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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】造形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20240417BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240417BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019194442
(22)【出願日】2019-10-25
【出願変更の表示】U 2019003528の変更
【原出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021045951
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-261899(JP,A)
【文献】特開2016-055637(JP,A)
【文献】登録実用新案第3212374(JP,U)
【文献】登録実用新案第3214406(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/10,64/118,64/20,64/30,
64/314,64/40
B33Y 10/00,30/00,40/00,50/00,70/00,
80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンターまたは3Dペンによる造形物であって、
造形物は人体に触れる用途であるサポーター、固定具、装着具のいずれかに適用するものであり、
前記造形物は所定の三次元立体形状を呈し、50~60℃の温度を付与することによって軟化し自在に変形可能である熱可塑性樹脂で構成される部位と、熱可塑性エラストマーで構成される部位とを有し、
造形物に50~60℃の温度付与により、造形物を所望の形状に変形させる際、軟化して変形可能となった熱可塑性樹脂で構成される部位の変形に追随して、熱可塑性エラストマーで構成される部位も変形可能であることを特徴とする造形物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度が45~60℃であることを特徴とする請求項1記載の造形物。
【請求項3】
造形物が熱溶解積層方式の3Dプリンターによるものであることを特徴とする請求項1または2記載の造形物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、酸成分としてテレフタル酸を含み、ジオール成分としてエチレングリコールおよび1,4-ブタンジオールを含むポリエステル共重合体であることを特徴とす
る請求項1~3のいずれか1項記載の造形物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、酸成分としてテレフタル酸およびε-カプロラクトンを含み、ジオール成分としてエチレングリコールおよび1,4-ブタンジオールを含むポリエステル共重
合体であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の造形物。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーがウレタン系、エステル系、スチレン系、アミド系、オレフィン系、塩化ビニル系、アクリル系から選ばれる少なくとも1種で構成されることを特徴とす
る請求項1~5のいずれか1項記載の造形物。
【請求項7】
ガラス転移温度が60℃を超える耐熱性樹脂からなる部位を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリンターや3Dペンにて形成される造形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3DCADや3DCG(三次元コンピューターグラフィックス)等のデータに基
づき、立体形状の造形物を得る三次元造形法が急速に普及している。特に、造形材料として熱可塑性樹脂を用いる熱溶解積層法(FDM法)を採用している3Dプリンターは、廉価版も販売され、家庭においても普及している。
【0003】
熱溶解積層法に用いられる熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂又はポリ乳酸樹脂等の高強度、高剛性又は耐熱性樹脂が主として用いられている(特許文献1、請求項11)。三次元造形法で得られた造形物が所望の形状となっていないとき、形状変更を行う必要が生じるが、熱可塑性樹脂が高強度又は高剛性であると、使用者が職場や家庭などの環境で形状変更を行うことは困難であった。例えばポリ乳酸であれば60℃を超える温度に温めると軟化し変形することが可能であるが、高温であるため作業時に火傷する恐れがあり、安全に扱える素材とはいいにくい。
【0004】
また、熱溶解積層法では熱可塑性エラストマーからなる造形材料も用いられることがある。一般的に熱可塑性エラストマーはガラス転移温度が環境温度より十分低く、室温環境で低剛性、高弾性の性状を有している。三次元造形法で得られた熱可塑性エラストマーからなる造形物は、そのフレキシブルさを活かして対象物へ押し当ててのフィッティングが可能であり、肌に触れる用途では触感がソフトで良好である。しかしながら、低剛性であることから、一定の形状を保持したい場合や、支持体としての使用としては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-221568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解消することを課題とするものであり、形状を容易に変更しうることが可能であり、かつソフトな触感を有しながら、保形性も具備しうる造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、造形材料として特定のものを採用することにより、上記課題を解決したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、3Dプリンターまたは3Dペンによる造形物であって、造形物は人体に触れる用途であるサポーター、固定具、装着具のいずれかに適用するものであり、
前記造形物は所定の三次元立体形状を呈し、50~60℃の温度を付与することによって軟化し自在に変形可能である熱可塑性樹脂で構成される部位と、熱可塑性エラストマーで構成される部位とを有し、
造形物に50~60℃の温度付与により、造形物を所望の形状に変形させる際、軟化して変形可能となった熱可塑性樹脂で構成される部位の変形に追随して、熱可塑性エラストマーで構成される部位も変形可能であることを特徴とする造形物を要旨とする。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位とを有し、三次元立体形状を呈してなる造形物において、30~60℃の温度を付加すると、熱可塑性樹脂からなる部位の形状を自在に変形させて変更することができ、変形後に冷えると加熱前の剛性が再び得られる。特に形状変更の設定温度が、30~60℃で行うことができるため、職場や家庭において造形物の形状変更を容易に行うことができる。また熱可塑性エラストマーからなる部位は室温環境で常に低剛性のため、熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位とを、所望の位置に配置させることにより、一つの造形物の中で低剛性の部位と高剛性の部位とを併せもつことが可能となり、造形物の性状を幅広く調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の造形物は、30~60℃の温度を付加することによりが軟化して、変形させることができる熱可塑性樹脂によって構成される部位と、熱可塑性エラストマーによって構成される部位とを有する。
【0011】
まず、30~60℃の温度を付加することによりが軟化して、変形させることができる熱可塑性樹脂について説明する。このような熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が60℃以下であり、好ましくは30~60℃であるものを好ましく用いることができる。このような熱可塑性樹脂により構成される部位は、ガラス転移温度以上の温度に加温すると、容易に形状変更が可能となる。例えば、ガラス転移温度が30~60℃程度であると、風呂の湯に浸漬したり、あるいは手指で握っていると、容易に形状変更を行うことができるのである。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、ジエン系、ポリエーテル系など特に限定されないが、機械的物性や耐薬品性、耐候性等の観点からポリエステル系の熱可塑性樹脂が好適である。
ポリエステル系の熱可塑性樹脂としては、より具体的には、酸成分としてテレフタル酸を含み、ジオール成分としてエチレングリコール及び1,4-ブタンジオールを含むポリエステル共重合体が挙げられる。また、酸成分としてテレフタル酸及びε-カプロラクトンを含み、ジオール成分としてエチレングリコール及び1,4-ブタンジオールを含むポリエステル共重合体が挙げられる。
【0012】
このようなポリエステル共重合体は、公知の重縮合法で製造することができ、一般的に酸成分50モル%とジオール成分50モル%を仕込んで脱水縮合することにより製造することができる。本発明で特徴的なことは、酸成分としてテレフタル酸(必要によりε-カプロラクトンを併せて)を用い、ジオール成分としてエチレングリコール及び1,4-ブタンジオールを用いたことにある。これら各成分は、ガラス転移温度および結晶化温度の調整のために用いられるものである。
【0013】
ジオール成分としてエチレングリコールと併用される1,4-ブタンジオールは、ジオ
ール成分中、30~70モル%であるのが好ましい。1,4-ブタンジオールが30モル%未満または70モル%を超えると、ポリエステル共重合体のガラス転移温度が低下しにくくなる傾向が生じる。酸成分としてテレフタル酸と併用されるε-カプロラクトンは、酸成分中、5~20モル%であるのが好ましい。ε-カプロラクトンを共重合成分として用いると、ポリエステル共重合体のガラス転移温度をより低下することができる。なお、ε-カプロラクトンが20モル%を超えると、ポリエステル共重合体が所定温度で結晶化しにくくなる傾向が生じる。
【0014】
上記のポリエステル共重合体は、その融点が250℃以下であり、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは130~200℃となっている。また、結晶化温度は120℃以下であり、好ましくはガラス転移温度よりも20℃以上高い温度となっている。なお、結晶化温度とは、ポリエステル共重合体の結晶化が最も促進される温度である。造形物は、造形中には結晶化温度で熱処理されない限り、結晶化が進んでおらず、非晶領域を多く持つ状態となっているため、ガラス転移温度以上に加温すると、容易に形状変更が可能となる。そして、形状変更した後に、結晶化温度にて熱処理すると、結晶化が進み高強度または高剛性の造形物とすることができる。たとえば、結晶化温度が100℃程度であると、沸騰水中に浸漬しておくと、結晶化が進み高強度または高剛性の造形物となり、変更した形状を固定化することもできる。
【0015】
上記したポリエステル共重合体中には、造形物の軟化しやすさや強度等を調整するために、他の重合体が添加されていてもよい。たとえば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、シリコーン系樹脂又はポリウレタン系樹脂を単独で又は混合して添加してもよい。
【0016】
また、造形物を構成する熱可塑性樹脂中には、所望に応じて種々の添加剤が含有されていてもよい。たとえば、カラー造形物を得るために染料または顔料を添加してもよい。特に、本発明ではガラス転移温度および結晶化温度で変色するサーモクロミック顔料を添加しておくと、造形物が変形可能か否かまたは造形物が結晶化したか否かを判断でき、好ましい。さらに、充填剤、相溶化剤、可塑剤、難燃剤、滑剤、艶消し剤、耐候剤、酸化防止剤、または耐熱剤等を添加することもできる。
【0017】
本発明の造形物は、熱可塑性エラストマーによって構成される部位を有する。熱可塑性エラストマーは、常温では高弾性かつ低剛性であり、本発明において用いる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ウレタン系、エステル系、スチレン系、アミド系、オレフィン系、塩化ビニル系、アクリル系から選ばれる少なくとも1種で構成するものが挙げられる。本発明の造形物において、熱可塑性樹脂から構成される部位において、前記したポリエステル共重合体を用いる場合は、熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位との間に相溶性があると、良好な接合や接着が可能となることから、ウレタン系やエステル系の熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0018】
熱可塑性エラストマーの融点は、特に限定されないが、250℃以下が好ましく、デュロD硬度(JIS K6253-1993)は40以下が好ましい。
【0019】
熱可塑性エラストマーには、弾性や強度等を調整するために、他の重合体が添加されていてもよい。たとえば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、シリコーン系樹脂又はポリウレタン系樹脂を単独で又は混合して添加してもよい。また、熱可塑性エラストマー中に、所望に応じて種々の添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、例えば、染料、顔料、充填剤、相溶化剤、塑剤、難燃剤、滑剤、耐候剤、酸化防止剤または耐熱剤等が挙げられる。
【0020】
本発明の造形物は、3Dプリンターや3Dペンによりよる造形物であるが、造形物を得るための材料(造形用の材料)として、上記した特定の熱可塑性樹脂によって構成される材料と、熱可塑性エラストマーによって構成される材料を用いるとよい。材料の形態は特に限定されず、用いる3Dプリンターに応じて適宜の形態であればよく、いわゆる線状形態のもの、粒状形態のもの、粉末状のもの、シート状のもの等、種々の形態のものを用いることができる。線状形態のものとしては、直径が0.1~5mm程度の連続線状物であり、これを数十~数百m巻いてリール状として、3Dプリンターに取り付けるとよい。
【0021】
線状形態のものは、上記した熱可塑性樹脂を主体とする原料を溶融し、これを紡糸ノズルから押し出すことによって得ることができる。また粒状形態のものは、得られた線状形態のものを所望の長さ(たとえば、1μm~5mm程度)にカットして粒状形態とするとよい。
【0022】
本発明の造形物は、例えば、以下の方法により得ることができる。上記した造形用の材料を3Dプリンターに供給し、造形用材料を押出機へ送り込む。押出機には、押出ノズルとこの押出ノズルを加熱する加熱装置を備えており、加熱装置中で造形用材料は溶融して、押出ノズルから吐出される。押出機はデータに基づいて移動しており、吐出した溶融物は積層されて立体形状の造形物が得られる。溶融物を積層する際に、必要に応じて加温したり冷却してもよい。加温する場合、造形物の結晶化が促進しない程度とするのが好ましい。また、冷却する場合は、造形物が結晶化する恐れが少ないので、十分な層間接着が得られる範囲で任意に行えばよい。
【0023】
本発明の造形物は、特定の熱可塑性樹脂からなる材料と、熱可塑性エラストマーからなる材料とを用いて、それぞれの材料からなる部位を、用途や形状等に応じて、所望の位置に配置させて、特定の熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位とを有する造形物を得る。このように複数の部位を有する造形物を得る方法としては、例えば、(1)複数の押出ノズルを備えた装置にて各造形材料を別ラインで使用して造形する、(2)1つの押出ノズルに複数の造形材料を供給可能な装置を用いて、各造形材料を単独または混合しながら造形する、(3)1つの押出ノズルに単独の造形材料のみを供給可能な装置を用いて、部位ごとに造形材料を交換しながら造形する、(4)材料の異なる部位を個別に造形後に接着、熱溶着、嵌め合せ、ネジ固定などの方法で一体化する、などが挙げられる。部位間の一体性や接合性を高めるためには、デザイン時に接触面積拡大や嵌め合い構造を取り入れてもよく、またブラスト加工やプラズマ加工等の加工を施してもよい。
【0024】
本発明の造形物は、特定の熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位とを有していることから、一般的な生活空間(15~28℃程度)においては、特定の熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位との間に剛性差を有するが、30~60℃を付加することにより、特定の熱可塑性樹脂の剛性は大きく低下して容易に変形可能な状態となり、熱可塑性エラストマーとの剛性差が縮まる。したがって、加熱により、特定の熱可塑性樹脂を変形させる際、熱可塑性エラストマーからなる部位もまた、その変形に追随することができ、特定の熱可塑性樹脂が変形するにあたって妨げとならず、所望の形状に変形させることができる。
【0025】
本発明の造形物は、特定の熱可塑性樹脂からなる部位と熱可塑性エラストマーからなる部位により構成されるが、さらに別の材料からなる部位を有してもよい。さらなる別の材料としては、例えば熱溶融積層法の造形材料として従来公知のポリ乳酸樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、PVA樹脂等が挙げられるが、ガラス転移温度が60℃を超える耐熱性樹脂が好ましい。ガラス転移温度が60℃を超える耐熱性樹脂からなる部位を併せもつことにより、特定の熱可塑性樹脂からなる部位が加熱により熱変形する際に、耐熱性樹脂からなる部位は、それに追随することなく変形せずに当初の形状を維持することから、造形物において、変形させたくない箇所の形状を維持し、特定の箇所における保形性を維持させることが可能となる。耐熱性樹脂としては種々のポリマーが選定可能だが、熱可塑性樹脂に前記ポリエステル樹脂を用いる場合、部位間の一体性や接着力を得るためにポリエチレンテレフタレートなどのポリエチレンテレフタレート系の造形材料を使用することが好ましい。
【0026】
本発明の造形物は、30~60℃の温度を付加すると、熱可塑性樹脂からなる部位の形状を自在に変形させて変更することができるものである。また、熱可塑性エラストマーからなる部位を併せ持つことから、剛性の調整が可能であり、造形物中の所望の部位において、剛性を有しない箇所を設けることできる。例えば、造形物の所望の位置に熱可塑性エラストマーからなる部位を設けることにより、落下や衝突した際の耐衝撃性を付与することができる。また、造形物において、人体に触れる用途に適用する際には、触れる位置に熱可塑性エラストマーからなる部位を設けることにより、ソフトな接触となり、プラスチックのような硬い感触ではなく、柔らかで良好な感触を与えることができる。具体的な用途としては、洋服、帽子、靴、アクセサリー、メガネフレームやバッグ等の服飾用途や服飾を構成する部分的なパーツ、サポーター、固定具や装着具等の人体に触れる用途、種々のスポーツ用品、着ぐるみ等の被り物等が挙げられる。人体に触れる箇所には、熱可塑性エラストマーからなる部位を配することにより、造形物との接触が柔らかくなり、特定の熱可塑性樹脂によって、所望の形状に変形・固定させることができる。例えば、メガネフレームであれば、鼻パットや耳のステムにおいて、肌に触れる箇所に熱可塑性エラストマーを配するとよい。
【0027】
造形物の形は、所望の形状を選択すればよく、人の形態であれば、腕、手指、足、首等の向きを自在に変更したり、体を折り曲げたりすることができる。また、造形物の形を花の形態とすれば、花びらの開き具合、葉っぱの角度、茎の折れ曲がり具合等を自在に変更することができる。また、造形物の形を動物の形態とすれば、足、耳、首等の向きや角度を自在に変更することができる。また、造形物の形を昆虫の形態とすれば、触覚、足等の向きや角度等を、造形物の形を魚類の形態とすれば、ヒレの角度や身体に捩れを加える等を自在に変更することができる。その他、造形物の形態として、各種器具、機具、工具、道具、部品、玩具、多面体、円柱、円錐、球体、幾何学体およびこれらを組み合わせた形状等の種々のものを形成し、自在に変形させることができる。また必要に応じて、熱可塑性樹脂の結晶化温度で熱処理することで、造形物を所望の形状にて仕上げ、ガラス転移温度付近での加熱では軟化変形しないように加工することができる。
【実施例
【0028】
実施例1
熱可塑性樹脂として、テレフタル酸50モル%、エチレングリコール25モル%および1,4-ブタンジオール25モル%からなるポリエステル共重合体(融点180℃、ガラス転移温度45℃、結晶化温度110℃、比重1.38)により構成される線状形態の材料を用い、FDM法による3Dプリンター(XYZ printing社製 Davinci Pro)にて、プレートを造形した。次いで、造形材料を熱可塑性エラストマー(Polymaker社製の「Polyflex TPU95 カラー:ホワイト」)に交換し、上記で得たポリエステル共重合体からなるプレートの直上に同じ寸法(幅10mm×奥行き60mm×高さ2mm)を造形し、厚さ4mmのプレート状の造形物を得た。
【0029】
この造形物を50℃の温水に浸けて温めると軟化し、手で容易に曲げ捩じって変形でき、捩じって変形した状態で冷水につけて冷やすと捩じった状態で剛性が元に戻って硬くなり、形状固定された。
【0030】
実施例2
熱可塑性樹脂として、テレフタル酸43モル%、ε-カプロラクトン7モル%、エチレングリコール25モル%および1,4-ブタンジオール25モル%からなるポリエステル共重合体(融点160℃、ガラス転移温度30℃、結晶化温度75℃、比重1.38)を100質量部に対して艶消し剤として二酸化チタンを0.4質量部加えて構成される線状形態の材料を用いたこと、熱可塑性エラストマーとして、SainSmart社製の「TPUフレキシブル3Dフィラメント グリーン」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、プレート状の造形物を得た。図1に、2層からなるプレート状の実施例2の造形物の写真を示す。図1において、下の層が、熱可塑性エラストマーからなる層であり、上の層が、ポリエステル共重合体からなる層である。
【0031】
この造形物は、手指で握って温めると軟化し、手で容易に曲げ捩じって変形させることができ、捩じって変形した状態で冷水につけて冷やすと捩じった状態で剛性が元に戻って硬くなり、形状固定された。
【0032】
捩じった形態の造形物を沸騰水中に浸した後引き上げて、再度、手指を握って温めても柔らかくならず硬い状態であり、捩じった状態を固定させることができた。捩じった状態で形状固定された実施例2の造形物の写真を図2に示す。
【0033】
実施例3
実施例2の造形物を造形した後、次いで造形材料を耐熱性樹脂(RepRapper Tech社製「PETG樹脂製3Dフィラメント レッド」)に交換し、共重合ポリエステルによって構成されたプレート側の直上に幅10mm×奥行き30mm×高さ2mmのプレートを造形し、最大厚み6mmで段を有する3層からなるプレート状の造形物を得た。図3に、3層からなるプレート状の実施例3の造形物の写真を示す。図3において、下の層が、熱可塑性エラストマーからなる層であり、中間の層が、ポリエステル共重合体からなる層であり、上の層が、耐熱性樹脂からなる層である。
【0034】
造形物を50℃の温水に浸けて温めると、耐熱性樹脂からなるプレートの接する付近は剛性を保っていたが、それ以外では軟化し、手で容易に曲げ捩じって変形でき、変形した状態で冷水につけて冷やすと捩じった状態で剛性が元に戻って硬くなり、形状固定された。形状固定された造形物の写真を図4に示す。プレートにおいて、耐熱性樹脂が積層されてなる箇所は、捩じれが生じることなく、当初のプレートの形状を維持しており、耐熱性樹脂を有しない箇所は捩じれた状態が固定されているものであった。また、熱可塑性エラストマーにより構成される部位は、柔らかな感触を有するものであった。
【0035】
比較例1
ポリ乳酸(融点165℃、ガラス転移温度60℃、結晶化温度110℃、比重1.24)により構成される線状形態の材料を用いて、XYZ printing社製の3Dプリンター(Davinci Pro)にて、実施例1と同様にして、人の手の形態の造形物を作成した。造形した人の手の手指は開いた状態であった。造形物の手指を実際に握って温めたが硬いままであり、形状変更することは不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の一例に係る造形物の写真であって、実施例2で造形した2種の部位から構成される2層の造形物(プレート)の写真である。
図2】本発明の一例に係る造形物の写真であって、実施例2で造形した造形物(プレート)を変形させて固定した状態の造形物の写真である。
図3】本発明の一例に係る造形物の写真であって、実施例3で造形した3種の部位から構成される3層の造形物(プレート)の写真である。
図4】本発明の一例に係る造形物の写真であって、実施例3で造形した造形物(プレート)を変形させて固定した状態の造形物の写真である。
図1
図2
図3
図4