(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、その硬化物、電子デバイスおよび光学部材
(51)【国際特許分類】
C08G 59/36 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
C08G59/36
(21)【出願番号】P 2020150661
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】兼子 譲
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴志
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-332313(JP,A)
【文献】特開2006-257190(JP,A)
【文献】特開2006-063148(JP,A)
【文献】特開2013-186450(JP,A)
【文献】特開2005-343978(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059702(WO,A1)
【文献】特開2003-026775(JP,A)
【文献】特開平11-189622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)以下一般式(1)で表される含フッ素構造単位および/または以下一般式(2)で表される含フッ素構造単位と、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有するカチオン反応性構造単位と、を含む(メタ)アクリレートポリマー
(B)反応性希釈剤、および、
(C)光カチオン重合開始剤
を含
み、
前記(B)反応性希釈剤は、以下一般式(x)で表される基を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物。
-C(Rf
1
)(Rf
2
)-OH (x)
一般式(x)中、Rf
1
およびRf
2
は、それぞれ独立に、含フッ素アルキル基である。
【化1】
一般式(1)中、
R
1はH、CH
3、F、CF
3またはClであり、
R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、H、CH
3、F、CF
3および環状フルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくともいずれかの基であり、
R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも2つがCF
3または環状フルオロアルキル基であるか、または、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも1つがCF
3または環状フルオロアルキル基でありR
2、R
3およびR
4のうち少なくとも1つがCH
3である。
【化2】
一般式(2)中、
R
5はH、CH
3、F、CF
3またはClであり、
mは2以上の整数であり、
nは1~10の整数である。
【請求項2】
(A)以下一般式(1)で表される含フッ素構造単位および/または以下一般式(2)で表される含フッ素構造単位と、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有するカチオン反応性構造単位と、を含む(メタ)アクリレートポリマー
(B)反応性希釈剤、および、
(C)光カチオン重合開始剤
を含
み、
前記(B)反応性希釈剤は、フッ素原子を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物
であって、
当該光硬化性組成物中の有機溶剤の含有量が0~10質量%である光硬化性組成物。
【化1】
一般式(1)中、
R
1はH、CH
3、F、CF
3またはClであり、
R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、H、CH
3、F、CF
3および環状フルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくともいずれかの基であり、
R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも2つがCF
3または環状フルオロアルキル基であるか、または、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも1つがCF
3または環状フルオロアルキル基でありR
2、R
3およびR
4のうち少なくとも1つがCH
3である。
【化2】
一般式(2)中、
R
5はH、CH
3、F、CF
3またはClであり、
mは2以上の整数であり、
nは1~10の整数である。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物。
【請求項4】
請求項
2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、以下一般式(x)で表される基を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物。
-C(Rf
1)(Rf
2)-OH (x)
一般式(x)中、Rf
1およびRf
2は、それぞれ独立に、含フッ素アルキル基である。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、以下一般式(b)で表される化合物を含む光硬化性組成物。
【化3】
一般式(b)中、
Rは、水素原子または1価の有機基を表し、
Xは、m+n価の有機基を表し、
mは、1~4の整数であり、
nは、1~4の整数であり、
Rf
1は、含フッ素アルキル基であり、
Rf
2は、含フッ素アルキル基である。
【請求項6】
請求項
1に記載の光硬化性組成物であって、
当該光硬化性組成物中の有機溶剤の含有量が0~10質量%である光硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項
7に記載の硬化物を備える電子デバイス。
【請求項9】
請求項
7に記載の硬化物を備える光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、その硬化物、電子デバイスおよび光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーを含む硬化性組成物については、フッ素の持つ撥水性、撥油性、低吸水性、耐熱性、耐候性、耐腐食性、透明性、感光性、低屈折率性、低誘電性などの特徴から、先端材料分野を中心として幅広い分野で開発が続けられている。
【0003】
特に光学用途においては、含フッ素ポリマーを含む硬化性組成物の開発が盛んである。具体的には、低屈折率と可視光の透明性を応用した反射防止膜、高波長帯(光通信波長帯)での透明性を応用した光デバイス、紫外線領域(特に真空紫外波長域)での透明性を応用したレジスト材料など、様々な検討がなされている。
【0004】
特許文献1には、カラーフィルターの形成に適用される組成物として、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとエポキシ含有メタクリレートとの共重合体を含む組成物が開示されている。
特許文献2には、赤外線カットフィルターの形成に適用される組成物として、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートとエポキシ含有メタクリレートとの共重合体を含む組成物が開示されている。
特許文献3には、含フッ素アクリレートとグリシジルメタクリレートとの共重合体、含フッ素二官能エポキシ化合物、溶剤、及びカチオン重合開始剤を含有する組成物が記載されている。また、特許文献3には、この組成物を塗布、加熱乾燥後、光照射によって硬化させて、低屈折率の硬化物を得た旨が開示されている。
特許文献4には、1H,1H,5H-ペンタフルオロペンチルメタクリレートと脂環式エポキシ含有メタクリレートとの共重合体、カチオン反応性希釈剤、及びカチオン重合開始剤を用いた組成物を、光照射後に加熱を行うことで硬化物を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/038339号
【文献】特開2017-036457号公報
【文献】特開2002-332313号公報
【文献】特開2006-257190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ディスプレイ分野などでは、フレキシブル樹脂基板や有機EL材料など、耐熱性が低い材料が使用されることが多い。そのため、製造工程で加熱プロセスを極力減らすことが求められている。具体的には、従来は熱硬化や焼成等の加熱プロセスにより製造していた部材を、極力光照射のみで硬化可能な材料を用いることで、できるだけ加熱をせずに製造したいという要求が高まっている。つまり、光照射のみで十分に硬化する(例えば光照射のみで十分にタック性が低下する)光硬化性組成物が求められている。
【0007】
よって、本発明では、含フッ素ポリマーを含み、光照射のみで十分に硬化する光硬化性組成物を提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
本発明によれば、以下の光硬化性組成物が提供される。
【0010】
(A)以下一般式(1)で表される含フッ素構造単位および/または以下一般式(2)で表される含フッ素構造単位と、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有するカチオン反応性構造単位と、を含む(メタ)アクリレートポリマー
(B)反応性希釈剤、および、
(C)光カチオン重合開始剤
を含む光硬化性組成物。
【化1】
一般式(1)中、
R
1はH、CH
3、F、CF
3またはClであり、
R
2、R
3およびR
4は、それぞれ独立に、H、CH
3、F、CF
3および環状フルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくともいずれかの基であり、
R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも2つがCF
3または環状フルオロアルキル基であるか、または、R
2、R
3およびR
4のうち少なくとも1つがCF
3または環状フルオロアルキル基でありR
2、R
3およびR
4のうち少なくとも1つがCH
3である。
【化2】
一般式(2)中、
R
5はH、CH
3、F、CF
3またはClであり、
mは2以上の整数であり、
nは1~10の整数である。
【0011】
また、本発明によれば、上記光硬化性組成物の硬化物が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記硬化物を備える電子デバイスが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記硬化物を備える光学部材が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、含フッ素ポリマーを含み、光照射のみで十分に硬化する硬化性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0016】
<光硬化性組成物>
本実施形態の光硬化性組成物は、以下(A)~(C)を含む。
(A)以下一般式(1)で表される含フッ素構造単位および/または以下一般式(2)で表される含フッ素構造単位と、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有するカチオン反応性構造単位と、を含む(メタ)アクリレートポリマー
(B)反応性希釈剤
(C)光カチオン重合開始剤
【0017】
【0018】
一般式(1)中、
R1はH、CH3、F、CF3またはClであり、
R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、H、CH3、F、CF3および環状フルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくともいずれかの基であり、
R2、R3およびR4のうち少なくとも2つがCF3または環状フルオロアルキル基であるか、または、R2、R3およびR4のうち少なくとも1つがCF3または環状フルオロアルキル基でありR2、R3およびR4のうち少なくとも1つがCH3である。
【0019】
【0020】
R5はH、CH3、F、CF3またはClであり、
mは2以上の整数であり、好ましくは2~4の整数であり、
nは1~10の整数である。
【0021】
本実施形態の光硬化性組成物が、光照射のみで十分に硬化する理由は必ずしも明らかではないが、おそらくは(A)、(B)および(C)の3成分の相乗作用により、光硬化性が高まっているものと推察される。
例えば特許文献4に記載の1H,1H,5H-ペンタフルオロペンチルメタクリレートと脂環式エポキシ含有メタクリレートとの共重合体においては、共重合体の側鎖末端に-CF2H基が存在する。有機化学分野の知見によれば、-CF2H基は水素結合性を有する極性基としてふるまうため、これがカチオン重合性を低下させている可能性がある。
一方、本実施形態の光硬化性組成物において、(A)(メタ)アクリレートポリマーの側鎖は-CF3基であるため、上記のようなカチオン重合性の低下が無く、光硬化性が高まっているものと推察される。
また、(B)反応性希釈剤を(A)(メタ)アクリレートポリマーと併用することにより、(A)(メタ)アクリレートポリマーのカチオン重合反応(架橋反応)がアシストされ、光硬化性が一層高まっていると推測される。
【0022】
本実施形態の光硬化性組成物は、光を照射して硬化物とした後の、屈折率変化が小さいというメリットも有する。これは、本実施形態の光硬化性組成物の光硬化性が非常に良好であることにより、硬化直後の段階にて硬化がほぼ進行しきっている(硬化反応がほとんど終点に近づいている)ためと推測される。
「硬化物とした後の屈折率変化が小さい」ということは、本実施形態の光硬化性組成物を光学部材の量産に適用した場合に、品質のばらつきが抑えられ、歩留まりが向上することにつながる。
【0023】
本実施形態の光硬化性組成物が含有することができる成分などについて以下説明する。
【0024】
・(A)(メタ)アクリレートポリマー
本実施形態の光硬化性組成物は、
・前掲の一般式(1)で表される含フッ素構造単位および/または前掲の一般式(2)で表される含フッ素構造単位と、
・エポキシ基および/またはオキセタニル基を有するカチオン反応性構造単位と、
を含む(メタ)アクリレートポリマーを含む。
以下、これら2つの構造単位について説明を加える。
【0025】
一般式(1)において、R1は好ましくはHまたはCH3、より好ましくはCH3である。
一般式(1)において、好ましくは、R2、R3およびR4のうち少なくとも2つはCF3または環状フルオロアルキル基を含み、より好ましくは、R2、R3およびR4のうち少なくとも2つはCF3を含む。
【0026】
一般式(1)で表される含フッ素構造単位の素となるモノマーの具体例を以下に列挙する。
【0027】
【0028】
一般式(2)において、R5は好ましくはF、HまたはCH3、より好ましくはCH3である。
【0029】
一般式(2)で表される含フッ素構造単位の素となるモノマーの具体例を以下に列挙する。
【0030】
【0031】
(A)(メタ)アクリレートポリマーは、1のみの含フッ素構造単位を含んでもよいし、2以上の含フッ素構造単位を含んでもよい。
(A)(メタ)アクリレートポリマー中の含フッ素構造単位の比率は、例えば50~95mol%、好ましくは55~90mol%、さらに好ましくは60~80mol%、60~90mol%である。含フッ素構造単位の比率が適度に大きいことにより、得られる硬化膜の屈折率をより小さくしやすい。一方、含フッ素構造単位の比率が大きすぎないことにより、例えば(B)反応性希釈剤との相溶性が向上し、塗布性や硬化膜の均一性などが向上する効果を得やすい。
【0032】
カチオン反応性構造単位は、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有する限り、特に限定されない。カチオン反応性構造単位は、好ましくは、側鎖にエポキシ基および/またはオキセタニル基を有する(メタ)アクリレート単位である。
【0033】
カチオン反応性構造単位は、例えば、以下に列挙するような(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位であることができる。
【0034】
エポキシ基を有する(メタ)アクリレートモノマー:例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなど。
【0035】
オキセタニル基を有する(メタ)アクリレートモノマー:例えば、3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-ブチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3-ヘキシル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレートなど。
【0036】
(A)(メタ)アクリレートポリマーは、1のみのカチオン反応性構造単位を含んでもよいし、2以上のカチオン反応性構造単位を含んでもよい。
(A)(メタ)アクリレートポリマー中のカチオン反応性構造単位の比率は、例えば5~50mol%、好ましくは10~45mol%、さらに好ましくは10~40mol%、特に好ましくは20~40mol%である。カチオン反応性構造単位の比率が適度に大きいことにより、十分な硬化性を得やすい。一方、カチオン反応性構造単位の比率が大きすぎないことにより、過度な硬化が抑えられ、例えば硬化膜のクラック発生が抑えられる。
【0037】
(A)(メタ)アクリレートポリマーは、上記の含フッ素構造単位やカチオン反応性構造単位には該当しない構造単位(その他の構造単位)を含んでもよいし、含まなくてもよい。
その他の構造単位の素となるモノマーとしては、その他(メタ)アクリレート系モノマー、及びビニルエステル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、スチレン系モノマーなどを挙げることができる。
特に、(A)(メタ)アクリレートポリマーが、ヒドロキシエチル基(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基を含むモノマーに由来する構造単位を含むことが好ましい。(A)(メタ)アクリレートポリマーがヒドロキシ基を含むことで、ヒドロキシ基の極性により、密着性向上や他成分との相溶性向上などを図りうる。
【0038】
(A)(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量(Mw)は特に限定されない。重量平均分子量は、例えば5000~100000、好ましくは7000~75000、より好ましくは10000~50000である。(A)(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量がある程度大きいことにより、例えば硬化膜の十分な耐熱性を得ることができる。また、(A)(メタ)アクリレートポリマーの重量平均分子量が大きすぎないことにより、(B)反応性希釈剤との混合が容易となる。
重量平均分子量は、通常、ポリスチレンを標準物質として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めることができる。
【0039】
(A)(メタ)アクリレートポリマーは、定法に従って合成することができる。好ましくは、各構造単位の素となるモノマーを、適当な重合溶剤の存在下、ラジカル重合開始剤を用いて重合することで得ることができる。
【0040】
重合溶剤としては、モノマーおよびラジカル重合開始剤を十分に溶解するものを特に限定無く用いることができる。具体的には、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。もちろん、重合溶剤はこれらのみに限定されない。重合溶剤は1のみの有機溶剤を含んでいてもよいし、2以上の有機溶剤を含んでいてもよい。
【0041】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス[2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2'-アゾビス(N,N'-ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ハイドレート(和光純薬社製、VA-057)などのアゾ系開始剤を挙げることができる。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキシド、ジ-n-オクタノイルパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルハイドロパーオキシド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤も挙げることができる。もちろん、重合開始剤はこれらのみに限定されない。1のみの重合開始剤を用いてもよいし、2以上の重合開始剤を併用してもよい。
【0042】
・(B)反応性希釈剤
本実施形態の光硬化性組成物は、(B)反応性希釈剤を含む。「反応性希釈剤」とは、通常、エポキシ樹脂などの硬化性樹脂材料の分野で、樹脂の性能を損なわずに低粘度化するものとして知られている。
(B)反応性希釈剤は、通常、カチオン重合性基であるエポキシ基および/またはオキセタニル基を有する。別の表現として、(B)反応性希釈剤は、カチオン反応性希釈剤であるとも言える。(B)反応性希釈剤は、カチオン重合性基を有することにより、硬化物の一部となることができる。
(B)反応性希釈剤1分子当たりのカチオン重合性基の数は、好ましくは1~2個、より好ましくは1個である。
(B)反応性希釈剤は、ラジカル重合性を有するビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等を有しないことが好ましい。
(B)反応性希釈剤は、通常、低分子化合物であり、ポリマー(モノマーを重合して得られる重合体)ではない。(B)反応性希釈剤の分子量は、通常1000以下、好ましくは750以下、より好ましくは500以下、さらに好ましくは400以下、特に好ましくは300以下である。
硬化膜の屈折率をより小さくする観点からは、(B)反応性希釈剤は、芳香族環を有しない化合物であることが好ましい。
【0043】
エポキシ基を有する反応性希釈剤としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス-(3,4-エポキシシクロヘキシル)アジペート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサノン-メタ-ジオキサン、ビス-(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、2-エチルヘキシルジグリコールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0044】
オキセタン環を有する反応性希釈剤としては、3,3-ジメチルオキセタン、2-ヒドロキシメチルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、3-メチル-3-オキセタンメタノール、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン等を挙げることができる。
【0045】
(B)反応性希釈剤は、好ましくは、フッ素原子を有する反応性希釈剤を含む。フッ素原子を有する反応性希釈剤は、(A)(メタ)アクリレートポリマー(フッ素原子を含む)との相溶性が良好となる。良好な相溶性により、(A)(メタ)アクリレートポリマーと(B)反応性希釈剤が均一に混じり合いやすくなり、エポキシ基の重合がスムーズに進行しやすくなると考えられる。この結果、光照射のみでの硬化性が高まると考えらえる。
また、(B)反応性希釈剤は、反応により変化はするものの硬化膜中に残存する。(B)反応性希釈剤がフッ素原子を有することにより、硬化膜中により多くのフッ素原子が存在することとなり、その結果として硬化膜の屈折率がより小さくなりやすい。
【0046】
(B)反応性希釈剤は、好ましくは、以下一般式(x)で表される基を有する反応性希釈剤を含む。
-C(Rf1)(Rf2)-OH (x)
一般式(x)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に、含フッ素アルキル基である。Rf1およびRf2の具体例については、後掲の一般式(b)を参照されたい。
【0047】
(B)反応性希釈剤は、一般式(x)で表される基を有することにより、(A)(メタ)アクリレートポリマーとの相溶性が特に良好となると考えられる。一般式(x)で表される基は、フッ素原子を含む一方でヒドロキシ基を含むため、極性が(A)(メタ)アクリレートポリマーと同程度となりやすいと考えられる。そして、良好な相溶性の結果として、より良好な光硬化性や、硬化膜の一層の低屈折率化が図られると考えられる。
【0048】
一般式(x)で表される基を有する反応性希釈剤として、具体的には、以下一般式(b)で表される化合物を挙げることができる。
【0049】
【0050】
一般式(b)中、
Rは、水素原子または1価の有機基を表し、
Xは、m+n価の有機基を表し、
mは、1~4であり、
nは、1~4であり、
Rf1は、含フッ素アルキル基であり、
Rf2は、含フッ素アルキル基である。
【0051】
Rは、水素原子または1価の有機基である。1価の有機基としては、炭素数1~10のアルキル基およびアルコキシ基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。中でも、メチル基、およびエチル基が好ましい。
アルコキシ基としては、たとえば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基が挙げられる。中でも、メトキシ基、およびエトキシ基が好ましい。
【0052】
mは1~4であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。
nは1~4であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。
【0053】
Xは、m+n価の有機基であり、好ましくは、1~4価の有機基であり、より好ましくは、2価の有機基である。2価の有機基としては、例えば、炭素数1~6の、直鎖状または分枝状のアルキレン基が挙げられる。Xは、好ましくは、炭素数1~3の直鎖状アルキレン基であり、より好ましくは、メチレン基(-CH2-)である。
【0054】
Rf1およびRf2は、含フッ素アルキル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。含フッ素アルキル基は、好ましくは、炭素数1~10の直鎖状または分枝鎖状のフルオロアルキル基であり、より好ましくは、炭素数1~6の直鎖状または分枝鎖状のフルオロアルキル基であり、さらにより好ましくは、炭素数1~3の直鎖状または分枝鎖状のフルオロアルキル基である。中でも、含フッ素アルキル基は、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。これにより、光硬化性組成物の硬化物の屈折率がより小さくなる傾向がある。Rf2は、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、およびパーフルオロブチル基であり、特に好ましくは、パーフルオロメチル基(トリフルオロメチル基)である。
【0055】
(B)反応性希釈剤がフッ素を含む場合、そのフッ素含有率は、25質量%以上60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。フッ素含有率を適切に調整することで、光硬化性組成物の諸性能を維持しつつ、光硬化性組成物の硬化物の屈折率を十二分に小さくしやすい。
【0056】
・(A)と(B)の量比
(A)(メタ)アクリレートポリマーと、(B)反応性希釈剤との量比を適切に調整することで、光照射による硬化性を一層高めたり、かつ/または、得られる硬化膜の屈折率をより小さくしたりすることができる。
具体的には、(A)(メタ)アクリレートポリマーと、(B)反応性希釈剤との量比は、質量比で、好ましくは(A):(B)=10:90~70:30、より好ましくは(A):(B)=20:80~60:40である。
【0057】
・(C)光カチオン重合開始剤
本実施形態の光硬化性組成物は、(C)光カチオン重合開始剤を含む。(C)光カチオン重合開始剤は、光(典型的には紫外線)の照射によりカチオンを発生して、(A)(メタ)アクリレートポリマーおよび/または(B)反応性希釈剤が含む反応性基(エポキシ基および/またはオキセタニル基)を重合させうるものである限り、任意の化合物であることができる。
【0058】
(C)光カチオン重合開始剤の具体例としては、オニウム塩化合物が挙げられる。より具体的には、ジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩等のヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩のようなスルホニウム塩、トリアリールビリリウム塩、ベンジルピリジニウムチオシアネート、ジアルキルフェナシルスルホニウム塩、ジアルキルヒドロキシフェニルホスホニウム塩などの、光酸発生剤ないしカチオン型光重合開始剤が挙げられる。
中でも、パターニング性の観点から、トリアリールスルホニウム塩を用いることが好ましい。
【0059】
オニウム塩化合物の対アニオンとしては、ボレートアニオン、スルホネートアニオン、ガレートアニオン、リン系アニオン、アンチモン系アニオン等が挙げられる。より具体的には、スルホン酸アニオン、ジスルホニルイミド酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、フルオロアンチモン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸アニオンなどが挙げられる。
【0060】
本実施形態の光硬化性組成物は、1のみの光カチオン重合開始剤を含んでもよいし、2以上の光カチオン重合開始剤を含んでもよい。
光硬化性組成物の含有量は、組成物の不揮発成分全体を基準として、例えば、0.1~5.0質量%、好ましくは0.2~4.5質量%、より好ましくは0.5~4.0質量%である。
【0061】
・その他添加成分
本実施形態の重合性組成物は、上述の成分のほか、有機溶剤、可塑剤、カップリング剤、界面活性剤、密着助剤、増感剤、フィラー等の添加成分を含んでもよい。
【0062】
ただし、本実施形態の光重合性組成物は、好ましくは、有機溶剤を含まないか、含むとしても少量であることが好ましい。有機溶剤を揮発させるための加熱工程や乾燥工程を設ける必要がなくなるためである。本実施形態の光重合性組成物が有機溶剤を含まないか含むとしても少量であることにより、「光照射のみで十分に硬化する」という効果がさらに際立つ。
具体的には、本実施形態の光硬化性組成物中の有機溶剤の含有量は、好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、さらに好ましくは0~1質量%である。特に好ましくは、本実施形態の重合性組成物は有機溶剤を実質的に含まない。ただし、本実施形態の光硬化性組成物は、原料の不純物や製造雰囲気に由来して不可避的に含まれる有機溶剤を排除するものではない。
ちなみに、フッ素系ポリマーの中には、溶剤や反応性希釈剤との相性が悪いものがあり、フッ素系ポリマーの種類によっては均一なワニス状の組成物を容易に得ることができない場合もある。しかし、本実施形態においては、(A)(メタ)アクリレートポリマーの、(B)反応性希釈剤との親和性は良好であり、溶剤を用いずとも均一なワニス状の光硬化性組成物を得ることができる。
【0063】
念のため述べておくと、ここでの「有機溶剤」は、前述の(B)反応性希釈剤には該当しない。
【0064】
<硬化物、電子デバイス、光学部材>
本実施形態の硬化物は、上述の光硬化性組成物の硬化物である。
硬化物は、例えば、(1)まず、上述の光硬化性組成物を、スピンコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等の方法で基板表面に塗布して塗布膜を得、(2)その後、その塗布膜に光を照射することにより作製される。
【0065】
光硬化性組成物を塗布する基板は特に限定されない。例えば、ガラス基板、シリコンウェハ、セラミック基板、アルミ基板、SiCウェハ、GaNウェハ、銅張積層板、石英基板などが挙げられる。前述のように、本実施形態の光硬化性組成物の「光照射のみで十分に硬化する」という特徴から、樹脂製の基板(フレキシブル樹脂基板など)や有機EL素子が設けられた基板なども基板として好ましく挙げることができる。また、基板の上に膜や層を有するようなコーティング基板の場合、基板上の膜や層の表面に光硬化性組成物を塗布してもよい。
【0066】
塗布膜の膜厚は、特に限定されず、用途により変動し得るが、通常0.5~10μm、好ましくは1~5μmである。なお、膜厚は、光重合性組成物中の(B)反応性希釈剤の量比や、光重合性組成物の塗布方法などにより調整可能である。
【0067】
光照射は、例えば、波長365nm、露光量3000~30000mJ/cm2の光照射により実施される。光源としては、LED、高圧水銀灯、メタルハライドランプなどを挙げることができる。
【0068】
前述のように、本実施形態の光硬化性組成物は、光照射のみで十分に硬化するが、光照射に加えて加熱処理を行って、硬化をより完全にしてもよい。加熱は、典型的にはホットプレート、熱風、オーブン等行われる。加熱温度は、通常50~140℃、好ましくは基板へのダメージを考慮した70~90℃である。加熱の時間は、通常30~600秒、好ましくは30~300秒程度である。
【0069】
本実施形態の硬化物は、例えば、電子デバイス中の硬化膜(絶縁膜など)であることができる。前述のように、本実施形態の光硬化性組成物は、加熱がなくても光のみで十分に硬化するため、熱に弱い電子デバイスの製造に特に好適に適用される。
【0070】
また、本実施形態の硬化物は、光学部材の一部または全部として用いられることが好ましい。これは、本実施形態の硬化物の屈折率が小さいことによる。具体的には、ディスプレイ製造において、接着剤、反射防止材料、コーティング剤などとして本実施形態の光硬化性組成物を用いることで、光学部材(光硬化性組成物の硬化物を備える)を製造することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
(A)前掲の一般式(1)で表される含フッ素構造単位および/または前掲の一般式(2)で表される含フッ素構造単位と、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有するカチオン反応性構造単位と、を含む(メタ)アクリレートポリマー
(B)反応性希釈剤、および、
(C)光カチオン重合開始剤
を含む光硬化性組成物。
一般式(1)中、
R
1
はH、CH
3
、F、CF
3
またはClであり、
R
2
、R
3
およびR
4
は、それぞれ独立に、H、CH
3
、F、CF
3
および環状フルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくともいずれかの基であり、
R
2
、R
3
およびR
4
のうち少なくとも2つがCF
3
または環状フルオロアルキル基であるか、または、R
2
、R
3
およびR
4
のうち少なくとも1つがCF
3
または環状フルオロアルキル基でありR
2
、R
3
およびR
4
のうち少なくとも1つがCH
3
である。
一般式(2)中、
R
5
はH、CH
3
、F、CF
3
またはClであり、
mは2以上の整数であり、
nは1~10の整数である。
2.
1.に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、エポキシ基および/またはオキセタニル基を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物。
3.
1.または2.に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、フッ素原子を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、以下一般式(x)で表される基を有する反応性希釈剤を含む光硬化性組成物。
-C(Rf
1
)(Rf
2
)-OH (x)
一般式(x)中、Rf
1
およびRf
2
は、それぞれ独立に、含フッ素アルキル基である。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)反応性希釈剤は、前掲の一般式(b)で表される化合物を含む光硬化性組成物。
一般式(b)中、
Rは、水素原子または1価の有機基を表し、
Xは、m+n価の有機基を表し、
mは、1~4の整数であり、
nは、1~4の整数であり、
Rf
1
は、含フッ素アルキル基であり、
Rf
2
は、含フッ素アルキル基である。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
当該光硬化性組成物中の有機溶剤の含有量が0~10質量%である光硬化性組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物の硬化物。
8.
7.に記載の硬化物を備える電子デバイス。
9.
7.に記載の硬化物を備える光学部材。
【実施例】
【0072】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0073】
<(メタ)アクリレートポリマーの準備>
表1に記載のモノマーを、表1に記載のモノマー仕込み比(モル比)で重合して、ポリマー1~3を準備した。重量平均分子量とともに示す。
【0074】
【0075】
表1中、原料モノマーの記載は以下を表す。
HFIP-M:ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート
4HBAGE:4-ヒドキロシブチルアクリレートグリシジルエーテル
サイクロマーM100:3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(以下構造の化合物、株式会社ダイセル製)
【0076】
【0077】
ポリマー1は、以下のようにして合成した。ポリマー2および3も、ポリマー1と同様、ラジカル重合法により合成した。
ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート(HFIP-M)17.4g、4-ヒドキロシブチルアクリレートグリシジルエーテル(4HBAGE)5.3g、および、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601)0.20gを、20gのメチルエチルケトンに溶解し、80℃にて6時間反応させた。
反応終了後の反応液を濃縮し、ヘプタンによる再沈殿を行った。これによりポリマー1を15.4g得た。ポリスチレンを標準物質として用いたGPC測定によると、得られたポリマーのMwは30,000、Mw/Mnは3.02であった。
【0078】
<反応性希釈剤の準備>
以下のようにして、反応性希釈剤「BTHB-epo」を合成した。
3L三口ナスフラスコに、以下に示されるBTHB(166.46g、800mmol)(セントラル硝子社製)とジクロロメタン(800ml)を混合後、氷冷し、メタクロロ過安息香酸(195.26g、792mmol)を小分けにして加えていった。その後、終夜35℃で撹拌後、10質量%チオ硫酸ナトリウム水洗を1回、5質量%重曹水洗を1回行い、エバポレーターで濃縮した。濃縮液を減圧蒸留(2kPa、67-70℃)により回収し、BTHB-epo(146.9g、収率82%)を得た。
【0079】
1H-NMR(CDCl3):4.30ppm(s,1H,OH基)、3.32ppm(br,1H)、2.93ppm(t,4.4Hz,1H)、2.60ppm(dd,4.4Hz,2.4Hz,1H)、2.47ppm(dd,15.2Hz,3.6Hz,1H)、1.86ppm(ddd,15.2Hz,8.8Hz,1.6Hz,1H)
19F-NMR:-78.5ppm(q,12.4Hz,6F)
【0080】
【0081】
<光硬化性組成物の調製>
後掲の表2に記載の希釈剤、ポリマーおよび開始剤を、各欄の括弧内に記載の量(単位:質量部)で均一に混合して液状の光硬化性組成物を調製した。念のため記載しておくと、調製したすべての光硬化性組成物の性状は、均一なワニス状であった。
【0082】
<評価>
まず、光硬化性組成物をSiウェハ上にバーコーターにて50μmの膜厚に塗布して塗膜を形成した。
この塗膜に、波長365nmの光を発するLED光源からの光(約200mW/cm2の光)を75秒間照射することで、硬化反応を進行させた。これにより硬化膜を得た。
一連の工程は、室温下で行い、塗膜やSiウェハを加熱することはしなかった。
【0083】
光照射後により十分に硬化した硬化膜が得られたかどうかを、タック性により評価した。すなわち、光照射後の硬化膜を指で触って、ベタつくか否かを評価した。ベタつきが認められなかった場合を「タック性無し」、ベタつきが認められた場合を「タック性有り」と評価した。
【0084】
また、「タック性無し」と評価された硬化膜については、屈折率を測定した。具体的には、プリズムカプラ(メトリコン社製 2010/M)を用いて、波長632nmにおける屈折率を測定した。屈折率の測定は、光照射時に反応しきらなかった残存エポキシ基をできるだけ反応(消費)させるため、光照射から1週間後に行った。
(この測定においては、プリズムカプラを硬化膜に接触させる必要があるため、タック性が無いことが屈折率評価の必要条件となる。)
【0085】
光硬化性組成物の組成および評価結果をまとめて表2に示す。表2中、開始剤「CPI-210S」は、サンアプロ株式会社の、トリアリールスルホニウム塩タイプの光カチオン重合開始剤(リン系アニオン)である。
【0086】
【0087】
上表に示されるとおり、特定の構造単位を有する(メタ)アクリレートポリマー、反応性希釈剤および光カチオン重合開始剤を含む光硬化性組成物(entry1~5)は、光照射のみで十分に硬化した(光照射のみでタック性が消失した)。また、硬化物の屈折率は小さかった。一方、反応性希釈剤を用いず、一般的な有機溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)を用いたentry6の光硬化性組成物の評価では、光照射のみではタック性が消失しなかった。
ちなみに、屈折率については、反応性希釈剤としてフッ素原子を有する反応性希釈剤を用いることで、より小さくなる傾向がみられた(entry6と1~5との対比)。
【0088】
<追加評価:光照射後、経時での屈折率変化>
表2のentry1と2についは、光照射から1週間後の硬化膜の屈折率に加え、光照射直後の硬化膜の屈折率も測定した。
また、以下のentry1'とentry2'の光硬化性組成物を調製し、光照射直後と光照射から1週間後の硬化膜の屈折率を測定した。
entry1':entry1のポリマー1を、OFP-M/4HBAGE=70/30(仕込み比、モル比)、Mw=28700のポリマーに替えた光硬化性組成物
entry2':entry2のポリマー2を、OFP-M/4HBAGE=80/20(仕込み比、モル比)、Mw=70kのポリマーに替えた光硬化性組成物
(「OFP-M」は、以下化学式で表される、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルメタクリレートである。)
【0089】
【0090】
entry1、2、1'および2'の光硬化性組成物の硬化膜の屈折率(光照射直後と光照射から1週間後)、および、光照射から1週間を経ての屈折率の上昇量を以下に示す。
【0091】
【0092】
上表に示されるとおり、特定の構造単位を有する(メタ)アクリレートポリマー、反応性希釈剤および光カチオン重合開始剤を含む光硬化性組成物の硬化物の、屈折率の経時変化は比較的小さかった。
Entry1と1'、Entry2と2'で、屈折率の上昇量の差は10-3のオーダーであり、この差は一見小さいようにも思える。しかし、特に品質管理が厳しい昨今の光学部材においては、この差は大きな差である。