(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】圧力容器の製造方法、熱可塑性樹脂組成物およびプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240417BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240417BHJP
B29C 70/32 20060101ALI20240417BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240417BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240417BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20240417BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
B29C70/16
B29C70/32
F16J12/00 A
B29K105:08
B29L22:00
(21)【出願番号】P 2020153069
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 潔
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕文
(72)【発明者】
【氏名】金▲崎▼ 真人
(72)【発明者】
【氏名】紙田 徹
(72)【発明者】
【氏名】長福 紳太郎
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-053562(JP,A)
【文献】特表2017-536262(JP,A)
【文献】特開2011-225880(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 70/00-70/88
B29C 63/00-63/48
B29C 65/00-65/82
F16J 12/00-13/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレートからなる群より選択される熱可塑性樹脂と、
(B)電子線照射により重合し得る官能基を少なくとも1個有するモノマー、または
(B’)電子線照射によりラジカルを発生する化合物と、ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物との混合物と、
を含み、
成分(A)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)からの成分(B)のHSPの距離が6.5以下であり、成分(A):成分(B)または(B’)の質量比が90:10~50:50である熱可塑性樹脂組成物を用いる圧力容器の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂組成物を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂組成物を強化繊維に含浸させてプリプレグを得る工程と、
前記熱可塑性樹脂組成物が溶融した状態で前記プリプレグをライナーの外周に巻回して積層する工程と、
積層したプリプレグに電子線を照射する工程と、
を有することを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項2】
成分(B)の官能基がメタクリル基であることを特徴とする請求項1に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項3】
前記電子線照射によりラジカルを発生する化合物がポリアミド6であり、前記ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物がトリアリルイソシアヌレート(TAIC)であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項4】
電子線の照射において、電子線の照射量が10kGy~500kGyであり、加速電圧が50Kev~500Kevであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項5】
前記プリプレグの積層を150~200℃の温度で加熱しながら行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項7】
(A)ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレートからなる群より選択される熱可塑性樹脂と、
(B)電子線照射により重合し得る官能基を少なくとも1個有するモノマー、または
(B’)電子線照射によりラジカルを発生する化合物と、ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物との混合物と、を含み、
成分(A)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)からの成分(B)のHSPの距離が6.5以下であり、成分(A):成分(B)または(B’)の質量比が90:10~50:50であ
り、
前記電子線照射によりラジカルを発生する化合物がポリアミド6またはポリアミド66であり、前記ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物がトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)またはジアリルフタレート(DAP)であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
成分(B)の官能基がメタクリル基であることを特徴とする請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記電子線照射によりラジカルを発生する化合物がポリアミド6であり、前記ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物がトリアリルイソシアヌレート(TAIC)であることを特徴とする請求項7または8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器の製造方法、熱可塑性樹脂組成物およびプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙分野において、地球環境への影響を少なくするという観点から、ロケット等の燃料タンクとして用いられる圧力容器の軽量化が要望されている。例えば、プラスチック製の容器本体(ライナー)に、樹脂を炭素繊維等の強化繊維に含浸させてなる繊維強化樹脂材料(プリプレグ)を外殻として巻き付けた圧力容器の製造が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強化繊維に含浸させる樹脂として、耐熱性、耐薬品性、耐久性に優れていることから、スーパーエンジニアリングプラスチックと称されている高性能熱可塑性樹脂を採用するのが望ましいとされている。しかしながら、この熱可塑性樹脂は溶融温度が高く、溶融粘度が高いので、例えば自動繊維積層(Automated Fiber Placement:AFP)によってプリプレグを積層する場合には、完璧な含浸や層間接着が困難であった。そのため、高性能熱可塑性樹脂が強化繊維中に良好に含浸し、かつ層間での接着性が良好である圧力容器を高い生産性で製造できる技術が望まれている。
【0005】
したがって、本発明の目的は、高性能熱可塑性樹脂が強化繊維中に良好に含浸し、かつ層間での接着性が良好である圧力容器を高い生産性で製造できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、圧力容器の製造方法である。該方法は、(A)ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレートからなる群より選択される熱可塑性樹脂と、
(B)電子線照射により重合し得る官能基を少なくとも1個有するモノマー、または
(B’)電子線照射によりラジカルを発生する化合物と、ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物との混合物と、
を含み、
成分(A)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)からの成分(B)のHSPの距離が6.5以下であり、成分(A):成分(B)または(B’)の質量比が90:10~50:50である熱可塑性樹脂組成物を用いる圧力容器の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂組成物を強化繊維に含浸させてプリプレグを得る工程と、
前記熱可塑性樹脂組成物が溶融した状態で前記プリプレグをライナーの外周に巻回して積層する工程と、
積層したプリプレグに電子線を照射する工程と、
を含む。
【0007】
本発明の他の態様は、熱可塑性樹脂組成物である。該熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレートからなる群より選択される熱可塑性樹脂と、
(B)電子線照射により重合し得る官能基を少なくとも1個有するモノマー、または
(B’)電子線照射によりラジカルを発生する化合物と、ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物との混合物と、を含み、
成分(A)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)からの成分(B)のHSPの距離が6.5以下であり、成分(A):成分(B)または(B’)の質量比が90:10~50:50である。
【0008】
本発明のさらに他の態様は、プリプレグである。該プリプレグは、上記熱可塑性樹脂組成物を強化繊維に含浸させてなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高性能熱可塑性樹脂が強化繊維中に良好に含浸し、かつ層間での接着性が良好である圧力容器を高い生産性で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】圧力容器のライナーへのプリプレグの積層工程および電子線照射によるプリプレグのモノマー成分の重合工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(熱可塑性樹脂組成物)
以下、圧力容器の製造に好適に用いられる本発明の熱可塑性樹脂組成物について説明する。熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレートからなる群より選択される熱可塑性樹脂と、(B)電子線照射により重合し得る官能基を少なくとも1個有するモノマー、または(B’)電子線照射によりラジカルを発生する化合物と、ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物との混合物と、
を含み、
成分(A)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)からの成分(B)のHSPの距離が6.5以下であり、成分(A):成分(B)または(B’)の質量比が90:10~50:50である。成分(A)の熱可塑性樹脂に、それとHSP値が近いモノマー(B)または混合物(B’)を混合することによって、得られた熱可塑性樹脂組成物の溶融温度が熱可塑性樹脂(A)のものより低くなり、溶融粘度も低くなる。このことから、熱可塑性樹脂組成物を強化繊維中に良好に含浸させることができる。ここで、熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)よりも強度が劣化しているが、熱可塑性樹脂組成物に電子線を照射して、モノマー(B)または混合物(B’)を重合させることによって、強度を回復させることができる。
【0012】
成分(A)のハンセン溶解度パラメータ(HSP)からの成分(B)のHSPの距離が6.5以下である。成分(A)と成分(B)の相溶性を高めるという観点から、このHSPの距離が5.5以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましい。
【0013】
本実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物において、成分(A):成分(B)または(B’)の質量比が90:10~50:50である。熱可塑性樹脂組成物の低粘度化効果と電子線照射後の物性回復効果の両立の観点から、この質量比が85:15~60:40であることが好ましく、80:20~70:30であることがより好ましい。
【0014】
モノマー(B)の官能基としては、例えば、メタクリル基、アクリル基が挙げられる。成分(A)との溶融混錬プロセスにおける熱的安定性の観点から、成分(B)の官能基はメタクリル基であることが好ましい。
【0015】
混合物(B’)において、電子線照射によりラジカルを発生する化合物としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリプロピレン、ポリエチレン等の飽和炭化水素連鎖を有する化合物が挙げられる。成分(A)との相溶性と経済性の両立の観点から、該化合物はポリアミド6であることが好ましい。
【0016】
混合物(B’)において、ラジカルと付加反応することができる官能基を分子中に少なくとも1個以上有する化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、ジアリルフタレート(DAP)が挙げられる。耐熱性と経済性の両立の観点から、該化合物はトリアリルイソシアヌレート(TAIC)であることが好ましい。
【0017】
(圧力容器の製造方法)
本実施の形態にかかる圧力容器の製造方法は、上記の実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物を用いる。該方法は、熱可塑性樹脂組成物を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂組成物を強化繊維に含浸させてプリプレグを得る工程と、熱可塑性樹脂組成物が溶融した状態でプリプレグをライナーの外周に巻回して積層する工程と、積層したプリプレグに電子線を照射する工程と、を含む。
【0018】
プリプレグを得る工程において、上記の熱可塑性樹脂組成物を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂組成物を強化繊維に含浸させる。上記の熱可塑性樹脂組成物は、比較的溶融温度が低く、溶融粘度も低いことから、強化繊維に良好に含浸することができる。
【0019】
プリプレグを構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維等が挙げられる。これらの強化繊維は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。軽量かつ高強度であることから、強化繊維は炭素繊維であることが好ましい。
【0020】
プリプレグは、ライナー外周に巻回することから、好ましくはテープ状もしくはシート状に成形される。テープ状のプリプレグの厚みは、例えば200μm以下であり、好ましくは150~30μmであり、より好ましくは100~30μmである。
【0021】
次に、プリプレグを、例えばフィラメントワインディングによって、ライナー外周に巻回する。
図1は、圧力容器のライナーへのプリプレグの積層工程および電子線照射によるプリプレグのモノマー成分の重合工程を説明するための模式図である。
図1に示すように、固定軸10には、ライナー(図示せず)が固定されており、固定軸10を矢印Aの方向に回転させることによって、ライナーの外周にプリプレグ12を巻回している。プリプレグ12を巻回する際には、加熱ロール14によって、プリプレグ12を加熱しながら矢印Bで示すようにプレスしている。この加熱によって、プリプレグ12に含浸されている熱可塑性樹脂組成物は溶融した状態となり、積層したプリプレグ12の層同士が接着できるようになる。したがって、積層時のプリプレグ12の加熱温度は、熱可塑性樹脂組成物の溶融温度以上であることが望ましい。具体的には、加熱温度は、130~200℃であることが好ましく、150~180℃であることがより好ましい。
【0022】
ライナーの材料としては、圧力容器に充填される燃料を漏洩させない材料が用いられ、圧力容器のライナー材料として公知のものを用いることができる。ライナー材料の具体例としては、例えば、アルミニウム、ポリアミド6等が挙げられる。ライナー材料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
次に、電子線照射装置16によって、ライナーに巻かれたプリプレグ12へ順次電子線Cを照射する。これによって、プリプレグの熱可塑性樹脂組成物に成分(B)のモノマーまたは成分(B’)の混合物を重合させる。成分(B)のモノマーおよび成分(B’)の混合物は、空気中ではその重合が酸素阻害を受けるため、巻かれたプリプレグ12の最上面では、電子線が照射されても直ちに熱可塑性樹脂組成物の重合は起こらない。最上面より下の層では、酸素阻害を受けず、最上面から透過した電子線によって、重合が起きる。これによって、プリプレグの層間の接着をより強固にすることができる。また、プリプレグの熱可塑性樹脂組成物は、成分(B)のモノマーまたは成分(B’)の混合物が成分(A)の樹脂と共存しているため、成分(A)の樹脂の性能(強度)と比較して、熱可塑性樹脂組成物自体の性能が低下しているが、成分(B)のモノマーまたは成分(B’)の混合物を電子線によって重合させることによって、熱可塑性樹脂組成物の性能を回復させることができる。
【0024】
電子線の照射量は、プリプレグの厚みや熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分の種類に応じて適宜調整できる。実現可能性という観点から、電子線の照射量が10kGy~500kGyであり、加速電圧が50Kev~500Kevであることが好ましい。
【0025】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0026】
(材料)
実施例および比較例で使用した材料の詳細は下記の通りである。
PES5003P(標準グレード):ポリエーテルスルホン,住友化学社製「スミカエクセルPES5003P」
PES3500P(低分子量グレード):ポリエーテルスルホン,住友化学社製「スミカエクセルPES3500P」
TAIC:トリアリルイソシアヌレート,三菱ケミカル社製「TAIC」
BPE-80N:2,2-ビス(4-(メタクリロキシ-エトキシ)フェニル)プロパン(エチレンオキシド2.3モル),新中村化学社製「NKエステルBPE-80N」
3000MK:ビスフェノールAジグリシジルエーテルメタクリル酸付加物,共栄社化学社製「エポキシエステル3000MK」
ポリアミド6 CM1001:東レ社製「アミランCM1001」
【0027】
[合成例1:メタクリロイルオキシエチル-p-トルエンスルホネート(HEMA-Ts)の合成]
13.0gの2-ヒドロキシエチルメタクリレート、20.2gのトリエチルアミンおよび0.9gのトリメチルアミン塩酸塩を50mLのトルエンに溶解させ、1Lのセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ内を窒素置換した後0℃まで冷却し、フラスコに取り付けた滴下ロートから、28.6gの塩化p-トルエンスルホニルを50mLのトルエンに溶解させた溶液を滴下した。0℃で1時間撹拌して反応させた後、8.8gのN,N-ジメチルエチレンジアミンを加えて15分撹拌した。トルエンを留去した後、酢酸エチルおよび純水を加えて、溶媒抽出を行ない、有機相を飽和食塩水で数回洗浄した。有機相の溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(移動相は酢酸エチル)にて精製し、目的物を得た。
【0028】
[合成例2:ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン・モノメタクリレート(BHEPS-mMA)の合成]
33.8gのビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンおよび45.5gのトリエチルアミンを100mLの脱水ジメチルホルムアミドに溶解させ、1Lのセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ内を窒素置換した後0℃まで冷却し、フラスコに取り付けた滴下ロートから、41.8gの塩化メタクリロイルを50mLの脱水ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液を滴下した。0℃で一晩撹拌して反応させた後、クロロホルムで希釈し、純水を加えて反応をクエンチするとともに飽和食塩水で数回洗浄した。有機相の溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(移動相はクロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、メタノールからの再結晶により目的物を得た。
【0029】
[合成例3:ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン・ジメタクリレート(BHEPS-dMA)の合成]
33.8gのビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンおよび10.1gのトリエチルアミンを100mLの脱水ジメチルホルムアミドに溶解させ、1Lのセパラブルフラスコに仕込んだ。フラスコ内を窒素置換した後0℃まで冷却し、フラスコに取り付けた滴下ロートから、10.5gの塩化メタクリロイルを50mLの脱水ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液を滴下した。0℃で一晩撹拌して反応させた後、クロロホルムで希釈し、純水を加えて反応をクエンチするとともに飽和食塩水で数回洗浄した。有機相の溶媒を留去した後、カラムクロマトグラフィー(移動相は酢酸エチル:ヘキサン=7:3)にて精製し、目的物を得た。
【0030】
下記表1に示す処方に従い、実施例および比較例の樹脂組成物を作製した。これらの樹脂組成物の相溶性および流動開始温度を以下のようにして測定した。
【0031】
(樹脂組成物の相溶性)
実施例および比較例の樹脂組成物それぞれを観察し、以下の基準で相溶性を評価した。結果を表1に示す。
◎:透明で且つブリード無し
〇:白濁するがブリード無し
△:白濁し、ブリード有り
×:分離が激しく使用不可能
【0032】
(樹脂組成物の流動開始温度の測定)
実施例および比較例の樹脂組成物それぞれの流動開始温度を、定試験力押出形細管式レオメータフローテスタCFT(島津製作所社製)にて測定した。測定条件は、50kg負荷、昇温速度3℃/分、ダイ穴径1mm、ダイ厚み1mmである。結果を表1に示す。
【0033】
実施例および比較例の樹脂組成物それぞれを用いてサイズ120~130μm厚のフィルムを作製した。得られたフィルムに、NHVコーポレーション社製EBC-300装置を用いて下記表1に示す条件で電子線を照射することによって、硬化したフィルムを作製した。硬化フィルムの引張強度を、JIS K7161-1に準拠して求めた。結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
表1に示すように、ポリエーテルスルホン(PES)のHSPからのHSPの距離が6.5以下であるモノマー1種が混合されている実施例2、3の熱可塑性樹脂組成物は透明かつブリードがなく、PESとモノマーとの相溶性が優れていた。実施例2、3の熱可塑性樹脂組成物は、PESのみの比較例1と比較して、流動開始温度が低下していた。また、実施例2、3の熱可塑性樹脂組成物を用いて作製したフィルムでは、電子線の照射によって、引張強度の回復が見られた。ポリアミド6およびトリアリルイソシアヌレート(TAIC)の二種のモノマーが混合されている実施例1の熱可塑性樹脂組成物でも、同様の結果が得られた。
【0036】
PESのHSPからのHSPの距離が6.5を超えるモノマーが混合されている比較例2の熱可塑性樹脂組成物は分離が激しく、その後の使用が不可能であった。同様のモノマーが混合されている比較例3の熱可塑性樹脂組成物は白濁し、ブリードがあった。これらの比較例の熱可塑性樹脂組成物では、流動開始温度はPESより低下していたが、実施例1~3ほど温度は低下しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ロケット等の燃料タンクとして用いられる圧力容器の製造に利用できる。
【符号の説明】
【0038】
12 プリプレグ。