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  • 特許-タイヤ用ゴム組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20240417BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20240417BHJP
   C08G 18/81 20060101ALI20240417BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L1/02
C08G18/81 016
B60C1/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020080309
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172792
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】張 迪
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-086388(JP,A)
【文献】特開2010-254925(JP,A)
【文献】特表2018-505239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、平均繊維径が1~1000nmおよび平均繊維長さが0.1~0.5μmの変性セルロースナノクリスタルと、を含み、
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記変性セルロースナノクリスタルを10~30質量部含有する、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記変性セルロースナノクリスタルが、分子内の1以上の水酸基に疎水性の変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルである、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記変性セルロースナノクリスタルが、分子内の1以上の水酸基にウレタン結合またはエステル結合を介して疎水性の変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルである、請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記変性セルロースナノクリスタルが、分子内の1以上の水酸基にウレタン結合を介して(メタ)アクリレート基が導入された(メタ)アクリレート変性セルロースナノクリスタルである、請求項3に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ジエン系ゴムが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、および天然ゴム(NR)からなる群から選ばれる1以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、およびこのタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを構成するゴム組成物は、弾性率(伸び)、硬度(硬さ)などの特性が優れたものが求められている。そして、このような特性を向上させるために、ゴム組成物中にカーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合する技術が知られている。
【0003】
また、ゴム組成物中にセルロースの極細繊維であるナノセルロースを充填剤として配合する技術も開発されている。例えば、特許文献1には、酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー、カチオン化セルロースナノファイバーなどの変性セルロースナノファイバーおよびゴム成分を含むゴム組成物が、大きなひずみを与えた場合でも、十分な補強性を持ったゴム組成物となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-095611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ナノセルロースのうち、平均繊維長さが0.1~0.5μmの結晶性の極細繊維であるセルロースナノクリスタルは、ナノファイバーが凝集および集束していない状態を保つために水分散液としてゴム成分に添加、混合する必要があるセルロースナノファイバーとは異なり、粉体状のままゴム成分に添加、混合が可能なものである。しかしながら、このセルロースナノクリスタルは親水性の成分であり、そのまま添加、混合してもゴム成分中における分散性が悪く、得られるゴム組成物の引張応力、引張強さ、伸びなどを向上できない場合がある。
【0006】
そこで本発明は、引張応力、引張強さ、および伸びがいずれも向上した、セルロースナノクリスタルを含有するタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ジエン系ゴムと、変性セルロースナノクリスタルと、を含むタイヤ用ゴム組成物が、ジエン系ゴム中においてセルロースナノクリスタルが均質に分散し、引張応力、引張強さ、および伸びがいずれも向上していることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(7)である。
(1)ジエン系ゴムと、変性セルロースナノクリスタルと、を含むタイヤ用ゴム組成物。
(2)前記変性セルロースナノクリスタルが、分子内の1以上の水酸基に疎水性の変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルである、(1)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(3)前記変性セルロースナノクリスタルが、分子内の1以上の水酸基にウレタン結合またはエステル結合を介して疎水性の変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルである、(2)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(4)前記変性セルロースナノクリスタルが、分子内の1以上の水酸基にウレタン結合を介して(メタ)アクリレート基が導入された(メタ)アクリレート変性セルロースナノクリスタルである、(3)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
(5)前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記変性セルロースナノクリスタルを0.1~30質量部含む、(1)~(4)のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
(6)前記ジエン系ゴムが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、および天然ゴム(NR)からなる群から選ばれる1以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
(7)(1)~(6)のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引張応力、引張強さ、および伸びがいずれも向上した、セルロースナノクリスタルを含有するタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。そして、このタイヤ用ゴム組成物を用いることにより、引張応力、引張強さおよび伸びがいずれも優れたタイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例および比較例のタイヤ用ゴム組成物のモジュラス測定時における試験片に加えた伸び(Strain(%):横軸)と引張応力(Stress(MPa):縦軸)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、ジエン系ゴムと、変性セルロースナノクリスタルと、を含むタイヤ用ゴム組成物、およびこのタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤである。以下においては、これらを「本発明のタイヤ用ゴム組成物」、および「本発明のタイヤ」ともいう。
【0012】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0013】
まず、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴムは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)などが例示される。そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、このようなジエン系ゴムを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物にはジエン系ゴム以外のゴム成分が含まれていてもよいが、含有するゴム成分の90質量%以上がジエン系ゴムであるのが好ましく、95質量%以上がジエン系ゴムであるのがより好ましく、含有するゴム成分がジエン系ゴムからなる(100質量%ジエン系ゴムである)のがさらに好ましい。
【0014】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、含有するジエン系ゴムが、SBR、BR、IR、およびNRからなる群から選ばれる1以上(つまりこの群から選ばれる1つを使用する態様または2以上を組み合わせて使用する態様)であるのが特に好ましい。また、SBRを好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するジエン系ゴムであるとより好適であり、SBRからなる(100質量%SBRである)ジエン系ゴムであってもよい。そして、このジエン系ゴムの重量平均分子量は、50,000~3,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましい。
【0015】
なお、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。
【0016】
次に、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる変性セルロースナノクリスタル(変性CNC)は、セルロースミクロフィブリルからなる平均繊維径が1~1000nmの極細繊維(ナノセルロース)のうち、平均繊維長さが0.1~0.5μmである結晶性の(例えば針状結晶、あるいは球状結晶の)極細繊維であって、その分子内に変性基が導入されたものである。つまり、この変性セルロースナノクリスタルは、化学変性セルロースナノクリスタルである。
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる変性セルロースナノクリスタルには、平均繊維長さが0.5μm超のアモルファスを含むナノセルロースであるセルロースナノファイバーの分子内に変性基が導入された変性セルロースナノファイバー(変性CNF)は包含されない。また、未変性のナノセルロースも包含されない。
【0017】
ここで、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる変性セルロースナノクリスタルの分子内に導入されている変性基の量は限定されない。また、変性基が導入されている位置や単位構成分子(β-グルコース単位)当たりの導入数も限定されない。例えば、セルロースナノクリスタルを構成する単位構成分子の少なくとも1つにおいて、単位構成分子当たり1~3の変性基が導入されていてよい。なお、ジエン系ゴム中における変性セルロースナノクリスタルの分散性がより高まるという観点から、セルロースナノクリスタル分子内の1以上の水酸基(OH基)に変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルであると好ましく、特に、この分子内の1以上の1級水酸基(炭素鎖の末端にある水酸基)に変性基が導入された構成であるとさらに好ましい。
なお、導入される変性基としては、疎水性の変性基や、カチオン性の変性基(カチオン化)、アニオン性の変性基(アニオン化)などが例示される。
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム中におけるセルロースナノクリスタルの分散性をさらに向上させ、且つ、得られるタイヤ用ゴム組成物の引張応力、引張強さ、および伸びをいずれもより向上させることができることから、上記したセルロースナノクリスタル分子内の1以上の水酸基(より好適には1級水酸基)に疎水性の変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルを使用するのがより好ましく、この水酸基にウレタン結合またはエステル結合(より好適にはウレタン結合)を介してこの疎水性の変性基が導入された変性セルロースナノクリスタルを使用するのがさらに好ましい。
この疎水性の変性基としては、(メタ)アクリレート基、アセチル基(アセチル化)、ASA(Alkenyl Succinic Anhydride:アルケニル無水コハク酸)、シリル基または加水分解性シリル基(例えばメトキシシリル基、エトキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基など、シランカップリング)、フッ素置換基(フッ素化)などが好ましいものとして例示され、例えば、これらから選ばれる少なくとも1つが分子内の1以上の水酸基に導入された変性セルロースナノクリスタルであってよい。
【0019】
ここで、この「ウレタン結合またはエステル結合を介して」とは、セルロースナノクリスタル分子が有する水酸基の部分に、ウレタン結合またはエステル結合を挟んで疎水性の変性基が結合した構成であり、ウレタン結合またはエステル結合の少なくとも一部がこの疎水性の変性基に含まれる構成であってもよい。
【0020】
特に、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、セルロースナノクリスタルの分子内の1以上の水酸基にウレタン結合を介して(メタ)アクリレート基、つまりアクリレート基またはメタクリレート基が導入された、(メタ)アクリレート変性セルロースナノクリスタル(アクリレート変性セルロースナノクリスタルまたはメタクリレート変性セルロースナノクリスタル)を使用するのが非常に好ましい。ジエン系ゴム中におけるセルロースナノクリスタルの分散性、ならびに得られるタイヤ用ゴム組成物の引張応力、引張強さ、および伸びをいずれもさらに向上させることができるからである。なお、このウレタン結合とは下記式(1)に表される結合であり、アクリレート基とは下記式(2)に表される基であり、メタクリレート基とは下記式(3)に表される基である。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
この(メタ)アクリレート変性セルロースナノクリスタルは、例えば、未変性のセルロースナノクリスタルに2-イソシアナトエチルアクリラートなどのイソシアネート基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体を用いて変性処理を施すことにより得ることができる。ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを意味する。下記式(4)に、未変性のセルロースナノクリスタルに2-イソシアナトエチルアクリラートを用いてアクリレート変性処理を施し、分子内の1以上の1級水酸基にウレタン結合を介してアクリレート基が導入されたアクリレート変性セルロースナノクリスタルを得る化学反応式の一例を表す(式(4)中のRは下側に示す基を表し、nは1以上の整数を表す)。
【0025】
【化4】
【0026】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる変性セルロースナノクリスタルは、前述したように、セルロースナノクリスタルの分子内の1以上の水酸基(例えば1級水酸基)にエステル結合を介してアセチル基が導入されたアセチル変性セルロースナノクリスタルや、この水酸基にエステル結合を介してASAが導入されたASA変性セルロースナノクリスタルであってもよい。さらに、これも前述したように、セルロースナノクリスタルの分子内の1以上の水酸基(1級水酸基など)にシリル基または加水分解性シリル基が導入されたシラン変性セルロースナノクリスタルや、この水酸基にフッ素置換基が導入されたフッ素変性セルロースナノクリスタルであってもよい。
【0027】
なお、アセチル変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルに酢酸などを用いてアセチル化処理を施すことにより得ることができる。また、ASA変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルにアルケニル無水コハク酸を用いてASA処理を施すことにより得ることができる。さらに、シラン変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルにシランカップリング剤を用いてシランカップリング処理を施すことにより得ることができる。また、フッ素変性セルロースナノクリスタルは、セルロースナノクリスタルにフッ素化剤を用いてフッ素化処理を施すことにより得ることができる。
【0028】
ここで、この変性セルロースナノクリスタルの原料となるセルロースは、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでもよく、特段限定されないが、綿由来セルロースから得られた変性セルロースナノクリスタル(綿由来の変性セルロースナノクリスタル)は、結晶化度が高く熱安定性がより高いため好適である。
【0029】
変性セルロースナノクリスタルの作製方法としては、例えば、セルロース原料を酸などにより加水分解し、得られた結晶性のセルロースをアセトンやトルエンなどの低誘電率有機溶媒中に懸濁し、固形分を低誘電率有機溶媒中において粉砕し、粉砕後に低誘電率有機溶媒を乾燥除去してセルロースナノクリスタルの粉末を得る方法が示される。さらに、この得られた粉末をふるいなどによって分粒して、微粒子(例えば、JIS Z 8801に準拠して150μmふるいにかけたときの通過画分の質量割合が90質量%以上である微粒子)を得てもよい。また、この微粒子の表面を塩酸などにより表面処理してもよい。そして、このようにして得られたセルロースナノクリスタルに、前述したような変性処理を施すことにより、変性セルロースナノクリスタルを得ることができる。
【0030】
そして、この変性セルロースナノクリスタルの平均繊維径は1~1000nmであるが、この平均繊維径は1~200nmであると好ましく、1~50nmであるとより好ましい。また変性セルロースナノクリスタルの平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は好ましくは1~500、より好ましくは10~400である。なお、平均繊維径が上記範囲未満および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えると、変性セルロースナノクリスタルの分散性が低下する可能性がある。また平均繊維径が上記範囲を超過および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であると補強性能が低下する可能性がある。
【0031】
ここで、本発明において変性セルロースナノクリスタルの「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0032】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム100質量部に対して、この変性セルロースナノクリスタルを好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~25質量部、さらに好ましくは5~20質量部含有させるのが好適である。ジエン系ゴムに対する変性セルロースナノクリスタルの量が少なすぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物の引張応力、引張強さ、および伸びが高まりにくい傾向がある。また、ジエン系ゴムに対する変性セルロースナノクリスタルの量が多すぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物のコストが高くなり易い傾向があり、さらに、この変性セルロースナノクリスタルの分散性が低下し易い傾向がある。
【0033】
なお、この変性セルロースナノクリスタルは、水分散液としてゴム成分に添加、混合する必要がある変性セルロースナノファイバーとは異なり、水に均質に分散させることは難しいが、粉体状のままゴム成分に添加、混合できることが特徴である。
【0034】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、変性セルロースナノクリスタル以外の各種充填剤をさらに配合することができる。また、この充填剤は、単数あるいは複数を組み合わせて配合しても良い。この他の充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレイ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸バリウム、レシチン等を例示することができる。ここで、本発明において「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、あるいは二酸化ケイ素を主成分とする(例えば80質量%以上、さらには90質量%以上含む)粒子物質を意味し、「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の炭素微粒子を意味する。
【0035】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量含有させることができ、これらの添加剤を公知の方法で混練してタイヤ用ゴム組成物とし、さらには加硫、架橋などを行うのに使用することができる。
【0036】
例えば、本発明のタイヤ用ゴム組成物における酸化亜鉛の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.2~10.0質量部であることが好ましく、0.4~5.0質量部であることがより好ましく、1.0~4.0質量部であることがさらに好ましい。また、加硫剤または架橋剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.5質量部であることがより好ましい。さらに、加硫促進剤または架橋促進剤の含有量は、一次促進剤単独もしくは二次とのブレンドでジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましい。そして、ステアリン酸の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.2~4.0質量部であることがより好ましい。
【0037】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、常法にしたがえばよく、特段限定はされない。製造方法の一例としては、ジエン系ゴムと、変性セルロースナノクリスタルと、必要に応じて他の成分とを、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混錬機を用いて常温あるいは高温下で混練、混合することによりタイヤ用ゴム組成物を製造することができる。なお、加硫系成分(硫黄および加硫促進剤など)を使用する場合には、これ以外の成分を先に高温下で混合し、冷却してから加硫系成分を混合するのが好ましい。
【0038】
以上のようにして得られた本発明のタイヤ用ゴム組成物は、セルロースナノクリスタルがジエン系ゴム中に均質に分散し、且つこのセルロースナノクリスタルの補強性能によって引張応力、引張強さ、および伸びがいずれも優れている。また、このような変性セルロースナノクリスタルを充填剤として用いた本発明のタイヤ用ゴム組成物は、従来のタイヤ用ゴム組成物と比較してより軽量化されたものとすることも可能である。
【0039】
そして、この本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて、引張応力、引張強さ、および伸びがいずれも優れた本発明のタイヤを得ることができる。なお、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、およびその他の気体を使用することができる。
【0040】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例
【0041】
<タイヤ用ゴム組成物の作製および評価>
下記表1に示す組成のタイヤ用ゴム組成物を作製した。
【0042】
具体的には、下記表1上段に示す質量部のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR;日本ゼオン社製,NIPOL 1502)、セルロースナノクリスタル粉末(CNC;フィラーバンク社製,化学変性されていないセルロースナノクリスタル、比較例のみ)、アクリレート変性セルロースナノクリスタル粉末(アクリレート変性CNC;フィラーバンク社製,上記CNCを2-イソシアナトエチルアクリラート(カレンズAOI(登録商標)、昭和電工社製)によりアクリレート変性処理し、その分子内の1以上の1級水酸基にアクリレート基が導入されたもの、実施例のみ)、亜鉛華(酸化亜鉛(ZnO);正同化学工業社製)、ならびにステアリン酸(日油社製)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。次に、オープンロールを用いて、硫黄(四国化成工業社製,ミュークロン OT-20)および加硫促進剤(大内新興化学工業社製,ノクセラーNS-P)を混合して混錬し、これを15cm×10cm×0.1cmの金型中において160℃30分間プレス加硫して、比較例1~2および実施例1~2のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0043】
そして、得られた比較例1~2および実施例1~2のタイヤ用ゴム組成物について、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、200%モジュラス(M200:MPa)、400%モジュラス(M400:MPa)、破断時引張強さ(TB:MPa)、および破断時伸び(=破断時の伸び率:EB)を室温(20℃)にて測定した。なお、EBについては、各タイヤ用ゴム組成物のEB測定に用いた試験片の引張試験を行う前の長さを100%とした場合における、この試験片のEB測定での破断時の長さを相対値(%)として示した。なお、各タイヤ用ゴム組成物の上記引張試験は、それぞれ3回ずつ実施した。これらの結果(3回の試験データの平均値)を、下記表1下段に示す。
【0044】
また、この3回の試験のうちの1回のデータから作成した、各タイヤ用ゴム組成物のモジュラス測定時における試験片に加えた伸び(Strain(%):横軸)と、その際の引張応力(Stress(MPa):縦軸)との関係を示すグラフを図1に示す。なお、この図1のグラフにおける試験片に加えた伸びについては、各タイヤ用ゴム組成物のモジュラス測定に用いた試験片の引張試験を行う前の長さを100%とした場合における、モジュラス測定においてこの試験片に加えた伸び(引張により増加した長さ)を相対値(%)として示した。
【0045】
【表1】
【0046】
これらの結果から、実施例1、2のタイヤ用ゴム組成物は、200%モジュラス、400%モジュラス、破断時引張強さ、および破断時伸びがいずれも比較例1、2のタイヤ用ゴム組成物よりも向上していることが明らかとなった。特に、400%モジュラス、破断時引張強さ、および破断時伸びについては、セルロースナノクリスタル粉末を20phr(per hundred rubber:SBR100質量部に対する割合)含む比較例2のタイヤ用ゴム組成物よりも、アクリレート変性セルロースナノクリスタル粉末の含有量が10phrである(充填剤の含有量としては比較例2の半量である)実施例1のタイヤ用ゴム組成物の方がより高い値であった。
【0047】
以上の結果より、上記したアクリレート変性セルロースナノクリスタルを用いた実施例1、2のタイヤ用ゴム組成物は、未変性のセルロースナノクリスタルを用いた比較例1、2のタイヤ用ゴム組成物よりも引張応力、引張強さおよび伸びがいずれも優れたものとなっていることが示された。これは、実施例1、2のタイヤ用ゴム組成物では、上記したアクリレート変性セルロースナノクリスタルを使用することにより、ジエン系ゴム中におけるセルロースナノクリスタルの分散性がより向上し、その補強性能もより高まったためであると推察された。
図1