(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2021508921
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009333
(87)【国際公開番号】W WO2020195663
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019062303
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】北川 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】居原田 有輝
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152611(WO,A1)
【文献】特開2006-015418(JP,A)
【文献】特開2010-264592(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099954(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084877(WO,A1)
【文献】特開2004-181563(JP,A)
【文献】米国特許第05467670(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の回転軸方向の先端部側に、半径方向中心側から外周側へかけて複数本の底刃と、この各底刃に連続する外周刃とを有する切れ刃部を備え、前記工具本体の回転方向に隣接する前記外周刃間に切屑排出溝が形成されたエンドミルであり、
前記底刃には前記切れ刃部を回転軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の端部から前記半径方向中心、もしくはその付近まで連続する複数本の親底刃と、この親底刃に前記工具本体の回転方向に間隔を置き、前記切れ刃部を軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の他の端部から前記半径方向中心側の中途まで連続する複数本の子底刃とがあり、
前記親底刃のすくい面とこの親底刃に回転方向前方側に隣接する前記子底刃の2番面との間に第一ギャッシュが形成され、前記子底刃のすくい面とこの子底刃に回転方向前方側に隣接する前記親底刃の2番面との間に第二ギャッシュが形成され、
前記第一ギャッシュの前記切屑排出溝側に、前記第一ギャッシュと前記切屑排出溝に連続する第三ギャッシュが形成され、前記第二ギャッシュの前記切屑排出溝側に、前記第二ギャッシュと前記切屑排出溝に連続する第四ギャッシュが形成され
、
前記親底刃の前記すくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第一ギャッシュを構成する第一ギャッシュ面との間の境界線である第一ギャッシュの谷と、前記子底刃の前記すくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第二ギャッシュを構成する第二ギャッシュ面との間の境界線である第二ギャッシュの谷とが半径方向中心寄りの位置で交わると共に、
この交点に前記子底刃の半径方向中心側の端部が交わりながら、前記親底刃の半径方向中心側の端部とその延長線とは交わらないことを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記親底刃に連続するコーナーR刃のすくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第三ギャッシュを構成する第三ギャッシュ面との間の境界線である第三ギャッシュの谷が前記第一ギャッシュの谷に連続し、前記子底刃に連続するコーナーR刃のすくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第四ギャッシュを構成する第四ギャッシュ面との間の境界線である第四ギャッシュの谷が前記第二ギャッシュの谷に連続していることを特徴とする請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
前記子底刃の前記半径方向中心側の端部は、前記親底刃の前記半径方向中心側の端部より前記第二ギャッシュ寄りに位置していることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のエンドミル。
【請求項4】
前記親底刃のすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第一ギャッシュを構成する第一ギャッシュ面と前記回転軸とのなす角度は、前記親底刃から前記親底刃に連続する前記外周刃までのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第三ギャッシュを構成する第三ギャッシュ面と前記回転軸とのなす角度より大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエンドミル。
【請求項5】
前記子底刃のすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第二ギャッシュを構成する第二ギャッシュ面と前記回転軸とのなす角度は、前記子底刃から前記子底刃に連続する前記外周刃までのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第四ギャッシュを構成する第四ギャッシュ面と前記回転軸とのなす角度より大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエンドミル。
【請求項6】
前記底刃と前記外周刃との間に、前記底刃と前記外周刃に連続するコーナーR刃が形成され、前記親底刃のすくい面は前記第一ギャッシュを構成し、前記子底刃のすくい面は前記第二ギャッシュを構成していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のエンドミル。
【請求項7】
前記底刃の前記半径方向中心付近における軸方向すくい角は0°以下であることを特徴とする請求項6に記載のエンドミル。
【請求項8】
前記切れ刃部を回転軸と垂直方向から見たとき、前記切屑排出溝に面する前記外周刃は左ねじれ状態に形成されていることを特徴とする請求項6、もしくは請求項7に記載のエンドミル。
【請求項9】
前記底刃の前記半径方向中心付近における軸方向すくい角と前記外周刃のねじれ角との差は20°以下であることを特徴とする請求項7、もしくは請求項8に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数本の底刃を有し、底刃が切削した切屑の、切屑排出溝への誘導効果を高め得る形態のエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンドミルの底刃が、または底刃と底刃に連続するコーナーR刃が切削した切屑の切屑排出溝への排出性は底刃すくい面の回転方向前方側に連続して形成されるギャッシュと、ギャッシュに工具本体の軸方向に連続する切屑排出溝との関係で決まる。切屑排出性にはギャッシュ自体の切屑の収容能力、またはギャッシュ自体が、切屑が停滞しにくい形態をすることも寄与する。
【0003】
例えばラジアスエンドミルの場合、ギャッシュは基本的には底刃とコーナーR刃に跨る両すくい面とその回転方向前方側に位置する底刃の2番面(逃げ面)までの領域に形成される(特許文献1~3参照)。この形態では、ある底刃が切削した切屑はその回転方向前方側に位置する底刃の2番面の後方側の空間であるギャッシュを経由してのみ、切屑排出溝へ向かう。このため、ギャッシュの切屑収容能力の程度によってはギャッシュ内に切屑が詰まり、切屑の排出性が低下することが想定される。
【0004】
これに対し、底刃として工具本体の回転方向に、切れ刃が半径方向外周側の端部から半径方向中心まで連続する複数本の親底刃と、半径方向外周側の他の端部から半径方向中心側の中途まで連続する複数本の子底刃の、長さの相違する2種類の底刃を形成した形態がある(特許文献4参照)。この例では親底刃の回転方向前方側に、親底刃(稜線)の長さ方向に沿って複数個のギャッシュを形成している。
【0005】
詳しくは、親底刃のすくい面に連続する、回転軸寄りの第一ギャッシュの切屑排出溝側(回転方向後方側)に第二ギャッシュを形成し、第一ギャッシュの子底刃側(回転方向前方側)に第三ギャッシュを形成している。この特許文献4のようにエンドミルの底刃を親底刃と子底刃の2種類の底刃に分割させ、親底刃の長さ方向に沿って3個のギャッシュを形成すれば、親底刃が切削した切屑を親底刃の長さ方向(半径方向)両側に分散させる機能を第一ギャッシュに持たせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-141975号公報(段落0013~0044、
図1、
図2)
【文献】特開2008-110472号公報(段落0015~0024、
図1~
図3)
【文献】特開2018-192566号公報(段落0018~0028、
図1~
図6)
【文献】国際公開第2016/152611号(請求項1、段落0010~0047)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
只、特許文献4では親底刃が切削した切屑を親底刃の長さ方向両側に分散させることができるものの、子底刃が切削した切屑を分散させることまでは考慮されていない。
【0008】
本発明は上記背景より、底刃を親底刃と子底刃とに分割した場合に、より切屑の排出性を高める形態のエンドミルを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明のエンドミルは、工具本体の回転軸方向の先端部側に、半径方向中心側から外周側へかけて複数本の底刃と、この各底刃に連続する外周刃とを有する切れ刃部を備え、前記工具本体の回転方向に隣接する前記外周刃間に切屑排出溝が形成されたエンドミルであり、
前記底刃には前記切れ刃部を回転軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の端部から半径方向中心、もしくはその付近まで連続する複数本の親底刃と、この親底刃に前記工具本体の回転方向に間隔を置き、前記切れ刃部を軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の他の端部から半径方向中心側の中途まで連続する複数本の子底刃とがあり、
前記親底刃のすくい面とこの親底刃に回転方向前方側に隣接する前記子底刃の2番面との間に第一ギャッシュが形成され、前記子底刃のすくい面とこの子底刃に回転方向前方側に隣接する前記親底刃の2番面との間に第二ギャッシュが形成され、
前記第一ギャッシュの前記切屑排出溝側に、前記第一ギャッシュと前記切屑排出溝に連続する第三ギャッシュが形成され、前記第二ギャッシュの前記切屑排出溝側に、前記第二ギャッシュと前記切屑排出溝に連続する第四ギャッシュが形成され、
前記親底刃の前記すくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第一ギャッシュを構成する第一ギャッシュ面との間の境界線である第一ギャッシュの谷と、前記子底刃の前記すくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、前記第二ギャッシュを構成する第二ギャッシュ面との間の境界線である第二ギャッシュの谷とが半径方向中心寄りの位置で交わると共に、
この交点に前記子底刃の半径方向中心側の端部が交わりながら、前記親底刃の半径方向中心側の端部とその延長線とは交わらないことを特徴とする。
請求項2に記載の発明のエンドミルは、請求項1において親底刃に連続するコーナーR刃のすくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、第三ギャッシュを構成する第三ギャッシュ面との間の境界線である第三ギャッシュの谷が第一ギャッシュの谷に連続し、子底刃に連続するコーナーR刃のすくい面とこのすくい面に回転方向前方側に対向し、第四ギャッシュを構成する第四ギャッシュ面との間の境界線である第四ギャッシュの谷が第二ギャッシュの谷に連続していることを特徴とする。
【0010】
「切れ刃部を回転軸方向(軸方向)の端面側から見たとき」とは、
図2-(a)に示す、エンドミル本体(工具本体)を先端側から軸方向のシャンク部3側に向かって見たときの端面を言う。切れ刃部2の各切れ刃は少なくとも底刃4(41、42)と底刃4に連続する外周刃6を持ち、底刃4の半径方向外周側にはコーナR刃5が連続することもある(請求項6)。切れ刃が底刃4と外周刃6からなる場合、エンドミル1はスクエアエンドミルであり、底刃4と外周刃6との間にコーナR刃5が形成される場合、エンドミル1は図示するようなラジアスエンドミルになる。
【0011】
エンドミル1がラジアスエンドミルの場合(請求項6)、底刃4と外周刃6との間に、底刃4と外周刃6の双方に連続するコーナーR刃5が形成される。親底刃41のすくい面41aは第一ギャッシュ8を構成し、子底刃42のすくい面42aは第二ギャッシュ9を構成する(請求項6)。この場合、親底刃41のすくい面41aは主に親底刃41とコーナーR刃5の境界線かその付近から回転軸(半径方向中心)O側に向かって形成される。子底刃42のすくい面42aは主に子底刃42とコーナーR刃5の境界線かその付近から回転軸(半径方向中心)O側に向かって形成されるが、共にコーナーR刃5の外周刃6寄りの位置から形成されることもある。
【0012】
請求項1における「底刃には親底刃と子底刃とがあり」とは、底刃4として親底刃41と子底刃42の、2種類の底刃があることを言う。底刃4は親底刃41と子底刃42の2種類あるため、コーナーR刃5は親底刃41と子底刃42の半径方向外周側に形成される。また親底刃41と子底刃42は回転軸(半径方向中心)Oに関して対になるように形成されるため、切れ刃(底刃4)の本数(枚数)は主には4本(枚)であるが、それより多いこともある。図面では親底刃41と子底刃42が共に2枚あり、底刃4にコーナーR刃5が連続する4枚刃のラジアスエンドミルの例を示している。以下では半径方向中心Oを中心Oとも、回転軸Oとも言う。
【0013】
「切れ刃部を回転軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の端部から半径方向中心、もしくはその付近まで連続する親底刃」とは、
図1-(a)、
図2-(a)に示すように親底刃41が半径方向中心(回転軸)Oに交わるまで半径方向外周側の端部から半径方向中心Oまで連続するか、もしくはその付近を通過するまで連続することを言う。
図2-(a)では親底刃41を通る線と子底刃42を通る線、または親底刃41に沿った線と子底刃42に沿った線の延長線を二点鎖線で示している。この延長線は底刃41、42を通り、回転軸O寄りの位置から半径方向外周側へ延びる線を言い、主に直線を指す。「底刃41、42に沿った延長線」は底刃41、42が曲線を描くような場合には曲線の曲率を持ちながら、回転軸O寄りの位置から半径方向外周側へ延びる線を言い、主に曲線を指す。
【0014】
「親底刃が中心付近を通過する」とは、親底刃41を通る線が中心(回転軸)Oより、親底刃41が面する第一ギャッシュ8寄り(回転方向前方側)を通過することを言う。または親底刃41を通る線が中心Oを挟んで対になる側の親底刃41の2番面41bの回転方向r後方側の境界線に連続することを言う。この場合、親底刃41の2番面41bは中心Oを挟んだ側に位置する親底刃41の2番面41bに帯状に連続する。親底刃41の2番面41bの回転方向r後方側の境界線は、2番面41bとその回転方向r後方側に隣接する、後述の第二ギャッシュ面9aとの境界線である。回転方向rはエンドミル本体(工具本体)が被削材を切削するときに回転軸O回りに回転する向きを言う。
【0015】
請求項1における「半径方向外周側の他の端部から半径方向中心側の中途まで連続する子底刃」とは、子底刃42が中心(回転軸)Oに交わる手前まで半径方向外周側の端部から半径方向中心O寄りの位置まで連続し、中心Oには到達しないことを言う。「子底刃42の半径方向中心側の端部が中心Oにまで到達しないこと」は、具体的には(言い換えれば)「子底刃42の半径方向中心側の端部が親底刃41とは交わらず、子底刃42の中心O側の端部と親底刃(稜線)41との間に空隙が形成されること」である。
【0016】
第一ギャッシュ8は親底刃41のすくい面41aとこれに回転方向r前方側に対向する第一ギャッシュ面8aとで構成され、第二ギャッシュ9は子底刃42のすくい面42aとこれに回転方向r前方側に対向する第二ギャッシュ面9aとで構成される。請求項1では子底刃42の半径方向中心O側(中心O寄り)の端部が親底刃41(中心O)に交わらず、子底刃42の中心O側の端部と親底刃(稜線)41との間には空隙が形成される。このことから、親底刃41のすくい面41aは中心Oを挟んだ反対側に位置する親底刃41の2番面41bの回転方向r後方側に位置する第二ギャッシュ9を構成する第二ギャッシュ面9aに空間的に連続し、第一ギャッシュ8内の空間と第二ギャッシュ9内の空間は連通する。
【0017】
「空間的に連続する(空間が連通する)」とは、すくい面41aと第二ギャッシュ面9aとの間に、子底刃42が中心Oにまで、または2番面41bにまで連続する場合のような、子底刃42による仕切り(壁)が存在しない状態のことを言う。すくい面41aと第二ギャッシュ面9aとの間に仕切りがないことで、第一ギャッシュ8内の切屑の第二ギャッシュ9内への移動と、第二ギャッシュ9内の切屑の第一ギャッシュ8内への移動が自由に生じ易くなる。
【0018】
第一ギャッシュ8内と第二ギャッシュ9内の空間が連通することで、例えば親底刃41が切削し、第一ギャッシュ8内に入り込んだ切屑の一部は第二ギャッシュ9内にも入り込み得るため、切屑が第一ギャッシュ8と第二ギャッシュ9に分散し易くなる。同様に子底刃42が切削し、第二ギャッシュ9内に入り込んだ切屑の一部は第一ギャッシュ8内にも入り込み得るため、切屑が第二ギャッシュ9と第一ギャッシュ8に分散し易くなる。結果として、親底刃41と子底刃42が切削した切屑が第一ギャッシュ8内と第二ギャッシュ9内のいずれかに集中することが回避され易くなり、第一ギャッシュ8内に切屑が詰まる事態と第二ギャッシュ9内に切屑が詰まる事態が回避され易くなる。
【0019】
特に
図2-(a)に示すように子底刃42、42の半径方向中心O側の端部が、親底刃41の半径方向中心O側の端部より、または中心Oより第二ギャッシュ9寄りに位置していれば(請求項3)、親底刃41が切削した切屑の第一ギャッシュ8を通じた排出性と、切屑の第一ギャッシュ8と第二ギャッシュ9への分散効果が高まる。
【0020】
「子底刃42、42の半径方向中心O側の端部が、親底刃41の半径方向中心O側の端部より、または中心Oより第二ギャッシュ9寄りに位置していること」は、「対になる子底刃42、42を通る各延長線が中心Oとは交わらず、中心Oを挟む位置にあること」とも言い換えられる。親底刃41は中心Oに近い位置から半径方向外周側へ、外周刃6へ向けて連続して形成され、親底刃41の中心Oに近い位置から第二ギャッシュ9側には形成されないため、「親底刃41の半径方向中心O側の端部」は親底刃41の(形成)開始位置を指す。
【0021】
この場合、子底刃42の半径方向中心O側の端部が親底刃41の半径方向中心O側の端部、または中心Oより第二ギャッシュ9寄りに位置することで、第一ギャッシュ8内の容積が第二ギャッシュ9内の容積より相対的に大きくなる。この結果、第一ギャッシュ8の切屑の収容能力が相対的に増すため、第一ギャッシュ8内での切屑の詰まりや停滞が生じにくくなり、第一ギャッシュ8から切屑排出溝7への切屑の排出性が向上する。
【0022】
また子底刃42の半径方向中心O側の端部が親底刃41の半径方向中心O側の端部より第二ギャッシュ9寄りに位置することで、子底刃42を通る延長線が中心Oを通る場合より、親底刃41が切削した切屑の一部を第二ギャッシュ9側へ送り込み易くなる。切屑が第一ギャッシュ8と第二ギャッシュ9との境界部分に停滞するような場合には、境界部分に存在する切屑が第一ギャッシュ8側へ戻りにくくなり、上記した切屑の分散効果が向上する。この結果、切屑が第一ギャッシュ8と第二ギャッシュ9との境界部分に停滞することによる親底刃41による被削材の切削への影響が低減される。
【0023】
請求項1では子底刃42の半径方向中心側の端部が中心Oにまで到達しないことと、子底刃42の2番面42bの回転方向r後方側に第一ギャッシュ8を構成する第一ギャッシュ面8aが形成されることで、子底刃42の2番面42bの回転方向の幅が制約されることになる。特に子底刃42の中心O寄りの2番面42bの幅が小さくなる傾向があるため、切削中、子底刃42に折損等が生じ易くなる可能性がある。但し、この可能性は切れ刃部2に、または切れ刃部2を含む工具本体のシャンク部3を除く部分全体に、HRC50以上、更にはHRC60近くの、あるいはHRC60を超える高硬度材の切削加工に適用されている、例えば上層にTiSiの窒化物、または炭窒化物を設けた硬質皮膜を被覆することで、低下させることが可能である。
【0024】
また第一ギャッシュ8の切屑排出溝7側に、第一ギャッシュ8と切屑排出溝7に連続する第三ギャッシュ10が形成されていることで、親底刃41が切削した切屑は第一ギャッシュ8と第三ギャッシュ10に分散して入り込む。親底刃41にコーナーR刃5が連続する場合(請求項6)には、親底刃41とコーナーR刃5が切削した切屑が第一ギャッシュ8と第三ギャッシュ10に分散して入り込む。
【0025】
同様に第二ギャッシュ9の切屑排出溝7側に、第二ギャッシュ9と切屑排出溝7に連続する第四ギャッシュ11が形成されていることで、子底刃42が切削した切屑は第二ギャッシュ9と第四ギャッシュ11に分散して入り込む。子底刃42にコーナーR刃5が連続する場合(請求項6)には、子底刃42とコーナーR刃5が切削した切屑が第二ギャッシュ9と第四ギャッシュ11に分散して入り込む。
【0026】
第三ギャッシュ10と第四ギャッシュ11に入り込んだ切屑はそれぞれのシャンク部3側に連続する切屑排出溝7へ排出されようとするため、第三ギャッシュ10と第四ギャッシュ11内での切屑の停滞が生じにくくなる。併せて第一ギャッシュ8内の切屑の第三ギャッシュ10への排出と第二ギャッシュ9内の切屑の第四ギャッシュ11への排出が円滑に生じ易くなる。
【0027】
本発明では第一ギャッシュ8の切屑排出溝7側に第三ギャッシュ10が形成され、親底刃41のすくい面41aが形成する第一ギャッシュ8が(第一ギャッシュ8と第三ギャッシュ10の)2段に形成される。このことから、
図5-(a)に示すように(b)に示すギャッシュが1段の場合との対比では、第一ギャッシュ8と第三ギャッシュ10を合わせた親底刃41の回転方向r前方側のギャッシュ全体での容積が第一ギャッシュ8のみの容積より拡大する。
図5-(a)のハッチングは直接には第二ギャッシュ9と第四ギャッシュ11を合わせた領域を示しているが、第一ギャッシュ8と第三ギャッシュ10を合わせた領域も(b)との対比では、第二ギャッシュ9と第四ギャッシュ11を合わせた領域と同じ状況にある。
【0028】
同様に第二ギャッシュ9の切屑排出溝7側に第四ギャッシュ11が形成され、子底刃42のすくい面42aが形成する第二ギャッシュ9が(第二ギャッシュ9と第四ギャッシュ11)の2段に形成される。このことから、第二ギャッシュ9と第四ギャッシュ11を合わせた子底刃42の回転方向r前方側のギャッシュ全体での容積も第二ギャッシュ9のみの容積より拡大する。
【0029】
図6-(a)は親底刃41のすくい面41aとそれに対向する第一ギャッシュ面8aから構成される第一ギャッシュ8を軸方向に端面側から見たときの様子を示している。(b)は親底刃41と子底刃42の区別がなく、本発明の子底刃42に相当する底刃の中心側の端部が、親底刃41に相当する底刃の中心側の端部に連続している従来のエンドミルのギャッシュを示している。本発明では(b)との対比では子底刃42の2番面41bの回転方向r後方側に第一ギャッシュ面8aが形成されていることで、第一ギャッシュ8の容積が従来の対応するギャッシュの容積より拡大していることが分かる。
【0030】
特に
図1-(b)、(c)に示すように第一ギャッシュ面8aと回転軸Oとのなす角度φ1を、第三ギャッシュ面10aと回転軸Oとのなす角度φ2より大きくすれば(請求項4)(φ1>φ2)、切屑の排出性はより向上する。第一ギャッシュ面8aは親底刃41のすくい面41aの回転方向r前方側に対向し、第一ギャッシュ8を構成する。第三ギャッシュ面10aは親底刃41から親底刃41に連続する外周刃6までのすくい面41a、6aに回転方向r前方側に対向し、第三ギャッシュ10を構成する。「親底刃41から外周刃6まで」には、コーナーR刃5と外周刃6が含まれ、ここでのすくい面にはコーナーR刃5のすくい面5aが含まれる。この場合の外周刃6は親底刃41に連続する。
【0031】
この場合、工具本体の第一ギャッシュ8寄り部分の剛性を確保しつつ、第一ギャッシュ8を半径方向回転軸(中心)O寄りから形成しながらも、第一ギャッシュ面8aと第三ギャッシュ面10aが同一面(同一平面)である場合より、第一ギャッシュ8の容積を大きくすることができる。結果、第一ギャッシュ8の切屑収容能力が高まることで、切屑の排出性が向上する。
【0032】
例えば工具本体の第一ギャッシュ8寄り部分の剛性を確保しつつ、第一ギャッシュ面8aを第三ギャッシュ面10aと同一面にしようとすれば、第一ギャッシュ面8aは
図1-(c)の第三ギャッシュ面10aに沿った、あるいは平行な接線である二点鎖線L1を描くようになる。結果、第一ギャッシュ8を半径方向回転軸O寄りから形成することが難しくなる。
【0033】
一方、第一ギャッシュ8を回転軸O寄りから形成しながら、第一ギャッシュ面8aを第三ギャッシュ面10aと同一面にしようとすれば、第一ギャッシュ面8aと第三ギャッシュ面10aは第三ギャッシュ面10aに沿った、あるいは平行な回転軸O寄りの接線である二点鎖線L2を描くようになる。結果、工具本体の第一ギャッシュ8寄り部分の剛性が低下し易くなる。上記のφ1>φ2を満たせば、工具本体の第一ギャッシュ8寄り部分の剛性を確保しつつ、第一ギャッシュ8を回転軸O寄りから形成しながらも、第一ギャッシュ8の容積を大きくすることができることになる。
【0034】
「第一ギャッシュ面8aと回転軸Oとのなす角度φ1」は第一ギャッシュ面8aを通る接線の内、回転軸Oに最も近い方向を向いた接線と回転軸Oとのなす角度を言う。「第三ギャッシュ面10aと回転軸Oとのなす角度φ2」も第三ギャッシュ面10aを通る接線の内、回転軸Oに最も近い方向を向いた接線と回転軸Oとのなす角度を言う。
【0035】
「第一ギャッシュ面8aと回転軸Oとのなす角度φ1」は第一ギャッシュ面8aが平面であると仮定したときの、第一ギャッシュ面8aと回転軸Oを通る縦断面とがなす角度でもある。ここでの「縦断面」は工具本体の回転軸Oが鉛直方向を向いた使用状態にあるときの鉛直面(回転軸Oに平行な鉛直断面)である。「第一ギャッシュ面8aと回転軸Oとのなす角度φ1が、第三ギャッシュ面10aと回転軸Oとのなす角度φ2より大きい」(φ1>φ2)とは、第三ギャッシュ面10aと縦断面(鉛直面)とのなす角度φ2より第一ギャッシュ面8aと縦断面(鉛直面)とのなす角度φ1が大きいことを言い、縦断面を基準にしたとき、第三ギャッシュ面10aより第一ギャッシュ面8aが寝た(倒れた)状態にあることを言う。
【0036】
同様に
図1-(c)、
図4に示すように第二ギャッシュ面9aと回転軸Oとのなす角度φ3を、第四ギャッシュ面11aと回転軸Oとのなす角度φ4より大きくすれば(請求項5)(φ3>φ4)、切屑の排出性はより向上する。第二ギャッシュ面9aは子底刃42のすくい面42aに回転方向r前方側に対向し、第二ギャッシュ9を構成する。第四ギャッシュ面11aは子底刃42から子底刃42に連続する外周刃6までのすくい面42a、6aに回転方向r前方側に対向し、第四ギャッシュ11を構成する。「子底刃42から外周刃6まで」には、コーナーR刃5と外周刃6が含まれ、ここでのすくい面にはコーナーR刃5のすくい面5aが含まれる。この場合の外周刃6は子底刃42に連続する。
【0037】
この場合、工具本体の第二ギャッシュ9寄り部分の剛性を確保しつつ、第二ギャッシュ9を半径方向回転軸(中心)O寄りから形成しながらも、第二ギャッシュ面9aと第四ギャッシュ面11aが同一面(同一平面)である場合より、第二ギャッシュ9の容積を大きくすることができる。結果、第二ギャッシュ9の切屑収容能力が高まることで、切屑の排出性が向上する。
【0038】
例えば工具本体の第二ギャッシュ9寄り部分の剛性を確保しつつ、第二ギャッシュ面9aを第四ギャッシュ面11aと同一面にしようとすれば、第二ギャッシュ面9aは
図1-(c)の第四ギャッシュ面11aに沿った、あるいは平行な接線である二点鎖線L1を描くようになる。結果、第二ギャッシュ9を半径方向回転軸O寄りから形成することが難しくなる。
【0039】
一方、第二ギャッシュ9を回転軸O寄りから形成しながら、第二ギャッシュ面9aを第四ギャッシュ面11aと同一面にしようとすれば、第二ギャッシュ面9aと第四ギャッシュ面11aは第四ギャッシュ面11aに沿った、あるいは平行な回転軸O寄りの接線である二点鎖線L2を描くようになる。結果、工具本体の第二ギャッシュ9寄り部分の剛性が低下し易くなる。上記のφ3>φ4を満たせば、工具本体の第二ギャッシュ9寄り部分の剛性を確保しつつ、第二ギャッシュ9を回転軸O寄りから形成しながらも、第二ギャッシュ9の容積を大きくすることができることになる。
【0040】
「第二ギャッシュ面9aと回転軸Oとのなす角度φ3」は第二ギャッシュ面9aを通る接線の内、回転軸Oに最も近い方向を向いた接線と回転軸Oとのなす角度を言う。「第四ギャッシュ面11aと回転軸Oとのなす角度φ4」も第四ギャッシュ面11aを通る接線の内、回転軸Oに最も近い方向を向いた接線と回転軸Oとのなす角度を言う。
【0041】
「第二ギャッシュ面9aと回転軸Oとのなす角度φ3」は第二ギャッシュ面9aが平面であると仮定したときの、第二ギャッシュ面9aと回転軸Oを通る縦断面(鉛直面)とがなす角度でもある。「第二ギャッシュ面9aと回転軸Oとのなす角度φ3が、第四ギャッシュ面11aと回転軸Oとのなす角度φ4より大きい」(φ3>φ4)とは、第四ギャッシュ面11aと縦断面(鉛直面)とのなす角度φ4より第二ギャッシュ面9aと縦断面(鉛直面)とのなす角度φ3が大きいことを言い、縦断面を基準にしたとき、第四ギャッシュ面11aより第二ギャッシュ面9aが寝た(倒れた)状態にあることを言う。
【0042】
なお、ラジアスエンドミルの場合(請求項6)、底刃4の半径方向中心付近における軸方向すくい角θ1を0°以下にすることで(請求項7)、HRC50以上、更にはHRC60以上の高硬度鋼の切削加工において、工具損傷が抑制される傾向がある。これは、底刃4、または底刃4からコーナーR刃5へかけての切れ刃とすくい面とのなす角度が鈍角になることで、軸方向すくい角θ1が正の場合より切れ刃を含む切れ刃部の剛性が高まるため、あるいは切れ刃部(の回転軸Oに平行な鉛直断面)に鋭角部分がないためと考えられる。
【0043】
高硬度鋼の切削加工においては、底刃4の半径方向中心付近における軸方向すくい角θ1は-10°以下、特に-15°以下とすることが好ましい。但し、ネガ(負)のすくい角が大きくなり過ぎると製造が困難になるので、底刃4の半径方向中心付近における軸方向すくい角θ1は-30°以上とすること(-30°≦θ1≦-10°)が好ましい。更に言えば、底刃4の半径方向中心付近における軸方向すくい角θ1は-25°以上とすること(-25°≦θ1≦-15°)が好ましい。
【0044】
ここで、外周刃6が右ねじれ状態で形成されていると仮定したときに、軸方向すくい角θ1がマイナス側に大きくなれば、前記のように底刃4(41、42)にコーナーR刃5が連続する(ラジアスエンドミルの)場合(請求項6)に、コーナーR刃5(稜線)の曲線を円弧形状に形成し難くなる。「外周刃6が右ねじれ状態」とは具体的に言えば、切れ刃部2を軸方向の端面側から見たとき、コーナーR刃5から外周刃6に移行する部分が回転方向r後方側へ傾斜した状態になることである。このため、コーナーR刃5の曲線の全長がコーナーR刃5の曲率半径を半径とする円弧の1/4(1/4円弧)を描きにくくなり、コーナーR刃5は1/4円弧分の長さより短くなる傾向がある。
【0045】
ここでの「底刃4」は親底刃41と子底刃42を含む。「親底刃の半径方向中心O付近における軸方向すくい角θ1」は親底刃すくい面41aの中心Oに近い部分での軸方向すくい角であり、子底刃42の軸方向すくい角も同様である(θ1は子底刃42の軸方向すくい角も指す)。例えば軸方向すくい角θ1が負(-)であれば、切れ刃部2を軸方向の端面側から見たときに親底刃41のすくい面41aと子底刃42のすくい面42aが見える状態になる。
【0046】
これに対し、特に
図3-(a)、
図4に示すように切れ刃部2を回転軸Oと垂直方向(回転軸Oに垂直な方向)から見たとき、切屑排出溝7に面する外周刃6が左ねじれ状態に形成されていれば(請求項8)、次のことが言える。すなわち、切れ刃部2を軸方向の端面側から見たとき、コーナーR刃5から外周刃6に移行する部分が回転方向r後方側へ傾斜した状態になりにくく、底刃4から外周刃6の開始点までの区間のすくい面41a~5a(6a)を平坦面、もしくはそれに近い曲面に形成し易くなる。
【0047】
この結果、コーナーR刃5の曲線に1/4円弧分の長さを与え易くなり、コーナーR刃5を1/4円弧形状に形成し易く、コーナーR刃5の1/4円弧精度を確保し易くなる。この場合、外周刃6が左ねじれ状態でない場合との対比では、底刃4からコーナーR刃5までの区間が切削した切屑を外周刃6が工具本体の回転時に切れ刃部2からシャンク部3側へかけ、回転方向r前方側に送り込み易くなるため、切屑排出溝7での切屑の排出性が向上する。
【0048】
またコーナーR刃5を1/4円弧形状に形成し易くする上では、底刃4の半径方向中心付近における軸方向すくい角と外周刃6のねじれ角との差を20°以下にすることが適切である(請求項9)。底刃4の工具回転軸付近における軸方向すくい角と外周刃6のねじれ角との差が20°以下であれば、底刃4の軸方向すくい角と外周刃6のねじれ角との差が抑えられ、底刃4からコーナーR刃5へかけてのすくい面を平面に近付けることができることに因る。
【発明の効果】
【0049】
底刃として半径方向外周側の端部から半径方向中心かその付近まで連続する複数本の親底刃と、半径方向外周側の他の端部から半径方向中心側の中途まで連続する複数本の子底刃を形成し、親底刃すくい面の回転方向前方側に第一ギャッシュを形成し、子底刃すくい面の回転方向前方側に第二ギャッシュを形成しているため、親底刃と子底刃が切削した切屑を第一ギャッシュと第二ギャッシュに分散させることができる。
【0050】
また第一ギャッシュの切屑排出溝側に第三ギャッシュを形成し、第二ギャッシュの切屑排出溝側に第四ギャッシュを形成しているため、親底刃、またはコーナーR刃が切削した切屑を第一ギャッシュと第三ギャッシュ内に落下させ、子底刃、またはコーナーR刃が切削した切屑を第二ギャッシュと第四ギャッシュ内に落下させることができる。
【0051】
同時に第三ギャッシュと第四ギャッシュに入り込んだ切屑は切屑排出溝へ排出されようとするため、第三ギャッシュと第四ギャッシュ内での切屑の停滞が生じにくくなり、第一ギャッシュ内の切屑の第三ギャッシュへの排出と第二ギャッシュ内の切屑の第四ギャッシュへの排出を円滑に生じさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】(a)はエンドミルの切れ刃部を端面寄りの位置から見たときの切れ刃の形成例を示した斜視図、(b)は回転軸Oと第一ギャッシュ面及び第三ギャッシュ面とのなす角度を示した斜視図、(c)は第一ギャッシュ面と第三ギャッシュ面との関係、及び第二ギャッシュ面と第四ギャッシュ面との関係を示した縦断面図である。
【
図2】(a)は
図1の切れ刃部の端面図であり、
図4のx-x線矢視図、(b)は(a)の中心部の拡大図、(c)は子底刃前方側の第二ギャッシュを示した(b)の拡大図である。
【
図3】(a)は切れ刃部を側面側から見たときの第一ギャッシュと第二ギャッシュ、及び切屑排出溝の関係を示した斜視図(側面図)、(b)は(a)の第二ギャッシュ部分の拡大図である。
【
図4】エンドミル本体のシャンク部を除いた切れ刃部を含む部分と、回転軸Oと第二ギャッシュ面及び第四ギャッシュ面とのなす角度を示した斜視図(側面図)である。
【
図5】(a)はギャッシュが2段に形成された本発明のエンドミルの切れ刃部を側面側から見たときの第二ギャッシュと第四ギャッシュの領域をハッチングで示した斜視図、(b)はギャッシュが2段ではない従来のエンドミルの切れ刃部を側面側から見たときのギャッシュの領域をハッチングで示した斜視図である。
【
図6】(a)は本発明のエンドミルの切れ刃部を端面側から見たときの第一ギャッシュの領域をハッチングで示した斜視図、(b)は従来のエンドミルの切れ刃部を端面側から見たときのギャッシュの領域をハッチングで示した斜視図である。
【
図7】本発明のエンドミルのシャンク部を含めた全体を示した側面図である。
【
図8】外周刃の径方向すくい角β2の計測位置を示した工具本体の軸に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1~
図3は工具本体の回転軸方向の先端部側に、半径方向中心側から外周側へかけて複数本の底刃41、42と、各底刃41、42に連続する外周刃6とを有する切れ刃部2を備え、工具本体の回転方向rに隣接する外周刃6、6間に切屑排出溝7が形成され、底刃として複数本の親底刃41と複数本の子底刃42が形成されたエンドミル1の製作例を示す。
【0054】
図示する例では
図7に示すような金型の隅部の加工に適する、首下長の長い小径エンドミルの例を示しているが、本発明のエンドミル1は
図7に示す形態には限られない。
図4は
図7のシャンク部3を除いた切れ刃部2側の部分を示している。
図2-(a)は
図4に示すエンドミル1をx-x線の方向に見た様子を示している。
【0055】
図示する例ではまた、エンドミル1が、底刃41、42と外周刃6との間に、双方に連続するコーナーR刃5が形成されたラジアスエンドミルの場合の例を示しているが、エンドミル1はコーナーR刃5がないスクエアエンドミルの場合もある。図面ではコーナーR刃5を有することに関連し、コーナーR刃5(稜線)の曲線(曲面)区間に1/4円弧分の長さを与え易くするために、
図3-(a)に示す底刃41、42の半径方向中心(回転軸)O付近における軸方向すくい角θ1と、コーナーR刃5の底刃41、42側の軸方向すくいθ2を0°以下にしている。
【0056】
また、例では
図2-(a)に示すように切れ刃部2を回転軸Oと垂直方向から見たとき、切屑排出溝7に面する外周刃6を左ねじれ状態に形成している。但し、軸方向すくい角が0°以下であることと、外周刃6が左ねじれ状態であることは必ずしも本発明では必要ではない。回転軸Oの方向は工具本体の軸方向を指す。
【0057】
参考までに、図示するエンドミル1の製作例では底刃41、42の中心(回転軸)O付近における軸方向すくい角θ1が-20°、コーナーR刃5の底刃41、42側の軸方向すくい角θ2が-20°の場合である。本発明では少なくとも底刃41、42の軸方向すくい角θ1が0°以下であればよく、ラジアスエンドミルの場合には軸方向すくい角θ1、θ2が0°以下であればよい。
【0058】
高硬度鋼の切削加工においては、底刃41、42の中心(回転軸)O付近における軸方向すくい角θ1は主に-30°~-10°、望ましくは-25°~-15°の範囲にあることが適切である。また、コーナーR刃5の底刃41、42側の軸方向すくい角θ2は-25°~-15°であることが好ましい。更に言えば、コーナーR刃5の軸方向すくい角θ2は底刃4(41、42)側から外周刃6側にかけて角度を大きくする(0°に近づける)ことが好ましい。
【0059】
また図示する例では
図3-(a)に示す底刃41、42の軸方向逃げ角α1が10°、コーナーR刃5の底刃41、42側の軸方向逃げ角α2が10°である。
図2-(c)、
図8に示すコーナーR刃5の外周刃6側の径方向すくい角β1が0°、外周刃6の径方向すくい角β2が0°となっている。更に
図3-(a)に示す外周刃6側の径方向逃げ角γ1が13°、
図2-(a)に示す径方向逃げ角γ2が11°である。但し、これら軸方向逃げ角α1、α2、径方向すくい角β1、β2、径方向逃げ角γ1、γ2の数値は一例に過ぎず、これらの数値には限定されない。
【0060】
なお、コーナーR刃5の径方向すくい角β1と外周刃6の径方向すくい角β2は
図2-(a)、(c)では正(+)に見える。但し、各すくい角β1、β2は
図8に示すように工具本体の回転軸Oに直交する断面上、半径方向外周寄りの工具径Dの4%の区間での計測値を採用しているため、上記したβ1、β2の数値には幅が生じ得る。
【0061】
親底刃41は
図2-(a)~(c)に示すように切れ刃部2を回転軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の端部から半径方向中心(回転軸)O、もしくはその付近まで連続する。子底刃42は親底刃41に工具本体の回転方向rに間隔を置き、切れ刃部2を軸方向の端面側から見たときの半径方向外周側の他の端部から半径方向中心側の中途まで連続する。
【0062】
親底刃41と子底刃42は中心(回転軸)Oに関して対になるように形成される。親底刃41の中心O側は中心Oかその付近まで連続することから、図面では工具本体の先端部を端面側から見たとき、親底刃41の2番面41b(以下、親底刃2番面41b)を中心Oを挟んだ側に位置する親底刃2番面41bに帯状に連続させている。この場合、中心Oを挟んで両側に位置する親底刃2番面41b、41bが幅を持ったまま連続することで、親底刃41に一定の剛性が確保される。
【0063】
親底刃41のすくい面41a(以下、親底刃すくい面41a)とこの親底刃41に回転方向r前方側に隣接する子底刃42の2番面42b(以下、子底刃2番面42b)との間に第一ギャッシュ8が形成される。子底刃42のすくい面42a(以下、子底刃すくい面42a)とこの子底刃42に回転方向r前方側に隣接する親底刃2番面41bとの間に第二ギャッシュ9が形成される。第一ギャッシュ8は親底刃すくい面41aと、その親底刃41の回転方向r前方側に位置する子底刃2番面42bの回転方向r後方側に形成される第一ギャッシュ面8aから構成される。第二ギャッシュ9は子底刃すくい面42aと、その子底刃42の回転方向r前方側に位置する親底刃2番面41bの回転方向r後方側に形成される第二ギャッシュ面9aから構成される。
【0064】
子底刃42は半径方向外周側の端部から半径方向中心O側の中途までしか連続しないため、
図1、
図2等に示すように子底刃42の中心O側の端部は中心Oまでは到達しない。この関係で、子底刃42の中心O側の端部とそれに半径方向に対向する親底刃2番面41bとの間には空隙が形成される。
【0065】
この結果、親底刃すくい面41a上の空間は中心Oを挟んだ側に位置する親底刃2番面41bの回転方向r後方側に形成された第二ギャッシュ面9a上の空間と連通する。すなわち、第一ギャッシュ8内の空間と第二ギャッシュ9内の空間は子底刃42を挟んで連通するため、例えば親底刃41が切削し、その回転方向前方側の第一ギャッシュ8内に入り込んだ切屑は第二ギャッシュ9内に移動し得る状態にあり、子底刃42が切削し、その回転方向前方側の第二ギャッシュ9内に入り込んだ切屑は第一ギャッシュ8内に移動し得る状態にある。
【0066】
図1-(a)、(b)に示すように第一ギャッシュ8の切屑排出溝7側には第一ギャッシュ8と切屑排出溝7に連続する第三ギャッシュ10が形成され、第二ギャッシュ9の切屑排出溝7側には第二ギャッシュ9と切屑排出溝7に連続する第四ギャッシュ11が形成されている。第三ギャッシュ10と第四ギャッシュ11の形成により第一ギャッシュ8内の切屑は第三ギャッシュ10を経由して切屑排出溝7へ排出され、第二ギャッシュ9内の切屑は第四ギャッシュ11を経由して切屑排出溝7へ排出される。
【0067】
第三ギャッシュ10は親底刃41に連続するコーナーR刃5のすくい面5a(以下、コーナーR刃すくい面5aとも言う)、または外周刃6のすくい面6a(以下、外周刃すくい面6aとも言う)と、そのコーナーR刃5、または外周刃6の回転方向r前方側に位置する第三ギャッシュ面10aとから構成される。第三ギャッシュ面10aは第一ギャッシュ面8aに工具本体の軸方向に連続する。第三ギャッシュ10は親底刃すくい面41aとコーナーR刃すくい面5aとに、またはコーナーR刃すくい面5aと外周刃すくい面6aとに跨ることもある。
【0068】
第四ギャッシュ11は子底刃すくい面42aに連続するコーナーR刃すくい面5a、または外周刃すくい面6aと、そのコーナーR刃5、または外周刃6の回転方向r前方側に位置する第四ギャッシュ面11aから構成される。第四ギャッシュ面11aは第二ギャッシュ面9aに工具本体の軸方向に連続する。第四ギャッシュ11は子底刃すくい面42aとコーナーR刃すくい面5aとに、またはコーナーR刃すくい面5aと外周刃すくい面6aとに跨ることもある。
【0069】
図1、
図2-(a)、
図3に示すように親底刃すくい面41aはこれと工具本体の軸方向に連続した面をなすコーナーR刃すくい面5a、または外周刃すくい面6aより、回転軸Oを通る工具本体の縦断面(鉛直面)に対して傾斜している。すなわち、親底刃すくい面41aと鉛直面とのなす角度は、すくい面5a、6aと鉛直面とのなす角度より大きく、親底刃すくい面41aはすくい面5a、6aより寝た(倒れた)、より水平に近い面をなしている。同じく第一ギャッシュ面8aはこれと工具本体の軸方向に連続した面をなす第三ギャッシュ面10aより鉛直面に対して傾斜し、第一ギャッシュ面8aと鉛直面とのなす角度φ1は第三ギャッシュ面10aと鉛直面とのなす角度φ2より大きい。
【0070】
従って第一ギャッシュ8を構成する親底刃すくい面41aと第一ギャッシュ面8aとの間の対向する方向、あるいは回転方向rの距離(円弧の周長)は第三ギャッシュ10を構成するすくい面5a、6aと第三ギャッシュ面10aとの間の距離(円弧の周長)より大きい。この結果、第一ギャッシュ8の切屑の収容能力が第三ギャッシュ10の収容能力より大きくなっている。また第一ギャッシュ8を構成するすくい面41aと第一ギャッシュ面8aが切屑を第三ギャッシュ10へ誘導する漏斗状の形状になっているため、第一ギャッシュ8内に存在する切屑を第三ギャッシュ10へ誘導する効果を持ち、第一ギャッシュ8内に切屑を停滞させない効果も持つ。
【0071】
同様に子底刃すくい面42aはこれと工具本体の軸方向に連続した面をなすコーナーR刃すくい面5a、または外周刃すくい面6aより、鉛直面に対して傾斜している。すなわち、子底刃すくい面42aと鉛直面とのなす角度は、すくい面5a、6aと鉛直面とのなす角度より大きく、子底刃すくい面42aはすくい面5a、6aより水平に近い面をなしている。同じく第二ギャッシュ面9aはこれと工具本体の軸方向に連続した面をなす第四ギャッシュ面11aより鉛直面に対して傾斜し、第二ギャッシュ面9aと鉛直面とのなす角度φ3は第四ギャッシュ面11aと鉛直面とのなす角度φ4より大きい。
【0072】
従って第二ギャッシュ9を構成するすくい面42aと第二ギャッシュ面9aとの間の対向する方向、あるいは回転方向rの距離(円弧の周長)は第四ギャッシュ11を構成するすくい面5a、6aと第四ギャッシュ面11aとの間の距離(円弧の周長)より大きい。この結果、第二ギャッシュ9の切屑の収容能力が第四ギャッシュ11の収容能力より大きくなっている。また第二ギャッシュ9を構成するすくい面42aと第二ギャッシュ面9aが切屑を第四ギャッシュ11へ誘導する漏斗状の形状になっているため、第二ギャッシュ9内に存在する切屑を第四ギャッシュ11へ誘導する効果と、第二ギャッシュ9内に切屑を停滞させない効果を持つ。
【0073】
親底刃2番面41b、またはコーナーR刃5の2番面5b(以下、コーナーR刃2番面5b)の回転方向r後方側には
図1-(a)に示すように3番面5cが形成される。3番面5cの回転方向r後方側に第四ギャッシュ面11aが位置し、3番面5cの軸方向シャンク部3側に切屑排出溝7が位置する。3番面5cは
図2-(a)に示すコーナーR刃2番面5bと
図3-(a)に示す外周刃6の2番面6b(以下、外周刃2番面6b)に跨る。
【0074】
同様に子底刃42、またはコーナーR刃2番面5bの回転方向r後方側にも3番面5cが形成され、3番面5cの回転方向r後方側に第三ギャッシュ面10aが位置し、3番面5cの軸方向シャンク部3側に切屑排出溝7が位置する。3番面5cはコーナーR刃2番面5bと外周刃2番面6bに跨る。外周刃2番面6bの回転方向r後方側に切屑排出溝7が位置する。
【符号の説明】
【0075】
1……エンドミル(工具本体)、
2……切れ刃部、3……シャンク部、
41……親底刃、41a……親底刃のすくい面、41b……親底刃の2番面、
42……子底刃、42a……子底刃のすくい面、42b……子底刃の2番面、
5……コーナーR刃、5a……コーナーR刃のすくい面、5b……コーナーR刃の2番面、5c……コーナーR刃の3番面、
6……外周刃、6a……外周刃のすくい面、6b……外周刃の2番面、
7……切屑排出溝、
8……第一ギャッシュ、8a……第一ギャッシュ面、
9……第二ギャッシュ、9a……第二ギャッシュ面、
10……第三ギャッシュ、10a……第三ギャッシュ面、
11……第四ギャッシュ、11a……第四ギャッシュ面、
φ1……第一ギャッシュ面8aと回転軸O(鉛直面)とのなす角度、
φ2……第三ギャッシュ面10aと回転軸O(鉛直面)とのなす角度、
φ3……第二ギャッシュ面9aと回転軸O(鉛直面)とのなす角度、
φ4……第四ギャッシュ面11aと回転軸O(鉛直面)とのなす角度、
θ1……底刃41、42の軸方向すくい角、
θ2……コーナーR刃5の底刃側の軸方向すくい角、
α1……底刃41、42の軸方向逃げ角、
α2……コーナR刃5の底刃側の軸方向逃げ角、
β1……コーナR刃5の外周側の径方向すくい角、
β2……外周刃6の径方向すくい角、
γ1……コーナR刃5の外周側の径方向逃げ角、
γ2……外周刃6の径方向逃げ角
L1……第三ギャッシュ面10a、第四ギャッシュ面11aに沿った(平行な)接線、
L2……第三ギャッシュ面10a、第四ギャッシュ面11aに沿った(平行な)回転軸O寄りの接線。