IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-空気入りタイヤ 図1
  • 特許-空気入りタイヤ 図2
  • 特許-空気入りタイヤ 図3
  • 特許-空気入りタイヤ 図4
  • 特許-空気入りタイヤ 図5
  • 特許-空気入りタイヤ 図6
  • 特許-空気入りタイヤ 図7
  • 特許-空気入りタイヤ 図8
  • 特許-空気入りタイヤ 図9
  • 特許-空気入りタイヤ 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
B60C19/00 B
B60C19/00 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020093569
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187268
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 雅公
(72)【発明者】
【氏名】長橋 祐輝
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特許第6667045(JP,B1)
【文献】特開2005-323339(JP,A)
【文献】特開2020-055459(JP,A)
【文献】特表2017-537013(JP,A)
【文献】特表2013-530874(JP,A)
【文献】特開2000-108621(JP,A)
【文献】特開2007-049351(JP,A)
【文献】特開2005-170065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記サイドウォール部にトランスポンダがタイヤ周方向に沿って延在するように埋設され、該トランスポンダが被覆層により被覆され、該被覆層の比誘電率が該被覆層に隣接する周辺ゴム部材の比誘電率よりも低く、タイヤ子午線断面における前記被覆層の外縁から前記トランスポンダまでの最短距離Dが0.3mm以上であり、
前記トランスポンダが基板と該基板の両端から延びるアンテナとを有し、該アンテナのタイヤ周方向の端末と前記被覆層のタイヤ周方向の端末との距離Lが2mm~20mmの範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記被覆層の総厚さGacが1.5mm~3.5mmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記被覆層がエラストマー又はゴムからなり、該被覆層の比誘電率が7以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記トランスポンダの長さ方向の中心がタイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間して配置されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トランスポンダが前記ビード部のビードコアの上端からタイヤ径方向外側に15mmの位置とタイヤ最大幅位置との間に配置されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆層により被覆されたトランスポンダが埋設された空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、トランスポンダの通信性を改善することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、RFIDタグ(トランスポンダ)をタイヤ内に埋設することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。トランスポンダをタイヤ内に埋設するにあたって、トランスポンダを被覆層により被覆し、該被覆層の比誘電率を低くすることにより、トランスポンダの通信性を改善することができる。しかしながら、被覆層による被覆が不十分であるとトランスポンダの通信性が悪化する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-137510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、トランスポンダの通信性を改善することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記サイドウォール部にトランスポンダがタイヤ周方向に沿って延在するように埋設され、該トランスポンダが被覆層により被覆され、該被覆層の比誘電率が該被覆層に隣接する周辺ゴム部材の比誘電率よりも低く、タイヤ子午線断面における前記被覆層の外縁から前記トランスポンダまでの最短距離Dが0.3mm以上であり、
前記トランスポンダが基板と該基板の両端から延びるアンテナとを有し、該アンテナのタイヤ周方向の端末と前記被覆層のタイヤ周方向の端末との距離Lが2mm~20mmの範囲にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、トランスポンダが被覆層により被覆され、被覆層の比誘電率が該被覆層に隣接する周辺ゴム部材の比誘電率よりも低く、タイヤ子午線断面における被覆層の外縁からトランスポンダまでの最短距離Dが0.3mm以上であることにより、トランスポンダを周辺ゴム部材から十分に隔離して比誘電率が低い被覆層で包み込むので、トランスポンダの通信性を改善することができる。
【0007】
本発明において、被覆層の総厚さGacは1.5mm~3.5mmの範囲にあることが好ましい。これにより、トランスポンダの通信性を改善する効果を得ると共に、被覆層に基づく保護効果によりトランスポンダの耐久性を改善することができる。また、被覆層の総厚Gacの上限値を規定することにより、タイヤの耐久性を十分に確保することができる。
【0008】
トランスポンダが基板と該基板の両端から延びるアンテナとを有し、該アンテナのタイヤ周方向の端末と被覆層のタイヤ周方向の端末との距離Lが2mm~20mmの範囲にあることが好ましい。これにより、トランスポンダの全体が被覆層によって確実に被覆されるので、トランスポンダの通信距離を十分に確保することができる。また、距離Lの上限値を規定することにより、タイヤ周上において局所的な重量増が生じることを回避し、タイヤバランスを良好に維持することができる。
【0009】
被覆層はエラストマー又はゴムからなり、該被覆層の比誘電率は7以下であることが好ましい。このように被覆層の比誘電率を規定することにより、トランスポンダの通信性を効果的に改善することができる。
【0010】
トランスポンダの中心はタイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間して配置されていることが好ましい。これにより、タイヤの耐久性を効果的に改善することができる。
【0011】
トランスポンダはビード部のビードコアの上端からタイヤ径方向外側に15mmの位置とタイヤ最大幅位置との間に配置されていることが好ましい。これにより、トランスポンダが走行時の応力振幅が小さい領域に配置されるため、トランスポンダの耐久性を効果的に改善することができ、更に、トランスポンダの通信性やタイヤの耐久性を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線半断面図である。
図2図1の空気入りタイヤの要部を拡大して示す断面図である。
図3】(a),(b)はそれぞれ本発明に係る空気入りタイヤに埋設可能なトランスポンダを示す斜視図である。
図4】被覆層により被覆された状態で空気入りタイヤに埋設されたトランスポンダを示す断面図である。
図5】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの変形例を示す子午線半断面図である。
図6】(a)~(c)はそれぞれ被覆層により被覆された状態で空気入りタイヤに埋設されたトランスポンダを示す平面図である。
図7】(a)~(b)はそれぞれ被覆層により被覆された状態で空気入りタイヤに埋設されたトランスポンダを示す平面図である。
図8図1の空気入りタイヤを概略的に示す子午線断面図である。
図9図1の空気入りタイヤを概略的に示す赤道線断面図である。
図10】試験タイヤにおけるトランスポンダのタイヤ径方向位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1~7は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
【0015】
一対のビード部3間には、複数本のカーカスコードをラジアル方向に配列してなる少なくとも1層(図1では1層)のカーカス層4が装架されている。カーカス層4はゴムで被覆されている。カーカス層4を構成するカーカスコードとしては、ナイロンやポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用される。各ビード部3には環状のビードコア5が埋設されており、そのビードコア5の外周上に断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4のタイヤ外周側には、複数層(図1では2層)のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0017】
ベルト層7のタイヤ外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層(図1では2層)のベルトカバー層8が配置されている。図1において、タイヤ径方向内側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の全幅を覆うフルカバーを構成し、タイヤ径方向外側に位置するベルトカバー層8はベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層を構成している。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、カーカス層4の両端末4eは、各ビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返され、ビードコア5及びビードフィラー6を包み込むように配置されている。カーカス層4は、トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分である本体部4Aと、各ビード部3においてビードコア5の廻りに巻き上げられて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分である巻き上げ部4Bとを含む。
【0019】
また、タイヤ内表面には、カーカス層4に沿ってインナーライナー層9が配置されている。トレッド部1にはキャップトレッドゴム層11が配置され、サイドウォール部2にはサイドウォールゴム層12が配置され、ビード部3にはリムクッションゴム層13が配置されている。
【0020】
また、上記空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部2におけるカーカス層4よりタイヤ幅方向外側の部位にトランスポンダ20がタイヤ周方向に沿って延在するように埋設されている。また、トランスポンダ20は、図2に示すように、被覆層23により被覆されている。この被覆層23は、トランスポンダ20の表裏両面を挟むようにしてトランスポンダ20の全体を被覆する。
【0021】
トランスポンダ20として、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)タグを用いることができる。トランスポンダ20は、図3(a),(b)に示すにように、データを記憶するIC基板21とデータを非接触で送受信するアンテナ22とを有している。このようなトランスポンダ20を用いることで、適時にタイヤに関する情報を書き込み又は読み出し、タイヤを効率的に管理することができる。なお、RFIDとは、アンテナ及びコントローラを有するリーダライタと、IC基板及びアンテナを有するIDタグから構成され、無線方式によりデータを交信可能な自動認識技術である。
【0022】
トランスポンダ20の全体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、図3(a),(b)に示すにように柱状や板状のものを用いることができる。特に、図3(a)に示す柱状のトランスポンダ20を用いた場合、タイヤの各方向の変形に対して追従することができるので好適である。この場合、トランスポンダ20のアンテナ22は、IC基板21の両端部の各々から突出し、螺旋状を呈している。これにより、走行時におけるタイヤの変形に対して追従することができ、トランスポンダ20の耐久性を改善することができる。また、アンテナ22の長さを適宜変更することにより、通信性を確保することができる。
【0023】
このように構成される空気入りタイヤにおいて、トランスポンダ20を被覆する被覆層23の比誘電率が該被覆層23に隣接する周辺ゴム部材(例えば、ビードフィラー6、インナーライナー層9、サイドウォールゴム層12、リムクッションゴム層13、カーカス層4のコートゴム)の比誘電率よりも低く設定され、かつ、図4に示すように、タイヤ子午線断面において、被覆層23の外縁からトランスポンダ20までの最短距離Dが0.3mm以上となるように設定されている。つまり、タイヤ子午線断面において、トランスポンダ20は被覆層23中の任意の位置に配置されるが、いずれの場合においても被覆層23の外縁からトランスポンダ20までの最短距離Dが0.3mm以上となっている。
【0024】
上述した空気入りタイヤでは、トランスポンダ20が被覆層23により被覆され、被覆層23の比誘電率が該被覆層23に隣接する周辺ゴム部材の比誘電率よりも低く、タイヤ子午線断面における被覆層23の外縁からトランスポンダ20までの最短距離Dが0.3mm以上となるように設定されることにより、トランスポンダ20を周辺ゴム部材から十分に隔離して比誘電率が低い被覆層23で包み込むので、トランスポンダ20の通信性を改善することができる。つまり、誘電体中では電波波長が短縮するため、トランスポンダ20のアンテナ22の長さは短縮した電波波長に対して共振するように設定される。このようにトランスポンダ20のアンテナ22の長さを最適化することにより、通信効率が大幅に改善される。しかしながら、トランスポンダ20の通信環境を最適化するには、トランスポンダ20を被覆層23に隣接する周辺ゴム部材から十分に隔離する必要がある。そこで、被覆層23の外縁からトランスポンダ20までの最短距離Dを十分に確保することにより、トランスポンダ20の通信性を改善することが可能になる。
【0025】
ここで、タイヤ子午線断面における被覆層23の外縁からトランスポンダ20までの最短距離Dが0.3mmよりも小さいとトランスポンダ20の通信性を改善する効果が得られない。特に、タイヤ子午線断面における被覆層23の外縁からトランスポンダ20までの最短距離Dは0.3mm~1.0mmの範囲にあることが望ましい。
【0026】
更に、上述した空気入りタイヤでは、カーカス層4よりタイヤ幅方向外側にトランスポンダ20が埋設されているので、トランスポンダ20の通信時に電波を遮断するタイヤ構成部材がなく、トランスポンダ20の通信性を良好に確保することができる。なお、本発明において、トランスポンダ20はサイドウォール部2に配置されるが、そのタイヤ軸方向の位置は特に限定されるものではない。カーカス層4よりタイヤ幅方向外側にトランスポンダ20を埋設する場合、トランスポンダ20をカーカス層4の巻き上げ部4Bとリムクッションゴム層13との間やカーカス層4とサイドウォールゴム層12との間に配置することができる。他の構造として、トランスポンダ20をカーカス層4の巻き上げ部4Bとビードフィラー6との間やカーカス層4の本体部4Aとビードフィラー6との間に配置することも可能である。また、図5に示すように、トランスポンダ20をカーカス層4とインナーライナー層9との間に配置しても良い。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、図4に示すように、被覆層23の総厚さGacは1.5mm~3.5mmの範囲にあると良い。これにより、トランスポンダ20の通信性を改善する効果を得ると共に、被覆層23に基づく保護効果によりトランスポンダの耐久性を改善することができる。また、被覆層23の総厚Gacの上限値を規定することにより、タイヤの耐久性を十分に確保することができる。
【0028】
ここで、被覆層23の総厚さGacが1.5mmよりも小さいと、トランスポンダ20の通信性を改善する効果が低下し、しかも被覆層23に基づく保護効果が低下するためトランスポンダ20の耐久性を改善する効果が低下する。一方、被覆層23の総厚さGacが3.5mよりも大きいと、タイヤの耐久性の悪化が懸念される。なお、被覆層23の総厚さGacは、トランスポンダ20を含む位置での被覆層23の総厚さであり、例えば、図4に示すように、タイヤ子午線断面においてトランスポンダ20の中心Cを通って最も近いカーカス層4のカーカスコードと直交する直線上での総厚さである。被覆層23の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば、三角形、長方形、台形、紡錘形を採用することができる。
【0029】
上記空気入りタイヤにおいて、図6(a)~(c)に示すように、トランスポンダ20は基板21と該基板21の両端から延びるアンテナ22とを有し、トランスポンダ20がタイヤ周方向Tcに沿って延在している。より具体的には、トランスポンダ20は、タイヤ周方向に対する傾斜角度αが±20°の範囲内にあると良い。また、アンテナ22のタイヤ周方向の端末と被覆層23のタイヤ周方向の端末との距離Lは2mm~20mmの範囲にあると良い。これにより、トランスポンダ20の全体が被覆層23によって確実に被覆されるので、トランスポンダ20の通信距離を十分に確保することができる。また、距離Lの上限値を規定することにより、タイヤ周上において局所的な重量増が生じることを回避し、タイヤバランスを良好に維持することができる。
【0030】
ここで、トランスポンダ20のタイヤ周方向Tcに対する傾斜角度αの絶対値が20°よりも大きいと、走行時の反復的なタイヤ変形に対してトランスポンダ20の耐久性が低下する。また、アンテナ22のタイヤ周方向の端末と被覆層23のタイヤ周方向の端末との距離Lが2mmよりも小さいと、トランスポンダ20の通信性を改善する効果が低下すると共に、走行中にアンテナ22のタイヤ周方向の端末が被覆層23からはみ出てしまい、アンテナ22が破損する可能性があり、走行後の通信性が悪化する恐れがある。一方、距離Lを20mmよりも大きくしても、トランスポンダ20の通信性を改善する効果がそれ以上得られず、無駄な重量増を生じることでタイヤバランスが悪化する恐れがある。
【0031】
上記空気入りタイヤにおいて、図7(a),(b)に示すように、トランスポンダ20は基板21と該基板21の両端から延びるアンテナ22とを有し、少なくとも一方のアンテナ22が基板21に対して屈曲するように延在していても良い。この場合、各アンテナ22はタイヤ周方向Tcに対する角度βが±20°の範囲内にあると良い。このようにトランスポンダ20を構成するアンテナ22の傾斜を規制することにより、トランスポンダ20の耐久性を十分に確保することができる。
【0032】
ここで、トランスポンダ20のタイヤ周方向Tcに対する傾斜角度βの絶対値が20°よりも大きいと、走行時の反復的なタイヤ変形に対してアンテナ22の基端部に応力が集中し、トランスポンダ20の耐久性が低下する。なお、アンテナ22は必ずしも直線ではないため、アンテナ22の傾斜角度βはアンテナ22の基端と先端とを結ぶ直線がタイヤ周方向Tcに対してなす角度とする。
【0033】
被覆層23の組成として、被覆層23は、ゴム又はエラストマーと20phr以上の白色フィラーとからなることが好ましい。このように被覆層23を構成することで、カーボンを含有する場合に比べ、被覆層23の比誘電率を比較的低くすることができ、トランスポンダ20の通信性を効果的に改善することができる。なお、本明細書において、「phr」は、ゴム成分(エラストマー)100重量部あたりの重量部を意味する。
【0034】
この被覆層23を構成する白色フィラーは、20phr~55phrの炭酸カルシウムを含むことが好ましい。これにより、被覆層23の比誘電率を比較的低くすることができ、トランスポンダ20の通信性を効果的に改善することができる。但し、白色フィラーに炭酸カルシウムが過度に含まれると脆性的になり、被覆層23としての強度が低下するため好ましくない。また、被覆層23は、炭酸カルシウムの他に、20phr以下のシリカ(白色フィラー)や5phr以下のカーボンブラックを任意に含むことができる。少量のシリカやカーボンブラックを併用した場合、被覆層23の強度を確保しつつ、その比誘電率を低下させることができる。
【0035】
また、被覆層23の比誘電率は、7以下であることが好ましく、2~5であることがより好ましい。このように被覆層23の比誘電率を適度に設定することで、トランスポンダ20が電波を放射する際の電波透過性を確保し、トランスポンダ20の通信性を効果的に改善することができる。なお、被覆層23を構成するゴムの比誘電率は、常温において860MHz~960MHzの比誘電率である。ここで、常温はJIS規格の標準状態に準拠し、23±2℃、60%±5%RHである。当該ゴムは23℃、60%RHで24時間処理された後に静電容量法により比誘電率が計測される。上述した860MHz~960MHzの範囲は、現状のUHF帯のRFIDの割り当て周波数に該当するが、上記割り当て周波数が変更された場合、その割り当て周波数の範囲の比誘電率を上記の如く規定すれば良い。
【0036】
上記空気入りタイヤにおいて、図8に示すように、トランスポンダ20は、タイヤ径方向の配置領域として、ビードコア5の上端5e(タイヤ径方向外側の端部)からタイヤ径方向外側に15mmの位置P1と、タイヤ最大幅となる位置P2との間に配置されていると良い。即ち、トランスポンダ20は、図8に示す領域S1に配置されていると良い。トランスポンダ20が領域S1に配置された場合、トランスポンダ20は走行時の応力振幅が小さい領域に位置するため、トランスポンダ20の耐久性を効果的に改善することができ、更に、トランスポンダ20の通信性やタイヤの耐久性を低下させることがない。ここで、トランスポンダ20が位置P1よりもタイヤ径方向内側に配置されると、ビードコア5等の金属部材と近くなるためトランスポンダ20の通信性が悪化する傾向がある。その一方で、トランスポンダ20が位置P2よりもタイヤ径方向外側に配置されると、トランスポンダ20が走行時の応力振幅が大きい領域に位置し、トランスポンダ20自体の破損やトランスポンダ20の周辺での界面剥離が発生し易くなるので好ましくない。特に、トランスポンダ20は、タイヤ径方向の配置領域として、ビードコア5の上端5eからタイヤ径方向外側に20mmの位置とビードフィラー6の上端との間、又は、ビードコア5の上端5eからタイヤ径方向外側に20mmの位置とビードコア5の上端5eからタイヤ径方向外側に40mmの位置との間に配置されていると良い。この場合、トランスポンダ20の通信性とタイヤの耐久性を高いレベルで両立させることができる。
【0037】
図9に示すように、タイヤ周上には、タイヤ構成部材の端部同士が重ねられてなる複数のスプライス部がある。図9には各スプライス部のタイヤ周方向の位置Qが示されている。トランスポンダ20の中心は、タイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間して配置されていることが好ましい。即ち、トランスポンダ20は、図9に示す領域S2に配置されていると良い。具体的には、トランスポンダ20を構成するIC基板21が位置Qからタイヤ周方向に10mm以上離間していると良い。更には、アンテナ22を含むトランスポンダ20の全体が位置Qからタイヤ周方向に10mm以上離間していることがより好ましく、被覆ゴムにより被覆された状態のトランスポンダ20の全体が位置Qからタイヤ周方向に10mm以上離間していることが最も好ましい。また、スプライス部がトランスポンダ20から離間して配置されるタイヤ構成部材は、トランスポンダ20と隣接する部材であると良い。このようなタイヤ構成部材として、例えば、カーカス層4、ビードフィラー6、インナーライナー層9、サイドウォールゴム層12、リムクッションゴム層13を挙げることができる。タイヤ構成部材のスプライス部から離間させた位置にトランスポンダ20を配置することで、タイヤの耐久性を効果的に改善することができる。
【0038】
より具体的には、トランスポンダ20がカーカス層4とインナーライナー層9との間に配置される場合、カーカス層4のスプライス部、及び/又は、インナーライナー層9のスプライス部がトランスポンダ20から離間して配置されることが好ましい。トランスポンダ20がカーカス層4とサイドウォールゴム層12及びリムクッションゴム層13の一方との間に配置され、かつカーカス層4がローターンナップ構造を有する場合、ビードフィラー6の頂点よりもタイヤ径方向内側に位置するトランスポンダ20については、ビードフィラー6のスプライス部、及び/又は、サイドウォールゴム層12及びリムクッションゴム層13の一方のスプライス部がトランスポンダ20から離間して配置され、ビードフィラー6の頂点よりもタイヤ径方向外側のフレックスゾーンに位置するトランスポンダ20については、カーカス層4のスプライス部、及び/又は、サイドウォールゴム層12及びリムクッションゴム層13の一方のスプライス部がトランスポンダ20から離間して配置されることが好ましい。トランスポンダ20がカーカス層4とサイドウォールゴム層12及びリムクッションゴム層13の一方との間に配置され、かつカーカス層4がハイターンナップ構造を有する場合、カーカス層4のスプライス部、及び/又は、サイドウォールゴム層12及びリムクッションゴム層13の一方のスプライス部がトランスポンダ20から離間して配置されることが好ましい。
【0039】
なお、図9の実施形態では、各タイヤ構成部材のスプライス部のタイヤ周方向の位置Qが等間隔に配置された例を示したが、これに限定されるものではない。タイヤ周方向の位置Qは任意の位置に設定することができ、いずれの場合であってもトランスポンダ20は各タイヤ構成部材のスプライス部からタイヤ周方向に10mm以上離間するように配置される。
【0040】
上述した実施形態では、カーカス層4の巻き上げ部4Bの端末4eがビードフィラー6の上端6e付近に配置された例を示したが、これに限定されるものではなく、カーカス層4の巻き上げ部4Bの端末4eは任意の高さに配置することができる。
【実施例
【0041】
タイヤサイズ235/60R18で、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備えた空気入りタイヤにおいて、サイドウォール部におけるカーカス層よりタイヤ幅方向外側に柱状のトランスポンダがタイヤ周方向に沿って延在するように埋設され、トランスポンダは被覆層により被覆され、タイヤ子午線断面における被覆層の外縁からトランスポンダまでの最短距離D、被覆層の総厚さGac、アンテナのタイヤ周方向の端末と被覆層のタイヤ周方向の端末との距離L、被覆層の比誘電率、トランスポンダ中心からタイヤ構成部材のスプライス部までのタイヤ周方向の距離、トランスポンダのタイヤ径方向の位置を表1及び表2のように設定した比較例1及び実施例1~15のタイヤを製作した。なお、本明細書において、実施例6,9は参考例である。
【0042】
比較例1及び実施例1~15では、被覆層の比誘電率が周辺ゴム部材の比誘電率よりも低くなっている。
【0043】
表1及び表2において、トランスポンダのタイヤ径方向の位置は、図10に示すA~Eのそれぞれの位置に対応する。
【0044】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、タイヤ評価(耐久性)並びにトランスポンダ評価(通信性及び耐久性)を実施し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0045】
通信性(トランスポンダ):
各試験タイヤについて、リーダライタを用いてトランスポンダとの通信作業を実施した。具体的には、リーダライタにおいて出力250mW、搬送波周波数860MHz~960MHzとして通信可能な最長距離を測定した。評価結果は、通信距離が1000mm以上である場合を「◎(優)」で示し、通信距離が500mm~1000mmである場合を「○(良)」で示し、通信距離が500mm未満である場合を「△(可)」の3段階で示した。
【0046】
耐久性(タイヤ及びトランスポンダ):
各試験タイヤを標準リムのホイールに組み付け、空気圧120kPa、最大負荷荷重に対して102%、走行速度81kmの条件でドラム試験機にて走行試験を実施し、タイヤに故障が発生した際の走行距離を測定した。評価結果は、6480kmを完走した場合を「◎(優)」で示し、走行距離が4050km~6480kmである場合を「○(良)」で示し、走行距離が4050km未満である場合を「×(不可)」の3段階で示した。更に、走行終了後の各試験タイヤについてトランスポンダの通信可否と破損の有無を確認し、通信可能であって破損もない場合(新品時と同様)を「○(良)」で示し、通信可能であるがアンテナの損傷により通信距離が低下した場合を「△(可)」の2段階で示した。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
この表1及び表2から判るように、実施例1~15の空気入りタイヤは、比較例1との対比において、トランスポンダの通信性を改善することができた。比較例1においては、D=0.2mmであるため、トランスポンダの通信性が十分ではなかった。
【符号の説明】
【0050】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
9 インナーライナー層
11 トレッドゴム層
12 サイドウォールゴム層
13 リムクッションゴム層
20 トランスポンダ
21 基板
22 アンテナ
23 被覆層
CL タイヤ中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10