(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】3次元モデル
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20240417BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20240417BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240417BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2019237154
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・刊行物名「神経内視鏡治療 スタート&スタンダード」 発行日 平成31年1月10日 発行所 株式会社メジカルビュー社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598144719
【氏名又は名称】株式会社 タナック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 博義
(72)【発明者】
【氏名】石井 雄道
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 一将
【審査官】田中 洋行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0172370(US,A1)
【文献】特開2008-132022(JP,A)
【文献】特表2014-512025(JP,A)
【文献】特開2011-085665(JP,A)
【文献】登録実用新案第3177481(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0027341(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-29/14
G09B 9/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋骨のうち骨鼻腔を含む領域の3次元モデルであって、
梨状口に対応する第1開口を有する前面パネルと、
前記第1開口から連なる前記骨鼻腔に対応し、上壁を含む筒状部材と、を備え、
前記上壁のうち少なくとも一部の領域は、膜状部材により構成されており、
前記上壁のうち前記少なくとも一部の領域には第2開口が形成されており、
前記膜状部材が前記第2開口の一部又は全部を封止するように、該膜状部材を前記上壁に固定する第1固定部材を更に備えている、
ことを特徴とする3次元モデル。
【請求項2】
前記上壁は、前頭蓋底に対応する第1領域、トルコ鞍に対応する第2領域、及び後頭蓋斜台に対応する第3領域のうち少なくとも2つの領域を含み、
前記一部の領域は、前記少なくとも2つの領域の少なくとも一部に形成されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載の3次元モデル。
【請求項3】
前記膜状部材は、少なくとも樹脂又は布を含む材料により構成されている、
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の3次元モデル。
【請求項4】
顔面のうち鼻を含む領域を模したカバーであって、少なくとも前記前面パネルを覆うカバーを更に備え、
該カバーのうち前記鼻に対応する領域には、外鼻孔を模した一対の開口が形成されている、
ことを特徴とする請求項1~
3の何れか1項に記載の3次元モデル。
【請求項5】
平面に載置可能な底部と、一方の端部が前記底部に起立した状態で固定され、且つ、他方の端部が前記前面パネル及び前記筒状部材に直接又は間接的に固定された支柱と、を含む土台を更に備え、
前記支柱の前記一方の端部と前記他方の端部との間には関節が設けられている、
ことを特徴とする請求項1~
4の何れか1項に記載の3次元モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭蓋骨のうち骨鼻腔を含む領域の3次元モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耳鼻咽喉科及び脳神経外科領域においても経鼻内視鏡手術が応用されている。経鼻内視鏡手術は、開頭手術に比べて低侵襲であることから、普及している。
【0003】
耳鼻咽喉科及び脳神経外科領域において経鼻内視鏡が適用される手術として、頭蓋底領域の脳腫瘍摘出手術がある。この手術法では、鼻孔から副鼻腔の骨削除及び硬膜の切開を行って脳内へアプローチし、腫瘍を摘出し、その後に硬膜を代替する膜状部材を周囲の硬膜と縫合することによって、硬膜を再建する。この一連の処置は、鼻腔という狭い空間のさらに深部において行うため、高度な技術が要求される。
【0004】
手術に必要な技術は、実際の患者に対して手術を行う前に習得しておくことが望ましいが、検体を用いた解剖(On the job training)の機会は僅少であり、反復的に訓練を実施することが難しい。また、人体を模したモデルなどを使用した訓練法(Off the job training)も限られているのが実情である。数少ない訓練法の一つとして、特許文献1には、人工頭部モデル及び血管モデルを備えた訓練用装置を用いる方法が開示されている。この訓練用装置は、ドリルなどで鼻内骨及び頭蓋底骨を切削する訓練、及び骨を切削した際の内頚動脈からの出血に対処する訓練を行うことが目的とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
経鼻内視鏡手術は、術後の合併症として髄液鼻漏のリスクを伴うが、これを防ぐためには硬膜の確実な再建が重要である。そのため、硬膜を代替する膜状部材を周囲の硬膜と縫合する技術(以下において硬膜の再建技術と称する)は、特に重点的に訓練する必要がある。
【0007】
しかしながら、特許文献1の訓練用装置には、硬膜に対応する部材が設けられていない。したがって、特許文献1の訓練用装置では、硬膜の再建技術の訓練を実施することができない。
【0008】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、経鼻内視鏡手術において実施される硬膜の再建技術の練習機会をユーザに提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、第1の態様に係る3次元モデルは、頭蓋骨のうち骨鼻腔を含む領域の3次元モデルであって、梨状口に対応する第1開口を有する前面パネルと、前記第1開口から連なる前記骨鼻腔に対応し、上壁を含む筒状部材と、を備え、前記上壁のうち少なくとも一部の領域は、膜状部材により構成されている。
【0010】
上記のように構成された3次元モデルを利用することによって、ユーザは、内視鏡を用いて、硬膜に見立てた膜状部材を切ったり縫合したりすることができる。したがって、第1の態様に係る3次元モデルは、経鼻内視鏡手術において実施される硬膜の再建技術の練習機会をユーザに提供することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る3次元モデルは、上述した第1の態様において、前記上壁は、前頭蓋底に対応する第1領域、トルコ鞍に対応する第2領域、及び後頭蓋斜台に対応する第3領域のうち少なくとも2つの領域を含み、前記一部の領域は、前記少なくとも2つの領域の少なくとも一部に形成されている、構成を採用している。
【0012】
上記の構成によれば、膜状部材により構成されている部分の形状を、実際の形状により近づけることができる。したがって、第2の態様に係る3次元モデルにおいて、ユーザは、硬膜の再建技術の練習を実際の手術に近い状態で実施することができる。
【0013】
本発明の第3の態様に係る3次元モデルは、上述した第1の態様又は第2の態様において、前記上壁のうち前記少なくとも一部の領域には第2開口が形成されており、前記膜状部材が前記第2開口の一部又は全部を封止するように、該膜状部材を前記上壁に固定する第1固定部材を更に備えている、構成を採用している。
【0014】
上記の構成によれば、第1固定部材を取り付けたり取り外したりすることによって、膜状部材は、着脱自在に構成されている。すなわち、第3の態様に係る3次元モデルにおいて、膜状部材は、容易に交換可能である。したがって、第3の態様に係る3次元モデルは、複数回の硬膜の再建技術の練習機会を容易にユーザに提供することができる。また、膜状部材のコストは、筒状部材及び/又は前面パネルのコストよりも安い。したがって、第2の態様に係る3次元モデルは、硬膜の再建技術の練習に要するコストを低減することができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る3次元モデルは、上述した第1の態様~第3の態様の何れかにおいて、前記膜状部材は、少なくとも樹脂又は布を含む材料により構成されている、構成を採用している。
【0016】
上記の構成によれば、膜状部材を構成する材料を適宜選択することによって、膜状部材を切ったり縫合したりする場合の挙動及び感触を、硬膜を切ったり縫合したりする場合の挙動及び感触に近づけることができる。したがって、第4の態様に係る3次元モデルは、硬膜の再建技術の練習機会におけるリアリティーを高くすることができる。
【0017】
本発明の第5の態様に係る3次元モデルは、上述した第1の態様~第4の態様の何れかにおいて、前記前面パネル及び筒状部材を主要部として、頭蓋骨のうち前記主要部以外の領域を構成する枠部と、前記主要部を前記枠部に対して着脱自在に固定する第2固定部材と、を更に備えている、構成を採用している。
【0018】
上記の構成によれば、一体成型された3次元モデルと比較して、膜状部材に容易にアクセスすることができる。したがって、第5の態様に係る3次元モデルは、メンテナンス性を向上させることができる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る3次元モデルは、上述した第1の態様~第5の態様の何れかにおいて、顔面のうち鼻を含む領域を模したカバーであって、少なくとも前記前面パネルを覆うカバーを更に備え、該カバーのうち前記鼻に対応する領域には、外鼻孔を模した一対の開口が形成されている、構成を採用している。
【0020】
上記の構成によれば、外見を顔面に似せることができるので、硬膜の再建技術の練習においてユーザが感じ得る違和感を減らすことができる。また、内視鏡の可動域が実際の状態に近くなるので、硬膜の再建技術の練習機会におけるリアリティーをより高くすることができる。
【0021】
本発明の第6の態様に係る3次元モデルは、上述した第1の態様~第6の態様の何れかにおいて、平面に載置可能な底部と、一方の端部が前記底部に起立した状態で固定され、且つ、他方の端部が前記前面パネル及び前記筒状部材に直接又は間接的に固定された支柱と、を含む土台を更に備え、前記支柱の前記一方の端部と前記他方の端部との間には関節が設けられている、構成を採用している。
【0022】
上記の構成によれば、少なくとも前面パネル及び筒状部材の向きを調整することができる。したがって、第7の態様に係る3次元モデルを用いることによって、ユーザは、硬膜の再建技術の練習を実際の手術により近い状態で実施することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一態様によれば、経鼻内視鏡手術において実施される硬膜の再建技術の練習機会をユーザに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る、3次元モデルにおける主要部、枠部及び第2固定部材を斜め前方から見た場合の分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る、3次元モデルにおける主要部を斜め後方から見た場合の分解斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る、3次元モデルにおける主要部及び枠部にカバーをかけた場合の斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る、土台に固定された3次元モデルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る3次元モデル1について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、3次元モデル1における、主要部10、枠部20及び固定用部材30を斜め前方から見た場合の分解斜視図である。
図2は、本発明の実施形態に係る、3次元モデル1における主要部10を斜め後方から見た場合の分解斜視図である。本実施形態に係る3次元モデル1は、霊長類の頭蓋骨、より具体的には、ヒトの頭蓋骨のうち骨鼻孔を含む領域を模した3次元モデルである。
【0026】
以下においては、頭蓋骨における顔面が向く方向を前方、その逆側の方向を後方とそれぞれ定める。また、頭蓋骨における右耳に対応する側を右側、その逆側を左側とそれぞれ定める。頭蓋骨における顔面側に対応する面を正面、後頭部側に対応する面を背面とそれぞれ定める。なお、明細書中において「XXに対応する」とは、人体におけるXXの部位の少なくとも一部の領域を模していること、あるいは該領域を簡略化して模していることを指す。
【0027】
<3次元モデルの構造>
本実施形態に係る3次元モデル1は、頭蓋骨のうち骨鼻腔を含む領域に対応する主要部10と、頭蓋骨のうち主要部10以外の領域に対応する枠部20と、主要部10を枠部20に着脱自在に固定する固定用部材30(特許請求の範囲における「第2固定部材」に対応)とを備える。また、3次元モデル1は、さらに、顔面のうち鼻を含む領域を模したカバー40と、土台50とを備えている。以下、それぞれについて説明する。
【0028】
1.主要部
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る3次元モデル1は、主要部10として、前面パネル11と、第1開口115から連なる骨鼻腔に対応した筒状部材12とを備える。
【0029】
〔前面パネル〕
前面パネル11は、顔面骨の正中部に対応する構造を有しており、梨状口に対応する第1開口115を有している。すなわち、前面パネル11は梨状口を囲む部分によって構成されており、上顎骨の正面部分及び鼻骨に対応する部分を含む。本実施形態における前面パネル11は、前頭骨の正面において梨状口を正中で左右に仕切る鼻中隔(篩骨垂直板、及び鋤骨)、及び頬骨にそれぞれ対応する部分をさらに有している。前面パネル11がこれらの部分を有していることは、手術の練習機会におけるリアリティーを高くする観点から好ましい。ただし、初歩的な練習を行う際には、鼻中隔に対応する部分は備えていなくてもよい。
【0030】
詳しくは後述するが、前面パネル11は、押さえ127を筒状部材12に固定するための溝として、凹部116を有している。また、前面パネル11は、固定用部材30を介して主要部10と枠部20とを接続して固定するための構造を有している。本実施形態において、固定用部材30はネジであり、該固定をするための筒状部材12の構造は、ネジ山である。
【0031】
〔筒状部材〕
筒状部材12は、前面パネル11の第1開口115から後方に続く、筒状の部材である。筒状部材12は、梨状口に対応する第1開口115から連なる骨鼻腔に対応する。本実施形態における筒状部材12は、上壁121、下壁122、内側壁123、一対の外側壁124、膜状部材126、押さえ127、及びねじ128を含む。上壁121、下壁122、内側壁123、及び一対の外側壁124は、それぞれ鼻腔における上壁、下壁、内側壁、及び一対の外側壁に対応する。本実施形態において、筒状部材12の横断面の形状は、略長方形である。ただし、筒状部材12の横断面の形状は、これに限定されるものではなく、適宜定めることができる。
【0032】
(上壁)
上壁121は、骨鼻腔の上壁を含み得る前頭蓋底、トルコ鞍、及び後頭蓋斜台に対応する。すなわち、上壁121は、前頭蓋底に対応する第1領域R1、トルコ鞍に対応する第2領域R2、及び後頭蓋斜台に対応する第3領域R3により構成されている。
図2においては、第1領域R1、第2領域R2、及び第3領域R3の各々を2点鎖線で示している。ただし、本発明の一態様において、上壁121は、第1領域R1、第2領域R2、及び第3領域R3のうち少なくとも2つの領域を含むように構成されていてもよい。例えば、上壁121は、第1領域R1及び第3領域R3により構成されていてもよい。本実施形態において、第1領域R1、第2領域R2、及び第3領域R3の各々は、それぞれ、平面により構成されている。ただし、第1領域R1、第2領域R2、及び第3領域R3の各々は、曲面により構成されていてもよい。
【0033】
第1領域R1は、筒状部材12の上壁121うち、最も前面パネル11に近い側(前方)に位置し、第3領域R3は、最も前面パネル11から遠い側(後方)に位置する。第2領域R2は、第1領域R1と第2領域R2との間に位置する。上壁121は、前頭蓋底から後頭蓋斜台にかけての領域の形状を模している。そのため、第1領域R1を構成する平面と第2領域R2を構成する平面とのなす角、及び、第2領域R2を構成する平面と第3領域R3を構成する平面とのなす角は、鈍角になるように構成されている。
【0034】
上壁121の少なくとも一部の領域には、第2開口125が形成されている。上壁121の上面には、第2開口125を塞ぐように膜状部材126が配置されている。本実施形態においては、上壁121の上面と押さえ127とで膜状部材126を挟み込むことによって、膜状部材126を固定している。したがって、上壁121の少なくとも一部は、膜状部材126により構成されている。また、上壁121のうち膜状部材126により構成されている領域には、第2開口125が形成されている。以下、膜状部材126及び第2開口125について詳しく説明する。
【0035】
<膜状部材>
本実施形態において、膜状部材126は、上壁121の上面上に配置されている。上壁121のうちの膜状部材126により構成されている少なくとも一部の領域は、上壁121における第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3のうちの少なくとも2つの領域のうちの少なくとも一部に形成されている。
【0036】
すなわち、第1領域R1に形成される膜状部材126は、前頭蓋底部の領域に存在する硬膜を模したものである。同様に、第2領域R2に形成される膜状部材126は、トルコ鞍の領域に存在する硬膜に対応し、第3領域R3に形成される膜状部材126は、後頭蓋斜台の領域に存在する硬膜に対応する。
【0037】
膜状部材126が上述の領域に形成されていることで、膜状部材126により構成されている部分の形状を、実際の形状により近づけることができる。したがって、本実施形態に係る3次元モデル1において、ユーザは、硬膜の再建技術の練習を実際の手術に近い状態で実施することができる。
【0038】
膜状部材126により構成されている一部の領域は、(1)上壁121のうちのトルコ鞍に対応する第2領域R2であってもよいし、(2)前頭蓋底に対応する第1領域R1と、後頭蓋斜台に対応する第3領域R3との境界近傍であってもよいし、(3)前頭蓋底に対応する第1領域R1でもよいし、(4)後頭蓋斜台に対応する第3領域R3でもよいし、(1)~(4)のうち少なくとも2つを組み合わせたものでもよい。すなわち、膜状部材126により構成される領域は、ユーザが縫合を練習する部位の硬膜に対応するよう設けることができる。例えば、膜状部材126により構成さる領域を、第1領域R1のみとし、前頭蓋底における硬膜の縫合に特化したモデルとすることができる。
【0039】
膜状部材126は、硬膜に対応する膜状の部材である。膜状部材126は、少なくとも樹脂又は布を含む材料により構成されている。膜状部材126は、硬膜を模しているので、実際の硬膜に近い強度及び弾性を有していることが好ましい。
【0040】
膜状部材126に適した樹脂としては、例えば、シリコン樹脂(シリコーン)が挙げられる。布としては、例えば、不織布が挙げられる。本実施形態において、膜状部材126は、シリコン樹脂を不織布で裏打ちした膜である。この構成によれば、膜状部材126を切ったり縫合したりする場合の挙動及び感触を、硬膜を切ったり縫合したりする場合の挙動及び感触により近づけることができる。膜状部材126の厚さは、上記挙動及び感触が硬膜のものに近づくように適宜調整することができる。
【0041】
膜状部材126を構成する材料を適宜選択することによって、膜状部材126を切ったり縫合したりする場合の挙動及び感触を、硬膜を切ったり縫合したりする場合の挙動及び感触に近づけることができる。したがって、このような3次元モデル1は、硬膜の再建技術の練習機会におけるリアリティーを高くすることができる。また、膜状部材126は、後述の通り上壁121に対して着脱自在であり、ユーザは練習の度に膜状部材126を新しいものに交換する。そのため、膜状部材126は、使い捨てが可能なように、低コストで作製できることが好ましい。上述したように、不織布で裏打ちしたシリコン樹脂を用いて膜状部材126を作製することによって、膜状部材126のコストを抑制することができる。
【0042】
<第2開口>
膜状部材126によって構成されている領域のうち、第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3には、第2開口125として、開口R1’、開口R2’及び開口R3’がそれぞれ形成されている。第2開口125は、(1)複数の領域にかけて繋がって形成される1つの開口であってもよいし、(2)1つの領域のみに形成されている1つあるいは2つ以上の開口であってもよいし、(3)複数の領域に独立して複数形成されている開口であってもよい。
【0043】
第2開口125は、膜状部材126が後述の押さえ127及びねじ128によって上壁121に固定されることで、一部又全部が封止される。本実施形態において、膜状部材126は、上壁121の外側から第2開口125を覆っている。このため、開口R1’は、経鼻内視鏡手術の過程で生じる、鼻腔上壁を構成する篩板及びその後方の前頭蓋底部の骨の一部が削られて硬膜がむき出しになった状態における、骨の開口に対応する。開口R2’は、同手術の過程で生じる、蝶形骨洞及びトルコ鞍部の骨の一部が削られて硬膜がむき出しになった状態における、骨の開口に対応する。開口R3’は、同手術の過程で生じる、後頭蓋斜台の骨の一部が削られて硬膜がむき出しになった状態における、骨の開口に対応する。
【0044】
膜状部材126により構成されている領域に第2開口125が形成されていることで、3次元モデル1を使用するユーザは、硬膜の再建技術の練習を、副鼻腔の骨を削除した後の状態から行うことができる。したがって、ユーザは硬膜縫合の練習を効率よく行うことができる。
【0045】
<第1固定部材>
本実施形態に係る3次元モデル1は、膜状部材126が第2開口125の一部又は全部を封止するように、膜状部材126を上壁121に固定するための押さえ127及びねじ128(特許請求の範囲における「第1固定部材」に対応)を備えている。
【0046】
押さえ127は、上壁121の上面の形状に沿った形状に成型された板状部材である。すなわち、押さえ127は、上壁121の第1領域R1、第2領域R2、及び第3領域R3の各々に対応するように折り曲げられている。押さえ127には、上壁121の上面に固定した場合に、第2開口125を包含する開口が形成されている。このように構成された押さえ127は、第2開口125の何れの部分にも重ならないので、硬膜の再建技術の練習を妨げることがない。
【0047】
膜状部材126は、筒状部材12の上壁121の上面と押さえ127とにより挟持されることによって、上壁121の上面に固定される。より詳しくは、以下の通りである。すなわち、前面パネル11の内面(筒状部材12が形成されている側の面)のうち、上壁121の第1領域R1を構成する平面の上側には、該平面と略平行に板状部材が配置されている。この第1領域R1を構成する平面と、この板状部材の下面との間隔は、膜状部材126の厚さと、押さえ127の先端部(前面パネル11に近接する側の端部)の厚さとの和と略等しくなるように構成されている。その結果、第1領域R1の近傍には、押さえ127の先端部を差し込むことができる凹部116が形成されている。膜状部材126を上壁121の上面上に配置した状態で、押さえ127の先端部を凹部116に差し込み、
図2に示すようにねじ128を用いて上壁121と押さえ127とを固定することによって、膜状部材126は、上壁121の上面と押さえ127とにより挟持される。このように、膜状部材126の固定は、ねじ128によってなされているので、ねじを緩めたり締めたりすることで膜状部材126を容易に着脱することができる。すなわち、使用済みの膜状部材126を未使用の膜状部材126に容易に交換することができる。本実施形態においては、ねじ128として化粧ねじを採用している。この構成によれば、ねじの頭部が大きいのでドライバーなどの工具を用いることなくねじ128を締めたり緩めたりすることができる。したがって、膜状部材126をより容易に着脱することができる。なお、第1固定部材は、膜状部材126を上壁121に着脱自在に固定することができればその固定形態は限られず、例えば、クリップ、面テープ、磁石などを用いた形態であってもよい。
【0048】
このように、本実施形態に係る3次元モデル1は、第1固定部材を取り付けたり取り外したりすることによって、膜状部材126は、上壁121に対して着脱自在に構成されている。すなわち、3次元モデル1において、膜状部材126は、容易に交換可能である。したがって、3次元モデル1は、複数回の硬膜の再建技術の練習機会を容易にユーザに提供することができる。また、膜状部材126のコストは、筒状部材12及び/又は前面パネル11のコストよりも安い。したがって、本実施形態に係る3次元モデル1は、硬膜の再建技術の練習に要するコストを低減することができる。
【0049】
(下壁及び側壁)
本実施形態において、下壁122は、鼻腔における上顎骨における硬口蓋の上面、及び口蓋骨水平板に対応する部分を含む。また、内側壁123は、鼻中隔(篩骨垂直板、及び鋤骨)の下端部に対応する部分である。本実施形態において、鼻中隔の主要部は、省略されている。ただし、本発明の一態様においては、筒状部材の内部に、鼻中隔の主要部に対応する内側壁123が形成されていてもよい。
【0050】
一対の外側壁124は、鼻腔における外側壁に対応する部分のうちの上顎骨及び口蓋骨垂直板に対応する部分を含む。ただし、本実施形態において、一対の外側壁124には、上鼻甲介、中鼻甲介及び下鼻甲介に対応する部分は含まれない。これにより、ユーザは、硬膜の再建技術の練習を、副鼻腔の骨を削除した後の状態から行うことができる。よって、ユーザは、硬膜縫合の練習を効率よく行うことができる。
【0051】
本実施形態において、下壁122、内側壁123及び一対の外側壁124は、行う練習の難易度などに応じて、一部、例えば筒状部材12の後方側が削除されていてもよい。
【0052】
〔素材及び作製方法〕
主要部10、枠部20、及びカバー40は、以下のようにして作製することができる。まず、人体の画像データを基に、頭蓋骨及び顔面の3次元データを作成する。作成した頭蓋骨の3次元データを編集し、(1)鼻腔に対応する部分が硬膜の縫合練習を行うために最適な広さとなり、かつ(2)骨削除の削除をすることなく縫合練習を集中的に行うことができるよう、鼻腔に対応する筒状部材12の上壁121の一部を削除する。この頭蓋骨の3次元データから、3Dプリンタを用いて主要部10及び枠部20を作製することができる。また、上述した顔面の3次元データから、3Dプリンタを用いてカバー40を作製することができる。
【0053】
主要部10及び枠部20の素材としては、特に限られない。ただし、3Dプリンタを用いて成型しやすい素材であることが好ましい。なお、カバー40の素材については、後述する。
【0054】
2.枠部及び第2固定部材
3次元モデル1が備える枠部20及び固定用部材30(特許請求の範囲における「第2固定部材」に対応)について、
図1を用いて以下に説明する。
【0055】
枠部20は、頭蓋骨に対応する領域のうちの主要部10以外の領域を構成している。具体的には、前頭骨、頭頂骨、後頭骨、下顎骨、頬骨、及び側頭骨などを含み得る。
図2に示す通り、枠部20は、頭蓋骨に対応する領域のうちの主要部10以外の領域の全てを必ずしも含んでいなくてよい。例えば、頭頂部の一部を省略することによって、3次元モデル1をコンパクト化できるとともに、コストを削減することができる。
【0056】
枠部20の作製方法及び素材は、上述の通りである。枠部20は、手術の練習時に頭蓋骨に対応する部分が安定するように固定させるため、後頭骨の大後頭孔に対応する領域に接続部材55を備えている。頭蓋骨に対応する部分の固定については「4.土台」の項目で述べる。
【0057】
固定用部材30は、主要部10を枠部20に対して着脱自在に固定する部材である。
図1に示す通り、本実施形態における固定用部材30は、主要部10の上顎骨に対応する部分と枠部20の下顎骨に対応する部分とを固定するためのネジである。主要部10の上顎骨に対応する部分の所定の位置には、固定用部材30に対応するねじ山が切られている。また、枠部20の下顎骨に対応する部分の上記ねじ山に対応する位置には、固定用部材30に対応する貫通孔が形成されている。主要部10を枠部20にセットした状態で固定用部材30であるねじを締めることによって、主要部10を枠部20に固定することができる。本実施形態において、固定用部材30として、ねじ128と同様に化粧ねじを採用している。
【0058】
このように構成された3次元モデル1において、主要部10は、枠部20から容易に取り外すことができる。そのため、主要部及び枠部が一体成型された3次元モデルと比較して、膜状部材126に容易にアクセスし、膜状部材126を設置及び交換することができる。したがって、本実施形態における3次元モデル1は、メンテナンス性の面で優れている。
【0059】
3.カバー
本実施形態におけるカバー40について、
図3を用いて説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る、3次元モデル1における主要部10及び枠部20にカバー40をかけた場合の斜視図である。
【0060】
カバー40は、顔面のうち鼻を含む領域に対応する部分の皮膚を模していて、少なくとも前面パネル11を覆うためのカバーである。
図3では、カバー40は、前面パネル11だけでなく、枠部20をも覆っている。また、カバー40の鼻に対応する領域には、外鼻孔を模した一対の開口45が形成されている。開口45の大きさなどは、適宜設定すればよいが、実物に準じたサイズにすることが好ましい。上記の構成によれば、外見を顔面に似せることができるので、硬膜の再建技術の練習においてユーザが感じ得る違和感を減らすことができる。
【0061】
カバー40は、皮膚を模した伸縮性のある樹脂材料により構成されている。また、カバー40は、材質を皮膚により近づける観点から、弾性を有していることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、シリコン樹脂が挙げられる。
【0062】
開口45を実物に準じたサイズにした場合には、梨状口を模した第1開口115よりも開口45の孔径は小さくなる。この場合、カバー40は皮膚を模していて伸縮性を有しているため、ユーザは、外鼻孔を広げることによって内視鏡を鼻腔内に挿入することができる。また、鼻腔へ挿入する内視鏡の可動域が実際の状態に近くなる。よって、硬膜の再建技術の練習機会におけるリアリティーをより高くすることができる。
【0063】
4.土台
本実施形態に係る3次元モデル1は、頭蓋骨に対応する部分を固定するための土台50を備えている。土台50について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る、土台に固定された3次元モデルの断面図である。
【0064】
土台50は、平面に載置可能な底部51と支柱52とを含む。支柱52は、一方の端部が底部51に起立した状態で固定され、且つ、他方の端部が前面パネル11及び筒状部材12に直接又は間接的に固定されている。
図4では、支柱52は、枠部20に備えられた接続部材55、及び枠部20と主要部10とを固定する固定用部材30を介して、前面パネル11及び筒状部材12に間接的に固定されている。また、支柱52の一方の端部と他方の端部との間には関節53が設けられている。
【0065】
そのため、ユーザは、少なくとも前面パネル及び筒状部材の向きを調整することができる。
図4では、土台50に固定した、カバー40を被せた頭蓋骨に対応する部分を、任意の角度で固定することができる。
【0066】
土台50は、関節53を動かすためのレバー54をさらに備えている。これにより、ユーザは、頭蓋骨に対応する部分の角度を容易に調整することができる。
【0067】
以上の通り、本実施形態に係る3次元モデル1を用いれば、ユーザは、硬膜の再建技術の練習を実際の手術により近い状態で実施することができる。
【0068】
<3次元モデルの使用>
本実施形態に係る3次元モデル1を、硬膜の縫合の練習に用いるために組み立てる手順を説明する。なお、以下の(1)と(2)とは、逆の順序であってもよい。
(1)枠部20を、接続部材55を介して土台50に接続する。レバー54を操作して、枠部20を任意の角度で固定する。
(2)膜状部材126で主要部10の上壁121の第2開口125を覆う。膜状部材126の上から押さえ127を被せ、押さえ127の先端を前面パネル11の凹部116に差し込んで、ねじ128を締めることによって、膜状部材126を主要部10にセッティングする。
(3)枠部20に主要部10を嵌め、固定用部材30を用いて主要部10と枠部20とを固定する。
(4)主要部10と枠部20とにカバー40を被せる。
(5)必要に応じて、レバー54を再度操作して、角度を調整する。
【0069】
上記のように構成された3次元モデル1を利用することによって、ユーザは、内視鏡を用いて、硬膜に見立てた膜状部材126を切ったり縫合したりすることができる。したがって、本実施形態に係る3次元モデル1は、経鼻内視鏡手術において実施される硬膜の再建技手術の練習機会をユーザに提供することができる。また、3次元モデル1は、効率がよく、且つ、ユーザがリスクを伴うこともない硬膜の再建技手術の練習機会をユーザに提供することができる。また、本実施形態に係る3次元モデル1によれば、ユーザに、リアリティーの高い硬膜の再建技術の練習機会を提供することができる。
【0070】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1 3次元モデル
10 主要部
11 前面パネル
115 第1開口
116 凹部
12 筒状部材
121 上壁
122 下壁
123 内側壁
124 一対の外側壁
125 第2開口
126 膜状部材
127 押さえ(第1固定部材)
128 ねじ(第1固定部材)
20 枠部
30 固定用部材(第2固定部材)
40 カバー
45 開口
50 土台
51 底部
52 支柱
53 関節
54 レバー
55 接続部材