(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】耐荷重ベルト
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20240417BHJP
D03D 11/00 20060101ALI20240417BHJP
D03D 15/587 20210101ALI20240417BHJP
【FI】
D03D1/00 D
D03D11/00 Z
D03D15/587
(21)【出願番号】P 2019077871
(22)【出願日】2019-04-16
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
(72)【発明者】
【氏名】丸山 慧
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-145184(JP,A)
【文献】特開2010-168687(JP,A)
【文献】特開昭50-004725(JP,A)
【文献】特開2005-171419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45C 1/00 - 15/08
A45F 3/00
A45F 3/02
A45F 3/04
A45F 3/12
A62B 1/00 - 5/00
A62B 35/00 - 99/00
B60R 22/00 - 22/48
B66C 1/00 - 3/20
D01F 8/00 - 8/18
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経緯二重織により構成されてなる耐荷重ベルトであり、
織組織は、二重平織組織であり、
織密度が、経糸密度が緯糸密度よりも高く、
表裏組織を構成する経糸は、表裏ともにマルチフィラメント糸により構成され、
表裏組織を構成する緯糸は、表裏ともに熱融着成分を有する熱融着糸
のみにより構成され、
該熱融着糸の形態が、マルチフィラメント糸であって、マルチフィラメント糸を構成する繊維の全てが熱融着成分を有する繊維であって、
該熱融着成分を有する繊維が、芯部が高融点成分、鞘部が低融点成分により構成されている芯鞘型複合繊維であり、
緯糸を構成する熱融着成分が溶融固化していることにより
、全ての経糸を
接着固定して
拘束してなり、
平織組織において浮いた経糸同士が接触し、
浮いた経糸の間に存在する沈んだ経糸の上の浮いた緯糸は、前記した接触してなる経糸に覆われてなり、織物を構成する緯糸は織物表面には露出せず目視されない状態であることを特徴とする耐荷重ベルト。
【請求項2】
経緯二重組織における結節が、経糸結節であることを特徴とする請求項1記載の耐荷重ベルト。
【請求項3】
織密度が、経糸密度が緯糸密度よりも10倍以上高いことを特徴とする請求項1または2記載の耐荷重ベルト。
【請求項4】
緯糸密度が、10本~25本/2.54cmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の耐荷重ベルト。
【請求項5】
経糸を構成するマルチフィラメント糸の繊度が1000デシテックス以上であり、構成フィラメント数が100本以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の耐荷重ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐荷重ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
細幅の織物により構成されるベルトは、例えば、車や遊具等のシートベルト、リュックサックやカバン等の手持ち用や肩掛け用のベルト、建築・土木・造園・造船・荷役業・農林業等において運搬作業に用いる吊り上げベルト,スリングベルト,コンテナ用ベルト,クレーンベルト等、高所作業用等のハーネスのベルト等として広範囲に亘る分野において、耐荷重ベルトとして使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定強度と特定の熱応力を有する繊維を緯糸に用いることによって、所望の幅に容易に加工することができる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した荷重が負荷されるベルトは、重量物の吊り上げや運搬に耐えうる性能を繰り返し使用においても維持する必要があり、また高所作業用等のハーネスのベルトにおいては墜落制止による高い安全性が求められることから、性能維持は重要である。このような種々のベルトは、規格により初期強力は定められているが、想定以上の大きな荷重をかかる状態での使用や繰り返しの使用によって、ベルトは劣化し、初期の性能が維持できにくくなる。
【0006】
本発明は、上記した問題を解決することを課題とし、ベルトの初期の強力を長期にわたって維持し、劣化しにくいベルトを提供することを本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記した課題を解決するために、ベルトの劣化状態について検討した。ベルトは、荷重をかけられて使用するにあたり、ベルトの長手方向において、それぞれの部位に均一に荷重が負荷されることはほぼない。すなわち、運搬物の形状や吊り下げる際の吊り下げ位置等に応じ、ベルトのそれぞれの位置に負荷される荷重も変わることから、ベルトのすべての位置において均一に荷重がかかることはないのである。このような使用状況で繰り返し使用すると、均一に荷重がかからないため、ベルトの形状に歪みが生じ、その歪みの発生により、さらに応力が集中する箇所が生じることから、特定の箇所でベルトの劣化が生じ、初期強力を維持できなくなる。また、偏った荷重の影響で、ベルトが歪んで湾曲するだけではなく、ベルト表面に毛羽やループ毛羽が発生し、初期の強力を維持できなくなる。また、運搬物にベルトを沿わせて持ち上げたり、運搬したりする際には、運搬物に接しているベルトの内側と運搬物に接触していない外側表面において、屈曲角度の差が生じ、屈曲差が生じた状態で荷重がかかることから、経糸の一部が弛み、これが小さいループ毛羽となって、そのループ毛羽が繰り返し使用によって大きな表面毛羽となり、ベルトの品位低下および強力低下に繋がることとなる。
【0008】
本発明者等は、使用によって生じるベルトの劣化状態を検討したうえで、歪が生じにくく、また、ベルト表面にループ毛羽が発生しにくい形態について検討した。その結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、経緯二重織により構成されてなる耐荷重ベルトであり、
織組織は、二重平織組織であり、
織密度が、経糸密度が緯糸密度よりも高く、
表裏組織を構成する経糸は、表裏ともにマルチフィラメント糸により構成され、
表裏組織を構成する緯糸は、表裏ともに熱融着成分を有する熱融着糸のみにより構成され、
該熱融着糸の形態が、マルチフィラメント糸であって、マルチフィラメント糸を構成する繊維の全てが熱融着成分を有する繊維であって、
該熱融着成分を有する繊維が、芯部が高融点成分、鞘部が低融点成分により構成されている芯鞘型複合繊維であり、
緯糸を構成する熱融着成分が溶融固化していることにより、全ての経糸を接着固定して拘束してなり、
平織組織において浮いた経糸同士が接触し、
浮いた経糸の間に存在する沈んだ経糸の上の浮いた緯糸は、前記した接触してなる経糸に覆われてなり、織物を構成する緯糸は織物表面には露出せず目視されない状態であることを特徴とする耐荷重ベルトを要旨とする。
【0010】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0011】
本発明の耐荷重ベルトは、細幅の織物であり、経緯二重織により構成され、織組織は、二重平織組織である。経緯二重織とすることにより、地合が強くて厚みのある織物となり、また、二重平織組織とすることにより、経糸と緯糸とが1本ずつ交互に組み合わさっていることにより、表裏共に丈夫で強固な組織となる。
【0012】
二重織の織密度は、経糸密度が緯糸密度よりも高い。好ましくは、10倍以上高いこと
がよい。耐荷重ベルトは、ベルトを構成する織物の経糸方向がベルトの長手方向であり、ベルトの長手方向に荷重が負荷されることから、経糸方向に荷重が負荷される。経糸の強力をより効果的に発揮するために、織物において経糸が屈曲することなく、すなわち、経糸と緯糸とが交わる交錯点を少なくすることにより屈曲箇所を少なくし、より屈曲させずに真っ直ぐ直線的に経糸を配置させる。経糸の屈曲箇所を少なくするために、本発明においては、経糸密度は高く、緯糸密度を小さくすることにより、密に配置した経糸によって十分な強力を発揮させ、さらに、緯糸密度を小さくすることにより、経糸と緯糸との交錯点を少なくし、直線的に経糸を配置させることにより構造的にもベルトの長手方向の強力を効果的に向上させる。緯糸密度が少ないほど経糸は直線的に配されることから、経糸密度が緯糸密度よりも10倍以上高いことが好ましい。なお、後述するが、緯糸は、経糸を融着固化により接着固定する役割を担い、緯糸が配される間隔は、経糸を固定する間隔になる。よって、緯糸密度は10~25本/2.54cmが好ましい。緯糸密度が高過ぎると、経糸の屈曲箇所が多くなり、また、経糸の自由度が極端に失われるため、硬くなりすぎて曲げにくいものとなり、対象物に対してベルトを良好に添わせることができにくくなる。一方、緯糸密度が低すぎると、経糸を接着固定する役割を効果的に発揮しにくくなる。本発明の耐荷重ベルトは、緯糸を配する間隔(緯糸密度)で、経糸が拘束されていることから、耐荷重ベルトを使用した際に、経糸同士のズレが生じにくく、ベルト自体の歪みが生じにくく、繰り返し使用による強力低下や毛羽発生が生じにくくなるのである。
【0013】
平織組織において、両表面ともに、浮いた経糸同士が接触し、浮いた経糸の間に存在する沈んだ経糸の上の浮いた緯糸は、織物表面に露出させない状態とすることにより、緯糸の融着固化によって経糸を接着固定した状態を良好に維持できることを考慮して、経糸であるマルチフィラメント糸の総繊度にもよるが、経糸密度は100本/2.54cm以上が好ましく、より好ましくは200本/2.54cm以上である。また、繊度としての経糸密度は、少なくとも10万デシテックス/2.54cm以上、好ましくは30万デシテックス/2.54cm以上がよい。また、経糸密度を前記範囲とすることにより、良好なベルト強力を発揮する。経糸密度の上限は、経糸であるマルチフィラメント糸の総繊度にもよるが、300本/2.54cm程度、繊度としては、40万デシテックス/2.54cmとする。
【0014】
緯糸密度に対する経糸密度の倍率(経糸密度/緯糸密度)の上限は、上記した緯糸が経糸を固定する間隔を考慮し、ベルト強力を向上させるべく配する経糸密度や経糸の総繊度も考慮して設定すればよいが、30倍程度とする。
【0015】
二重織の表裏組織を構成する経糸は、表裏ともにマルチフィラメント糸で構成される。マルチフィラメント糸は、複数本の繊維によって1本の糸を構成するため、モノフィラメント糸に比べて、糸がしなやかで変形しやすく、また高い織密度で配することができる。さらに、前述したように、織組織中に浮いた経糸同士は、この浮いた経糸の間に存在する沈んだ経糸の上の浮いた緯糸上で、接触し合い、浮いた緯糸を覆って織物表面に良好に露出させない状態とすることができるため、ベルト強力を効果的に向上させることができ、かつ繰り返し使用による劣化が生じにくい。
【0016】
マルチフィラメント糸は、無撚のものか甘撚りのものを好ましく用いることができる。マルチフィラメント糸を構成する繊維間に撚りによる拘束がないため、浮いた緯糸を、マルチフィラメント糸(経糸)が効果的に覆い、織物表面に露出させない状態を良好に形成できる。また、緯糸がベルト表面に露出しない状態とするために、二重織の組織において、結節は経糸結節とし、経糸結節とすることによって、繰り返し使用による強力低下や劣化が生じにくくなる。
【0017】
経糸を構成するマルチフィラメント糸は、総繊度が1000デシテックス以上、構成繊維数は100本以上であることが好ましく、より好ましくは、総繊度が1100デシテックス以上である。総繊度の上限は3000デシテックス程度、構成繊維数の上限は250本程度がよい。
【0018】
経糸のマルチフィラメント糸の構成素材は、用途に応じて適宜選択すればよいが、機械的強度に優れること、吸湿性が乏しく寸法変化が生じにくいことから、ポリエステル系重合体により構成されることが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレートにより構成されることが好ましい。
【0019】
二重織の表裏組織を構成する緯糸は、表裏ともに熱融着成分を有する熱融着糸により構成される。熱融着糸は、熱融着成分を有し、この熱融着成分が溶融固化することによって接着剤として機能し、この熱融着成分の溶融固化したものが経糸を固着している。熱融着糸は、その形態は、取り扱い性や強度等の観点から、マルチフィラメント糸を用いる。マルチフィラメント糸の場合、マルチフィラメント糸を構成する繊維のすべてが熱融着成分を有する繊維である。また、熱融着成分を有する繊維としては、熱融着成分と高融点成分とにより構成される複合繊維であって、熱融着成分が鞘部を構成し、高融点成分が芯部を構成してなる芯鞘型複合繊維である。緯糸の繊度(マルチフィラメント糸の場合は総繊度)は、経糸と同等程度の繊度であることが好ましく、1000デシテックス以上がよい。上限は経糸と同程度であって3000デシテックスとする。
【0020】
熱融着成分の融点は、経糸を構成するマルチフィラメント糸の融点よりも40℃以上低いことが好ましく、より好ましくは50℃以上低いことである。融点差を40℃以上とすることによって、熱融着により溶融固化するための熱処理の際、熱融着成分のみを良好に溶融させ、経糸は熱の影響を受けることなく、繊維強力を維持し、得られるベルトの品位を良好に維持することができる。なお、緯糸を構成する繊維が熱融着成分を有する複合繊維の場合や、熱融着繊維と他の繊維とを併用する場合は、複合繊維の高融点成分や他の繊維を構成する重合体の融点は、同様に熱融着成分の融点よりも40℃以上高いことが好ましく、より好ましくは50℃以上である。なお、熱接着成分が明確な融点を有しない場合は、軟化する温度を融点とみなす。
【0021】
熱融着成分は、経糸を強固に固着する役割を担うことから、熱融着成分を構成する重合体と、経糸とは、相溶性を有することが好ましい。したがって、同系統の樹脂により構成されることが好ましく、なかでも、いずれもポリエステル系の樹脂により構成されることが好ましい。
【0022】
本発明の耐荷重ベルトは、例えば、以下の方法によって得ることができる。すなわち、前記した経糸と緯糸を準備し、前記した経糸密度および緯糸密度により、二重平織組織にて製織する。引き続き、得られた生機に熱セット加工を施し、本発明のベルトを得る。熱セット加工は、緯糸を構成する熱融着成分を溶融させて熱接着剤として機能させ、その溶融固化してなる熱接着剤(熱融着成分)によって、経糸を、長手方向に、緯糸密度に応じた等間隔にて固定する。熱セットにおける加工温度および処理速度は、緯糸を構成する熱融着成分が溶融し、熱接着剤として機能する温度および処理速度とする。熱セット加工は、乾熱オーブンを用いるとよい。また、熱セットの際に、延伸しながら熱処理を行うことにより、緯糸の熱融着成分を溶融固化させるとともに、配されてなる各々の経糸をベルトの長手方向に直線的に揃えることによって、製品の品位が向上し、かつ経糸の強力を最大限に発揮することができ、ベルト強度が向上する。延伸倍率は、0.5~1.5%程度がよい。
【0023】
本発明において、ベルトの幅は、例えば10mm~300mm程度がよいが、この範囲には限らず、用途に応じて適宜自由に設定すればよい。また、ベルトの長さは、用途に応じて適宜自由に設定すればよく、1m未満のものであっても、数m~数十mのものであっておよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、本発明のベルトは上記した構成を有するものであることから、繰り返し使用によっても、ベルトの初期の強力を長期にわたって維持し、歪が生じにくく、寸法安定性と耐久性に優れる耐荷重ベルトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の摩耗評価において、摩耗評価により、歪を生じ変形した状態の試料の概略平面図である。
【
図2】実施例1の摩耗評価前の試料の状態を示す平面写真である。
【
図3】実施例1の摩耗評価において摩耗往復回数500回の試料の状態を示す平面写真である。
【
図4】実施例1の摩耗評価において摩耗往復回数2000回の試料の状態を示す平面写真である。
【
図5】比較例1の摩耗評価前の試料の状態を示す平面写真である。
【
図6】比較例1の摩耗評価において摩耗往復回数500回の試料の状態を示す平面写真である。
【
図7】比較例1の摩耗評価において摩耗往復回数2000回の試料の状態を示す平面写真である。
【
図8】実施例1の摩耗評価前の試料の状態を示す側面写真である。
【
図9】実施例1の摩耗評価において摩耗往復回数500回の試料の状態を示す側面写真である。
【
図10】実施例1の摩耗評価において摩耗往復回数2000回の試料の状態を示す側面写真である。
【
図11】比較例1の摩耗評価前の試料の状態を示す側面写真である。
【
図12】比較例1の摩耗評価において摩耗往復回数500回の試料の状態を示す側面写真である。
【
図13】比較例1の摩耗評価において摩耗往復回数2000回の試料の状態を示す側面写真である。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
経糸として、ポリエチレンテレフタレート繊維からなるマルチフィラメント糸 1670デシテックス/192フィラメント(ユニチカ社製 品番1670T192-S723)を準備した。このマルチフィラメント糸は、実質的に無撚りである。
また、緯糸として、芯鞘型複合繊維(融着成分である鞘部が融点160℃の共重合ポリエステル、芯部がポリエチレンテレフタレート)により構成されるマルチフィラメント糸からなる融着糸1100デシテックス/192フィラメント(ユニチカ社製 品番1100T192-CM27)を準備した。
【0028】
経糸密度208本/2.54cm、緯糸密度18本/2.54cmインチ、二重平組織、結節は経糸結節とし、幅40mmの細幅織物を製織した。
【0029】
得られた細幅織物(生機)を、185℃に設定した乾熱オーブン内に、速度2.9m/分、延伸倍率1%の条件で通過させて熱処理加工を施し、実施例1のベルトを得た。
【0030】
比較例1
実施例1において、緯糸として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸 1100デシテックス/192フィラメント(ユニチカ社製 品番1100T192-E223)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のベルトを得た。
【0031】
得られた実施例1および比較例1のベルトについて、下に記載した摩耗試験を実施し、摩耗による歪の発生評価と表面状態の評価を行った。また、引張強さについて試験を実施し、摩耗による強力低下について評価した。
(摩耗試験)
実施例1および比較例1のベルトから長さ1025mmの試料をそれぞれ採取した(n=3)。試料を、摩耗試験機に、つかみ間隔915mmで設置した。摩耗体として1辺7mmの断面正六角形のステンレス六角棒を用い、摩耗体に対して試料が90°の角度で接触させ、ストローク幅300mm、荷重2kg、30往復/分の速度で往復摩耗させた。摩耗前、摩耗往復回数500回、摩耗往復回数2000回において、平面状態および側面を確認し、歪の発生評価と表面状態の評価を行った。
【0032】
(歪の発生評価)
図1は、摩耗により歪が生じ変形した状態の試料の概略平面図である。摩耗させた試料を平面上に載置したものであり、試料の中央部が摩耗によって山状に湾曲している。なお、摩耗前の状態は、歪がなく、試料両端の下端部どうしを結ぶ直線(基準線)と、下端部における試料下側の外接線とで形成される角度が0°である。摩耗させた試料を平面上に載置し、下端部において、試料両端の下端部どうしを結ぶ直線(基準線)と下側の外接線とで形成される角度を測定し、歪の発生状態を評価した。なお、下端部の角度は、
図1では、一方のみ図示しているが、両端それぞれ測定し、摩耗往復回数500回、摩耗往復回数2000回のそれぞれについて、測定値から平均値を算出し、歪角度とした。
【0033】
(表面状態の評価)
摩耗した試料の横側面を写真撮影により表面状態を評価した。
【0034】
(引張強さ)
JIS L 1096 引張強さ(ストリップ法)に基づき、引張試験機として精密万能試験機「インストロン5982型」を用い、引張速度200mm/分の条件で測定し、破断した時点での強さを求めた。測定において試験機にサンプルを設置するにあたっては、摩耗試験による摩耗箇所が中央部になるように設置した。
【0035】
歪発生評価の結果は、実施例1は、試験前の歪角度は0°、摩耗往復回数500回は5.2°、摩耗往復回数2000回は9.7°であり、一方、比較例1は試験前の歪角度は0°、摩耗往復回数500回は14.2°、摩耗往復回数2000回は23.7°であった。本発明のベルトは、歪が生じにくく、形状変化が小さく、寸法安定性に優れることがわかる。また、
図2~7には、実施例1および比較例1の摩耗前およびぞれぞれの摩耗回数における試料の一例を平面上に載置した状態(写真)を示す。写真では、基準線として、試料の両端の下端部を結ぶ直線としてマスキングテープを貼っている。
【0036】
表面状態は、
図8~13に、実施例1および比較例1の摩耗前およびぞれぞれの摩耗回数における試料の一例についての側面写真を示す。この側面写真に示されるように、比較例1の経糸は、摩耗往復回数500回では浮き上がりが大きく、ループ毛羽が発生し、2000回では激しく大きく浮き上がり、かつ多数のループ毛羽がベルト表面に発生しているが、本発明の実施例1の経糸は、摩耗往復回数500回では少し浮き上がっているものの大きな変化はみられず、2000回では浮き上がりが発生し、またわずかにループ毛羽も発生していた。本発明のベルトは繰り返し摩耗によっても毛羽が生じにくく、高い品位が持続するものであった。
【0037】
引張強さの評価結果は、実施例1は、摩耗試験前は30.8kN、摩耗往復回数500回は30.0kN、摩耗往復回数2000回は30.9kNであり、一方、比較例1は、摩耗試験前は32.7kN、摩耗往復回数500回は24.8kN、摩耗往復回数2000回は22.4kNであった。実施例において、摩耗試験前よりも摩耗往復回数2000回における引張強さの値が若干大きいのは誤差範囲と考えられ、引張強さにおいては、本発明のベルトは強度変化がなく、優れた強度維持性を有するものであった。一方、比較例1は、摩耗往復回数500回では、初期(摩耗前)と比較して、約76%の初期強さを維持したものであり、摩耗往復回数2000回では、約69%の初期強さを維持したものであり、本発明のベルトと比較して、摩耗における強力低下が著しく大きいものであった。