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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20240417BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240417BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240417BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
C08L15/00
C08K3/04
C08K3/34
B60C1/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022059696
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023150542
(43)【公開日】2023-10-16
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 香織
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/161876(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/163519(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/110941(WO,A1)
【文献】特開2014-210829(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
B60C 1/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端変性スチレンブタジエンゴムを30~50質量%含み、平均ガラス転移温度が-70℃~-55℃であるジエン系ゴム100質量部に、シリカおよびカーボンブラックを含む無機充填剤を70質量部以上配合し、前記無機充填剤中シリカが60質量%以上であって、前記末端変性スチレンブタジエンゴムが油展オイルを23質量%以上含有し、そのスチレン単位含有量が27質量%以上37質量%以下であるゴム組成物であって、その硬化物の300%変形時の引張応力Miおよび前記硬化物を50℃、1000時間加熱処理した後の300%変形時の引張応力Maが以下の式;
(Ma-Mi)/Mi ≦ 0.3
を満たすことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量部に、前記無機充填剤を70質量部以上90質量部以下配合してなる請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記無機充填剤中シリカが60質量%以上90質量%以下である請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雪上性能およびウェット性能と耐摩耗性とのバランスを一層向上するようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オールシーズンタイヤには、積雪路面を走行するときの雪上性能と、非積雪路面(湿潤路面)を走行するときのウェット性能に優れることに加え、耐摩耗性に優れることが要求される。タイヤ用ゴム組成物の耐摩耗性を向上するためにカーボンブラックの配合量を多くすると、ウェット性能、とりわけ長期使用後のウェットグリップ性能が低下することがある。
【0003】
一方、ウェット性能を改良するためタイヤ用ゴム組成物にシリカを配合することが行われる。しかしシリカはカーボンブラックに比べ、ジエン系ゴムに配合したとき補強性能が小さいため耐摩耗性が低下するという問題がある。またウェット性能を向上するため、シリカの配合量を増やしたりその粒子径を微細にしたりすると、シリカの分散性が低下し耐摩耗性がさらに低下したり、ゴム組成物の柔軟性が失われ雪上性能が低下するという問題がある。
【0004】
特許文献1および2は、末端をポリオルガノシロキサン等で変性した末端変性スチレンブタジエンゴムにシリカを配合したゴム組成物によりシリカの分散性を改良することを提案している。しかし、需要者が雪上性能、ウェット性能および耐摩耗性の向上に期待する要求レベルはより高くこれらの特性を一層改善すること、とりわけ長期使用後のウェットグリップ性能を維持することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-91498号公報
【文献】国際公開第2011/105362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、雪上性能およびウェット性能と耐摩耗性とのバランスを従来レベル以上に向上し、かつ長期使用後のウェットグリップ性能を維持するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、末端変性スチレンブタジエンゴムを30~50質量%含み、平均ガラス転移温度が-70℃~-55℃であるジエン系ゴム100質量部に、シリカおよびカーボンブラックを含む無機充填剤を70質量部以上配合し、前記無機充填剤中シリカが60質量%以上であって、前記末端変性スチレンブタジエンゴムが油展オイルを23質量%以上含有し、そのスチレン単位含有量が27質量%以上37質量%以下であるゴム組成物であって、その硬化物の300%変形時の引張応力Miおよび前記硬化物を50℃、1000時間加熱処理した後の300%変形時の引張応力Maが以下の式;(Ma-Mi)/Mi ≦ 0.3 を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、雪上性能およびウェット性能と耐摩耗性とのバランスを従来レベル以上に向上すると共に、長期使用後のウェットグリップ性能を維持することができる。
【0009】
タイヤ用ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム中のブタジエン重合成分における、平均ビニル含量が40質量%以下であるとよい。また、前記ジエン系ゴム100質量部に、前記無機充填剤を70質量部以上90質量部以下配合するとよく、さらに前記無機充填剤中シリカが60質量%以上90質量%以下であるとよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、そのジエン系ゴムは末端変性スチレンブタジエンゴムを必ず含む。末端変性スチレンブタジエンゴムは、分子鎖の片末端または両末端に官能基を有するスチレンブタジエンゴムである。末端変性スチレンブタジエンゴムは、好ましくは溶液重合で製造したスチレンブタジエンゴムの末端に官能基を有する変性ゴムであるとよい。末端変性スチレンブタジエンゴムを配合することによりシリカとの親和性を高くし分散性を改善するため、シリカの作用効果を一層高くすると共に、耐摩耗性を改良する。
【0011】
また末端変性スチレンブタジエンゴムが有する官能基は、シリカ表面のシラノール基と反応する化合物に由来する官能基であるとよい。このシラノール基と反応する化合物は、特に制限されるものではないが、例えばポリオルガノシロキサン化合物、エポキシ化合物、ヒドロカルビルオキシ珪素化合物、スズ化合物、ケイ素化合物、シラン化合物、アミド化合物および/またはイミド化合物、イソシアネートおよび/またはイソチオシアネート化合物、ケトン化合物、エステル化合物、ビニル化合物、オキシラン化合物、チイラン化合物、オキセタン化合物、ポリスルフィド化合物、ポリシロキサン化合物、ポリエーテル化合物、ポリエン化合物、ハロゲン化合物、フラーレン類などを有する化合物を挙げることができる。なかでもポリオルガノシロキサン化合物、エポキシ化合物、ヒドロカルビルオキシ珪素化合物、が好ましい。
【0012】
末端変性スチレンブタジエンゴムは、スチレン単位含有量が37質量%以下、好ましくは20~37質量%、より好ましくは27~37質量%である。末端変性スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量を37質量%以下にすることにより、タイヤにしたときの雪上性能およびウェット性能をより高くし、特に長期使用後のウェットグリップ性能を維持することができる。本明細書において、末端変性スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定することができる。
【0013】
本発明では、末端変性スチレンブタジエンゴムのビニル単位含有量は好ましくは20~45質量%、より好ましくは35~45質量%にするとよい。末端変性スチレンブタジエンゴムのビニル単位含有量を20~45質量%にすることにより、末端変性スチレンブタジエンゴムのガラス転移温度(Tg)を適正化することができ好ましい。また、他のジエン系ゴムに対して形成された末端変性スチレンブタジエンゴムの微細な相分離形態を安定化することができる。末端変性スチレンブタジエンゴムのビニル単位含有量が20質量%未満であると、末端変性スチレンブタジエンゴムのTgが低くなり、ウェットグリップ性能が低下する虞がある。また末端変性スチレンブタジエンゴムのビニル単位含有量が45質量%を超えると加硫速度が低下したり、強度や剛性が低下したり、損失正接(60℃のtanδ)が大きくなる可能性がある。なお末端変性スチレンブタジエンゴムのビニル単位含有量は赤外分光分析(ハンプトン法)により測定することができる。
【0014】
本発明では、末端変性スチレンブタジエンゴムにおける末端変性基の濃度は、末端変性スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)との関係で決められる。末端変性スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量は好ましくは60万~100万、より好ましくは65~85万であるとよい。末端変性スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量が60万未満であると、末端変性スチレンブタジエンゴム末端の変性基濃度が高くなり、ゴム組成物の特性がシリカの分散性は良化するが、重合体自身の分子量が低いために、強度、剛性が発現しない可能性があり、高温の粘弾性特性の改良幅も小さくなってしまう。またゴム組成物の耐摩耗性が低下することがある。また末端変性スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量が100万を超えると、末端変性スチレンブタジエンゴム末端の変性基濃度が低くなりシリカとの親和性が不足し、分散性が悪化する虞がある。なお末端変性スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定することができる。
【0015】
末端変性スチレンブタジエンゴムは、オイル成分を添加すること(油展)によりゴム組成物の成形加工性を良好にすることができる。油展量は、末端変性スチレンブタジエンゴム100質量%中、23質量%以、好ましくは23~45質量%、より好ましくは25~40質量%である。末端変性スチレンブタジエンゴムの油展量を23質量%以上にすることにより、ゴム組成物にオイル、軟化剤、粘着性付与剤等を配合するときの組成設計の自由度が得られる。
【0016】
末端変性スチレンブタジエンゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、30~60質量%、好ましくは35~55質量%、より好ましくは40~50質量%である。末端変性スチレンブタジエンゴムの含有量がジエン系ゴム中の30質量%未満であると、シリカとの親和性が低下するのでシリカの分散性を良好にすることができない。また末端変性スチレンブタジエンゴムの含有量がジエン系ゴム中の60質量%を超えると、雪上性能および耐摩耗性が低下する虞がある。
【0017】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムとして末端変性スチレンブタジエンゴム以外の他のジエン系ゴムを、本発明の目的を阻害しない範囲で配合することができる。他のジエン系ゴムとして、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、末端変性していないスチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等を例示することができる。このようなジエン系ゴムは、単独又は複数のブレンドとして使用することができる。
【0018】
タイヤ用ゴム組成物は、天然ゴムを含有することにより雪上性能を高いレベルで維持しながら耐摩耗性およびウェットグリップ性能を改良することができ好ましい。天然ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは8~35質量%、より好ましくは10~25質量%にするとよい。天然ゴムを8質量%以上配合すると、雪上性能、ウェットグリップ性能および耐摩耗性を改良することができ好ましい。また天然ゴムを35質量%以下配合すると、ウェットグリップ性を維持、向上することができ好ましい。天然ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるものを使用するとよい。
【0019】
タイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムを含有することにより、耐摩耗性および雪上性能を改良することができ好ましい。ブタジエンゴムの配合量はジエン系ゴム100質量%中、好ましくは15~40質量%、より好ましくは25~35質量%にするとよい。ブタジエンゴムを8質量%以上配合すると、耐摩耗性を維持、向上することができ好ましい。またブタジエンゴムを40質量%以下配合すると、耐チッピング性を維持、向上することができ好ましい。ブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるものを使用するとよい。
【0020】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が-70℃~-55℃である。ジエン系ゴムのタイヤ用ゴム組成物平均ガラス転移温度を-70℃~-55℃にすることにより、雪上性能およびウェット性能と耐摩耗性とのバランスを優れたものにすることができる。ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は、好ましくは-65℃~-55℃、より好ましくは-60℃~-55℃であるとよい。本明細書において、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は、ゴム組成物を構成する各ジエン系ゴムのガラス転移温度の質量分率に基づく加重平均値として求めることができる。また、各ジエン系ゴムのガラス転移温度は、示差走査熱量分析(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度とすることができる。
【0021】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム中のブタジエン重合成分における、平均ビニル含量が40質量%以下であるとよい。ジエン系ゴム中のブタジエン重合成分とは、スチレンスチレンブタジエンゴムに含まれるブタジエン重合成分、ブタジエンゴムに含まれるブタジエン重合成分、等をいう。ブタジエン重合成分は、1,2-結合または1,4-結合で構成されており、平均ビニル含量は、1,2-結合および1,4-結合の合計100質量%中の1,2-結合の質量%である。ジエン系ゴム中のブタジエン重合成分における、平均ビニル含量を40質量%以下にすることにより、長期使用後のウェット性能を保つことができるため好ましい。平均ビニル含量は、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~35質量%であるとよい。本明細書において、ジエン系ゴム中のブタジエン重合成分における平均ビニル含量は、赤外分光分析(ハンプトン法)により測定することができる。
【0022】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカおよびカーボンブラックを含む無機充填剤をジエン系ゴム100重量部に対し70質量部以上配合する。無機充填剤の配合量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物のウェットグリップ性および耐摩耗性をより高いレベルでバランスさせることができる。充填剤の配合量が70重量部未満であると、高いレベルのウェットグリップ性を確保することができない。無機充填剤は、ジエン系ゴム100重量部に対し、好ましくは70~100質量部、より好ましくは70~90質量部配合するとよい。
【0023】
また無機充填剤100質量%中のシリカの含有量は60質量%以上、好ましくは60~90質量%にする。無機充填剤中のシリカの含有量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物のウェットグリップ性および耐摩耗性を両立することが可能になる。また、シリカとの親和性が高い末端変性スチレンブタジエンゴムを配合することにより、シリカの分散性を改善するため、シリカ配合の効果をより高くすることができる。
【0024】
シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。またシリカの粒子性状は、特に制限されるものではないが、好ましくは、JIS K6217-4吸油量A法に準拠して求められるDBP吸収量が160~220ml/100g、JIS K6217-2に準拠して求められる窒素吸着比表面積(NSA)が145~193m/g、JIS K6217-3に準拠して求めるCTAB比表面積(CTAB)が140~184m/g、等の粒子性状の少なくとも1つを満たすとよい。
【0025】
シリカのDBP吸収量が160ml/100g未満であると、破断強度が低下することがある。DBP吸収量が220ml/100gを超えると、粘度が高くなり過ぎて混合加工性が悪化することがある。シリカのNSAが145m/g未満であるとウェットグリップ性が悪化することがある。またシリカのNSAが193m/gを超えると、シリカの分散性が悪化し、耐摩耗性が悪化することがあり、またゴム組成物が硬くなり雪上性能が低下することがある。シリカのCTABが140m/g未満であるとウェットグリップ性が悪化することがある。またシリカのCTABが184m/gを超えると、シリカの分散性が悪化し、耐摩耗性が悪化することがある。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することができる。
【0026】
上述した粒子性状を満たすシリカは、末端変性スチレンブタジエンゴムと共に配合することにより、シリカの分散性を改良することができる。このため、末端変性スチレンブタジエンゴムおよび上記の粒子性状を有するシリカがゴム組成物のtanδを共に改質し、さらなる相乗的効果を得ることができる。
【0027】
本発明のゴム組成物において、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましく、シリカの分散性を向上しジエン系ゴムとの補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して好ましくは3~20質量%、より好ましくは5~15質量%配合するとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ重量の3質量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤の配合量が20質量%を超えると、シランカップリング剤同士が縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0028】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0029】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカ、カーボンブラック以外のその他の無機充填剤を配合することができる。その他の無機充填剤としては、例えば、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化チタン等が例示される。その他の無機充填剤の含有量は、無機充填剤100質量%中30質量%以下、好ましくは0~25質量%にするとよい。その他の無機充填剤の含有量が30質量%を超えると低燃費性能が悪化する。
【0030】
タイヤ用ゴム組成物は、その硬化物の300%変形時の引張応力Miおよび前記硬化物を50℃、1000時間加熱処理した後の300%変形時の引張応力Maが以下の式;
(Ma-Mi)/Mi ≦ 0.3
を満たす。上記式の関係を満たすことにより、熱老化後の劣化が抑制され、タイヤにしたときのウェットグリップ性能が、長期間使用した後でも優れていることの指標になる。本明細書において、300%変形時の引張応力は、JIS K6251に準拠して3号型ダンベル試験片を用い、引張速度500mm/分、温度20℃の条件で測定された300%変形時の応力[MPa]とする。
【0031】
タイヤ用ゴム組成物は、オイル成分の合計が、ゴム組成物100質量%中、好ましくは25~50質量%、より好ましくは30~45質量%であるとよい。オイル成分の合計が25質量%未満であると、雪上性能を十分に改良することができない虞がある。またオイル成分の合計が50質量%を超えると、耐摩耗性を十分に改良することができない虞がある。なお、オイル成分の合計とは、ジエン系ゴム中の油展オイル、およびゴム組成物の調製時に添加する天然オイル、合成オイル、可塑剤などのオイル成分からなるゴム組成物が含むオイル成分の合計をいう。
【0032】
タイヤ用ゴム組成物には、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を配合することができる。このような配合剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0033】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤ、空気入りタイヤ、特に乗用車向けのオールシーズン用空気入りタイヤに好適に使用することができる。このゴム組成物をトレッド部に使用したタイヤは、積雪路面を走行するときの雪上性能と、非積雪路面を走行するときのウェット性能や耐摩耗性とのバランスを従来レベル以上に向上することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1~2に示す配合からなる15種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例、実施例1~6、比較例1~8)を調製するに当たり、それぞれ硫黄および加硫促進剤を除く成分を秤量し、1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練した後、そのマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.8Lの密閉型ミキサーに供し、硫黄および加硫促進剤を加え、混合しタイヤ用ゴム組成物を得た。なお、表1,2において、変性S-SBR1,4および5は油展品であるため、正味のゴム量を括弧内に併記した。また、表3の共通成分の配合量は、表1,2に示すジエン系ゴム100重量部に対する重量部として記載した。
【0035】
得られた15種類のゴム組成物を所定のモールドを用いて、160℃で30分間加硫して加硫ゴム試験片を作製した。得られた加硫ゴム試験片を使用し、初期の300%変形時の引張応力Miおよび50℃、1000時間加熱処理した後の300%変形時の引張応力Maを以下の測定方法により評価した。
【0036】
引張り特性(300%変形時の引張応力)
上記で得られた加硫ゴム試験片、および50℃、1000時間加熱処理した後の加硫ゴム試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、室温(20℃)で500mm/分の引張り速度で引張り試験を行い、300%変形時の引張応力(MiおよびMa)を測定し、(Ma-Mi)/Miの値を算出した。得られた結果は、表1、2の「M300の変化率」の欄に記載した。この値が小さいほど熱老化後の300%変形時の引張応力の変化が小さく熱老化促進試験における劣化が抑制されていることを意味する。
【0037】
また、15種類のゴム組成物をキャップトレッドに用いたサイズ(225/60R18)の空気入りタイヤを加硫成形した。それぞれの空気入りタイヤを用いて、耐摩耗性、雪上性能および長期間使用後のウェットグリップ性能を下記に示す方法により評価した。
【0038】
耐摩耗性
得られた空気入りタイヤをリムサイズ18×7JJのホイールに組付け、空気圧220kPaを充填し国産2.5リットルクラスの試験車両に装着し、テストコースの1周5kmの周回路の乾燥路面を速度80km/時で連続して10周走行した。その後トレッド面における摩耗の状態を目視により観察し、標準例を100として点数付け評価した。得られた結果を表1,2の「耐摩耗性」の欄に示した。評価の値が大きいほど、耐摩耗性が良いことを示す。
【0039】
雪上性能
得られた空気入りタイヤをリムサイズ18×7JJのホイールに組付け、国産2.5リットルクラスの試験車両に装着し、空気圧200kPaの条件で積雪状態にした1周2.6kmのテストコースを実車走行させ、そのときの操縦安定性を専門パネラー3名による感応評価により、標準例を100として点数付け評価した。得られた結果を表1,2の「雪上性能」の欄に示した。評価の値が大きいほど、積雪路面における雪上性能(操縦安定性)が優れていることを意味する。
【0040】
長期間使用後のウェットグリップ性能
得られた空気入りタイヤをリムサイズ18×7JJのホイールに組付け、試験車両に装着し、2000kmの実車走行を行った。走行試験後の空気入りタイヤをリムサイズ18×7JJのホイールに組付け、国産2.5リットルクラスの試験車両に装着し、空気圧220kPaの条件で湿潤路面からなる1周2.6kmのテストコースを実車走行させ、そのときの操縦安定性を専門パネラー3名による感応評価により、標準例を100として点数付け評価した。得られた結果を表1,2の「長期ウェット性能」の欄に示した。評価の値が大きいほど、長期間使用後のウェットグリップ性能が優れていることを意味する。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
なお、表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・変性SBR1:ヒドロキシ基で変性された末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム、旭化成社製TUFDENE E581、スチレン単位含有量が36質量%、ビニル単位含有量が41質量%、ガラス転移温度(Tg)が-34℃、油展オイルの含有量が27.27質量%。
・SBR2:乳化重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502、スチレン単位含有量が24質量%、ビニル単位含有量が42質量%、ガラス転移温度(Tg)が-60℃、非油展品。
・変性SBR3:ヒドロキシ基で変性された末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol NS612、スチレン単位含有量が15質量%、ビニル単位含有量が31質量%、ガラス転移温度(Tg)が-61℃、非油展品。
・SBR4:溶液重合スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol NS522、スチレン単位含有量が38質量%、ビニル単位含有量が39質量%、ガラス転移温度(Tg)が-23℃、油展オイルの含有量が27.27質量%。
・変性SBR5:グリシジルアミン基で変性された末端変性溶液重合スチレンブタジエンゴム、旭化成社製TUFDENE F3420、スチレン単位含有量が36質量%、ビニル単位含有量が41質量%、ガラス転移温度(Tg)が-27℃、油展オイルの含有量が27.27質量%。
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220、ガラス転移温度(Tg)が-106℃
・NR:天然ゴム、PT.KIRANA SAPTA社製SIR20、ガラス転移温度(Tg)が-61℃
・CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト7HM
・CB2:カーボンブラック、OCI Company Ltd.製DASH BLACK N134
・シリカ1:Evonik社製ULTRASIL VN3GR。
・シリカ2:Evonik社製ULTRASIL 7000GR。
・カップリング剤:シランカップリング剤、Evonik社製Si69、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
・アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
【0044】
【表3】
【0045】
なお、表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・老化防止剤:Korea Kumho Petrochemical社製6PPD
・ワックス:日本精蝉社製OZOACE-0015A
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・加硫促進剤1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ-G
・加硫促進剤2:住友化学社製ソクシノールD-G
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
【0046】
表1,2から明らかなように実施例1~6のタイヤ用ゴム組成物は、雪上性能およびウェット性能と耐摩耗性とのバランスを従来レベルよりも向上させることができる。
【0047】
比較例1のゴム組成物は、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が-50℃より高いので、耐摩耗性および雪上性能が悪化する。
比較例2のゴム組成物は、ジエン系ゴムの平均ガラス転移温度が-70℃より低いので、長期使用後のウェットグリップ性能が悪化する。
比較例3のゴム組成物は、無機充填剤中のシリカの重量割合が60質量%未満、加熱処理した後の300%変形時の引張応力の変化率が0.3より大きいので、長期使用後のウェットグリップ性能が悪化する。
比較例4のゴム組成物は、無機充填剤中のシリカの重量割合が60質量%未満、加熱処理した後の300%変形時の引張応力の変化率が0.3より大きいので、長期使用後のウェットグリップ性能が悪化する。
比較例5のゴム組成物は、無機充填剤が70質量部未満なので、耐摩耗性および長期使用後のウェットグリップ性能が悪化する。
比較例6のゴム組成物は、無機充填剤中シリカが60質量%未満であるので、雪上性能および長期使用後のウェットグリップ性能が悪化する。
比較例7のゴム組成物は、スチレンブタジエンゴム(SBR4)が末端変性されておらず、スチレン単位含有量が37質量%を超えるので雪上性能および長期使用後のウェットグリップ性能が悪化する。
比較例8のゴム組成物は、末端変性スチレンブタジエンゴム(変性SBR5)の油展オイルが23質量%未満なので耐摩耗性が悪化する。