配置された2層以下のベルト層とを有する普通乗用車用の空気入りタイヤに適用することが好ましい。このような空気入りタイヤは比較的軽量である普通乗用車に使用されるため、トラック・バス等に使用される重荷重用空気入りタイヤとは異なって、重荷重化に拠らない排水性の向上が求められている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図1の空気入りタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図3図1の空気入りタイヤのトレッド部の輪郭を示す子午線断面図である。
図4】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図5図4の空気入りタイヤのトレッドパターンを示す平面図である。
図6図4の空気入りタイヤのトレッド部の輪郭を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。図4図6は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。これら実施形態は周方向溝の本数のみが異なるものである。図1図6において、CLはタイヤ幅方向中心位置である。
【0018】
図1及び図4に示すように、各実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0019】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0020】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0021】
また、トレッド部1におけるベルト層7及びベルトカバー層8の外側にはトレッドゴム層11が配置され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外側にはサイドゴム層12が配置され、ビード部3におけるカーカス層4の外側にはリムクッションゴム層13が配置され、タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層14が配置されている。トレッドゴム層11はタイヤ外表面に露出するキャップトレッドゴム層と該キャップトレッドゴム層の下地となるアンダートレッドゴム層を含む積層構造としても良い。
【0022】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0023】
上記空気入りタイヤにおいて、図2及び図5に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びてタイヤ周方向に連続する5本~8本の周方向溝10が形成されている。これら周方向溝10の相互間に複数列の陸部20が区画されている。各周方向溝10の溝幅Wgは6mm~10mmの範囲に設定されている。周方向溝10の溝幅Wgは接地面において周方向溝10を挟む両側の陸部20の端部同士をつなぐ仮想線の長さである。また、各周方向溝10の溝深さは4mm~8mmの範囲にあると良い。トレッド部1には周方向溝10以外の溝を形成することが可能であり、例えば、タイヤ幅方向に延びるラグ溝やサイプを設けることができる。
【0024】
トレッド部1の接地領域は接地幅TDWを有している。ここで、トレッド部1の接地領域をタイヤ幅方向に3等分することにより、トレッド部1にタイヤ幅方向中央に位置するセンター領域Acと該センター領域Acの両側に位置する一対のショルダー領域As,Asとを規定する。センター領域Acの幅Wc及び各ショルダー領域Asの幅Wsは1/3×TDWに相当する。このとき、これらセンター領域Ac及びショルダー領域Asの各々に少なくとも2本の周方向溝10が存在している。少なくとも2本の周方向溝10が存在するとは、センター領域Ac及びショルダー領域Asの各々に少なくとも2本の周方向溝10の少なくとも一部が掛かっていることを意味する。つまり、図1においては、センター領域Acとショルダー領域Asとの境界上に位置する周方向溝10があるため、センター領域Ac及びショルダー領域Asの各々に少なくとも2本の周方向溝10が存在するという要件が満たされている。一方、図4においては、センター領域Ac及びショルダー領域Asの各々に少なくとも2本の周方向溝10が包含されている。
【0025】
上述した空気入りタイヤでは、5本~8本という比較的多くの周方向溝10がトレッド部1に形成され、これら周方向溝10の相互間に複数列の陸部20が区画され、センター領域Ac及びショルダー領域Asの各々に少なくとも2本の周方向溝10が存在するように周方向溝10を分散させることにより、路面上の水膜が周方向溝10内に入り易くなるためウエット性能を改善することができる。しかも、各周方向溝10の溝幅Wgを上記範囲に規定することにより、良好なウエット性能を維持しながら、通過騒音を低減して静粛性を改善することができる。
【0026】
ここで、周方向溝10が5本よりも少ないと周方向溝10の分散が不十分になるためウエット性能の改善効果が得られず、逆に8本よりも大きいと陸部20の剛性が低下し、ドライ路面やウエット路面での操縦安定性が低下する。また、センター領域Ac及びショルダー領域Asの各々に存在する周方向溝10の本数が2本よりも少ないと周方向溝10の分散が不十分になるためウエット性能の改善効果が得られない。更に、周方向溝10の溝幅Wgが6mmよりも小さいとウエット性能が低下し、逆に10mmよりも大きいと通過騒音の増大により静粛性が悪化する。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1に配置されたトレッドゴム層11の断面積と全ての周方向溝10の総断面積との総和に対する全ての周方向溝10の総断面積の比率は8%~15%に範囲にあると良い。つまり、トレッドゴム層11のタイヤ子午線断面での断面積をSrとし、全ての周方向溝10のタイヤ子午線断面での総断面積をSgとしたとき、上記比率はSg/(Sr+Sg)×100%により算出される。また、各周方向溝10の断面積は溝幅Wgを規定する仮想線にて閉じられた領域の断面積である。このように全ての周方向溝10の総断面積の比率を低くすることにより、トレッド部1の接地領域において周方向溝10内に封じ込められる空気の体積が減少し、気柱共鳴に起因する通過騒音を効果的に低減することができる。
【0028】
ここで、トレッド部1に配置されたトレッドゴム層11の断面積と全ての周方向溝10の総断面積との総和に対する全ての周方向溝10の総断面積の比率が8%よりも小さいとウエット性能の改善効果が低下し、逆に15%よりも大きいと静粛性の改善効果が低下する。
【0029】
上記空気入りタイヤにおいて、接地領域の接地幅TDWに対する該接地領域内に含まれる周方向溝10の総溝壁長さの比率は50%~65%の範囲にあり、各ショルダー領域Asの幅Wsに対する各ショルダー領域As内に含まれる周方向溝10の総溝壁長さの比率は40%~60%の範囲にあり、センター領域Acの幅Wcに対する該センター領域Ac内に含まれる周方向溝10の総溝壁長さの比率は70%~85%の範囲にあると良い。このようにトレッド部1の接地領域、ショルダー領域As及びセンター領域Acの各々における周方向溝10の総溝壁長さの比率を規定することにより、路面上の水膜が周方向溝内に入り易くなるためウエット性能を効果的に改善することができる。周方向溝10の総溝壁長さとは、タイヤ子午線断面において各領域で測定される周方向溝10の溝壁長さLgの総和である。図3及び図6に示すように、周方向溝10の溝壁長さLgは周方向溝10の両側壁及び底壁を形成する輪郭線の長さである。このように規定される周方向溝10の溝壁長さLgは周方向溝10の溝深さや溝幅のみならず溝壁の傾斜角度に基づいて調整することが可能である。
【0030】
ここで、トレッド部1の接地領域、ショルダー領域As及びセンター領域Acの各々における周方向溝10の総溝壁長さの比率が下限値よりも小さいとウエット性能の改善効果が低下し、逆に上限値よりも大きいと静粛性の改善効果が低下する。
【0031】
上記空気入りタイヤにおいて、図3及び図6に示すように、センター領域Ac内でタイヤ幅方向中心位置CLに最も近い陸部20は代表センター陸部20cであり、ショルダー領域As内で接地端に最も近い周方向溝10のタイヤ幅方向内側に隣接する陸部20は代表ショルダー陸部20sである。そして、代表センター陸部20cの幅Wrcに対する代表ショルダー陸部20sの幅Wrsの比(Wrs/Wrc)は0.8~1.2の範囲にあると良い。これにより、接地領域内での接地圧の均一化を図り、センター領域Ac及びショルダー領域Asでの排水性を同等に維持し、タイヤ全体としての排水性を向上することができる。
【0032】
ここで、代表センター陸部20cの幅Wrcに対する代表ショルダー陸部20sの幅Wrsの比(Wrs/Wrc)が上記範囲から外れると、接地領域内での接地圧の均一化が不十分になるため、タイヤ全体としての排水性が低下することになる。
【0033】
上記空気入りタイヤにおいて、図3及び図6に示すように、センター領域Ac内でタイヤ幅方向中心位置CLに最も近い周方向溝10は代表センター周方向溝10cであり、ショルダー領域As内で接地端に最も近い周方向溝10は代表ショルダー周方向溝10sである。そして、代表センター周方向溝10cの溝壁長さLgcに対する代表ショルダー周方向溝10sの溝壁長さLgsの比(Lgs/Lgc)は0.85~1.25の範囲にあると良い。これにより、接地領域内での周方向溝10の溝壁長さLgの均一化を図り、センター領域Ac及びショルダー領域Asでの排水性を同等に維持し、タイヤ全体としての排水性を向上することができる。
【0034】
ここで、代表センター周方向溝10cの溝壁長さLgcに対する代表ショルダー周方向溝10sの溝壁長さLgsの比(Lgs/Lgc)が上記範囲から外れると、接地領域内での周方向溝10の溝壁長さLgの均一化が不十分になるため、タイヤ全体としての排水性が低下することになる。
【0035】
上記空気入りタイヤにおいて、全ての周方向溝10はタイヤ周方向に連続しており、各周方向溝10の溝幅Wgの比がそれに隣接する他の周方向溝10の溝幅Wgに対して0.8~1.2の範囲にあると良い。つまり、全ての周方向溝10はタイヤ周方向に連続していて排水性に貢献する溝であり、タイヤ転動中の如何なる位置においても同等の排水性を確保することができる。また、各周方向溝10の溝幅Wgの比を上記範囲に規定することにより、分散配置された全ての周方向溝10の排水性を同等に維持し、タイヤ全体としての排水性を向上することができる。
【0036】
ここで、隣り合う周方向溝10の溝幅Wgの比が上記範囲から外れると、接地領域内での周方向溝10に基づく排水性の均一化が不十分になるため、タイヤ全体としての排水性が低下することになる。
【0037】
上記空気入りタイヤにおいて、センター領域Acに存在する周方向溝10の本数はショルダー領域Asの各々に存在する周方向溝10の本数以上であると良い。これにより、トレッド部1において接地開始位置となるセンター領域Acの排水性を十分に確保してウエット性能を改善することができる。
【0038】
上述した空気入りタイヤは、一対のビード部3,3間に装架された4層以下のカーカス層4と、該カーカス層4の外周側に配置された2層以下のベルト層7とを備えることが好ましい。このような空気入りタイヤは一般的には普通乗用車用である。比較的軽量である普通乗用車に使用される空気入りタイヤでは、トラック・バス等に使用される重荷重用空気入りタイヤとは異なって、重荷重化に拠らない排水性の向上が求められている。そのため、上述した構造は普通乗用車用空気入りタイヤにおいて有益である。
【実施例
【0039】
タイヤサイズ245/35R20で、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備え、一対のビード部間に装架された1層のカーカス層と、カーカス層の外周側に配置された2層のベルト層とを有する空気入りタイヤにおいて、トレッド部に形成される周方向溝の本数、センター領域に存在する周方向溝の本数、ショルダー領域に存在する周方向溝の本数、周方向溝の溝幅、周方向溝の溝深さ、トレッド部に配置されたトレッドゴム層の断面積と全ての周方向溝の総断面積との総和に対する全ての周方向溝の総断面積の比率(周方向溝の総断面積比率)、接地領域の接地幅に対する該接地領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率(接地領域での総溝壁長さ比率)、ショルダー領域の幅に対するショルダー領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率(ショルダー領域での総溝壁長さ比率)、センター領域の幅に対するセンター領域内に含まれる周方向溝の総溝壁長さの比率(センター領域での総溝壁長さ比率)を表1のように設定した従来例、比較例及び実施例1~5のタイヤを製作した。
【0040】
従来例、比較例及び実施例1~5において、代表センター陸部の幅に対する代表ショルダー陸部の幅の比を1.0とし、代表センター周方向溝の溝壁長さに対する代表ショルダー周方向溝の溝壁長さの比を1.05とし、隣り合う周方向溝の溝幅の比を1.0とした。
【0041】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ウエット性能及び静粛性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0042】
ウエット性能:
試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて排気量1800ccの試験車両に装着し、空気圧を280kPa(前輪)/260kPa(後輪)とし、水深2mmのアスファルト路面からなるテストコースにおいて時速100km/hの走行状態から制動を行い、その停止距離を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどウエット性能が優れていることを意味する。
【0043】
静粛性:
試験タイヤをリムサイズ20×9Jのホイールに組み付けて排気量1800ccの試験車両に装着し、空気圧を250kPa(前輪)/250kPa(後輪)とし、ECE R117-02に定めるタイヤ騒音試験法に従って車外通過音を測定した。具体的には、試験車両を騒音測定区間の通過時点の10分前から走行させ、当該区間の手前でエンジンを停止し、惰行走行させたときの騒音測定区間における最大騒音値(dB)(周波数800Hz~1200Hzの範囲の騒音値)を、基準速度(50km/h)に対して±10km/hの速度範囲を等間隔に8以上に区切った複数の速度で測定し、その平均値を車外通過騒音とした。最大騒音値は、騒音測定区間内の中間点において走行中心線から側方に7.5mかつ路面から1.2mの高さに設置した定置マイクロフォンを用いてA特性周波数補正回路を通して測定した音圧である。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど車外通過音が小さく静粛性が優れていることを意味する。
【0044】
【表1】
【0045】
この表1から判るように、実施例1~5のタイヤは、従来例との対比において、良好なウエット性能を確保しつつ、優れた静粛性を呈するものであった。一方、比較例1のタイヤは、ウエット性能が良化しているものの、それに伴って静粛性が悪化していた。
【符号の説明】
【0046】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
10 周方向溝
10c 代表センター周方向溝
10s 代表ショルダー周方向溝
11 トレッドゴム層
12 サイドゴム層
13 リムクッションゴム層
14 インナーライナー層
20 陸部
20c 代表センター陸部
20s 代表ショルダー陸部
CL タイヤ中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6