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  • 特許-表面被覆切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240417BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/36
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022509219
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022400
(87)【国際公開番号】W WO2021192327
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2020053655
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】中村 惠滋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 光宏
(72)【発明者】
【氏名】河野 和弘
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137564(JP,A)
【文献】国際公開第2018/234296(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/176202(WO,A1)
【文献】特表2019-511378(JP,A)
【文献】特開2019-171546(JP,A)
【文献】国際公開第2018/158245(WO,A1)
【文献】特開2005-297141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 27/24
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 16/00 - 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基体と、該工具基体上に硬質被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
前記硬質被覆層は、前記工具基体から表面に向かって、順に、内層、下部中間層、上部中間層、結合補助層および外層を有し、
前記内層は、Tiの炭窒化物層であって、平均層厚が4.0~20.0μmであり、
前記下部中間層は、Tiの窒化物層であって、平均層厚が0.1~2.0μmであり、
前記上部中間層は、Tiの炭窒化物層であって、平均層厚が0.1~2.5μmであり、
前記下部中間層のTiの窒化物の粒界と前記上部中間層のTiの炭窒化物の粒界は、前記内層のTiの炭窒化物の粒界から連続しており、
前記結合補助層は、Tiの炭窒酸化物層であって、平均層厚が3~80nmであり、
前記外層は、α型酸化アルミニウム層であって、平均層厚が2.0~20.0μmであり、
前記内層および前記上部中間層のTiの炭窒化物の配向性指数TC(422)が3.0以上、前記外層のα型酸化アルミニウムの配向性指数TC(0 0 12)が5.0以上である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削工具の切削性能の改善を目的として、従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金等の工具基体の表面に、硬質被覆層を蒸着法により被覆形成した被覆工具があり、これは、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
前記従来の硬質被覆層を被覆形成した被覆工具は、耐摩耗性に優れものであるが、さらなる硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、工具基体から表面に向かって、TiCN層、ボンディング層、α型Al層を有し、前記TiCN層は、平均層厚が4~20μmであって、配向性指数TC(220)(以下、TCのみで示すことがある)が0.5以下、TC(422)が3以上、TC(311)とTC(422)の和が4以上であり、前記ボンディング層は、TiN、TiCN、TiCO、TiCNOの少なくとも一層であって、平均層厚が0.5~2μmであり、前記α型Al層は、平均層厚が2~20μmであって、TC(0 0 12)が7.2以上、I(0 0 12)/I(0 0 14)が1以上である、硬質被覆層を有する被覆工具が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、工具基体から表面に向かって、TiCN層、ボンディング層、α型Al層を有し、前記TiCN層は平均層厚が2~20μmであり、前記ボンディング層は針状組織のTiCNOまたはTiBNであり、前記α型Al層は、平均層厚が1~15μmであって、TC(006)が5を超えている、硬質被覆層を有する被覆工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-137564号公報
【文献】特許第5872746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の切削加工における省力化および省エネルギー化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化、高効率化の傾向にあり、被覆工具の硬質被覆層には、より一層、耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性等の耐異常損傷性が求められるとともに、長期の使用にわたって優れた耐摩耗性が求められている。
【0007】
しかし、前記特許文献1および2に記載された被覆工具は、本発明者の検討によれば、刃先が大きな負担にさらされる切削加工において、十分な耐久性を有しているとはいえなかった。
本発明は、この状況を鑑みて、刃先が大きな負担にさらされる切削加工において、十分な耐久性を有する被覆工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る表面被覆切削工具は、
工具基体と、該工具基体上に硬質被覆層を有し、
前記硬質被覆層は、前記工具基体から表面に向かって、順に、内層、下部中間層、上部中間層、結合補助層および外層を有し、
前記内層は、Tiの炭窒化物層であって、平均層厚が4.0~20.0μmであり、
前記下部中間層は、Tiの窒化物層であって、平均層厚が0.1~2.0μmであり、
前記上部中間層は、Tiの炭窒化物層であって、平均層厚が0.1~2.5μmであり、前記下部中間層のTiの窒化物の粒界と前記上部中間層のTiの炭窒化物の粒界は、前記内層のTiの炭窒化物の粒界から連続しており、
前記結合補助層は、Tiの炭窒酸化物層であって、平均層厚が3~80nmであり、
前記外層は、α型酸化アルミニウム層であって、平均層厚が2.0~20.0μmであり、
前記内層と前記上部中間層のTiの炭窒化物の配向性指数TC(422)が3.0以上、前記外層のα型酸化アルミニウムの配向性指数TC(0 0 12)が5.0以上である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。」
【発明の効果】
【0009】
前記によれば、刃先が大きな負担にさらされる切削加工において、十分な耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の被覆工具の内層、下部中間層、上部中間層、結合補助層および外層を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、α型酸化アルミニウム層を硬質被覆層として含む被覆工具の耐久性の向上を図るべく、α型酸化アルミニウム層と結合補助層(ボンディング層)に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、ボンディング層の針状組織が耐久性に悪影響を与えていることを発見した。
【0012】
すなわち、前記特許文献1に記載されたボンディング層は、同文献中に明記はされていないものの、α型酸化アルミニウム層との接合を強固にするためアンカー効果を得るべく、特許文献2のボンディング層と同様に、針状組織を有している。
【0013】
しかし、本発明者の検討によれば、この針状組織は、α型酸化アルミニウム層のボンディング層との界面領域におけるボイドの発生原因であることが判明した。すなわち、針状組織が形成する隙間にα型酸化アルミニウム層を形成するための原料ガスが十分に供給されず、これによりボイドが発生し、針状組織がもたらすアンカー効果を得ることが困難であると知見した。また、前記特許文献1および2に記載されたTiの炭窒化物層をTiの炭窒化物層-Tiの窒化物層-Tiの炭窒化物層の3層にすることによって耐チッピング性が向上することも知見した。
【0014】
以下では、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「A~B」(A、Bは共に数値)で表現するときは、その範囲は上限値(B)および下限値(A)を含んでおり、上限値(B)と下限値(A)の単位は同じである。また、数値は公差を含む。
【0015】
また、Tiの窒化物、Tiの炭窒化物、Tiの炭窒酸化物、Tiの炭窒化物、Tiの酸化物の各層およびα型酸化アルミニウム層の組成は、化学量論的組成に限定されず、従来公知のすべての原子比の組成を含むものである。
【0016】
図1に模式的に示すように、本発明の一実施形態の被覆工具は、工具基体(8)上の硬質被覆層(1)に、内層(2)、下部中間層(3)、上部中間層(4)、結合補助層(5)および外層(6)を有する。そして、内層(2)、下部中間層(3)、上部中間層(4)、結合補助層(5)(以下、これらの層を総称して主要層ということがある)は、成膜ガスのガス組成や反応雰囲気圧力を調整してエピタキシャル成長をさせている。そのため、縦断面(工具基体(8)の表面に垂直な断面)で観察した場合、下部中間層(3)のTiの窒化物の粒界と上部中間層の(4)Tiの炭窒化物の粒界は、内層の柱状粒子(7)を有するTiの炭窒化物の粒界から連続しており、これらを一体としてみたときに、あたかも、ひとつの大きな柱状粒子の一部を構成しているような組織とみることができる。そして、結合補助層(5)は針状組織ではない。すなわち、結合補助層(5)は非針状組織であって、例えば、等軸粒子から構成されている。
【0017】
なお、粒界が連続するとは、後述する硬質被覆層の任意の縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって観察したときに、粒界が連続しているように視認できることをいう。
このように粒界が連続しているように視認できる理由は、エピタキシャル成長したTiの窒化物とTiの炭窒化物の格子定数は実質的に同一とみることができるため、下部中間層のTiの窒化物は内層のTiの炭窒化物と、また、上部中間層のTiの炭窒化物は下部中間層のTiの窒化物と、それぞれ、工具基体の表面に平行な方向において、格子間隔(面間隔)を一致させて成長し、成膜後の冷却を経てもこの格子間隔が保持され、内層のTiの炭窒化物の面間隔はそのまま、下部中間層のTiの窒化物、上部中間層のTiの炭窒化物に受け継がれていくためと考えられる。
以下、各層について説明する。
【0018】
内層:
内層は、工具基体または後述する最内層に隣接する柱状粒子を有するTiの炭窒化物層であって、その平均層厚は、4.0~20.0μmが好ましい。平均層厚をこの範囲とする理由は、4.0μm未満であると、耐摩耗性が低下し、一方、20.0μmを超えると耐欠損性が低下するためである。平均層厚は、5.0~15.0μmがより好ましく、8.0~12.0μmがより一層好ましい。
【0019】
下部中間層:
下部中間層は、内層と上部中間層との間に設けられ、Tiの窒化物層であって、平均層厚が0.1~2.0μmであることが好ましい。Tiの窒化物層は、他の主要層に比して軟らかくヤング率が低いため、硬質被覆層の靭性を高め、耐チッピング性を向上させる。すなわち、後述するように、結合補助層であるTiの炭窒酸化物層と外層のα型酸化アルミニウム層との付着が強固となると、それらの物質の熱膨張係数等の物性差に起因して結合補助層に隣接する中間層内に大きな歪みが発生するが、その歪みをヤング率が低いTiの窒化物層によって緩和しているものと考えられる。なお、下部中間層の平均層厚が2.0μmを超えると前述した粒界の連続が損なわれるため、下部中間層の平均層厚は、0.1~2.0μmが好ましく、0.3~1.5μmがより好ましく、0.5~1.0μmがより一層好ましい。
また、下部中間層は、上部中間層と内層を強固に結合させる役割も担っている。
【0020】
上部中間層:
上部中間層は、下部中間層と結合補助層との間に設けられるTiの炭窒化物層である。Tiの炭窒化層とする理由は、後述する結合補助層がTiの炭窒化酸化物層であって酸素を有しているために外層のα型酸化アルミニウム層との化学的な親和性が高い上、Tiの炭窒化物の(422)面の傾きとα型酸化アルミニウムの(0 0 12)面の傾きを考えると結晶学的な親和性が高いためである。上部中間層の平均層厚が0.1μm未満であるとこの親和性の効果が不十分であり、一方、2.5μmを超えると前述した下部中間層による硬質被覆層の靭性向上効果が発揮されない。平均層厚は、0.3~2.0μmがより好ましく、0.5~1.5μmがより一層好ましい。
【0021】
内層と上部中間層のTiの炭窒化物の配向性指数TC(422):
前述したように、主要層のうち、ひとつの大きな柱状粒子と見なすことができる内層、下部中間層、上部中間層のうち、これらの層の主要な構成相であるTiの炭窒化物のTC(422)は3.0以上であることが好ましい。その理由は、3.0以上であれば、前述のエピタキシャル成長によって後述する外層のα型酸化アルミニウムのTC(0 0 12)が5.0以上となって、耐摩耗性が向上するためである。ここで、TC(配向性指数TC)とは、CuKαを用いた2θ/θ集中法光学系のX線回折により測定され、次に述べるハリスの式で規定されるものである。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、I(hkl)は(hkl)面の回折強度、I(hkl)は、同面のICDDファイル番号00-042-1489に記載された標準強度であり、nは反射面の総数である。反射面として考慮すべき面は、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(331)面、(420)面、(422)面および(511)面である。
【0024】
結合補助層:
結合補助層は、外層のα型酸化アルミニウム層に接する層であって、前記特許文献1および2のボンディング層に対応するものであって、その平均層厚が3~80nmのTiの炭窒酸化物層である。この層は、酸素を有しているため、外層のα型酸化アルミニウム層との付着が強固となる特性を有しており、平均層厚が3~80nmであるとき、この特性が発揮される。また、この特性の発揮の点から、平均層厚は3~50nmがより好ましく、3~30nmがより一層好ましい。
【0025】
この結合補助層は、成膜ガスの組成や反応時間を調整することによって、平均層厚が3~80nmの薄層となっており、その組織は針状組織ではない。そのため、外層のα型酸化アルミニウム層の形成時に、α型酸化アルミニウム層の結合補助層の近傍領域にボイドが発生することがなく、外層のα型酸化アルミニウム層は、結合補助層を介して、内層、下部中間層、上部中間層と強固に結合することができる。
【0026】
外層:
外層は、平均層厚が2.0~20.0μmであって、TC(0 0 12)が5.0以上であるα型酸化アルミニウム層が好ましい。平均層厚は2.0μm未満であると、薄いため長期の使用にわたって耐久性を十分に確保することができず、一方、20.0μmを超えると、α型酸化アルミニウム層の結晶粒が大きくなってしまいチッピングが発生しやすくなる。TC(0 0 12)は、5.0以上であると、高い耐摩耗性を発揮する。
【0027】
ここで、TC(0 0 12)を求めるに当たっては、ICDDファイル番号00-010-0173に記載された(104)面、(110)面、(113)面、(024)面、(116)面、(214)面、(300)面、(0 0 12)面の標準強度を使用する。
【0028】
その他の層:
本実施形態では、Tiの炭化物層、窒化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1~2.0μmの合計平均層厚を有する最内層を工具基体に隣接して内層との間に設けてもよい。この最内層を設ける場合は、被覆工具の耐久性がより一層発揮される。ここで、最内層の合計平均層厚が0.1μm未満では、最内層を設けた効果が十分に奏されず、一方、2.0μmを超えると結晶粒が粗大化しやすくなり、チッピングを発生しやすくなる。
【0029】
また、本実施形態では、Tiの窒化物層、炭化物層、炭窒化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1~4.0μmの合計平均層厚を有する最外層を外層の上部に設けてもよい。この最外層を設けると、明瞭な色彩色を呈するなどの効果によって、被覆工具がインサートの場合は切削使用後のコーナー識別(使用済み部位の識別)が容易となる。ここで、合計平均層厚が0.1μm未満であると、最外層を設けた効果が十分に発揮されず、一方、4.0μmを超えると、チッピングが発生しやすくなる。
【0030】
工具基体:
本実施形態において、工具基体は、超硬合金(WC基超硬合金:WCの他、Coを含み、さらに、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(窒化珪素、サイアロン、酸化アルミニウムなど)、または、cBN焼結体を用いることができるが、これらに限定されない。
【0031】
平均層厚の測定:
ここで、硬質被覆層を構成する各層の平均層厚は、例えば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)等を用いて、硬質被覆層を任意の位置の縦断面(工具基体の表面に垂直な面で切断したもの)の観察用の試料を作製し、その縦断面を走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)、あるいはSEMまたはTEM付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectrometry)装置を用いて複数箇所(例えば、5箇所)で観察して、平均することにより得ることができる。
【実施例
【0032】
次に、実施例について説明する。
ここでは、実施例として、工具基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、工具基体として、前記したものを用いた場合であっても同様であるし、ドリル、エンドミルに適用した場合も同様である。
【0033】
原料粉末として、いずれも1~3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TiN粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370~1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、ISO規格のCNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A~Bをそれぞれ製造した。
【0034】
次に、これら工具基体A~Bの表面に、主要層の成膜を行った。主要層のうち、内層と外層については、表2に示す成膜条件により成膜を行い、下部中間層、上部中間層および結合補助層については、表3に示す成膜条件により成膜を行うとともに、引き続いて同表に示す酸化処理を行い、表6に示す本発明被覆工具1~6を作成した。なお、実施例工具1および4以外は、表4に示す成膜条件により最内層および/または最外層(Tiの窒化物層)を成膜した。
【0035】
比較のために、これら工具基体A~Bの表面に、表2、表3または表5に示す前記特許文献1に記載された成膜条件に準じた成膜条件により、硬質被覆層を成膜し、表6に示す比較例工具1~6を作成した。この比較被覆工具は、下部中間層が存在しないか、または、本発明被覆工具の成膜条件を転用して成膜しているものの、下部中間層の平均層厚が本発明の一実施形態で規定する範囲を満足しないもの、上部中間層を有しないかその平均層厚が本発明の一実施形態に規定する範囲を満足しないもの、さらには、結合補助層の平均層厚が本発明の一実施形態で規定する範囲を満足しないものであった。また、SEM(倍率500~5000倍)による観察の結果、本発明の一実施形態の結合補助層に相当するTiCNO層がいずれも針状組織を有していた。なお、実施例と同様に、比較例工具1および4以外は、表4に示す成膜条件により最内層および/または最外層(Tiの窒化物層)を成膜した。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
続いて、前記実施例工具1~6および前記比較例工具1~6について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてクランプした状態で、ダクタイル鋳鉄、合金鋼の乾式旋盤の切削試験1および2を実施し、切削性能を評価した。切削試験は以下のとおりである。
【0043】
切削試験1
対象:実施例工具1~3および比較例工具1~3
被削材: FCD700
切削速度: 400 m/min
送り: 0.3 mm/rev
切込み: 1.5 mm
切削時間: 1パス1分
評価:切削時間1分毎に切れ刃を拡大率2倍の拡大鏡により観察し、α型酸化アルミニウム層の剥離が確認できるまでの時間を測定した。
結果を表7に示す。
【0044】
切削試験2
対象:実施例工具4~6および比較例工具4~6
被削材: SNCM439
切削速度: 200 m/min
送り: 0.55 mm/rev
切込み: 4 mm
切削時間: 2分
評価:切削時間2分後のチッピング発生状況を観察
各工具について、5コーナーを評価し、チッピングが発生したコーナー数で評価した。
結果を表8に示す。
【0045】
【表7】
【0046】
【表8】
【0047】
表7および8の結果から明らかなように、実施例工具は、刃先が大きな負担にさらされるダクタイル鋳鉄、合金鋼の刃先が大きな負担にさらされる切削加工に供しても、良好な切削性能を示すが、比較例工具は、短時間でα型酸化アルミニウム(Al)層が剥離し、あるいは、チッピングが多く発生し、短時間で寿命に至っている。
【0048】
前記開示した実施の形態はすべての点で例示にすぎず、制限的なものではない。本発明の範囲は前記した実施の形態ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
1 硬質被覆層
2 内層(Tiの炭窒化物層)
3 下部中間層(Tiの窒化物層)
4 上部中間層(Tiの炭窒化物層)
5 結合補助層(Tiの炭酸化物層)
6 外層(α型酸化アルミニウム層)
7 柱状粒子
8 工具基体
図1