(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】電動機駆動装置及び電動機駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02P 5/46 20060101AFI20240417BHJP
H02P 5/747 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
H02P5/46 D
H02P5/46 F
H02P5/747
(21)【出願番号】P 2021051483
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】高村 晴久
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-036453(JP,A)
【文献】特開2014-210533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/46
H02P 5/747
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連動して共通の機械的負荷を駆動可能に構成されたN台(Nは2以上の整数。)の交流電動機を駆動させる電動機駆動装置であって、
互いに絶縁されているN台の直流電源から夫々供給される直流電力を交流電力に夫々変換するN台のインバータと、
前記N台の交流電動機のうちの少なくとも1台の交流電動機の回転速度と、前記N台の直流電源の出力電圧の検出値とに基づいて前記N台の交流電動機が有する複数の巻線に流す電流の配分を決定し、前記配分に基づいた電流指令を前記N台のインバータの各々に与える共通制御部と
を備え、
前記共通制御部は、
前記N台の直流電源のうちの特定の直流電源の出力電圧が所定の電圧まで低下した場合に、前記特定の直流電源の出力電圧が前記所定の電圧まで低下する前の前記特定の直流電源から流れる電流を制限し、
前記N台の直流電源のうちの前記特定の直流電源以外の何れかの直流電源の出力電圧が前記所定の電圧まで低下した場合に、前記何れかの直流電源から流れる電流を制限しない、
電動機駆動装置。
【請求項2】
前記共通制御部は、
前記少なくとも1台の交流電動機の回転速度に基づいて、前記N台のインバータのうちから稼働させるインバータの台数を決定する、
請求項1に記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記共通制御部は、
前記稼働させるインバータの台数が決定されたのち、前記N台の直流電源の出力電圧の検出値に基づいて、前記稼働させるインバータを決定する、
請求項2に記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記共通制御部は、
前記少なくとも1台の交流電動機の回転速度が予め定められた回転速度よりも速い場合には、前記N台
の交流電動機に交流電力を夫々供給する連係運転モードを選択し、
前記少なくとも1台の交流電動機の回転速度が前記予め定められた回転速度よりも遅い場合には、前記N
台よりも少ない台数の交流電動機に対して、より多くの交流電力を供給する制限運転モードを選択し、
前記選択した運転モードによって決定され
る台数の交流電動機の前記複数の巻線に流す前記電流の配分を決定する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記共通制御部は、
前記N台の直流電源に、出力電圧が比較的低い第1直流電源と、比較的高い第2直流電源とが含まれていて、前記連係運転モードを選択した場合、前記N台の直流電源の出力電圧に基づいて前記第2直流電源から流れる電流がより多くなるように前記電流の配分を決定する、
請求項4に記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記共通制御部は、
前記連係運転モードを選択していて、前記第1直流電源の出力電圧が
前記所定の電圧まで低下した場合に、前記第2直流電源から流れる電流が前記第1直流電源から流れる電流よりも多くなるように前記電流の配分を決定する、
請求項5に記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
前記共通制御部は、
前記連係運転モードを選択していて、前記第1直流電源の出力電圧が
前記所定の電圧まで低下した場合に、前記第1直流電源から流れる電流を無くすように前記
電流の配分を決定する、
請求項5に記載の電動機駆動装置。
【請求項8】
前記N台
は2台であり、
前記共通制御部は、
前記制限運転モードを選択した場合、前記2台の直流電源のうちの特定の1台の交流電動機に対して、より多くの電流が流れるように前記電流の配分を決定する、
請求項4又は請求項6に記載の電動機駆動装置。
【請求項9】
前記N台
は2台であり、
前記共通制御部は、
前記制限運転モードを選択した場合には、1台の交流電動機に電流を流し、他方の交流電動機には電流を流さないように前記電流の配分を決定する、
請求項4又は請求項6に記載の電動機駆動装置。
【請求項10】
前記共通制御部は、
前記回転速度が予め定められた回転速度よりも速い場合には、前記2台の交流電動機の両方に交流電力をそれぞれ供給する第1駆動モードを選択し、
前記回転速度が予め定められた回転速度よりも遅い場合には、前記2台の交流電動機の何れか一方に対して、より多くの交流電力を供給する第2駆動モードを選択する、
請求項8又は請求項9に記載の電動機駆動装置。
【請求項11】
前記共通制御部は、
前記第1駆動モードを選択した場合、前記出力電圧が高いほうの直流電源から流れる電流がより多くなるように前記電流の配分を決定する、
請求項
10に記載の電動機駆動装置。
【請求項12】
連動して共通の機械的負荷を駆動可能に構成されたN台(Nは2以上の整数。)の交流電動機を駆動させる電動機駆動装置の電動機駆動方法であって、
互いに絶縁されているN台の直流電源から夫々供給される直流電力をN台のインバータによって交流電力に夫々変換させ、
前記N台の交流電動機のうちの少なくとも1台の交流電動機の回転速度と、前記N台の直流電源の出力電圧の検出値とに基づいて前記N台の交流電動機が有する複数の巻線に流す電流の配分を決定し、前記配分に基づいた電流指令を前記N台のインバータの各々に与える過程
を含
み、
前記N台の直流電源のうちの特定の直流電源の出力電圧が所定の電圧まで低下した場合に、前記特定の直流電源の出力電圧が前記所定の電圧まで低下する前の前記特定の直流電源から流れる電流を制限し、
前記N台の直流電源のうちの前記特定の直流電源以外の何れかの直流電源の出力電圧が前記所定の電圧まで低下した場合に、前記何れかの直流電源から流れる電流を制限しない、
電動機駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、電動機駆動装置及び電動機駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機駆動装置には、複数台のインバータによって、インバータと同数の交流電動機を稼働可能に構成されていて、これらの複数の交流電動機の動力によって共通の機械的負荷を駆動させるものがある。このような電動機駆動装置において、複数の交流電動機によって、より効率よく共通の機械的負荷を駆動することが要求されることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、複数の交流電動機によって、より効率よく共通の機械的負荷を駆動することができる電動機駆動装置及び電動機駆動方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電動機駆動装置は、連動して共通の機械的負荷を駆動可能に構成されたN台(Nは2以上の整数。)の交流電動機を駆動させる。電動機駆動装置は、N台のインバータと、共通制御部とを備える。前記N台のインバータは、互いに絶縁されているN台の直流電源から夫々供給される直流電力を交流電力に夫々変換する。共通制御部は、前記N台の交流電動機のうちの少なくとも1台の交流電動機の回転速度と、前記N台の直流電源の出力電圧の検出値とに基づいて前記N台の交流電動機が有する複数の巻線に流す電流の配分を決定し、前記配分に基づいた電流指令を前記N台のインバータの各々に与える。前記共通制御部は、前記N台の直流電源のうちの特定の直流電源の出力電圧が所定の電圧まで低下した場合に、前記特定の直流電源の出力電圧が前記所定の電圧まで低下する前の前記特定の直流電源から流れる電流を制限し、前記N台の直流電源のうちの前記特定の直流電源以外の何れかの直流電源の出力電圧が前記所定の電圧まで低下した場合に、前記何れかの直流電源から流れる電流を制限しない。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図2】実施形態の電動機駆動装置における電流指令分配部の構成図。
【
図3】実施形態の電動機駆動装置の負荷分散に係る制御の状態遷移図。
【
図4A】実施形態の第1ケースの場合の制御を説明するための図。
【
図4B】実施形態の第1ケースの場合の制御を説明するための図。
【
図5】実施形態の第2ケースの場合の制御を説明するための図。
【
図6】実施形態の変形例に係る第3ケースの場合の制御を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電動機駆動装置及び電動機駆動方法について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「電圧の測定値」とは、実際の電圧の測定値、実際の電圧の大きさを示す指標値、又は電圧の大きさを示す推定値のことである。以下の説明において「交流電動機の速度の大きさ(速さ)」と、「交流電動機の回転数」とを同義のものとして説明することがある。
【0008】
図1は、実施形態の電動機駆動装置1の構成図である。電動機駆動装置1は、交流電動機2A、2Bを駆動する。
【0009】
交流電動機2A、2Bは、例えば、夫々の出力軸と、共通の機械的負荷3の軸が互いに連結されている。交流電動機2A、2Bは、共通のフレーム内に構成されていてもよく、別体で構成されていてもよい。交流電動機2A、2Bは、複数台の交流電動機の一例である。交流電動機2A、2Bは、例えば誘導電動機であってよく、より具体的には、3相交流電動機であってよい。複数台のことを、「N台」(Nは、2以上の整数。)と呼ぶことがある。
【0010】
交流電動機2A、2Bは、複数のインバータ(後述するインバータ12A、12B。)から出力された交流電力によって駆動され、各出力軸に連結された機械的負荷3を駆動させる。上記のように構成された交流電動機2A、2Bの回転速度は同一になる。例えば、交流電動機2A、2Bに共通する出力軸には回転速度検出器2Sが設けられている。回転速度検出器2Sは、交流電動機2A、2Bの回転速度を検出して、その結果を回転速度フィードバックωFBK(以下の説明において、単に、回転速度ωFBKという。)として出力する。
【0011】
電動機駆動装置1は、例えば、直流電源装置11A、11Bと、インバータ12A、12Bと、共通制御部20とを備える。直流電源装置11A、11Bと、インバータ12A、12Bは、夫々N台で構成された一例である。本実施形態の以下の説明では、Nが2の場合を例示して説明するが、これに制限されることなくNを3以上に適宜変更してよい。この場合、Nの値に交流電動機の台数を整合させてよい。
【0012】
直流電源装置11A、11Bは、例えば、種類が共通の二次電池を夫々含む。直流電源装置11A、11Bは、夫々が第1直流電源(直流電源)、第2直流電源(直流電源)の一例である。直流電源装置11A、11Bは、所望の出力電圧の直流電力を出力可能であり、例えば、上記の2台の直流電源装置に含まれる各二次電池の定格電圧、公称電圧、及び放電終始電圧のうちの何れかは、互いに等しいものであってよい。
【0013】
インバータ12A、12Bは、夫々直流電源装置11A、11Bから与えられる直流電力を交流電力に変換する。インバータ12A、12Bは、共通制御部20の制御によって、電力の変換量が調整される。インバータ12A、12Bによって調整可能な電力は、有効電力と無効電力の何れか又は両方である。インバータ12A、12Bは、検出又は推定する電流検出部(不図示)をその内部に設けていてもよく、インバータ12A、12Bの外部にその電流検出部(不図示)を設けてもよい。インバータ12A、12Bは、例えば、電流制御部を含む。インバータ12A、12Bの電流制御部は、共通制御部20からの電流指令IrA、IrBと、電流検出部の検出結果(又は推定結果)とに基づいて、巻線に流す電流を制御する。
【0014】
共通制御部20は、例えば、電圧検出器21A、21Bと、電流指令分配部22と、速度制御部23とを備える。
【0015】
共通制御部20は、例えば、CPUなどのプロセッサを含み、プロセッサが所定のプログラムを実行することによって、電圧検出器21A、21Bと、電流指令分配部22と、速度制御部23などの機能部の一部又は全部を実現してもよく、電気回路の組み合わせ(circuitry)によって上記を実現してもよい。共通制御部20は、内部に備える記憶部の記憶領域を利用して各データの転送処理、及び解析のための演算処理を、プロセッサによる所定のプログラムの実行によって実行してもよい。
【0016】
速度制御部23は、図示しない上位装置から供給される速度基準ω*と、回転速度検出器2Sから与えられる回転速度ωFBKとの偏差を減少させるように全電流指令Irを生成する。上記の全電流指令Irとは、例えば、機械的負荷3を駆動するために要求される電流指令値の合計値である。また、電圧検出器21A、21Bは、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBを夫々検出し、電流指令分配部22にその検出電圧値を与える。
【0017】
図2は、実施形態の電動機駆動装置1における電流指令分配部22の構成図である。
電流指令分配部22は、直流電源装置11A、11Bの各々の出力電圧VA、VBの検出電圧値、全電流指令Irの大きさ、インバータ12A、12Bから交流電動機2A、2Bの巻線に夫々流れた電流の大きさ等から、インバータ12A、12Bに与える電流指令値を決定する。例えば、電流指令分配部22は、直流電源装置11A、11Bの各々の出力電圧VA、VBの検出電圧値などを用いて、全電流指令の配分比率KA、KBを決定してもよい。電流指令分配部22は、上記の配分比率KA、KBに基づいた電流指令値を用いて、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)などによってインバータ12A、12Bを制御するとよい。配分比率KA、KBは、0から1(100%)までの値をとる。本実施形態では配分比率KA、KBの合計を1にする。この場合、その一方が0であれば、他方が1になる。これに制限されず、配分比率KA、KBを、0と1以外の値にしてもよく、例えば、上記の範囲内で、0近傍の値と、1近傍の値の組み合わせなどであってもよい。
【0018】
電流指令分配部22は、例えば、電流指令比率演算部31と、乗算器32A、32Bと、を備える。
【0019】
電流指令比率演算部31は、所定の演算規則に従って、電圧検出器21A、21Bの各々の検出電圧と、全電流指令値Irと、交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)から、インバータ12A、12Bのそれぞれに与える電流指令の配分比率KA、KBを演算する。
【0020】
乗算器32A、32Bは、電流指令比率演算部31の演算結果に基づく各配分比率(KA、KB)を、速度制御部23から出力される全電流指令値Irに夫々乗算して、その結果により、インバータ12A、12Bに与える電流指令IrA、IrBを生成する。
【0021】
例えば、直流電源装置11A、11Bに電池を適用して、その電池の充電を停止して放電のみ許容する期間の場合、機械的負荷又は電気的負荷に片寄りがあると、直流電源装置11A、11Bの出力電圧の差が次第に大きくなる。直流電源装置11Bより直流電源装置11Aの電圧のほうが低い場合は、出力電圧が高いほうのインバータ12Aへの電流指令値を大きくし、出力電圧が低いほうのインバータ12Bへの電流指令値を小さくすることにより、両者の電圧差を縮めることができる。例えば、このような方法で制御することにより、インバータ12A、12Bの負荷電流の配分を調整して、直流電源装置11A、11Bの出力電圧をバランスさせることができる。
【0022】
図3を参照して、上記のように構成された電動機駆動装置の制御について説明する。
図3は、実施形態の電動機駆動装置の負荷分散に係る制御の状態遷移図である。
【0023】
この状態遷移図には、状態S00から状態S24までに分けて各状態がそれぞれ示されている。各状態間の遷移の要因は、例えば下記のものを含む。
【0024】
・交流電動機2A、2Bの回転数に起因するもの。
・直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBの変化に起因するもの。
【0025】
以下、状態S00から状態S24までの各状態について順に説明する。
状態S00:
・状態S00は、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBが閾値電圧VTH0に満たない状態である。この状態は、何れかの直流電源装置11A、11Bの電池が未実装の状態、その電池の充電量が、等価的な電気的負荷によって消費される電力に対して十分でない状態を含む。例えば、以下に示す各状態において、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBが閾値電圧VTH0に満たない状態になると、この状態S00になる。
【0026】
状態S10:
・状態S10は、直流電源装置11A、11Bの電池が充電され、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBがともに閾値電圧VTH1以上である。例えば、共通制御部20は、交流電動機2A、2Bをともに駆動可能な状態であるが、速度基準ω*による回転開始の指示がない状態である。このとき、交流電動機2A、2Bは回転していない。
【0027】
状態S11:
・状態S11は、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBがともに閾値電圧VTH1以上であって、速度基準ω*に基づいて、交流電動機2A、2Bを回転させる状態である。状態S11は、さらに、交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)が閾値回転数Ncに満たない状態である。
【0028】
状態S12:
・状態S12は、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBがともに閾値電圧VTH1以上であって、速度基準ω*に基づいて、交流電動機2A、2Bを回転させる状態である。状態S12は、さらに、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに達して、閾値回転数Ncを超えた状態である。
【0029】
状態S13:
・状態S13は、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBがともに閾値電圧VTH1以上であって、速度基準ω*に基づいて、交流電動機2A、2Bを回転させる状態である。状態S13は、さらに交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに達した後に、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncよりも低下した状態である。
【0030】
状態S14:
・状態S14は、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBがともに閾値電圧VTH1以上であって、速度基準ω*に基づいて、交流電動機2A、2Bを回転させる状態である。状態S14は、さらに交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに達してから、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが一旦閾値回転数Ncよりも低下した後に、再び同回転数が閾値回転数Ncに達して、これを超えた状態である。
【0031】
状態S21:
・状態S21は、直流電源装置11A、11Bが充電された後に、直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBの何れかが閾値電圧VTH1未満に低下していて、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに満たない状態である。共通制御部20は、閾値電圧VTH1を超える出力電圧を出力する系統の交流電動機を、速度基準ω*に基づいて回転させる。
【0032】
状態S22:
・状態S22は、何れかの直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBが閾値電圧VTH1未満に低下していて、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに達して、これを超えた状態である。共通制御部20は、閾値電圧VTH1を超える出力電圧を出力する系統の交流電動機を、速度基準ω*に基づいて回転させる。
【0033】
状態S23:
・状態S23は、何れかの直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBが閾値電圧VTH1未満に低下していて、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに達した後に、同回転数が閾値回転数Ncよりも低下した状態である。共通制御部20は、閾値電圧VTH1を超える出力電圧を出力する系統の交流電動機を、速度基準ω*に基づいて回転させる。
【0034】
状態S24:
・状態S24は、何れかの直流電源装置11A、11Bの出力電圧VA、VBの何れかが閾値電圧VTH1未満に低下していて、交流電動機2A、2Bの回転速度ωFBKが閾値回転数Ncに達してから、同回転数が一旦閾値回転数Ncよりも低下した後に、再び同回転数が閾値回転数Ncに達した状態である。共通制御部20は、直流電源装置11A、11Bの出力電圧の大きさによらず、交流電動機2A、2Bの両方を、速度基準ω*に基づいて回転させる。
【0035】
例えば、上記の各状態のうち、状態S00とS10は、交流電動機2A、2Bの両方を停止させた状態である。このほかの各状態は、交流電動機2A、2Bの何れか又は両方を回転させる状態にある。
【0036】
ただし、上記の各状態のうち、状態S12、S14、及びS24は、交流電動機2A、2Bの両方に電力が供給された状態になる。これに対して、状態S11、S13、S22、及びS23は、交流電動機2A、2Bの何れか一方に電力が供給され、他方には供給されない状態になる。
【0037】
上記の各状態間の遷移について説明する。
状態S00から状態S10への遷移は、直流電源装置11A、11Bの電池の充電又は同電池の充電済み電池への交換などにより、直流電源装置11A、11Bの各出力電圧(VA、VB)が閾値電圧VTH0又は閾値電圧VTH1以上に回復することによる。共通制御部20は、直流電源装置11A、11Bの各出力電圧が閾値電圧VTH0又は閾値電圧VTH1以上に回復したことを検出すると、上記の状態を切り替える。例えば、閾値電圧VTH0は、直流電源装置11A、11Bの放電終了電圧に基づいて、例えばその放電終了電圧と同じ値に定めることができる。閾値電圧VTH1は、閾値電圧VTH0よりも高い電圧にする。これについては後述する。
【0038】
状態S10から状態S11への遷移と、状態S11を経て状態S12への遷移は、速度基準ω*として0ではない所定の値が指定されたことによる。共通制御部20は、この速度基準ω*を検出して、交流電動機2A、2Bを始動させて、速度基準ω*まで交流電動機2A、2Bの回転数を高める。速度基準ω*が閾値回転数Nc以上であれば、状態S11にとどまり、速度基準ω*が所定の閾値回転数Nc未満であれば、状態S11を経て状態S12に遷移する。
【0039】
状態S12から状態S13への遷移は、交流電動機2A、2Bの速度基準ω*が閾値回転数Nc未満に低下したことによる。状態S13から状態S14への遷移は、交流電動機2A、2Bの速度基準ω*が閾値回転数Nc以上に上昇したことによる。なお、状態S14は、状態S12に相当するため、状態S14の規定を省略してもよい。共通制御部20は、この速度基準ω*の変化を検出して、上記の状態を遷移させる。
【0040】
状態S11から状態S21への遷移と、状態S12から状態S22への遷移と、状態S13から状態S23への遷移と、状態S14から状態S24への遷移は、それぞれ直流電源装置11A、11Bの電圧の低下によるものである。共通制御部20は、直流電源装置11A、11Bの電圧の低下を検出して、上記のように状態を遷移させる。
【0041】
状態S21から状態S22への遷移は、速度基準ω*が閾値回転数Nc以上になったことによる。状態S22から状態S23への遷移は、交流電動機2A、2Bの速度基準ω*が閾値回転数Nc未満低下したことによる。状態S23から状態S24への遷移は、交流電動機2A、2Bの速度基準ω*が閾値回転数Nc以上に上昇したことによる。共通制御部20は、この速度基準ω*の変化を検出して、上記の状態を遷移させる。
【0042】
次に、より具体例を示して説明する。
図4Aと
図4Bは、実施形態の第1ケースの場合の制御を説明するための図である。
【0043】
この
図4Aに示すタイミングチャートには、第1ケースの場合の交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)と、直流電源装置11A、11Bの出力電圧(VA、VB)の関係が示されている。
図4Bに示すグラフは、モード選択の一例を示すものである。なお、
図4Bに示すモード選択の方法は、以下に示す各ケースに共通するものとする。
【0044】
図4Bに示す「M1+M2」は、交流電動機2A、2Bの両方を駆動させる制御モードの期間を示す。「M1」は、交流電動機2Aのみを駆動させる制御モードの期間を示す。「M2」は、交流電動機2Bのみを駆動させる制御モードの期間を示す。
図4Bに示すように、回転数が閾値回転数Nc以上の場合に、「M1+M2」、つまり上記の「両方を駆動させる制御モード」が選択され、回転数が閾値回転数Nc未満の場合に、「M1orM2」、つまり上記の「一方のみを駆動させる制御モード」が選択される。「一方のみを駆動させる制御モード」は、台数を制限して駆動させる制御モードの一例である。
【0045】
図4Aに示すタイミングチャートにおける波形VAとVBは、直流電源装置11Aの出力電圧VAと、直流電源装置11Bの出力電圧VBとを示す。
【0046】
このタイミングチャートにおける初期状態は、上記の状態S12である。このとき出力電圧VAと、出力電圧VBは、閾値電圧VTH1を超えていて、出力電圧VAが出力電圧VBよりも電圧が高い状態にある。また、「M1+M2」として示すように、共通制御部20が交流電動機2A、2Bを夫々駆動させていることにより、出力電圧VAと出力電圧VBの両方が、徐々に低下する。
【0047】
第1ケースの場合、交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)が閾値回転数Ncよりも低下することがある。この時点(時刻t12)の出力電圧VAと出力電圧VBは、直流電源装置11Aの出力電圧VAのほうが高い。時刻t12を過ぎた時点の状態は、上記の状態S13である。例えば、共通制御部20は、これを検出して、出力電圧がより高いほうの直流電源装置11Aの電力を消費するように交流電動機2Aのみを駆動するような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する(「M1」)。これにより、時刻t12までの状態S12に置かれていた場合に比べて、出力電圧VAの変化率が大きくなり、出力電圧VBの変化率が小さくなる。
【0048】
時刻t13になると、上位装置によって速度基準ω*が閾値回転数Ncを超える値に更新される。この時点の出力電圧は、直流電源装置11Aの出力電圧VAのほうが高い。共通制御部20は、上記の速度基準ω*の変化と、各出力電圧を検出して、時刻t13を過ぎた後も、上記の状態S13を継続させる。例えば、共通制御部20は、上記の検出結果に応じて、交流電動機2Aの回転数(回転速度ωFBK)を高めるように各交流電動機を制御する(「M1」)。このとき、配分比率は変更されることなく維持される。これにより、交流電動機2Aの動力によって、その回転数(回転速度ωFBK)が上昇傾向に転じる。
【0049】
時刻t16になると、交流電動機2Aの回転数(回転速度ωFBK)が閾値回転数Ncを超える。
【0050】
例えば、共通制御部20は、回転速度ωFBKが閾値回転数Ncを超えたことを検出して上記の状態S14に切り替える。共通制御部20は、交流電動機2A、2Bの両方を駆動させるような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する(「M1+M2」)。これにより、出力電圧VAの電圧の変化率が、単独で駆動されていた時刻t16までの期間よりも少なくなり、出力電圧VBの電圧の減少が再び始まる。
【0051】
なお、この第1ケースに示す期間内の出力電圧VA、出力電圧VBはともに、閾値電圧VTH1よりも高い場合の一例である。
【0052】
上記の事例に示したように、少なくとも1台の交流電動機の回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも速い場合には、2台の交流電動機に交流電力を夫々供給する。このような制御モードを連係運転モードと呼ぶ。また、少なくとも1台の交流電動機の回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも遅い場合には、2台の交流電動機のうち1台の交流電動機に対して、より多くの交流電力を供給する。このような制御モードを制限運転モードと呼ぶ。制限運転モードによる制御で設定される交流電力の電力量の差は、比較的大きくなるように設定される。例えば、上記の制限運転モードには、1台の交流電動機に限り交流電力を供給し、他方の交流電動機には交流電力を供給しない設定も含まれる。
【0053】
例えば、共通制御部20は、交流電動機の回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Ncよりも速い場合には、連係運転モードを選択し、交流電動機の回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Ncよりも遅い場合には、制限運転モードを選択するとよい。共通制御部20は、選択した運転モードによって決定される台数の交流電動機の複数の巻線に流す電流の配分を決定するとよい。上記の状態S11からS14にある時に連係運転モードが選択され、状態S21からS24にある時に制限運転モードが選択される。
【0054】
上記の通り、共通制御部20は、交流電動機の回転速度ωFBKに基づいて、2台のインバータのうちから稼働させるインバータの台数を決定する。さらに、共通制御部20は、稼働させるインバータの台数が決定されたのち、各直流電源装置11Cの出力電圧の検出値に基づいて、稼働させるインバータを決定して、これを制御する。
【0055】
図5は、実施形態の第2ケースの場合の制御を説明するための図である。
この
図5に示すタイミングチャートには、第2ケースの場合の交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)と、直流電源装置11A、11Bの各出力電圧の変化が示されている。
【0056】
このタイミングチャートにおける初期状態は、上記の状態S12である。
第2ケースの場合、交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)が閾値回転数Ncまで低下する前に、時刻t21になると、出力電圧VBが閾値電圧VTH1まで低下する。
【0057】
例えば、共通制御部20は、これを検出して、直流電源装置11Bの電力の消費を抑制するため、交流電動機2Bの稼働を停止させて、交流電動機2Aのみを駆動するような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する。これにより、出力電圧VAの電圧の変化率が大きくなり、出力電圧VBの電圧の変化率が0になる。
【0058】
換言すると、交流電動機2A、2Bの回転数(回転速度ωFBK)が、閾値回転数Ncを超えているので、共通制御部20は、その回転数に基づいて、交流電動機2A、2Bの双方を選択可能な制御モード(「M1+M2」)を選択する。ただし、共通制御部20は、出力電圧VBの低下を検出したことにより、時刻t21を過ぎた時点の状態を、交流電動機2Aのみを駆動するような配分比率に調整して、制御状態を状態S22にする。
【0059】
時刻t22に、回転数が閾値回転数Ncまで低下する。この時点(時刻t22)の出力電圧は、上記と同様に直流電源装置11Aのほうが高い。例えば、共通制御部20は、これを検出して、交流電動機2Aのみを駆動するような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する(「M1」)。時刻t22を過ぎた時点の状態は、回転数の低下を伴った状態にあるため、交流電動機2Aのみを駆動する状態S23にする。
【0060】
時刻t23になると、速度基準ω*が閾値回転数Ncを超える値に更新される。例えば、共通制御部20は、配分比率を維持する。共通制御部20は、速度基準ω*の更新に応じて、交流電動機2Aの回転数を高めるように各交流電動機を制御する。なお、交流電動機2Bは、例えばフリーランの状態にある。これにより、交流電動機2Aの回転数が上昇に転じる。時刻t23を過ぎた時点の状態は、回転数が閾値回転数Ncよりも低下した状態にあるため、交流電動機2Aのみを駆動する状態S23に変わりはない。
【0061】
時刻t24になると、出力電圧VAと出力電圧VBが等しくなる。交流電動機2Aのみを駆動する状態S23にあり、出力電圧VAの低下の傾向が続くため、これ以降の出力電圧VAは出力電圧VBよりも低くなる。例えば、共通制御部20は、上記の出力電圧VAと出力電圧VBの電位が反転しても、これに応じることなく、配分比率を維持して、交流電動機2Aの駆動を継続する。
【0062】
時刻t26になると、回転数が閾値回転数Ncを超える。
例えば、共通制御部20は、回転数が閾値回転数Ncを超えたことを検出して、交流電動機2A、2Bの両方を駆動させるような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する(「M1+M2」)。時刻t26を過ぎた時点の状態は、交流電動機2A、2Bの両方を駆動する状態S24になる。これにより、出力電圧VAの電圧の変化率が、単独で駆動されていた時よりも少なくなり、出力電圧VBの電圧の減少が再開する。
【0063】
なお、この第2ケースに示す期間が終わる段階では、出力電圧VA、出力電圧VBは、ともに、閾値電圧VTH1よりも低くなっているが、放電終了電圧(閾値電圧VTH0)よりも高いものとする。なお、出力電圧VA、出力電圧VBの何れかが放電終了電圧(閾値電圧VTH0)に達した段階で、その系統の電力の供給を中断する。
【0064】
上記の第2ケースの制御によれば、出力電圧が閾値電圧VTH1まで低下する場合に、電力の配分比率を調整するため、出力電圧のバランスを改善させることができる。
【0065】
上記のように、共通制御部20は、制限運転モードを選択した場合に、2台の直流電源装置(11A、11B)のうちの特定の1台の交流電動機に対して、より多くの電流が流れるように電流の配分を決定するとよい。
【0066】
共通制御部20は、制限運転モードを選択した場合に、2台の交流電動機のうち、1台の交流電動機に電流を流し、他方の交流電動機には電流を流さないように電流の配分を決定してもよい。
【0067】
共通制御部20は、回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも速い場合には、2台の交流電動機の両方に交流電力を夫々供給するような値に配分を決定する。さらに、共通制御部20は、回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも遅い場合には、2台の交流電動機の何れか一方により多くの交流電力を供給するような値に配分を決定するとよい。
【0068】
上記の実施形態によれば、電動機駆動装置1は、連動して共通の機械的負荷3を駆動可能に構成された2台の交流電動機(2A、2B)を駆動させる。2台のインバータ(12A、12B)は、互いに絶縁されている2台の直流電源装置(11A、11B)から夫々供給される直流電力を交流電力に夫々変換する。上記の例によれば、インバータ12Aは、直流電源装置11Aから供給される直流電力を交流電力に変換し、インバータ12Bは、直流電源装置11Bから供給される直流電力を交流電力に変換する。共通制御部20は、機械的負荷3を駆動している2台のうちの少なくとも1台の交流電動機の回転速度と、2台の直流電源装置の出力電圧の検出値とに基づいて、2台の交流電動機が有する複数の巻線に流す電流の配分を決定して、その配分に基づいた電流を流させるための指令を2台のインバータの各々に与える。
【0069】
ところで、比較例の電動機駆動装置には、交流電動機の回転数が比較的低い場合であっても駆動する交流電動機の台数を調整しないものがある。そのため、この比較例によれば、比較的少ない要求トルクで各交流電動機を夫々駆動することになり、全インバータの電力変換における電力変換効率が低下することがある。
【0070】
これに対して、実施形態によれば、電動機駆動装置1は、回転速度ωFBKが比較的低い場合には駆動する交流電動機の台数を少なくするように調整する。これにより、駆動させる交流電動機に対する要求トルクの配分を増やすことができる。電動機駆動装置1は、上記の電動機駆動方法をとることにより、全インバータの電力変換における電力変換効率を高めることができる。
【0071】
例えば、共通制御部20は、回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも速い場合には、各交流電動機に割り付けることができる要求トルクを多くすることができるため、2台の交流電動機の両方に交流電力をそれぞれ供給する第1駆動モードを選択する。共通制御部20は、回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも遅い場合には、要求トルクを分散させると上記のように電力変換効率が低下することがある。共通制御部20は、このようなときには、2台の交流電動機の何れか一方に対して、より多くの交流電力を供給する第2駆動モードを選択する。なお、この第2駆動モードを選択する際に、2台の交流電動機の何れか一方に対して交流電力を供給し、他方には交流電力を供給しないように電流の配分比率を調整してもよい。このように駆動モードを切り替えることによって、電動機駆動装置1は、インバータの電力変換効率を高めることができる。
【0072】
(実施形態の第1変形例)
実施形態の第1変形例について説明する。第1変形例では、直流電源装置の出力電圧にアンバランスが生じて、出力電圧が過度に低くなることを軽減させる事例について説明する。
【0073】
図6は、実施形態の第1変形例の第3ケースの場合の制御を説明するための図である。この
図6に示すタイミングチャートには、第3ケースの場合の交流電動機2A、2Bの回転数と、直流電源装置11A、11Bの各出力電圧の変化が示されている。
【0074】
第3ケースの場合、初期状態の制御モードは、交流電動機2A、2Bの双方を選択可能な制御モード(「M1+M2」)にある。なお、このタイミングチャートにおける初期状態は、上記の状態S12である。
【0075】
時刻t32に、回転数が閾値回転数Ncまで低下する。この時点(時刻t32)の出力電圧は、直流電源装置11Aのほうが高い。
例えば、共通制御部20は、これを検出して、交流電動機2Aのみを駆動するような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する(「M1」)。さらに、共通制御部20は、速度基準ω*を閾値回転数Ncの近傍の値にする。これにより、回転数が比較的緩やかに変化するようになる。
【0076】
時刻t34になると、例えば交流電動機2Aの負荷が増加する。共通制御部20は、定速度制御中であり、これに応じて、交流電動機2Aの出力トルクを高めるよう各交流電動機2を駆動させる。このとき、すでに交流電動機2Bは、駆動が中断しているフリーランの状態のため、上記の出力トルクの増加が、交流電動機2Aの出力トルクの増加に繋がり、出力電圧VAの低下率が急になる。
【0077】
時刻t35になると、出力電圧VAと出力電圧VBとの差が所定の電位差に達する。この電位差がさらに大きくなることを防ぐために、共通制御部20は、配分比率を切り替えて、交流電動機2Aの駆動を中断して、これに代えて交流電動機2Bの駆動を再開する。これにより、出力電圧VAの低下が止まり、出力電圧VBが低下し始める。これにより、これ以降の出力電圧VAと出力電圧VBとの電圧差が小さくなる。
【0078】
時刻t36になると、回転数が閾値回転数Ncを超える。
例えば、共通制御部20は、これを検出して、交流電動機2A、2Bの両方を駆動させるような電流の配分比率に調整して、この配分比率を用いて各交流電動機を制御する(「M1+M2」)。これにより、出力電圧VBの電圧の変化率が、単独で駆動されていた時よりも少なくなり、出力電圧VAの電圧の減少が再開する。
【0079】
なお、この第2ケースに示す期間が終わる段階では、出力電圧VA、出力電圧VBはともに、閾値電圧VTH1よりも低くなっているが、放電終了電圧(閾値電圧VTH0)よりも高いものとする。
【0080】
なお、比較例の場合、直流電源装置の出力電圧にアンバランスが生じると、出力電圧が低くなった系統の連係運転ができなくなることがある。
これに対して、第1変形例の電動機駆動装置1は、回転速度ωFBKに基づく連係運転の切り替え(連係運転モードからの切り替え)と、放電終止電圧よりも高い閾値電圧VTH1を用いて出力電圧に基づいた切り替えの両方を分けて実施することで、直流電源装置の出力電圧にアンバランスが生じた状態を途中で補正することで、一方の出力電圧だけが過度に低下することを避けることができる。
【0081】
上記の変形例によれば、共通制御部20は、回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも速い場合には、2台の交流電動機の両方に交流電力をそれぞれ供給する第1駆動モードを選択する。共通制御部20は、回転速度ωFBKが予め定められた閾値回転数Nc(回転速度)よりも遅い場合には、2台の交流電動機の何れか一方に対して、より多くの交流電力を供給する第2駆動モードを選択する。その際に、共通制御部20は、上記の第1駆動モードを選択した場合に、出力電圧が比較的高いほうの直流電源装置から流れる電流がより多くなるように電流の配分を決定するとよい。また、共通制御部20は、第2駆動モードを選択した場合に、一方の出力電圧だけが過度に低下することがないように駆動する交流電動機を切り替えて、一方の交流電動機に対して、より多くの電流が流れるように電流の配分を決定するとよい。
【0082】
(実施形態の第2変形例)
実施形態の第2変形例について説明する。上記の実施形態の説明では、直流電源装置、交流電動機の台数と2台の場合を例示して説明した。本変形例では、これをN台(Nは2以上の整数。)に一般化した場合について説明する。上記の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0083】
連係運転モードを、N台のうちのM台以上(2≦M≦N)の交流電動機に交流電力を夫々供給するものとする。制限運転モードを、N台の交流電動機のうちのM台よりも少ない台数の交流電動機に対して、より多くの交流電力を供給するものとする。共通制御部20は、選択した運転モードによって決定される上記の台数(M台)よりも少ない台数の交流電動機の複数の巻線に流す電流の配分を決定する。これによって、交流電動機の台数をN台に一般化した事例においても、実施形態と同様の効果を奏する。
【0084】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、電動機駆動装置は、連動して共通の負荷を駆動可能に構成されたN台(Nは2以上の整数。)の交流電動機を駆動させる。電動機駆動装置は、N台のインバータと、共通制御部とを備える。N台のインバータは、互いに絶縁されているN台の直流電源から夫々供給される直流電力を交流電力に夫々変換する。共通制御部は、少なくとも1台の交流電動機の回転速度と、N台の直流電源の出力電圧の検出値とに基づいてN台の交流電動機が有する複数の巻線に流す電流の配分を決定し、前記配分に基づいた電流指令をN台のインバータの各々に与える。これにより、電動機駆動装置は、より効率よく共通の機械的負荷を駆動することができる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0086】
さらに、ノイズ等の影響を防止するために、電流指令分配部22からの前回の分配比率を記憶し、その前回値からの変動分についての指令を与えるようにしても良く、この変動分を1次遅れ回路等のフィルタを介して与えるようにしても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 電動機駆動装置、
2A、2B 交流電動機、
2S 回転速度検出器、
3 機械的負荷、
11A、11B 直流電源装置(直流電源)、
12A、12B インバータ、
20 共通制御部、
21A、21B 電圧検出器、
22 電流指令分配部、
23 速度制御部、
31 電流指令比率演算部、
32A、32B 乗算器