(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】情報処理装置、プログラム及び情報処理システム
(51)【国際特許分類】
G08B 25/04 20060101AFI20240417BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20240417BHJP
H04M 11/00 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
G08B25/04 K
G08B21/02
H04M11/00 301
(21)【出願番号】P 2021186581
(22)【出願日】2021-11-16
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】517026472
【氏名又は名称】ジョージ・アンド・ショーン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399041158
【氏名又は名称】西日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521420772
【氏名又は名称】岡田 将吾
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 憲
(72)【発明者】
【氏名】横山 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 徹
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】延原 広大
(72)【発明者】
【氏名】安楽 沙希
(72)【発明者】
【氏名】野口 真美
(72)【発明者】
【氏名】岡田 将吾
【審査官】大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-118838(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0001170(KR,A)
【文献】特開2010-067169(JP,A)
【文献】特開2007-219948(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 21/00-31/00
H04M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の識別情報及び位置情報を取得する通信部と、
前記通信部で取得した対象者の過去の前記位置情報及び前記識別情報と、時間とが関連付けられた対象者毎の行動履歴を記憶する記憶部と、
前記行動履歴に基づいて前記対象者
毎の行動モデルを生成する演算部と、
前記演算部は、
1つの時間軸及び2つ以上の座標軸を備える多次元空間に前記対象者の前記行動履歴をプロットし、前記多次元空間において
プロットの密度の高い部分を抽出することによって
、前記対象者の移動経路と移動の時間帯とを関連付けた複数の行動パターンを前記行動モデルとして生成し、
前記位置情報に基づく前記対象者の行動と、前記複数の行動パターンから選択した選択行動パターンとを時間軸を揃えて比較し、両者が異なる場合に異常行動であると判定する判定部と、を備え
る、情報処理装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記複数の行動パターンを曜日に関連付けて生成し、
前記判定部は、前記複数の行動パターンのうち前記対象者が行動した曜日に対応するものを前記選択行動パターンとする、請求項
1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記対象者の行動と前記選択行動パターンとの間の距離に基づいて、前記対象者の異常行動を判定する、請求項
1又は
2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記距離はマハラノビス距離である、請求項
3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記多次元空間にプロットされた前記対象者の行動と前記選択行動パターンとの間の距離を求める、請求項
1から
3のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記行動履歴を混合ガウスモデルで近似することによって、前記行動モデルを生成する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
対象者の識別情報及び日常行動情報を取得する通信部と、
前記通信部で取得した対象者の過去の前記日常行動情報及び前記識別情報と、時間とが関連付けられた対象者毎の行動履歴を記憶する記憶部と、
前記行動履歴に基づいて前記対象者
毎の行動モデルを生成する演算部と、
前記演算部は、
1つの時間軸及び2つ以上の座標軸を備える多次元空間に前記対象者の前記行動履歴をプロットし、前記多次元空間において
プロットの密度の高い部分を抽出することによって
、前記対象者の日常行動と行動の時間帯とを関連付けた複数の行動パターンを前記行動モデルとして生成し、
前記日常行動情報に基づく前記対象者の行動と、前記複数の行動パターンから選択した選択行動パターンとを時間軸を揃えて比較し、両者が異なる場合に異常行動であると判定する判定部と、を備え
る、情報処理装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記対象者の異常行動の回数又は頻度が所定の閾値を超える場合に、認知症の危険性があるとの警告を行う、請求項1から
7のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項9】
対象者の識別情報及び位置情報を取得するステップと、
取得された対象者の過去の前記位置情報及び前記識別情報と、時間とが関連付けられた対象者毎の行動履歴を記憶するステップと、
前記行動履歴に基づいて前記対象者
毎の行動モデルを生成するステップと、
前記行動モデルを生成するステップは、
1つの時間軸及び2つ以上の座標軸を備える多次元空間に前記対象者の前記行動履歴をプロットし、前記多次元空間において
プロットの密度の高い部分を抽出することによって
、前記対象者の移動経路と移動の時間帯とを関連付けた複数の行動パターンを前記行動モデルとして生成し、
前記位置情報に基づく前記対象者の行動と、前記複数の行動パターンから選択した選択行動パターンとを時間軸を揃えて比較し、両者が異なる場合に異常行動であると判定するステップと、を含
む、プログラム。
【請求項10】
対象者と共に移動し、前記対象者の識別情報を出力する無線通信端末と、
前記識別情報及び前記対象者の位置情報を取得する通信部と、
前記通信部で取得した対象者の過去の前記位置情報及び前記識別情報と、時間とが関連付けられた対象者毎の行動履歴を記憶する記憶部と、前記行動履歴に基づいて前記対象者
毎の行動モデルを生成する演算部と
、判定部と、を含む情報処理装置と、を備え、
前記演算部は、
1つの時間軸及び2つ以上の座標軸を備える多次元空間に前記対象者の前記行動履歴をプロットし、前記多次元空間において
プロットの密度の高い部分を抽出することによって
、前記対象者の移動経路と移動の時間帯とを関連付けた複数の行動パターンを前記行動モデルとして生成し、
前記判定部は、前記位置情報に基づく前記対象者の行動と、前記複数の行動パターンから選択した選択行動パターンとを時間軸を揃えて比較し、両者が異なる場合に異常行動であると判定する
、情報処理システム。
【請求項11】
前記無線通信端末はビーコン端末であって、
前記無線通信端末からの前記識別情報を前記通信部へ中継し、前記対象者の位置情報を出力する中継器を、さらに備える、請求項
10に記載の情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、プログラム及び情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯端末を所持する対象者の現在位置情報を取得して、対象者の異常事態を判定するシステムが知られている。例えば、特許文献1は、対象者の現在位置が許容範囲外であると判定した場合に、携帯端末に通報確認信号を送信し、所持者から応答がないと異常事態にあることを通報するシステムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、認知症を患う高齢者は増加傾向にある。健常者と認知症との中間にあたる軽度認知障害の段階で適切な対応をとることができれば、健常者へと回復させられることが知られている。そのため、徘徊行動を上記の異常事態と関連付けて、軽度認知障害の早期発見につなげることが検討されている。しかし、健常者にとって移動ルートを変更することは通常のことである。そのため、行動の許容範囲の設定が難しく、従来技術によって異常行動を精度よく検出することは困難であった。また、子供が遅くまで帰宅しない場合などに異常行動と関連付けて、早期の捜索などに役立てることも検討されている。しかし、子供にとって通学路を外れて遊ぶといった行動は通常のことである。そのため、行動の許容範囲の設定が難しく、従来技術によって異常行動を精度よく検出することは困難であった。このような例を含めて、日常行動からの逸脱があるような場合に、異常行動を正しく判定する技術が求められている。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、対象者の異常行動を精度よく検出する情報処理装置、プログラム及び情報処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、
対象者の識別情報及び位置情報を取得する通信部と、
過去の前記位置情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて前記対象者の行動モデルを生成する演算部と、
前記行動モデルと前記位置情報とに基づいて前記対象者の異常行動を判定する判定部と、を備える。
【0007】
本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、
対象者の識別情報及び日常行動情報を取得する通信部と、
過去の前記日常行動情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて前記対象者の行動モデルを生成する演算部と、
前記行動モデルと前記日常行動情報とに基づいて前記対象者の異常行動を判定する判定部と、を備える。
【0008】
本開示の一実施形態に係るプログラムは、
対象者の識別情報及び位置情報を取得するステップと、
過去の前記位置情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて前記対象者の行動モデルを生成するステップと、
前記行動モデルと前記位置情報とに基づいて前記対象者の異常行動を判定するステップと、を含む。
【0009】
本開示の一実施形態に係る情報処理システムは、
対象者と共に移動し、前記対象者の識別情報を出力する無線通信端末と、
前記識別情報及び前記対象者の位置情報を取得する通信部と、過去の前記位置情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて前記対象者の行動モデルを生成する演算部と、前記行動モデルと前記位置情報とに基づいて前記対象者の異常行動を判定する判定部と、を含む情報処理装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、対象者の異常行動を精度よく検出する情報処理装置、プログラム及び情報処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る情報処理システムを示すブロック図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る情報処理システムの概略構成を示す図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る情報処理装置のモデル生成を説明するための図である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る情報処理装置の異常行動の判定を説明するための図である。
【
図5】行動モデルの生成の処理を示すフローチャートである。
【
図6】異常行動の判定の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(情報処理システムの構成)
図1は、本開示の一実施形態に係る情報処理システム1を示すブロック図である。また、
図2は、情報処理システム1の概略構成を示す図である。情報処理システム1は、1つ以上の無線通信端末10と、1つ以上の中継器20と、情報処理装置30と、を備える。情報処理システム1が備える無線通信端末10及び中継器20のそれぞれの数は任意に定められてよい。以下の説明で使用される各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、
図1及び
図2に示される情報処理システム1の構成要素は例示である。情報処理システム1は、
図1及び
図2に示される構成要素の一部を含まない構成であってよい。情報処理システム1は、
図1及び
図2に示されていない構成要素を備えてよい。
【0013】
無線通信端末10は、対象者と共に移動し、対象者の識別情報を出力する装置である。対象者は、情報処理システム1の被験者であって、情報処理システム1によって異常行動の有無を確認される者である。対象者は、例えば老人である。無線通信端末10は、端末通信部11と、端末記憶部12と、端末制御部13と、を備える。
【0014】
端末通信部11は、周囲の近距離の範囲に、対象者の識別情報を周期的に送信してよい。近距離は例えば30mから50mである。周期は例えば10分以内に設定され、一例として数分に1回又は数秒に1回であってよい。本実施形態において、端末通信部11が用いる無線通信規格は、Bluetooth(登録商標) Low Energy(BLE)である。つまり、本実施形態において、無線通信端末10はBLEを用いるビーコン端末(BLEタグともいう)である。BLEが低電力消費であるため、無線通信端末10はボタン電池でも長時間の稼動が可能である。そのため、無線通信端末10は小型化及び軽量化が可能になり、対象者が無線通信端末10を持ち運びやすくなる。
【0015】
ここで、端末通信部11が用いる無線通信規格は、BLEに限定されない。他の無線通信規格として、例えば3G~5Gのセルラーフォンの通信規格又はIEEE802.11等が用いられてよい。つまり、別の実施形態として、無線通信端末10は携帯電話端末又はWiFi(登録商標)端末であり得る。さらに別の実施形態として、無線通信端末10はGPS(Global Positioning System)機能を有する端末であってよい。
【0016】
端末記憶部12は、対象者の識別情報を記憶する。本実施形態において、対象者の識別情報は、無線通信端末10の識別情報である固有の番号である。無線通信端末10の識別情報は、情報処理装置30において、後述する対象者の登録情報と照合されて、特定の対象者と関連付けられる。つまり、無線通信端末10の識別情報は、対象者の識別情報として扱われる。端末記憶部12は1つ以上のメモリを含む。メモリは、例えば半導体メモリを含んでよいし、例えば磁気メモリを含んでよい。端末記憶部12は、対象者の識別情報の他に、無線通信端末10の各種の処理で用いられる任意の情報を記憶する。
【0017】
端末制御部13は、対象者の識別情報を周期的に送信する端末通信部11の動作を制御する。端末制御部13は1つ以上のプロセッサを含む。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサを含んでよいし、例えば特定の処理に特化した専用のプロセッサを含んでよい。端末制御部13は、端末通信部11の動作の他に、無線通信端末10の各種の処理を制御する。
【0018】
中継器20は、無線通信端末10からの対象者の識別情報を情報処理装置30へ中継する装置である。また、中継器20は、対象者の識別情報に加えて、対象者の位置情報を情報処理装置30に出力する装置である。中継器20は、あらかじめ固定された状態で複数設置されてよい。また、中継器20は、対象者に接近する可能性がある歩行者が所持するGPS機能を有する携帯端末であってよい。また、中継器20は、車両に搭載される車載装置であってよい。また、中継器20は、固定された状態で設置された装置、携帯端末及び車載装置のうちの2つ以上の組み合わせで構成されてよい。
図2の例において、情報処理システム1は、中継器20として、歩行者が所持するスマートフォンである中継器20-1と、そのスマートフォンの基地局である中継器20-2と、を備える。ここで、対象者に接近する歩行者がいないような場合において、情報処理システム1は、基地局である中継器20-2だけを中継器20としてよい。中継器20は、中継器通信部21と、中継器記憶部22と、中継器制御部23と、を備える。
【0019】
中継器通信部21は、無線通信端末10から対象者の識別情報を取得して、対象者の識別情報及び位置情報を情報処理装置30に出力する。例えばスマートフォンである中継器20-1と、そのスマートフォンの基地局である中継器20-2とが存在する場合に、中継器20-2の中継器通信部21は、中継器20-1を介して又は無線通信端末10から直接に対象者の識別情報を取得し、対象者の識別情報及び位置情報を情報処理装置30に出力する。中継器通信部21は、無線通信端末10の端末通信部11が用いる無線通信規格によって、無線通信端末10と通信する。本実施形態において、中継器通信部21は、BLEを用いて、無線通信端末10から対象者の識別情報を取得する。中継器通信部21は、例えばインターネット等のネットワークを介して、情報処理装置30と通信する。中継器通信部21は、このネットワーク経由で、対象者の識別情報及び位置情報を情報処理装置30に出力する。ここで、
図2の例のように、情報処理システム1が複数の中継器20を備える場合に、中継器20の間において、3G~5Gのセルラーフォンの通信規格又はIEEE802.11等の無線通信が行われてよい。
【0020】
中継器記憶部22は、対象者の識別情報及び位置情報を一時的に記憶する。中継器記憶部22は1つ以上のメモリを含む。メモリは、例えば半導体メモリを含んでよいし、例えば磁気メモリを含んでよい。中継器記憶部22は、対象者の識別情報及び位置情報の他に、中継器20の各種の処理で用いられる任意の情報を記憶する。
【0021】
中継器制御部23は、中継器通信部21が対象者の無線通信端末10を探して通信できるようにする。中継器制御部23は、情報処理システム1で使用されるアプリケーションをインストールすることによって、中継器通信部21と無線通信端末10とが通信可能であるようにしてよい。また、中継器制御部23は、対象者の位置情報を生成する。ここで、
図2の例のように、情報処理システム1が複数の中継器20を備える場合に、GPS機能を有する1つの中継器20が対象者の位置情報を生成してよい。例えばスマートフォンである中継器20-1の中継器制御部23は、無線通信端末10から対象者の識別情報を取得したタイミングで、その場所の位置を計算して、対象者の位置情報としてよい。例えば中継器20-1は、携帯電話ネットワークを利用して、中継器20-2を含む通信可能な基地局からの距離を求めることで、その場所の位置を計算してよい。中継器制御部23は、1つ以上のプロセッサを含む。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサを含んでよいし、例えば特定の処理に特化した専用のプロセッサを含んでよい。GPS機能を有する中継器20の中継器制御部23は、演算機能を備えるプロセッサで構成されてよい。中継器制御部23は、対象者の位置情報の生成の他に、中継器20の各種の処理を制御する。
【0022】
情報処理装置30は、対象者の位置情報に基づいて対象者の異常行動を判定する。情報処理装置30は、異常行動の判定に用いられる行動モデル321を生成する。行動モデル321は、識別情報と関連づけられ、対象者ごとに生成されて管理される。また、詳細について後述するが、行動モデル321は、対象者の過去の位置情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて生成される。本実施形態において、情報処理装置30は、複数の対象者の位置情報等を取得して異常行動を判定し、判定結果を対象者ごとに指定される装置に出力するサーバ装置である。情報処理装置30は、通信部31と、記憶部32と、制御部33と、を備える。
【0023】
通信部31は、対象者の識別情報及び位置情報を取得する。本実施形態において、通信部31は、例えばインターネット等のネットワークを介して、中継器20からこれらの情報を取得する。また、通信部31は、異常行動を判定した場合に、判定結果を対象者ごとに指定される装置に対して出力する。
【0024】
記憶部32は行動モデル321を記憶する。また、記憶部32は行動モデル321を生成するための行動履歴を記憶する。また、記憶部32は、無線通信端末10の識別情報と対象者とを関連付けるのに用いられる対象者の登録情報を記憶する。ここで、登録情報は情報処理システム1を利用する対象者を特定するための情報であって、例えば登録番号、氏名、住所及び家族の連絡先等が含まれ得る。登録情報は、対象者が情報処理システム1の利用開始時に申請した内容に基づいてデータ化されて記憶部32に記憶されてよい。記憶部32は1つ以上のメモリを含む。メモリは、例えば半導体メモリを含んでよいし、例えば磁気メモリを含んでよい。また、記憶部32はハードディスクドライブ(HDD)を含んでよい。記憶部32は、行動モデル321及び行動履歴の他に、情報処理装置30の各種の処理で用いられる任意の情報を記憶する。行動モデル321の詳細については後述する。
【0025】
制御部33は、対象者の行動モデル321を生成する演算部331と、対象者の行動モデル321と位置情報とに基づいて異常行動を判定する判定部332と、を備える。制御部33は、演算機能を有する1つ以上のプロセッサを含む。プロセッサは、例えば汎用のプロセッサを含んでよいし、例えば特定の処理に特化した専用のプロセッサを含んでよい。制御部33は、演算部331及び判定部332の処理の他に、情報処理装置30の各種の処理を制御する。
【0026】
(行動モデルの生成)
図3は、情報処理装置30のモデル生成を説明するための図である。演算部331は、対象者の過去の位置情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて、行動モデル321を生成する。ここで、位置情報は例えば座標である。座標は、本実施形態のように緯度及び経度であってよいし、対象者の住所に応じて選択される地図上の位置を示すものであってよい。また、対象者の過去の位置情報は、対象者の異常行動を判定する時点よりも前に得られる位置情報である。通信部31が周期的に取得する対象者の位置情報は、制御部33によって、対象者の識別情報及び時間と関連付けられて、対象者ごとの行動履歴として記憶部32に記憶される。演算部331は、記憶部32から行動履歴を読みだして、多次元の空間にプロットする。本実施形態において、例えば
図3に示すようにx軸、y軸、z軸を有する3次元空間が用いられる。x軸が緯度、y軸が経度、z軸が時間を示す。つまり、時間軸(z軸)及び2次元の座標軸(x軸及びy軸)を有する3次元空間が用いられる。
【0027】
ここで、z軸の時間は、行動モデル321の対象期間に応じて定められる。例えば一日の行動モデル321を生成する場合に、z軸の時間は一日における時間(0時~23時59分)であってよい。また、例えば日中の行動モデル321を生成する場合に、z軸の時間は日中の時間(9時~18時)であってよい。複数の日における対象者の行動履歴が、時間軸を合わせて空間にプロットされる。対象者が毎日繰り返す行動は、空間において多数回プロットされて、空間における密度が高くなる。これに対して、対象者の1度だけの行動及び習慣的でない行動は、空間において1回又は数回プロットされるだけであって、空間における密度が低い。そのため、空間において密度の高い部分を抽出することによって、対象者の日常の行動モデル321を生成することができる。
【0028】
通常、対象者が毎日繰り返す行動は1つではない。そのため、行動履歴がプロットされた空間は密度の高い部分を複数含む。密度の高い部分の1つ1つが、対象者の行動パターンに対応する。演算部331は、複数の密度の高い部分を適切に抽出することによって、行動モデル321として、対象者の複数の行動パターンを生成する。本実施形態において、演算部331は混合ガウスモデルを用いる。混合ガウスモデルは、ガウス分布の線形重ね合わせで表され、クラスタリングに用いられる。演算部331は、空間にプロットされた行動履歴を混合ガウスモデルで近似することによって、個々のガウス分布に対応する対象者の行動パターンを特定する。それぞれの行動パターンは、対象者の移動経路と移動の時間帯とを関連付ける。
図4の左図で示される行動パターンの例において、対象者は自分の家の位置P
0を出発して、位置P
1を含むいくつかの場所に留まりながら自分の家に戻る行動を、z軸で示される時間帯において日常的に行っている。
図4の左図において、移動経路は点線で示されている。また、同じ位置でz軸(時間軸)に変化がある部分は、対象者がその位置に留まっていることを示す。例えば、位置P
0におけるz軸の変化は最も大きく、対象者が他よりも自分の家に長く留まっていることを示す。
【0029】
ここで、行動パターンは時間に関する条件ごとに生成されてよい。例えば演算部331は、複数の行動パターンを曜日に関連付けて生成してよい。例えば特定の曜日において対象者の行動が他の曜日と異なることがある。曜日ごとの行動パターンを生成することによって、より詳細な対象者の行動モデル321を生成することができる。また、例えば演算部331は、複数の行動パターンを平日と休日とに分けて生成してよい。このように条件付けされた行動パターンは、条件に合う行動履歴を、条件ごとの異なる空間にプロットすることで生成され得る。例えば演算部331は、記憶部32から曜日ごとの行動履歴を読みだして、曜日ごとの空間(7つの空間)のそれぞれにプロットする。そして、それぞれの空間において、演算部331が混合ガウスモデルを用いてクラスタリングすることによって、それぞれの曜日の複数の行動パターンが生成される。行動パターンに関連付けられた条件は、後述する異常行動の判定において、適切な行動パターンを選択する際に用いられる。
【0030】
行動モデル321として生成される複数の行動パターンの数は特に限定されないが、後述する異常行動の判定において適切な時間内に結果が得られるように上限を定めてよい。上限の数は例えば7つであってよい。演算部331は、生成した行動モデル321を対象者の識別情報と関連付けて記憶部32に記憶させる。演算部331は、対象者の行動履歴も記憶部32に記憶させる。ここで、演算部331は、行動パターンに条件が付されている場合には、行動パターンと条件とを関連付けて記憶部32に記憶させる。
【0031】
(異常行動の判定)
図4は、情報処理装置30の異常行動の判定を説明するための図である。判定部332は、演算部331によって生成された行動モデル321を用いて、対象者の異常行動の有無を判定する。
【0032】
情報処理装置30が対象者の識別情報及び位置情報を取得すると、判定部332は対象者の行動モデル321を記憶部32から取得する。上記のように、行動モデル321は複数の行動パターンを含む。判定部332は、行動モデル321が含む複数の行動パターンの一部又は全てを選択する。選択された行動パターン(以下、「選択行動パターン」)が対象者の異常行動の判定に用いられる。判定部332は、位置情報が生成された時間が、行動パターンに関連付けた条件又は行動パターンが示す時間帯に対応するか否かによって、選択行動パターンを決定してよい。例えば判定部332は、行動モデル321が含む複数の行動パターンのうち、対象者が行動した曜日に対応するものを選択行動パターンとしてよい。具体例として、判定部332は、水曜日に取得した対象者の位置情報から異常行動を判定する場合に、対象者の行動モデル321の中から水曜日の行動パターンを選択してよい。判定部332は、時間に関する条件が合わない行動パターンを除くことによって、効率的に異常行動を判定することができる。
【0033】
図4の右図に示すように、判定部332は、取得した対象者の位置情報を多次元の空間にプロットする。多次元の空間は、演算部331が行動モデル321の生成で用いたものと同じであり、本実施形態においてx軸、y軸、z軸を有する3次元空間である。判定部332は、位置情報に基づく対象者の行動が、選択行動パターンと異なる場合に、異常行動であると判定する。つまり、判定部332は、
図4の右図に示すような対象者の位置情報の時間的変化を、選択行動パターンのそれぞれと比較して、いずれの選択行動パターンとも異なる場合に、異常行動であると判定する。
【0034】
判定部332は、異常行動の判定において、対象者の行動と選択行動パターンとの間の距離を求める。別の言い方をすれば、判定部332は、対象者の行動とそれぞれの選択行動パターンとの時間軸を揃えて、各時刻の座標を比較して、選択行動パターンからの乖離度を求める。判定部332は、対象者の行動が選択行動パターンのいずれにも当てはまらない、すなわち、どの選択行動パターンに対しても求めた距離が基準値以上である場合に、異常行動であると判定する。判定部332が計算する距離は、マハラノビス距離であってよい。マハラノビス距離は、データ群(選択行動パターンに対応)からどれくらい離れているかを表すものであり、異常度を適切に示すことが可能である。
【0035】
(情報処理方法)
情報処理装置30は、以下に説明する情報処理を実行することによって、対象者の行動モデル321を生成し、その行動モデル321を用いて対象者の異常行動を判定することができる。
【0036】
図5は行動モデル321の生成の処理を示すフローチャートである。
【0037】
情報処理装置30の通信部31は、対象者の識別情報及び位置情報を取得する(ステップS1)。
【0038】
情報処理装置30の演算部331は、対象者の過去の位置情報を時間と関連付けた行動履歴を記憶部32から取得する(ステップS2)。
【0039】
情報処理装置30の演算部331は、上記のように、行動履歴に基づいて対象者の行動モデル321を生成する。具体的にいうと、情報処理装置30の演算部331は、行動モデル321として対象者の複数の行動パターンを生成する(ステップS3)。
【0040】
情報処理装置30の演算部331は、生成した行動モデル321、及び、取得した位置情報を追加した対象者の行動履歴を記憶部32に記憶する(ステップS4)。
【0041】
図6は異常行動の判定の処理を示すフローチャートである。
【0042】
情報処理装置30の通信部31は、対象者の識別情報及び位置情報を取得する(ステップS11)。
【0043】
情報処理装置30の判定部332は、対象者の行動モデル321を記憶部32から取得する(ステップS12)。
【0044】
情報処理装置30の判定部332は、上記のように、行動モデル321から異常行動の判定に用いる行動パターンを選択する(ステップS13)。
【0045】
情報処理装置30の判定部332は、行動モデル321と取得した位置情報とに基づいて対象者の異常行動を判定する。具体的にいうと、情報処理装置30の判定部332は、上記のように、対象者の行動と選択行動パターンとの間の距離を求めて、求めた距離が基準値以上である場合に、異常行動であると判定する。求めた距離が基準値以上である場合に、すなわち、対象者の行動が選択行動パターンと異なる場合に(ステップS14のYes)、情報処理装置30の判定部332は異常行動を通知する(ステップS15)。ここで、異常行動の通知は、情報処理装置30の制御部33が、通信部31を介して、対象者ごとに指定される装置(例えば家族の携帯電話端末等)に異常行動が疑われるとの判定結果を送信することであってよい。
【0046】
情報処理装置30の判定部332は、対象者の行動が選択行動パターンと異ならない場合に(ステップS14のYes)、すなわち、対象者の行動が選択行動パターンの少なくとも1つと同じと判定する場合に、異常行動の通知をすることなく一連の処理を終了する。
【0047】
ここで、
図5の行動モデル321の生成処理は、
図6の異常行動の判定処理の前に一度だけ実行されてよい。ただし、
図5の行動モデル321の生成処理は、
図6の異常行動の判定処理と並行して実行されることが好ましい。つまり、情報処理装置30は、対象者の異常行動を判定するとともに、新たに取得した対象者の位置情報を行動履歴に含めて、行動モデル321を更新することが好ましい。更新された行動モデル321は、情報処理装置30が次に異常行動を判定する場合に使用され得る。行動モデル321が更新されることによって、対象者の日常の行動の変化を適切に反映することが可能になる。
【0048】
以上のように、情報処理システム1及び情報処理装置30は、上記の構成によって、従来技術のように行動の許容範囲を設定することなく、対象者の異常行動を精度よく検出することができる。
【0049】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0050】
演算部331がクラスタリングのために用いる手法は、混合ガウスモデルを用いるものに限定されない。例えば演算部331はK-means法等の別の手法を用いてよい。また、判定部332が対象者の行動と選択行動パターンとの比較で用いられる距離は、マハラノビス距離に限定されない。例えば判定部332はユークリッド距離等の別の距離を用いてよい。
【0051】
情報処理システム1は、中継器20が省略された構成であってよい。無線通信端末10は、GPS機能を有する携帯端末等であって、対象者の識別情報及び位置情報を情報処理装置30に対して出力してよい。このとき、中継器20の設置が少ない地域においても異常行動の判定が可能になる。
【0052】
また、例えばサーバ装置等の汎用の電子機器(情報処理装置30に対応)に搭載されたプロセッサを、上記の演算部331及び判定部332を含む制御部33として機能させることができる。具体的には、電子機器の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを、電子機器のメモリ(記憶部32に対応)に格納し、電子機器のプロセッサによってプログラムを読み出して実行させることによって実現可能である。
【0053】
上記の実施形態において、対象者は高齢者に限定されない。例えば情報処理装置30は、無線通信端末10を所持する郵便物等の配達人の位置情報に基づいて異常行動を判定してよい。このとき、行動モデル321に含まれる行動パターンが配達人の通常の配達ルートを示し、情報処理装置30は、通常の配達ルートと異なる配達人の行動があった場合に、異常行動と判定してよい。例えば情報処理装置30は、無線通信端末10を所持する子供の位置情報に基づいて異常行動を判定してよい。このとき、行動モデル321に含まれる行動パターンが子供の通常の移動(通学路を通る学校と家の間の移動など)を示し、情報処理装置30は、通常と異なる子供の行動があった場合に、異常行動と判定してよい。
【0054】
上記の実施形態において、無線通信端末10は、対象者と共に移動し、対象者の識別情報を出力する装置であったが、これに限定されない。例えば、無線通信端末10は、対象者によって使用される複数の電子機器であってよい。複数の電子機器は、例えば家に配置されている家電(例えば電子レンジ、掃除機、洗濯機及び給湯器など)であってよい。
【0055】
また、上記の実施形態において、中継器20は、対象者の位置情報を情報処理装置30に出力する装置であったが、これに限定されない。例えば、中継器20は、複数の電子機器の使用又は不使用に関連付けられた対象者の日常的な行動を示す日常行動情報を、対象者の識別情報とともに出力する装置であってよい。日常行動情報は、例えば電子レンジの使用状況に応じて対象者が「食事をしているか否か」を示す情報を含んでよい。日常行動情報は、例えば洗濯機の使用状況に応じて対象者が「洗濯をしているか否か」を示す情報を含んでよい。中継器20は、一例として、複数の家電の使用状況を消費電力に基づいて検出可能な分電盤であってよい。
【0056】
また、上記の実施形態において、情報処理装置30は、対象者の異常行動を判定するために、対象者の位置情報を用いたが、これに限定されない。例えば、情報処理装置30は、上記の日常行動情報に基づいて対象者の異常行動を判定してよい。このとき、演算部331は、対象者の日常行動情報を時間と関連付けた行動履歴に基づいて、行動モデル321を生成してよい。ここで、日常行動情報に含まれる複数の日常的な行動(複数の項目)のそれぞれが1次元の軸に対応付けられて、時間に応じてプロットされてよい。例えば日常行動情報が18項目ある場合に、複数の項目のそれぞれに対応する18の軸と、時間を示す1つの軸とを合わせた19次元空間が用いられてよい。判定部332は、上記の実施形態と同様に、演算部331によって生成された行動モデル321を用いて、対象者の異常行動の有無を判定する。判定部332は、例えば対象者が、夜中に食事をしていたり、夜中に洗濯をしていたり、といった異常行動を判定することが可能である。
【0057】
このように、情報処理装置30は、対象者の位置情報に基づく移動だけなく、日常行動について異常行動を適切に判定することができる。ここで、この変形例においても、情報処理システム1は、中継器20が省略された構成であってよい。この場合に、無線通信端末10のそれぞれが、対象者の識別情報とともに日常行動情報を情報処理装置30に出力してよい。
【0058】
上記のように、情報処理システム1及び情報処理装置30は、対象者の異常行動を精度よく検出するが、さらに、異常行動を検出した場合に、認知症の判定をおこなってよい。例えば、判定部332は、異常行動の回数又は頻度が所定の閾値(例えば3回又は2日に1回)を超える場合に、認知症の危険性があるとして警告を行ってよい。
【符号の説明】
【0059】
1 情報処理システム
10 無線通信端末
11 端末通信部
12 端末記憶部
13 端末制御部
20 中継器
20-1 中継器
20-2 中継器
21 中継器通信部
22 中継器記憶部
23 中継器制御部
30 情報処理装置
31 通信部
32 記憶部
33 制御部
321 行動モデル
331 演算部
332 判定部