(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】浮体式免震システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240417BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 301
F16F15/023 Z
(21)【出願番号】P 2020095752
(22)【出願日】2020-06-01
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大谷 章仁
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 聡流
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジングロン
(72)【発明者】
【氏名】山本 智彦
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-242990(JP,A)
【文献】特開2002-310214(JP,A)
【文献】特開2003-184343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体に浮揚して配置される浮体式構造物と、
前記液体と接触する箇所に設けられ、気体を収容する気体収容空間と、
を備え、
前記液体と前記気体を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、前記気体収容空間の体積が設定されており、
前記地震波により応答する系の固有振動数が、前記浮体式構造物および前記浮体式構造物に搭載される機器の固有振動数より小さくなるように、前記気体収容空間の体積が設定されている
、
浮体式免震システム。
【請求項2】
液体を貯留する液体貯留部と、
前記液体に浮揚して配置される浮体式構造物と、
前記液体と接触する箇所に設けられ、気体を収容する気体収容空間と、
を備え、
前記液体と前記気体を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、前記気体収容空間の体積が設定されており、
前記気体収容空間にオリフィスが設けられる
、
浮体式免震システム。
【請求項3】
前記地震波により応答する系の固有振動数が1Hz未満となるように、前記気体収容空間の体積が設定されている、請求項1または2に記載の浮体式免震システム。
【請求項4】
前記気体収容空間の体積が大きくなるほど、前記流体の体積弾性率が小さくなり、前記地震波により応答する系の固有振動数が小さくなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の浮体式免震システム。
【請求項5】
前記地震波により応答する系は、前記浮体式構造物、前記液体および前記気体を含み、
前記地震波により応答する系の固有振動数f2は、以下の数式(4)で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載の浮体式免震システム。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浮体式免震システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、免震ピットの内部に満たされた液体中に浮揚する浮体式構造物が開示されている。特許文献1の浮体式構造物は、例えば、側方に空気室を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の浮体式構造物では、地震が発生すると、地震による縦波(粗密波)の波動が流体中を伝播し、浮体式構造物およびそれに搭載された機器(以下、単に搭載機器という)の応答が励振され、浮体式構造物および搭載機器が大きく振動する場合がある。特許文献1の浮体式構造物には、空気室が設けられているものの、単に空気室を設けただけでは必ずしも浮体式構造物および搭載機器の応答の励振を抑制することができなかった。そのため、浮体式構造物および搭載機器の地震に対する影響を低減する必要があった。
【0005】
本開示は、地震に対する浮体式構造物および搭載機器の励振を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一側面としての浮体式免震システムは、液体を貯留する液体貯留部と、液体に浮揚して配置される浮体式構造物と、液体と接触する箇所に設けられ、気体を収容する気体収容空間と、を備え、液体と気体を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、気体収容空間の体積が設定されており、地震波により応答する系の固有振動数が、浮体式構造物および浮体式構造物に搭載される機器の固有振動数より小さくなるように、気体収容空間の体積が設定されている。
また、上記課題を解決するために、本開示の他の側面としての浮体式免震システムは、液体を貯留する液体貯留部と、液体に浮揚して配置される浮体式構造物と、液体と接触する箇所に設けられ、気体を収容する気体収容空間と、を備え、液体と気体を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、気体収容空間の体積が設定されており、気体収容空間にオリフィスが設けられる。
【0008】
地震波により応答する系の固有振動数が1Hz未満となるように、気体収容空間の体積が設定されていてもよい。
【0009】
気体収容空間の体積が大きくなるほど、流体の体積弾性率が小さくなり、地震波により応答する系の固有振動数が小さくなってもよい。
【0010】
地震波により応答する系は、浮体式構造物、液体および気体を含み、地震波により応答する系の固有振動数f2は、以下の数式(4)で表されてもよい。
【数1】
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、地震に対する浮体式構造物および搭載機器の励振を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【
図2】地震の波動により上下振動する浮体式構造物の概略モデル図である。
【
図3】数式(3)および(4)を用いた固有振動数の計算結果の一例を示すグラフである。
【
図4】気体収容空間の体積を変化させた場合の地震応答の計算結果の一例を示すグラフである。
【
図5】気体収容空間の体積を変化させた場合の応答スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図6】第2実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【
図7】第3実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【
図8】第4実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【
図9】第5実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【
図10】減衰比を変化させた場合の応答スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図11】第6実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【
図12】第7実施形態における浮体式免震システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における浮体式免震システム100の概略構成図である。
図1に示すように、浮体式免震システム100は、液体貯留部110と、浮体式構造物120と、気体収容部130とを含む。
【0016】
液体貯留部110は、窪み部112を備える。窪み部112には、液体114が貯留される。液体114は、例えば、水である。ただし、これに限定されず、液体114は、水以外の他の任意の液体であってもよいし、あるいは、水を主成分とした他の液体(例えば、海水)であってもよい。
【0017】
浮体式構造物120は、液体貯留部110に貯留された液体114中に浮揚して配置される。浮体式構造物120は、液体貯留部110の壁体である窪み部112から離隔して配置される。浮体式構造物120は、例えば、浮体式の原子力発電プラントである。ただし、これに限定されず、浮体式構造物120は、風力発電プラント、波力発電プラント、太陽光発電プラントなど他のプラントの構造物であってもよいし、その他、任意の設備が搭載される構造物であってもよい。本実施形態では、浮体式構造物120は、例えば、人工湖に浮揚する浮体式プラントであるが、海に浮揚する洋上プラントであってもよい。
【0018】
気体収容部130は、気体収容空間132を形成する。気体収容空間132内には、気体134が収容される。気体収容空間132は、液体114と接触する箇所に設けられ、浮体式構造物120により密閉して形成される。本実施形態では、浮体式構造物120の底面の中央部に気体収容部130が陥没形成され、当該気体収容部130内に気体収容空間132が形成される。
図1の例の気体収容空間132は、気体収容部130の5つの壁面と、液体114の液面とによって囲まれた密閉空間である。ただし、気体収容空間132は、液体114と接触する箇所に設けられ、密閉されていればよく、浮体式構造物120に形成されてなくてもよい。例えば、気体収容空間132は、液体114中に設けられてもよいし(
図7参照。)、液体貯留部110に設けられてもよい(
図8参照。)。
【0019】
ところで、地震が発生すると、地震による縦波(粗密波)の波動が液体114および気体134を含む流体中を伝播し、浮体式構造物120およびそれに搭載された搭載機器の応答が励振され、浮体式構造物120および搭載機器が大きく振動する場合がある。
【0020】
図2は、地震の波動により上下振動する浮体式構造物120の概略モデル図である。
図2(a)は、浮体式免震システム100を上方から見た平面図であり、
図2(b)は、浮体式免震システム100の断面図である。
【0021】
図2(a)中、Aは、鉛直方向における浮体式構造物120の投影面積を表し、Bは、鉛直方向における液体114の投影面積を表す。ここで、投影面積Bは、鉛直方向における窪み部112の投影面積から投影面積Aを減算した値である。
【0022】
図2(b)中、mは、浮体式構造物120の質量を表す。gは、重力加速度を表す。h
0は、浮体式構造物120の底面120aから液体114の水面114aまでの深さ(距離)を表す。d
0は、窪み部112の底面112aから浮体式構造物120の底面120aまでの深さ(距離)を表す。X
0は、液体貯留部110の上下振動の変位を表す。X
1は、浮体式構造物120の上下振動の変位を表す。X
2は、液体114の水面114aの上下振動の変位を表す。
【0023】
ここで、地震の波動により浮体式構造物120が励振されると考えられる上下振動は、以下の数式(1)および(2)の運動方程式で表すことができる。
【数1】
【0024】
数式(1)および(2)において、ρは、液体114の密度を表す。また、FAおよびFBは、浮体式構造物120の浮き沈みによる荷重変動を表す。また、ΔFAおよびΔFBは、液体114の体積変化による荷重変動を表す。
【0025】
上記運動方程式を解くと、以下の数式(3)および(4)に示す2つの振動モードの固有振動数の式を求めることができる。ここで、数式(3)および(4)に示す固有振動数は、浮体式構造物120、液体114および気体134が1つの系(以下、単に系という)として働いたときの固有振動数を表す。数式(3)は、系のモード1次(以下、モード1という)の固有振動数f1の式を表し、数式(4)は、系のモード2次(以下、モード2という)の固有振動数f2の式を表す。
【数2】
【数3】
【0026】
数式(4)において、Kvは、液体114と気体134を合わせた流体全体の体積弾性率(以下、等価体積弾性率という)を示し、以下の数式(5)によって表すことができる。
【数2】
【0027】
数式(5)において、Kaは、気体134の体積弾性率を表し、Kwは、液体114の体積弾性率を表す。また、αは、液体114と気体134の合計体積に対する気体134の体積の比率を表す。ここで、液体114の体積をVwとし、気体134の体積(ここでは、気体収容空間132の体積)をVaとすると、比率α=Va/(Vw+Va)で表すことができる。
【0028】
数式(5)から分かるように、等価体積弾性率Kvは、比率αと相関を有する。つまり、等価体積弾性率Kvは、気体収容空間132の体積Vaおよび液体114の体積Vwと相関を有する。ここで、気体収容空間132の体積Vaが大きくなるほど、比率αが大きくなり、等価体積弾性率Kvが小さくなる。
【0029】
図3は、数式(3)および(4)を用いた固有振動数の計算結果の一例を示すグラフである。
図3中、数式(3)を用いて算出されたモード1の固有振動数f1を黒塗りの三角で表し、数式(4)を用いて算出されたモード2の固有振動数f2を黒塗りの菱形で表す。また、浮体式構造物120に搭載される搭載機器の固有振動数f3を破線で表す。ここでは、搭載機器の固有振動数f3を一例として5Hzとしている。
図3(a)は、
図2(b)に示す深さd
0と固有振動数の関係を表し、
図3(b)は、気体収容空間132の体積Vaと固有振動数の関係を表す。
【0030】
ここで使用したパラメータは、質量m=1×10
9kg、投影面積A=40000m
2、液体114の密度ρ=1000kg/m
3、液体114の体積弾性率Kw=2.25×10
9N/m
2、気体134の体積弾性率Ka=1.40×10
5N/m
2である。なお、
図3(b)に示す気体収容空間132の体積Vaを変化させた場合のパラメータは、一例として、気体収容空間132の体積Va=10000m
3のとき、比率α=0.00973であり、等価体積弾性率Kv=1.43×10
7N/m
2である。
【0031】
図3(a)に示すように、モード1の固有振動数f1は、深さd
0が変化しても、大凡一定の値となる。一方、モード2の固有振動数f2は、深さd
0が大きくなるほど小さい値となり、固有振動数f3より小さい値とすることができる。
【0032】
また、
図3(b)に示すように、モード1の固有振動数f1は、気体収容空間132の大きさが変化しても、大凡一定の値となる。一方、モード2の固有振動数f2は、気体収容空間132の体積Vaが大きくなるほど小さい値となり、固有振動数f3より小さい値とすることができる。
【0033】
図4は、気体収容空間132の体積Vaを変化させた場合の地震応答の計算結果の一例を示すグラフである。
図4(a)は、地震動の加速度時刻歴波形(入力波)を示す。
図4(a)に示す入力波として計算に用いた地震波は、防災科学技術研究所のK-netで観測された東北太平洋沖地震の築館観測波の上下動成分である。
【0034】
図4(b)は、気体収容空間132の体積Va=0m
3である場合の浮体式構造物120および搭載機器の地震応答の加速度時刻歴波形を示す。
図4(c)は、気体収容空間132の体積Va=1000m
3である場合の浮体式構造物120および搭載機器の地震応答の加速度時刻歴波形を示す。
図4(d)は、気体収容空間132の体積Va=10000m
3である場合の浮体式構造物120および搭載機器の地震応答の加速度時刻歴波形を示す。
図4に示すように、気体収容空間132の体積Vaを大きくするほど、浮体式構造物120および搭載機器の地震応答を低減することができる。
【0035】
図5は、気体収容空間132の体積Vaを変化させた場合の応答スペクトルの一例を示すグラフである。
図5中、気体収容空間132の体積Va=0
m
3
の場合の応答スペクトルを実線で示し、体積Va=1000
m
3
の場合の応答スペクトルを一点鎖線で示し、体積Va=10000
m
3
の場合の応答スペクトルを破線で示す。ここでは、減衰比h=0.05である場合に気体収容空間132の体積Vaを変化させた場合の応答スペクトルの変化を示す。
【0036】
本実施形態では、浮体式構造物120に搭載機器の固有振動数は、数Hz(例えば、5Hz)~数十Hz(例えば、30Hz)である。体積Va=0の場合、系のモード2の固有振動数f2は、浮体式構造物120に搭載される搭載機器の固有振動数と近似する。そのため、
図5に示すように、体積Va=0の場合、地震による縦波(粗密波)の波動により浮体式構造物120に搭載される搭載機器の応答が励振され、搭載機器が大きく振動してしまう。
【0037】
ここで、流体中を伝播する波動の固有振動特性は、流体の体積弾性率に依存する。本実施形態では、気体収容空間132の体積Vaを適切に設定することで、液体114と気体134によって決定される等価体積弾性率Kvを調整し、浮体式構造物120および搭載機器の固有振動数から系のモード2の固有振動数f2を離隔させる。これにより、
図5中、体積Va=1000
m
3
、10000
m
3
に示すように、系の地震応答が励振されることを抑制することができる。
【0038】
以上、本実施形態によれば、液体114と気体134を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、気体収容空間132の体積Vaが設定されている。具体的に、地震波により応答する系の固有振動数が、浮体式構造物120および搭載機器の固有振動数より小さくなるように、気体収容空間132の体積Vaが設定されている。
【0039】
地震波により応答する系の固有振動数は、上記数式(4)で表されるモード2の固有振動数f2である。気体収容空間132の体積Vaが大きくなるほど、流体の体積弾性率(等価体積弾性率Kv)が小さくなり、地震波により応答する系の固有振動数が小さくなる。これにより、地震に対する浮体式構造物120および搭載機器の励振を低減することができる。
【0040】
また、地震波により応答する系の固有振動数が1Hz未満となるように、気体収容空間132の体積Vaが設定されている。通常の地震の固有振動数(卓越振動数)は、例えば、1Hz~10Hzである。系の固有振動数を1Hz未満とすることにより、地震の固有振動数から系の固有振動数を離すことができる。その結果、地震に対する浮体式構造物120および搭載機器の励振を低減することができる。
【0041】
(第2実施形態)
図6は、第2実施形態における浮体式免震システム200の概略構成図である。第1実施形態の浮体式免震システム100と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。第2実施形態の浮体式免震システム200は、第1実施形態の気体収容部130の代わりに気体収容部230を備える点で、第1実施形態の浮体式免震システム100と異なっている。それ以外の構成については、第1実施形態の浮体式免震システム100と同じである。
【0042】
気体収容部230は、気体収容空間232を形成する。気体収容空間232内には、気体134が収容される。気体収容空間232は、液体114と接触する箇所に設けられ、浮体式構造物120により密閉して形成される。気体収容空間232は、浮体式構造物120の底面の中央部よりも外周面側に形成される。本実施形態では、気体収容空間232は、浮体式構造物120の底面の中心に対し点対称となる位置に2つ設けられる。ただし、これに限定されず、気体収容空間232は、浮体式構造物120の底面の中心に対し点対称となる位置に3つ以上設けられてもよい。これにより、第1実施形態の浮体式構造物120よりも姿勢安定性を向上させることができる。
【0043】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、液体114と気体134を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、気体収容空間232の体積Vaが設定されている。具体的に、地震波により応答する系の固有振動数が、浮体式構造物120および搭載機器の固有振動数より小さくなるように、気体収容空間232の体積Vaが設定されている。これにより、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0044】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態における浮体式免震システム300の概略構成図である。第1実施形態の浮体式免震システム100と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。第3実施形態の浮体式免震システム300は、第1実施形態の気体収容部130の代わりに気体収容部330を備える点で、第1実施形態の浮体式免震システム100と異なっている。それ以外の構成については、第1実施形態の浮体式免震システム100と同じである。
【0045】
気体収容部330は、弾性膜340と、弾性膜340の内側に形成された気体収容空間332を備える。弾性膜340は、例えばゴム材により構成され伸縮性を有する。気体収容空間332内には、気体134が収容される。気体収容空間332は、液体と接触する箇所に設けられ、液体114中に密閉して形成される。本実施形態では、気体収容空間332は、液体貯留部110の窪み部112の底面112a(
図2参照)と、浮体式構造物120の底面120a(
図2参照)との間に位置する。ただし、これに限定されず、気体収容空間332は、液体114中に密閉されていればよく、大気と連通しなければ、液体114中のいずれの位置に設けられてもよい。これにより、例えば、液体114に複数の浮体式構造物120が浮揚して配置される場合に、各浮体式構造物120に気体収容空間132を形成することなく、気体収容空間332を共用することができる。
【0046】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、液体114と気体134を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、気体収容空間332の体積Vaが設定されている。具体的に、地震波により応答する系の固有振動数が、浮体式構造物120および搭載機器の固有振動数より小さくなるように、気体収容空間332の体積Vaが設定されている。これにより、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0047】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態における浮体式免震システム400の概略構成図である。第1実施形態の浮体式免震システム100と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。第4実施形態の浮体式免震システム400は、第1実施形態の気体収容部130の代わりに気体収容部430を備える点で、第1実施形態の浮体式免震システム100と異なっている。それ以外の構成については、第1実施形態の浮体式免震システム100と同じである。
【0048】
気体収容部430は、気体収容空間432を形成する。気体収容空間432内には、気体134が収容される。気体収容空間432は、液体と接触する箇所に設けられ、液体貯留部110に密閉して形成される。これにより、浮体式構造物120に気体収容空間132を形成することが困難である場合に、浮体式構造物120に気体収容空間132を形成することなく、液体貯留部110に気体収容空間432を形成することができる。
【0049】
第4実施形態によれば、第1実施形態と同様に、液体114と気体134を含む流体中を伝播する地震波により応答する系の固有振動数に基づいて、気体収容空間432の体積Vaが設定されている。具体的に、地震波により応答する系の固有振動数が、浮体式構造物120および搭載機器の固有振動数より小さくなるように、気体収容空間432の体積Vaが設定されている。これにより、第1実施形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0050】
(第5実施形態)
図9は、第5実施形態における浮体式免震システム500の概略構成図である。第1実施形態の浮体式免震システム100と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。第5実施形態の浮体式免震システム500は、第1実施形態の気体収容空間132にオリフィス510を追加した点で、第1実施形態の浮体式免震システム100と異なっている。それ以外の構成については、第1実施形態の浮体式免震システム100と同じである。
【0051】
オリフィス510は、気体収容空間132内に配置される。気体収容空間132内にオリフィス510が配置されることで、気体134がオリフィス510を通過する際に抵抗力が生じる。この抵抗力は、浮体式構造物120および搭載機器への地震波の波動伝達による振動応答において減衰力として働く。この減衰力によって、地震波の波動伝達による浮体式構造物120および搭載機器の振動応答を抑制することができる。
【0052】
図10は、減衰比hを変化させた場合の応答スペクトルの一例を示すグラフである。
図10中、減衰比h=0.00の場合の応答スペクトルを二点鎖線で示し、h=0.05の場合の応答スペクトルを一点鎖線で示し、h=0.10の場合の応答スペクトルを破線で示す。ここでは、気体収容空間132の体積Va=10000m
3である場合に減衰比hを変化させた場合の応答スペクトルの変化を示す。
【0053】
図10に示すように、減衰比hを大きくするほど、応答加速度を小さくすることができ、地震波の波動伝達による浮体式構造物120および搭載機器の振動応答を抑制することができる。
【0054】
第5実施形態によれば、気体収容空間132にオリフィス510が設けられる。これにより、第1実施形態の作用および効果に加え、地震波の波動伝達による浮体式構造物120および搭載機器の振動応答をさらに抑制することができる。
【0055】
(第6実施形態)
図11は、第6実施形態における浮体式免震システム600の概略構成図である。第2実施形態の浮体式免震システム200と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。第6実施形態の浮体式免震システム600は、第2実施形態の気体収容空間232にオリフィス610を追加した点で、第2実施形態の浮体式免震システム200と異なっている。それ以外の構成については、第2実施形態の浮体式免震システム200と同じである。
【0056】
オリフィス610は、2つの気体収容空間232内にそれぞれ配置される。気体収容空間232内にオリフィス610が配置されることで、第2実施形態の作用および効果に加え、地震波の波動伝達による浮体式構造物120および搭載機器の振動応答をさらに抑制することができる。
【0057】
(第7実施形態)
図12は、第7実施形態における浮体式免震システム700の概略構成図である。第4実施形態の浮体式免震システム400と実質的に等しい構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。第7実施形態の浮体式免震システム700は、第4実施形態の気体収容空間432にオリフィス710を追加した点で、第4実施形態の浮体式免震システム400と異なっている。それ以外の構成については、第4実施形態の浮体式免震システム400と同じである。
【0058】
オリフィス710は、気体収容空間432内に配置される。気体収容空間432内にオリフィス710が配置されることで、第4実施形態の作用および効果に加え、地震波の波動伝達による浮体式構造物120および搭載機器の振動応答をさらに抑制することができる。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0060】
また、上記各実施形態の浮体式免震システム100、200、300、400、500、600、700は、それぞれ組み合わせ可能である。例えば、上記第1実施形態の浮体式免震システム100、第2実施形態の浮体式免震システム200、第3実施形態の浮体式免震システム300は、上記第4実施形態の気体収容部430を備えてもよい。また、上記第1実施形態の浮体式免震システム100、第2実施形態の浮体式免震システム200は、上記第3実施形態の気体収容部330を備えてもよい。また、上記第1実施形態の浮体式免震システム100は、第2実施形態の気体収容部230を備えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示は、浮体式免震システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
100 浮体式免震システム
110 液体貯留部
114 液体
120 浮体式構造物
132 気体収容空間
134 気体
200 浮体式免震システム
232 気体収容空間
300 浮体式免震システム
332 気体収容空間
340 弾性膜
400 浮体式免震システム
432 気体収容空間
500 浮体式免震システム
510 オリフィス
600 浮体式免震システム
610 オリフィス
700 浮体式免震システム
710 オリフィス